「御存じ快傑黒頭巾 危機一発」
シリーズ第三弾だが、このシリーズの三作目までは全部同じ年に公開されていることから、その人気ぶりが窺える。
この手の初期作品を見ると、だいたい原作の内容が理解できるのだが、舞台背景は幕末の日本ではあるが、新撰組を新徴組と言ったり、人物名や組織の名前などはアレンジしてあり、あくまでも架空の幕末ということがわかる。
毎回、黒頭巾の様々な変装はお約束だが、今回の変装の中にはメリケン紳士なる外国人も加わっており、西洋剣を使ってのフェンシングのように新徴組と戦うアクションは珍しい。
鞍馬天狗といい黒頭巾といい、鉄砲という飛び道具を使って敵と戦うのは、坂本龍馬などが拳銃を使ったというエピソードあたりからの発想なのかもしれないが、時代劇として見ると「卑怯」な気がする。
また、黒頭巾が口笛で白馬の「白」を呼び寄せるシーンなどは、後のテレビ時代劇「白馬童子」の「流れ星(馬)」に通じる原点のような気もする。
軍艦を手に入れるための脅しの手段として子供の誘拐ネタが話のメインになっており、子供が敵の手に移ったり、味方の手に渡ったりというのがサスペンス要素になっており、それに加えて、艶歌師の三木助が女性にモテすぎるというのが合わさって、さらにサスペンスを盛り上げる展開がユーモアたっぷりに絵が描かれるのだが、子供を長家という人目につきやすい場所にわざわざ保護し、親元に戻さない黒頭巾側の判断にも疑問を感じるし、男女の色恋沙汰は、子供の観客からすると退屈なだけではないかと言う気もする。
この当時の作品は低予算子供向け映画ということもあり、手前はセットでも背景などは書き割り(絵)が多用されている。
一松を演じている植木千恵という子役は、片岡千恵蔵さんの娘さんらしい。
ご都合主義の連発と言ってしまえばそれまでだが、クライマックスの展開はあまりに急すぎてついて行かない部分があり、渡海屋から子供と娘を誘拐した人物は、どうやって六甲の山荘にまで辿り着いたのか訳が分からなかったりする。
ぬけ六たちが馬車で到着するより早く山荘に着いているのだから、同じような馬車を用意していたとしか考えられないのだが、劇中では何の説明もない。
ラストも年増の深情けと泣き落としという、子供にも大人にもわかりにくいだけでなく、退屈なだけの要素が入っているので、爽快感は薄いような気がする。
今風に解釈すれば、DV被害のせいで性格が歪み、真っ当な女性としての人生を送れなかった不幸な女性…というふうにも感じるが、それにしても後味が悪いことは確か。
【以下、ストーリー】 1955年、東映、高垣眸原作、西条照太郎脚色、内出好吉監督作品
大阪城
何!黒頭巾が兵庫に潜入した?と驚く松平容保(青柳龍太郎)たちを前に、新徴組、別働隊の手を持って阻止しましたが及ばず…と抗弁する松平主税介(原健策)だったが、牧野越中守(明石潮)は、御老中小笠原雪乃守様お声がかりで派遣されてきたその方じゃ、「ニューブリテン号」を手に入れるか入れぬか徳川幕府存亡の時と承知のはず、いかなる手を講じても…と指示する。
一命を賭しても必ず…と主税介は答えると、船は兵庫港に入ったのか?と容保が聞くので、昨日…と主税介が答えると、主税介!薩摩からの密使も兵庫港に着いているはずじゃ、馬を飛ばして帰れ!と越中守は命じる。
はっ!では吉報をお待ちくださいと主税介は答え、退席する。 越中!たかが船一艘に、あまり騒いでは見苦しいぞと猿川慶喜(中野市女蔵)が叱責すると、お言葉ではございますが、上様はこの船の性能をご存知ないからでございますと越中守は抗弁する。
上様、天下の情勢日々に戦をはらみ、的の総攻撃は避け難い折から、海陸両用作戦の強力な武器を敵に与えることは断じてできません!と容保も訴える。
上様!この絵図面をご覧のほどを…と言いながら、越中守が図面を差し出し、総重量2500トン、6600馬力、ほぼ12門を備えた最新式の蒸気船にございますと説明する。
しかもこの大砲の威力たるや、万一海上よりの一斉射撃を受けますれば将城とてもひとたまりもございませんと越中守は言う。
その頃、海上にあった「ニューブリテン号」は、海に浮かんだ白旗の標的目指し大砲の訓練を行っていた。
戦場にてその大砲の威力を見学していた2人の侍に、清国人がいかがですか?と聞くと、すごい、実にすごいと侍は感心するしかなかった。
花火が上がり、開港に湧き立つ兵庫。
大勢の町民たちや異国人が集まっている中、花笠を被った一団が通過していく。
そんな群衆の一角で、手風琴を鳴らしながら「黒頭巾ぶし」を歌っていたのは艶歌師(大友柳太朗)だった。
その側で、拍子竹を打ちながらビラを配っていたのはぬけ六(堺駿二)。
その艶歌師に熱い眼差しを寄せる二人の娘お志乃(三笠博子)とお富(喜多川千鶴)と、その連れの渡海屋九郎兵衛(阿部九洲男)がいた。
そこに、新徴組がやって来て、止めろと言ってくる。
それでも艶歌師が歌い続けていたので、止めんか!と新徴組が胸ぐらを掴んできたので、艶歌師はその手を振り払い、暴れ始める。
そして、ぬけ六逃げろ!と声をかけ、自分も一緒に逃げ出す。
その後を追おうとした新徴組を止めたのは主税介で、辻売りの後を追うなんてみっともないと注意する。 野次馬たちが散り散りになった後も、お志乃とお富と渡海屋九郎兵衛だけは、逃げ去った艶歌師の方を見つめていた。
新徴組が帰る道端には「成隆交易商行 王一成」と看板がかかった店があった。 その店の2階には清国人らしき子供一松(植木千恵)が一人で遊んでいたが、そこにやって来た日本人の母親お春(八汐路恵子)が、まあお利口さんね、一松、はい、一人で賢くしていたご褒美!と言い、カステラの乗った皿を手渡す。
一松がカステラを受け取り食べようとすると、そのそばでおもちゃの猿がシンバルを叩いたので、まあ可愛い!これはね、「ニューブリテン号」の船長さんがね、香港から持って来てくださったのよ、一松…とお春はいう。
すると一松は、昨日はいったお船の船長さん?と聞くので、うん、そう…と頷いたお春は、窓を開け放ち、見えるわよ、いらっしゃいと一松を呼び寄せる。
沖に浮かんだ「ニューブリテン号」を見た市松は、わあ、ずいぶん大きなお船だねと驚く。
あのことでね、今、薩摩藩のお客様が見えてるのよとお春は教える。
だから今晩お母さん、とっても忙しいの、坊やはお利口さんだから、もうしばらく一人で遊んでいてねとお春は言い聞かせる。
客までは、主人の王(ワン)一成(徳大寺伸)が、おめでとう、小松先生といい、お骨折り感謝しますと礼を言う小松帯刀(高松錦之助)と握手をしていた。
テーブルには、益満休之助(加賀邦男)とジェイムス(三島良二)も同席していた。
王はその益満にもおめでとうと握手をし、益光もありがとうと感謝する。
これが譲渡書です、ご覧くださいと王が巻いた書状を差し出し、益光たちが英語で書かれた文面を確認すると、代金と引き換えにそれをお渡しします、それえ船は完全に薩摩のものになりますと王はいう。
そこにお春と清国人女中が酒を運んできたので、それでは乾杯いたしましょうと王がいう。
4人で乾杯していた時、2階で一人遊んでいた一松の部屋の窓にヒゲだらけの怪しげな男が覗き込む。
益満は、これで勤王軍の勝利は疑いありません、侵掠なる幕府海軍と戦うのは勿体無いくらいですと言うと、小松も、勿体無いは良かったな…と笑う。
その時ドアが開き、旦那様大変です!、お坊ちゃんが!と知らせに来たので、大人たちは騒然となる。
全員で2階の子供部屋に入ってみると窓が開いて市松はいなくなっており、お春は残されていた猿のおもちゃを抱きしめて、一松!と泣き出してしまう。
その時女中が壁に貼られた神を発見し、旦那様!と呼びかける。 そこには「条件は追って通告する。
子供の一身の安全を願はくば冷静に待て」と書かれてあった。
翌日、路上には八卦見の天命堂(大友柳太朗)が路上に店を出していた。
金運縁談失せ物判断、黙って座ればぴたりと当てる!日本一の天命堂じゃ、お代はたったの十六文、物は試しじゃ、手相はもとより、人相、骨相、なんでもお見せ…、当たらなかったらお代はいらんよ…などと口上を述べていた。
その前を一旦通り過ぎたお志乃が、気を変えたように戻ってきて、見てちょうだいと頼む。
おお、いらっしゃいと喜んだ天命堂だが、先をお富とともに歩いていた渡海屋九郎兵衛が、お志乃、つまらん!早く来なさいと声をかけてくる。
しかしお富も戻ってきて、私も…と言い出したので、易者一人に亡者が2人かよ?これゃ商売繁盛だねと天命堂は喜ぶ。
お志乃の手相を見た後乙未の手相も見た天命堂は、ほほう、これは富士義じゃねえ、あんた方2人は揃いも揃って1人の男にほの字に出の字じゃねと笑いかける。
まあとお志乃はてれるが、しかし諦めなさい!今のうちに諦めた方が無事じゃね、この恋はと天命堂が答えたので、お富は笑い出し、お志乃は怪訝そうな表情になる。
お志乃ちゃん、諦めた方が無事だってさとお富は話しかけるが、そんな…、そんなはずないわ、だってあの人…とお志乃は諦めきれない様子なので、うん、相手もあんたに好意は持っておるねと天命堂は付け加えたので、ほらご覧なさいとお志乃はお富を見返したので、へえ~、あの人があんたにね~、そんなはずないって!あの人とあんた、なんか約束でもしたの?とお富は揶揄う。
約束はしないけど…と、いえないわ…というと、お志乃は、易者さん、私は諦めないからそう思ってねと言いながらお題を払う。
先に帰ったお志乃を見送ったお富は、小娘のくせに…と悪口を言うので、あんたがた、わしの前で鞘当ては困るねと天命堂が笑うと、ちょっと!私の方はどうなのさ!とお富はもう一度手のひらを差し出して見せる。
その時、一松、一松と呟きながら道を通り過ぎようとしていたお春に気づいた天命堂は、お〜い、そこのおかみさん!お前さん、子供さんの行方が知れんので動転してなさるね?と天命堂は話しかける。
するとおはるは、そんなことまでわかります?と天命堂の店の前に迫って来たので、わかりますとも、わしはなんでもお見通しじゃよと天命堂は答える。
気の毒に…、どれどれ?安否と邦楽も見て進ぜようと言いながら天命堂はお春の手相を見始めるが、無事でおりますでしょうか?どこにおりますでしょうか?と案ずるお春に、安心をなさい、子供さんは無事じゃ、方角は戌亥の方ひらずして下の方に戻るとあると天命堂が言うので、まあ!それでは近いうちにとお春の表情が明るくなったので、うん、きっと帰りますぞと天命堂が答えると、ありがとうございます、早速主人に教えて喜ばせますと言いながら代金を置いてゆく。
それがよかろう、ありがとうございましたと天明度は礼を言うが、それを見送ったお富が、戌亥の方…などと呟いたので、何、お前さんには関係ない話じゃと天命堂はいう。
しかしお富は、ねえ易者さん、戌亥のどこか、もっと詳しく見ておくれよと言い出したので、そりゃあ、お前さん、なんだよ、いくら易者でもそこまではわからんよと天命堂は呆れる。
子供は拐かされたらしい、一体誰が拐かしたか、それを見ておくれよとお富はしつこく聞くので、それもわからんねと天命堂がとぼけると、なんだ、それじゃあ初めからわかんないじゃないか!とお富は膨れるが、しかし、わかっていることはだね、相手が裕福らしいと見て、お前さんの胸に欲心が萌して来たらしいということじゃと天命堂が指摘すると、何だって!このヘボ易者とお富は起こり出す。
それでも笑い出した天命堂は、黙って座ればぴたりと当たる日本一の天命堂じゃ、何でもお見通しだよ、当たらなかったらお代はいりませんと繰り返すと、当たり前だよ、誰がお代なんか払うもんか!と言い捨てて、お富は帰ってしまう。
お富が帰った先は「回送問屋 渡海屋」だった。 渡海屋九郎兵衛と店の男たちに会ったお富は、確かに王のお上さんなんだよ、その女…と、今見たことを教えていた。
それを聞いた九郎兵衛は、うん、こいつは面白くなってきたなと言い、子供を攫ったのは誰でしょうね、旦那と子分が聞くと、目当ては「ニューブリテン号」に違いねえ、俺に当たりがついてきたぜと答えたので、え?それ一体誰なんでん?と子分が聞くと、まあ良い、うまくいきゃあの船が手に入る、そうなりゃ千人力だと薄笑いを浮かべる。
それを聞いた子分は、どの旗を塩に靡かせ、7つの海を思う存分暴れ回れる、あの船なら答えられんなと喜ぶ。
おやおや、王相手なら金になると睨んで、お富御殿でも建ててもらおうと思ったのに…とお富が打ち明けると、笑い出した九郎兵衛は、船も船だが、金にもなるさ、赤金御殿でも建ててやるかと宥める。
笑った子分に、吉!問題はそのガキを手に入れることだというと、九郎兵衛は自分の懐中時計を指差したので、吉は頷く。
そこにお志乃が、お待ちどう様と言いながら酒を持って来たので、九郎兵衛はいやご苦労さんと労い、お富もどうもありがとうと礼をいう。
「旅籠 汐見屋」の行燈に火が灯る。
その旅籠の角で、2階の一室を見上げる男… その2階の部屋では、訪ねてきた王一成から話を聞いた小松帯刀が、何?契約を破棄したい?と驚き、益満休之助も今になってそんな無茶な!と憤慨していた。
そのお怒りはごもっともです、しかし息子の命には変えられません、小松先生、これをご覧くださいと王が差し出した書状には、「ニューブリテン号を我々に引き渡すべし、勝地ならば迎えの使者を待ち、譲渡書を持参せよ、子供は引き換えに返すであろう」と書かれてあった。 その時、部屋の外から、邪魔するな!手前にはそのような領主のお方は…、うるさい、退け!と言い争う声が聞こえてくる。
2階の小松たちの部屋に乱入してきた一団に、領外な!何者か!と小松が叱咤すると、新徴組の攘夷浪士 取締り方の者じゃ、貴公らはいずれの藩中か?と新徴組隊長赤川典膳(山口勇)は聞いてくる。
九州柳川藩士と益満が答えると、柳川!ふん、名は?と新徴組隊長は居丈高に聞くので、益満は増田虎之助と名乗り、そっちは?と聞かれたので松山隼人殿と益満は偽名を使う。
では同行願おうと赤川がいうので、何?と益満は気色ばむが、攘夷派でなかったら、すぐ帰ってもらう、とにかく同行したまえと言う。
そんな「汐見屋」の前には野次馬も集まっていたので、宿を出る新徴組は、退け!邪魔だと叱りながら、小松と益満を連行する。 そんな新徴組の前から、馬車の御者台に乗ったメリケン紳士(大友柳太朗)がやってくる。
その馬車がすれ違う時、鞭を振り回して、新徴組の鉄砲を巻きつけて奪い取ったので、新徴組は狼狽する。
その隙に、小松と益満は剣を抜いて身構える、馬車から降り立ったメリケン紳士も西洋剣を取り出して戦い始める。 益満も新徴組相手に斬り合う。
流石にメリケン紳士の剣捌きには敵わぬと悟った新徴組隊長は、引け!と命じる。
メリケン紳士は、逃げる新徴組の1人に剣を投げつけ捉えると、馬車の中に押し込みその場から走り去る。
そんな様子を木陰から見ていた、新徴組の見張りも逃げていく。
益満と小松は、自分たちに手を振りながらさってゆくメリケン紳士を見て愉快そうに見送るのだった。
益満は、ご家老、黒頭巾の変装ですと教えると、何?あれが…と小松は驚く。
は、事態は紛糾してきました、もはや我々だけでことを隠密りに測ることは無理かと感じますと益満はいう。
うん、事は重大になってきた、わしは大阪蔵屋敷に救援を頼みにいく、貴公は、残って、問題にあたってくれと小松が頼むので、は、かしこまりましたとは承知する。
新徴組兵庫屯所にやってきた新徴組は、おい、開けろ!と門に向かって呼びかける。 門が開いて新徴組の面々は中に入り込むが、最後に駆けつけてきた見張りの男は門の外に締め出されてしまう。
屋敷で待ち受けていた松平主税介は、馬鹿者!新徴組の名に恥じろ!とむざむざ戻ってきた新徴組を叱責する。
赤川はすみませんと詫びるが、みすみす黒頭巾に取られるとは何事だ!と聞くと、あれが黒頭巾!と仰天する。
そこに、黒頭巾に捕まり、馬車に連れ込まれた髭面の隊士(大友柳太朗)が、遅れまして申し訳ございませんとやって来たので、たわけ!人質の身として伏せろ!と主税介というと、髭の隊士はどこかへ行こうとしたので、ばか!狼狽えて土蔵の在処を忘れたのか?というので、何度も申し訳ありません!と髭の隊士は土蔵の方へさってゆく。
そこへ、別の隊士が、申し上げます!とやって来て、明石藩からの援兵が参りましたと報告する。 よしと頷いた主税介は、おい赤川!貴公は迎えに行けと新徴組の隊長に命じる。
その直後、明石藩援軍が大砲を引いて新徴組兵庫屯所に到着する。
出迎えた新徴組は、ご苦労様ですなどと挨拶する。
土蔵の前で待機していた髭隊士は、土蔵の見張りに、どうかな、饅頭は?と懐から出して差し出す。 それをすまんと礼を言いながら受け取った見張り番は、嬉しそうにその場で食べ始め、キレはうまい!というので、うまいだろうと髭隊士も喜ぶ。
すると、見張りはこれ頼んだぜと言いながら、土蔵の鍵を髭隊士に頼んで去ってしまう。
髭隊士が鍵を開けた中に入ると、そこには一松が幽閉されていた。
そして、窓から覗いていた男が、髭隊士が中に入ったことを見て姿を消す。
髭大使は一松に、坊や、怖がらなくても良いんだよ、坊やが1人じゃ寂しいだろうと思って、おじちゃんが遊びに来てやったんだよと優しく語りかける。
さらに、坊や、おじちゃんが一つ、面白い手品を見せてやろうかな?と言うと、ここにお饅頭があるだろう、これをおじちゃんが手品で持って無くして見せるからねと言うと、ちちんぷいぷいのさん!と呪文を唱えると、左でに持っていたはずの饅頭が消えたので、一松は驚く。
なくなったろう?あのお饅頭はどこに?と言いながら、髭隊士は、坊やのこんなところに隠れていたよと言いながら、一松の耳元から出してみせ、面白いだろう?この饅頭をお上り、とっても美味しいんだからと言いながら一抹に手渡す。
はい、今度はお馬遊びだ、はいお馬にお乗りよ、良いか、しっかり捕まるんだぜ、良いな?と言いながら四つん這いになったので、一松は喜んでその背中にまたがる。
おじさんの馬はとっても早いんだぞ、良いか?というと、髭隊士は馬の真似をし始める。
そしてそのまま髭隊士は立ち上がり、一松をおんぶする形になりながら、坊や、大きな声を立てるんじゃないよというと、逃げ出そうとするが、そこに別の隊士がやって来て、重いか?山口、余命なことをするな、外で見張ってろと命じたので、髭隊士ははいと返事して出て行くしかなかった。
翌日、王とお春は、赤川が乗った馬車に乗って移動していたが、その馬車の後ろにへばりつていたのは益満だった。
馬車はそのまま新徴組兵庫屯所の前まで来たので、新徴組兵庫屯所は寸前で飛び降りて物陰に身を潜める。
王とおはると対面した主税介は、ニューブリテン号の譲渡書を見せてもらおうと言うので、王が差し出すと、その書状を見た主税介は、間違いいあるまいな?と確認する。
王は、はいと答え、お春は、お約束でございます、子供を…と頼むので、主税介は、鬼門、子供を連れて来てやれと指示する。
鬼門玄海(原京市)が部屋を出て土蔵に向かうと、新徴組の制服を取られた本物の髭隊士山口が駆け込んできたので、なんだその様は!と叱りつける。
あのメリケン紳士に身包み剥がせれ、その上ぐるぐる巻きにされて今まで…と山口が頭を掻くので、うん?と主税介や赤川は気色ばむ。
その頃、土蔵に近づいた3人の頬被りの男たちは、新徴組の鬼門が子供がいなくなったことを屋敷に知らせに帰り、土蔵の前には別の新徴組隊士が倒れているのに気付き、慌てて逃げだす。
そこに赤川たちが駆けつけてきて、おい、手分けして探せ!と隊士たちに命じる。
その知らせを聞いた主税介は、何!子供が攫われた?と驚く。
偽山口の黒頭巾ですと隊士が言うので、う~ん、忌々しい黒頭巾めと主税介は悔しがり、王、聞いた通りだ、今日は引き取れと隊士が命じ他ので、お春は素直にはいと答え、王は、ではその譲渡書を都要求するが、主税介は黙れ!これは預かっておくと言うだけで返そうとしなかった。
いや、それでは約束違いますと王は抗議するが、いや、子供は取り返したら返す!などと隊士が言うので、それ乱暴です、返してくださいと頼むが、うるさい!構わん、引きずり出せと隊士たちは言い、王を外へ連れ出そうとするので、それはあんまりでございますとお春も抵抗するが、やかましい!と跳ね飛ばされてしまう。
そこに姿を見せたのは益満で、汚いぞ、主税介!譲渡書を返せ!と言い放つ。 曲者だ、出会え!と隊士たちが騒ぎ、新徴組が座敷に集結してくる。
夜の森の中の荒堂の中では、黒頭巾がぬけ六に、お前は子供を連れて先に帰る、良いか?と命じていた。
ぬけ六はヘイッと答え、黒頭巾は荒堂の外に出ると、口笛を吹いて白馬を呼び寄せる。
馬がやって来ると、黒頭巾はそれに飛び乗り、六、頼んだと言い残し、走り去る。
ぬけ六も良しきた!と言いながら一松をおんぶする。
新徴組兵庫屯所内の屋敷では、益満が1人で新徴組と斬り合っていた。 そんな益満も、王とお春を守るため、追い詰められていたが、その時、主税介は障子に移るく、どちらかというとの影に驚く。
二丁拳銃を構えた黒頭巾は、引け!と主税介や新徴組に言うと、坊やは確かに私がお預かりしております、安心をしてお引き取りくださいと王夫婦に黒頭巾はいう。
だが、ニューブリテン号の譲渡書はあれだ!と益満が主税介の襟元に入れたものを指さしたので、出せ!とく、どちらかというとは迫り、主税介が動かないので、益満が自分で引き抜いて奪い返す。
そして、益満が王夫妻を連れて屋敷を出て行ったので、黒頭巾も庭先に後退し、追ってきた新徴組の足元に拳銃を乱射して足止めする。
益光は王夫妻とともに、新徴組兵庫屯所内の前に停めてあった馬車に乗り込み脱出する。
黒頭巾も、門前で口笛を吹き、白馬を呼び寄せると、馬上に飛び乗り、拳銃を一発撃って走り出す。
その直後、新徴組の面々も門前に駆けつけるが、もはや黒頭巾は消え去っていた。
長屋の井戸端で顔を洗っていた艶歌師三木助は、同じ長屋の弥助を訪ねてきた大家のお富に気づく。
自分の部屋に戻ると、ぬけ六が朝飯の支度をしてるところだった。
三木助は、布団を丸めて押し入れにしまうが、押し入れの中で布団に包まれていた一松は、おじちゃん、苦しいよというので、ちょっと待って、辛抱するんだよと言い聞かし、三木助は押し入れを閉める。
そこに大家がやってきたので、ぬけ六は慌てて座敷に飛び込むが、布団と一松がいなくなっており、三木助が掃き掃除をしていたので慌てる。
三木助は小声で、布団はとっくに押し入れの中だよとぬけ六に囁きかけたので、冷や汗かいちゃったとぬけ六は苦笑する。
そこに、何を朝から寝ぼけてるのさ、六さんと言いながらお富が上がり込んで来たので、これは渡海屋の女将さんと六が平伏したので、まあ、私を捕まえて女将さんだなんて愛想が良いんだねとお富は笑いながら座り込み、いくらおべんちゃらを使っても家賃は待ったなしだよと言い出す。
するとぬけ六は、そうですか、ありがとうございます、では来月ご一緒にということで…とごまかそうとすると、はたきをかけていた三木助が、六、飯が焦げるよと横から注意したので、ぬけ六は慌てて台所へと向かう。
呆れた…と言いながら、ふとはたきをかける三木助の右手を見たお富は、三木さん、お前さん、珍しいところにほくろがあるんだねと話しかけたので、うん?これかと三木助が右手を見ると、それと同じところに同じようなほくろがある人を私、知ってるんだけどねとお富はいう。
すると三木助は、実は俺も知ってるんだよとあっけらかんと答え、誰だい?とお富が聞くと、旅で知り合った天命堂という易者さと三木助が言うので、まあ!とお富は答え、お前さんは誰だい?と三木助が聞くと、天命堂って易者さというと、それじゃおんなじじゃねえかと三木助は笑い飛ばす。
その時、ぬけ六が兄貴、飯にしようと声をかけたので、箒とはたきを捨てた三木助もほいきたと返事し、ぬけ六が飯台を抱えてきたので、三木助はさあ飯だ!と飯台の前に座り込む。
飯台には三人前の朝飯が乗っていたので、お富が、おや、三人前あるけど、誰か他にいるのかい??と不思議がる。
ぬけ六は自分の失敗に気づき焦るが、馬鹿野郎!第一俺たちの飯がお富さんの口に合うかい!と三木助が叱りつけ、ごまかす。
あ、そうか!俺は間が抜けてるな~、だから人呼んで「ぬけ六」ってんだとぬけ六もおまかそうとする。 それでもお富は、三木さんと差し向かいなら喜んでいただきますよなどと言い出したので、消えましょうか?とぬけ六はお世辞を言い、早く飯持ってこい!と三木助は命じる。
ねえ三木さん?とお富が三木助にと言いかけると、お櫃を持ってきたぬけ六が、もう一度消えましょうと言って台所へ向かう。
あのねえ三木さんとお富が話そうとすると、はい、お待ちどう様!とまたぬけ六が味噌汁を持ってきて邪魔したので、おやおや、じゃあ改めて、また店賃をもらいにきますからねとお富は帰ったので、お帰りだよ!と三木助はいい、ぬけ六も、結構なお帰りさんでと言いながら見送り、兄貴…、ああびっくりしたと、三木助ともども、一松のことがバレずに済んだので疲れ果てる。
三木助とぬけ六が、押し入れの一松を出そうとしていた時、またしても、こんにちわと声がしたので、2人は慌てて押し入れの戸を閉めて驚く。
そこに入ってきたのはお志乃で、あらまだご飯前?と飯台を見て気づくと、私、お料理してやるから待っててというと、いいんだよ、もうできてるからと三木助は断るが、いいじゃないの、待ってらっしゃいというとお志乃は勝手に台所で料理を始める。
その時、押し入れの中の一抹が襖を蹴り、おしっこ!と叫んだので、なんか言った?とお志乃が戻ってくる。
三木助は別に…と答えるが、ただ、おしっこ~!ってとぬけ六が答えたので、誰が?とお志乃が聞くので、六さんが…と自分を指差しながら答える。
まあ嫌だ、勝手に行けば良いじゃないのと呆れたお志乃が台所へ向かおうとした時、押し入れの襖が相手、一松が飛び出してきて、オッシコが出ちゃうよ~と外へかけて行ったので、お志乃は仰天する。
三木助とぬけ六はバレてしまってガックリするが、お志乃があの子どこの子?と聞いたので、しようがない、言っちまおう、実は俺の子さ…と三木助が嘘を言ったので、驚いただろ?押し入れが子供産むなんて初めてだものな~とぬけ六も適当なことを言う。
ひどいわ三木さん、あんな大きな子があるの黙って…とお志乃が起こるので、いや、別に、その、隠していたというわけじゃねえんだが…、これは色々その事情があってね…と三木助は言い訳する。
もう、知らない!とお志乃は拗ねるが、その時、一松がすっきりしたように戻ってきて、また押し入れに入ろうとするんで、あ、もう坊や、入らなくて良いんだよ、後の祭りだ!とぬけ六がいう。
そんな一松に、あんた、本当に三木さんの子?とお志乃が聞くと、うん、おいちゃん、そうだねえ~と一抹が答えたので、うん、おじちゃんじゃねえ、お父っつあんだろ?ああ良い子だ、ああ良い子だ、ああ良い子だ…と三木助が一松を抱いたので、怒ったお志乃は帰ってしまう
一方渡海屋九郎兵衛は、誘拐に失敗して帰ってきた疾風の市(団徳麿)、黒潮の松(大丸巌)、北海の安(富久井一朗)に、なんてだらしがないんだ!と叱りつけていた。
せっかく突き止めておきながら黒頭巾だかなんだかに、横から攫われましたで済むか!と渡海屋がいうので、へえ、申し訳ござんせんと疾風の市は詫びる。
南シナ海の狼がめくをつけたんだぜ、このまま指を咥えて引っ込めるか!草の根を分けても探してこい!と渡海屋は命じる。
子分たちがすごすご立ち去ったのと入れ違いに、お志乃が帰ってきて泣き出したので、渡海屋が、どうしたんだ、お志乃?と聞くと、三木さんなんか長屋から追い出しちゃってとお志乃がいうので、通りかかったお富も足を止める。
なんだ藪から棒に…、どうしたんだ?と渡海屋が訳を聞くと、お志乃は、だって大きな子供があるの、今まで隠してるんだもの、卑怯だわというので、の人に子供が?とお富も驚く。
渡海屋は、見ろ、だから歌歌いなんか相手にするなといつも言ってるじゃないかと言い聞かせるが、お富は、やっぱりそうだったのか…と言い出したので、何がやっぱりだ?と渡海屋は聞くと、いえ、こっちのことですよとお富は誤魔化しその場を去る。
その頃、街中では、新徴組が一松を探し回っていた。 お富は、三木助を追い回し、三木さん、待ってよ、そんなに急いでどこ行くの?手間取らせないから私の話も聞いてよと追い縋る。
だからよ、早く言いなよと、三木助は足を止め、不機嫌そうに答える。
三木さん、お志乃ちゃんが泣いて帰ってきたよとお富が言うと、ええ?どうしてと三木助は聞く。
お前さんの子供があったって、だいぶ当てが外れたらしいとお富が言うと、おいらにガキがあったって何もそうがっかりする手はねえだろと三木助は答える。
そうね、私も別にがっかりしないけどとお富が言うと、当たり前だよ、他人に子供があったからっていちいちそうがっかりしてたんじゃ第一体が持たねえやと三木助はいうと、まあ、憎らしいねぇとお富は三木助の腕をつねりあげる。 そんな2人の様子を物陰から渡海屋が監視していた。
あ、痛えな、よしなよ、人が見てるじゃないかと三木助は迷惑がる。
ねえ三木さん、少しは人の気持ちも察してくれたらどう?焦らすばかりが脳じゃないよなどとお富はいうが、せっかくだがそいつはできないね、おいらには命を預けた大切な恋人があるんだと三木助は答える。
それを聞いたお富は、何だって!まさかお志乃ちゃんじゃないだろうねと迫る。
さあ、それはお察しに任せるよと三木助はのらくら答えていたが、新徴組がきたことに気づくと、あ、いけね、あばよと言い残し、その場から走り去る。
お富は、ちくしょう!と悔しがるが、そこへ渡海屋が姿を見せたので立ちすくむ。
渡海屋はお富の頬をいきなり打つと、ちょっと目を離すと、すぐ浮気の虫を起こしやがると睨みつける。 そうじゃないんですよ、旦那…とお富は言い訳するが、うるせえ!男に目をつけたり手を出したらどうなるか知ってるだろう!と渡海屋は怒る。
違うんですってのに、旦那が手に入れたがっていた王の子供のいどころがわかったんですよとお富が言うので、何!と渡海屋は驚く。
その頃、街中を監視していた新徴組は、一頭の白馬を見つけ、黒頭巾の乗馬かもしれんぞと怪しむ。
親として子供の顔を早く見たいと言うお気持ちは決して無理ではないと天命堂はお春の屋敷で語っていた。
しかし今ここへお連れしたのでは、またどんなことが起きるともわからんので、今しばらく預かっておきたいとく、どちらかというとさんが言いますのじゃと王夫妻に天命堂は説明する。 な~に、今世間で評判の黒頭巾さんのことじゃ、安心してご辛抱を願いますじゃと天命堂は伝え、じゃあ、私は帰りますでな、はい、さようならと言うとさっさと退散する。 もし!天命堂さん、ちょっと待ってください、あの…、これをあの子に…と言って、お春は猿のおもちゃを渡す。 受け取った天命堂は、ほお、これは珍しいおもちゃですねと言うと、いただいたもんですけど、とても気に入って、これさえ持たせておいたら一日中1人で遊んでおりますとお春は説明する。 ああそうですか、これは良いお土産ができました、坊やもさぞ喜ぶことでしょうと天命堂が言うと、どうかくれぐれもあの子のことをお願いいたしますとおはるは頭を下げてくる。
ああ心得ました、ではお大事に、ではさようならと言って天命堂は帰ってゆく。
外に出た天命堂は、白馬が新徴組の連中から引かれて行こうとして、思わず嘶いてきたので、慌てて顔を隠してその前を通り過ぎてゆく。
それでも、新徴組の手を振り払った白馬は天命堂のそばに駆け寄ったので、天命堂は狼狽する。
そこに新徴組が駆けつけてきたので、なあ馬さんや、わしはこう見えても人間じゃ、お前さんに惚れてもろうてもそんだんに乗れんがな、堪忍しておくれと言い聞かすが、その時、懐から猿のおもちゃが落ちてしまったので、新徴組は怪しみ、天命堂を取り囲む。
あなた方、何をなさるんじゃ!と天命堂は狼狽するが、調べる筋がある、同行せいと新徴組はいう。 私は何も調べられる筋はありませんがと天命堂は言うが、そのまま白馬共々連行されてしまう。 お富が長屋の三木助の部屋の様子を見に行くと、一松とぬけ六が、何個何個いくつ、合わせていくつ?と遊戯をしていた。
ちょいとロクさん!とお富が呼ぶと、え、ちょっと待ってなよとぬけ六が一松に言い、戸口に来る。
その直後、長屋の裏手から一松を狙って背後から男が近づく。
あの、家賃なら、今兄貴が留守ですから…、またおいで願いますなどとぬけ録画いうと、まだ何も言ってやしないよ、あわてものとお富は叱る。
あ、そうか、まだ聞いてないんだとぬけ六も気づくが、でも兄貴にご用なんでしょう?そんなら今言う通り…と言い返すが、子持ちの三木さんなんかに用はありませんよ~だとお富は言う。
するってえと、あっしに何か?とぬけ六が自分を指差して聞くと、当たり前じゃないか、この女殺し!といきなりお富は色気で迫ってくる。
二枚目!色男!などと煽ててきたので、そんな…てなこと言って、うまく煽てて店賃払わせようたって、その手には乗りませんよ、また兄貴がいる時に来ていただきましょう、はい、さようなら!と言い、ぬけ六は部屋の奥へ戻るが、あ、坊やがいない!坊や!坊やが消えちゃった!坊や~!坊や~!とぬけ六が泣き騒ぐ声が聞こえたので、お富は作戦成功とばかり帰ってゆく。
新徴組兵庫屯所内の屋敷に連れて来られた天命堂は捕縛され、このおもちゃはな、確かに王の子倅のものだ、見覚えがある、これをどうしてお前が持っているのだ!と新徴組から尋問されれていた。
天命堂は、ああ、拾いましたんじゃと嘘を言う。
嘘をつけ、それじゃああの馬はどうして貴様を見て懐かしそうに鳴き、鼻を擦り付けて離れなかったのだと追求は続く。
わしの生まれは午年でね、それで仲間と間違えたんじゃろうと天命堂はとぼける。
ええい、しらばっくれるな!と言うなり、新徴組は鞭で打ってきたので、イタタタ、殺生ですがな!と天命堂は悲鳴を上げる。
夜、拷問に疲れ、1人、屋敷の庭先で眠りこけていた天命堂は、白馬が近付いてきて、捕縛を噛み切ってくれたので目が覚める。
馬に気づくと、おっ、白!というと、その場から連れ出そうとするが、その時、夜番の新徴組が3人やってきて、待て!と怒鳴ってきたので、しっと天命堂は制し、あっという間に3人を倒すと、落ちていた猿のおもちゃを拾い上げ、白馬と共に屋敷から逃げ出す。
気がついた夜番は、方々出会え!と叫び、駆けつけた隊員達は、鉄砲だ、鉄砲で撃ち殺せ!と命じる
隊員達は鉄砲を手にするが、天命堂は白馬にまたがり、新徴組兵庫屯所内から走り去った後だった。
王夫妻を訪ねた疾風の市は窓から見える沖合の船を見ながら、手前どもが欲しいのは、あのグレートブリテン号でございます、譲渡書を下さればお子さんは控にお返しいたしましょう、この取引は満更御損にはならないと思いますが、いかがでございますね?と脅していた。
しかし、子供があなた方の手にあるとはどうしても信じられませんと王は反論する。
嘘です、一松はさるお方がちゃんと預かってくださってるはずですとお春も信用しようとしない。 へえ、さる方がね、するとこれは一体誰でございましょうね?と言いながら、疾風の市は一枚の写真を王夫妻に見せる。
そこには一松の姿が映っていた。
さらに、その写真は松平主税介の元にも届けられていた。 うん、この小僧の身柄は、渡海屋とやらの手の中にあるというのだな?と写真を持参した黒潮の松に聞くと、松は、へい、そうだね、今頃は王一成が船の譲渡書を持ってきているはずで…と湯回想に言うので、いくらで取引しようと思うぞな?と主税介が聞くと、3万両、びた一文欠けてもお断りしろと、主人九郎兵衛が来ない言うてまんねんと松は答える。
その頃一松は、渡海屋の土蔵の中に幽閉され、寂しさのあまり泣いていた。
そして、窓から、お母ちゃ~ん!お母ちゃ~ん!と叫んだので、ちょうど土蔵の近くを通りかかったお志乃が気づく。
渡海屋の仏壇を拝んでいた了海僧正(大友柳太朗)の部屋の隣には、お富が行燈を持ってきて、廊下には王夫妻がやって来ていた。
土蔵の中に入って見たお志乃を見た一松は、あっ、三木助おいちゃんの所で会ったお姉ちゃんだと気づくと、ここ、お姉ちゃんのお家?どうして僕をこんなところに入れておくの?と問いかける。
お志乃は、あんた、三木さんの子供じゃなかったの?と下の間から声をかけると、僕のお父ちゃん、王一成(ワン・イーチョウ)だよと一松は答える。
それを聞いたお志乃は、まあ!じゃあ、どうして?と困惑する。
西洋机と椅子のある部屋に通された王夫妻の前に、大変お待たせしましたと言いながら、渡海屋とお富がやってくる。
じゃあ王さん、ニューブリテン号の譲渡書を拝見しましょうかと渡海屋は言い出す。
王は、はい、この通り持参しました、しかし…とためらうので、ご安心ください、渡海屋九郎兵衛、二枚舌は使いませんと笑顔で話しかけ、市、坊ちゃんをお連れしろと、そばに控えていた疾風の市に命じる。
すると、あ、良いよ、私がお連れするから…とお富が声をかけ、自分で土蔵に向かう。
しかし王さん、書類に間違いないでしょうね?と渡海屋は念を押すので、もちろん本物ですと王は保証する。
すると渡海屋は、私は横文字が読める、念の為拝見しましょう、確かめないで、坊っちゃんを私ことはできませんからねというので、ごもっともです、ではお改めくださいと言って、王は譲渡書を差し出す。
その時、横から譲渡書を手に取ったのは了海僧正で、その場で顔の変装をとると、黒頭巾の覆面姿を明かす。
その頃、お志乃は一松を土蔵の外に連れ出そうとしていたが、そこに銃を構えたお富がやってきて、気の毒だけど、そうはいかないよ、坊や、このお姉ちゃん、おばちゃんと一緒に六甲の山荘に行くんだよ、そこにはとっても君の悪い猿男が待ってるよと告げる。
そんな様子を、近くの木陰に隠れていたぬけ六が目撃していた。
屋敷内で二丁拳銃を取り出し渡海屋と市を牽制するように構えた黒頭巾は、坊やは他の者が助けてここに連れてきます、今しばらく待ちましょうと王夫妻に伝える。
そこにやってきたぬけ六が、黒頭巾の親分、坊やとお志乃ちゃんがお富のために六甲の山荘に連れて行かれちゃったと伝えたので、何!と驚く。
それを聞いた渡海屋も、えっ?ちくしょう、お富のアマ、裏切る気だな?と気づく。
その時、渡海屋の屋敷にやってきた主税介と新徴組の連中は、あ、黒頭巾と気づく。 廊下に出て二丁拳銃を構えた黒頭巾は、王夫妻に逃げるように合図する。
ぬけ六がそんな二人を案内して屋敷を後にする。
黒頭巾も、王夫妻とぬけ六が屋敷から出たのを確認すると自分も逃げ出したので、主税介たちは逃すな、追え!と命じる。
王夫妻を擁していた馬車に乗せたぬけ六は、御者台に乗って出発する。
一方黒頭巾は、渡海屋から飛び出してきた新徴組や主税介に向け、白馬の上から拳銃を乱射して脱出する。
六甲の山荘に灯りが灯る。
窓のカーテンを広げてガラス窓を開いたお富は、そのうち黒頭巾が来るだろうから、しばらくお待ちと、部屋に連れてこられていた一松とお志乃に話しかけていた。
その上で話がわかったら、2人とも親元に返してあげる、だがお志乃ちゃん、三木さんのことは諦めた方が良いよ、お前さんの恋人にしちゃ過ぎた相手だからねという。
過ぎた相手って?とお志乃が聞くと、勤王の志士黒頭巾が、実は歌歌いの三木さんだからさとお富は笑う。 え!本当ですか?とお志乃は驚く。
そんな山荘の廊下の隅の一角が持ち上がると、地下から腰の曲がった不気味な男が這い上って来る。
その猿男が部屋にやってきたので、お富が、何だい、猿?と聞くと、きましたよ、待ってた人がと猿男はいう。
え?黒頭巾がかい?と驚いたお富が椅子から立ち上がると、はいと猿男は答える。 お富は窓辺に来て外を眺め、なんだ、お前さんたちか、黒頭巾はどうしたの、六さん?と聞く。
そこに来ていたのは王夫妻を連れたぬけ六だったからだ。 おかしいな、確かに先に来ているはずなんがな?と外に立っていたぬけ六の方も不思議がると、必ずくるんだろうね?」とお富は確認する。
相手は黒頭巾だ、嘘はつかねえよとぬけ六が答えると、その背後にいたお春が、お願いです、坊やがいたら合わせてくださいと声をかけて来たので、いるよ、お入りとお富は答える。
山荘の部屋の中に入ったお春を見た一松は、お母ちゃん!と飛びついてくる。
王も坊や!と抱きつき、お父ちゃん!と一松も呼びかける。
その時、お富が、王さん、子供はお前さんたち夫婦に返してあげても良いよと言ってくる。
本当ですかと王は喜び、お春もありがとうございます、ご恩に着ますと礼をいう。
だが、タダじゃないよと言いながら銃を取り出したお富は、船の書類と引き換えにねと言い出す。
迷った王だったが、承知しましたと言い、譲渡書をお富に渡すと、それを受け取ったお富は、お志乃ちゃん、これであの人は私のものだよ、そう思っとくれと言う。
王は、坊や、もう大丈夫だよ、お家に帰れるんだよと喜ぶが、その時、彼らの目の前に猿のおもちゃが床に投げ込まれたので、あ、僕のおもちゃだ!と一松が喜ぶ。
その時出現したのは猿男だったので、猿、お前は?とお富は不思議がるが、お富に近づいた猿男は、姉御、その譲渡書を私にくれと言いながら手を差し出す。
誰だお前は?とお富が銃を向けると、背を伸ばした猿男は変装と着物を脱ぎながら、黒頭巾こと薩摩藩士、山鹿弦一郎!と正体を明かし、日本のために譲渡書を渡すことはできぬ、こちらに返してもらおうと言う。
お富は、黒頭巾!と驚き、お志乃は三木さんと呼びかけ、背後にいたぬけ六は親分!と驚き、一松はあっ、三木助おじちゃんだ!と喜ぶ。
黒頭巾が手を差し出して音見に迫った時、屋外から銃声が聞こえたので、驚いた黒頭巾は窓の外を見る。
外は新徴組が取り囲んでおり、馬に乗った松平主税介が、黒頭巾!30分だけ時間を与えてやる!それがすぎたら山荘は大砲でぶち抜くぞと脅してくる。
覚悟を据えて、王の書類を渡すかどうか返答しろ!と呼びかける横には、大砲と渡海屋の連中も揃っていた。
窓に姿を現した黒頭巾こと山鹿弦一郎は、急に笑い出し、やるならやってみろ!書類も共に木っ端微塵になるぞと答える。
すると、その部屋の外の廊下の窓に姿を見せたお富が、書類は私が手に入れました、30分のうちにそちらにお届けしますと呼びかける。
その声に気づいた黒頭巾が部屋を出ようとするが、鍵がかかっていてドアが開かない。 他のドアも全部鍵がかかっていることに黒頭巾は気づく。
お富!お志乃を連れて出てこい!と渡海屋が呼びかけるが、嫌なこった、恋敵だもの、山荘と一緒に木っ端微塵にしてやるんだとお富は答える。
黒頭巾は窓から飛び出そうとするが、主税介が鉄砲隊撃て!と命じ、銃弾が飛んできたので身を隠すしかなかった。
黒頭巾は別の窓から外に出ると、廊下の窓から中に入り、お富と対峙する。
渡海屋連中は屋敷に突進する。 黒頭巾こと山鹿弦一郎は、銃を構えたお富にジリジリと近づいていく。
黒頭巾が手を差し出すと、やるよこんなものくらい、だがただじゃ嫌だとお富はごねる。
そんな声を部屋のドアのところに近づいて盗み聞くお志乃。
何が欲しいんだ?と黒頭巾が聞くと、私のこの思いを遂げさせてくれる約束なら…、それが嫌なら闇夜を殺して私も死ぬ!とお富はいう。
渡海屋と子分たちは森の中を山荘に近づいていたが、途中で縛られて気絶した猿男を発見して驚く。 やがて彼らは山荘につながる裏口を見つけ中に侵入する。
お富は銃を手から落とすと、三木さんと言いながら黒頭巾の体に触れてくる。
私だって、元からこんな女じゃなかったんですとお富は言い訳をし始める。
お志乃ちゃんみたいな時代もあった…、それをこんな女にしたのは、あの九郎兵衛なんだ、南シナ海の狼なんですとお富は打ち明ける。
私は何度逃げようとしたかしれない、でもその度ごとに見つけられ、殴られ蹴られ…と言いながらお富は泣き出す。
そりゃあ酷い目に遭いましたとお富は告白すると、私だって女ですもの、まともに男の愛情に包まれて生きていきたい、三木さん、これをお返ししますと言いながら譲渡書を差し出したお富は、だからお願い、九郎兵衛の手から私を連れて逃げてくださいと泣きついてくる。
その時、廊下の隅の抜け道の蓋を開け、渡海屋九郎兵衛と子分たちがこっそり上がり込んでくる。 そして、黒頭巾の背後に出て来た渡海屋は、銃を突きつけ、市、お志乃をと命じる。
市はお富の帯に差し込んであった鍵を奪い、部屋のドアを開ける。
するとそこにお志乃がいたので、手を引いて廊下に連れ出す。 主税介が外から、後五分!と呼びかける。
渡海屋は松に、書類を取り上げろと命じ、松はお富の帯から譲渡書の筒を奪い取る。 その譲渡書を手に取った渡海屋は、お志乃を連れて早く引き上げろと子分たちに命じる。
連れ去られるお志乃は、お父っつぁん!と呼びかけるが、その瞬間、黒頭巾は渡海屋が持っていた拳銃を奪い取ろうと掴むが、その時銃が発砲し、弾はお富に当たる。
お富は倒れこむが、そばに落ちていた自分の銃を掴むと、黒頭巾と揉み合って、一瞬ドアに跳ね飛ばされた渡海屋に向けて発砲する。
渡海屋はその場に倒れたので、黒頭巾はその手から譲渡書を取り上げるが、そこに銃声に異変を察知し、お志乃を連れて戻って来た子分たちが渡海屋が死んでいることに気づき驚く。 お志乃はお父っつぁんと呼びかけながら、渡海屋の体にしがみつく。
黒頭巾は瀕死で銃を握っていたお富に近寄るが、お富は三木さん…と呟くとその場で息絶えてしまう。 黒頭巾はそんなお富に片手で拝むと、目を瞑って祈る。
時間が来たのを知った主税介は、撃て!と命じ、一斉に大砲が発射される。
撃て!撃って撃って撃ちまくれ!と主税介は続け様に命じる。
その時、彼らの目の前に現れた黒頭巾こと山鹿弦一郎が、松平主税介!と笑顔で呼びかける。
主税介は素顔の黒頭巾が誰だか分からず狼狽えるが、黒頭巾こと山鹿弦一郎!と言いながら片肌を脱いで鎖帷子を見せると、見参!といい、剣を抜く。
新徴組を次々と斬ってゆく黒頭巾を前に、主税介も馬を降りる。
新徴組隊長赤川典膳も黒頭巾は斬り捨てる。 そして松平主税介も一刀の元に斬り捨てる黒頭巾であった。
そこに益満休之助ら援軍も駆けつけ、ぬけ六は一松をおんぶして、お志乃や王夫妻ともに裏口から山荘を脱出する。
翌日の港、王夫妻やぬけ六、お志乃らが見送り、一松も三木助のおじちゃ〜んと手を振って呼びかける中、丸に十の字の薩摩の旗が翻った外輪船「薩南丸」が出港し、その甲板上で、白髪を被った山鹿弦一郎が笑顔で手を振って応えるのだった。 その横には小松帯刀や益満休之の姿もあった。
「薩南丸」は「ニューブリテン号」だった。
一松が手を振りながら、おじちゃん、また来てね〜!と呼びかける。 そんな中、お志乃だけは泣き出すが、お志乃ちゃん、山鹿様にはね、まだ大事な命を賭けたお仕事がたくさん残ってるんですよ、さ、元気を出してあの方のご武運を祈りましょうとお春が語りかける。
お志乃が、ええ、泣いたりしてすみませんと詫びると、あなたも大切なお父様を亡くして寂しいでしょうけど、私たちが親とも兄弟ともなって力になりますからね、さ、泣かないで、笑ってお見送りしましょうねと言い聞かせると、素直に、はいと答え、船に向かって手を振り出す。
薩摩の旗を翻した薩南船は遠ざかってゆく。
終
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