「快傑黒頭巾 マグナの瞳」

大友柳太朗主演で有名な子供向け時代劇ヒーロー「快傑黒頭巾」シリーズ3作目

小説原作の人気ラジオドラマの映画化で、物語の途中らしいのだが、舞台設定から見て大仏次郎原作「鞍馬天狗」に酷似しているとわかる。

時代は幕末で、舞台は長崎…

低予算の子供向けらしく、セットも書き割りなどで異国風の風景を再現しているが、これは後のテレビ用子供向け時代劇でも応用されており、「白馬童子」などで見覚えのある雰囲気である。

とはいえ、今の感覚で本作を見ると、歴史的な部分も含め、子供にはよく理解できない部分が多いのではないかと思う。

テンポもかなり遅く、見せ場も多くはなく、大人同士の会話のシーンが多いので、小さな子供は退屈しそうな気がする。

「わざとらしいすれ違い」と「ご都合主義な展開」で「子供騙しな展開」に見えなくもないが、当時はこれでも胸躍らせた子供がいたことは確かなのだろう。

冒頭から登場する長崎奉行役の神田隆さんや益満役の加賀邦男さん、山田新兵衛役の須藤健さんなどが総じて若く、キャスト表と照合しないと、ぱっと見判別しにくいくらいである。

東映で悪役が多い薄田研二さんが、本作ではオランダ人に扮しているのも意外なら、よくある異国人訛りではなく、流暢な普通の日本人の喋り方をしているので聞きやすいと言えば聞きやすい。

本作でメインになる子役の目黒祐樹さんも懐かしい。

近衛十四郎さんのご子息で、松方弘樹の弟さんであると同時に往年のテレビ時代劇「風小僧」(1959)の主役だった李、実写版「ルパン三世」になった方だからだ。

本作撮影当時は7~8歳だったはずで、小学校に入る年頃だったのだろうが、ちょっと垂れ目気味でめちゃめちゃ可愛い。

「風小僧」の主役を演じたのはこの4年後なので、11~12歳になっておられた頃で、その後中学に入学した時点で学業重視になり、「風小僧」第二部の主役は、第一部に出ていた山城新伍さんに交代したらしい。

近年の目黒さんはお父さんそっくりになっているのところから考えると、近衛十四郎さんの子供時代はこの時代の目黒さんに近かったのかもしれない。

余談だが、劇中神田隆さん演じる松平主水正が灯台下暗しなどというセリフを言うので、「灯台は江戸時代からあったのか?」と疑問に思い調べてみたら、なんとここでいる「灯台」とは「江戸時代に使われていた燭台」のことらしく、間違った使い方ではないことがわかった。

【以下、ストーリー】

1955年、東映、高垣眸原作、西条照太郎脚本、佐伯清監督作品。

慶應3年

山の上から道を進む駕籠の一団を見た倒幕派の志士達たちは、駕籠に乗っているのが新任の長崎奉行松平主水正だと気づく。

幕府も武器の購入には躍起となっていることですからと別の侍が指摘すると、うん、松平は切れ者だ、油断はできんぞと年長の侍が指摘し、急ごうと仲間たちに促す。

長崎

松平主水正(神田隆)は上意!と言いながら封書を差し出す。

松川河内守勝利

その方儀、お役柄も弁えず、商人らと結託、金品を私致したる罪軽からず、よってお役目御免、謹慎を仰せつけられるもの也 

慶應丁卯3年3年15日 老中小笠原由紀守長綿 

申し渡された松川河内守(堀正夫)は平伏する。

宿の2階に集結した侍たち

益満さん、西郷さんも桂さんも今度の長崎奉行のことを重大視しておられますと倒幕派の志士が報告すると、そうでしょうと益満休之助(加賀邦男)は納得し、松平がどんな修行をしてきたか、察しはついていますという。

京都の情勢はひどく切迫してきたのですと倒幕派の志士は報告し、オランダやカピタンとの交渉はどうなりました?と聞く。

我々は桂さんの命を受け、交渉の促進とあなたがた薩藩士に協力するため派遣されてきたのですと倒幕派の志士がいうので、安心してください、もう一息です、鉄砲は必ずこちらの手に入れて見せます、松平主水正が相手なら、こちらもやりがいがあるというものですと益満はいう。

一方、松平主水正は、九州諸藩名代を集め、長崎奉行の職権は、本日ただ今よりかくいう松平主水正忠邦が、前任松川河内守に代わって執り行うと報告していた。

ついては着任にあたって一言、忠邦の立場を明らかにし、皆さんのご協力を得たい、由来、長崎奉行の権限は、一朝有事の際、公儀に代わって九州諸藩に号令を下すことを第一義とする、今や徳川300年の恩顧を忘れ、これに弓引かんとする不定の輩、不穏の大名は二、三にとどまらず、世をあげて騒然たるの時に当たり、九州諸藩の動向は実に重要なる意味を持つものと信じると主水正は申し渡す。

罪人どもに拷問を行っていた牢内にやってきた頭巾姿の男を見た牢番仁平(葉山富之輔)は、これは先のお奉行様とああ間を下げて出迎えるが、有馬屋清左衛門夫婦をこれへ出せと奉行が命じたので、牢番は戸惑いながらも承知する。

廊内で巨大な石臼を回せられていた男が倒れ、水を求めるが、オランダ密航を図った奴が!と役人から鞭打たれる。

打たれた男はオランダに行くのがどうして悪いんだ、俺は西洋のことが知りかっただけなんだ!と喚く。

そんな中、前奉行の前にやってきた有馬屋清左衛門(森田肇)夫婦は、頭巾の男の顔を見て驚愕する。

この際、軽挙妄動することなく、あくまでも公儀を信じ、当長崎奉行の指示に従い…と主水正が九州諸藩の名代たちに通達していた時、役人が何事かを報告に来る。

牢から出され、籠で運ばれる有馬屋清左衛門夫婦

その籠の横に頭巾姿の松川河内守がついていた。

一斉に奉行所から走り出す役人と捕手たち

橋の上でその捕手たちが走り抜けるのを見た有馬屋の息子類吉(目黒祐樹)は、また捕物らしいね、姉さんと一緒に歩いていた百合絵(春日倶子)に話しかけたので、類ちゃん、早く行って帰りましょうと百合絵はいうが、お父さんやお母さん、御牢内でどうしていらっしゃるだろう、役人にいじめられているんじゃないだろうか?などと類吉は悲しげにいう。

そんなこと、大きい声で!と百合絵が注意すると、お嬢さん!と呼びかけてくる女がいた。

驚かせてすまなかったねと話しかけたおらんだお蝶(喜多川千鶴)は、牛久田の三公(時田一男)を連れていたが、どなたでしょうか?と百合絵が聞くと、お父っつぁんやおっ母さんに会いたいんだろう?と聞いてきたので、百合絵は警戒する。

私がご両親に合わせてあげようかとお蝶が言うので、でも御牢内にいるんだもんと類吉が言うと、それがもう御牢内じゃないんだねと女はわけ知り顔でいう。

本当?と類吉が聞き、では父や母は今どこに、それ本当にご存じなんですか?と百合絵が聞くと、知ってますよ、ちゃんとね、嘘だとお思うなら来てご覧とお蝶はいう。

子供達が、「おいらの味方黒頭巾♩」と歌を歌っている。

そんな子供達とすれ違ったお蝶と三公に挟まれた類吉姉弟が、清国人も多く歩いている地区で店を開いていた易者「天命堂」の前を通過した時、おやおや羊の皮を着た狼の匂いがするぞ、しかもオスとメスのお揃いじゃと天命堂が言い出す。

それを聞き咎めた三公が、やいクソ易者!今俺たちの方を見て妙なことを抜かしたな?羊の皮を着た狼とは誰のこったい!と絡み出す。

しかし天命堂は、そんなこと言いましたかな?と惚けるので、何を言いやがるんだ、この野郎!と三公の怒りは収まらない。

もしも言ったとすると、それは天の声、徒や疎かで聞いてはいけませんぞなどと天明堂は答えると、坊や、このおじさんとはあまり付き合わん方が良いなと類吉に話しかけたので、何を!と三公は気色ばみ、易者の店を足蹴にして壊す。

その時、お蝶が、およし三公!と止めると、おい天命堂、お前さん、どういうつもりか知らないけど、つまらないこと言うとためにならないよと脅し、その場から去って行く。

店を壊された天命堂は、無茶なことをしよる、人の商売道具を…とぼやいていたが、こっそり戻ってきた三公がまた殴りかかってきたので、のらりくらりと体を交わし、最後は店用の幕を相手に被せてしまったので、三公は面くらい逃げ去ってしまう。

それを見送った天命堂は、すまんですな~と笑う。

「香良舎之屋」という店に類吉姉弟を連れてきたお蝶は、有馬屋夫婦が柱に縛られていた部屋にやってくると、そこで椅子に座って見張っていた前奉行松川河内守に、松川さん、連れてきましたよと声をかける。

そうか、ご苦労と労った松川河内守は、有馬屋、見ろ!お前の娘と小倅がいると告げたので、あ、百合絵、類吉!と母の折江(北見礼子)が気づいて呼びかける。

百合絵と類吉もお母さん!と呼びかけるが、父の有馬屋の方は首を項垂れているだけで反応がなかったので、室内にいた清国人が様子を見て、松川さん、死んでますよと教える。

驚いた河内守は、責めすぎたかと気づき、解いてやれと命じる。

百合絵、類吉、縄を解かれた折江は、崩れ落ちた有馬屋の死体に縋り付く。

泣き崩れる三人を見ながら、折江、お前もこうなりたいのか?せめて親子3人水入らずで楽しく暮らすことを考えろと河内守は言う。

百合絵と類吉からお母さん!と抱きつかれた折江は、あんまりです、あんまりでございますと河内守に言い返す。

おかしなことを言うとためにならぬぞ!と河内守が叱りつけると、あなたは有馬屋の財産を自分のものにしただけではまだ足りないのでございますか!と折江は訴える。

財産没収は国の掟を破り、密貿易をした当然の報いだ、わしが欲しいのは有馬屋の財産ではない、マグナの瞳だ!世界で一番大きいと言われている青色ダイヤだと河内守はいう。

そのような大層な品をどうして手前のようなしがない商人が?と折江は言い返すが、黙れ!隠しても無駄だ、有馬屋の手にあることは、この張洪全(上代悠司)が突き止めてあると、清国人の顔を見て河内守は言い、張洪全も隠してもダメ、私知ってますと言い張る。

それでも折江があんまりでございますと言うので、配下に百合絵と類吉を引き剥がさせると、焼火ばしを取り出した河内守は、さあ、娘か小倅か?どっちが先に所望だと脅す。

娘か?言うか?と河内守が迫ると、待って!と折江は叫びながらも、申し上げますと項垂れたので、良し!言え!と河内守は強制する。

マグナの瞳は…と折江が言いかけた時、突然ドアが開き、役目により召し取りますと役人と捕手がなだれ込んでくる。

しかし河内守は、黙れ!河内守は3年勤めてきたんだ、筋を通さぬ御用は領外!と突っぱねようとするが、問答無用!と言う役人たちがかかってきたので乱闘になる。

その時、お蝶が、ランプを叩き壊したので部屋が暗くなる。

張洪全や河内守の配下の者どもはその場で斬られるが、河内守だけはなかなか捉えられず、屋敷の外に逃げ出す。

お蝶は御前!私との約束は?と問いかけるが、ええい!そんなものは御破産だ!と言うので、何ですって!とお蝶は驚く。

結局、河内守も切られてしまい、有馬屋母娘たちは役人たちに連れて行かれてしまう。

三公は、姉御、変なことになりやしたねというが、ちくしょう、こうなったら新奉行と掛け合うんだ、三公、アリバイの鍵をなんとか手に入れなきゃとお蝶は悔しがる。

類吉を小脇に抱え、奉行所に戻る役人たちの前に、待て!と立ち塞がったのは黒頭巾だった。

人呼んで黒頭巾、常に心正しき者の味方黒頭巾!3人は貰い受けるぞと言いながら近づいてきたので、おのれ!と言いながら役人たちが斬りかかってくる。

有馬屋母娘の前に来た黒頭巾は、坊や、おっかさんを連れて逃げろと声をかけたので、類吉たちはその場から脱出する。

その乱闘を目撃したお蝶は、黒頭巾!と驚くが、先回りして、裏道を逃げていた有馬屋母娘の前に再び出現する。

三公は折江に掴み掛かり、お蝶の方へ突き飛ばすと、自分は百合絵と類吉を捕まえようとするが、そこに駆けつけてきた黒頭巾が三公を投げ飛ばして子供たちを助けるが、折江はお蝶が連れ去ってしまう。

一方、益満休之助は、小舟で、長崎の出島に向かっていた。

「オランダ国長崎商務館」

これがあなた方が使っている古い古い型の鉄砲…、弾込めから発射まで時間かかりますねと、訪問した益満たちに実演を交えて説明するのは、オランダ人バン・バーレ(薄田研二)だった。

ところがこの新式の鉄砲は…と言い、弾をこめて、すぐに連写してみせ、いかがですか、益満さん?と問いかけてきたので、益満はう~ん、すごい…と、その威力に唖然とする。

あなた方の旧式銃1発打つ間に2~3発撃てますね?とバン・バーレは指摘する。

バーレさん、その鉄砲はいつ日本に着くんです?と益満が聞くと、もう着いてますよとバーレはいい、ご覧なさいと窓から外を見る。

確かに夕暮れの沖合に帆船が一隻停泊していた。

倉庫に置いてあった大量の新式銃を見せながら、だからこれ、いつでもお渡しできますねとバーレはいう。

世転んだ益満は、ありがとうバーレさん、約束の代金は明日…と言って帰ろうとすると、あなた、重大なことを一つ忘れていますね、マグナの瞳!とバーレは言い出す。

何だ益満?と同行した者が聞くので、うん、世界一大きい青いダイヤモンド、それがこの長崎のどこかに隠されているというんだと益満は説明する。

それがどうしたというんだと同行者が言うので、そのマグナの瞳を探し出して渡すことがこの取引の条件の一つになっているんだと益満は答える。

今度のお奉行さん、明日私に来てくれと言っています、何の用でしょうね?とバーレは天秤に計るようにいうので、益満と同行者たちは何!松平が?と驚く。

「小唄 豊春」の行燈がかかる家

三味線を弾きながら小唄を口ずさんでいた豊春(日野明子)は、豊春殿と呼ぶ声が聞こえたので、嬉しそうに、お帰りなさいと立ち上がりかけるが、立ち上がらないで、そこで聞いてくださいと言う声がしたので、座り直すと、松川河内守が殺されましたよと言う言葉を聞き、えっ、松川が!と驚く。

たった今、新任の奉行松平主水正の配下にです、これであなたが討たずして敵討ができたわけだと声は語る。

感極まった豊春は仏壇に手を合わせるが、その時暖簾から顔を覗かせたのは天命堂だったが、気配に気づき振り向いた豊春には、その顔を見つことができなかったので、山鹿さん!と呼びかけるだけで、もうそこには誰もいなかった。

翌朝、長屋に帰ってきた天命堂に、朝帰りとは洒落てるね、儲かって仕方ないと見えますねと、住民たちから声をかけられたので、今にこの長野中を建て直してやろうかなどと冗談で返す。

そこに、おじさんと声をかけてきた娘は、残り物だけどといい、料理を持ってきたので、そうかい、いつもすまんねと感謝した天命堂は、で、お父っつぁさんの加減はどうかね?と聞く。

ええ、おかげさまでだいぶん…と娘が言うので、そうかい、そりゃ良かったと言いながら、懐から小銭を出すと、これ少ないがね、何か美味いものでも…、いいから、いいから…と言いながら娘に渡す。

娘はいつもすみませんと礼を言うので、何の、何の、ではお父っつぁさんによろしくね、ごめんよと言うと部屋の中に入る。

部屋に入った天命堂は、さてと、おまんまを頂戴したら、早速寝んねをすると言う段取りで行こうかななどと独り言を言いながら押し入れを開けるが、そこに百合絵と類吉が入っていたので、思わず、泥棒!とおどお録画、違いますと百合絵が否定し、類吉が、あ、おじちゃんは唐人屋敷にいた!と声をかけてきたので、

そういえば、お前もいつかの子うさぎかいと天命堂は答える。

百合絵がこれをと手紙を差し出したので、それを受け取った天命堂が読むと、それは黒頭巾からのものだった。

黒頭巾とおじちゃんとは、大の仲良しなんだってね?と類吉が言うので、しっと天命堂は黙らせると、坊や、おじちゃんは黒頭巾とは鼻ったらしの頃からの無二の親友でなと天命動画教えると、え~!おじちゃん、そんなに長いのと類吉は驚く。

すると天命堂は、しまった、嘘はすぐにバレるわいと笑いながら答える。

昨晩、あの方に危ないところを助けていただき、ここまでお連れ願ったのですけど、なやの方はどういう?と百合絵が聞くので、バカでな、その代わり人物は至極よろしいと天命堂は笑顔で応える。

さっきのおじちゃんも天命堂のおじちゃんのことをそう言ってたよ、天命堂のおじちゃんは生まれつきのバカでのんびりできているけど日本一のこう人物だってと類吉が言うので、百合絵は慌てて、類ちゃん!と止めるが、天命堂はつい吹き出し、そう言ったかいと笑い出してしまう。

奉行所の前に停まっている西洋風の馬車

バーレに会った松平主水正は、その新式鉄砲は、断じて幕府が買い取りますと申し出る。

松平、それ、困りますねとバーレが言うので、私が長崎に赴任してきた目的の1つは、あなたと鉄砲の取引をすることです、いや、一番重要な使命がそれなのです!と主水正は打ち明ける。

しかし、長州と薩摩、先約ねとのにが言うので、それは困ります、薩長は反乱軍ですと主水正は焦る。

私ね、お国の内政に関わり合いたくありませんねと言ったのにだったが、床の間に飾られていた仏像を手に取ると、おお、素晴らしいね、お国の美術、オランダかないませんね、特に仏教美術、素晴らしいね〜と羨ましそうに言うので、そんなもの、お気に召したら差し上げましょうと主水正はあっさりいう。

え?くれますか?とバーレは喜ぶが、それよりバーレさん、今の鉄砲の話ですが、何とか相談の余地はありませんか?と主水正は聞く。

ありがとう、ありがとう、私大変満足ですと言いながら、主水正と握手したバーレは、相談の余地、1つだけありますねと言い出す。

何です、言ってくださいと主水正が申し出ると、マグナの瞳ですとのにが言うので、マグナの瞳?と主水正は戸惑う。

それ探してくだされば、鉄砲、幕府に譲りますねとバーレはいう。

もっと詳しく話してくださいと主水正が申し出ると、もう20年も前の話ですがね、我が国オランダの探検家、ヘッセル・ゲルツが、国王の命を受けて全世界を回って、世界最大の青いダイヤモンドを発見しましたねとバーレはいう。

それはローマ法王の王冠についているダイヤよりもっともっと大きく、トルコ王の胸飾りのダイヤよりもっともっと美しく、澄んだ光を放つと言い伝えられています、それがマグナの瞳ですとのには続ける。

この探検家ヘルツは、旅の途中嵐に遭って難船し、この長崎の近海で助けられたというのだと、のにが帰宅した後、主水正は部下たちにその内容を伝える。

バーレは国王の命により、マグナの瞳を探して求めていると言うのですか?

オランダでは、第一王子の妃をお迎えになる日が近づき、その御祭典の当日に王冠に飾るに相応しいダイヤモンドとしてマグナの瞳を欲しがっておるのだと主水正は情報を付け加える。

しかし、雲を掴むような尋ねものですが?と別の部下が言うと、問題は港の船に積み込まれた新式銃だ、絶対薩長の手に渡すことはならんと主水正は指摘する。

この松平主水正、命の名誉にかけて幕府のものにするのだ、その方たちも手配し、一刻も早く探し出せと部下たちに命じる。

その時、マグナの瞳のことなら、あたいに聞いてもらいたいねえと、天井裏から声をかけてきたのは、三公と忍び込んでいたおらんだお蝶だった。

貴様ら!と主水正の話を聞いていた役人3人は色めき立つが、唐人屋敷でお目にかかりましたね、私はおらんだお蝶、あっしは牛久田の三次と申しますと天井裏から自己紹介する2人。

降りろ!と役人が命じると、降りたいけど、そこにいたら降りられないじゃないですかとお蝶は笑いかける。

女が降りていくのを下で口を開けて見てたんじゃお人柄に体に障りますよとお町は言うので、役人たちは渋々後ろっを向く。

その途端、お蝶と三公は下に降り立つが、役人たちが捕まえようとしたので、待て!と制した主水正はお町とやら、今言ったことは本当か?と聞く。

はいとお蝶が頷くと、良し、聞こうと主水正が応じたので、ずるいお奉行様、いくら何でもタダで骨を折るのは嫌でございますとお蝶は笑う。

すると主水正は、報酬なら望み通り出すと約束したので、あたしが欲しいのは金ではございません、人1人、御牢内から出していただきたいのですとお蝶は願い出る。

その掛け合いに来たのか?と主水正が聞くと、はい、先のお奉行様とそのお約束がございましたとお蝶は答える。

何?松川もマグナの瞳を狙っていたのか?と主水正が聞くと、あの方は自分の懐を肥やすためでした、でもマグナの瞳を得ず切られておしまいになったとお蝶はいう。

そこで、今度はわしが取引の相手というわけか?と主水正は勘づき、よし、望みは入れようと応え、マグナの瞳のありかはどこだと聞く。

するとお蝶は、有馬屋さんの女将さんが知ってますと応える。

それで、松川は有馬屋夫婦を…と主水正は事情を理解する。

その後、奉行所に連れて来られた有馬屋の妻折江は、主水正の目の前で厳しい折檻を受けるが、私は何も知りませんと言い張る。

同席したお蝶は、おかみさん、子供を加勢に使わないと泥を吐かないのかい?というと、折江が狼狽したので、どうやらそれがお望みらしいねと笑うと、松平の御前、子供を使いましょうと進言する。

折江は、それだけはお許しを!と願い出るが、じゃあ、言っちまったらどうなのさとお蝶は意地悪をいう。

痺れを切らした主水正は、お蝶、子供を連れてこい、どこにいる?と聞くが、それは言えません、きっと連れてきますとお蝶はごまかす。

マグナの瞳といい、黒頭巾といい、この長崎には不思議なものが渦巻いておるな…と主水正は呟くんで、黒頭巾なんて怖がっていちゃ何も出来やしませんよとお蝶はあざける。

奉行所の牢内では、今日も巨大な石臼を回させられたりと過酷な拷問が続いていた。

その御牢内への侵入を許されたお蝶は、山田新兵衛(須藤健)から、お許しは一眼だけだぞと念を押される。

お蝶は囚人たちの顔を確認していたが、やがて巨大石臼を回させられていた浩吉(中野雅晴)に気づき呼びかけると、浩吉も気づいて、姉さん!と近づいてくる。

浩ちゃん、苦しいだろうね?もう少しの辛抱だよ、きっと姉さんが助け出してあげるからと、お蝶が頼むと、水…、姉さん、水欲しいと浩吉がいうので、どなたか水をと山田にお蝶が頼むと、山田は牢番仁平に水を持ってこさす。

お蝶は、かわいそうに…、痩せたねと弟を前にいう。

そんな奉行所の前に、三味線と月琴を弾く二人の男女がやってくる。

艶歌師(大友柳太朗)と百合絵だった。

その時、捕手たちが戻ってきて奉行所の中に入っていく。

戻ってきた部下から話を聞いた主水正は、薩長の隠れ家を?と驚くと、すぐに退治しろと指令を出す。

一方、御廊内で寝込んでいた折江は、母さん、僕だよという声を聞き見上げると、明かり取りの天井窓から類吉が呼びかけているのに気づく。

あ、類吉!と折江は呼ぶが、母さん!と類吉は窓格子の隙間から手を伸ばそうとする。

その手を掴み、無事だったんだね、類吉!母さん、嬉しいよと語りかける。

ねえお母さん、きっとお母さんを助け出すよ、だからこの薬を飲んでおくれと言い、類吉は薬を渡す。

きっと飲んでね、天明堂のおじさんがくれたんだと類吉はいうが、その時、曲者!と叫ぶ声が聞こえ、類吉に気づいた役人が外で追いかける。

牢の中の折江は、類吉…と案ずるが、手にしたアンプルのような薬を見つめる。

街中で役人から逃げ回っていた類吉に、お蝶と三公も気づき、後を追う。

門から外に逃げたと思われた類吉だったが、艶歌師と手を繋いで戻ってきたので、役人は何者だと?と驚く。

月の世界から遣わされた歌歌いだと艶歌師は答え、十手でせめてきた役人に当身を食らわし、門から逃げ去る。

三公もその後を追おうとするが、お待ち!と制したお蝶は、あの顔は…と思案する。

その夜、薬を飲んだ折江は死んだように眠る。

街では役人と御用提灯を掲げた捕手たちがどこかに向かって走っていた。

艶歌師と百合絵に連れられて類吉は長屋に戻ってくる。

お付き合いありがとう、じゃ、天命堂によろしくねといって艶歌師は立ち去ろうとするので、あの…と百合絵が声をかけ、おじちゃん、行っちゃうの?と類吉も呼びかける。

うん、おじさんはね、月のある間に月の世界に帰らないといけないんだ、坊やご覧、月が雲で見えなくなってしまっただろう?おじさんはあの雲も取ってしまわないといけないし、なかなか忙しいんだよと艶歌師がいうので、またお目にかかれましょうか?と百合絵は聞く。

すると艶歌師は、会えると思います、度々…、じゃあ、坊や、さようならというと去って行く。

その頃、とある旅籠の前に捕手たちがやってきたので、2階に集まっていた益満たちは狼狽する。

益満、君はバーレとの交渉がある、逃げろと言われた益満は、頼む!と言い残し、部屋から逃げ出す。

白馬に乗って駆けつけた黒頭巾は、はたごの二階に来ると、拳銃を天井に向けて一発ぶっ放し、諸君、ここは俺に任せて早く逃げろと薩長の仲間たちに声をかける。

かたじけないと礼を言った薩長の志士たちは立ち去る。

黒頭巾は拳銃で役人たちを威嚇しながらその場を立ち去る。

翌日、折江が飲んだ薬のアンプルを手にしたお蝶についてきた三公が、姉御、とうとうマグナの瞳の秘密は墓場の中に持って行かれましたねとぼやいていた。

だけど、まだ子供たちが残っているからね〜とお蝶は答えたので、そこがありますね〜、だけど肝心のガキたちの居所がわからないと三公はいう。

ところがこの小瓶がちょっとものを言うかもしれないよとお蝶が言い出したので、三公は驚く。

それじゃあ、姉御は…、冗談じゃねえ!どこの世界で子供が親を…と、毒殺するはずがないと信じる三公はお町の想像を否定する。

その頃、役人たちは、折江の死骸を寺の墓地に埋めていた。

類吉はその寺のそばにしゃがんでおり、近所の子供達が手をとって輪になって歌を歌うのを聞いていた。

そこに戻ってきたのは、折江を埋めていた農民だったが、おっかさんは無事に埋めたぞと類吉に教える。

大丈夫?おじさんと類吉が聞くので、大丈夫だよ、さ、これを天命堂と姐さんに届けるんだと何かを手渡す。

漢方医 鏑木良順の屋敷に来ていたお蝶は、なるほど、漢方医には用がない品だからねと、アンプルのこと知らないと言う医者から取り戻していた。

三公は、弱ったな〜、これで五軒目ですぜと弱音を吐いていたが、な〜に、長崎中の薬屋や医者を探したってしれてるよ、出島の寛斎さんだって知り合いだからねとお蝶はいう。

この薬の出所と行き場所さえ突き止めりゃ…という町の話を聞いて、三公はなるほどと納得する。

散々歩き回った末、彼らは天命堂が住む長屋にやってくる。

どうだい、とうとう突き止めただろうと自慢するお蝶に、その代わり足が棒になりましたと三公は文句をいいながらも、でもなぜ天命堂がガキを使って女を殺したんですかね?おかしいな、どうもそれが‥と疑問を口にする。

その時、天明堂の部屋から百合絵が出てきてどこかへ向かったので、それに気づいたお蝶と三公は後をつける。

その頃、寺では、類吉が見守る中、おじさんが折江を埋めた墓を掘り起こしていた。

一方、百合絵は人目を気にしながらどこかへ向かっていたが、尾行のお蝶と三公には気づかなかった。

百合絵は、端のところまで来ると、おじさん!類ちゃん!と呼びかけるが、まだそこには誰もいなかった。

そして百合絵は、尾行してきたお蝶と三公に気づく。

ユリエはその場から立ち去り、お蝶たちがその後から追いかけるが、その直後、橋にやってきたのは掘り起こした折江を背負った天命堂と類吉が来るが、合流する予定だった百合絵の姿はなかったので戸惑う。

どこ行ったんだろう?と類吉がいうと、うん、先に来て待っていなきゃ行かんはずなんだが脳と天命堂も不思議がる。

その時、類吉が役人だ!と指を刺し、どうしよう、おじちゃんと聞いたので、姉さんの方は黒頭巾に任せて、わしらはお母さんを連れて早く行こうといい、その場を離れる。

その後を追う役人たち。

天命堂と類吉は、とある路地に来ると、板塀がどんでん返しになっており、そこから中に忍び込むが、そこは豊治の家だった。

翌朝、座敷の布団に寝かされた折江を見守る類吉は、おじさん、大丈夫?と心配するが、エスパニアの名医ゲッペルス先生が天竺山の薬草を調合して作られた秘薬じゃ、丸一昼夜半と言うものはメモ覚めず、息も脈も止まったままで、まるで仮死の状態を続けていると言われているが、その一昼夜半も過ぎた…、もうそろそろ気がついても良い頃だと思うがな〜と、天命堂もだんだん自信なげになる。

その時、類吉が、あ、母さんが目を開けた!と気づき、うっすら」目を開けた折江は、類吉!と気づく。

お母さんはどうしたんでしょう?ここはどこ?と折江はまだ状況を理解できないようだったが、ここはあなたのお知り合いのうちです、ご心配は入りませんぞ…と側にいた天命堂が語りかける。

あなた様は?と折江が聞くので、はい、天命堂と言う易者でしてな、私の友達の黒頭巾が、あんたを牢から救い出すために描いた狂言のお手伝いをしたに過ぎませんのじゃと言いながら、母にしがみついていた類吉を膝に乗せて頭を撫でる。

そこに来たのが豊春で、黒頭巾とおっしゃいますと?と折江が不思議がると、お内儀、この人をご存知ありませんかな?と豊治の方を見ながら天命堂が尋ねる。

お忘れでございますか、加賀屋の国でございますと豊春がいうと、え?加賀屋さんの?と折江は驚く。

はい、やはり密貿易の咎で捕まり、牢内で獄死しました加賀屋吉兵衛の娘でございますと豊治は伝える。

すると折江は、覚えています、覚えていますとも…、こんなに立派になられて…、さぞや、加賀屋さんが生きておられたら…と呟く。

父に死なれてからもう5年…、しばらくは苦労いたしましたが、今は小唄の師匠をしておりますと豊治は教えると、そうですかと折江は納得する。

時にお内儀、今お尋ねの黒頭巾のことですがな、実はその黒頭巾もマグナの瞳を欲しがっておりますのじゃと天命堂は打ち明ける。

驚く折江に、しかしそれは私利私欲のためでも徳川のためでもなく、島津家のためになのです…と天命堂はいう。

亡くなられたあなたの御主人清左衛門殿が、元島津家の御家来で、逼迫した藩の財政を立て直すために島津公から命を受けて、長人となり、密貿易に従事されておったのは黒頭巾から聞いて知っていましたが、その島津家が徳川幕府を倒すためにどうしてもマグナの瞳が必要になりましたのじゃ、お内儀、そのマグナの瞳がどこにあるか、それを私に教えていただけませんかな?と天命堂は頼む。

すると折江は、わかりました、申し上げましょうといい出す。

(回想)難破したのか板切れにしがみつき漂流する異国人。

その異国人を救って看病した清左衛門に、瀕死の異国人は一つの包みを渡す。

それを開いてみると、大きなダイヤモンドが入っていたので驚くが、異国人はそのまま生き絶えてしまう。

主人が助けたその異国人は、介抱の甲斐もなく息を引き取ったそうでございますが、世話になったお礼だと言って大きな青色ダイヤモンドを主人の手に握らせました。それがマグナの瞳でございます。

主人はこの宝物はみだりに私すべきではないと考え、薩摩殿様に何かことがあった際、役に立てるのだと申しまして、観音像の台座の中に隠してしまいました。

もう20年も昔の話でございますと折江は教える。

で、その観音像はどこにあります?現在…と天命堂が聞くと、お奉行所にあるはずですと折江がいうので、え?なんですって!と天命堂は驚く。

先のお奉行松川様は、その話をどこから聞き出したものか、マグナの瞳を手に入れる目的で、主人だけか私まで密貿易の咎で捉え、有馬屋の家をかき回しましたが、どこからも出てこなかったために、家財を残らず没収、そのパッセンジャーズ機、観音像も一緒にお奉行所に運ばれてしまいましたと折江は打ち明ける。

その頃、「オランダ国長崎商務館」でその観音像をいじっていたバーレに、鉄砲を売ってくれと益満は頼んでいたが、ダメダメ、約束実行してくださいよ拒否していた。

それでは肝心の戦さに間に合いませんよと益満は訴えるが、ダメですよ、幕府方マグナの瞳持ってきた時、私、立場なくなります、さようならとバーレはいって部屋を出てゆく。

早馬が2頭、奉行所に駆け込む。

手紙を読んだ主水正は、去んぬる12月9日、上様、朝廷に対し、政権を返上…と読み、何!と仰天する。

この上は薩長との一戦はもはや避け難く、一刻も待たれるはオランダ国より入国の新式中の入手にこれあり候…と残りの分も読み終えう。

それを聞いた山田新兵衛は、お奉行、もはや一刻の躊躇はなりません、この上はボックステン号に乗り込んで、刀にかけても鉄砲を奪いましょうと提案するが、バカをもうすな、この際、外国まで敵に回してなんとすると言い聞かせる。

有馬屋の娘をもう一つ責めてみましょうと配下が進言するが、しかしあれだけ責めても儚いところを見ると、真実、知らないのではないでしょうか?それよりお町を特例して…と別の配下が言い出す。

しかし主水正は、もはやお蝶は役にたたんというので、しかし、殿はお蝶とお約束を…と山田が聞くと、約束ではない、あいつを働かせるための餌と吐き捨てる。

例えあの女がマグナの瞳を持ってきたと言っても、海外渡航の御法度を犯した囚人の解放ができるか!と主水正はいい、どうなさいますと聞くは以下たちに、とにかくもう一度女を責めてみようという。

しかし、離れた部屋の障子の陰でこの一部始終を盗み聞いていたお蝶は、ちくしょうとつぶやく。

百合絵は、牢内で寝ていたが、また役人が入ってきたので怯える。

いかなる手段を用いても良い、白状させろと背後から命じたのは主水正だった。

その夜、奉行所に集められた捕手たちを前に、主水正は、討幕を企む不定の輩は、一人も生かしたままこの長崎から出してならん、行け!と明治、捕手たちは一斉に街へ向かう。

バーレとて、鉄砲の買い手がワシの方だけになったら折れてくるのが必定だと配下のものに告げる。

配下たちが全員出てゆき、1人自室へ戻った主水正は、襖の影から銃を突きつけた黒頭巾が出現したので驚く。

私は忙しい、要件のみを申し上げると黒頭巾がいうと、なんだ、有馬屋の娘を釈放しろというのか?と主水正が聞くと、それも一つと黒頭巾が答えたので、他に何の用がある?と主水正が聞くと、観音像だと黒頭巾は答える。

観音像?と主水正は不思議がるが、前奉行松川河内守が有馬屋から没収した観音像だと黒頭巾は要求する。

それがどうした?と主水正が聞くと、渡瀬、渡したら言おうと黒頭巾は答えるが、せっかくだが渡せんと主水正がいうんで、なぜ?と聞くと、バーレにやってしまったと主水正が答えたので、何!と驚いた黒頭巾は銃を下ろしてしまう。

しまったといい、立ち去ろうとした黒頭巾だったが、待て!と制した主水正が柱の横の引き綱を引くと、黒頭巾が立っていた畳が落ち、黒頭巾は地下へと落下してしまう。

そうか、マグナの瞳はあの観音像に隠してあったのかと気づいた主水正の声を、屋敷に忍び込んでいたお蝶と三公が盗み聞いてしまう。

喜んだ2人はそのまま外へ出ていき、残っていた主水正は配下の稲葉と友右衛門たちを呼ぶ。

街では、薩長の志士たちが逗留していた旅籠が次々に捕手たちの襲撃を受ける。

「オランダ国長崎商務館」の別室に待たされていた益満は、隣の部屋から聞こえてくる話に耳を傾ける。

隣に来ていたのは松平主水正で、ミスターバーレ、約束通り、ボックスデル号の鉄砲を渡していただけますか?と迫っていたが、よろしい、マグナの瞳を渡していただきましょうとバーレは要求する。

すると主水正は、すでにあなたにお渡ししてあると言い出したので、何?とバーレは不思議がるが、そこにありますと主水正は指摘し、棚に置いてあった観音像を指出す。

松平さん、冗談はいけませんねとバーレは、理解できないようだったが、その声は、隣お部屋にいた益満も聞いていた。

主水正は自ら立ち上がり観音像を手に取って、バーレの前のテーブルに置くと、この中にある、お改め願いたいと教える。

バーレが、驚いたように観音像を手にすると、灯台下暗しとはこのことです、私も初めて知って驚きましたと主水正は苦笑する。

のには首を傾げていたが、これ、あなたからいただいた観音様と違いますねと言い出したので、何ですと!と主水正とは以下のものは仰天する。

あなたにいただいたの青銅でできていましたね?ところがこれ、泥でできていますよとバーレは指摘し、その場で観音像をテーブルに打ち付けて壊すが、中は空洞で何も入っていなかった。

その破壊音を隣室で聞いた益満も驚くが、何気なく窓から外を見やると、海に出ていく小船に乗った男女二人組の姿が見えた。

慌てた益満は、待て!その船待てえ!とベランダに出て呼びかけるが、バーレもまた、ベランダから遠ざかっていく船影を見て事情を察する。

その頃、奉行所の落とし穴で周囲の壁を鉄砲の握りで叩いて音を聞いていた黒頭巾は、一箇所だけ音が違う部分に気づき、そこに体当たりしてみる。

すると、その部分が少し凹んだので、慢心の力を込めて押してみると、壁の一角が崩れ落ち、その奥に通路が広がっていた。

坑道のような抜け道を進んでいった黒頭巾は、やがて水が滴り落ちている箇所を見つけ、水牢だな?ここが水門かと気づく。

さらに進み、軟弱な壁を思い切り押してみると、そこは百合絵が捉えられていた地下牢だった。

百合絵は黒頭巾の姿を見ると喜んで抱きつくと、黒頭巾は良かったといい、百合絵は、もうお母様にお会いできないかと…と弱音を吐いたので、つまらないことを言ってはいけない、母上も類吉も待っているんだ、何としてもここを抜け出すんだと黒頭巾は力づける。

百合絵は嬉しゅうございますと抱き締めるが、その時、牢番の足音が近づいてくる。

牢番は、百合絵の牢がもぬけの殻になっていて、壁に大きな穴が空いていたので、驚いて鍵で檻を開いて中に入って様子を伺うが、物陰に潜んでいた黒頭巾が当身を喰らわし、穴の外に身を隠していた百合絵とともに、牢を抜け出す。

その頃、お蝶と三公は小舟を岸につけ、闇に乗じて上陸していた。

そこに陸路を追ってきた益満が迫り、反対方向からは捕手たちが迫ってきたので、益満も発見され囲まれてしまう。

益満は刀を抜いて応戦し始める。

一方、お蝶と三公も捕手に追われ、夜の街を逃げ回理、やがて倉庫の中に身を潜める。

何とか追っ手をまいたお蝶だったが、小麦袋のようなものが大量に積んであったので、三公に、その袋の一つに観音像を隠させる。

番屋前に出張っていた松平主水正は、お蝶はここに逃げ込んだに相違ない、出入り口を固めて、唐人街をしらみつぶしに探せと集まってきた捕手たちに命じる。

唐人向けの料理店「泰華楼」の中では、客たちの前でお蝶が化けた中国娘が歌を歌っていた。

川縁で戦っていた益満は、川に転落し、そのまま泳いで逃げる。

一方、中国人に化けた黒頭巾と百合絵と類吉は、西洋馬車に乗って唐人街にやってくるが、役人に呼び止められる。

しかし、異国人と思われそのまま通過を許される。

番所で待機していた松平主水正のもとに駆けつけた山田新兵衛が、1人は取り逃しましたが、1人は片付けましたと報告したので、ご苦労と労う。

この場は拙者に任せて、一応お引き取りの上、吉報をお待ちくださいと山田が勧めると、うん、だが長崎奉行の面目にかけて、明朝までに観音像を手に入れねばならんぞと主水正は言い聞かす。

まあ、ここに追い込んだ以上、袋の鼠です、ご安心してお引き取りくださいと山田はいう。

良し、吉報を待ってるぞと言い残し、主水正は一旦奉行所へ戻ることにする。

その頃、件の倉庫に小麦袋を取りにきた異国人は、袋の中でも一番手前に置かれていた小さめの袋を担いで出てゆく。

泰華楼」では、舞台で歌い終わったお蝶に、客がお呼びだと店のものが耳打ちしにくる。

その客とは黒頭巾が化けた中国人だったが、それに気づかず客席に向かうお蝶。

それに気づいた中国人に化けた三公は慌てて裏口へ向かう。

大変美しい歌を聞かせてくれてどうもありがとうと客の中国人はいうので、お上手ですこと…とお町は謙遜する。

いかがですか?いっぱいお付き合い願えませんかと言いながら客がグラスを持ち上げると、少し頭痛がしますの、冷たい風にあたりとうございますわといいお蝶は断る。

それはいけません、では私の車でその辺りまでいかがですかと客が言うので、ええとお蝶は承諾する。

その頃、倉庫に戻り、観音像を隠した袋を開けた三公は、袋が入れ替わっていることに気づく。

中国人客の馬車に乗って唐人街を抜け出したお蝶だったが、今夜はなかなか賑やかですねと客から話しかけられたので、本当に…何があったのかしらとお蝶はとぼけるが、ご存知ないのですか?と客が聞くので、知らなかったらいけません?とお蝶は返すが、とんでもない、ただご存知ないはずはないと思ったもんですからと客はいう。

まあ、どうして?とお蝶が聞くと、奉行所の役人が騒ぎ回っているのは、討幕の志士を捕まえるのだとばかり思っていましたと客は言い出す。

他に何か目的がございますの?とお蝶が聞くと、それだけだったら唐人街の表を固めて探し周りはしませんからねと客は続ける。

じゃあ何でしょう?とお蝶が聞くと、探しているのはどうやらマグナの瞳のようですと客が言うので、お蝶は急に警戒しだす。

お蝶さん、私が奉行所で主水正に掛け合う前に庭に潜んでいたのはあんたでしたねと客から指摘されたお蝶は固まる。

お前さんは!とお蝶が気づくと、黒頭巾ですと客は正体を明かす。

あんたはあの時、奉行と私の掛け合いを聞いてた、そこで先回りして先にマグナの瞳を手に入れた!と言うので、お蝶は逃げ出そうとするがその手を掴んだ黒頭巾は、そこで相談がある、いや頼みがあると言い換えても良いが、マグナの瞳を譲ってはくれぬか?と言い出す。

お蝶は手を振り払い、お断りしますとそっぽを向くので、ひどくそっけない挨拶だねと黒頭巾はいう。

私は欲得ずくでマグナの瞳を手に入れたんじゃないですからね!とお蝶がいう。

異国人墓地に降り立った黒頭巾は、お蝶さん、あなたの方の事情はよくわかりました。しかし我々だって欲得ずくじゃないいんだ、今も言うように維新回転の大事業を推進し、腐り切った徳川幕府の土台をひっくり返すには、どうしてもそれが必要なんだと黒頭巾は説得しようとする。

倒幕だか勤王だか知らないけど、私の耳には念仏ですよ、どっちが勝ったって私の知ったことじゃないじゃないですかとお蝶はいうにで、それは違う、じゃあ聞くがね、オランダに渡ろうとすることが牢へぶち込むほどの悪意とはあんたは思えんのだねと黒頭巾は聞く。

徳川家が日本を支配する限り、それは改められないんだと黒酢金はとく。

だが新しい世の中がくれば、誰でも大威張りでオランダへもどこの国にも渡れるようになるんだと黒頭巾はいう。

それを聞いたお蝶は、そうなったってもう遅いよ、私は間違った掟のために苦しんでいる弟を助けるのが目的なんだ、先のことなんてどうだっても良い!今が…、今が大事なんだ!と主張する。

お蝶さん…と黒頭巾は言葉を続けようとするが、もうたくさん、私は弟を助けるために、どうしてもマグナの瞳が必要なんだ!誰にも渡すもんか!とお蝶は意固地になる。

では浩吉さんとやらを渡せば、マグナの瞳はこちらにいただけますね?と黒頭巾は交換条件を提示する。

そんなこと言ったって…とお蝶は反論しようとするが、それ以外にあなたと私が争わなければならんという理由は何もないと黒頭巾はいう。

そうでしょう?私は約束は必ず守りますと黒頭巾がいって立ち去ると、お蝶はしばし考え込むが、何言ってやんでえ!そんなに簡単に行くなら、誰がこんなに苦労するもんか…と拗ねる。

しかし、その直後、お蝶の顔は真顔になっていた。

その頃、倉庫の中で観音像を探していた三公は、袋を開けちらし、ないと騒ぎながら粉まみれになっていた。

一方、観音像の入った粉袋を調理場に持ってきた異国人料理人は、粉の中から観音像を見つけ出す。

そこに戻ってきた三公が気付き、観音様!というながら奪おうとするが、料理人たちは奪われまいと仲間同士で投げ渡し合う。

調理場で揉み合ううちに、観音像が手から離れ窓から外に落ちてしまったので、三公は慌てて表に飛び出す。

表に落ちていた観音様を拾う異国人風の後ろ姿があった。

その頃、元気になった折江は、世話になっている豊春からこれまでの黒頭巾との経緯を聞いていた。

イカサマな女衒の手にかかって危うく売り飛ばされようとするところを、黒頭巾の山鹿さんに助けられて、それから何これとお世話を受けましたが、あの方は大切な勤王の志を遂げようとしているお方、私一人の片思いで所詮叶わぬ恋と諦めておりますと豊春は説明する。

時々ここを仕事部屋にお使いになりますが、風のように来て。風のように帰ってしまい、本当に言葉一つ満足に交わしたことはございませんと豊春は愚痴る。

それええも何か困ったことが起きると、必ずどこかからか来てくださるので、今の私にとっては杖とも柱とも頼む、たった一人のお人なんですと豊春はいう。

でも…と続けるので、でも?と折江が聞き返すと、この頃のような物騒な世の中を見ておりますと、彼の方にもしものことはないかと、夜など眠れぬこともございますと豊治は打ち明ける。

すみません、つまらぬ私ごとをお聞かせして…と豊春が詫びるので、いいえと答えた折江は、1日も早くすみ良い良い世の中が来て欲しいものですねと同意する。

奉行所に来たお蝶に、取引なら観音像を出せと主水正が迫るので、ここにはありますと答えたので、どこだ?と主水正が聞くと、弟を渡してください、そしたら観音像のありかを申し上げますと願いでる。

よしと答えた主水正は、浩吉をつれてこいと配下に命じる。

その頃、異国人の服を着た類吉は観音像を拾って、百合絵と帰っているところだった。

姉さん、よかったね、黒頭巾のおじちゃん喜ぶよと言いながら板書の前までくるが、坊主、それを寄越せと山田たち役人が近づいてくる。

類吉たちはその場から逃げ出す。

奉行所では、牢から出された浩吉とお町が再会していた。

弟に抱きつこうとしたお蝶だったが、役人に止められ、座敷の主水正からは、お蝶、観音像のありかを聞こうと呼びかけられる。

御前、あなたは私が一体、それを申し上げたら、浩吉を私に返してくださるのですか?と確認する。

しかし主水正は渡さん!と即答したので、なんですって!と驚く。

うつけもの!上役所は取引の場所ではない!素直に観音像を引き渡せ、さすれば折を見て、憐憫の願いを聞いてやらんでもない、つべこべいうと、幸吉は死骸にして渡すぞ!と主水正はいう。

御前!といい愕然と佇むお蝶。

稲葉!と呼びかけられた役人が浩吉のそばまでいくと刀を抜き、浩吉に向けると、素直に申し上げろとお町に命じる。

幸吉を指した刀はそなたの頭上にも向かうのだ、覚悟を決めて返答せい!と稲葉は迫る。

どうするのじゃ?と主水正が聞き、マグナの瞳を渡すか、それとも!といなばはいい、刀を浩吉にさらに向ける。

追い詰められたお蝶は渡しますと観念するが、その時、その必要はないという声が聞こえる。

物陰の木からから飛び出してきた黒頭巾は、お蝶さん、弟さんを連れて早く逃げろと言うので、お蝶は固まる。

私は常に正しき者の味方だと黒頭巾がいうので、お蝶は感激し、早く!と黒頭巾から急かされたので、はいと答え、浩吉ともに逃げ出そうとするが、一瞬足を止め、マグナの瞳があることろは…t打ち明けそうになる。

その時、姉御!と言ってやってきたのは三公で、観音像がなくなったというにで、お蝶は仰天する。

奉行所に駆け込んできたのは観音像を抱えた山田だった。

一方、黒頭巾は、幸吉とお蝶らとともに奉行所を後にしていた。

殿!と山田から魅せられた観音像を見た主水正は、おう!と喜び、その場で台座を外してみる。

すると中からマグナの瞳が転がり出たので、それを手にした主水正は馬を引け!と命じる。

観音像を奪われた類吉は泣きながら百合絵と帰路についていたが、坊やと声をかけたのは黒頭巾で、どうした?というと、今、役人に観音像を取られましたと百合絵はいう。

見ると、馬に乗った主水正が走り去っていくので、黒頭巾はお蝶に、マグナの瞳は国際屋敷だ、このことを真砂町にいる益満さんへ、良いかと言い残し、反対方向へかけてゆく。

すると、どこから調達したのか馬に乗った黒頭巾が主水正の後を追っていく。

それを見送った三公は、大した男だね、おいら惚れたぜ、ぞっこん!と言いながら、同じように黒頭巾を見つめるお蝶の肩を叩く。

主水正たちの馬を追尾していた黒頭巾は、途中で別の道に回る。

「オランダ国長崎商務館」に来た主水正は、寝ていたので遅れました、こんなに早くなんのご用でしょうか?」と聞くバーレに、鉄砲をいただきに来ましたと言いながら、テーブルにマグナの瞳を置く。

おう、マグナの瞳!と言いながら、そのダイヤを取ろうとした手を押さえた主水正は、鉄砲と引き換えですぞと言い、相手の顔を確認した主水正だったが、貴殿は?と驚く。

さすがだ、いかにも私は…と言いながら髭をむしり取って行ったバーレは、薩摩藩士山鹿弦一郎だと正体を明かす。

人呼んで「黒頭巾」!と着物も黒装束になる。

主水正は笑いながら懐から銃を取り出そうとするが、黒頭巾の銃撃の方が早かった。

その時、銃声に気づいた本物のバーレがドアを開けたので、山田新兵衛ら配下2人が斬りかかるが、黒頭巾は剣で応戦し、見事二人とも斬り捨ててしまう。

黒頭巾はバーレに、お騒がせしました、それではマグナの瞳をお受け取りくださいと申し出る。

それを手に取ったバーレは喜ぶ。

そこにやってきたのが益満で、黒頭巾は益満さんと出迎え、バーレは受け取ったマグナの瞳を見せたので、益満はありがとうといい、黒頭巾と握手するのだった。

明けて慶應年春

鼓笛隊の列が通り過ぎる。

山鹿弦一郎は江戸へ向う討幕軍の中の馬上の1人となっていた。

それを見送る群衆の中に、豊春と折江、百合絵、類吉親子、そしてお蝶、三公、浩吉姉弟の姿もあった。

山鹿弦一郎の表情は晴れやかだった。


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