「日本侠客伝 花と龍」

過去何作も作られた「花と龍」の、東映高倉健さん版である

 お相手役は東宝の星由里子さんなので、東宝が自社製作から撤退するため、専属俳優を次々に切っていった時期の作品であり、星さんにとってはこれが東映出演第一作かもしれない。

 1968年の「リオの若大将」まで加山さん演じる若大将相手に澄ちゃんをやっていた星さんが、翌年には東映で健さんの相手役になっていたわけだ。

 東宝の清純派イメージとは打って変わり、アクションシーンがある星さんというのが珍しい

 後半になっても、星さん演じるマンの存在感は大きく、星さんの代表作の一本と言って良いかもしれない。

 本作には日活の二谷英明さんなども出演しており、こちらも東映出演第一作のようだ。

ただ二谷さんの方は、同年の「嵐の勇者たち」や「戦争と人間 第一部」など日活作品にも出演しているし、東映作品はこの後映画は少なく、1977年から始まった「特捜最前線」などテレビシリーズが中心となる。

 映画斜陽で、役者を養えなくなった映画会社から、当時唯一黒字と言われていた東映へ移る役者が多かった時代である。

内容はすでに松竹版で知っているが、マキノ雅弘監督ということもあり、また違った面白い作品になってる。

特に「緋牡丹お竜」で知られる藤純子さんが出ているので、当時としては嬉しい健さんとのコンビ作品にもなっている。

藤純子さんのアップシーンは紗がかけているように見える。

 小松方正さんが、いつもの癖の強い小悪党を演じており、登場場面はそう多くないのに印象に残りやすいのはすごいと言うしかない

 ノロ甚を演じている津川雅彦も登場シーンが多いこともあり印象に残るし、林助役の山本麟一さんもなかなか存在感があり、九州弁もこなれているように聞こえる。

健さんは舞台となる筑豊出身なので、九州弁が得意なのはわかるが、山本さんは北海道出身なので九州弁は難しかったはずだ。

松竹「宇宙大怪獣ギララ」(1967)でも知られる和崎俊哉さんも玉井組を支える役柄で登場している

キャスティングで気になるのは山尾市松役で、キネ旬データでは内田朝雄と書いてあるが、いくら若い時分の作品とはいえ、別人だと思う。

 後半登場する玉井組の若い衆俊次を演じているのは小林稔侍さん。

 ラストはいかにも当時の東映任侠映画らしい立ち回りになっているが、文芸ものらしい風格もある作品に仕上がっている

【以下、ストーリー】

 1969年、東映、火野葦平原作、棚田吾郎脚色、マキノ雅弘監督作品。 日露戦争が終わった頃(とテロップ) 門司の港に帰ってきたのは玉井金五郎(高倉健)だった。

「山尾組詰め所」の看板がかかった小屋に入り、将棋を指していた二人に話しかける。

 ちょっと伺いますけんど、わし、玉井金五郎注文ですが? 伊予松山から来とる金五郎に会いに来たのですが?というが、二人が全く聞いてないようなので、大田新之助はおらんのか?と、将棋に夢中のノロ甚(津川雅彦)の耳元で大声で叫んでみる。 

忙しいでしょうけど教えてくれんしゃいと金五郎が頼むと、誰か?というので、大田ですたいと金五郎が繰り返すと、ああ大田か…、沖に出て働いとるがなとノロ甚は教えると、なんやお前?と聞いてくる。

 大田の友達やけど、ここに来たら働かしてもらえるちゅうんで…と金五郎が答えると、すると兵隊で大田と一緒やったというんは?ともう一人の将棋の差し手が聞いてくる

 はい、俺ですたいと金五郎が答えると、そうかと相手の男も嬉しそうになり、働かせてやっちくれというのが聞いとるが、ゴンゾやったことあるんかいと聞いてきたので、ゴンゾ?なんですの?と金五郎は聞き返す。

するとノロ甚は知らんの?と驚く。

 知らんと金五郎が答えると、石炭流しのことやがなとノロ甚は呆れたように教え、ああと金五郎が理解すると、覚えといてやと念を押す。

 お前、ケンカ強いか?とノロ甚がが聞くので、いや~と金五郎が笑ってみせると、法被をその場で脱ぎ捨てたノロ甚が、金五郎を立たせたので、何ですな?と金五郎は不思議がるが、いきなりノロ甚が腹を殴ってくる。

 しかし金五郎はびくともせず、ノロ人の方が右手を痛めたようだった。

あの~、大田に会わせてくだっさいと金五郎が頼むと、行こうかとノロ甚は声をかけ、一緒に出かけることにする。

 あのな~、あそこに見える船あるやろ?あれや、あれ乗っとるわとノロ甚が沖を指しながら教える。

 どうも…と礼を言った金五郎が去ると、親父、あれ使えるでとノロじんは将棋の相手をしていた男にいうと、親父と呼ばれた男も、おう、力も強そうじゃのと応じる

 船から降りかけていた大田に声をかけ、降りてきたゴンゾたちの間をすり抜けて近づいていた金五郎は、突然すれ違った女が痛い!このボケ!と文句を言ってきたので驚く。

 どうしたとな?と金五郎が聞くと、足を踏まれたらしかった。

それに気づいた仲間が、謝らんか!というので、俺がやったとな?と金五郎は女を見る

 女は、そげなまな板みたいな下駄で人の足踏みよってからに!ほら見!と言いながら左足のつま先を上げたので、そらすんませんでしたと金五郎は詫びる。

 そして自分の手拭いを裂いて女の足に縛っていると、どげんしたとかいと大田新之助(二谷英明)がやってきたので、俺がやったらしいったい、大したことないと思うけどと言いながら傷の手当てを続ける金五郎だったが、何じゃい、大したことないとは何じゃいと女は怒る。

 すると大田が、おマンさん、こいつはわしの友達やけん、堪えちゃんないと頼む。

金五郎ももう一度すみませんと謝ると、もうよかと言って立ち上がった気丈な女 マン(星由里子)は、このアホ!というなり、また金五郎の頬を殴りつける

 それでも二、三歩歩いたマンが歩けない様子だったので、自分の荷物を大田に預けた金五郎は、どこまで帰るとな?と聞くと、強引にマンを背負って帰り始める。

 井戸端で体を拭いていた谷口林助(山本麟一)は、帰ってきた金五郎たちを見て、おマンどげんしたんじゃ?と声をかける。

やあ、おマンさんをこいつが踏みよったんで怪我したんじゃ!と同行してきた男が答える

 おマンを下ろした金五郎がどうも、すんまっせんでしたと謝ると、気にせんでよか、あいつはがらっぱちのメッタやけんと林助は答える

 林助の女房チエ(三島ゆり子)に介助され小屋に戻っていたマンはそれを聞きつけ、兄ちゃん!そげなこと言うともう小遣いはやらんよと言い返す。

どうやら兄妹らしい二人がふざけ合って笑うので、金五郎はただ立ち尽くすしかなかったが、大田に呼ばれ、彼の住む小屋に向かう。

 部屋の中で金五郎と対座した大田は、こないだお前か

 うん、おじに反対されてのと金五郎が言うので、それで諦めてゴンゾになる決心ついたんか?と大田が言うので、あきらめはせんばい、これから働いて支那に出る金貯めようと思って…と金五郎は答えたので、大田は驚く。

 だけどゴンゾになるにはよっぽど度胸つけてかからねばならんぞと大田は忠告する。

 この筑豊の石炭の荷役を請け負うとる親分はようけおんさるし、そのまた下請けの細かい組がいくつもあっての、仕事の取り合いで血の雨が降ることもあるんじゃけんと大田はいう。

 金太郎は、大田、俺たちは死ぬ覚悟して戦地行っとったよな?血の雨くらい恐ろしくてどげんするなと言い返す。

 いや、生まれながらのゴンゾのわしと違って、お前は百姓の生まれじゃ、務まるかの?と大田が言うので、務まるか務まらんかはつこうてみんと分かるな?ともかく俺はもう四国には帰らん決心しとるんじゃけんと金五郎は反論する

 いい気になりよって、ま、ええやろ、それだけの覚悟持っとるならよかばい、ま、兵隊に帰ったつもりで仲良うやろうやと大田はいう。

 俺はゴンゾじゃ新規じゃけんよろしゅうお願いしますと金五郎も頭を下げる。

 翌日から港に着いた船に、積まれた石炭を天秤棒下げた運び屋のザルに渡す仕事が始まる。

 金五郎はマンが近づいてきて足をさすっているので、足まだ痛むな?と声をかけるが、そげんこと言わんと早うしんさいとマンが急かすので、いつまでも膨れ面しとらんともう堪忍しちゃんないと金五郎は頼む。

そんなマンは、近くで働いていた林助が大田に、今夜一つ!などと嬉しそうに話しているのに気づき、兄ちゃん、何の話ばしとりんさると?とからかいに行く。

 何もしとらん、のう?新さんと言うので、大田も、博打の話などしとらんもんななどと言い返したので、林助は慌てて、違う、違う、違う!と否定する。

 博打はいかんよとマンは言い残し仕事に戻る。

すると、自分のザルに山盛り石炭が入れてあったので、こげん一杯入れて!とマンが怒ると、こげなと担げんとな?と金五郎が意外そうに聞く。 

そんならあんた担いでみんさいと天秤棒をマンが渡すので、周囲のゴンゾたちも面白がって集まってくる。

そんな中、天秤棒を担いだ金五郎はふらつきながらも何とか船まで運ぶことに成功したので、仲間たちは愉快そうに笑う。

 その夜、金を持って博打に出かけようとする林助を必死に止めるチエだったが、隣から顔を出したマンが、義姉ちゃん、よかと…と言いながらチエを家に戻す

 林助は、ちょっと貸しちゃんない、受けたら返すけんと言いながら出かけてゆく。

 大田の小屋にやってきた林助は、新やん、行こう!正念寺やと誘うが、あそこはいかん、大村組の博打場じゃと大田は断る。

だから行くんじゃと林助はいう。

お前また金ちょろまかしてと大田が指摘すると、なんば言っとるんじゃ、俺の勝手じゃけん、あいつのもんは俺のもん、俺のもんも俺のもんじゃなどと林助は言うので、よし、ちょっこいねと金五郎に断ってコヤを出る。

あんたも来んな?と林助は誘うが、俺やったことないけんと金五郎は断る。

ケンカと博打はゴンゾの仕事のうちじゃけん、見とるだけでも勉強になるが…などと言って林助は誘う。

 やむなく金五郎も博打場に付き合うことになる。

 賽を振っていたのはお京(藤純子)という女だった

負けが続くので、帰ろう、ついとらんけんと林助が背後に控えていた金五郎にいうと、山尾組のあんたたち、早々と退散かい?と大村組の連中がからかってくる。

林助が退散じゃと答えると、姉さん、俺やらしてもらえるやろか?と突然金五郎がお京に聞く。

ええ、良いですよとお京が言うが、大田らは止めようとする。 

どげんしよっとね?と林助は聞くが、金は持っとるけんと、金五郎は懐から金を出して見せる。

 玉井…と大田も案ずるが、金ならちゃんと持っとるんじゃけんと金五郎は言い張る。 

その金を見た林助は、こげんに!俺にやらしやいと林助は頼むが、金五郎は俺がやるけんという

 姉さん、20ありますけんと金五郎がいうと、やめた方が良いわ、大事なお金なんでしょう?とお京は優しく言い聞かす

 林助も、半分にしときないと勧めるが、金五郎は一発勝負に賭ける。

それを聞いたお京が、受けますか?と大村組の一人が応じる。

 お京が賽を振ると、大村組の男が半に賭けたので、金五郎は丁に賭ける。

 結果は二六丁だったので、勝った!と喜んだ林助は帰ろうと言い出す。 

しかし金五郎は、これ全部丁に行きますけんなどと言い出したので、大田は玉井!と制する。 

受けますか?とお京が聞くと、大村組も渋々承諾する。

 よござんすか、よござんすね?と言いながらお京が賽を振ったので、大村組の男は半に張る。 壺を開けると、五三は墓場の丁!と出他ので、林助は勝った!と喜ぶ。 

しかしおかしいの~、あんなど素人にやられるわけないんじゃが…と、大村組の若い衆は寺の外でぼやきながら帰っていく。

林助、大田と共に帰路についた金五郎は、俺はこげん金入らんけん、みんな少しずつやるけんなと言いながら、金を大田や林助に渡そうとするので、大田は断ろうとする。

林助は悪いのうと言いながら金を受け取るが、その時、金五郎はお京の姿を見たので会釈して近づく。

 さっきはどうもありがとうございましたと金五郎が礼をいうと、おかしいわよ礼なんか、勝負じゃない、あんたの運が強かっただけよとお京は笑う。

 いや…、これが俺の元やけん、これ姉さんの分前で…と金を渡そうとする金五郎に、男は自分がこうと思ったことに体を張って生きていかなくちゃ~、ね?でも、博打だけはやめときなさいねと優しく言い聞かす。

 どげんしてなんと金五郎が聞くと、勝つと決まったもんじゃないのよ、さ、早くお帰りなさい、気をつけてねとお京はいう。 

さようならと言って、帰途に着いた金五郎たちだったが、途中で待ち伏せていた大村組の連中の闇討ちに遭う。

 翌朝、噂を聞きつけて林助のもとに集まった仕事仲間たちが、兄やん、昨日はまたえらい派手にやったそうやなと囃し立てる。 

おお聞いたんか?と得意顔の林助は、金さんな、すごか奴やどと自慢するので、女衆も話を聞きにくる。

 壺振りがまた別嬪なんじゃと林助はまずお京の話しを始める。

それを聞いたノロ甚は、そりゃ水臭い、なんでわし連れていかんのじゃと拗ねる。

 金さんがなけなしの金を20円!と林助がいうと、ええ加減なこと言うな!嘘つけとノロ甚は文句を言うが、本当なんだって!と林助は強調する。

 ほんまか?と驚くノロ甚たちに、20円いっぺんいど~んと張ったんだと教える林助。

 26の丁と出た、ぽ~んといただき、それをまた全部張ったんじゃと林助がいうと、全部か?おい!とノロ甚は驚く。

 35の丁と出た、それからあとは全部張る!とうとう大村組の奴ら受けられんことなった…と林助の話は膨らんでいく。

ほんで?と野次馬が聞くので、それが闇討ちなんじゃと林助はいう

 強かとねえ、あっちにポップラポン!と言わしよって…、ところが暴れすぎちまって、ゼニを落としてよもうたんじゃ…と林助は情けなさそうにいう。

 惜しいな~と野次馬たちは残念がるが、わかった!と言い出したノロ甚は、その女、玉井に惚れよったなというので、それを聞いたマンの表情が曇る。

そういや、なんじゃゴチョゴチョ話よったぞと林助が思い出すと、そうや、男前がようて、力があって、ああ、うちが若かったらほっとかんのじゃが…、なあおマンちゃんと野次馬おばさんがいうので、マンは無言で立ち去ろうとする。 

そこに金五郎が帰ってきて、肉を買うてきたけん、みんなで食いやいと、その場にいた仲間たちに配り始める。

さらに金五郎は、奥さん、肉買うてきましたけんと言ってチエに手渡す。 

その横でキセルを吸っていたマンは、金さん、あんた博打好きねと聞く。

 いいやと金五郎が否定すると、これから兄ちゃんば博打に誘わんといてね、ええね?とマンは釘をさす。

 すると金五郎はいきなりマンのキセルを取り上げ、俺は女のタバコ吸いよるのは好かんけんと言い返す。

 マンがそのキセルとチエが持っていた肉を受け取って家に帰ろうとした時、みんな、飯の前に集まってくれ!山尾の親分の大事な話があるけん!という伝令がくる。

 ええか、明日のインド丸の荷揚げには山組の浮沈がかかっとる、浮沈は字で書けば「浮き沈み」じゃ、この山尾市松の顔が立つか潰れるかじゃ!と山尾市松(河合絃司)はみんなの前で言い聞かす。

 失敗したら山尾組は解散、お前らも路頭に迷うことになるんじゃけん、わかるな?相手は大村組じゃ!絶対に負けられん!と山尾は強調する。 

ぜひ勝ってもらわにゃならんが、勝っても負けても喧嘩になる!怪我人も出りゃ、ひょっとしたら死人が出るかもわからんけん、俺としちゃ、誰にしちくれとも言えんが、組のためを思ってやってくれる奴は前に出てきてくれい!と山尾は声をかける

 林助や大田やノロ甚が前に出るが、一緒にマンまで出ようとしたので、大田らは止める

しかしマンがうちは行くんじゃと言い張るので、あんたは止めときないと言って金五郎が前に進み出る。

あんたこそ素人のくせしてやめときというと、またマンが前に出る。

 俺は男やけん、喧嘩するばいと言ってまた金五郎が前に出る。

 大田がマンを傍に連れて行き、ノロ甚が金五郎に、おう、やるか?と嬉しそうに話しかける。

 何してるね、新さんとマンが聞くと、明日間違うなく大事になる。

わしもおマンさんには行ってもらいたくはなかと大田はいう。

 大田の気持ちを察したかのように一瞬考えたマンだったが、うち行きますからと言ってその場から去る。

その夜、喧嘩をしに行くものたちが集まっていたが、大田の家には布団が敷いてあるだけで人の姿がなかったので、大田と金五郎がケツを割ったとマンたちはがっかりする。

 そこへ、泥を積んだ天満がのうなっとるとの知らせが来る。

 ノロ甚は、それは大村組の仕業やでと推測する。

するとマンが、お待ち!船は出し遅れた、道具はどっかに行ってしもうた!こうなりゃやることは一つでしょうが!とみんなに言い出す。

それを聞いた男は、よう言うた、その通りじゃ、みんな現場に乗り込んで大村組の邪魔したるぜと告げる。 

その場で賛同した仲間たちはマンも含めて出かけてゆく。

二艘の小舟に分散してインド丸に近づいていた彼らだったが、兄ちゃん、なんかきこえんやったね?とマンが眠そうだった林助に聞く。

 なんか聴こえたか?と林助が隣にいたノロ甚に聞くと、ノロ甚もしっと耳をそばだてる。

そのとき、インド丸から、お~いと呼びかける声が聞こえたので、マンがあれは金五郎さんの声じゃ!と気づく。

 近づいてみると、インド丸の船上からカンテラを振り回していたのは、金五郎と大田だった。 

早く来ないと呼びかける金五郎に、笑顔で応じた林助たち山尾組は、翌朝から必死に石炭を運び始める。 マンも男に混じって懸命に働く。

ノロ甚が、どうなっちょる?と聞くと、勝っちょる、勝っちょる!と仲間が教える。

 林助も金五郎も働きまくる。

 そんな山尾組に大村組の若衆が苛立って喧嘩を吹っかけてくる。

 応戦する大田と金五郎たち。

 マンも喧嘩が始まった船の上に登ろうとする

 金五郎はいつの間にか戦場の喧嘩に紛れ込んでいたマンに気づき、なんしようとな!と声をかける

 引っ込んどきない!とマンを引き話した途端、大村組のやつから殴られる金五郎。

 するとマンがその相手に向かって助けてくれる。

 やがて怪我をした金五郎を戸板に乗せ、山尾組が集落に戻ってく

 ともかく仕事を成功させたので、山尾組の祝賀会が始まる。

 上機嫌の山尾は、みんな、良うやってくれたと感謝する

 彦島沖海戦は我が社の大勝利じゃけん、大村組もこれからは大きな顔はでけんぞ、仕事にも負け、喧嘩にも負け負ったんやからのというので、大田も頷く。

さしずめ、親方、山尾一松将軍やのと部下が世辞を言うと、大田!お前は今日の殊勲者やけん、えらい褒美をやると山尾は言い出す。

 ここにいるカメ、これは俺の女房じゃけんやれんと頭を掻いた山尾は、ヒデとサク、どっちかやる!言うてみい!と芸者二人を指して選ばせる。

 大田は笑って断ると、お前これはないのかと山尾は自分の小指を出して聞く。

 大田が笑って誤魔化すと、こいつはわからんぞ、とぼけて!と山尾は揶揄う。

 一方、金五郎の容体を案じた仲間たちが家の前に集まっていた。 そこに酒宴から大田が帰ってくる

 まだ気がつかんのか?と、林助が看病していた金五郎の枕元に近づいた大田に、新さん、組のものが怪我しているのに、親方に言われて飲みよって良かと思っちょるね?と、ノロ甚らと金五郎の容体を一緒に見守っていたマンが詰め寄る。

 新さんまでいい気になって…とマンが言うので、いい気になどなっちゃおらん、玉井のことは気になったんじゃが、親方に引き留められて帰れなかったんじゃ、こげん言われるとは思っちょらんかった…と大田はいう。

 そんな大田に、やい、ひどい熱じゃと林助が教える。

そのとき、大田、聞いてないよ…と金五郎がうなされる声が聞こえる。 

うわごとでも友達のこと心配しちょるのに…とマンがまた責めるので、居た堪れなくなった大田は家を出る。

 翌日、港にいた大田は、おマンちゃんと喧嘩したと?なぜ好きと早う言わんの?新さんもよか男やけど、女子に弱いのが玉に瑕じゃなどと女衆からからかわれる。 

マンは片手にしていた包帯を取っていたので、もう包帯取れたのね?とチエから驚かれていた。

 ああ、金五郎さんの薬頼まれてたけん、届けてくるき…とマンは言って、金五郎の寝ている小屋へと向かう。 

大田の家でなんとか起き上がれるまでなっていた金五郎は、そこにやってきたマンに気づくと、こんちはと挨拶するが、マンは寝とらないけんきと叱る。

 先生が言うちょったよ、体が弱っちょるけん、休んどらないけんちとマンが言うと、あいつはヤブ医者やけんと金五郎はいう。

それであんたの手はどうなった?と金五郎が聞くと、もう良いち!と、あのヤブ医者が言うとったとマンは答えたので、二人はなんとなく笑い合う

 兄ちゃんに聞いたけど、金さん、支那にみかんの木を上に行くんやと?とマンが聞くので、うん、そうたい…と金五郎は答える。

 おマンさんもブラジル行きたがっとるてな?と金五郎が聞くと、いつ行くるかわからんもん…と寂しげに言いながら、マンは外に咲いていた黄色い花を瓶に入れてやるのだった。 

ゴンゾの給金は安いし、少し貯金をすると、兄ちゃんにすぐ取られてしまうんよとマンは打ち明け、木箱の上に花を置く。

そんなマンが、帯からタバコを取り出そうとしたので、マッチな…と金五郎が探そうとすると、それを制したマンは、吸わんと…、今は吸いとうなかという。

 タバコっちゃ、そげん美味いかな~と金五郎が言うと、別に美味しい思うて吸うとる訳じゃないんよ、国いた頃、病気で寝ちょったお父ちゃんに毎日つけてやっちょったら、癖になってしもうたんよとマンはいう。

うち…、もう帰らにゃいけんき…、歳ならとマンは言って帰っていくが、金五郎は彼女が花瓶に活けてくれた黄色い野花をじっと見つめるのだった。 

夕方帰ってきた大田が、玉井、具合どげんな?と聞くので、金五郎は運とだけ答える。

体が元に戻った金五郎は、波止場で昼休み中だったマンに近づくと、おマンさん、あんたタバコ飲マンとな?と聞く。

 いや、飲マンとマンが答えると、飲みないと勧め、運とマンが答え、タバコを取り出すと、俺が火をつけちゃるけんと金五郎がいい出したので、えっ?と驚く。

 これな、懐中ランプちゅうてな…といいながら、持ってきたライターを取り出すと火をつけてみせ、な?つけてんない、つけてんないっちゃ!とマンに言いながら、漫画キセルを口に入れるよ火をつけてやり、な?と嬉しそうにいうので、周囲の仲間たちもほお!と驚く。

 アメリカ帰りのふねんおパーサーからもろうたったいと金五郎はいい、これあんたにやるけんと金五郎はマンに差し出す。

 いらんよ、こがいな珍しいもん…とマンは遠慮するが、周囲の連中は、貰うときない、貰ろうとけ、貰ろうとけ!と囃し立てる。

 金五郎は、俺、タバコ飲マンけん、な?と言い、さらに勧めるので、マンは、じゃあ貰うときますと言って受け取る。

 金五郎が立ち去ると、おマンちゃん、ちょっと貸してみとタカ(山本緑)がライターを受け取り、みんな!来てみんさい!と他の連中を呼び寄せ、懐中ランプだと、ええか?ほれ!と言いながら実演して見せびらかす。

 お、点いた!と喜んだ仲間たちは、これ大事にせなあかんぞとマンに言い聞かせる。 

その時近くを伊崎組の者と一緒に通りかかった芸者の1人が、姉さん!と同行していた芸者を呼び止め、ちょっとあんた、珍しいもんもっちょるけど、うちにも見せてくれんね?とマンに話しかけてくる。

 マンは、こげんするんよと言いながら火をつけて見せると、いやあ、珍しいもんね、こればうちに譲ってくれんね?と言い出したので、それは…とマンが躊躇すると、ただとは言わん、お金たんと払うけんと妹はいう。

 マンは憮然として、返してくれといいながらライターを奪い取ると、伊崎組の男衆が、姉さん、おとなしゅう渡さんと…、若松の伊崎組の者じゃ、わしらに楯突く気かい?素直に渡さんけ!と睨みつけてくる。

 マンは嫌じゃと言いながら、その場から立ち去ろうとするが、追いかけてきた男衆がライターを奪い取ろうとする。

 何するの、やめて!と抵抗したマンは、いきなりそのライターを海に投げ込んでしまう。

そしてライターを欲しがった芸者に向き合ったマンは、落としたらうちのもんじゃなかけん、拾ってきなと言い放つ。

 そんなマンに伊崎組の男衆は掴みかかろうとしてきたので、間に入った大田が、どうもすいまっしぇんと謝ると、お前が落とし前ばつけるのか?と相手は脅してくる

 おお、俺でよかったら、この子の代わりに…とマンの方を見ながら答えたので、良し、来ない!と相手は誘い、良し行こうと答えて大田はついていく。

新さん!と周囲の仲間たちは声をかけるが、心配すんな、行こうと大田は答え、伊崎組と一緒に歩き出す。 その頃、金五郎はノロ甚と家で将棋を指していて、タマキン、お手は?などとノロ甚から攻められていた。

 金が2丁に槍一筋の家じゃと金五郎は答える。

金が2丁に槍一筋?ああ、負けやとノロ甚は気づいて自分の手持ちの駒を投げ捨てる。

 金五郎が喜んだので、お前何やらしても強えなとノロ甚が褒めると、おいはな、運がついとるんじゃと金五郎は教える。

 ほうか、ちょいと懐中ランプ貸したりいなとタバコを口に咥えたノロ甚が頼むと、もうないと金五郎が言うので、ない!ケチケチ言わんと、出したら?付き合い悪いぞとノロ甚は言いながら、金五郎の腹巻の中を探るので、何をしとる?やったんじゃと金五郎は迷惑そうに言う。

 やった?誰にや?とノロ甚が聞くと、えっ?と金五郎は戸惑ったので、えっこら!あんなええもん、誰にやってん!とノロ甚がしつこく聞くので、誰にやってもええやないの、俺はタバコ吸わんとやけん…と金五郎は答える

それもわかっとるがな…、臭いな…とノロ甚が言うので、何がや?と金五郎はとぼけるが、これにやったんやろ、これに!と言いながらノロ甚は小指を差し出して見せる。

 これにやってもええやないかと言いながら、金五郎はノロ甚の手を払い除けたので、あら、お前、そない言うて…、お前な、おマンちゃんに惚れたらあかんでとノロ甚は忠告する。

 それを聞いた金五郎は、なしてな?と不思議がる。

おお、なしてお前頼むわ!お前な、おマンちゃんはやな俺が惚れとるんやろ、お前、吉蔵やろ、ツボにタコにみんな惚れとるがな?とノロ甚が説明すると、金五郎が口ごもったので、なんやこいつ赤なりよった、赤ぉなりよった、こいつおマンに惚れとる!とノロ甚蛾から買い出し、何を言うとか!などと金五郎も照れながら戯れあい始める。 

結果、ノロ甚は医師から転げ落ちてしまうが、お前惚れとるやないか!おマンちゃんに、言わへんから!と近づいてきた金五郎に言い訳する。

 その時、玉井!探しとったんじゃ、親方がお呼びじゃ、一緒に来いと山尾組の根岸(相馬剛三)が呼びにくる。

 何の用です?と金五郎が聞くと、若松の吉田と吉親分が、東京からの帰りにお寄りになってな、インド丸の話聞いて、お前と大田に会うてみたいと言ってるんじゃと根岸はいう。

 どんな人ですか?と金五郎が聞くと、吉田親分いうたら、北九州からこの辺りにかけての大親分だ、伊崎兼吉親分、ドテラ婆さんの島村ぎん親分、みなさんお出迎えに来てご一緒じゃと根岸はいう。

 え?お歴々の前で声をかけてもらえるだけでも光栄じゃと思えと根岸は金五郎の腕を叩いていうので、俺はそげな偉か人は…と金五郎は躊躇する。 

いいからと根岸は無理にでも連れて行こうとうるが、その時、新さんがやられたんじゃ、早く来てくれ!とタカが走り込んでくる。

 家の前に出ると、早う、あっちじゃとおばさんは指さす

 大田は仲間の男衆たちに抱えられ、新やん、しっかりせいや!と呼びかけられながら運ばれていた。

 大田!と駆けつけた金五郎は、どげんしたとな?と聞くと、伊崎組の奴らじゃ、こっちはなんもせんのにいきなり殴ったんじゃ、卑怯な奴ちゃ!と仲間たちは打ち明ける。

 金五郎は、確かに若松の伊崎組ちゅうたんやな?と確認した金五郎は、すぐ病院に行っちゃんないと林助に頼むと、良し、行こうと林助たちは答える。

 1人残った金五郎は、そこにマンもいることに気づくが、マンは、うちが悪かったんやけんと反省したように言うので、大田の病院に行っちゃんないと金五郎は頼むので、マンは頷いて行きかけるが、金五郎が1人で向かおうとするとその手を掴んで、行かんで!と頼む

 金五郎はその腕をほどきながら、心配しなんなというと、一人去って行く。

廊下で子分たちが止めようとするのを振り切って親分衆が集まった座敷に乗り込んだ金五郎は、伊崎の親分さんちゃ、どの人ですな?と立ったまま聞く。

 わしじゃが…と、上座の近くに座った伊崎仙吉(天津敏)が腕を組んで答えると、おお、あんたですか?あんたんところじゃ、語言してわしらの仲間ば怪我させたりするとでか?と正座しながら金五郎が聞くので、ここをどんな席じゃと思うとるんじゃ?吉田先生の席じゃぞ!と下座に座っていた山尾市松が睨んで来る。

 すると金五郎は、知っとります、お騒がせしてすんまっせんと両手をつけて詫びると、俺は腹立ってたまらんやったけん来ましたと答える。

 さらに伊崎の前に座り直し、親分さん、あんたヤクザでしょう?俺はヤクザっちゅうのは、弱いもん助けて強いもんをくじく良か男と聞いておりましたけんど、九州若松のヤクザっちゅうのは痛ぶるのが商売ですか?と問い詰める。 

すると伊崎は、わしは知らん、若いもの同士で話しつけたらええじゃろう、さ、あっち行け!と答え、山尾に目配せしたので、山尾が前に出てきて、おいと金五郎に声をかける。

すると金五郎は、親方もそうやないか?ゴンゾあっての親方でしょう?と田中と伊崎の両方に問いかけ、そのゴンゾが痛ぶられてるのに…と言いかけたところで、うるせえ!と伊崎が一喝する。

 すると、やめんしゃい!と上座に座っていた島村ギン(高橋とよ)が叱りつける。

 伊崎どん、あんたの負けじゃ、なあ吉田さんと隣に座っていた吉田機青(若山富三郎)に問いかける。

ああ…、玉井君ちゅうたな?と金五郎に話しかけた吉田は、金五郎が頷くと、こっち来んしゃいと手招きし、わしが吉田機青じゃ、友達は怪我だけな?そいとも…と聞く

 丈夫な奴ですけん、死にゃしまっせん、いや死なせまっせん、みんなで介抱してますけんと金五郎が、吉田の目をしっかりみながら答えたので、おお、山尾!と吉田が呼びかけたので、山尾はヘイと答える

 お前ん組の若い衆は良うできちょるの?と褒めたので、山尾は恐縮する

 するとギンが、伊崎どん、お前さんの子分は親分のやってる仕事を知らんのか?と問いただす。

吉田も、伊崎、わしも昔ゴンゾばやっちょった頃、ようヤクザに虐められた。

その度に何くそと頑張って、まあ今日のような男になったんじゃと言い聞かせる。

 伊崎、ゴンゾっちゅうのはな、明日もわからん命懸けの商売じゃ、モッコ一つ担ぐにしても、並大抵の技術やない、そりゃ大事にせにゃならん人たちじゃと吉田が言うので、それを聞いていた金五郎はあらためて吉田の顔を見上げる。

ゴンゾ上がりじゃないにしても、お前だったらそれぐらいは分っちょると思うたからこそ、若松を預けたんじゃ!と吉田は声を荒げる

 もしゴンゾに喧嘩をふっかけられても、手出しをせんとが、わしら侠客の掟じゃなかか!と吉田は言い聞かせ、伊崎どん、この落とし前はちゃんとつけにゃならんのうとぎんも言いそえる。

 伊崎はへえと頭を下げる。 

さらに吉田は、玉井君、わしは君を見ち、若い頃を思い出したんじゃ、人間裸一貫、自分が正しいと思う道をまっすぐ進んでいきない、玉井君、腹も立とうが、ここはわしに免じて治めちゃくれんか?と言うので、はいと金五郎が答えると、ああ、ま、一杯飲みないと酒を勧めてくる

 いえ、俺は酒飲みませんけん、すんまっせんと金五郎は詫び

 おお、酒飲マンとか…と驚いた吉田は、はいとまっすぐ答えた金五郎を見て、そうかと笑い出す。 ゴンゾの集落では、大田の入院費を賄うため、住民たちが少しずつ金を出し合っていた。

その金をザルで受け取っていた林助は、おマン、こんなに集まったとそれを見せる

 その時、おマンが出した札束を見て、おマン、こんなに?こんなに?お前へそ…と驚くが、お前何言うとんのや、ケチケチすんな、俺も払うたるでと言いながら、おマンの札束の影に隠して小銭をザルに入れるノロ甚を見て、おいお前、今なんぼこん中に入れた?と林助が聞くと、ぎょうさんやな、一緒やがな、あるだけ全部や、なあ?とノロ甚は答え、周囲の同意を得ようとする。

 その時、お~いと呼ぶ声が聞こえたので、あ、何やあいつ?とノロ甚が迎えに行くと、りんさん、俺は金なくて質種(しちぐさ)じゃと言いながら、鍋などを抱えてきた男がいた。

 すると林助は、こげなもの入れて飯はどげんすっとじゃ?と呆れたように聞き、食う金払うけん、林さんに食わせてもらうという。

 するとノロ甚も、わいも鍋と釜持ってくるし…などとマンに言い寄り始めたので、いやじゃトマンははねつけるが、そんなこと言わんと…とノロ甚はしつこく迫る。

 その時ノロ甚が、タマキンや!と叫んだので、マンは心配そうに振り返る。

 チエは、おマンちゃん、戻ってきた、良かったねと語りかけ、一緒に金五郎の方へと向かう

根岸も一緒に帰ってきたので、出迎えた林助やノロ甚や仲間らが、お前らパンパンってやってきたのかと聞くと、何を言うとるんじゃ、金さんはな、吉田親分知っとるじゃろと聞くので、みんながおうと答えると、あの親分からものすごく褒められたんじゃと根岸は教える。

 ほお、ほんまかいとノロ甚は金五郎に聞く。

伊崎は怒られてのうと根岸が言うので、ほうか、ああ房人、あんたも入れちゃんない、新さんの見舞金じゃと林助はザルの中の小銭を見せると、こりゃいかんとザルを押し除けた根岸は、親方も大層心配してくれてん、休んどる間の新さんのかねも入院代も全部払うてくれるちゅうとるしと根岸は知らせる。

 それを聞いた仲間たちは本当か?と喜び、ほんまじゃいと根岸も答えたので、ノロ甚はそれ返してくれと手を伸ばすが、林助が後にしないと払う。 

すると根岸は、ちょっと聞いてくれと言い出し、実はな、金さんが山尾組を辞めることになってのと言うので、全員驚いて金五郎の方を見る。

 本当か?とノロ甚が聞くと、金五郎はああ…と言葉少なく答えたので、どう言うこっちゃい?とみんな戸惑う。 マンとチエも唖然とする。

 おしん、どう言うこっちゃ、これは?おいおいおいおい、ひどいやなかか、どう言うこっちゃこれは!と根岸にみんなが迫るので、ちょっと説明するけ、待ってくれと根岸は宥める。

 吉田親分、島村ぎんたちの前で、伊崎はえらい恥かきよったんじゃい、うちは伊崎の所から荷物、回してもろうちょる、それでまあ、伊崎の顔を潰した奴を置いとくような山尾組にゃ回せんというわけじゃと根岸が説明すると、何ばこきようとか、この腰抜け!と林助は根岸の胸を押す。

 その間、ノロ甚は、寂しげに俯いているマンの方ばかり気にかけていた。

 林助と仲間達は金五郎のそばに戻ってくると、金さん、本当の事かそれは?と尋ねると、ああ、親方に紹介状をもろうてな、俺、戸畑行きますと金五郎は答える。

 戸畑へ?と林助は驚くが、みんな、長い事お世話になりましたと金五郎は頭を下げる。

金さん、もういっぺん考え直してみてくれんな?俺らみんなで親方に頼んでみるけんと仲間はいうが、いや、俺はもう腹は決まっとるけんと金五郎は答える

 これから大田見舞うて、6時の船に乗りますけんと金五郎はいう。

 金さん、金さんよい!と仲間達は口々に去っていく金五郎に声をかけるが、ノロ甚は金五郎の腕を掴み、どうしても行くんか?いるで…と言いながらマンの方を指差す。

 金五郎はちえの前に来て、女将さんお世話になりましたと頭を下げると、おマンさん、さよならと声をかける。 マンも、さいならと振り向いて返すと違う方向へ帰ろうとする。

ノロ甚はそんなマンの肩を掴んで止めると、おマンちゃん、あいつええ男や、男の俺でも惚れる男や、何で言わんねん?言わへんかったらな、一生後悔することになるで、惚れとるんやろが?金やんかてな、おマンちゃんと惚れとるんやとノロ甚がいうと、えっ?とマンは驚いてノロ甚をみる。

 ほんまや、俺に言い寄ったんや、ほんまやとノロ甚はマンに言い聞かすと、バカ…とマンは呟く。 え?とノロ甚が聞き返すと、ノロ甚のバカといい、マンはノロ甚の頬を軽く叩いて去ってゆく。

 自宅に戻ったマンに、追ってきたチエが、6時の船よ、支度ばせんと…と声をかけたので、マンはちえの方を驚いたように見る。

 ノロ甚も、おマンちゃんと戸口のところから呼びかける。

 仲間たちが金五郎を見送っている所にやってきたノロ甚は、林やん、マンさん、金やんに惚れとるんじゃないけ!と知らせにくる。

 何だって?と林助は戸惑うが、気つかんのかお前は!とノロ甚は叱り、かかにしてやれ!かかにしてやれよ!とみんなに呼びかける。

 病院の大田の病室に吉田機青、島村ギン、伊崎仙吉らからの見舞袋が届いたのを確認した金五郎は、新ちゃん、俺、戸畑に行くけんなと金五郎は伝える。

大田は、え?戸畑?というんで、あんたも体治ったら戸畑に来ない、俺用して待っちょるけん、一緒に働こうや、動きなんな…と金五郎は伝える。

うちらの気まぐれでお二人に迷惑をかけてすマン思うとりますと、病室に見舞いに来ていた芸者も謝罪するので、いや~、そげたこと言いなすなと金五郎は慰める。

 なあ、俺もう行くけんなと金五郎が大田の手を取って最後の別れをいう。

 大田は、ああ、わしが治ったら、この話つけて、お前をもう一遍…と言いかけたので、何言いようとな、早う治んないよというと、金五郎は立ち上がる。

その頃、マンのことを知った仲間たちが全員でマンの家に集まっていた。

 ゴンゾは今日があって明日はないもんと思わにゃならん、もう二度と会えんでも良かとな?と話しかける男は、なあ、金さんも確かに惚れとるんじゃろな?とノロ甚に確認する。

 間違いないがなとノロ甚は保証する。 

そんなノロ甚は、おマンちゃん、おマンちゃんが言えんかったらな、俺言ったっていいぜと話かける。

すると、おマン、わしゃのう、おマンに兄ちゃんらしきごとば何一つしてやることができなかったどげんもならんヤクザな奴やけど、せめてお前の好きな男とは添わせて幸せにしてやりたいんじゃ、のう?と林助は話しかける。

 あんた、それはらから言うちょるの?とチエが聞くと、うん、俺も真面目になる、もうお前の金なんか当てにせんばいと林助が言うので、チエも、おマンちゃん、行きんさいと風呂敷包みを渡しながらいう

 ノロ甚は、さあ、おマン、早く支度せんけえとまだ態度を決めかねていたおマンの背中を叩く。

 他の仲間も、おマン、早うせいや!と急かすので、おマンはついに決心する。

マンはチエに、姉ちゃん!と呼びかけ、頭を下げる。

夕暮れ時、港で1人長椅子に座り船を待っていた金五郎のもとに、マンが歩み寄る。

 マンも長椅子に黙って腰掛けたので、どげんしたとな、おマンさんと金五郎が話しかけると、戸畑行くんよと言うので、えっ?と金五郎は聞き返す。

 マンは、戸畑行くんよと繰り返すので、何しにな?と金五郎が聞くと、わからんとね!あんた…、わからんとねと悲しそうにマンは問いかける。

その時、マンは、にいちゃん!と背後に呼びかける。

お~いと呼びかけながら、仲間たちが近づいてきて、俺も行くやなとノロ甚は言い出す。

ノロ甚は、何をしとるんやと言うと、マンの体を金五郎の方に押し出したので、金五郎はマンを抱く形になる。

 金さん、こげな女じゃけど、惚れちょるけん…、よろしく頼みますばい!と、チエをおぶって駆けつけた林助は金五郎の前に来ていう。

 ノロ甚は、俺、諦めるからな!と金五郎に告げる。

 林助におんぶされたチエは、みんなの餞別と言って、金五郎に封筒を渡す

それを受け取った金五郎は、ハンチング帽を脱いで頭を下げ、見送りに来た仲間たちも嬉しそうに拍手をする。

 一方、大田の病室に駆けつけた娘が、新さん、おマンさんが金さんと一緒に戸畑に行くちゅ!夫婦になるそうじゃと告げると、大田は何!といい、起きあがろうとする。

どげんしたとと付き添っていた芸者が体を支え、寝とらんといけんと大田の体をベッドに横たえる。

港から漁船に乗って金五郎とマンは出発し、仲間たちが見送っていた。

 三年後… 若松 戸畑 姉ちゃん!と港でチエと兄の林助を出迎えたマンは抱き合って再会を喜ぶ。

お疲れでしたと労うマンに、やって来ましたとよ、よろしくお願い申しますと答えるチエ。 姉さん!とチエは嬉しそうに答えるが、おい、金さんは?と林助が聞くと、うん、甚さんと一緒に迎えに来るはずじゃったけど、急に船が入ったもんじゃからねえとマンは教える。

 お、忙しかこちゃの〜と林助は感心するが、急に肩の手拭いを外すと、一生懸命働きますけ、よろしくお願いしますと妹に頭を下げる。

 マンは、いや~と言って笑いだす。 永田久美の法被を着ていた金五郎は、ノロ甚の働く現場を監視していた。

 やがて、学生が運んでいた石炭を下の男にこぼしてしまったので、ノロ甚が厳しく叱責するが、あんまり怒らんと教えてやんないと金五郎は言い聞かせると、学生には心配せんでも良いぞと優しく声をかける。

 ノロ甚も、心配せんでもええで、ボーシンかてな、初めて担いだときはよろよろっとしてと金五郎のことを教えてやろうとしてハシゴからよろけ落ちそうになったので、馬鹿もん!と言いながら、思わずその手を掴んで助けてやる。

ノロ甚はおおきにと礼を言うが、スケボシ!だいぶ船傾いとるけんな、ため石外しない!と松川源十(和崎俊哉)に指示する

 戸畑

永田組の事務所前に集まったゴンゾたちに、話ちゅうのはな、パナマ丸がの23時に入港するちゅう通知が今入ったんじゃ、今度は永田組の番やからの~、しかも3000トンの船じゃと大庭春吉(水島道太郎)が嬉しそうに伝達する。

 3000トン!と聞いていたゴンゾたちが騒ぐので、大庭はそうじゃ大仕事じゃと頭はいう。

のう、金さん!と指名された金五郎に、わしが心配しとるのわの、若松の共同組系の奴らだ、奴ら自分達で仕事とろうとしとるんらしいんじゃと大庭がいうので、そんなもんに取られてたまるかい!とノロ甚は言い返す。

 動くとすりゃ伊崎組じゃのと大庭はいう。 それを聞いて考え込んだ金五郎に、椅子から立ち上がり、おい金よ、難しか顔ばするなっち!と言ってきたのは、サク(南風夕子)に体を支えられた組長の永田秀次(上田吉二郎)だった。

 向こうが共同組なら、こっちは連合組じゃ、敵は幾万ありとてもじゃ、味方に正しい正義あり…って、そうじゃの、おトキ!と永田は介護のトキに声をかけたので、トキはそうでございますねと愛想笑いする。 

まあまあ、まだ二週間もある、みんな気をつけろよと大庭は注意するので、ゴンゾたちはハイと返事する。

 その後、金五郎が、なあみんな、俺は明日っから親方のお供で武蔵温泉での寄り合い行ってくるけん、留守の間になんかあったらスケボシに相談しないと伝達する。

ボーシンと話しかけてきた松川に、頼むぞ源十と金五郎は伝え、承知した松川は、今日はこれまで!とゴンゾたちに声をかける。

 帰るゴンゾたちは、玄関脇に立っていた平尾角助(小松方正)に会釈をしていく。 金五郎が出て来た時、玉井!と声をかけた平尾に気づいた金五郎は、角さん!体の具合でも悪かとですか?と聞くと、ちょっと顔ば貸してくれと言われる。

港にやって来た平尾は、よい、金さんよい、わしはフンカクじゃけんのう?なんしてわしゃ武蔵温泉に行けんとじゃ?と聞いてくる。

さあ、親方衆のお決めになることですけん、わしらにはわからんですと金五郎が答えると、わしは外すなんて、親方のクソッタレ!だいたいうちの親方が飲んだくれのすけべな能なしときとるけんの~と平尾が言うので、角さん、親方のことそんな言い方したらいかんですばいのと金五郎は注意する。

 すると平尾は、そら、お前はそうじゃろ!と睨みつけてくる。

可愛がっちもろうて、若い身でボーシンになったじゃから変わるじゃろう、が、わしはこの港ば真っ直ぐ歩けんような扱いば受け取るとじゃ!永田組の平尾角助で名の通ったわしがだ!と平尾は金五郎に絡んでくる。

 そげなことはどうでもよか、武蔵温泉じゃどげな相談があるとじゃ?と平尾が聞くので、さあわからんですと金五郎は答える。

 隠すとか?と平尾が言うので、隠しとりはせんですよと金五郎は宥めようとし、あんた、どげんしてそう曲がるとな?と聞く

 わしらもな、あんたを立ち上がっとるんじゃ、それをあんたはそんなに飲んだくれて…と金五郎が言い聞かせると、わかちょるわい!と平尾ははねつける。 

そんな様子を近くで見ていたノロ甚が、ボーシン、早う帰らないかんがな、家は待っとるでと声をかける。 じゃあ、角さん、また…と頭を下げ、金五郎はノロ甚たちと帰宅する。

 お帰りなさい、こっち!とマンが迎え、金さん!と林助とチエが金さん!と呼びかけて出てくる。

 金五郎も思わず、リンさんと呼びかけるが、一緒に来ていたノロ甚が、頼むわ、ボーシン、兄さん言わないかんのとちゃうか?と言うので、金五郎はマンの方をチラ見し、そしたら、兄さん、姉さん、良う、来ちゃったなと照れ臭そうに頭をかきながら出迎える。

 それを聞いた林助は、兄さんはちょっと具合悪いの~と照れ、あ、ボーシン、今後、お世話になりますわとトミともども挨拶する

 何言いようとな、二人とも、やめときないと金五郎は照れ笑いする。

 今晩早速、どや?宜しく!とノロ甚は酒を飲む手振りをしながら誘うが、いや、俺は博打も酒もやめたんじゃと林助が言うので、ノロ甚たちは、嘘つけ、バカと笑うが、いや本当じゃと林助が真顔で言うので、ほんまかよ!と驚く。

のう、チエと林助から振られたチエも、本当なんよと笑って答えるし、マンも、あんた、本当にやめたんよと教える。

それを聞いたノロ甚は、わからんもんじゃね、付き合い悪うなってつまらんの…と呆れると、優しか良か亭主になっちくれたんよとチエは嬉しそうに言う。

 ええ?ごっつぉうさんとノロ甚がからかうと、それはそうと、大田は元気な?と金五郎が聞くと、うん、病院を出てからいっちょん、どこ行ったか分からんけん…、のう?と林助はチエに確認する。

 伊崎組 伊崎仙吉と対座した平尾は、話の中身を聞き出すことはできませんでしたと報告していた。

 それを聞いた伊崎は、温泉に浸かってもロクな案も出んじゃろう、ガアガア騒ぐだけで、飛んだ烏の行水じゃと言うので、奴ら、どげな決議ばしたちゅうところで、証文のハンコさえ取っちょけば、あとはこっちのもんですきと平尾も愛想笑いを浮かべながらいう。 

うん、そうじゃ、お前の身柄はわしが引き取っちゃるけんのうと伊崎は約束するが、座敷に姿を見せた男に目を目を止めると、あ、入れ!うちの大田新之助じゃ、お前んとこのボーシンのことはよう知っとる男じゃと平尾に紹介する。

 え?と平尾が驚くと、パナマ丸の件のことはこの男の計画じゃけん、よう連絡取っちやってくれと伊崎は指示するので、平尾は宜しゅうと大田に頭を下げる。

 武蔵温泉 筑紫館 丹前姿で一人立った大庭は、みなさん、今日は忙しいところご苦労さんでしたと、座敷に集まった参加者たちに労うと、では、連動組発展のため、一致協力ますます団結ば祝って乾杯しまっしょう、おめでとう!と音頭をとる。

全員が一杯飲んだ後、大庭は、さあ後は自由行動じゃと言って座るが、逆に立ち上がった永田は、おい、玉井、わしは向こうに行くからな、お前、ま、よろしくやってくれと金五郎に任せ、自分はサクに体を支えられながら別室に向かう。

その直後大庭も立ち上がって金五郎に、行っち来るわと告げる

 その頃、仲間と将棋を指していたノロ甚たちのもとにやってきた平尾は、これはここじゃない!などと言いながら、駒を勝手に置いて遊びに参加してくると、しょんべんといって便所に向かう

 こんな、お前、人に教えてもろうて恥ずかしいなどとノロ甚が将棋の相手を揶揄う。

 その隙に、組の奥の部屋に忍び込んだ平尾は、持参した証文に、永田組の判子を取り出すと、勝手に押印する。

 一方、温泉で開かれていた賭場に連れてこられた金五郎は、そこで賽を振っていたお京と再会する。

その後、お京に個室に呼び出された金五郎は、遅れて入ってきたお京から、お待たせしてごめんなさいね、さ、どうぞ、こちらへと座布団席に案内されるが、いえ、ここで結構です、どうもしばらくですと挨拶する。

 お噂はずっと聞いてなんですよ、ご立派になって…とお京は嬉しそうに話しかける。

 いや~と照れた金五郎は、あん時、姉さんに言われたことを忘れんようにやっとるだけですけんと答えると、あたいの目に狂いがなかったのねとお京は嬉しそうに答えたので金五郎は、え?と戸惑うが、それで博打は?とお京から聞かれると、いえ、やりませんと答える

 するとお京は、良かったと心底笑顔を見せる。

 姉さん、あん時俺が勝ったのは、姉さんの…と金五郎が聞くと、ううんと否定し、あんた、奥さんは?とお京は聞く。

 ええ、同じゴンゾ仲間の女を女房にもらいましたと金五郎が答えると、お京の顔は一瞬曇り、そう良かったわね…と顔をそらせながら言う。

そんなお京の態度を金五郎は気にするが、あれから3年、どっかであなたに会えるような気がしてたの…と、振り向いたお京は笑顔でいう

 今度会ったら…というと、お京は片肌を脱ぎ、左腕の牡丹と蝶の刺青を見せると、私が彫ったの…と教える。

 それに見入った金五郎は、美しか脳…と心底感激すると、あんたみたいな男らしい人に、上り流を掘りたいと思ったの…とお京は打ち明ける。

 それも、立派な珠を咥えた…、掘らせてね、掘らせてよとお今日は頼む

 金五郎は、俺やったら、珠の代わりに菊の花じゃと金五郎は答えたので、えっ?とお今日が驚くと、菊の花やったらおかしいかな?と金五郎は聞いてくる。

菊の花?良い思い出があるのね…とお京は察し、良いわ…、花と龍ね…とお京は承知する。

 その後、永田は、武蔵温泉から、もう何日経ったかの〜と指折り数えて、金五郎の帰りを待ち侘びていた。

七日も経っとるじゃないか、どこ行ったんじゃろうな?玉井は…となんでが聞くと、どこ行ったかって、一番知ってるのは親方やないか、一緒にいたんやなかったんけ?とノロ甚が逆に聞く始末。

 そうじゃ、そうじゃ、親方、心当たりはないとですか?と松川から聞かれた永田は、ないわいというだけだったので、子分たちは途方にくれる。 

その時、一人が、親方、ボージンに女子でも?などと言い出したので、その場にいるマンに気を使い、ノロ甚が、ああ?そんなことする男やないと睨みつける。

 いや〜、あ、そういやあ、あの壺振りの女と…などと永田は思い出すが、目の前にいるマンの顔を見て、慌てて自分で自分の口を塞ぐ。

壺振りの女…、そんたら、いや…とノロ甚も言いかけ、マンから顔を押されるが、いやあのだから…、それ見い!とにかくパナマ丸が明日入港するんじゃけん、請け負うた荷役ができなかったら、お前、組はおしまいだぞ、どげんするんじゃい!と永田は記録帳を投げつけて話を逸らす。

するとマンが進み出て、親方さん、例えうちの人が帰ってこんでも、この荷役は玉井に代わってうちがやりますけん、うちに任せてやんなさいと申し出る。

 永田は、お前が?と驚き、伊崎が邪魔するばい!と仲間は忠告し、そら無理や、辞めとことノロ甚も声をかけるが、マンは、うちはやる…、うちがやると!と決意を見せる。

 その頃、おお、これで良いんじゃ、角助、手柄じゃの〜と井崎は平尾の持ってきた書状を見て感心していた。

 大田も同席する座敷で平尾は、これで仕事はこっちのもんですたいと嬉しそうに答える。

それにしても、大場の助っ人を辞退するとは、気の強い女子じゃの〜と伊崎はマンのことを表したので、そげな女子ですたい、玉井の女房は…と大田は答える。

 翌朝、港に集まった、マンやノロ甚や松川ら永田組のゴンゾたちに、その船出すの待て!と近づいてきた船から呼びかける男がいたので、おい、あれは角さんや!そうじゃ、角さんじゃとゴンゾ達は気づく。

おい、永田教授はおたんとか?と港に降り立った平尾が言うので、どうしたと?とゴンゾが聞くと、わしはな、今日から伊崎組の人間じゃ、パナマ丸のことで話があってきたとばいと平尾はいう。

 仕事の話ならうちがするとマンが応じると、下っ端は引っ込んどれ、親方に話があってきたとじゃと平尾はいう。

するとマンが、うちが下っ端なら、あんたも下っ端じゃろうが、下っ端同士で話はできると言い返す

何じゃと!と平尾が詰め寄ると、何じゃい!とノロ甚や林助が睨み返す。

 すると、小舟から降りてきた大田が、話はわしがつけると言い出す。 新やん!新やんやないか!とノロ甚たち元仲間は大田を見て嬉しそうに驚く

 久しぶりやのう!と親しげに話しかけるノロ甚達に、源さん、ノロ甚、久しいのうと答えた大田だったが、どないしとったんやとノロ甚が聞くと、わしはな、伊崎組の看板をもろうたんじゃと答えたので、マン達の表情はこわばる。

 新さん、なして?あんた…とマンが聞くと、玉井はおらんとか?と聞いた大田は、黙り込んだマンに、とにかくパナマ丸の荷役は、お前さん達の仕事じゃなかけんと言いながら書状を取り出して見せる。

 何じゃ?と言いながら、その書状を見た林助は、その末尾に押されていた印を見て、こりゃ、親方の実印じゃなかっすか?と気づく。 本物じゃいと平尾は主張するが、ノロ甚たちは嘘にきまっちょる!と言い返し、マンもその場で書状を破り捨ててしまうと、これで良かと言って大田に返す。

その書状を受け取った大田は、おマンさん、ちっとも変わらんの〜、こがんことしても何も変わらんと!帰れ!と言い返す。 

その時、ボージンじゃ、ボージンじゃ!とゴンゾ達が騒ぎ出し、気付いたマンも、あんた!と呼びかける。 いや〜、すまんかった、みんな、遅うなって…と、法被姿でやってきた金五郎は詫びる。

あんた、どげんしちょったんね!とマンが睨むと、いや…と口籠った金五郎だったが、うん?大田!太田やないか!しばらくやったな〜、どげんしとったとな?と気づいて近づく。

しかし大田はその手を振り払ったので、どげんしたとな?と金五郎が聞くと、わしゃあな、ヤクザになったとじゃ…と太田は答え、伊崎組の…とノロ甚が説明する。

 おマンさんが、お前の神さんがこれをやったんじゃと言いながら、太田は懐から破られた書状を取り出す。

何だ、これは?と破れた書状を見た金五郎が聞くと、いやあ、パナマ丸の荷役を親方が譲った言うとるんじゃと林助が説明し、それが証文やとノロ甚が教えると、本当か?と金五郎はマンを見て、マンも頷く。

 そげなバカなことはないの?と林助は金五郎に問いかけ、カタばつけてもらおうかと大田は脅してくる。

 どげんするとな?と金五郎が聞くと、サシで勝負じゃと大田が言うので、良し!と金五郎は答え、仲間達は、ボージン!と案じて声をかける

 近くにやってきた大田は法被を平尾に預け、着流し姿になると、ドスト金五郎に投げて寄越し、自分もドスを抜く。

 金五郎は、おいみんな、手を出すなよとゴンゾ達に声をかける。 大田が切り掛かってきたので、金五郎も応戦し、ノロ甚達は、やっておうせ!と声援する。

 太田と取っ組み合いながら、新ちゃん、お前、何でヤクザなんかになったとか?と金五郎が問いかけると、わしゃ、お前を殺すんじゃ!と大田は言いながら、ドスで刺そうとする。

 何でな?言いない!と金五郎が問いかけると、お前が憎い!と太田は言う。

そこへ止めんか!と止めに来た組の若い衆があり、この喧嘩、わしが預かったと二人の間に立ちはだかったのは島村ギンだった

 伊崎の身内はわしと一緒に若松に引き上げる、永田組はすぐ荷役に出る!それだけじゃ、良いな?とギンは金五郎と大田に言い聞かせる

 しかし大田は、わしゃ、その扱いには不服じゃと異議を申し立てる。

バカもん!ここにこうやって来るからには、伊崎にも話をつけてきたんじゃ、それでも島村ギンの扱いに不服じゃと言うんか!わかったか!とギンは叱り、金五郎に対しては、さ、早う行きんさいと声をかけたので、金五郎はすんまっせんと礼を言うと、ゴンゾ達におう!と仕事に戻るように促す。

 その日の仕事終わり、大田はどげんしてあんな風に変わったんやろうのう…と林助が不思議がり、そういや、ボージンが憎い言うとったのうと思い出す。

わからん…と源さんは首を傾げるし、林助もわからんのと答える。

その時、ひょっとしたならやな…とノロ甚が思いついたようなので、何な?と金五郎が聞くと、あかん、あかん、そら言えんわとノロ甚は笑ってごまかす。

 何?言うてんないと金五郎が勧めると、今更そんな…とノロ甚は笑うだけ。

 源さんも、甚さん、言いないと急かすので、いや、ひょっとしたらそう違うかなと思っただけや、俺の思い違いとちゃうかとノロ甚は自分で額しようとするので、いや、何なそら〜と金五郎は気にする。

 いや…、つまりやな…、新やんな、おマンはんに惚れてたんちゃうやろか…とノロ甚は明かす。

源さんはぷっと吹き出し、そんなバカなとバカにするが、何けつかるねん、お前かて惚れてたやないか、俺だって惚れてたよ、スッポンかてタコかてや…、だから、新さんかてな…、違うやろかと…とノロ甚は説明する。

 それを聞いた金五郎は、おい、マン!と呼び、返事がないので、縁側に腰掛けていたマンの側に行くと、きいとったと言うので、いや、あの〜と金五郎が言葉に詰まったので、何ね?とマンもそっぽを向いたまま聞き返す

 いや、お前…、大田はお前のこと好いちょったんか?と金五郎は聞くと、きっと金五郎を睨みつけたマンは、いきなり金五郎の顔を叩くと、壺振りの女と何しとったんじゃ!とつかみかかってくる。

 その時、シャツの中に金五郎の肌に絵が見えたので、何やねん、それ!とマンは驚く。 

ごまかそうとしたので、チエも、あんた!と金五郎に声をかける。 その時、ボージンと入り口から呼ばれたんで、何じゃ?と金五郎が振り向きと、親方のうちに来て欲しいんじゃ、他の親方週もお集まりになっとるし…と使いの男が言う。

 金五郎は睨んでいるマンに、俺、ちょっと行って来るけんと言い残し出かける。

 あんた!と呼び止めたマンは、何ね?と戸惑う金五郎の方に法被を着せてやると、早う、行きんさいと勧める。

 何しろ相手は伊崎一派じゃ、この先どんな手立てでくるか知れんが、こっちも陣容ば立て直さんと到底奴らには太刀打ちできんばい、のう?玉井、お前に永田組を継いで欲しいんじゃと大庭が頼んでくる。

 おい永田と大庭から声をかけられた永田も、そうじゃ、おい、玉井…、あのな、お前、後引き受けて、お前の組作ってくれんか、ええ?角助には裏切られるし、おサクには逃げられるし…と永田は愚痴る。

 皆の衆やらお前たちに迷惑かけるのも、みんなわしの不徳の致すところや…とまで永田が言うので、親方、親方も大変でしたけど、俺たちも一生懸命やります件、もう一遍やってみてつかあさいと金五郎は提案する。

 いやいやいや、もうわしのことを思ってくれるのは、そら嬉しいけど、なあ玉井、もうわしには、大勢のものをもう抱えていく力がのうなっとるわ、うん、それが良うわかるんじゃと永田は固辞する。

 お前が後を継いでくれんやったら、永田組のゴンゾは路頭に迷わないかんけん…と他の親分も言い、やってくれんか?のう?お前なら、みんな喜んでついていくんじゃ、なあ、源十!と松川に永田は声をかける。 すると松川も、そうですたい、この人のためならみんな命も惜しまん、言うとりますけん…と答え、な!と金五郎に呼びかける。

 うん…、なあ玉井、決心ばしてくれい、わしからも頼むけんと大庭は言い、わしからも頼むけんと他の親分も続き、松川のうさぎ、ボーシン!と金五郎の肩を掴んでくる。

それに対し、うんと答えた金五郎は、良う考えさせてもろうて返事しますとだけ親分衆に答える。

 その夜、海辺に佇むマンに、おい、おマン、お前どげん思うな?と問いかけた金五郎に、何ね?とすげない返事をしたので、俺が組み持つことたいと金五郎は答える。

 さあね〜とマンはすげないので、お前の考えをはっきり聞いときたいんじゃと金五郎は言う。

 するとマンは、じゃあはっきり言うよ、あんた、壺振りの女の人ば好いちょるんやろう?と言うので、何言いようとか’と金五郎は否定するが、妬いとるのと違うんよ、あんたと一緒になって一遍も好きじゃ言うてもろうたことないもんねとマンは指摘する。

 わかっとるやないか、そんなこと…と金五郎は照れる。

マンは、うちは言えるんよと言うと、海に向かって、好きよ、あんたが…と言った後、言えんと?と金五郎を振り返る。

 金五郎は、今頃どげんしてそげなこと言うとな?と不機嫌になるが、あんた、言えんとね?とマンが迫ると、金五郎は逃げるように背を向ける。

 するとマンは、言えんかったら良かよと言うので、言うよと金五郎が面倒くさそうに言うと、出来たんよとマンは嬉しそうに答える。

えっ?と金五郎が驚くと、赤ちゃんと言ってマンは金五郎を見る。 本当な?と言いながら金五郎が近づくと、名前組作らにゃいけんでしょうが…とマンは言い残してその場を立ち去る。

 いよいよ「玉井組」が立ち上がる。

 次々と祝い酒が持ち込まれる。

 その頃、伊崎は平尾から話を聞き、相談?どげな…と聞いていた。

 つまり、小頭組合ば作っち、荷主さんと直に話ばし、仲仕の賃金上げさせようちゅうわけですばいと平尾は言うので、そげんことは絶対させんぞと伊崎は拒否する。 

小頭になったちゅう思うて、青二歳のくせして増長しとっとですよ平尾は言うので、玉井をやらにゃいかんと伊崎はつぶやく。

それに、大庭も後押ししとっとですよと平尾は告げ口する。

 そげん言うても、玉井をやっつけて、それで済むことなじゃかでしょうと太田が横から口出しすると、それはどげなこっちゃと伊崎が聞いたので、わしもゴンゾやったけん、良うわかっちょるけど、今の小頭組合のやり方じゃとゴンゾは減る一方ですばいと大田は答える

 それを聞いた伊崎は、大田、玉井に味方するんか、お前!と問いただす。

 すると大田は、玉井の話は玉井の話、仕事の話は別ですたいと答える。 そんなある日、井崎組の連中に

親方、玉井みたい新米くっ付いてどげんするんじゃ?てめえを売り出したいだけじゃぞと言うので、きんさんはそんな…と反論するが、そげな奴だ、行くんなら殺すと言って伊崎組の連中はドスを出して見せる。

 他の老人も痛めつけられ、わかったな?、ジジイ!と伊崎組の若い連中に脅されていた。

 井崎の組に集まってきた船主衆が、800トンの石炭ですけん、1日が常識ですたい、それがあんた、今日で3日目ですよと訴えていた。

うちんとこは、もっとひどいけん、400トンの荷が4日もかかっとるんじゃけんなと別の船主が呆れたように言う。 

ああ、こげんことが続くと、我々船主はお手上げですたいと別の船主は嘆く。

 伊崎さん、急にどげんしたとですな?と問われた伊崎は、わしに聞かれちもわからんたい、よかですか?わしは共同組の世話役として、ゴンゾにも船主にも尽くしてきたつもりじゃけん、何不足があるか知らんが、近頃玉井の口車に乗せらりち、小頭組合なんぞに賛同する船主さんもあるそうな…、まあ、あんたたちはそげんことなかろうと思うが、もし心得違いのおもんがおったら良う言ってやってくんしゃい、玉井みたいな新米には何もできんけん、いや、この井先がさせんとな…と伊崎は急に黙り込んだ船主たちに言い放つ。 客を待っていた玉井組では、こんなにみんな来んちゅうのはおかしいでとノロ甚が言い出す。

何かあったんかの〜と俊次(小林稔侍)が案ずると、そやったらなあとノロ甚が話しかけた松川が立ち上がり、おいみんな、すまんが、みんな手分けして行ってみちくれ、気つけてなと頼む。

こんばんわとやって来た林助に気づいた大庭は、ああ林さんと答えるが、いや良かった、ちょっと遅いもんじゃけん、お迎えにあがりましたと林助が言うと、いやあ、そりゃすまんかったと親分は言い立ち上がる。

北港の小頭連中が一緒に行くっちゅうんで、何しろ相手は伊崎じゃ、固まって行った方が安心じゃけ待っとったんじゃが来んのじゃ、で、人の集まりはどげんじゃ?と大庭は聞いて来たので、へえ…、それがまだ誰も…と林助が答えると、そうか、よし行こうと大庭は答えると、子分衆が、親方。親方!と案じて声をかけてくる。

 バカたれ!大きな声ば出すなと大庭は子分たちを叱るが、親方、今日の寄り合いは延期ばした方が…と林助も心配すると、何をいうんじゃ林さん、わしが玉井君ば頼んだ寄り合いじゃ、他の連中は行かれん言うちもわしは行くと大葉が答えたので、林助は深々と頭を下げる。 

みんな、気をつけよと言い残し、大庭は林さんと呼びかけて一緒に出かけて行く。

 夜の6時40分 組の事務所で客を待ち受けていたのは金五郎と松川の2人だけだった。 

たまらず金五郎が立ちあがろうとすると、あんたお茶とマンが声をかけたので、やむなくまた座り込む。

大庭を人力車に乗せ、林助が並走して事務所に向かっていたが、その途中、井崎の待ち伏せに襲撃される。 林助は一人で応戦するが刺されてしまう。

 大庭組の事務所に戻って来た車夫が、大変だ、親方がやられたと知らせると、組員たちは驚いて外に飛び出す。

玉井組に戻って来たノロ甚は、あかん、みんな井崎に止められとると松川に報告する。 どげんしても、親方衆は会ってくれんのじゃい、居留守ばつこうとるんじゃ、間違いなかと他の若い衆も言う。

 松川らは、座敷に正座していた金五郎に、親方!と声をかける。 

すると、すっと立ち上がった金五郎が、おい、お客さんだと答えたので、若い衆たちは、振り返る。

 そこにやって来たのは井崎組の連中で、返事ばいただけますかと言いながら書状を差し出してくる。 封を開いて中を読むと、招待状だった。

 昨今、共同組と連合組の間に小頭組合結成を発端とし、何者かが陰謀を企み候由、貴君もさぞかし危惧のこととお察し申し上げ候、今後の石炭事業を発展させるには最も有望なる貴君と話し合い、ますます親交を深めたく候えば、今晩8時料亭飛鳥にて貴君を招待致したく存じたく…とノロ甚が読んだので、時計を見ると、すでに8時7〜7分前であると金五郎は気づき、確かにお受けしたと言うといてくださいと使いのものに伝える

 使いのものは兵と答えて帰っていくが、相手は伊崎組やで…無茶苦茶戦える相手やないがなとノロ甚は忠告する。

 若い衆も、親方!と案じて声をかけるが、せっかく招待状くれたんじゃ、な?と金五郎はマンに話しかけるが、その時、玉井の親分さん、林助さんが!と知らせに来る。

そこに戸板に乗せられた林助の遺体を大葉組の組員たちが運んで来たので、林やん!と仲間達が駆け寄る。 

それを玄関先で出迎えた金五郎に、親方、えらい死んどる!と仲間が言う。

 銀は兄の死体を前にして金五郎の腕に縋り付く。

 大庭の親分は?と金五郎が聞くと、死にましたと組員は泣きながら教える。

 そこに、足の悪いチエが近づいてくる。

 金五郎は、大庭組の組員たちに、お世話さんでしたと頭を下げる。 

マンは、玄関先で立ち尽くしているチエを見て、姉ちゃん…と呼びかける。 

マンは、近づいてきた林助の遺体に、あんた…と呼びかける。

 金さん、マンちゃん、ノロ甚さん、おじさん…と呼びかけるチエは、あんた、みんなと別れた後は、あんた言う取ったなと林助の遺体に話しかける。

 ほら、良か?一緒になって…、みんなに迷惑かける、誰にも迷惑かける、立派な男になった…、死んでも良かっち…、そう言う取ったな?とチエは話しかけ、遺体に泣いて縋り付く。 

その時、8時の時報が聞こえてくる。

 部屋に戻った金五郎に、着替えて行きんさるとでしょう?とマンは聞くので、着替える?と金五郎が聞くと、頷いたマンは、タンスから気のうさぎのを取り出すと、これ、おめでたい時に着てもらおう思うて、作っといたんやけど…、着てねとマンは懇願する。 

金五郎は黙って法被を脱ぐ。

 林助の遺体を座敷に運び入れたノロ甚は、悔しいやんけという。 ボーシン!どげんするんじゃ?と俊次たちは聞く。

 すると松川は、親方は行くぞ、俺たちも行くんじゃと答える。 

それを聞いたノロ甚がすぐに立ちあがろうとしたので、松川が止める。

 金五郎は羽織袴に着替えていた。

マン、お前と一緒になって足掛け3年になるけど、いっぺんも笑い顔見せてもらったことなかったな…と金五郎は語りかける。

 笑うてくれるな?…と金五郎が頼むと、マンは悲しげな顔から無理やり作り笑顔になって振り返ってみせる。 その顔を見た金五郎は、もう良かと言う。

マンは顔を背けた金五郎に、赤ちゃんにさよなら言わんと…とせがむ。

 振り向いた金五郎は、男か女かまだわからんなと聞き返す。

マンが首を横に振ると、その腹に耳を当てた金五郎は、生まれるなら女子に生まれないよ、母ちゃんのような優しい女にな…と赤ん坊に話しかける。 

もし俺が生きて帰れたら、一緒にブラジル行こうなと金五郎はお腹の赤ん坊に語りかける。

 金五郎が部屋から出た音に気づいた大川らは立ち上がり、親方、俺たちはどうしたら良いんじゃ、俺たちも行くちゃと金五郎に声をかけるが、金五郎は林助の前に正座して手を合わせて頭を下げると、俺だけは連れていってくれるやろうな?とノロ甚が聞く。

 俺は招待を受け取るんだ、お前らは…と金五郎が言いかけると、バカな!と大川は反発する。

 死ぬ時は一緒やんないけ!とノロ甚は訴えるが、金五郎は、おマンに相談しなよ、後は全部あいつに任しとるけんと言うと、そのまま1人で出かけて行く。

 ノロ甚はおマンに、一人で行かして良いのけ?と聞くと、何も言わんと、分かって欲しいんよ…とマンは答え、みんながいじめるんよ…、兄ちゃん!と林助の遺体に話しかける。

 夜の海を小舟で進む金五郎。

これは?俺は親方を殺しても行くじゃと松川は刀を持ってマンに訴え、それでもいかんちゅうんじゃったら、俺は林さんの仇を討ちに行く、こりゃ行かな!とおじさんも訴える。

 ヤクザが何が怖いねん?喧嘩やったら、わいらゴンゾは負けへん、殺されたら、林さんの仇討ったら何がいかんねん?死ぬに決まっとる親方にな〜、体受け取りに行ったら何が行かんねん?おマン、あんたも行くやろな?とノロ甚もマンに訴える。 

何じゃ、バカね、行ったらあかんのよと、それまで聞いていたチエが言い出す。

 マンは松川から刀を受け取る。

その頃、料亭に着いた金五郎は、招待状を、玄関先で待っていた子分に投げて渡す。

 子分がそれを開いて中を確認すると、案内せんのか?と金五郎が聞いたので、子分衆は道を開ける。

 料亭では賭場が開かれてり、壺を振っていたお京が、部屋の前の廊下を進んでいく金五郎に気づく。

 廊下で待っていた大田が金五郎を出迎え、てめえ1人で来たのか?殺されるばいと声をかける。

 しかし金五郎は答えず、そのまま座敷に中に入り込むと、そこには伊崎組の子分が大勢待ち受けていた。

 伊崎は、何を突っ立とるんじゃバカ!と、懐のドスに手をかけていた子分たちを叱りつける。

 金五郎は、その伊崎の正面に座る。 

本日は、呼んでもろうてどうも…と金五郎は両手をついて礼を言う。

 良う来たのう…と感心したように両手を組んだ伊崎は、まあ飲めと酒を勧める。 

子分が盃を差し出すと、飲めんと知って飲ませるとですな?と金五郎が問いかけると、そうじゃ、飲め!と伊崎は無理強いする。

 良しと答えて盃を受け取った金五郎は、角さん、注いじゃんないと、伊崎の隣に座っていた平尾に盃を差し出す。

伊崎も平尾に、並々と注いでやるんじゃと命じる。

 疑うような目つきで警戒しながら平尾が金五郎の盃に酒を注いでやる。

 金五郎は、背後の子分たちに警戒しながらも、盃の酒を飲み始める。

 金五郎が飲み干したのを見届けた伊崎は、立派じゃ、おい、お前の門出の席じゃ、座興になんぞやっちゃんないと勧める。

 座興?と金五郎が聞き返すと、うんと答えた伊崎は、お京!と気づく。

 金五郎が横を見ると、あら?どこかでお目にかかりましたわね?と言いながら、お京が隣に座ってくる。

え?そうですかな?と答えた金五郎に、忘れたんですか?ひどいわとお京はしなだれかかる。

それを面白そうに眺めていた伊崎は、お京、こいつはゴンゾたい、歌うちゃれ、ゴンゾに踊らすんじゃと命じる。

 私が歌うんですか?と戸惑うお京に、おう、そうじゃと伊崎が言うので、私の歌で用語ざんすかとお京は金五郎に聞く。 

さあ、何が良いかしらと部屋を見渡したお京は、壁にかけてあった槍に気づく。

 お京がその槍を手に取った時、海を小舟で渡ってくる一団があった。

乗っていたのは、マンとノロ甚、松川ら玉井組だった。

 金五郎は、部屋に轟くお京の「黒田節」に気づく。

 羽織をはだけて白装束になった金五郎は、お経から槍を受け取ると舞い始める

お京も歌いながら、子分衆の動きに警戒する。

 伊崎も異様な気配を察し緊張していた。

 子分衆は気づかれぬように全員ドスを抜いていた。

 飾り窓の障子に近づいた金五郎は顔を顰める。 

その瞬間、銃声が響き、お京が拳銃を取り出して子分たちを威嚇しながら歌い続ける。

 金五郎も背中から刺された槍を抜いて、飾り窓の背後の敵に槍を突き刺し返す。

ふらつく金五郎の帯を握りしめて体を支えたお京は、女が一生かけて彫った花と龍、あんたは龍よ、登るのよ、さあ!と励ます。

 金五郎は片肌脱いで、片腕の刺青を見せて、伊崎に近づく。

 飛びかかってくる子分に槍を突き刺す金五郎と、銃弾を浴びせるお京。

そこに駆けつけたのはドスを持った大田だった。 大田は伊崎組の仲間を刺し始める。

 伊崎は刀を手に座敷を逃げ出す。 

それを追う金五郎の腕を取って、玉井!と止めようとした大田だったが、バカもんと振り払われる。

 庭先で伊崎を襲おうとする金五郎だったが、伊崎も日本刀で斬りかかってくる。

 座敷で子分たちと戦っていた大田は、背後から平尾に刺されるが、振り向いて逆に刺し返す。

 傷ついた大田は廊下に出て

庭で戦っている玉井の名を呼ぶ。 金五郎は、駅から奪った日本刀で子分たちを斬り倒していた。

 金五郎は伊崎を追い詰め、腹を2回突いた後、顔を斬りつけて倒す。

大田は玉井!と呼びかけながら廊下に倒れ伏す。

 料亭にマンたちが駆けつけてくると、金五郎を支えながら迎えたお京が、奥さんですねと言うので、マンは持っていた日本刀を仲間に渡して対面し、ええと答える。 

この刺青は私が彫ったんですと打ち明けるお京。

 その刺青を驚いたように見守る俊次たち。 

龍が咥えている菊は奥さんですよ、私の負けだわとお京は教え、身を引くので、マンは、ありがとうございましたと礼を言い、金五郎を支えて帰って行く。 

それを料亭の玄関先で見送るお京の横には、黄色い菊が咲き乱れていた。


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