「多羅尾伴内 戦慄の七仮面」
シリーズ9作目
刑事役を宇佐美諄、山茶花究が演じているのも珍しいが、悪役を柳永二郎が演じているのも珍しいように思える。
山茶花究さんがあまり目立ってない役柄も珍しいような気がする。
山茶花究さんが所属していた「あきれたぼういず」が1952年まで映画に出ているので、この作品は解散4年ごと言うことになる。
柳永二郎さんは、普段は会社の重役など偉いさんを演じることが多く、ヤクザの親分役は見たことがない気がするからだ。
南原宏治さん演じるヤクザの母親役を演じている千石規子さんは5歳くらいしか実年齢が違わないはずで、老け役演技をなさっているのだろうが、実際アップになると妙に若々しく見える。
十朱幸代さんのお父様である十朱久雄さんは、見た目通り気の弱そうな中年紳士役が多いのだが、たまに本作のような悪役も演じており、近年の岸辺一徳さんのように意外性があって面白い。
千恵蔵さんの変装は相変わらず、客には知恵蔵3位しか見えないのだが、手品好きな紳士を演じる時の手元は、明らかにほっそりした別人の手に代わっているのが分かる。
最後の正体証のシーンで、王という中国人に化けていた伴内が、「七つの顔の男あるよ」と自己紹介するのは興味深い。
語尾に「〜ある」という中国人言葉のステレオタイプの言い方をこの時代からしているからだ。
【以下、ストーリー】
1956年、東映、比佐芳武原作+脚本、松田定次+小林恒夫監督作品
サイレン音が響き、勝鬨橋が閉じる映像にタイトル
橋が通じ、向かってくる路面電車の横を走る自動車の内部からの見た目にスタッフ・キャストロール
車は、福徳銀行曙町支店の前に停まる。
運転手の腕時計は3時を示しており、銀行のガラス戸の内側にブラインドが下され、シャッターも閉まるる。
車から降りた堀井庄吉(徳大寺伸)と山下三造(高田博)は、シャッターが半分くらい閉まりかけた時に内部に入り込み、警備員の頭を銃で殴り倒したので、女子行員が悲鳴を上げる。
金栗支店長(明石潮)は、賊に気づくが、銃を構えた堀井が動くな!抵抗すると命はねえぞ!手を上げろ!と制したので、仕方なく全員手を上げた中、2人はカウンターの仕切りを跨いで内部に侵入する。
山下が机に置かれていた札束の束を鞄に詰め始めた時、行員が足元のスイッチを踏んだので、非常ベルが鳴り始める。
警視庁司令室では、本部から前者へ、福特銀行曙町支店にご疎い事件発生、司令を待て、司令を待て!と発信する。
大沢警部(宇佐美諄)や塚田警部補(山茶花究)ら刑事や警官が一斉にパトカーに乗車し現場に向かう。
司令部では、本部から3号車へ、本部から3号車へ、福特銀行曙町支店を襲った3人組強盗は470万円を奪い、本町筋を西へ逃走中なり、ダッジ53年型黒色自動車に注意、追尾せよ、追尾せよ!と発信する。
そんな追跡劇の最中、片目の運転手(片岡千恵蔵)のタクシーがあった。
片目の男は、車内の無線機のスイッチを入れると、本部から前車へ、本部から前車へ、曙町支店の3人組強盗は本町筋を見おれ、榎木町を西へ逃走中なり、終結せよ、終結せよ!と呼びかける警察無線が聞こえる。
堀井と山下を乗せた逃亡車は、追手をまこうと必死にスピードを上げていた。
それを追尾する2台のパトカーを追い抜いたのは、片目の運転手が運転するタクシーだった。
その直後、横道にそれたタクシーは、犯人たちの車が渡ろうとしていた橋の前方に出現し、道を塞いで停まる。
やろう!と言いながら堀井が発砲してきたので、片目の運転手はすぐに運転席から降りる。
山下も車を降り、タクシーに近づこうとするが、その時、追尾してきたパトカーも背後に止まり、犯人の車は橋の上で袋の鼠状態になる。
堀井らはパトカーに向けても発砲するが、大沢警部や塚田警部補も銃で反撃する。
やがて、タクシーの背後にもパトカーが到着し、犯人グループは完全に包囲されてしまう。
警視庁に戻った大沢警部は、鑑識係相良(森野五郎)と塚田警部補を前に、3丁とも未登録のものなんだね?それとまずこの拳銃の出所から追及しなけりゃならんかと捕まえた犯人への追及方法を相談する。
そこへ警官がやってきて、この方がご面会を…と言いながら名刺を差し出したので、受け取った大沢警部が受け取って確認すると、「多羅尾私立探偵局 多羅尾伴内」と印刷してあった。
そこにやってきたのは丸メガネに口髭、帽子を被った冴えない中年男で、おお、これは大沢さん、毎度お邪魔致しますかなと挨拶をしてくる。
いや、よそ行きのご挨拶には及ばんでしょう、高悪犯罪のあるところ、多羅尾伴内あり、いつもながらあなたの早耳には呆れまうよと大沢警部は親しげに出迎える。
なになに…と謙遜した坂内だったが、机の上に置いてあった拳銃を手に取ると、これが3人組銀行ギャングの凶器ですかな?と言いながら観察し始める。
そうですと大沢が答えると、コルト45…と伴内が確認すると、どれも皆新品で、しかも番号が連続してるんですと大沢警部は教える。
番号が?と伴内が驚くと、このそれは確か13万7331…と大沢が教えたので、伴内も数字を確認する。
大沢は、これがその続きの32でこれが33なんです…と別の二丁の拳銃を見せたので、伴内はなるほど…と答える。
その間、塚田警部補はそっと席を外すが、ところで大沢さん、密輸といえば船、船といえば港ですなと言い出す。
潮の匂い、黒い岸壁、夜の街角、蠢く人影…という坂内の言葉を聞いた大沢は、すると、あなたは…と言いかけるが、いやいや手前の言うことなどは決してお気になさらないようにと伴内は笑うと、ではこれで…と言いながら帰って行く。
それを見送る塚田警部補は、呆気に取られてしまい、コップに入れていた水を溢れさせてしまう。
夜の港にあるキャバレー「リラ」 そこにやってきた小塚鉄夫(南原伸二)は、2階席で飲んでいたホステスのマリーこと相川まさ子(安宅淳子)と客の男に目を留める。
まさ子と客の男大原健二(清村耕二)の方も、小塚に気づく。
2階席にやってきた小塚は2人に、お楽しみだねと声をかけると、大原はそうでもないよと答える。 話の筋はわかってるだろうな?と小塚が冷たく言い放つと、わかってるよ、このマリーは、元君の…と客が答えたので、そう話を小さくするなよ、この際そんなことは問題じゃねえんだと小塚はいう。
じゃあ、俺がマリーを矢島組の息のかかった「エロス」から引っ込抜いた…と大原が答えると、それもこの際本筋じゃねえんだよと小塚はいう。
そんならなんだよ?と大原が聞くと、君があれを知っているからだよと小塚は答える。
あれ?と大原が不思議そうに聞き返すと、そうだよ、あれだよと小塚は答える。
笑いながら、そうかいと答えた大原は、テーブルを蹴飛ばすと階段をおり、下から拳銃を打ってくるが、小塚も柱に隠れて応戦してくる。
結局、大原は撃たれて階段の下で倒れる。
小塚はゆっくり階段を降りながら、倒れた大原にとどめの一発を撃ち込み店を出ていくが、その途端、小塚は懸命に走り出し、目の前でドアを開けた片目の運転手のタクシーに飛び込む。
その後を追ったホステスの藤松アヤ(花柳小菊)も、別のタクシーを止め、後を追う。
どこまで行きゃいいんだね?と片目の運転手が聞くと、明石町だと小塚が答えたので、その明石町にお前さんのドヤがあるのかい?それとも誰か縁故のものでも…?と聞く。
小塚はタバコを取り出し加えると、なぜそんなこと聞くんだ?という。
運転手はやべえからさと答える。
せっかく一役買ったからにゃ、自分で自分に手錠をかけるような真似はさしたかねえからよ…と言いながら、タバコの火を差し出した運転手は、どうだい、一番俺に任さねえかい?と聞く。
どう任すんだ?と小塚が聞いてきたので、何もかもよ、決して悪いようにはしねえからなと運転手は答える。 頼む!と小塚が言うと、良かろうと運転手は答える。
後をつけていたアヤは、片目の運転手が止まった場所の近くでタクシーを停める。
車を降りて「下記現金」と書かれた建物の鍵を開けた片目の運転手は、断っておくがね、どうせ、ろくなもてなしはできねえよと同じく車を降りてきた小塚に告げたので、いいや、良いですよと小塚が苦笑しながら答えると、どうせそんな身分じゃねえんだから、またバカに素直だね…と運転手は感心すし、壁のスイッチを入れると自動的に階段が降りてきたので、さあ、上がんなと指示する。
小塚は会釈し、運転手の後について登ると、ここがあんたんドヤなんだ?と聞く。
な〜に、ドヤは別にあるんだがね、なんかの時、便利なんでここでも泊まるようにしてあるんだと運転手は答えると、ハンチング帽を壁の天狗の鼻に投げて引っ掛け、まあ、入えんなと呼びかける。
小塚はごめんなすってと言いながら会釈して椅子に腰を下ろすと、運転手は、本田山への出入りかね?と聞く。
その挙げ句の殺しですよ、相手は赤沼組の大原健二ですと小塚が明かすと、で、おめえさんは?と運転手が聞くと、申し遅れました、矢島組の小塚鉄夫ですと小塚は明かす。
すると運転手は、それじゃあ、早速だが、拝ましてもらおうかと手を差し出しながらいう。
何を?と小塚が聞くと、右のポケットに入っている物騒な代物だよと運転手は答える。
小塚が明らかに警戒したので、何だ?どうしたんでい?と運転手が戸惑うと、まさかあんた、それが目的だったんじゃあるまいね?と小塚は苦笑しながら問いかける。
すると運転手は、へっ、こっちだって持ってるんだよと言いながら、上着の下から拳銃を取り出して見せる。
それを見た小塚は、恐れ入りましたと言いながら自分の拳銃をテーブルの上に置く。 それを手に取った運転手は、コルトの45…、うん、新品だねと感心する。
そうですと小塚が言うと、ああ、俺にはない色つやだ、収めておきなというと言いながら自分の拳銃を小塚に返す。
こいつはあんたの…と小塚が戸惑うと、ゲスだな、おめえさんは、このは時期を持って挙げられたら、ただの殺しじゃ済まねえぜ、サツってやつはな、一度たぐり出すとキリがないんだと言いながら、運転手は小塚のコルトの弾倉を引き出し中を確認すると、ま、大事を取るに越したことはあるめえ、なあ、そうだろうと言い聞かす。
所轄警察署の警備部屋に警官がやってきて、大沢警部がお見えになりましたと、刑事たちに知らせる。
山本警部(藤井貢)は、大沢くんが?と驚き、新聞記者のフラッシュを浴びながら大沢警部が塚田警部補を伴って部屋に入ってくると、いやご無沙汰しましたと挨拶してくる。
山本警部は、いやいやこちらこそ、さあどうぞと2人に椅子を勧めると、過日は大変なことでしたなと労う。
いや、度肝を抜かれましたよ、どうも最近は気軽にぶっ放すやつが多いんで…と大沢が嘆くと、全くですな、こちらでも昨夜拳銃による殺しがありましたと山本警部は答える。
すると大沢は、それですよ、実はそのことで伺ったんですが、これは捜査の都合上伏せてあるんですがね、3人組の銀行ギャングが所持していた拳銃がコルトの45で、しかも連続番号なんですと大沢が伝える。
ほほう…と山本警部が興味を持つと、そこで我々は、大掛かりな拳銃密輸弾があるんじゃないかと推定したんですが、にこうけんちらの事件の拳銃はどんな種類の?と大沢は聞く。
すると山本警部は、加害者のそれはまだ発見しませんがね、被害者の所持していたおはブローニングの32でしたよと答える。
ブローニング?と大沢は戸惑い、コルトの45じゃなかったんですかと塚田警部補が確認する。
山本警部は確かにブローニングでしたよと言いながら、証拠写真を見せる。
それを受け取りながら、加害者はどうです?早急に逮捕の見込みがありますか?と大沢は聞く。
あります、矢島の身内の小塚鉄夫とわかってるんですからと山本警部は笑顔で答える。
その矢島というのは?と大沢が聞くと、明石町一帯の顔ですかね、ちょうど今うちの戸田君が参考人として取り調べ中ですと良い、取調室と通じたスピーカーのスイッチを入れる。
事件は女をめぐる単なる殺人なんだから、君が小鉄を出してくれるとそのまま解決だし、我々は助かるんだがねと捜査主任戸田(石島房太郎)が言う声が聞こえてくる。
取り調べられていた矢島伝三(柳永二郎)は、ですがね、旦那、知らねえものを出せったって、そいつは無理ですよと笑いながら答える。
しかしだね、小鉄を匿うのは親分の君より他には…と戸田が言うので、とんでもない、やつには母親もあり妹も…と矢島が言うので、その方も抜かりなく当たってみたがね、この5〜6年、全然寄り付いていないんだと戸田はいう。
それを聞いた矢島は、は〜てね、どこに隠れやがったかなと惚ける。 焦れてきた戸田は、矢島君、ほどほどにしようじゃないかというと、何をです?何を程々にするんです?と矢島は聞き返してくる。
戸田は、惚けるのはよしたまえ!ネタは上がってんだと詰め寄る。
すると矢島は、妙なことをおっしゃいますね?ネタってのは何です?と言いながら、目の前でライターの火を点けてみせ、自分が咥えたタバコに火をつける。
君の共犯の事実だよ!と戸田が指摘すると、急に笑った矢島は、いや済まない、この矢島伝三に、そんな見え透いたカマは通用しませんよと答える。
スピーカーのスイッチを切った山本警部は、どうですか?共犯関係があるとお思いですか?と聞くので、大沢は、何とも言えませんな、あの社会には裏がありますからなと答え、塚田君、どうする?と聞く。
そうですな〜…、せっかく出かけてきたんですから上がるまで粘ってみたらどうですかと塚田警部補は提案する。
いや、そう願えれば助かりますなと山本警部が感激したので、千人力ですよと塚田警部補は言い、大沢警部は新聞紙を広げる。
その頃、隠れ家で同じように新聞を見ていた小塚が、お出かけですかと聞くと、運転手は、うん、ちょっと様子を見てくるがといい、ハンチング帽を被り、用があったらまかなうよというと、それじゃあすいませんが、駄菓子を買ってきてやっておくんなさいと小塚は頼む。
駄菓子?と運転手が驚くと、新町3丁目におとくって年寄りのやっている店がありますがね、そこのやつが食べたいんですと小塚はいう。
良いとも、他には?と運転手が聞くと、もしそこに信子っていう娘がいたら…と小塚が言うので、何て伝えたら良いんだねと運転手は聞くと、いや、よしやしょう、菓子だけで良いですよと小塚は答える。
そうかい、じゃあ…と言い残し、運転手は出かけてゆく。
「ジャイアントタイヤ」の看板のところを通過した運転手は、バックミラーでその前を通っていた女性の姿を確認する。
その後、林の中にやってきたタクシーを停めた運転手は、別の車が置いてあるその場所で、和服の保険外交員の姿に変装して降りると、道で子供達が遊んでいる新町の駄菓子屋にやってくる。
うまそうだな、これ、2つ〜3つくださらんかなと店番をしながら編み物をしていた小塚とく(千石規子)に声をかける。
ここで召し上がりますか?ととくが聞くので、いや、もう歳を取ると堪え性がなくなりましてな、食べたいと思うと我慢できませんのじゃと保険外交員は言う。
じゃあ、お入りなさいととくが答えたので、はい、ありがとうと保険外交員は言い、表札を確認すると、「立浜市新町3丁目6番地 小塚とく」と書いてあった。
これでよろしゅうございますか?ととくが駄菓子を小皿に置いて持ってきたので、結構、結構と言いながら保険外交員が菓子を口にする。
そのチキ、ふと気づくと、男の子が欲しそうな顔で保険外交員を見ていたので、外交員は小皿に乗った駄菓子を差し出してやる。
そして、済まんが、これを20ばかり包んでくださらんかととくに頼む。
持ってお帰りになる?ととくが聞くと、ええ、ちょっと今、孫のことを思い出しましてなと保険外交員が答えると、お孫さんですか?ととくは聞いてくる。 5つと3つ、可愛い盛りですよと保険外交員は相好を崩す。
さようでございましょうととくが答えると、どうも…、てて親に甲斐性がありませんのでな、爺のわしがこうして保険の外交をして歩かねばなりませんのじゃと保険外交員は打ち明け、あんた、子供さんは?と聞く。
とくは娘が1人と答えたので、男の子は?と聞くと、上に1人おりましたがね、5年前に亡くなりましたと言うので、亡くなられた!と保険外交員が驚くと、死んだわけじゃないんですよ、親子の縁をふっつりと…ととくは答えながら、茶を淹れる。
グレなすったのじゃな?と保険外交員がは察すると、はいと悲しげにとくは答える。 最もあの頃は悪い時代でしたからな…、あながち息子さんのせいばかりとは言えませんわいと言いながら、保険外交員は出された茶を飲む。
でもあなた…、鉄夫さえしっかりしていれば…ととくが嘆いてみせたので、鉄夫?と保険外交員は聞き返し、今、どこで何をしているんだか、ろくな死に方はしますまいよなどととくは言う。
ああ、これはどうも、すっかり話が湿っぽくなりましたな、あ、じゃあ、包んでいただきましょうかと保険外交員が頼むと、ああ、そうでしたね、信子!信子はいませんか!ととくは奥に呼びかける。
はいと言って出てきた信子(田代百合子)に、あ、信子、このお方にね、これ20ばかり包んでおあげととくが指示する。
そういえば、あんたの息子さんもさぞこの菓子を食べたいと…と保険外交員が言うと、とんでもない、そんな年じゃありませんよととくは否定するが、子供というものはな、どんなに年を取っても、またどんなにグレても母親のことだけは忘れんもんでな、鉄夫君とやらもきっと…と保険外交員が答えていると、信子が包んだ菓子を持ってきたので、じゃあこれで…と、保険外交員は財布から札束を出して信子に渡す。
信子が釣りを取りに行っている間、良い娘さんじゃが、どっかへおすすめかな?と保険外交員が聞くと、堺町の日東信託に行っておりますととくは教える。
奥の部屋には、鉄夫と信子が母のとくと一緒に写っている写真が写真立てに入れて置いてあった。
信子は釣りを持ってきて、お調べになってと差し出したので、それを受け取った保険外交員は、ありがとう、お邪魔しましたと言い帰ってゆく。
ありがとうございましたととくと信子が例を言う中、外に出た保険外交員だったが、スケッチブックを持ったベレー帽の男が駄菓子屋に入ったのを見かける。
そのベレー帽の町村真吉(片岡栄二郎)の訪問先は信子で、さっき会社に行ったら欠勤だと言うのでねと信子に話しかける。
今朝、ちょっと気分悪かったのよ、でももう良いのと信子は答える。
すると町村は、じゃあ、どう?展覧会…、まだ時間はあるんだけどなと誘う。
信子は、そうねえ…と考え、お母さん、どう?と聞いたので、良いよ、行っておいでととくは答える。
公園にやってきた時、信子が、ねえ、話があるのよと切り出す。
ベンチに腰掛けた信子は、このキャバレーの殺人というところを読んで…と町村にいいながら新聞を絵渡す。
「犯人小鉄を指名手配 キャバレー・リラの殺人 立浜」という見出しを町村が読むと、その犯人というところが問題なのよ、考えるとたまらないわと信子はいう。 目撃者の談によると、犯人は小鉄こと小塚某と判明、当局はその足取りを追求している…と町村はさらに新聞記事を読む。
兄さんの名は鉄夫っていうのよ、略せば小鉄だわと信子が教えると、お母さんはこの記事読んだの?と町村は聞く。
いいえ、私がすぐに隠したから…と信子は言うが、でも、いずれは知れるよと町村は答える。 ええ、そりゃあ…と信子も答えるが、実は1つ不思議なことがあったのと続ける。
何だい?と町村が聞くと、一昨日、兄さんからお店の私宛にコンパクトが送られてきたのと信子は打ち明ける。
コンパクトが?と町村が驚くと、ええ、相当高価なものらしいんだけど、外にも内側にもきっちり数字が彫ってあるのよと信子はいう。
それ持ってる?と町村が聞くと、ええと言いながら信子はバッグからコンパクトを取り出そうとするが、信子は近くに先ほどの保険外交員がいることに気づき、ここじゃまずいわ、行きましょうと町村に伝える。
公園を立ち去る2人を、保険外交員は物陰から注視していた。 夕方、タクシーで帰宅した片目の運転手が秘密のねぐらに来ると、小塚の姿はなく、「おせわになりました、仲間と出かけます 小塚」という張り紙が残されていた。
外に出た運転手は、通りかかった車からの銃撃を避ける。 運転手は、ちくしょう、味な真似しやがる、この分では小鉄も…と、車が通り過ぎた後、悔しそうにつぶやく。
その後、警視庁の捜査一課に電話をかけた運転手は、こちら大沢警部と昵懇の者ですが、キャバレー「リラ」の殺人犯小塚鉄夫について何か情報はありませんかと聞く。
小塚鉄夫はさっき自殺しましたよと、電話に出た刑事は教えたので、何、自殺!場所はどこですか?と運転手は聞く。
横山町の長瀬ホテルですと刑事が答えたので、あ、どうもありがとうと言って運転手は電話を切る。
その後、長瀬ホテルにはパトカーが到着する。
右こめかみから血を流した小塚の死体を見た大沢警部と塚田警部補を伴い駆けつけた山本警部は、 現場保存は十分でしょうな?と浜口署長(滝謙太郎)に確認すると、その点は気をつけたとホテル側入ってますと浜口は答える。
発見者は?と大沢が聞くと、係のボーイですが…と浜口署長は言い、君!手塚君!と、廊下で刑事に説明していたボーイ手塚(高原秀麿)を呼ぶ。
部屋に入ってきた手塚に、この男は常連かね?と大沢が聞くと、家、今度が初めてですと手塚は答える。
発見した時間は?と聞くと、10時過ぎでございましたと手塚は答える。
銃声を聞いて駆けつけたのかい?と大沢が聞くと、いいえ、お客様のご依頼がございましてねと手塚はいう。
ちょうど10時にノックしましたところ、何の返事もございませんので…と手塚が言うと、背後から近づいてきた支配人の白石恭介(十朱久雄)が、下の私の所に報告に参りましたのが10時10分前後、早速私、参りまして、合鍵でドアを開きましたところ、ご覧のような始末でございますと後を続ける。
ここへきた時刻は?と山本警部が聞くと、5時前後と聞きますと白石が答えたので、1人で来たんですか?と山本が聞くと、はあ、しかし…と歯切れが悪くなったので、なんです?と山本が聞き返すと、ドア越しだったんではっきりしたことは申せませんが、表まで若い女の方と一緒だったようですと白石はいう。
若い女と?と山本が聞き返すと、送られてきたわけですな?と大沢が質問すると、は、そのようで…と白石が言うので、それは素人風でしたか?それとも…と山本が確認すると、わかり前んな、何しろ距離がございましたからと白石は答える。
しかしその時、服装くらいお分かりでしょう…と入り口から声をかけてきたのは多羅尾伴内だった。
これは…と大沢が嬉しそうに驚くと、多分あなたがお目見えになっていると思いましてなと言いながら、伴内は室内に入ってくる。
大急ぎで駆けつけて参りましたよと伴内が言うので、しかしどうしてこの事件を?と大沢が不思議がると、あなたにしてはいささか愚かしい質問ですな、殺人のあるところ、常に多羅尾あり、伴内あり…ですよと伴内は答える。 ところがですね、これは殺人ではなく、自殺なんですよと大沢は苦笑混じりに教えると、何?自殺ですと!と伴内は驚く。
このように、状況はすべて自殺を指向していますし、また異所もあるんですと大沢が教えると、なるほど…と伴内は得心し、テーブルに置かれた遺書を見る。
そこには「俺はバカだった 幸福をいのる あれに注意 おっ母さんを大切にしてください 小塚鉄夫 信子どの」と書かれてあった。
それを読んだ伴内が、するとこの男は!と驚くと、キャバレー「リラ」の殺人犯人だと山本警部が教える。
信子さんと言うのは?と伴内が聞くと、親と一緒に新町に住んでいる妹ですが、先ほど連絡しましたから、間も無くくるでしょうと山本は言う。
なるほどと答えた伴内は自分のバッグから何か包みを出してテーブルに置くと遺体に向かって合掌したので、大沢や山本は不思議がる。
そんな伴内が、先ほどのお話ですがな…と振り向いたので、はあ…と白石が前に出ると、その女は洋装でしたか?と聞く。
そうですと白石が答えると、歳の頃はいくつくらい?と伴内は聞くと、さあ?ただちらりと見ただけなんでと白石は困惑する。
その時、その件について申し上げますがと男が現れたので、どなたでございますかん?と伴内が聞くと、当ホテルの代表長瀬昭造(薄田研二)でございますとその男は名乗る。
ほお、お話というのは?と伴内が聞くと、実は私、5時過ぎに車で帰ってきましたが、ホテルから西へ20間ばかりのところにございましたが、今おっしゃったような女に出会いましたと永瀬が言うので、もちろん女は徒歩だったでしょうな?と伴内が聞くと、は、徒歩で急足で西に行きました、歳の頃は25〜6、服装も態度も非常にリファインされておりましてな、一見して玄人風、一憂どころのように見受けましたと長尾は教える。
それに対し伴内は、なかなか細かいご観察ですが、その方面では相当ご苦労したと見えますと冗談めかして答える。 そこに警官が同行いたしましたと連れてきたのは、信子と恋人の町村だった。 遺体を目の前で見た信子は、兄さん!と絶句し、泣き出す。
あなたは?と山本警部から聞かれた町村は、あ、図案画家の町村真吉です、この方とは親しい者ですと答える。 それではすみませんが、ご一緒に階下のロビーで…と山本は許可を得、承知した町村は信子に声をかけ部屋を出る。
後に残った伴内は、念の為、室内を調査させていただいてもよろしいですか?と大沢に聞く。 大沢は周囲の関係者の顔色を見て承諾する。
窓や衣装棚を見た伴内は、完全な密室…と呟く。
ここで1人の男が遺書を認め、拳銃の引き金をひいいて我が命を絶った…、訪問者はありませんでしたか?と伴内は聞くと、ボーイの手塚はございませんと即答する。
おいでになってからすぐにウィスキーをお召し上がりになり、程なく内側から鍵をかけてお休みになられたのですと手塚は言う。 それで、銃声が聞こえたのは何時頃でした?と伴内が聞くと、存じません、それからずっと下におりましたから…と手塚は答える。
けれども、ここはホテルですから、どなたかは…と伴内が指摘すると、いや、ご不信はごもっともでございますと白石が口を挟んでくる。
本日はお泊まりも少なく、5号室と8号室のお客様はどちらもお外出中でございますと白石は説明する。 そのお2人の身元は?と伴内が聞くと、5号室の客は私です、奈川商事の奈川圭吉(加藤嘉)と申しますと部屋にやって来た男が名乗り出る。
さらに、その背後から姿を見せた男が、私が8号室の吉岡庄太郎(須藤健)です、奈川さんと同じ大阪で土建業をやっておりますと付け加える。
それを聞いた伴内は、なるほど…、で、今夜は何時頃お帰りでした?と聞く。
ええ、しっかり9時でしたと吉岡は答え、僕は白石くん、9時20分頃だったかねと確認すると、白石は、さようでございます、私がロビーで社長と雑談をしておりました時でございますけどと答える。
すると君は、9時以前に拳銃の引き金を引いたわけだと、伴内は小塚の遺体に向かって語りかける。 それまでには考える時間がある…、とすれば君は、確かに我々に何かを伝えようとしたはずだ…と伴内はいたいにきくかのように言う。
それはどこにありますかな?どこに?と言いながら遺体のそばに顔を近づけた伴内だったが、次の瞬間、大沢さん、まさしくそれはありましたよと語りかけたので、ええ?と大沢は不思議がるが、ご覧なさいと大沢が目線を下に向けると、小塚の左足が何かを踏んでいるのを見つける。
塚田警部補がそれを拾い上げ調べると、開いたタバコのケースのように見える内側に、そこには「12-3-18」のような数字がずらりと書かれてあった。
それを受け取った大沢が、何でしょう?と聞くと、全く見当もつきませんがな、手前の捜査の第一段階はこの数字との格闘ですよと伴内は答えると、ポケットからマイクロカメラを出して数字を写し、ではこれで…と言い残して帰ってゆく。
廊下の椅子に座っていた信子に近づいた伴内は、これ、お兄さんの筆跡ですかな?と「お世話になりました 仲間と出かけます 小塚」という、片目の運転手の隠れ家に残されていた書き置きの紙を差し出して見せる。 ええ…と信子が認めると、ありがとうと言い残し、伴内はその場から立ち去る。
ホテルから外に出た伴内とすれ違った客たちは、彼が「136313921391…」と数字を呟いているので不思議そうに振り向く。
その後もその数列を暗誦しながら伴内は警視庁にやってくる。
そのまま数字を言いながら、捜査本部で会議中の刑事たちのところに姿を見せたので、大沢警部らはあっけに取られる。
あ、これは皆さん、死体の解剖はすみましたかな?といきなり伴内が聞いて来たので、先ほど終わって、遺族に引き渡しましたよと大沢警部は答える。
すると、別に不信な点はなかったわけですな?と伴内は確認する。
大沢警部はタバコに火をつけながら、ありませんでしたよ、確かに自殺ですと答える。 数字の件はどうでしたかな?と伴内が聞くと、単なる落書きか、または、何かの控えだろうと言うことに…と大沢はいう。
うん…、あ、ではお聞かせください、小鉄の所持品は何と何でしたかな?と伴内は聞く。 え、ここに控えがありますが、え〜、現金で3まん700円と万年筆、時計、ライター、シガレットケースと例の拳銃ですと山本警部が答える。
さあ、その拳銃ですがな?これをご覧くださいと言いながら、伴内はバッグからコルトを取り出すと机の上を滑らせて大沢警部の手元に送る。
それを見た大沢は、コルトの45…、13万7334…と製造番号まで読むと、ご記憶でございましょうな?と伴内が聞く。
3人組銀行ギャングの拳銃の番号は、13万7331から3まででしたよ、しかもお手のそれはかつては小鉄の所持品でしたと伴内が教えたので、小鉄の?と大沢は驚く。
さよう…、とすれば、こういう推定も成り立つわけですね、小塚鉄夫は拳銃団のメンバーの1人であったと…と伴内が推理を披露すると、するとあの数字は拳銃に関する何かの…と大沢警部は気づく。
ええ、手前も最初はそう考えたんですがな、それではどうも道理に合わんところがあるんですよと伴内は自分で勝手に茶を湯呑みに注ぎながら答える。
どんな店が?と大沢が問うと、茶を飲み干した伴内は、それはそれとして、昨日矢島一家のアリバイはどうでした?と伴内は聞くので、アリバイはあります、矢島はこちらから報告がいくまでずっと事務所に詰めていたそうですと山本警部が答えたので、それは確実でしょうな?と伴内は念を押す。
その頃矢島たちは、町村もいたとくと信子の駄菓子屋にやってくる。
矢島は急に拳銃を突きつけられたので驚くが、それは子供達が持っていた玩具だったので、ええいと矢島が押しのけると、子供達は舌を出して逃げていく。
町村は信子の横に並ぶと、矢島だがね、小鉄の妹っておまはんかい?と信子に聞く。 はいと信子が答えると、今度はどうも飛んだこたな、もっと早く悔やみに来ようと思ったんだが、何かとサツはうるせえし…と矢島は言い訳をする。
それにお袋さんもバカな堅人だと聞いたもんだから遠慮したんだよ、しかしまあ、お弔いも済んだことだし、お袋さんもそうそう毛嫌いはなさるまいと思って、それでお悔やみに来たんだよ、これはほんの志だ、どうかお仏前へ…と言いながら、矢島は不祝儀袋を差し出す。
しかしそこに姿を現したとくが、お断りしますと言うので、矢島と連れの若い衆は一斉にとくの方を見る。
さようなご縁はありません…、どうぞお持ち帰りになって…ととくは毅然という。
小鉄は矢島組の…と矢島が言いかけると、それは生きている間のことです、死ねば、鉄夫はあなたの身内じゃありませんよととくは言い返す。
そうかい、そんなら無理にとは言わねえよと言葉を返した矢島は、不祝儀袋を手に取ると帰りかけるが、その背中にとくは、人殺し!と告げる。
何だと!と矢島が振り返ると、人を殺したのはお前たちだ、お前が鉄夫を自殺させたんだ!ととくが睨んできたので、おっ母さん!と信子が止めに入る。
仏に免じて今日は大人しく帰ってやるが、恨むなら、キャバレー「リラ」のまさ子を恨みなよ、鉄はあの女に迷って自分で命を縮めたんでえと矢島は捨て台詞を残して帰る。
キャバレー「リラ」では、帰らぬ人のあの言葉〜、抱いて1人涙ぐむ〜♩と歌手(コロンビア・ローズ)が歌を歌っていた。
そんな店内の隅の席で、藤松アヤがまさ子に、あんた、この街から飛ぶつもりなんでしょう?と話しかけると、いえ、そんな…とまさ子は否定するが、隠したってダメよ、アパートの管理人さんから聞いたわ、私はただ、飛ぶんなら早い方が良いって言いたかったのよとアヤはいう。
どうして?とまさ子が聞くと、ある人に聞いたんだけど、あなた狙われてるのよ、飛ぶんなら早いほうが良いわととアヤがいうので、それなら明日…とまさ子は答える。
そうなさい、私もこんなところ今日限り…と話しかけるが、そこに奈川圭吉と吉岡庄太郎が来店したのを発見したので、奈川さんと吉岡さんだと言って立ち上がり、またなんか役に立つかもしれないわ、良かったら後でいらっしゃいとまさ子に声をかける。
まさ子も立ち上がって客席に向かおうとした時、1人の客が手を掴んだので、何をなさるんですと気色ばむと、まあそう膨れっ面するねえ、そっちはださん、こっちは客代と言いながら、新田改吉(片岡千恵蔵)は、まさ子を強引に向かいの席に座らせると、早速手品をご覧にいれるかなと言い出す。
そして空中からトランプを取り出すと、そこから札束に変え、まさ子のテーブルの前に差し出すと、どうだい?魔術の改吉こと新田改吉だよと自慢するので、流石にまさ子もあっけに取られる。
次はこれだ、見な!というと、改吉はまた空中からトランプ出現させるが、それを見るなり、ありゃ、こりゃ「死のカード」だと言い出す。
あっけに取られたまさ子に、おめえさん、あの世に行きてえのかい?と改吉は聞く。 行きたけりゃ、良いな?…と言いながら帽子を脱いだ改吉は、それをテーブルの上に置くと、ここにあるよと言いながら帽子を持ち上げると、そこには拳銃が置いてあったので、まさ子は縮み上がる。
さて、俺の正体だがね、俺は小鉄とは昔から大の仲良しでね、3年ばかり西の港で燻っていたんだが、今度の事件でわざわざ出かけてきたんだよと打ち明ける。
怯えたまさ子が、私に何を…、何をお望みなんでしょうと聞くと、そいつは後でいうがね、とにかくおめえさん、ここを出てメリカン波止場までやって行きなと改吉は告げる。
そう願いたいがね、疑われるとまずいからそれだけの実感をやるよ、どうでい、来るかね?と改吉は聞いてきたので、まさ子ははいと答えるが、その様子は、一階の奈川と吉岡がいるテーブルに座っていたアヤも聞いていた。
その後、1人でメリケン波止場の第9倉庫前に来たまさ子だったが、待っていた改吉が、おう、誰にも気取られなかったかい?と聞くと、はいと答える。
それじゃあ、早速要件にかかるがね、これは何だい?と言い、写真に写した鉄夫が遺した数字の羅列を見せるが、存じませんとまさ子は言うだけだった。
まあそう言わないで、なんとか思い出してみてくんな、特別な仲間とこんな暗号を使ってたんじゃねえのかい?と改吉が問いかけると、さあ、私、全然…とまさ子は否定する。
おめえ、本当に知らねえのかい?と改吉が念を押すと、小鉄ちゃんとそれほど深い仲じゃありませんとまさ子はいう。
すると改吉は、よしな、よしな…、いくら惚けたって俺の目は黒いんだよという。
それでも、いえ、本当なんですとまさ子が強情なので、それにしてもおめえはなぜ小鉄を裏切って「リラ」へ行ったんだね?と改吉は聞く。
するとまさ子は、裏切ったんじゃありませんわ、私は「エロス」のマスターに勧められて…と言うので、ええ?「エロス」のマスターが?と改吉は驚く。
鉄ちゃんとも了解の上で行ったんですとまさ子は教える。
ええ…、さっぱりつまんねえ話だが、「エロス」のマスターがなんだってそんなことをしたんだね?と改吉が聞くと、それは、あの~…、大原健二がうるさかったからですとまさ子は打ち明ける。
うるさかった?と改吉が怪訝な顔になると、だから、顔を立ててくれって…とまさ子は答えたので、なんで健の野郎はそんなにうるさかったんだい?え?何故だよ…と改吉は食い下がる。
それでもまさ子は、存じませんと突っぱねるので、おっと、知らねえはずはねえだろう?おめえ自身の身がかかった話だと改吉は説得する。
でも、マスターは、ただ頼むとおっしゃるだけで…とまさ子は言うだけなので、それじゃあ、あの晩の小鉄と大原の対決の模様を言ってみな、小鉄はなんと言ったね?と改吉は聞く。
するとまさ子は、俺は嫉妬してきたんじゃないって…と答える。
うん…、それから?と改吉が聞くと、矢島組の息のかかった「エロス」から、まさ子を引き抜いたことも問題じゃないとまさ子は答える。
それから?と改吉が先を促すと、君があれを…とまさ子は言い、あれを?と改吉が聞き返すと、あれを知っているから…とまさ子は続ける。
その時、改吉は危ない!と叫び、まさ子の体を押し除けると、自分も物陰に身を隠す。
その瞬間、物陰から銃声が聞こえる。 改吉は自分も銃を取り出すと、近くにあった街灯の灯りを撃って消す。
そして、発砲した光が見えた方向に向けて撃ち返すと、敵は退散したようだったので、急いでまさ子の元に駆けつけた改吉は、さあ、来るんだ!まだまだ聞きてえことがあるんだが、おめえさんの命には変えられねえ、すぐ来るからと言い残し一旦姿を消す。
そこにきたタクシーを停めた改吉は、それにまさ子を乗り込ませると、くれぐれも言っとくが、アパートに帰っちゃ危ねえぜ、これでずらかるんだと指示すると、運転手には駅前だ、気をつけてやってくれよと頼んで金を先に渡す。
しかし、そのタクシーを待ち構えていた賊が、四方から通過するタクシーの運転席に向けて発砲したので、運転手は絶命し、そのままタクシーは近くの民家に突っ込んで炎上してしまう。
その車が止まる音を聞いた改吉は作戦が失敗したことに気づく。
翌日の新聞には、「立浜でダンサー射殺さる」「リラの殺人に関連か」「当局捜査に懸命」「タクシー民家に激突す」「拳銃ギャング団暗躍す」「戦慄のダンサー殺し」「立浜路上でタクシー炎上」「燃え残った車体に弾痕」「キャバレーリラを再開」の見出しが踊る。
信子と町村がいる自宅の奥座敷で、とくは新聞を読んで、お気の毒にね〜、一度お会いして鉄郎のことを聞かせていただこうと思ってたのに…と感想を言っていた。
だけどなぜマリーさんが殺されたんでしょう?と編み物をしながら信子が聞くと、それが分かれば僕も名探偵だよと、スケッチをしていた町村は答えながらも、しかしこうなるとちょっとばかり考え直さなければいけないようだねと続ける。
何をどう考え直すの?と信子が聞くと、スケッチブックに描いた鉄夫の素顔を見せ、僕は兄さんが自殺したとは信じられなくなったんですがねと町村が言い出したので、それは当たり前ですよととくは言う。
鉄夫は初めから殺されたんですよととくが続けていると、店にやってきたのは多羅尾伴内だった。
あなたは?と信子が聞くと、長瀬ホテルで会った多羅尾ですと名乗った伴内は、どうです?鉄夫さんの他殺を実証するために資料拝見願いませんか?と申し出る。
資料っておっしゃいますと?と信子が聞き返すと、あなたのハンドバッグの中にある…と伴内は意味ありげに言う。
ああ、兄が送ったコンパクト?と信子が気づくと、それですよと伴内は答える。
信子がバッグから出したコンパクトを渡すと、どうもと言いながら、上り口に腰を下ろした伴内は、そのコンパクトを観察し出す。
その表面に彫ってあったのは、「12-3-18」と数字が並んだ、鉄夫の遺体発見現場で見つけたものと同じものだった。 お兄さんは音楽がお好きでしたか?と伴内が聞くと、はい、子供の頃から…と信子は答える。
そこにやってきたのは、長瀬ホテルの支配人白石とボーイの手塚で、どうもと挨拶してきたので、妙なところでお目にかかりますなと伴内も答える。
はあ、実は社長に仰せつかりまして、手塚を連れてこちらにお悔やみに伺ったんですと白石は弁解する。
お悔やみ?すると鉄夫くんは長瀬ホテルの常連だったわぇですかと伴内がいうと、いや、誤解なすっちゃ困ります、実はうちの社長はナイトクラブ「エロス」の方にも投資してるんですよと白石は言う。
ほお…と伴内が感心すると、本日はその方の代理といたしまして…と白石は説明する。 なるほどと言いながら立ち上がった伴内は、これは必要なものですから…と信子に小声で説明して返却すると、ではこれで…、お先に…と白石たちに言い残し、店から出てゆく。
外に出た伴内は、ベルディ…と呟く。
捜査本部にやってきた伴内が、一冊の本を出したので、なんです、これは?と大沢警部が聞くと、鍵ですよと伴内は愉快そうに教える。
鍵?と大沢が不思議がると、あの謎の数字を解く鍵は、フランスの詩人ベルレーヌの綴った美しい言葉の中にあるのですよ、え、お試しになればわかりますがなと伴内は説明する。
最初の数字はページ、次のそれは行、それから最後のは、上からの順番を示すものでしてな…と晩愛は解説する。
論より証拠、ちょっと本をお持ちくださいと伴内が言うので、塚田警部補が本を持ち上げると、良いですか?ページの12、3行め、上から18番目と伴内が指摘すると、塚田警部補は指で文字をなどる。
なんとありましたか?と伴内が聞くと、「わ」ですと塚田が答えたので、今のように文字を綴ると、こうなりましたと一枚の紙片を伴内は大沢警部に差し出す。
大沢警部や山本警部、塚田警部補らが覗き込むと、「わたしはころされた」と描いてあった。 いかがです?ご得心が参りましたかな?と伴内が得意げに言うと、しかしどんな方法で?と大沢警部は聞く。
強制ですよと伴内が言うと、強制?と大沢は困惑する。 無理にさせられた自殺…、つまり他殺と言うことになり…と伴内が続けると、それについて何か証拠でも?と大沢が追求すると、今はありませんがな、程なく「エロス」が扉を開いてくれるでしょうと伴内はいう。
「エロス」とは?と大沢が聞く。
ナイトクラブ「エロス」では、歌手(東郷たまみ)が「何が何やら」と歌うと男性コーラスが「わかりませんね」と続ける歌を歌っていた。
店内では、長瀬昭造が支配人関口正彦(立松晃)と話し込んでいた。
そこにやってきた客は船長風の片倉雄吉(片岡千恵蔵)だった。
席に座った片倉の前に進み出た支配人関口は、いらっしゃいませ、本日ご入港ですか?と愛想をいうが、いや、昨日だったがね、何かと多忙で…と片倉は答える。
さようでございますか、支配人の関口と申します、どうぞごゆっくり…と関口が頭を下げると、ちょっと君!と片倉は呼び止める。
よく事情がわからないから、これで頼むと言いながら、片倉は財布ごと関口に渡すので、承知いたしましたと答え、関口は押しいただく。 ところであの席だがね、向かって右の方はどなたかね?と片倉が聞くと、なにわ商事の奈川様でございますと関口は教える。
ほお、ご常連かい?と片倉が聞くと、関口ははい、当地にお寄りの節はいつも…と答える。
じゃあすまないが、同席願えるかどうか聞いてみてくれないかと片倉は頼む。
関口は、はい、よろしゅうございます、少々お待ちくださいと会釈をして席を離れる。
戻ってきた関口がどうぞと声をかけてきたので、良いのかね?とパイプを燻らせていた片倉が聞くと、願ってもない光栄だそうで…と関口は伝える。
では…と席を移った片桐は、太陽丸の船長片倉雄吉ですと自己紹介すると、奈川圭吉です、吉岡庄太郎です、藤松アヤでございますと3人も自己紹介して出迎える。
どっかで一度お目にかかったような気がしますなと言いながら椅子に座った片桐に、さあ、私の方には全然記憶がありませんが…と奈川は答え他ので、すると、こちらの錯覚ということになりますかな?手首どうなさいましたと片桐は、右手でグラスを持ち上げた奈川に指摘すると、奈川は慌てたように右手を隠す。
怪我を擦ったんですか?と片桐が聞くと、奈川は急に笑い出し、お目が早いですなかが、咲夜の名声の名残ですというので、それだとよろしいのですが、近頃は世の中も物騒になりましたな…、昨夜の私は、メリケン波止場で大変なものにお目にかかりましたよと片倉は話し出す。
どんな?とアヤが聞くと、全くの偶然だったんですがね、行手の街角で2人の男が鳩羽の方へ銃を向けているんですよと片桐は話す。
まあ…と相槌を打ったアヤだったが、その瞬間、シャンパンを抜く音が聞こえたので身をすくめる。
ボーイが片桐のグラスにシャンパンを注いでやる。
側杖食っちゃつまりませんから、すぐ引っ返しましたがねと言いながらシャンパンを飲む片桐は、おお、その2人の後ろ姿に、奈川さんと吉岡さんが…というと、急に2人は上着の内側やポケットから何かを取り出そうとする。
それに気づいた片桐は、何です?ハンカチですか?ハンカチならここにありますよ、お使いなさいと言いながら、自分のポケットからハンカチを出すが、それは拳銃を包んだものと気づくと、2人は驚く。
重ね重ね失礼ですが、こうでもしないと話のきっかけがつきませんのでね…と片桐は説明する。 お話とは?と奈川が聞くと、取引です、こんものずばりと言いながら片桐はテーブルに置いた銃を指差す。
もっとも、私は近日中に出帆しますが、親友の王大人のために是非とも相談に乗っていただきたいのですと片桐はいう。
王大人と言いますと?とまた奈川が聞くと、南方のさる島に君臨する億万長者です、観光と物資購入のためにこの港に滞在しておられるのですと片桐は答える。
奈川たちは互いに顔を見合い戸惑う中、いかがでしょう?なんなら私が紹介状を書きますが…と片桐が切り出すと、そう願いましょうと奈川は頼む。
後日、「王介雲」と表札がある屋敷に車が到着する。
ドアの前に立った3人の姿を、屋敷の中のスイッチでガラス窓を開けて確認した王介雲(片岡千恵蔵)が、どなたありますか?と玄関上のスピーカーから聞いてきたので、片倉雄吉さんに紹介されました奈川ですと答える。
すると、おお、奈川さん!と答えた王はドアを開けて3人を中に入れる。 どうぞ、おかけくださいと椅子を勧めた王は、あ、失礼しましたと、紹介状を確認するようなそぶりで自分も椅子に腰を下ろすと、いかが?とテーブル上のタバコを見せる。
私の島穴蔵、時々海賊に襲われます、そのように、日本に来ても続きますと王はいう。
それにしては大層日本語がお達者ですねと奈川がお世辞を言うと、おお、その不思議ごもっともです、戦争の時、日本の人、島に泳ぎつきました、その人片倉雄吉さんです、私、一生懸命お空理ましたと王は嬉しそうに答えたので、なるほど、さようでございましたか、それでお2人のご関係がよくわかりましたと奈川は得心する。
あれ、私の島、これ私の家、島には原住民たくさんいます、みんなおとなしくてよろしいのですが、タチの悪い男たち、たびたび船で来ますので金持ち決して油断できませんと王は、壁にかかった2枚の油絵を見ながら説明する。
自分の子供たち、奥さんのために、あなた奈川さんの奥さんですか?と王はアヤに聞くと、いえ、秘書でございますとアヤは答える。
おお!秘書さん…、なかなかお美しいですね…と王は世辞を言うと、そんな…とアヤは恥ずかしがる。
ところで奈川さん、品物どれだけありますか?と王が聞くと、あなたはいかほどご入用なのです?と奈川は身を乗り出して聞く。
王は、島に自衛隊作りたいですから、多いほど結構ですと答える。
すると奈川は、ただいまのところでは180ほどしかございませんと伝えると、180!と王は聞き返し、全部コルトの新品ですと奈川が開設すると、ああ、それは大変結構ですと王は喜ぶ。
今夜見本を拝見して、代金は全部お渡ししましょうと王は告げると、立ち上がって、店の扉を開くと、そこには大量の札束が詰まっていた。
ここに600万円あります、あと400万円用意すればよろしいですか?と王が聞くので、奈川は、あ、十分ですと了解する。
おお、それでは取引のできたお祝いに、乾杯のところですが、今日はあいにく誰もおりません、悪しからずと王は詫びる。
立ち上がった奈川は、いや…、では今夜…と答えると、10時と11時の間都合よろしいですか?と王が聞いてきたので、は、承知しましたと奈川は答え、吉岡と席を立つが、アヤは王に近づくと、ご滞在中に一度ゆっくりお目にかかりたいと存じますわと話しかける。
おお、そのお気持ち、私またピッタリですと王も喜ぶので、なかなかお口がお上手でいらっしゃるのねとアヤは媚を売って帰る。
そんな様子を屋敷の奥で見ていたのは、信子と町村だった。
失礼しますと3人を送り出した王は、すぐに信子と町村の前に駆け寄ってくると、あなたたちは裏口からお帰りなさいと指示し、2人ははいと答え帰るが、王の手には信子から受け取ったコンパクトが握られていた。
しかし帰宅途中だった信子と町村は、待ち伏せていた白石の乗った車に気づかれ、歩いている2人の横に横付けした車から降りた白石は、信子さん、良いところでお会いしました、あれから戻って社長に報告したところ、是非一度あなたにお目にかかりたいと言われているんですがねと話しかける。
御用はどんな?と警戒しながら信子が聞くと、いや、ホテルの会計に人でがたりまえんので、ま、できればあなたに来ていただきたいし、また真吉君の絵の方も後援したいとのことでしたと白石はいう。
社長は今別邸にいましてね、これからそちらに出かけるところなのですが、どうですか?よろしかったらご一緒にいらっしゃいませんか?と白石は丁寧に伝えてくる。
どう?と信子が聞くと、せっかくああ言ってくださってるんだから行ってみようじゃないかと町村も賛同すしたので、それじゃあと信子が会釈すると、どうぞと言って白石は車に2人を乗せる。
車の助手席に乗っていたのはボーイの手塚だった。
2人を乗せた車はどんどん遠隔地に向かうので、流石に信子が、ずいぶん遠いんですのね?どこまで行くんですの?と警戒しだす。
すると白石は、それなんですがね…というと拳銃を取り出し、静かにしたまえ!と2人に命じてくる。
何をするんだと町村が信子を庇おうとすると、助手席の手塚が殴りかかってくる。
その夜、1人で留守番をしていた小塚とくの店も、こんばんはと戸を叩く者があった。
どなた?ととくが聞くと、警察の者ですが?と声は言うので、仕方なさそうに雨戸を開けた途端、賊から薬を染み込ませたハンカチを口にかぶされたとくは、そのまま拉致されてしまう。
賊の首領は矢島だった。
一方、王の屋敷に10時半に到着した奈川たち3人は、見本を持参しましたと言いながら、拳銃を王に見せる。
それでは早速拝見しましょうと王は喜び、吉岡が段ボール箱を開けて見せると、これ、コルト45ですね?と言いながら王が拳銃を確認する。
さようでございますと奈川が答えると、おお、新品ですねと王は感激し、番号は13万7337…と王が読み上げると、後が連続して516まで、全部で180丁ございますと奈川が説明すると、あなたジェントルマン、信用しましょう、単価をお決めくださいと王はいう。
するとアヤが、それなんですがね、単価なんてどっちだって良いんですよと言いながら拳銃を向けてくる。
王が驚くと、よしおかと奈川も銃を取り出しており、ジタバタするな、動くとそれっきりだぜと吉岡が脅してくる。
あれから帰って主人とも相談したんですけど、現物を渡すより、見本だけでお金を頂戴した方が良いってことになりましたんでねとアヤは言う。
ご主人?奈川さんですか?と王が聞くと、どういたしまして、他にございますとアヤは答える。
するとあなた方、仲間たくさんあるのですね?と王は言う。 なんとか言って時間を稼ぐつもりだろうが、いくら待っても小鉄の妹は来ませんよとあやが言うので、小鉄の妹?と王は驚く。
中国人のあんたとどんな関係があるのか知らないけど、大事をとってあの2人はちゃんと人質に取ってありますよとアヤは続ける。 おふくろさんも今頃はこっちの手に落ちてるし、とにかくおめえさんは降参するよりしようがねえんだよと吉岡もいう。
すると王は、降参よろしいですがね、無実の人がかわいそうですと訴えるが、余計なことは言わずに、さっさとお金をお出し!とアヤは迫る。
王は、お金だけでよろしいんですか?と聞いてきたので、他に何をくださるんですか?とアヤが笑って聞くと、何もかも欲しいものは差し出します、私、島にまだまだ財産あります、奪われるならみんな奪われる、さっぱりしてよろしいです、遠慮いりません、欲しいものはみんなお取りなさいと言いながら、足元の絨毯を靴ではいで、その下にあったスイッチを踏む。 その途端、3人が立っていた床が抜けたので、悲鳴をあげて3人は落下する。 その声を表の車の中で聞いた部下たちは驚く。
王は素早く外に出ると車に乗り込む。
奈川たちの手下どもは屋敷の中に侵入して、落とし穴に気づくと、おい、ロープ!と仲間に命じる。
王はしばしエンジンがかからず焦るが、なんとか走りだすと、地下室から救出された3人とその手下たちが発砲してくる。
運転中の王は、無線機のスイッチを押し、多羅尾探偵局より警察本部、多羅尾探偵局より警察本部!人命に危険ある、人命に危険ある、長瀬邸を包囲せよ、長瀬邸を包囲せよと呼びかけ、その声は大沢警部らの捜査本部のスピーカーから流れる。
その頃、長瀬の屋敷に到着した矢島の車からとくが降ろされていた。
どこに行くんですか?離してください!と騒ぐとくの声が、先に屋敷内に拉致されていた信子と町村にも聞こえてくる。 とくは手下たちから猿轡をされてしまう。
部屋の中に押し込まれたとくを見た信子は、あ、お母さん!と驚く。
早速ですが、このコンパクトは鉄夫君が死の直前い信子さんに送ったもんですか?と白石が聞いてきたので、そうですと、猿轡を外されたとくは答える。 確かにそうですか?と白石が念を押すと、はいととくは答えるが、ところがですね、これは僕がいつぞやお宅で拝見したものと全然別のものなのですと白石は指摘する。
似てはいるんですがね、彫刻の図案が全く違っているんですと白石が言うので、そんなはずはございません、確かにそれは…と言い返そうとすると、いやあのコンパクトにはもっと細かい溝が刻まれてある、これとは全然別個のものですと白石は譲らない。
そこで僕がお聞きしたいことは、なぜコンパクトがすり替えられたのか?それは誰の手に渡ったかということなんですがね…と白石は追及する。
私はもう、何も存じません…ととくは言い返すが、その時、白石!お前の質問の仕方は間違ってるぞ、頑固な婆あというものは宥めるもんじゃなく攻めるもんだ、攻めて攻めて攻め抜いて、若い者のに口を割らせる…、それが玄人のやる方法だよと、部屋に入ってきた長瀬が指示する。
おい、支度しろと矢島が手下たちに命じると、彼らは部屋の天井に取り付けた滑車にロープを潜らせる。
そんな長瀬邸の門前に、王の車が到着する。 ロープの一端でとくの手首を縛り付ける手下たちを、椅子に腰掛けた長瀬はタバコを吸いながら愉快そうに眺める。
矢島が手下たちにロープを弾かせようとすると、待ってください!と信子と町村が止めようとする。
残酷だ!攻めるなら僕を!と町村が長瀬に申し入れると、君、心配することはないよ、ゆっくり見物していたまえよと長瀬は告げる。
お願いです、許してくださいと信子も長瀬に頼むと、長瀬は笑って、口を割るというのかい?と聞いてくる。
信子は、申します、知っていること何もかもと言う。
それじゃあ聞くが、虎徹はなんのためにコンパクトをお前に送ったんだ?と長瀬は質問する。
わかりません、兄はそれについては何も説明しませんでしたから…と信子は答える。
それじゃあ、お前はそれを誰に渡したんだ?と長瀬が聞くと、はい、王というお方に…と信子が言うので、王?嘘だ!と長瀬が言うので、いいえ、決して…、と信子は訴える。
確かに、確かに、僕も立ち会ったんですと町村も説明する。
しかし長瀬は、バカなことを言うな、王大人ほどの富豪があんなものに目をくれるはずがないと否定するので、でも確かに…と信子は訴える。
それでも長瀬は、止めろ!と信子に口封じすると、やるんだ!とロープを持った手下たちに命じる。
手下たちはロープを引っ張り、両手をロープで縛られたとくの体は持ち上げられ、悲鳴をあげる。
おい、事実を言わないと母親の手は…と言いかけた時、不思議な音が聞こえたので、おい、待て!と長瀬は手下たちに指示する。
手下たちはとくの体を下ろすと、長瀬たちは手塚に見張ってろと命じ、他の者と一緒に音の方へと向かう。
長瀬たちが全員でとある部屋に来ると、そこでは滑車につながったチェーンがコルト45の箱を地下から引き上げていた。
長瀬が、追いスイッチを切れと命じると、白石が急いでスイッチを切る。
誰がこんなことをしたんだ?と仲間たちの顔を見る長瀬。
その時、悲鳴が聞こえてきて、階段から落ちてきたのは手塚だった。
奈川やアヤが乗った車が屋敷に到着する中、階段下の手塚に気づいた長瀬は、階上に向かって誰だ!と呼びかける。 自分…と相手が答えたので、何?と聞き返す長瀬だったが、その時子分の1人が2階に照明をつけたので、王の姿が浮かび出る。
王は、七つの顔の男あるよ…と答える。
ある時は片目の運転手…、ある時は多羅尾伴内、ある時は老外交員、またあるときは魔術師の改(まさ)、ある時は船長、ある時は異国の大富豪…、しかしてその実態は…、正義と真実の人、藤村大造!というと、変装を解き、二丁拳銃を見せたので、やろう!と矢島たちも発砲するが、すぐに大造の銃弾で拳銃を撃ち落とされる。
その発砲音で、奈川たちも屋敷に接近する。 胸板に風穴空けられて、そっから息を吸いてえやつは、遠慮しねえで、どんどんぶっ放して気なかがと言いながら、二丁拳銃を構えた大造は階段を降りてくる。
どうでい、志願者はねえのか?なけりゃ、俺の調査の結果を言ってやる…と大造は続ける。 君たちは長瀬、その情婦藤松アヤを頭として、密輸団を結成したのは数年前…、その巧妙な組織の元に、麻薬、宝石、時計と手当たり次第の荒稼ぎをやってきたが、たまたま今度の拳銃を嗅ぎつけたのが、赤沼組の大原健二、大原はそれをタネに君たちを脅迫した…と、大造は指摘する。
ところがあまりの悪辣さに君達は、ついに大原の殺害を決意した…と大造が続ける中、屋敷の外にはアヤ、吉岡、奈川らが到着し、屋敷の中の様子を伺っていた。
そしてその役を振られたのが小塚鉄夫だと大造は続ける。
また「リラ」のダンサーに化け込んで、小塚を手引きしたのは藤松アヤ! 守備よく役目を果たした小塚は、その夜は片目の運転手、すなわち僕に匿われた…と大造は打ち明ける。
翌日アヤに誘い出され、長瀬ホテルに出向いた…、そこで拳銃が違っていることを咎められ、強制的に自殺させられる羽目になったのだ…、ところが例え拳銃のことがなくても、結局小塚は、マリー同様、この世から葬られる運命にあった…、なぜなら君たちは初めから小鉄を生かしちゃおかねえつもりだったからな…と大造は話す。
小鉄はその運命を予感していた…、だから大原を殺す数日前に妹の信子さん位コンパクトを送っている…と大造は続ける。
それは今、僕のポケットにあるのに、コンパクトに刻まれた数字の暗号…、その内容は以下の通り…と大造が謎解きをしていた時、アヤたちは、大造の背後に来ていた。
また、町村や信子たちも、大造の推理を聞いていた。
悪いくじを引いた、親不孝は詫び、仲間は母に100万円を約束した、もし不履行の場合は景品の長瀬別邸を密告せよ、この井戸の中には密輸の拳銃が隠されてある…、首領は長瀬だ!と大造は明かす。
藤松アヤ!と大造が言った瞬間、あやの拳銃が火を吹き、話を部屋で聞いていた町村は驚く。
その銃声を合図に、矢島たちも床にチタ拳銃を拾い上げ発砲してくる。 大造は、飾られていた鎧の陰に隠れ応戦する。
2階からは、奈川や吉岡も発砲してくる。 大造は階下の敵と階上の敵の両者に応戦する。 屋敷に迫るパトカーの一団。
銃撃戦がさらに激しくなった時、ようやくパトカーや警官が乗ったトラック部隊が屋敷に到着する。
賊の一味は、サツだ!サツが来た!と騒ぎ出し、逃げ出したので、大造は2階に逃げ込む。
1階にいた長瀬たちは踏み込んできた警官隊と銃撃戦になり、大造をある部屋に追い込んだ奈川たちは、そこにいた大造に向けて発砲するが、銃弾が当たったのは、大きな鏡に映った大造の姿だった。
本当の大造は部屋の隅に立っており、その直後、壁のどんでん返しから秘密の通路に逃げ込む。
警官隊は催涙弾を室内に打ち込み、一斉に踏み込む。 外に逃げ出したものは、すぐに確保されてしまい、室内で咳き込んでいた矢島などはその場で逮捕される。
熱湯で溢れた地下室にやってきた大造は、襲ってきた男2人をプールに落とすと、追ってきた敵を次々に発報でプールにとしてゆく。
屋敷内の族たちも、踏み込んだ警官隊に次々逮捕されていく。
扉の陰で警官隊をやり過ごした長瀬は、逆方向へ逃げようとするが、そこに立ち塞がっていたのは大造だったので、発砲するが、あっさり撃ち返されてしまう。 右手を打たれて垂れ込んだ長瀬に警官たちが駆けつけ手錠をかける。
アヤはなんとか逃亡しようとしていたが、大造が待ち構えていたので、上には上があるもんね、あんたには負けたわ…と感心する。
次の瞬間、こうだ!と言ったアヤは、自ら拳銃自殺して倒れる。 部屋の窓から外を見下ろした信子や町村たちは、警官隊が賊たちを逮捕したのを見て、よかった、よかった…と喜ぶ。
だけど、あの日とうぶん、藤村さん、どこだろう?ととくが心配すると、あ、そうだったと信子も気づ気、屋敷の中に探しに行こうとするが、ふと気づいて外を見ると、森の中を去って行く大造の後ろ姿があったので、藤村さん!待ってください!と呼びかけるが、声が届かないので、外に出て後を追おうとするが、大造はいつの間にか車に乗り込みそのまま去って行くのだった。
藤村さ〜ん!と呼びかけながら跡を追おうとした信子だったが、何かにつまづいたので地面を見ると、そこに「おっ母さんへ 鉄夫より」と書かれた置き手紙と、札束が詰まった風呂敷包みが置かれてあった。
信子は木に貼ってあった大造の置き手紙を読む。
「悪しきものになじまず、つみびとの道に立たず、嘲るものの座に座るものは幸いなり、光をかかげ光のかなたを見るものは幸いなるかな」
とくは、私は初めて神様にお会いしましたよと呟く。
朝霧の中、遠ざかって行く車の映像に「終」
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