「続べらんめえ芸者」

美空ひばりさん主演の「べらんめえ芸者」シリーズ2作目で、お相手役は若き日の高倉健さんである。

 東映の新人だった健さんをスター候補生として売り出すために出ているのはわかるのだが、美輪明宏さんが出ているのは驚く。

 男役で、しかも大阪弁のキャラになっており、三輪さんとしてはかなり珍しい役だと思うが、健さんと共演していた事自体知らなかった。 

浪花千栄子さん、清川虹子さん、吉川満子さんといった芸達者組がしっかりドラマを支えており、話の骨格も「女の戦い」と言う感じで、下手なホラーより怖い印象がある。 

ただ、話の大元、「なぜ、昔、ひばりさん演じる小花の母親の店「春日」で奉公していた浪速さん演じる杉が、昔の恩返しのように見せながら、実はかつての主人側に対し、復讐のようなことをしているのか?」が見えにくく、そこがスッキリしないまま話が進んでいるのがもどかしい気がする。

 奉公時代に散々いじめられたとかなら、まだわかるのだが、そういう説明がないまま元使用人が上から目線で来ているのが解せない。

 特に、浪花千栄子さんのクライマックスの怒りの芝居は見事と言うしかなく、本作の影の主役は彼女と言っても良いかもしれない。

 それに対し、健さんやひばりさんら若者は、東宝の「若大将」シリーズのようなステレオタイプな恋バナになっており、こちらはやや単調に感じる。

 健さんは電機会社のテレビ研究主任という技術者を演じているのも珍しいし、二人の娘の間に挟まれ優柔不断になるモテモテのイケメン役という設定も後年は見られないもの。

 ひばりさんは、和装姿ということと芸能界のベテランということもあり、当時の実年齢よりかなり大人びて見えるというか、貫禄がすごい。 今井俊二さんは、この当時はまだ悪役イメージはなく、爽やかな青年役で、好感が持てる。

 中原ひとみさんは、珍しく憎まれキャラを演じている。 

とあるシーンの中原さんが登場する背景に、バンビの人形が貼ってあるのは、彼女の愛称にちなんだ洒落なのだろうか? 

健さんとひばりさん演じる芸者が、当初、口喧嘩をするなどと言うのは、この後も続くパターンなのだが、本作ではちょっと健さんのキャラクターが優柔不断すぎることもあり、あまり良い印象ではない気がする。

 【以下、ストーリー】 

1960年、東映、笠原良三+笠原和夫脚本、小石栄一監督作品 

料亭の棟上げで三三七拍子をする大工たちが表に出ると、ご苦労さんでした、お頭、景気付けに派手に引き上げてくださいよと声をかける。 

よござんすと頭が答えると、木遣を歌いながら、大工たちは神主と共に引き上げていく。 

その背後を芸者衆たちがついていっていたが、そこに車が突っ込んできたので、芸者たちが悲鳴をあげる。

 馬鹿野郎!と運転席から身を乗り出して怒鳴ってきた男(潮健児)は、苛立たしそうにクラクションを鳴らし、クラクション鳴らしているのがわからないのか!と文句を言ってくる。

 その時、どっちが気をつけるんだい?と声をかけた芸者小花(美空ひばり)は、何?と運転手が言うと、ちょいと、丸い足が四つあるからって威張るんじゃないよ、ここは天下の往来だよ、そっちこそ気をつけて通ったらどうだい?文句があるなら私が出るとことで掛け合ってやるから、車から降りといで、べらんめえ!と睨みつける。

 その後、「喜楽」と言う店の前を遠っった時、仲間の芸者が「喜楽」さん売りに出すんだってねと言うので、小花は、まあ初耳だわと驚く。

 ここ?あんたの元のお家、お父さんが亡くならなきゃねえ…と別な芸者が聞くので、昔は昔 …と小花は答える。 小花ちゃん、あんたんとこでここを買い戻すんだって噂聞いたけどと、仲間が聞くので、うちで?と小花は不思議がる。

 お母さん、そんなことするわけないし、また始まったんだわ、おばさんの病気が!と小花は困ったように答える。 

「天麩羅 花恵」の店の前をうろついていたコート姿の男は熱心に手帳にメモをとっていた。

 店の玄関脇には「小唄 春日豊すみ」と表札がかかっていた。

 店の中にコートの男が入ってきたので、天ぷらの粉を混ぜていた年ちゃん(桜京美)が、天ぷらを揚げていた職人の善さん(柳谷寛)に、こないだの銭こ返さねば、この店、人に取られるのけ?と送り訛りで聞いてきたので、大きな声出すなよと善さんは注意すると、つまり抵当と言ってな、この店を担保に金借りるだろう?と教えると、ダバ、質屋と同じだと年ちゃんが言うので、んだ、んだと善さんもお国訛りがうつって答える。 

年ちゃん、おめえがいると俺まで日本語変になっちまうと善さんが言うので、バカこくでねえ、おめえのは東京訛りだべさ〜と年ちゃんは言い返すので、東京訛り?と善さんは驚く。 

ま、良いやと気を取り直した善さんだったが、今度のことは女将さんの一存だから、また揉めるぜ、小花姉さん…と案ずるが、そこに小花が帰ってきたので、おかえりなさいませと年ちゃんと一緒に挨拶する。 

ただいまと答えた小花に、まだおかえりになりませんかな?とコートを着た男が声をかけてきたので、善さん、誰なの?と小花は聞く。

ええ…と全さんが答えかけた時、作りはなかなかしっかりしているが、なにぶん手狭ですな、事務所に帰ってからよく検討してみましょうとコート姿の男は言う。 

どちらさんなんですか、他人の家に余計なおせっかい焼いて…とと小花が嫌味をいうと、わしは金融業をやっとる風間(沢彰謙)というものです、このうちを抵当にするというから見に来ているんですと憮然としながら答える。 

それを聞いた小花は、またおばさんかい?と聞くので、善さんは、へえと恐縮したように答える。

すると小花は、御用はありませんからさっさとお帰りくださいとコートの男に告げたので、風間は、おかしなことを言う人ですな?人にものを頼んどいて帰れって…、あなたはこの…と風間が聞くと、娘ですよ、娘でわからなきゃ、富喜乃家の小花といやあ、この界隈では憚り様ですよ、私は金貸しとナメクジは大嫌いさ!観音様の鳩みたいに目をぱちくりしてないで、とっとと消えてくださいなと小花が言うので、よろしい!もう金輪際、ご相談は受け付けませんよと風間が言うので、ええ、どうぞ…、こっちこそお断りです、善さん、今日は節分だろう?景気良く豆撒いておくれと言い出す。

 善さんは、へい、がってんだというと、神棚に飾ってあった枡に入った豆を、店を出て帰っていた風間の背中に向けて、鬼は外!と言いながら撒く。

 店の奥では、小花の母のすみ(吉川満子)が三味線を弾きながら、生徒たちに小唄を教えていた。 やがて生徒たちがありがとうございましたと礼を言って部屋を出てくると、小鼻の部屋に来て、お姉さん、こんにちわと挨拶してきたので、もう終わったの?じゃあ、ここで話してらっしゃいよと小花は声をかける。

 でも節分の支度がありますからと生徒が言うので、あら、振られちゃったと小花は冗談を言う。 お姉さんはお化け、何になさるの?と別の生徒が聞いてきたので、内緒と小花が答えると、いいわ、後でのぞきに行っちゃうからと別の生徒がからかってくる。

 だめよと小花が答えると、じゃあそれまでのお楽しみ、おじゃま様…と他の生徒が挨拶して帰ってゆく。

 母親すみの部屋に小花が行くと、お帰りと言うので、お疲れさんでしたと答えた小花は、お母さん、聞いたわ、おばさんのこと…と切り出すと、何の話し?とすみは聞き返してくる。

 「喜楽」さんを買うんだなんて噂…、今だって、金貸しがお店に来てわよと小花が教えると、何だかね、お金を都合するんだってさ、かけずり回ってたけど…とすみはいう。

 小花はすみに、お母さん、おばさんによく言っといてちょうだいね、私たちはこのままの暮らしで十分なんですからと頼むと、うん、そりゃそうだけどね、ま、おばさんは昔のように「春日」の店を盛り返して見せたいんだろうという。

だって「春日」の跡取りはお母さんじゃないの、ここ売ったら、私たち、もう住む所がなくなってしまうのよ、そりゃおばさんは一発勝負するつもりなのかもしれないけど…と小花が愚痴ると、私はよくわからなくてね〜とすみはぼやく。 

その時、ただいまと帰ってきたのは叔母のまき(清川虹子)で、ちょいと姉さん、聞いて、昨日の馬場で重いからね、思い切って64で勝負したのよ、そしたしたら何さ、憎めない46で、笑えないじゃないの、善ちゃん!ヤケ酒、ヤケ酒!と言うと、花ちゃん、帰りに日清証券覗いてみたのよ、藤井生命の株ね、5円高って言うじゃないの、今が絶対買い時!などと小花に株の話をし始める。 

どうかしらこの辺で5000株くらい…などとまきはすみに話しかける。 おばさん、風間さんと言う金融の人、お断りして帰ってもらったわと突然小花が切り出す。

 あら、花恵ちゃん、あの人のところへは何度も足を運んでやっと…と巻きが言い返したので、私、「喜楽」を買うのも反対よ、ねえ母さん…と小花は答える。

 するとすみは、あのね、この子もそう言ってるんだし、「喜楽」さんのことはもう少しね…と言い聞かそうとしたので、姉さん、だめよ、弱気になっちゃ、「喜楽」さんあら私だって顔は効くんだしさ、もう手付打っときゃ後はどうにかなるわよ、姉さんだって「春日」の娘じゃないのとまきが説得しようとするので、でもね、おばさん、私たちはこのまんまで良いのよと小花は訴える。

憮然とした顔になったまきに、もう時代も変わってるし、何も好んで波風立てることないわ、ねえ、お母さん?と小花は本音を打ち明ける。

しかしよしは対応に困ったように、私ね、ちょっとお稽古に行ってくると言い出し席を立ってしまう。 私も検番まで、おばさん、「喜楽」のことはもう一度よく考えてねと小花も言って席を立つ。

それでもまきは、大丈夫だって、ごらんなさいな、私に任せりゃ、お店もこの通りだし、そこにはちょいと不自由したけどさ、お金の話なら不自由する私じゃないんだ、人生、ファイト!ファイト!善ちゃん!酒持ってこいと!とあっけらかんという。 

その夜、小花は人力車で料亭「遊亀」に向かう。 仲間の芸者たちが、市之丞に扮した小花を出迎える。

 姉さんが市之丞をやるんだったら、闇太郎やればよかったわと仲間の芸者が愚痴をこぼすので、水も滴る若衆じゃないのと小花は褒めかえす。 

女将さんが喜ぶわよと相手が言うので、そういえばあんた女将さんに挨拶した?と小花がきくと、ええと言う。 

そのうち、さあさ、みんなこっちに来てちょうだいと店のものに呼ばれたので、他の芸者たちは座敷に向かうが、小花は女将の部屋に向かう。 女将さん、初めまして、富喜乃家の小花でございます、どうぞ、ご贔屓にと挨拶すると、へえへ、こちらこそよろしくお頼み申しますと女将の長谷川杉(浪花千栄子)も挨拶を返す。

いろいろ部重宝いたしまして、後ほど改めてご挨拶させていただきますと小花が恐縮すると、いえいえ、そう気を使わんといておくんなさいまし、東京も偉い変わってしまいまして、私もあなたも山だし同然で、お姉さんたちにあんじょう教えて頂かななりませんと女将は答える。 

それを聞いた小花は、ま御冗談を…と返すと、あんさん、どこかでお目にかかりましたかな?と女将が聞くので、は?と小花は不思議がるが、女将は、いえ、人間違いかもわかりまへんと口を濁してしまう。 それじゃあと小花が挨拶し、ご丁寧に…と女将も笑顔で返し、小花は座敷に向かう。

 女将の部屋を後にした小花が廊下に出ると、反対側から来た青年サラリーマン二宮卓也(高倉健)と道を塞ぎ合う形になり、互いに失礼しましたと詫びるが、その時、小花姉さん。

大島先生がお待ちかねよと声がかかったので、失礼しましたと小花は再び侘びて卓也と別れる。

 卓也が通り過ぎると、他の芸者たちは、あの人誰?誰なの?と好奇心を見せたので、小花は無関心風に知らないわと言い残し座敷に向かう。

 一方、別室に失礼しますと挨拶をして廊下を戻ってきた卓也と出会った千沙子(中原ひとみ)は、卓也に見惚れてしまうが、同伴していた小柳明(丸山明宏)に背中を押されて座敷へと向かう。

 ただいまと千沙子が挨拶したのは女将で、あんた、今頃までどこに行ってたの?と女将が呆れると、今の子、ご機嫌な見た目してるわ、どこの人?と千沙子は今であった卓也のことを聞くので、アホなこと言いなさんな、そんなお客さんにと女将は叱る。

 お母ちゃん、アキ坊、アパートの権利金払うんやて、3万ほど出してえなと千沙子が言うので、なんでそんなお金お母ちゃん、払わんならんの?うちにそんな大金おまへんと女将は言い返す。

 そんながめついこと言わんと、出してえなと千沙子はねだるので、しょうがないな〜、ほんまに…と女将は呆れながらも、引き出しから札を取り出すと、1万しかないから負けときと言って差し出す。

すると小柳明は、おばはん、僕は千沙ちゃんがついてこい言われたきに大阪から出てきましたんや、叔母はんが責任持ってくれなわややと文句を言ってくる。

 1万言うたらな、大学出た人の現実の手取りやで、ありがとう思うてもらわどを、また埋め合わせするさかい、早くこれを持って帰り!と女将が言い聞かすと、すると小柳は、さよか、ほな、また寄せてもらいますわと言いながら金を受け取ると、あっさり帰ってしまう。 

その後、娘と二人きりになった女将は、千沙子ちゃん、いつまでもあんなチャラつき相手にしてて、姉妹にお嫁に行く口なくなったかて、お母ちゃん知りまへんでと小言を言う。

 しかし千沙子は、お母ちゃんの心配なんかいらんと反論する。

 心配いらんけど、あんた、お母ちゃんいつまでも頼りに他力本願では困るやないかと女将は叱る。 

ほな、お母ちゃん、自分でやってはるの?こんなお店かて、お母ちゃんの力で買うたんと違うやろ?灯台下暗しやと千沙子は言い張る。

千沙子!なんて事いうん、あんた!と女将が怒ると、千沙子はランランラン♩などとごまかして隣の部屋のソファに逃げる。

 座敷では小花が、月も朧の白雲の…と三味線の伴奏で語りと小唄を始めていた。

 客は大島(山村聡)で、歌が終わると拍手し、他の芸者たちが退室すると、小花に自分が飲んでいた盃を渡し、ご苦労さんと言いながら酒を注いでや裏ながら、お母さん、相変わらずかい?と聞く。

ええ、それが困っちゃって、おばさんがまた変な気起こしちゃって、お金借りようとしてるんですよ小花は打ち明ける。

 川尻の「喜楽」ってお料理屋さん、あそこを買い取るんだってと小花が説明すると、「気楽」って言えば、君のお母さんがやっていた「春日」のことだろう?と大島が聞くと、ええ、戦災で焼けるまで…と小花は答えお猪口を口にする。 

「春日」といえば一流の町屋だったんだからね…昔は、しかし、君のお母さんはもうそっとしといてあげた方がいいんじゃないかね?と大島はいう。 ええ…と小花が答えて、盃を返した時、ごめんくださいませ、お供がまいりましたと女中が言いにきたので、あら、先生、もうおかえり?と小花は聞く。

ああ、今日は君の歌を聴きにきただけだよ、明後日からまた裁判が始まるんでね、その息抜きだと大島は笑い、じゃあと言って席を立つ。 

店の外の車の所までついて行った小花は、ご機嫌宜しゅうと挨拶して大島を送り出すが、その入り口に先ほど廊下でハチあった二宮卓也が立っており、大島が車に乗り込もうとした時、駆け寄ってきて、ちょっと!失礼ですが、この車は僕が呼んだ車ですからと大島に話しかける。

それを聞いた小花は、まあ、これはこちらのお供なんでしょう?と女中に確認する。 しかし卓也は、あの〜間違いでしょう?この車はうちの大事なお客さんをお送りするんで僕はさっきからこうやって待ってんですからという。

でもこちらのお供だって、女中さんが迎えに来てくれたんですよと小花が言い返すと、いや、そんなことは僕は知りませんよと卓也が言うので、君、良いよ、後にしようと大島は譲ることにする。 

しかし、小花はよくありませんわ、あなたなんなの、こんなところで、失礼なことなさらないでくださいとと言い返したので、失礼は君の方じゃないかと卓也はさらに言い返す。 それに気づいた女将が、なんぞ間違いでも?と声をかけてくる。

 いや、人が頼んだ車をこの人が横取りする気なんですと卓也が言うので、なんですって!と小花が言い返そうとすると、まあ、えらい手違いで申し訳ございません、私の方の落ち度でございますので、ただ今すぐに代わりを呼びますので、ちょっとお待ちくださいませと女将は卓也に詫びる。

 その時、大島が後から来た客の一人に、よお!と声をかけ、珍しいところで、これはしばらくと相手の男も笑顔で近づいてくる。

 その男は一緒に行こう、いいんだ、知ってる方だからとお上に言葉をかけたので、そうでございましたかとお上も喜ぶ。

 二人が乗り込んだ車が発車すると、すみませんでございましたなと女将は謝ってくるが、卓也は気が済まないようで、失礼だよ、君!と小花を指差して抗議する。

 失礼なのはあなたではありませんか、横取りとはなんですか!と小花も負けてなかった。 

その様子を見ていた曽我部(北龍二)が、まあ、良いじゃないか、仲直りに飲み直そう、あ、うちうちの席だからと小花と卓也を誘う。

 改めて座敷で向かい合った小花がどうぞと酒を勧めると、たくさんですと卓也は断ったので、まだ怒っているんですか?随分気の長い尺の虫ねと小花が聞くと、当たり前ですよ、あの人はね、うちの会社に融資をしてくれる華道家って言う大切な銀行のお客さんなんだよ、それを君!と卓也は指摘するので、そんなこと知らないわ、あの車のお客…と小花が言い返すので、強情っ張りだね、君は!とタクヤは怒り出したので、同じ部屋にいた芸者たちも驚く。

 まあ、強情っ張りですって!と小花も怒り出したので、酔っ払ったまだ仲直りせんのかね、君たちは!と林(須藤健)が仲裁に入りにくる。 二宮くんの盃でい一杯飲んで、仲直りしたまえと林は提案するが、私、今夜はもうと小花も断ったので、良いでしょう?と林は宥める。

 そこに女将がやって来たので、曽我部はなかなか良い子じゃないかと話しかける。

 富喜乃家の小花はんいわはるんですと女将が教えると、少し馴染んできたから例の件で使えるかもしれないと曽我部は小声で言う。 彼のてるみがダメでもね、僕のを受けてもらいたいね、いいじゃん¡僕のと林はしつこく自分のコップを小花に勧めようとしていた。

 そのしつこい客を振り払おうと、小花が腕を払った時、袖が卓也の顔に当たってしまう。 卓也は憮然とし、すいませんでしたと小花は詫びるが、結構ですと言うなり、卓也は立ち上がって帰ってしまう。

 ある日、「遊亀」の女将の長谷川杉は千沙子の運転する車の助手席に乗って、「天麩羅 花恵」の店を探しにくる。

もうちょっと先に行かんとわからへんがなと文句を言うお上に、ややこしいな、ほんまに、そやから運転手雇ったらええねん、こっち行こうとは文句を言う。 

「天麩羅 花恵」では、ちゃんがお国訛りで歌を歌っていたので、違うよ、年ちゃん、もしもし石の地蔵さんだと教えるが、年ちゃんが繰り返すともすもすいすのずぞうさん?になってしまうので、善さんが違う、もすもすいすのずぞうさんとまた訛ってしまったので、天丼を食べていた客は笑い出してしまう。

 奥の部屋で新聞を読んでいたまきは、とうとうソ連じゃ宇宙ステーション上げたし、アメリカの方でもこれじゃあ、黙っていまいし、大変なことになるなこりゃとぼやいていた。 

それを聞いていた善さんが、女将さん、政治家になった方が良かったんじゃないですか?と声をかけると、政治家は裏があって嫌いだよ、私はね、昔大陸に渡って女馬賊になって天下取りたいって、おじいちゃんを困らせたもんだよとまきは答える。

 それにしてはこの店、ずっとちっこすぎますねと年ちゃんが茶化して来たので、え?店は小さくても天麩羅屋だよ、ちゃんと字の上に天がついてらあとまきは言い返し、酒を飲む。 

そんな店に千沙子と入って来た長谷川杉が、こちらは「春日」の女将さんのお店ですか?と善さんに聞くので、へえと善さんが答えると、お杉がまいりましたとちょっと申し上げてくれやすと女将は頼む。

 女将さんにお客さんですよと善さんが呼びかけると、姉さん、お客さんだよとまきが奥の間に呼びかける。 

すみが顔を出すと、わ、やっぱりそうや、ごりょんさん、おなつかしゅうございますと長谷川杉は挨拶する。

 私でんねん、お杉でんねん、ごりょんさんが持ってらした「春日」に3年ほど置いてもらいました、お杉でございますと杉が名乗ると、ああ、お杉さん!とよしは思い出し、まきもお杉!と気づく。 

まあ珍しい、どうぞあがってくださいとよしが勧めると、ちょっと失礼して上がらせてもらいましょうと杉は千沙子に声をかける。 

みなさん、お丈夫で何よりでございましたと言いながら、杉と千沙子が座敷に上がると、あんたもさあ、嬉しいじゃないか、とまきがいうんで、ありがとうございますと答えた杉は、顔を出した小花に、小花はん、私、思い出しましたんですよ、小花さんが「春日」の長女の花恵さんということをと話しかけたので、じゃあ、おかみさん、お母さんの昔の店に?と小花が聞くと、へえ、あんさんのお守りもようさせていただきましたんですがなと杉はいう。

 じゃあ、この子があの時の千沙子ちゃん?とまきが驚く。 そうですねん、ご挨拶しはんかと杉が言うと、こんにちはと千沙子が挨拶する。 大きくなって!とまきは喜ぶ。

 つまらないもんですけど、ちょっとお口汚しに…と杉が土産を勧めると、お杉さんは今どちらにお勤め?とすみが聞くと、はい、あのついそこの「遊亀」をやらせてもらっていますと杉が言うので、「遊亀」!とすみは驚く。 

そういや関西から来た女将さんがやりてだって噂があったけど、そう、あんたが!とまきも驚く。

 もう先月、やっと上京ができまして、まあボツボツやらせてもろうてんですけど、他所さんの土地へ行きまして、どんな商いができますことか…と杉は笑いながら言うので、お杉さんならしっかり者ですもの、先が楽しみってものですよとよしは褒めるが、まきの表情はちょっと曇っていた。

 雨降りの太鼓で、ドン鳴らしまへんねん、後から後から火の車が追いかけて来ましよってな…、ただこの子のために働いているようなものですねんとお杉は答える。

 すると、上手いこと言うてるわ、母ちゃんと千沙子が茶々を入れたので、これ!もうごりょんさん、小憎らしゅうなりましてな〜、もうほんまに手におえへんのでねんと杉は千沙子のことをよしに報告する。 

すると千沙子が、また始まったと言うので、暇さえありましたら、あんたドライブや麻雀やって、銭減らすことばかり考えましてなと杉は困りきったように苦笑する。

 でもお杉さんもこれから大変だね、ここの土地柄で貫禄と言うものをつけなきゃならないだろうし、私たちなんざ、今でも「春日」の娘って言えば一応のところから挨拶に来るんだけどねと巻が言い出す。 

そうでございまっしゃろな〜、私もできるだけ昔の「春日」さんの真似させてもらおうと思うておるんですとへりくだった杉は、昔申しましたが、ごりょんさん、あの〜、川筋の「喜楽」って言うお店な、あれ、昔の「春日」の跡でございますな?と聞いてくる。 

ええ、私もできれば…何とかと思ってるんですけどね〜とすみが言うと、まあ、ごりょんさんもと杉は喜び、ちょうどよろしゅうおました、私、近いうちにあのお店を買い取ろう思うとりますねんと言い出す。 まあ!とすみは驚き、まきも、あんたが!という。

 ごりょんさん、どうでっしゃろ?私の代わりにあのお店預かってくれませんかとお杉は言うので、預かるって?とすみが聞くと、よろしゅうございましたら、おなごさんの指図でもしてもらおうかと思いますねんけど…と言うんで、すみはそうですね〜と生返事をするが、まきは、お杉さん、あんた姉さんを女中頭にでもするつもりかい?と問いかける。

 あの、ごりょんさんのお顔の広いところで、お客さんでもついたら思いましてな…などと杉が言うので、茶菓子を持って外に来ていた小花はその話を聞き咎める。

 するとまきは、冗談じゃないよ、昔の「春日」とあんたの店とでは格式が違うんだよ!気をつけて物をお言いよと文句を言うと、さいですか…と答えたお杉は、もう私の方は家柄も格式もございませんので、当節は余計ゼゼ張って、サービスが良いのがよろしゅうのやろうと思います、ま、今は何と申しましても、お金のご時世でございますからな〜とお杉が言うので、金って?じゃあうちには金がないってのかい?何だ、昔は使用人だったくせに!とまきは気色ばむ。 

すると杉も、使用人が悪うございましたなと態度を変え、ただ私はご恩返しのために、ごりょんさんがこんな術ない暮らししてはるくらいやったら、私の方へ来て働いてもろうた方がええんやないかな〜と思う他もんでございますからなと杉は言って笑い出す。

 な、なんだって!とまきは怒り出す。 その時部屋に入ってきた小花は、女将さん!術があろうとなかろうと、大きなお世話ですよ、それが昔世話になったお母さんへの御恩返しなんですか?断っておきますけどね、川筋の「喜楽」は、私とお母さんとで買い取るつもりなんですからね!と言い出したので、え?とうはんが買えはるんですか?と杉はわざとらしく聞き返す。

 ええ、あんた方にこの辺を荒らされちゃ江戸っ子の恥ですよと小花は啖呵を切る。 

そうでっか、ほんあらまあ、どちらが先に買いますか、銭はって勝負してみましょう、ごりょんさん、とうさん、私も大阪人でっさかいな、大阪人のど小骨いうものをちょっと見ていただきます、千沙、帰ろうかと言うので、これ持って帰ってちょうだいと土産をまきが返すと、頂いて帰りますと言い残し、さっさと立ち去る。

 千沙子も、堪忍な、おばはん、そやけど、金のある者と喧嘩しやったら損やし…と言い残し、帰ってゆく。 それを聞いていた善さんも、持っていた茶菓子の盆を放り投げて憤慨する。

 千沙子の車に乗り込む時、こんなじじむさいうちに住みよって、大きなこと言うとるわ、しようもないと杉は捨て台詞を残す。

 千沙子も、偉いとこ付いてきたわ、お母ちゃん、貧乏人と喧嘩しはったら損やし…と杉にいう。

 小花の方は、バカにしてるわ、今度仕切ったら思い切り暴れてやるわと吐き捨てる。

 本当だよ、いざとなったら私を呼び、あんな奴に負けてたまるかってんだ!とまきも腹立たしげにいうので、私がいけないのよ、すっかり甲斐性なしになってしまってと住みが気落ちしたように言う。

 お母さんが悪いんじゃないわと小花は慰めるので、だけど花恵ちゃん、「喜楽」を買うって本当かい?とまきが聞く。 

すると小花は、しようがないじゃない、成り行きだもんと不貞腐れたように言うので、すみとまきは唖然とする。 成り行き!とまきが聞くと、おばさんがいけないのよ、格式とか何とか言い出すもんだから…と小花は困ったように言い返す。 

それと「喜楽」を買うのとどう言う関係があるんだ!花ちゃんこそなんだい、私が売り出そうとしたらしゃしゃり出てきてさと文句を言うので、悪かったわね、何言ってるのよ、やられっぱなしじゃないのと言い捨てて部屋を出ていく。

 その後、芸者仲間の小福(雪代敬子)の部屋を訪れた小花は、頼まれて、小福の彼氏がいるというオリエント電気のテレビ工場を見学に出かけることになる。

 工場では、小福のお気に入りの石川(今井俊二)が彼女らを出迎え、いやあ、よく来てくれましたねと話しかける。

 こちら小花さん、お姉さんですと小福が紹介すると石川ですと挨拶したので、小花もよろしくと言葉を返す。

 そんな3人の近くで歩いていたのは、卓也と千沙子で、勘定のことやったら心配せんかて、うまいこと案内してあげるわと言う千沙子に、すいません、堂本拓也は例を言っていた。

 その代わり一回ダンスに連れてってな、約束してくれはる?と千沙子は甘える。 ええと卓也が答えると、嬉しいわと千沙子はいい、卓也が開けてやった車の運転席に乗り込むとさってゆく。

 その様子を見ていた小花は、慌てて小福と石川のあとを追う。

 一生懸命なんですがね、何しろ研究費がもう半年も出ないんですよ、まあ会社自体が不況なんだから文句は言えませんがねと、研究所内を案内する石川は小福に愚痴を言っていた。

 小福は、石川さんみたいなハンサムがいらっしゃる部屋、もっとスマートかと思ってましたわと正直な感想を言うと、いや、どうも…と石川は照れる。

 窓辺で外を見ていた小花に、君!どうしてこんなところに来たんだね?と声をかけてきたのは研究室に戻ってきた卓也だった。

 小花が気まずそうに黙っていると、あ、主任、僕が呼んだんですと石川が説明する。 

あ、そう、どうも…と小花に軽く会釈した卓也は、で、どうするんだね?と石川に聞くと、いや、あの、テスト用のプリントのモデルになっていただこうと思いまして、この人に来てもらったんですと石川は小福を紹介する。 

じゃあ、こちらの方には用はないんだね?と卓也は小花の方を指して聞く。

 その会話を聞いていた小花は、どうも私はお邪魔らしいわねと言い、部屋を出ていこうとする。

その時、小花は機械のコードに引っかかり、機械が火を吹いたので、危ない!と叫んで駆け寄った卓也の胸に抱かれる格好になる。 

ごめんなさいと素直に謝った子は何、大丈夫ですか?と親身に聞く卓也だったが、二人の間には微妙な空気が流れる。

 小福はその後、石川と外を歩きながら、そう、社長さんがご病気じゃ処置なしね…と会社の状況を聞かされていた。

 ええ、専務と二宮さんが一生懸命やってくれたんですけどね、何しろ今の時代は大資本産業に圧迫されて…と石川は説明する。

 かわいそうね、私もなんか手伝いしようかしら?などと小福がいうので、いや〜と石川は苦笑する。

 そんな石川は、近くのベンチに仲良く腰を下ろした卓也と小花の姿を目撃する。

 小花は、さっき「遊亀」のお嬢さん、いらしていたようですわねと話しかけると、ええ、請求書持ってきて…と、いやあ弱いですよ金には…,当分借金ですよと卓也は照れくさそうに頭を掻く。 

そんなに悪いんですか。会社?と小花が聞くと、ええ、僕の研究さえ完成すれば一切解決するんですが、今んところ研究そのものが頭打ちなんですよと現状を打ち明ける。

 そんな二人の姿もたまたま通りかかった曽我部も目撃する。

 研究ってどんなこと?と小花が聞くと、カラーテレビを安い値段で大量生産でしようって狙いなんですがね、いや〜、金ですよ、金がなければ、それこそ真空管一つも買えませんからね、あ、すみません、つまんない話しちゃって…と卓也は詫びる。

 その時、次長様、お客様ですけどと女性社員が呼びにきたので、じゃあまたと卓也は立ち上がったので、小花はお邪魔しましたと声をかける。 

その時、急に戻ってきた卓也は、あ、それから、今までのことは勘弁してくださいと握手を求めてきたので小花も応じると、そばにいた石川がちゃっかり写真に撮っていた。

 おい!と卓也は注意するが、若い記念ですよと石川と小福は笑うだけだった。

 その夜、小花は「遊亀」の曽我部の座敷に呼ばれて出向く。 

待ってたよと曽我部は言い、女将の杉も、すみませんな、ご無理お願いしまして、さあ、どうぞこちら…、まあ美しい、今日は特別磨きがかかりまして…などと小花を持ち上げる。 私の友人の小倉くんだと曽我部が同席している客を紹介すると、小花です、ご贔屓に…と小花も自己紹介する。

 君は今日、うちの工場へおいでになったそうだね?と曽我部が聞くと、あら、もうご存じ?と小花は驚く。  

地獄耳だよ、どう?うちの次長はちょっといける口だと曽我部は笑う。 

大村が杉と共に座敷を出ると、私は野暮ですからと小花は誤魔化す。 廊下に出た杉は小倉(神田隆)に、あの先生のご状況いつごろになりますのやろと聞く。 よう聞いてこなんだけどな、曽我部君の下工作ができてからのことやろうなと小倉は答える。

 そうでっか、実はあんさんにお願いがございましてな、先生にもうちょっと出してくれはるようにお願いしてくれやんな、な、?つい近くに「喜楽」という割安の買い物がございますねんと杉は手を合わせるが、その様子を目撃していたのは千沙子だった。

 あんたの腕を見込んだからこうして東京進出の根城を任せているんだが、しかしもう一軒となると、あんた自身の買い物になるよってな…と小倉は困惑する。

 そこは一つ、あんさんの力でお願いしますと杉は頼み込む。

 一方座敷では、曽我部が、私もなんとか彼の研究を実らせてあげたいんだが、今の我が社の財政事情ではどうしようもならんのだよと小花と酒を酌み交わしながら説明していた。

 私がお金持ってたらポンと投げ出しちゃうんですけどとこはなが冗談めかしていうと、そこで君に頼みがあると曽我部は言い出す。

 頼みって?と小花が聞くと、今紹介したあの小倉君とかね、関西で相当羽振りの良い商事会社を経営しているんだが、税金関係でしばらく金を他に移しておきたいらしいんだ、本来なら私が会社を代表して借りたいくらいなんだが、公のことじゃまずいらしいしねと曽我部はいう。 

二宮君に大村君を紹介してやってくれんかね?というので、私が?と小花が聞き返すと、そう、お座敷で知り合ったとかなんとか口実あるだろう、社の手前、私の名前が出ちゃまずいんだよと曽我部はいう。 

二宮君が個人的にという話なら小倉君は喜ぶし、二宮君だって喜ぶよ、裏のことは私が引き受けるから、な?君、近いうちに…と曽我部が言葉巧みに誘うので、小花はつい、ええと返事してしまう。

 後日「天ぷら 花恵」にやってきた卓也を出迎えた善さんは、いらっしゃいませ、まだ支度がちょっと…と戸惑うが、小花さんはいらっしゃいますかと卓也が言うので、ええ、姉さん、お客さんですよと座敷に呼びかける。

 卓也に気づいた小花は、あ、お待ちしてたんですよと笑顔で出迎え、拓哉も、電話いただいたんで、所長と相談してすぐ伺ったんですと答える。

 それで…と小花が聞くと、早速その小倉さんって方にあってみたいんですがと卓也が言うので、ええ、お供します、ちょっと待ってと小花も笑顔で答え、奥へと向かう。

 卓也を見たまきは、座敷に来た小花に、イカすじゃないのと揶揄う。 善さんはおかけになってと勧め、としちゃんもお茶を準備する。

 なにぶん、うちの姉さん、ボーイフレンドがいないもんで…などと善さんが言うので、余計なこと!と年ちゃんが注意する。 卓也がタバコを咥えると、年ちゃんがマッチをつけてやったりする。

 その後、小花に紹介され、小倉と会った卓也が、そうしますと担保の件は…と聞くと、そうですな〜。私の方で融資した分の研究の設備、その他の返却ということにしときましょうか?と小倉はいう。

実際私の目的は、資産の一時的な分散を図るだけなんですから、500万くらいの融資で儲けようとは思ってません、ただし2ヶ月という返済期日だけは確約していただきたいですなと小倉は念を押す。

 卓也も、は、それはお約束しますと答えると、ほな、あとは私の事務所でお話ししましょうか?と小倉はいう。 じゃあ車を呼んで…と小倉が立ち上がったので、私が…と小花がいうが、良いよ、良いよと答えて小倉は部屋を出ていく。

大丈夫なんですか?二月に500万円…と小花が案ずると、ええ、それは僕の研究方式さえ完成すればそれを名目に大手筋の銀行から借りられると思うんですよ、それよりあの人物は保証してくれますね?と卓也は小花に聞く。 小花がええと答えると、もし今晩お暇でしたら、銀座の「エリーザ」というバーで待ってますと卓也は誘う。

その夜、小花と卓也は「エリーザ」で会っていた。

 あの小倉という人はしっかりした良い人でしたよ、今度は僕がツイてたなと小花に報告する。 

あなたの真心が天に通じたんだわと小花は褒めると、いや、あなたのお陰ですよと卓也は言い返す。

 そんな卓也が腕時計で時間を気にしたので、あら、まだ御用があるの?と小花が聞くと、ええ、伊東の奥の高原ホテルでね、社長が静養しているので、そこへ報告へ行こうかと思ったんですよと卓也は答える。

 でもそれまでは良いでしょう?飲みましょうと甘えた小花に、卓也もOKと答えて乾杯する。 

そこにギターとあこーディアオンの流しが来て、一曲いかがですかと聞いてきたので、ああ、僕に弾かせてくれよ、どうです?と卓也は小花に言い、ギターを借り受ける。

 僕は引くから一曲歌ってくれますか?と卓也が言うので、私嫌だわ…と小花は困るが、流したちもお願いしますと頭を下げ、ボーイまで店の中央に小花を押し出してスポットライトが当たったので、歌うしかなかった。

 歌い終わると、ありがとうと卓也は礼を言って、流しに金を払うが、その時、二宮はんと声をかけてきたのは千沙子だった。

 遊ぶんやったら、うち誘ってくれはるって約束やったのに、ちょっとチキあって!と千沙子はいう。

 だけど、君にも連れがあるじゃないかと卓也が指摘すると、もう帰って、また明日遊んであげるわ、今日は帰るのと千沙子は連れていた小柳明を追い返す。

 明は、さよか、ほな兄さん、大事に扱っててやと言い残し帰ってゆく。 千沙子が近づくと、君、それは困りますよ、僕はこの人と話があるんですからと卓也は迷惑がる。

 そう?ほな良いわ、うちに来はる銀行のお客はんに、オリエントの技師長はんがお金がない、お金がないて言うてはるのに、芸者はんと遊び回ってるて、言いふらしたるわと言い残し帰ってゆく。

 そんな千沙子に近づいた卓也は、君、そんなバカなことは言わないでくれよ、そんなデマ飛ばされると僕は困るよと文句を言う。 卓也は小花の機嫌も悪くなったので、慌てて席に戻ると、アン〜、気にしないでください、向こうはすぐ話しつけてきますからと言うので、へえ、つけなきゃいけない話があるの?と小花は嫌味をいう。

 そんなわけじゃないですけど…と卓也が答えると、二宮はん!うち帰るわ!とまた千沙子が言い出したので、君、ちょっと落ちつてくれよ!と千沙子の席に行くと、ほな、うちと呑んでくれはるの?と千沙子は言い、ジョニー・ウォーカー!瓶ごとここに持ってきて!とボーイに呼びかける。

 小花が膨れて帰ろうとするのに気づいた卓也は、また小花の席に戻り、ねえ君!僕は別何百万、よくわかるでしょうと説得するが、わからない!と小花はすね、千沙子も、きのみ夜半!どっちにするの!と呼びかけられる。

 小花も、二宮さんはどうするのよと呆れたように聞く。 

どうするのって…と言いながら上着を脱いだ卓也は、ボーイ!ジョニー・ウォーカーと注文する。

 結果、すっかり酩酊した卓也を千沙子と二人で支えながら、しっかりして、もう今夜はお家へ帰ったほうが良いわと小花は勧める。 それでも酔った卓也は、いや、行くんだよ、どっちも行くんだよと呟くので、ほな良いわ、うちの車で送ってげるわ、二宮くんと千沙子が話しかける。

 誰でもいいから連れてってくれと卓也が言うので、あんたも一緒に乗ってねと千沙子が勧めるので、あんまりスピード出さないでね、悪酔いするからと言いながら小花もボーイから卓也のコートを受け取っていると、お姉さん、任せてもらうわ、じゃあ、さいなら!といい、千沙子は拓也だけを乗せて出発したので、取り残された小花は、まあ!と呆れる。

 自宅に戻ってきた小花が持ってきたコートを見たすみは、じゃあ、そのコートは忘れて行っちまったのかい?風邪引くよと言うが、良いのよ、「遊亀」の千沙子さんの車で一緒に行ったんだからと小花は説明する。

 千沙子ちゃん?お杉さんところの?とまきも聞いてきたので、そうよと小花が答えると、あんた、あの人好きじゃなかったの?と牧が聞くが、小花が黙ってしまったので、他の娘ならともかく「遊亀」の娘と聞いちゃあ〜、ねえ姉さん、黙ってられないねとまきはいう。 

花恵、お前それで良いのかい?とすみが聞くが、卓也のコートの中には、小花と卓也が笑顔で握手している写真が入っていた。

それを見つけた小花は写真を抱きしめたので、互いに頷き合ったまきが金をすみに渡し、すみは花恵、これを持ってお行き!と金を差し出す。

えっ?と小花は驚くが、今からタクシーを飛ばせば、明日の朝には伊東へ着くだろうとすみがいうので、お母さん!お金持ってるわと小花は言い、写真を懐に入れた小花は、支度するからタクシー呼んでと頼んで立ち上がる。

 よし来た、あとは私に任しといてとまきが応え、電話をかけ始める。

 翌朝、伊東の高原ホテルに到着した小花は、玄関前に千沙子の車が止まっているのを見て顔を曇らせる。

 その頃、卓也から融資の話を聞いたオリエント電気社長の重松(加藤嘉)は、それは君が個人で研究の成果を担保にして借りたのかね?と確認していた。

 はあと卓也が答えると、返せる目算があるのかね?と再確認する。

 僕は現在の僕の研究の成果には自信を持っておりますと卓也が答えると、今の私にも社の経理にも、そんな金は作れんのだからね、頼りにするのは…と重松は言い聞かす。

 会社は必ず僕が再建します、頑張ってくださいと卓也が励ますので、頼むよ、君…と重松は答える。

 そこへホテルの女性従業員が、あの二宮さんに小花さんという方が東京から…と知らせに来る。 小花!と驚いた卓也は、ちょっとと言い残し立ち上がる。

 待っていた小花がこれとコートを差し出すと、昨夜はどうも…、お茶でも…と卓也は誘うが、そこに現れた千沙子が洗っ?と笑ってきたので、あっちで話しましょうと卓也は別の方をさすが、いいんです、私はただコートをお届けに来ただけなんですから、お邪魔しましたと言って小花は帰りかける。

 それを追った卓也は、ちょっと待ってください、君、僕は昨夜からずっと社長の部屋にいたんですよと言い訳するが、わかるもんですか!と小花は頑なな態度を解かなかった。

 君、僕があの人好きだと思ってんだったら大変な誤解だよと卓也はいう。 

そうかしら?お好きだったから御一緒に車でいらしたんでしょう?と小花はチクチクいう。 どうしてもわからんのですか、君!と卓也が憤慨すると、わかりません!と小花も画を貼ったので、よ〜しと言いながら小花を抱きしめた卓也は、僕の体に女の匂いします?僕は絶対に潔白なんだと卓也は主張する。 

それを入り口で目撃した千沙子はあっけに取られる。 その後、一緒に浜辺を歩き出した小花は、私がいけなかったの、本当は私がここにお送りすればよかったんだわと反省する。

 卓也は頭をかき、いやあ、もうそのことは言わないでくださいと頼み、あのお嬢さんとは二度と付き合いません、それなら良いでしょう?と握手を求めてくる。

 小花はまたその手を握り返すのだった。 その後、気分が晴れた小花は海を前に一曲歌う。

 その頃、「遊亀」に車でやってきた岩井(柳永二郎)は、曽我部君の方から何か連絡ないのか?と座敷に座るなり、同伴していた小倉に聞くので、今日はまだ…と小倉は答える。 

今度のオリエント電気の買収工作は、わしの東京進出の第一歩やから、水もモラさんように頼むでと岩井はいう。

それから、なんてやら言うたな?新しく研究しているあのパテント、ええやろうな?と祝いが聞くので、無論、その方が狙いでございますからと小倉は答える。 

よっしゃ、ところでお杉さん、あんたわしに楽しみ見せる言う取ったな?と聞いたので、杉は、はい、今晩の出し、早速お呼びしますんでございますと答えたので、うん、そうか…と岩井は満足する。 

とある料亭での温習会の稽古にやってきた小花に、お皿の会のことでちょっと打ち合わせがあるんだけど…と女将(荒川さつき)が話しかけてきたので、はい、そのうちにお伺いしますと答える。

 他の芸者たちと並んで座った時、姉さん、「遊亀」さんから7時言うてんですがと見番の使いが来たので、そうね…と小花は迷うが、ぜひどうして持ってんですよと使いは頼む。 

「遊亀」なら私もそうだけど、岩井さんって、関西では大したものらしいのよ、組合からもなるべく出るようにってと他の芸者が話に割り込んでくる。

 そう?じゃあ、ご挨拶だけならって言っといてちょうだいと使いに頼む。 一方、オリエント電気の研究室では、助かりましたね、主任、小倉という人物は我々に取っちゃ神様みたいなものですよねと石川が卓也に話していた。

 ああ、後は6回の実験の結果だけだからなと卓也も答える。 そこに、技師長さん、社長がお呼びですと女性社員が伝えに来たので、帰ってきたのか?と聞くとはいと女性は答える。 

社長室に出向き、重松にお帰りなさい、お身体もうよろしんですか?と挨拶すると、うん、関西の岩井財閥のご本尊が上京して、財界生活30年の記念パーティを開くんで、どうしても出なきゃならんのだと重松がいう。

 ところで、君の送ってくれた契約書のことなんだが、その小倉という人物は信用できるのか?と重松は聞いてくる。 

卓也ははいと答えるが、わしも一度会っておきたいんだ、きみ、大至急その人をよこすように手配したまえと重松が支持したので、一緒に聞いていた曽我はちょっと動揺する。

 外に出た卓也に、二宮はん!ちょっと付き合ってえなと声をかけてきたのはまた千沙子だったので、いや、今日はそれどころじゃないんだよと拒否する。 

なんで〜な?と千沙子がついてくるので、ねえ君、今日1日この車貸してくれないか?と卓也は頼むと、うん、ええわと千沙子は承知する。

 その夜、小花は岩井達を前に、踊りを披露する。

 岩井は横に座って酌をしていた杉に、どないしますんやろな?と聞く。 踊り終えた小花は、お姉さん、ちょっと…と女中に呼ばれる。

 あの…、この前小倉さんにお願いしました、例の買い物のことですねんけど…と杉が岩井に話しかけると、いつもの手やな?しゃあない、ま、ええわ、今度のことは君の働きもあったんやから買うたると岩井が答えたので、杉は喜んで合掌しながら、ありがとうございますと礼をいう。

 玄関口に来た小花を待っていたのは千沙子で、うちがお呼びしましてん、二宮さんがご用がおあるいうて表で待ってはるわと伝言する。

 千沙子の車の前で待っていた卓也は、いや、お呼び出したりしてすみませんと詫びると、なんでしょう?と聞く小花に、君、小倉さんの居所知りませんか?急いで会いたいんだけどと聞いてくるが、千沙子はニヤニヤ見ているので、小花は急に店に戻り始める。

 どうしたんですか?と慌てて卓也が後を追うと、私なんかもう御用はないんでしょうと小花はすねる。

 君!と卓也が迫ると、それとも見せつけたいんですか?お二人いらっしゃるところ…と言いながら千沙子の方を見るので、いや、あの人はただ、僕は車を借りて…と卓也は言い訳するが、知らないわ、なんなの?もう二度となんておっしゃっていたくせに…と小花は怒り出す。

 いや、そのことは後で説明しますよと卓也はいうが、結構よ、私はこんなことまでされてあなたとお付き合いしなきゃならない理由はないんですからと小花は答え、彼の方とお遊びになるのはそれはあなたのご自由ですけど、もう二度と私のことなんかお呼びにならないでくださいねと言い残し、店に戻ってしまう。 千沙子は、二宮はん、行こうと背後から声をかける。

 その後、大島の座敷でやけ酒を飲み始めた小花に、もうやめといた方がいいようだよと、大島が優しく止める。

 それでも小花は、良いんです、私、酔いたいんですものというので、どうしたんだ、今日は?と大島は不思議がる。

 私ね、今日は一晩中、先生とこうして飲み比べしたいの、ね、ご相手させてくださいねと小花がいうので、何かあったんだね?好きな人と喧嘩でもしたのかい?と大島は尋ねる。

図星を突かれた小花は、何も聞かないで、一緒に飲んでと頼む。 ああ飲むよ、夜明かししても良いが、聞くなと言うわけ聞いてみたいがという歌があるねと大島は大人の対応をする。

 あの人がいけないんです、あんな人のことは忘れて、今夜は先生に思い切り甘えてみたい、良いでしょう?と小花は言う。 よしよし聞いてやろう、あの人の身代わりになってねと大島は優しく接する。

 嬉しいわ、ねえ先生、いくら強気でも、日向の雪は〜と一節歌ってみた小花だったが、やっぱり私は女なのねと泣き出す。

その頃「天麩羅 花恵」では、じゃあ、女将さんは借りるって言ってんだよと善さんが年ちゃんに小声で伝えていた。 じゃあ、お母さんがダメだって言ってるのがよ?と年ちゃんが聞くと、そうだと善さんはいう。

 そこに小花が帰ってきたので、お帰りなさいませと二人は声をかける。

 ただいまという小花に、おかえり、花恵ちゃん、風間さんからやっとお金が借りられる目鼻がついたんだけどね、どうなの?「喜楽」とまきが契約書を出してくる。

 私は反対ですねとすみは言い、抵当も良いけど、もしこの店が潰れるようなことになったら…、花恵の名前だって傷がつくのよと案ずる。

何よ母さん、そんな弱気で…、いいじゃないの、買いましょうよ「喜楽」と言いながら契約書を差し出し、そう…、お母さんが反対だったら私が買ってみせるわと酔った勢いで小花はいう。

ごらんなさいよ、花恵ちゃんの方がよっぽどしっかりしてるとまきが言いながらコップ酒を注ぎ出したので、お前、いいの?そんなことして…とすみは確認する。

お母さん、おかご編んだって「春日」の跡取りだったら、もっと意地を持ったらどうなの?おばさん、お金借りてきてちょうだい!と小花はまきに頼む。

私に任せとけとまきはコップ酒を飲みながら答えるが、お前どうしたの?そんなに酔ってきて?とすみは小花に問いかける。

 ほっといてよ、私は負けたくないんだ、「遊亀」の女将さんなんかに、そうよ、「喜楽」を買い取って見返してやるのよ!と小花は答える。

 そりゃ、お前が良けりゃ、無理に反対しないけどね、後で泣きを入れたって私は知らないよとすみは念を押す。

 焦ったいわね、嫌なら嫌ってスッキリ言ってちょうだいよ、私は負けられないわけがあるんだからと小花は言い張る。 そう?じゃあお前の勝手におしとすみは呆れ果て、おばさん、後のことはよおしく願いしますと小花は頼むので、花恵ちゃん、どこ行くんだいとまきが聞くと、しばらく遠出よと小花は答える。 

ごめんなさい、こんなご馳走で…と、翌日訪ねてきた小花にトーストを出す小福は詫びる。 私の方こそと小花は笑うが、私今全然オケラなのと小福は明かす。 どうして?と小花が聞くと、石川さんたちのお給料だって出ないんでしょう?だからさ、マンちゃんのところにお小遣いあげてんのよと小福は打ち明ける。

 ええ、そうなの?と小花が驚くと、お陰で箪笥の中、みんな空っぽと、トーストにマーガリンを塗りながら小福は苦笑する。 

それを聞いた小花は、あんたも私に負けないバカねと感心する。

そこに電話がかかってきたので、小福が出るが、姉さん、見番からだけど、「遊亀」の女将さんがお姉さん探しているらしいわよという。 「遊亀」の女将さんが?というと、ええと小福は答える。

 小花が会いに行くと、ほんまにお忙しいところすみませんでございましたなと杉は詫び、実は私もごりょんさんに近いうちにお詫びにあがろうと思ってましたんでね、その節はすんませんでしたな〜、大人気ないことでな〜と低姿勢な言い方をしてくる。

いや、ごりょんさん、お変わりございませんか?というので、ええ、で、どういうことなんでしょうか?ご用件…と小花が聞くと、ええ、そのことでんがな、私あなたにおり行ってお願いがございますねん、あの惚れ、この前にあの岩井さんてお客さんございましたでしたろ?と杉はいう。

 あのお方があんさんに偉いお熱をあげましてな、それでそうでっしゃろな、いっぺん大阪までお供していただけませんでしょうかな?というので、お供ですか?私が…と小花は聞き返す。

 いいえ、お年寄りでございますからな、お茶の相手してくれはったらよろしゅうございますねん、岩井さん申しましたらな、とうさん、関西きっての実業家でございますさかいな、どなたに聞こえましても決してとうさんの肩身の狭いようなことはない思いますねんと杉は説明する。

 とうさんがよろしゅうございましたらな、私から岩井さんにお願いしまして、あの「喜楽」の店を買うて、ごりょんさんにそっくり差し上げても良いと思ってんでございまっせと杉が言うので、女将さん、この私の体と引き換えに「喜楽」を譲ろうって言うんですか?と小花は睨みつけるが、その会話を廊下にいた千沙子が聞いていた。

 そうさ、そこはまあご相談でございますがなと杉が言うので、バカにしないでください、私がそんな女だと思ってるんですか?ととうと、タバコを吸い始めた杉は、とうさん、あんさんの大事な人の工場も岩井さんの手に握られてるんでっせと打ち明ける。

 あんさん、それでもよろしゅうおまっか?とまで言われた小花は何も言い返せなくなってしまう。 

その会話を聞いていた千沙子も驚木、廊下を歩いていく岩井の姿を凝視する。 

オリエント電気の研究室では、主任、本当ですか?僕たちの研究が人手に渡るって噂ですが?と石川が卓也に聞いていた。 

そんなことはお前が心配しなくても良いよ、それよりな、こことここの先もう少し考えてくれ、俺出かけるからと言うと、小倉って人にまだ会えないんですか?と石川は心配する。 

ああ、期限は後二日しかないんだ、それまでにあの男を探さないと…と卓也も弱音を吐く。

 料亭で着物の品定めをしていた小花は、女将から、ちょっとと呼ばれる。

あんた「遊亀」さんの話断ったんですってねえ、考えてちょうだい、だってあんたをすぐ引かそうってつもりじゃないらしいんだし…とと女将は説得してくる。 

でも私、どうしても気が進みませんと小花がいうと、だってあんた、岩井さん、「遊亀」のおかみさんに逆らったら、あんたの今の立場だってこれから先面倒なことになるかもしれないんだよと女将はいう。

 私のわがままかもしれませんけど、もしご迷惑だったら私、温習会も休ませていただきますからと小花は言いながら離れて行ったので、おはなちゃん!と女将は呼びかけ、ため息をつく。 

「天麩羅 花恵」ん帰ってきた小花に、お帰りなさい、花恵、二宮さんに合わなかった?とすみは聞く。

 いいえと答えると、なんでもね、二宮さんが借りたお金が変なことになったんでね、小倉って人のことでね、何かお前に聞きたいことがあるんだってとすみはいう。

 私もう身の宮さんとお付き合いしていないのよ、「遊亀」の娘さんにでも頼んで探してもらうといいわと小花がいうと、だってお前、二宮さんがわざわざおいでになって…とすみが言うので、私そんな話聞いてる暇ないのよと言い捨てて小花は奥へ行ってしまう。 

そこにやってきたまきが、どうしたん?はなちゃん…と聞くので、なんかあったんだよ、きっと…とすみは答える。

するとまきは、そうだ、あれだよ、お杉さんの所の娘、なんとの間もなんか揉めてたじゃないかとまきは推理する。

 姉さん、任せといてと言い出したまきは何やら行動を始める。

 その頃、千沙子は、なあええやろと杉に相談していたが、杉はアホなこと言いなさんな、あんた一人で大阪帰ってどないするの?と一蹴していた。

ウト働くわ、もうお母ちゃんを当てにせえへんと千沙子が言うと、千沙子ちゃん!ええ加減にしないと終いにはお母ちゃん怒りますで!と杉は叱りつける。 

すると千沙子は、怒りたいのはうちや!お母ちゃんは人前に出ても恥ずかしないような生活してはるの?なんやこのけったいな店?怪物みたいな連中がウヨウヨして…と言い返す。 

うち、こんな所にはよう住まんわとまで千沙子が言い出したので、千沙子ちゃん、それあんたのわがまま違うか?お母ちゃんはな、二度と昔のような苦労はあんたにさせまいと思うさかいやないかと言い聞かせようとするが、うち貧乏かて、お母ちゃんに文句いうたことあらへんわと千沙子はいう。

 それでも杉は、千沙子ちゃん、今日忙しいさかいな、明日ゆっくりお話しようなと杉は説得する。

 知らんわ、うちこのままやったらもう帰るわと千沙子が言い張るので、千沙子!これ!と後を追いかけた杉だったが、おかみさん、春日さんと言う方がお見えですと女中が言いにくる。

 春日?と聞き返した杉は、まきが待っていた部屋にやってくると、まあ、ごめんなさいね、お邪魔しちゃって、でもさ、ちょいと豪勢なお店構えちゃって…、まるで龍宮見たいよとまきが言うので、なんぞ御用でっか?と杉が冷たく聞くと、あのね、御用ってことじゃないんだけどね、ちょっと降り言ってね、千沙子ちゃんのことでねとまきは切り出す。

 千沙子?千沙子がどないかしましたか?と杉が聞くと、いや、どうってことじゃないんだけど、千沙子、二宮さんって人とお付き合いしていないかしら?あ、それだったらちょっと…とまきは笑顔で聞く。

 ちょっと?なんですねん?と杉がぶっきらぼうに聞くので、二宮さんにはうちの花恵がついてますって一言言ってもらいたいんですよとまきはいう。

 それは千沙子の自由で、私の口出すとかよめへんでんなと杉はいう。

 そうして貰えば私は意地を捨てて「喜楽」も何もかも諦めるから…とまきが言うと、「喜楽」私買う取りますと杉は言い放つ。 ええ、あんたが買った?本当かねお杉…とまきは驚く。

 あんさん、お杉、お杉て気安う言わんといてもらいましょう、ここは私の店です、私の城ですねん、もうちょっと頭低く、下から出てもらいましょう、わかりましたか?と杉が言うので、なんだって、お杉、よくそんな口が聞けたね、娘を抱えて身を売ろうってあんたを、曲がりなりにも一端の女にしたのはどこの誰なんだい?みんな私たちじゃないか!とまきは言い返す。

 よ〜し、私も「春日」の娘で通ってるんだよ、覚えておいで!とマキが言うと、杉はうっすら笑う。 ふん、ええ歳して、娘、娘て、その顔が娘でっか?と杉は言い返す。

 まきは鬼の形相になると、悪かったね、何だいこんな掘建小屋にふんぞり帰って!もうお前なんか頼まないよ!と怒鳴りつけると帰って行く。

その時、女中雨が持ってきた豆が市の盆とぶつかり豆が散らばったので、豆まきすみましたで、落ち着いて帰っておくれやすと杉がいうと、豆の撒き方が足りないんだろ、そこに鬼が残ってるよ!とまきが言い返したので、おおきにと杉は礼をいう。

 大島に相談しにきていた小花は、どうなんでしょう?お金を返さないとどうしてもダメなんでしょうかと聞く。 

小倉って男と、その二宮君とが交わした契約の内容だからねと大島は冷静に答える

 先生、お願い、なんとかしてやってくださいと小花は頼むと、さあ、私お手に負えるかどうか、ともかくできるところまで調べてみようと大島は答える。

 先生、ありがとうございます、助かったと小花は喜ぶが、まだ喜ぶのは早いよ、君は好きなんだね、その人…二宮君とかいう…と大島が聞くので、先生にはいつもご迷惑ばかりおかけして本当にすいませんと小花は礼をいう。

いいんだよ、君はそうやってなんでも僕に相談かけてくれることだけで良いんだよ、僕は君のエキストラを取ったんだからねと大島はいう。

 互いにグラスに酒を注ぎ終えたので、先生乾杯!と小花がいうと、良し、その意気、その意気と大島は褒める。 

「みどり会温習会」会場 舞台では、小花が人形に扮して舞う「八百屋お七」の「人形振り」が始まっていた。 会場には杉も、すみとまきも見にきていた。 

芝居を終えた小花が着替えて廊下を歩いている時、曽我部の話し声が聞こえてきたので、足を止める。

 休憩室で曽我部が小倉に、パテントの方はこれで安心です、後は次の臨時総会で一気に社長を退陣に持っていくと話しており、その方は私が引き受けましょうと小倉が答えていたのだ。

 いやあ、岩井さんもあんたの腕には感心して貼りましたよと小倉が曽我部を持ち上げていたので、いや恐縮ですな、じゃあ、後ほど会場で…と言って曽我部は席を立つ。

 話終えた小倉は、廊下に立っていた小花が自分の方を睨んでいるのに気づ気、思わず立ち上がる。 その後、どう?じゃあ、岩井さんを呼んできますからねと、女将が小花に話しかける。 

そして部屋を出た女将はドアの鍵をかけたので、中にいた小花は閉じ込められたと気づく。 

しかし、一緒に部屋に残っていた男が、おかけくださいすぐお見えになりますと小花に椅子を勧める。

 その男は先ほど小倉と同じ控室にいた男だった。 私ちょっとと、小花が内戦を取ろうとすると、その受話器を抑えた男が、ま、ごゆっくりなさったらどうです?というので、小花はテーブルの前に巣に腰を下ろす。

 するとその男は、あなたも一杯いどうですなどと酒を勧めてきたので、そうね、いただこうかしらと小花もグラスを手に取る。 「岩井産業創立30周年 祝賀パーティ会場」

庭先には和服姿の女性客が多く、会場内も立錐の余地がないほど来客で混み合っていた。

 小倉を背後につけた岩井は来客たちに、頭を下げて回っていた。

 小花は酔った男からからまれていた。

おい、魚の方が良いぞ、このウィスキーはな、本場ものだ、足腰が立たんだろうと話しかけてくる。 

しかし小花は、冗談じゃないよ、こっちは酒を飲むのが商売ですからね!というと、あっさりてって店えった男も立ち上がるが、バカよ、そういうのを後で気がつくてんかん病みっていうのよと小花が挑発したので、何!と言いながら男は小花を寝室に追い詰めようとする。

 しかしあっさり身を交わした小花は内線電話の受話器を取ると、ボーイさんを呼んでちょうだいと頼む。 男はベッドのシーツに絡まって、ベッドの間に落ちてしまい動けなかった。

 その頃、「お好み焼き 美よし」から出てきて車に乗り込もうとしていた千沙子は、おい、ちょいと顔貸してくれないかと男二人に迫られ、なんでうちが顔貸さんとならんの?と無邪気に聞き返す。

 つべこべ言うんじゃねえよと脅かされ、ナイフをちらつかされたので、誰か来てえ!と助けを呼ぶと、ちょうど2人の仕入れ仲間と通りかかった善さんが気づき、なんて事するんだと助けに入る。 

それに気づいた見張り役の小柳明は千沙子誘拐の失敗を悟る。

 曽我部と共に車で会場に駆けつけた重松社長も、岩井に挨拶に来る。 

なんや今度君のところでどえらいものを研究しよったそうやなと岩井は重松に話しかける。

 もうお耳に…と重松が恐縮すると、聞いとる、聞いとる、おめでとう、どうやらこれで君は有名になれるっちゅうわけやと岩井は世辞を言う。

 は、お陰様でと重松も頭を下げる。

 そこに怖い顔でやってきたのは、石川と大島を伴った卓也で、どうしたんだ?と驚いた重松が、うちの研究所の工事長の二宮君ですと岩井に紹介する。 

この方が岩井さんとおっしゃる方ですか?と卓也が聞くと、わいやと岩井は答える。 

どうしたんだ君!と重松は、前に出てきた卓也を止めようとするが、小倉さん、あなたから500万円をお借りした時の契約は、内容が特許法に触れるんで、契約条項は一応無効だと認めさせていただきますよと小倉に言い放つ。

 無効?勝手なことを言うな!と小倉が居丈高に言うと、背後に控えていた大島が進み出て、無効です、あなたと契約した当時はこの方の研究対象を借金の担保にすることはできなかったはずです、つまりあなた方は大変無意味な融資をなさったわけですと説明し、ご異存があればいずれ法廷で説明しても結構ですと告げる。 

そんなら500万、現金でこの場で返す言うのか?と小倉が言い寄ってきたので、いずれ決着は必ずつけますと答えた卓也は、曽我部の方に向き直ると、専務、あなたを背任横領罪で告訴しますから、ご承知くださいと告げる。 

その話を聞いていた重松社長が、二宮君と声をかけると、社長、専務は岩井さんの手先だったんですよとタクヤが指摘したので、おもろいこと言いよるわいと岩井は笑うが、二宮君ちゅうたかな?ワイとこの男となんの関係があるっちゅうねん?君の一人合点と違うか?ワイはな、その辺のちっぽけな電気工場など目に入らんわと開き直ったので、岩井さん、逃げるんですか?と卓也が近づくと、いい加減にせい、小僧のくせに、ワイに文句があるんだったら新聞記者デンと集めて、その前で言うてみい、それだけの度胸と確信があるんかい!なんぞ証拠でもあるのか!証拠もないのにあんまり偉そうなこと言うもんやないで!え?ボンボン!とイキって来る。

 その時背後から、証拠なら私が持ってますよと声が聞こえる。

 悪いところへ出て参りましたねと小花は、岩井、杉、小椋の三人が固まったところに姿を見せる。

 女の出るところやない、連れてき!と岩井は杉に声をかけたので、とうさん…と杉は小花の前に出るが、私がいてはお困りになることがあるんですか?オリエントの社長さん、あなたの会社は早く手を打たないと、こちらに吸い取られてしまうんですよと重松に伝える。 

小花ちゃん、およしなさいよと邦子(岡村文子)が後ろから声をかけるが、良いの、ほっといてと黙らせると、私は見たり聞いたりしたことは黙っていられない性分なんですからといい、また岩井の前に立ち塞がる。

 そして二宮さん、こちらがよろしければ新聞記者をお呼びになったらいかがと卓也に声をかける。 

こちら三人さんお揃いで、あなたのご研究なさったもの全部奪い取る相談してらしたわと小花はぶちまける。

 じゃかましわい!ありもせんことごちゃごちゃいいよって!と岩井が地を出すと、目障りでしょうね、邪魔だからホテルに連れ込んでなんとかしようと言うおつもりだったのに、こうしてのこのこ出てくるんですからと小花は言い返す。 

おい、お前、ワイの顔汚すと、二度と身の立たんようにしたるで!と岩井が脅してきたので、ふん!やってごらんよ、富喜乃家の小花は意地で通ってる女ですよ、お金を積まないと女一人口説けないようなケチな人間とは違って、筋道立てりゃ火の中だって飛び込む女の肌を生まれてこの方ずっと磨き続けているんだ!何千万積んだってどうにもならないものが世の中にあるってことがお分かりですか?悔しかったら男の度胸ってものを選択して出直しといで!と小花は単価を切る。

ここまで言われると流石の岩井たちもぐうの音も出なかった。

 二宮さん、お分かりになったでしょうと言って帰ってゆく小花に、小花さん!と呼びかける杉は、岩井の前に来ると、先生、どうもと詫びるが、おい、ようあんな女をのさばらせとったな!と岩井は叱りつける。 

すんまへんと頭を下げた杉の頬を、アホ!と殴りつける岩井。

 すると杉も顔が凍りつき、やらはりましたな?私、あんさんに殴られるほど落ちぶれてしまへんでっせ、なるほど今度のことは私の自責もおましたやろ、でもあんさんのためにどれだけ働きをしたりよりました?私も大阪人です、夜の客も入りまへん、それが大阪人のど根性でごわすわと言い放つ。 

ああ、よっしゃ返してもらうわ、ワイも大阪もんやと岩井も言い返す。

その時、女将さん、お電話ですと女性が伝えにきたので、杉はその場から離れる。

 岩井さん、あなたがうちの会社を買収されようとしたのは私の研究のパテントを掌握されるためだったんでしょう?だとしたら今度の工作は完全に失敗されたはずです、この上、業界の調子を受けてここに踏みとどまるより素直に大阪にお帰りになった方があなたの名誉だと思うんですが…と卓也は忠告する。

 すると岩井は、ふん、ワイの負けやな、宜しい!せやけどな、ワイらもういっぺん、否何遍でも出てくるで、そう覚悟しててやと言い捨てて立ち去ろうとしたので、曽我部もその後についていこうとするが、それを止めた卓也は、専務、会社の連中の言伝があるんですよというので、何だ!と曽我部が威張ると、いきなり卓也は殴りつける。

 その頃、電話に出た杉は、へえ「遊亀」の杉です、え?あんた、え、千沙子が?と驚く。

電話の相手は「天麩羅 花恵」の店からまきで、何か不良に襲われたらしいんだけどね、ええ、大変な怪我でうんうん唸ってるわ、今救急車を呼んでもらっているところだけどね、え?ええ、うちで預かってますからね、迎えに来たかったらそれ相当の覚悟を決めてらっしゃいと言って電話を切るが、当の千沙子はニコニコ顔で店にいた。

 もしもし、もしもし、もしもし!と杉は受話器のフックを何度も押して焦っていた。

 カウンターに座った千沙子に、じゃあ、千沙子ちゃん、二宮さんのこと、思い切ってくれるの?とまきが聞くと、おばはん、うちも大阪っ子や、何や男の一人や二人、心配せんといて、向こうに帰ったらな、男鹿飯にもええ男五万と集めて小包で送ったるわと千沙子は明るく答える。 

それを聞いたまきは、いいぞ千沙ちゃんと褒め、東男に京女、あっしにもひとつとろ〜んとしたいとはん、待ってるよと善さんが言うと、年ちゃんが首根っこ掴んで善さんの鼻を指で弾く。 

そこに小花が帰ってきたので、待ってたんだよとすみが声をかけると、ちょっと遠くの間に呼び、心配してたんだよと伝える。 すみと二人になった小花は、私が帰るところは、やっぱりこのうちだけよと呟く。

 お前、二宮さんとなんかあったんだってね?あの方の会社のことで…、大島先生にお聞きしたんだけど…とすみが聞くと、ええ、でももうそのことは良いのと小花はいう。

 私が気がつかなくて悪いおっかさんだったね、お前二宮さんにご迷惑おかけしたんだって?これ持って行っといでと風間栄太の印がある大正銀行銀座支店発行の「五百万円の小切手」を差し出したので、お母さん、私もう諦めてるのと小花は打ち明ける。

 だってあんた、あの方が好きなんでしょう?とすみが聞くと、もういいの、私ね、お母さんと二人で幸せに暮らせたらそれで良いのと小花がいうので、すみは小切手を小花の手の下に置いたまま部屋を出ていく。

 その時、血相を変えた杉が店に来て、無事な千沙子を見て、千沙ちゃん!と涙ぐむ。 

千沙子も、お母ちゃんと呼びかけ、うち、このおばはん好きや、お母ちゃん、嫌いや!早う帰って!と言う。 

それを聞いた杉は、千沙ちゃん、堪忍やで、お母ちゃん、堪忍してなと詫びたので、おすぎさん、千沙子ちゃん、無事でよかったわねとすみは語りかける。

 杉は、ごりょんさん、堪忍しとくれやす、ワテが頭に乗りすぎましたんねん、ほんまに堪忍しておくれやすと反省する。

 そこに石川と小福と共にやってきた卓也が、おばさん、小花さんは?と聞いてくる。

 その声に気づいて小花が店先に出てきたので、さっきはどうもありがとうと卓也は頭を下げて礼を言う。 これ…と小花が小切手を差し出すと、何ですか、これ?と卓也は不思議がる。

 私がご迷惑をおかけしたんですもの、これで小倉さんに返済してくださいと小花が言うと、いや、いいんですよ、銀行の方にはもう話つけてあるんだしと卓也はいうが、それでは私の気が済みませんからと小花は無理矢理小切手を渡し、外へ出ていってしまう。 

それを見ていたまきは、二宮さん、男でしょう?と背後から小声で囁きかける。

 卓也は店を飛び出し、小花を探す。 すると小花が歩いていく後ろ姿を見つけたので後をつける卓也。 

それに黄ぢ手足を早めた小花だったが、卓也は先回りをする。

 立ち塞がった卓也に、まだ何か御用があるんですか?と小花が問いかけると、あなたにお礼が言いたかったんです、僕たちの研究もやっと成功しました、みんなあなたのおかげなんです、どうもありがとうと卓也は小花の目の前に立っていう。

 小花が、おめでとうございますと答えると、それだけ?と卓也はいう。

えっ?と驚く小花に、再びありがとうと卓也が言うと、私ってこんな女なんですからと小花はいう。

 すると卓也も、僕もこう言う男なんですと答え、三度小花と握手する。 

次の瞬間、二人は抱き合ったので、遠くから見守っていた石川と小福は驚いて後ろ向きになる。 

「オリエントTBS製作所・オリエント電機製作所」「新型M−3カラーテレビ完成記念祝賀会々場」

入場者の前の壇上に上がった重松社長は、本日はご来場くださいましてありがとうございましたと挨拶を始める。

 只今より、当社研究室で完成いたしました新型カラーテレビ第一号のテスト放送をご覧にい入れますという。

 石川が、壇上に設置されたテレビのスイッチを入れると、画面には小花が笑顔で登場し、すみ、まき、善さんなどが来賓席で見守る中、ビートビートの合いの手でたらぬ♩と歌い始めるのだった。 

来賓席には、杉と千沙子、大島なども座っていた。

 木の細道危ないよ〜♩と歌い終わると、会場中から万雷の拍手が起きる。

 ブラウン管の中の小花は、運転席に卓也を乗せた車の助手席に座りながら手を振ってきたので、すみ、まき、善さんたちも笑顔でテレビに向かって手を振るのだった。

卓也は赤い車のアクセルを踏み、スピードを上げると、また小花は歌を続ける。

 乱暴な運転を続ける卓也の車の後には、いつの間にか白バイが3台も追尾していた。




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