「家光と彦左と一心太助」
中村錦之助(萬屋錦之介)さん主演の「一心太助」4作目
1961年の1月3日公開というバリバリの「正月映画」で、内容も正月設定の物語を描いている。
今作のテーマは「異母兄弟」なのだが、本作では家光と太助役を毎回中村錦之助さんが二役で演じていることを利用した発想も入っており、さながら日本版「王子と乞食」みたいになっているところが楽しい。
しかも、わかりやすいコメディ時代劇になっているのだ。
小国英さんの脚本が素晴らしく、長屋住まいをする将軍家光も面白ければ、江戸城にいる太助も面白く描けている。
本作では、錦之助さんの弟中村賀津雄(中村嘉葎雄)さんも登場しており、この前年、やはり兄弟共演、監督も同じ沢島忠監督の時代劇喜劇「殿さま弥次喜多」(1960)に近い雰囲気になっている。
護衛役として柳生十兵衛まで登場し、演じているのは平岳大さんの実父で、当時TV時代劇「三匹の侍」で人気だった平幹二朗さん。
前作で悪役を演じていた進藤英太郎さんが、本作では大久保彦左衛門を演じているのをはじめ、主役以外の主要なレギュラー陣がガラリとキャストを替えてしまっているので、最初からシリーズを見ていた観客は戸惑ったことだと思う。
前作で主役の一人、大久保彦左衛門が亡くなってしまい、家人の笹尾喜内も大阪に行ってしまったと言う結末だったのと、本作ではかなり喜劇性が増していることもあり、映画のリブートや、テレビドラマの新シリーズみたいな感覚で、心機一転、大幅なキャスティング変更をしたのだろうが、前半の方で、太助が女房であるお仲の顔を見違えてしまうなどと言うエピソードがあると言うことは、設定が理解できない観客への配慮のつもりなのだろう。
テレビの大川橋蔵版「銭形平次」みたいに、主役俳優は一貫しているが、女房役は時々交代するという発想の原点かもしれない。
進藤英太郎さんは大久保彦左衛門を演じるに当たって、入れ歯を取って演じられているようで、加藤嘉さんがやる手法で老け役を演じておられるように見える。
昔から善人役もこなしてきたベテランらしい安心感はあるが、長台詞のシーンでは、何かカンペを読んでいるように目線が外れているように感じられるのが興味深い。
実際は暗記しておられたのかもしれないが、ご高齢の俳優さんの中にはセリフが入りにくく(覚えられなく)なる方も多いと聞いているので、そう言う偏見で見たためかもしれない。
長屋の意地の悪い義母を演じている赤木春恵さんも、まだ肌が張った若々しい時代である。
それにしても、この時代の魚屋の衣装、ミニスカートを履いて生足を出しているようなものなのだが、寒くなかったのだろうか?
太助に化けた家光が、この衣装でゆったり正月の屋外を歩いているので、余計にそう感じる。
【以下、ストーリー】
1961年、東映、小国英雄脚本、沢島忠監督作品
江戸城。
元和9年正月元旦
元旦の祝賀は古来より我が国年中行事最大の儀式として伝わってきたものであるが、江戸幕府はさらにこれを豪華絢爛たる祭典として制定したのであった。
要するにこれは将軍家の威勢を示すことに他ならない(とナレーション)
上様、お世継ぎ様、御出座~!との声で、一斉にお辞儀をする参列者たち。
徳川秀忠(北龍二)、徳川家光(中村錦之助)が座ると、新年のご祝儀、めでとう申し上げますと挨拶すると、秀忠が新年おめでとうござると挨拶を返す。
こうして1人1人に、決まり文句の「めでとうござる」を繰り返し、祝い酒のお流れを与えねばならない将軍も大儀千万なことだが、この順番を待つ側の方も楽ではなさそうだ(とナレーション)
この国の宰相徳川忠長(中村賀津雄)は、世継ぎ家光の腹違いの弟なのだが、現在の位が下三位とは違い、装束も異なり、かつこの末座ではそろそろ痺れが切れかけているようだが、まだ数刻は我慢せねばならないだろう、忠長はまだ数刻の我慢で済むだろうが、この連中はまた数数刻は待たねばなるまい(とナレーション)
この旗本どもに至っては、いや、この中でも三千石枠という大久保彦左衛門忠教に至っては、さらにさらに数刻は待たねばならん、だがこの老人は心得たるもので、甚だ要領の良い待ち方をしている(とナレーション)
すでにうたた寝をして正座している大久保彦左衛門忠教(進藤英太郎)が、ふと目を覚ますと、周囲に待っていたはずの旗本連中はすでに一人も姿はなく、寝過ごしたと気づいた彦左衛門は、慌てて草履を手に、城中へと直走る。
家光の座敷に到着した彦左衛門に、爺、遅かったではないかと苦笑して話しかける家光。
新年のご祝儀、めでたく申し上げますと彦左衛門が挨拶をすると、本日この彦左衛門、東照神君御在世砌のの勤めを思い出して、勝ち目好きおすめ好き黒鍬組を従えて、大手門の御警護にあたり…などと言い出したので、流石の家光も笑い出してしまう。
爺、本丸の庭で居眠りをしていたのであろう?と家光が図星を言うと、彦左衛門は狼狽えるしかなかった。
居眠り、元旦早々、居眠りとは何事!誰がそのようなことを!
彦左殿、お互い、歳をとりましたなと春日局(松浦築枝)が、横から口を挟んできたので、これは春日とのの言葉とも思えん、かく申す彦左衛門、16歳の初陣、天正3年鳶の巣文殊山合戦にて一番乗り、一番槍…と、いつもの口癖をまた始める。
扇を広げ、やあやあ…と発報が続けようとすると、分かった!爺、分かっておると家光は止める。
するといきなり笑い出した彦左衛門は、恐れ入りました、若は何事もお見通しでござる、このじい、お庭先におきまして初夢を見ておりましたのじゃと言い出す。
夢?爺、どんな夢じゃ?と家光が聞いたので、はい、若がまだ竹千代君、御弟忠長様が国松君と呼ばれた頃の夢でございますと彦左は話し始める。
(夢の話)廊下を走っていた彦左衛門は急に倒れ、何者じゃ!と叱るが、木刀を持って、爺、参ったか?と飛び出してきたのは、竹千代と国松兄弟だったので、若でございましたかと気づく。
何のこれしき、無念残念、口惜しゅうございますが、本日はそれどころではございません、ごめんというと、彦左衛門はその場を立ち去り、徳川秀忠の元にやって来ると、こともあろうに神君家康御遺言の竹千代君を差し置き、御弟の国松君をお世継ぎに立てるとは、母君北の方の溺愛もさることながら、それに乗じた本多上野介正純(薄田研二)の憎っくき振る舞い…
控えい、彦左!竹千代くん、御気性荒々しく、いささか御粗暴、よって上様は国松君を持って三代目将軍とすでに御決定だと上野介は言って、外方を向く。
こはなんたること、もはや死を持って諌めんものと、脇差取って腹に突き立てんとすれば、さすがは二代様、彦左、許せ…、余が悪かったと秀忠が言い出し、一堂の者!竹千代を持って三代といたすぞと居並ぶ重臣たちに宣言する。
彦左衛門以下、重臣たちは平伏してこれを受け入れるが、上野介と北の方(風見章子)は不満げな表情になる。
喜んだ彦左衛門は、帰りの廊下で、あ、爺!待っていたぞと言いながら駆け寄ってきた竹千代と国松に会うと、若様!国松様!と合流し、馬になるんじゃと国松君から言われたので、爺がでございますか?と戸惑いながらも、素直に四つん這いになり、竹千代が上に乗り、国松が馬を引く役を演じるのだった。
やがて、竹千代が国松に乗馬役を交代し、国松が彦左衛門の上に乗り、自分は彦左衛門の耳を引っ張る役目になる。
村上地、彦左衛門が泣いて止まったので、爺、どうしたのじゃ?と国松君が聞いてきて、竹千代も、爺は泣き虫だな~というので、はい、若たちにかかると、ほんに爺は弱虫でござるの~と2人を抱き寄せて苦笑するのだった。
二人とも爺の申し上げることをよくお聞きくだされや、国松様、兄はやがて天下の大将軍になられるお方、貴方様は兄上の片腕となって、いつまでも仲良く、仲良く…な?そして竹千代様は、あっぱれ天下の名君になられますよう…、良い子に、良い子に…と伝えるのだった。
(夢開け)ご立派にご成人なされました、爺はもう嬉しゅうて、嬉しゅうて…と涙ながらに言う彦左衛門に、懐かしいのう、爺、余は忠長と久しゅう話したことがないと家光は寂しげに答える。
そうじゃ、久々に竹千代と国松の昔に帰り、忠長と一献酌みたい、そちも相伴いたせと家光は思いつく。
それbる聞いた忠長は、何!兄が一献酌もうと申されたか!と喜んで立ち上がるが、お待ちください、西の丸へのお入りお留まりくださいませと申し出たのは上野介だった。
なぜ兄上の所に参ってはダメなのじゃ?と忠長が聞くと、本日の御本丸におけるお年賀式、上野介、胸を締めあげる感を覚えましたという。
同じご兄弟でありながら、お一方は上様と並んで御上段の間にお着席、貴方様は御廊下の末座で…と上野介が言うと、兄でありながら、お召しを受けねば会われぬなどて…そなたが不憫でなりませぬと北の方も言い出す。
しかし忠長は、母上、兄上こそ御世継ぎの座にあるために、忠長の如く、こうして母上にも甘えられず、お気の毒ではありませんかと言い返し、上野介、忠長、喜んでお受けいたすと西の丸に伝えい!という。
酒井阿波守忠行(徳大寺伸)は御膳奉行に、忠長様の始末をつけるのじゃと指示したので、御膳奉行は、されど酒井様、今となっては…と怯えるが、控えい!老中本多上野介様のご命令じゃ、行け!と阿波守は支持する。
家光が彦左衛門の前で、酒を飲もうとした時、ご容赦!と言いながら駆け込んできた御膳奉行が、お毒見仕りますというと、家光の盃に酒を一気に飲んでそのまま後退りし座ると、不忠義の罪、これにて!と謝罪した後、立ちあがろうとするが、その重臣の口から血が滴り、自らのたもとを握りしめながら倒れてしまう。
本丸へ向かっていた忠長は、廊下で待っていた阿波守に、何事じゃ?と聞くと、ただいま、御世継ぎ様お召しの酒、御膳奉行がお毒見をした際、その場において会い果てたと由にござりまするというので、忠長は兄上はご無事かと尋ね、家光の元へ急ごうとするが、同行していた本多上野介がそれを止め、なりませぬ!まずは各えいに従って、上様のお使いが先でございますと進言する。
恐ろしいことでございます、忠長様御相伴の酒に毒が入っていたとは…と上野介は意味ありげにつぶやく。
これではいかに仲の良い兄弟でも、意思の通じぬのが当たり前である(とナレーション)
なんたる不祥事!但馬、早々に究明いたせと家光の前で土井大炊助利勝(高松錦之助)から指示が出る。
それを受けた、柳生但馬守宗矩(坂東簑助)は、早速の措置と致しましては、上様御身辺警護の役目、倅又十郎宗冬御下命くださいますようと願いでる。
その場で柳生又十郎宗冬(尾上鯉之助)が指名され、二人は家光に平伏する。
江戸の魚河岸では、正月を祝う獅子舞が踊っていた。
紋付姿の一心太助(中村錦之助-二役)も、升酒を飲んだ後、魚河岸の連中に明けましておめでとうございますと挨拶して回っていた。
そんな中、おじちゃん!と呼びかけてきた子供の巳之吉()に出会った太助は、どうしたんだ?と聞く。
今日は寒くて、しじみが取れないんだという。
思わず巳之吉を抱きしめた太助は、一緒に来いと言って出かける。
途中、お豊(木暮実千代)とその妹およし(吉川博子)と出会った太助は、明けましておめでとうございますと挨拶して別れたので、相変わらず威勢が良いねえとお豊は笑う。
巳之吉を連れ、長屋の兵助の部屋にやってきた太助が、おい、兵助、人でなし、出てきやがれ!と兵助を呼びかけると、障子を開けた兵助が、うるせえな、何だ太助さんじゃねえか、おめでとうと呑気に挨拶してきたので、何がめでてえんだ、馬鹿野郎!巳之吉にこんな格好させやがって!しじみ鳥なんかに行かせやがってよ!と文句をいうと、平助の部屋の障子を路全開にすると、義母らしき女が巳之吉の義兄弟のような子に晴れ着を着せているところだった。
今年もまた、おめえさんのお節介に悩まされるのかい…と兵助は脱力する。
やい兵助、後釜にできたチョロ松に着飾らせて、前のカミさんの子はこんなにガンガン扱き使いやがる、てめえ、それでも人間か?と太助はいう。
ほっとけよ、人の子だと平吉が言うので、何を!と助けは言い返すが、なあお常と女房にいうと、そうだよ、お前さんと女房も同意し、美味しいよほら、と自分の子供にだけおせちを食べさせるので、太助は、馬鹿野郎!と言い、巳之吉を連れて部屋を飛び出す。
その時、勢い余った太助は大家の源兵衛(杉狂児)とぶつかったので、源兵衛は転んでしまう。
あ、大家さん、こりゃどうも!と太助は詫び、明けましておめでとうございます、本年もよろしくと挨拶すると、太助さん、喧嘩始めかね?と源兵衛は聞いてくる。
自分の部屋に連れてきた巳之吉におせちん重箱を出し、さあ、食ってくれ、好きなもん食ってくれと勧める太助。
おじちゃん、ありがとうと巳之吉は礼をいう。
さらに、寒いだろう、これ着ろと、自分が着ていた羽織を巳之吉に着せてやりながら、坊や、親父たちにいじめられたらな、また俺のところに来るんだぜ、だけどな、男の子はな、ひがんだりしちゃいけないよと言い聞かせる。
食え食えとさらに勧めると、やっぱり魚屋だけあって、随分煮てあるねと巳之吉は感心したので、太助は愉快そうに笑う。
巳之吉がおせちを食べ始めると、今にな、お仲が帰ってきたらな、うめえ雑煮作ってやるよと太助はいう。
そこに娘が一人やってきたので、これはどうもあいすいません、魚河岸が始まりましたら元旦だけ休みってことになってますんで、明日の初荷にお願いしますと助けは詫びるが、何言ってるのよ、髪結いさんがちょっと暇取ったからっていって、変なこと言わないでよと言いながら、娘は部屋に上がり込み、手鏡の前に座って自分の髪を確認し、駿河台前のところへのお年始が遅れたって、怒ってるんでしょう?という。
それをじっと見ていた太助は、お前お仲か?と真顔で聞いてきたので、おら、お前さん、本当に見違えたの?とお仲(北沢典子)は驚く。
へえ~、毎日あくせく働かせてばかりいたせいか、すっかりお見それしちゃたよと太助は真顔で答える。
しかしまあ、なんだな…、駿河台の腰元で随一と言われた別嬪だ、ちょっと見直しちゃったなと太助は苦笑しながらキセルを逆にくわえたので、熱い!と焦る。
その後、助けとお仲は、大きな鯛を桶に入れて駿河台の大久保彦左衛門邸を訪れる。
屋敷内に来て、親分!明けましておめでとうございます!と大声を上げた太助だったが、すぐに顔を出したのは笹尾喜内(田中春男)で、静かにせんか!お殿様は天下の一大事出来で、柳生但馬守様と密談中だと言うので、へえ、こいつは驚いたね〜、正月早々天下の一大事かい!と太助は驚く。
もしこれが我らの推察通り、いまだに忠長公擁立の執念を捨てぬ本多上野介の策謀とすれば、まさに容易ならざる天下の一大事!と熱弁を振るっていたのは彦左衛門だった。
何分のところ、御台所北の方様は、家光公を疎んぜられ忠長公をご偏愛なさるところに、不定の輩が漬け込む隙が生ずるわけで…と但馬守も語る。
但馬殿、我らこれに対する策が立つまでは夜を徹しても語り申そう…、まあともあれ、一緒に傾けて勇気を奮い立たせねば…と彦左衛門は酒を飲む仕草をし、台所へ向かうが、途中の部屋で居眠りしていた紋付姿の客人を見つけたので、なんとしてこれへ!と彦左衛門が恐縮するが、その声で目を覚ました助けが、あ、親分、あけましておめでおうございます、今年もどうぞよろしくお願いしますと挨拶してきたので、太助か!ああ驚いた、いやその方が着物を着た姿など滅多に見ないものだから…と勘違いしたことを明かしたので、誰かと間違えたんでしょうと太助は揶揄う。
しかし彦左衛門は、慌てるな!そそっかしい奴じゃ、喜内に酒の支度をせいと言えと彦左衛門は言いつける。
ヘイ!と答えた太助だったが、喜内に伝言しに行くため部屋を出る際、天下の一大事はどうなりました?と彦左衛門を揶揄っていく。
その時、何かに気づいた彦左衛門は、太助を呼び止め、横を向けと命じたり、上を向けと言い、その顔をじっと観察し出す。
そして急に太助の手を引くと、柳生但馬守の待っている部屋に連れていく。
柳生但馬守の前に太助を座らせ、燭台を近づけた彦左衛門は、如何でございます?但馬殿…と聞く。
太助の顔を凝視した但馬守は、う〜ん、似ていると頷く。
気持ち悪いな、似てる、似てるって誰に似てるんです?と太助が不安げに聞くと、首事位大納言家光公、やがて三代征夷大将軍になられるお方じゃと彦左衛門が教えると、冗談じゃありませんよ、あっしが将軍などという代物に…と太助は焦って否定するが、代物?とは何だ!何と言うことを!と彦左衛門は叱る。
あまり身分が違い過ぎるし、思い合わせる気にもならなんだが、こうして見ると…と彦左衛門が言うと、瓜二つと言って過言ではない!と但馬守が続ける。
太助!その方の命、この彦左衛門にくれ!と言い出したので、命を?どうなさるんで?と太助が聞くと、まさに天下の一大事じゃと彦左衛門はいう。
太助!親ともとも思うてきたその方、いや、お仲もある今日、わしのこの非道な頼み、察してくれい!と涙ながらに彦左衛門が言うので、わかりやした、へ、親分の御役に立つことでしたら、あっしは喜んでお引き受けいたしやすよと太助は答える。
太助!と彦左衛門が呼びかけると、親分!あっしは親分の一の子分ですぜと太助がいうので、さすが太助、一心鏡の如しじゃ!と彦左衛門は感激し、頼んだぞと頼む。
但馬殿と声をかけた彦左衛門は、憚りながらと言いながら但馬守とともに部屋の隅に移動し、何事かを但馬守に告げると、しからば拙者、これより直ちに奥医師武田殿の家に赴き、仔細を打ち明け…と答えたので、お願い申すと頭を下げた彦左衛門は、それからもう一人、道庵の弟子を我が方へお頼みましたぞと彦左衛門は依頼する。
その頃、うちの人ったらね、風邪一つ引いたことがないのよ、貧乏暮らしでも2人がばばで働いていたら幸せになるわと、お仲は昔働いていた大久保邸の腰元仲間に惚気ていた。
みんなが笑い合っていると喜内が飛んできて、これ、静かにせんか!お殿様はご機嫌が悪いんじゃというので、御用人さん、うちの人は?とお仲が聞くと、何をいうにも、うちの人、うちの人!心配いたすな、お殿様と太助が浮気をするわけないじゃないかと喜内は笑う。
その頃、座敷で柱を背後に逆立ちさせられていた助けは、親分、勘弁してくれよと嘆願していたが、いやまだまだ、もうしばらくの我慢じゃ、まだ十分に頭に血が降りておらん、医者が来る前にもう少し血を下ろして、頭痛がするくらいにしておかねばと彦左衛門は無茶を言う。
親分、もうダメだ!と弱音を吐く助けに、我慢せい!と叱る彦左衛門だったが、とうとう太助は倒れる。
それを確認した彦左衛門は、しめた!と膝を叩き、誰かおらんか!喜内!誰かおらぬか!太助が急病じゃ!と大声を出したので、腰元部屋でくつろいでいた喜内やお仲や腰元連中は驚く。
ただいま!と駆けつけた喜内やお仲、腰元たちに、大変じゃ、太助が倒れた、医者を呼べ!と彦左衛門が言うので、喜内は医者を呼びに行き、腰元たちはお仲を先頭に部屋に駆け込んでいく。
お前さん!と倒れた太助に縋り付くお仲を引き剥がした彦左衛門は、これ!取り乱してはならん!と叱る彦左衛門は、集まった腰元連中にも、医者が車でそばによってはならん!下がれ!と命じる。
そこに喜内が医者を連れて戻って来て、お殿様、医者でございます、間が良い物で、道庵様の御弟子が新年の挨拶にお見えになりましたと紹介する。
それを聞いた彦左衛門は、うん、なんと言う恐ろしい偶然じゃ!さあさ、早く診察を!と太助を指して願い出る。
早速倒れた太助の容体を診た医者は、これは重体!頭に血が上りきっておりますと診断する。
血が上ったんじゃねえ、下がっちまったんだよと太助はぼやく。
それを聞いた医者は、これはいかん!脳に変調をきたしたらしい、このまま当家に寝かせて、当分動かさぬことじゃと言い出したので、お仲は泣き出してしまう。
そこへ、殿!一大事でございますと別の家人が走って来たので、一大事、一大事と真似を致すな!何事じゃ?と彦左衛門が廊下に出ると、ただいま、ご世継ぎ様ご発熱、すぐさま登城せよとの急使にございますと言うので、何!若がご発熱?天下の一大事じゃ、喜内、馬を引けいと彦左衛門は騒ぐ。
南無八幡大菩薩!と言いながら馬を走らせ江戸城に着いた彦左衛門だったが、ならん爺!余の身代わりに、太助の命を軽んずるなどもってのほかじゃと家光は、寝所に集まった奥医武田道庵法印(水野浩)、春日局、彦左衛門、但馬守らを前に叱りつける。
その方たちがこの家光を案じ、心砕いてくれることはありがたく思うぞ、なれど、余の身代わりに町人を立て、天下の祭り事がなると思うか!と家光が言うので、は、ごもっともなる仰せではござりますけれど、御世継ぎ様の御身に万一のことがある時には、天下の擾乱は火を見るより明らか!と但馬守が答える。
さよう、若の御身は若御一人のものではございませぬ、天下万民の者!その万民の幸せのために、何卒、何卒!と彦左衛門も言い聞かす。
春日局も、若、この機会に下情を視察なさるのも一つの道、何卒ご決断を!と迫る。
して道庵殿、若の御容体は?と彦左衛門が聞くと、御熱のため御脳にもご変調の御様子、御安静のため、何人にも御面接あそばさぬよう…と道庵が答えたので、彦左衛門は平伏する。
長屋には雪が降っていたが、お仲は1人で外の祠に拝んでいた、そんなお仲の頭上に笠を差し出したのは巳之吉だった。
お仲は、その笠を手伝いを買って出た巳之吉に被せてやり、自分は天秤棒を担いで魚を売りにいく。
庭先に降る雪を彦左衛門邸の座敷から眺めていた太助は、今日は初売りだ…、河岸行きてえなあ…とぼやいていた。
そこに喜内がやってきて、太助、薬じゃと言うので、薬?ふざけるんじゃねえ、おれは本当の病人じゃねえと太助は不貞腐れるが、薬は薬でも、灘の生一本だと喜内が言うので、偉い!さすが天下のご意見番のご容認だ!話せるな〜、えらい!と太助は相合を崩す。
現金なやつじゃ、上げたり下げたりするなと喜内は言い、酌をしてやる。
正月早々天下の一大事で、酒ろくに呑んじゃいねえんだから、派手にぱっぱ〜とやろう!と太助は調子に乗る。
しかしなんだな〜、ずいぶん気前よくなったな〜、今年は月給でも上がったのかい?と太助が怪しむと、家光様の御身が悪くなって、城中に死ににいくお前だ、全くもって男の中の男、せめて一生の思い出に心ゆくまで呑んでくれと喜内が深刻そうな表情で言うので、喜内さん、俺やっぱり、殺されちまうのかね?と急に改まって太助は聞く。
相手は何しろ本多上野介正純、その辺手抜かりあるものかと喜内は哀しげに言う。
それを聞いた太助は、静かに頷いて布団に横になり、俺が死んだらな、お仲の奴に、太助は頭が変になって死んだんじゃねえ、親分の天下の一大事を引き受けて死んだんだって、これだけ耳打ちしておくんなさいねと喜内に頼む。
親分のためなら、俺は命なんか惜しくはないよ…、だがお仲の奴が…というと、掛け布団を頭からかぶってしまう。
その頃、魚河岸にやってきたお中の姿を見つけた魚屋たちは、太助兄いは?とお仲に尋ねる。
一方、城内では、上野介が、発病のためにお脳に異常をきたされたと言うのか?あの時毒を飲まれていたのなら、そのせいということもあろうがな…と上様の情報を酒井阿波守から聞いて思案していた。
御老中、我々にとっては良い機会ではござらぬか、バカな将軍をいただいて喜ぶものはおりませぬと阿波守は同席した安藤対馬守重信(香川良介)を見ながら言う。
彦左目が、御病気平癒を祈願して、城中紅葉山の御陵にお籠りを願った由にございますと対馬守がいうと、何?紅葉山の御陵?と上野介は驚く。
「東照廟」という御陵に来た家光は、奥の扉を開いた彦左衛門から、若、ご覧なさいませ、江戸城に万一のことがある時は、将軍家抜け出しの隠し穴、御城内から市水内に通じる道、神君家康公よりこれを承るものはこの彦左ただ一人!と説明を受ける。
その頃、駿河台の大久保邸にやって来た魚屋たちは、御用人様、見舞いに来たんだ、太助兄いに会わせてくれ〜と、閉ざされた門に向かって呼びかける。
しかし、横門から出てきた喜内は、静かにいたせ、今、面会は厳禁じゃと言われる。
御容認さん、そ、そんなに酷いんですかい?と伍助(星十郎)が案じて聞き、兄貴の頭の具合はどうなんで?と他の魚屋も聞くが、心配いたすな、ちょっとした殿様病じゃと喜内はいう。
大久保邸の座敷では、太助が将軍の衣装に着替えていた。
羽織に一気に両腕を通した太助は、肩凝っちゃったと首をコキコキさせていたが、その時部屋に来た喜内に、控えい!と声をかけると、喜内はへへ〜と平伏してしまう。
太助がへへっと笑ったので、何だ、脅かすんじゃないよと言って立ち上がった喜内は、太助の着付けの手伝いをしてや裏ながら、今、魚河岸の連中が見舞いに参ったから追い返してやったぞと教える。
何だ、惜しいことしちゃったな、この姿見せてやれば良かったなと太助が戯けるので、呑気なこと言うんじゃないよと注意しながらも、しかし、馬子にも衣装とはよく言ったもんじゃと、着付け終わった太助を見て感心する。
ちょっとと喜内が部屋の外に手招くと、何じゃ?と助けが答えたので、生意気言うんじゃないよと叱りながらも、喜内は奥の部屋を指さす、
そこでは、彦左衛門と但馬守が、家光に太助の衣装を着せている所だった。
それを見つけた助けは、あ、俺がいらあ!と驚くが、これ!失礼なことを申すな!と喜内に叱られるが、太助は奥の部屋を指して、あれが将軍様?と口パクで喜内に確認する。
その直後、太助!太助!と奥から呼ぶ彦左衛門の声が聞こえる。
尻込みする太助に、お呼びじゃ、勇気を出して、一二の三!と言いながら、喜内が太助の体を押してやる。
親分、できましたよ〜と戯けながら廊下を走っていた助けに、無礼者!控えい!と彦左衛門が入ったので、庭先に降りて土下座する太助。
そこに、魚屋の着物を着た家光が廊下に出てきて、太助、身代わりの役、仇には思わんぞと話しかける。
そんな家光に、あの〜と助けが顔を上げたので、彦左衛門が、頭が高い!と押さえつけるが、だけど親分、こいつがないと太助になりませんぜと小声で言いながら、太助は自分の腕の刺青を見せる。
それを見た彦左衛門は、あ、なるほど「一心鏡の如し」か!よくぞ申した!と気づく。
そして、若!えらいものを忘れておりましたわいと家光に話しかける。
但馬守は腕を出した太助の刺青を参考にし、家光の腕に文字を筆書きする。
家光は、太助、一心鏡の如し、大事にいたすぞと声をかける。
庭先に彦左衛門といた太助は、ありがとうございますと平伏する。
そこに喜内が、柳生十兵衛三厳様、お越しですと、同行した柳生十兵衛(平幹二朗)と共に挨拶する。
但馬守は家光に、恐れながら、御場外における御世継ぎ様御警護役として柳生十兵衛三厳備えおきましてございますと説明する。
家光は、十兵衛大儀!と声をかける。
それを見た太助は、じゃあ、俺の方は弟の又さんがついているんだなと言い出したので、これ!と彦左衛門が叱る。
その後、家光に変装した太助は、抜け道を通して「東照廟」から江戸城内へと来る。
太助は、居並ぶ家臣たちの姿に怯え、帰ろうとするが、家来たちに促されオドオドしながらも何とか奥の前と向かう。
一方、長屋に喜内と魚屋に化けた柳生十兵衛をお供に籠で帰って来たのは、太助に変装した家光だったが、お前さん!と部屋からお仲が飛び出して抱きついて来たので、慌てて喜内が、お仲殿、太助の女房殿、太助はただ今殿様病、殿様が心配のあまり、この十助という男をお連れになって…と言い、その十助になった十兵衛から、太助さんのことはお任せくださいと言われ、強引に引き離される。
喜内は、荒屋ではございますが、どうぞ、どうぞと、表に魚を並べている太助の部屋に家光を案内する。
それを物珍しそうに見ている長屋の住人たち。
家光が部屋に入ると、お仲や長屋の連中が一斉に雪崩れ込んでくる。
源兵衛は、大家だよ!と自分を指差して思い出さそうとするので、喜内が紹介し、こちらが医者の暁天堂(源八郎)、これが松造(小森敏)、その他、長屋に住むものでございますなどと紹介していく。
すると家光は、皆の者、大儀じゃというので、みんな唖然とし、源兵衛などは気の毒そうな顔になり、巳之吉などは泣き出して部屋を出て行ってしまう。
あの子供は誰じゃ?なぜ泣いたのじゃ?と家光が聞くので、喜内は返事に窮するが、お仲が、何言ってるのよお前さん、いつも可愛がっている巳之吉じゃないのと口をだす。
頭が変になったおまえさんを見て、子供心にあの子は…、あの子は…とお仲まで泣き出したので、助けさん、あっしはともかく、恋女房のお仲さんの顔までわからなくなるなんて…、なんて情けない病気に取り憑かれちまったんだろうと源兵衛は嘆気、他の住人たちも泣き出す。
それを見た家光は、皆の者、すまぬ、許せなどと上から目線で謝ったので、それを聞いたお仲はさらに泣き崩れてしまう。
一方、江戸城にいた太助の方は、将軍の真似で退屈しきっていた。
姿勢を崩して鼻歌などを歌い始め得たので、そばについていた柳生又十郎宗冬(尾上鯉之助)が、それとなく注意する。
そこに腰元お楽(桜町弘子)が茶を持ってくるが、御世継ぎ様!などと言いながら太助に迫ろうとしたので、太助は狼狽し、側に付き添っていた又十郎に応援を求め流。
又十郎が、お楽殿お下がりください!と叱られたので、おらくは涙ぐみながら立ち去ってゆくが、迫られた太助は、何だい、ありゃ?と唖然とする。
鳥居土佐守成次(山形勲)殿が、公法御国表に出府、ご挨拶にまかりでましてございますと、本多上野介が北の方に紹介していた。
土佐守のことは、日頃忠長からよく聞いておりまする、この上にも、忠長のために勤めくれるようと北の方が言葉をかける。
土佐守は、身に余るお言葉、元よりこの土佐の命は忠長公に捧げ祀ったものでございますと土佐守は返事する。
土佐守殿は剣を取っては、剣流の奥義を極めたる者、一度狙った獲物は逃しませんと上野介は嬉しそうに紹介する。
その頃、太助に化けた家光は魚屋で溢れた魚河岸に来ていたが、あまりに場内とは違う喧騒の中で呆気に取られるだけだった。
おお、太助!治ったのかと気付いた魚屋が、おーい、太助が来たぞ〜と呼びかけたので、兄貴〜と手を握ってきた伍助は、なんだか見ないうちに色が白くなったじゃないかと不思議がる。
それでも、お〜い、みんな〜!太助兄いがきたぞ〜!と、伍助はさらに大声で周囲に呼びかける。
太助兄い!よかったな、良くなってと手を握り続ける伍助の周囲には魚河岸中の魚屋が集まってくる。
病気になって良い男になったぜ!兄いのいねえ内に河岸にもいろいろゴタゴタがあってな!などと魚屋が言うので、まあ良いじゃねえか、出てくる早々…などと伍助は宥め、見てくれ、兄い、出世魚と言われているんで、縁起が良いし、快気祝いに持って帰れと勧めるが、それを見た家光は、出世魚と申すのか?と聞いたので、魚屋たちはキョトンとする。
伍助はダメだ…と落胆するが、その時、魚河岸の一角で暴れ回る一団が現れ、それに気付いた魚屋たちは、加東家一家がまた来やがった!と一斉に立ち向かいに行こうとする。
しかし伍助は、待て!向こうは御奉行の意向を背負ってるんだ!とそれを必死に止める。
そこに怒鳴りながらやってきたのは加東家一家(沢村宗之助)だった。
御奉行様の家に腐った魚持ち込むとは何事だ!と因縁をつける加東家の子分だったが、そこに意味もわからず立っていたのは、家光と柳生十兵衛が扮した十助だったので、なんだ、この生意気な!と古文が家光の襟元を掴んだんで、家光はあっさり投げ飛ばす。
それを見た加東家の親分は、ちくしょう!おめえはどこの馬の骨だい!と聞いたので、馬の骨とは一体何のことじゃ?と家光は聞き返し、余は魚屋じゃと答える。
それを聞いた加東家は、この野郎…、御奉行様が怖くねえのかよ?と脅したので、奉行というと?と傍で控えていた柳生十兵衛に家光が聞くと、確か、烏民部正唯積でしょうと十兵衛が教えたので、怖いとは思わんと家光は答える。
それを聞いた加東家は、この野郎…、やっちまえ!と号令をかける。
家光は十兵衛から天秤棒を受け取ると、それを剣のように構えてあっという間に加東家を倒してしまう。
愉快そうに天秤棒を構えた家光が、次!と呼びかけると、ちくしょう…、覚えてやがれと言い残し、加東家の連中は退散してしまう。
十兵衛は家光の耳元で、商売、商売とつぶやいたので、家道は魚屋連中に対し、皆の者、さらばじゃと言って立ち去って行く。
それを見送る魚屋は、やっぱり太助兄いだぜというが、脳の方は戻らねえが、腕っぷしは前以上じゃないかと伍助は感心し、皆の者、さらばじゃ…と家光の口調を真似して見せる。
江戸城内では、亜右衛門が太助に、長袴を掃いての歩き方を指導していた。
足を上げるな、胸を張れ!転ぶな!などと文句言っていた彦左衛門だったが、やがて太助から魚の匂いがすることに気づく。
当たり前ぇだよ親分、将軍ていう商売は新米だけどよ、魚屋としては年季があるんだ年季が!1度や2度くらい風呂に入ったくらいじゃこの匂いは落ちない、絶対落ちないよと太助が言う。
それとね、河岸の歩き方は難しいよ、滑り足したら足踏まれちゃうからね、ポンポンと跳ねる!と言いながら魚屋の歩き方を始めたので、何をいたす!この際、そんな自慢をする奴があるか!ま、とにかく、措置のそばによったものに勘付かれる恐れがあると彦左衛門は悩み始める。
そうじゃ!御廊下で袴を踏んで転んだら、必ず誰かが助け起こしに駆け寄る、これを寄せ付けんために、すぐに、苦しゅうない、捨ておけ!と言うんじゃと彦左衛門は太助に教え込む。
そこへ柳生又十郎が駆けつけ、申し上げます、上様、御発病のようでと知らせたので、上様が!と彦左衛門は驚くが、太助は、ああ逆立ちしたなと言い出しので、馬鹿者!と彦左衛門は怒鳴りつける。
やむなく、秀忠の病床に見舞いに向かった太助は、なんとかすり足で部屋にたどり着くが、おお、家光か、これへと秀忠から声をかけられたので、彦左衛門と道庵の指導ですぐ近くまで寄って座るが、なんじゃそのように震えて…、心配するでない、わしの病の間、そちが代わって政務を取るのじゃぞと声をかけられ、政務?せいごって魚は存じてますが、政務?聞いたことない…と太助は首を傾げる。
それを同じ部屋で聞いていた本多上野介と酒井阿波守は驚く。
恐れながら、御世継ぎ様にはただいまの御言葉で察せられます通り、このところ、御脳の様子が…と上野介が進言する。
上野、家光が余の気を引き立てようと冗談を申しておるのが分からんのか?と秀忠は言う。
彦左、そちも本丸を出て、家光を見てやれと秀忠が声をかけたので、彦左衛門は平伏する。
たらに秀忠は、家光、もう良い、館に帰って休むが良いぞと優しく労ったので、助けは一旦帰りかけるが、急に振り返ると、あの…、本当の病気で出た熱なら、ミミズを咥えて飲むと治るって…、と秀忠に声をかけ、ね?と彦左衛門にも確認したので、また上野介らは仰天し、秀忠もミミズ?と眉を顰める。
彦左衛門は焦って、若様…と言いながら、太助の手を取って強引に部屋から出ていこうとするが、その時、兄上!と声をかけてきたのは忠長だった。
父上様、ご病気を…と話しかけてきたので、彦左衛門が、忠長様、上様の御容体はさほど御悪いとも…と説明しかけるが、その時前に出てきた太助が、忠長を睨みつけるようにその場を立ち去ったので、無視された忠長は唖然としてしまう。
廊下に出た太助を斬ろうと、角で待ち受けていた鳥居土佐守だったが、近づいてきた太助は袴を踏んで転んでしまったので、土佐守が斬ろうと前に出た瞬間、太助は、苦しゅうない、捨ておけ!と叫んだので、土佐守は畏まって引き下がるしかなかった。
太助は作戦がうまく行ったことで喜び、その後も長袴で楽しそうに廊下を滑って行く。
そんな太助の後ろ姿を、平伏した土佐守はじっと睨みつける。
一方、太助の自宅に帰った家光はお仲に、ミミズとは何じゃ?と聞いていた。
またそんなことを…、熱冷ましの薬を買う金はなし、それで子供の頃、ミミズが聞くと聞いたのを思い出し、この寒中に探し回ったんだよ、裏の空き地で何かを焼いているこの子を見て、聞いてみたら、そういう…、そういうことだったんだよ、推しいただいて、お上がりよとお仲が説明し、紙に包んだミミズの黒焼きを差し出したので何?このミミズとやらを食べるのか?と流石の家光も怯えたように聞く。
頷いたお仲は、この子の一念だけでも、お前さんの脳が治るよとお仲は説得する。
ミミズの黒焼きを受け取った家光は、これを食べるのか?と十助に身振りで尋ねると、十助も気味悪そうに頷いたので、仕方なく口に入れると、巳之吉が笑顔を見せたので、家光も愛想笑いをして返すのだった。
そこに、おい太助さんとやってきたのは、左官の兵助とお常夫婦で、身の基地を可愛がってくれるのはありがたいがね、商売休ませてもらうのは困るね〜と因縁をつけてくる。
可愛がってるのかて名付けているのか知らないけどさ…、両親に歯向かうように躾けられたんじゃ、こっちはたまらないよ、ねえ?とお常も亭主と調子を合わせて、底意地の悪い言い方をしてくる。
こちらの親方はさ、私が次郎吉ばかり可愛がって、巳之吉をいじめてるなんて言いふらしていなさるそうだけどさ、なこと大きなお世話じゃないかよ!子供をどうしようと親の勝手じゃないかというのを聞いた家光は、瞬時に目の色が変わる。
何!親の勝手じゃと?十助、刀を持て!余が自ら手討ちに致す!と家光が言い出したので、十助も合点!と調子をあわせ、こんな奴、これでたくさんですよと言いながら包丁を渡し、それを受け取った家光がそこに直れ!と言ったにで、兵助親子が逃げ帰る。
その後を追い、家光が部屋の前に出た時、兄貴、大変だよと、伍助と魚河岸仲間がやってくる。
加東家の野郎どもが、この前の仕返しで、魚河岸の盤を全部やめさせるんだってさ、何しろあいつら町奉行がついているし、おまけにご老中まで恩を売ってるらしぜと伍助がいうのを聞いた家光は、何<老中?と聞き返す。
江戸城では、御政談を仰ぐ第一は、越前公免官の儀についてでございますと、安藤対馬守が家光に化けた太助に向かって申し述べ、書状を渡すが、もらった太助は全く読めないんで、泣きそうになりながら彦左を呼ぶ。
彦左が太助の横に近づくと、あっしはまるっきり字が読めねえと太助が囁きかけたので、へへえと平伏した彦左衛門は、その書状を持って対馬守のところまで後ずさると、御世継ぎ様には近頃、お目が弱っておられるとのこと、対馬殿に代読つかまつれとの御状じゃと伝える。
それに従い、対馬守が書状を代読し始めるが、太助にはその内容もさっぱり理解できず、首を傾げる。
助けを求めるように彦左を見るが、よくわからないので、良きに計らえというと、対馬守は素直に従う。
次は町奉行影詰民部より上梓があり、魚河岸の紊乱甚だしきを持って、現在の差配役を全員罷免し、新たなる役員を任命する…と対馬が読み上げると、またしても良きに計らえ…と答えた太助だったが、魚河岸?と気付き、それは良きに計らっちゃいけない!現在の差配役を辞めさせるなんてとんでもないことだ!とべらんめえ口調で言い出したので、彦左衛門も横から、それについては改めて吟味しなおせと言うことじゃ!と助け舟を出したので、そうじゃ、そう言うことじゃ!と太助も同意する。
しかし対馬守は、畏れながら…と異議を申し立てようとしたので、太助は、苦しゅうない、捨ておけ〜!と覚えたての言葉を叫んだので、彦左衛門は数名は素早く平伏するが、対馬守や本多上野介、酒井阿波守らは唖然としてしまい、平伏するタイミングが遅れてしまう。
十助に天秤棒を担がせ、一緒に小道を歩いていた家光だったが、ちょうど家から出たお豊が気付き、太助さん!と声をかけるが、家光はしばらく気づかず通り過ぎようとしていたので、どうしたの?そんなにすましこんで…、今年になって、私のうちは素通りばっかりじゃないの…、このお豊、忘れちゃったの?と声をかける。
十助がこっそり、太助に惚れている女のようでございますと家光に囁きかけたので、家光は頷くが、何、ごちゃごちゃ言ってるのよ?あんた頭の病気だって言うけど、なんともないじゃないなどと言いながら、お豊は気安げに家光のそばに近づく。
少し綺麗になったみたいよ、今日は離さないわよ、どうしても寄ってもらいますからねと言いながら、お豊は家光の手を引いて自宅に連れ込むと、よっちゃん!太助さんよと妹のおよしを呼ぶ。
姉さん、ずいぶん待ってたわよと言いながら、およしは家光の手を引いて無理家にあげる。
ちょっと見てらしてよ、この支度…とお豊は家の中にまとめられた嫁入り道具類を披露し、お座んなさいよと声をかける。
やっと整いました、これもみんな太助さんのおかげですと音よは礼を言う。
太助さんはね、私たち姉妹のお手本なのとおよしも言うので、姉妹(きょうだい)か…と家光も気づく。
その頃、江戸城の外を散策していた太助を、鳥居土佐守が弓で暗殺しようと木陰に身を潜めていた。
「東照廟」前に来た太助は、とにかく一度帰してもらいますよ、河岸のことが心配でならないんだと、お供をする柳生又十郎に頼むのだったが、ならぬ!勝手に帰られては困る、とにかく彦左殿に話してから…と又十郎は言い聞かせる。
そんな太助に弓を引こうとした土佐守だったが、次の瞬間、銃声が轟き、土佐守は手を撃たれて、またしても暗殺は失敗する。
御世継ぎ様!と、小姓らお側の者たちが駆けつけて来て、太助の周囲を守るが、その時、兄上と呼びかけながら鉄砲を持って現れたのは忠長だった。
土佐守はその場から逃げ出していた。
忠長様、ただ今の発砲は?と又十郎が聞くと、私です、私が狐を撃ち損じたのですと膝をついて答える。
兄上、御世継ぎという大事な御身、独りで御歩きなさるのは不用心でございますと忠長は忠告する。
しかし太助は、てやんでえ、白々しい野郎だな、ちくしょう…と呟き、忠長に文句を言おうと近づくが、それに気づいた又十郎が慌てて太助を止め、その場から連れ出す。
そんな太助の後ろ姿を、忠長は不思議そうに見送る。
夕暮れの江戸城内で、一人外を見ながら物思いに耽る太助。
一方、家光の方は、長屋で寝ていたが、ふと夜中目を覚まし、一緒に寝ていた十助も目を覚ます。
お仲がこっそり外出したのに気づいたからだ。
十兵衛、いかが致したのだ?と家光は事情を聞く。
ミミズの効き目がないので、おかみさんは毎晩、ああやって祈っているのでございますと十兵衛は答える。
江戸城の寝所で、助けも布団にくるまり、お仲のことを想っていたが、突如そこに乱入して来たのがお楽だった
御世継ぎ様、会いとうございました!と言いながら寝ていた助けに抱きついて来たんで、何するんだ!おめえと太助は驚く。
飛び起きた助けに、意味不明なことを喚きながらお楽がしがみついてくるので、分からねえ!又十郎!と助けを求めるが、又十郎は、身振りで相手をするなと伝える。
そんなことはないと太助は否定するが、御世継ぎ様ご病気と伺い、早速御看護と思いましたのに、御目通り叶いません!…とお楽は悔しそうにいう。
お楽殿、これには仔細が…と又十郎が事情を説明しようとするが、腰元のみで、例えわずかな間でも、御世継ぎ様の情けを受けた者でございます、この上はたった一言優しいお言葉いただき…とお楽が一人で感情を昂らせるので、又十郎も打つ手はなく、明日どうすりゃいいんだと太助もぼやくしかなかった。
長屋で寝ていた家光が、お楽、お楽、会いたかったぞと寝言を言うのを聞いたお仲は、台所からすりこぎを持ち出し、家光の頭を殴りつけたので、十助が慌てて止めに入る。
そんな十助にお仲は、聞いてくださいよ、この人が病気だから一緒にいちゃいけないと、それで離れて寝てるんですよ、それをこの人は!と言うので、お豊さんのことですか?あれは無理やり引っ張り込まれましてねと十助は言い訳したので、この人、お豊さんにも!とお仲が驚いたので、十助は余計なことを言ったことに気づ木、と言いますと、また別口の…と戸惑う。
この人、今、お楽、お楽、会いたかったぞなんて寝言言ったんですよ、病気っていうのは色きちがいなんですか?とお仲が言うので、十助も家光も何も言い返すことはできなかった。
その頃、江戸城内では、北の方の元に集まった酒井阿波守、安藤対馬守、鳥居土佐守らと共に、本多上野介が、いやあ、重ね重ねの失態、この上には、明日の経書御講釈事始には、御病気中の上様の御名代として、御世継ぎ様の御講釈を願い出るのが常道かと…と進言していた。
それは良い思いつき、明日の総登城の席で脳を患った家光の失態が全大名に伝われば…と北の方が言うので、忠長様が世継ぎになられるのは必定と上野介は同意し、上野、頼みましたぞと北の方は任せる。
何!若に、御講釈御名代を?と事情を聞いた彦左衛門は驚く。
今朝、上野介より願い出て、上様がこれをお許しになったそうじゃと土井大炊助が伝える。
それを聞いていた助けは、俺はいよいよ明日殺されるのか?と怯えるので、馬鹿者!世にも難しい本を読むのじゃ、こうなったらお前は三文の役にも立たんわと彦左衛門はいらだつ。
一刻も早く、御世継ぎ様にお迎えを!と柳生但馬守が言い出し、そうじゃ、太助、交代じゃ!と彦左衛門も決断する。
長屋では、ヒステリーを起こしたお仲と、昨夜の失態を何とか許してもらおうとする十助が魚売りの天秤棒を奪い合っていた。
その時、鎮まれ!迎えが参ったぞと家光が真顔で言う。
駕籠を連れてやってきた笹尾喜内が、お仲殿、良い薬が見つかった、お殿様が飲ませたいと言っておられる、さ、太助殿、どうぞ!と家光を駕籠に案内する。
それを見送るお仲は、御用人さん、本当に、本当に治るんですか?と問いかける。
いよいよ御講釈の場に大名たちが集まり、不安げな土井大炊助に対し、嘲るような顔の本多上野介が、大炊殿、もはや時刻でござるぞと急かす。
ただいま御世継ぎ様には紅葉山の御廟にお子守りでござる、今しばらくお待ちなされと答える。
その頃、忠長は、脳を患ってられる兄上に継承の講義などできるものか!諸大名の失笑を買い、将軍家の威信を損なうのが落ちじゃ、今頃西の丸で大騒ぎ…、わしが兄に代わって講釈いたす!対馬、その旨、西の丸へ伝えいと言い出す。
土佐守や阿波守が必死に止めようとする中、控えい!と制し、西の丸へ向かった忠長だったが、その時、御世継ぎ様、御出座!との声が聞こえてくる。
彦左衛門や大炊助らがほっと安堵の息を漏らす中、家光が上座に座っていた。
皆のもの、余が父君に代わり、経書御講釈事始を行うと宣言した家光は、大學の道は明徳を明らかにするにありにあり…と「大学」の書を読み始める。
その読み声を廊下で聞いた忠長は、兄上…と喜ぶ。
定まりてよく静かなり…と、家光の講義は続く。
一方、長屋に帰ってきた太助は、お仲!お仲!とよび、部屋から出て来たお仲と抱き合う。
この私がわかるの?と抱きついたお仲は泣きながら確認する。
太助も、会いたかったぜ、会いたかったぜ、お仲、会いたかったぜ!と呼びかける。
太助さん、よかったな〜と源兵衛が声をかけると、大家さん、長屋の衆、あっしが留守の間、お仲が世話になりましてありがとうございましたと礼をし始めたので、あれ?しばらく留守していたと思ってやがると源兵衛はおかしがる。
みんな元気でよかった、よかった!大家さんと家に招き入れる。
御殿と比べると汚ねえところだが…と久しぶりに帰った部屋を形容した太助だったが、同行した十助がそれとなく制したので、やっぱり自分家はいいやと言い直し、お仲、今日はネギマでみんなと一杯やろうよと言い出す。
みんなが喜んだ時に、おじちゃん!と身の基地もやってきたので、太助は抱きしめて喜ぶが、お前さんが直ったのは、この子がミミズをの前てくれたからだよとお仲が言うので、ミミズ?あの方が!、いやあの…もう一人のあっしがミミズを飲まれたんですか?と十助に聞くと、頷いたので、いや〜、何と申し上げて良いやら…と太助は恐縮する。
そこに、あ〜らみなさん、しばらく…と、お豊とおよしもやってきたので、おあいにく様、今日は魚は売り切れですよとお仲がツンケンするが、お魚じゃないわよと素通りし、太助の前に来ると、お豊さん、しばらくですという太助に、あらいやだ、しばらくじゃないわよ、こんな大きな鯛をお祝いにいただいたじゃないのとお豊が言うので、鯛?と太助は驚く。
太助さん、はい、姉さんお得意の栗ぜんざいとおよしが土産を差し出し、異能、美味しい、美味しいって、散々おかわりしたわね、早速こしらえて持ってきたのよとお豊も勧めるので、嘘ばっかり!うちの人は甘いものは大嫌いです!栗ぜんざい食べるんだったら引きつけてしまいますよとお仲が横槍を入れるが、私たち、姉妹一緒にいられる音予算羨ましいって、肩をギューっと抱いてくれたのよとお豊は当てつける。
それを聞いたお仲は興奮し、帰って!と言い出したので、待ってくれ!と止めがららも、十助を隣に呼び出し事情を聞く。
帰りますよ!と立ち上がったお豊だったが、でもねお仲さん、あんな良いご亭主の好きなものくらいケチケチしないで作ってあげたらどうなの?わけもわからず焼き餅ばかり焼いて何さ!と嫌味を言う。
お仲は、悔しいわ!とお豊につかみかかったので、思わず間に入って、お仲を引き離した太助だったが、お仲から、お前さん、昨夜すりこぎで殴られたの忘れたのかい?と言われると、え!すりこぎ!、本当かい?と十助に確認すると、十助も神妙に頷いたので、俺、えらいことやっちゃったな〜と太助は後悔し、みんなと十助を部屋の外に追い出す。
下がりおろう〜!とみんなを入り口から出す時太助が口走ったので、また始まった!とお仲は嘆く。
2人きりになった太助は、お仲を再び抱くと、俺は元旦早々、おめえには腑に落ちねえことばかりだと思うが、これには深えわけがあるんだ、お仲、気を落ち着けて聞いてくれよと太助が言い出したので、お仲は素直に頷く。
そんな長屋に近づいてきたのは加東家一家だったが、その時、太助の部屋から、お城に?というお仲の声が聞こえてきたので、声を殺して聞くことにする。
お城に行ってたの?とお仲は太助の話を聞かされ驚いていた。
じゃあお前さん、ここにいた人は?とお仲がおびえながら聞くと、おめえがぶん殴った太助って人はな、実はな…、実はな、将軍のご子息徳川家光様、御世継ぎ様なんだよと太助は打ち明ける。
ええ!御世継ぎ様?と驚くお仲に、男一匹頼まれたからには、口が裂けたって言えねえことだがな、おめえがぶん殴ったとかミミズ飲ましたと聞いて、俺は黙っていられねえんだと太助は打ち明ける。
お前さん、どうしようと怯えるお仲に、今夜も九つを合図に駿河台のお屋敷で、お世継ぎ様と俺が入れ替わるのよ、お仲、もうしばらくの辛抱だ、お世継ぎ様を大事にしてな、俺の帰りを待っててくれと太助は言い聞かせるが、この会話を加東家一家が庭先から盗み聞いていて、すぐにその場を立ち去る。
お前さん、本当に、本当に帰ってくるんだねと、嬉しそうにお仲が確認すると、何言ってるんだ、おめえ、バカだな〜、帰ってくるに決まってるじゃねえか、バカ!と太助は笑って答える。
だって、綺麗な御殿が好きになって、もう帰ってこないような気がして…とお仲は言う。
とんでもねえや、俺は今度の事でな、つくづくそう思ったよ、貧乏してても魚屋でよかったな〜って、ありがてえなあって思ったよ、俺は幸せだよ、幸せなんだよとお仲に笑いかける太助。
幸せ、幸せ、俺はずっと幸せだよ、ありがてえ、ありがてえ…と言いながら、畳に寝転がる太助。
そんな太助に顔を近づけたお仲が、こんな家でも?と聞くと、ああと言うので、こんな私でも?と聞いても、ああと答える太助。
こんなやきもち焼きで、すりこぎやミミズやバカよ、本当に私はバカよ…、それでも?とお仲が繰り返しても、お仲、俺は城にいてもな、おめえのことばかり考えてたよ、何見てもお前に見えてな、おめえに食わしてえな〜、おめえが一緒だったらな〜、そればっかりだよ、俺はおめえがいねえとダメだよ、つくづくおめえのありがたさがわかったよと太助は打ち明ける。
お仲は感激し、お前さんと言いながら助けに抱きつく。
そうだお仲、ネギマ作ろうか、腹減っちゃったよ、久しぶりに俺は腕振るってやっからなと太助がいうと、いいのが入ってるよといい、お仲がマグロの塊を取り出す。
お前さんお包丁もちゃんといであるよとお仲が取り出したので、ありがてえ、ありがてえと太助は喜ぶ。
おめえも一人で大変だったろ?などと言いいながら、太助はマグロに包丁を入れ始める。
九つ間近になったので、太助はお仲、行ってくるからなと言う。
気をつけてね、お前さんと見送るお仲に、元気でなと言い残し、太助は駿河台の大久保邸へと向かう。
早く帰っておくれよと呼びかけるお仲に、あいよと答えて振り返る太助。
物陰で一旦立ち止まった太助は、部屋に戻るお仲を見ながら、あのやろう、何にも知らねえで…、達者で暮らしてくれよ…と呟く。
その後、無人の魚河岸に寄った太助は、今までの思い出の詰まった地をじっくり眺める。
その頃、江戸城内で鳥居土佐守から情報を聞いた本多上野介が、何?今西の丸にいるのは家光公ではないと申すのか?と驚いていた。
御世継ぎ様の実権を気遣った春日局と彦左の謀ったことと土佐守は伝える。
頭の悪い御世継ぎとは魚屋であったのかと呟く上野介。
翌朝、また入れ替わって太助に化けた家光が魚河岸に来たので、魚屋連中が挨拶する。
伍助は家光に会うと、兄貴、喜んでくれ、助かったんだよ、加東家の悪い奴らがまんまと消えちまいやがったんだ、その蹴ったお方を誰だと思う、え?家光様と言ってな、将軍様の卵だってさ、どうでえ、偉え卵じゃねえかと言いながらと伍助は自慢げに話しながら、家光の片腕を叩いたりする。
それを聞いていた十助は笑顔だったが、家光本人は、余はそれほどとは思わんと答えたので、五助たち魚屋連中はきょとんとなる。
余はそれほどとは思わん?何言ってるんだ、兄貴!偉えに決まってるじゃねえか、その卵が孵って将軍様になれば天下泰平だ!と伍助は説明する。
上にはそんな将軍様をいただき、仲間には太助兄いという男の中の男が帰ってるんだ、俺たちは本当に幸せだと思うぜと伍助は捲し立て、みんなも盛り上がる中、家光の手を取るが、家光は無表情だった。
魚河岸からの帰り道、家光は他の子供からいじめられている巳之助の姿を見つける。
見ていると、弟の次郎吉が助けに来て、兄を庇っているではないか。
その次郎吉がいじめられると、今度は巳之吉が庇い、次郎吉に何するんだ!と他の子供を威嚇する。
また巳之吉がいじめられると、また次郎吉が助けにくる。
溜まりかねた家光が十助の方を見たので、担いでいた天秤棒を下ろした十助が子供達のそばに行き、こらっ!喧嘩をするな!と睨みつけたので、怖がった子供達は逃げ去ってしまう。
残った巳之吉が、次郎吉!と呼びかけると、弟は兄ちゃん!と呼んで互いに抱き合う。
綺麗な着物がこんなになっちゃったぞ、だから父ちゃん、言ってたじゃないか…と、破れた次郎吉を気遣う巳之吉。
うちに帰ったら叱られるぞと巳之吉が袖を直してやりながらいうと、次郎吉は、叱られたって良いよと答える。
この一部始終を見ていた家光は、真の兄弟愛の姿に気づく。
兄ちゃんを叩いていた奴引っ叩いたよ、あいつ泣き顔してたなと話し合う巳之吉と次郎吉。
さあ、次郎松帰ろうといい、弟に草鞋を履かせて、一緒に帰る兄弟を見ていた家光はいつしか涙ぐんでいた。
一人歩き出した家光は、天秤棒を拾い慌てて追ってきた十兵衛に、余は城に帰るぞと言い出す。
江戸城に戻っていた太助は、庭先に忠長が待ち構えており、兄上、忠長、兄上とただ二人だけになってお話ししたき儀がございますと話しかけてきたので警戒する。
庭の東屋まで御同行願えませんか?というので、なりませぬ!とまた十郎は拒否するが、太助はまいろうと返事する。
又十郎は、御世継様、なりませぬ!と必死で止めようとするが、又十郎さん、今夜は俺の本厄だよ、ビクともしやあしませんよと太助は話掛ける。
ここであっしが殺されたら、忠長様も無事ではすまねえ、これで家光様御安泰だ…、駿河台の親分に命を差し上げると約束した時から、この覚悟はできておりましたよ、初めて親分の役に立つな〜と太助が言い、太助は忠長の待つ東屋へ向かう。
すると待っていた忠長は、兄上はこの頃しばしば城を出て、彦左の元へ参られるとのことでございますか?と聞いてきたので、黙ったままでいると、その儀、もはやお留まりくださいませと忠長は跪いて言う。
兄上、場外へのお忍びを知った者どもは、兄上必殺の機を伺っておりますという忠長の言葉を聞いた太助は思わず忠長を見やる。
紅葉山で発砲致しましたのは、鳥居土佐が兄上に矢をいかけようとした、その出鼻を挫くためでございましたと忠長は打ち明ける。
忠長がこれを表沙汰にできんのは、その一味に母親がいるからでございますというのを聞いた助けは、忠長に正体する。
母上に子殺しの大罪を犯させるようなことはできませんでした‥、今宵忠長は、兄上のお召し物を拝借して城外に出ます、夜目にはこの忠長、兄上に見えると思います、この事態を起こした忠長、せめてもの償い…と語った忠長は、助けが無言のままなので、御信じ下さいませ、兄上!と言って立ち上がる。
この池を見て思い出しなさりませぬか?兄上と忠長、子供の頃、いつもこの池の周りで戯れていました。
私がこの池に落ちた時、兄上はまだ泳ぎも知らぬのに、国松助けてやるぞと小池に飛び込まれた…、やっと二人は近習のものに救い上げられ、忠長の兄上に対する心は、あの時と少しも変わっておりませんと涙ながらに訴える忠長。
兄上は征夷大将軍になられる方、私はその家臣、その格式に縛られて、兄弟が相つぐむこともできなかったのは、くちおしゅうございますと忠長は言う。
国松、国松と呼ばれたい、この池で…死んでしまえばよかった…と言いながら、崩れ落ちる忠長。
それを聞いていた太助も声を出さずに涙していた。
お殿様、よくおっしゃってくださいました!と跪いた太助に、殿様?と驚く忠長。
あっしはそうとしか呼べない男なんです、あっしは家光様じゃございません、太助って魚屋なんでございますと打ち明ける太助。
殿様、あなたは立派なお方だ、偉え方だよと感激した太助は、あっしは嬉しいよと言いながら号泣する。
そして、さ、まいりましょうと太助が言い出したので、どこへ?と不思議がる忠長。
家光様にお目にかかりましょうと答える太助。
忠長様の御心を知ったら、家光様どんなにお喜びになるか!お供いたしますと土下座した太助は、お供いたしますよと言いながら忠長の手を引いて屋敷に戻る。
その頃、お仲が1人いた部屋に乱入してきた賊は、太助がいないことを知ると、駿河台ですぜと言い、外に飛び出してゆく。
表に出て足の後ろ姿を見たお仲は、太助さんが!太助さんが!と気づく。
一方、彦左衛門の屋敷では家光と忠長が再会してた。
忠長!と呼びかけた家光は、兄上!忠長は、忠長は…と口を開こうとした弟に、何も言うな、家光はそちの兄じゃと語りかける。
その姿を間近で見ていた彦左衛門は、若!忠長様!爺も嬉しゅう…と感激し、但馬も感無量であった。
その背後で見守る、魚屋の姿に戻った太助も平伏する。
その時、曲者!と言いながら廊下を駆けてきた喜内の声を聞いた柳生十兵衛、又十郎は緊張する。
家光は、忠長、行くか!と声をかけ、忠長も頷く。
黒頭巾の一団と頬被りの一団が屋敷内で合流する。
家光の前に出た首領が頭巾を脱ぐと、鳥居土佐か…と家光が気づいたので、御意!と答え、御印頂戴いたしますると土佐守は告げる。
家光公に臥しはあらず、計画のために忠長公をおし奉る信念でございまするという土佐に、槍を構えた彦左衛門が、たわけ!と叱りつける。
土佐守が剣を抜くや、又十郎が飛び込んで土佐の体を抑える。
その時、土佐!と呼びかけ、座敷奥から出てきたのが襷掛けをした忠長だったので、あ、殿!と驚く土佐守と酒井阿波守。
又十郎が手を離したので、前に進み出た土佐守を、一刀のもとに切り捨てる忠長。
殿!殿!とうめきながら土佐が倒れると、酒井阿波守が斬れ!と呼びかける。
迫り来る賊に立ち向かう柳生たち。
家光も羽織を脱いで襷掛けの姿になる。
太助も頬被りをした加東家一家に立ち向かい、それを援護する笹尾喜内。
彦左衛門も槍で敵に向かってゆく。
忠長も切って切って斬りまくり、隻眼の柳生十兵衛も斬りまくる。
台所にいた太助は孤軍奮闘状態だったが、お仲が呼んだ魚河岸の魚屋連中が屋敷に向かっていた。
やいやい加東家の連中、かかって来い!と呼びかけ、暴れまくる太助。
そこに駆け込んできたお仲と巳之吉と魚屋たちを見た助けは、お仲と巳之吉を抱きしめる。
家光は酒井阿波守も斬り捨てていた。
家光と忠長兄弟は互いに駆け寄り、笑顔で呼びかけ合う。
そこに集結する彦左衛門、柳生一族、笹尾喜内、そして太助と魚屋たち。
太助!この度の働き大儀であったと呼びかける家光。
一心鏡の如し、家光、生涯忘れぬぞと家光は約束する。
庭でお仲や魚屋連中と土下座をしていた太助は、ありがとうございますと何度も繰り返す。
家光に、お仲、世話になったのう…と声をかけられたお仲は、ただただ感激するだけだった。
江戸城の風景に「家光 征夷大将軍に任ぜられ、三代正宮を継承す 寛永元年 春」(とテロップが出る)
家光と忠長とともに、石垣の上に来た彦左衛門は、若、あれが日本橋でございますと指差す。
兄上、あの橋の向こうが魚河岸でございますなと話しかける忠長。
家光は、その向こうに長屋があると答え、太助、太助、幸せに暮らしてくれよと呼びかけるのだった。
その日も太助は、魚河岸の雑豆の中を忙しそうに駆け抜けているのだった。
終
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