「祭りだお化けだ全員集合!!」
松竹配給版ドリフターズ映画第9弾
松竹のドリフシリーズの特徴は、長さんが他のメンバーたちを虐め抜くと言う構造が多く、本作もそういう上下関係が強調されているのだが、どう考えてもこれが面白いという感じがしない。
第一、長さんのイメージが悪すぎる。 虐められているカトちゃん初め他のメンバーの方は、庶民目線で同情したくなる部分はあるが、長さんの方に感情移入する要素が全くないからだ。
普通は悪役がやるべきポジションを長さんがやっているようにしか見えない。
もともとドリフは、リーダーである長さんと、荒井注さんを除く他のメンバーの年齢差が開いているため、最初から上下関係がある様に見えたのは確かで、そのイメージをベースにこう言う設定が定着したのだろうが、その設定自体が面白いか?と言われるとそうでもないのに、そのパターンを繰り返しているのが問題なのだと思う。
今回はその設定を維持するためかかなり無理な設定になっており、板前役の長さんとその下働きのメンバーとの虐め合いになっているのは良いとしても、長さんが完全な味覚音痴であるという設定が苦しい。
長さんは、犬塚弘さん扮する腕の良い板長の下で長く働いていたことになっているが、その板長や店の主人、令子らはなぜ何十年も長さんが味覚音痴であることに気づかなかったのか? 味覚音痴の長さんが味見をするので、下働きのメンバーらのめちゃめちゃ料理がそのまま客に提供され、店の評判がガタ落ち…とおふざけ設定はわかるにしても、長さん自身が味覚音痴で味のチェックが意味をなしていないとすると、下働きが味の細工をしている意味がないような気がする。
おそらく下働きが全員辞めて、新しい下働きになったとしても、長さんの料理はまずいままのはずだから、そうなると、いくら長さんが店主の秘密を知っていて脅しているとしても、店が成り立たないはずで、最初から設定に無理がありすぎるのだ。 実際劇中では、隣の「蔦の家」に金太郎が出前を運ぶシーンがあるが、その時点での出前がうまいとかまずいと言う描写は一切ないので、「長さんは味音痴」と言う設定がわかりにくくなっている。
ナベプロの先輩クレージーキャッツを考えると、ハナ肇さんがリーダーであっても、ハナさんが他のメンバーの上に君臨していると言う印象はないし、植木等さんが無責任シリーズで最初に人気が出たため、植木さんの方がスター性が高かった気がする一方、ドリフも初期の頃はカトちゃん人気が先行していた気はするが、カトちゃんがピンで出演して大ヒット映画はなかったと思う。
このシリーズにはちょいちょい、当時の人気落語家さんが登場するが、本作では料亭の主人役として三遊亭圓右師匠、客として5代目柳家小さん、9代目入船亭扇橋、柳家小ゑんの3人さんがゲスト出演している。
仁科あきこさんが(新人スター)と言う但し書き付きで出てるし、山口いづみさんが劇中で「緑の季節」を歌っているのも貴重。
さらにこの時期の松竹映画によく出ていた「ウルトラセブン」のモロボシダンこと森次浩司さんも出ているのが楽しい。
長さんのあだ名に「ヘドロ」がついていたり「公害で胃袋が免疫になる」のも時代を感じさせる。
出来はシリーズの中では平均的ではないかと思う。
【以下、ストーリー】
1972年、渡辺プロ+松竹、田坂啓脚本、渡辺祐介原作+脚本+監督作品
鳥越祭りが行われている浅草にある「大衆割烹 川きん」の入り口には「本日臨時休業」の張り紙が貼ってあった。
奥の間で鍋を食べていた3人のうち、荒川金太郎(三遊亭圓右)から、味はどうかね?と聞かれた松造(犬塚弘)は、結構ですな、舌にピリッとくるところは答えられませんなと答える。
しかし、夏場にヒヤヒヤしながらフグを食うわなかったらね、あんた通とは言えませんね、皆さん…と碇田長吉(いかりや長介)が嬉しそうに言う。
しかしなんだか目覚めが悪いですねと松造が言うと、だけどね、隠れて食うってことがこれ格別でね、あの~、いないんだろう?3人はと聞く。
ああ、奴ら、今、神輿担ぎに夢中ですよ、だから昔から言いますね、馬鹿と八卦見は担ぐのが好きだって…と長吉が言うと、3人は愉快そうに笑って、また食べ始める。
その言葉通り、「川金」の下働き3人組、ヒデオ(加藤茶)、工作(仲本工事)、風太(高木ブー)の3人は神輿を担いでいた。
タイトル ドリフが歌う「お祭りマンボ」と鳥越祭の実刑を背景にスタッフ・キャストロール
「川きん」の店から飛び出して来た女性が、慌てた様子で、神輿を担いでいたヒデオを呼びにくる。 1日暇をもらったんだから何もしねえよとヒデオが言うと、そうじゃない!板前頭の長さんがね、フグ食って倒れらしいのよと女性はいう。
笑ったヒデオは、何!ヘドロの長吉が死んだ!と驚く。
工作と風太もええっ!と驚いて女性に駆け寄るが、たった今、医者が来て、引導を渡したところだってと女性はいう。
本当?と工作が聞くと、本当よというので、3人は思わずバンザ~イ!と笑顔で喜ぶ。 慌てて縁日が並ぶ境内に走って来た3人は、ちょうど通りかかった熊五郎(谷村昌彦)にぶつかってしまう。
ごめんサイト侘びながら通り過ぎ、お面を売る店の前でタイガーマスクの面を被っていた荒川忠次(荒井注)に声をかけ、どうした?と言う忠次に、それが親分、大笑い、ヘドロのやつがフグ食って死んでくれたんでさあと工作が説明すると、何!長吉が!と忠次も面を外して喜ぶので、すぐ行って死に顔見ましょうよと喜ぶ風太に、良し!と答えて走りかけた忠次だったが、ちょっと待て、俺は勘当食らっている身だぜ、のこのこ行って、親父にまた何言われるかわからないからな~と、忠次は立ち止まって説明する。
すると工作が、平気、平気、なんだったら子お面つけたままでさと入れ知恵する。
そうですよ、みんなで行ってさ、おめでとうの一つ…じゃねえや、お悔やみの一つも言ってさ、乾杯でもしましょうよとヒデオは勧める。
その頃、フグの毒に当たって寝込んでいたのは金太郎だった。
その座敷の側では、じゃあ、お葬儀の段取りは先ほどのお話の通りですと葬儀屋の男が金太郎の娘の令子(林美智子)と打ち合わせしていた。 令子は涙ながらに「川きん」にとって、一番大事な人がいなくなちゃったんだわと呟き、まだかろうじて息のある金五郎の方を見る。
それにしても、玄人がフグに当たるなんて、近所の人に顔向できやしない!…と令子は金太郎に文句を言う。
暖簾に泥を塗ったのは父ちゃんなんですからね、少しは苦しんだ方が良いのよなどと令子は意地悪を言う
布団に寝かされ、白布を顔にかけた仏の姿。 そこに帰って来たのが下働き三人組で、仏様を見るなり、おいおいおい、やったね!やってくれましたね!とはしゃぎながら、仏の布団の周囲に座り込む。 こんなことなら生命保険賭けとくんだったななどと忠次はいう始末。
今からじゃ遅いの?とヒデオが言うと、多分ダメじゃないかと忠次が答えるが、そこに令子が来ると、急に全員泣き真似を始める。
板さん、なんで俺っちを置いて逝っちゃったんですよ!とヒデオが仏に呼びかけると、工作も、死ぬほど好きだったと言いながら仏にしがみつく。
そうやってみんなが悲しんでくれたら、少しは仏様も浮かばれるわと令子はいう
兄ちゃん、お葬式の時は父ちゃんに頼んで出入りを許してもらうから、なるべく盛大にしてあげましょうねと忠次に令子が言うので、そこでまた4人が大袈裟に泣き真似し始めた時、部屋に入って来たのは、少し毒に当たっただけだった長吉で、山盛りご飯に箸を突き立てたものを持ってくる。 俺も一緒に死にたかったよとヒデオが言うと、惜しい人を亡くしたよなと忠次も言う。
その直後、令子が座を外する、急に態度を変えたヒデオは、てめえ、何とか言ったらどうだよ、この野郎!と仏を叩き始める。 てめえの葬式なんか出してやるわけねえんだ、馬鹿!と忠次も仏を愚弄し始める。
今頃地獄で針の山歩いてるぜと風太が笑いながら言うと、閻魔様に捕まって、下唇抜かれちゃえ!と工作も馬鹿にする。
よ、下唇ってばよ、これで見納めだからね、もういっぺん見てやろうじゃないかとヒデオが提案し、白布を剥がすと、仏は松造だったので、あれ?なんで松造さんがここで昼寝してんだ?とヒデオは不思議がる。
人が悪いな、揶揄ってるよと風太は笑い、松っさん、ふざけてないで起きなさいよ!と工作は笑顔で呼びかける。
その時、おいおいおい、仏様を粗末にしちゃいけないよと背後から声をかけたのが長吉だったので、へい!と言うことを聞いたヒデオは、まあ、真っ白い顔してなどと呟いていたが、他の三人が長吉に気づいて次々に気絶した後、ヒデオは、長吉と源造の両手を取り、それぞれの脈を調べ、長吉の下唇を捻ってみると、長吉が痛がったので、念のため、松造の下唇も捻ってみたのち、長吉の下唇をもう一度捻ろうとしたところで、勘違いに気づき、松造の横に倒れ込んでしまう。
松造の遺影を首から紐でぶら下げ、ええ、松っつぁんが天国にトレードされてから、一週間経った、この辺でぼちぼち「川きん」再建に取り掛かろうと思う、ついては不肖碇田長吉、松っつぁんの後を継いで、嫌でも板前筆頭に昇格せざるを得なくなったと、仲居屋見習いといった従業員をを前に宣言すると、誰が決めたんだよ、そんな馬鹿なことと女性陣からクレームが入る。
うるせえ!と言い返した長吉は、創業100年以来、この店はそう言うしきたりなんですよと長吉は説明すると、仲居たちがざわめき出す。
なお、仏様に鞭打つわけではないが、今までこの店は温情主義、つまり従業員に対して優しすぎた、以後、ビシビシとやりますと長吉が宣言し、質問は!と聞いたので、ちょっと聞くけどよ、長さんの下で働くの嫌だっつったらどうなんだい?と仲居が聞く。
すると長吉は、首にしますと即答し、他に質問は?と聞く。
出席者がますますざわめき出すと、うるさいんだよ、少し静かに!なお、この際はっきり言っとくが、以後私の命令は大旦那及び令子お嬢さんの命令と心得よ!と言い出す。
すると仲居の1人が、冗談じゃないよ、私、私って、裸足の裏みたいなツラしてさ、くみになる前にこっちから暇をもらおうじゃないのと言い出す。
すると、他の仲居も、私も長さんの下じゃちょっとねえと同意する。
あたしゃね、松さんを慕ってこの店来たんだからね!と他の仲居も言う。
そうよ、みんなもね、他の店探そうよと言い出したので、そうだ、そうだねと仲居たちは団結し、みんな座を立って行ってしまう。
それを見た長吉は、上等じゃねえか、どこへでも行きやがれ!この野郎!ババア、ブス、冷え性!的でピーピー言っても知らねえぞ!と悪口を連発する。
下働きの秀雄も、ねえ、私たちも他のお店に行きましょうよと仲居と同じ女性言葉で相談しあい、行きましょうよと部屋を出かけるが、お前らは止まれ!と長吉に言われたので、その場でストップモーションのように静止してしまう。
さらに、座れ!と怒鳴られたので、みんな怯えて腰を落としてしまう。
「追分芸妓組合事務所」「蔦の家」から出てきたかつ江(都家かつ江)は、じゃあ後は頼んだよと言って出かける。
そんなかつ江を、おかみさん、まあ聞いてくださいよと呼びかけたのは、「川きん」の仲居たちだった。 起き上がることができるようになったきん太郎の部屋に寝そべって、スイカを食いながら新聞を読んでいた中地は、畜生、またジャイアンツ勝ちやがったと文句を言う。
縁側に座っていた令子は、父ちゃん、松蔵さんもいなくなったことだし、そうそう強情張ってないで、兄ちゃん許してあげたらと話しかける。
しかし金太郎は、ダメだね、ヤクザの親分のところに出入りしている様な奴なんて倅と思っちゃいませんよと、小鳥の餌をすりつぶしながら答える。
兄ちゃんも兄ちゃんよ、いつまでやっているの博打!と令子は忠次に聞くと、ああ、やってますねと忠次は答える。 何だってな、忠次、おめえ縁日でお面打ってるだってな?馬鹿馬鹿しい、ええ?おめえの顔の方がよっぽどお面みてえじゃないかと金太郎はからかうと、作った奴の面みてえなと忠次は金太郎の方を見て言い返す。
すると金太郎は、なんだよその言い草、心入れ替えて包丁一本下働きの修行一からする気持ちにならねえのかな?本当にもうと叱るが、そこにやってきたかつ江が、ちょっと金ちゃん、あんたあの長吉のバカが板前に出世したんだって?と聞いてきたので、いいやと金太郎は否定する。
しかしかつ江は、みんなそう言ってるよ、私は知らないよ、本当にと注意する。
あんなものが板になってごらんよ、味の「川きん」で呼んでいるんだよ、その客はみんな逃げてしまうってこと、お前さんにはわからないのかい本当に…、今のうちに早く追い出しちまいな!と忠告する。 しかしなあ、20年近くもこの店で働いているんだし、今更出てってくれってわけにもいかねえだろう?と金太郎は答える。
その時、令子が、にいちゃんちょっと…と忠次を呼び寄せる。
何だよと忠次が聞くと、兄ちゃん、父ちゃん、ああ入ってるけど、本心はにいちゃんに帰ってきてもらいたいのよと令子はいう。
そうかな?と忠次が言うと、そうよ、誰が何と言ったって、兄ちゃん、ここの後継なのよ、いい加減変なヤクザと手を切って頂戴と令子は言い聞かせる。
わかった、わかった、ところでよ、またそろそろ弾が切れたんだけどよと忠次が言いながら手を差し出したので、令子旗本から財布を取り出して金を出そうとする。
その頃工作やヒデオは長吉に、お願いします、僕たちを今日かぎりお払い箱にしてくださいね、良いでしょう?長さんとお願いしていた。
すると長吉は、気安い!親方って言え、親方ってと言い返す。
なら親方、あの~、言っときますけどね、この3人は全然使い物になりませんよ、ですからチリガミ交換にでも渡してくださいとヒデオは言い、じゃあ、お願いしま~すと三人で手をついて頼む。
すると、長吉はでば包丁をちらつかせ、それが大恩ある俺に言う言葉か?と脅してくる。
よ~し、どいつもこいつもわかってねえようだから、端から言ってやらあ!と長吉はドスを聞かせる。
やい風太!てめえ、5年前に居眠りしながら勝鬨橋渡ってたっけな?と長吉が聞くので、風太がはいと答えると、その時危うくダンプに轢き殺されそうになった、間一髪てめえの命を助けてやったのは誰だ?と長吉が聞くと、はい、親方ですと風太は答える。
よ~し、次工作!6年と3ヶ月前、上野の公園でチンピラどもに半殺しの目に遭ったのは誰だ?と長吉は聞く。
はいと言いながら工作は自分を指差す。 その時に突然現れてチンピラどもをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、瀕死のてめえを助けたのは誰だよと長吉は聞く。
誰あろう、親方様ですと工作は情けなさそうに答える。 よ~し、ヒデ、この野郎と出刃包丁を振り翳してヒデオに迫った長吉は、10年と8ヶ月と15日前に、真冬の隅田川で溺れかかっていたのは?ときくと、へえ、哀れなこの私ですとヒデオは打ち明ける。
哀れは余計だ!その時にな、ザンブとばかり飛び込んでてめえを救ってくれたのは誰だ?と長吉が聞くと、はい、痩せて体の汚いあなたですとヒデオは答える。
それが一言多いってんだ、こんちくしょう!と言いながら、長吉はヒデオをビンタする。
そん時、ヒデ!てめえなんて言ったか?命の恩人の長吉様、私の身も心も一生」あなたにお預けしますって、そう言ったよな?と長吉が聞くと、さあ?とヒデオは首を傾げたので、確かに言ったんだ!と長吉が怒鳴りつけると、なら、言いましたとヒデオは仕方なく答える。
良し、良いかヒデ、今日日な、駅のロッカーへ荷物預けたって1日100円はふんだくられるってご時世だ、てめえ俺が預かってから何千万日、何億時間、何兆秒を預かってると思う?と長吉が聞くので、ええ?とヒデオは混乱するが、ざっとつかみで言ったってな、3億円って預かり賃だと長吉は主張する。
3億!とヒデオが驚くと、現金なら3万円で良いよと長吉は言う。
いや、それ持ち合わせが…とヒデオが困惑すると、高えと思ったら聞いて来い、国鉄行って!と長吉は恫喝する。
え?良いか、色々考えたらてめえたちはな、この俺から一歩も離れられないはずだよ!と長吉は主張する。
あ~あ…と3人はため息をつくが、そこへやってきた忠次が、よお、俺ちょっと考えるとこあってよ、今日からヘドロじゃねえ、長さんの下でよ、板前の見習いやることにしたでと言ってくる。
ヒデオたち3人は、ええっ!と驚くが、令子も顔を出し、本当よ、長さん、今、兄とちゃんと約束したの、父ちゃんの方は私から言っとくから、よろしく頼みますと長吉に伝える。
それを聞いた長吉は出刃包丁を置くと笑顔になり、どうだ、おい、聞いたか?え?令子お嬢さんから直々のお声掛かりだよ、良し!今日からこの由緒ある「川きん」の味も、松っあんからこの碇田長吉の味に変えるべく徹底的にやる!分かるな?と言い出した長吉は、お前さんも遠慮しないよ、何か質問はないな?良し、そこに整列!と一方的に言い渡す。
全員が横並びに整列し、その中央に座った長吉は、では今から板前心得を唱える!気をつけ!1つ、我々板前はいつも長さん敬うよ!私はあなたが大好きよ!いついつまでも愛してよ!どうかお願い、捨てないで!できたら赤ちゃん産みましょうね!…と復唱させ、最後には、う〜ん、あ!と言いながら全員揃って投げキスするポーズを取ったので、それを背後から見ていたかつ江は、きちがいだね、まるで…、この店も長いことないよと呟く。
その夜、一人、扇風機をかけながら熟睡していた長吉の、隣の部屋で雑魚寝させられていた忠次は、ヒデオに命じて、扇風機の向きを自分たちの部屋の方に向けさせようとするが、長吉は無意識に足の先で扇風機の向きを元に戻してしまう。
何度やっても、長吉の足の指が邪魔なので、ヒデオは、長吉の足の位置を変え、扇風機が向きを変える音だけ出すと、長吉の足は、長吉の方に向かって普通に回っているのに勝手に触ろうとしたので、ああ!指取れた!指、指、指、12345、あった!と悲鳴をあげて長吉は起きると指の確認をする。
そっと襖を閉めた隣の部屋からは、ヒデオたちの愉快そうな笑い声がする。
翌朝、ヒデオたちが雑魚寝していた部屋に仕掛けられた金具の目覚装置が作動する。
そのめざまし装置の紐を引いていたのは隣で寝ていた長吉で、全員起床!と寝たままで号令を出す。 うるせえなヘドロは…、まだ宵の内じゃないかと忠次はぼやく。
起きたか、野郎ども!と長吉が眠ったまま聞くと、起きてますよ、今、布団洗って、顔畳んでいるとこですよ〜と工作が意味不明な答えをする。
布団洗って、顔畳んだ?バカ!河岸へ行く時間だ、ホラ!と長吉が眠ったまま怒鳴ったので、お前行け風太…と忠次が隣で寝ていた風太の腹を蹴り、お前行けと風太は隣に寝ていた工作の顔を押し、工作は、ヒデ、お前行ってこい!とさらに隣で寝ていたヒデオの身体を叩くが、隣には誰も出ていなかったので、ヒデ、どこで寝てるんだろう?ヒデ!と、全員で長吉の部屋に入り、蚊帳をめくって、寝ていた長吉の体も持ち上げて探し出す。
これに堪らず跳ね起きた長吉が、何だよ?と聞くと、消えちまったんですよ、ヒデのやつと工作が教える。 ははあ、こりゃ夜逃げだなと忠次が推測する。
夜逃げだ?あの〜、毛じらみ〜!と言いながら長吉が掛け布団を捲ると、長吉の隣にヒデオは寝ていたので、起きろ、このやろう!と長吉は、褌一丁だったヒデオの尻を叩き起こす。
はいはい、何?ヘドロの長吉が寝小便こいた?と寝ぼけて起きたヒデオだったが、何言ってんだ!と長吉から押し倒されると、ああ、親方!とヒデオが気づいたので、てめえ、罰としてな、1人で河岸に買い出しに行ってこい!と長吉が命じる。
また俺だけですか?とヒデオが拗ねると、ねか肥後守てくださいとまた眠ろうとしたヒデオだったが、そこにおはようと挨拶しにきたのは令子で、今朝河岸に行くのは誰?と聞いてきたので、ええ、たったいま、この毛じらみのヒデに決まりましたと長吉が報告する。
すると、ああそう、ヒデちゃん、私とイキ迷うと令子はいい、麦わら帽を被ったので、ヒデオは大喜びし、他のメンバーたちは愕然とする。
いやしかしお嬢さんと、起き上がった長吉が話しかけると、実はね、長さん、今夜久しぶりに5代目の大師匠が見えるのよと玲子が言うので、小さん師匠が!と長吉は驚く。
昔からの大事なお客様でしょう?だから、今日は私も河岸まで行って、材料を吟味してきたいのと令子はいう。 ああ、それじゃあ、あっしじゃないとダメだ、ヒデじゃ無理だと長吉がいうが、工作たちがその身体を押さえつけ、 いえ、親方の命令じゃあっしですとヒデオが名乗り出て、早く行きましょうと令子はヒデを選ぶ。
喜んだヒデオは、自分の服を持つと、長吉の目の前で、お尻ぺんぺんしてみせたので、長吉は唾を吐きかける。
長吉は、俺も行きたい、俺、行きたい、行きたいと喚くが、下働きの3人は無視する。
その後、工作や忠次は廊下の雑巾掛けをし、風太は掃除機係りをする。
よ〜し止め!では今から流しを洗う、鍋釜類は欠っぺたを綺麗に磨くこと、包丁は禿頭のようにピカピカに磨いておくこと!と長吉が命じながら、忠次の頭をペチペチ叩く。
なお、丼皿類を割った奴は、1枚5000円の罰金を徴収する、質問は認めない、よしやれ!と工作の後頭部を叩いた長吉は、小さん、遅いな〜とぼやく。
工作たちは、入口の方に向かっていった長吉の背後からそっとついていき、雑巾で殴るとするが、気浮いた長吉が振り返り、仕事しろ〜!と怒鳴りつける。
長吉が外に出た直後、曲が流れてきたので、いづみちゃんだ!と工作たちは気づいて窓から隣のましいこのやろう!えを見上げる。
隣のいずみ(山口いずみ)が2階で洗濯物を干しあがら「緑の季節」を歌っていた。
しかし、戻ってきた長吉が、仕事をしろってんだよと言いながら、窓から顔を出していた3人の頬をビンタしていったので、馬鹿野郎目、死に損ないめ!と中字が怒り、どうして奴に限ってふぐの毒が効かなかったんだろう?と工作は愚痴る。
長吉は、令子とヒデオが楽しそうに河岸から帰ってきたのを、身を隠した看板の陰から眺め、畜生…と悔しがる。
帰宅した令子は、長さん、滅多に来ない大師匠ですからね、たっぷり腕振るってちょうだい!と長吉に託すと、兄ちゃん、怠けちゃダメよと忠次にも注意すると厨房から出ていったので、何偉そうな顔しやがって!と忠次は言い返すと、ニヤニヤ顔が止まらない秀雄の頬を叩いて、おめえこそ怠けるなよと叱る。
でも優しいんだわ、令子さんは、あのさ、帰りにデパートのね、食堂連れて行ってくれてさ、そんで、ヒデオちゃん、とんかつにする?とヒデオが再現し始めたので、風太がビンタする。
それともハンバーグ!というと今度は工作がビンタするが、あ、だったらおはぎで一杯やって…な~んちゃってねとヒデオ雄のニコニコが止まらないので、ヒデオちゃん、良かったね~と笑顔で話しかけた長吉は、でもあんた、ほら、オトトちゃんと早く冷蔵庫にないないしないとお腐れちゃうと教える。
そうでした、そうでしたと笑顔で答えたヒデオは、令子ちゃんとヒデオちゃんが麦畑~♩と歌い始め、買ってきた素材を冷蔵庫の中に持ち込んだので、さあ、どうぞ入ってと言い、それだけですか?と確認すると、これだけでしたよとヒデオが答えた次の瞬間、どうもご苦労さんでしたと言いながら、長吉はヒデオが中にいる間に扉を閉めてしまう。
それを見た工作は、ああああ、親方!と注意し、颯太も、凍え死んじゃうよというが、長吉は、うるせえ!お魚の冷え具合見るのも修行のうちだいと言い返すだけだった。 しかし例どうこの中ではヒデオが、親方、開けてください!頭が霜焼けになちゃうよ、へいくしょん!、開けてくれ~!とお言いながら、徐々に意識が遠ざかっていく。
うるせえよと外で仁王立ちになった長吉は怒鳴りかけすが、そこにやってきた金太郎が、おい長さん、また按摩頼みてえんだがな、ヒデはどうした?と聞いてきたので、ヒデなら冷蔵庫に入ってるよと忠次が教える。
冷蔵庫?と金太郎が驚くと、馬鹿馬鹿しくて見てられねえよと捨て台詞を残し、忠次は外に出てしまう。 いやいやいや…、それがあんまり性悪でございましてね、 いま、罰でちょっと使いに出しましたと長吉が答えたので、じゃあしょうがねえなと言いながら金太郎は去って行く。
その直後、慌てて長吉が冷蔵庫を開けると、中から凍りついたヒデオが出現する。 生きてるよと工作は驚くが、長吉は、やろう、少しは骨身に答えたかい!と睨み、下働きの分際でな、お嬢さんと馴れ馴れしくしたりすると自動的にこういうふうになっちまうんだと説教する。
わかったかい、このやろう!冷蔵庫ってのはオトト冷やすばかりじゃないんだ、俺に逆らう野郎のためにもたっぷり冷えてるってことを忘れるなよ!と長吉が言うので、工作と風太はへいと頷くしかなかった。
その時、お待ちどうさま~、更科です!と出前がやってきたので、来たねえ!蕎麦屋のライスカレー!と長吉は喜び、受け取る。
しかし不思議だな~、どうして好きなの、うちのカレーが?と出前持ちが聞くと、おまえさんもトウシローだね、世界中で蕎麦屋のライスカレーくらい美味いもんはないんだよ、おい、風太、ソース!と長吉は命じる。
颯太が持ってきたソースをカレーにかけた長吉は、一口食べてみて、なんかパッとしないな、そい砂糖!と注文する。
お待ちどうさんと工作が砂糖を持ってくると、その砂糖をカレーに山盛りかけ始めたので、あの野郎、頭だけかと思ったら、舌の方まで狂ってやがる…と、氷が溶け始めたヒデオが笑いだし、吐きそうな顔になる。
「防犯協会連絡所」「警察ともの会支部長」の看板がかかった井戸熊五郎の家では、よろしゅうござんすね?行きますぜ?ほないきましょうか?入れた! 勝負だ!と忠次が5000円賭けたので、札揃いましたと組のものがいう。
勝負!と壺を開けてみると、52の半! 負けた忠次は、ついてねえな、今日はとぼや木、賭場の人間から金を回してもらう。
そんな様子を見ていた子分が、かき氷を食っていた熊五郎の側に来て、良いんですか?親分、「川きん」の倅がだいぶん借りてますぜと耳打ちする。
すると熊五郎は、わかってねえなあ…、おめえたちは、つまり海老で鯛を釣ろうっていう俺の作戦じゃんかよ、腐っても鯛だよと答える。
あの忠次の腐り方は酷えが、なんつったって「川きん」の一人息子だからな~と熊五郎は言う。
するってえと、借金をカタに「川きん」を乗っ取るって寸法か!と別の子分が気づいたので、そうよと熊五郎は答える。
おめえ、こんなちっぽけな座敷と違ってよ、「川きん」の座敷なら日本中の親分衆を集めて、豪勢な早朝賭場が開けるってわけだよと熊五郎は説明し、子分たちと笑いだす。
その夜、「川金」の店には、5代目柳家小さん、9代目入船亭扇橋、柳家小ゑんの3人の落語家が来店する。
金太郎と令子が、いらっしゃいませ、お待ちしておりましたと出迎える。
いや~、鈴本に出るたびにね、ここの味が忘れられなくってねと小さん師匠はいう。
ありがとうごぁいます、どうぞ、どうぞと中へ令子たちが案内する。
東京広しとはいえ、何せこの店の味は天下一品だからなと小さん師匠は連れの二人にいうと、それ楽しみだねと扇橋師匠がいう。
光栄です、板場さんたち昼間っから張り切ってるんですよと令子はいうと、ああ、そいつはありがたいと小さん師匠は喜ぶ。
厨房にやってきた玲子は、長さん、師匠が見えましたよと伝えたので、お待ちしてましたよと長吉が喜ぶと、ちょっときてくれると玲子は呼ぶ。
長吉は、地球の果てまで行きますよと答えるとウキウキと玲子の後をついて雪かけ、やるもんちゃんとやっとけ!言われたように!と鬼ような顔で下働きたちに命じる。
厨房に残ったヒデオ、工作、風太の三人は、怪しげな言語で怪しげな密談をしあう。
結果、3人は三三七拍子の手拍子で話を締める。 そういや、松っつぁん気の毒だったよな~と座敷に着いた小さん師匠がいう。
ま、あいにくとな関西に行ってたんでな、まあお悔やみもできなかったけど、まあ良い腕の板さんだったと、金太郎を前に故人を偲ぶ。
へえ、まあ師匠にそこまで言っていただけるとね、松造のやつも草葉の陰で喜んでいるこってございましょうと金太郎は答える。
その時廊下から、ごめんくださいと声があり、障子が空くと、令子が控えていて、師匠、新しい板さんなんですけど、長さんと呼ぶ。
はい、碇田長吉でございます、こんちはクソ暑い中をようこそいらっしゃいましたと長吉が挨拶したので、何だよ、長さんが今度の板前かい?と小さん師匠は驚く。
ええ、皆さんにぜひにと勧められまして、あ、今夜はこの私め一世一代の腕を振るった献立でございますと長吉は答える。
その頃、厨房では、鍋の味見をしていたヒデオが、お砂糖が足りないまんねん、中本くん、合点景気良くいこうぜ加藤君!どばちゃと中本君!ケチャップどっさり加藤君、ソースドバチョバ中本君、出汁もベロンチチョ加藤君!などと、互いに調味料をバカのように鍋に投じ始める。
そのうち、面倒だ!何でも入れましょ中本君、そうしましょう加藤君などと、ますます調子に乗り出す。
キャベツの刻んだの入れまして!人参3本加藤君、洗剤何個も入れまして、マヨネーズもどっぷりと、コショウをドバテとかけまして、ヘドロの長吉見てないか?いえいえ誰も見てません、そろそろ混ぜ混ぜしましょうか? 混~ぜ混ぜ混~ぜ混ぜ!と鍋の中をしゃもじで混ぜたヒデオは吐きそうな顔になる。
工作とヒデオが背後で仕事をしていた風太の方を見ると、風太は笑顔でオーケーマークを指で出す。
その頃座敷では、では早速料理を運ばさせていただきますと長吉が小さん師匠に説明し、ごめんくださいと挨拶して障子を閉めて出ていく。
厨房に向かいかけた長吉だったが、今出てきた座敷から笑い声が聞こえてきたので、気になり、再び座敷の前に戻って中の会話に耳を傾ける。
嫌だわ師匠ったら、出しぬけに変なこと言い出すですもの…と令子が言うと、いやあ、そんなことないさ、いくら令ちゃんがここのうちの大黒柱だからと言ってもね、そうそういつまでも1人でいるわけにはいかないもんな?そうなりゃ何だな、今の長どんあたりと一緒になって、2人でこの店を切り回すと言うのもいい名案だと思うよ、「川金」さんと小さん師匠が話しているのを聞いた長吉は目を輝かす。
名案と言えますかどうか、倅の忠次もこの際、ちゃんとしてりゃ苦労はねえんですが、師匠が言うようにこの子に婿を取るしかないんですかね?…と金太郎は答えたので、それを廊下で聞いた長吉は小躍りしながら厨房に戻牢と階段を降りかけるが、足を滑らせそのまま下まで落ちてしまう。
厨房に戻ってきた長吉は、親方?と心配するヒデオたちをよそに、足を引きずっていたが顔は笑顔だった。
しかし、私も本当に次から次とついてる男ですね、え?士気はいつにしましょうかね?やっぱり大安吉日にしましょうかね?などと夢見心地だったので、頭に来たんじゃないか?と工作は秀雄に語りかける。
秀雄たちが用意していた料理を前にした長吉は、あら、もうできましたね~、それではちょいとお味を拝見しますよと長吉が言い出したので、ヒデオたちは目を背けるが、うん、ああ、これまた結構、はい、上ではお客様がお待ちだからね、どんどん運んでちょうだいよと長吉は浮かれたまま指示したので、ヒデオたちも驚きながらも安堵する。
誰が運ぶんですか?もう中井さん誰もいませんよとヒデオが指摘すると、心配は入りませんよ、こう言う時のためにねと言いながら、長吉は隠していた着物をヒデオに着せ始め、カツラも被せたので、僕が仲居さんに?とヒデオは聞く。
すると長吉は、私はね、将来、このお店のご主人ったのです、質問はいけませんと英夫の頬をペチペチ叩きながらいう。
その時、こんばんわとやってきたのは、芸者の玉子(姫ゆり子)だったので、お玉ちゃん!もうお祭り終わったのに…と長吉もヒデオたちも驚く。
あ、わかった!タイミング良いね、手伝いに来てくれたんだろう?と長吉は虫の良い想像をいう。
すると玉子は、ふん、冗談じゃねえ、私はね、もう仲居の玉子じゃごぜんせんの、「蔦の家」ではピカイチの売れっ子芸者、日の丸姐さんだよと言う。
日の丸?と驚く面々に、退け!と横柄に命じた玉子は、でもね、酌だけならしてやるよ、おお、これ特級酒だろうね?などと勝手にその場にあった徳利の中身の味見をし始める。
その後、女装したヒデオが、一人で料理の膳を小さん師匠の座敷に持って行ったので、それを知った小さん師匠は唖然となる。
両手が塞がっているので、だめだこりゃと言いながら、ヒデオは足で襖を開け、おまちどうまんねんと言いながら、座敷の真ん中にお膳を持ち込む。
手伝いに座敷に来ていた玉子が、めちゃくちゃに置くんじゃないよ、あとは私がやるわと注意するが、良いです、良いですというヒデオは、自分で膳を客の前に置き始める。
それを見た小さん師匠は、おい、どうなってるんだ、このお店は?と驚き、たいそう変わり者を入れているんだね、この店は…と扇橋師匠も皮肉をいい、これ、店の方針でしょう、これ…と小ゑん師匠もいうので、変な方針だな?と小さん師匠は不思議がる。
はい、当店ヘドロの板前特性の特別料理ですよ、さあ師匠、軽く一発行って見ましょうかね、まんねんととヒデオは言う。
令子も、さあさ、皆さん、召し上がってくださいと勧めると、どうも調子くるちゃったけど、まあ久しぶりだ、頂戴するかと言い、小さん師匠は腕の蓋を開けたので、はい、目一杯頬張ってくださいよ、美味しいですからね、はい、ガバッと口に突っ込んじゃってくださいと勧める。 小さん師匠らは腕の汁を一口飲むと表情が一瞬で変わる。
その様子を見た令子が金太郎の方へ近づき、金太郎も、ちょっと失礼と言い汁を一口啜ってみると驚愕し、ヒデ!何だこれはと叱る。 でも、ヘドロさんは大変結構なお味だと申しておりますとヒデオは答えただので、何だと!と金太郎は驚く。
小さん師匠がイカ刺しを持ち上げると、全部繋がっていたので、なんだ、これがイカ刺しか?と驚く。
このお刺身はでございますね、親方の新しい方針で、「川きん」式お刺身の七夕作りだそうでございますとヒデオは解説する。 その時、キンタルが引き付けを起こして倒れてしまったので、玲子はお父さん!と叫ぶ。
それを見たヒデオは、あれ?ちょっとヒデちゃん!と令子はパニック状態になるが、ヒデオは笑いながら、まあこんがり焼けて!などと、膳の上の料理をつまんで見せ、お師匠さんもどうぞと勧めたりする。
小さん師匠は、もう帰ろうかと言い出す。
ヒデオは師匠、また食べに来てくださいというが、玉子が引き離し、玲子は、師匠、明日にでもお詫びに伺いますからと詫びをいう。
小さん師匠は、ああ、良いよ、良いよ、令ちゃんは苦労だな、また来るからなと言い残し、申し訳ございませんと詫びる玲子を残し階段おところまでくるが、下からお膳を持った工作が前を見ずに上がってきたので、小さん師匠とぶつかり、転落してしまう。
長吉を呼び出した金太郎は、何だよこれ、これじゃあ刺身じゃなくすだれだよ、これ、え?これが卵焼きかよ?これ魚じゃなくてね、炭だよ、お前、ええ!私はご先祖様にどう申し開きしたら良いんだよ、え?何とか言えよ、何とか、長吉!と叱責する。
だって…と口ごもる長吉に、仕方ないわ、もう済んでしまったことなんだし、問題はこれからよと玲子は冷静に言う。
これからもあちら側もありませんよと金太郎の怒りが収まらないので、だから私、明日鈴本に行ってきますと令子は答え、ねえ長さん、板羽のことは一歳あなたに仕切ってもらっているんだし、頼りにしてるのよと言い残し、部屋を出ていく。
令子は頼りにしているかもしれないがね、私は違うね!いくら半人前だと言ってもまだヒデオたちの方がマシと言うもんだよと文句を言うと、あのゴミたちの方が?と長吉は言い返す。
そうだよと金太郎が答えると、するってえと旦那、あのゴミたちの手落ちまであっしに被せて、長年「川金」一筋に生きてきたこの碇田長吉を首にしてえくれだと、かようにお考えなさるわけですかい?と長吉は聞く。
何だよ?浪花節みたいな声出して凄まないでくれよ、もしそうだったらどうなんだい?と金太郎が聞くと、わかりました、じゃあまあ、荷物まとめる前にお嬢さんと「葛の家」の婆さんにちょいと挨拶してくるかな?と長吉は言い出す。
何?と金太郎が驚くと、あ、そうだ、後々のことがあるから例の松っつぁん死んだフグちりの件、あれ実は大旦那が食いてえからつって、松っつぁんに作らしたんだと、これはっきり刺しといたほうが良いかな?などと長吉は脅し始める。
するってえと法律的には殺人幇助って罪になるのかな?それに「葛の家」の婆あにくっちゃべったとなりゃ東京中に伝わっちまうな、保健所も黙ってねえと、まあ仕方ねえさ、良いさ、良いさなどと長吉は一人ごとのように言って下がろうとしたので、まあまあ待ちなよ、長さんと金太郎は止める。
お?聞こえました?と長吉がとぼけると、聞こえすぎですよと金太郎は答え、ああ、あの、あまりお気になさらないでくださいと長吉が言うので、ああ、もう気にしますよ、わかった、わかった、ああ、もう何もかもね、あのヒデオたちが悪いんだから…と金太郎が答えると、長吉は、でしょう?旦那は文書判りが早くて良いや、好き!と薄ら笑いを浮かべる。
その頃、ヒデオたちは、今、バカにしなくちゃする時ないぞ、あのヘドロ目、み見つかると半殺しだぞなどと相談しあいながら荷物をまとめ、逃げ出そうとするが、襖を開けるとそこに長吉が立っていたので、腰を抜かす。
四つん這いで逃げ出そうとする3人に、皆さん、どちらにお出かけですか?と長吉は優しく語りかける。
いやあ、わかってるんったのでネス、わかってるんです、みんなが言いたいことは、この店を辞めたいんでしょう?結構なことですよと長吉が言うので、3人は振り向いて話を聞く。
いやね、去る者は追わず、私も別れるのは辛い、しかしね、君たちは若い!将来という物があるでしょう?お引き止めしないことに合いましたと長吉が言うので、本当?と3人が聞くと、ええと言う。
恐る恐る3人が荷物を持ち部屋を出ようとすると、正座をしていた長吉が自分たちの方に向きを変えたので、やっぱり嘘だよ、顔見てこい!と工作がヒデオに命じる。
ヒデオは長吉の顔をまじまじと見て、やっぱり本当らしいよ、行こうか?と工作に伝える。 その時、長吉が立ち上がったので、3人は震え上がるが、ほら、大手を振って、全員解散!と長吉は告げる。
3人はほっとするが、彼らが向かった先は、熊五郎の家だった。 ええ!色と欲の二筋道!と熊五郎の話を聞いた3人は驚く。
熊五郎はそんな3人の反応を見て、相当のぽんつくだね、おめえさん方、え?だいたい長吉はな?ここにいなさる若旦那を差し置いて、「川きん」の暖簾とお嬢さんを狙ってるんだよと、忠次を横に説明する。 それを聞いたヒデオたちは、ははあ…と納得する。
ついてはおめえさんたちが邪魔になってきたんだよと熊五郎は指摘する。
今夜みてえにいちいち足を引っ張れたんではよ、なおさら旦那にもお嬢さんにも点数が下がっちまってよ、せっかくの長吉の企みもパーだよと熊五郎が言うと、と親分はおっしゃてるんだよと横から忠治が締める。
変に優しいと思ったよ、あいつ…と風太が言うと、ヘドロが令子さんをお嫁さん位して「川金」の主人に収まる、冗談じゃありませんよ、御一統さんがさん、例え御一統さんがどうおっしゃろうと、この加藤ヒデオが許すもんんじゃ!あ、ござんせん!とヒデオは歌舞伎口調でいう。
すると熊五郎は、昔から悪の栄えた試しはねえって諺がある、だいたい「川金」の暖簾を継ぐのはな、天に餅にもたった1人!ここにいる忠次さんにいくはずじゃんか!どうや?と忠次の頭を叩いたので、忠次は痛がりながらも、と、親分はおっしゃってらっしゃるんだとヒデオたちに伝える。
ところでおめえたち、今まで通り、長吉の足を引っ張ることに協力してくれたら、給金は今の5倍!と忠次は切り出す。
5倍!とヒデオたちが驚くと、と、若旦那はおっしゃってるんだと今度は熊五郎が話を締め、ここは一番、おめえたち、店に居座った方が身のためじゃねえのか?と言い含める。
その話を聞いたヒデオ、工作、風太は、また顔を寄せ合い、何事かを相談し合う。
その頃、長吉は、お嬢さん、心配及びませんよ、あんな雑魚2匹や3匹ね、かえって手足まといだってんですよと令子を慰めていた。
でもね長さん、正直言って、私、長さんのことを考えると心配で、夜も眠れないのよと令子が言い出したので、え?私のこと考えて寝られない?本当ですか?と長吉は聞く。
そうよ、罪な人だわ、長さんって…と令子は答える。 急に笑いがした長吉は、お嬢さん、令子さん、ご安心ください、この「川きん」はね、碇田長吉がたった1人で命にかけてもお守りしますですよと打ち明ける。
でも差し当たってどうする気?と令子が聞くと、早速手配をば…と長吉は言いながら電話をかけ始めたので、どうなっちゃうのかしら?と令子は不安がる。
いやしかしね、あのゴミどもときた日にはね、包丁もろくすっぽできねえのに、口だけは達者なんですからね、いや、若旦那は別ですよ…と言い訳した長吉は、あ、もしもし、組合?「川金」だ、あの、すまんがね、下働きを2~3人見繕ってくれないかな?と電話をする。
うん…、いや二枚目はいけないよ、できれば60くらいの薄汚い爺いが余ってないかな?と長吉は条件をいう。
そうだよ、あ、給金をあんまり欲しがるのはいけないよ、あ、それからね、飯の大食いは困るよ、うん、不経済でいけないよ、などと長吉は条件を付け加えていたが、その時令子は、戻ってきたヒデオたちの姿を目撃する。
ゴミたち?首にしたよ、だってそうじゃねえか、佐藤と塩の区別がつかねえようなものをね、これ「川金」には置いとけませんよ、どっか今頃くたばっちまってね、干物になってますよ、じゃ、頼んだよと電話を終えた長吉が振り向くと、そこにはヒデオ、工作、風太、忠実の4人が立っていたので、ギャ~!何だ、お前たちは!仰天する。
風太が、ただいまというと、我ら4名、恥ずかしながら帰ってまいりましたとヒデオが続け、一生親方について離れませんと工作がいうと、まあ、心を入れ替えてもういっぺんやってみるわと忠次も答える。
でも何でございますねえ、世間に出て初めてわかったんでございますが、親方ほど腕の良い板前はおりませんですね、いや、本当に…とヒデオがお世辞を言う。
そんなことはわかってるけどよ、だけど弱っちまったよな、たった今、手打っちまったしよ、やっぱり引き取ってもらうかな?と長吉が令子の方ににげると、でも気心が知れてる方が良いわ、組合の方は、私から断っとくから、また仲良くやってちょうだいと令子はいう。
それを聞いたヒデオは、はい決定!核抜き、本土並みで復帰が決定しましたというと、じゃあさ、洗いで行くか?加藤君と工作が言い、フーテンの若旦那は?とヒデオが忠次を指すと、おう、抜かるなよ!と忠次は言い返す。
厨房に戻った4人は、次々と仕事をこなし始めたんどえ、若旦那、若旦那、私がやるよと長吉は狼狽するが、側に寄ると危ないよ、切れちゃうよと言いながら、忠次は包丁を研ぎ始める。
工作が皿洗いを始めると、私がやるからさと長吉は止めようとするが、いえ、結構でございますよと工作は丁寧に拒否する。
ヒデオはジャガイモを取り上げると、はい、ムキムキしましょうねと言いながら、近寄った長吉に包丁を渡す。
「川きん」のすぐそばには「レストラン よこた」という洋食屋があった。
店主の正一(殿山泰司)とかつ江とコーヒーを飲んでいた金太郎だが、ちょいとどうする気なんだよ、あの長吉さん、私も焦ったくてお通じが止まっちまうよ、本当に!とかつ江が意見していた。
だからさ、幼馴染のお前さんたちに知恵を借りにきてるんだよと金太郎はいう。
そもそも松造が死ななきゃ良かったんだよなと正一がいうと、そういうのを葬式済んでの医者話ってんだよ、全く…とかつ絵が叱る。
その時、じゃあ、行ってきますとコックの武(森次浩司)が厨房から出てきて、ついでに緑町の集金もやって来てくれないかなと、正一の妻かおる(早瀬久美)が頼む。
わかりましたと答え出かける武は、金太郎たちに、どうぞ、ごゆっくりと挨拶していったので、良いなあ、正一は、コックの武は明るく良い青年だし、奥方は孫みたいに若くて美人だしと羨ましがる。
すると正一は、何言ってるんだい、そんなことよえい、こんな時、平さんがいたら、一発で決まりなんだよ、どうだ、いっそのこと、平さん探してみたら?と正一はいう。
私もね、死んだ松っつぁん継ぐのは平さんしかいないって言ってるんだよ、どう?金ちゃん…とかつ江も言う。
そういやあ、もうかれこれ20年になるな~と金太郎は昔を思い出す。
(回想)しかし出来た男だったね…、お前さんが女中の千代ちゃんに馬してしまった女の子、主人のため、店のため、自分の子だと嘘ついて引き取ってさ、しかも千代ちゃんと一緒になってくれて、長の草鞋を履いたんだものね~とかつ江がいう中、当時の再現映像が出る。
雪の降る中、赤ん坊を抱いた船木平作(藤岡琢也)は、千代(岩崎和子)とともに、まだ髪の毛があった金太郎や松造に見送られ、店を出ていく。
おかげで「川金」は波立たず…、あの女の子も丈夫に育っていりゃ、今年あたり、成人式ってとこだね~(と、かつ江のセリフが重なる)
(回想明け)いつしか金太郎は涙を流していた。
その時、かおるが、新しいの入りましたからどうぞと、コーヒーを勧める。
全く平さんって人は、下町の人情を絵に描いたような男だったねとかつ江は懐かしむ。
それに引き換え…と金太郎が言うと、そうだよ、平さんが仏なら、長吉は鬼だってんだよとかつ江は指摘する。
そういえば、長吉の奴、豚箱の弁当まで手を広げたんだって?と正一が聞くと、そうなんだよ、創業100年の暖簾も官給弁当作るようになっちゃお終えだと金太郎は愚痴る。
警視庁浅草警察署 食べ終わった弁当箱の回収に来ていたヒデオを、おい「川金」と呼び止めた警官の鬼山(ハナ肇)は、何だ、この弁当は!と文句を言う。
何かあったんですか?とヒデオが聞くと、留置人が一口食ったら突き返したぞという。
あら、どうりで重いと思ったんだとヒデオは答える。
あのな、留置人といえども人間なんだ、豚に餌やってるのとは違うんだぞと鬼山が言うので、豚に食わせるはないでしょうとヒデオは言い返す。
ああそうか、これがうまいか、食ってみろ、どうだ?と言いながら、鬼山は弁当の一つの蓋を開け、中身をヒデオの口に押し込む。
ヒデオは、美味しいわ、なんて美味しいものを作るんだろうと返事をする。
ダメ親父の漫画を読んで笑っていた長吉は、弁当箱の回収を終えてヒデオが帰って来たので、はい、ご苦労!入れ物をちゃんと洗って乾かしとけよと命じる。
ヒデオがごにょごにょ言うので、何だよ?と長吉が聞くと、ヒデオはその場で弁当箱の蓋を次々に開け、ほとんど減ってない中身を見せる。
こうですねとヒデオがいうので、なんだい、こりゃ!どうして置いて来ないんだよと長吉が怒ると、留置所に豚は飼ってないそうなんですけど…とヒデオがいうので、わかってらい、だからどうした!と長吉が聞くと、ですから、動物にも食べられるような味にしろって…とヒデオが答えると、誰が!と長吉は怒るので、鬼山さんが…とヒデオは答える。
畜生、あの味音痴め…と長吉が言うと、あの~、なんでしたら、こっちから逆に慰謝料払いましょうとヒデオが意見をいうと、うるせえ!てめえに俺の味にアヤつける気か?と出刃包丁を取り出して長吉が脅して来たので、えええ!とヒデオは怯える。
そこに料理を持った工作がやってきて、5万テーブルのお客さんがね、これ一口食ったら便所にすっ飛んでって、ゲーゲーやった末に逃げちゃいましたよと報告したので、ヒデオは笑いだす。
さらに、親方!3万さん、連れてきた犬も食べませんよ、でもお金も置いていきましたと報告し、親方味見した時は、近来なく良く出来たって言ってたけどなと忠次も言ってくる。
ははあ、てめえらまた俺の味に細工しやがったなと工作らを睨んだ長吉は、出刃包丁を突きつけ、ヒデ!工作!と問い詰めるが、とんでもないですよ、冗談じゃないですよと2人は慌てる。
嘘つけ、嘘を!と長吉は凄んで見せるが、畜生、人の面に泥を塗りやがって、てめえらみてえな恩を仇で返すような犬根性畜生、俺が徹底的に叩き直してやる!全員調理台の前で整列!と長吉は命じる。
てめえらの愚かな細工によって「川きん」は、再度赤っ恥をかいた!よって各自の責任において、この残飯をてめえらの胃袋の中に入れる!こう言う義務が生じた!と長吉が、残った弁当を四人の前に積んで言うので、ヒデオたちは吐きそうになる。
世の中には貧しくて食べたくても食べられない貧しい方が大勢いらっしゃる!お前らは、神様、並びにお百姓さんに感謝をして良い、よ~い、ドン!と長吉は号令を出す。
食えねえよと忠次たちが文句を言うと、うるさい!俺の命令は大旦那及びお嬢さんの命令と忘れたか?喰らえ!ほら食え!おい食えよ!ほら珍しい味でしょう?工作も若旦那も休むな!食え、早く!と長吉の拷問はとどまることを知らなかった。
どんどん食えってんだよ!と長吉は無理強いすると、しかしなあ、こんなもん食わせられちゃとても勤まらねえってんだったらな、親方あえて止めないよ、ヒデ、やめても良いぞと耳打ちすると、睨んでいる忠次の顔を見たヒデオは、美味しい!親方大好き、この店辞めません!と言って弁当を食い続けるので、長吉は悔しがる。 風太に聞くと、同じく、工作に聞くと頑張ってます、忠次に聞くと、おかわりもらいてえくらいだと答え、みんな辞めそうにないので、長吉はイラつき、そうかい、それじゃあたっぷり食ってもらおうじゃないかというと、弁当を直接忠次の顔に押し付けだす。
「レストラン よこた」の名前の入った自転車を停めた側の川縁で、武は令子と会っていた。 令子から、武さんがうちに来てくれると一番良いんだけど…と相談された武は、またかい…と困った顔になったので、ごめんなさい、言わない約束だったわねと令子は謝る。
俺、日本料理って奴は、どうしても性に合わないんだよと武はコック棒を脱いで頭をかきながら答える。
令子も、わかってんの、もう言わない…と答えると、あ、横田の親父さんがね、適当な店が見つかったら頭金ぐらい貸してやるって言ってくれたんだ、そしたら小さくても良い、自分の白を一軒持って…と武は夢を語りだしたので、誰と?と令子は聞く。
すると武は、ばか、決まってるじゃないかと令子のおでこを突いて言う。
武と同じく突堤に座った令子は、うまくいかないな~、本当は今すぐにでもお鍋下げて武さんの小さなお城に飛んで行きたいのにと答える。
その頃、客が残した残飯処理のため、食いに食って太ってしまったヒデオら4人が整列して街を歩いていた。
「ダルマ薬局」の前まで来た時、ヒデオはお腹が脱腸になっちゃったよと嘆く。
卵焼きが飛んでる、食いもんない国に行きたいよ、おへそが広がっちゃったよとめいめいぼやく4人は薬局に入り、下剤ちょうだい、痩せ薬ちょうだい、何でも出すもの…と注文し始めるが、薬局のバイトをしていた京子(仁科明子)の美貌に釘付けになる。
いらっしゃいと京子がそばによると、昨日から」アルバイトに来てもらっている薬大の学生さんで京子ちゃんっていうのよと店の女性が教え、こちら近くの料理屋さんの若い衆と京子にも教える。
よろしくと挨拶した京子が、どうなさった?と聞くと、あのね、妊娠ですとヒデオはボケる。
いやそうじゃなくて、バッチいいもの食いすぎちゃってね、もう苦しくて苦しくて…とヒデオは訴える。 京子ちゃん、助けて!と風太は訴え、僕なね、京子ちゃんがお腹さすってくれたら治っちゃうと工作はいい、この人は毛生え薬だって!と隣にいた忠次を指さしたんで、京子は噴き出す。
面白い人!夏の食べ過ぎは怖いから、注意してくださいねと、京子は優しく声をかけ、ちょっと待っててねというので、はい、一生待ってますよとヒデオは答え、それでね、僕は…と前に出ようとした工作は、邪魔だよとヒデオの腹を叩いたので、ヒデオは吐きそうになる。
その後、魚の捌き方の練習をしていたヒデオは指を切ってしまい、痛がったので、監視していた長吉は、またかよと呆れる。
すると、風太もまたかよ!俺もまた、ざっくりやっちゃった!と工作も良い、ちょっと薬屋行ってきますと3人は指を押さえながら出ていく。
「ダルマ薬局」に来たヒデオたちは、また指切っちゃったよ、僕の指取れちゃったかもしれないよと京子を前に指を差し出し、甘え出す。
ヒデオたちの指を見た恭子は、何も切ってないじゃないの、舐めとけば治るわよというだけだった。 それでも、京子ちゃん舐めて~などと甘える秀雄たちに、じゃあ、これつけときましょうねと言って恭子は塗り薬をつけてやると、嬉しんだわとヒデオは悶絶する。
その時、おい!と呼びかけてきた中年男を見た京子は、あらお父さんと喜ぶ。
どうだい、少しは慣れたか?という父親は、「川きん」から去った船木平作だった。
薬屋の夫婦は、いらっしゃいませと平作を見て嬉しそうに挨拶してくる。
平作も、どうもお世話になっておりますと挨拶を返すと、まだ半人前ですから厳しくやってくださいと父親らしい言い方もする。
店の主人は、とんでもない、近所でも評判が良いしと京子を褒める。
今日は?と奥さんの方が行くと、ああ、あの~、死んだかないの命日なもんで、ちょっと墓の掃除に…と平作は答える。
まあ、それは、それは…と奥さんが感心すると、何しろあいつが心配なもんでねと平作は京子の方を見ながら、どうか今後とも一つ!と主人に頭を下げたので、いやいやこちらこそ…と店の主人も頭を下げる。
じゃあ、京子!先に帰ってるぞと呼びかけ、じゃあ、ごめんくださいませと店の夫婦に挨拶し平作は帰って行く。 京子はそんな平作に、私がおかず帰って帰るからねと呼びかける。
その後も、ヒデオ、工作、風太の3人は、またやっちゃったと指を切ったふりをして薬局へ行く行動を続けようとする。
長吉は呼び止めようとするが、その声に驚いた風太は転けてしまい、痛がっていると近所の子が近づいてきて、風ちゃん、元気出せよと励ます始末。
不機嫌になった長吉に、親方よ、客もいねえんだし、一丁やろうよ、行くぞ、丁か半か!と壺を振って忠次が声を掛ける。 その呼びかけに応じ、壺をじっと見た長吉は、国士無双!と答えたので忠次はずっこける。
その頃、「蔦の家」では、多摩湖が、かつ江や正一、かおる相手に麻雀をやっており、腹減ったね、何やってんだろう、あの「川きん」のグズ!とぼやいていた
かつ江は、ちょっと桃太郎、今年中に間に合うのかって、嫌味言っといでと指示する。
はいと答え、部屋を出て行こうとした桃太郎が、あら?と言ったので、そちらを見た薫は、やだ、大旦那!と驚く。 金太郎自らが出前を持ってきたからだった。
ハイよっと、鉄火丼が4つと川きん丼2つだったねと金太郎が確認してきたので、ちょいと金ちゃん、どうなってるんだ、あんたん所の店は?とかつ江が呆れて聞く。
正一も、これはいよいよ末期的な症状だなとぼやく。 その後、長吉は、何卒令子様と晴れて夫婦になり、「川きん」の暖簾を継げますように…、しかしゴミどもが私の邪魔をしようとしています、観音様早くあの4人を店から追い出してください…、あ、それから足の水虫も治りますように…と神社で祈っていた。
その直後、足元に落ちていた10円玉を見つけたので、一眼を忍んだ素早く拾い上げ、着物の袂にしまう長吉だった。 しかし、その後引いたおみくじは凶だったので、また凶だよ、おかしいな~と長吉はぼやく。
ちょっとお坊さんよ、お宅に大吉のおみくじは置いてないの?と長吉は文句を言うが、目の前に大吉の札が置いてあったので、あるじゃないか、ここに…、全く!と喜び、これ打ってよとその札を勝手に取り上げると、どうだい89番大吉、どうだい、願い事かなうべし、演壇まとまるべし、こう来なくちゃいけない!やった!もうビッタシと勝手に喜ぶ。 その時、長吉はお参りに来ていた玲子を発見する。
そばに近づき方に触ると振り向いた玲子は、あら?蝶さんも願掛け?と驚く。
お嬢さんも?で、どんな事?と長吉が尋ねると、実はね、長さん、どっか落ち着ける所に付き合ってくれない?私、おり行って相談したいことがあるの…と令子が言うので、お嬢さん…と呟いた長吉は「小料理 ふな木」に同行する。 ここですか?もっとムードがあるところがいいんじゃないかな?と長吉は不満を口にするが、あ、いらっしゃいましと出てきた平作に、あんたがご主人?と長吉は話しかける。
ええ、よろしく願いしますと平作は低姿勢で挨拶してくる。 こちとらね、ちょいとあ人事はうるさいよと長吉が口出ししたので、長さん!と玲子が諌める。
恐れ入りますと苦笑した平作は、まあ、この時間ですとせいぜいお惣菜程度になりますが…と平作はいうと、惣菜ねえ、しかしこう狭いと話もできねえなと長吉はぼやく。
申し訳ございません、はい、麦茶でございます、どうぞと平作は勧めると、お嬢さん、河岸変えますか?と長吉が言うので、何言ってるの、私、お刺身いただこうかしらと玲子は注文する。
へえ、そちら様は?と平作が聞くと、じゃあいいよ、それで‥と長吉も仕方なさそうに同意する。
はい、畏まりましたと受けた平作は早速調理にかかるが、長吉は不満そうだった。
平作が魚を切り出すと、ちょっとちょっとその包丁をもっと縦目に引けねえかな?などと指示し出す。 こりゃどうも…、旦那玄人ですね?と平作は長吉にいう。
くろーと?冗談言っちゃいけない、こちとらくろーともくろーと、真っ黒の毛だと長吉が横に座った令子の目を気にして自慢したので、どうもお見それいたしましたと平作は詫びる。
その時、玲子が、あの…、間違ってたらごめんなさい、もしかしたらあなた、昔「川金」で働いていた平さんじゃありません?と聞く。
それを聞いた平作が、えっ!と驚いて玲子の顔をじっと見てきたので、やっぱり平さんねと令子が喜んだので、そうおっしゃるお客さんは?と平作は聞いてくる。
令子ですよ、平さん!と思わず立ち上がった令子が明かすと、えっ!ああ、お嬢さん!と平作も思い出す。
その頃、金太郎一人で店番していた「川きん」には数名の若者グループが一挙になだれ込んでくる。
調理場の小窓から客席を覗いたヒデオ、工作、風太たちは、あ、京子ちゃんだ!と気づいて全員で店に飛び出していくと、はい、いらっしゃい、京子ちゃんいらっしゃいませと愛想を振り撒く。
こんにちわと挨拶した京子に、恭子ちゃん、何食べる?天ぷら?お刺身?それともカエルの蒲焼?とヒデオは聞く。
や~ねと京子が笑うと、じゃあ鯨の丸焼き!と友達が注文したので、良し!と答え、金魚の酢の物と別の女の子がいうと、金魚の酢の物!とヒデオは受ける。
メダカのお刺身!氷の天ぷら!と別の子たちが言うと、良し、今日はね、この際だからなんでも作っちゃうとヒデオは張り切る
一方、別のテーブルに座った男性二人が、揚々、俺たちの方はどうなってるんだよと文句を言う。
すると工作が、残念でした、なんならこの先にラーメン屋があるよなどと答えたので、チェッ、頭にくるなあ~と男客は怒ってしまう。
それを呆然と見ていた金太郎に気づいたヒデオは、ああ、大旦那、いらっしゃったんったのでスカ、どうも…、あ、こちらが京子ちゃん、ほら、今度新しくできたダルマ薬局に来た…と紹介する。
なるほどそれでみんな目の色変えてるんだね?と金太郎は納得し、いくつぐらい?歳は…と京子に聞く。
私たちみんな成人式を済ましたばかりなんですと京子が答えると、成人式?ふ~ん、成人式ね、成人式…と金太郎は呟きながらその場を去ったので、変なの、成人式、成人式って、選挙運動でもする気じゃないと女友達が言い、みんな笑い出す。
「レストラン よこた」にやってきた金太郎に、何でえ、何でえ、梅雨時のせんべいみてえにしけた顔してるじゃないかと正一が話しかける。
あたぼうよ、俺にはおめえみたいな素敵な奥方はいねえからなと金太郎はいう。
そこに笑顔で駆け込んできた令子は、あ、やっぱりここだった!とうちゃん、びっくりしないでよと言いながら近づいてくる。
一方、厨房に帰ってきた長吉は、忠次?風太?ヒデ?工作?と呼びかけるが、誰もいないことに気づく。
急に笑顔になった長吉は、野郎共、とうとう根を上げておん出やがったか?結構、結構と言うと、89番大吉、願い事叶う、縁談整う…とおみくじの文言を思い出すと、令子、じゃあ今ね、お前の好きなキスの磯辺焼きを作ってやるから待っててちょうだい!待っててちょうだい!待っててちょうだい!と一人で浮かれ始め、冷蔵庫の中に入っていく。
包丁一本、キスはどこいった?などと替え歌を歌いながら冷蔵庫の中を探し始めた長吉だったが、あああった!とキスを見つけて出ようとした長吉の目の前で、なぜか扉が自然に閉まってしまう。
ああ!と驚いた長吉は、風太!ヒデ!工作と呼び出すが、その声が外に漏れるはずもなかった。
そこに京子たちも連れて戻ってきたヒデオが、次は何を作りましょうかね、まんねんなどと浮かれていると、じゃあ僕は良子ちゃんに川きん丼!じゃあ僕は京子ちゃんに天丼作ろうっとなどと言うので、ヒデオが、汚ねえな、京子ちゃんは俺だよと不満を言う。
すると工作は、だめ!お前は男の学生さんなどと指示するので、良し、頭きた!あいつらにね、ミミズの塩焼きと豚の脳みそを食わしちゃおうとヒデオは答えてみんなを笑わす。
加藤君、エビを出してきてくださいと工作が命じると、自分のことは自分でしてくださいとヒデオは答える。
すると工作は、チェッ、ケチなんだから、良いよ、自分でやるからと言いながら冷蔵庫に向かう。
良いですよ、ケチでも良いですよとヒデオは答える中、冷蔵庫に入った工作がエビを探していると、半分凍った長吉が触ってきたので仰天する。
メガネどっか行っちゃったよと戸惑いながら、長吉の顔をじっくり見た工作だったが、変な魚というだけ。
あ、あった!とメガネを見つけた工作は、エビを持って、京子ちゃん、お待たせしましたというと外に出ていってしまう。
その後、客(三角八郎)のお相手をしていた平作の「小料理 ふな木」の店に帰ってきた京子がただいまというと、はい、お帰り、遅かったな、晩飯は?と平作が聞くと、済ませてきた、練習の帰りのお友達と…と答えた京子は、いらっしゃいと客に挨拶して2階へ上がっていく。
それを見た客は、京子ちゃんも大きくなったねえ、もうじきお嫁さんだというので、もう図体ばっかり大きくて…と答える平作の表情は複雑だった。 いつしか、平作は、妻の千代に死なれた時のことを思い出していた。
(回想)入院していた千夜を見舞いに来ていた平作は、まだ赤ん坊だった恭子が泣きじゃくるので、困っていた。
水を含ませた平作は、あんた…と呼びかける千代に、いけねえ、死んじゃいけねえぞ、千代!と手を握って呼びかける。
千代は、京子のことお願いしますと言い、あんたって本当に良い人だったというので、その手を握りしめた平作は、泣きながら、千代!千代!と呼びかける。
(回想明け)店を終い、一服し終えた平作が、外の暖簾を外しに出た時、そこに来ていた金太郎を発見する。 平作は、旦那…と声を出す。
金太郎は、平作の家に飾られていた千代の遺影に合掌する。
勘弁しておくんなさい旦那、川一つ挟んだきりでいながら、ご挨拶にも出向かねえでと平作が詫びてきたので、何をいうんだね、平さん、しかしずいぶん探したよと金太郎がいうと、あ、ありがとうございますと礼を言う。
それより旦那…という平作は、そっと襖を開けて、隣の部屋で寝ていた京子の姿を見せる。
その寝顔を見た金太郎は、昼間見た強固だと気づき、そうだったのか…と納得する。
お預かりした宝物、平作ただ一つのご恩返しでございますと平作はいうので、この子が私の娘だったなんて夢にも思わなかったよと金太郎は呟く。
その頃、ヒデオと工作と風太は、厨房で勝手に自分たちだけで晩飯を食っていた。 おい、今のうちに食っちゃおうよと工作はいう。
その時物音がしたので3人は驚くが、忠次だったので、何だ、若旦那か、また博打でしょうと呆れる。
へへへ、まあなと答えた忠次は、おい、ヘドロの野郎は?と聞く。
この時間にいなければね、ストリップかトルコに決まってますよと工作が答えると、あれ?忘れてた、豚がお産じゃねえや、豚箱の弁当20個な、今夜のうちに作っとけってヘドロが吠えてたっけとヒデオが思い出す
知らねえぞ、早くやっとけと工作が言い、魚はまだ残ってるんだろう?と風太も言い出す。
早くやれ!と工作が急かすので、チェッ!いつも俺だ!俺の刺身とっててくれよ問いながら冷蔵庫を開けたヒデオだったが、お?何だよ、何だこれ?おい、何か変なものがあんぞと言い出す。
工作や風太らも見に来て、何だこれ?と不思議がる。
冷蔵庫の床に氷の塊があったからだ。
調理場に持ち出した氷の塊を前に、良し!何だろうな?虹水これ、でっけえ魚だな?と忠次は驚き、シレだっけ、こんなの?鯨にしちゃ小さ過ぎるしなと工作も不思議がる。
これはサメかフカじゃないすかね?とヒデオは推測するが、さて、お料理してあげましょうかねと言いながら、包丁を振り下ろすが、ダメだ、これ、こっちこっちに凍ってらと呆れる。
じゃあ、これで行こうぜと風太はノコギリを取り出すが、ダメダメ、はい、溶かすんでしたら熱湯が一番です、退いて退いてとヒデオを押し除けた工作は、ヤカンの熱湯を顔の部分にかけ始める。
すると奇妙なものが見えてきただの、これ、アンコウじゃないですかね?まんねんなどとヒデオはいう。 ボラのお化けじゃないかと忠次は推理する中、いずれにしても深海魚だよと工作はいい、さらに熱湯をかけてみる。
顔の全貌が見えると、風太が親方だ!と気づき、秀雄も、あ、親方!一体何が何してどうなったんですか!と呼びかける。
鼻の呼吸を確認した工作は、はい、完全に地獄へ行ってますと嬉しそうに断定する。
本当か?本当!と聞いたヒデオたちは全員でバンザイをする。
何でこんな様になったんだろうね?と工作は不思議がり、わかった、レコに振られてな、世を儚んだんじゃねえか?と忠次が推理する。
何?自殺?とヒデオが聞き、そうよと忠次が肯定すると、嬉しい!ざまあみろヘドロ!と長吉の顔を見てヒデオは言い放つ。
PCB!チクロ!ゾウリムシ!と各人が罵倒すると、閻魔様、思う存分いじめてください、アーメンとヒデオは祈り、長吉の顔を叩いたりひねったりといたぶり出す。
この野郎っと!と長吉の鼻を捻ったり、下唇を摘んだヒデオだったが、そのショックで長吉は目覚めてしまう。
笑うな~、「川きん」の跡取りも9割がた、若旦那に決まりましたと工作が忠次にべんちゃらをいう中、目覚めた長吉はジロリと四人の方を見る。
こいつの足を引っ張った甲斐がありましたと風太も言い、ヒデオは、若旦那、給料5倍乗せお願いしますよと忠次に手を合わせる。
頭の薄い大統領!いやいや大将、日本一!などとヒデオは煽てると、忠次はありがとうと言い、総理大臣というと、また、ありがとうと礼をいうので、たぬき持ち豚!というとありがとうと答え、忠次は、任しとけってことよと胸を叩いたので、お願いしますとヒデオたちは喜ぶ。
その時、聞きましたよ、皆さん…と長吉が呟くと、わかりゃ良いんだよと4人揃って言い返してくるが、次の瞬間、全員気絶してしまう。
翌日、蘇った長吉は「ダルマ薬局」1人に来て農薬を注文したので、え?農薬ですか?と京子は驚く。
そう…、ドブネズミを4匹ほど殺したいんでねと長吉はドスの効いた声で答える。
4匹!数がわかってるんですか?と京子が聞くと、何でも良いだろう、要するに飲んだらイチコロでお陀仏になるってやつだよ、地球上で一番効くやつ頼まあと長吉はいう。
はいと答えた恭子が薬剤を探し始めると、ところでそいつは人間にも効くんだろうな?と長吉は確認してくる。
もちろんです、大変な劇薬ですから、お子さんの近くには絶対置かないでくださいと京子は答える。 薬便を受け取った長吉は、あんがとさんといい瓶にキスをする。
一方、「川きん」の一室でちゃぶ台を前に集められたヒデオたち4人は、夕方からヒドロの奴、やけに優しいぜと工作が言うと、おまけによ、夜食に俺たちの好物の三平汁作ってくれるなんざ、冷凍人間くらっちゃった奴にしちゃおかしいと思わねえかとヒデオも警戒する。
反省したのかしら?と風太が言うと、まさか…、ひょっとすると、俺っちのご機嫌取っといてよ、帰す刀でバッサリじゃねえかと忠次が予想する。
なるほど~とヒデオたちが納得すると、おいみんな、猫撫で声に乗るとやばいぞと工作は忠告する。
よし、バカスカ食って寝ちまおう、まんねん…とヒデオは提案する。
その間、調理場で一人三平汁を作っていた長吉が、南妙法蓮華経…と念仏を唱えながら、鍋に毒薬を投入する。
そして、合掌すると、3秒以内に殺してちょうだい、絶対よと祈る。
4人が待つ部屋に鍋を持ってきた長吉は、さあできましたよ、たんと食べてくださいよと4人に勧める。
しかし、蓋を開けると異臭がすごかったので、みんな顔を顰める。
なんか変な匂いがいたしますけどとヒデオが指摘すると、いや、それはお前ね、海の匂いを消さずに仕上げる、これがトーシロたちと違うところだねと長吉はいいわけする。
おお、じゃあ食うかと納得した4人は一斉に自分の椀に盛り付け、食おうとする その時長吉が、ちょっと待ったと制し、いや食べる前にちょっと聞いときたいことがあるんだがねと言い出したので、全員邪魔されたと感じ、碗を置いて落胆するが、いやいやそうじゃねんだよと長吉はいい、俺の方で聞きてえくらいだから、おめえたちの方でも言いてえことがあるんじゃねえか?と問いただす。 さあって、差し当たって何もないすけどねとヒデオが答えると、死んでも親方の側離れませんってと工作も答える。
そいつは良い心掛けだ、しかし何かな?ほら今夜あたりがてめえたちの見納めになるような気がしてなと長吉はいうので、大丈夫ですよ、親方は500歳くらいまでは死にませんからとヒデオは答え、じゃあいただきましょうと碗を取るが、ちょっと待って!とまた長吉は止める。
本当に何にもいうことねえんだな?ないんですね?と長吉は念を押すので、しつこいね、覚めちまうよと碗を持った忠次が文句をいう。
なら良いんだよ、じゃあどうぞと長吉は勧めるが、せえので召し上がってくださいと出鼻を挫くので、何もそんな目ねしなくたって普通にいただくよ途中時は答え、いただきますと言って全員汁を食い始める。
ヒデオは、美味しい!と叫ぶくらいで、親方の腕、さすが!などと工作も褒めるが、長吉は正視できずに顔を背けてしまう。
しかし気になり、」自分の指で自分の瞼を押し広げた長吉が、味はどうだい?と聞くと、抜群!お代わりいただきますとヒデオはいうくらい。
親方の料理の中で一番上等だ、もっとあった!と工作は言い、あっという間に鍋はかっらっぽになってしまう。
うん、はあ美味しかった!さて、みなさん、ぼちぼちねんねしましょうかね、まんねんとヒデオはいう。 そうねとみんなも言い出し、やあ、ごちそうさまと言いながら、隣の部屋に寝具を並べ始め、工作は、親方、明日も作ってちょうだいねなどという始末。
ああ美味しかった、食った、食ったね、明日また作ってくれないかな?などと4人は元気満々だったので、不審に思った長吉は、空になった鍋のニオイを確認したり、お玉の底を舐めてみるが、次の瞬間苦しみ出したので、どうした?どうした?ゴリラの美容体操ね、頑張ってんね、親方などと隣室から4人の呑気な声が聞こえてくる。
流石に異変を感じ、近づいてきたヒデオは、親方、また死にたいの?などと聞いてきたので、そうか…、こいつら、公害で胃袋が免疫になっちまったんだと心で考える。
薬大のプールの授業に出ていた京子は、令子から過去のことを打ち明けられ、でも夢見たい、私にこんな素敵なお姉さんがいたなんて…と喜ぶ。
じゃあ、うちに帰ってきてくれる?と令子が聞くと、うん、そりゃ…でも、今のお父さんも一緒じゃなきゃ嫌だなと恭子が言うので、もちろんよと令子は答える。
平さんが来ないって言ったら、私たちが承知しないわよと令子はいう。 その頃、忠次から話を聞いたヒデオたちは、えっ!京子ちゃんがこのうちのお嬢さん?と驚いていた。
うん、世の中狭え様で、やっぱり狭えよ、この俺がたまげたぜと忠次はいう。
ひょっとすると若旦那のお嬢さん?と工作が聞くと、バカ!長男の俺になんで娘がいるんだいと忠次は言い返す。
するってえとさ、京子ちゃんのハートを射止めればこの店のご主人だろう?と風太が言い出す。
ダ~メ!恭子ちゃんの未来のご主人様は、この加藤ヒデオさんですとヒデオが口を出す。
うん良いよ、その代わりに、俺は若旦那と仲良くするからね、ねえ、若旦那?と工作は忠次に媚を売る。
問題は令子を狙っている、あのヘドロの長吉よと忠次が切り出すと、こうなったら1日も早くね、あのヘドロの長吉を追い出しましょうよとヒデオが続ける。
その時、彼らが話していた野菜置き場のキャベツに、長吉が握った包丁が突き刺さったので4人は肝を潰す。
この野郎!今日こそはっきり白黒つけてやるぜ、今のうちに念仏でも唱えてろ!と言いながら、長吉が包丁で大根を切ったので、4人は頭を抱えて怯える。
その時、正一が来て、ああ長さん、大変だ、そんなもん振り回してあ死んでる場合じゃないよと言う。
客席にやってきた2人の保健所員(安田伸、桜井センリ)が、そこらじゅうに消毒剤を撒いていたのだった。
そこにやってきた長吉たちは、おい!と驚き、野次馬の中から店に入り込んできたかつ江も、どうした?ちょいと金ちゃん、あんた何かあったの?と聞いてくる。
いや、俺にもさっぱり…、帰ってくるといきなりなんだよと答える。
責任者の板前さんは誰?と保健所員が聞くので、俺だ!と長吉が答えると、あんた?というので、そうよと答えると、店も汚いけど、あんたの顔もひどいねと保健所員は言い、長吉の顔にも消毒剤を振りかける。
それを見たかつ江は、やっぱりあいつは疫病神なんだよと金太郎に告げる。
壁に掲げられた「この店の衛生状態は優」と書かれた額縁にも消毒剤がかかっていたが、保健所員はそれを外してしまったので、ちょっとちょっと、これ一体何がどうしてどうなってるんだよと長吉が聞くと、さあね、私もわかんないんだから、あんたにもわからないでしょうなどと保健所員は言う。
正一は、長さん、問題は4人だよ、お前さんに赤っ恥かかしてこの店にいられなくさせようって腹なんだよと教えると、店中に「優」マークを貼っていた4人を見る長吉の目は殺気に満ちていた。 畜生…、今度こそ殺して差し上げる…と長吉は呟く。
いやご苦労さん、ご苦労さん、いや、あいつらの泣きっ面が見えるようだな、え?と熊五郎が金を渡していたのは、先ほどの保険職員二人だった。
今頃パーっと噂が広がってますぜと職員役の一人が言うと、ちょっとやそっとじゃ元に戻らんでしょうともう一人も嬉しそうにいう。
いや、結構、結構、これであの板公も遠からず首になって俺の出番になるっちゅうわけだ、面白くなってきたぞ~と熊五郎は満足げにいう。
そこに、親分、親分、「川きん」の倅がきましたぜと知らせに来たので、お、おめえたちは早く裏から帰ってくれと熊五郎が急かすので、ご無礼しましたと言うと2人は帰ってゆく。
そこにやってきた忠次は、親分さん、俺のところ当分店閉めるらしいやと報告する。 ほお?何でまた?と熊五郎がとぼけて聞くと、バイキンでもいるんじゃねえの?おかげでこちとらあ、心置きなくサイコロが振れるるってわけさと忠次は呑気そうに言う。
ああそうそう若旦那!と呼びかけた熊五郎は、ほら例のお願いしてたやつというと、ああ、そうかと言いながら、忠次は腹巻の中から、えっと、ハンコでしょう?と言って差し出したので、それを受け取った熊五郎は、良く実印持ち出せたねえと喜ぶ。
そして引き出しから書類を取り出すと、こんなもんは形式だけなもんでね、これさえあれば若旦那に好きなだけ遊んでもらえるしねというので、忠次は、そう来なくっちゃと喜ぶ。
福田、何やってんだ、若旦那に早く都合しなさいよと熊五郎が指示したので、ああ、若旦那、どうぞこちらへと、福田は忠次を賭場の方へ案内する。
その間、熊五郎は、実印を書類に捺していた。
一方、長吉を呼んだ金太郎は、なあ長吉、お前も長年の働きでさぞ疲れたことだろうし、気分直しに旅でもしてきたらと思ってね、少ないけど、ま、これはボーナスってわけかなと封筒を差し出したので、ボーナス?と長吉が不思議がると、その場に一緒に座っていたかつ江が、はっきり言やあ、手切れ金だと説明する。
手切れ金!と驚いて、封筒を長吉が手放すと、違うよ、勘違いしないでくれよと金太郎は言い返すが、長さん、ちょうど良いチャンスだよ、羽伸ばしてきなよと、庭に出ていた正一も勧める。
へい、わかりました、ま、ちょうどお盆ですしね、あっしも仏様にでも会って、身を清めて参りますと長吉は答える。
そうしてくれるかいと金太郎が喜ぶと、へい、ついては例の3人と若旦那も連れて参りやすと長吉が言うので、背後で聞いていた平作たちが雪崩れ込んできて、あっしたちは留守番してますから、1人で仏にあってらっしゃいと勧める。
私たちは邪魔ですよと風太もいい、そんなゴキブリがオナラしたような顔して、怖いじゃないと、じっと睨んでいる長吉にヒデオも言う。
しかし長吉は、うるせえ!と一括すると、若干訳あってな、どんなことがあってもてめえたちと若旦那を一緒に連れてくんだよと3人に告げる。
まあせっかく長さんもああ言ってくれてるんだし、忠次には私から言うからね、みんな良い空気吸っといでと言いながら、金太郎は3人に小遣いを手渡す。
ヒデオは、これさえいただければ話は別なんですよと金太郎からの小遣いを受け取るが、あ、これも私が預かっとくと長吉の封筒も取ろうとしたので、素早くそれは長吉が奪い取り、それじゃあ野郎ども、たっぷり遊んでこようかいと言うので、いやだけどそうしましょうと3人声を合わせたので、長吉は封筒でヒデオの頭を叩く。
えんや~、こらやっと、どっこいじゃんじゃんこらやっと…と歌を歌いながら、5人は「川きん」の軽トラで旅行に出発する。
ああ~、男一匹♩とヒデオと他の3人は荷台で歌っていた。
2番は車を運転していた長吉が、はあ~、包丁一本♩と歌い出し、荷台の4人が唱和する。
3番は工作が歌い出し、長吉の悪口を散々言い出す。
それを運転しながら聞いていた長吉は、ふん、極楽蜻蛉たちめ、もう直ぐ揃ってフカの餌食だ…と考えながら妄想を始める。
(妄想)赤井海の真ん中に浮かんだボートの中に、赤井褌姿の4人が乗っており、長吉は立ち上がり、ここは腹ペコのフカやサメ、果ては妖怪がうじゃうじゃいるので有名なインド洋であると告げる。
戦々恐々周囲を見回していたヒデオが、赤い海の波間から顔を出したゴリラが、ピンクの唾液をヒデオに吹き付けたので悲鳴をあげる。
他の3人も海面に姿を見せる妖怪のようなマスクを発見しパニクる。
ついちゃ、こん中で泳ぎの達者な野郎はどなたかね?と長吉が薄笑いを浮かべながら聞く。
全然、1mも、生まれついての金槌なんですなどと4人は全員首を横に振る。
その返事を待ってたよと笑った長吉は、ではただいまより、お化けの餌になってもらおうかいと言うと、てわましドリルを取り出し、ボートの底に穴を開け始めたので、ったのでどうするんですか?おい、止めろ!止めろ!と4人はパニックになる。
船底に穴が開くと、赤い水が噴き出してきたので、4人は泣き叫び、長吉は嬉しそうに笑い出す。
(妄想明け)俺もバカだったよ、農薬なんぞでバラすより、ずっと完全犯罪だもんねと呟きながら、長吉は薄笑いを浮かべて運転を続ける。
その頃、亡き金太郎の妻と松造の遺影を前にした平作は鈴を鳴らして合掌していた。
なあ平さん、くどいようだがもういっぺん帰って来てもらえねえだろうかと「川きん」に来た平蔵に金太郎が頼む。
そこには令子、かつ江、正一、かおるも同席していた。
平さん、今この店を救ってくれるのはお前さんしかいないんだと正一も話しかけるが、ありがとうございます、私のようなものを忘れずにそんなあったかい言葉をかけてくださって、私は本当にもう涙が出るほど嬉しゅうございます、でも寄る年波には勝てませんので…、20年前の船木平作もすっかりもう包丁がなまっちまいましてね、今じゃもう、お新香切るのがやっとっていう状態…とやんわり断る。
それを聞いていたかつ江は、相変わらずだね、平さん、そこがあんたの良いとこなんだよ、でもね、この人だって棺桶片足突っ込んでるんだしねというので、何!と金太郎が目を剥くと、あ、ごめん、ごめん、本当のこと言っちゃったよ、だからさ、もう仏の供養だと持って、金ちゃんの言うこと聞いておあげなという。
令子も、平さん、お願い、京子ちゃんと2人でこのうちに帰って来てちょうだいと頼む。
何だか盆と正月が一緒に来たみたいで、バチが当たりそうだと言い出して平作は泣き出す。
海辺には若者たちがテントを張って遊んでいたが、1つのテントから赤フン姿のヒデら4人が長吉の出ろという命令で飛び出して来る。
良~し、今から晩飯のおかず取りに遠洋漁業に出かけると長吉は指示を出す。
4人は文句を言うが、直ぐに怒鳴られて近くに置いてあったボートに近づくと、良し、その錨を積めと長吉に言われて、なんでこんなバカなものを積むの?と忠次が聞くと、いちいち掘り下げんなよと長吉は言い返す。
ヒデオも文句を言いかけるが、長吉に怒鳴られ、仕方なく重い錨を4人がかりでボートに積み込む。
その時、「川金」さ~んと呼びかけた声に気づいて振り向くと、京子ちゃんだとヒデオらは気づく。 その時、錨を足の甲に落とされた長吉は悲鳴をあげる。
こないだごちそうさまでしたと言う女の子たちに、いえ、いえとにやけた4人だったが、どうしたの?と長吉が聞くと、水泳部の合宿で今日からこの近くに来ているのと京子は教える。
かっこいい!と工作たちは褒めるが、そういえばこの間のネズミ、4匹うまいこと殺せました?と京子が聞いたので、ネズミ?と4人は興味を示すが、まあ、これからぼちぼち…と長吉はごまかす。 ああ、そう…、早く死ねば良いのにねと京子は無邪気にいう。
ねえねえねえ、今夜は僕たちのテントでさ、オドパーティやろうよとヒデオが言うと、女の子たちもノリノリになる。
みんなでおいとかやろうよと言い、4人と女性軍はエンジンを組んで楽しそうだったので、ボートに一人腰掛けた長吉は面白くなさそうな顔をする。
何も知らねえで、バカども…と呟いた長吉は、ボートを沖に漕ぎ出したところで、さてと、この中で泳ぎの達者なのはどなたかね?と妄想通りに聞くが、予想に反し、4人全員が手をあげたので愕然とする。
おいおい、間違っちゃいけねえよ、全員金槌のはずだろう?と聞くと、とんでもねえ、俺は博打の次に泳ぎが好きだぜと忠次が答え、僕は中学の時選手でしたからねと工作は答え、僕へね、親方に助けてもらって猛練習しましてね、泳いでも良いの?とヒデオは海を指して聞いて来たので、ええ…、待て待て待て待て、おかしいな、どっか話が違うんだよな…と小声でぼやいた長吉は、良し、じゃあ次の手段で行くかと考え、おめえらな、潜って魚掴んでくるか?と4人に聞く。
すると良いよと全員答えたので、良し良し、じゃあよ、迷子になるといけねえからな、全員縄でふんじばってよ、長良川の鵜飼と行くぜと長吉は言い出す。
しっかり縛れ、しっかりな、遠くまでいっちまったら大変なことになるからなと言いながら、長吉は4人にロープを結ばせる。
そして長吉は良~し始め!と命じる。
加藤行きますと言い、まずはヒデオが海に飛び込み、続いて忠次、続いて工作、最後は風太が飛び込む。
全員ボートから離れると、きたね、海行かば~か、ちくしょう、今サザエにしちまうからななどと言いながら、長吉はロープを錨に結びつける。
そして4人分のロープの根本を握った長吉は、おい、この辺はな、腹ペコのフカやサメがいるから気をつけろよと呼びかけたので、海の中にいた4人は、それはないよと言いながら慌て出す。
しかし、船上で、聞こえません、聞こえませんと言い張る長吉は、何すんだ!という4人を無視して4人の命綱が結ばれた錨を海に投げ込む。
おい、てめえら4人も悲しい事故に遭っちまったんだ、俺のせいじゃないぞ、おさらばちゃんだ、悪く思うなよと戦場から長吉は呼びかける
4人はそれぞれ助けを求めながら沈み出すが、いやあ、ごめんごめん、今気がついたらよ、俺金槌で全然泳げねえんだよ、迷わず成仏しろよ、そう言うこと!と長吉は4人に言い渡す。
足が引っ張られる~!もう錨がもう沈んじゃうよ~!助けて~!助けろ~!と叫びながら4人は溺れていく中、長吉は、何妙法蓮華経と唱えながら1人ボートを漕いでその場から遠ざかってゆく。
振り返った長吉だったが、もう4人の姿は海面から姿を消していた。
岸辺でおやつを食べていた京子たち水泳部の面々は、あら?1人で帰って来たわよと長吉のボートを発見していう。
本当だときたがた部員たちは、セーノで声を合わせ、おかず釣れたの?と呼びかける。
岸に船を引き上げた長吉に近づいて来た水泳部の面々は、どうしたの?顔が真っ青よ、他の人たちは?と心配する。
長吉は、バカな奴らでね、泳いでハワイまで行くなんて言いやがって…というので、え、ハワイ!と水泳部員たちが驚くと、今頃八丈島あたりかな?お魚に聞いてちょうだいと長吉はごまかす。
軽トラに逃げ込んだ長吉の耳には、親方~!親方~!と呼ぶ4人の声が聞こえて来たので、たまらなくなり、急いで車を発車させ、その場から逃走する。
途中、電柱にぶつかり、軽トラが動かなくなったので、車を降りた長吉だったが、前方から自転車に乗った警官に命が近付いてくるのに気付き、あ、機動隊!と叫ぶとその場から車を乗り捨て逃走し始める。
なんとか「川金」に戻ってきた長吉だったが、店は明かりが点いており、客の出入りもあるし、表には「新装開店 大衆料亭 川きん」の花輪が立っていた。
入り口からそっと中を覗き込んだ長吉だったが、客席は満員で、令子と京子が甲斐甲斐しく料理を運んでいた。
それを見た長吉は、京子ちゃん、もう帰って来たのかと驚き、おかしいな?と首を捻ると、勝手口から入り、厨房の様子を見に行く。
厨房では、平作が板長をやっており、新人ばかりの下働きの中には武も混じっていた。
7番さん、川きん丼あがり!お次、5番さん定食の西京焼き!と調理場は戦場のような忙しさで、長吉が声をかけても誰も相手にしなかった。
平作は、はい、最低にして西京焼き!などと洒落を交えて平作が料理を切り回していた。
武君、ここは俺の板場なんだから、だめだよ、勝手なことされちゃ〜と、武を捕まえて抗議した長吉だったが、ああ長さん、これ悪いけど、2階頼みますと武から料理の入った箱を渡される。
ずいぶん派手だな、どこの忘年会?と長吉が聞くと、浅草署と武が答えたので、警察!と怯えた長吉は、俺、ちょっと分け合って疲れ溜まってるから、部屋行って横にならせてもらうぜと言うと、過去を置いて厨房を後にする。
自分お部屋に戻って、電気もつけないまま横になった長吉だったが、顔に水滴が落ちて来たので、邪魔そうに手で拭う。
さらに何かが顔に落ちて来たので、目を開けた長吉は、英夫、工作、風太、忠次らが幽霊になって目の前にいることに気づく。
悲鳴を上げ逃げ出そうとした長吉だったが、4人の幽霊が逃さないように、長吉の足を持って引っ張る。
なんとか廊下に逃げ出した長吉だったが、簾の向こうに忠次の幽霊がいたので、ごめんなさい、ごめんなさいと詫びながら、這いつくばって廊下を逃げ回る。
便所に逃げ込んで鍵をかけた長吉だったが、洗面所に捕まって立ちあがろうとすると、鏡に自分の顔が映って悲鳴をあげる。
やがて、俺か!と気づくが、長吉〜と呼び声がする大便所の方を見ると、便器の蓋が開いて、下からヒデオの幽霊が出現し、うんこちんちんと言いながら、裏飯屋のポーズをとる。
おいで、おいでと言いながら、トイレの中から秀雄の幽霊が出て来たので、長吉は鍵を開けて便所から廊下に出ていく。
風呂場の部屋に逃げ込んだ長吉だったが、別の幽霊が天井のところにおり、親方、おいで、おいでと呼びかけたので、湯船の蓋を開けて中に潜り込んだ長吉だったは、そこには颯太の幽霊がいたので、慌てて飛び出して逃げる。
腰を抜かして這いずるように家の外に逃げた長吉だったが、そこにいたのは工作の幽霊だった。 その頃、金銭借用書を出し、締めて5300万円!おめえさんのバカ旦那に貸した全額だ、香典代わりに持って来てやったよと脅していたのは熊五郎だった。
香典代わり?と金太郎が不思議がり、借用書を確認すると、とぼけるんじゃねえよ、あのバカ旦那、町内の噂じゃ溺れ死んだそうじゃねえかと熊五郎はいう。
はあ、あのろくでなし…と金太郎は借用書を見ながらいう。
印だって、ちゃんとここに押してあるんだと熊五郎が借用書を指し示すと、明日までに金を払ってくれないと、いやでもこの「川きん」は俺のものになっちゃうんだぞ、みんな…というと、熊五郎はぶつぶつ言いながら部屋を出るが、暗い別の部屋の前に来た時、聞いたぞ井戸熊…と、忠次の幽霊が出て来たので、熊五郎は仰天し腰を抜かしてしまう。
一方、「葛の家」の中に入り、座敷に後ろ向きに座っていた着物姿の女性に、助けて、女将さん!と縋りついた長吉だったが、なんだよ?と言いながら振り向いたその和服の女性は風太の幽霊だった。
さらに簾の向こうにいた和服姿の女性に、日の丸姐さん、玉ちゃん、玉ちゃん!と助けを求めた長吉だったが、振り返って抱きついてきたのはヒデオの幽霊だった。
お嫁にして〜などとヒデオは言いながら、長吉の首に腕を絡ませてくる。
這う這うの体で「蔦の家」から出てきた長吉と、「川金」から出てきた熊五郎がぶつかってしまってまた驚く。
「川きん」の物置に逃げ込んだ長吉だったが、すぐ後から熊五郎も逃げ込んできて、振り向いた長吉の顔に蜘蛛の巣が絡みついていたのを見て悲鳴を上げる。
迷わず成仏してくんねえ、証文はこの通り返す、南無阿弥陀仏…と熊五郎は懐から借用書を全部出して差し出して来て拝み始めたので、長吉はその借用書の内容を読む。
そうならそうと言ってくれればよかったんだよ!お化けが4匹ベロっと出た時には、俺は死ぬかと思ったもんなと2階のお座敷で盛り上がっていたのは浅草署の鬼山だった。
その場には京子も令子も金太郎も、そしてお化けに扮装してオタヒデオたちも全員同席してた。
だからいい加減にしなさいって言ったでしょうと令子も笑いながら4人にいう。
良いのよ、このくらいいじめてやらなきゃあ、だって一歩間違えたら、カトちゃんたち死んじゃうところだったものねと京子が言うと、そうなのよとヒデオが答える。
それにしてもね、溺れかけているこの連中を見捨てて逃げるなんて最低だよとかつ江が指摘する。
実はね、濡れ鼠になってあの時帰ってきたこの人たちにね、やれやれってけしかけたのは私なんだよとかつ江は打ち明ける。
物置の戸を開けて、外の様子を伺った熊五郎に、いるか?と長吉が聞くと、いらっしゃらないようですと熊五郎は答える。
しかし、お化けだと思ったなあ…という熊五郎に、井戸熊と呼びかけた長吉は、てめえ、今俺の前でゲロしたことをちゃんと警察行って言えよと命じる。
出ろという長吉に、お化け…とまだ怯えている熊五郎だったが、馬鹿野郎!今時世の中にお化けがいると思ってるのか?ちくしょう!と長吉が叱ると、でもお化けが…と熊五郎はぶつぶついう。
いるかいねえか、出てみねえとわからねえだろうと長吉が消しかけると、じゃあどうぞと熊五郎は先を譲る。 お前が先に出て確認しろよ!いなかったら俺が後から行くから安心しろ!と長吉も行く時がなかった。
え?と戸惑う熊五郎に、出ろ早く!と長吉が急かす。 2階の座敷では、玉子が、ちょいと来たよ、来たよとヒデオたちに教えたので、4人は隣の部屋に隠れ、簾越しに隣の部屋の中の様子を監視する。
熊五郎の首根っこを掴んで座敷に来た長吉は、大旦那、お嬢さん!といい、金太郎の前に正座する。
「川金」乗っ取りを企んだこの井戸熊を碇田長吉がひっ捕えてめえりやしたと長吉は言い、証拠はこの通り!と借用書を問い出して鬼沢に渡す。
するとかつ江が、何言ってんだい、ガセネタ掴まされてね、得意になってるんじゃないよと叱る。
やかましいやいと言い返した長吉は、何がガセだ?むっつり右門もな、銭形平次も散ったあこの俺を見習えって言うんだいと自分の胸を叩いて見せるが、内容を読んだ鬼沢は、おい、こりゃ本物だよ、井戸熊さん、気の毒だけどな、暫時豚箱の方へ引っ越してもらうことになるな〜、これは…と熊五郎に話しかける。
すると熊五郎は、仕方がねえ、出たり入ったり…、いつもの筋書きだいとしょげる。 それをみていた金太郎は、長さん、ひょっとすると、この荒川金太郎、大変お前さんを誤解してたかもしれないよ、なあ令子…と言い出す。 私も長さんごめんなさいと令子も詫びる。
へへへ…、だから申し上げたでしょう?大旦那さん、「川きん」の暖簾はこの碇田長吉が立派にお守りしますってと長吉は自慢げに言う。
すると、隣に隠れていたお化け4人が入ってきて、長吉と熊五郎の背後から、それはないよ〜と恨めしげに言って来たので、任しとけって俺に…と、いったんは秀雄の手を払いのけた長吉だったが、次の瞬間、忠次のお化けに迫られていた熊五郎と一緒に悲鳴をあげる。
客たちはそれをみて大笑いする。
トラックを運転して「川金」の前で止まった武は、令ちゃん行くぞ!と運転席から呼びかける。
はいと答え、玲子がおはよう!と店から出てくるが、その後から顔を見せた金太郎、平作、京子がそれを見送る。
じゃあ、引っ越しの手伝いに行ってくるわねと明るく答えた玲子は、助手席に乗り込む。 京子らの背後からそっと見送りに出て来たのは長吉だった。
あ、長さん!僕の店ね、今小先の緑町の交番の先なんです、小さな店だけどね、遊びに来てくださいと武が声をかけ、行ってきます!と元気よく玲子が呼びかけてと楽は走り出す。
玲子と結婚する自分の夢を絶たれた長吉は、手拭いで鼻水と涙を一緒に拭う。
客席に来ていたかつ江が、金ちゃん、一丁上がりだねと声をかけると、旦那はまあ、嬉しいような、寂しいようなね〜と平作が金五郎の代弁をすると、知らなかったね〜、2人があんな仲が良いとは…、長さん知ってたかい?と金太郎が聞くと、いや、全然知らなかったような…全く分かんなかったような…と、一人離れたテーブルにポツンと座った長吉はぼそっと答える。
さて今度は京子ちゃんの番だねとかつ江が言うと、嫌なおばさん、私は当分「川きん」のおさんどんよと京子は答え、恥ずかしそうに二階へ上がってゆく。
そこに来たヒデオ、工作、風太たちは、あ、京子ちゃん、京子ちゃんのお父さん!と気づくと、平作の近くに来て、恭子ちゃんのお父さんみたいな人、僕は今日何をやったら良いんでしょう?とヒデオが聞き、用事があったら僕に言ってくださいねと工作が売り込み、力仕事はぜひ私になどと言いながら颯太は平作の方を揉み始める。
するとかつ江が、ばか!みえすいたことばかり言ってないで、包丁の一本も研いだらどうなんだいと叱ると、3人はすごすごと厨房へ向かう。
そうだ、ちょいと平作、長吉も奥へ来てくれと金太郎が声をかける。
いやお陰様でね、店もどうやら格好がついたし、これからお前さんたちで力を合わせてね、え?「川きん」を盛り立てていって欲しいんだよと金太郎は2人に頼む。
ええ、長吉さんさえ良かったら、私はぜひ長吉さんの下で働きたいと存じますと平作が言うので、どうだい、長吉は?と金太郎が聞くと、へえ、しかし、礼子さんのいねえ「川きん」なんてバカバカしくって…と長吉は言い出す。
何!と金太郎が聞き返すと、いや、そう言う濁った気持ちはねえんでございますけどね、あっしもこの際、中近東へでも行って、腕を磨き直してこようと思ってるんですと長吉が言うので、中近東!と金太郎は驚く。
それを廊下で聞いていたヒデオ、工作、風太らがへやにはいってきて、賛成、賛成、ぜひそうなさいと勧めてくる。
親方、イスラエル行ったら体大事にしてくださいよ、一生会えないと思いますけど、下唇に気をつけて…とヒデオが揶揄うと、馬鹿野郎!てめえらも俺と一緒だ!と長吉が言うので、あ〜あと3人は落胆する。
1人忠次だけは、まあ腐れ縁だと思ってついて行きねえと後ろで笑うが、やかましい!大旦那、御恩返しと言っちゃなんですが、この若旦那をお預かりして必ず一丁前の板前にしてお返ししますと長吉は金太郎に告げたので、忠次もがっかりな顔になる。
野郎ども!早いとこ荷物まとめろい!と指示したので、4人はええ!と落胆の声をあげるが、長吉だけは、包丁一本、サラシに巻いて〜と歌い出す。
その後、旅姿になった長吉らは、小舟に乗って川を下っていた。
こうなったらどっちかが消えなきゃことは収まらねえぞとヒデオが相談し、おい、出せと忠次が言うと、4人は包丁を取り出す。
舳先で仁王立ちになり前方を見ながら歌っている長吉に、背後から包丁を持った4人がにじり寄って行く。
おわり(隅田川を行く小舟を背景に)
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