「多羅尾伴内」

片岡千恵蔵主演で、大映版から東映版に移籍した「多羅尾伴内」シリーズを、小林旭主演でリメイクした作品で、元ネタは東映版の1本「隼の魔王」(1955)である。

 冒頭部分こそオリジナルの「隼の魔王」に近いが、その後の展開は、当時の横溝ブームにあやかってか、伝奇ミステリ風にアレンジされている。 

もともと「低予算で荒唐無稽な通俗サスペンス」なので、本作も同じような要素は継承しており、確かに70年代後半くらいの東映通俗アクション風画面なのだが、流石に70年代後半で、この安っぽい「通俗サスペンス」はのめり込めない薄っぺらさがある。 

確かにテレビの二時間サスペンスよりは予算をかけているようには見えるが、映画としては安っぽさが目につき、魅力は乏しい。 

「最も危険な遊戯」との二本立てだったようだが、どちらがメインとも言えないような雰囲気。

 他社の金田一映画と決定的に違うは、大物女優の起用で女性ファンが多い金田一ものに対し、本作には大物女優がおらず女性ファンを引くつける要素が希薄という点だろう。

少し予算をかけただけの二時間サスペンスっぽく感じるのもキャスティングに要因があるような気がする。 

怪奇男が登場したり、特撮ヒーローアクションみたいなものが出てくるのも、子供客を意識したものかもしれないが、片岡千恵蔵時代はともかく、小林旭版が子供達に受けたという記憶はない。

全編を見終わっても釈然としない謎はいくつかあり、例えばカメラマン殺しの時置いてあった鶴の折り紙は誰が何の目的で置いたものか? 

誘拐されていた木俣良教は、いつどうやって解放されたのか?など、わからないままの要素が結構ある。

財津一郎さん演じる宇田川警部がコミカルなキャラクターに変更してあり、そのキャラで明るい世界観を出そうとしているが、単に捜査陣の無能ぶりを強調しているだけでサスペンスには逆効果だし、その分多羅尾伴内が真面目なだけのキャラになっており、当時日本で流行っていた「刑事コロンボ」を意識してか、ヨレヨレのコートを着ている以外に、特にユーモラスな要素がなくなってしまっている。 

もともと「多羅尾伴内」は、戦後中年太りして、コロコロした体型になった片岡千恵蔵御大の生来の面白さがキャラクターのベースになっているわけで、この当時の小林旭さんには、それほど外見面でユーモラスな印象はなかったので、そもそも「小林旭版多羅尾伴内」自体に無理があるのだ。

 本作では御大とは違う小林旭さんらしいアクションシーンや白バイによるカーチェイスなど、現代的なアクションシーンもあるが、それが作品を面白くしているか?と言われると疑問である。

 捜査する刑事たちに髭面が多いのも不自然。

 藤村大蔵の名前を比較的最初に出しているのは、シリーズをすでに知っているものからすると、不自然に感じるのだが、初めてこのシリーズを見る人にとっては、その方が理解しやすいだろうとの配慮だと思うが、最終的に、うん?となるのは同じだと思う。

 そもそもこのシリーズ、なぜ、多羅尾伴内と藤村大造が二重生活しているかよくわからないからだ。 キャスティング的にはなかなか興味深い部分があり、まず池部良さんはかつて「吸血蛾」(1956)で金田一耕助を演じている方なので、名探偵対決、金田一VS多羅尾伴内としても楽しめる。 

「隼の魔王」でプロ野球選手を演じていた安部徹さんが再び出演しているのもミソ。

 子役時代から活躍している江木俊夫さんは、すでに「二連銃の鉄」(1959)や「大草原の渡り鳥」(1960)「波濤を越える渡り鳥」(1961)などで小林旭さんとの共演は経験済み。 

本作でも、がっつり小林旭さんと江木俊夫さんが会話するシーンが用意されている。

 いかにも江木さんを可愛がるような演技をしているところに注目。 

この頃はアイドルグループ「フォーリーブス」だった江木俊夫さんだが、前年の「悪魔の手毬唄」(1977)には、同じフォーリーブスのメンバーだった北公次さんが出ていたことも意識したものかもしれない。

 フォーリーブスは本作が公開された1978年8月に解散しているので、まだ両名ともメンバーだった時期だからだ。 そもそも横溝ブームを起こした「犬神家の一族」(1976)に、ジャニーズのあおい輝彦さんが出ていたので、そこからのジャニーズ流れかもしれない。

 望月を演じている天津敏さんは、かつて子供向け忍者番組の悪役として活躍された方。

事件が起きているのに、いつも刑事部屋に刑事たちが屯しており、ひたすら多羅尾伴内の推理を聞き惚れているというのも不自然極まりなく、会議をやっているとか、何か刑事が一堂に介している理由があるはずなのにそれが見えない。

 展開もやけに不自然になっており、野球選手時代事故で失明寸前になった男がスポーツ紙のカメラマンになるなど、あり得ない設定が多い。

 プロ時代の知識を活かして解説記事を書くとかならともかく、目が悪いカメラマンなどプロとして活躍できないだろう。

 さらにこの当時の東映作品に出ている役者は総じて目にクマのようなアイシャドーが施してあり、池部良さんなどは年齢的にお疲れになっていたのかと考えたくなるが、本作では成田三喜夫さんなども目にクマがあり、どうやら悪人特有のメイクらしいとわかる。

 金田一のリバイバルブームなどに触発され、過去の金田一ブームの時に人気だった「多羅尾伴内」も復活させようとした企画だろうし、全体的に時代に合わせてアレンジした工夫は感じられるものの、娯楽の選択肢が少なかった1950年代頃の子供は夢中になった荒唐無稽も、流石に70年代後半にハマる層はなかったと見るべきだろう。

 ただ、小林旭さん演じる「手品好きな富豪」は、フランスかぶれのイヤミ要素も混じり、楽しいキャラになっている。

【以下、ストーリー】

トンネルを歩いてくる男。

 壁に映った男の影が二丁拳銃を出し発砲する。 

その影がいくつも横に並んでタイトル

東京の夜景を背景にスタッフ・キャストロール

 1978年、東映、比佐芳武原作、高田宏治脚本、鈴木則文監督作品 

後楽園球場(実況中継アナ山田二郎) 日本レッドソックスか大阪セネターズか レッドソックス最後の攻撃 しかも2アウト満塁の絶好のチャンスを迎えました。

 迎えるバッターは… 

(場内アナ)3番サード高塚 3番高塚(司千四郎)が左バッターボックスに入りました。

今日もホームラン1本、タイムリーヒット1本 ホームラン51本、ホームラン王も手中に収めています高塚 ピッチャー木村、今日は好投を続けています。

 1球投げました、ストライク! ピッチャー木村、2球目投げました、打った、ライトへ!これは行ったぞ! 見送った!入った!ライトスタンド中段! 逆転さよなら満塁ホームランが出ました!

 高塚やりました!

 レッドソックス優勝! 高塚、さすが高塚です!

 しかし1塁に到着直前の高塚は球に立ち止まり、苦悶の顔色を浮かべて倒れ込む。

 主審がタイムをかける。 

選手や関係者が高塚に駆け寄る中、コート姿の奇妙な男が近づこうとし、カメラマン徳光明夫(南利明)を捕まえると、1塁側のスタンドだよ!1塁側のスタンドを撮ってくれ!君は報道陣として特ダネを逃したいのかね?と奇妙なことを口走る。

 1塁側のスタンドを隅から隅まで撮るんだ!と奇妙な男が言うので、仕方なく撮り始めるが、1塁側の客sceneきを立ち去ってゆく、望遠レンズのカメラを背負った男の後ろ姿があった。

そんな中、高塚選手を乗せた担架が運び出される。 ロイドメガネに口髭の奇妙な男は球場をじっくり観察する。 

「東京都監察医務院」 これが高塚選手の首に突き刺さっとった針ですな、部長先生と、針の拡大像を見ながら宇田川警部(財津一郎)が聞く。

縦に細い溝が掘ってあるでしょう?これはですな、アルカロイド系の毒をここに塗ったらしいですなと谷村外科部長(永井秀明)が説明する。 

アルカロイド?と宇多川警部が辿々しく聞き返すと、解剖の結果が出ればもっと詳しくわかると思いますが…と谷村外科部長はいう。

 誰かがこれを打ったんですな?でも鉄砲みたいなものなら目立つはずだが?と刑事達が話し合う。

よし!早速聞き込みだ、関係者、観客、従業員…、片っ端にあたれ!と宇田川警部が指示すると、片っ端立って主任、観客は5万人もいるんですよと刑事が反論したので、それがどうした、5万でも10万でも片っ端に当たるんだ!と劇をとばす宇田川警部だが、そこにふらりとやって来た奇妙な男に気づくと、何だあんたか…とうんざりしたように言う。 生憎だが多羅尾さん、今度の山は非常にでかい!到底あんたらの守備範囲じゃないんだ、邪魔せんでくれと宇田川警部はいうが、宇田川さん、実は私も観客の一人でしてな…と伴内が言うので、ああ、現場におったのかと宇田川警部は驚く。

 はい、一部始終を一塁側の観客席から見とったですよと伴内はいい、宇多川さん、あれは間違いなく殺人ですなと断定する。 

そして、自分の鞄から取り出した薬品をシャーレに入れ、谷村外科部長が持っていた毒針をその中に入れて湯すると、透明だった薬品が赤く変化する。

 伴内は、先生、この毒はアコニチンのようですなと言いので、アコニチン?と宇田川警部が聞き返すと、ええ、トリカブトという植物から摂れる猛毒で、なんか北海道産はエゾトリカブト、あるいは附子(ブシ)と言いましてね、アイヌが熊獲りに使う猛毒だそうですよと伴内は教える。

翌日、昨日写真を撮るように頼んだカメラマン徳光明夫を訪ねた伴内は、あなたのよう特ダネの意味がよく分かりましたよとカメラマンから礼を言われる。

 必ずこの一塁側のスタンドに犯人がいる!そう思いましてね、一枚一枚丁寧に調べたんですが、どこにも鉄砲らしいものが見当たらないし…というが、徳光さん、この人見てくださいと伴内は一枚の写真に写った望遠レンズ付きカメラを背負った後ろ姿の男を拡大鏡で覗きながら、どっかのキャメラマンのようですなという 球場全体の目がグラウンドの高塚選手に釘付けになっておるのに、この人は背を向けて帰ろうとしている、とりわけ報道関係者としては不自然だとは思いませんかな?と伴内が指摘したので、えっ?と徳光もその写真を拡大鏡で確認する。

 確かに…と写真を凝視した徳光は、多羅尾さん、こいつは大東の川瀬君ですよ!この腕章、バッグのイニシャル!これ「T.K.」と見えてるでしょう?間違いありませんねと指摘する。

 確かに写真の男が下げたバッグには「T.K.」のイニシャルが入っていた。

 川瀬君がまさか…と徳光は不思議がる。 

コーヒーカップを片手に伴内は、そんな徳光に、このことは当分、誰にも言わないでくださいよ、もちろん新聞には…と頼む。

 しかし、「野球場殺人事件に謎の人物浮かぶ」「X新聞社カメラマン奇怪な行動」という見出しの新聞記事がすぐに掲載されてしまう。 

宇田川警部は、新たな被害者川瀬東介(成瀬正)の現場に踏み込むが、その被害者の首には鶴の折り紙で作ったレックレスがかけてあった。

 川瀬の部屋には高塚選手と映った写真が飾られてあるのも確認される。

 さらに部屋に置かれた超望遠レンズを確認した宇田川警部や刑事たちは、それがカメラ銃と察知する。

 後日捜査関係者を前に、そのカメラ銃を披露することになった宇田川警部は、圧縮ガスを用いた強力なガス銃でありまして、これシャッターを押しますと、瞬時に引き金が引かれるという非常に精巧な仕組みになっておりまして、これがガスのボンベですね、ご用意がよろしければただいま発射をいたしますといい、係員にボンベを渡す。 

そのガスボンベをカメラにセットし、針も装填した係員が、ピントを的に合わせシャッターを押すと、針が的に命中する。

 その様子を多羅尾伴内も同席して見ていた。

宇田川警部が馬渡からペンチで引き抜いた針を見た制服警官は、大した威力だ、今後取り締まりを強化しないとな…と同僚に話しかけ、話しかけられた制服警官(水野晴郎)は、川瀬は自殺に間違いないんだな?と宇田川警部に確認する。 

川瀬は、我と我が身に照準を合わせまして、セルフタイマーを仕掛けておりましたと宇田川警部は説明する。

 警視庁に来た伴内にスポーツ紙を見せた宇田川警部は、「投の川瀬 打の高塚」「大阪メッツ期待の2新人」と見出しがついた2人のツーショット写真を前に、これを見たまえ!7年前のスポーツ新聞だ、甲子園の星と騒がれて、7年前に高校を出た二人がドラフト上位で大阪メッツに入団したんだなと説明する。

 ところが練習中に川瀬は高塚の打球を目に受けて失明寸前になり、そのまま退団して大朝スポーツカメラマンに拾われた、一方高塚の方はその後東京の人気球団日本レッドソックスに移籍してスター選手になったわけだが、川瀬はうだつが上がらぬまんま、酒と女に溺れて、酒を飲むほどに酔うほどに高塚を恨んで暴れとったらしい…と宇田川警部はいう。

 動機は恨みですかな?と伴内が聞くと、怨念と憎悪の入り混じった嫌な事件だよこれは、多羅尾さん…と宇田川警部は本音を言う。

 ガイシャの死亡推定時刻は?と伴内が聞くと、おい山さん、何時だ昨夜あいつが死んだのは?と宇田川警部が聞き、聞かれた山本刑事(倉石功)は、12~2時の間ですと答える。

それを聞いた伴内は、おかしいですな…と言い出し、昨夜11時頃、川瀬と同じアパートの川瀬が為替の姿を見かけとるそうですよと伴内は指摘する。 

(回想)アパート内の共同公衆電話をかけていた川瀬は、これからきっと真面目になるよ、近いうちに迎えに行くからな、ゆう子…と電話相手に話していたが、電話を使いたい主婦が、なかなか空かない電話を見て困っていた。 

(回想明け)その夜自殺する者がそんなこと言いますかな?と、刑事部屋で伴内は指摘する。

 だが宇田川警部は、だって気が変わるってこともある、ゆう子ちゅう女子は水商売の女かなんかで、あんまりしつこいんで振られよったんだ、きっと…と説明するが、伴内は、宇田川さん、これが現場にあったのはご存知ですなと言いながら、内ポケットから鶴の折り紙を取り出したので、急に笑い出した宇田川警部は、まるでガキだよ、少女趣味というか、子供だ!というが、これは三栖紙(みすがみ)と言いましてな、奈良県の一地方にしかない和紙でして、極めて薄いのが特徴でしてな、江戸時代から漆を漉すのに使われとったそうですよと教える。

 だからさ、だからさ、多羅尾さん、あなた何が言いたいんだ?と宇田川警部は聞く。

 吉野は川瀬の故郷でして、役所で調べたところ、川瀬には妹が一人おりましてな、名前をゆう子というんですよと伴内は教える。

現在は大阪に行ったとかで、行方は知れておりませんと伴内が言うので、だから一体それがどうしたというんだ!あんたどうして今度の事件に入れ込むんだ!多羅尾さん、あんた何か?我々警察の捜査にケチつけようとしうのか!と宇田川警部は文句を言い出す。

 いやいや真実の光が見たいからですよ、宇田川さん、近頃の東京の空、星さえ光らなくなりました…、悲しいことじゃありませんか…と伴内は否定する。

 横に置かれた「シャーロックホームズの冒険」の本に置かれた鶴の折り紙。

 「多羅尾伴内探偵事務所」で一人淹れたてのコーヒーをデミタスカップで飲んでいた多羅尾伴内は、幻のホームラン…、カメラ銃…、ヒーローの死‥と呟いていた。 そのとき、訪問者を知らせるチャイムが鳴る。

 ドアを開けると、藤村のドアの前に人がいたので、藤村先生に御用ですかな?と伴内は声をかける。

 お留守なんでしょうか?と秘書らしき男が聞いてきたので、お忙しい方ですからな、今外国に行っておられるのですよと伴内は預かっている鍵を見せ、ご用件は代わりに私が伺うことになっていますが…、私は当探偵事務所の多羅尾と申しますと伴内は答え、藤村の事務所の鍵を開ける。

 訪問客から名刺をもらった伴内は、「信愛医科大学 理事長 木俣信之」と言う名前を確認する。 

木俣(池部良)は同行者の事務長の望月八郎(天津敏)と秘書の新村真砂子(夏樹陽子)を紹介する。

これはどうも初めましてと伴内も挨拶し、コーヒーを勧めるが、一口飲んだ伴内は、これは濃すぎたかな?それにお砂糖も忘れてるし…、失礼、失礼、私はこれをブラックで飲むのが大好きでしてな…と言い訳する。

 いやいや大変結構ですと応じた木俣は、ところで多羅尾さん、私が藤村大造さんをお訪ねしたのは、藤村さんが法律の疑念というか、警察沙汰にはできないような事件を数多く解決されていると聞いたからです、しかしまた、探偵多羅尾伴内さんの噂も警察内幹部から聞いております、なかなかの腕利きだそうで…と話し出す。

 いやどうも…と照れる伴内だったが、しかし藤村さんがご不在なら、あなたに依頼してもよろしんですね?絶対秘密を守ると約束してくれますか?と木俣は尋ねる。

頷いた伴内は、それが私らの商売の取り柄といえば取り柄のようなものですなと笑顔で答える。

それじゃ、ご覧になってくださいと木俣が差し出したのは、切り抜き文字を貼り付けた脅迫状だった。 電気スタンドの灯りをつけた伴内は、その内容を読む。 

「三番打者を殺したのは俺 第二の犠牲を防ぎたければ 現金10億を東京ロイヤルホテル4127号室 15日22時持って来い チロヌプ カムイ」 脅迫状ですなこれは…、三番打者というと日本レッドソックスの高塚三塁手のことですなと伴内は答える。

 木俣も、そのようです、だが最後にある「チロヌプ カムイ」と言うのは?と聞くので、「チロヌプ」はアイヌ語で「狐」、「カムイ」は「神」、すなわち「狐の神」、アイヌが信仰する魔神のことですなと伴内が解説する。 

立ち上がった伴内は、この脅迫状には三つの鍵がありますなと指摘する。

 1つは「第二の犠牲者」とは誰なのか?2つには「現金で10億円」という途方にもない金額…、最後には「チロヌプ カムイ」すなわちアイヌの魔神の名を使ったと言うこと…、「第二の犠牲者」に誰か心当たりはおありですかな?と伴内は聞くが、木俣は、いいえ、別に…と否定する。

 高塚選手に関わりのある人物と推定されますが?と伴内は指摘するが、見当も付かんですと木俣は言う。 木俣さん、どんな些細なことでも結構ですから、お心の中にあることを隠さずおっしゃっていただけませんか?と伴内は追及する。

しかし木俣は、隠しておりませんと言うので、そうですか…、それじゃあ、10億円について…、失礼ですが、あなた実際にお持ちですかな?と伴内は聞く。

 頷いた木俣は、まあ私個人のものじゃないんです、「信愛」の財産です、理事長とはいえ、私一人の一存ではどうにもなりませんと木俣は答える。 

「東京ロイヤルホテル」 2つのスーツケースを望月に台車で運ばせ、やってきた木俣に知人らしき3人の男が話しかける。

 奇遇ですな、何ですか今日は?などと言うので、あなた方ほど何ですか?と木俣が聞くと、ジャガークラブの夕食会でしてね、宮本くんが高塚事件で腐っとるもんだから、無理に引っ張り出したんですよと小泉登(安部徹)がいう。

 うん?何ですか、この大きなカバンは?と種田金吾(石橋雅史)が聞くので、いや、その…、これは…と運んでいた望月がしどろもどろになったので、金です、10億の現金が詰まっていますと木俣が答えると、突然小泉が哄笑し出す。

 理事長はジョークがきついですなと小泉が指摘したので、宛先は日本赤軍ですか?などと宮本球団社長(高野真二)も調子を合せる。

そんな会話を2階のラウンジでコーヒーを飲んでいた伴内が監視していた。

 4127号室に無事トランクを運び入れた望月が、いやあ、驚きました、理事長どういうおつもりですか?と今し方の会話にパニクっていたが、ふん、どんな顔するか見てやったと木俣は平然と答える。

 同室した伴内に、あの3人も大学の理事でね、日本レッドソックスの宮本代表は、本社復帰を狙って株の買い占めに奔走している。

 民政党の小泉代議士は来年の参議院選を控えて選挙資金が欲しい。

 そして種田は、やってる建設会社が倒産寸前で、何度も私に借金を申し込んで来てる、どいつもこいつも金に飢えた亡者どもだ…と木俣は説明する。

 他に理事長は?と伴内が聞くと、理事長の奥様が副理事長でして、あとは附属病院の石黒先生と、不肖私ですと望月が会釈する。

 7名の方ですな?と伴内が確認すると、理事長お薬の時間ですと新村真砂子が声をかける。

 別室に入った木俣に、錠剤を溶かした水を飲ませる真砂子。 

その間、望月と二人になったので、木俣さんはご養子のようですな?とバン愛が聞くと、ええ、と望月は即答する。

 大学は奥様のお父上の跡を継がれたのです、しかしおんぼろの医専に過ぎなかったのを今のように立派になさったのは理事長のお力ですと望月はいう。

 理事長は広島の原爆で身内を全部亡くされましてね…と望月はさらに話す。

 敗戦の時は陸軍中尉でしたが、あらゆる価値がひっくり返った混乱の中で、もう一度1から出直そうと、闇やをしながら大学へ通ったそうですと望月が言うのを聞いていた伴内は、立志伝中の人ですなと感心する。

 10時10分、ラウンジでコーヒーを飲んでいた伴内のところに新村真砂子がやってきて同席する。

探偵さん、こんな所にいらしていいんですか?と皮肉をいうので、ちょっと森をみとうなりましてなと伴内は答える。

 1回のソファでは、種田、小泉、宮本の3人が雑談していた。

 森?と真砂子が聞き返すと、ああ…、人はよく木を見て森を見ず…と言うでしょう、この事件の大きな森は少し離れたところからだとよく見えるんですよ、あの脅迫状は野球で言えば牽制球みたいなものでしてな、犯人はどこかでじっと観察しておるですよと伴内はいう。

 部屋では望月が、11時5分ですと木俣に知らせ、理事長、何事も起こりませんでした、やはり悪質な悪戯ではないでしょうか?と安堵していた。 

そこに電話がかかってくる。 

木俣と望月は警戒するが、結局望月が受話器を取り、もしもしどなたですか?と問いかけるが、何も返事がないまま電話は切れる。

 望月が受話器を戻した時、隣室とのドアが音もなく開いたのに木俣は気づく。 望月と木俣がそのドアの奥に目をやった時、室内灯が消える。 

その時、突如、不気味な仮面と白髪でマント姿の人間が窓を破って人が室内に飛び込んできて、二つのトランクを持っていた斧で破壊して中を改めると、両方ともに偽札が詰まっているのがわかる。

 入口のドアに、木俣さん、理事長と呼びかける声がしたので、木俣がドアを開けると、伴内と真砂子が入ってくるが、室内は風に舞う偽札の中に怪人が窓から外に逃げ出すところだった。

「信愛医科大学」では、事件を知った大嶋(成田三樹夫)が、理事長、水臭いじゃないですか!どうしてこの大嶋に相談してくださらな方んですかと木俣に文句を言っていた。

 世間体を恐れたんだよ、医科大学には兎角批判が多いご時世だからねと木俣は答える。

 新村君、君もその怪物とやらを見たかい?と大嶋が聞くので、ええ、なんて表現したら良いのか、鬼のような狐の魔物のような…と真砂子が答えると、狐?と繰り返した大嶋は、今日から理事長と坊っちゃんの身辺は私が敬語イタしまうと大嶋が名乗り出る。

 そして背後に待機していた楊伝明(佐藤京一)を呼び、この男はですね…と大嶋が説明しかけた時、あなた!と呼びかける声が聞こえる。

 あなた、どうして脅迫状のこと、私と良教に教えてくれなかったのとやってきたのは、木俣の妻ちか子(川口敦子)と息子の良教(江木俊夫)、それに宮本球団社長と小泉だった。

 心配かけたくなかったからだと木俣が答えると、嫌がらせだよ、どうせと言いながら椅子に座った良教に、だって…、ママね、あの高塚選手が殺された時から気になってたのよとちか子はいい、あなた、もしあの北海道の…と続けようとしたので、あの、奥さん!それは思い過ごしですよ、あの件なら私と小泉代議士できっちりしてありから、心配いりませんと宮本が口を挟む あれが原因だったら、穂高ルミだって狙われるよと良教が指摘する。

出待ちのファンにサインをしていた穂高ルミ(三崎奈美)をマネージャーが急かしてタクシーに乗せ次の現場へ急ぐ。

 すると片目の運転手がカセットに入れて流したのはルミの曲だったので、あら、私のとルミは気づいて喜ぶ。

 運転手は、私はルミさんの大ファンでね、この前北海道の時もご一緒したんですよ、この前死んだ高塚選手も確かご一緒でしたかね?などと話し出したので、あら、そうだったかしら?と急にルミの態度が覚める。 

高塚選手も気の毒なことしましたね、お寂しいでしょうと運転手がまだ話すので、私、あの人とはなんでもないのよ、週刊誌を色々見たけど、みんな有名人の出鱈目よとルミは否定する。

 そのルミは、次の楽屋で花束を持って待っていた良教を見て、何しに来たの?もう用はないはずよ?と不機嫌になる。

 そんな楽屋内の会話を片目の運転手が外から盗み聞いていた。 そこに2人の男が近づいてきて、てめえ、こんなところで何やってんだよと胸ぐらを掴んできたので、騒ぎに気づいたルミと良教がドアを開けて、どうしたんだよと聞く。 このやろう、立ち聞きしてやがったんだと言うので、この人ハイヤーの運転手よとルミは気づく。

 来る途中、北海道のことなんか色々聞くの、変だと思ったわとルミが言うので、片目の運転手はおことたちに別室に連れ込まれ、一緒についてきた良教が、お前どうしてる身に近付くんだ?と尋問し始める。 すると運転手は、あんた木俣良教さんだろ?と逆に質問してくる。

 返事をしろ!と良教が迫ると、穂高ルミとはどう言う関係だい?と運転手が逆に質問してくる。

 ボディガードから殴られた運転手だったが、北海道では何があったんだい?としつこく聞いてきたので、良教は黙り込み、ボディガードたちは運転手に殴りかかってくる。

 しかし運転手はめっぽう強く、あっという間に数人のガードマンたちを殴り飛ばしてしまう。 ナイフを取り出した相手も、あっさりナイフを取られ、逆に投げつけられて固まってしまう。 

さらに、心配するねえ、腕尽くでおめえの舌を引っこ抜くほど酔狂じゃねえよ、けどな若いうちから暴力団と付き合ってるような先が見えてるぞ、よっ?と運転手は良教に説教して、部屋を出て行く。 探偵事務所に向かう階段の途中に鶴の折り紙が置いてあることに気づきそれを拾い上げた多羅尾伴内は、部屋の前で待っていた女性に、川瀬ゆう子さんですな?鶴の折り紙を持ったまま聞く。

 探偵事務所で向かい合った川瀬ゆう子(竹井みどり)は、先生、お兄ちゃんは自殺じゃありません、殺されたんです、仇を打ってください!と訴える。

 まあゆう子さん、色々辛いことを尋ねるが、良いですか?吐蕃愛が聞くと、うち、大丈夫ですとゆう子は答える。

 大阪へはなぜ?と聞くと、うち、吉野の紙漉き工場で働いていたんですとゆう子はいう。

 この春、東京のルビーと言う店から、お兄ちゃん、酔っ払って電話かけてきて、野球賭博で負けが混み、100万円ないと殺される言うんですとゆう子は続ける。

 殺される?と多羅尾が繰り返すと、うち大阪行ってキャバレーで足りない分借りたんです。

きっと借金やないかと思うんですけどとゆう子が言うので、あなたがキャバレーに務めてらしたことは兄さん知ってらしたんでしょう?と伴内は確認する。

 はいとゆう子がいうので、兄さんがああなった晩の11時頃、そのキャバレーのお店に電話があったんじゃないですか?と伴内は聞く。

 ありました、近いうちにお金が張るから、一緒に吉野に帰ろう言うて…とゆう子は答える。

 お兄ちゃん、目がどんどん悪うなってカメラの仕事ができんようになっていたんですと言いながらゆう子は泣き出す。

 ゆう子さん、あなたこの写真新聞で見たでしょうと、カバンの中から一枚の写真を取り出して伴内が見せ、どう思いますかと聞くと、1塁側スタンドで1人だけ帰っている川瀬らしきカメラマンの姿を凝視したゆう子は、お兄ちゃんじゃありません、お兄ちゃんもっと肩幅広いし、それに首筋にこんなアザなんかありませんと嬉しげに答える。

写真を受け取り、拡大鏡で再確認した伴内は、首のアザを見て、なるほど、これは気がつかんかったわいと感心する。

その時、コーヒーの匂いに気づいたのかサイフォンの中をかき混ぜ始めた伴内に、先生、お兄ちゃん気が弱いところあるけど、絶対人を殺すような人やありませんとゆう子は訴える。

 きっと誰かの罠に嵌められたんです、お願いです、お兄ちゃんの疑い晴らしてやってください!うち、お金はないけど、仕事お手伝いしますとゆう子は申し出る。

 伴内はサイフォンで淹れたコーヒーをカップに注ぎ、飲みなさいとゆう子に勧めると、自分も一口飲んで、真実の光と呟く。 

クラブでギターを弾きながら「昔の名前で出ています」を歌う奇妙な帽子を被った流しを女性客たちが見つめている。 

その店ではゆう子もホステスとして働いていた。 

そのクラブの控え室にこんちは!と言いながら入ってきたギター男は、何だ?お前という用心棒たちに、良い話持ってきたんですよ、社長さんは?というので、社長は留守だよと用心棒が答える。 

麻雀をやっていた男の一人が、俺は専務の戸川(桐原信介)だと名乗ったので、ああ専務さん?ナショナルリーグの優勝決定戦に大金賭けたいって金持ちがいるんだけどなと話しかけたので、それがどうしたんだい?と外川は答える。 

とぼけないでくださいよ、俺だってこの道で遊ばしてもらってるんですからとギターの男はいう。

 それにね、この金持ちの名前が徳大寺中吉って言うんですよとギター男がいうと、アラブの方ではちょっとばかりなの通った石油ブローカーでね、これが日本レッドソックスのファンでキ⚪︎ガイ!5000万賭けるんだって言ってるとギター男がいうので、専務たちの顔色が変わってくる。

 ところがね、日本レッドソックスは高塚選手が死んじゃったし、絶対優勝できないだろってのが大方の評判だけどねとギター男はいう。

 その時、扉が開いて、サツだ!というのと相前後して部屋に乱入してきた宇田川警部が、動くな!動くんじゃない!と牽制した上で、野球賭博並びに高塚選手殺害容疑で家宅捜査だ、かかれ!と部下の刑事たちに命じる。

 さらに宇田川警部は、おい戸川!お前射撃の方はプロ級らしいな?と追及してくる。

 とんでもない、高塚殺しは川瀬だと、新聞にも!と外川は抵抗するが、川瀬じゃない、事件は振り出しに戻った、多羅尾伴内ちゅうヘボ探偵までが、興行が臭いと言うとると宇田川警部はいうが、その話をギター男も素知らぬふりで聞いていた。

 ギター男は大嶋が女と一緒に写っている写真を部屋で見つけ、それをこっそりポケットに入れて部屋から抜け出そうとするが、宇田川警部に見つかり、待てい!お前なんか場違いなおかしな格好しているなと怪しまれる。 

お前子分か?どっかで見た顔だな~…、本官を知っとるか?と宇田川警部が聞くので、知りませんと答え帰りかけたギター男だが、宇田川警部に身体検査され、例の写真を見つかったので思わず投げ飛ばしてしまう。 宇田川警部は捕まえろ!と命じたが、ギター男は部屋のテーブルやロッカーの上を飛び回り、刑事たちを翻弄する。

 最後は持っていた白いギターを宇田川警部の頭に叩きつけたギター男は、公務中のケガは無料だからねと言い残し、部屋から出て行く。

 「信愛医科大学」 病院に入院していた徳大寺中吉(小林旭)は、看護婦たちを前にトランプ手品を披露していた。 トランプを札束に変えて、それを看護婦たちにそのまま渡したりする。

 そこに、あの〜徳大寺さんでいらっしゃいますか?私大嶋興行の大嶋ですが…と言いながらやってきたのは大嶋だった。

 看護婦たちを帰らせ、大嶋に椅子をすすめた徳大寺は、スカーフをステッキに変える手品を披露する。 大嶋は、どこかお具合でも?と言いながら、自分の体や頭を指さして聞くが、いいえ、人間ドックですよと徳大寺はいう。 

年がら年中札束の山に追いかけられていますとね、お金の顔を見るだけで熱が出るんですなどというので、お羨ましいご身分ですなと大嶋は半信半疑の顔で答え、しかしそんなあなたがなぜギャンブルに?と聞いてくる。

 無駄ですよ、無駄!安全主義で合理主義一辺倒の世の中でしょう?入れて差し上げなさいと、徳大寺は病室のカートに乗せてあった酒をグラスに注ぐように大嶋のガードマンに命じ、たまには絶対勝ち目のないギャンブルに賭けてみたいんですよと説明する。

 絶対勝ち目のないギャンブル?優雅な趣味、結構ですな〜と大嶋は驚く。

 そうですか、では5000万の小切手ですとガウンの下から取り出した紙を見せ、サインはしてありませんがね、これをお互いに交換しようじゃありませんか、決勝戦は確か5日後でしたなと徳大寺は言い出す。

当日、負けた方がこれにサインする、それでどうですか?と徳大寺が言うので、改めて大嶋が小切手を確認すると、確かに三井銀行天泉支店で5000万の数字が入っていたので、やりましょう、やりましょうと大嶋は答える。 

「秘書室」 セニョール!マサコさん?とやってきたのは徳大寺で、無人だと気づくと室内を物色し始めるが、その時突然、楊伝明に襟首を掴まれる。 室内でも見合いになる間、徳大寺は楊の左手首に傷があるのを見る。

 そして、楊は徳大寺を窓から外に放り出そうとするので、必死に抵抗する。

 その時、やめろ!と言う声がしたので楊は力を抜くが、新村真砂子とともに入ってきた望月が、申し訳ありません、こいつは理事長のボディーガードでしてと詫びてきたので、ひどいですよ、この人は野獣だと徳大寺は這々の体になる。

こんな所でウロウロなさるから…と真砂子が嫌味をいうので、おー、なんと悲しいことをおっしゃるか真砂子さん、僕はですよ、あなたをお食事にお誘いに来たんですよ…と徳大寺はがっかりしたような口調で言い返す。

 真砂子が何か言い返そうとすると、ノーノーノー、それがですね、こんな恐ろしい目に遭って、お付き合いしてくださいよと言いながらスカーフで自分の顔の汗を拭くと、テーブルにかぶせ、そこからバラの花を取り出すと、マドモアゼルと言いながら真砂子に手渡す。 

その後、新村真砂子を誘って、川瀬ゆう子がホステスをやっているクラブにやってきた徳大寺は、おお、素晴らしい美人揃いでと出迎えのホステスに愛想をいうと、ご紹介しましょう、僕の真砂子というので、真子さんしばらく!とホステスは挨拶し、みなさんお変わりないようねと真砂子も挨拶する。

 どうしたの?今日は浮気?などと馴れ馴れしく言い合うので、皆さん、お知り合い?と徳大寺がテーブル席に座りながら聞くと、実は去年までこの店で働いてたのよとホステスが打ち明ける。

 それじゃあ、しばらくぶりの里帰りというわけですな、マダム?と徳大寺は真砂子に話しかける。 

その時、ステージで歌手吉野アキ(八代亜紀)が歌い始めたのでしばし耳を傾ける。

 しかしなぜか真砂子の視線は冷ややかだった。

 そこに、木俣と望月、大嶋らもやってきたので、同じテーブルで合流する。

 そこに歌い終わった歌手がやってきたので、ああ吉野さん、とっても素敵トレビアンでしたよと徳大寺が立ち上がってほめると、どうも、歌がお好きなんですか?と吉野が聞くと、うん好きです、でも僕は音痴で全然ダメ、その代わり毎日札束に追いかけられてますよと嫌味ジョークを言うと、吉野に飲み物が入ったグラスを持たせ、スタンドのシェードを被せると、中身が消えてなくなるアクセサリーに変わるマジックを披露し、プレゼントですと言うので、吉野は驚きながらも喜び魔法使いみたいという。 オブリガード、アキさんと徳大寺は礼を言い、徳大寺はおすわりなさいと勧める。

 大嶋は、徳大寺さん、ずいぶん真砂子さんにご執心なようですがね、どうです、得意の手品でもう一人の真砂子さんをお出しになっては?などと言ってくる。

 グッドアイデア!やってみましょうか、出るか出ないか、大嶋さん、これ持ってくださいといい、徳大寺は向かいに座っていた大嶋にアイスボックスを持たせ、私がこれから呪文を唱えますよというと、徳大寺は自分の首にかけていたスカーフでアイスボックスを隠す。

 特大字が意味不明な呪文を唱えると煙が上がり、大嶋が持っていたのは白髪の不気味な魔物仮面だったので、木俣や望月は、ホテルであった怪人を思い出し驚く。 これは!真砂子さん出そうと思ったのに、こんなもの出てきてしまった!これは失敗ですな?失敗ですね?失敗!と徳大寺はふざけるが、そのテーブルに座っていたものは誰も笑わなかった。

 娘の大河内禮子(和田瑞穂)とやってきた木俣良教に、良教君、顔色が悪いんじゃないかな?と大河内幹事長(浜田寅彦)は声をかけるが、ええ、この所徹夜で研究していたもので…と良教が答えると、そりゃ結構、男は仕事だ!なあ禮子!と大河内幹事長は喜ぶ。

 そして大河内幹事長は、吉村会頭(佐伯秀男)と共に庭先のテーブルに座っていた木俣に対し、木俣さん、禮子と良教君の仲人は経営者連盟会頭の、この吉村さんでご依存ありませんなと確認する。 木俣は、はい、全て幹事長にお任せしますと答える。

 吉村会頭は、いや〜木俣さん、あなた次の総選挙に出るそうだが、すぐに大臣候補ですな、なあ、幹事長とお世辞を言う。

大河内幹事長は、保守政界も久々の大型新人を得てかっ気づきますな〜と追従する。 

ステージでは、女性アイドルデュオ「キャッツ★アイ」が「導火線」を歌っていた。 その舞台裏に侵入する怪人。

 その天井裏に侵入する怪人。 

続いてアン・ルイスが「甘い予感」を歌い始める。

 歌い終わったアンは、穂高ルミのショーが始まることを英語で紹介する。

 最初の歌は「夕日に浜名湖」どうぞ! セリが上がってきてステージ上に登場した穂高ルミは、天井から下がってきたブランコ型椅子に座る。

同時に演奏が始まり、もう止めないで〜♩とルミが歌い出すと同時にブランコ型の椅子が上がり始まる。 天井裏では「狐男」がワイヤーを切断していた。

 1本のワイヤーが切れると、ブランコ型椅子全体が落下した中、穂高ルミの体だけが1本のワイヤーで宙吊り状態になる。 

それを下で見ていたアン・ルイスや「キャッツ★アイ」も悲鳴をあげる。 

胴体に巻き付いたワイヤーが上に引き上げられ、苦悶の表情を浮かべるルミ。

 舞台上に瑠美の血が滴り落ち、やがて空中で胴体が真っ二つに切断され、瑠美の二分された体が舞台に落下する。 

(輪転機の映像を背景に)「美女生き胴真っ二つ!」「歌謡界のアイドル穂高ルミ 惨殺される」「天井裏に不気味な怪人 目撃者 アンルイス、キャッツ・アイ恐怖の証言」の見出し文字が踊る。

 一方、木俣良教が運転するスポーツカーに同乗していた女友達は、白バイ警官に追いかけられていることに気づき慌てる。

 白バイ警官はスポーツカーと並ぶと停車を命じるが、良教は120kmのスピードで振り切ろうとしたので、女友達はやめて!と制する。

 白バイは執拗に追跡を続行し、人気のない砂浜まで来ると拳銃を取り出しスポーツカーのタイヤを撃つ。 スポーツカーはスピンし、浜に積み上げられていたガラクタの山に衝突して停まる。 

そこにやってきた白バイ警官(小林旭)はサングラスを取って良教と対峙するので、なんだ貴様、ピストルで打つなんてやりすぎだぞと良教は抗議しながら、車を降りようとする。

 しかし警官は良教の手の部分を叩き、それを防ぐと、君は医者になるつもりかね?それとも人殺しになるつもりかね?良教…と聞いてきたので、あんた、誰だ?と良教は警戒する。 警官は「地獄の警視庁」だと答える。

 理事長室にいた木俣に、秘書の真砂子がお手紙でございますと言いながら持ってくる。

 封筒にはまたしても切り抜き文字で作られた第二の脅迫状が入っていた。

 穂高ルミ殺したのは俺、第三の犠牲塞ぎたければ今度こそインチキは許さん、現金10億21日14時、霧ヶ谷火葬場自分で持ってこい」と書かれてあった。 

その脅迫状を小泉と共に読んだ宮本球団社長は、こうなったら警察に届ける…と言いかけると、小泉はいかん!を静止する。

 あの事件が明るみに出てみろ、理事長もわしらも破滅だと小泉はいう。 そこにやってきた真砂子が、理事長、良教様が誘拐されました!お友達から電話が…というので、木俣は何!と驚き、宮本も小泉も仰天する。

 同じ部屋で同席していた良教の母のちか子は失神しそうになったので、木俣が手を握り、しっかりしなさいと慰める。

 そこにベランダ側からやってきたのが約束していた多羅尾伴内だったので、木俣は遅いじゃないか!多羅尾君と文句を言う。

 倅が誘拐されたと木俣が教えると、そうですか…と坂内が言うので、何を呑気なことを言ってるんだ、それでも探偵かね?と宮本が抗議する。

 それでも伴内は冷静に、木俣さん、高塚選手と穂高ルミ、ご子息との三人の関係を説明していただけませんかな、そうしませんと、私、手の打ちようがありませんで…という。

 その場にいた望月や真砂子も何も語ろうとはしなかったが、ちか子だけは、あなた、何もかもお話しして!良教が殺されるよりマシよ…と頼む。 長考の末、口を開いた木俣は、多羅尾君、他言は無用ですよといい、ええ…と伴内が答えると、一昨年の夏…と語り出す。

 倅の車が北海道で事故を起こした…、アイヌの若い男と幼児を死亡させて逃げたんだ、運転は高塚だった…と木俣は続ける。

 倅と穂高ルミは後ろの座席に乗っていたそうだ、ここにいる小泉さんと宮本さんが北海道に乗り込んでくれ、発報に手を広げて、新聞と警察を押さえて、替え玉を一人自首させたんだ…と木俣は話し終える。

 それを聴き終えた伴内は、小泉と宮本を見て、お二人の金と力で、ひき逃げ事件を強引に押し隠したんですな?と確認する。

 倅はともかくとしても、高塚と穂高ルミは国民のアイドルだ、何千万人の少年少女の心を傷つけぬためにもやむを得ぬ処置だった…と木俣はいう。

 飛び出し事故だからねえ向こうが悪いんだよと小泉はいい、警察や報道関係も快く協力してくれたよと宮本もいう。

 それで、死んだ男と子供の関係は?と伴内が聞くと、父親とその子供ということだったが?と宮本が答えたので、それではその子には母親がおりますな?と伴内は指摘する。

 それが行方不明でね…と宮本は言いながらソファに腰を落とす。

 事故のあった場所は?と聞くと、樽前のゴルフ場近くという。 男の住居はと聞くと、白堀の別都と宮本は教えるが、その時木俣が、多羅尾君、頼む、何とかしてくれ、倅を助けてくれないか!と言葉を挟む。 母のちか子もお願いしますと伴内に頼む。

すると伴内は、この心配は入りませんよ、奥さんと答え、ご子息は無事でおりますと木俣にもいう。 ご子息を誘拐させたのはこの私ですから…と伴内が明かすと、宮本が君!と言いながら小泉やちか子と共に立ち上がり、木俣もあっけに取られたように、それはどういう意味だ!と聞き返す。 

あなたの口から全てを聞き出すため…、事件解決のためですからご容赦ください…と伴内は木俣にいう。

 近くは安堵の吐息を出して座り込むが、望月は、よくも理事長を愚弄したな!と怒り、ヘボ探偵君、脅迫者の鍵でも掴んだのか?度なんだ!と迫る。

 すると伴内は、さよう…、影は幻となって、ほのかに白く浮かびかかっておりますと答え、私はこの事件についてこう考えましたな、木俣さんから10億を強請るために、何も無用の殺人事件を二件も起こす必要はない…、ご子息1人誘拐するか、脅かせば済むんですと続ける。

 だからこの事件には誰かの異様なまでに激しい復讐の怨念が絡んでいますなと伴内は指摘する。

 北海道… 

アイヌ民芸品直売所… 

アイヌの家屋内で、焚き火と不気味な面を前に、会いたやな…、会いたやな…と呟き、アイヌ語で何やら呪文を唱え始めた老婆シムカニ媼(原泉)を観察する多羅尾伴内。

 壁に掲げられた仮面を見た伴内は、「チロヌプ カムイ」か…と呟く。 その気配で気づいたシムカニ媼が振り返ると、伴内は持参した一枚の写真に写った女性を指さして見せる。 

それを見たシムカニ媼は驚いたようだった。

 近寄って写真を間近に見たシムカニ媼は、まさみじゃ、あれから行方知らずでみんなで心配しとったんじゃという。 

(回想)内地のメノコにしてはようできた優しい嫁でのう…、親子睦魔獣仲良く暮らしておったものをのう…。 夫と子供と一緒に稲荷寿司を食べる新村真砂子…。

 鬼の面がインサート。 ボールを追って道路に飛び出す息子。

近づいてくるオープンカーの後部座席に乗っていたのは、その鬼の面を被った木俣良教と穂高ルミ。 運転していた高塚選手も鬼の面を被っていた。

 息子が危ないと気づいた亭主が、太一!と叫びながら息子の体に覆い被さり、車を停めようと片手を上げるが、スポーツカーはスピードを緩めず、そのまま父と子を轢いてしまう。

(回想明け)その親子がいなり寿司を食べていた川のほろりで考える伴内。

 その後、車で帰る伴内は、カーラジオから聞こえてくる野球の実況を聞いていた。 

高塚選手の不慮の死で延期になりましたナショナルリーグの優勝決定戦、日本レッドソックスと大阪セネターズの試合は、今日1時から後楽園球場で行われました。

 5対3で日本レッドソックスが勝ちました、レッドソックスのないんは高塚選手の死を乗り越えまして、3対1とリードされて迎えた8回の裏、一気に6本のヒットを連続して一挙に4点を上げ逆転、いよいよ晴れの日本シリーズへと駒を進めることになたわけであります…とアナウンサーは言っていたが、その時、後部座席から伸びた謎の手が伴内の首を絞め始める。

 それは白髪で青い面の「狐男」だった。 蛇行する伴内の車。 伴内は首を絞めている人物の左手区首に傷があるのを確認する。

 車はガードレールに激突し、車は草むらで停車するが、車から降りた「狐男」と伴内は組み合ったまま斜面を転がり落ちてゆく。

 その頃、「信愛医科大学」の理事長室では、木俣が、1人1人態度表明してもらおう、金を出すことに賛成か反対か…と意見を求めていた。 まずはちか子が賛成!私は賛成よと言う。

 小泉は、私は反対ですなと言い、種田金吾も反対と言うので、宮本も反対です、無視すべきでしょう、ああいう脅迫は…と答える。

 哀しげな表情になったちかこが、病院長あなたは?と聞くと、尊い人命のためですからこの際やむを得んでしょう、賛成ですと答えたので、ちか子はホッとする。

 望月も、私も賛成ですと意見を言ったので、あなた、3対3よとちか子は木俣の方を振り向く。 

木俣は10億円は用意する、だが犯人には渡さんと言い出したので、あなた…とちか子は戸惑う。 警察の協力を得て犯人を捕らえたいと、木俣は主張する。 種田は警察?と驚き、小泉は、理事長、これはまずいですな〜と意見を言う。

警察の交渉は私に任せてもらおうと木俣は提案する。

 ちか子、私も良教の身の上は心配だ、しかし教育者として憎むべき殺人狂を揺ることはできん!と木俣は主張する。 

その後、みんなが見ている前で、トランクに10億円の札束が詰められる。 脅迫状にあった21日14時前、霧ヶ谷火葬場に大嶋たちが乗った車が来る。

 近くの墓場には警視庁の刑事たちが張って双眼鏡で監視していた。 

主任、こちら山本(倉石功)、応答願います、怪しい車が一台入ってきました、見張りは続行しますとの刑事の連絡を受けた宇田川警部は、後15分で現場に到着する、厳重に警戒しろ、迂闊に動くな!全員逮捕は俺が合図するまで待てと答える。

その宇田川警部が同乗した10億円のトランクを載せた車の前に一台の霊柩車が止まって道を塞いでいたので、運転していた刑事が、退いてくれ!こっちは急いでいるんだ!と文句を言いにいくが、運転席には誰も乗っていなかった。

 次の瞬間、霊柩車の後部扉の隙間から銃口が狙っているのが見えたので、車を降りていた宇田川警部らも慌てて逃げる。

 機関銃の連射が始まり、宇田川警部の乗っていた車は穴だらけになる。 やがて霊柩車の中から白髪の「狐男」が出現する。 宇田川警部の乗った車から降り立った木俣は、貴様、何者だ!と怒鳴りつける。 

「狐男」はその金を霊柩車に運べと男の声で木俣に命じる。 そばに立っていた宇田川警部が、何を言うか貴様!と言うと、木俣も、宇田川さん、逮捕しなさいと命じる。

しかし宇田川警部が前に出ようとすると、「狐男」は機銃を刑事らの足元に連射するので動けなくなる。 それでも若い三島刑事(氷室浩二)は突っ込もうとするので、人命尊重!と制した宇田川警部は、三島刑事にトランクを運ぶように命じる。 

その頃、大嶋興行に一人来ていた新村真砂子を、ホステス姿の川瀬ゆう子が密かに尾行していた。

 真砂子は専務の戸川と会っており、何か真砂子に対して怒っている様子で、上着を脱ぎ捨てたた戸川の首筋には、写真に写っていたカメラマンと同じアザがあった。

 火葬場から真砂子の待つ自室に戻ってきた大嶋は、待ちぼうけだよ!奴は確かに金を運び出したんだろうな?お前の勘違いじゃないのか?と激怒していた。

 勘違いじゃないわ、手違いがあったのよと真砂子はいう。 手違い?と大嶋が聞き返すと、途中で狐男が待ち伏せていて10億円残らず取って逃げたらしいわと真砂子がいうので、狐男?…、楊は今北海道だよと大嶋は苛立つ。

 裏切ったのよと真砂子は主張するが、楊はそんな男じゃない、香港でも一番信頼できる殺し屋なんだと大嶋は信じようとしなかった。 

じゃあ誰なのよ、二匹目の狐男は?…と真砂子は問いかける。

 ゆう子はそんな大嶋興行のビル内を単身嗅ぎ回っていた。

 怖気付いたの?もう一人木俣良教が残っているわ、あいつだけは私がこの手でやってやる!と真砂子は挑発する。

 待て!慌てるな、木俣から金を巻き上げてからだと大嶋は言い返す。

 木俣のやろう…、今でこそ気取って名士気取りでいやがるが、あの大学を建てるまで随分やばい橋を渡ってやったんだ、闇物資を横流ししてやってな…、どうしても木俣から金を巻き上げ得るんだ!と大嶋は忌々しそうにいう。 

警察が介入したら、それより良教よ!と真砂子はいうが、金が先だ!という大嶋に、そんな時間はないわ!と真砂子も譲らない。

 そんな真砂子を睨みつけた大嶋は、いきなりビンタをし、真砂子の体を抱え上げると、俺のな、いう通りにするんだよと言いながら、ワンピースの背中のジッパーを下げた大嶋は真砂子を抱こうとするが、その時真砂子が誰!と呼びかけたので、大嶋は、部屋の中をのぞいていたゆう子に気づき、部屋から飛び出して捕まえる。

 ゆう子は、誰か助けて〜!と叫ぶが、部屋に連れ込まれ、気絶したところに、大嶋はブランデーを注射器に詰めてそれをゆう子に注射し、これでな、酔っ払いホステス事故死というわけだよと嘯く。

 その時、施錠したドアを激しくノックする音が聞こえたので、やむなく真砂子がどなた?と声をかけると、徳大寺さんのお使いで参りましたという声が聞こえる。

大嶋は開けるな!と命じるが、ドアは激しく揺すぶられ、施錠した鎖も切れてしまう。

 唖然とする大嶋と真砂子の前に、ドアから顔を見せたのは顔が爛れたせ⚪︎し男だったので、真砂子は怯えて大嶋に抱きつく。 

何か大きな黒い箱を引きずってきたせ⚪︎し男は、この小切手にハンコをもらってくるように徳大寺さんから言われましたという。 

その小切手を見ると5000万の金額が書いてあったので、大嶋はその場で破り捨てるが、何をなさいますか!とせ⚪︎し男は大嶋に迫る。

 大嶋は、帰ってな、徳大寺に伝えろよ、ありゃ冗談だったって、あっちだって負けたらよ、どっかにとんずらするつもりだったに違いねえんだよ、目障りなんだよ、帰ってくれよと言い訳するが、そうですか…、それじゃあそうお伝えします、あ、それから、これは多羅尾伴内さんが北海道へ行った時のお土産だそうですと黒い箱を指差し、せ⚪︎し男はその蓋を開ける。 

中には「狐男」が入っており、一緒に入っていた青い花を撮ったせ⚪︎し男は、お嬢さん、これはあなたへとと言いながら真砂子に無理やり手渡し、トリカブトの花ですとい言い残し、寝室で気を失ったいたゆう子を見つけると、ソファを飛び越し、そのまま脇に抱えて帰ってゆく。

 あっけに取られてそれを見送った大島が、箱の中に入っていた「狐男」のマスクを取ると、楊伝明の顔が現れる。

 このやろう!起きろ!と楊伝明の顔を張り倒した大島だったが、それどころじゃないわという真砂子は、せ⚪︎し男と娘を始末しなけりゃと言い、引き出しから銃を手渡してくる。

 それを受け取った大嶋は、後を追おうとするが、その時、寝室に第二の「狐男」が出現したので、貴様!と言いながら発砲しようとするが、「狐男」が投げたナイフが肩に刺さる。 

「狐男」は大島が落とした銃を拾い上げると、肩のナイフを引き抜いて振り向いた大嶋に発砲する。 

「狐男」が三発発射し大島のトドメを指す間に、ベランダから真砂子は逃げ出す。 

それを追おうとした「狐男」だったが、箱の中の楊伝明が目覚めて起きあがろうとしたので、そちらも銃殺する。

「10億円強奪さる!」「美人秘書謎の失踪」「連続殺人事件に関係か」といった見出しの新聞が刷られる。

 警察では、お前がカメラマンに化けて、高塚選手を殺したんだ!川瀬ゆう子の証言からも分かりきっちょる!このアザだ!と戸川にライトを当て追求していた。

 大島を射殺したのもお前じゃなかとか?と九州訛りの刑事が攻める。 冗談じゃないっすよ、どうして俺が!と戸川は抵抗する。

 しかし刑事は戸川をビンタすると、女たい!女!新村真砂子とお前はグルになって、大島を裏切ったんだろう!という。

 興奮した戸川が、バカ!と叫んだので、いい加減にしろ戸川!と別の刑事が叱る。 アイヌ酒屋にやってきた伴内は、コーヒーをいただけますかなと注文したので、コーヒーはできませんけど?と女店員(牧陽子)が答えると、じゃあ、なんか飲む物…と言い直し、勝手に店の奥に向かったので、おトイレは右側ですけど?と女店員は声をかける。

 店の奥では、新村真砂子がトリカブトを擦り潰していた。

伴内が来た事に気づいた新村真砂子は手を止め、ここは私が東京に来て最初に勤めたお店…と教え、さすが名探偵さん、よく調べたものね…と感心する。 

この店に来て、あんたの殺意は消えるどころかますます燃え上がっていった…と伴内が話し始める。

 木俣に近づくため、大島の経営する「リル」に移り、体を張って大島を籠絡!木俣をおいこんでいった…、あんた見てなすったはずだ、球場や劇場で…、少年少女や若者のアイドルが次々に無惨に倒されるのを…、快心の笑みを浮かべてな…と伴内は話す。

 あなた、私をどうする気?警察に突き出すの?と真砂子が聞くと、いいや、わしに人を捌く権利なんてありせんよと伴内は答える。

じゃあ、自首しろと?と真砂子が問いかけると、そう…と伴内が言うので、お断りよ、私にはまだしなければいけないことがある…と真砂子はいう。

その部屋には「木俣良教」と書かれた位牌が置かれてあったので、真砂子さん、あんたこれ以上獣道に入っちゃいかん!と伴内は悲しげに呼びかける。

 獣道?私は自らその道を選んだのよと真砂子はいう。

 昔はこのテレビでいつも彼らを見てたわ…、裁かれることなき日本人のアイドルたちを…と呟く真砂子の脳裏に、高塚選手のホームランシーンや穂高ルミのアイドル活動の様子が駆け巡る。

 私はどうしても許せない! 

(回想)まだ生きてるぞ!と、真砂子の夫と息子を引いた直後車を止めた高塚は気づき、バレたらどうするの!週刊誌が!とルミもパニック状態になる。

 運転席にいた良教は、車をバックさせ、何度も父と子を轢き殺す。

 それを目撃した真砂子は、夫とたけしの死体に縋り付く。 

(回想明け)やはり運転しとったのは木俣良教か…と呟く伴内。

 三匹の悪魔は大きな塀に囲まれた城に逃げていったわ、私はその時から獣道に入っていったの…、鬼となって…と吐き捨てるようにいう真砂子。

 その時、あの〜お客さんと言いながら、坂部の女店員が伴内に飲み物を持ってくる。 

真砂子さん…、あんたを犯罪に走らせたのは夫と子を殺された母の強く切ない愛ですよ、愛は真実だ…、しかし犯罪は愛というよりも自分を深く傷つけるんですよと伴内は説得する。 

分かっていますと答えた真砂子は、版内容に置かれた飲み物のコップに、今すりつぶしたトリカブトの粉を入れ、あなたが見逃してくださるのなら、すべたが終わった時、これを飲みますという。

どうしても自首しろと言われるのなら…というと、ハンドバッグから銃を取り出し伴内に向ける。 

それを見た伴内は、およしなさい真砂子さん…、自ら仕掛けた罠に陥ることになる…と告げる。

 真砂子は銃を手にしたまま、自分のコートを取ると店を後にする。 

夜の街を歩いていた真砂子の前に、不気味なせ⚪︎し男の影が立ちはだかったので、慌てて逃げ出す。 

そんな真砂子の前に車が止まったので、すみませんといって後部座席に乗り込むと、振り返った運転手は「狐男」だった。

 その時、車の前にせ⚪︎し男が立ちはだかったので、「狐男」は車を発信させ、轢き殺そうとするが、せ⚪︎し男は車の上を回転ジャンプして切り抜ける。

 車はまたバックして轢き殺そうとするが、せ⚪︎し男がボンネットに飛び乗り、フロントガラスを拳で割ると「狐男」を掴むが「狐男」はそのまま車を走らせ、せ⚪︎し男を振り落としてしまう。

せ⚪︎し男は、「狐男」の腕に傷をつけていた。 車の後部座席に乗っていた真砂子は、あなたは誰なの?と「狐男」に問いかける。

 すると「狐男」は運転しながらマスクを取ったので、真砂子は、あなたは!と驚く。

「モーテル」の前で車から降りた真砂子は、あなたが「狐男」とは夢にも思わなかったわと運転席の「狐男」に話しかけ、13号室に入るが、その直後、斧を持ったまた別の「狐男」に襲われる。

真砂子が「狐男」に殴られ失神すると、入り口から「狐男」が入ってきたので、2人の「狐男」が対面することになる。

 真砂子を斧で襲った「狐男」はその場でマスクを取ると、その正体は望月だったが、もう1人の「狐男」はいきなり銃を取り出すと望月を射殺する。

 その時、気がついた真砂子が銃を奪おうと飛びかかってくるが、跳ね除けた「狐男」は、その場にあった斧を取り上げ、真砂子の顔面に突き刺す。

 真砂子の顔面から吹き出す大量の血。 新聞の輪転機が周り、「スター殺人事件急転直下解決へ」の文字が踊る。 

「犯人は信愛医大 秘書と事務局長」「冷血残虐 新村真砂子」「仲間割れから殺し合いへ」「強盗殺人で書類送検」「10億円の行方知れず 発見は時間の問題」数々の記事が新聞紙上を賑わせる。

 そんな中、ホテルで木俣良教と大河内禮子の結婚式が始まる。 客席では父木俣と母ちか子も、息子良教の晴れ姿に見入っている。

 小泉がグラスを持って立ち上がり、では、木俣家、大河内家御両家の末永きご多幸を祝しまして、皆さんにご乾杯お願いします、乾杯!と乾杯の音頭を取る。

 ありがとうございます、続いて新郎新婦にウエディングケーキにナイフを入れていただきますと司会者が言う。

 良教と禮子が二人でウエディングケーキにナイフを入れると、その切れ目から赤い液体が流れ出す。

 その液体は勢いを増し、良教と大河内禮子に噴射して白いスーツやドレスが赤く染まる。

このハプニングに会場の客全員が騒然となる。 

木俣夫婦は良教の側に来て良教とケーキの様子を伺い、大河内の両親も禮子の元に駆けつける中、場内の照明が落ちて暗くなる。

 客たちがざわめく中、場内に青白い雷光と雷鳴のようなものが走り、不気味な呪文のようなものが鳴り響く。

その時、階段を降りてくる火の灯った燭台を持ったせ⚪︎し男の姿が見えたので、客たちが騒ぎ出す。

 燭台を置いたせ⚪︎し男は、その血…、その匂い!良教君、その血こそ、あんたが何よりも償わなければならなかった人間の恨み!と告げたので、良教は驚く。 

この世に恨みが残り、逝くに逝けずに泣いている可哀想な母親があそこにいる!とせ⚪︎し男が指差すと、そこに新村真砂子が立っていた。 驚く良教や理事長たち。

 イカサマだ!新村真砂子はこの世のものではない!と指摘したのは木俣だった。 するとせ⚪︎し男が、イカサマはあんたの人生じゃないですか?と問いかける。

 木俣さん、あなたこそ教育者の仮面を被った憎むべき犯罪者…殺人鬼だと指摘したので、木俣は、出鱈目だ!と怒鳴り返す。

 貴様、何者だ!と大河内幹事長が問いかけると、地獄から来た閻魔様の僕ですよとせ⚪︎し男は答える。

ハッハッハハ…、今宵のこの祝言が、いかに血の呪いに満ちたものかを皆さんに知らせるためにやってきたんです…とせ⚪︎し男は言い、皆さん、あそこにいる新村真砂子は愛する夫と子供を、そこにいる新郎木俣良教に轢き殺されたんだ!と明かす。

 嘘だ、嘘だ!そのばけものをはやくたたきだせ!と錯乱する良教。

 係員がせ⚪︎し男を押さえつけようとすると、あっという間に全員放り投げられたので、良教は驚愕し、叩き出せ!そいつを殺せ!と血まみれの顔で叫ぶ。

 そんな良教をビンタして黙らせた木俣に、あなたは良教君の罪を権力と金の力で法を捻じ曲げ、無理やり押し隠そうとしたと近づいてくるせ⚪︎し男。 

その時、高塚選手と穂高ルミ、そしてカメラマンの川瀬は無惨な死を遂げたんだというと、背後尾の階段に立っていた新村真砂子に、ゆう子さん、仮面を取りなさいと命じる。

 新村真砂子が村木場で仮面を脱ぎ捨てると、中から現れたのは川瀬ゆう子で、その時場内の照明が復活したので、客たちは息を呑む。 その位で茶番劇はやめろ!と木俣が言い放つ。 

木俣さん、あなたは新村真砂子の復讐を知った時、それを利用して自らの汚れた過去を断ち切ろうとした…とせ⚪︎し男は告げる。

 証拠もないのに何を言う!と木俣が恫喝すると、証拠はこの私が狐男の体に刻んであると、せ⚪︎し男はいう。

 何?と木俣が戸惑う路、ジャンプして木俣のすぐ前に飛び降りたせ⚪︎し男が木俣のスーツの右腕部分を引き裂く。

そこにはせ⚪︎し男が真砂子を乗せて逃げる時、運転していた「狐男」の右腕を掴んだ時にできた傷跡が残っていた

 観客がざわめく中、この傷が全てを見届けているぞとせ⚪︎し男は指摘する。 

せ⚪︎し男の手を振り払った木俣は、こいつを殺せ!と命じる。 ゆう子や一般客が逃げ出す中、木俣のボディガードたちが銃を取り出しせ⚪︎し男を撃ってくる。

倒した円テーブルの影に身を潜めたせ⚪︎し男めがけて、さらに銃撃を加えるガードマンたち。 その丸テーブルは倒れるが、裏には誰もいなかったのでガードマンたちは驚く。

 せ⚪︎し男は何度か空中回転ジャンプを繰り返し、階段の2階部分の手すりに降り立ったので、銃撃を浴びせると向こう側に倒れ込んだように見えた。

安否を確かめるためにガードマンたちが階段を登りかけた時、手すりの陰に座っていたせ⚪︎し男が発砲してきて全員の銃を撃ち落とす。

貴様、何者だ!と木俣が呼びかけると、階段の踊り場に姿を現した二丁拳銃のせ⚪︎し男は、フッハッハッハハ…と笑い出し、背筋を伸ばすと、左手の銃を胸の中にしまい、ある時は片目の運転手…と言いながら、自らの顔の変装をとっていく。

 ある時は流しの歌い手、またある時は手品好きなキザな紳士…、ある時は白バイの警官、そしてまたある時は怪人せ⚪︎し男…、またある時は私立探偵多羅尾伴内…、しかしてその実態は…とカツラと衣装を全部剥ぎ取る。 

正義と真実の人藤村大造!と言って二丁拳銃を構える。 木俣さん、あなたが新村真砂子を犯人と気づいたのは、第二の脅迫状が来た時でしたな? その時あなたの反撃が始まった…と言いながら階段を降り、木俣に近づく藤浦大造。

 高塚選手…、穂高ルミの死で、ひき逃げ事件の承認が全部消えた…。

 残る轢き逃げ事件の被害者であり、この事件の加害者でもある新村真砂子を殺害し、事件の全てを闇から闇へと葬ろうとした。 

この事件の特質は、被害者と加害者が二重に入れ替わっていたということですか? また被害者であるあなたは、大島の恐喝を悪用し、大学の金10億円を騙し取ろうとした。 

その時の第二の「狐男」が、あなたの腹心の部下望月八郎だ。

 さらに穴ははわざと宇田川警部を警護につかせ、自分のアリバイを証明しようとした… 

そしてそれに成功した時、事件の関係者全てを抹殺せんがために、自ら第三の「狐男」になり、(モテルの惨劇の後、「狐男」のマスクを取る木俣) その時、藤村は背後の階段付近から自分を銃撃しようとするガードマンに気付き、両手をクロスして、背後の二人を撃つ。

木俣は、どうやら私の負けのようだ…と言う。 その時、藤村は銃を回し、入り口から宇田川警部ら刑事が入ってくる。

 宇田川警部は藤村の顔を一瞥し、木俣の方に向かって令状を広げると、木俣信之、殺人容疑で逮捕!と告げる。

 藤村くん、たらお探偵の謝礼はまだ済んでいないんだがねと木俣が話しかけると、いずれ獄中にでも頂に上がりますよと藤村は答える。 

宇田川警部は、10億はどこにある!10億の銭はどこにある?と木俣に聞くと、ご案内しましょうといい、会場を出て自分の部屋に入ると、宇田川警部が入る前に内側から施錠してしまう。 

刑事たちはドアを叩き、開けろ!と叫ぶが、室内でトランクに入った10億円お札束を確認した木俣は、壁に貼ってあった書き置きを発見する。 

「血ぬられし華燭の宴 今宵また何をか告げん 握れども尚溢れ落つ うたかたの夢ぞあわれ 藤村大造」と書かれてあった。 バッグの中から拳銃を取り出す木俣。

その時、主任!と刑事が8135室の合鍵を持ってきたので、宇田川警部が開けようとした時、室内から銃声が響き渡る。 

外からホテルニューオータニの外観を見上げる藤村大蔵。 そこに駆けつけて来た川瀬ゆう子が、先生、どこにいらっしゃるの?と聞くと、人生の真実が犯罪という光でしか映し出されない世の中が続く限り、私はまた帰ってくる、元気で!と言い残し、車に乗り込んだ藤村は走り去る。

 完

幻燈館

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