「漂流死体」

三國連太郎さんが新聞記者を演じた犯罪もの。 

この時期の三国さんは、若い頃のイケメンは影をひそめ、顔が少し浮腫んだ中年になりかけている。

 演技はかなりクセのある演技派風になって来ているが、主役としては華があるようなないような、やや微妙なキャラクターになって来ているように見える。

 二本立ての併映は、里見浩太朗さん主演の「唄ごよみ出世双六」というモノクロ時代劇のようで、本作もモノクロなので、どっちがメインで、どっちが添え物かにわかには判断しにくい組み合わせである。

 キャリア的に里見さんの方がメインということは考えにくいので、本作の方がメインだったのだろうが、それにしては地味過ぎる気がする。

 刑事側のメインは加藤嘉さんが演じている。 

この当時の加藤さんはこの手の刑事役が多く、後の「砂の器」での丹波哲郎のような中間管理職的な役柄が多かったことが分かる。

「警視庁物語」(1956〜1964)や「七人の刑事」でお馴染みだった堀雄二さんや、同じく「警視庁物語」の南廣さん、「事件記者」でお馴染みの永井智雄さんなど、事件ものに縁がある俳優さんが出ているのも興味深い。

また菅井きんさんも出ており、ガラスケースに車輪がついたもので団子などを売っている行商人を演じているのだが、その職業も珍しければ、若い頃の健さんと共演しているのも驚く。

全体としては社会派風でドキュメンタリータッチも取り入れたような作風だが、男女の愛情関係を中核にしているため、かなり通俗な印象も強い出来になっている。

刑事殺しの真相が最後まで明かされなかったりと、謎解きとしてもやや中途半端な印象があるが、本格謎解きではないので、事件もの特有の終わり型ということだろう。 

【以下、ストーリー】

 1959年、東映、白石浩三脚本、関川秀雄監督作品

自転車に乗って「毎朝新報社横浜市局」に乗り付けた学生は、編集室に入ると、ソファーで寝ていた永瀬一郎(三國連太郎)の様子を見て、しようがないなあ、また酔っ払っているのかな?このおじさん…と呆れ、掃除担当の安藤(左卜全)におはようございますと挨拶する。

 安藤さん、どうして泊めちゃったの?今日で二日目じゃないかと青年は文句を言う。

 それくらいのことはわしだってわかってるさ、でもな、昨夜はお巡りさんが連れてきたんだよと安藤は教える。 

おまわり?と学生が驚くと、まじで武勇伝でもやらかしたらしいよ、全く永瀬さんには手を焼くよと安藤は苦笑する。 学生は、永瀬さん、起きなよと揺り起こす。

 ようやく目を覚ました永瀬は、学生がお早うございますというと、うん、ああよく寝た、ああ、いい天気になりやがったな、ああ、喉が乾いちゃった、俺…とぼやきながら、部屋の片隅の洗面所で蛇口を開くと、水を飲み、一緒に顔も洗って、タオル!と学生に呼びかける。

やがて、警察本部に一台のミリタリーポリス(憲兵)車がやってくる。 そこから降り立った憲兵が本部に入るのを見送りながら、永瀬は同じ建物内の記者クラブに入る。

 永瀬さん、朝刊見てくださいよ、せっかく送った係長の人事移動、うちの社だけ落としてやがるんです、整理のやつ、何ぼやぼやしてるんですかねと記者の渡辺(南廣)から話しかけられる いいじゃないの、いいじゃないの、どうせ田舎番だよ、係長の人事移動なんて誰も読みはしねえよ、なべちゃんと永瀬は答え、周囲の人目を気にしながら、なべちゃん、警備当たって身てくんねえかな、朝っぱらからMP来てやがる…と密かに頼む。

「警備部長室」 警備部長熊谷賢太郎(永田靖)は書類を受け取りながら、三日前の夕方から消息がわからんとお言われるんですね?と聞く。

捜索依頼に来たフランク中尉(杉義一)は、そうです、バディ・ロバーツ軍曹は、ミセスロバーツと新橋のホテル東京で早い夕食を一緒にとって、5時半頃1人で出かけましたと説明する。

 行先は言わなかったんですか?と熊谷が聞くと、仕事で人に会うのだと言って大変急いで出かけたそうですが、相手の名前は知りませんとフランク中尉はいう。

 フランクさん、このお話は公式の捜索願と考えてよろしいでしょうな?と熊谷は確認する。

 ええ結構です、できるだけ早く探してくださいとフランク中尉は答える。

所属部隊はどこですか?と小山田(加藤嘉)が聞くと、あ、それは…、部に漏れると大変困ります、秘密は守ってくださいますか?とフランク中尉が確認してきたので、そりゃ、もちろんですとも…と熊谷が答えると、ロバーツ軍曹は司令部で情報関係の仕事をしていましたとフランク中尉は答える。

 熊谷は、情報関係…と口ごもる。 渡辺がさりげなく警部部長室の前を通りかかった時、部屋から出てきたフランク中尉が出てきて、一緒に出てきた小山田に、よろしくと言っている所だった。 

フランク中尉らが帰った後、課長、なんかあったんですか?と渡辺が、まだ廊下にいた小山田に聞くと、ん?新聞に発表するほどのことはないよ、ただの脱走兵だと小山田は答え、部屋に戻る。

 脱走兵?そうですか…と答えた渡辺は、ペンと手帳を取り出すが、それ以上の情報は得られなかった。 部屋に戻ってきた小山田に、小山田君、この事件は片手間っていうわけにはいかんかもしらんなと熊谷は話しかける。

 たった3日間くらい行方がわからんくらいで日本側に頼みにきたところを見ると、先方は相当慌ててると熊谷が指摘すると、しかるに必要な情報は何も言わんで探してくれってんだから虫が良すぎますよと小山田は不機嫌そうに答える。

 だから問題が大きいと思ったんだと熊谷は言いながら、小山田の咥えたタバコにライターで火をつけてやると、とにかく本腰でやってみようじゃないか、これは至急複写してくれたまえとロバーツ軍曹の資料を差し出す。 

記者クラブに戻ってきた渡辺は、新聞を顔にかけて居眠りしていた永瀬を起こすと、大したことないですよ、脱走兵ですよと報告する。

 脱走?へ〜、誰脱走したの?と永瀬が聞いたので、は?それは…と渡辺は口ごもり、もういっぺん行って聞いてきますと謝るが、いや、いいんだよ、冗談…と永瀬はいい、しかしなべちゃん、これが司令官だったら大変な特ダネだよ、確かめなきゃダメじゃないかと注意する。 渡辺は、はいと答える。 

その頃、写真の複写を完了した小山田は、刑事たちを集めると、ちょっとうるさい事件なんだ、表向けは脱走兵なんだが、失踪したこのロバーツ軍曹って男は情報関係だ、生死はもちろん不明だ、うちはおそらく生きておらんだろうと言っていると教える。

 経歴は簡単にしかわからん、これ以上、先方が教えてくれんのだがねと小山田は苦笑する。

 ええ、年齢は39歳、中肉で背は507寸、朝鮮戦争に戦車兵として出征、除隊後一度アメリカに帰って、昨年5月に婦人同伴で再び日本へやってきた、すぐ6ヶ月間情報工作の特殊教育を受けてここの司令部に配属されたんだと小山田が説明すると、6ヶ月くらいの訓練じゃまだ駆け出しですなと佐々木刑事(河野秋武)がいう。

 うん、だから事故を起こしたんじゃないかと思うんだ、ロバーツの他に匿名を使っている、それはね、貿易商トマス・D・メンゼルっていう名前だ、中国語も少し喋れるそうだと小山田は付け加える。 

貿易商で中国語?課長、これは大陸関係じゃないですか?と原刑事(菅沼正)が指摘するが、いや、仮説はよそうと小山田は答え、失踪した場所は東京だが、事件の根は横浜だ、3日前のロバーツのや、めんぜるの行動をまず掴むこと、基本捜査をまずやってみようじゃないかと小山田は指示する。

 夜「クラブ クイーン」 ステージでは女性歌手エミ(小宮光江)がピアノ伴奏で歌を歌っていた

 佐々木刑事が客として張っている中、永瀬がカウンターにやって来て、ビールを注文する。

 その時、佐々木刑事が奥の支配人室に向かうのを目にした永瀬は、記者としての本能が目覚める。

 黒崎さんなかなか繁盛していますねと佐々木が部屋にいた黒崎(小沢栄太郎)に声をかけると、いや、とんでもない、しかも俺はもう東京港に船を取られちまいましてね、さっぱりですよ、まあお掛けください、ご用件は?と黒崎が聞くと、ちょいと聞きたいことがあってねと佐々木は椅子に腰掛けて聞く。

この店に、メンゼルという外国人が出入りしていたそうだねと佐々木が聞くと、メンゼル?と黒崎が言うので、貿易商だよ、この男なんだがねと言いながら写真を見せる。

 それを見た黒崎は、名前は知りませんでしたが、顔は覚えていますと答え、写真を返す。

 話を交わしたことくらいあるだろう?と佐々木が追求すると、そりゃお客さんですから時々はねと黒崎は答え、1本いかがですとタバコを差し出す。

 いや結構だよと断った佐々木は、コートのポケットから自分のタバコを取り出して咥える。

 カウンター席にやって来たエミが、永瀬さんいらっしゃいと声をかけると、うん、昨夜はどうも…と永瀬も答える。

 するとエミは、昨夜はどうもなんて所じゃなかったわよ、ねえ!とバーテンに同意を求め、もう忘れたのと揶揄う。

都合の悪いことはみんな忘れることにしてるんだよと永瀬は答える。

 1時過ぎてるのに、大きな声を張り上げて、一軒一軒、窓を叩いて歩くんだもん、私驚いちゃった、だからお巡りさんが飛んできたのよとエミはいうので、今夜もまたやろうか?と永瀬は愉快そうに答える。

 いいわよ、私あんなの大好き、ねえ、今日はどの通りにするの?とエミが聞くので、概ね伊勢佐木町と行こうか?と永瀬は答えるが、腕時計を見ると、ちょっと勘定してくれ、ゆうべと一緒だよと慌てだしたので、だめよ、勘定は後で、今夜は私が困らせる番、さ、踊りましょうとエミは誘う。

一方、支配人室では、佐々木が、黒崎さん、メンゼルが何の目的であんたと会ったか、こっちはちゃんと見通してるんだ、本職の方の取引じゃないのかね?と追求していた。

 何です?本職っていうのは…と黒崎がとぼけると、ま、とぼけるのも良いさと佐々木は笑う。

 だがもし、行方不明のメンゼルの死体が出てきたら、さしずめ参考人として来てもらうよ、この部屋、麻薬かなんかの匂いがぷんぷんしているからねと佐々木はいう。

 すると黒崎は、冗談いっちゃいけませんよ佐々木さん、何の証拠でそんなこと言うんです?と黒崎は気色ばむ。

その話は次の機会までお預けにしておこう、今夜の要件はメンゼルだ、明日の朝、すまんが、警備の俺ん所まで来てくれんか?と佐々木は食い下がる。 

勘弁してくださいよ、こっちは忙しいんだと黒崎はごねるが、まあ、とにかく来てくれよと佐々木は薄ら笑いを浮かべて頼む。

 それでも黒崎は、お断りします、客のためにいちいち呼び出されちゃかなわんですよ、理由もなしに…という。

 理由?理由が欲しけりゃ、令状持って出直そうか?このスコッチだって、まともなルートの品じゃないだろう?理由はいくらでもあるかもしらんぜ、じゃあ、待ってるからなと佐々木は脅し、部屋を出てゆく。 

エミと踊っていた永瀬は、自分たちの脇を通り過ぎていく佐々木刑事を見て、エミにはちょっと待ってと言い残し、自分は後をつける。

 店を出たところで、佐々木さん!と声をかけると、おう、君もここに来てたのかと佐々木は振り返る。

 何かあったんじゃないですか?と永瀬は探りを入れるが、うん、ちょっとな…いうだけなので、教えてくださいよ、何でもないよ、きみ、せっかくの酒が不味くなるぞ、じゃあ、失敬!と佐々木は言い残しさって行く。

店の前まで戻ってきた永瀬は、そこで待っていたエミに、佐々木さん良く来るのかいここに?と聞くが、エミは知らないわというだけだった。

 通用口から出てきた黒崎は、一緒に出てきた外山(山本麟一)に、いいな?うまくやれよと命じる。

外山は運転手が先に乗り込んだ車に乗って走り出す。

 支配人室に戻り、またスコッチを飲んだ黒崎のもとにエミが入ってきたので、エミ、少しうるさくなってきた、気をつけてくれというが、用事ってそれだけ?とエミが言うので、もう一つある、あの新聞記者に目をつけられるな、昨夜も奴と一緒に帰ったろ!と黒崎は指摘する。

 なんでもないわよ、いいじゃない、付き合うくらいとエミは抵抗する。

その後、タクシーで永瀬と一緒に帰ったエミは、泥酔してなかなか車から降りようとしなかった。

 君、早く降りろよと永瀬が呼びかけるが、歩けないんだからなどと言うので、引っ張り出して、家の玄関前に来ると、鍵!と要求する。 ドアを開け、エミを中に入れた永瀬は、えみの靴を脱がせ、ベッドに運んでやると、これで貸し借りなしという。

俺帰るよと永瀬が言うと、帰っちゃ嫌とエミは甘えるので、約束が違うじゃないかと永瀬は困惑する。

 意地悪!私みたいな女嫌いなんでしょ?とエミは拗ねるので、」誰かに叱られるよと言いながら、人差し指でエミの頬を突き、永瀬は帰ろうとする。 

するとベッドに横たわったエミは、私ってそんな女に見える?だから私って、いくら背伸びしても永瀬さんの奥さんにはなれっこないんだわ…、私ってばかね…という。

永瀬はそんなエミの顔をまた突きながら、泣き虫…というと帰って行く。

 翌朝佐々木の死体が発見され、鑑識係が調べていた現場には、小山田たちが出張っていた。

 課長、佐々木くんはどうしてこんなところにきたんでしょうね?と原が聞くので、うん、犯人が誘導したと考えしかしようがない、まず死因を確かめるかと小山田は答える。

 頭の傷は致命傷ではないようですね、着衣も乱れていませんし、抵抗した形跡もありませんなと上村(須藤健)がいう。 

死体が運び出される時、刑事たちは帽子を取って、首をうなだれ見送る。 

上村!原くんもちょっと…と呼び寄せた小山田は、アメリカの極秘の情報なんだがね、ロバーツはある人物と接触を持とうとしていたらしい形跡があると教える。 

ある人物?と上村が聞くと、うん、名前はもちろんわからんがね、貿易商のメンゼルとしてその人物と会おうとしたんだが、身分がバレてやられた…、ま、そういう考え方も成り立つと小山田はいう。

 課長、もちろん佐々木君と関連があると見て良いでしょうなと原が指摘すると、うん、僕はそう判断している、しかし佐々木君ほどのベテランがむざむざ犠牲になるってことは、我々もよほど注意せんといかんとなと小山田はいう。 

そこに新聞記者たちが駆けつけて来たので、うるさい連中がきたよ、新聞発表は一応ロバーツのことは伏せとく、良いねと小山田は部下たちに念を押すと、君、所轄の方にも念を入れてもらおうかと上村に命じる。 

犯人の見当はつきましたか?もちろん公務中の犠牲者でしょうな?などと駆けつけた記者が小山田に聞いて来たので、公務中には違いないが、犯人まではまだわからんよと小山田は答える。

 なんの事件を追ってたんですか?と聞かれると、君、それは勘弁してくれよ、時期がくれば発表するよ、しかし犯人と事件が一致するかは調べてみなけりゃなんとも言えんなと小山田はいうと、例によって秘密主義は得意だからなと記者たちは笑うが、そんな中、永瀬だけは深刻な顔でタバコを吸っていた。

 詳しいことは所轄の司法主任に聞いてくれないかと言い残し、小山田が帰ろうとするので、小山田さん!と追いかけた永瀬は、本当のことを教えてくださいよと話しかける。

 え?君、嘘言ったってしょうがないじゃないかと小山田は答えるが、僕は昨夜変なところで佐々木さんに会っているんですけどね、会った男も知ってるんですよと永瀬が言うと、佐々木と会った?と小山田は驚く。 

どこで?相手は誰だ?と小山田は聞く。 「警備部長室」に来た永瀬は赤ん坊を抱いた和服の女性が原刑事と一緒に出て来たのを目撃し、同行した渡辺から、佐々木さんの奥さんらしいですねと教えられる。

奥さん、この度は…と渡辺が話しかけ、佐々木さんの奥さんですね?と永瀬が確認すると、佐々木さん昨夜自宅にお帰りになりましたかと聞く

 いいえ、朝出かけたまんまと佐々木の妻(香月三千代)が答えたので、全然…と続けようとすると、君、もう良いじゃないか、そんな話は、奥さん、参りましょうと原刑事が口を挟んでくる。

 「警備部長室」をノックして入りますよと声をかけながら永瀬が部屋に入ると、おお、永瀬君、貴重な情報を提供してもらったそうで助かったよと熊谷が応じる。

 どう言うことなんですか、今度の事件は?いったい部長、小山田さん、僕から聞くだけ聞いた後、何も喋らん、佐々木さん脱走兵の操作してたんじゃないんですか?と永瀬は探りをいれるが、捜査の内容についちゃちょっと公表できんなと熊谷は口を濁す。 

脱走兵の名前くらい発表したって良いじゃないですかと渡辺が聞くと、その程度のことなら構わんよ、行方不明のアメリカ兵なんてそう珍しいこっちゃない、ロバーツ軍曹っていう名前だが、特に新聞に出すほどのことはないと思うねと熊谷は答える。

 無論、脱走兵のことだったら気に時なんかしませんよと笑いかけた永瀬は、しかし佐々木さんの場合は別ですね、佐々木さんはロバーツのことでクラブクイーンの黒崎に会いに行ったんでしょう?と聞くので、まあねと熊谷はいう。

 だったら、脱走兵の勤務先はどこなんですか?それもダメ?わからんなあ、部長!日本の警察はなぜ外国のために秘密主義をとらないとならないんですか?と永瀬は迫る。 

すると熊谷は、永瀬君、言葉が過ぎるよ、捜査には色々言えんことがあると注意する。

 特に警備の仕事は強盗やコソ泥を相手にしてるんじゃない、もっと複雑な、もっと国際的な事件を扱っている、それをいちいち公開したら、捕まる物も捕まえられんことになる、君、悪く思わんでくれというと、熊谷はタバコに手を伸ばす。

 わしだって大事な部下を1人犠牲にしてるんだよと熊谷は辛そうに言う。 

その後、横浜支局で桜井(増田順二)から、支局長、言われますな〜、永瀬君、だいぶん荒れたらしいですよ、サツ廻りの山田君から報告入っていますと聞いた青島(神田隆)は、奴さん、また酔っ払ったか、何か腹の立つことがあったんだろうと笑う。

 しかしほどほどにしてもらわないと櫻井が言うと、桜井君、奴を庇うように受け取られると困るが、ああいう人間も1人くらいいた方が張りがあっていいじゃないかと青島は行って笑うので、それはそうですが…と桜井も渋々同意する。

 そこに当の永瀬が戻って来たので、おい永瀬!あの様は何だい!少しは酒を慎んだらどうだ!と青島は注意する。

 社の体面ってことも考えってくれよと桜井も指摘する。

 すみませんと永瀬が桜井に頭を下げると、で、犯人の見通しはついたのかい?真相はどうなんだと青島が聞いてくる。 

それなんですがね〜、どうも警備の連中が的を外そうとしているばかりなんですよと永瀬が報告すると、じゃあ、やっぱり脱走兵の捜査中にやられたんだな?と青島は聞く。

 それも間違いなと思ってんですけど…と永瀬は大声をあげかけるが、桜井を気にしてトーンを落とす。 

ふ〜ん、本社に頼んでDP通信からロバーツの身元を洗ってみるかと青島が提案すると、すみません、1本いただきますと言いながら青島の机からタバコを取ると、もうしばらくこのまま続けさせてくれませんか?と永瀬は願い出る。

青島が承知すると、夕方までには黒崎を捕まえて、僕会ってますから、せっかくの特ダネを…と永瀬が話していた時、電話がかかってくる。

 受話器をとった永瀬が、はいはい横浜市局…、あ、もしもし?ああ遠山さん!そうですそうです。

ええ!なんですって、外人の漂流死体!と絶句する。 

いやアメリカ人らしいねと、電話相手の遠山(永井智雄)は報告する。

 うん、芝海岸のF岸壁から上がったんだ、え?うん、神奈川県警からも人が来てるんでね、それで連絡したんだがね、え?脱走兵?うん、ロバーツ軍曹って名前ね、あ、そう、うぬん、いや、まだわからねえな、自殺か殺しか、うん、現場から連絡あり次第知らせるよと遠山はいう。 

死体が上がった現場には神奈川県警と米軍が両方駆けつけていた。 死体は間違いなくロバーツだ、死因の見込みはどうなんだね?と小山田が聞く。

それが解剖がすまんと断言はできんが、死後入水を主張する刑事と単なる水死説の両方があると水野(松本克平)が教える。

 それを聞いた小山田は、他殺か自殺かでことは重大になるからなと考え込む。

 先方はロバーツの身分を公表する勇気はあるのかね?と小山田は米軍関係者の方を見ながらつぶやく。

 死体が上がった以上、伏せとくわけにはいかんだろうと水野は指摘するので、もちろんさ、第一報道が承せんと小山田はいう。

 警察がロープを張り巡らし、野次馬や記者連中の現場への侵入を防いでいる中、平田(堀雄二)や山中(高倉健)、北島(浜田寅彦)らが最前線に立っていた。

 だめですよ、中入っちゃ、下がって!と警官が制止する中、しつこいんだよ、いつまで待たされるんだよと記者の宮本(清村耕次)が文句を言うと、だらしがねえな日本の警察も、向こうさんに遠慮することないんじゃないかと北島もぼやいてみせる。

 そこにDP通信のジープが到着し、レッツゴーなどと言いながら外国人記者がロープを潜って中に入っていく。

 その直後、またロープが貼られ、前に出ないで、下がってと警官に差別された記者たちは、しょうがねえな、こんなこっちゃ、すげえ差別待遇じゃないですか、東さんと憮然とする。

 警視庁 驚いたな〜、諜報関係者とは、政治的な背景でながあるんでしょうね…と現場から戻ってきた北島が言うと、これはちょっとうるさいことになるぞと平田が指摘する。

 無論他殺でしょうね?と山中が言うと、もちろんさ、捜査本部を庁内に作ると言っとったろう?と平田は答える。

 そうこなくっちゃ面白くないよ、見出しはですね、国際的諜報戦の犠牲ってとこですよと宮本が張り切っていう。

そんな宮本をちょっと睨んだ平田が、電話が鳴ったので、本社からだなと言って受話器を取る。

 はいはい、あ、やまさんか!第一報が遅れてすまん、夕刊には間に合ったろうね? え、危なかった、あ、ギリギリでトップに入れたよ、うん…と遠山が電話先で答える。 

あ、それからね平田君、今ね、え、DP通信から情報が入った、うん、ロバーツの同僚から聞いた話だそうだがね、本人は最近生命の危険を感じていたらしい、えっ?うん、もちろん舞台は横浜だよ、うん、政治的な資金も内偵していたと見て良いようだな、うん、DPもその見通しで打電しているらしいと東山が答える。

 うん、やっぱりそうか、横浜に誰か一人やるよ、これから作戦練ろうと思うんだ、あ、また情報あったら頼むぜと平田は電話を切る。 

平田さん、僕がハマに行きましょうか?と宮本が名乗りでると、お前さんは慌てもんだからいけねえよと答えた平田は、山中、お前永瀬の後輩だったな?と確認し、ええ、二期後です、ラグビー部じゃ絞られましたと山中が答えたので、よし、お前、永瀬の応援に横浜に行ってやれと平田は命じる。

 山中ははいと答え立ち上がる。 夕刊には「F岸壁に謎の漂流死体」「諜報活動の米軍曹」の見出しが踊っていた。

 他殺か…、日米合同捜査開始か…と新聞を読み終えた黒崎が支配人室に腰を下ろした時、永瀬がこんちわ!とやってきたので、おお、いらっしゃいと迎える。 

ちょっと伺いたいことがあったもんですからと永瀬が名刺を出そうとしながら言うと、ああ、名刺は結構、エミのお客さんでしょう?ま、座ってください、インタビューとは光栄ですなと黒崎は余裕を見せる。

 昨夜県警の佐々木さん、こちらに伺ったでしょう?と永瀬が聞くと、ああ、あの人とは古い付き合いでねと黒崎はいう。

 黒崎さん、米軍情報部のロバーツのこともご存知だったんですね?と永瀬が続けると、ロバーツ?それなんの話ですと黒崎は聞き返してくる。

 ああ、出てますね…とテーブルに載っていた夕刊の記事に目をとめた永瀬は、しかしかわいそうなことをしましたね、佐々木さんというので、あんたのいうことはよくわからんが…と黒崎は戸惑ったようにいう。

 佐々木さん、あんたと別れてから殺されたらしいですよと永瀬が指摘すると、佐々木さん殺された?と黒崎は驚いたような聞き方をする。

 へえ、そいつは初耳だ、驚いたな〜と黒崎はいうので、とにかく佐々木さんがロバーツ事件を捜査していたのは確かなんですがと永瀬は答える。

 佐々木さんの死亡時刻なんですがね、午後の9時から11時、ちょうどお宅を出た後なんですがねと永瀬はメモを見ながら追求する。

 すると黒崎は、君、勝手な想像はやめてくれ、いい加減な記事を書かれちゃ迷惑だと言って立ち上がるが、そこに入ってきた上村刑事が、黒崎亨、専売方違反の容疑で逮捕すると、令状を出して告げる。 

そんな覚えはないよと黒崎は否定するが、外国製の闇タバコに洋酒だと別の刑事が手錠をかけると、行きたまえと上村が命じるが、その場にいた永瀬には、あんたには先手を取られましたねと言葉をかけていく。

 すでに客がいなくなった店内では、エミが一人でピアノを弾いていたので、永瀬は鍵盤を叩くと、急に笑い出したエミに、何がおかしいんだ?と聞くと、怖い顔、噛みつきそうよという。

 佐々木さんがここの帰りに殺されたんだ、黒崎は今県警に持ってかれたけどね、なんか関係あるんじゃない?と永瀬は聞くが、知らないわ、私、本当に私知らないわよ…とエミはいうだけだった。 

エミの車で送ってもらった永瀬が金を渡そうとすると、あ、いいわよ、私、ずっと家にいるからたまには寄ってね、さようなら¡と言い残して去って行く。

 県警の地下にやってきた永瀬は、仲間の記者たちの間を抜けながら、まだやってるの?取り調べと渡辺に聞く。 全然のらりくらりらしいですよと渡辺が教える。

処置なしだね、ここに集まっても…と永瀬はぼやく。 

なあ黒崎、お前が何も喋らないぐらいのことは俺たちも察しているよ、下手なことを喋ると命がなくなるからな…と上村が言うと、私の命だですか?と黒崎は聞く。

 変に勘繰るのはよしてくださいよ、知らないから知らないと言ってるんだと黒崎は悪びれずにいう。

 黒崎!いい加減に泥を吐いたらどうだ?人間2人殺されているんだ、口先の誤魔化しで済むと思うか?おい!佐々木君を連れ出したのは誰だ!誰にやらしたんだ!と原が攻めると、ふん!アリバイを忘れないでくださいよと黒崎は反論する。 

アリバイ?立派なアリバイだからなと原は意味ありげに答える。

 その手口でロバーツを東京に誘き寄せたのか?と原が続けると、課長さん、いつまで同じことを聞くんですか?専売法違反の方はあれっきりですか?令状の方を先にお願いしたいですな…と黒崎は小山田に挑発してきたので、小山田は部屋の外に出る。

そこに集まっていた記者が、課長、佐々木さん殺しのめどは立ちましたか?ロバーツと関係あるんでしょうね?黒崎はどうなんですか?などと聞いてくるが、まだわからん、話すことはないなと言うだけなので、待ってくださいよ!と記者たちは小山田の後を追いかける。

 ソファに座っていた永瀬は、なべちゃん!と、一緒に追おうとしていた渡辺を呼び戻したので、でも課長、ほっといて良いんですか?と渡辺は聞く。

 大丈夫、大丈夫、何も引やしないよ、なべちゃん、この二つの殺人事件にはね、なんかこう大きな壁があるような気がするんだけどね、いや、これは単なる僕の勘なんだけど、気障な言い方かもしれないけどね…と永瀬はいう。

東と西の国の間に置かれた日本の宿命的なね、しかし、ま、どっちにしたって迷惑を被るのは我ら日本人なんだからね、洗ってみようじゃないか、真実を…と永瀬はいう。

 そこに、先輩、こんにちわっす!と言いながらやってきたのは山中で、よっ、しばらくじゃねえか、何しに来た?と永瀬が言うと、何しにって、ロバーツ事件の応援ですよ、平田さんがよろしくって言ってましたと山中は答える。

 へえと答えた永瀬が、東京の方はどうなんだい?と聞くと、警視庁もこの事件を大分重視してますよ、公安と捜査が合同捜査になってます、だから本社は僕を出張させたんですよと山中はいう。 

永瀬さん、支局長から取材費を頼まれました、5000円入ってますと、山中と一緒についてきた学生バイトが封筒を渡す。

 それを受け取った永瀬は、へえ、珍しいこともあるじゃないか、先付けか…、これで今夜お前の歓迎会と行こうか?と山中に言うと、は?そうですねと山中も笑うが、お酒飲んではいけないって言ってましたよとバイト君は注意する。 

誰が?と永瀬が聞くと、安藤の爺さんです、今夜から絶対、支局には泊めないそうですとバイト君が言うので、あのくそタレジジイ!と永瀬は悪態をつき、まだ大丈夫だろう、出かけようかといって立ち上がったので、山中も、はい、先輩と答えて後に続く。

 翌日、現場に取材に出た宮本は、ねえ北島先輩、反抗時間が4日前の7時から9時までで、死体が現場を中心にした半径2kmの所から海に投げ込まれたなんてことはよくわかるもんですねと話しかけると、解剖すればそのくらいのことはすぐわかるさ、潮流の関係と体内に入ったプランクトンを調べりゃわかるんだよと北島が教える。 

それじゃ海上の聞き込みはやるんですか?と宮本が聞くと、やりたければ君やるさと北島が言うので、それじゃあ、あのモーターボートの借り賃出してくれますかなどと宮本が言うので、そんな予算はないよ、自分の財布から出しておけよと北島が言うので、ケチだな、それじゃ止そうと宮本は拗ねる。

 すると北島は宮本の肩を叩き、分担決めよう、君はこの海岸一帯やれよ、俺は飲み屋の方をやるからと指示したので、飲み屋?と宮本は呆れる。

 その後、河岸で作業をしていた人夫たちに、もしもし毎朝新聞のものですが…と宮本が話しかけると、新聞や?新聞にはねえよ、どいてくれ、邪魔だよと邪険い扱われる。

 さらに他の人夫にも、すみませんと声をかけてみるが、邪魔なんだよと相手にもされなかった。

 一方、近くの「BAR かもめ」から出てきた北島は、続いて「BAR ママ」と言う店に目をつける。

 まだお掃除中かい?と北島が掃除をしていた従業員君子(浦野みどり)に声をかけると、お店は昼からですよと言うので、客じゃないんだ、新聞社の者だがねというと、新聞記者と女は手を止めて憧れるように立ち上がったので、君、このアメリカ人をこの付近で見かけたことないかね?とロバーツの写真を見せる。

 すると君子はあるわよとあっさり答えたので、本当か!と聞くと、この店来たことあるもんという。

 この店にか、おい見間違いじゃないだろうなと北島が念を押すと、ちゃんと私のいうこと信用できないっていうの?と君子はそっぽを向いたので、そんなつもりで言ったんじゃないよ、しかしもし本当ならすげえ特ダネだからなと北島はいう。

 本当よ、女の人って一緒に来たわと女が言うので、女連れでか…、どんな女だった?と北島が食い下がると、そうね〜と君子が考えだしたので、ビール一本抜いてくれよ、ゆっくり話聞きたいからと北島は上機嫌になる。

 するとママ(月丘千秋)が出てきて、キミちゃん、何ぐずぐずしてるおよ、早くしてよと注意しにきたので、君子ははーいと返事をする。

 いらっしゃいと言いながらママがカウンターの中に入ったので、今、アメリカ人のことを聞いたんだがね、マダムも見覚えがあるんだろう?と北島は写真を見せながら聞く。

 すると、あれみんな嘘っぱちですよ、ありもしないことを喋るのがあの子の悪い癖でね、そんなアメリカさんなんか1度もお店に来たことありませんよとそっけなく答える。

 そうですかと北島ががっかりすると、ええ、あの子少しパーですからねとままはいう。

 じゃあどうもと北島が店を出た後、ひどいわママさん、パーだなんて、本当に来たじゃない、二人づれでさと君子が文句を言ってくる。

 するとママは、君ちゃん、あんた小商売の邪魔をする気かい?そんならさっさと辞めてもらうよとママが言い出したので、公子は顔を歪めて部屋を出ていく。

 横浜市局で電話を受けていた山中は、ああ、そうですか、じゃあその「ママ」ってバーへ、ロバーツは女連れで現れたっていうんですか?どんな女ですか?と聞いていた。

 うん、それがわからないんだ、北島の旦那がモタモタしているもんだからね、その状況を取り逃しちまったんだよ、うん、首になって姿消しちまったよ、うん、その女の子とは東京でも調べるがね、横浜の女ということも考えられるよと東京本社の平田は答える。 

ええ、その可能性はありますね、早速当たってみますと山中は答える。 

これで初めてロバーツの足取りが日かかってきましたねと電話を切った山中が永瀬や桜井に話しかける。

 うん、女が割り出せれば特ダネだと桜井はいうので、これで取引しましょうよ次長、県警の連中は並大抵じゃ何も教えちゃくれませんからねと永瀬は言う。 

その頃横浜県警では、ちょうど今の時間だ、昨日からまた通信始めたんだと、電波解析係が小山田に告げるので、こいつの発信場所はつかめんかな?もう1年ばかりの怪電波じゃないかと小山田は聞く。

 時々移動してるらしいんでね、どうも手がつけられんのだと電波解析係はいう。

 そこに熊谷がやってきて、新聞社の情報なんだが、ロバーツが女を連れて現場近くの酒場に現れていると言う聞き込みなんだと伝える。 

女を?と小山田が驚くと、「ママ」と言う酒場の女給から出た情報らしい、こっちの女関係の調査はどうなってるね?と熊谷は聞くので、は、リストはできておりますと小山田は答える。

 その時、部長、例の電波が昨日から活動開始していますと電波解析係が報告する。

それを聞いた熊谷は、始めたか又…、大掛かりな密輸の前触れだ、怪電波を傍受するとてきめんに町の麻薬の小売値が安くなる、因果なものだ…と嘆くと、ロバーツのやつ、電波の元を狙ったんじゃないでしょうか?もちろん待遇関係でしょうと小山田が推理する。

 うん、そうかもしれん、おそらくそうだろうと熊谷も同意する。 だが我々は、香港かシンガポールか全然その手がかりすらつかめていない、単純な密輸にしては規模があまりにも大きすぎる、その裏にある種の謀略活動が隠されているのかもしれんなと熊谷はいう。

 東京では取材に歩き疲れた宮本が、先輩、休みましょうよと道中弱音を吐いていたが、北島がダメだよと釘を刺していた。

 宮本はやけになり、もしもし亀よ、亀さんよ、どこかでちょっと一休み…となどと歌い、北島さん、もう一歩も歩けないんですよと電柱に寄りかかってへばってしまう。

その時北島が、おい、あれは本部の車じゃないか?と気づいたので、あ、本当だと気づいた宮本が車に近づくと、それは「貴金属時計高価買入」と書かれた質屋の前に停まっていた。

 店の中を覗き込むと、小池刑事(花澤徳衛)が店の主人に、この時計をロバーツが売りにきたわけですね?と聞いていた。

 は、身分証明を持っておりましたし、規定通り領収書にも、この通りサインをもらってありますと主人(立松晃)が領収書を見せる。

 サインの複写と比べてみましょうと同行の刑事がいうが、全然違いますね、このサインと同行の刑事がいう。 

それを確認した小池は、ああ、これは鑑定に回すまでもなくはっきり別人のサインですねと言い、ところでこれがロバーツの写真なんですが、売りに来たのは確かにこの男でしたか?よくみてください、もし本人が来たとすれば、ロバーツが失踪した翌日まで生きていたことになるんだが、その辺が重要な所なんですがねと主人に聞く。

 はあはあと言いながら写真を見た主人は、う〜んと迷うが、そこに近づいて店員が写真を見て、売りにきたのはこの方じゃないですよ、旦那と言う。 そうかね?と小池が聞くと、主人も、もっと目の鋭い感じの外人でしたと思い出す。

それを聞いた小池は、殺してから売りにきたんだなと同僚に告げると、どんな外人だってね?もう少し詳しく教えてくれたまえと小池は主人たちに聞く。

 店の外では、店内の様子を伺っていた北島が宮本に、おい、夕刊に間に合うかな?と声をかけ、腕時計を見た宮本が嬉しそうにうんと答える。

 その日の毎朝新聞夕刊に「ロバーツ事件に新事実」「貴金属展で腕時計発見」「殺害後売却か?」「謎の外人客に捜査集中」といった文字が載る。 

県警にいた山中は、新聞記事を読み、永瀬さん、どうしてこんな端金で時計売ったんですかね?と聞くと、それなんだがね〜と永瀬が言いかけた時、新たな女性がやってくる。

 捜査本部ではロバーツが「ママ」に連れてきたという女探しのため、該当しそうな何人もの女性を呼んで調べていたからだった。 腹刑事が出てきて、あ、みんなご苦労さんだった、もう帰って良いよと女性たちに声をかけたので、原さん、ちょっと!どうでした?と永瀬が声をかけるが、収穫はなかったよと原はいう。 

もう一人呼び出しをかけた女は残ってるんだ、「クラブクイーン」の女だがね、ロバーツとは相当交渉があったらしいと言いながら写真を出してみせるが、それはエミの写真だったので、永瀬は緊張する。

 事情を知らない山中が、どういう素性の女ですか?と聞くと、まだよくわからないんだがね、小さい頃から戦災孤児でまだ独り者らしいと原はいう。 その後永瀬は一人で荒木エミの家に向かう。

 玄関ブザーを押しても出てこないので、裏手に回って、エミ!と呼びかけてみるが返事はない。 

「クラブクイーン」に行くと、閉店していたので、横の通用口から中に入る。

店員たちが麻雀をしていたので、エミさんいますか?と聞くと、ホールにいますよと教えられるが、麻雀をしていた外山は、ホールを教えた男を殴りつける。

 ホールの中ではまたエミがピアノを弾いていた。 永瀬が横に立つと、永瀬さんいついらしたの?ちっとも気が付かなかったとエミは笑う。

 永瀬はズバリ、ロバーツのことを知ってるんだと切りだすと、そんなこと急にいったって色々あるじゃない、お客さんだもの、ずいぶんお見えにならなかったのね?とエミが言うので、記者クラブに詰め切りだったのさと永瀬は答える。

 今度のことで御苦労ねとエミがいうので、仕方がないじゃないかと永瀬が答えると、目鼻がついた?とエミは聞いてくる。 警察は君とロバーツのことを疑ってるよと永瀬は明かす。

 馬鹿馬鹿しい、親しいからどうだっていうのよとエミは答えるが、君の家に寄ってきたんだよ、今、俺…と永瀬が言うと、エミは私の家?と顔色が変わる。 そんな二人の様子を外山がそっと監視していた。

 君に会って確かめようと思ってね…、本当のことを…と永瀬は言う。

 私、何も知らなかったのとエミはいうが、その時、エミ!親父の保釈を迎えに行くんだ、みんなってるぜと外山が声をかけてくる。

 いいえ、知らないの、何かの間違いだと思うわ、きっと…とエミは主張する

 記者クラブでは、8時!はい、後で…と電話していた山中が、帰ってきた渡辺に、わたねべくん、永瀬さんどこにいるか知らない?と聞くが、いいえと答えた渡辺は、黒崎が仮釈放らしいですよと教える。 ええ!黒崎釈放だって?と山中は聞き返すと、警備もだらしがないですよ、保証金6万円でお手上げなんですからねと渡辺は嘆く。

 山中は小山田のところへ行くと、黒崎釈放するって本当ですか?と確認する。

 うん、出したよと小山田が答えるので、じゃあもうシャバに出てるんですか?と山中が聞くとうんという。

 捕まえておくより泳がした方が良さそうなんでね、ただそれだけのことだよと小山田はいう。

 夕方、県警に戻ってきた永瀬と玄関先であった山中は、永瀬さん、どこ行ってたんですか?僕は今日東京に帰りいますと伝えると、ずいぶん急な話じゃねえかと永瀬は驚く。

 ええ、さっき平田さんから電話があって、東京じゃ腕時計の線からホシを割ろうとしているらしんです、それで人手が足りないっていうんですよと山中が言うので、女の線はそのままか?と永瀬は聞く。

 いや、それは聞きませんでしたと山中が言うので、まだ時間あるんだろ?どっかで一杯やりながら話そうかと永瀬が誘うと、山中もそうですねと同意する。

 飲み屋では、しかしね、永瀬さん、その笑みって女のことですがね?警備の方じゃシロだと言ってますと山中がいうので、シロだってねと永瀬も呟く。

 ええ、なんかあるんですか?と山中が聞くと、実はね、ロバーツが失踪した夜なんだよ、雨がひどく降ってやがった…と永瀬は思い出しながら答える。

 俺、「クラブクイーン」で、そう…、10時頃まで飲んでたかね…、例の女の姿が見えねえんだよと永瀬は打ち明ける。 そろそろ帰ろうと思ってね、俺が店を出ようとした時だ…と永瀬は語る。

 (回想)雨の中、「クラブクイーン」を出た永瀬は、車から降りてきたレインコート姿のエミを見て、声をかける。 あら永瀬さんと立ち止まって振り返ったエミが驚く。

ずいぶん遅い出じゃねえかと永瀬が言うと、もうおかえりになるの?お店戻りましょうよとエミは誘う。 だめなんだよ、今日は俺…と永瀬が断ると、そんなことなら私に任せて、良いでしょう?今夜運と飲みたいのよ…とエミは言ってくる。

 (回想明け)その時にね、エミが載ってきた車を運転してたのは、例の外山って不良なんだよ、しかし、もう一人確かに黒崎は乗ってたような気がするんだよと永瀬は打ち明ける。

 事件のあった晩なんですね?と山中は確認する。

 ま、とにかく君ね、東京帰ったら「ママ」の女探してくれないか?俺は黒崎と女の線を徹底的に洗ってみるからと永瀬が言うので、わかりました、じゃ、僕帰りますと山中は言う。

 後日、宮本を連れて取材に出た山中だったが、ねえ先輩、この辺りは何度も当たってみたところです、無駄だと思いますがね〜と宮本が愚痴る。

 君たちはロバーツの線だけで歩いてたんだろう?女の線だからまた別だよと山中は言い聞かせる。

 でも腕時計の方ほっといて良いんですか?バレたら平田の旦那にドヤされますよと宮本は案じる。

 そん時はすみませんと頭下げてりゃ良いよ、狙う目的は同じだよという山中は、ちょうど通りかかった移動販売(菅井きん)を止め、おばさん、団子ちょうだい!と声をかける。

 あ、先輩、おやつですか?と宮本は喜んだので、好きなだけ食えよと勧めた山中は、おばさん、この女見たことはありませんかとエミの写真を取り出して聞く

 行商のおばさんは、警察の旦那方ですか?と警戒するが、いや違いますよ、新聞社のものです、確かこの男と一緒に現れたはずなんですよと言いながら、山中はロバーツの写真も見せる。

 あたしゃね、外人と歩いている女を見ると胸がムカムカってなるんですよ、だからろくすっぽ顔なんか見ちゃいませんよねとおばさんが言うので、おばさん、良いところがあるねと団子を食いながら宮本がほめる。 

そんな宮本を呆れたように見た山中は、じゃあわからんわけだという。

 警視庁の「合同特別捜査本部」前に戻ってきた山中は、警官たちの動きを見て、宮本に、おい、なんかアメリカの報告があったらしいなと話しかける。

 記者クラブのスピーカーから、お知らせします、井知らせします、ただいま特別捜査本部で記者会見を行います、お集まりくださいとの放送が流れたので、各社の記者たちは急いで捜査本部へと向かう。

 え〜、ロバーツ事件捜査本部発表!と前置きし、本部としてはこれまで腕時計を売却しにきた外国人をロバーツ殺しの唯一の有力な容疑者として鋭意捜査にあたってきたのだが、本日軍側から、金属店の領収のサインはロバーツ本人のものだという鑑定の報告があったと水野捜査第三課長が発表する。

 本人のサインだと言うことであっても捜査本部としては他殺の疑いを否定することはできないが、ロバーツの職務上、彼の行動について、現在までに明らかにされた以上の資料を米軍側から求めることはできなかったと水野はいう。

 解剖の結果の不明確な点もあるが、自殺他殺不明のまま、止むを得ず本部を解散することになったと言い終えたので、山中が、課長!ロバーツが諜報活動したってのはその主な理由ですか?と聞くと、軍の規定にはいろいろ複雑な点があって、我々にもわからないんだと水野はいう

 課長にわからないのに我々にわかるわけないよねと宮本が言うので、そうだよと北島も同意し、他の記者も一体どう言うことだよと抗議し、記事の書きようがないよ、全くだよと嘆きながらも笑いが起きる。

解剖の不明確というのはどういう点ですか?という記者からの質問に、米軍側の結論としては、何らかの事故によるショック死ということになるのだが、我々は解剖に立ち会えなかったのでこれ以上のことはわからないと水野は答える。

 その頃横浜県警にいた永瀬は、部長!これどういうことですか?領収書のサインがロバーツ本人のものだから殺人事件として扱わないということなんですか?とトイレから帰ってきた熊谷に聞くが、熊谷は知らんなと首を傾げる。

 佐々木刑事殺しも無関係ということになるんですか?まさか県警も警視庁へ右に倣えするわけじゃないでしょうね?と課長室まで追ってきた永瀬が聞くと、今までの方針通り進むよと熊谷は答える。

 警視庁の態度になんか不満ないですか?と永瀬が聞くと、警視庁とは立場が違うんだよ、永瀬くん、ロバーツが殺されてないっていう結論が出た以上、本部の必要はないわけ、しかし我々の立場は違う、殺人犯を追っかけるだけが目的じゃないと熊谷は言う。

 この横浜の港を背景にして、容易ならんことが起きていると見ている、ロバーツの行動や佐々木くんの犠牲などは単に表面に現れた現象にすぎない、その裏面で行われている陰謀を何年かかっても突き止めるのが我々の任務なんだと熊谷が言い終えると、メモをとっていた永瀬はわかりましたと答え、課長の電話を借りると、あ、もしもし交換ですか?毎朝新聞の横浜市局の方針を支局長!と電話口に頼むと、捜査本部の方針を支局長に伝えてきましょうと熊谷に伝え、あ、もしもし毎朝ですか?支局長お願いしますと電話する。

 電話を受けた桜井は、支局長、永瀬くんからですと呼びかけ受話器を渡す。

 うん、うん、しかし永瀬くん、この自演は本社の方針通り、一応見送ろうと思うんだよ、複雑でうるさい問題だからな、いや、犯人のない事件を追っかけてもしようがないじゃないかと青島はいう。

 君もそのつもりでクラブ本来の状態に戻ってくれたまえ、うん、と青島は言うので、電話を切った永瀬の顔色を見た熊谷は、君、どうしたんだね?と聞いてくる。

 永瀬は、いや、別にと笑って部屋を出ていく。 

電気の消えた横浜市局に戻ってきた永瀬は、おかえりと出迎えた安藤に、事件は打ち切りだとさと話しかける。

 打ち切りとはね…と安藤も驚いたようだった。 捜査本部が解散になったからって、何も新聞まで方針を変えることはねえだろ!と永瀬がぼやくと、じゃあ、あんたの今までの苦労が、まあみんな水の泡になっちまったわけか…と安藤は同情する。

 新聞なんてやつは、しょっちゅう無駄なことばかりしてんのさと永瀬はぼやく。 

だがねえ、長瀬さん、これはわしの考えだが、あんたは一人だけでもとことん調べてみたらどうですかね?あの黒崎ってやつも平気な顔してキャバレーやってるそうじゃないですか、悔しいね〜、わしにできることならお手伝いしてあげたいくらいなんだが…と安藤が言うので、ウィスキーを湯呑で飲もうとしていた永瀬は何かを思いついて立ち上がる。

 その夜「クラブクイーン」の店の前に来ていた永瀬は、客を送り出すためエミが店から出てきたので、店に戻る直前彼女の腕を掴んで脇に寄せると、逃げることないじゃないかと文句を言う

 誰だかわからなかったのよとエミは言い訳するが、その頬を二、三発叩いた永瀬は、隠す必要何もないじゃないかと言い聞かせる。

 それでもエミは、知らないの、本当に知らないのと言うだけだった。 エミ、僕の顔見てごらんと言いながら、永瀬はエミの顎を掴んで無理やり自分を見させると、君は知ってるはずなんだよ、黒崎のこともロバーツのことも何もかも知ってるはずじゃないかと告げる。 

だったら私に何も聞く必要ないじゃないとエミが言うので、君はどうしてそんな風に自分を痛めつけるんだと永瀬は問いかける。

 エミは追い詰められたように、誰か来る、今度の歌が終わったら、私すぐ家に帰るわ、だから家で待っててね、お願いといい、長瀬の手に家の鍵を握らせて急いで店に戻っていく。

 店に戻った笑みを呼び止めた黒崎は、出番を忘れるな!と釘をさす。

 マイクの前に立つとすぐにピアノが鳴り出したので、エミはすぐに歌い始める。

 一方、先にエミの家に来ていた永瀬は、裏のガラス戸を開けて夜景を見ると、何気なく棚に置いてあった写真立ての写真を見る。 それはボートを操縦しているエミの写真だった。

やがてタクシーでエミが帰ってくる。 ソファに座っていた永瀬を見たエミは、随分待った?いいものね、こうして眺めてるいのもと言いながら、夜景を見ている長瀬のそばに座ると、あなたが私のところに来てくれたこと、私にとってはとても大したことなのとエミはいう。

しかし永瀬は、俺帰ると言い出す。 どうして?とエミが聞くと、君は話すつもりで帰ってきたんじゃないんだと永瀬はいう。

 ためて、その話の人…と笑みが迫ってきたので、わかってんだよ、君から何も聞こうとは思わないと言って立ち上がった永瀬は窓からの夜景を見るように立つ。

 あんた、行ってしまうのね、あっさり、今までは私のことを何も知ろうとしなかったわ、それが今では私のことを責める、あなたは私にどうしろというの?あなたに一体どんな権利があるの?とエミは問いかける。 

何もないよ、今となっちゃ…と永瀬は言い返す。

 ないわね…、私は…、ただ怖いのよ!だめ、私にはできない!と笑みは立ち上がって壁に顔を押し付けるが、君はこれからどうするか考えたことがある?と永瀬は問いかける。

 私たち、冷たい私たち…とつぶやく笑みを見限った永瀬は、終わりだなと言って帰っていく。 あんた!と呼びかけたエミは泣き出す。

 翌日、東京港に来ていた永瀬のもとにタクシーで山中が駆けつけ、先輩!電報見て飛んできたんですよ、一体どうしたんです、こんなに早く?と近づいてくるが、すまん、すまんと詫びた永瀬は、実はね、ちょっとここを見ておきたかったもんだからと海を見ながら答える。

 半径2km以内だったね、死骸の投げ込まれたのは…と資料を見ながらロバーツ事件のことを永瀬が聞くと、まだそんなこと考えてるんですか?事件はもう噂になったんですよと中山が言うので、わかってる、わかってるけどね、来てみてよかったと永瀬はいう。

呆れたな〜という山中は、で、今日は休暇ですか?と聞く。 

ま、そんなところかもしれないねと答えた永瀬は、山中、ロバーツの足取りは結局岡じゃなかったんだね、そうするとあとは海の上だけだ、そりゃしかし水上警察がやったはずですよ、見逃すなんてことはないでしょうと山中はいう。

 俺はな、昨夜から今までの情報をみんな調べなおしてみたんだ、調べ直して今日ここに来たんだけど、ロバーツは海の上で殺されたんだよと永瀬はいう。 

海の上ですかね〜?と山中は言い返す。

 丘の上じゃなかったら、海の上しかないじゃないか、海の上とすればロバーツが何に乗って海に出たか、それを調べりゃわかるんだと永瀬が言うので、ちょっと見せてくださいと山中は永瀬が持っていた写真を受け取って見る。 

これどこで手に入れたんですか?と山中が聞くが、永瀬は黙って、ボートを操縦するエミの写真を取り返してポケットにしまうと、東京湾中のモーターボートを洗ってみるよと言い出す。 

あの雨が三日続いた日ですね?一の日は休業しましたよとボート屋の青年が答える。 東京湾に何限くらいあるの?お宅のような店…と永瀬が聞くと、組合がないんで見当つかんけど、12〜3軒はあるでしょうねと青年は言う。 

12〜3件ねえとつぶやいた永瀬は、その後、次々とボート屋を訪ねる。 何軒目かの店に来た永瀬は、この上の方にはもうこんな店ないの?と聞くと、ええ、モーターボートあるのはウチだけですよと店員は言う。

 横浜市局で電話を受けた桜井は、支局長、永瀬君、今日もクラブへ顔を出さんようですよ、責任者が無断で三日も来んじゃ困りますなと青木に伝える。

 それを聞いた青木は、三日になるか、病気で寝込んでるんじゃないかと答える。

 いやあ、今朝も渡辺君いアパート寄ってもらったんですがね、玄関口に新聞がそのまま放り出してあったそうですと桜井は報告する。

 一方、本社の方では、あ、先輩、永瀬さんが行方不明だそうですよ、今さっき横浜から電話がありましたよと宮本が山中に伝える。 

行方不明?と山中が驚くと、ええ、先だって東京で会ったって言いましたねと宮本は聞く。

 それを聞いた山中は、永瀬さん、やっぱり本気でモーターボート探してんだなと言い出したので、ええ?モーターボート?と事情を知らない宮本は驚く。

その頃、海辺で牛乳を飲んでいた永瀬は、モーターボートが走っているのに気づ気、近くの「ボートハウス」と言う店に足を向ける。

 いらっしゃいませ、お一人ですか?と店員が話しかけてきたので、客じゃないんだよ、新聞社の者なんだけどね、先月の末だったかね、3日ほど雨が降った日があったでしょう?と永瀬は問いかける。

 ええと店員が答えると、最初の日だったと思うんだが、多分、夕方から夜にかけて、この女、ボート借りに来なかった?とエミの写真を見せると、警察の方もお見えになりましたが、記憶ありませんね〜といい、助手のような青年にも写真を見せ、どうだと聞く。 

するとその青年は、お父さん、これはいつか僕が留守番している時に来たアベックだよと言うので、父親はそうかというが、確かにこの女かね?と永瀬が確認すると、ええと青年はいう。

 間違いない?と念を押すと、ええ、僕が自分でボート出してやったんですから絶対間違いありませんと青年はいう。 

時間は6時半頃だったと思いますね、あ、あの船ですよと言いながら、青年はその時のことを思い出す。 

(回想)レインコートを着た男女がボートに乗り込んだので、オーライトもやいを撮った青年が声をかけると、良いわね?と操縦桿を握った女性が声をかけてきて、そのまま走り出す。 

(回想明け)2事案たっても戻って来ないんで、僕はとっても心配してたんですよと青年はいう。 確か9時過ぎだったと思いますね、女の人だけ乗って帰ってきたんですと青年は言う。 

(回想)エミが操縦するモーターボートが帰ってくる。 さ、どうぞとボートから降りるエミをサポートすると、遅くなってごめんなさいとエミは詫びてきたので、もう一人のお客さんどうしました?と聞くと、途中から帰っちゃったのよとエミは答え、料金はずむわねと言うので、良いんですよと青年は遠慮するが、エミは釣りはいらないわというので、どうもすみませんと青年は礼を言う。 

その時、道路の方からクラクションが聞こえたので、エミは急足で階段を登っていくと、車に乗り込む。 

(回想明け)で、その車最新型でしたよと青年が言うので、永瀬は持っていたウィスキーのポケット瓶を思わず海の中に叩き込むが、空なので、浮いたままだった。 

その頃、「クラブクイーン」でエミと会っていた黒崎は、仕事を辞めるって?よくそんな口が聞けるなと脅していた。

 ここまでお前を世話してやったのは誰なんだ?病気で歌が歌えない、金がない、その治療費を出してやったのは忘れはしないよな? エミ、一度この道に踏み込んで、はいさよならと出ていった奴がどうなるか、お前だって知っているだろうと黒崎は続ける。

忘れたか?雨の降ったあの晩のことだったよと黒崎はいう。

 捕まる時は一緒だぜ?さ、一時間後には出発だ、支度しろと命じて先に部屋を出てゆく。 

(回想)雨の晩、ボートで沖の汽船に近づいたボートから、タラップを登って乗り込んだロバーツは、甲板にいた外山からいきなりパイプで後頭部を殴られ、そのまま海に落下した。 

(回想明け)香港警察から打電が入る。 外信部では、これを受信し、課長、香港警察から情報が入りましたと係員が報告する。 

香港?と訝しがりながら、伝聞を読み始めた課長は、グリン号乗船のカール・ダルトン所有のフォード58年型に注意せよ…という内容を知ると、グリン号は入港しているはずだったな?と部下に聞く。 は、10日前に入港しておりますというので、課長は、警備に課長を呼んでくれ、ああ、小山田課長だと内線電話をかける。 東京から横浜県警前にタクシーで到着した永瀬は、ちょうど玄関から出てくる」小山田課長を見つけ、あ、小山田さん、ちょっとロバーツの足取りがわかったんですよと話しかける。

 足取り?と小山田が驚くと、ええ、東京と一緒だったらしいんです、女と永瀬が言うと、女と?こっちも急ぐんだ、一緒に行こう、話は車の中で聞くといい、小山田と永瀬は車に乗り込む。

 小山田たちの車は港の駐車場に到着し、税関職員が、これがダルトン所有のフォードって奴ですよと目当ての車の前まで案内する。

 その車を触りながら、税関ではもちろん徹底的に調べてくれたんでしょうな?と聞く。 ええ、調査に手ぬかりはありませんが、どうも怪しい点が見当たらんのですと職員は言う。

おかしいな、香港情報がどうかしてるのかね?と小山田は戸惑う。

 そこに、今この車を受け取りに来てますが…と、別の係官が来たので、受け取りに?ダルトン本人ですか?と小山田は聞く。

いや、日本人ですと係官が言うので、日本人!おい、尾行の準備だと小山田は部下に指示する。

 こちらは小山田です、ただいまからダルトンの車を尾行します、今後の警戒を頼みますと県警の警備二課に連絡が入る。

 車に乗って様子を見ていると、受け取りに来たのは外山とエミだったので、車に同乗していた永瀬は驚くが、奴らとうとう日かかってきましたと原がいう。

 エミが運転するフォードと、外山が運転する車が発車したので、小山田らが乗り込んだ警察車両も尾行を開始する。 

やがて、エミと外山の車はとある屋敷に到着したので、警察車両もその側に停車して刑事たちが降りてくる。 その屋敷の表札には「鄭真」と書かれてあった。

小山田が上村君!と指示すると、上村刑事が車の無線から、小山田課長から警備二課へ!と無線で連絡する。 

当方目下、滝137番地、鄭真宅を警戒中と知らせる。

 門の外から内部を監視していると、車のトランクからスペアタイヤを取り出すと、それを屋敷内に運び入れていたので、上村が再び無線で、熊谷部長へ、鄭真宅へ応援を頼みますとの連絡を入れる

 外山は部下二人にスペアタイヤを屋敷の2階に運ばせていた。

 そこには黒崎とエミがソファに座っており、中国服の鄭真(志摩栄)から金のような物を受け取ると立ち上がる。

部屋にはアメリカ人らしき男もおり、外山に全部大丈夫かと確認する。

 部下たちはスペアタイヤの中からチューブを取り出すと、そこにナイフを入れ、中に詰めていた麻薬の袋を取り出す。 

外山は黒崎に、ミスターダルトンが土曜日に会うそうですと伝えると、そうか、エミ、行くんだと黒崎は笑みの手を握って屋敷から逃げ出す。

 外に停めてあった車に笑みを乗せ、自分は運転席に座った黒崎は、外で張っていた警察に気付き、エミ、警察だ、頼んだぞというと車を発車する。

 それを見た小山田は、原君、あとは頼んだよと言い残し、自分らはまた車に乗り込み、エミと黒崎の車を追跡する。

尾行に気づいた黒崎は脇道から山の方へ逃げ込もうとするが、途中でタイヤを泥道に取られてしまい降りざるを得なくなる。 

畜生と言いながら車を降りた黒崎だったが、すぐ近くまで車で迫ってきた小山田が追ってくる。 

エミの手を引いて山を登る黒崎は、途中でピストルを撃ってくる。

 小山田は売っちゃいかんぞというので、上村は空に向けて銃を撃って牽制する。 黒崎とエミは山の上に置いてあったブルドーザーの背後に身を隠す。

 後を追ってきた小山田たちにまた黒崎が発砲したので、おい、銃を捨てろ、無駄な抵抗はやめろ、黒崎!と小山田は身を隠しながら呼びかける。

 黒崎とエミは、完全に刑事たちに取り囲まれたので、さらに山の反対方向へ逃げようとするが、その様子を後をついてきた永瀬は目撃していた。 

背後は崖と気付き、逃げられないと悟った黒崎は、エミを盾にして身を守ろうとする。

 銃撃戦が繰り広げられている中、永瀬が近づいていき、エミ、黒崎から離れるんだ!と呼びかける。 

黒崎はそんな長瀬を撃とうとしたので、エミは背後に押し倒す。 

すると黒崎は銃を落として転んだので、さらにエミは黒崎の体を押し付け、崖から突き落としてしまう。

 そして落ちていた銃を拾い上げたエミは永瀬と対峙する。 銃を向けながら近づいてくるエミに気づいた永瀬はじっと目を瞑り覚悟を決める。 

次の瞬間、エミは銃を自分の胸に向けたので、うっすら目を開けた永瀬がエミの方へ手を伸ばして近づこうとした時、銃声が響く。

 エミは永瀬の目の前で崩れ落ちる。

 唖然と立ち尽くした永瀬だったが、すぐに跪き、エミの手を取ると、そのまま唇を重ねるのだった。 

崖の上から様子を見ていた小山田のもとに駆けつけた警官らが、ただいま、鄭他5名逮捕しましたと報告する。

 崖の下には黒崎が倒れていたが、まだ死んでおらず蠢いていた。

 翌日の朝刊には「国際密輸団逮捕さる」「ダイヤ、麻薬で3億円」「乗用車のタイヤに隠匿」「黒崎は逃亡中に墜死」という文字が載っていた。

 その新聞をくしゃくしゃに丸めた永瀬は、海に捨てる。 

そこにやってきた渡辺が、永瀬さん、すごいですね、横浜のトップ記事だ!と喜んでいるので、これが事件の真相だと思ってるのかね?と永瀬は冷めた口調でいい、佐々木さんのこともロバーツのことも一行だって載っちゃいないじゃないか、現代は狂っているんだよと呟くと、俺たちはこの現代の血の叫びの中にこれが何であるかはっきり活字にする義務があったんだよと主張する。

 しかし、何もかもみんな壁の中に塗りつぶされてしまった…、俺たち日本人だけが越すことのできない大きな壁の中にね…というと、横浜支局の階段を登ってゆく。

 おはようとと編集筆に入ると、あ、永瀬さん、局長さんがお待ちかねですと安藤が伝える。 

しかしそのまま椅子に座り込んだ長瀬に、青木が、おい長瀬君と声をかけたので、はいと言って近づくと、本社から君たち二人に特謝を出すそうだという。

 それを聞いた渡辺は、ああ、そうですか、どうも!と喜ぶが、無言で席に戻っていく長瀬に、長瀬君、今度だけは特謝に免じて無断欠勤を帳消しにしてやるよと青木は告げて笑い出す。

 窓際で外を見ながら、永瀬は、どうもすみませんと小声で答える。

 そこに学生バイトがやってきて、永瀬さん、お手紙ですと言いながら封書を渡す。

 差出人は荒木エミだった。

(海の波にエミの姿がオーバーラップする)

 エミはあなたに愛される資格のない罪深い女です。

 小さな頃から私は誰一人頼る人もない孤独な女でした。

だから生きるためにはどんなことでもしなければならなかったのです。 

でも私も人並みに音はんななの幸せを探そうと努めました。

 それも今となっては全て取り返しのつかないことになってしまいました。

 黒崎は私を利用するだけ利用すると、貿易商だというロバーツに引き合わせたのです。 

でも結局ロバーツも私を利用しただけだったのです。

永瀬さん、エミ、あなたとだけは気持ちよくお付き合いできると思っておりました。 

それもやっぱりダメだったのです。 

あなたもお仕事のためにしかエミを必要とはなさらなかったのです。

 港で手紙を読み終えた永瀬は、手にした手紙を落としながら立ち去ってゆく。

 岸壁から海にパンして「終」

幻燈館

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