「一心太助 男一匹道中記」

中村錦之助主演の「一心太助」シリーズ第5弾 月形龍之介が大久保彦左衛を演じているが、3作目で彦左衛門が亡くなっているので、彦左衛門の登場は回想シーンの形になっている。

 本編中で太助が、大久保彦左衛門のことを去年死んだと説明している反面、家光の身代わりになったこともあると言っているので、進藤英太郎さんが彦左衛門を演じ、太助が家光と交代する4作目の扱いがあやふやになっている。

 進行の時間経過なども曖昧になっており、女房のお仲やジェリー藤尾さん演じる源太が何をやっているのかわからない時間帯があるというか、話が散漫な印象になっている。

 展開も、太助が中心というより、ジェリー藤尾さんの方が主人公のようにも見えなくもなく、太助は助演に近いようにも見えなくはない。

 内容的にはタイトルでも分かる通り「道中記」で、太助とお仲が旅をすると言う趣向になっており、これまでのシリーズ作とはかなり趣が違っている。

旅姿の太助は魚屋に見えないし、女房のお仲役は渡辺美佐子さんに代わっているので、舞台も登場人物も違って見えるのだが、本作でのお仲は、これまでのように純情そうな娘という設定ではなく、かなりおきゃんな女房になっているので、渡辺美佐子が選ばれたのではないかという気がする。

 喜劇調はそのままなのだが、特に一心太助である意味合いは薄く、普通の道中ものと大差ない印象で、全体的に製作費も減ったのか、スケール感も感じられない。

 初期シリーズから見ていると、この時期の錦ちゃんは、明らかに顔が違っているように見え、愛らしさが薄れ、後の萬屋錦之介顔に近づいている。

青年顔が大人顔になったということだろうが、家光はともかく、太助が大人顔になってくると、若干キャラクターイメージも変わるような気がする。

 前作に引き続いて、平幹二朗さんが別役で出ているし、意外なところでは、魚屋の一人として米倉斉加年さんが出ているのが珍しい。 平幹二朗さんは、この当時、東映作品でスタジオに出入りしていて佐久間美子さんと出会ったのだろうか? さらに、常田富士男さんまで魚屋の伝助役で出ているのだが、あまりに若すぎて痩せていてちょっと見ただけではわからないが喋ると、声が常田さんの声なのでなんとか判別できる。 

「用心棒」(1961)に出演していたジェリー藤尾さんも出ているが、一見日本人離れした風貌なので、時代劇には似合わなそうなのに、どっちのジェリーさんも印象に残る名キャラクターになっている。

 田中邦衛さんまで出ており、青大将を演じていた東宝の「日本一の若大将」(1962)と「ハワイの若大将」(1963)の間くらいに撮ったと思われるが、本作では完全な悪役を演じている。

 田中邦衛さんの悪役は、多いようで実はそんなにないので貴重な作品である。

 佐藤慶さんも若々しくて、一瞬見分けにくいほど。 

さらにチャンバラトリオの「かしら」として知られていた南方英二さんまでセリフのある板前役で登場している。 

十朱幸代さんも出ているし、随所に意外な当時の新人の姿を見かけるのが楽しい。

 【以下、ストーリー】 

1963年、東映、由良一郎原案、那須美三脚本、沢島忠脚本+監督作品

 江戸の魚河岸を背景にタイトル 魚を並べた台を背景にキャスト、スタッフロール 

いつもの通り、威勢良くやってきた一心太助(中村錦之助)は、馴染みの金助(星十郎)の店の前に来ると、おい金助、鯛ないか、鯛!あるじゃないか、少々高くたって無理するぜ、今日は俺たち夫婦の結婚記念日だからなと太助はいう。

 金助は鯛を掴むと、タダで持っていきな…と言いたいところだがよ、何しろ最近、さっぱり鯛の入荷がねえんだ、今日は1両だ!などというので、金助、おめえもういっぺん言ってみろ!鯛一枚が一両だ?ふざけてやるな、だっても明後日もねえ!てめえ、この魚河岸を何だと思ってやがんでえ?将軍様のお膝元、江戸中の台所なんだぞ!そんな高い鯛売って、江戸の皆さんに申し訳がたつのかい?と太助は捲し立てる。

 第一おめえな、一両の鯛なんてえのはなと言いながら、金助の胸ぐらを掴んだ太助は、将軍様だって二の足踏むんだぞというが、その頃、江戸城内では、将軍家光(中村錦之助ー二役)が鯛を美味しそうの食していた。

 その家光の前に対座してた彦左衛門は、若、良く上がられた、若いものはそれでないといけませぬぞと、家光が健啖であることを褒めていた。

 この彦左などは16才の初陣の鳶の巣文殊山の合戦において…といつもの名調子を繰り返そうとするが、爺、鯛の代わりの所望じゃと家光が言い出したので、まだ鯛を?と彦左衛門が驚いたので、どうしたのじゃと家光は聞き返す。

 いや、直ちに整いますれば…と彦左衛門は答え、しばし、庭の松などご覧遊ばせという。

 近頃は緑の色も一際冴え…などと言いながら、家光の鯛の皿に近づいた彦左衛門は、鯛の身を裏返しにして、若、鯛が整いましたと申し出る。

その半身も食べ尽くした家光は、また代わりを所望すると言い出したので、またでございますか?と彦左衛門が驚いたので、爺、もう一度庭の松を見ようか?と家光は揶揄ってくる。

 家光は笑いだし、釣られて彦左衛門も苦笑するしかなかった。 その思い出話を聞いた松平伊豆守(山形勲)は大笑いし、家光も面白い爺であったと彦左衛門のことを懐かしむ。

 ことに今の話など、大久保老の面目躍如たるところがございますと伊豆守も彦左衛門の人柄を思い出していた。

 上様には御相伴を承るたびにご老人の思い出話、さぞ老人も…と伊豆守がいうと、余も爺が生きているような気がしてならん…、長生きをしてもらいたかった…と家光は寂しげにいう。

 爺が自慢の魚屋、一心太助は如何しておると家光が聞くと、畏れ多きお言葉…と会釈した伊豆守は、老人の薫陶そのままに、相変わらず江戸の人気者として活躍しておりますと答える。 

さようか…、爺も冥土でさぞ喜んでいることであろうと家光はいう。 

は、昨今の鯛入荷に因む本日のお話、太助めに聞かしとうございますると伊豆守は答える。

 一方、太助の長屋の部屋では、長屋の連中や仲間の魚屋を集め、ささやかな結婚記念日の宴を始めていた。

 乾杯を終えた太助とお仲(渡辺美佐子)は、彦左衛門から頂戴した「一心如鏡(一心鏡の如し)」の掛け軸を眺め、おかげさまで、あっしとかかあも結婚一周年を迎えました、喜んでください、長屋の恩人もこんなに集まってくれてるんで…と言葉をかけ、おいみんな、最近は魚の値上がりで碌なものんもねえが、節分にはまだちっと早いと思うが、イワシで一杯やってくんない、パッパーッと派手にやりましょうと客たちに冗談を言い笑わしていた。

 長屋の大家である源兵衛(杉狂児)と酒を酌み交わした太助が、お仲、おめえも何か言えよと催促したので、あらおまえさん、こういう時は女房は黙ってるもんだよとお仲が言うので、客たちは受ける。

 というよりは、恥ずかしくて何にも言えねえってところだなと源兵衛がまぜっ返す。

 お仲さん、そうやって座ってるとな、結婚式の晩そっくりだよと源兵衛が冷やかすと、あの時は、太助兄いが素っ裸になって、仲人の大久保の殿様に、あっしは親分にもお仲さんにも裸一貫飾りっ気のないのに惚れられたんだ、男一匹の晴れ姿、こいつが一番でえ!と身振りを交え、金助も当時を懐かしむ。 すると太助が、すぐ調子に乗りおって!そもそもこの彦左衛門、鳶の巣文殊山の戦いに…と彦左衛門の口調を真似だしたので、一同大笑いする。 

そんな中、あの~親方?と口を出してきた魚屋がおり、何だ、三公(花房錦一)、もう酔っ払ったのか?と太助がからかうと、あっしは入新でわからねえんですけどね、新婚旅行はどこ行ったんですか?と聞いてきたので、太助とお仲は固まってしまう。

 新婚旅行?とぼけんじゃない、この野郎!そんな暇なんかありゃしねえよ、恥かかせるんじゃねえよと太助は呆れたように答える。

しかし次の瞬間、おい、三公、おめえ良いこと教えてくれたな、そうだ、お仲、行こうよ!と太助が急に思いついたように言い出したので、お仲はえ?と戸惑うが、なにをとんまな顔して、行こうよ新婚旅行へ、1年経ったら新婚旅行行ったらいけねえってことないだろう、おいおい旅の支度しろよ!と太助はいう。

 親方、お店の方は及ばずながら、この三公が引き受けますというので、心置きなくから天竺まで行ってくんなせいなどというが、ありがてえがな、三公、魚の値上がりで、江戸の皆さんに高え魚を売っているよりは、当分店閉めてきゅうぎょうだ!と太助は答える。

 じゃあ、あっしは戸を閉めて寝てるんですかい?と三公が不満そうに聞くと、若えものがゴロゴロ寝ていてどうなるんだい、おめえもどっか旅に出て天下を見てこいと太助が無茶を言うので、そんな~とぼやく三公だったが、その話を聞いていた仲間の魚屋伝助(常田富士男)が、三公、おめえも行くなら俺も行くぜと声をかけてきたので、そうかい、やっぱり友達って良いな~、じゃあ、旅に行かせてもらいますと三公は笑顔で答える。

 太助は姿勢を正すと、それではみなさん、明日から新婚旅行に行って参ります、よろしくお願いしますよと宣言したので、出席者たちは全員喜ぶ。

かくて太助とお仲は二人旅に出ることになる。

 しかしすぐにお仲が足が痛いと言い出す。

ああ、情けねえなあ、まだ2里も来てねえじゃないかと太助は嘆くが、だってしようがないじゃない、痛いんだものとお仲は足をひきづりながら訴える。 痛えたって、江戸っ子じゃねえかなどと無茶なことを言う太助だったが、そんなこと言ったって、痛いものは痛いわよとお腹も負けていない。

そこを何とかしろってんだよ、新婚なんだからと太助は意味不明な叱り方をするが、新婚たってもう1年!とお仲が言い返すと、1年歩いているわけじゃねえじゃないかくたびれた顔するんじゃねえ!と太助は負けじと叱る。

 するとお仲も、顔はくたびれてないわよ、足よ、足で歩いてるんだからと屁理屈を返してきたので、あたりめ絵じゃないか、顔で歩く奴がいるかい!と太助もまた言い返す。

知らないね、魚屋のくせに、蛤は舌で歩かあ!とお仲はシャレで返してくる。

くだらねえことを…と太助は言い合いに飽きてくるが、お仲は、お腹すいちゃった~と言い出したので、しょうがないな~と太助も途方に暮れる。 

結局、太助はお仲をおんぶして歩くことになる。

 やがて、二人乗り用の馬に乗ることになり、鞍もだが馬ってのもいいもんだなと太助も喜んでいた。 ねえあんた、人には添うてみよ、馬には乗ってみろって言うけど、恥ずかしくてしょうがないもんだねとお仲が言うので、馬がか?と太助が聞くと、亭主もさと言うので、何を!と太助はむきになる。 そんな会話を聞いていた馬子(左卜全)が、おめえたち、新婚じゃねえのかね?と聞いてきたので、新婚みたいなものねとお仲が助けに笑いかける。

 商売は何だね?と馬子が聞くので、何に見える?と太助が聞くと、ものを言わなけりゃ大店の若夫婦だなと馬子が答えたので、太助とお仲は笑う。

 俺は魚屋だよと明かすと、魚屋にも衣装とはよく言ったもんだな~などと馬子は言いので、くだらねえやつと太助とお仲は笑い出す。

 ところで馬子さん、この馬は大丈だろうな?ばっと突っ走ったりしねえよな?と太助が聞くと、たんとはねえな、朝と晩の二度くりゃーかな?などと馬子がいうので、じゃあ今日は?と聞くと、そうだな~、お天気様の塩梅じゃ、野郎、そろそろ…などというので、冗談じゃねえよと太助はびびる。 

冗談だよと馬子はいうので、冗談じゃねえやと太助は笑う。 やがて山道にやって来たので、なんかうすっ気味悪くなったなと太助がいい、馬子さん、ここらで一足と二足の草鞋なんか出ねえだろうな?と聞く。 

しめて三足(山賊)という洒落だよとお仲が教えると、いるだ、間違いなく出るだ、ちょこちょこ出るだなどと馬子はいうので、太助とお仲は怖がり出す。

 そりゃ、冗談だろうと太助は言って安心しようとするが、その時、あ、出た~と馬子が大きな子を出したので、馬が興奮し、お仲と太助は馬から振り落とされる。

 馬が走り去った蹄の音を聞きながら起き上がった太助は、お仲、おめえ大丈夫か?と聞くと、お仲は大丈夫といい、あんたは?と気にする。 俺は大丈夫だ、ちくしょう、酷え目に遭わしやがって…、山賊なんていやしねえじゃないか…とぼやきながら、互いに助け合って起きあがろうとしていた時、怪しげな男が近づいて来たことに、まずはお仲の方が先に気づく。

お仲は怯えて太助の背後にしがみついたので、太助もビビりながらも、何だお前は!と呼びかける。 

するとその男は、八丈帰り、浜木綿の源太(ジェリー藤尾)と名乗ったので、八丈帰り?そんなもんでびくともするもんじゃねえぞ、俺の名前聞いて驚くな、大江戸八百八町に宝船、名物男の一心太助だ!と太助は言い返す。

 それを聞いた源太はいきなり倒れ込んだので、よっぽど有名なんだなとお腹と喜んだ太助だったが、どうしたんだ?と男をからかうと、お腹空いてるんだよ、きっととお仲が言い出し、源太は何か言おうとしているので、近づいてよく聞くと、金出せと言っていたので、ふざけるな!と太助は笑ってしまう。 近くの飯屋で奢ってやると、源太は丼飯を5杯も食べるので、傍で見ていた太助とお仲は愉快そうに笑うしかなかった。

 一体おめえ、どうして島に流される身だ?と太助が聞くと、余計なこと聞くない!と源太は怒ったので、そうかい、悪かったねと太助は詫びる。 飯を食い終わった源太は、お仲から茶を茶碗に注いでもらうので、それでおめえ、これからどこに?…って、これも余計なことだなと太助が話しかけて途中で辞めるが、そうだよと源太が言うので、でもお前、一文無しじゃ困るだろうと言いながら太助は、財布から金を取り出し、取っときなといい、飯台に小銭を置くと、俺は施しは受けねえぞと源太が言う。 お仲も太助の手を叩き、太助が出した小銭を大半をまた財布に戻す。 

受けねえったってお前ぇ、今もう受けてるじゃねえかと太助が指摘すると、こらあたかったんだい!と源太は見栄を張る。 じゃあ、たかんなよ!と太助が大声で返すと、源太は竹光の刀を抜いてたかって来たので、もう出てるよと太助は、阪大の上の小銭を見せる。 

源太は竹光を鞘に納め、手回しがいいなと言いながら小銭を取り始めたが、これはちょっと多いななどというので、まあいいからとっときな、国へ帰って田地田畑でも買ってよ…と太助がいうと、そんなに多くはないだろなどと言い返し、必要な分だけ取って店を出ていく。 太助とお仲は、それを見て笑い出す。 

程ヶ谷宿 宿に泊まることになった太助は、新婚だと思って荷物を部屋まで運ぶ宿の男に小銭を渡すが、長旅なんだから、少しはしまってよとお仲は注意する。

 部屋で着替えをしていると、女中がやってきて、お風呂へどうぞというので、お前先に行ってこいと太助がお仲に勧めると、どうぞご一緒に!と女中は恥ずかしそうに言って、逃げるように帰って行ったので、太助は何だ、ありゃ?と唖然とする。

あんた、先に入んなよとお仲が言うので、俺はどっちだって良いけどよ、なあお仲、俺たち結婚してから、その~、風呂っていやあ銭湯でよ、俺が男湯、お前が女湯…と言うので、逆だったら大変だよとお仲がまぜっ返すので、てやんでえ、馬鹿野郎!人の気も知らないで…と太助は言い返す。 

だからさ、先に入っててよと言いながら、お仲が手拭いを投げて来たので、野郎…新婚なんだぞ…とぼやきながら太助は風呂場に向かう。

 先に湯船に浸かっていた太助は、遅いなあ~と苛立っていた。

 しかし、着替えの間にいたお仲は、お前さん、いつまで入ってるんだよ、こっちは風邪ひいちゃうよと文句を言うんで、とぼけんじゃない、入ってこい!と太助は怒る。 

部屋に戻ってきた太助は、料理の膳を並べていた女中に、なんだね、姉さん、この程ヶ谷の風呂は熱いねなどと話しかける。 

しかし、料理の中に鯛の塩焼きがあることに気づいた太助は、おい姉さん、俺たちが新婚で気を使ってくれるのはわかるが、こんな高えもの…というと、女中はえっ?と驚くので、これだよ、これ!と鯛を指さすと、大したことねえだと女中が笑うので、だっておめえ…、江戸じゃ今日日…と太助が言うと、台所には何匹もありますよと女中はいう。

 驚いた太助は台所に走って見にいく途中、お仲とぶつかったので、気をつけろ、この野郎!と怒鳴るが、お仲の方も、何だトンチキ!と言い返すが、去っていくのが亭主だと気づき、あんた、どこ行くのよ!と呼びかける。

 台所に飛び込んだ太助は、そこに並んでいる鯛を見て、うわあ、江戸じゃちっとも手に入らない鯛が、こんなに!と驚くが、捌いていた板前(南方英二)が、これならさっき、娘っ子が売りに来ましたよというので、娘が?どこ行った?と聞くと、さあ、この近くを売り歩いているんじゃねいですかと板前はいう。

 太助は、その娘を探して町中を走り回る。

 鯛を売っていたお静(十朱幸代)ら3人娘は、知らない男が自分を追いかけてくるので怪しんで逃げる。 太助はお静の姿を見かけ必死に追いかけるが、その太助を怪しんでお仲も追いかけていた。

 3人娘は二人の旅人を押し退けて逃げたので、後を追っていた太助も二人の旅人を突き飛ばしてしまう。 転んで、痛えな、ちくしょう、頭にきた!と吐き捨てた旅人は、三公と伝助だったが、太助の正体に気付くはずもなかった。

 起きがった二人は、背後から追いかけて来たお仲に気付き、姉さん!慌てちゃいけない、あっしらですよと腕を掴んで止める。

 2人に気づいたお仲だったが、話は後で聞くから、うちのを探してくれよと2人に頼む 兄い、どうかしたんですかい?と伝助が聞くと、私を捨てて女の子を追いかけてるんだよと言い残し、お仲は去っていく。

 女を?と顔を見合わせた三太と伝助は、今のだろ!と気付いて後を追い始める。

 町外れの森の中で追いついた太助は、おめえら、何で逃げるんだ?と聞くと、助けの周りには籠をからった10人くらいの娘たちが取り巻き、お静は、あんた、浜熊の子分だろ?と言ってくる。

 太助は狼狽し、冗談じゃない、俺の親分はね、後にも先にも、去年死んだ天下のご意見番の大久保彦左衛門…と言い訳するが、誤魔化したってダメじゃん、ハマクマの子分でなきゃ、おらたちを追いかけるはずないじゃんとお静は他の娘たちに賛同を促す。

 他の娘たちも騒ぎ始めたので、違うよ!おいらはお江戸八百八町の…と太助は言おうとするが、構うことねえじゃん、こんな優男の一匹や二匹よ!などと他の娘が煽り、全員で太助を袋叩きし始める。

 そこに、お前さん!と言いながら、お仲と三太と伝助が駆けつけてくる。 うちの亭主に何するんだよ!と娘の中に割り込んだお仲は、いくらうちの亭主がいい男だからって、これが程ヶ谷女の仁義かよ!こちとら江戸っ子だい!神田三河町の魚屋一心太助が惚れて惚れて惚れ抜いた女房のお仲ってんだ、文句があるなら私が相手になろうじゃないか!と啖呵を切り、羽織を太助に投げ渡したので、怯えていた太助は、惚れ直したね!と笑顔になる。 

そんなお仲の言葉と態度を見ていた娘たちは、間違えたらしいじゃん?と言い出し、お静もわかったらしくおとなしくなる。 様子を見ていた太助も、な、分かったろう?と話しかけ、お仲も、分かりゃいいんだよ、分かりゃ!と姉さん風を吹かす。

でもよ、どうしておいらたちを?とお静が聞くので、それなんだよ…と太助が説明しかけた時、今まで気を張っていたお仲の緊張の限界だったのか、急に卒倒したので、慌てて太助が抱き止めるが、その時、やいやいお前ら、あわはらからこんな所まで商売に来やがって!タダじゃおかねえぞ!と怒鳴りながら男の一団がやってくる。

 あ、浜熊の子分たちだ!と娘たちは叫び、一斉に逃げてしまう。

浜熊一家がその娘たちを追いかけたので、お仲を抱き止めていた太助はその場に取り残されてしまう。

 それでも、浜熊一家が娘たちを捕まえ始めたので、流石に太助は黙っておられず、自分も追いかけて、やめねえかよと仲裁に入る。

 何だ、てめえは!と浜熊の若頭風の男が睨んできたので、なんだか知らねえけど、てめえこそ何だ?と太助が聞き返すと、いきなり殴って来たので、倒れ込んだ助けに、お前さん…とお仲がかばって来たので、お仲、今度は俺の番だよと言いながら太助は羽織を脱ぐ。

 やいやいやい!てめえたち俺を誰だと思ってやがるんでぃ!今江戸中で評判の男の中の男一匹一心太助たあ俺のことだい!というなり、殴ったお琴の股間を蹴り上げる。

 それを見たお仲は、待ってました!と喜び、背後に隠れていた三公と伝助も、親方!兄貴!と呼びかけたので、おお!てめえたちどうしたんだと太助も驚く。 

太助一家の一の子分魚屋三公、伝助、ただいま到着!と叫ぶが、それを聞いた助けは、馬鹿野郎!と言いながら、浜熊の子分たちと大喧嘩を始める。 太助は竹を振り回していたが、その竹を敵に奪われるとすかさず三公と伝助が手助けする。

 今度はその三公や伝助だけでなくお仲まで襲われそうになったので、太助は必死に救助しに行く。

 そんな中、お静たち娘連中は近くの草むらに逃げ込んでいた。 

お仲や三公や伝助が、近くにあった物置の前に積まれた枝木を投げつけ始めるが、その枝の1本が近くの草むらで寝ていた源太に当たって目を覚ましてしまう。

太助は刀を抜いた敵相手に、脱いだ自分の下駄だけを武器に追い払った所だった。 お前さんと声をかけてきたお仲に、お仲!と応じた太助だったが、お前さん、やっぱり頼もしいねとお仲は褒める。

 伝助らも、兄貴、こんばんは…と挨拶しに来るが、いや、俺はね、せっかくの新婚旅行だから悪いよと…と言い訳始めたので、違うよ、親方!と割って入った三公は、あっしが邪魔しちゃいけねえって言ったら、こいつが邪魔しなけりゃいいだろうなんて…と伝助を悪く言い始める。

 おめえだろ、邪魔しなけりゃついていっても良いだろうって!と伝助が三公を捕まえて言い返す。

 嘘つけ、お前が行くあてもないから良いなあ~ってと三公が言い返すと、伝助がその口を塞ごうとする。 何したって、もう来ちゃってるんだからしょうがねえじゃないかと太助は呆れ顔でいうが、お仲は笑っていた。 

ついてこい、飛んだ邪魔が入りやがって…とぼやきながら帰路についた太助だったが、女たち逃げられちまったよと悔しがる。 何を聞こうってのよとお仲が聞くと、鯛だよ、鯛!江戸じゃ高くて手の出ない鯛をばかすかイワシみたいに売り歩いているんだよと太助は答える。

 へ~、鯛をねとお仲も驚き、三人は宿に帰るが、その様子を草むらから見ていたのが源太だった。

その夜、隣室で寝た三公と伝助の高いびきで眠れなくなったお仲は、夜半に起き上がるが、太助は疲れが出たのかぐっすり寝入っていた。

 お仲は、太助の布団の上に羽織を置いてやり、自分は耳を塞いでもう一度布団に横になる。 太助は夢の中で、大量の鯛の鱗を剥いでいる自分を見ていた。 その夢の中の太助の横には、亡き彦左衛門が立って笑って見てたり、お仲が笑顔で見守っていた。

 夢の中のお仲は、大量の体を前に嬉しそうだったので、つい眠っていた太助もお仲…と寝言を言ってしまう。

 それに気づいたお仲はまた起き上がり、どうしたんだよお前さんと太助を揺り起こしてしまう。

 起きた太助は、うるせえいびきかきやがって…、全然寝られやしねえよ、バカじゃないか、あいつら…と文句を言う。

 どうして私たちにはこう邪魔が入るんだろう?新婚早々は居候が四人、一年経って新婚旅行…、やっと二人きりになったと思ったら…、あ~あ、気が利かない、旅先までついて来ちゃうんだから…とお仲があきれたように言うと、タバコを吸い始めた太助は、そう言うんじゃねえ、人が寄るってのは俺の人徳なんだよと答える。

 それを聞いたお仲は、人徳って面白くないもんだね~と言う。

 その時、急に部屋に入って来たのは源太だったので、あ、出た!とお仲は太助の背後にしがみつく。

 なんだ、てめえ、今度は押し込みか?と太助がキセルを口に聞くと、とんでもござんせん、昨日は大変お世話になりましたと、急に低姿勢になった源太は礼を言う。

 ただいませっかく仲良くお休みのところ、お騒がせして申し訳ござんせん、男の中の男一匹太助親分と見込んで、源太一生のお願えでござんすと言い出したので、何だい?と太助が聞くと、ねえ親分、助けておくんなせえよとしゃがみこんだ源太は、何を隠そう、この源太はね、この先の青浜村の漁師の倅で…と言うので、漁師だ?じゃあ、魚屋の親戚じゃねえかと太助は驚く。

 へ、5つの時にお父っつぁん、6つの時におっ母さん、年子のように死に別れ、それでも良い子だったんです、どうした訳か村八分、グレにグレて今日の姿、それでもね、なんとかあっしは故郷へ帰りてえとこうかああかと考えましたがね、とうとう今日まで策がなく帰れずじまい…、ここで親分に会ったのは神の引き合わせ、親分、どうか子分にしておくんなせいと源太は言う。

それを聞いた太助は、おいまた人徳か?と背後のお腹に聞くと、お前さん!乗るんじゃないよとお仲は警告する。

 天下のご意見番大久保彦左衛門様のお声がかりの親分さんに、おい、俺の子分だと一緒に言っていただけりゃ、私も故郷に錦が飾れます、ね、親分、故郷に帰ったらまともに働きます、どうか助けておくんなせい、お願いしやす、お願いしやす!と源太は涙ながらに頼んでくる。

それを着た太助は、本当か、きっとまともになって働くんだな?と聞くので、背後のお仲は気が気ではない。 へ、親分、神に誓って!と源太が真顔で言うので、神が出たり親分の名前が出たら俺も黙ってちゃいられねえ、よし、この太助に任せときなととうとう太助は承諾してしまう。

 それを聞いた源太は、ありがてえ!と喜び、お仲はお前さん!と太助を怒鳴りつけたので、隣の部屋の三公と伝助は飛び起き、なぜか三公は、太助たちのいる部屋との境目の襖に向かい、すみませんと頭を下げる。 

翌日、太助一行の先頭に源太が加わり、その源太の歌を背景に浜へと向かうことになる。

しかし、源太の故郷の青浜は、浜熊が支配しており、源太が帰って来たことに気づいた子分がすぐに浜熊に知らせに走る。 街の雰囲気に怯える三公や伝助らに、ここが俺の故郷なんだ、故郷に錦を飾るって約束したんだと説明した源太は、無理やり道端にいた村人に挨拶したりして街中を進んでいく。

 その時、突然、源太が歩いていた足元に爆竹のような火薬が炸裂したので、助け一行は驚いて上を見上げる。

 屋根には3人の子供が愉快そうに座っており、ざまあみろ!などとからかってくる。 

子供らを叱った源太が先に進もうとすると、今度は刀が飛んできて地面に刺さったかと思うと、2階から喧嘩をしていたらし男たちが壁を突き破って落下してくる。

 路上に落ちてからも喧嘩を続けているのを見た太助が、物騒な所じゃないかと源太に言い、お仲も、だからお前さん言ったじゃないか、もう帰ろうよ…と太助をせっつく。 

それを、ちょっと待ってくださいよと止めた源太は、地面に突き刺さっていた刀を握ると、やい、青浜の野郎どもよく聞いてろよ!と大声を張り上げる。

 浜木綿の源太、こんなに出世して帰って来たんだ!俺が案内して来た人はな、今は亡き天下のご意見番、大久保彦左衛門様の一の子分の一心太助親分だ!と言う源太の袖を引き、止めようとする太助。

 しかし源太は太助に向かい、言わしてよと愛想笑いすると、再び街中に向かい、おい!俺はな、その親分の一の子分としてお里帰りしたんだ!よろしく頼むぞ!と言いながら刀を放り投げたので、路上で喧嘩してた連中は逃げ出し、屋根の上の三人の子供たちは、かっこいいぞ!と声援してくる。 

その頃、浜熊の子分は、親分の居所を探していた。

道の一角では、浜熊の子分に捕まった魚売りの娘たちが棒で殴られ、出せ!と迫られていた。

 地面には米が落ちていた中、子分たちにもっと可愛がってやれ!と命じる中、お静たちは、大事な米を!と訴えていた。

 花隈の子分、大八(田中邦衛)がお静たちに、二度と抜け荷をしてみやがれ、親兄弟まで叩き斬るからそう思え!と睨みつける。 

その頃、浜熊の自宅に来た地元の代官(稲葉義男)に、「魚類水揚実録」と書かれた記録帳と小判の包二つを差し出し、代官様、これが今月の帳簿でございますと差し出したのは、若浦屋嘉兵衛(平幹二朗)だった。 

どうぞお調べのことを…という若浦屋の言葉を聞いた代官はニヤつき、若浦屋、まさか金券ではあるまいな?という。 ご冗談を…、れっきとした御上御鋳造の小判ですと若浦屋は答える。

 御上の小判か…、くどいようだが金券制度は御上の御法度…と言いながら、代官は二包み十両の小判をその場で袖の中に入れ、オランダどもが騒ぎ始めてもワシは知らんぞと惚ける。

 な~に、御代官様さえ目を湯ぶってくだされば、村人たちの始末はこの浜熊が致しますと答えたのは、若浦屋に同行していた浜熊(佐藤慶)だった。 

その時、庭先に来ていた浜熊の子分が、親分、お願いいたします、一大事なんで…と声をかけてきたので、まだ嫌がったんだよ、うるせえ奴だなと叱りながらも、代官に会釈して、お代官様がおいでなのがわからないのかと縁側に出て、何だ?と浜熊は聞く。

 親分、源太の奴が帰ってきやがったんで…と子分が報告すると、馬鹿野郎!あんなチンピラがどうしたって慌てるんじゃねえ!村の奴は滅多に口を割らねえ、もし元太にかまったら命がなくなるくらいわかってらあな…と浜熊は叱る。

 それが、昨夜のめっぽう強え、天下のご意見番大久保なんとかの一の子分で一心太助という魚屋と一緒に来やがったんで…と子分は教える。

 何?と浜熊は戸惑うが、天下のおご意見番大久保…?と、座敷内で聞いていた代官は、大久保彦左衛門!大久保の殿様は昨年亡くなられた!と教え、笑い出したので、浜熊、何事も代官様がいてくだされば大丈夫、気にすることもあるまい…と若浦屋は声をかける。 

一方、浜熊の子分たちに買った米も全部奪われたお静たちがしょんぼりして村に戻ると、元太を連れてきた太助が、どうか皆さん、これまでのことは水に流して、源太の奴を温かい目で迎えてやってくださいよと漁村の連中に声をかけているところだった。

まともになる、良い漁師になるっていうから、おいら連れてきたんだよと太助は懸命に説得するが、村人たちの表情は硬いままだった。 

少し離れて様子を見ていたお仲、三公、伝助たちも、状況が思わしくない様子なので不安がっていた。 

親も身寄りもないこの源太、頼むわ、お願え申しますと助けは頭を下げてみせるが、そこへ、源太!と呼びかけ近づいてきた老婆がおり、源太もおっ母ぁ!と呼んだので、側にいた太助は、おっ母ぁ?と驚く。 

元太の襟元を掴んだ母親は、この親不孝もんが、来い!と引っ張っていくので、源太も何だよ?と戸惑う。

 助けも仕方がないので、その後を追うが、背後で見ていたお静も、源太さん!と呼びかけながら後を追おうとしたので、村の男が、お静、どうしたんだ!みんなで心配してただと呼びかける。

 お静は、兄さん!と言いながら泣き出し、着いてきた他の娘たちもそれぞれ家族と再会し泣き出したので、兄は事情を察し、畜生!また浜熊にやられただ…と悔しがる。

 一方、源太は母親に、出ていけ!てめえのような恥知らずが帰ってきたら、このおらが村のものに顔向けができねえ、出てけ!早くこの村から出ていけ!と迫られたので、一緒についてきた太助は訳がわからず立ち尽くすしかなかった。

 源太、本当におっ母ぁか?と太助が聞くと、うんというので、そうか、せっかく源太が決心して帰ってきたんだ、そんな水臭えこと言わないで…と口添えするが、母親は両耳を押さえて、聞きとうない、聞きとうない!と拒否し、どうせおめえも源太とグルじゃねえかと罵倒すると、泣きながら立ち去ってしまう。

話が違うことに気づいた太助は源太に、おい、源太、てめえは嘘つきだ、おっ母さんいるんじゃないかと迫る。 だってさあ、そうでも言わねえと親分話しに乗ってくれねえんだもん…と急に源太は砕けた調子で答える。

 何?と怒った太助は、まあいいや、街の中で錦飾ったからなどとヘラヘラした調子で言う源太を殴りつける。 人のことコケにしやがって、てめえのような奴、二度と会いたくねえや!と言い残し、助けはその場を去る。

 痛えなと頬を抑えていた源太に、腐ることはねえよ、源太兄い!と声をかけてきたので、一瞬喜んだ源太だったが、声の主は、先ほどの3人の子供達だった。

 カッコ良いなあ〜、今日から古文にしてくれよ、粋なのがちっともいねえから面白くねえよ、お願いだよ、頼むよ兄貴〜と3人が擦り寄ってきたので、ニヤつく源太だったが、よし、おめえら子分にしてやる、言うこと聞けよと答えてしまう。

 一方、お静は源太に会おうとこっそり抜け出していたが、気づいた兄に止められ、行くんじゃねえ!源太なんて構うんじゃねえ!お前まで殺されちまうぞ!と言い聞かされる。

 第一お前、源太と会って、親のこと黙っていられるか?と兄は言うので、兄さん、せっかくまともになって帰ってきている源太さんに、そんな可哀想なことおらの口から言えるか?とお静は言い返す。

あんな嘘つきの言うことわかるけ!と兄は叱るので、でも源太さんを連れてきた方は、昨夜おらたちを助けてくれた強いお方だとお静は教える。

 近くの荒れ寺の外に座り込んだ太助はお仲に、どうだ、疲れちまったろう?飛んだ遠周りしちまって、すまねえな…と詫びる。

 な〜に、みんなお前さんの人徳のせいだよと答えるお仲に、つれないこというなよと苦笑する太助。 お前さん、新婚旅行でこんな所で野宿なんて、粋なもんだよ、一生の思い出になるんじゃない?とお仲は皮肉る。 

嬉しいこと言ってくれるじゃねえかと言いながら立ち上がった太助は、さあ、今夜は三公たちの買ってくる酒で月見と洒落るか?というと、あいよと答えたお腹だったが、何だか寒いねというので、お前これ着ろよと、太助は自分の羽織を脱いで、いいよいいよと遠慮する着せてやる。 

落ち葉でも焚くかと言いながら、地面の落ち葉をお仲の側に集め始めた太助だったが、源太たちどうしたかな…と呟く。

 源太は夕暮れの浜辺で一人寂しげに歌を歌っていたが、近くに来ていたお静に気づく。 

お静ちゃん!源太さん!と呼び合い、互いに走り寄って抱き合う。 

おらな、おめえに会いたい一心で帰ってきただよと源太がいうと、おらも、おらも待ってただよとお静は答える。 

別れ際、振り返ったお静が、元太さん、本当?さっきのこと…と聞いてきたので、さっきのこと?と源太は聞き返すと、まともになって働くって…とお静は答える。

 フッ…、と思ったんだがよ、おっ母ぁのやつはああいうし、村のやつは相変わらず白い目で見やがる…、な、静江ちゃん、俺と一緒にこの村飛び出そうと源太は言い出す。 

源太さん…とお静が驚くと、こんな村、二度と帰って来るもんかいと源太は吐き捨て、な、俺と一緒に何処か行こうよ、江戸に出て楽しく暮らそう?と誘ってくる。

 お静も、私を抱いて!こんな村にいつまでいても幸せなんて来ねえ、若浦や浜熊にみんな吸い取られて、何のために働いているのか…と不満を漏らすので、お静ちゃん、行こう!今すぐ行こうと源太は誘う。 

するとお静は、待って源太さん、せっかく源太さんのためにここまで来てくれた太助親分には何て申し訳するの?おら…、そのことだけが心配で…と聞いてくる。

 大丈夫だよ、親分だってな、おめえを幸せにするため江戸行ったと聞いたら喜んでくれるよ、天下一わかりの良い親分なんだよと源太はいう。

 何、心配することはねえよ、男一匹な、おめえを幸せにすることくらい、どこ行ったってできるんだよと源太は安請け合いし、な、今夜のうちに村を出ようといい、頷いたおずと抱き合うが、その時、源太!お静と離れろ!と言いながら、お静の兄が近づいて来て、今の言葉通りさっさと村を出て行くんだと命じる。

 友吉、何てこというんだよ、俺がお静好きなのは本当なんだよと源太がいうと、黙って村を出て行け、おめえ、このままいたら浜熊に殺されちまうぞと友吉は言うので、源太は唖然とするが、お静は、兄さん!なんて事いうのよ!と言いながら兄に掴みかかっていく。

 それでも友吉は、黙ってろ、おらは源太のために言うんだと妹を押し退け、源太、おっ母ぁもな、そのことを気にして出ていったぞと教える。 黙って聞いていた源太だったが、ちょっと、ちょっと、何で俺が殺されねえといけねんだよ?ねえ、やい友吉!おめえそんなこと言ってまで、俺を村から放り出そうと言うのかい?と聞く。

 え?また村八分にして俺をグレさせて八丈送りにしてえのかい?友吉、おめえ、そんなにして俺をお終いにしてしまいたいのかよ? よ〜し、こうなったら俺はテコでも動かねえぞと居直った源太は、その場に胡座を組み座り込む。

 浜熊がなんて何が怖いんだい!と聞く源太に、源太さん、違う!とお静が声をかけたので、違う?と言いながら源太は立ち上がってお静を見る。

 じゃあ言ってくれよ、何で俺が殺されなくちゃいけねえんだよ?その訳言ってくれよ!よ、友吉!と問いかけながら源太は友吉に迫る。 お静は泣き出すので、なぜ黙ってるんだ友吉!と源太はさらに問いただす。 

お静ちゃん!と泣いているお静にきても返事がないので、なあ、本当のこと教えてくれよ、そしたら俺は村を出るよと源太はまた友吉に迫る。 荒れ寺にいた太助は、買い物に行って戻ってきた伝助と三公が、酒と鯛を持って来たのに、その鯛の値段が立ったの100文と聞き、目を丸くしていた。

 そうなんですよ親方、鯛が山ほど上がってら、若浦屋と言う網元が全部買い占めてまさあと三公は答える。

 若浦屋?おいお仲、河岸のみんなの土産になるぜと太助はいうと、案内したと三公たちに命じ、鯛はお仲に渡して、待ってろよと言い残し出かけてゆく。

 若浦屋には、嘉兵衛と浜熊がおり、突然訪問して来た太助を前に、何でね、今頃?と聞く。 

お初にお目にかかります、江戸神田三河町の魚屋太助っていう者でございますと挨拶をした太助は、こんな夜分にどうも申し訳ありませんと詫びる。 

こちらは若浦屋の旦那だが、用っていうのは?と浜熊が聞くので、へえ…、旦那、どうして魚を魚河岸に送っちゃくださらないんですか?と太助は聞く。 

は?と若浦屋が応じると、時化で魚が漁れねえ訳じゃないっていうじゃないですかと太助はいう。

 江戸じゃ最近魚は鰻だと太助が言うと、は?とまた若浦屋がいうので、鰻登りってことですよと太助は教える。

 すると浜熊が、結構な話じゃねえかというので、こちとら江戸っ子だい、高い魚は売りたくないよ、おかげで最近は飽きないがちっとも面白くねえ…と太助は呟く。

 それを聞いていた浜熊と若浦屋は互いに向き合ってほくそ笑む。

 ねえ、釣った魚を腐らせても値段を釣り上げるようなバカな真似はおよしなさいよと太助は玄関口に座り、説得する。

第一鯛一匹一両なんて、公方様の口にだって入りゃしない….誰も買わなきゃ儲けもクソも…と太助は不満を述べる。

すると、そうかな?と若浦屋が口を開いたので、そうじゃないか、考えても見なよ、えぇ?どんどん獲ってどんどん売る、安い値で売れば客も喜ぶ、売り上げが良けりゃ、それが何より儲けになるじゃねえかよと太助は説く。

 すると若浦屋は大笑いし、あんた、商いってものを知らないよと言い出す。 

何?と太助も気色ばむ。 

家の外で待っていた三公と伝助だったが、そこに不気味な大八が出てくる。

おい、江戸の兄さんよ、良かったら付き合えよと話しかけてくる。 三公と伝助は、それが博打とすぐに気づき、笑顔になって付き合うことにする。

まあ考えてもみねえよと若浦屋は、意味がわからない様子の太助に話しかける。 良いかい、まともに売れば、鯛一匹が…200ってところだな?これじゃ、いくら売っても利は薄いや…、と言って今の値の1両じゃ確かに誰も手が出ねえ…、しかしな、江戸のお人は粋の良い鯛が喉から手が出るほど欲しいんだ…と若浦屋はニヤつく。 

その気持ちの昂じたところを見計らって、どっと魚出す…、卸値は500、いや700でも良いや、ん?どうなると思う?と若浦屋は太助を揶揄うように尋ねる。 そりゃあ…と太助が答えかけると、そうだろう?そうやって銭は貯まるわけだ、なんせ今までが1量だっていうんだから、この儲けは大きいぜ…と若浦屋は笑う。

 え?太助さんとやら、これからの商いってのはこうするもんだよと教え諭すように若浦屋は言う。

 それを聞いた太助は、バカ言ってんじゃねえ!そりゃあ、それでてめえは儲かるかもしれねえが、儲けで魚扱われたんじゃ、肝心のお客はどうなるんでい!俺は魚屋だ、行きの良い魚をお客に安く売って喜んでもらいてえ、それが江戸っ子の商いってもんだよと言い返すと、江戸もいいけど、おいおい本筋の商いを覚えて行くことだな、まあこの程度の仕掛けはどこの問屋でも大なり小なりやっていることじゃねえのか?と若浦屋が言い聞かすような上から目線で言い、なあ浜熊と隣に座っていた浜熊に同意を求める。

 大牧の兄い、この辺の理屈はわかってもらいたいねと浜熊も太助に言い聞かす。

 すると太助は、わからねえよ!商いは商いでも、てめえらの商いと江戸っ子の商いは違うんでぃ!と言い返す。

 よ〜し、区なったらてめえが鯛を出しやがるまで、毎日でも来てやるからそう思え!と言い捨て、太助は若浦屋を後にする。

 ブツクサ言いながら門から出た太助は、三公と伝助を呼ぶが、二人とも姿は見えなかった。 どこ行きやがったんだ、ああ!と癇癪を起こした太助だったが、魚河岸の親分、ちょっと顔をかしてくんなと声をかけて来たのは三人の子供だった。

 ああ、おめえらは昼間の癇癪玉だな?と言いながら子供に近づいた太助だったが、失礼があれば重々お詫びしますと、三人揃って右手を前に出し神器を切り始めた子供たちを見た太助は、ふん、ませた野郎だ、お前たちに関わっちゃいられねえんだと無視しようとするが、こっちは大変なんだ、うちの親分がなどと言って来たので、親分って浜熊か?と聞くと、地がわい、あんなんじゃねえよなと一番のチビが口を挟み、ねえ来てよ親分!と3人揃って太助に絡み出す。

 浜辺では、友吉から話を聞いたらしい源太が、そんなこと聞いて黙っていられるか!と興奮し、銛を持って殴り込みに行こうとするのを友吉をお静が必死に留めていた。

 3人の子供が連れて来たのはその現場で、驚いた太助は、興奮状態の源太を止めようと向かってゆく。

 銛を奪い取り投げ捨てた太助は、源太!と呼びかけ、転んだ源太も、親分!と気づく。 俺の親父は殺されたんだよ、浜熊の野郎に殺されたんだよ!と悔しそうに喚く。 それを聞いた太助は、なんだおめえ、おめえ親父もいたのか?と呆れる。

 すみませんと小声で詫びた源太に、この大嘘つき!と迫る太助だったが、嘘じゃねえ、親父が殺されたのは嘘じゃない!と源太は言い張る。

 (回想)浜熊の子分から逃げていた元太の父親は、若浦屋とともに待ち受けていた浜熊に、銛で腹を突き刺す。 それを側で冷徹に見守る若浦屋と大八。

 倒れた父親の背に何度も槍を突き立てる浜熊、それを見守る若浦屋と大八。 

(回想明け)ここに証人が二人もいるんだと、お静と友吉を指して源太が訴える。 村の奴らはみんな知ってるんだよ、ただ、浜熊の奴らが恐ろしいから、みんな俺に言わなかったんだよと源太は主張する。

 ちくしょう…、俺は行くと叫んだ源太は立ち上がり、仕返しに行こうとするが、助けが足を引っ掛けて転ばしたので、何しやがんでい!と源太は怒るが、のぼせるんじゃねえ、そんなことで敵討ができるけえ!と太助は言い聞かす。

 やりてえのはお前だけじゃねえ、村のもんもみんなそう思ってるんだ、そのために苦労してるんじゃ、お前一人やってどうなるんや!と友吉も近づいてきて源太にいう。

 そうだよ源太さん、1人で行くなんてミスミス殺されに行くようなもんじゃとお静も説得する。

 お静の顔を見た太助は、お前は?と気づき、お静も、親分さん、昨夜はありがとうございましたと礼を言う。

 太助は、俺は親分なんかじゃねえや、魚屋の太助ってんだと照れ、二人はなんとなく微笑み合う。

あの時、鯛を売りに行ってたんです、どんなにたくさん鯛が獲れても、若浦屋にただ同然で全部取り上げられてしまうんで…とお静が事情を打ち明けると、そうか…、そうだったのかと、太助の方も事情がわかる。 

ちくしょう…、おい源太、これはな、おめえ一人や村中のことだけじゃねえ、江戸八百の夕飯のおかずにかかっているんだ、よっしゃ、こうなったら俺も一丁かましてもらうぜと太助はいう。

 それを聞いた源太、友吉、お静、そして三人の子供たちも一斉に、親分!と呼びかけ助けに縋ってくるが、親分じゃねえよ、魚屋!と太助は苛立ったように訂正する。 

翌朝の荒れ寺に戻って来たのは、身ぐるみ剥がれて裸同然の三公と伝助だった。

 二人は互いに、寺の中に助けがいるものと思い込み、俺が誤魔化してやるからよなどと相談し合っていたが、そこに背後から近づいてきて二人の首根っこを掴んだのは帰って来た太助だった。

 太助は二人の頭を鉢合せにした後、さらに軽く頭を平手打ちするが、新婚の夜を邪魔しちゃ悪いと思ってなどと言い訳する伝助に、大きな声出すんじゃねえと叱ると、小銭を渡して、着物借りてこいと小声で命じる。

 二人が着物を確保に出かけると、太助は破れ障子から寺の中を覗く。

 すると、お仲が一人で太助の羽織を布団がわりに寝入っていた。 

一方、お静は源太に食べさせる握り飯を持って、こっそり浜に向かっていたが、兄の友吉はそれを黙って見送っていた。 

しかし、そこには源太はいなかった。 源太は、一人寂しげに暮らしていた母親の姿を障子の穴からそっと覗き込んでいた。 

おっ母ぁ〜と呟いた源太は、入口のそばに置かれた銛に目を止める。 街では、浜熊一家が昨日獲れたばかりの魚を、ばかやろー!腐った魚が買えるか!と罵倒し、魚の入ったザルを地面に投げ捨てていた。

 言い訳しても、その場で袋叩きにされる。 その魚の選別現場の横を平然と歩いていく若浦屋と浜熊。 

そんな状況を、太助は物陰から呆れたように見守っていた。 

よく見ていると、魚を引き取ってもらった漁師は、浜熊組から何か紙のようなものをもらっている。

 帰ってくる老漁師にそれは何だと聞くと金券だという。 金券を両替していたのは大八で、500文の金券を渡しても350文しか渡していなかった。 

それを見ていた太助が、おかしいじゃないかと横槍を入れると、何がだい?と大八が睨んでくる。

今、このお爺さんは500文で魚売ったんだろ?と太助が聞くと、ああと第八が応じたので、じゃ500文渡しねえなと太助が言うと、金券を現金に変えるときにゃ7掛けでぃと大八が言うので、何い?と太助は驚く。

 この土地のしきたりはな、俺たち若浦屋が買うのはみんな金券だが、こいつは3ヶ月経てば現金になるんだ、な?だから3ヶ月経てば500文になるってことよと大八は説明する。

 馬鹿野郎!三月もこんな紙切れ持ってられるかい!と助けが怒ると、待てねえなら7掛けよと大八は答え笑う。 

畜生…、爺さん、金券貸しなといい出した太助は、汚ねえ真似しやがって、500文は500文だと言いながら、自分の財布から残りの金額を出し、持って行けよと爺さんに言うと、金券をその場で破って大八に投げつけて変える。

 さらに、何かを思いついた太助は、漁民が持っていた金券を集めて持って若裏屋に行くと現金に替えてくれと申し出る。

 てめえ、一体何のつもりだ?と浜熊が睨むと、何のつもりって、あっしも商人ですからね、ちょいとこれだけ儲けたんでさ、ところが一歩、この浜を離れりゃこんなものただの紙切れだ、だから、日本中通じる山吹色のお宝に…と太助が言いかけると、浜熊たちが一斉に立ち上がったので、若浦屋がそれを止める。

 よろしい、買いましょうと若裏屋は答え、しめていくらでしょうと聞くので、5両、改めなと太助は答える。 動画子の兄さんは嘘は言うめえと答えた若浦屋は、子分に5両持ってこさすと、五両の7賭けで3両2分と金を渡してくる。

 若浦屋の子分が金券を取ろうとするので、それを払い除けた太助は、あっしが頼んだのは5両だぜというと、いい加減にしないか、江戸っ子!と浜熊が立ち上がる。

 しかし太助は騒がず、伺いたいんだがね、ここは日本かい?それとも外国かい?と聞くので、何?と浜熊は怯む。

 あっしはね、日本で算盤を覚えたもんでね、日本式の算盤で物を言ってもらいたいな〜と笑顔でいう。

 すると若浦屋が笑い出したので、何がおかしい?と太助が聞くと、いやね、そのうちこの算盤が日本中で流行ろうってことさと若浦屋が言うので、ふざけんじゃねえ、この野郎!と怒鳴った太助は、外様大名しか知らないことを、ここは将軍様のご家領でい!おい、賽をとるのは天下の御法度、それをとるも取ったり3割とは酷すぎやしないかい?この土地の代官がどんなすっとぼけか知らないが、この俺がだよ、畏れながら…と駆け込んだら、おめえたち一体どうなる?と聞くと、若浦屋はまだニヤついていた。

 やってみなさるかい?と若浦屋がいうので、ふふ…、鼻薬が効かせてあると見えて、えらく自信だなと答えた太助は、俺はな、天下のご意見番大久保彦左衛門の位置の子分、一心太助ってもんだよと名乗る。

 しかし若浦屋は鼻で笑い、ふん、大久保だか大馬鹿だか知らないが、確かそんな爺いは死んでしまってこの世にはいなさらねえんじゃないかね?と代官から聞いた受け売りをする。

 馬鹿野郎!死んだってご意見番はご意見番だ!と言い返した太助は、それにな、俺にはな、松平伊豆っていう偉いダチっ子もいるんだぜ、みてやがれ、畜生!と言い返すと金だけ受け取って店を飛び出す。

 子分たちが追おうとするが、若浦屋は制する。

 街では金券を太助に託した漁師たちが待っていたが、太助が戻ってくると、帰って来ただと喜ぶ。

 太助は、7掛け分しかもらえなかったので、ダメだと言って、若浦屋が出した3両2分と、自分の財布の中身を全部漁師に与える。

 漁師たちは感謝するが、太助は漁師の爺さんに代官所の場所を尋ねる。

 この向こうの海っぺりで…と教えられた太助は、その代官屋敷の方へ向かう。

 そんな様子をお静も見ていた。 

「青濱村代官所」と書かれた屋敷に走り込んだ太助は、今は亡き天下のご意見番大久保彦左衛門の一の子分一心太助、お代官様にお話があって参りました!お取次お願いします!と大声で呼びかける。

 その太助の様子を伺う浜熊の子分 しかしいつまで経っても誰も出てこないので、お〜い、いつまで待たせやがるんだ、畜生!と太助は苛立つ。 俺の親分のもう一つの親分はな、三代将軍家光様だ!俺は身代わりになったこともあるんだぞ、畜生!この代官所はツ⚪︎ボばかりか?と怒鳴る太助。

しかし、その太助、多くの役人たちによって屋敷の外に摘み出されてしまう。 代官所の中庭では、代官が、大久保様とか御老中様とか、はては上様の名前まで口走りよる!とんでもない奴め!と怒るので、ひっ捕えて仕置きにしましょうかと部下が進言するが、待て、待て、わしに手立てがあると代官はいい、これ、立田屋!と控えていた町人を呼び寄せる。 

しかしその時、また外からお代官様〜!と呼びかける太助の声が聞こえて来たので、驚いて声をの方も見ると、太助が庭に侵入して来たので、捕えろ!と言いながら代官は逃げる。

 聞いてくださいよ、お代官様!と代官に迫る太助だったが、またもや外に放り出され、その姿は助けを探していたお仲と三公、伝助たちも目撃する。

二度とくるな、貴様!今度来たら承知しないぞ、馬鹿者!と役人たちから叱られて浜辺に倒れ込んだ太助だったが、そこに、親方!兄貴!と呼びかけながら、三公、伝助、お仲が助け起こしに駆け寄る。

 しかし、うる星な!と彼らを振り払って立ち上がった太助は、こんなバカなことがあるけい!代官所っていうのは将軍様の出店じゃねえか!と代官所を睨みつける。

 その代官が浜熊とか、若裏屋なんて悪い奴を放っとくのか!と太助の怒りは収まらない。 挙げ句の果てに、代官所の看板を引き剥がし、地面に叩きつける太助だった。

 荒れ寺に戻った太助は眠ってしまうが、親分…と寝言を言う。

 そんな太助に、なんぼ天下のご意見番でも、人間、死んじまったらおしまいだものね〜と話しかけると、馬鹿野郎!年がら年中親分を背負ってなきゃ生きていられないような、そんな生きの悪い俺じゃねえよと太助は答える。 

お前さん…とお仲がいうと、親分はな、一心太助って名前は、そんなつもりでつけてくれたんじゃねえやと言いながらおきあがったたすけは、親分、わかったよというと、仏壇の前に置かれた鐘を叩いてみる。 

代官から、こちらで追い返した太助をそちらで始末せよとの手紙を受け取った若浦屋と浜熊は互いに笑い合っていた。

 万一のことを考え、気狂いにして追い返すなんざ、さすが狸代官だと浜熊は嘲笑する。

 その上、こっちに始末をつけろとは…と浜熊が呆れると、浜熊、これでまた大韓に歌詞が一つ増えるわけじゃないかと若浦屋がいうので、全く…、善は急げだ、闇討ちお仕業をさせて来まさあと浜熊は言い、席を立つ。 

障子を開けた浜熊は庭先に誰かがいることに気づく。

 どうした浜熊?と若浦屋も近づいてくる。

 部屋の明かりに浮かんだ姿は銛を手にした源太だったので、てめえは!と浜熊は驚くが、おっとうの仇だ!と言いながら、元太は銛でで浜熊を突き刺しにくる。 

しかし銛は外れ、源太は若浦屋が押さえつける間に、浜熊はお〜い誰か来い!誰か〜!と大声を出す。 

その声に気づいて子分たちが駆け寄ってくる。

 源太は銛で障子を壊したりして暴れるが、大八が一太刀浴びせると、覚えてやがれ!と言いながら、手負のまま逃げ出す。

塀を乗り越えた源太は、たまたまそこに馬を連れた農民がいたので、親父!と呼びかけ、馬に跨るとその場を逃げ出す。 

そのまま馬で村に戻った源太は、源太の母と一緒にいたお静の名を呼びかける。 お静ちゃん!と何度も呼びかけた源太だったが、出て来たのは兄の友吉だった。

 左肩から出血いている源太に駆け寄った友吉は、てめえ、やったな?と呼びかける。

 やり損なったんだという源太に、昨夜あれほど言ったのに!と叱りつける友吉。 我慢できなかったんだよ、畜生と歯噛みする源太は、浜熊のやろう…と言いかけて、気がつくと、村人たちが集まって、源太の様子を見ていた。

 やい、てめえら、なんだその冷たい目は!やい、浜熊に言いたい奴はいねえのかい?と起き上がった源太が叫ぶと、源太、てめえは…と老人が言ったので、そうだとも、俺はな、浜熊のやつを殺したかったんだよ、それがどうしたんだよ、よ!どうしたんだよ!と源太は当たり散らす。 

みんなして、親父が殺されたこと隠してるんじゃねえか!と訴える源太。 え?よ?てめえら、俺が死にゃ良いと思ってるんだろう!そうはいかないぞ、死んでたまるかい!俺は死なないぞ!とイキリながらも、傷の痛みに耐えかねてしゃがみ込む源太。 

そこに駆けつけて来たのがお静と母親で、おっ母ぁ!と源太は叫ぶ。 お静は源太の傷の手当てを始めるが、その様子を見ていた友吉は、父っつぁん、源太を助けてやってくれと頼む。 助ける?と友吉の父親は問いかけ、村人たちも下を向いてしまう。

 みんな、源太を匿うんだ!浜熊や若浦屋の目から匿うんだと友吉は呼びかけるが、村人からは反対の声が上がる。

 俺たちは元太と同じように、浜熊や若浦屋にいじめられているんだ!と勇吉は主張する。 でももしバレたら…と父親が言うので、みんなもそうだ、そうだと賛同する。

 その時、時ならぬ半鐘の音が聞こえてくる。 大八が、虱潰しに探せ!と浜熊一家に指令を出しているのだった。

 荒れ寺にいた太助一行もこの鐘の音に気づいて飛び出す。 村にやってきた大八は、やい、出てこい!と人気がいなくなった村で呼びかける。

隠しやがると承知しねえぞ!と子分たちも大声を出すが、誰も返事はない。

 よし、出てこねえと片っ端から叩き壊すからそう思え!と大八がいい、子分たちは一斉に村の家々を破壊し始める。 大八が捕まえた友吉の父親は、源太はおりませんと叫ぶ。

 空き地に集められた村人だったが、源太は村に来てねえな?と一人が問いかけると、みんなが頷く。

 大八は、庄屋たち!源太を隠すなら覚悟はできているだろう?というので、何をすると言いなさるのじゃと友吉の父の庄屋が聞くと、村中一件残らず火をかけるんだよと大八は答える。 その上、源太を隠している奴がわかったら叩き殺すからそう思え!と大八は脅す。

 子分たちが一斉に村人に襲いかかったので、やめんか、鬼!と言いながら源太の母が第八につかみかかるが押し倒されてしまう。

大八は、恨むならてめえのガキ恨めと大八は母親に言い放ち、向かって来た母親の胸ぐらを掴み、早くしろ!と子分たちを急かす。

 そこにやって来たのが太助と伝六たちで、一旦逃げるように見せかけ、どこに行くんでう、親方?と三太が声をかけると、また村人の中に走り込み、お〜い、大変だ!おめえたちこんなことしている場合じゃないぞ、おめえんところの親分と若浦屋が代官所にしょっぴかれたぞ!と浜熊一家に呼びかけ、大八が本当か?と信じないと、こんな時嘘言ってたまるか、俺は江戸っ子だ、早く行かねえと大変だぞ、早く行け、殺されてしまうぞ!とけしかける。

 これにはさしもの大八も狼狽し、子分たちと一緒に組に戻る。 

早く行かねえと大変だぞ〜!と、去っていく浜熊一家の連中の背後からも声をかけた太助に、若裏屋が捉えられたって本当かいと友吉が太助に確認すると、うそ、一世一代の嘘ついちまった、嘘ってのは元太に教わったんだよと太助が笑うので、まあ、なんてことしてくれたんだお前さん…と元太の母が恨みがましく言ってくる。 

今にあいつらが仕返しに来たら村中が焼き払われてしまうじゃねえかと庄屋もいい、村人もそうだと騒ぎ出す。

 すると太助は、みんな俺の話を聞いてくれと呼びかけるが、その時源太の母親が、源太〜!出てこんか〜!皆の衆にお詫びして、死ね〜!オラも一緒に死ぬんじゃ〜!と呼びかけ、その場に倒れ込んで泣き始める。

 早く、早く出てこんか〜!と泣く母親の声に釣られるように、お静の手を振り払い、源太が船の影から姿を現し、おっ母っ!と走り寄る。

 死ぬよ、死にゃいいんだろう?苦労かけたな、俺は死んで村の衆にお詫びするよ…と語りかけた源太に、源太〜と呼びかけて泣き崩れる母。

 皆の衆、こうなりゃ、俺は堂々と浜熊に殺されに行くよと立ち上がった源太は村人を前に言い切る。

 そうすりゃ、みんな幸せになるんだろう?と続けた源太は、おっ母ぁ、俺は行ってくるぜと言い抱き寄せると、単身、浜熊らがいる方向に向けて歩き始めるが、それに追いついて投げ飛ばしたのは太助だった。

 それを見たお静、母親、村の週が驚く中、俺が死んだらみんな幸せになれるんだろう?と源太のセリフをからかうように真似た太助は、はっ、てやんでい!てめえが死んで、何でみんな幸せになるんだい?てめえが死んだら金券がなくなるのか?鯛を取り上げられないで済むのか?浜熊にみんながいびられずに済むってのか?と太助は聞く。

 バカなことを言うんじゃねえ!な、みんな、そうだろう?そうだろう!と声のトーンを上げる。

 村人は沈黙を守る中、そうだ、太助兄いのいう通りだ!と友吉が答えると、そうだ!とあちこちから声が上がり始める。

 しかし太助は、おい!そうだ、そうだと言ってるだけじゃダメなんだ!俺たちでやることなんだ!と太助は村人たちに言い聞かせる。

 その頃、戻ってきた大八は浜熊に殴られ昏倒していた。

 なんで俺が代官にしょっ引かれるわけがあるんだよ!と浜熊は怒る。

 でもね親分、互いに脛に傷持つ身ですからね…と大八が言い訳する。

 で、もしや…と…と大八は言いながら立ち上がる。 もしや万一…と大八が言いかけると、つべこべ言ってねえで、源太ともども引きずってこい!ぐずぐずしねえで、さっさと行ってこい!と浜熊は命じる。

 大八は仕方なく、また子分たちを消しかけて村に戻る。 

屋敷を飛び出した大八たちは、村の方から松明片手に近づいてくる一団を発見し立ち止まる。

 野郎ども、何の真似だい?と大八は戸惑いながらも、行け!と命じる。

 松明の一団は、太助と源太、三太、伝助、お静らも含めた村人たちだった。 

浜熊一家は一斉に刀を抜くが、太助がそれ!と声をかけると、村人たちは一斉に松明を投げつける。

数で圧倒する村人たちは、ジリジリと浜熊一味を屋敷に追い詰めていく。

 そしてそのまま若浦屋の屋敷に乱入する。

 塀の上からは、三人の子供たちがが爆竹を投げ込む。

 帳簿を持って逃げようとした若浦屋は捕まり、その帳簿を太助は三太に託す。

 三太は、これで俺も男八匹くらいになれますかね?と聞くので、なれる!と太助は答える。

その頃、子分の一人が代官所に急変を知らせに走り込む。

 荒れ寺に残っていたお仲は一心に祈り続ける。 

源太は逃げかけた浜熊を太助が捕まえ、源太、俺がついてるぜ!と押し戻すと、その周囲を村人が取り囲んだので、浜熊は逃げ場を失ったので一対一の仇討になる。

 村人たちの声援を受け、源太は浜熊の腹に体ごとぶつかって刀を突き刺す。

 代官が馬に乗って役人や捕手たちを従え、若浦屋の屋敷にやってくる。

 城内を騒がす狼藉者!と叫んでいた代官だったが、子供たちが張っていた綱に引っかかり落馬する。

 隠れていた助けたちがその代官を引きづり込み、人質にする。

 進行を塞がれた役人たちが騒ぐと、おい!ガタガタしやがると代官の命はねえぞ!と太助が呼びかける。

源太たちに押さえつけられ、刀を抜かれた代官に近づいた太助は、代官!良くもてめえ、浜熊や若浦屋とグルになりやがって村人を苦しめやがったな!と迫る。

 その上俺たちを狼藉者として捉えるのか?村人はろくろく米の飯は食えなかったんだと庄屋がいうと、村人たちはそうだ、そうだ!と騒ぎ出す。

 代官は、わしゃ知らん!と逃げ出そうとするが、とぼけるんじゃねえよと刀を抜いた源太は、しらを切ると叩き斬るぞ!と脅す。 

何を証拠にそのような…と代官が抵抗すると、証拠?と源太は戸惑うが、証拠はここにあるよと、太助は懐から封書を取り出す。

 てめえが若浦屋に出した手紙だぞ!と友吉が指摘する。

 グルじゃねえか!と庄屋がいうと、村人たちも一斉にグルじゃねえかと責める。

 まあまあまあと、それを制した太助は、この始末は誰がつけるか代官に聞こうじゃないかと提案する。 村人が賛同するので、これでも俺たちをひっ捕らえるつもりか?と太助が代官に聞く。

 しかし代官が無言なので、黙ってちゃわからねえやと太助はその首根っこを掴み、立ち上がられせると、どうなんだ!てめえはおとなしくしてろと投げ飛ばすと、刀も放って返す。

 それを見た村人は一斉に歓声をあげる。 江戸城内で、弓を射る家光。

 側に控えた伊豆守に対し、相変わらず太助らしい振る舞いよのと語りかける家光。

 ははっ、老人在住の頃なれば、この伊豆はじめ、老中一同どのように叱られることかと答えると、爺の顔が目に映ると言いながら矢をいかけた家光は、伊豆…、徳川も三代とはいえ、未だ政届かぬところも多しと思うという。

この度の太助の働き、我々祭りごとに携わる身として良き教えにござりますると伊豆守は答える。

 その行き届かぬところを、爺が見守ってくれているような気がするという家光は、空を仰ぎ、爺…と呼びかける。

 太助とお仲は、鯛を積んだ荷車を押すお静、友吉兄弟と源太の歌に合わせ、江戸に帰ってくる。

先頭を歩くお仲は、いい旅だったわねと微笑み、太助も笑顔で、いい旅だったなと答えながらも、お仲、今度はきっと新婚旅行をするぜとお腹の方を抱き寄せ約束するのだった。

 お仲は、お前さん、江戸はやっぱり良いね〜と喜ぶ。

 魚河岸では、太助兄いが帰ってきたぞ〜!鯛をこんなに持って来たんだ!と金助らが声をかけ回っていた。 

そこに太助夫婦と青浜から鯛を運んできた村人たちが到着したので、魚屋たち総出で歓迎する。

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