「快傑耶茶坊 前編 流血島の鬼」

石原裕次郎が鮮烈なデビューを飾った「太陽の季節」の1ヶ月前に公開された名和宏主演の珍しい時代劇。

 前編は1時間弱の中編になっており、後編との二部作仕立てになっている。

 東映が1954年の「新諸国物語 笛吹童子」から始め大ヒットした、子供向け低予算の中編二本立て路線に合わせたやり方だったのかもしれない。 

この時期の日活は、「事件記者」や「刑事物語」といった中編作品が多いし、何より本作の雰囲気が「新諸国物語」に近いので、子供層を狙っていたのではないかと感じる。

 ただ「新諸国物語」シリーズのようにファンタジー要素があるわけではないので、いきなり主人公の若者が薩摩藩相手に孤軍奮闘し勝ち続けるという展開に無理を感じないではなく、空手の名手とか特技があるのならともかく、剣を持った薩摩侍と素手で戦うなど荒唐無稽の何者でもない。 

空手チョップで敵を倒すのは、当時ヒーローとして人気があった力道山をイメージしたのかもしれない。

タイトルからの連想なのかもしれないが、主役キャラが、単なる無茶しかしない考えの浅い形がでかいだけの坊やにしか見えない部分があり、知恵がないのが魅力につながらなかったのかも。

 主演の名和宏さんもそれなりのイケメンとはいえ、中村錦之助さんのような瑞々しさや、大友柳太朗さんのような凛々しさは感じられず、やや癖が強い風貌ということもあり、もう一つ人気が出なかったんではないかという気はする。

 まだ真牛役の明智三郎(明智十三郎)さんの方が、やや線は細いが主人公風の風貌ではないかと感じないでもない。

 監督の丸根賛太郎さんは、戦前の日活におられた方のようで、黒澤明脚本、片岡千恵蔵主演「土俵祭」(1944)などを監督されているが、戦後はテレビ実写版「鉄人28号」などを作られたことで知られている。 

この前後編を撮られた後は、新東宝で「怪傑修羅王」という明智十三郎さん主演映画を作られているので、この段階で日活を離れフリーになられたのかも知れない。

 石原裕次郎や小林旭の現代物が主流になると、時代劇が得意な監督の需要はなかったはずだから。

 劇中、丸に十字の「薩摩藩の旗」が出てくるが、東映の「快傑黒頭巾」では正義の味方黒頭巾が薩摩藩士山鹿弦一郎という設定なので、薩長は善のイメージがあるだけに、悪役設定になっている本編を見ると複雑な気持ちになる。

 安部徹さんが悪役風に登場するので、この頃から悪役だったのかと思っていたら、途中で薩摩侍に髷を斬られ、大泣きする珍しいカットがあったりする。

 河野秋武さんが悪役の中核なのだが、やや小粒に見えなくもないが、なかなか陰湿な雰囲気を醸し出している。

 ナレーションで話が進行していくので、何やらダイジェスト版を見ているような感じがしないでもない。

【以下、ストーリー】

1956年、新納進原作、神楽四郎脚色、丸根賛太郎脚色+監督作品 

タイトル

 棕櫚の草を背景にキャストロール(起こし文字で)

 地形を盛り上げた立体的な日本地図の九州からカメラが下がり… 奄美大島のテロップ

 波打ち際の映像に、「慶長14年ー早春」のテロップ 奄美は貧しいながら平和な島であった…(とナレーション) 

小舟を浜辺に運んだ耶茶坊(名和宏)は、背後から思益(島秋子)が兄様~!と背後から呼びかけるので、振り返ってみると、真牛(明智三郎)が来たことに気づき、真牛!とうとう帰ってきたな!と言いながら喜んで手を取り合う。

 嬉しいか?イマ…、琉球の女は色好みじゃから、真牛を放っておくまいとヤキモキして…などと冗談をいうので、嘘!真牛は学問をしに琉球に行ったのじゃ、兄様のように遊んでばかりはおりませんと思益は言い返す。

その学者が油断ならんのじゃと耶茶坊は笑って言う。 

そんな兄の妄言に、なんとか言って、真牛…とすがるように言う思益だったが、真牛は、お主はちっとも変わらんのう、2年前と…と耶茶坊に言う。 

そうかな?と笑った耶茶坊だったが、そうですとも、兄様はなりは大きくなっても心は子供じゃ、意見してください、真牛と思益はいう。

 わしの意見より、イマの意見の方が耶茶には答えようぞと真牛はいい、3人は愉快そうに笑い出す。 

ある日、草刈りをしていたイマ(南寿美子)が、気もそぞろ風だったので、一緒に作業していた母(相馬幸子)が、どうしたイマ?と聞く。

 おっかさん、お昼の支度は?と今が聞くので、まだ早いぞえ、お天道様を見やと母親が答えると、イマはつまらなそうに作業を続ける。

 さらに、おっかさん、水を飲んできて良いかい?とイマが聞くので、今飲んだばかりじゃのに…と母は呆れる。

 しかし、イマの目的が分かったのか、行ってこい、イマ…と母は笑顔で話しかけると、大きな小鳥が呼んどるげなと母は笑う。

イマは笑顔になり、ありがとうおっかさんと礼をいう。

ヤーちゃん!ヤーちゃん!とイマは誰かを探して呼びかけるが、いたずら心から耶茶坊はイマに見つかるまいと、小屋の反対側に身を隠していた。

 そっとイマの背後に近づき、肩を掴むと、会いたかったと抱き合う。 

もう帰らねば…とイマが言うので、なぜそう急ぐと言いながら、耶茶坊は強引に座らせる。

 イマは、まだ仕事中だからと伝えるが、後で鉄道てやろう、3倍にも4倍にも捗るくらいと言いながら耶茶坊は今を抱きしめる。 

おっかさんが…とイマは案じるが、大丈夫、今に仲人が行くと耶茶坊は言う。 えっ!とイマが驚くと、婚礼じゃ、耶茶とイマ、真牛と思益、同じ日に婚礼をするのじゃと耶茶坊は笑いながら伝える。 

耶茶!とイマがまた抱きつくと、喜んでくれるか?と耶茶坊も笑顔でイマを抱きしめたので、まるで夢のようだ…とイマはうっとりする。

でもイマのような貧しい父のない娘が…と言い出したので、何の!鶯のように歌い、山桜のように人を惹くイマと結婚できる耶茶は、島一番の果報者じゃと言い返す。

 まあ!とイマは感激し、琉球の王だとて大使だとて耶茶が羨ましかろうと耶茶坊は自慢する。 

それを聞いたイマは、耶茶!とまた呼びかけてしっかり抱きつきながら横になるのだった。

 その頃自宅で、どう真牛?と着物を着た思益が問いかけると、綺麗だ、思益と真牛は答え、思益、わしは幸せだ、琉球の宿の夢で何度思益に会ったことか…、だが今日ほど美しい思益には会わなんだ…と言いながら肩を抱く。 

そう聞かされた思益は感激し、真牛!と言いながら抱きつく。

 しかし思益は、でも兄の石をもらわなければ…、間に合わなかったらそれこそ猪のように怒るでしょうと笑いかける。

 それえも真牛は、構わないよ、思益と笑顔で答えるので、ま、しようのない真牛と言いながら、キスをしようとする思益だった。

 そこへ耶茶が帰ってきて仲睦まじい二人の様子を目撃し、真牛が耶茶!と呼びかけたので、耶茶坊も笑って近づくと、真牛、お主が久しぶりに帰ってきたんじゃ、今夜はみんなで祝いの酒盛りをやろうぞと提案する。

 その夜は村中こぞって主演が行われ、焚き火の周囲を囲んだ女性たちが、島の守り宮の神よ、清めたまえよ我が島を~♩という思益が歌う歌に合わせて踊っていた。 

その周囲を取り囲んだ島民たちが酒を飲みながら楽しげに見学していた。

 その時、やい!止めろ!止めんか!と言いながら、酒壺を片手に酔っ払った猪の熊(安部徹)が乱入し、お前ら、何が嬉しくて踊っとるんじゃ!と因縁をつけてくる。

 踊りの娘たちが逃げ惑う中、おら、可愛がってやるぞと一人の娘を捕まえて抱きつこうする猪の熊だったが、逃げてきた娘を庇うように突如立ち上がった耶茶が、迫ってきた猪の熊と組み合い始め、一本背負で投げつける。 

すると猪の熊は、親の威光を笠に着るな!親父の耶太加那が村の長だと思って図に乗ると承知しないぞと憎まれ口を叩いてくる。

 耶茶は笑い飛ばし、猪の熊、文句を言わずにかかってこい!と挑発する。 

なんだと~一といきりたった猪の熊が飛びかかってくるが、耶茶は何度も投げ飛ばすのだった。 

周りの村民たちは、面白がって耶茶を応援する。

 その時突然、近くに大爆発が起きたので、みんな悲鳴をあげて逃げ出す。 

周辺だけでなく、近くにあった小屋まで吹き飛んだので、村民たちは逃げ惑う。

 海に浮かんだ船三隻から砲撃を受けていたのだった。 やがて、波打ち際についた小舟から大勢の侍が上陸してくる。

 こうして平和な海の島奄美に対して、鹿児島藩の侵略が開始された。(とナレーション) 

逃げ惑う島民たちを次々と斬り捨てていく侍たち。 村の家は火が出て巨大な火炎となって夜空を焦がす。 

この不幸な斟酌と非道な殺戮を生き残った全島民は、村の長、耶太加那(片桐常雄)を中心に総力を結集、決然と起って反撃に出た。(とナレーション) 

良し!命を捨てて、島を守ろう!と耶太加那は島民たちに呼びかける。

 夜中焚き火を囲んでくつろいでいた薩摩侍たちを襲撃する耶茶や猪の熊たち島民。

夜明けの海辺で戦う耶茶だった。 全島民必死の反撃にさしもの薩摩藩もたじろいたか、和の手を差し伸べ、自治を許すことを訳したのである。(とナレーション)

 浜に陣取っていた薩摩の代官新殿作之助(河野秋武)は、挨拶に来た耶太加那を前に、耶太加那とやら、島民の出迎えぶりはなかなか見上げたものじゃと感心したので、恐れ入ります、島を愛し、島を守らんがために一同必死でございましたと耶太加那は答える。

いやあ、武士も及ばぬ懸命さにはほとほと感じ入った。

これよりは過去の一切の蟠りを捨てて仲良く手を結ぼうぞと新殿は申し出たので、本当に自治をお許しくださいますか?と耶太加那が確認すると、新殿は笑って、武士に二言はないと答える。 

さ、若いの盃を…というと、まずは新殿は注がれた酒を口にし、その盃を耶太加那に渡す。 

怪し見ながらもその盃を口にしようとした時、いきなり背後にいた荒川三十郎(澤村國太郎)が耶太加那の背中を槍で貫く。 

これには同伴していた長老裟蕪呂長者(瀬川路三郎)たちも腰を抜かす。

 薩摩侍どもは、怯えた大親(殿山泰司)ら同伴者たちの前に来ると、あくまで逆らうならあれを見ろ!命はないぞ!と耶太加那の死体を指して脅かす。

 裟蕪呂長者は平伏し、決して手向かいは致しませんと答える。 

それを見てほくそ笑む新殿作之助。 一方、自宅に運び込まれた耶太加那の遺体を前に、思益は泣き崩れ、耶茶も真牛も悲しみに沈んでいた。

 耶茶は思益に嘆くなと声をかけ、最後になったらこのままにしておかぬ!と憤る。 

それを聞いた裟蕪呂長者は、待て耶茶、耶太加那はみんなの代わりに死んだのじゃ、2度とこのようなことが起きないようにしなければならんと言い聞かそうとするので、裟蕪呂長者、俺は泣き寝入りは嫌だ、真牛、力を合わせてやろうぞと声をかけ、真牛もうんと答える。 

翌日、項垂れている仲間たちの前に座っていた猪の熊は、クヨクヨするな!と叱りつける

。 薩摩侍の十人や20人、いざというときは俺一人で引き受けてやるわい!と威張っていたが、そこに薩摩侍がやってくると、流石に猪の熊も怯える。 

こりゃ!その大口をもう一度叩いてみろ!と薩摩侍に命じられた猪の熊は、その場に平伏するが、おい、その面を上げろ!と言われると、恐る恐る顔を上げるが、その場で髪の髷を斬り取られてしまう。

 薩摩侍たちは笑ってさってゆくが、残された猪の熊は、大声で泣き出してしまう。

今や奄美は、完全に薩摩藩に征服された。

 そして裟蕪呂長者の屋敷が代官所として接収され、新殿作之助を長とする数十名の薩摩侍によって全島が支配されることになったのである。(とナレーション)

馬でやってきた新殿作之助を屋敷の階段の前で待ち受け最敬礼する裟蕪呂長者や大親。

 その方儀、忠勤を抜きんで奄美特産砂糖の上納を怠らず、なお折に触れ、貢物を奉らん御上に置かせられてもご満悦であると、新殿は屋敷内で土下座する裟蕪呂長者に上から目線で言葉をかける。

 よって、その功にに愛で、横目役を仰つけられ、全島の砂糖生産を裁量せしめられる。

ありがたく受け入れいたせという。

ははっ、身に余るお言葉、お礼の申し上げようもございませんと裟蕪呂長者は礼をいう。 

その背後に控えていた猪の熊は、裟蕪呂長者、お代官さまを除けば、島一番の親方様じゃとお世辞をいい、笑って見せたので、新殿も、めでたいのう、裟蕪呂…と声をかける。

ははっ、お陰をもちましてと頭を下げた裟蕪呂長者は、では皆様に、島一番の焼酎と娘たちを味わっていただきましょう、どうぞ十分にご賞味くださいませと申し出るが、そのとき、新殿は、待て!その前に話があるとニヤつきながら言い出す。

その後、新殿と二人きりで対面した裟蕪呂長者が、お話とおっしゃられますとと怯えつつ聞くと、いや、大したことではない、御上の身代わりになれと申すのじゃと新殿は切り出す。

 命を投げ出せというのではない、島民たちの恨みをその方一心に引き受けいと申すのじゃというので、裟蕪呂長者は、えっ!私が?と驚く。 

下賤の身から島一番の長者に成り上がったそのほうが、今更島民たちの恨みを買う事を恐れもすまいが…と新殿が言うので、はい、しかし何をしますので…と裟蕪呂長者が聞くと、今後島中のサトウキビは全部藩でお買い上げになる、1本たりとも私するものは死罪にするのじゃ、それをその方の責任で取り締まり摘発するのじゃ、良いかの?裟蕪呂…と新殿は言い渡す。 

江戸将軍家は薩摩を目の上のコブにしておられる、よって薩摩の力を削ぐために、色々なお役を命じられ、毎年莫大な御出費が続いておる、これを償うためには奄美の砂糖を売る以外にない、裟蕪呂!しゃにむに砂糖の出来高を増やせ!島中をサトウキビの畑にするのじゃ!御上のためにな…と新殿は言い聞かせる。

 これに対し裟蕪呂長者は、島人の恨みなど恐れはしませんが、せめてうちのものに刀などを持たせてはいただけませんか?乱暴な馬鹿者もおります故と申し出る。

しかし新殿は、心配無用、そのために我らがついておる、荒川三十郎、名越作左衛門、寺師主水、みななうての使い手じゃ、安心して思いのままにやれ!という。

お堅い話はこのくらいにして…と裟蕪呂長者がいうと、うん…と新殿も承知したので、裟蕪呂長者は手を叩いて、酒と女を呼び寄せると、自分は席を立ち、さ…と女に勧め、女が新殿にテーブルに酒と魚を置くと、良いなといい含め、自分だけ立ち去る。

 一人きりにされた女に、新殿は女、寄れ!と命じ、名前は?と聞くので、真鶴(東恵美子)と答えるといきなり手を握られ抱き寄せられる。 

何をなさいます!と真鶴が身を離すと、怖がることはないと言いながら、新殿はまた抱き寄せようとする。

 他の薩摩侍たちも、酒と女に酔っていた。 

そんなある日、耶茶坊は、父を殺した荒川三十郎と出会う。

 耶茶が身を避けると、こら、土下座しないか!とすっかり薩摩侍の子分と化していた猪の熊が叱りつけてきたんで、やむなく土下座する。 

猪の熊はその姿を見て笑い出すと、こやつ、貴方様たちに歯向かって殺された耶太加那の息子でござりまするぞと告げ口をする。

 それを聞いた荒川は、こりゃ頭が高い、お前の首の骨はそれほど堅いのか?などと言いながら、鞭で首を押さえつけてくる。 それでも頭を下げぬ耶茶坊の首を足で踏みつけてくる。

 そして、親父よりはよっぽど利口だわいなどと荒川は吐き捨て、全員で笑って去ってゆく。

 ある日、代官所から薩摩侍が6人、薩摩へ戻ることになり、見送る荒川が、うん、国元に着いたら御家老にくれぐれもよろしく伝えてくれと声をかける。

 6人の侍が海辺へ向かう中、背後に飛び出してきた頭巾を被った耶茶が、待て!と呼び止める。

 貴様、何者じゃ?と侍から聞かれたので、俺は耶茶だ、父の仇を討ちにきた!と答えると、侍たちも、何!と息巻き全員刀を抜く。

戦いの最中、耶茶を短筒で狙う侍がいたが、その背後から駆けつけてきた真牛がそれを阻止する。

 耶茶は、真牛が侍を切り捨てたのに気づくと、自分も敵を倒し、駆けつけた真牛に、すまなかったと礼をいう。

しかし真牛は、軽はずみな真似は良せ!と叱って来たので、父の仇を討つのが何故悪いんだ?と耶茶は聞く。

 すると真牛は、耶茶、お主一人の力で薩摩を打ち倒せると考えるなら思い上がりも甚だしいぞというので、引く王も飲め、お主の助力はもうたのまん!と耶茶も言い返す。

 知らせを聞いた新殿は、耶茶め、やりおったな…というと、三十郎!と呼びかけ、見つけ次第討って取れ!と命じる。

 荒川はその後、猪の熊の案内で耶茶の家にやってくると、ちょうど機織りをしていた思益に、美しいなとちょっかいを出し、おい、なぜ、屋敷に引っ張って来んのだ?と猪の熊に聞くと、アザミのように棘だらけの女なんで…と猪の熊は笑いかける。

 何?棘だらけ…と聞いた荒川は、そりゃ面白いと喜び、うん、こりゃ娘、こっちを向けと無理強いする。

 何をなさいますと思益が抵抗すると、どうじゃ娘、屋敷に来んか?可愛がってやるぞと色目を使ってくる。

 しかし思益は、お断りします、そのような穢らわしいお話は聞きたくありませんと拒否する。

 何!嫌か?おいっ!と無理強いしようとした荒川だったが、思益は立ち上がり、毅然としているので、なるほど、こやつ兄貴よりよっぽど骨があるわと苦笑したので、こら!逆らうとタメにならんぞ!と猪の熊が思益を抱き寄せよると、荒川に方へ投げつけ、荒川は他の侍に思益を投げつけ、弄び始める。 獣ののようなことはおやめください!と思益が叫ぶと、望みなら獣になってやっても良いぞとと荒川はいうが、その時、止せ、三十郎と寺師主水が止める。

 それに気を取られた荒川が手を緩めた隙に思益は屋敷の方へ逃げ出したので、荒川は後を追い、また捕まえようとすると、思益は自らのかんざしを抜いて構える。

 荒川は、手向かいすると斬るぞ!と脅すが、奄美の娘はお前たちのような犬には従わぬ! 何!と怒った荒川は、刀に手をかけたので、待て!と主水が止めるのも聞かず、一刀の元に思益を斬り捨てる。

 主水は、斬らんでも良いものを…と諌めるが、我らには向かうものは皆この通りじゃと言いながら、荒川は刀の血を拭うと、笑いながら去ってゆく。

 猪の熊は流石に気まずそうだったが、やむなく一緒に立ち去る。 思益は、真牛の名を何度も呼びながら息絶える。 

後刻、思益の遺体と対面した真牛は、思益!とその手を握って嘆くしかなかった。 

イマとその母親が、思益の花嫁衣装を布団の上からかけてやる。 

イマは、思益!何故死んだの?愛しいやの〜、不憫やの〜、夜も寝ずにいそいそと織った衣装が死出の晴れ着になってはの〜とイマの母が言うので、列席者も泣き出す。

 その場にいた裟蕪呂長者は、真牛よ、いくら悔やんだところで、怒ったところで、死んだものが生き返るわけではなく、ま、諦めることじゃな…と声をかけたので、真牛や列席者たちは驚いてその顔を見る。

バツが悪くなり、立ち上がって帰りかけた裟蕪呂長者は、そこに耶茶が戻ってきたのとぶつかったので、耶茶!不幸なことだじゃが、殺された方にも何か落ち度があったのじゃろう、一時の怒りに駆られて我を忘れんようにな…と言い聞かせ、帰ってゆく。 耶茶!と真牛が声をかけた中、思益よ、俺が家を開けたのが悪かった、俺さえいたらこんなことにならなかったのに!と、耶茶は妹の遺体に話しかける。

 すると真牛が、耶茶!何もいうな!というので、真牛、お父っつぁんばかりか妹まで殺されて…、俺はもう我慢できぬ!思益よ、敵は必ず討ってやる!と言いながら立ち上がったので、耶茶!と真牛はその手を握って止めようとする。

 耶茶!お主一人で戦う気か!相手は大勢の薩摩侍、裟蕪呂の爺もついてるぞと真牛が言い聞かせると、分別も時によるぞ、真牛!思益が殺された、もう二度とこの世には帰って来んのだ、恨めしいはないのか、口惜しいはないのか、真牛?と耶茶は問いかける。

 耶茶!一つ間違えば、島全体に禍がかかるのじゃと真牛はいうが、何の!俺たちが命を捨てれば済むことじゃ!と耶茶は言い返す。 それでも真牛は、落ち着いてくれ、耶茶…と宥めると、お主があれほど愛しがったのは思益の姿形だけか?死ねば、思益への想いも跡形もなく消えるというのか?と耶茶は問いかけ、真牛が口ごもると、バカ!と言いながらビンタをする。 

イマやイマの母、列席の村民たちが耶茶坊!と止める中、耶茶はその場から出ていく。

 ある日、荒川は、子供と一緒にいる島民に、放せ、子供をと脅しつける。

父親の島民は、お許しを、どうぞ、お許しを!と命乞いをするが、黙れ!砂糖1本でも私すれば死罪と余も知っておろう?と荒川が言うので、しかし、子供が遊び呆けて茎1本くらい折っただけで…と父親は反論する。 

しかし荒川は、見逃せばワイらは子供にかこつけてまた盗みを働くわと言いながら、子供の襟首を掴んで引き剥がそうとするので、これからしません!と父親は息子を抱きしめようとするが、一緒に斬るぞ!と荒川が脅した時、待て!と現れたのが耶茶で、無礼な!と荒川が睨むと、父と妹を殺したのはお前だな?と耶茶が聞くので、それがどうした?と荒川が聞き返すと、鬼め!地獄へ帰してやるぞ!と耶茶は言い、逃げろ!と父娘に言い聞かす、素手で荒川たちと戦い始める。

 仲間の侍を倒し、最後には荒川のひたいん空手チョップを見舞って倒す耶茶。 

三十郎ほどのものが一太刀も浴びせずにやられたと言うのか…と、裟蕪呂長者と猪の熊から報告を聞いた新殿は驚く。

 油断したのでござる、島民と侮って…と、お供の侍はいうが、新殿は三郎と呼びかけ、耶茶は島一番の人気者だというがときく。 

いえ、父耶太加那の七光で…と裟蕪呂長者が答えると、たわけ!無手で恐れられた侍を殺したのじゃ、土民ども、腹の中で手を打っておるわ、御上の御威光が落ちるばかりか、不平不満の枯野に火がつくようになるかもしれんと新殿は案ずる。

 つきましては島の若者の中に、耶茶に勝るとも劣らぬ強いやつがおります、それが是非お役に立ちたいと申しておりますが、お会いくださいますか?…と裟蕪呂長者が教える。

 新殿は、うん、呼べ!と答えたので、はい、では…と言い、裟蕪呂長者は猪の熊に呼びに行かせる。 猪の熊に呼ばれ顔を出したのは真牛だった。

 新殿の前に進み出た真牛を見た裟蕪呂長者は、この男でございますと紹介し、運と答えた新殿が名は?と聞くと、はい、真牛と申しますと答える。

 お役に立ちたいということだが?と新殿が聞くと、はい、耶茶の行いには島民たちみんなが迷惑を感じていますと答えたので、うん、それで?と新殿が先を促すと、耶茶一人のために島全体に禍が降りかかるのを見るに忍びません、私めに、耶茶討ち取りの役目を仰せつけくださいませと真牛は願い出る。 新殿は面白そうに、うんと答える。 

そんな中、イマと再会した耶茶は抱き合いながらも、人を殺した、俺は…と打ち明ける。 しかしイマは、いいえ、敵討です、あんな悪い侍、みんな喜んでいますと答えたので、知っているのか、もう?と耶茶は驚く。 

イマは、ええ、薩摩侍や裟蕪呂の家来があなたを探しています、さあ早く逃げて!というので、逃げるんならイマと一緒じゃ、琉球へ行こうと耶茶は答える。

しかしイマは、いいえ、琉球へだって、薩摩の手は伸びますと言うので、そんならもっと遠くの南の島へ逃げよう、イマ!と耶茶は迫る。 

でも、おっかさんが…と今は言うので、後で迎えにくれば良い、こんな地獄にお前を置いて行けようかと耶茶が言うので、イマも歓迎して抱き合うが、そこへ薩摩侍たちが近づいてくる。

 侍が、耶茶、覚悟せいと言うと、斬れ!と配下の侍達に命じたので、耶茶は素手で応戦するが、イマは侍に連れ去れれてしまう。

 耶茶は、イマ!と予備家けるが、今を捕まえた侍は、手向かうと斬るぞ!と刀をイマの前に出し脅してくる。

 イマは、耶茶!私に構わず逃げなさい!と呼びかけると、イマ!必ず助けに行くぞ!と耶茶も叫び返し、薩摩侍たちを打ち倒してゆく。 

事情を聞いた新殿は、もはや一刻の猶予もならん、土民どもを駆り出せ!全島草の根を分けても耶茶を探し出すのだ!と命じる。

 捕らえ次第、見せしめに逆さ吊りにしてくれるわと新殿は吐き捨てる。 

かくして耶茶打ち取りのために大掛かりな山狩が始められた。(とナレーション)

 薩摩侍たちが鞭を使って、島民たちをこき使っていた。

そんな中、猪の熊も参加していた一団では、どこに行くんだ、猪の熊さん?と不審がるものがおり、猪の熊が遠ざらしの山じゃと答えると驚く。

 何をしてるか!と侍が起こると、島民たちは全員跪き、遠ざらしは神様でございます、荒らすと祟りを受けますると言うので、猪の熊は笑い飛ばす。

 祟りとはなんだ!と侍が聞くと、小山だけはご勘弁を!お願いでございますと島民たちは全員平伏して頼む。

 貴様ら、遠ざらしの神と薩摩の祟りとどちらが恐ろしいか?行け!行かんか!と急かすが、先頭を登っていた猪の熊は、そこにいた耶茶と出くわす。

 耶茶は短剣を抜き、棒で打ち掛かってきた猪の熊をいなす。 さらに薩摩の侍たちが斬り掛かってきたので、また一人で戦い始める。 

さらに山の上に逃げた耶茶だったが、薩摩侍の銃で撃たれ、崖から海に真っ逆さまに落ちてしまう。

 その後、耶茶は、忍び装束の男に小舟で鍾乳洞の中に運ばれていた。

 洞窟の奥の焚き火のそばに身を横たえさせられた耶茶の頭の上には、「耶茶よ、勇気を笑うな 髪の守護より」と書かれた置き手紙が置かれていた。 

その後も、イマも含めた島民たちは、薩摩侍たちの奴隷としてこき使われていた。

 イマが、食事を男に差し出すと、食べてくれ、わしはもうダメじゃと、男は茶碗を戻してくるので、そんな心細いことを言わずにお食べよとイマは勧める。

いや、マシはもう死んだ方がましじゃと男はいう。 

その隣にいた女も、生まれ変わってくる時には鳥になりたいのうとぼやくと、その隣の男もうんと同意する。

 それを聞いていたイマは、いいえ、耶茶坊がきっと助けに来てくれるよと話しかけると、男も女も、耶茶坊が!と期待するような表情でいう。 

イマは、ええ、耶茶坊はみんなの不幸せを黙ってみてはいないよと涙声で訴える。 

その時、自分の名を呼ぶ声がしたので、周囲を探したイマは、母親がいることに気づき、おっかさん!と呼びながら駆け寄る。 

母は懐から餅を取り出すと、お食べ、さぞお腹が空くだろうと差し出すと、ああ愛しや…、奴れて…と娘の顔を撫でて嘆く。

 おっかさんこそ、イマがいなくなったばっかりに…と母を案じるので、いや、わしは、村の衆が親切にしてくれるので心配ないが、イマよ、いくら気にかけてもの、お前を買い戻す力がない、許しておくらと母は嘆いて泣き出す。

 そんな母親に、おっかさん、イマはどんな目に遭っても負けぬから、それより耶茶坊のこと、何か聞かないか?とイマは尋ねるが、何も答えないので、聞かないの?噂一つも…とイマは落胆する。

 気を落とさないでおくれと母が言うので、おっかさんもしや?とイマが聞き返した時、突如姿を現した猪の熊が、婆あ、何をうろうろしている!と叱ってきたので、はいと頭を下げながら、イマ、体に気をつけてなと言い残し、母は立ち去ってゆく。

 猪の熊は、イマが持っていた餅も取り上げ、何だこれ?というと、今を元の場所の方へ押しやると、餅を自分で食い始める。

 ある日、部下を伴い馬で村にやってきた新殿は、土下座をして出迎えた村民に、古関!と呼びかける。

 サトウキビの収穫はどうじゃ?前にも摂し、相違ないな?と確認してくる。

 はい、この通りでと古関が書状を取り出すと、良し!と納得した新殿は、三郎、元帳と照らし合わせろと命じる。

 裟蕪呂長者は古関に、それをもってこいと声をかけると、真牛を呼び寄せる。

 帳簿を開け!と命じ、元帳と照合し始めた真牛を見た島民たちは、真牛だ!と気づく。

 真牛め、犬になりよった…と嘆く。 

その夜、イマが舞いながら、島民たちが、めでたい、めでたいと祝い歌を歌い始める。

 すると、うるさい!こら!何を浮かれとるんじゃ!と猪の熊がイマの腕を捕まえて怒鳴りつける。

 するとイマは、今日はみんなの嬉しい日なんだよと答える。 ええ?何が嬉しんだ!と猪の熊がさらに聞くと、猪の熊さん、今日は耶茶坊の誕生日だ!と島民が答える。

 何だと!と睨みつけてきた猪の熊は、いった男の胸を棒で小好きながら、二度とその名を言うてみい!明日のお天道様は見させんぞ!わかったか!と参加者一同を恫喝すると、貴様も貴様だと言いながら今を捕まえて突き飛ばすと、およしよ、猪の熊さんと声をかけてきたのは真鶴で、話があるんだよ、イマ…、私はお前が妬ましい、こんなに汚れてもやつれても、イマの美しさは消せないんだもの…、こんな衣装を身に纏ったなら私など足元にも及ばないだろうね、なぜ強情を張るのかい?裟蕪呂長者の言うことさえ聞けば、ここから出られるのじゃ、裟蕪呂長者顔代官にとりなして、おっかさんと一緒に住まわせてくれるのじゃと言い出す。

 あの強欲な裟蕪呂長者が、イマには若者のように身を焦がしているとまで言うが、イマはここの方が良いというと、仲間の元へ戻ったので、真鶴は後で悔やまねば良いがと薄笑いを浮かべる。 

その夜、馬小屋のそばでみんなが寝ている中、イマの歌声が聞こえる。

 それに気づいた猪の熊が、見張り役の薩摩侍たちに会釈して小屋に近づくが、そこにやってきたのが頭巾をかぶって刀を差した耶茶だった。

 耶茶はそこに潜んでいた真牛と遭遇し、馬鹿もの目が、こんな危ないところに何しにきたと問われる。 

イマはどこにいる?と耶茶は聞き、真牛の視線からコヤにいることに気づいて近づこうとすると、すぐに真牛に押し戻され、だから馬鹿者だと言うのだと叱られる。 

こんな厳重な囲いの中から、易々とイマを救い出せると思うのか?と真牛が言うので、お主は俺に手助けしないつもりか?と耶茶は驚く。

 すると真牛は笑いだし、わしは裟蕪呂長者の帳付け役じゃと教える。 

真牛!と耶茶が驚くと、帰れ、一度だけは見逃してやると真牛が言うので、敵になったのか!と耶茶が聞くと、とも思わんといったのはお主だと真牛は言う。

 思益は死んで幸せじゃと言い捨てた耶茶は、退け!と真牛を押し除けようとするが、待て!帰れといったら帰れ!と真牛は押し戻そうとする。

 それに気づいた裟蕪呂長者が、耶茶だ!と騒ぎ出したので、護衛が駆けつけてくる。

 イマ!イマ!と耶茶の呼ぶ声に気づいたイマと村民たちもざわつきだし、小屋を飛び出すと、耶茶!耶茶と声をかける。

 そこにいた猪の熊は、こら!お前らは引っ込んでろ!と島民たちを小屋に押し戻す。

 一人戦っていた耶茶に気づいた新殿は、配下の者たちに逃すな!と命じる。

 屋敷前の階段をお下りたところで、屋敷から出てきた三人の銃撃隊に撃たれた耶茶は、その場に倒れ込むのだった。 

「流血島の鬼 終」


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