「白い巨塔」2

一方、レストラン「アラスカ」で東教授と食事をしていた今津は、いや~、すぐにわかりましたよ、先生のあの名台詞は大芝居だとね、しかしこの際の1票はですね…と話しかけると、いやいや、結果はその方が良かった、見たまえ、12対11…と、東教授は手帳を今津に見せ、血の出るよう鍔迫り合いじゃないか、僕はああして不動票の同情票を得たからこそ、菊川君を決選投票に持ち込めたんだよ、今津君、次の投票までには何としても失格した葛西の7票、野坂の握っている7票を食いちぎらんことにはな…と笑顔で話してくる。

敵方も強引に野坂君に働い翔に違いありませんからねと今津も応じる。

「扇家」に来ていた野坂教授は葉山から話を聞き、政治協定?と聞き返していた。

そうです、実はね、来年度の予算で大阪市に小児疾患センターができるんですわと葉山は言う。

そこの小児整形外科のポストの割り当てをやね、まあ、全面的にあなたに一任しても良えと、まあ、鵜飼さんは内々にはね…というので、う~ん、小児疾患センターね、いや、しかし僕はどうもあの財前という男は…と苦笑する。

しかしね野坂さん。葛西君が失格した現段階で、東都大学系の菊川君なんか押してみたところでそれはつまらんじゃないですか、それよりやね…と葉山が話している時、咳払いが聞こえ、襖を開けて、やあ、しばらく!と言いながら入ってきたのは岩田だった。

その後、部屋の中の様子を盗み聞いていた時江は、下で待っていた又一に何事か耳打ちする。

又一は、一階の別室で財前と共に待っていた鍋島に、今な、岩田が野坂に金を渡したそうや、1票辺り10万で70万なと報告したので、鍋島はしめたと喜ぶ。

教授のくせに、投票の席上で涙まじりの大芝居を打って票を稼ぎやがって!あいつがあんなことさえせんかったら!と財前がぼやいたので、しっ!今更何言うてんねん、要はお前がやり損ねたんやないか、今度こそ、7票を握ってる野坂とやらに、スッポンみたいに食らいついて離れんことや、五郎、今度やりそこのうたら何もかも一巻の終わりやでと又一が言い聞かす。

一方、別の料亭でビールを飲んでいた今津は、え?け、決選投票で白票!と驚く。

そうですと答えたのは野坂で、そうです、東教授に見習いましてね、だってそうやないですか、どちらの側にも加担したくない時は、そうするのが当然でしょうと言う。

お気持ちはわかりますが、そこをなんとか…、もちろんこんなお願いに上がった以上、素手でやってきたわけではありませんと今津は言い、聞くところによりますと、日本整形外科学会では現在、理事が1人欠員やそうですが…と持ちかける。

もしあなたが理事に御成になれば、いずれは整形医学会の会長にもなられ、将来学術学会に立候補されるときには…と続けたので、今津さん、いい加減な空手形は困りますよと苦笑する。

すると今津は、いやいや、空手形やありません、鶴の一声でそれを左右できる人物と、東教授との話し合いの結果、私がこうして…と言うので、と言われると…それはどこの線から出た…?と野坂が聞くと、東都大学の船尾教授ですと今津は即答する。

船尾教授!と野坂が驚くと、しかし野坂さん、これにはあなたの握っておられる7票をそっくりいただくことが先決条件ですがねと今津は念を押す。

「アラジン」のホステス花森ケイ子は、財前とタクシーで移動中、選挙なんてもう信じられへん、この間、佃はんたちがお店で絵、えらいあんたのこと心配してはったけど大丈夫やの?と聞いてくる。

大丈夫や、どんな手段に訴えても俺は絶対なる、教授になって見せると財前は息巻く。

海辺の工業地帯で降りて工場を見つめる財前の横に来た稽古は、ゴロスケちゃん、ええ方法があるわと切り出す。

殺し屋を野党て、相手をあっさり消してしまうんや、五郎助ちゃんの言う通り選挙なんて水物や、そんな当てにならんことになんぼヤキモキしたって、もうどうにもならへんもんなとケイ子は言う。

それを聞いていた財前は、おい、ケイ子…と真顔で呼びかける。

その後、流しが「あなただけはと信じつつ~♩」と「女心の唄」を歌っていた「アラジン」にやってきた佃や安西の相手をしていたケイ子は、そんなにあれこれ心配ばっかりしたってキリがあらへんやないの!と叱りつけていた。

要は相手の候補者を消してしまうことや、手っ取り早く早くよなどというケイ子に、しかしな~、それが具体的な方法となるとだよ…と佃はぼやく。

うちがええ手を教えてあげるわ、こっそりあんたらが金沢行って、相手に腸チブス菌を飲ませるんやとケイ子は言う。

え!と安西が驚くと、それこそあんたらのお手のもんやないの?と言い、ケイ子はからかうように笑い出す。

そのとき、財前が店に来たので、それに気づいたケイ子は、わ~!噂をすれば影とやら…、いらっしゃい、どうぞ、先生と喜んで、佃たちのテーブルの席を譲る。

いいよいいよ、そんな窮屈しなくなって、ちょうど良かった、僕も君たちに会いたいことがあってねと財前は佃たちに話しかけながら座る。

君たちが僕を強力に推してくれていることはありがたいことだと礼を言った財前は、しかし選挙だけはどうも蓋を開けてみんことには…、もし不幸にして僕が破れた場合だ、これは君たちのとって重要な問題やし、これいじゃないか、しかし迷惑はかけられないし…と言いながら財前は佃と安西の手に手を添え、この辺から運動からは手を引いて…と言いかける。

すると佃が、先生、何を今更そんな気弱な?僕らはもっと強行な方法まで考えとるんですわと言い出したので、え?もっと強硬な方法?と財前は驚く。

今夜しみじみ知らされた~、男心の裏表~♩とまだ流しが「女心の唄」を歌っていた。

その横に来たケイ子は、佃たちの席の方を見て微笑む。

相手に脅迫の電話を連続的にかけて立候補を断念させる方法にんgこあるし、」場合によっては」教授としては相応しくないという怪文書を司法にばら撒く手もありますからな…などと佃は明かす。

それを聞いた財前は、そんな君!行き過ぎだと注意する。

先生、汽車はもう走り出してるんですよ、今更僕たちに飛び降りろと言われたって…と安西も訴えてくるので、しかしそれは、菊川君自身が自ら進んで候補さえ辞退してくれれば全て解決するんだろう?お互いに学者なんだから、同じ事態を進めるにしてももっと穏やかで、しかも間違いのない適切な方法があると思うがね…と財前は訴える。

わかりましたと答えた佃だったが、しかし、どっちにしても僕らは金沢へというので、おい佃、僕はね、選挙というものの予測がいかにつき難いかという現在の状況判断をしてるだけであって、何も君たちに金沢まで行ってくれなんて言ってないよと財前は戸惑う。

安西は、先生、僕たちは先生と心中する気でやってきてるんですよと訴える。

肝心の先生がそんな弱気やったら、これはもう先生だけの問題や荒らしまへんよと佃も言う。

そこに、先生、もう話終わったん?と笑いながら稽古がやって来て、財前の隣に座ると2人はそれとなく目を合わせ合う。

金沢駅にやってきた佃と安西は、菊川の自宅を訪問して、では先生、これほどお願いしましても…と佃が訴え、僕たちは筋が通らないお願いであることは重々承知してるんです、しかし只今まで申し上げた事情で、ま、率直に申し上げれば、先生花美和大学の派閥抗争が生み出した単なる当て馬に過ぎなくて、決戦でお破れになることは目に見えてるんですと、安西も説得していた。

しかし、そうした血で血を洗うような決戦を行うことは…、先生、なんとかなみわ大学の民主化と、将来のために、候補のご辞退をお願いします、僕たちは、全く私利私欲を離れてお願いに上がったんですが…と安西は頭を下げる。

先生、僕たちはこれほどまでにお願いしましても…と佃が聞くと、私は何も自分から進んで浪速大学の教授になりたいと願ったわけじゃありません、しかしその結果は大学の教授会の選挙が決めることです、お引き取りくださいと菊川は申し出、座を外す。

そうでっか、もうようわかりました、僕たちがここまで申し上げても、そのようにおっしゃるなら、僕たちの考えも申しましょうと佃は言う。

例え決選投票で先生が教授になられたとしても、我々医局員は絶対協力しませんよ、医局員の協力のない教授がどのような運命を辿るか…、学者としては自ら生命を断つに等しいことですからな…と言い残し、じゃあと立ち去る。

夜行列車で佃らが帰る中、菊川は船尾教授に電話を入れ、しかし先生、そのような複雑な人事問題があるところへ行って、落ち着いて研究ができるかどうかは…と申し出ると、そんな無礼なものの言に服して君が候補を降りては僕のメンツにまで響く、軽率で勝手な言葉は慎みたまえ、この問題はもう君個人の問題じゃない、いや、この問題に関する限り、君は僕に一切を任せているはずだぞと船尾は答え、一方的に電話を切る。

船尾はすぐに電話帳を調べ東教授の家に電話を入れたので、それを聞いた東は、え!そんなバカな!と驚く。

もしそれが事実であるとすれば、早速事情を調査し、医局員を厳重に処罰し、善処いたします、はいと恐縮して答える。

いや、失礼ですが、事態がこうなっては、失礼ですが、もうあなたにお任せはできません、私が直接大阪へ…、ここで菊川君が破れることは、当の菊川君はもちろん、私の顔まで潰れますからなと船尾は電話口で言う。

それから医局員の処置は、私がそちらに着くまでは現場を維持しておいてください、良いですか?下手な手を打ってはいけませんよとふなおは付け加え、電話を切ったので、東は絶句したまま受話器を見つめる。

飛行機で大阪に到着した船尾教授を、東と今津が出迎える。

料亭に来た船尾は、この野坂教授の握っている7票の内訳は?と聞くので、3票が臨床で、野坂君以外は皮膚科の乾と小児科の河合教授、後の4票は基礎で、薬学、生理学、血清学、衛生学の4人ですと東教授が答える。

基礎の4票は?と聞かれた今津は、もともと浮動票であった野坂君が学内民主化革新グループを唱えて強引に説得したもんですと答える。

じゃあ、全票が31、いや東さん、あなたの棄権はどうなるんですと船尾は聞く。

はあ、1次戦で棄権しましたから。決戦投票でもやはり…と東は答える。

31でも30でも過半数は変わらん、16!と船尾は言う。

こないだの投票で11だから、後5票、野坂教授の3票を入れれば、14であと2票!この衛生学の神谷教授は文部省の科学審議会に研究費の申請を出しておりますね、菊川指示にまわれば私が審議会に口を聞いてそれを通しましょう、良いですねと船尾は言う。

それからもう1人、結成学の岡教授の専攻科目は?と船尾が聞くと、血清内観反応の研究ですが?と今津が答えると、あ、それじゃあ厚生省に癌研究費の申請をすぐに出してもらってください、これも私が責任を持って…と船尾は指示する。

これで16だが…、ダメ押しの票のために、この薬理学の教授には菊川支持になって貰えば、新薬の許可の際に薬事審議会で私がお返しの1票を投じる事にしましょう、良いですね?と船尾は言い、しかし野坂教授の3票は間違いないですね?と念を押す。

はあ、彼は徹底した財前嫌いですからと今津は笑顔で答える。

それに先生と前に打ち合わせをしました、日本整形外科学会理事ということで確実な了解を得ておりますと東教授も言う。

一方病院内では、藪突いて蛇だよと、財前に鵜飼が文句を言っていた。

部長、医局員の金沢行きには僕はなんら関係が…と財前は言い訳するが、くだらん言い訳は止したまえ!相手がすんなり降りてくれレバ結構な話だよ、しかし君!その非常手段に失敗し、逆に船尾を東京から大阪へ呼び寄せたんだよ!と言いながら鵜飼が立ち上がったので、部長!と財前は呼びかけるが、野坂の票の動きが危ないと鵜飼は教える。

すると財前は、いえ、野坂教授の方は大丈夫です、私の父や医師会の方から万全の手を打ってありますと教える。

野坂は大丈夫でも、基礎の大河内教授はどうするんだ?厳正中立が謳い文句の大河内教授だ、もし医局員の金沢行きが耳に入れば、君にあった基礎の票までが逆に菊川に流れる。形勢は良くない、このまま手をこまねいていては、僕はもう君を推すにも推せないよ、すぐ善処した前と鵜飼は命じる。

後日、財前は里見のお自宅を訪れるが、 里見の妻、三知代(白井玲子)がカルピスを作っている間、大河内教授に対するそうした話は、僕は前にもいっぺん断ったはずなんだがねとさとみが言うので、さとみ君、僕はね、今生きるか死ぬ間瀬戸際なんだよと財前は訴える。

生きるか死ぬかの?と里見は聞き返す。

そうだよ、すまないが、大河内教授にだね…と財前が頼みかけた時、三知代がカルピスを運んでくる。

君ほどの実力のあるものが、どうしてそんなくだらんことに巻き込まれててるのかね?とさとみが聞くと、実力?選挙というものはね、どんな選挙でも情実と金が付き回るものなんだよと財前は言う。

そばでも里見は、僕はくだらんと思うね、なれなきゃ教授なんかならないでも良いじゃないかと里見は言う。

それを聞いた財前は、何!どうやら君にはお門違いの話をしたようだな、二度と頼まんよ!と憤ったので、子供部屋にいた三知代は聞き耳を立てる。

財前君、僕は君に一言だけ言っておきたいんだよ、佐々木庸平の病についてねと切り出す。

君にとやかく指示される必要はないね、万全の手当はしてあると財前は反論する。

もしもだ、転移による癌性肋膜炎だった場合でも、君は手当の方法があるというのかね?

君はせっかく優れた才能を持ってるんじゃないか、もっとクランケのことも考えてもらいたいねとと帰り支度を始めた財前に忠告する。

君は試験管や顕微鏡の虫だよ、しかしね、生きている人間の世の中は、いや学問だって生きてるんだよと財前が言い残しそそくさとアパートの部屋を出てゆく。

そんな財前の後を置い、階段のところで、財前君!君のクランケの佐々木庸平だがねと呼びかける。

佐々木庸平の胸を聴診器で診た金井は、すぐに強心剤を打てと看護婦に指示する。

佐々木の妻のよし江は、先生、もういっぺんお願いします、財前先生にもういっぺんと願い出る。

しかしそれが、お宅へ連絡してもいらっしゃらないし、お出かけ先もわかりませんので、明日の朝まで、待ていただかないと…と柳原は答える。

よし江は、そんな…、うちの人、この通り死にかけてますねん、財前先生がダメやったら、里見先生呼んでおくれやすと訴える。

それはできません、第一外科の患者ですからと柳原は言う。

僕が大河内教授の所へ行けば逆に藪蛇です、どうか、関西医師会の線でお願いしますと、「扇家」に集まった岩部たち3人に手をついて頭を下げる財前だった。

しかし票読みは遥かにこっちの方が有利なんやがな~と鍋島が言うと、そうや、野坂は渡した金を返してこん、船尾の手が伸びていてもひっくり返らん証拠やと岩田も答える。

それにさっき、葉山さんが最後のダメ押しの金を届けに野坂は気持良くこれを受け取ったと言う連絡があったんですよと鍋島は付け加える。

いえ、選挙は票があくまで全くどうなるか…、僕はどうしても基礎票が心配なんです、佃たちの金沢行きは失敗でした、僕の思慮の足りなさでしたと財前は反省する。

すると、いやいや、わしが行こう!と又一が言い出す。

しかし君が顔を出しては…とと岩田が案じると、いや、わしが行こう!権力で推してくるような東都大学系なんかに負けてたまるか!」こっちはあくまでも金と推しや、五郎、どこや?大河内教授の家!と又一は聞く。

それを聞いた岩田は、良し、わしも行く!と言い出す。

君の言う通りや、もし今度教授戦に失敗したら関内医師会のなおれや、勝負は最後の詰めが肝心やと岩田は財前に言う。

それを聞いた財前は感激して首を垂れる。

ところが、札束を持ち込んだ大河内家では、大河内教授からその札束を足蹴にされ、日本学術会議に副会長、学士院受賞の学者をなんと心得ておる!馬鹿者!金で籠絡される相手とでも思っているのか!と岩田と又一を怒鳴りつける。

大学は学問の塔だ!一体教授選をなんと心得ておる!小根の腐った他の教授連には通用しても、このわしには通用せん!さっさと帰れ!と罵倒された」又一と岩田は平伏して、散らばった金を拾い集めるとそそくさと逃げ帰る。

そんな逃げる2人の背中に、大河内教授は、バカもん!ともう一度罵声を浴びせる。

やがて決選投票の日が訪れる中、佐々木よし江は、あんた、死なんといて!私らを置いて先に死なんといて!と 佐々木庸平の体に縋り付いて泣き伏す。

そこに駆けつけた里見、金井、柳原の三医師は、もはや成す術もなく、ご臨終は午前3時20分でしたと柳原が答える。

遅れて部屋にやって来た財前の顔を見たよし江は、あんた…、あんたはうちの人を殺したんや、あんたが殺したんや!と睨みつけ、掴み掛かってくる。

それを振り払った財前は、佐々木の遺体を冷静に見下ろす。

会議室では、ではこれより投票結果の開票をいたしますと鵜飼が発言していた。

財前五郎、菊川昇、…と鵜飼が呼び上げていき、それを黒板に書き込んでいく。

棄権をした東教授は自室で葉巻をふかし落ち着かなかった。

財前と菊川の票は拮抗していた。

15対14になり、最後の票ですと言って隣の大河内教授にそれを手渡した鵜飼は、財前五郎と告げる。

財前16に対し、菊川は14…

教授たちの表情がそれぞれに変わる。

財前を呼び出した鵜飼は、本学第一外科の後任教授n決選投票が終了したから結果をお伝えする、全得票30票、開票結果は財前候補16票、菊川候補14票、よって2票の差を持って、あなたが後任教授に選出されたが、あなたはこれを受けますか?と聞くと、謹んで…、謹んでお受けさせていただきますと財前は答える。

それを聞いた鵜飼は、いや苦労したぜ、財前君と言いながら、椅子に腰を落とす。

このような光栄を得ましたことは、すべて鵜飼先生のおかげによるものです、この御恩は決して忘れませんと財前は告げ、深々と一礼する。

一方、東教授は金沢に電話を入れ、菊川君、私の力が及ばず、なんとお詫びをして良いのか…、お詫びの申し上げを…というと、色々ご心配をかけました、これで失礼させていただきますと手術着姿の菊川は答え、すぐに受話器を置く。

え~、では、財前助教授の教授昇格を祝って、乾杯!と鵜飼教授が音頭をとり、「扇家」で祝宴が開かれる。

又一と岩田は、それぞれ、鵜飼と財前の前に座り、さ、お一つ…と言いながら酒を注ぐ。

遅いね、野坂君は…と鵜飼が言っていると、時枝が野坂を二階へ連れてくる。

部屋に入ると時江が、お見えだすと紹介し、野坂の顔を見た又一と岩田がどうぞどうぞと酒を勧める。

盃を受けた野坂は、財前君、おめでとうと声をかけたので、財前は、ありがとうございますと礼を言う。

野中君、今度は色々お世話様やったな、おかげで…と鵜飼がれいをいうと、いやあ、我々のグループも財前君に協力した甲斐がありましたと野坂は笑う。

しかしなあ、野坂君、僕の票読みだったら、君らのグループの7票が入れば、全部でえ19票になるはずやがね?と野坂の隣に座っていた葉山が指摘すると、いやそこなんだよ、7票集めようと思う鍛冶が、相手方の切り崩しも強烈でね、どうやら2票ばかり食われたらしいんですわ、結果から見るとねと野坂は答える。

だから、お預かりしたものの内から2票分だけはお返ししようとと、カバンを持ち上げたので、まあまあ 野中さん、そんな細かいことと又一はとどめ、そこに、こんばんわと芸者衆がやってくる。

来よった、来よった!と又一は喜び、遅い、遅い、何をしてん、何を!早うせんかい!と客たちは文句を言う。

一方、東教授と今津は、2人きりで寂しい残念会を開いていた。

そこにやって来たのは野坂で、や、どうも!余儀ない要件ができて…と明るく言い訳して部屋に入る。

この度はどうも、残念な結果になって…と急に塩らしい口調になって言う野坂は、今津君、一体、これはどう言うことだったんだね?と聞く。

すると今津は、それはむしろ僕の方が聞きたいねと言い返してくる。

妙なことを聞くじゃないか、それはね、確かに僕のグループの2票が財前派に流れている、これは間違いない、しかし君の票の読み方が正確で11票なら、僕らの5票で16票で勝てたはずじゃないかと野坂が言うので、最初の11は間違いないよ、君が7ヒュでなくても5票をまとめてくれれば…と今津が言うので、僕を疑っているんですか?と野坂は聞く。

だいたい君の表の読み方が甘かったんだよ、第一次選の11が間違いないと思ってるところにだね…と野坂は強気で主張するので、いやいや、お二人ともご苦労でしたと東教授が止めに入る。

今更何を言っても終わりました、ただ私は、このような勝ち方をした財前君は、今後教授としてどのような生き方をするか、私はそれが見たい…と東教授は言う。

「扇家」では、又一が芸者と混じって嬉しそうに踊ってた。

財前の前に来た又一は、五郎、金看板はいつや?うちの玄関にあげる教授の免状は?と聞いて来たので、お父さん、それは来年の3月ですよ、東教授の退官は来年の3月ですからと財前は答える。

すると、財前の隣に座っていた鵜飼が、いや、そうでもないよ、案外早いと思うがね~と言いだす。

東さんも今度の選挙ではだいぶんお疲れやから、案外早いとこ辞表出されるのと違いますかと芸者を抱いていた葉山も口を出す。

うわ~、大願成就、金鶏冠は唐の鶏や~と又一が自分の頭を抱えておどけて見せ、また立ち上がって踊りだす。

女の患者のどぶさらいして、せっせと金貯めた甲斐おましたと又一が言うと、出席者たちは全員大笑いし、鍋島も興が乗ったのか立ち上がって踊りだす。

教授選に敗れた東教授は定年を待たずに退官し、近く近畿労災病院の院長として迎えられることになった。

金井講師は助教授、佃は講師、安西は医局長としてそれぞれ昇格し、第一外科は財前派で占められた。(大阪中央郵便局前の風景を背景にナレーション)

そんな街を通勤していた佃は、新聞売り場のチラシに「財前教授訴えられる」「誤診による死の追及」という近畿タイムスの見出し文字を見て立ち止まる。

新聞紙上にも「浪速大学財前教授訴えられる」という見出しで写真付きで報じられていた。

「浪速大 象牙の塔に鋭いメス」「財前教授訴えられる 若き食堂外科の権威」「誤診の疑い濃厚」「検察当局動きだす」「財前教授(浪速大)誤診か!!」「損害賠償八百」「遺族から」「手術前の検査は十分」の見出しが踊る。

口髭を生やしていた財前はその新聞を読んで驚愕していた。

そこにやってきた妻の杏子が、あなた、「サンデー毎日」の人がぜひお目にかかりたいんやてと知らせに来る。

いるて言うたんか?と財前が聞くと、うん、悪かった?と杏子は不思議そうに聞き返す。

記者は、裁判所から何も届いていませんか?しかし、先生が訴えられるなんて驚きましたな、ご意見をぜひと聞いてくる。

財前は、私は訴えられる覚えなどいささかもない、当事者に何の話し合いもせずにいきなり決め込んで訴えるなどとは、医者を侮辱するにも程がある、名誉毀損だと答える。

又一も電話口で、ああ、それはやな~、何かの間違いや、新聞屋だけが大層に言うてんのやと頭部の汗を拭きながら答えていた。

電話相手の岩田は、水の泡やないか、せっかく苦労して選挙に勝っておきながらやな…と苦情を訴えていた。

丼池問屋街にある繊維業「佐々木商店」の佐々木よし江の元にも記者が来ており、胃がんの手術の前に癌はすでに肺に転移してしまっていた、これをよく調べずに手術をしたというわけですねと記者が取材していた。

ええ、そうだす、関口弁護士さんに良う調べてもろうたんどすとよし江はいう。

関口さん、その事実ははっきりしてるんですか?時車が聞くと、同席していた関口仁(鈴木瑞穂)は、ええ、それは同じ浪速大学第一内科の助教授里見医師の診断によって明白ですと答える。

それを聞いた記者は、ほお、同じ浪速愛学の助教授が!と確認する。

そうです、それから訴状の趣旨は、手術前の注意義務怠慢だけではなく、癌性の肋膜炎が起こっているにも関わらず、これを肺炎と誤診したことですねと関口は指摘する。

なるほど…、ところで慰謝料の800万円はかなり高額な数字ですね?と記者が聞くと、当然ですよ、このケースは明らかに、財前医師の誤診によるものですからと関口は答える。

大学では鵜飼が、君はどこまで僕に面倒をかけるつもりかね!患者の遺族に訴えられるなどと言うことは医学部始まって以来のことだぞと呼び出した財前に文句を言っていた。

教授選ではあれだけ散々迷惑をかけ、その上やっと教授になったと思ったら、今度はこんな大きな不始末だ!と鵜飼は財前を責める。

申し訳ございませんと財前が詫びると、すぐに進退を出したまえと鵜飼は命じる。

教授の進退伺!と財前が驚くと、それ以外に何か自体収集の道があると言うのかね?と鵜飼は聞いてくる。

その後、里見に会いに行った財前は、遺族が僕を訴えることについては君は何も知らなかったと言うんだね?だが、柳原の言によれば、君は解剖を熱心に勧めたそうじゃないか?あれは一体どう言うわけなんだい?と迫る。

僕はね、自分の診断と処置が正しかったかどうか、それを剖見によって検討し、研究すべきだと考えたから解剖を勧めたと里見は答える。

ふん!君は純粋な善意からやったことかもしれないがね、と利用によっては教授になったばかりの僕を窮地に陥れるためにやったとも考えられるじゃないかと財前が言うと、財前君、そんなものの言い方よしたまえ、君はね、あの患者が死亡したことについても謙虚に考えるべきじゃないかな?元に君はあの患者の胸部部位への検査を怠り、そして…と里見は宥める。

財前はその言葉を遮り、君こそ言葉を気をつけたまえ、僕の処置が誤っていたかどうか、君にとやかく言われる筋合いはないと財前は睨みつける。

教授になったら月の値も値上げ、アパートもええとこへ替えてやる、うちはね、長堀川の新築のマンションを今日見てきたとこやし、それがこの始末や、いや~、なにゃ知らんけど、こんなことになるような気がしてたわ…と、ケイ子は化粧台の前で化粧をしながら嫌味を言う前で、財前は不味そうに酒を飲んでいた。

足元の大きな穴には気が付かんと、大体上ばかり見て歩きすぎやもんな、はっきり言和してもらうけど、今日限り縁切りでっせ、地方の病院へ飛ばされるあんたと一緒に、のこのこ都落ちする訳にも行かへんもんなとケイ子は言い放つ。

さ、うちはお店に出かける、あんたもええ加減い…、あ、そうか…、あんた、どっこも行くところがあらへんのやな?とケイ子はからかう。

昔から良う言うたもんや、小糠3合あったらとかな…、夙川の家では奥さんが基地外のように目を釣り上げて偉い針の筵や、投資株の大暴落…、財前毛とも縁切れで、どこにも行く所が…、いやそうでもないわ、あんたの行くところが一つだけあるわ、岡山県やと言いながら、服を着替え始める。

何!と財前が睨むと、大阪駅行ってさっそと汽車に乗り、田舎へ帰り!お母ちゃんとこへ帰り!とケイ子が言うので、思わず立ち上がってビンタする財前だったが、殴りたかったらなんぼでも殴りいな!誤診で患者1人殺しといて、男らしくもない!とケイ子が昼間ないので、また財前は殴り倒す。

誤診で俺が人を殺した?そんなバカな!俺には何の間違いも手落ちもないと財前は言い放つ。

医者として俺の処置には間違いや手落ちがあってたまるか!そうだ、医者としての俺には何一つ手落ちや間違いはなかったんだと財前は確信ありげに言う。

そんな財前に、五郎ちゃん!とケイ子は抱きつくが、それを振り払って財前は出てゆく。

選挙前に贈った染井画伯の油絵が描けてあった鵜飼の屋敷に来た財前は、夜分遅くに失礼しますと謝罪するが、こういう失礼極まる面会の仕方は不愉快だねと露骨に迷惑がる鵜飼に、それとも学校では進退伺を出しにくいから、こっそり夜分に持ってきたのかね?と嫌味を言ってくる。

いえ、進退伺は出しませんと財前が答えたので、何?と鵜飼は驚木、君は私の命令に従わんと言うのかね!と詰め寄る。

とんでもございません、僕は誤診なんかしていません、それを裁判で明らかにしますと財前は答える。

君ね、裁判というものは選挙も同じで、蓋を開けてみんことには…、自信過剰もええ加減にしたまえ!一体、私の立場はどうなるんや?と鵜飼は不快感を示す。

じゃあ、僕がここで進退伺を出せば、部長のお立場は有利になるんですか?教授選では部長が私を担いで最先頭に立たれたことは学内周知の事実ですと財前は言い切る。

例え私が辞表を出しても、裁判に負けたら大学の権威はどうなるんですか?次期学長への立候補などは所詮絵に描いた餅じゃないでしょうか?と財前は言う。

これには鵜飼も口ごもるが、事態がこうなった以上は、医者としての僕には一切の手落ちがなかった…、こんな風に裁判で勝つことだけが浪速大学の名誉を守り、ひいては部長の身を安全にする…、これ以外に何か、お互いの立つ道はあるでしょうか?と財前は問いかける。

翌日の大学内、しかし君は、その断層写真のことだけで財前君を誤診だと断定できるのかね?と鵜飼は里見に聞いていた。

それは裁判で決まることです、不本意な形ではあるにしても、癌の転移を早期に発見することが果たして可能であったかどうか…、それが明らかになれば医学の向上にもなると…と里見は答える。

君は裁判所に出て、そうした証言をするつもりかね?と鵜飼が問いかけると、家、僕だけではなく、裁判には多数の医学者が出なければいけないとお見ますと里見は冷静に答える。

話は違うがね、里見君、山陰大学から教授を1人欲しいと言ってきてるんだが、僕は君が最も適任だと思っているんだがね?と鵜飼は伝える。

その書類を受け取った里見は内容を読み出す。

第一外科教授室に呼び出した柳原に、君には法廷で証言をしてもらうことになると財前は伝える。

はいと柳原が承知すると、まごつかないように答え方その他を用意しておくようにと財前は指示を出す。

答え方、その他と言いますと?と柳原が聞くと、それは僕がよく考えた上で君に具体的に伝える、君は僕の指示通りの意動けば問題はないと財前は言う。

柳原は、はい、よろしくお願いしますと心痛な表情を浮かべ答える。

先生、おひとつどうぞ…と、「扇家」の時江から酒を勧められた弁護士 河野正徳(清水将夫)は、要は手術前の処置に注意が欠けていた、つまり注意義務怠慢、もう一つは、癌性肋膜炎を術後肺炎と診療過誤、まあこの2つでしょうなと鵜飼や又一に指摘する。

先生、相手は医学のいも知らん素人ですがな、注意義務怠慢だの誤診だの喚いたかてタカが知れてるやおまへんか?と又一は指摘する。

昔から医事裁判は医者が勝つことに相場が…と続けようとすると、あれは財前さん、戦前のことでしてね、戦後は一般的に医学知識が驚くべき勢いで普及し、まあ、必ずしも医者が勝つとはいえまへんなと河野は答える。

先生、そんな気の弱いこと…、あんたもと又一はけしかける。

ただ、この原告の弁護人の関口君は我々弁護士会内部では、常に自分は庶民の味方であるという妙な旗立てたがる異端分子やから、まあ、私自身相手にとって不足はありまへんがねと河野は答える。

先生、金に糸目はつけまへん!着手金は100万!勝った時の成功報酬は300万!それでどうでっしゃろう?と又一が言うと、まあまあそんなとこでっしゃろな~と河合は答え、それで手打ちまひょうと又一は締め、時江がどうぞと可愛に酒を勧める。

6回にもわたる原告被告双方の弁護人の書類応酬が終わり、いよいよ裁判が開始された。(裁判所の外観映像を背景にナレーション)

証人席には、里見、柳原、金井、看護婦の石川千代子らが座っており、その背後の傍聴席には又一と岩田、佃や安西、ケイ子らも座っていた。

同じく傍聴していた今津は、これで財前も教授辞退ですなと、耳鼻咽喉科教授川西(伊東光一)に話しかけていた。

すると、教授選はやり直しですなと川西は答える。

しかし、もう一遍葛西教授を押すわけにもいかんねと野坂は乾に笑いかける。

それに対し乾は、裁判は水もんですから、あまり急がん方が…と答える。

そこに裁判長が登場し、起立!と声がかかる。

まず審理は、佐々木庸平の死亡の状況から始まった、だが、病室付きの看護婦石川千代子からは、原告、被告共により不利になるような決め手は何も掴めなかった。

続いては被告側の証人である(とナレーション)

あなたは当直医として執務中、佐々木庸平さんを一度診察したことがありますね?と関口から聞かれた金井は、ありますと答える。

その時にはそれまでの診断である術後肺炎の症状について、何か疑問を持ちませんでしたか?と関口は尋ねる。

ええ、抗生物質の効力が少し顕著ではなさすぎるような気がしましたと家内は答える。

抗生物質の効力が顕著でなさすぎる!と関口は我が意を得たような表情になる。

しかし術後肺炎の症状は千差万別でありまして、専門外の私には詳しく申し上げられませんと金井は答える。

続いて裁判長が金井を直接尋問し、それから里見証人に対する原告側、被告側の弁護人の尋問応酬が行われたが、佐々木庸平ん死因については的確なものは浮かび上がらなかった。(とナレーション)

では本日の心理はこれで終わることにいたしますが、え~、次回は死亡した患者の死の直接の原因がなんであったかについて、え~、佐々木の遺体を病理解剖された浪速大学医学部の大河内教授を喚問いたしますと裁判長(松下達夫)が告げる。

財前教授個人の問題じゃない?と大学で鵜飼と会った大河内は聞き返す。

そうです、これだけ、世間の主張を浴びた上、世論を賑わしているとなると、これはもう財前教授個人の問題ではなく、浪速大学医学部の名声と権威の問題になってくる、何としても今度の裁判は財前教授のかちにしたいもんですなと鵜飼は答える。

と言われるのはどういう意味かね?と大河内が聞くと、不幸にして財前教授の誤診などということになりますと、浪速大学附属病院40年に及ぶ信用は一体どうなります?同じ大学に職を奉じるものとしてはですね…と鵜飼が言うので、大学の権威や名誉も大事やが、人1人の死についてその真実を追求する方が、僕は医学者として正しいような気がするんやがね?と大河内が主張するので、鵜飼は諦めたような顔になる。

裁判所に出廷した大河内教授は、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず偽りを述べないことを誓いますと宣誓書を読み上げる。

では原告代理人から尋問を始めてくださいと裁判長が言い渡す。

佐々木庸平さんの遺体を解剖されたのはあなたですね?と関口が聞くと、そうですと大河内が答えたので、どう言う理由があって解剖されたんですか?と関口は聞く。

遺族の求めがあり、臨床の主治医がそれを許可したからですと大河内は答える。

すると直接の死因に何か不審があったからですね?と言う関口の質問には、いや、病理解剖は、必ずしも死因が不審であると言うことを前提にするものではありませんと大河内は答える。

解剖はどこに重点を置いて行いましたか?との関口の質問には、臨床上の問題になった事項、つまり第一は噴門癌の手術そのものが成功していたかどうか、第二は、噴門癌が他の臓器に転移していなかったかどうか?第三は直接の死因になった肋膜炎と最初の噴門癌の間になんらかのこの因果関係があったかどうかと言うことですと大河内は述べる。

ではその所見を述べてくださいと関口は頼む。

第一の噴門癌の手術については…と大河内が話し始める。

(回想)腹腔内の剖検に移ると、解剖中の大河内が発言する。

腹水なし…というと、解剖を進め、財前の手術の部分も診る。

(回想明け)実に見事なものでした、周囲には炎症も浮腫も癌浸潤も見られない、完全な成功だ、その手腕には全く敬服しましたと大河内は述べる。

では第二の点、噴門癌が他の臓器への転移、例えば直接の死因である肺への転移は事実あったものでしょうか?それともなかったでしょうか?と関口が聞く。

(回想)左肺用部に有種痘大の腫瘍性のものあり、肉眼的初見では、これは明らかに癌組織と認むと大河内は解剖臓器を見て意見を言う。

(回想明け)すると、直接の死因である癌性肋膜炎は胃噴門部の癌が肺にすでに転移をしていたからですね?と関口が聞くので、そうですと大河内は答える。

傍聴席はざわめき、裁判長!と河野が呼びかけ、関口は、私の尋問は終わりますと発言したので、静かに、静かに!と裁判長は制し、どうぞと河野を促す。

大河内証人にちょっとお尋ねします、私は解剖の病理初見を具に拝見しましたが、肺臓には赤みがかった部分がある、これは肺炎の症状と見てもよろしいのでしょうか?と河野は問いかける。

肉眼的初見、組織学検査によっても肺臓に赤みがかった炎症像が見られ、肺炎の症状が起こっていたと言えると大河内が述べたので、では佐々木庸平は診断通り、術後肺炎が起こっていたんですね?と河野は確認する。

術後肺炎であるか、それとも癌性肋膜炎が起きたために、それに合併して起きた肺炎であるかどうかは区別がつかないと大河内教授は断言する。

傍聴席にいたケイ子や又一はその発言に固まる。

河野はわかりましたと答え座るが、その時、裁判長!と関口が挙手する。

立ち上がった関口は、それではもう一度大河内証人にお尋ねしますが、佐々木庸平さんの死因は、噴門部の癌が肺に転移をしていたからですね?と聞く。

噴門後壁に現初した癌が左肺下腰部に転移をして、なんらかの契機でそれが急速に増殖して、癌性肋膜炎を引き起こしたものであると大河内が言うので、すると佐々木庸平さんの死因は、すでに肺に転移していた癌あ、なんらかの契機で急激に増加し始めたと言うことですが、その何らかの契機とは、財前医師の手術のことですね?と関口は確認する。

ただいまの御質問は、解剖を離れ臨床上の問題になるので、詳しくは臨床医に聞いてくださいと大河内は答える。

良くわかりました、では最後に一つだけ、あなたの病理初見から見て、財前教授のとった処置をそのようにお考えになりますか?と関口は問いかける。

肺への転移があるにもかかわらず、噴門部の病巣にメスを入れたのはなんらかの根拠があったはずである、問題はその根拠に必要の限度を超えたものがあるかどうかである、もし仮に手術以前にその検査を怠り、肺への転移に気が付かずにメスを入れたのならば、臨床医としては明らかに注意義務が欠けていたと言わなければならないと大河内が発言すると、傍聴席の記者たちがメモに取る。

その背後に座っていた又一と岩田の表情が厳しくなる。

証人は財前教授に、手術前に胸部の断層写真を撮ることを勧めたんですね?と裁判長から聞かれた里見は、そうですと答える。

その根拠を申し述べてくださいと促された里見は、患者は左の肺に既往症があり、一応その古い病巣の影響かとも考えられましたが、陰影が円形を呈し、周囲との境界もある程度鮮明なので、もしやと思い、財前教授に断層写真を勧めましたと述べる。

財前教授は、その断層写真を撮ることを必要と認めなかったんですね?と裁判長が聞くと、はい、私がいくらそれを勧めても承知してくれませんでしたと里見は言う。

また傍聴席がざわめき、河野が裁判長!と発言する。

ああ、静かにと傍聴席に注意した裁判長は、どうぞと促す。

大河内証人並びに里見証人の証言内容の問題点を明らかにするために鑑定人を申請しますと河野は提案する。

すると関口も立ち上がり、裁判長、私も鑑定人を申請しますと発言する。

その夜「扇家」にやって来た財前に、おいでやす、みなさん、お待ちかねでっせと仲居は声をかける。

又一、鍋島、岩田らが松座敷に来た財前は、遅くなりました、鵜飼医学部長と鑑定人のことで相談をしておりましたと説明する。

まずかったな、今日の裁判は…と岩田が憂える。

はあと答え、席につく財前は、もし今度の裁判が誤診てなことになると、我々個人の病院は大学病院のように設備が整うとるわけでもなく、タダで使える無給の助手がいるわけでもない、したがって、患者が文句をつけようとしたら、なんでも一方的につけられる、ここはどないしてもあんたに買ってもらわんことにはなと岩田は言う。

そやから、これ以上不利なことになれば、医師会が一丸となって財前指針の強い立場に立って、声明書その他を出そうかと思うてま…と鍋島も言う。

ご好意のほどはありがたく…、なにぶんにもよろしくお願いしますと財前は頼む。

一方、東の自宅に訪れた関口は、近畿労災病院長をされておられる東先生に、鑑定をお願いできれば一番良いのですが…と要件を明かす。

先生は後任教授の選挙の時、財前教授と複雑な経緯がおありになったそうで、原告被告と利害関係のある人は鑑定人には立てられないことになっておりますんで、全く残念ですと関口は言うので、そんなことまでご存知なんですか?と東は驚く。

そらまあ、弁護士ですから…と関口は苦笑し、先生、この度の鑑定所見は裁判の新工場、非常に大きな比重を占める訳でして、この人ならと言う方をぜひご推薦願いたいのですが…と申し出る。

わかりました…、まあ、事件の推移は一応新聞で、ま、しかしご事情を伺えば御もっともですと東は答える。

まあ、そうした意味での鑑定ならば、東北大学の市丸名誉教授が一番適当でしょうと東は推挙する。

関口が帰った後、庭の芝を刈っていた東に近づいた佐枝子は、今度の裁判だけど、里見さんは立派だわと呟く。

うん、元教授の財前君に不利な証言をすると言うことは、あるいは自分の将来を賭けることになるかも知れんと東は答える。

よくよく覚悟は決めての上ではあろうが、立派だよ、誰にもできないことだと東が言うと、お父様にもできないことだわと佐枝子は皮肉る。

驚いて振り向いた東に、大学をお辞めになる前に、お父様はそうした大学の権威主義や封建主義みたいなものを一度だって改めようとなさったことがあるでしょうか?と佐枝子は問いかける。

いいえ、お父様は16年間、教授としてそのお上にあぐらをかいていらしただけですわと言い捨てる。

里見さんの方が、純粋に着る場所が今の大学にはなさすぎると言うことは、私には、私んじはたまらなく悲しいのですわと佐枝子は言う。

その言葉を、東は呆然と立ち尽くして聞く他はなかった。

原告側の立てた鑑定人、東北大学名誉教授市丸教授は、癌がすでに遠隔の肺へ転移していることは、全身病を意味し、胸部的な胃だけを手術しても意味がないから、手術は行うべきではないとの証言をした。(とナレーション)

ところが被告側の立てた千葉大の伊東教授は、胃の噴門部の癌は、食物の通過困難が起こり、患者に苦痛をもたらし、栄養障害も起きて死期を早め、肺への転移がはっきりしていても元の噴門部の癌を取り去ることにより、かえって良くなる場合も多い。したがってこれは手術をするのが当然であると証言した。(とナレーション)

肺に癌が転移していた場合の噴門部の手術、この可否については結論を出さずに後回しにして、手術後の肺炎が果たしてあったかどうかに審理が進む、君の呼び出しは明日だ、この裁判での君の証言如何が君の将来に大きくかかっている、わかるね?この意味が…と翌日、財前は柳原を読んで言い聞かせていた。

柳原は、はい、一生懸命にやりますと答える。

翌日の裁判所で、関口が、佐々木庸平さんの病の変化に一番最初に気づかれたのはあなたですね?と問いかけると、はい、そうですと、里見と並んで証言台に立った柳原は答える。

術後肺炎と診断されたのはあなたの報告を聞かれた財前教授ですね?との質問には、家、違います、術後肺炎の診断は、財前教授ではなく私ですと答えたので、横に立っていた里見は不思議そうに柳原を見つめ、傍聴席の佐枝子をその様子を見ていた。

ガムを噛んで傍聴していたケイ子も注視する。

里見証人、この点についてはいかがですか?と関口が聞くと、柳原君の言葉は心外です、僕が病室で聞いた時には、財前君の指示により抗生物質を投与していると君ははっきり言ったじゃないかと柳原に向かって聞く。

傍聴席がざわめく中、では佐々木庸平さんの病状を術後肺炎と診断されたのは財前教授ではなくてあなたですねと関口が確認すると、そうです!と柳原が答えたので、ところが里見証人はそれは財前教授があなたに支持したと言っておられますが、どうしてそんな食い違いがあるのですか?と関口は問いただす。

証人は前を向いて答えなさいと裁判長は、関口の方に体を向けていた柵原に注意する。

柳原ははいと答えて正面を向くと、それは里見助教授の記憶違いですと答える。

それを聞いた里見は、記憶違い?と呟き、柳原の方を向く。

柳原証人、あなたは里見証人を記憶違いと断言されたが、その断言される根拠は何でした?黙っておられるところを見ると、やはり里見証人の証言通りなんですね?と関口は攻める。

傍聴席の又一は咳払いをし、野坂、乾、河合らは興味深げに、この展開を見ていた。

佃や金井は複雑な表情になる。

柳原証人、ちょっとこっちを向いてくださいと関口が要求する。

柳原が関口を見ると、あなたの言葉ひとつで佐々木よし江さんが救われ、同時に佐々木庸平さんの死が無意味でなくなるのです、あなたに医師としての良心があるのなら、どうか真実を述べてください!と関口は訴える。

柳原証人、あなたは里見商人の証言を認めますか?認めますね?と関口が再度尋ねると、家、認めません!と柳原は自分を見ている里見の横で裁判長の方を向いて答える。

傍聴席の佐枝子はこの証言を悲しみ、ケイ子は面白がっていた。

夜の歓楽街の一軒の料亭で、佃、安西ら共に乾杯をする柳原。

いやあ、良う頑張った、君の奮闘によってやね、我が財前閣下はことなきを得たんやで!と佃が柳原の証言を労う。

うん、そうやで、君の将来は約束されたようなもんやがと安西も柳原の今後に太鼓判を押すと、そやけど、里見教授にも困ったもんだねと苦言を呈する。

いや、あんなのはやね~、時代遅れの甘いヒューマニスト…、いや、ロマン野郎に過ぎんのだよと佃がこき下ろす。

ところで裁判所の独自の鑑定人が決まるのはいつや?と安西が聞くと、あ、弁護士の話だと、明日くらいやって言ってましたと柳原が教えると、うん、そうか…、じゃあどこのだれかはわからんが、そいつのものの言い方次第によっては、ひょっとすると我々は財前教授と一蓮托生やで…と佃が言い出したので、その場にいた全員の顔色が変わる。

鍋の中ではすき焼きが煮立っていた。

テーブルの上には、酒や肴の食い散らかした跡があるケイ子のアパートのベッドに腰掛け、肩を抱いていた財前の指を齧って痛がるのを見たケイ子が、お宅の杏子夫人、裁判行っても姿見せへんけどどうなってるの?と聞く。

動愛なってるって、相変わらずや、世間体がどうの、信用がどうの言うてな…と酔った財前は答える。

それを聞いて急に笑い出した京子は、杏子夫人らしいやないのというと、同じく笑いながらベッドの仰向けに転がった財前の上に覆い被さる。

うわ!やったな!とふざけながら財前もケイ子を抱く。

河合弁護士の事務所の電話がなり、受話器を取った河合は、あ、財前教授ですね?と答える。

こちら河野です、裁判所の鑑定人、ええそう…、決まったものですからと伝える。

えっ!東都大学の船尾教授!と電話でその名を聞いた財前は絶句したので、河合はもしもし!と呼びかける。

一方、自宅で電話を受けた東は、うん、そう…、いや癌にかけては日本の医学会の重鎮と言える人ですと嬉しそうに答える。

電話の相手は関口で、財前方は権謀術策に長けていて、あれこれ巧妙な手を打ちます、もしこの人まで手が伸びたら…と案ずるが、この人だけにはいかなる手を打っても効きますまい、今度のふなお恭順証言だけは効きに行きますと東は笑いながら答えると、え?財前は所詮教授にはなれない男ですよと言い捨てて電話を切る。

そんな東の様子を背後から見ていた佐枝子と政子に、わしはこの目で彼が失脚するのを見たいと言いながら二階へと向かう。

鑑定人として出廷した船尾に、ではお尋ねします、佐々木庸平の噴門癌は、手術の以前にすでに肺に転移しておりました、現代の医学では厳密な検査をすればこれは事前にわかるものでしょうか?それとも不可能なものでしょうか?と裁判長が問いかける。

いや、それは不可能ですと船尾は答える。

その答えを聞いて愕然とした関口だけではなく、部長席もざわめくが、遺憾ながら、現代の医学ではレントゲン写真、気管支鏡、各端検査などを行っても、本件のような」場合は手術以前にあの転移を発見することはできないと思いますと船尾は続ける。

しかし記録でもお分かりのように、今手術以前に断層写真を撮るか取らないかが大きな争点になっているんですが…と裁判長は聞く。

解剖初見の際には、肺臓の癌組織は母子代にまで増殖しております、しかし当裁判で見せられた手術前のレントゲン写真によれば、それは直径5mm程度の極めて微細なものであり、仮に断層写真を撮ったとしても、あれ以上には明確に写りません。まして不幸なことには、佐々木庸平には肺結核の既往症がある、あれが肺結核の既往症か、それとも癌の転移であるかを見届けるには、肺臓を取り出して直接この目で確かめるしか方法がありません、ええ、したがって手術以前にあの転移を発見することは、ああ、残念ながら現在の医学、私のお初見では不可の王でありますと船尾教授は述べる。

次に第二の争点、術後の肺炎に関する誤診の件ですが、ええ、裁判所の記録を拝見すると、ええ、いやこれはいささか医学の問題を離れて、大学の医学部の問題に立ち入りますが、ええ、柳原証人と里見証人の帯出尋問の事項を熟読しますと、柳原証人の言葉は偽りで、里見証人の言葉の方が正しいのではないかと思われます。

財前教授は手術以前においては手落ちはなくとも、明らかにこれは誤診でありますと船尾が告げると、またしても傍聴席はざわめき出す。

それを聞いた財前と河野弁護士、ケイ子、又一、岩田らの表情が曇る。

ただこのところをもう少し具体的に言えば、え~、手術後の肺炎はしばしば起こる現象だり、ええ、例え財前教授がそれを見誤ったとしても結果的には同じだということでありますと船尾は続ける。

結果的に同じことだと言いますと?と裁判長が問うと、つまり手術後に肺転移をしておる癌が増殖をし始めれば、例えかなり早期にこれを発見したとしても、現在のお医学では適切なる処置の方法がなく、したがって患者を救うことはほとんど不可能であり、不幸な患者の死というものに対しては、この場合の初期の誤診はそれほど意味がなく、残念ながらそれが誤診であれ、あるいは妥当な診断であれ、結果としては同じ意味しか持たない…ということでありますと船尾は説明する。

するとあなたの所見によれば、本事件に関する財前教授の処置はやむを得ないものがあり、財前教授には一切の手落ちはなかったと言われるんですね?と裁判長は念を押す。

次の言葉を待つ佐枝子だったが、船尾は、財前教授にも大きな手落ちと責任がある!と言い放つ。

例えそれが見極め得なかったにしても、里見助教授の申し出を聞いた時、いやそれを耳にしなくても、自ら断層写真は撮るべきです。あらゆる検査を行うのが医師の義務であるにもかかわらず、それを怠っている!りん医師としての身長差が足りない!と船尾が指摘すると、今津はにんまりとするが、東は無表情のままだった。

傍聴席の鵜飼と葉山は互いに顔を見合わせ、野中はにんまり笑う。

佃、安西、ケイ子、柳原、金井、岩田、又一、鍋島、乾らの表情は曇っていた。

佐々木よし江の表情も冴えなかったが、関口は一応の納得顔はしていた。

一方、河合弁護士の方は助手と何やら打ち合わせしていた。

すると財前氏にも明らかな手落ちがあったことになりますね?と裁判長が問いかけると、私はそんなことは申し上げていない、私が言っていることは意味が違うと船尾教授が答えたので、意味が違うとはどういう点がどうなのか、具体的に説明してくださいと裁判長は要求する。

それは多数の患者の生命を預かる臨床医の同義的な問題、言い換えれば、医療上の問題ではなく良心の問題だということです、財前氏にはそれが欠けている!と船尾教授は断じる。

しかしなお、それに付け加えれば、本事件を契機として財前教授は一切の自信過剰、自分の勘と腕だけに頼ることなく、慎重さと謙虚を身につけ、すべての人に傲慢不遜ではなく、その卓越した医療技術をますます深め、名誉ある浪花大学第一外科の教授になるであろうということでありますと船尾は説明する。

それを聞いた佐枝子、東、今津たちも神妙な顔になる。

鵜飼や葉山たちは、いくらか安堵したような表情になる。

野坂たちもケイ子も又、真剣な眼差しになっていた。

安西、佃、柳原、金井たちも一様に安堵したような空気が流れる。

岩田と又一も、何となく安心したような顔になっていた。

しかし関口とよし江は、無念そうな顔になっていた。

里見は無表情だったが、河合弁護士はしてやったりといった顔になっていた。

財前はというと、喜びも悲しみもなく、ただ表情を引き締めていた。

裁判所から一緒に帰る里見と佐枝子。

裁判はもう終わったも同じなのですねと佐枝子が言うと、僕としては真実を反映した判決を望むだけですと里見は言う。

でも、財前さんが勝つなんて…、私絶対に我慢できません!と佐枝子は悔しがる。

東京に飛行機で帰る空港のホテルで、お陰で浪花大学も助かりました、何とお礼を申し上げて良いやら…と鵜飼が恐縮し、船尾教授に礼を言っていた。

今度の裁判は日本の医学の大きな問題ですからねと船尾は答える。

国立大学の教授が誤診や誤療では、一般市民の大学病院に対する大きな不信を招く、ひいては医学会そのものの権威にもかかわりますからね、同じ医学を報じるものとしてはやっぱり協力一致が本筋ではないでしょうか、団扇同士の選挙では妙な仲間割れも起こしましてもねと船尾が皮肉をいったので、あ、ごもっとも…と鵜飼は恐縮し頭を下げる。

後日、里見を部屋に呼んだ鵜飼は、裁判の方も一応目処がついたし、前々から君に内々に伝えていた山陰大学の赴任の件ね、先方もぜひにと言うし、僕の方で決定したからねと告げたので、里見は一瞬憮然とした顔になるが、何も言わなかった。

大学の格としては不満かもしれないが、君もとっくにこの人事には腹を決めてくれてるはずだからねと鵜飼は言う。

里見は、わかりましたと答える。

そこにやってきた財前が、部長!原告の請求は全面的に棄却されました、私の…、私の勝ちですと、その場にいた里見の顔を一瞥して嬉しそうに報告する。

そうか…、そらおめでとうと鵜飼は淡々と答える。

じゃあ、おめでたついでに今日はもう一つ良いことがある、里見君が、この度教授に昇格して山陰大学に赴任することになったよと鵜飼は教える。

山陰大学…、そうか…、いやまあ、何にしても教授なんだから、とにかくおめでとう!と財前は無表情のままの里見の顔を見ながら、口先ばかりの祝福をすると、相手の方に左手を置いて、右手を差し出す。

里見はそれには応じず、鵜飼に一礼すると退室する。

それを分と言う表情で見送った財前は、では部長、私は総回診がございますからと一礼するが、財前君、船尾教授の言葉を忘れないようにね、良いね、自信過剰には慎重と謙虚、傲慢不遜にはやはり慎重と謙虚さかなと鵜飼は言い聞かせ、笑い出す。

財前ははいと答えて一礼すると、医学部長室を後にする。

里見はその頃、山陰大学赴任を断り、本学医学部への退職届を書いていた。

病院の廊下に、ただい佃、金井、柳原ら財前派の医師を中心とした一団が廊下を進んでくる。

そんな大学病院から出てきた里見は、浪花大学を一度振り仰ぐと、そのまま去って行く。


幻燈館

映画感想

0コメント

  • 1000 / 1000