「花咲く乙女たち」

舟木一夫さんのヒット曲にあやかった歌謡映画で、舟木さんは途中から登場する。

冒頭部分の狂言回しは山内賢さんと堺正章さんで、本作品は1965年1月公開なので、撮影は前年1964年に行われているはずで、マチャアキさんはすでにスパイダースに加入していた時期なのだが、もともと子役時代から映画に出ていた方なので、本作でもピンで出演しているし、セリフ量も多いし、この頃からコミカル演技も板についている。

劇中で音痴の役をやっているマチャアキさんが愉快だが、芸歴で言うと、出演者の中で金子信雄さんに次ぐくらいのベテランなのではないだろうか。

映画ポスターでは、舟木さんと山内さんがダブル主演のように映っているが、実際は、山内さんと舟木さんとマチャアキさんのトリプル主演に近い。

ザ・スパイダースして人気が出る直前だったこともあり、マチャアキさんをあえて前面に出さなかったのかもしれない。

ヒロインは新人の方で、田代みどりさんや岡田可愛さんなど何人か当時テレビなどで人気があった方も出ておられるがちょい役程度で、全体的に女性陣は印象が弱いので、舟木さん人気だけにおぶさった企画のようにも思える。

舟木さんの出身地であるロケ先との提携の地方映画にも見える。

地方PR目的の側面もあるので、内容はかなり真面目なものになっている。

併映は浜田光夫、和泉雅子、山内賢トリオの「愛しながらの別れ」だったようで、こちらは白黒作品なので添え物で、舟木さんの本作がメイン扱いだったのだろうが、この二本立てで客が来たのだろうか?

内容は若いチンピラもので、60年代中頃の任侠映画ブームの影響を感じるが、山内賢さんも堺正章さんもヤクザには見え図、最初から無理を感じないでもない展開となっている。

まだ黒髪もフサフサしていた金子信雄さんが地方のヤクザの組長を演じている。

それにしても舟木さん演じる地元の青年、真面目すぎないか?

キネ旬データのキャスト欄では郷えい治と記してある幹部田村が誰だかわからないのだが、どう見ても郷えい治ではないことは確か。

日活サイトで調べたら、「天坊準」と言う人だとわかった。

かなり芝居は達者である。

刑事コロンボの声で知られる小池朝雄さんも若いし、コワモテの役かと思いきや、意外と人情味のある優しい兄貴役で嬉しくなる。

劇中登場する双子の演歌歌手は「京ふたり子」という芸名らしいが、この作品で初めて知った。

【以下、ストーリー】

1965年、日活、馬場当原作、堀内信男+鈴木通平脚色、柳瀬観監督作品

岐阜の路面電車が走る道路を二人乗りのバイクが疾走する。

「扇矢サイダー・ジュース 各種飲物一切」「公園名物 木の芽でんがく 植木屋」などと看板がかかった商店の横にバイクを止め、後部座席に乗っていたサブ(堺正章)と一緒に降りた運転していた昌次(山内賢)は、「おばさん、また頼むわ!」と店の女将に声をかける。

ジャンパーを脱ぎ学生服姿になってキョロキョロするサブに、慌てるな、カモはよりどりみどり、勝負はこれから!とアドバイスする昌次。

その時、岐阜城目当ての観光バスから大勢の娘たちが降り立ったので、2人は目を輝かせる。

すげえ、すげえ、腕がなりまっせ!と喜ぶサブに、アホ!短大の女相手にスケコマシできるか?と昌次は叱る。

金華山ロープウェイ乗り場で、その娘たちの列の最後尾に並ぶサブと昌次。

上にいるのか?などとサブが張り切っていると、背後から女の子たちが押してきたので、勢いで、昌次は前の女の子にぶつかり謝る。

振り返った子は、いいんですと笑顔で答え、背後の女子たちに、あんまり押さないで!と注意をしたので、背後の一軍はすみません!と詫びるが、女の子に挟まれて嬉しいサブはいいんですよと答える。

しかし昌次は、その振り向いた前列の女の子のことが気になり始める。

ロープウェイの映像に舟木一夫の主題歌とキャスト、スタッフロールが重なる。

展望台にやってきた昌次は、その後もさっきの女の子のことが気になりずっと観察していた。

そこに女の子2人連れてきたサブが、こちらがさっき話した先輩の山口さんと昌次のことを女の子たちに紹介する。

女の子2人はヨーちゃん(久保寺安江)にチエちゃん(川口道江)だとサブは昌次に紹介する。

ねえ、待ちに降りてさ、みんなで映画でも見ない?とサブが誘うが、映画よりスター見たいわ、痺れるわなどと女の子たちがいうので、ちょっと顔を顰めたサブだったが、ほら山口さん、行きましょうと昌次の肩を叩く。

その夜、バイクで帰宅すると、困るな〜、親父カンカンに怒っとるでと、バイクを借りたバイク屋の修理工ガンちゃん(井田武)が文句を言ってくる。

その辺、うまく行っといてくれよとサブは馴れ馴れしく店員と肩を組むが、そんなに乗りたいんだったら、早く新品買えよ、ね、カワサキ85の乗り心地はええやろ?と言われてしまう。

こいつ最高や、だからよ、今兄貴とゼニ貯めてる最中や、もうちっとしたらお前のところで買うたるわ、ね、兄貴!とサビが調子の良いことを言うので、昌次もよっしゃ、任せとき!絶対買うたるわ、うん!と調子をあわせる。

その後、バイクの写真が壁に貼られた昌次の部屋に来たサブは、あのスケたちよ、散々ゼニ使われ逃げられちゃた、兄貴がハッスルしてくれねえからいけねえんだよ、大体この暮らしにももう飽きたな〜、スケコマシをやるなんて最低だよなどと焼酎を飲みながらぼやき始める。

弱気を助け強気をくじく、これがヤクザだよな〜、だから特に女の子には優しくしなくちゃ、これが本当の任侠だよな〜などと酔ったサブは1人で息巻く。

しかし、ベッドに横になり、パンを齧っていた昌次は、親分がそうせい言うたら命を張るのもヤクザの道やという。

わかってます、わかってるから、嫌だと思ってもやってるんですよとサブは答える。

お前何でヤクザになったんやと言いながら、パンのかけらをサブの顔に投げつける昌次。

嫌だな〜兄貴、今頃…、俺はね、大前田英五郎一家の身内だったお爺ちゃんのじいちゃんみたいなまともなヤクザ、男になりてえんですよとサブはいう。

ヤクザにまとももヘチマもあるかいとバカにする昌次。

冗談じゃないっすよ、今のヤクザはヤクザじゃないですよ、本当のヤクザというのは大前田英五郎さんのような人を言うんですよとサブは言い張る。

まだまだ話続けようなサブにタオルを投げた昌次は、そろそろ風呂へ行こうと誘う。

そこにやってきたのは、松井組の幹部田村(天坊準)で、社長がお呼びやと告げる。

恋がしたいよ一度だけ てなてな調子で始まりまして〜♩と双子の女性歌手「京ふたり子」が「お上手ね」を歌っている大衆飲み屋に来た昌次とサブに松井組長(金子信雄)は、2人で尾西に行って川本の野郎を助けてやって欲しいんだという。

尾西って言うと、あの〜とサブが聞くと、有名な織物の街や、若いピチピチとした女子はんが町中溢れとる、ええとこやと松井組長はいう。

つまりやね、社長はんは何年か前にあの街に目をつけとって、やっと川本にバーを開かせたってわけやと田村が説明する。

そやかてあの辺、他の親分さ乗らんかったですか?と昌次が聞くと、そうや、誰もおらん、おらんわけや、街が固すぎて歯が立たへんねやと田村は説明する。

労務管理のモデル都市でな、そこが逆にこっちの目の付け所や思うねん川本を入れたんやと松井組長は指摘する。

初めのうちは上りもあったけど、ここんところさっぱりわや!と松井組長が言うので、…と言うわけでやな、若いものの街にはお前らみたいな若いものがええ、それなら昌次とサブや!社長はんが目をかけてくれはったと田村も二人を煽てる。

それを聞いた二人は、おおきにありがとうございますと頭を下げる。

とにかくお前らのスケコマシの腕を活かして1人でも2人でも多くの女工を辞めさせて、この街に連れてくるんやと松井組長はいう。

知っての通り、キャバレーでもバーでもトルコでも、あちゃの子でもこっちゃの子でもぎょうさん送り込めば、それだけお前らは手数料をごっそり稼げるわけや、わかったか?と松井組長はいう。

成績上げたらお前らを準幹部にしてやっても良いと社長も仰ってるねん、しっかりやってやと田村がいうので、任しといてくださいと昌次は応える。

翌日、昌次とサブは、名鉄運輸のトラックの荷台に乗せてもらい、愛知県尾西市にやってくる。

殺風景やなと昌次が街を見渡し感想を言うと、兄貴、若い子なんてどこにも溢れていないぜ、バーなんて一軒もないぜと答える。

確かにこの辺なんだがなと昌次は戸惑う。

工場で聞いてみようか?とサブがいうが、あいつに聞いてみようと昌次は、通りかかった「尾西給食センター」の軽トラを停める。

危ないじゃないか、急に飛び出したりして!と運転席から身を乗り出したのは太一(舟木一夫)だった。

何だこのやろう、舐めた口聞きやがって!このバッジが目に入んないのかよとサブがスーツの襟につけた松井組のバッジを見せながら言い返すと、あまり見たことないバッジだな、どこの工場だ?と太一は聞く。

その時、お前、「パラダイス」というバー知らないか?と昌次が聞くと、「パラダイス」?バーなんかあったかな?と太一は首を傾げる。

思い出すんだとサブが強要すると、そない言われたら…、あ、一軒あったわと太一は思い出し、けどな、一週間くらい前に潰れたようだというので、潰れた?と昌次は驚く。

「おしるこの店 みつばち」という店にやってきた二人だったが、バーを転じてしるこ屋ってのは無茶だと思うな〜とサブはいい、どないなっとんねん、これ…と昌次も唖然とする。

その時、暖簾を出しに出てきた男の顔を見た昌次は、兄貴!と呼びかけたので、何だ昌次か、もうくる頃だと思ってたんだ…、中に入れと川本(小池朝雄)の方も気づく。

川本の兄貴、こいつ、新入りでサブって言うんですと昌次は紹介する。

ああそうか…と川本が笑顔で迎えると、急にハーフコートを捲り上げたサブは、おひけえなすって!手前生国と発しまするは…といきなり仁義を切り始める。

辞めてくれよ、こんなところで…、いいから入れと川本は周囲の目を気にしてやめさせる。

そうっすか、真平ごめんなすってなどと言いながらサブと昌次は店の中に入る。

店の中にいた川本の妻はる子(上月左知子)に、姐さんよろしくお願いしますと挨拶する二人に、こんな汚いところですけどね、よかったらいつまでもいてくださいよと答える。

スーツ姿の2人は、お世話になりますと頭を下げる。

それから、姐さんなんて私の柄じゃないですからね、ハルさんとでも呼んでくださいよとはる子はいい、じゃあお汁粉でも持ってこようかね?と川本に問いかけ立ち上がるが、あの〜、甘いのより辛い方が…、今から‥…などと猪口を傾けるジェスチャーでサブは言い出したので、アホ!と昌次は呆れる。

笑いながら川本は、せっかくだけど酒は置いてないぞというので、サブはガックリ。

かみさんに、博打とこっちを辞めさせられたよと猪口を傾ける真似をして苦笑する川本は、全くたいへんなの背負い込んじゃったと笑う。

ああそうだ、楽にしろよと川本が足を崩させたので、あの〜、結婚なさって何年ですか?と昌次が聞くと、ここへきてからだから、ちょうど3年か?と川本は思い出しながら答える。

ここの織姫上がりでね、顔はチンケだけどよく働くんだ、つまりだ、カモにするつもりが、逆に俺がカモにされちまったって訳だと川本は愛妻の惚気を聞かして笑う。

愛想笑いで付き合った二人は、それにしてもなぜ「しるこ屋」?ヤクザと「しるこ屋」って合わないと思うんですが?と素朴な疑問を投げかける。

川本は、まあ、この街でバーをやろうってのが、まあ無理だったんだよな、儲けは少ないがこの方が確実に儲けになる、何しろ女の子の街だもの…と答えたので、そらかて野郎かて…と昌次が不思議がると、そりゃこれだけの人口だものたくさんいるさ、でもバーはいけねえさ、バーガいけねえってんじゃなくて、その気持ちだな、顔にでちまうんだな、いつの間にか…、そうなると街の人が相手にしてくれねえ、つまり信用がつかねってわけだ…と言う。

あ、なるほど…、スケに網を張るにはしるこ屋が一番って訳ですか?考えましたね、兄貴!とサブが感心すると、お前たちつまり、スケコマシみたいなことで来たわけか?と川本は不安そうに聞き返す。

へ!社長からそない言われてきましたと昌次が答えると、ま、社長の命令じゃしょうがねえや、まあ、焦らずやるんだな、と言うのもな、働いている子の9割は他の県から来ている、ま、地元の市などは気を遣ってな、その人たちのことを大事にしている、だから俺の言うことわかっただろ?と言う川本の話声を、台所で汁粉を用意していたはる子は耳にする。

工場では、大勢の女子工員たちが働いている。(「花咲く乙女たち」のメロディが流れる)

自室で学生服に着替えようとした昌次とサブだったが、さ、すまないが、店が忙しくなっちゃたよと若本が部屋にやってきて、しるこ屋のエプロンを着せられる羽目になる。

しかし、店内が女の子ばかりだと知ると、二人ともニコニコ顔になる。

そんな中、サブはしるこをかき混ぜる役目を仰せつかってしまいガックリくる。

客席にしるこを運ぶ役目は昌次が仰せつかるが、その時、客の一人が先日ロープウェイの列で前にいた女こと気づき、相手もあら?と喜ぶ。

同席した3人の女の子たちが、知ってるの?と聞くので、この間ちょっと、ほら金華山の時よとその女の子サツキ(西尾三枝子)がいうので、ああ、私たち合わなかったじゃない、早いわねと他の3人はさつきを揶揄う。

紹介してよなどというので、私もまだお名前を…とサツキが困っているので、山口昌次ですと昌次は自分から自己紹介する。

この店でアルバイト?とサツキが聞いたので、え?と驚いた昌次だったが、ああまあ、そんなところやと思いますと曖昧に答える。

私たちも名乗るわねと言い出した女性が、この子は林田サツキ、私は堀かな子…などと次々に名乗り出す。

その様子を驚いたように見つめる川本とはる子だったが、新しい客が入ってくると、サブが注文を聞いてきますといい、しゃもじを川本に渡して、自分は勝手に店内へと向かう。

サブが相手をした新しい客たちは、先日ロープウェイの列でサブにぶつかってきたグループであり、サブがそのことを伝えると、当てのうち3人は思い出して盛り上がるが1人だけ無反応な子がおり、あの時いなかったねとサブが指摘すると、歯が痛くなってしもうてと参加しなかった理由を水瀬ヨシエ(田代みどり)は答える。

僕サブちゃんですと自己紹介し始めたので、川本とはる子は唖然とする。

昌次は、おしるこを食べ終えたサツキたちにまだ仕事あるの?と聞きに来るが、また来るわねと言って料金を出そうとするので、お金はいいよ、今日はわいの奢りや、お近づきの印に…などと言ってしまう。

それを聞いた同席の3人も、私たちもただ?と聞くので、悩んだ末、しょうがない、奢りだ!などと昌次が行ってしまうし、サブの方は女性客と一緒に自分もおしるこを食べておしゃべりしているで、川本夫婦は呆然としてしまう。

その後、給料をもらった昌次はサブと3000円ずつ当座の小遣いとして分け合い、残りはバイク購入用の積立に残すことにする。

それでもサブは、社長はケチだな〜とぼやいていた。

一方、売上の計算をやっていたはる子は、私今後のことが心配になってきた、特にあの二人…と2階のサブたちのことを暗示しながら不安を川本に漏らしていた。

昼間釘は刺しといたから、当分間違いは起こさないだろうけど、ま、しばらく様子を見ようじゃないかと「川本がいうので、騒ぎを起こしてくれなければいいけどねとはる子は不安げに答える。

後日、昌次はサツキに会えないものかと、こっそり工場に見に行ったりする。

寮で手紙を書いていたサツキは、友達が外出の誘いに来るが断る。

一方、スーツ姿のサブは、自ら出掛けて女子工員に声をかけていた。

いつもどこに遊びに行くの?一宮?岐阜?名古屋?などとサブは気安く語りかけるが、昌次はさつきが一人で外出したのを見つけ後を追う。

たまにね、でもリクレーションなんかですぐできるでしょう?とサブが見つけた女子工員は良い、工場ではクラブがあるからなんでもできるねんとフミコ(岡田可愛)がいい、コーラス会、映画鑑賞会、読書サークル、洋裁、お花にお茶に書道、手芸に…と幾つもあげるので、もうわかったとサブは止める。

昌次は本屋に入ったサツキにわざと体をぶつけ、スンマヘンというと、振り返ったサツキは、あら?昨日はどうも…と話しかけるが、昌次がたまたま手に取った本のタイトルを見て、お勉強?難しそうな本ねなどと聞いてくる。

本のタイトルは「人間形成の社会学」であった。

大学って難しいんでしょう?などと聞かれたので、あ、まあ…と昌次はごまかすしかなかった。

一方「おしるこの店 みつばち」では、女性客たちが昌次さんは?サブちゃんは?とやたらと言いてくるので、川本が、それがね…、どこに行ったのか…とあきれて答えていた、あいつら早くもおっ始めたらしいぜとはる子に伝える。

サツキに誘われ「尾西市文化会館」にやってきた昌次は、春になると新しい仲間でこの道いっぱいになるのというサツキの話を聞いていた。

そしてこの文化会館で市の歓迎会があり、それからみんないろいろな職場に散っていくわけで、最初はね、変な処に来たと思ったわ、だってとってもやかましいんですもの、音がね、でも今は休みなんで音がしないとなんだか寂しいとサツキはいう。

その休みなんだけど、湯気へボウリングへでも行かないか?と昌次が誘うと、嬉しいわ。でも…とサツキはいい、そこに林田くん!何してるの?と呼びかけてきたのは太一だった。

こちらは脇村太一さん、定時制高校のクラスメイト、こちらは山口昌次さん、「みつばち」でアルバイトしている学生さんとサツキが2人を紹介する。

学生さん?けど君は…と太一が昌次のことを指差したので、ほな、また後でな…と昌次は自分の正体がバレるのを恐れ、逃げ去る様に立ち去る。

サツキは、一緒に来ない?河原でコーラス会があるのと誘うが、昌次はそのまま帰ったので、どうしたのかな?とサツキは不思議がる。

その後、河原に集まった女子たちを相手に太一は「村の鍛冶屋」のコーラスの指導をしていたが、そこに一人音痴な歌声が混ざる。

音痴のサブであった。

遠くからその様子を見てた昌次は、サブの奴…と苦笑するが、何事かを思いつく。

浪花節調にアレンジした「村の鍛冶屋」を歌いながら「みつばち」の2階へ帰って来たサブは、いらしたんですか?と昌次に気づくと、うまくいきそうですぜと上機嫌だった.

それでも昌次の様子を見て、綺麗に振られたってわけですねと気づいたサブだったが、商売人が天井見てぼんやりしてるなんていうのはいただけませんねなどと言いながら、隠していたスルメと洋酒の瓶を紐で引き上げて飲み始める。

あの定時制のやろう、サツキにワイらがヤクザというのをしゃべりやがったんだなと昌次は呟く。

定時制高校で大智と出会ったサツキは、ヤクザ?と驚く。

ああ、出会いがおかしかったんで、ちょっと調べたんだと太一がいうので、そうなの…と落胆するサツキ。

ヤクザなんか辞めてあの店で真面目に働くつもりかもしれんなと太一が言うので、それならいいわねとサツキも納得する。

けど、なんで学生なんて嘘つくんやろ?と太一は不思議がる。

その後「みつばち」の2階にやって来た川本は、おい!お客さんだぞ、丁重におもてなしするんだぜと言って連れて来たのはセーラー服姿のサツキだった。

ああ君かと言いながら炬燵に起き上がった昌次は、さあどうぞと招き入れ、サブに向かって指でOKサインをして見せる。

サブはむさ苦しいところですが…などと言い添えたので、サツキの背後にいた川本は苦笑する。

サツキは炬燵の上に50円玉4枚並べ、この間のお汁粉のお金です、4人分で200円という。

あれはワイの奢りやと言うたのに…と昌次が言い返すと、あんたに奢ってもらう理由はないわというと、失礼と言って立ち上がったので、どないしたんと昌次も立ち上がると、理由はないわ、私はヤクザは嫌いよと言ってサツキはさっさと帰ってしまう。

そんな昌次をニヤついた顔で見ながら川本は障子を閉める。

サブも嬉しそうだったので、クソ…と呟いた昌次は、サブ!何がおかしいんじゃ!と叱りつける。

サブは何もおかしくありませんとしょげて見せるが、次の瞬間、あ、兄貴!これのこれのこれが喋りやがったんだよと、太一の髪型や顔の形、八重歯などの特徴を真似ながら指摘する。

その後「尾西給食センター」でネギを切っていた太一に、客が来て話があると言っていると社員が言いにくる。

気をつけろよ、なんやらチンピラみたいでけすの〜と言うので、外に出てみると、なんや君か?僕に話があるというのは?何や?という。

そこにいたのはタバコを吸っていたサブだったからだ。

するとサブはイキってみせ、落とし前つけてもらおうじゃないかよと言ってくる。

落とし前?と戸惑う太一に、そうよ、てめえ、スケに何を告げ口したんだよとサブは聞くが、ここでは都合悪い、顔貸しなと場所を移動しようとするので、後にしてくれんかな?今忙しんや、夕方配達が済んでからにしてくれよと太一はいう。

何だとこのやろう!とサブが太一の首根っこを掴むと、何しとん太一!と社員やバイト連中が包丁片手に出て来たので、別にどないもせえへんのやけどねと太一は説明し、サブも急に口調が変わり、あの…6時ね、新幹線と名神高速のガードの下で待ってますか1人で来てくださいね、必ず1人でね、バイバイ!と念を押して去ってゆく。

夕方、あいつ1人でくるかな?などと不安がっていたサブと昌次だったが、約束通り軽トラに乗って、太一がやってくる。

1人だろうな?と聞き、軽トラの中を確認してみたサブは、いい度胸しているじゃねえかよと褒め、さあ、さっきの返事まだ聞いてなかったな?聞かしてもらおうじゃないかとイキる。

さつきちゃんに告げ口したちゅうことか?と太一が聞くと、そうやというので、あのな、僕はこの木曽川で生湯をつこうたんやと太一は言い出す。

それがどうした?とサブがいうと、僕だけじゃない、死んだ親父もおじちゃんもこの川で生湯をつこうたんやと太一は続ける。

何が言いたいんだよ?とサブが聞くと、君たちも君たちの縄張り荒らそすとする奴が来たからそいつらがら自分を守ろうとするやろ?と太一が聞くので、当たり前よとサブが答えると、殴られたら殴り返すやろ?と太一が言うので、当たり前さ!とサブは応じる。

僕も同じや、この街は僕の街や、そないする義務があるやと太一は主張する。

すると側に近づいて来ていた昌次が、お前ほんまにええ度胸しとるな?と話しかけてくる。

お前の言うとおりじゃ、理屈はちゃんと通っとると昌次は言う。

サブ、先さんはああ言うとるんじゃ、かたをつけいと命じ、あんたもそんだけ強いことをほざいたんなら、存分にやったれと太一にけしかける。

サブはコートを脱ぐが、太一は暴力なんかじゃ問題は解決せえへんと太一は言い返したので、何を?とサブは生きる。

けどな、君たちがどないしてもやりたいん言うんな殴るなり蹴るなり好きにしてくれと太一はいう。

その代わりな、今後一切、彼女とも誰ともこの街の人とは関わり会うて欲しくないんや、もちろん僕ともやという。

僕はな、君たちなんかと関わり合うことになって自分が恥ずかしいんだからと太一が言い、さあ殴ってくれとサブに告げる。

ほざくんじゃねえよ、このやろう!とサブが言うだけでブルっていたので、サブ、ヤッパでぶっ刺すんじゃと昌次はサブにドスを投げ渡す。

それを受け取ったサブは、やばっ!兄貴…と言うとますますビビるが、やるんじゃ!と昌次は命じる。

それでもサブは兄貴…と言うだけなので、昌次はそんなサブをビンタすると、今度はワイが相手やと言いながら太一に対峙する。

太一が身構えたので、冗談や、カタギのお前とゴロ巻いたかて自慢にならんわと笑った昌次だったが、お前、ヤクザならへんかなどと言い出す。

ヤクザに?と太一が面食らうと、お前なら3年もみっちりやれば一端の幹部になれると昌次は保証する。

すると太一は笑い出し、おんなじ様なこと考えてるもんやな、僕もな、君が3年もみっちり勉強したら僕らの仲間にすぐなれるやろうなと今思うていたところやと言うので、昌次が照れてもう帰ってええわと言い出したので、もうええんやな、ほなと太一はいい、車に乗り込もうとする。

昌次はそこまで乗せてってくれないかと言うと、ま、ええやろといい太一は承知する。

給食センターに連れてきた昌次とサブに、有り合わせの夕食まで振る舞う太一。

どうや味は?と太一に聞かれたサブは、うまいと褒め、だけど何やな、妙なところやな給食センターってと昌次も感想を言う。

この街にはな、大きな工場も多いけど、飯を炊く暇もないほどの小さな工場がいっぱいある。そういう小さな工場のために僕たちが代わりに飯を作って運んでいると太一が説明すると、変わった商売やなと昌次は言う。

こんなところで一月働いていくらになる?とサブが聞くと、1万6000円や、そのうち3000円は食事代として引かれるけどなと太一は答える。

ワイのタバコ銭や、となると、好きな博打打って女の子引っ掛けてオダあげてゼニになる、俺たちの稼ぎやめられへんなと昌次はサブにいうと、サブは愉快そうに笑う。

すると太一が、あのな、君たちのような商売の人にいっぺん聞いてみたいと思っとたんやけどな、それで不安と違うの自分らという。

どういう意味やと昌次が聞くと、困れば何が頼りになるかいうことやと太一はいう。

そりゃお前…、としばし考えた昌次は組っちゅうもんがあると答える。

親分がいて兄貴がいる、困ることがあればちゃんとやってくれるよな?とサブに聞く昌次。

サブがうなづくと、それなら僕らと同じや、先生もいてれば先輩もいてる、それに一緒に働いている仲間もちゃんといるしと太一はいう。

ご馳走様とサブがいったので、もうええか?と太一はいい、そういうことと違うてな、自分の何が頼りになるかっちゅうことやと昌次に再び問いかける。

それはつまり…とまた言い淀んだ昌次だったが、自分の腕やと言い張る。

腕な…と苦笑した太一に、そんな難しいこと考えたことないわと昌次は答えと、ならお前はと逆に聞く。

そない言われたら僕にもわからへんわと太一も困ったので、ほなら俺とお前は同じちゅうわけやなと昌次は愉快そうにいう。

同じ?そら、そういうことになるなと太一も困った様に同意すると、こいつは嬉しいぜとサブと一緒に昌次は笑い出す。

太一も仕方なく一緒に笑い出す。

食後の茶を啜りながら、まだ夜まで働いている太一に大変やなと話しかけた昌次だったが、ところでな、君たちこの街に何しにきたんや?学生だなんて嘘までついて…と太一は聞く。

昌次は心を開いたのか、よーし話したると言い出し、ええか、これだけ街にうじゃうじゃ女の子がいとる、お前かてたまに妙な気持ちになることあるやろ?と聞くので、さらまあわても男やかならなと太一が答えると、ワイはあの女ことたちにもっと楽で楽しんでやね、その上銭になる仕事を世話してやりたいねんという。

つまり世間知らずのあの子たちにもっと広い世界を見せてやりたい、こない思ってるねんと昌次は笑いながら教え、サブはどこ行きよったんやと急に思い出す。

サブは社員たちを集め博打をやっていた。

それを呆れてみていた昌次の肩を叩いた大智は、一緒に来ないか?女の子が大勢いてるところやと誘う。

ほんまか?と昌次がいうと、よりどりみどりと太一が言うので、お前、本当は話せるやんけと昌次は喜ぶ。

そこは製糸工場だった。

昌次はそこで働く女工たちを楽しそうに物色し始めるので、それを見ていた太一も笑顔になる。

しかし昌次は、製糸機械の動きを見ているうちに、昔、藁を打って貧しい暮らしを支え亡くなった母親のことを思い出す。

突然その場から逃げ出すように移動した昌次は、働いていたサツキの姿も見つけるが、何も言わずに工場から出て行ってしまう。

太一はそんな昌次の様子を驚いたように見送ると、慌てって外に駆け出し、昌次の方を捕まえ、どないしたんや急に?と聞く。

なんやガチャったでしょう?だからチャしたとこだと頭痛うなるわと言うので、悪かったな、けどあの人たちが働いているところ君にも見て欲しかったやと太一はいう。

僕はな、あの人たちが働いているところを見ると、こら負けてられへん、いつもそない思うんや、なんやすごい励みになるやん?というと、さよか?と昌次はつれない返事をする。

あの人たちはな、ああやって精一杯働いて親元を離れてる、大抵家かて豊かではない、けど明るいんや、とにかく明るいんや、きっと明日っていうのがあるんやなと太一が続けていると、、

それがどないしたちゅうねん!と突然昌次はキレる。

同じやんか、ワイかて貧乏人の倅や、明日ないとは言われへんどと昌次が言い出したので、太一は考え込んでしまうが、まあ、ええわ、これやらへんか?と酒を飲む真似をしてみせる。

屋台のおでん屋で昌次は、あにサツキいう子、なかなかええなあと昌次がいうので、あの人大変なんやと太一が言うので。

何がや?と聞くと、うちがな信州で百姓してるんや、小さな妹や弟が5人もいてるらしいと太一はいう。

そやから月1万5000円もらう給料のうち、1万円仕送りしてるんやというので、別に珍しいことあらへんと昌次が言い返すと、珍しくないのと大変なのは違うよと太一はいう。

そらそやけど…と昌次が戸惑うと、ところでな、みんなにもっと広い世界を見せてやりたいちゅう、さっきの話やけどなと太一は続ける。

それがどないしたちゅう年と昌次が絡むと、みんなをそっとしといて欲しいんや、みんな今のままで幸せなんやと太一が言うと、ちょっとまった、それは彼女たちが決めることや、そうやないと民主主義に反するわけや、そうやろ?と昌次はいう。

そらま、そうや、けどな僕は君たちと一緒にこの街を出て行く女は一人もいないちゅう方に賭けるわと太一は断言する。

さよか、ま、見ててみ…と昌次は揶揄うようにいうが、それより、この街にいてるんやったら、みんなと友達にならへんか?と太一は勧める。

友達?と昌次が聞き返すと、そうやみんなと一緒に働くんやと太一はいう。

働く?と昌次は戸惑うが、その気があるんやったら僕が頼んでもいいよと太一はいう。

しばし思案顔だった昌次は、おどと頃い!いっちょ働いてみるか!お前の賭けが勝つか、ワイの賭けが勝つか!と乗り気になる。

その時、あ、いけねえな、兄貴!こんなところにいたのかと暖簾を分けて顔を覗かせたのはサブだった。

サブは、こんな儲かっちゃったと言いながら札束を差し出したので、おいちょかぶか?と昌次が聞くと、みんな、教えてくれっていうもんだからねとサブはその場にあったお銚子を手に期限よく答えるが、昌次はその札束を全部取り上げ、これ返してくれへんかと太一に渡そうとする。

サブが不満顔をすると、堅気の人から金を巻き上げやがって、それが大前田英五郎の教えってわけか?と昌次は叱る。

けどな、このお金、みんなかて受けとらへん思うんやと太一は受け取りを拒否する。

なんでや?と昌次が聞くと、勝負は勝負や、博打に負けたからいうていちいち泣き言言うてたら堅気の恥やと太一はいう。

このやろう、我みたいなこと抜かしやがって気に入った!今から兄弟分野といいながら昌次が手を差し出したので、冗談言わんといてくれと太一は笑う。

昌次は、おっさん、その一升瓶もろうてくぞと屋台の親父に声をかける。

一升瓶持参で給食センターに戻った3人は、そこに残っていた社員たちと一緒に酒を飲み、太一が歌を披露する。

陽気に酒を飲んでいた昌次だったが、壁にかけてある製紙工場の女工が写ったカレンダーを目にするとまた急に真面目な顔に戻るのだった。

一方、女工のコシエやフミコたちは、な、サブちゃんが言うとった話、あれ、どない思う?などと話し合っていた。

ああ、私たちに工場辞めてキャバレーで働けって話、キャバレーの女給さん、一月で10万くらいになるのよ、考えてんだな〜私、そや、うちもそれ考えてたんやけどな、たとえ半分の5万としてやで、毎日お酒のんでじゃかすか遊んじゃってやで、その上お金が行さんもらえて、毎日織り機ばかり動かしているより刺激があってええかもしれへんななどとコシエたちは乗り気なので、あんたら何言うてんの!最近どうもおかしい思うとったら、そんなことばっかり考えて仕事してたんでしょうとフミコは注意する。

サブちゃんにいうんよ、今度サブちゃんがいうたら怒る気持ちにならんといかんのよ!わかったか!と典子が確認すると、みんなは〜いと無表情に答える。

翌日、おはよう!また寝ちゃったの脇村くんとサツキがやってくる。

しかし、布団の中にいるのは1人ではないと気づき、そっと布団をめくって中を見ると、寝ていたのはサブと昌次だったので、あんたたち、どうしたの一体?とサツキは聞く。

君か…と気づいて目覚めた昌次がおはようと挨拶すると、何してるの?こんなところで…とサツキは怪しむ。

何をて、寝てたんやと昌次が答えると、それはわかってるけどとサツキが戸惑っていると、鼻歌を歌いながら太一が戻ってきたので、訳を聞くと、それが…、話合うてたら、なんとなく馬が合うてしもうてなと太一は説明する。

しかしサツキは、私は仲良くできないわ、何よ、ヤクザとは付き合うなって言ったくせにと怒り、帰ろうとするので、何やと、ちょっと待て!と昌次は止めようとするが、私はこれを返しにきたの、ノートというと、ありがとうと太一に礼を言い、それから私たちを突き回すのはやめてと昌次に言い残し帰ってゆく。

悦になんなよ、お姉ちゃん追いかけ回すほどこちとら稼いどらんわい!なんでや?と昌次は言い返し、太一も呆然と見送るしかなかった。

気にすることあらへん、僕から彼女によくいうとくからと太一は慰めるが、昌次はサブ行くぞ!と布団を蹴り、自分の荷物を持って出て行こうとするので、ちょっと待て、どこに行くんや?もうちょっとゆっくりしていけよと太一は勧める。

すると昌次は、ああ、お前あいつに惚れてるのか?そやろ…と気づいたような言い方をしてくる。

太一は、ああ、好きやとあっさり告白する。

そうか、安心性、あんな小娘どうこうしに行くわけやあらへん、他にええタマはなんぼでもいてると昌次はいい、こらサブ!いい加減に起きさらせ、どつくぞ我!と叱りつける。

競輪場

昌次とサブはそれに賭けて儲けていた。

一宮市商店街に来た昌次は、今日はこの金でパーっと遊ぼうというので、バイクの積立金にちょっとしようよとサブがアドバイスするが、金は天下の回りもの、これでパーっと遊ぼうと昌次がいうので、行くか?とサブも酒を飲む真似をする。

その時サブが、近くでたむろしていた馴染みの女子工員グループの姿を見つけたので、水瀬さんたちだ!兄貴、一緒に遊ぼうよと言い出す。

昌次は1枚だけ札をサブに渡し、お前行けよというので、サブは一緒に行こうよと誘うが、昌次の態度を見て自分だけ女子工員の元へ向かうので、なるだけ早う帰れと昌次は声をかける。

定時制高校の授業風景に舟木一夫の歌が重なる。

太一とサツキは隣り合った席だったが、何となくギクシャクしていたので、林田くん、山口君のことで僕に当たるのは筋違いと違うかと外で話しかける。

どうしてあんな人と付き合ったりするの?とサツキがいうので、あいつと話して見てわかった、あいつはほんまはええ奴やと太一が答えると、ヤクザにいい奴なんているの?とサツキは問い詰める。

あいつだって生まれながらのヤクザ者と違うんや、あいつの気持ちが僕にはようわかるんや、僕かてな、苦しい時ヤケになってヤクザになってしまおうかと思ったことが一度や二度はあるんや、男にはそういう時があるもんや、そやからな…と太一はいう。

今でもそういう時あるの?とサツキがいうので、もうそういうのは卒業したつもりやけどなと太一は笑う。

とにかくあいつも何かのきっかけでああなったんやろう、きっと人には言われん苦しいことがいっぱいあったんやろ、けどな、あいつにはまだ見込みがあるんやと太一がいうと、見込みって立ち直る?とさつきが聞くので、ああ、そうやと太一は答える。

それでもサツキはそっぽを向き、そんなことに関係することはないと思う、私たちって自分のことで精一杯なんだもの…、あなただって私だってといい、立ち去ろうとしたので、それは君の本心とは違うなと太一は語りかける。

太一さん、昌次さん好きなのね、でも私たちにそんな力ないんじゃないかしら?とサツキがいうので、たとえ小さな力でもな、みんなで貸してやったら大きな力になる、それをするにはな、まずみんなが友達になってやることや、そない思うやろ?と太一はいう。

サツキは渋々頷いたので、今度のコーラス会のハイキングにな、あの二人を誘おうと思うてんと太一はいうのでサツキは驚き、ダメよそんな…と拒否するが、来るよ、君が誘ったらなと太一は笑顔で指摘する。

私が?とサツキが驚くと、そうや、君が誘ってやれと太一がいうと、できないわ、そんなこと!絶対にできないわとサツキは言いながらも考え込んでしまう。

翌日、川のほとりで寝そべっていた昌次に近づいたサツキは、無理に笑顔を浮かべ、昨日はごめんなさい、渡し、あんなこと言って本当に悪かったと思ってるのとサツキは話しかける。

ほんまか?とコートをまくってサツキに向かい合った昌次が聞くと、ええとサツキが答えたので、ならええわい、ええんじゃいと昌次は喜ぶ。

ありがとうと礼を言ったサツキは、それからね、明後日なんだけど、私たちコーラス会のハイキングで犬山に行くのよ、一緒に行かない?と誘う。

私たち、あなたにお友達になって欲しいのとサツキが頼むので、そらまあ、わてかてな…と昌次も表情を和らげる。

脇村君の家はね、大々この街で機屋だったのよ、でも小さい頃破産しちゃったのとサツキは昌次と歩きながら話す。

ご両親が亡くなってね、で、四人兄弟散り散りになってしまったの、でも脇村君、必ず自分の手で再建するんだって、この地から出て行かずに頑張ってるの、偉いんだわ脇村君ってとサツキはいい、あ、ここで良いわ、どうもありがとう、明後日、きっとよ!と念を押すとさよならと言って立ち去ろうとしたので、ちょっと待ってと昌次は呼び止める。

君な、ワイのことどない思う?と昌次が聞くと、そうね、少し気になったわと言って走り去ったので、昌次は笑顔になる。

その頃、「みつばち」に来ていたコシエは、うちもいつかこんな店をやってみたいわ、サブちゃんは?とサブに言っていた。

サブは、俺は大前田…と言いかけ、おしるこ屋って甘くて良いねなどとごまかす。

うち、サブちゃんとやったら絶対上手く行くと思うんやけどなとコシエが言うんで、サブは嬉しそうに笑いながらも、奥の厨房で働く川本夫婦の姿に自分とコシエの姿をダブらせた未来を想像する。

それはコシエに命令され、言うがままに働かされる自分だったので、サブは顔を顰める。

そこにうっとりしたような表情の昌次が戻ってきたので、兄貴!とサブは声をかけるが、様子がおかしいので首を傾げる。

厨房の横を通る時、上に田村さんが来ていると川本から言われ、え!田村さん!と昌次は我にかえる。

あれからだいぶん日も経っとるちゅうわけで、社長がわいを寄越したねん、一体どない具合になっとるねん?と部屋で待っていた田村が聞くので、それはつまり上手く行ってますと昌次は答える。

例えばハイキングに行きますねんけどな…と急に思い出した昌次は続けるが、ハイキング?それがどない視点?と田村はいうんで、それに潜り込んでですね、スケたちと一緒に行くというわけでして、そこでダメを押すと…、ええチャンスですね、こないなっとりますとしどろもどろで説明すると、なるほどな…、しかしな、なるべく早くめどつけたほうがええで…、社長もヤキモキしとるさかいなと田村は忠告する。

へ、わかってま…と昌次は生返事をする。

ハイキングの日、昌次はバスで犬山に向かうと、今日はみなさんに新しい仲間を紹介しようと思います、二人ともおしるこ屋の「みつばち」に来た店員さんなので、僕たち働く仲間に加わる資格があると思いますと太一がメンバーたちに挨拶し、じゃあ、ご挨拶をどうぞと促す。

しかしなぜか山口が口を開かないので、兄貴はどうも人見知りするたちで、僭越ながら代理紹介させていただきますと立ち上がったサブが、大日本八州会松井組一家準幹部…になろうというところの山口昌次!どうぞ御昵懇になどと言い出したので、参加していたコシエたち女工たちは騒ぎ出す。

立ち上がった昌次は、全くその通りですと認め、よろしく!と言う。

アコーデオン伴奏で太一が歌を歌い始め、参加者たちもそれに唱和する。

しかし、それに加われない昌次はタバコを吸おうとしたりするが、場違いなことを悟りその場を去ったので、それに気づいたサツキも後を追う。

見晴台にいた昌次に、声をかけたサツキは、意気地がないのね、ヤクザなんてから元気なのかな?という。

帰れよと昌次がいうので、みんなで一緒に歌わない?とサツキが誘うと、ワイらが知っとるかあんな歌…と昌次は拗ねる。

ワイの知っとるのはな、ツーツーレロレロと三島女郎衆やというので、威張ってる!私だってつツーレロレロくらい知ってるわよとサツキは返す。

すると昌次は、歌うてみろ、歌わんかい!と脅してくる。

サツキは一瞬戸惑うが、歌っている仲間たちから距離があることを確認すると、歌うわと言い、ツーツーレロレロとツーレロ節を歌い出す。

自信なさげに歌うさつきに昌次は、聞こえまへんなと意地悪を言う。

ふん、お決まりの文句で歌いやがる、もっとどぎついのは知らんのかい?カマトトぶるな!遠慮せんとやったらどうや?と昌次はますます図に乗ってきたので、追い込まれたサツキはそのまま歌い続けようとするが、止めい!ふざけるな!ほんまの文句はな、こない歌うんねんといい、うちの母ちゃん、洗濯好きよ、夜…とふざけて歌い出すが、悲しげに見つめるサツキに気付き止めてしまう。

ワイな、なんで尾西の街に来たか知っとるか?俺はおまいらを騙しに来たんじゃと昌次は打ち明ける。

するとサツキが 涙ぐんでいるので昌次は黙り込む。

そこにやってきたサブが、兄貴、みんなが…と伝えるが、昌次はサブを手招いて場所を変える。

一宮栄通に来た昌次とサブは、女性たちにしつこく絡んでいる不良学生を見つけたので、ちょいとそこまで顔貸してんかと声をかける。

暗がりに連れ込んだ昌次は、いきなり相手を殴りつけ、セイガクのくせしてからに、あないなところでぶらぶらしてやがって!と叱り、サブも、勉強してりゃいいんだ!親に心配させるんじゃねよ、覚えとけ!と説教し、そのまま帰らせる。

そして2人で泥酔した後「みつばち」に帰るが、店で待っていた太一に気づくと、お前そこで何しとるんねん?と聞く。

やっと帰ってきよったなと立ち上がった太一に、親父さんどこに行っとるんや?と昌次が聞くと、おかみさんと外出てると太一は教える。

それでおれになんのようや?と昌次が聞くと、今日昼間のことで文句言いに来たんやと大知はいう。

あんな風に途中で帰ってしもうて!あんなこと男のすること違う!と太一は怒る。

何やと!と泥酔したサブが言い返したので、ま、いいからいいからと宥めた昌次は、そんで?と聞く。

君たちはな、よう顔を立てるとか潰すというけどな、今日の僕はな、友達に君たちを紹介したんやと太一が言うのを、実は店の奥で聞いていた河本が出て行こうとするが、それをはる子が止める。

てめえ!と前に出ようとするサブを、ええんじゃと制止した昌次は、すまん、許してくれと客用の椅子に座って詫びる。

きゅうに笑い出した昌次は、わい今日アホやったなと言い出す。

人間クヨクヨしたってしょうない、持って生まれた面しかないんやからな、他人様は他人様やと言うと、ああ愉快なり♩と歌い出し、気安く太一の肩に手をかけると、お前、ほんまにええ奴…と褒める。

そしてサブ君!と呼び寄せると3人肩組んで、お前もいい奴などと昌次は言うと、な、許してくれよと謝る。

それを聞いた太一は、その言葉、サツキさんに聞かしてやりたいな、喜ぶやろ?という。

サツキ?サツキかてワイに文句ないやろ?と昌次が睨んできたので、その話はもういいやん、ところでな、また一つ頼みができたんやと太一がいうと、よっしゃ、何でも頼まれたろと昌次は答える。

サビに水くれと頼んだ昌次に、実はな、サツキちゃんのお父さんが今日急に出てきよったんやと太一は話を始める。

信州やからなと昌次が納得すると、今日の明日やろ、サツキちゃん、休みが取れへんのやと太一はいう。

僕かて給食の仕事が忙しいしさ‥と太一が言っているところにサブが水を持ってくる。

わかった、わいがガイドで色々と見物!と昌次が気づいたので、大知は頷く。

サブのコップを受け取った昌次は、何で本人が頼みに来んのや!と聞く。

何や知らんけどな、変な歌うとうたから恥ずかしいやてと太一がいうと、そうか?と昌次は驚くと、オーケー!父ちゃんはわいが引き受けると昌次が胸を叩い木、助かったわ、ありがとうと太一も礼を言ったので、奥で聞いていた川本とはる子は思わず笑顔になる。

翌日、市役所前のバス停に来た昌次は、そこに立っていた1人の中年男の前に来て頭を下げると、サツキ君のお父さんですか?と確認し、清作(中村是好)がへえといい、あんたが山口昌次さんで?と聞いてきたので、深々と頭を下げる。

そうですか、せっかくお仕事中のところを…と清作が恐縮したので、仕事?と昌次は戸惑う。

おしるこ屋さんの店員さんだそうで、なかなかよく働くちゅうて…、さつきのことはくれぐれもよろしくお願いしますだ、あれもあんたのことをえろう好いちょる言うて…と清作がいうので、昌次は恐縮していたが、ほんまですか?と驚く。

ええ、サツキがそう言うてましたと清作はいうので、そうですかと喜んだ昌次は、今のこと、もういっぺん言うてくださいと言いながら目を瞑る。

何だったかな?と清作が戸惑うと、あんたのことえろう好いとると…と昌次が助け舟を出すと、ああ、あんたのことをえろう好いとるちゅうてと繰り返すと、あ、おもちしますと言って政策の鞄を受け取った昌次は、腕によりをかけて案内しますよってと言いながら清作を先導する。

観光後、昌次と一緒にラーメンを食べた清作は、今日は勉強になりましただと感謝する。

何しろこの歳になるまで、おら一歩も村から出たことねえで、やっと広い世間ちゅうもんにお目にかかれただと感謝する。

おっぴろげつまらねえ百姓だが、わしらが作った米でみんなが生きているんだと思うと、おらたち、骨折ったことも無駄じゃなかっただよなどと清作が感慨深げに言うので、急に昌次は落ち込んでしまう。

それに気づいた清作が、どうしただ?と聞くと、わいがちっちゃい時にお父っつぁん死によりましてね、こうやって一緒にラーメン食べてると、お父っつぁんみたいな気がして…と昌次が言うので、苦労しなさっただな…と清作は同情してくれる。

お父さん、もっと何か食べはりますか?と昌次は聞くが、まだこんなにたくさん残っとりますで…とラーメンの麺を引き上げて見せる清作だった。

しかし食が進まないような清作に、どないしはりました?と昌次が聞くと、何でも…と清作は苦笑する。

尾西市民病院

腹痛の清作を連れて行こうとしていた昌次だったが、ちょっと待ってくらっしゃい、もう治ったようですから、医者は良いですよと遠慮するので、本当ですか?と昌次は確認する。

本当ですとも…と言い張る清作だったが、調子は悪そうなので、お父さん、前から胃でも悪かったんと違いますか?と聞くと、そんなことねえですよと否定する。

医者には診せとったんですか?と聞くと、病気ではないんですもの、診せることはねえですよと頑固にいう。

その後、サツキの部屋にやってきた清作は、先に休ませてもらうかな、今日はくたびれちゃったよと言って、布団に横になる。

サツキ、ここの方はみなさん良い方ばかりだと布団の中から語りかける。

こんな立派な会社に勤めさせてもろうて、お前は幸せもんだよと清作はいう。

父ちゃん、これですっかり安心したよと言い、眠りに入る。

翌日、岐阜駅から列車で帰る清作を見送ったサツキは、3000円入った封筒を渡し、これしか都合つかなかったのと言うので、もらえねえよ、毎月毎月無理ばかり言ってお前には迷惑かけてるからと遠慮するので、良いから、これで途中で甘いもんでも母ちゃんに買っていってとサツキはいう。

ありがとう、母ちゃん、喜ぶだよと感謝し、清作は封筒を受け取ると発射のベルが鳴る。

すると清作は、おめえ、笑ってくれや、頼む、笑った顔を見せてくれと急にせがんできたので、変よ、父ちゃんとサツキがいうと、そうだ、父ちゃん、どうかしてたと言いながら涙ぐむ。

そんな清作に、だめよ、当分出てきちゃ、お金がもったいないわとさつきは注意する。

列車が動き出し、体に気をつけてなと清作がいうので、父ちゃんもね、母ちゃんやみんなにもよろしく!とサツキは声をかける。

昌次さんによろしくな!と清作がいうので、うん、さようなら〜とサツキは見送る。

走り去る列車の中、清作は、サツキ…と言いながら泣き出す。

サツキは階段のところにいた昌次の姿を見つけ、わざわざ見送りに来てくれてたのね、ありがとうと礼をいうが、昨日の続きや、物事締めくくりが肝心やさないなと昌次は言い訳するように答える。

ええお父さんやなと褒めた昌次は、嬉しそうに頷くサツキに、送るわと言う。

尾西行きのバス停に来た時、お父さん、一度医者に診せたらどうやと昌次は言い出す。

医者?とサツキが聞くと、そろそろ年やかならと昌次は答えるので、何かあったの父ちゃん?とさつきが気にするので、いや別に何もあらへん…、そやないとは思うんやけど、わいのお袋の胃がんがあんな感じやったんやと昌次はいう。

胃ガン?とさつきは聞くが、いや別に…と昌次はごまかし、どっかでお茶飲む時間あらへんと聞くと、ないわ、今日は特に時間もらってきたんだもの、早く帰らなくちゃとサツキは答え、でも来週早番だから来週行きましょうというので、そうか、ほんま?ほな約束…と言い、昌次はサツキと指切りする。

その後「みつばち」に戻った昌次は、電話で救急車を呼んでいたはる子が、サブちゃんが急にお腹痛くなって、盲腸らしいのよと知らせる。

驚いて2階に上がると、苦しむサブと介抱する川本がおり、盲腸らしいんだな、こいつ…川本がという。

それを知った昌次は、ほんまにそうやったら良いんやけどなと言い出す。

時間が稼げる…、いや何、田村の兄貴が…と口走ったのを聞いた川本は、事情を察し、一人頷くのだった。

その後昌次を下に呼んだ川本は、ずらかる?と聞き、社長と話をつけないかと切り出す。

わいにはとてもそんな勇気はおまへん、ま、サブが治り次第2人で遠くへ行ったら、わいらみたいなチンピラどうこういうことは…と昌次はいうので、よく決心した、あとは俺が引き受けるから、奴らの手の届かないところで真面目に出直すんだと川本は助言する。

それを聞いた昌次は、へ、よろしゅうお願いしますと頭を下げる。

それを聞いていたはる子は嬉しいねといい、川本も全く嬉しいやと笑う。

入院先で、同室の老人が見事な刺青の入った体を拭いていたので、へえ、大したもんですねとサブは声をかける。

振り向いた老人菅沼(菅井一郎)は、偉い恥ずかしいもん見られてしもうたと照れ、あんたこんなものに興味あるのかなもしと答える。

あるどころじゃありませんよ、あっしだってね、ヤクザの端くれなんですよ、しかし親父さんのデザイン良いですね、僕もぜひそういうのをコピーしたいんですよとサブはベッドから降りて近づくとお世辞をいう。

そして思い出したようにお引けえなさって…と仁義を切ろうとするが、手術後の傷が痛んで苦しんだので、よしよしと菅沼は止める。

病人が無理したらあかんといい、自分のベッドに座るように勧めた菅沼は、親父さんはどこの親分さんで?とサブが聞くので、どこの親分さんちゅうほどでもないけどな、この辺では菅沼の和吉いうたらちょっと売れた名前やったと答える。

やったって、今違うんですか?とサブが聞くと、それは昔の話や、さっぱり足洗うて、この町で染物屋やってると菅沼は答える。

足を洗った?もったいないっすねとサブがいうと、あんたみたいなええ若い衆がヤクザやってる方がよっぽどもったいない、今のヤクザはあんなものは値打ちがない、ただの愚連隊やなと菅沼はいうので、冗談じゃないっすよ、あっしはこう見えてもね、大前田英五郎の流れを汲んでいるんです、今に必ず男になって見せますとサブは言い返す。

ある日、「みつばち」にやってきたサツキは、休業の札が出ていたので困惑し、一旦帰りかけるが、脇道の奥にあった勝手口の扉を押すと開くので、こんにちは!と声をかける。

すると2階から、親父さんやったらおらへんで、女将さんとことがあって実家に行っとるんやという昌次の声が聞こえてきたので、私です、サツキ!昌次さんに聞きたいことがあるのと呼びかける。

すぐに降りてきた昌次が、君か!なんや?と聞くと、あんたのところのキャバレーで働いたら、最初に支度金くれて毎月10万円ぐらいになるって本当?とサツキは聞いてくる。

10万円…、これなら下見てる…、なんで急にそんなこと言うねんと昌次が聞くと、上の弟から返事が来たの、あんたの話は当たったわ、父ちゃん、やっぱり胃ガンだったのよとサツキは訴える。

ほんまか?と聞いた昌次は、ええとサツキから聞くと、そうか…、」親父さんそれ知ってて、一目君に会いたいと…と、先日の訪問の目的に気づく。

そうなの!父ちゃんったら、可哀想な父ちゃん…とサツキは泣き出す。

あんな寂しい田舎で私たちのために一生懸命働いて、その挙句に胃ガンだなんて…と運命の過酷さを嘆くサツキ。

私、どうしても治してあげたい、一番良い病院に入れて、どうしても治してあげたいと訴えるサツキは、たとえどんなにお金かかったって、そう言う話なら後にしてはよ帰ってと昌次が言い出したので、なんで?だって前には…とサツキは不思議がるが、良いから帰ろうと昌次が言い出したところに降りてきたのは田村だった。

どないしたんや昌次…、お金の相談なら上上がっていただきなよと田村は声をかける。

いいえ、遠慮します兄貴と昌次は断るが、それが礼儀っちゅうもんやと田村は優しく話しかける。

こんにちは、遠慮せんと上がってもらって、早よと言いながら田村は自分から2階へ上がっていく。

2階で話を聞いた田村は、よっしゃ、支度金で20万出させてもらおうやないかと言い出す。

な?昌次、何にも心配することあらへんでと田村は言いながら、昌次にタバコを出させる。

水商売言うたかて、あんたの気持ちの持ちよう一つやと田村は続ける。

近頃はキャバレーやって風俗営業がうるそうて11時になると自粛しとるねん、かたいええとこのお嬢ちゃんやBGのアルバイトちゃんやてたんといてるからね?言葉巧みに田村は勧める。

サツキが頷くと、なかなか話のわかるお嬢さんやなと感心して見せた田村は、昌次!そうと決まったら明日にでも…、ああ明日はちょっと無理やな…、明後日からでもうちの店に来ていただこうやないかと言い出したので、そやけど兄貴、この人かて、帰って、勤め先の御主人の許可をもらわんと…昌次が口を挟むと、そんなことをご本人にさせろっちゅうのか?と田村は言い返す。

どこやって人手不足なんや、そう言ういや〜なことをお前が代わってやってあげるのが筋道やないんか?と田村はいうので、へっと答えるしかない昌次。

サツキさん…やったね?じゃあ、明後日間違いのうな?と田村が確認したので、お願いしますとサツキは頼む。

外に連れ出した昌次は、アホや!話にならんわとサツキに怒る。

なんで…、なんで断らんかったんやとサツキに迫る。

太一くんに相談すれば、工場の御主人や仲間たちがおるやろ?一時借りるんやと昌次は助言するが、1日ならそれで良いでしょう、でも先々どれだけ必要になるかわからないのとサツキはいう。

それに私には先にお金を返す力もないわというので、やってみなわからんわと昌次が反論すると、自分の力の限界は自分が一番よくわかるわとサツキはいう。

それに貧乏なのは私一人じゃないのよ、私だけが他人に甘えて他人に頼るのは許されないと思うわとサツキはいう。

それにあの幹部の人が言ってた通り、自分さえしっかりさえしていれば…と言いかけたサツキに、誰でも最初はそう思うとる、けど違う、1万の金握れば2万欲しくなる、そうやってだんだん深みにハマっていくのさと解く昌次。

するとサツキは、昌次さん、あなたは何しにこの街に来たの?と問いかける。

私たちを連れていくのがあなたの役目じゃないの!というので、しばし悩んだ亮、そうか、そない言うなら連れてったる、お前がそうして太一君やお父さんが喜ぶ思うんやったら、ヤクザがどんなに怖いもんか、てめえの体で知れ、今!と睨みつける昌次。

サツキが目をそらせると、アホや、アホや!俺も今まで色んな女を引っ掛けてきたが、てめえから罠にかかってきたのはあんたが初めてや;と言いながら涙ぐむ昌次。

それに気づいたサツキは急に笑顔になり、ね、河原まで駆けっこしない?私が負けたらあなたのいう通りにするわと言い出す。

よっしゃ!と昌次ガ招致すると、よーい、どん!と言ったサツキと共に橋の上から走り出す。

最初は昌次有利だったが、日頃の不摂生が祟ってかだんだん息が上がってきて、途中で抜いたサツキの方が先に河原に到着してしまう。

岸に置いてあった小舟の上に倒れ込んだ昌次に、やっぱり働いてない人はダメねと笑顔で言うサツキ。

で、わかったでしょう?私はキャバレーでもどこでもへっちゃらよ、あんたみたいな弱虫と違うから!

互いに二人が見つめあった時、昌次君!と呼ぶ声が聞こえてくる。

配達途中の太一だった。

おっす!と言いながら駆け寄ってきた太一は、こんな所にいたんか、ずいぶん探したでという。

どないしたん?また喧嘩したんか?と昌次たちの表情が暗いので太一が聞くと、良いや違う!な?と昌次もサツキも否定する。

ほなええんやけどなと太一はいい、あのな、君の仕事が見つかったんや、やってみるか?僕と同じ仕事なんやけどなと伝える。

昌次はうんと軽く答えると、ほなら決めてもかまへんな?と言うので、曖昧に昌次が頷くと、これでやっとほっとしたと太一はいい、良かったなとサツキに話しかける。

もう春が来るんやな…と、川の匂いを嗅ぎながら太一はいい、昌次君、いつ見てもええやろ木曽川と聞く。

僕にとってこの木曽川はな、心底惚れ抜いた恋人みたいなもんや、僕が尾西の街を離れへんのはな、この木曽川のせいかも知れんなと太一はいうと、ギョッとしたようにサツキは目をみはる。

それからあの織機の音や、僕もあの音を聞かんと眠れへんわなどと太一はいうので、サツキは恥ずかしそうに俯く。

そして、ね、脇村君、歌を歌ってほしいの、今ここで…とサツキは頼む。

なんや藪から棒に…と太一は戸惑うが、ね、お願いとサツキが繰り返すと、ああ…と快諾し、お嫁に行った姉さんとここで別れたんやけどな、その時の思い出を歌うよといい、たった一人の姉さんが〜♩と歌い出す。

歌いわると、ありがとうとさつきが礼を言い、腕時計で時間を確認した太一は、ほな、配達の時間やから帰るわといい、去ってゆく。

昌次は何か言いかけるが、咄嗟に何も打ち明けられず太一はいなくなる。

その後、太一の部屋にやってきた昌次だが、なんや話ってと戻ってきた太一に、やはりうまく話が切り出せないので、どないしたん?と太一は不安そうに聞いてくる。

あんたとサツキちゃんのことやけどなとようやく口を開いた昌次に、林田君のなんかしたんかと太一は問いかける。

その頃、一人定時制高校の教室にいたサツキは、黒板に書かれた作文課題「希望」「明日」という言葉を見つめていた。

それほんまやな?と太一は昌次の襟元を掴んで問い詰める。

バスの停留所で明日の10時に待ってるんやと告げる昌次。

それを聞いた太一は、お前ちゅうやつは、今度こそほんまに殴りとうなったと怒る太一。

ごめん、ワイの大責任じゃと昌次は詫びながらも、頼む!サツキちゃんを止めてやってくれんか?な?と太一に縋る。

すると太一は、よっしゃ、待っといてやと言い残し部屋を出ていったので、昌次はほっとする。

しかし、部屋の入り口で太一が止まったので、どないしたんや?と昌次が聞くと、けど、どない言うたらええんや?と太一もわからないようだった。

サツキちゃんがそこまで決意したものを、どない言うたら止めることができるんや?と太一は聞き返してくる。

言葉だけやったらどうにもならへんと言う太一の言葉を聞いた昌次も、そやな…、そうやと答えるしかなかった。

サツキは、無人の工場の織機のところへ来て泣い出す。

翌日、バス停で口紅を塗りかけ、慌ててやめたサツキだったが、そこに駆けつけたのが太一と監督の秋江(堀恭子)だった。

サツキを見つけた太一は、どないしたんや林田君、なんで相談してくれへんかったんやと話しかける。

目を逸せているサツキに、一人で悩むことないやないかという太一だったが、サツキさんと秋江が差し出したものを、監督さん!と受け取った太一が、これ、黙って使ってくれへんかと差し出す。

何これ?と聞くサツキに、太一さんがあなたのお父さんのために集めたお金と秋江が説明する。

いや、僕一人で集めたんと違うんやけどなと太一はいう。

クラスの連中やコーラス部の仲間、それから君の工場の友達が、みんなで集めてくれたんやと太一はいう。

みんなが出し合ったお金が10万円よと教える秋江。

聞いていたサツキは泣いていた。

それから後の10万は昌次君が出してくれたんやと太一がいうと、サツキは驚く。

昌次さんが?と聞くと、ああ、バイクの積立金らしいなと太一は教える。

昌次さんが、昌次さんが…と感激するサツキに、あいつ、やっぱりええとこあるわと太一は褒める。

これはあなたにこの街にいてもらいたいというみんなの気持ちなのよと秋江が告げる。

みんなの好意を無にせんといてくれよと太一はいうが、いただけないわと辞退するサツキ。

気にせんでもかまへんのや、返すのはな、10年先でも20年先でもええんやと太一が説得し、ありがとうといったサツキだったが、気にしなくたっていいうのよと秋江は慰めるが、でも私が行かなかったら昌次さんが!昌次さんが、昌次さん!どこいったの?とサツキは言い出す。

3人で入院していたサブのところへ行ってみると、おかしいな、兄貴なら1時間前ここにきて、俺をじっと見て出ていったよとサブはいう。

なんやて?サブちゃん、なんか心当たりあらへんか?と太一が聞くと、ある!こうしちゃいられねえや、兄貴が大変なことになるかも知れないなどと言いながら起きあがろうとしたサブだったが、痛くて苦しむ。

そのサブを伴い「みつばち」に来てみると、川本が、え?昌次が!本当か?というので、サブが間違いねえと思いますと告げる。

その頃、松井組長の事務所に戻っていた昌次は、逃しましたと報告していた。

それを横で聞いていた田村は、なんやて〜!と言ってタバコを床に投げつける。

松井組長は、ほいで?と聞くので、社長、あの子だけは…、いやあの子だけやあらへん!わい、もうこの商売が…と昌次が言い出したので、ふざけるんやあらへんど!と田村は恫喝してくる。

じゃあ何か、お前足洗いたいとでもいうんか?と松井組長が問いかける。

へ、この通りと昌次は右手を差し出し頭を下げたので、田村はいきなり殴り始める。

それでも、お願いしますと松井のテーブルに縋り付く昌次。

社長の顔に泥塗り腐って!足洗いたいなど抜かすんやったら、それ相当の覚悟出来とんやろな?と田村が迫る。

昌次はこの通りと言いながら小指を差し出したので、松井組長は、おい!閉めて、誰も入れんようにな…と舎弟たちに声をかける。

そして、引き出しからドスを取り出した松井は、客用のテーブルの上に準備をさせる。

舎弟たちが、指を切る準備を進め、昌次はハンカチを取り出すと、自分の左手の小指の根本をキツく縛る。

そしてテーブルの上に置かれたドスを抜くと、左手を台に乗せようとする。

すると松井が、それじゃあ、大根も切れへんでと注意する。

あのな、刃先を立てて押すと松井は左方を教える。

その指導通りに、ドスを指に押し当てる昌次。

サブを支えた太一やサツキたちが橋の袂へ走ってくる。

そこで待っていたのは」左手に包帯を巻いた昌次だった。

兄貴!兄貴!と呼びかけるサブ。

その背後には川本も菅沼の姿もあった。

さつきが昌次さん!と呼びかけると、バカな話やと言いながら左手を上げ、痛みに耐える昌次は、これがヤクザの決まりもんやてと笑う。

昌次さん、ごめんなさい!と言いながらサツキが抱きついたので、昌次は左手の痛みに苦し見ながら、気にすることないわ、この指の代わりに、ワイには立派な友達がたくさんできたんやからなと昌次はいう。

すると菅沼が、今度はお宅さんの番ですな?と河本に語りかけたので、えっ!と川本は青ざめるが、素直にハイと頷く。

その後「みつばち」に戻ってきた昌次に、兄貴、どうしても行くのかい?と、コシエと一緒についてきたサブが問いかけると、サブちゃん、昌次君はな、広い世界に出て自分の限界を試そうとしていると、店に来ていた菅沼が教える。

頑張りやと送ってやらなあかん、な、川本さんというと、そうですともと川本も頷く。

それはわかってます、でも俺兄貴と別れるの…とサブがしょげるので、わしがついとるやないかと菅沼が慰める。

うちもおるやん!とコシエもサブを励まし、俺たちだってついてるよな〜と川本がはる子に声をかけ、スヨ、それに町の人みんなもとはる子も声をかけてくる。

サブ!元気でなとサブの肩を叩いた昌次は、サブが堅気になるにつけてはいろいろお世話になりましたと菅沼に礼を言い、そのことは私もお礼を言わなければと川本も菅沼に頭を下げる。

わしができるのはそのくらいのこちゃと菅沼は謙遜する。

ほな、おせわになりましたと昌次が頭を下げると、俺たちみんなで見送るんだから、まだ早いさと川本がいう。

サツキさんや太一さんに会わないで行っちゃうの?とサブは心配するが、会うたら、行かれんようになる、よろしくいうといてくれと昌次は答える。

そろそろ時間よ、行きましょうとはる子が言い出し、コシエちゃん、お留守番お願いと頼む。

外に出た昌次は、桜の蕾が膨らんでいるのに気づき、春になったんですねと呟く。

店の前でコシエがさよならと挨拶する。

名鉄バスで岐阜鳥羽駅に到着すると、駅前に大勢の女工たちが待ち受けていた。

そこにはさつきと太一も中央に立っていたので、喜ぶ昌次。

みなさん、ありがとうと頭を下げた昌次は、病院から手紙が来てね、父ちゃん、調子良いってとサツキが話しかけてきたので、よかったねと答える。

サツキが脇村くん、あれというと、太一がバイクを見せてきたので、方、新品やないかと驚くと、これな、君のやと太一は笑いかける。

えっと驚く昌次に、みんなから君への贈り物やと太一はいう。

すげえな、すげえぜ兄貴!とバイクを見て喜ぶサブ。

さあ、乗って見いへんか?と太一が勧めるので、みんなに頭を下げた昌次はバイクにまたがるが、左手の包帯を気にして、乗れるやろか?と不安がるが、乗れる、乗れると太一が声をかける。

不安げに左手でグリップを握った昌次だったが、なんとか握れたので、兄貴!とサブも背後の女工たちも喜ぶ。

川本夫婦もそれを見て喜ぶ。

おい、汽車やめて、これに乗ってらっしゃいと工場の社長が勧め他ので、サツキは落ち着いたら住所知らせてね、借りたお金はいつかきっと返すからと約束し、昌次は、さぶ、元気でなと声をかける。

兄貴、うん!とサブも答え、こいつのことならわしに任せとけ、わしがあんじょう仕上げたるわいと菅沼が約束する。

ほな行くわと言い残し、昌次はバイクに乗って出発する。

それをみんなで見送る。

木曽川恋しくなったらまた来いよと呼びかける太一。

兄貴〜!と呼びかけるサブ。

お〜い!元気でな〜!と手を振る川本夫妻。

振り返って手を振り返す昌次を、涙を流して見送るサツキの姿があった。

バイクで走る昌次は、0系新幹線に追い抜かれる。


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