「誰かさんと誰かさんが全員集合!!」
シリーズ6作目
この時期にパターン化した、いかりや長さんが他のメンバーをシゴく…というか、虐めぬく「パワハラ」もの。
長さんの奥さんが逃げ出して、幼い子供や赤ん坊の面倒をカトちゃんにやらせたりするのは、シリーズ3作目の「ミヨちゃんのためなら 全員集合!!」の焼き直し。
今回は、長さんが単細胞かつ右翼的な考え方の持ち主で、青少年を鍛えていると言う設定なので、しごきそのものにはさほど違和感がないが、「パワハラ表現」で笑えるかと言うと笑えない。
第一、長さんがあくまでも頭が悪く嫌な人物にしか見えず、カトちゃんたちも、その嫌な人物の言いなりになるしかないダメな人間たちにしか思えないんで、同情も感情移入もしにくい。
全体的にナンセンスと分かっては言ても、ストーリー的に釈然としない部分があり、特に、長さんが令子と婚約発表をするまでの経緯が説明不足でわかりにくい。
偽ラブレターで長吉が舞い上がっているのまでは理解できるのだが、そこから急に婚約発表という段階に至ったプロセスが省略され過ぎているように見える。
令子の発言に長吉が勘違いするようなセリフがあったとか、何か、長吉が一人合点してしまうきっかけがないと、観客も置いてきぼりを喰らってしまうことになる。
本作の一番のゲストは岩下志麻さんで、千年の「七つの顔の女」(1969)で演じた、変装して事件を解決する多羅尾伴内の女性版のような役を演じている。
その相棒役として登場するのは、「ウルトラセブン」のモロボシダンこと森次浩司さんである。
クライマックスの逃亡劇には、円谷プロらしきミニチュア特撮シーンもある。
志村けんさんも、最後の方に敵方の子分として、村上不二夫さんらとともに警察に連行されるシーンにちらっと出ている。
劇中に登場するカトちゃんのCMネタから、 チャールズ・ブロンソンの「マンダム」や、南利明さんのカレーのCMが、この当時のものだったことに気付かされたりする。
小川ローザさんの「オー・モーレツ!」が流行っていたのもこの時期だと言うことが、子供のいたずらシーンでわかったりもする。
【以下、ストーリー】
1970年、渡辺プロ+松竹、田坂啓脚本、渡辺祐介脚本+監督作品
関東平野の東、ここはあんこう鍋とともに、男の中の男一匹の産地として有名な茨城県水戸市である。
さて皆様方よ、かく申す私め、そこの街で全国的無青少年の修練場、だいにっぽん無念塾を営みおります、純血日本人碇田長吉(いかりや長介)その人です。
日本人がいつの間にかどこかに置き忘れてきた美しい精神を、今の若者の胸に取り戻す、それが私めの最大の願いであり、恩師新田重三先生に報いる唯一の恩返しなのであります(風景映像を背景にナレーション)
忍耐、服従、献身…、どれもこれも涙が出るほど美しい日本語ではないか… ここに学ぶ塾生は、ざっと見積もっても5万人、ちょっとオーバーかな、今50人ってとこだよな…、毎朝学校へ行く1時間前を利用し心身を鍛えよって寸法だ、ここ、卒業すりゃ、もう一人前だ、どこへ出したって恥ずかしいかよ… 女性で剣道を習いにきている塾生に口説く仲本工助(仲本工事)と加藤ヒデオ(加藤茶)(の映像にナレーション) 相変わらず、ちっとも目が離せねえちょぼ一達がいるんだよ、これが…(そんな工助とヒデオn首根っこを掴む長吉(の映像にナレーション) まあ、こいつらときたら、いつになったら独り歩きできるのかね~?塾長である俺の悩みも果てしねえってわけよ、あ、それからもう2人、その昔、塾は出たものの医者の免状は持ってねえという酷え男、まあ、つまり、内緒でやらせてやっているわけだがね、俺には一生頭が上がらねえ男だがね、薮医者の忠次(荒井注)、略して藪忠と呼ぶ。 去年90歳のババアの神経痛を妊娠だと誤診してから、バッタリ患者が来なくなった。(映像にナレーション)
ちょっとあんた、真昼間から何やってるのよ、たまには人間の患者を連れてきたらどうなの?と、猫の診断をしている荒井忠次に文句を言ってきたのは女房のテツ子(若水ヤエ子) カミさんの成り手がいねえんで、俺の上の妹をくれてやったんだけどな~、まあ、これは猫に小判だった、最後にもう一人、下の妹をくれてやったお粗末なやろう、俺の地所の中で、保育園をやらせてやっているゴム風船の風太が、どう見たってガキしか相手にしてくれねえってつらだよな(映像にナレーション)
次は足の贅肉を取る運動ですとテレビ体操が言うのを見ながら、保育園の自室で体操していたのは丸子(楠トシエ)だった。 ま、俺の妹を恵んでやったから、一応格好はついてるけどよ、これもまさしく、豚に真珠だ。(と映像にナレーション)
赤ん坊をおんぶしながらオルガンを弾いていた高木風太&は、またやっちゃった、しようがないな、もう…と、赤ん坊のことを嘆くが、その顔に別の園児が水鉄砲で水をかけてくる。
これが俺様の太郎と次郎、一昨年母親と生き別れたまま早く捨てられちまったんだがね、私めの丹精の甲斐あって、今じゃ模範的な園児であると聞く(風太が、だめ!めっ!と叱るが、太郎は他の園児の頭をおもちゃの刀で叩き回る映像にナレーション)
泣きてえのはこっちだぜ(泣き出した颯太の映像にナレーション)
揃いも揃って半人前のちょぼ一の足手纏いの役立たず、こいつらを週に1回集めて行う精神講和と修練、ま、これが目下一番頭が痛え仕事だがよ、そうそう、おんぶに抱っこじゃ俺様も疲れるぜ、ちょっと本当の話がよ…、(工助とヒデオの鉢巻に紐をつけ、道場の床の拭き掃除をやらせていた長吉の映像にナレーション)
よ~し、止め!では、ただいまから恒例の特別修練に入る!と長吉が工助とヒデオに伝える。
藁葺きの寺を利用した「大日本無念塾」道場から出てきた長吉は、お~い、藪忠!風太!出てこい!ほら、聞こえねえのか!全員集合だ!と呼びかける。
タイトル(長吉の口を開けた顔のアップの映像を背景に)
鍋が吊り下げられた囲炉裏の前で火吹き竹を拭いている忠次、里芋の皮をむいているヒデオ、大根の皮をむいている風太、釜の中の米を研いでいる工助らの映像を背景に、スタッフロール
大太鼓を叩き、上半身裸の胴着に着替えた4人を前に、柔道着姿で竹刀を持った長吉が至極映像を背景にキャストロール
星移り、時はすぎた…、幾多の優秀なる人材が当塾から輩出したとはいえ、未だ出来損ないの4人を抱える俺としては新田先生に申し訳ない気持ちでいっぱいである、なかんずく、藪忠!風太!お前らは俺の義理の舎弟じゃないか、あ、工助!と長吉が呼びかけると、はい!と手を挙げた工助に、お前の就職先は決まったか?と聞く。
すると工助は、まめこちゃんの工場とこたえたので、てめえの恋人に拾われてるなんてのはな、ダメな男だよと長吉はくさすと、でも住み込み3食付きですからね、やっとこの道場から引っ越せるってわけです、悲しいような嬉しくないような気持ちですと工助はいう。
さらにヒデオも、僕もね、勤め先が決まりましたと言い出したので、何!と長介が聞き返すと、あの~、美代ちゃんとこの料理屋で板前の修行とヒデオは言うので、ダメだ!ヒデはまだまだだから出すわけにはいかないと長吉は言い、ええ!そんな…と驚くヒデオに、ダメだったらダメだ!他の3人も半人前だがな、てめえはそれ以下だ、当分は俺の手元で人間を磨かせると長吉は言い出す。
そんな…とヒデオは抗議するが、ダメだったらダメだよと長吉は譲らない。
ヒデオが、悲鳴を上げるような変顔をすると、何だ馬鹿野郎、その反抗的な目は!と長吉は問いかける。
やい、ヒデ!てめえの二親がな、揃ってダンプに撥ねられて仏さんになった晩によ、てめえ、そのアサリみてえなしょぼくれた目からハラハラ涙流しやがって俺の前で何つったよ!と長吉が迫ってきたので、またそれを言う!とヒデオは嫌な顔をする。
なんて言ったんだよ?言ってやろうか?と挑発した長吉に、言いますよ、言いますよ、こんな男でよかったら命預けます!とヒデオが答えると、そうよ、預かった以上は、煮て食おうと焼いて食おうと俺ん勝手だ、まあな、早え話が銀行だ、一旦銭を預けちまったら、その銭はどう使われようとよしんば持ち逃げされようと預けちまった方はゴマメの歯軋りってんだ、これが現代だ、よく覚えとけ!と言いながら、長吉は竹刀でヒデオの頭を叩く。
痛い!とヒデオが叫ぶと、痛いじゃねえだろ、礼はどうした!と長吉が強要したので、ありがとうございました!とヒデオが礼を言うと、隣で正座していた忠次も笑い出したので、同じように、長吉から竹刀で頭を殴られ、このやろう!人事じゃねえ!礼はどうした?礼は!このバカ、おい、いいか?てめえは一体な、誰のおかげで開業していると思ったんだ、え?俺が厚生省へ申し出たらてめえは明日から臭い飯を食うんだぞ、このやろうと長吉は叱るので、忠次もわざとらしく、ありがとうございました!と返事したので、よ~しと長吉は許可する。
その夜、野菜を入れた買い物カゴを下げたヒデオは、「料亭山口楼」の勝手口に来て、ミヨちゃん!と呼びかける。
すると、出前が出てきて、横の部屋の窓から、ミヨ(早瀬久美)と豆子(笹原光子)が煎餅片手に顔を見せたので、ミヨちゃん!あれ?豆子ちゃんも来てたの?とヒデオは驚く。
あら邪魔なの?と豆子が言うので、いやいや、そうじゃないんですけどね、その…、美代ちゃんにちょっと報告したいことがあって…とヒデオは言う。
すると、美代は、今、そのことをマメと話していたの、いつもの所で待ってなさいと指示してきたので、ヒデオは従順に、はいと答える
馴染みの神社に来たミヨは、わかってたわよ、大体ヒデちゃんは、私よりゴリラの方が好きなんだからと言うので、そんなことありませんよ、僕はね、ミヨちゃんのうちで板前の見習いをやるってあいつにはっきり言っちゃったんですからとヒデオは言い訳する。
そしたら?とミヨが聞くと、そしたらね、この野郎!女に養われててめえは嬉しいのか!それでも▲×▷◻︎ブラ下げてんのかって!とヒデオは答えたので、ミヨは、え?何をぶら下げてるって?と聞いてくる。
だから、あの~、その~、ほらあの…、金のこういう。あ、そうだ、ミヨちゃんにないもんなんだとヒデオは必死にごまかそうとするが、はっきり言いなさいよ、変な人ねとミヨは言うので、ごんなに掘り下げなくても良いと思うのとヒデオがお姉口調で答えると、だっておかしいじゃなの、工助ちゃんは荷物まとめてうちの二階に越してきたわよと、隠れていた豆子が姿を見せて指摘したので、ほら見なさいとミヨも上から目線で言う。
いやだって、あいつはほら、口もうまいし手も早いし…とヒデオは言い訳するが、あによ、あんた、私の彼に文句あるの!と豆子が文句を言ってくる。
要するに、あんたは私を愛してんの、愛してないの?とミヨが高飛車に行ってきたので、愛してますよと言いながら唇を尖らせてキスしてこようとするが、調子良いんだから全く!と言いながら身を交わしたミヨは、要するにね、あのゴリラは私たちにやきもち焼いてるのよ、みんなには奥さんや恋人がいるのに、自分は逃げられちゃって1人でしょう?中年の欲求不満よ…と指摘する。
それを聞いたヒデオは、そうなのよ!あいつは朝になると、鼻血がブー!でうからね、大体ね、盛りのついたゴリラなんてのはね、動物園でも引き取らねえって言うからね、本当…と夢中で話すが、その時、ああ!俺買い物の途中だったんだよ!ミヨちゃん、達者でね!と言い残し、立ち去ってゆく。
ヒデちゃん!とミヨは呼びかけ、豆子も、どうなっちゃってんの、一体…とぼやく。 面倒見きれないわよ、全く…とミヨは呆れる。
道場に戻ってきたヒデオは長吉がいないと思いほっとすると、あのエロゴリラ、ヤキモチ妬いちゃうんだって、だけどあのツラじゃ無理だよな、鏡見ると死にたくなるっていうな、本人の気持ちもわかるな~…などと悪口を言いながら台所で買ってきたものを出し始めるが、その背後に潜んでいた長吉は、誰かさんとミヨちゃんが♩と歌い始めたヒデオの横に姿を現し、竹刀で床を叩きつけたので、ヒデオは仰天する。
何とか言えよと迫る長吉に、ありがとうございました!とヒデオは反射的に礼を言う。
貴様、どこで遊んでいた!と長吉が追求すると、いや、八百屋さんが混んでましてね…とヒデオは言い訳すると、言い訳するなと!とまた竹刀で側頭部を叩かれたので、ありがとうございましたとヒデオは礼を言う。
太郎と次郎が腹すかせてるのがわかんねのか?と長吉は攻めるので、すぐにやりますとヒデオは詫びるが、また市内で頭を殴られたので、親方、殴るんだったらけつっぺたにしてくださいと痛がりながら頼むが、礼は!と怒鳴られたので、ありがとうございました!とヒデオは言うしかなかった。
太郎と食卓を囲んだ長吉は、お百姓さん、今日も尊いお米をいただきますと合掌して挨拶する。 ヒデオは、赤ん坊の次郎をおぶっておさんどんの格好になっていた。
いただきますと挨拶した太郎が、どうしてお兄ちゃん食べないの?と聞いてきたので、返事をしかけたヒデオだったが、お兄ちゃんはね、ご飯が余ったら食べたいんだってさと長吉が被せるように答える。 ヒデオは俺は食べたいよと泣く。
そんなヒデオに、箸で掴んだおかずをみせ、お前好きと見せびらかしたので、大好きなんですとヒデオが答えると、俺も好きなのと言って、長吉はそのまま自分で食べてしまう。
同じように、次のおかずを端にさし、これ好き?と長吉が聞くので、嫌いですとヒデオが答えると、俺も嫌いだ!と言って長吉は鍋に投げ込んでしまったので、ヒデオは叫んでしまう。
空腹を我慢できなくなったヒデオは、赤ん坊用に哺乳瓶のミルクを飲もうとしたので、長吉から止められる。 夜中、上半身裸のヒデオは、くしゃみをしながらも長吉親子の寝室の隣で、正座させられていた。
長吉は、机で書き物を書きながら、手元の綱を引くと、寺の鐘が鳴る仕組みになっていた。 本堂で正座をしていたヒデオが、おしっこ行きたいんですがと隣室に声をかけると、無念むそうの境地は?と長吉が聞いてきたので、先ほどからずっとなっておりますとヒデオは答える。
すると、そうか、なら小便なんか全然出たくないはずであると長吉の声が聞こえたので、ヒデオはずっこけ、そんなこと言ったって、下の方じゃ勝手にで違ってるんですがと訴える。
すると、障子を開けて睨んできた長吉が、うるせえ、俺の意見とナスビの花は1000に1つの無駄もないってくれえだ、てめえにゃ、まだまだ無念塾の精神がわかっちゃいねえな、後30分!と命じて障子を閉める。
それを聞いたヒデオは、ショックのためか、ああ、ちびっちゃった!と嘆く。
長吉は、ノートに今書いた日記を読み返す。
「12月27日(日) 我、この世に生を享けてより30有余年、今ほど女が欲しい時はないのだ、あのロクデナシ共でも、夜ともなればマイホームあり、そして何よりも女の白い肌があり、熱き口付けがあり、甘い囁きがあるのだ、ああ而るにに我はどうだ、逃げた女房を恨むじゃないが、赤き唇よ、真白き胸よ、ああ、神様、南無阿弥陀仏、アーメン、なのだ…」と書かれていた。
新田重三邸 紋付袴で庭先で待っていた長吉は、屋敷から犬を抱いた新田重三(内田朝雄)が、姿を見せ、無念塾の方はうまく行っとるかな?と聞いてきたので、へ、不肖碇田長吉、先生の教えを対し、日夜青少年の訓育に努めておりますれば、何卒ご安心のほどを…と庭先に土下座して報告する。
しかし新田はそんな言葉は聞いておらず、ペットの犬ベアトリーチちゃんに話しかけているだけだった。
それに応じ、長吉も、うんこチンチンですか、おしっこちゅんちゅんですか、いないいないばあ~などと笑顔で調子を合わせるが、やめんか、この子はお前の顔を怖がっちゃうじゃんと新田は叱るので、長吉はすみませんと恐縮する。
新田は、牧野!槙野と呼ぶと、長吉、毎月律儀にその顔を見せてくれてありがとうよ例を言うと、やってきた牧野(村上不二夫)に、こいつにいつもの分くれてやれと命じると、自分は奥へ引っ込む。
牧野は内ポケットから「寸志」と書かれた祝儀袋を取り出すと、ありがたくいただけと手渡すと、帰れ、帰れ!と手先で追い払う。
その後、座敷に座っていた新田は、あのバカ、喜んで帰っただろう?と障子を占めた牧野に確認すると、ところで川上、仕事の方は進んどるか?と対座していた客の川上団兵衛(上田吉二郎)に聞く。
川上は、ええ、着々…と言うので、横に座った牧野が、着々だそうですと新田に繰り返す。
机に地図を広げた川上は、どうぞご覧ください、これが着工予定の北日本高速道路、何しろ、碌でもない農地ですから、今はに必要条くさんもんですがね、道路の検察計画が発表された暁には100倍にも値上がりしようというボロい儲けですな、先生と…と笑いながら説明する。
新田は、しかし、内密に頼むよ、この計画を漏らしてくれた国会方面の友人に迷惑がかかると困るからな…と念を押す。
へえ、わかっております、ところで問題は、この町にできるインターチェンジなんですが、どの辺に?と川上は聞くと、例の無念塾を中心とした一帯にしようと思っとるんじゃと新田は答える。
え?あの寺ですか?と川上は驚く。
うん、公団の役人に話をつけて強引に計画を変更させたんじゃよ、な~、ベエちゃんと犬に話しかける。 それを聞いた川上と牧野は、なるほど…と感心する。
ただちょっと気になるのは、あの土地の権利書がわしの手元にないことなんだと新田はいう。
すると川上は、いや平気、平気ですよ、あそこはね、住職がどっかに行っちまって、もう20年も経っている荒れ寺じゃありませんか、まあ、遠征の力で市役所に手を回しても誰も文句は言いませんよと答えると、牧野も、そりゃ文句は言いませんよと繰り返す。
そりゃあ、そうなんだが、ひょっとして、妙な奴が権利書を持って現れたらことが面倒になるでな…と新田はいう。
う~ん、じゃあ、早いとこ長吉を追っ払わねえと…と川上が言うと、そうなんだよ、あのバカに土地横領罪でもおっ被してやろうと思って、あそこに置いといたんだが、逆に邪魔になってきたようだなと新田は苦笑する。 川上も笑いだし、こいつは面白えや、早速手を打ちましょうと答える。
頼むよ、何も知らんで尾っぽ振ってくる、長吉にわしから引導渡すのはな、ちょっと目覚めが悪いんでなと新田は念を押す。
自動車修理工の仕事をしてた工助は、太郎と次郎を連れて歩いているヒデオを見つけ、お、どうしたんだよと聞くと、どうもこうもねえよ、うるせえ、ゴリラの子!と背中で泣いている次郎を叱りつけ、保育園に行く途中なんだけどよ…と言いかけたヒデオは、あ、太郎ちゃん、ちょっと向こうへ行ってハレンチごっこでもしてね、遊んでらっしゃいと遠ざける。
すると太郎が、じゃあ10円と言い出したので、そう言う無理なこと言わないでしょうだいと言いながら、秀雄は工助に10円ちょうだい、悪い!とねだる。
工助がはいと渡すと、秀雄はそれを太郎に手渡すと、もらった、もらったと言いながら離れていく。
クソガキ!と去っていく太郎に文句を言った秀雄は、ちょっと耳貸せやといい、工助に耳打ちする。
え、みんなで逃げる?と工助が驚くと、しーっ!あのよ~、汽車で逃げるからよ、お前よ、自動車一台、都合つけろとヒデオは命じる。
ねえよ、そんな銭…と工助が言うので、ばか!買うんじゃねえよとヒデオは呆れ、また耳打ちする。
それを聞いた工助は、やべえけどな、やってみっか…と言う。
その夜の飲み屋では、何しろおめえな、新田先生っと言ったらよ、時の総理大臣がうんうんって、言うことを聞くお方よと、長吉が店の女性従業員たちに話し込んでいた。 その新田大先生がだな、この錨田長吉の言うことをこれまたうんうんだと長吉は自慢する。
ってことはつまりよ、この俺様はだな、総理大臣をうんうんと言わしちゃうだけの実力があると…、こういう結論に…とつづけた長吉に、女性従業員たちは全員笑いだす。
すると長吉は、だったらてめえらにな、滅多に見られないものを拝ましてやろうか、それを今説明してやっからと言いながら、牧野からもらった寸志の祝儀袋を出そうとすると、従業員が素早く取り上げてしまう。
へえ、碇田長吉殿 新田重三だってと従業員は表書きを読むと、それを取り上げた長吉は、いや、俺は別にこんなものは欲しかぁねえんだけどよ、どうしてももらってくれってうるさくて仕様がねえんだよなどと言いながら、また懐にしまう。
すると従業員も、案外大物なのね、長さんって…、私見損なっちゃたわ!などと引っかかってくる。
長吉は、今頃わかったって遅いってんだよ、あんたたちは困っちゃうな本当に…、だいたい女なんて生き物はね、俺が大物だとわかるとすぐ女房になりたがるからね~などと言い出したので、そんなに競争相手多いの?立候補しようと思ったけどやめとこなどと言いながら、その場から離れ始める。
雰囲気を変えないとと感じた長吉は、じゃあ、私の欠点教えてやろうか?と言い出し、何?と従業員らが食いつくと、情に脆いのよと答える。
だからね、どうしても私、長さんの死んだ奥さんの後釜に座りたいわって、こう言ってごらんよ、私はどうしてもね、うんって、こう言っちゃうのよの長吉は教える。
するとまた従業員たちは笑いだし、長さんの奥さん、本当に死んでるの?と豆子が聞く。
長吉は、本当だよ~と答えるが、ホラ話に飽きた従業員たちは全員その場から去ってしまう。
ちょっと!と呼び止めた長吉は、がっかりして一人コップ酒を飲もうとすると、痺れるわ~と一人の女従業員トシエ(正司敏江)がそばに近づき、その目玉!素敵やわ~!などと長吉をいじりだす。
いや、この下唇、ちっこいの好きや、うわ、これ鼻毛なの?というと、いきなり長期チン花ざかりの鼻毛を抜いて食べたので、ちょっと…、気持ちわかるけどね~、一番酷いのがきたな~と長吉は落ち込む。
いや~、私ね、そう言う声が野獣的な声で魅力あるわ、ちょっと!と言いながら、長吉の顔を舐めようとしたので、それに気づいた板前のレイジ(正司玲児)が慌てて飛び出してきて、ほら、お客さん、ワイの女房に何してんの、これ!と長吉の方に文句を言ってくる。
これあんたの?と利恵を指差し長吉が聞くと、そうや、大阪から駆け落ちしてきたんやと答えたレイジは、お前もお前やないか、浮気するんやったら人間と晒せ!このガキゃ!とトシエも叱る。
トシエも、ええ加減にせいや、このガキ!とレイジを突き飛ばすと、うち大阪・天王寺動物園思い出したんや、こんなんおるわ、ああ懐かしいわ~とトシエが、長吉を皆があ言うと、己が動物園語る資格があるか!貴様、手をついて駆け落ちしてくれって頼んだのはお前やないか!とレイジはトシエを叱りつける。
まあまあと仲裁に入りかけた長吉だったが、トシエ、レイジの両方から頭を叩かれてしまう。 そのまま、トシエとレイジのどつきあいは店の中で繰り広げられる。
まあまあまあ、おやめなさいと長吉が止めに入ると、よう考えたらこのゴリラが悪いんやとレイジが言い出し、トシエと共に長吉を叩き始め、挙げ句の果てに2人で長吉を投げ飛ばしてしまう。
ボックス席に投げられた長吉は、どっか間違ってるな~、これは…とぼやく。
翌朝、いつものように「無念塾」の近くを通学する学生たちに、おはよう!今日も元気で張り切っていこうか、おい、どこ行く?おはよう!おい、おはよう!と呼びかけるが、誰も「無念塾」に近づこうとしない。
エッチな真似?いつ私が?学校に呼び出された長吉は、父兄たちから槍玉に上がり、妙な噂が出ていると知る。
そうでねえかい、自分の胸に聞いてみるが良い!と母親の一人が言い張る。
誤解ですよ、それは、不肖「大日本無念塾」塾長碇田長吉、天地神明に誓って…と長吉が言い返そうとすると、塾長が聞いて呆れますわよと他の母親が反論し、まああ、こうはっきりとした証拠が上がった以上、学校としても生徒をやるわけにはいかんのでねと校長(柳沢真一)が言うので、証拠?と長吉が聞くと、ほれ、まだ読んどらんですか?と言い、校長は昭和46年(1971)1月12日付の新聞を差し出す。
そこには「とんだ桃色道場、大日本無念塾」「エッチな塾長 女高生に禁止の寝技教える」と、倒れ込んだ道着姿の女生徒にキスをしようと顔を近づける長吉の写真付きで記事が載っていた。
何せ、PTA顧問の川上さんから出たニュースだに…と校長は自信ありげに言う。
それを聞いた長吉は、畜生、あのアザラシの野郎!やっぱりきたな!と憤る。 その後、「川上不動産」を訪れた長吉は、ブハハハハ、やっぱり来たなと嘲られたので、川上さんよ、これはねえんじゃないか?と新聞記事を突き出す。
しかし川上は、せっかくだけど、俺は忙しいんだよ、お前なんかと遊んでいる暇はねえんだよと言い放つ。 なんだと?と長吉が詰め寄ろうとすると、おい、このゴミを摘み出せ!と川上は事務所の手下たちに命じる。
何だ?何だよ、このやろう!と6人の手下たちに詰め寄られた長吉は抵抗するが、おい、この碇田長吉のバックにはな、新田先生が控えてらっしゃるんだぞと虚勢をはる。
何だてめえら、変な真似しやがって後で泣きを入れても知らねえぞ!と入り口に押し出されそうになるが、先生から預かった塾の看板に泥を塗りやがって!まだ先生が庇ってくれると思ってるのか!と川上は迫ってきたので、長吉は不動産事務所から押し出されてしまう。
まあ、お詫びの印にだ、坊主にでもなってこの街を出て行くんなら話は別だが、どうだよ、長吉?と川上は言う。
塾に戻り、その新田十蔵の写真の前で、畜生、たった今重大決心をした、当塾の塾生どもは1人残らず、こっちから破門してやる!と長吉は言いだす。
塾に集合させられそれを聞いたヒデオら4人は、え?破門ですか!と喜んで帰ろうとするが、おめえらは別だ!と長吉は言うので、全員ずっこける。
けどよ、他のことがないと塾の経営はどうするんだよと忠次が指摘すると、さあ、それなんだよ、俺が一番悩んでいる問題ってんは、そこでだな…と長吉が続けようとした時、解散!解散しかないよなとヒデオが口を挟むが、長吉の顔色を窺い、残念なんだわと口調を変えるが、また長吉から竹刀で額を叩かれ、ありがとうございましたと礼を言う。
まあ、俺も色々考えたけどな、こうすることに決めたんだと長吉がいい出したので、どうするんすか?と4人が聞く。
お前らがな、これは義務として10人ずつ塾生を集めて来いと長吉が指示したので、そりゃ無理だと4人は言い返すと、うるせえ!と長吉は怒鳴りつける。
この義務が遂行できねえ野郎はな、以後、毎日当地に通勤して特訓代とし、さらに10人分を奉納すること、以上、終わり!と長吉は一方的に言い渡し、退座しかけたので、4人がブーブー言い返すと、こんこやろう、てめえら、俺の方針に不服があんのか?と言い返すと、ああ、あるよ、大ありだよ、こうなったのもあの塾長の桃色柔道のせいじゃねえかと忠次が指摘すると、聞いたふうなこと言いやがって!じゃあ、貴様ら、あれか?この塾を出て、1人でやっていけるお言うのか?と長吉が聞くと、ああできるよと4人は答える。
すると長吉は、よ~し、上等じゃねえか、出てってもらおうじゃないか、この恩知らず、出てけ!と言い放つ。 そんな「大日本無念塾」にやってきた和装の女性があった。 結城令子(岩下志麻)だった。
忠次、工助、風太らはあんなことやってたからかみさんに逃げられたんだよ…などと言いながら帰り支度をする中、何でなんだよ、見損なったよ、お前たち!犬だって3日も飼えば飼い主の恩を忘れねえって言うじゃないか、嘆かわしいよ穏当に…と、俺の恩を忘れねえのはヒデだけとはよ‥と長吉は玄関先で腐していたが、そのヒデオも、ちょっと遅れて、さあトンズラしなくっちゃと嬉しそうに玄関口に来たので、おい、お前もかよと長吉は驚く。
ヒデオは慌てながらも、あ?え?そうなんですかね?あの親方ね、親方じゃない、あの塾長先生、あなたもですね、これから二人のガキを抱え、あっしみてえな出来損ないがいたんじゃ、あんさんは何かと足手纏いになりやす、あっしも皆さんと一緒に泣く泣く行くんでやんすよ、何と言う悲しい話じゃござん扇かとヒデオは泣きながら訴える。
そんなヒデオの襟首を捕まえて立たせた長吉は、出るのか、出ていかねえのか?聞いてんだいと睨みつける。 ヒデオは怯えながらも、行きたいわ~と訴える。
行きたいだと、このやろう!としないのにギリ手に唾を吹きかけていた長吉だったが、その時、玄関先に立った令子を見つけて動きが止まる。
親方、お客さんですよとヒデオも長吉に話しかけたので、長吉はすぐにしないを投げ捨て、私が当無念塾の親方…、いや塾長でございますと挨拶し、さ、どうぞと中に入るよう勧めるが、何かお取り込み中じゃございません?と令子が聞いてきたので、家、とんでもございません!今このゴミ共のですね、あの~、剣術の手解きをしておりまして…、さ、どうぞどうぞと長吉は招き入れる。
失礼しますと令子が上がり込むと、長吉は、ヒデオの鼻先で障子を占めてしまう。
その令子のことが気になり、いったん出て行っていた忠実に、風太、工助らも、玄関に戻ってきて、中の様子を伺い始める。
障子の中からは、長吉と令子が、笑いながら楽しげに話し合っているのが聞こえてきたので、ヒデオたちはヤキモキしだす。
まあ、この屋敷の抵当は新田重三ですって!と令子は、長吉から話を聞いて驚く。
長吉の方も、ご存じですか、新田先生を…と驚くと、お名前だけはよく…と令子が言うので、さあ、そうですか、まあね、有名な方でございますからねと喜ぶ。
まあ、私の口からこう言うのも何でございますがね、当塾って大変なんでございますよ、はい、もう、南は沖縄九州でございますね、北は北海道のずっとハズレの方まで、もうあなた、この碇田長吉を慕って、当塾へ入門希望者が後を立たないと言う先生でございますと長吉は座敷まで持ってきた自分の下駄の置き場所に迷いながら説明する。
しかし令子は、あの~、せっかくでございますけれど、私、入門志願で東京から参ったんではございませんと否定する。
違う?ああ、そうですか…と答えた長吉は、背後の襖を少し開け、部屋の中を覗き込むヒデオに気づく。 ヒデオはヒヒヒヒと嫌な洗い方をするので、何ですか、ヒデオ君、もう用はないはずでしょう?でなさい、早く出なさい、いや、その何でございますよ、塾長先生、あの、じっくり考えましたところですね、まだ先生のおそばにいた方が良いんじゃないかと思いましてね、まあ、早く言えばですね、その修行が足りないともうしますかね…などとヒデオは長吉の横に座って、令子に向かって作り笑顔で言う。
長吉も令子に愛想笑いを浮かべながら、困るんですな、もうこの有様ですから…と自慢げに言う。
全く…と同意したヒデオは、みなさん、入ってきても良いだしいわよと外にいた仲間達に呼びかける。
どっと忠次たちが部屋に雪崩れ込んでくると、私、あの…、カトちゃんでございます、どうぞよろしく!とヒデオが挨拶したので、結城令子でございます、よろしくと令子も返したので、あ、令子ちゃん、良いお名前ですとヒデオは愛想を振り撒く。
すると忠次が身を乗り出し、小児科、産婦人科、肛門科、それに犬ネコ病院まで経営する医学博士の荒井忠次ですと名乗り、自動車の社長は決定してられた仲本工助、ひばり保育園長の高木風太ですとそれぞれ名乗る。
すると令子は、まあ保育園の園長さん?ちょうどよかったわ、私を保母さんに使っていただけませんか?と風太に向かって言い出したので、全員が驚くと、だって私、子供が大好きなんですものと令子は言う。
すると、あの~、保母さんになるためにわざわざこの街にいらしたんですか?と長吉が聞くと、そうなんです!使っていただけます?と令子が言うので、願ってもないことです、早速ご案内いたしますから、どうぞ!と風太が立ちあがろうとすると、風船!いや、待ちなさい高木君…、ええ、事情により、本日限り、君は保育園の園長を除名します、ああ、なお本日より私の手元でバッチリ修行をし直すように…、あ、早速、今夜から、保育園を出ましてですね、ヒデオ君と同居しなさいと長吉は命じる。
そりゃないですよ!と風太が泣き出すと、あ、じゃあこうしましょう、私がですね、ええ、彼女をご案内いたしましょうとヒデオが言い出す。
何?と長吉が睨むと、いや、ですからね、その~、彼女と一緒に保育園に住み込みましてですね、太郎ちゃん、次郎ちゃんの教育をば…とヒデオが続けるので、ヒデ!と長吉が叱ると、はいとヒデオは小さくなる。
ちょっと失礼しますと令子に断った長吉は、ちょっといらっしゃい、どんどんいらっしゃい!と怯えるヒデオを連れて別室に行くと、竹刀で打つ音と、ヒデオの悲鳴と、ああ、ありがとうございました!ありがとうございました!と何度も繰り返す言葉が聞こえ、忠次らは頭を抑えてその場から逃げだす。
やがて、再び障子が開き、竹刀をもった長吉が、失礼をいたしましたと詫びながら戻ってくると、保育園への案内は、この私めがいたします、どうぞと令子に告げる。
奥の部屋からは、令子様、こっち来て、お尻なぜなぜして…などというヒデオの声が聞こえてきたので、どうなってるのかした、この道場…と令子は呟く。
その夜、日記をつける長吉は、神代、いかなる言葉であなたに感謝の意を述べようかいあ、ついにかみは我が前に永遠の伴侶を与えてくれたのだ!その名は令子様!彼女こそが我妻たる人であり、太郎と次郎の母たる人なのだ、誰が何と言おうとそうなんだ…と書き込み、うっとりする。
翌日から、令子は保育園でオルガンを弾き、その周りを園児たちが廻っていた。
その音色に夢中の忠次は、診察室で患者(佐山俊二)の上半身を脱がせたまま、窓から外ばかり見ていて一向に診察しないので、くしゃみをした患者は、奥さんよ、俺、風邪、治しにきたんだよ、どうなってるんだよ、これ!とぼやく。
洗面器で忠次の頭を叩いたテツ子は、久しぶりの人間じゃございませんの、アンコウ鍋みたいな顔してないで真面目におやりあそばせ!野郎、てめえ、畜生!と腕組みをするので、慌ててちゅ痔は患者の診察を始めるが、相手のくしゃみをモロに顔に浴びてしまう。
修理工の工助も、調子に乗って口笛を吹きながら仕事を適当にやっていたが、気がつくと恋人の豆子が目の前にいたことに気づく。
豆子は、わかってるぞ!三食保証をパーにしても良いの?と同棲していることをカタに嫌味を言ってくる。
おと、次郎をおんぶした風太も、保育園の外で、令子のオルガンの音色に身悶えしていた。
そこに竹刀を持った着流し姿の長吉がやってきて、気をつけ!足開け!とヒデオと風邪太に命じる。
歯を食いしばって!目を瞑って!と長吉の言いなりになるヒデオと風太だったが、行くぞ~!と言いながら竹刀をふりあげた長吉は、ちょうどひばり保育園から出てきた令子の姿を見て手を止める。
令子の方も気づいて、あら、おはようございますと挨拶してくる
ヒデオもおはようございますと挨拶を返すが、そんなでしょうし、そういうで尾を脇に押しやり、どうですか?勤めると大変でしょうと長吉は労う。
令子は、妹さんのおかげで、何とか格好がつきそうですわと答える。
太郎、よかったね、こんな良い先生に来ていただいてと長吉が息子にいうと、本当に可愛いおぼっちゃまと令子もお世辞を言うので、長吉は嬉しくなって、まあね~、女房に先立たれましてから、男手1つだもんどうにんですからと笑う。
それを聞いた令子は、まあ、奥様はお亡くなりに…と驚いたので、ああ、まあそういったわけで…と長吉が嘘を言っていたので、聞いてたヒデオは、きったねえな、あのゴリラと風太に言うと、太郎を手招きする。
そうでしたの…と同情する令子に、ま、何とか寡で頑張ってます、はいなどと長吉は調子良く答えていた。 ヒデオは近寄ってきた太郎の耳元で何かを囁きかける。
それでお行儀が良いんですね、お父様のお人柄が分かりますわなどと令子は答えていたので、すっかり上機嫌になった長吉は、太郎くん、こっちいらっしゃいと呼び寄せる。
先生に、大きなお声でご愛プロデュー殺してごらんなさい、いつもお父さんがお教えているんでしょう?と太郎にいうと、うんと答えた太郎は、うんこちんちん!と令子に披露したので、令子も長吉も愕然としてしまう。
さらに、モーレツ!モーレツ!と言いながら、太郎は令子と丸子のスカートを捲ったので、2人は園内に逃げ込み、長吉は焦るだけだったので、そんな様子を見たヒデオと風太は、やったぜ、カトちゃん!と言いながら笑う。
その後、長吉は、やい!なんだ、今日のてめえらの様は!ふぐ、忠!ヒデオ、工助、貴様らそれでも男かい!大体てめえらはな、妻の夫であり、ガールフレンドのボーイフレンドなんだよ、ちゃんと持つべきものを持っていながら、人様のものに現を抜かすってそれはどうなんだい!そりゃ!と無念塾に呼んだ4人に説教をする。
あの~、彼女は誰の持ち物なんでしょう?と颯太が質問すると、うるせえ!誰の持ち物でも、てめえらのもんじゃないことだけは確かだよと長吉は言い返す。
そりゃないよねとヒデオたちが不満を言っていると、このやろう!まだ塾の精神が分かってねえな!よし、じゃあはっきり言ってやろう、今日限り一切、令子先生と口を聞くことを禁じる!と長吉は言い放つ。
4人がゴチャゴチャいうと、うるせえ、あの塾訓を見ろ!と長吉はしないで壁を指すと、そこには「忍耐、服従、献身」の言葉が書かれてあった。
その夜、某料亭で川上に会っていた佐川(名和広)は、交通公団も最近は相当ガラス張りですからな…、こっちも結構危ない橋渡っているんですよ…と話していた。
それに対し川上は、分かってます、分かってます、恩に着てますと答える。
そこに、こんばんは、失礼しますと襖を開けて挨拶してきたのは、芸者のぽん太(倍賞美津子)だった。
遅かったじゃないか、お入りと川上は声をかける。
するとぽん太が、ニューフェイスをご紹介しますわと言って、芸者姿の令子を、今夜私のうちから出た桃太郎ちゃんと紹介する。
それを見た川上は、おいおいこの街にこんな別嬪がおったんかいなと驚く。
佐川も、川上さん、これは東京でも滅多にお目にかかれませんよと言うと、ああ、いらっしゃいと矢に下がって手招きし、こうなったら辞められませんなと川上に笑いかける。
はいんなさい、ああ、紹介しよう、こちら交通公団の佐川局長だ、可愛がってもらうんだと川上が桃太郎に紹介する。
よろしく…と桃太郎が挨拶すると、いやいやいや、こうなったら毎晩でも来ないとなりませんなと佐川はすっかり上機嫌になり、川上も盃を桃太郎に差し出すが、もう1人ここに別嬪ちゃんがいるんですけどねとぽん太は口を挟んでくる。
川上は、忘れてたよと言い、全員大笑いになる。 ぽん太も川上に酌をし、さあさ、お話を続けてくださいと桃太郎は勧める。
ところでどうなりました、その例の無念塾とかって言うところの地所は?と佐川が聞くと、桃太郎の表情が変わる。
いやそれがお笑いなんですよ、横っちょからボロを出させて学生を自発的に行かさんようにさせたんですと川上は教える。
いや~、食料のルートを断たれた最前線みたいなもんですねえ、まあ、いずれ日干しになって根を上げるんですよと川上が続けると、無血占領ってわけですなと佐川も愉快そうに答える。
いざとなったら新田先生もいらっしゃるし…、長吉なんか新田先生に言わせたら赤ん坊みたいなものなどと川上は付け加え短個で、ぽん太と桃太郎は互いに目配せをする。
新田先生って方ですのね~、私、そんな方の席に出てみたいわと桃太郎が探りを入れる。
その頃、ミヨはヒデオに、聞いたわよ、そんなにあの先生が好きだったら、涎掛けして入園すれば良いのにと皮肉を行っていた。
ヒデオは、そうじゃないんですよ、それには深いわけが…と言いかけるが、言い訳しないで!ゴリラが怖くて逃げ出せないなんて嘘ばっかり!もう知らない!とミヨはヒスを起こす。
ミヨちゃん!ミヨちゃん、ごめんなさい!僕が悪かった!ごめんなさい!と料亭の中に入って謝るが、その時、廊下を通り過ぎる芸者姿の桃太郎を目撃し、あら?とヒデオは驚く。
いつもの飲み屋に来ていた長吉に、女性従業員が、長さん、今夜は珍しくの話が出ないね、気味悪いよ、さっきから一口飲んでニタニタしてるんだもん、どうしたんだよ~と揶揄われていた。
長吉は、やっぱり気になると見えるな?とニヤつくと、まあ、話してやっても良いけどよ、これ聞くと、お前らびっくりして座りしょんべん漏らすからななどと言い出す。
表現が汚いわね、この人…と、従業員が呆れる中、よしよしよし、んじゃ、話してやろうと言い出した長吉は、実はな、数ある女の中からな、俺ん花ざかりの女房になろうって女性が現れましたよと言ったので、本当!嘘でしょう!と従業員たちは驚く。
何言ってるんだ、お前、この俺と一緒にならなかったらな、死んじまうってくらいの美人が現れたよと長吉は続けたので、従業員たちは嬉しそうな悲鳴をあげる。 そこにやってきたのがヒデオで、慌てて表を刺すので、なんだよ、金魚みたいに口パクパクさせやがって、はっきり喋れよ、はっきりと、長吉は叱る。
ヒデオが耳打ちすると、え!令子先生が芸者!と長吉も驚く。
その後、洋服に戻って丸子の保育園に帰宅した令子は、部屋に長吉やヒデオや忠次たちが待ち構えていたので、何!お揃いで!と驚くが、お疲れになったでしょう?さあ、あの靴を脱ぎましょう、お手伝いしましょうなどと申し出るが、令子が結構よと断ったので、いや、あの…、こいつらね、私のおまけでくっついてきやがった…と言い訳した長吉が、実はヒデの野郎が妙なものを見たなんて抜かしやがるんでねと令子に迫る。
すると令子は、あ、バレたのね!とあっさり認めたので、長吉は、え!では、やっぱり先生、芸者に!と逆に驚くと、始めたのよ、今日からと令子はあっけらかんと答える。
なんでまたそんな思い切ったことを?と忠次が聞くと、黙ってて御免なさい、だって見てると保育園の経営も楽じゃなさそうだし、少しでも稼いでお役に立てれば嬉しいと持ったの、それだけよと令子は言う。
こう見えても、私は花柳流の名取なのよと言いながら、令子はポットを持って座敷に戻ってくる。
それを聞いた工助が、え?先生も柔道をやんの?と聞いたので、馬鹿野郎、だからお前は小学生以下だって言われんだよ、お前、花柳流と言ったら有名な剣道の流儀じゃねえかと長吉も知ったかぶりをする。
何言ってるのよ、馬鹿馬鹿しい、日本舞踊のことだよと丸子が訂正する。
長吉が、日本舞踊に決まってんじゃねえか、馬鹿野郎!と長吉がヒデオを叱ると、俺なんにも行ってねえとヒデオは言い返す。
令子は、そんな連中に、ねえ、ちょっとお座敷で今日、気になることを聞いたんだけどさ、この辺の地所、問題になってるんですってと伝える。
長吉は笑いだし、そんなことは心配いりません、今辺一帯はね、私が新田先生から譲り受けたもんですから、法律上私のもんですよと教える。
じゃあ、長吉さんは、ちゃんと権利書なんかお持ちなのね?と令子が聞くと、いや、刑務所は入ったことないと長吉が的外れなことを言うので、違いますよ、権利書!と令子は力説する。
あ、権利書?権利書…、そうね~と考えた長吉は、5~60枚はあるかななどとヒデオに相談するので、ヒデオも訳もわからず、あるある!と笑いだす。
そんなことより、先生、先生、あの~、お伺いしますけどね、料理屋さんなんかに行ってですよ、芸者さん相手にお酒を酌み交わすって、1人頭いくらくらいかかるんですかね?と長吉は聞く。
はあ?と令子が不思議がると、いえ、ですから、ほら、あの~、例え話ですよと長吉はごまかす。
するとヒデオが、ああ、それね、美代ちゃんに聞いて僕知ってますけどね、花代がね…と話そうとすると、だまれ、てめえなんかに聞いてねえだろと長吉は怒る。
花代の前にね、ごめんなさいとヒデオが続けようとしたので、黙ってろってんだよ、この野郎!と長吉はヒデオの頭を押し除ける。
それでもヒデオが、チップがありました…としつこく説明しようとするので、、なんでそうなんだと長吉はヒデオに喋らさないようにするが、一晩泊まりますとねとまたヒデオがいうので、よしなさいってんだよ、不潔なこの!と長吉は黙らそうとする。
不潔ってなんですか!とヒデオも反発するが、うるせえ!何言ってやがるんでい!と長吉は無視する。
その夜、また長吉は日記を書いており、神よ、我が胸の燃ゆる思いをお察しください、亜人と夫婦になれたら、私めの命など差し上げます、あなたに10円寄付します、ああ、愛するって耐えることなのかしら?アーメン、南無阿弥陀仏…と書いていた。
料亭「山口楼」に羽織姿でやってきた長吉に、お酌をする桃太郎こと令子は、なんだか、恥ずかしいわ、こんな格好見られちゃって…と照れる。
いや、私も元来こんなところはあんまり好きじゃないんですけど、何事でも社会勉強と思いましてね、ああ、まあ、ぶらっと寄ってみただけなんですなどと長吉は笑いながら言い張る。
長吉さんって、根はすごく優しい方なんですのね、私の死んだおじいちゃんそっくり!と桃太郎は妙な褒め方をするので、うん?おじいちゃん?と長吉はキョトンとする。
その頃、太郎と次郎が寝ている長吉の部屋に忍び込んだヒデオと風太は、長吉の日記を盗み出す。 ぽん太も加わった座敷では、いやねえ、長さんって堅物だとばかり思ったら、意外と捌けてるじゃないとぽん太が話していた。
そうなのよ、聞くところによると、奥様志願の女性が多いんですってね、ちょっと焼けちゃうわと桃太郎が言うと、そんなバカな、あなた、まあ、しかしね、そう言う声を聞かんこともないですなと長吉は答えて、自分で高笑いしていた。
しかしぽん太は、そいつはどうかな?ねえ?でもどう言う風の吹き回しなの?貯金が趣味だって言ってた長さんがこんなところで散財するなんて…と長吉に聞く。
長吉は、とんでもないよ、あなた…、ここで使う銭なんか、ほんの微々たるものであってですな、私は私財を投げ打って、4人の半端者を養っているんですからと自慢する。
その頃、無念塾の暗い道場では、ヒデオら4人ん半端者たちが長吉の日記を盗み読みし大笑いしていた。
「胸の思いを察して、あの人と夫婦になる、私めの命など差し上げます」と忠次が読むと全員が嘲笑していたが、おい、あのドケチが芸者の値段なんか聞きやがったのはこのことだったんだよと風太が気づく。
あんた他は貧乏でわかんないでしょうけどね、この金はバカになんないすよとヒデオも言い出す。
畜生、俺たちの月謝値上げしたのもこのためだったのかと工助も不満を言うと、じゃあ、俺たちが金出してやってあのゴリラにデートさせてやってるわけだと忠次も指摘する。
ちくしょう!と工助が悔しがると、こうなったら断固阻止だ!と忠次は言い、おい、なんか名案ないかと工助はみんなに聞く。
するとヒデオが、ちょっと耳貸してみろとみんなに言い、他の三人はヒデオの口元に近づく。
話を聞いた工助が、ラブレタ-!と驚くと、あのゴリラ、バカだからよ、令子先生の手紙だって聞いただけで血が逆さに流れっちまうよとヒデオが言うと、だけど、誰が書くんだ?と工助は聞く。
字を一番多く知ってるって言ったら、忠さんじゃないか?と風太が言う。
指名された忠次は、女もじか…、これは忙しくなってきたぞと考え込む。
翌日「ひばり保育園」の滑り台の上から保育園内部を覗こうとしてた長吉は、息子の太郎が出てきたので、慌てて滑り台を滑って逃げ出そうとするが、お父さん、何逃げるんだよ?令子先生から手紙だよと太郎が呼びかけたので、急に立ち止まると、え?令子先生から手紙!と振り返る。
長吉が太郎の側に駆け寄ると、お返事は僕に渡してくださいってさと言いながら太郎が手紙を渡したので、長吉は躍り上がって喜び、足元もおぼつかない様子で帰ってゆく。
そんな太郎のそばにはヒデオら4人が駆け寄り、よくやった、お駄賃なと言いながら、お菓子を手渡す。
チェッ!意外と安いものあったねと太郎が文句を言うと、うるせえ、働きによってだんだんあげるんだと忠次が叱る。
「こんなもの差し上げてごめんなさい、あなたが『山口楼』で私を呼んでくださるのはとても嬉しいわ、だけど、そのことでお金を使わせるのがとても辛いの、おまけにそのお金があの4人のお金だったら、私もっともっと悲しいわ」と自宅で手紙を読んだ長吉は、どうして令子さん、知ってるんだよと不思議がるが、まあ良いやと納得し、さらに読み進める。
「4人は良い人ばかりです、だからいじめちゃダメよ、私のためにダメよ」と書いてあったので、何だ、これと、長吉はますます戸惑う。
「もしあの人たちに優しくしてあげると、私、あなた好きになりそう、本当に本当よ、じゃあ、お返事は太郎ちゃんに渡してね、あらあらかしこ、私は令子」それを読み終えた長吉は、ますます喜んで有頂天になり、寺の鐘を引く紐を何度も引いたため、近所の主婦たちは、何があったの?と騒ぎ出す。
その後、太郎が、長吉の返事の手紙を持ってヒデオらの元にかけて来ると、お待ち道様!と言って忠次に手渡す。 後でまた呼ぶからなと太郎を労い、保育園に帰すと、早速、その手紙を忠次は読み始める。
「なんで私めが、令子様の期待を裏切りましょうや、あなたが心配なさるまでもなく、私め、常に奴ら4人に対しましては、寛大であり、神仏の如き慈愛を持って訓育しておりますれば、夢夢ご心痛なさらぬように、そんなお粗末な奴らのことより、私目は今後のあなた様とのおつきあいにはてしない希望と慄きを覚えるものであります、ご返事を切に切にお待ちしております、あらあらかしこ、背景、敬具、草草」…と読むと、4人は大笑いし、おい!まいったなと言いながら、早速、工助は次の手紙を書くよう、忠次に画板を手渡す。
よしよし、じゃあ、う~ん…と考え込んだ忠次に、お手紙読みましたはどうだい?とヒデオが提案する。 また、その手紙を太郎が持って長吉に渡しに行く。
「お手紙うれしく拝見しました、あなたの温かいお心遣いが、どうかあの4人に通じますように、拝啓、敬具」と、その内容を読んだ長吉は、さらに喜んですぐに返事を認める。
「あんなちょぼいちのことより、あなたは私めをどう思っているんでしょうか?」
「もちろん、素敵な方だと思っております、特に人間離れのしたそのマスク、魅力いっぱいの下唇、あまり女性の心を迷わせてはいけませんよ」
「あんまり褒めないでください、私目は本気にしますよ、あらあらかしこ」
「でもあの4人は本当に良いかた、忠次さんも風太さんも工助さんも、ヒデオさんも」
「う~ん、奴らをあんまり褒めないでください」
「いいえ、あんな後輩を持って、長さんは幸せ、あら、長さんなんて呼んで失礼だったかしら?」
「いいえ、長さんでも、長兵衛でも、長どんでも結構、あ~、いっそ長吉って呼んでくださると僕は幸せ」
「じゃあ、長吉」
「はい令子さん、令子様」
「また山口楼でお会いしたいわ」
「はい、必ず」「でもあなた、あの4人のお金じゃなく、自分の貯金をはたいて来るのよ」
「はい、奴らには絶対迷惑をかけません、お誓い申し上げます」
「本当に?」「本当です」「本当に本当に?」「本当に本当です」と手紙のラリーは続いた。
それを運び続けた太郎に4人が渡す小遣いも増えに増え、はいよ、お前うち建てろ、偉くなるぞ、金持ちだな~とヒデオたちがお世辞を言うので、太郎はすっかり喜んでしまう。
その後、久々に「山口楼」に出向いた長吉は、座敷でソワソワしていたが、こんばんはと桃太郎が来ると、慌てて自分の席に戻るり、お銚子を倒してしまう始末だった。
それを見た桃太郎は、あら、大変!私がお拭きいたしますわと長吉の羽織にかかった酒を拭ってやって、大丈夫ですか?と聞いてきたので、いや、ほんの普段着ですからと、長吉は焦っているのをごまかそうとし、自分で酒を飲もうとする。
桃太郎は、あら、私がお注ぎしますわ、これでも芸者の端くれですからと桃太郎は言う。
長吉は緊張し、もったいないと思っていますと言いながら、お猪口を飲み干す。
それを見た桃太郎は笑いだし、長吉さんって、いつまで経ってもお堅いんですねという。
あの~、ですから本日はですね、お言葉通り、私の貯金の中からこの費用を場捻出して参りましたと長吉は明かす。
それを聞いた桃太郎は、貯金?と驚くが、はい、ええ、ですから、つまり、私がここに来るにつきましては、決して奴らの銭なんか使っちゃいないという事実を報告しようと思いまして…と長吉は説明する。
桃太郎は、はあ?と言うので、いや、ですからご報告…と長吉は言うが話が噛み合わない。
それでも桃太郎は機転をきかせ、ああ、ご立派ですわ、でもこの際そんなことどうでも良いんじゃありません?こうやってお会いできたんですものとそつなく答える。
それを聞いた長吉は、ああ、もうそのお言葉だけええも私は十分でございますと感激する。
おい、どうする?と風太が戸惑いながら聞くと、俺知らないぞ、だから適当な時にやめとけ釣ったじゃねえか!と工助は言い返す。
冗談から駒が出ちまったよな~と忠次も戸惑うので、だけど俺だってよ、あのゴリラが本気になって恋する気になるとは思わなかったもんなと忠次は言う。
当たり前だよ、あたし、長さんのそばに行きたいわ…とか書くんだもんと、風太は指摘する。
馬鹿野郎、書け!書け!って消しかけたのはヒデじゃないか!と忠次はヒデオに責任転嫁する。
忠次や工助から頭を突かれたヒデオは、そんなにあたいばっかり言わなくても良いと思うの!とヒデオは泣きそうになったので、ヒデ!ビスビス泣くな!と忠次は叱る。
どうでも良いけどよ、バレてみろ、ただごっちゃ済まねえぞと工助が言い、早いとこ、この街から逃げようよと風太も言い出す。
工助、例の逃走用の自動車はまだなのかよとヒデオが聞気、颯太と忠次も、どうなってんだよと急かすと、ラブレター騒ぎでそんな暇あるかよと工助は言い返し、見ろ、部品一つ盗むったって容易じゃねえんだぞというと、布で隠していた車輪を一つ見せる。
そういやあ、そうか、タイヤか…と他の3人は納得する。
よし、今夜から早速全員でいただき回りましょう、ねえ薮忠親分とヒデオが提案すると、そうだな、ゴリラが有頂天になっている隙にこの街からおさらばするかと、忠次も返事し、工助もそうしましょう、そうしましょうと賛成する。
おさらば、ゴリラか…とヒデオは自分で言って笑い出す。
だけど、ちゃんかーどうするのかな~と風太は呟くので、そんなもん、越原かしておくんだよと中字は言い放血、スクリーンに向かって、何台、人のかかあのことなんか、ほっといてもらいてえなと不貞腐れる。
その後、街中では立ち往生したトラックの運転手が、どうしたの?と野次馬から聞かれ、困っちゃうよ、ハンドルがねえんだよ、惚れ!と、やってきた警官に答えていた。
誰がいたずらしたんかの~と警官も戸惑うだけだった。
その後も、ボンネットがなくなったり、タイヤがなくなっている車があちこちで見つかる。
大八車の車輪までも盗んだ工助たちは、修理工場でそれら盗品を組み立てて車を作っていく。
水洗トイレや、臭気抜き煙突までつけた工助は、あとはドアだけだなと呟くが、府警察署の前で騒動が起きる。
ドア盗まれたら警察が狙われるなんてなと野次馬たちが見ていたのは、ドアが盗まれたパトカーの前だった。
ひでえな~、被害はドア一枚!サイレン1個!赤ランプ1個!と現場を見た警官が嘆く。
長吉は1月21日(木)の日記に「神よ、本日は歴史的な日なり、ついに彼女より結婚承諾の返事くる。
かくなる事は予感セシも、いざとなると体の震え止まらず、ナムアミダブツ、清しこの夜」と書いて、ざまあ見ろ!と自分で読んで得意がっていた。 礼服を作ることにした長吉は終始ニヤニヤしていたので、自宅に来た洋服屋(左とん平)から、おめでたですか?ああ、初詣だ…と話しかけられる。
違うよと長吉が訂正すると、七五三?と洋服屋は言い返す。
違うよ、勘が悪いなと長吉が不機嫌になると、ところで、これ、現金でしょうね?と洋服屋は念を押してくる。
長吉が、月賦、月賦!と答えると、さあ、脱ごうと洋服屋は言って、仮縫いの服を脱がそうとするので、あ、現金、現金と長吉が訂正すると、それを早く言わなきゃと言いながら洋服屋はまた着せ始める。
その直後、また脱がせようとするので、何だ?現金だよと長吉が繰り返すと、仮縫いが終わったんですよと洋服屋は説明したので、ああそうかと納得するが、ワイシャツも脱いで…、言い出したので俺んじゃないかと長吉が起こると、どうも失礼しました、しかし、何にお召しになるか気になる…と洋服屋は言いながら、それじゃあ明後日までと約束する。
長吉も、頼むよと上機嫌で言う。 帰りかけた洋服屋が、あ、お召しになる時が分かりましたよと言いながら戻ってくると、お葬式でしょうと言うので、長吉は笑顔から一転その場にずっこける。
え?と驚いた洋服屋だったが、ばか!このやろう、帰れ、貴様!と長吉は洋服屋を追い返す。
毎度ありがとうございましたと言いながら洋服屋は逃げ帰るが、1人になった長吉は、結婚式だ!結婚式だもんね、長さんとね、結婚式だ、ずんずくずんずんなどと、はしゃいでいたが、そこにやってきたヒデオたち4人を見つけて悲鳴をあげ、何だ、この野郎!としゃがみ込む。
ヒデオが、お呼びになりました?と聞くと、用があるから呼んだんですよ、入れ!早く!と長吉は、4人を塾の道場である本堂の方に行くように命令する。
4人が整列すると、気をつけ!新田重三先生のお写真に対し礼!さて、改めてお前たちに報告することがある、実はこの度、私と令子先生との間に婚約が成立したと長吉が言うので、4人はええ!と驚く。
まあ、しかしね、この話はどっちかというとね、令子の方から出たわけよと長吉は自慢げに言うではないか。
令子?と4人が聞き返すと、今、この場合、どっちでも良いよ、そんな事は…、要するに、私と令子とは数日後に夫婦になるわけだな、従って文句のある奴は今のうちに言っとけ、ない?そうだろ?あるわけないものな、そこでだ、明後日昼、「山口楼」において大々的に婚約発表披露宴を行うことにしたと長吉は言う。
4人が文句を言おうとすると、それを制し、しかしそこはな、口さがない街のことだ、良いか?花嫁の名前だけはな、当日まで絶対明かすなよ、良いな?と長吉は念を押す。
一挙に町中の鼻を明かしてやる!なお、新田先生には婚約発表後にご報告に参上する、以上終わり!なんか質問ある?と長吉は聞く。
仕方なく、4人が、おめでとうございますと頭を下げたので、長吉はありがとうと満足げに対応する。
では次に、仕事の分担を言う、おい、風太!お前は引き出物の用意だ、起きてろよ、薮忠!お前は会場、並びに芸者への手配だ、わかってんのかよと長吉は言い、ふっと忠次の髪の毛を拭いて、だいぶ薄いなと揶揄う。
おい、ヒデ!お前はな、俺の身の回り並びに令子さんへの連絡だ、工助はな、町中のお偉方への連絡だ、連絡だよ、れんら~く!と大声を出したので、ヒデオと工助ははい!と、ようやく返事する。 よ~し、全体回れ!えい!、では晴れの席で粗相がないように只今から婚約準備体操を行う、構えて!せ~の!と長吉の号令とホイッスルに合わせ、奇妙な体操を始める。
「山口楼」では「碇田長吉氏 婚約発表披露会場」の立て看板が掲げられていた。
座敷では、紋付袴姿になったヒデオが、他の3人のメンバーたちと誰かさんと誰かさんが麦畑~♩」と歌い始める。
途中からタキシード姿の長吉が参加し、リードボーカル部分を歌う。
列席者の中には警察署長(中村是好)や校長も参加しており、誰が相手か知らんが、不幸せな女もいるもんじゃの~と校長が悪口を言っていた。
しかしこれで、奴の欲求不満も治るじゃろうて…と答える。
長吉の妹の丸子とテツ子も参加していたが、ちょっと、あんた、知ってた?と肘を突いてきたテツ子に、ううん、全然!と丸子は答える。
前のおかみさんの籍抜かなくて良いのかしら?とテツ子は心配するが、上座に陣取った長吉は、脇で相談し合っていた忠次に、お始めなさいと命じる。
ヒデオたちから押されて倒れながら登場した忠次は、中央に立ち、え~、本日は、このつまらない会に…と言いかけたので、後ろに座っていた長吉が、何!といきり立つと、いえ、あの~、このハゲた日に、ええ、晴れがましい日に、え~、多数お集まりいただきまして…、本当に本当にご苦労さん…と話していたので、ばか!早く本題に入りなさい!と背後から長吉がせっつく。
え~、結論から先に申し上げます、親方のこんにゃく者は…じゃない、婚約者は、あっと驚く…なかれ、結城令子さんであります!と忠次が発表したので、出席者たちは、本当か?と全員騒然となる。
すぐに、先生はどうしたんだ?先生を見せてくれよ、先生の顔!そうだよ!とヤジが起き始める。
ヒデ、どうした?と長吉がせっつくと、ヒデオは、はいはいはいはいはいと返事をし、中央に出ると、あの~、お令子様におかせられましてはですね、ええ、只今別室の方で、あの~、お化粧中でございますので、え~、もう間もなくこのお席にお見えになります、え~お見えになる!間違いございませんと言う。
その頃、当の令子は、偕楽園で弁当を食べていた園児たちにおやつを配っていた。
太郎の横に座った令子は、美味しい?と太郎に聞くと、自分も弁当を広げる。
長吉の前に丸子と共にやってきたテツ子は、おかしいわね~、令子さん、全然そんなこと言ってなかったわよと怪しむ。
ばか!そこがおめえらみたいな雑魚とわけが違うとこなんだよ、言わねえのが奥ゆかしいんじゃないかと長吉は言い返す。
丸子も、だってあの人、朝弁当持って…と話しかけたので、うるせえ!お前、兄貴のおめでたに水を差そうと言うのか?と叱りつけ、おい、ヒデ、奥で化粧してるんだろう?俺の令子は?と確認する。
あ、そう、あのそうなんです、今頃ですね、つけまつ毛つけていると思うんですよ、ああ、そうなんです、疑わないでくださいよ、そんな…と、ヒデオは、疑惑の眼差しで見ていた丸子とテツ子に愛想笑いで返す。
ぶつぶつ言いながらも、テツ子は、退けよ!とヒデオの頭を叩いて席に戻るが、兄妹揃って…とヒデオはぼやく。 長吉も痺れを切らせてきて、それにしても遅いな、おい風船!見てこいと命じる。
すると、 忠次や工助らも全員、俺が俺がと立ち上がる。
先に部屋を出た忠次が、一緒に出ようとするヒデオたちに、てめえたちは後だよとしかり、工助も俺は車見てこなくちゃなんねえだろうと言うので、長吉が、車?何だよ車って?と聞いてくる。
工助は言葉に詰まり愛想笑いでごまかすと,忠次が、風船、ヒデ、お客様たちに酌をして回れと命じると、襖を閉めてしまう。
座敷に残されたヒデオと風太は、その場でじゃんけんを始めるが、何してるんだ、お前ら?と長吉に聞かれたので、ヒデオは鼻をほじり、それを口にして、まあ、美味しいこと!などとボケてごまかす。 披露宴は、令子がいないまま客たちは酔っ払いだし、ヒデオが長吉に飲みましょうと言いながらお調子を勧めに来たので、どうなってるんだよ?と長吉は聞く。
我慢できず立ち上がった長吉は、え~、感じのタイマンによりお待たせして申し訳ございません、私めが本人を連れて参りますと宣言したので、それを聞いたヒデオや風太は、ええっ!と驚く。
颯太はすぐに部屋から飛び出していくが、俺もいくよと後を追うとしたヒデオは襖を閉められ取り残されてしまう。
それでも、僕もお酒持ってこなくちゃなどと笑顔を作り、部屋から出ようとするが、ヒデ~!と長吉から呼ばれたので、ずっこけて転んでしまう。
客たちはそれを見て笑い出す中、奥の部屋ってどこだい?と長吉が聞くので、はい、あの~、突き当たりの階段をね、トントンと2階へ上がりましてですねとヒデオが答えると、ここが2階じゃねえかと長吉は指摘する。
客たちは笑う中、ですからね、その~、2階から降りていただきまして…、降りるとすぐお便所がありますからね、お便所でうんこチンチンなんてやっていただきます!とヒデオは必死にごまかす。
そしたら、あの~、すぐ出ていただきます、そしたらお風呂がありますからね、お風呂で綺麗にしてください、綺麗にして、良い湯だな~♩何つってね…、何言ってるんだ、俺?とパニクリだしたので、バカ!俺が下行って、気をつけるからと長吉が言い出したので、ヒデオは愕然とする。
長吉は来客たちに、暫時お待ちくださいませ、え~、5分間、ファイブミニッツでございますからと言って襖を開けると、そこにいたのはぽん太とミヨだった。
ちょっと、ちょっと!今、下で聞いたんだけど、長さん、気が違ったんじゃないの?とポン太が長吉を引き止めて聞く。
何だい?と長吉が聞くと、だって令子さんと婚約発表…、令子さんどうしたのよ?とぽん太は客たちを意識して声を潜め、ミヨもどうしたのよ?と聞く。
だから、今、化粧している部屋に私が迎えに…と長吉が答えると、何言ってるのよ、令子さんは今、子供たちと偕楽園でお弁当食べてたわよとミヨは教える。
それを聞いた来客たちは大笑いを始める中、長吉はしどろもどろになる。 一方、ヒデオはその騒ぎの間に屏風の背後に身を隠す。
長吉は、おい、ヒデ!ヒデジ!どうなってるんだ?とヒデオの姿を探すと、しっかりしてちょうだいよとぽん太は注意する。
署長と共に立ち上がった川上は、おい長吉!失礼だけではすまんぞ!お前もこれだけ赤っ恥をかけば、いたくてもこの街にはおられまい?どうだ、何とか言ってみろ!潔く尻尾を巻いて退散するか?と長吉に迫る。
それを聞いていたテツこと丸子は、四つん這いの格好でそっと座敷を後にする。
それとも豚箱に入って、しばらく頭を冷やすか?と署長も詰め寄り、全員大爆笑になったので、長吉は愕然として、その場に崩れ落ちる。
ピクニックを終え、太郎と保育園に帰ってきた令子は、バイバイと太郎と別れる。
玄関戸を開けた令子は、そこに長吉が星座して待っていたので、ああ、びっくりしたと叫ぶ。
長吉は暗い表情で、お帰りなさいという。
どうなさったの、そんな格好して、何かあったの?と令子が聞くと、私はね、令子さんの心変わりが説ないんですよと長吉は訴える。
心変わり?と令子が笑いながら聞くと、そうですよ、私はこの街にいられなくなるような恥をかきましたよと長吉は言う。
それでも令子は、何の話だかさっぱりわかんないと笑うが、令子さんの手紙を真に受けた私がバカだったんですねと言う長吉の言葉を聞き、ちょっとちょっと、私の手紙ってどう言うこと?と急に真面目に聞いてくる。
長吉もキョトンとし、は?書かなかったんですか?と逆に聞く。
すると令子は笑いだし、嫌だわ、こんなに目と鼻の先にいて、手紙なんか書くわけないでしょうと指摘したので、長吉は何も言えなくなってしまう。
またあの4人に担がれたんじゃないですか?あ、そうそう、井熊の梅羊羹買ってきたのよ、召し上がる?お茶でも淹れるわ、ここの名物ですってよ…と令子は聞く。
事情を知った長吉は、胸に刺していた赤い花ヲンリリ潰しながら、ちくしょう!ぶっ殺してやる!と息巻く。
その頃、工助が組み立てた車に乗り込もうとしていたヒデオらは、おい、まだダメかよ?おいおい、どうしたんだよ、早くしろよと焦りまくっていた。
しようがねえなあ、なんで整備しとかなかったんだよと忠次も文句を言うと、今朝まで動いてたんだよと、ハンドルを握った工助は言い返す。
ミヨちゃん、達者で暮らせよ~!と言い、風太は、あの~、おかみさんにお別れする暇あるかな?などと聞いてきたので、馬鹿野郎、暇なんてあるわけねえだろとしかった忠次は、後ろ押してみろとヒデオと颯太に命じる。
2人が車の背後から押すと、エンジンがかかったようだったので、やった~!と2人は喜ぶが、忠次は、ヒデ!は戸を開けろと命じる。
喜んで修理場の入り口を開けたヒデオは、そこに竹刀を持って殺気だった長吉がいることに気づき愕然とする。
ボコボコにされた4人は警察の牢にぶち込まれる。 ちくしょう、クセになるからな、三日三晩、絶対餌をやらないでくれよな、ああ、さっぱりした!と、連れてきた長吉は署長に頼む。
長吉が帰ると、本来は暴力を振るった方が入るんだが…、なあ?と牢の中の4人に署長が問いかける。
4人は自分たちの被害を訴えようとするが、満足に口を聞けない状態だった。
飲み屋に来た長吉は、お銚子を並べるほど泥酔しており、馬鹿野郎、奴らもこれで懲りただろう、やめろって言うんだ…と、従業員相手にぼやいていた。
ただね、令子さんだってそうだよ、長吉さん、素敵、気持ちわかるわって言ってくれたんだから、俺の方が巻き返しに出ていくわ…などと長吉は続けていたが、そこにやってきた川上が長吉の肩を叩く。
何だい?まだなんか俺に用かい?と長吉が振り向いて聞くと、いやねえ、いつ荷物纏めるのか聞こうと思って来たんだ、何なら運送屋を紹介してやろうか?と川上は嫌味を言う。
長吉は、何でえ、馬鹿野郎め、俺があんなことで尻尾巻くと思ってるのかい?と言い返す。
おう、俺にはな、新田先生がついていらっしゃるんだ、矢でも鉄砲でも持って来い!と長吉は虚勢を張り出す。 すると川上は、そううまいこと話が運ぶかな?と聞いてきたので、長吉も、何!と不思議がる。
深夜、牢の中で痛みに耐えながら寝ていた4人だったが、甥と声をかけた忠次が、ゴリラのやろう、さっきこれで序の口だって抜かしやがったな?してみるとあとは半殺しだ、俺たちの命もそう長くねえかもしれねえぞと伝える。
ヒデオたちは焦って、どうしよう…と呟くが、だからよ、俺はふと考えたんだよと中字が言うので、何を?と3人が聞くと、ここを出たらよ、ゴリラの顔を整形してやるって騙してな、臓器移植をやるのよと忠次は提案する。 臓器移植!と3人は驚く。
そうよ、何たって、奴が一番コンプレスープを…と忠次が言うので、コンプレックスでしょう?と工助が訂正する。
そうよ、それを感じているのはあの面だ、これをチャールズ・ブロンソンのようにしてあげますと言やあ、バカはすぐ乗らあなと忠次は言う。
それを聞いたヒデオも、顎に右手を添え、「う~ん、マンダム!」とブロンソンのCMをまねる。
ヒデ!と叱った忠次は、良いか?それでやつの面はおろか、目玉、心臓、手足、キンタマな…と続けたので、きんたま!とヒデオは驚く。
そうよ、全部畜生のと取り替えるんだいと忠次は計画を明かす。
まず、腐った麻酔薬を奴のケツっぺたへブスッと刺す!と忠次は続けると、他の三人は妄想を始める。
カラフルで不気味なマーブリング映像から、架空の病院に看護婦らによってストレッチャーに乗った長吉が運び込まれる。
「手術中」のランプが点灯する。 手術着姿の忠次が、金槌とやっとこと命じると、看護婦姿の令子が、はいと言って手渡す。
呼吸は?と忠次が聞くと、あるでしょうと風太が答えたので、良しと言って忠次は手術を始める。
それを横に立った令子が見守る。
ノコギリ!と忠次が言うと、はいと令子が手渡す。
手術室には、移植用のカラスやウサギや山羊、豚、犬、猿、馬といった動物が檻に入れられて置いてあった。
骨の一部を取り出した忠次は、捨てろと命じ、助手役のヒデオも、そろそろやるかというと、長吉の瞼を広げると、眼球を取り出す。
それを見守る、ヒデオ、忠次、風太、工助の医者たちと、令子、ミヨ、豆子、ぽん太扮する看護婦たち。
移植用の部位を見たヒデオが、それは何ですか?と聞くと、たぬきのおちんちんですと令子看護婦は答える。
はあ…とヒデオは納得するが、移植した部位を見た工助が、先生、逆さまですと指摘すると、あ、そうかといって、忠次はすぐにひっくり返す。
脳みそや肝臓、鼻や耳を取り除いた忠次は、スプーン、泡立て器、フォーク!と要求し、令子が次々に渡していく。
風太が、長吉の体から腸詰を引っ張り上げ、それをテツ子と丸子が引き摺り出す。
トンカチを患者長吉の体に打ちつけたあと、さて、どうしようかな?と忠次は迷いだす。
ヤットコ!と忠次は要求する。
マーブリング映像 牢に入った患者長吉の様子を恐々見にくる忠次、風太、ヒデオ、工助たち。
患者の体全体にはシーツがかかっていたが、それが動いているのを確認したヒデオは、生きてますね大成功!と喜ぶ。
その時、起き上がった長吉の顔からシーツが取れると、長吉が、右の乳房だけが飛び出した毛むくじゃらの猿人のような姿になっていた。
ストレッチャーから起き上がった長吉はふらつきながらも何とか立ち上がると、股間が巨大な睾丸と水道の蛇口になっていることに気づく。
その姿を見たヒデオたち固唾を飲むが、牢の中で近づいてきた長吉は、やあ、君たち元気?ねえ、何かお食事くれない?と言うので、ヒデオが怖がりながら差し出すと、ありがとうと長吉は礼をいう。
牢の奥へ向かった長吉は、ちょっと失礼しますと言うと、蛇口を捻るが何も出ないので、あら?断水だわ、姿勢が悪いのかしら?と不思議が犬のように四つん這いになってみたりするが、見ちゃイヤ!と振り向いていったので、見ていた4人は大笑いし、ザマアミロと罵倒する。
マーブリング画像 現実の牢の中では、愉快な夢で笑いながら4人が寝ていたが、おい、起きろよと長吉が外から声をかけてくる。
寝ぼけ眼で牢の外を見た四人は、毛むくじゃらの猿人が立っていると思ってパニックになるが、勘違いするなよ、実はよ、俺死にたい心境なんだよと情けない表情で告白する長吉の姿を見る。
どうったの?とヒデオが聞くと、俺はいよいよ腹掻っ切って死のうかなと長吉はいう。
何?死んじゃうのとヒデオが喜びながら長吉に近づき、どうした?と聞くと、聞いてくれるか?いや、聞きたくなくても死んでくれ、俺、実はよ、川上団兵衛の話聞いて、何か不吉な予感がしたんだと長吉は打ち明け、泣き出す。
泣かないで喋れよ、馬鹿野郎とヒデオが励ますと、そんでね、新田先生のとこ行ったんだよ、そしたらよう…と長吉は泣き崩れる。
(回想)書斎で猟銃の手入れをしていた新田の前に土下座した長吉は、先生、立ち退きとはあんまりです、いざという時は俺が面倒見てやるといってくださったのは先生じゃございませんか、先生!大日本無念塾は今や絶壁に立っておりますと訴える。
同じ書斎で子犬にミルクを与えていた牧野が、おしっこですか~と呼びかけたので、おしっこですか?と長吉が聞き返すと、ばか、犬の話だと牧野は言い返す。
その牧野の隣では、佐川がブランデーを飲んでいた。 先生、今土地を取り上げられると言うことは、この長吉に死ねと言うのと同じでございます、どうか、先生のお力を持って土地だけは一つ…と長吉は続けるが、新田は突然、牧野!と呼びかけ、あそこは全部で何坪あったかいな?と聞く。 牧野は、は、約1000坪ほどでございますと即答する。
おお、そんなにあったかと新田が言うので、長吉は思わず笑顔になるが、じゃあ、ドライブインができるなと猟銃の手入れの手を休めることもなく、新田は言い放つ。
それを聞いた佐川は、あ、それは意外と受けますでございますねと返事し、牧野もそれ受けますで砂と同意して、3人が一斉に笑い出したので、長吉は絶望的になる。
(回想明け)牢から出た4人と共に道場に戻ってきた長吉は、飾ってあった新田の写真の額を床に叩きつけたので、4人は愉快そうに笑う。
長吉は、ああ、もうこれまで…、今の俺の気持ちはてめえたちにはわかるめえな、もっとも、それがわかるような上等の頭の持ち主はいねえもんよと泣きながら訴える。
畜生と言いながら座り込んだ長吉に、けどよ、親方、この土地は俺の物だっつって威張ってたじゃないの?と工助が聞くと、3時間前まではな、たった今、新田重三のペテンにひっかかっちまったんだよと長吉は答える。
すると忠次が、俺は初めからわかってたんだよ、この狸ジジイだってのはよ、親方、それが見抜けないなんていうのはダメだねと皮肉る。
おめえら、寄ってたかって弱いもん虐めするもんじゃねえと長吉は言い返すが、そんじゃあ親方、先生、先公!ゴリラ!とヒデオがいうので、きっとなった長吉が降り向くと、ちょっとびびったヒデオだったが、ぼちぼち荷造り始めましょうかの~と助言する。
あ~あ、この住み慣れた塾ともお別れか…と長吉はため息をつく。
じゃあ、しょうがねえ、諦めてそうするか…と長吉が観念したようなので、他の四人はニコニコ顔で、そうしましょう、そうしましょう、さて、何から始めましょうかね?あ、そうだ、まずあのガラクタから始めましょうとヒデオは言いながら神棚に近づいたので、おめえ、やけに楽しそうだな?俺の不幸せがそんなに嬉しいか?と長吉は聞く。
するとヒデオは、いや、そんなバカな!私はもう悲しくて悲しくてですよ、この胸がボカーンと張り裂けそうでございますよと泣き真似をし、なんだってまあ、こんな安いもんばっかり集めたねと言いながら、神棚に置いてあったものを自分の懐に入れ始める。
本当に金目のものなんか何にもありゃしねえんだから…、なに?忍耐、服従、献身?馬鹿馬鹿しいったらありゃしないわ、全く…などとぼやきながら、ヒデオはその場にあった品物をかき集めていく。
それを見ていた長期は、背後で立ち尽くしてい他の3人を睨みつけたので、3人も渋々片付けを手伝い始める。 3人も泣き真似をしながら、あり物をどんどん身につけ始めるが、その時、待ってちょうだい!と呼びかける声が聞こえる。
待って!と言いながら道場に駆け込んできたのは令子だった。
今、妹さんから全部聞いたわ、とにかく荷造りだけはやめてちょうだいと令子は訴える。 長吉は、いや、止めないでください、もうサイコロは振られちまったんですと答えると、そう、止めないでくださいよ、このゴリラ、気が変わりやすいんですからとヒデオも言い返す。
しかし令子は、良いからこの場は私に任せてと言い張る。
は?と長吉が不思議そうに立ち上がると、短い間だったけど、私一緒に暮らしてるうちに、あなたたちんことを人ごとだと思えなくなってきたのよ、生意気言うようだけど、悪いようにはしないつもりよと令子は言う。
今夜はちょうど新田のお座敷があるし、私にもちょっと考えがあるからね、ね!と令子が言うので、長吉やヒデオたちはその周りに集まって、いつしか笑顔になっていた。
「山口楼」で芸者姿になった桃太郎は、もしもし?そうなのよ、絶対間違いないわよ、私の勘を信じてよ、新田重三と交通公団の佐川…、今夜は彼らの座敷だからワンチャンスよと誰かに電話していた。 そうか、良し!いよいよ大詰めに来たなと電話相手は新聞社の中にいた。
うん、横領登記書偽造か…と言いながら振り返ったのは村山(森次浩司)だった。
うん、いやどうもありがとう!うん、君の報告でね、だいぶん固まってきたよ、うん、それに東京っちゃいけませんわとも交通公団の黒いネタをだいぶん掴んだからねと村山は言う。
「山口楼」の「梅の間」では、子犬を抱えた新田とか若いと佐川が集まって飲んでおり、その場に桃太郎とぽん太が同席していた。
なんだか今夜は偉い静かな座敷だな~と川上が不思議がる。
え?二人して尻でもまくって踊って見せろやと川上はぽん太と桃太郎に命じると、そういえば、桃太郎の踊りはまだ見とらんな、ちょっとやってみと新田も同意する。
すると桃太郎は居住まいを正し、新田先生、変なことを伺いますけど、無念塾や保育園のある土地は先生のものなんですってと聞く。
新田は狼狽したのか返事をしなかったが、何を言うんだ、出しぬけに、こいつは…と川上が文句をいうが、その横に座っていたぽん太は笑顔だった。 すると新田が笑い出し、もちろん正真正銘、わしの土地じゃが?それが何か?と桃太郎に聞いてくる。
何か証拠を見せていただけません?と桃太郎が迫ると、おいおい、いつから桃太郎は市役所の役人になったのかな?ベアちゃん…と犬に話しかける新田だったが、とぼけないでください!と桃太郎の口調が強くなる。
あそこは私の土地ですわ、はっきり申し上げます、私、あそこの檀家総代だった結城文左衛門の孫娘ですのよ!と桃太郎が告白したので、何!お前が結城の孫!と新田は驚く。
保育園で店屋物の夕食を食べながら令子の帰りを待っていた長吉やヒデオたちは、夜の8時になったので、おいそれにしても遅すぎると思わないかと心配していた。 電話で中間報告するって言ってたけどな、令子さん…と工助は言うので、こっちからかけてみようか?と忠次が提案すると、ヒデオも、そうしましょう、そうしましょうと賛成し、ダメならね、荷造りしなくちゃ…とぼやくので、そう言うことと他のメンバーもいう。
その時、大変、大変と言いながら飛び込んできたのはミヨとぽん太で、どうした?と聞くと、令子さんが新田たちに連れていかれちゃったのよと報告する。
長吉たちは全員、ええ!どこへ?と驚いて立ち上がり、持っていた丼の麺をこぼしてしまうが、決まってるじゃない、新田のうちよとぽん太が教え、ぽん太姉さんがお銚子を取りにきた隙にね、ギャングみたいなのが2~3人来て、あっという間に攫って行ったのとミヨが言う。
ギャング!と5人が驚くと、あの人、あんたたちのために負う喧嘩したのよ、あ、そうだ、実はね、この辺一帯の土地ね、令子さんのものだったんだってとぽん太が説明すると、何だって!と長吉は驚く。 新田のものでも何でもなかったの、それがバレちゃったのよとぽん太は言う。
それを聞いたヒデオたちは、親方!また嘘ついた!と長吉を睨みつけ、権利書5~60枚というのは?と工助が迫ると、おい、針千本飲むか?この野郎と、ヒデオも割り箸で長吉の下唇を掴もうとしたので、うるせえ、今それどころじゃねえじゃないかよ、え、どうする?どうする?と長吉はメンバーたちに相談する。
あいつら令子さんを脅迫して登記書取り上げるか、それとも安く売らせるかのどっちかよとぽん太が指摘すると、あんたたち、大の男が5人も揃っていて、黙って引き下がる気!とミヨも攻めてくる。
男たちはその言葉に下を向くばかりだったが、工助は、いや…、しかし、これはどう考えたって親方の責任だよなと言い訳する。
第一ね、女一人に物を頼むってのはそもそもの間違いだよと忠次も長吉を責める。
ヒデオも、はい、結論が出ました、この始末は親方1人に取ってもらいましょうと提案する。
長吉は困惑し、どうしろってんだよと口を尖らせるが、おい、こういうのはどうだい?誘拐には誘拐を持って応ずるとが言い出すと、なるほど、あの親父を誘拐すんのか!と風太も気づくが、誰がやんのよ?と長吉は戸惑う。
すると工助が、あたりめえだよ、親方だよと答える。
やばいよ俺一人で…と長吉が抵抗すると、おい、長の字、てめえ、こないだ豚箱の前で涙流して何つった?その鼻くそみてえに真っ黒い目玉の中から、真っ黒い涙ざざー流して、何つった?私が悪かった、皆さんのいうことは何でも聞きます、どうぞ力になってください…、思い出したか、この野郎!とヒデが睨みつけてくる。
ぐずぐずしてられないわ、長さん、とりあえず掛け合いに行ってらっしゃいよとぽん太が提案する。
それでも躊躇する長吉を、ヒデオたちが押し出す形で入り口に来させると、回れ右!腰に手を当てて!駆け足進め!はい!とヒデオが号令をかける。
長吉はそれでも立ち止まって戻ろうとするので、令子さんが待ってるからさとヒデオが言うと、良し、行くぞ!と長吉は表情を変えて前進し始める。
それを見送るヒデオは、男らしい!格好いい!令子さん、ウハウハウハウハ喜ぶでよと、南利明のカレーのCMの名古屋弁の真似をして笑う。
柱時計が夜の10時を指す。 保育園で待っていた忠次たちは、遅いなあ…、とんずらこいたんじゃねえかと案じていた。 工助が帰ってきたぞと玄関を見ると、長吉が連れてきたのは新田のペット犬ベアトリーチちゃんだった。
犬を抱きしめた長吉は、背後からヒデオたちが覗いていたことに気づくと、気弱そうに、ただいまと答える。 ヒデオたちは、何なんだと口々に言いながら長吉のそばに近づくと、ただいまって、一体どうなってんだよとヒデオが代表して長吉に聞く。
すると長吉は、いや、行ったんですよ、行ったんですよ、それでね、ものすごく厳重でしてね、で、あの…、蟻の這い出る隙間もないからね、困ったな、どうしようかなって帰ろうとしたら、こいつがね、ちょこちょこっと出てきたからね、抱いたんですよ、途端に見つかっちゃいましてね、で、まあ、しょうがないから帰ってきちゃったんですけどね、太郎ちゃん、寝た?と長吉は聞くので、寝たとヒデオは答えながらも、ダメだね、全く…と呆れる。
忠次も、ガキの使いじゃあるまいし…と責めてくる。 その時電話が鳴り出したんで、誰か出なくちゃ…、と長吉が言うと、出ろよと工助が長吉をつつき、ほらほらガキが目覚ますじゃないかと言いながら、ヒデオがベアトリーチちゃんを抱くと、長吉に電話に出させる。
頭を柱にぶつけて痛がる長吉に、早くとヒデオが急かすので、やむなく受話器を取った長吉は、もしもし?あ、新田先生ですか?と笑顔で答えたので、でしょうし、そういうで尾がつっつくと、やい、新田か!と強面口調になる。
長吉か!この恩知らずめが、わしのベアトリーチチをどうするつもりじゃと新田は聞いてくる。
それを聞いたヒデオは長吉から受話器を奪い取ると、やいジジイ!これからこっちはな、犬を叩き殺してな、すき焼きにすっところだ!と脅す。
それを聞いた新田は驚き、げっ!すき焼きちょっと待ってくれ!お前はわしを殺す気か!頼む長吉!すき焼きだけはやめてくれ、な、何でも言うことを聞く、全部聞くと懇願してくる。
それに対しヒデオは調子に乗り、う~ん、お湯もだいぶんに立ってきたし、出しも聞いてきたどくろとう、さて、どこの肉から頂こうかな?たい、ちんころ!行くぞ~と脅すと、ああ、何でも言うことは聞くよと新田が頼み込んできたので、さて、俺料理すっからよ、親方変わんなと言って長吉に受話器を渡すと、さて、ちんころ、頭から行くか、おちんちんから行くか?とわざとらしく言う。
電話を変わった長吉が、てなわけだがね、うん、うん、で、条件はただ一つ、令子さんをすんなり返してもらいたい、うん、呑むの?と確認すると、新田は、呑む呑む、何でも呑む!と回答する。
嘘は言わないだろうな、おい、野郎共、ちょっと犬の毛むしるの止めなと声をかけたふりをする。
すると新田の、殺さんでくれ~!と叫び声がしたので、大丈夫だよ、え?明日正午、お宅で、犬と令子さんを交換?と長吉は相手の返事を聞く。 間違いない、間違いない、くれぐれもベアトリーチチを頼むよと新田は頼むと、すっかり気力を使い果たした様子で受話器をきる。 長吉とヒデオたちは思わぬ成果に大喜びをする。
ざまあみろ、馬鹿野郎、なあ!と調子に乗るヒデオに、ヤイヤイヤイ、てめえら待て!これでお前、俺の計画がわかったろ?俺はちゃんと最初からこう言うことは計算していたんだよと長吉は自慢するので、チッ、ぐうざんじゃないかよと工助は露骨にバカにする。
自分の前たれて威張ることじゃねえよねと英夫も言うので、何言ってるんだ、馬鹿野郎、じゃあ聞くけどよ、え、これでもって問題は解決したと思うか?どうだ、薮忠、風太!と長吉が問いかけると、立って祖父がOKしたんだろう?と中字が言うので、ああ、だからてめえらバカだってんだよな、何しろ、あいつは札付きのたぬきジジイだ、今晩のまま済むと思うか?と長吉が言うので、どういうこと、それ?と風太が聞くと、まあ、最初に考えられることは、ギャングを差し向けて寄越すなと長吉は自分の頬に切り傷のジェスチャーをしながら指摘する。
ギャング?おい、ここへかい?と工助が怯えると、おおよと答えた長吉は、明庵を近寄らせると、良いかい、いっちょ俺たち脅かして来いってんだよ、さっきの新田の電話の後出たとしたら、橋を渡ったとして、今頃保育園の前に差し掛かったかな?と長吉は相手の動きを推測する。
あと、塾の方へ向かってずっと歩いてくる…、そこの玄関の前に立ってた、こんばんはと…と長吉が説明していたその時、こんばんは!と言う声が聞こえたので、長吉たちは、ああ、出た~!とパニック状態になる。
玄関に立っていたのは新聞記者の村山だったが、こんばんは!と怪訝そうに声をかけた村山は、奥の座敷でヒデオらが騒ぎててていたので、困惑しながら、あの~、結城令子君がご厄介になっているのはこちらでしょうかと声をかける。
それを聞いた長吉は、このやろう…、おい良いか?これが手だからな、ちくしょう、騙されるなよ…とヒデオたちに説明する。
えっ?と困惑する村山に、ヒデオや忠次たちが掴みかかり、座敷に引っ張り込むと、無理やり猿沓を噛ませ、後ろ手に縛り上げてしまう。
必要条の様子を見た長吉は、しかしまあ、俺の間は当たるもんだね、おい、野郎ども、ギャングふんじばって物置におっぽり込んでおけと命じる。
すると急に真顔に戻ったヒデオたちが、親方今何やったの?と聞いてきたので、指揮取ってたよと長吉が答えると指揮取ってた?と言うので、忙しかったよと長吉は答える。
怖かったんだろう?と忠次が指摘すると、いや違うよと長吉は否定する。
するとヒデオが、あのね、明日1人で新田のうちに行きなさいと命じる。
ええ!いや、それはないよ!と長吉は抵抗すると、だったらお願いしなさいよとヒデオは上から目線でいう。
長吉は素直に、お願いしますと頭を下げたので、そうする?とヒデオがみんなに聞くと、行ってやるかと忠次が答えたので、行ってあげるとヒデオは長吉に伝える。
翌日、長吉らは、工助の作ったオンボロ車に乗って新田邸へ向かう。
門前に停まった車から降りた面々は、ここかよ、大丈夫かななどとおっかなびっくりで、長吉を前面に押し出し玄関へと向かう。
ヒデオはベアトリーチチに紐をつけ最後についてゆく。
みんなに押し切られる形で玄関に入った長吉は、頼もう!頼むよ~と声をかけると、若い衆が出てきたので、逃げ腰になるが、約束通り、犬連れて来たからよ、令子さんを渡してもらおうかと伝える。
すると新田と川上が出てきて、ベアトリーチちゃん!と犬に近づきながら、長吉、早く犬をよこせ!と命じて来たので、長吉は、はいと答え、つい犬を返そうとしたので、ヒデオらが、親方!と制する。
我に帰った長吉は、そうはイカの金玉、タコの褌ってんだよ!と新田を睨みつけ、な?とヒデオを見ると、次はゾウの金玉…とヒデオは教える。
やい、ジジイ、早く令子さんをよこせよと長吉が迫ると、顔を隠した令子らしき女性を子分たちが連れて来たので、令子さん!と長吉は近づこうとするが、近寄るんじゃねえ、ここは一つ、1、2、3…と同時交換と行こうじゃないかと川上が提案してくる。
そのチキヒデオが、親方と呼びかけ、あんたバカだからわかんないでしょうけどね、ここは一番大事なところですからねと念を押す。
それを聞いた長吉は、うん、良し!油断するなよと全員に言い渡すと、行くぞ、ワンツー…とタイミングを測り始め、セーノで、ヒデオは犬を放すが、相手がそれを掴み取った瞬間、顔を隠した芸者が話されたので、令子さん!と長吉は抱きつこうとするが、それは牧野が女装した姿だった。
犬を抱いた新田は子分らと一緒に笑いながら、その男ならすき焼きにしても構わんぞと嘲ってくる。
騙されたと気づき、ちくしょうと挑みかかろうとした長吉たちだったが、すぐに新田の子分らに囲まれて、どこ行くんだよ、この野郎!と因縁をつけられてしまう。
その後、屋敷の蔵に連れ込まれた5人について来た新田は、惚れ惚れ、ご覧、ベアチリーチちゃん、お前に悪いことしたお爺さんたちはこうなるんだよと犬に話しかけるが、川上と一緒に蔵から出ていく。
長吉たち5人は,猿くつわをかまされ、後ろ手に縛られ、まとめて蔵の奥に押し込まれてしまう。 書斎で一人酒を飲んでいた佐川の元に戻って来た川上は、これはどうも、お騒がせをと詫びながら、ウィスキーを注いでやる。
その佐川も、これ以上はまずいですよ、先生…、早く女から本物の登記書を取り上げて、土地建物の譲渡契約にハンコをおさせなくちゃと助言する。
それでも犬が戻った新田は上機嫌で、相手にしなかった。
物置に縛られていた長吉らは、窓を開けて侵入して来たのが令子だったので驚く。
ごめんなさい、どうしても抜け出せなくってと詫びながら、2階から降りてきた令子は、彼らの企みはわかってたのよ、どうしても抜け出せなくてねと言いながら、みんなの猿くつわを外していく。
喋れるようになったヒデオは、令子さん、木登りが上手いですねと褒める。
だけど、見張りは大丈夫かな?と忠次が案ずると、平気平気、熱くなって花札やっている隙に逃げてきたからと令子は言う。
その時、扉の鍵を開ける音が聞こえたので、令子さん、早く逃げてと庇ったので、令子は奥の物陰に逃げ込む。 蔵に入ってきたのは村山だった。
村山は、縛られていた忠次らに、おいと声をかけてきたので、悲鳴を上げた一行だったが、ヒデオが、あ、いや~、あなたでございましたか、昨日は大変失礼いたしました、いや、私はですね、その~、ギャング様は大事にしなけりゃいけないって言ったんんですけどね、出てきちゃいけないと、ゴリラが聞き訳なくてと必死に言い訳をする。
笑顔でそれを聞いていた村上の背後に、近づいた令子も笑顔だった。 令子が村山の肩を叩くと、振り返った村上は令ちゃんと驚き、ひろしさん!と答えた令子と抱き合ったので、それを目の当たりにしたヒデオたちは、あら、大ショックと驚く。
令子は、隠しててごめんなさい、この人、毎朝新聞の村上さん、私のフィアンセなのと打ち明ける。
フィアンセ?親方はね、ショックで動物園帰りたいって言ってますねと、まだ猿沓をかまされたままの長吉がモゴモゴ言うのを通訳する。
やだ!実はわたし、北海道にいるおじいちゃんから、この土地を譲られて、何気なく様子を見にきたのよ、そしたら…と令子が言うと、北日本高速道路にまつわる汚職の匂いがした、その情報で僕が飛んできたってことですと村山が後を続ける。
令子は、あら忘れてた、あなた手伝ってと村山に声をかけ、全員の捕縛を解いてやる。
それじゃあ、芸者になったのも新田のことを探るためだったんですか?と工助が聞くと、令子はそう言う訳と答える。
その時、また入り口で物音がしたので、今度は本物ですよ、早く逃げてとヒデオは二人に告げる。
犬を抱えた牧野を先頭に、新田らが戻ってきて、捕縛が解けているのに気付いたので、これ、自然に解けたんですとヒデオはごまかす。
新田は、今度手に入れた備前長船の名刀じゃと披露すると、まだ切れ味は試しちゃおらんがな…と言いながら、長吉たちの方に抜いた刃を向けて迫ってくる。
ヒデオらが悲鳴をあげると、こいつらのね、薄汚え首を2つほどやりゃあね、あの女だってうんと言うでしょうと川上がけしかけ、おい、女を…と子分たちに命じると、ここにいますわよと奥から令子が答える。
令子と共に姿を現した村上は、新田さんですね?お隣は交通公団の佐川局長!と呼びかけたので、何者かね君は!と佐川が聞くと、明日の朝刊を見てもらおうかな…、新田さん、あんたが操っていた汚職の記事がデカデカと載ってますよと村上が伝える。
それを聞いた川上は、分野だな、貴様!と正体を見抜き、おいと子分たちをけしかけてくる。
村上が子分たちと戦い始めたので、令子はヒデオや長吉たちを誘導して二階へと登る。
2階へ上がったヒデオたちは、下から登ってくる子分たちを退治し始めるが、長吉はまたしても、奥の物陰に隠れ。
声だけで檄を飛ばしていた。 その時、パトカーのサイレン音が近づき、それに気づいた村上は、来たな、俺が連絡したんだと新田らに告げる。
これには、新田だけではなく、川上や佐川も固まってしまう。 3人は、犬を預かっていた牧野を残して蔵から逃げ出すと、車に乗って逃亡を図ろうとする。
先生、早く!おい、早く出せ!早く!と急かし、新田らの車が屋敷を出たのとすれ違う形でパトカーが到着し、警官たちが威嚇発砲をしながら蔵に雪崩れ込んでくる。
その中にいた署長が、全員逮捕すると命じたので、それを聞いたヒデオらは全員漫才をする。
牧野も含め、子分(志村けん)たちは手錠をかけられ連行され、やってくれたか、みんなご苦労さんと署長から労われた長吉たちだったが、署長は門の前に置かれていた長吉たちの改造車が、パトカーなどから盗んだドアや部品で組み立てたものであることに気づいたのか、首を傾げる。
それに気付いた工助は、やばい!逃げるんだ、逃げろ〜と叫びながら車に乗り込むが、長吉だけは事情が分からずポカンとしていた。
署長にどうしました?と話しかけた長吉だったが、逃げるんだよとヒデオに首根っこを引っ張られ、犬のベアトリーチチと共に一緒に改造車に乗り込むと、呆気に取られる署長を残して走り出す。
どうしたんです?と、村上と共に玄関口にやってきた令子が聞くと、急に逃げ出したんですと所長は説明する。
長吉は運転する工助にもっと飛ばせよと長吉が急かすと、いっぱいだよと工助は言うが、お前、ポルシェのエンジン詰んだって言ってたじゃねえか!と長吉は指摘する。
工助はさらにアクセルを踏むが、おい、パトカーが来たぞと風太が叫び、ヒデオたちは、後方からパトカーが追ってきていることに気づき焦る。
そのパトカーは、おい待ってくれよと窓から呼びかけながら、令子を助手席に乗せた村上が運転するオンボロパトカーだったが、しようがないな、あいつら…と、村上は呆れていた。
ばか…、何も逃げなくても良いのにと令子も呟く。
そうとか気づかない長吉は、おい、もっと吹かせよ、ほら、今度捕まったら100年目だぞと脅す。
工助は無茶なスピードを出し、崖から落ちそうになったり、部品がバラバラに飛び出したりする中、強引に逃亡する。 やがて、屋根が吹き飛び、次々と部品が脱落していく中オンボロパトカーで追尾していた令子は、待って〜!と呼びかける。
骨組みだけになった工助の車は、長吉やヒデオを乗せたまま、崖っぷちから飛び出す。
忠次も風太も、車の骨組みに必死にしがみつく。 なんとか崖を飛び越し、対岸に着地した改造車はさらに道路を突っ走る。
先を走っていた車の中では、新田がベアトリーチチを忘れてきたと気付いていた。
おい、引っ返してくれと頼むが、冗談じゃないですよ、先生、犬と人間とどっちが大事なんですか?と助手席に乗っていた川上が聞くと、構わん、構わん、佐川、ひっか返してと新田は頼む。
はいと答えた佐川だったが、バックミラーを見て、あ、あの車だ、いけねえ、先生、後ろを見てくださいと忠告する。
背後を振り向いた新田は、あ、ゴキブリたちだ!と驚く。
改造車の中では、おい、遅れるぞ、後ろから押そうか?とヒデオが工助を急かす。
3台の車が木南トンネルに入った直後、反対口から爆発音と煙が出てくる。 遅れて、タイヤが三つ、転がり出てくる。
さらにその後から、ボロボロの衣装になった、新田、川上、佐川が走り出てくる。
その背後からは、同じくボロボロの服になった長吉たちが出てきて、一斉に口から白煙を吐き出すと全員その場で倒れ込む。
その背後から出てきたのは、令子と村上で、二人は抱き合って道路脇に倒れ込む。
ヒデオは寝た状態で、あ、蝶々がキスしてやがると訳のわからないことを口走るが、最後にトンネルから出てきたのは犬のベアトリーチチだった。
ベアトリーチは、倒れた新田の顔に近づくと舐め始める。 塾に戻った改造車には「東京行き」というプレートがついていた。
ミヨちゃんもお手紙だねと別れを惜しむヒデオらは、全員包帯だらけの姿だった。
頭に包帯を巻いた村上は、令子と連れ立って、色々とありがとうございましたと長吉らに頭を下げてくる。
おかげで大スクープはできたし、東京の本社には何よりの土産ですと村上は礼を言う。
令子は、この土地は遠慮なく使ってください、無期限に提供しますわ、私と彼から…と言いながら村上に寄り添ったので、長吉たちはわっと驚く。
だから、何も今日立たなくても良いじゃありませんかと村上は聞くが、それじゃあ、この長吉、男が立ちません、ここは妹たちに留守番させて、あっしら今一度、男を磨いてめえりやすと、松葉杖姿の長吉は答える。
横から忠次が、一人で行きゃいいんだよと口を出すが、うるせえ、この野郎!と制した長吉は、ほらほらほら、名残は尽きねえ、どんどん乗れ、早く急げ!行くんだよ!と他の四人に命じる。
わかったよ、あばよと別れの言葉を残し、忠次たちも諦めたように改造車に乗り込む。
そんな中、令子に近づいたヒデオは、あのね、あんなカッコ良いこと言ってますけどね、実は俺たちをダシにしてね、逃げたちゃんかーら探しにいくんですよと打ち明ける。
それを聞いた令子は、まあ、奥さん、亡くなったんじゃないの?と驚く。
嘘、嘘、中年男の哀れな嘘ですよとヒデオは明かしたので、見送りの面々は全員笑い出す。
その時、長吉が、早くしろ、ポケット猿!と呼んだので、はいはいはい、泣くことねえ、ゴリラには勝てませんよ、バイバイ!と言いながら改造車に乗り込む。
改造車が走り出すと、行ってらっしゃい!お元気でねと着物姿のミヨや豆子、太郎に寄り添う村上と令子、そしてテツ子と次郎を抱いた丸子は見送る。
走る改造車に乗ったヒデオらは、本当に本当に本当に本当にご苦労さん♩と歌い出す。 足を抱いて手を振る村上や令子たち。 行こうか〜!と景気付けに叫ぶ長吉。
いいじゃありませんか、ドリフなら、ヤンヤンヤン…と歌い続ける。
改造車の前方には晴天の富士山が見え、そこに「おわり」の文字が入る。
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