「幽霊男」
河津清三郎さんが金田一耕助を演じた珍しい金田一映画で、上映時間は1時間10分ちょっとで、中編と本編の中間くらいの尺である。
監督は「ゴジラの逆襲」(1955)で知られる小田基義さんで、当時としては添え物映画などを何本も撮られた方なので、本作も添え物映画風の白黒低予算映画になっているが、流石に横溝作品だけあって、犯人像は最後まで掴みにくい。
但しこの作品、前編にわたって放送禁止用語が使われているので、今のテレビや配信などで見るのは困難ではないかと感じる。
まず意外なのが金田一役の河津清三郎さんで、過去、いろんな役者が金田一を演じているとはいえ、当時の人気をよく知らないのが河津さんだからだ。
片岡千恵蔵、高倉健、池部良さんあたりは、当時映画で活躍していたスターのイメージがあるし、岡譲司さんも往年の2枚目スターの雰囲気があるし、中尾彬、石坂浩二さんあたりも顔は知っていたのに対し、河津さんはいくつかの作品で顔は知っているものの脇役イメージが強く、スターという印象が薄いからだ。
若い頃はそれなりのスターだったということかもしれない。
若い頃の田中春男さん、藤木悠さん、そしてモデルの1人として塩沢登代路(塩沢とき)さんなどが出ているのが貴重。
塩沢ときさんは、池部良さんが金田一を演じた「吸血蛾」(1956)にも出ている。
田中春男さん演じるモデルクラブやストリップ小屋にも平然と入り込む男は、永井荷風あたりがモデルか?
藤木悠さんは、この時代、それなりのイケメンポジションだったことがわかる。
内容的には、怪奇とお色気要素を交えた通俗ゲテものなのだが、冒頭から岡譲司さんが登場するのがミソで、岡さんは「蝶々失踪事件」(1947)では名探偵由利先生(警部)、「氷柱の美女」(1950)では明智小五郎、「毒蛇島綺談 女王蜂」(1952)では金田一耕助と、名探偵をいろいろやった紳士風のイケメンなだけに、観客の期待値は高かったはず。
岡さん演じる加納と河津清三郎さん演じる金田一が初対峙するシーンなどは名探偵対決のような絵柄で興味深い。
このキャストロールでの岡譲司さんの名前の横には(東映)と書いてあるので、東映所属の時期だったのだろう。
逆に言えば、この当時の岡さんのイメージを知らないで見ると、本作の意外性は案外希薄なのではないかとも感じる。
東映の片岡千恵蔵版などと同じで、本作の金田一にも助手がおり、男性なので、明智小五郎と小林少年風に見えてしまう。
設定としては、モデルクラブと猟奇クラブというものの説明がほとんどないので、どういう関係性があるのは不鮮明なままなのが気になる。
出てくる俳優陣も馴染みのない人が多く、特にモデル役の女優陣は、誰が何の役なのか分かりにくく、ミステリとしては話を理解しにくい部分がある。
特に藤木悠さん演じる建部建三の年上の恋人風のモデルが劇中「鮎ちゃん」と呼ばれているのだが、キネ旬データなどを見る限り、それに相当する役名がないし、ストーリーを読むと西村鮎子というキャラらしいのだが、その西村鮎子という役名自体が載ってないため、誰が演じているのかもわからないが、登場シーンも多く、結構セリフもあるため、端役扱いではないはずなので、映画のキャストロールの最初の方に出てくる「広瀬嘉子」さんではないかと想像する。
画面的にもセット中心の撮り方なので、前半は特に舞台劇を見ているような印象がある。
ヌードクラブの話なので、劇中にも裸体は出てくるが、巧みに秘部を手前の小道具などで隠す古典的な手法で隠されている。
後半は、館から湖にボートで逃走したり、銀座の街に幽霊男の放送が響くなど、劇場型犯罪になってゆく。
【以下、ストーリー】
1954年、東宝、横溝正史原作、沢村勉脚色、小田基義監督作品
タイトル(点滅するライトで濡れた部分が光る、夜の砂利のある道を背景に)
スタッフ・キャストロール
夜、黒ずくめの服に黒メガネの男が、加納三作院長の加納精神病院の塀をよじ登り外へ逃走する。
加納院長(岡譲司)が寝ていた寝室をノックし、ドアを開けて入ってきた2人の看護婦が、大変です、院長先生!と呼びかける。
津村さんがいません、逃げ出したらしいんですと、ベッドで目覚めた加納に報告する。
何、逃げた!と院長は驚く。
新聞の輪転機が回り、「吸血画家 津村一彦 昨夜精神病院を脱走」「昨夜午前2時頃かねて入院中の津村一彦は隙をみて脱走を-」という見出しが翌朝の新聞には載っていた。
バスタオルで体を隠したモデルがうろつく部屋の中でそれを読む菊地陽介(田中春男)に、奇妙な事件ですな〜、全く我ら猟奇クラブのメンバーには気を引く事件ですな…とモデル事務所の支配人広田圭三(大川平八郎)が感想を言う。
それどころじゃないよ、全くもって大した男だよと菊地は椅子から立ち上がると答える。
それに我ら猟奇クラブのメンバーは、あの男に関係あるんだから、ますます…と菊地は言いかけ、階段を登って近づいてくる足音に気づいて黙り込む。
階段を登り、「モデル仲介業 共栄芸術クラブ」と書かれたガラス戸を開けて入ってきた男が、モデルを1人と注文したので、はあ、どなた様からのご紹介でも?と受付した広田が聞くと、男は一枚の名刺を差し出す。
そこには、「東京都世田谷区松原… 医学博士 加納三作」と書かれており、その横に、「佐川幽霊男を御紹介申し上げる」と添え書きが書かれてあった。
そうですか、加納先生からのご紹介ですか、結構でございます、でも「幽霊男」と言うのは貴方様のお名前で?と聞くと、黒いコートに黒ベレー帽、サングラスをかけたその長髪の男は頷き、笑うと乱くい歯が覗く。
変わったペンネームです、加納先生らしい紹介文…と広田は感心し、モデルは絵ですか、写真ですか?と聞くと油絵と幽霊男は答える。
いつから?と聞くと、毎日2時間、10日間、今日からと幽霊男は注文するが、その様子を菊地は興味深げにみていた。
今日から?と確認した広田が、お所は?と聞くと、幽霊男は自分で受付のペンを取って、書類に書き出す。
じゃあこちらへと、モデルが待機する奥を指した広田は、5人ばかりおりますからお選びくださいと説明する。
じっと5人のモデルを見つめる幽霊男に、モデルたちは怯えるが、広田は、一番怯えているように見えた小林恵子(川合玉江)を指名する。
着替え室に恵子が入ると、幽霊男もカーテンの中に入り、恵子が服を脱いだ下着姿を、色々乱暴に体の向きを変えさせて確認する。
それを怯えたような目で見ている他のモデルたち。
変な感じで見るわね?恵子大丈夫かしら?とモデルの1人都築貞子(塩沢登代路)が小声で案じる。
カーテンから出てきた幽霊男に、いかがでございます?と広田が聞くと、幽霊男は黙って札束を出して渡したので、ありがとうございますと広田は礼を言う。
幽霊男は黙ったまま扉分け、階段を降りていったので、好奇心に駆られた菊地は急いで跡を追ってみるが、すでに表に出ても、幽霊男の姿を発見できなかった。
そこに近づいてきたモデルの西村鮎子(広瀬嘉子)と三流新聞記者建部健三(藤木悠)が、何してるの、そんなところで?何かニュース?と手をあげて聞いてくる。
三文記者の癖に大きなこと言うなよと菊地は注意すると、建部は恥ずかしそうに頭を抑える。
変な男がそっちに行かなかったな?と菊地は聞くと、変な男?と建部と一緒に来た鮎子が聞き返してきたので、幽霊みたいな男さと菊地は教えると、嫌だとモデルは顔を顰め、建部は知らんねと言うので、そうかと菊地は答え、戻ろうと誘って、2人をモデル事務所に案内する。
服を着た恵子が、じゃあ、マネージャーと声をかけて出かけようとしたので、変よ、よしなさいよと他のモデルが止めようとする。
でも、久しぶりの仕事ですもの…と恵子は言い、出かけようとすると、そこに菊地らが戻ってくる。
おはようございますと鮎子が入ってくると、ねえ菊地さん、今のよした方が良いわね、変よとモデルが聞くので、菊地もパイプを咥えて、思わずう〜んと考え込んだので、どうしたんだい?と建部が聞いてくる。
ねえあなた、どう思う?と建部にモデルが聞いてきて、今ね、幽霊みたいな男が…と説明しようとしたので、恵子が、よして!と制すると、私、いくわ、せっかくの良い条件ですもの…、これ以上手を引いたら一家心中よと言い残して出かけようとし、支配人、西荻で良いのね?と確認する。
恵子がガラス戸を出ていった直後、恵ちゃん、ちょっと恵ちゃん!とネグリジェ姿の貞子が跡を追おうとしたので、どうしたんだい?と建部が聞くと、私、言えないわと言うので、何だい!変に気を持たせるじゃないか…と建部は呆れる。
そうじゃないけどさ、新聞に出ていたキチガイ男と関係あるとしたら‥と貞子が言うので、笑い出した菊地は、これは良い、おい、お貞、君も猟奇クラブの会員らしくなってきたぞとからかい、パイプで彼女の頬を軽くタッチすると、ううん、そんなんじゃないわとと貞子は言い返す。
まあ、お貞、な〜に、その顔…と今来た鮎子もからかってきて、結果モデルたちは全員貞子をおかしそうに笑い出す。
一方、夜の西荻に来た恵子は、鬱蒼とした木々に覆われた不気味な屋敷に到着していた。
する時の影から突如幽霊男が出現したので、恵子は怯えるが、幽霊男は顔で入口の方へ促したので、恵子は幽霊男の後について家の中に入る。
雑斬とした室内に入り、思わず立ち止まり、自分の身体を抑えた恵子に、寒いかね?飲みたまえ、温まるよと幽霊男がグラスの酒を勧めてきたので、恵子はそれを一口で飲み干す。
すると、飲んだら、着物をお脱ぎと幽霊男は指示してくる。
恵子は頷いて、カーテン多くに入ると服を脱ぎ始める。
幽霊男は、カーテンの隙間から見える恵子の下着姿を見ていた。
そして急にカーテンの部屋に入り込むと、男は羞恥心で体を隠した恵子の腕を掴むと、おいでと言って元の部屋に連れてくると、揺り椅子に押し倒したので、思わず恵子は、何するの!と怯えて聞く。
すると幽霊男は笑いだす。
その時恵子は、痺れるわ…、私と言いながら、首筋を手で押さえ始める。
それを見た幽霊男が、血を綺麗にしてるんだよと言うので、血!と恵子は驚き、あんた、私を殺すの?と聞く。
ね、殺さないで、お願い!と恵子は命乞いを始めるが、幽霊男は立ちあがろうとする恵子を椅子に押し付けたので、年老いたお母さんや弟がたくさんいるわと恵子は訴える。
そんな恵子に、幽霊男は手を伸ばそうとするが、その時、別室から顔を包帯で巻き、サングラスをかけた透明人間のような男が出現したので、幽霊男は部屋から慌てて逃げ出してしまう。
揺り椅子の上で意識朦朧としていた稽古は、近づいてくるその不気味な包帯男に気付き悲鳴をあげる。
その頃、モデルクラブで菊地は軽快な音楽に乗せて宮川美津子(立花満枝 )と踊っていた。
建部の恋人の鮎子は、ねえ坊や、嫌に浮かない顔してるじゃない、良い記事が撮れないので部長さんに怒られたんじゃない?と隣に座っていた建部をからかう。
そんなことないさと建部があっさり答えたので、チェッと鮎子は悔しがる。
菊地と踊っていた美津子も、なにさ、そんな顔してと建部をからかってくる。
それでも建部が黙ってタバコを吸ってるだけなので、ああ、つまんないのと立ち上がった鮎子は建部から離れてゆく。
そんな建部に菊地は、じゃんじゃん書け、「幽霊男、モデルクラブに現る!」どうせ赤新聞だと笑って助言する。
すると離れていた恋人の鮎子が、赤新聞、赤新聞いわないでよ!と建部を庇うと、また建部の隣に腰を下ろして、ねえ、踊らない?と誘うが、建部は首を横に振る。
ヌードだけではもう新聞も売れないんだってさと貞子が諦めたように言うので、広田圭三はため息をつく。
そこにやってきたのは加納三作院長だったので、まあ先生、いらっしゃい!と踊っていた美津子が歓迎する。
それを見た菊地は、チェッ、加納院長が来るとすぐアレだ、ふん、覚えてろよ、お美津!とからかう。
美津子はふんだ!と言い返し、加納院長と一緒にソファに腰掛ける。
今の子は少ないが稼ぎにいったのかね?と加納が聞くと、あ、そうそう先生の紹介で妙な男が来ましてね…と広田圭三が近づいて教える。
僕の紹介?と怪訝そうに加納が聞き返すと、ええ、名は幽霊男と言う…と言いながら、広田圭三が名刺を探していると、幽霊男?と加納は覚えがないように不思議がる。
これですと広田圭三が名刺を見せると、知らんねと加納は言う。
すると貞子が急に狂ったように笑い出したので、どうした?と加納が聞くと、あの人殺されるわと貞子は無表情に言い放つ。
おいおい、冗談言っちゃいけないよと菊地が注意するが、貞子の顔は脳面のように無表情だった。
いいえ、幽霊男、女の恐怖…などと貞子は見たかのように言う。
腕時計を見た菊地は、11時か…、ともかく遅いねと恵子の身を案じる。
そこにやって来た恵子の弟浩吉(山田彰)がこんばんは!と言うので、浩ちゃん、姉さんに会った?とモデルが聞くと、いいえ…と青年が言うので、やっぱり…とモデルは1人納得したようだった。
それを聞いた建部は、何を言うんだ、まだ何も決まったわけじゃないと注意する。
姉さん、どうかしたんですか?と浩吉が聞いて来たので、良し、行ってみようじゃないか、加納さん、車ありますね?と立ち上がった建部が言い出す。
良しと加納が立ち上がると、乗っかると言って菊地も立ち上がり、私も連れてってと美津子も志願する。
西荻窪の屋敷の前に到着した加納たちは、懐中電灯で屋敷の様子を見ている警官に遭遇する。
こんばんは!と菊地が挨拶すると、誰だ!と驚いた警官は、何だ君たちは?と聞いて来たので、モデルクラブの者たちですと加納が代表して答える。
ここに雇われたモデルの女の子がなかなか帰らないので…と加納が説明すると、ここは空き家ですよ時計館は教える。
そんなこと言ったってここは空き家ですよと警官は答え、この屋敷に明かりがついてるので調べてたんですという。
それを聞いた加納は、ともかく入ってみましょう、そうなるとさらに怪しいと言って先導し始める。
扉を開けようとしても開かず、警官が開かんのですと指摘するが、加納がガチャガチャやると開いたので、どうしたんです?と警官は聞くが、なんでもありませんよと加納は笑う。
警官は部屋の中でついていたランプを調べるが、カーテンの奥を覗いた貞子たちは、そこに脱がれた洋服を見て、これ、恵子のじゃない?そうよ、恵ちゃんのだわと指摘する。
幸吉は姉の服を愛おしそうに触ってみる。
すると恵子がここで裸になったことだけは確かだな…と加納が推理すると、いやよ、そんな怖いこと言わないでとモデルが言う。
そのt気悲鳴が聞こえたので、みんな浴室の方へ行ってみると、浴槽の中で恵子が裸で死んでいた。
少し遅れて浴室に来た幸吉は、姉さん!と泣き崩れる。
輪転機がまわり、「全裸のモデル殺さる」と言う戦場的な新聞広告が売り場に貼り出され、新聞紙には「浴槽に眠る死美人」「蜘蛛を飼う狂人画家」「捜査も空しく行方不明」などと言う見出しが出ていた。
警視庁に呼び出された加納は、なぜ私が猟奇クラブに入ったらいけないんです?と刑事に聞いていた。
廊下ではモデルクラブの仲間たちが心配して待っていた。
いけないとは申しません、しかし先生は精神医学では世界的な方ですが、猟奇心はあまり度が過ぎると、より強い刺激が求めたがるものですからな〜と等々力警部(清水元)は苦笑しながら言い聞かせていた。
この「吸血鬼の津村」も確かクラブに入ってましたがな〜と等々力警部は指摘しながら、加納の様子をそれとなく盗み見ていた。
モデルクラブに戻ってきた加納は、一体猟奇クラブを何だと思ってるんだ!と憤慨していた。
だいたい諸君がだらしがないから警視庁あたりに舐められるんだ!と加納の怒りは治らなかった。
広田君、幽霊男と猟奇クラブが何にも関係ないことを各新聞社に連絡した前と加納は指示する。
それを聞いた菊地は、加納さん、そりゃ無理ですよ、現にうちのモデルが殺されてるんですからね〜と呆れたように言い返す。
すると、何!君までそんなことを言うのか!とにかく今度の犯罪とは関係ない!と加納は息巻く。
しかし菊地は、そうですかね〜?第一発見者がそんなに言うとかえって疑われますよと、菊地が冷静に答えると、何!もう一度言ってみろ!と興奮した加納が心臓を抑えて苦しみだしたので、貞子が大丈夫と言いながら支えて座らせる。
その時、突然、奇妙な音が聞こえてくる。
そして笑い声が聞こえると、共栄モデルクラブの皆さん、こんばんは…、私、幽霊男…と言う男の声が聞こえてくる。
私の演出による第一幕が、どんなに素晴らしい出し物だったか、みなさん、よくご覧に…と言葉が間近から聞こえたので、危ないわよと止めるモデルもお構いなく、菊地が隣室とのカーテンを開いて覗くと、そこではオープンリールテープレコーダーが回っていた。
レコーダーの横の置き時計は4時8分くらいを指している。
菊地はスイッチを止めようとするが、加納が割り込んできて、最後まで聞いてみようと提案する。
さてこの度、いよいよ二幕目の準備が完了いたしましたから、近くどなたかに共演をお願いして、また素晴らしい舞台を繰り広げてみたいと思います…、その節はどうぞよろしく、では今晩はこれで…へへへっとテープの声は続く。
夜、モデルたちがうどんを食べている時、もしもし、ワシだよ、等々力警部だ、もう1人至急調べてもらいたいんだ、台東区松葉町23、山形兼太郎…、けんは兼!と隣室で電話をかけていた等々力警部は、今日はこれでおしまい、よく調べてくれ、もう少しいるからと伝えていた。
そんな等々力警部に、どうもご苦労さんと菊地は挨拶して、いやね、契約者の住所をしらみ潰しに調べなくったって、テープレコーダーという立派な証拠品があるじゃないですか、もう少し科学的捜査ってないもんですかねと素人意見を言うと、あんた方は常軌で済むかもしれんが、こっちはそうはいかんからねと等々力警部は答える。
誰だろうと予告殺人をお膝元でやられちゃ敵わんよ…と等々力警部が言うと、そうよ、菊地さん、人のことだと思って…、狙われてるのは私たちなのよと貞子が文句を言うと、そうよ、不真面目よあんたと他のモデルも菊地を責める。
菊地は、ハイハイ、すいませんとからかうように答える。
その時、電話がかかってきたので広田圭三が出て、はい、はい、おいでになりますと答えると、本庁からですと言って等々力警部に渡す。
受話器をありがとうと言って受け取った等々力警部は、はいもしもし…、え、山田太郎?うん、うん、何!よし分かったと答え電話を切ったので、モデルたちは気にして背後から様子を見にくる。
山田太郎はいないそうだと等々力警部は広田圭三に教える。
誰?契約されたのは?と聞かれた広田圭三が申込書で指名されたモデルを調べると、みっちゃんだ!と気づく。
それを聞いた宮川美津子(立花満枝)は恐怖で失神しかけて他のモデルたちから支えられるが、心配することはないよ、憚りだってあるんだし…、君が狙われてることにはならないよ、それに警視庁のお偉方も付いてらっしゃるんだし…と菊地は慰める。
どんな男だったか、覚えてる?と等々力警部から聞かれた広田圭三は、さあ〜と首をひなりながら申込書を見ると、2〜3日中に電話のことって書いてありますと言うだけで、どんな男だったかな〜と考え込む。
支配人は役に立たないと感じた等々力警部は、モデルたちに、君は覚えてないか?君は?君は?と1人ずつ指差していくが、誰も覚えていない。
君は覚えてないか?と美津子にも問いかけるが、美津子は呆然としているだけで答えない。
そういえば、変な奴が来たじゃないかと菊地が指摘すると、あ、あいつだ!と貞子も言い出すが、そんな話よして!と美津子がヒステリーを起こし、私、殺される…と怯える。
申し込み書には、山田太郎:画家:港区青山高樹町24 モデル名 宮川美津子:雇用月日 昭和29年10月13日…と書き込まれていた。
その後、菊地が美津子を支えて帰りながら、な〜に、俺が今日一晩中ついててあげるよと励ます。
美津子も、ねえお願い、離さないでよと頼むが、その時、菊地さんと呼ぶ声がして、階段の下から幸吉が顔を見せたので、脅かすなよと菊地が叱ると、何か異常はありませんか?と浩吉は言う。
冗談じゃないよ、異常なんかあってたまるかいと菊地は答え、浩吉はそですかと言って帰ろうとするが、浩ちゃん、あんたも一緒に来て、お願い、怖いの私…と美津子は浩吉の腕を掴んで頼む。
菊地もそうしてやってくれよと頼むので、浩吉はちょっと考え、ええと承知する。
モデル事務所のビルを出て通りに出た所で、タクシー停めて乗り込むが、途中で、あれ?どこ走ってるんだい?と後部座席に美津子と一緒に乗っていた菊地が運転手に聞く。
その時、何気なく前を見た美津子が怯えたので、どうしたの?と声をかけた菊地も、ハンドルを握った運転手の指の中指と薬指がなく3本しかないことに気づき驚き、君、君…と呼びかける。
振り向いた運転手は幽霊男だった。
いつしか停まっていた車の助手席で気がついた浩吉は、運転席の運転手も後部座席に乗っていた菊地と美津子もいないことん気づく。
車を降りると、そこは車庫か何かだった。
暖炉の火が燃える中、薄暗い部屋の中の床に全裸で横たわっていた女性の写真を撮っていたのは、顔を包帯で巻き黒眼鏡に黒い帽子、黒いコートを着た男だった。
裸で倒れていたのは美津子だった、気がついた美津子は、あら?あなたは…と問いかけると、山田太郎と相手は答える。
上を見上げ、包帯男の顔を見た美津子は驚きの声をあげる。
一方、車庫を抜け出した浩吉は、庭先を通り過ぎる。
美津子は、お願い、命だけは助けて!なんでもする!まだ死にたくない!と泣いて頼んでいた。
すると包帯男は、恵子もそう言ったよ、死んだばかりの女の姿が好きなんだ…と教える。
いやだ、死にたくない!死にたくない!と美津子は泣き叫ぶが、それを庭先で聞いている浩吉には成す術すがない。
良いわ…、どうせ助からないなら諦めると詰む子は平静を取り戻していう。
でも、その代わり、その包帯取って顔見せて!誰に殺されたのかわからないのは嫌よ!と美津子はしゃがんだ包帯男に頼む。
すると包帯男は、良いだろう、どうせ同じだ、取ってやろうと言うと、帽子とサングラスを取り、包帯を取り始める。
庭先では、怯えていた幸吉の背後から幽霊男が近づいてくる。
一方、菊地は路上で気絶している所を発見される。
交番に連れて来られた菊地を、警官たちは君、君!と揺り起こすが、意識朦朧とした菊地は、殺される、殺される…、お美津が殺される…と呟くだけだった。
警官は、もし!しっかりしてください、お美津って誰ですか?と声をかけるが、すると菊地は三本指、三本指…と謎の言葉をつぶやく。
三本指?と、聞いた警官が不思議がると、同僚の警官が「幽霊男」の津村?と指摘したので、それであなたは?と菊地を起こそうとするが、同僚の警官は、もしそうだとしたら大変なことですよと緊急性を主張する。
そこにパトカーに乗っていた新たな警官がやってきて、隅田川で事件があるので、すぐにそちらに直行するよう連絡がありましたと伝えてくる。
菊地を尋問していた警官は、今日は忙しいぞ、とにかく救急車呼んでこの男を調べるよう本庁に連絡取ってくれと言い残し、自分は隅田川に向かう。
隅田川に浮かぶ小舟の中で倒れていたのは、美津子と浩吉だった。
状態はどうですか?と刑事が聞くと、小舟に乗り込んで浩吉の様子を調べた鑑識員は、うん、大したことないねと答える。
現場の近くにいたブン屋が死体の写真を撮ると、おい!写真をまだ撮っちゃいかん!と等々力警部が注意する。
浩吉を診た鑑識官に、大丈夫ですか?と等々力警部が聞くと、ただ薬を嗅がされただけです、1時間もすれば気がつくでしょうと答える。
おい、君はどうして知ったんだ?と発見者の建部に等々力警部が聞くと、幽霊男の仕業ですよこれと建部は答える。
えっ!と等々力警部は驚くが、昨夜幽霊男から電話がかかったんですがと建部が言うので、なぜそれを君は知らせなかったんだ!と等々力警部が怒ると、知られちゃもの笑いですからねと建部は言う。
まさか君は幽霊男の親戚じゃあるまいねと等々力警部がと冗談めかして言うと、君、これ、手配頼む、じゃあ、頼むよ!と鑑識官に指示を出すと、帰って行く。
その後、恋人の鮎子と喫茶店に行った建部は、本当に笑い事じゃないわよと相手から言われ、君も僕が幽霊男の親戚とだとでも?と侵害だと言うように言い返す。
すると鮎子は、バカね〜、でもあんまり深入りしない方が良いと思うのと案ずるので、俺は新聞記者だぜと建部は憤慨する。
でも健気に働いてるの、健ちゃんだけじゃないの、誰だって変に思うわと鮎子は言うので、いつまでもぺいぺい記者で良いってわけかい?と建部は維持を見せる。
するとモデルは頷き、心配なんだ、私…と本心を覗かせる。
建部は鮎子の気持ちを感じ取り、鮎ちゃん!と笑顔で呼びかける。
坊や、私ね…私…と言いかけ、やめとくわ…、あんたみたいなボンボン…とそれ以上語るのをやめてしまったので、建部はまた、鮎ちゃんと呼びかける。
体調が戻りモデルクラブに戻った菊地から話を聞いた広田は、ていうと、幽霊男と津村は別人だといんだね?と確認する。
俺はその隠れ家に行かなかったからよくわからんが、浩吉君の話ではそうらしいんだと菊地が言うので、ねえ、もうよしましょう、その話…と、聞いていたモデルが止める。
事件があったから、君は特ダネが書けたんだね、まあ我慢するんだねなどと、菊地は建部を冷かす。
何言ってんのよと菊地を叱り、それはそうと加納先生が早く大阪から帰ってきて激励会でも開いてくれないと気がクサクサして仕方ないわ…、ねえ、ちょっと遠くでやんない?と鮎子は広田に提案する。
すると広田は、伊豆の「百花園」を借り切ってやろうとするんだよとプランを打ち明けたので、良いわ、その案…と貞子は賛成し、良し、それが良い、久しぶりの総会だからねと建部も賛成し、それまでに加納先生、帰ってくるかね?とつぶやくが、そりゃ来るわと鮎子も太鼓判を押す。
しかし加納先生おかしいぜ…、大阪に行ってるはずなのに、銀座で見かけたような気がするんだと首を傾げる。
すると他のモデルが、うん!また変なこと言うと文句を言う。
その後「共栄芸術クラブ」主催の「ヌード撮影会」が伊豆の「百花園」ホテルで開かれる。
庭先では、モデルの愛ちゃんが、甲斐甲斐しく建部のスーツのボタンを縫い付けてやっていた。
愛ちゃんが、糸を歯で噛み切ると、側のテーブルから見ていた菊地は、おいおい良い加減にしてくれよ、公衆の面前で…とからかう。
愛ちゃんは、お気の毒様、美っちゃんがいなくて…と返し、本当に…、どうして連れて来なかったんだい?と建部も菊地に聞く。
出席した加納も、身体の方はなんでもなかったんだろう?連れてくりゃよかったのに…と聞くと、あれ以来ひどく怖がりましてね…、ここへ来る元気なんてないらしいんですよ、僕もがっかりですよと菊地は苦笑しながら教える。
すると広田が、おいおい、そんな発言は今日は遠慮願いたいねとからかってきたので、その場にいた参加者は笑い出す。
その時、チャイムが鳴ったので、飯だなと言いながら、加納が立ち上がる。
そこにモデルの1人が、ねえ先生、貞知らない?と聞きにきたので、知らないよと加納が答えると、菊地にもお貞知らない?と聞くので、さっき会ったきりだよと菊地も答えたので、どうしたのかしら?と言いながら、モデルは貞子を探しに行き、広田が、さあ、飯だ、飯だと言いながら、ホテルに戻る。
菊地や建部たちも一緒にホテルに入ろうとした時、先ほどのモデルらしき悲鳴が聞こえたので、全員驚いて振り返る。
全員で、モデルのところに駆けつけると、そこには女性の両足だけが地面に置かれているかのようにあったので、首や胴はどこにある?と加納は周囲を見回す。
近くの家で、水に浸かった貞子がポーズしており、それをカメラで写していた男がいたので、君は一体誰だ?と加納が聞くと、黒のソフト帽に黒スーツ姿のその男は金田一耕助(河津清三郎)と名乗ったので、モデルは、まあ!私立探偵の?と驚き、加納は、あんたはなんの権利があってここに来たんです?と加納は胡散臭げに問いかける。
すると金田一は、会費5000円払った、これでも会員ですよと言いながら、会員証を出して見せたルト、しかし、やられましたな〜と苦笑するので、こんなことになるのがわかってたのか?と広田は聞く。
まさか…、わかってりゃ、何とかしましたよと金田一は平然と答えると、皆さん、サロンにお集まり願います、現場は動かしてはいけませんと、そこにいたメンバーたちに指示する。
その頃、東京から車で等々力警部が伊豆に向かっていた。
サロンに集まったメンバーたちには、大変ご迷惑ですが、しばらくこのままお待ち願います、間もなく、本庁から等々力警部が来られますので…と金田一が穏やかな表情で説明していた。
現場を荒らさないのが第一でございますから、ご窮屈でもしばらくお待ち願いますと金田一は頭を下げる。
なお、本日撮影されましたフィルムはご提出願いますと金田一は出席者たちにも申し出ると、全員が意外そうな声をあげたんで、アリバイ、何かの参考になると思いますよと金田一はにこやかに伝える。
すぐさま金田一の助手牧原(越後憲三)の手によって、参加者全員の撮影フィルムが集まったので、それを現像してみる。
その時、現像中の暗室のドアをノックし、等々力ですと言う声がしたんで、フィルムを見ていた金田一はどうぞと返事する。
あ、ご苦労様と言いながら、暗室に入ってきた等々力警部は、また変わった所にいるなと金田一に言う。
サロンに来て本多支配人(津田光男)としばし話していた等々力警部が、先生が貞子に最後に会ったのは何時頃ですか?と椅子に腰掛けていた加納に聞いてきたので、さ?いちいち覚えてませんねと加納は答えるが、そりゃそうですなと苦笑した等々力が大体で結構ですと言うと、一体あなた方はどうして我々を犯人扱いするんですか?と加納は苦情を言う。
一応皆さんにお聞きしてるんですよ、別に…と等々力警部が言い訳をしていると、凶器が見つかりましたと言って刑事がバッグを持ってくる。
バッグを開けてみると、中に入っていたのは手術器具だったので、これは医療器具ですねと等々力警部が聞くと、そこに等々力先生と言いながら金田一がやってきて、ボーイさん、そのスーツケースに見覚えないかね?と聞くと、昨日の夕方、可能性んせいからのご紹介の方がおなんと落ちになりましたとボーイ(由起卓也)は答える。
ふ〜ん…、支配人、貸切じゃなかったのかね?と金田一が聞くと、本多支配人は、加納先生からお電話がありまして、先行させるからおおっしゃいましたと答え他ので、等々力警部は加納を見つめる。
加納は、そんな周囲の視線を感じたのか、私はそんな電話をかけた覚えはありませんと、前を見たまま答える。
まあまあと宥めた等々力警部は、支配人、この中にその人はいるかね?と聞くと、さあ?おいでになりませんと、部屋中を見渡し答える。
金田一はしまった!と言い、等々力警部はその部屋に案内してくれと本多支配人に頼む。
等々力警部らが支配人について二階へ上がると、それを立ち上がって見送った加納は、また椅子に座り直す。
んかいの部屋の前に案内した支配人がこちらですと言うと、叩いてくれたまえと等々力は頼み、本多支配人がノックするが返事はない。
鍵は?と轟が聞くと、支配人がポケットから合鍵を取り出す。
鍵を開けて中に入ると、ベッドから転げ落ちて死んでいた裸の武智マリ(持田和代)が見つかったので、同行していた金田一は、1日に2人か…と表情を引き締める。
早く人形の足の出所を洗うんだと金田一は助手の槙原に命じる。
等々力警部は電話をかける。
その後、金田一が訪れたのは、ベテラン人形師のアトリエだった。
同行した助手の槙原が指差した先にあったのは女性のマネキンだった。
注文なら半年先なるで…と、作業中の人形師が言うので、注文じゃない、ちょっと聞きたいことがあるんだと金田一が言うと、今忙しくて絵ひがが話せねんでねと人形氏は金田一を一瞥もせずに答える。
そうだろうな、生き人形にかけちゃ日本一だと言うからなと金田一が褒めると、それほどでもねえと人形氏は謙遜する。
この人形なんて、まるで本物だと金田一は先ほど見た人形を褒める。
あれかね?最近できたばかりじゃ、近頃気持ちのよう人形じゃと人形師が作業の手を休めず答え、おい三吉、早く荷造りして運送屋に頼んでこなくちゃダメじゃないか、口先ばっかりだと弟子に文句を言う。
マネキンならあれほど生き写しの必要はないし、なんに使うんだろうね〜?と金田一が問いかけるとさあ、何に使うのか…、写真を持ってきたところを見ると、そえ遂げられない女かもしれない都人形師が言うので、そんな奴が注文に来たんだ?と聞くと、おまえさんに似た男だと人形氏は答える。
俺に似てりゃ、良い男だなと金田一が冗談で返すと、顔は見てない、女に硫酸ぶっかけられたって、顔中に包帯してやがったと人形師は言うので、どこに届けるんだね?と聞くと、おまえ、なんだって、そんなこと聞くんだい?と初めて人形氏は金田一の顔を見る。
金田一は、どんな奴かと思ってね…とごまかすが、それからは、親父さん!と呼びかけても人形氏は返事をしなくなったので、金田一は質問を諦め、運送屋に行木、その後、地元の交番の警官に住所を聞く。
とある館にやってきた男は、部屋を見廻し、されかを探しているふうだったが、地下室に来た時、なんだ、人が悪いな、こんな所にいたのか、ハハハ、また芝居をしてるんだね?と、椅子の下でうずくまっていた女に声をかける。
こんな格好をして風邪をひくじゃない…と言いながら、女の体に手を触れた男の動きが止まる。
ジオン!と男が倒れていた女の顔を見て叫んだ瞬間、部屋の明かりがつき、男が加納であることがわかり、そこに金田一と等々力警部が入ってくる。
何をしてます?加納先生…と金田一が話しかけると、加納は、君たち!誰がこんなことをしたんだ?と、床に倒れた女を見ながら聞いてくる。
等々力警部が近づいてきて、それは先生に伺いたいことですなと加納に聞く。
何、俺に?と加納が聞くと、先生の隠れ家と幽霊男の隠れ家が同じであると言うことはどう言うことなんです、じゃあ、この俺が幽霊男だとでも言うのか?と加納は聞いてくる。
まあねと等々力警部が答えると、冗談じゃない、それは俺を陥れようとしている奴の仕業だとかのうはいう。
加納さん、それは良いとして、あなた、どなたか御婦人をお訪ねのようでしたな?と金田一は問いただす。
加納が無言を貫くと、あなたがそうでないとすると、どう言うわけですか?と金田一は問い詰める。
その時、カーテンの背後から銃口が覗き、私がお答えしますという女性の声が聞こえてきたので、等々力警部と金田一は驚いて振り向く。
カーテンの間から姿を現したのは、顔の下半分をスカーフで覆った女性だった。
加納は、マダム!と言いながら、女の背後に回り込む。
女性は、念の為申し上げておきますけど、この人は正直な良い人ですと銃を構えながら言う。
あなた方に捉えられたら、きっと幽霊男にされてしまいます、この人の身の嫌疑が晴れるまで私が預かっておきますと女性は続ける。
等々力は、手をポケットの方へ動かそうとするが、女性が銃を撃って牽制し、加納と一緒に逃亡する。
すぐさま等々力と金田一は後を追おうとするが、奥の方から数発銃声が聞こえてきたので立ちどまる。
そこに異変を察知した警官たちが、どうしました?と言いながら駆けつけてくる。
ああ、大丈夫だ、それより下を警戒しろと等々力警部は指示する。
金田一が可能たちが逃走した奥の扉を開けると、そこは湖に通じており、女性とか脳が乗ったボートが湖面に逃走したことがわかる。
高級洋装のお店、上等生地専門のお店、東亜商会…、東亜は上等生地の良心的なお店として皆様から愛されておりますと女アナウンサー(河美智子)が、宣伝放送をしている。
東亜はそのご愛顧に応えて…と続けていたアナウンサーの肩を叩くものがいた。
何事かと振り返った女性アナウンサーは、そこに顔中包帯だらけでサングラスをした男が立っていたので、悲鳴をあげる。
銀座日劇側の公園のベンチに近づいたモデルの西村鮎子は、ねえ、坊や、呼び出しちゃいけなかった?と聞くので、いや…と建部が答えると、ごめんなさいね、私、寂しくて仕方なかったのと愛ちゃんは言いながらベンチに腰を下ろす。
建部も隣に座ると、ねえ、いや、黙ってちゃ、相談したいことがあったん…と鮎ちゃんは言う。
別に怒っちゃいないけどさ、鮎ちゃん、僕ね…と建部が語りかけようとした時、やあと肩を叩いてきたのは菊地だった。
お楽しみ…と建部をからかった菊地は、鮎ちゃん、モデル辞めてストリッパーやるんだってと無遠慮に聞いて来たので、え、本当か?鮎ちゃんと建部も驚く。
おい、色男が知らなくちゃ困るねと菊地は嫌味を言うが、鮎子は、菊地さん、どうしてそれをご存知と聞く。
菊地は、地獄耳と自分の耳を触って言うと、そこいらにいる新聞記者より鮎ちゃんのことは何でもよく知ってるんだと自慢すると、じゃあ、さようなら、またクラブで会おうと言って去って行く。
どうして知ってるのかしら?と鮎子が不思議がると、鮎ちゃん、本当なの、それ?と建部は聞いてくる。
今日相談しようと思ったの、そのことだったの…と鮎子は言う。
そりゃあ、あそこをよすのは僕は賛成だけどさ、君がストリッパーなれるかね〜?と疑問を口にする。
「麗人劇場」から割と良い条件で来ないかと言うし、あそこにいるのなんだか怖いのと、鮎子は「栄光クラブ」のことを指摘する。
しかし僕ねえ…と建部が答えかけた時、また奇妙な不協和音が聞こえ、こちらは皆様お馴染みの幽霊男でございますというアナウンスが町中に聞こえだしたので、通行人が何事かと足を止める。
大変お待たせしましたが、いよいよ第三幕の準備が完了いたしました。お待ちかねのこの幕は「昭和人形工房」で作られましたる人形が、いかなる活躍をいたしまするか、何卒ご期待いただきますように、そしてうまくまいりましたら、絶大なるご声援を賜らんことをお願いします。繰り返して申し上げます、こちらは皆様お馴染みの幽霊男でございます、大変お待たせをいたしましたが、いよいよ第三幕の準備が完了いたしました。お待ちかねのこの幕は「昭和人形工房」で作られましたる人形が、いかなる活躍をいたしまするか、何卒ご期待いただきますように、そしてうまくまいりましたら、絶大なるご声援を賜らんことをお願いします…と放送は繰り返すが、群衆の中にいた金田一がそれを聞いていると、菊地もそばに近づいてきて、建部と鮎子も近づくが、縦部はビルの一面に飾られていた池に置かれた貞子の写真の拡大と、「VOGUE洋装店」の看板のかかったビルから声が流れていることに気づく。
宣伝放送をしていた部屋に置かれたオープンリールテープレコーダーのテープは巻き終わり、床には女性アナウンサーの死体が転がっていた。
ストリップ劇場「麗人劇場」の看板には、「来週水曜よりスペシャルショー森の泉公演」「問題のヌードモデルの女王 西村鮎子特別出演!」と書かれてあった。
舞台では、簡単なセットの中で何人もの水着姿の踊り子が踊っていた。
楽屋では、建部が鮎子を案じて来ており、あのねえ、客は鮎ちゃんがどうして殺されるかを見に来てるとしか思えないんだよと、化粧中の鮎子に話しかける。
そうよ、わかってるわと鮎子が答えると、知ってて君は…、バカだな〜と建部は呆れるが、どこにいたって同じよ、大勢の人がいる方がまだマシだわ、ここでしか食べていけないもん…と鮎子は、鏡に映った建部に対して答える。
ねえ鮎ちゃん、親父はきっと僕たちのこと聞いてくれると思うんだと建部が言うと、ダメダメ、私はヌードストリッパーよと鮎子は自嘲するので、当分食べていくだけの金は親父が…と建部が言いかけたその時、火事だ!と言う叫び声が聞こえてくる。
建部は楽屋の外に飛び出して様子を見にいくが、鮎子は楽屋の鏡の前で動かなかった。
菊地は気絶したストリッパーをおんぶして、みんな、早く逃げろ!おい店長!、みーちゃん、大したことない!と客たちを誘導していた。
楽屋には金田一が来て、ここにいたのか?と言うので、どうせどさくさに上がろうと思ってましたから驚きませんでしたわと鮎子が答えたので、よかったねと金田一が声をかけると、ご心配をかけてすみませんと鮎子は詫びる。
な〜にと金田一が答えていた時、楽屋口が開いて、先生、スモークですよ、酷いことやるもんですね、イタズラですよと舞台係が発煙筒を持って知らせにくる。
そも発煙筒を手に取った金田一は、これ、小屋の品物かい?と聞くと、いいえ、うちの小屋はもっと小さいので、そんなものは使いやせんがね、ですからね、あっしの考えじゃね、小屋が毎日この頃大入りなもんで、よその小屋の奴らがイタズラでこんなことしたんじゃねえかと思うんですがね、あっしは捕物が大好きでね、今度はきっと捕まえてやりますよと舞台係は言う。
そこに建部も戻ってくるが、金田一は発煙筒を証拠品として自分が持ち帰る。
「麗人劇場」の看板には「大変お騒がせいたしました、失火に至らず続演いたします」の張り紙が貼られていた。
ステージ上では演劇が再開し、鮎子はまだ楽屋に建部と2人でいたが、ノックがしたので返事をすると、等々力警部が顔を見せ、異常はないかと聞いてくる。
劇場内には刑事が数名張り込んでいた。
左から3番目の女の子、なかなか良いじゃないか、あれなんてんだ?と菊地は女性事務員とおしゃべりしていた。
もう目をつけたの?あの子、3人もパートナーがあるわよと事務員が言うんで、菊地は3人もかいと答え、みんなで笑い出す。
楽屋の建部は、鮎ちゃん、それは残酷なことだよと話しかけると、そうよ、世の中って残酷なものよ、あんたボンボンだから、何にも知らないけれどと鮎子は本格的なメイクをしながら答える。
1人の女が生きるか死ぬかって言う時、この世のものでもないスリルを覚えるものよと鮎子は言う。
健ちゃんだってと鮎子が振り向いていうので、バカな!僕は君を死なせたくないんだ!と建部は言い返す。
すると、その大きな声で驚いたのか、金田一がまた顔を見せたので、あんた私を見ててよ、しっかり…と鮎子は建部に頼むと、今夜はきっと素晴らしいわ!と恍惚とした表情になる。
その時、ノックが聞こえ、鮎子さん、お支度お願いしますとスタッフが呼びに来る。
さあ出番よ、すまないけど、鍵開けといてくれる?と鮎子が頼んだので、建部は楽屋を出て行く。
その直後、スタッフは、梶原さん、鮎子さんが呼んでますよと男が呼びに来たので、蜘蛛模様の衣装を着た梶原が、何ですか?と鮎子の楽屋に来ると、すみません、ちょっと打ち合わせしたかったのと言い、鮎子は台本片手に頼む。
劇場内は立錐の余地がないほど超満員だった。
オーケストラの演奏が始まり、幕が上がると、舞台上には蜘蛛の巣のセットが作られており、客席から建部もその芝居を見守っていた。
鮎子は蜘蛛の巣に引っかかった蝶をビキニスタイルで演じており、蜘蛛役の男がその蝶の羽を引き剥がすと、蜘蛛の巣のセットがせり上がり、舞台上は蜘蛛役の男と、羽を失った蝶役の鮎子の2人だけにスポットライトが当たる。
金田一耕助も見守る中、舞台上では気を失っていたビキニ姿の蝶が気がついて。そばの岩場に身を横たえたところで、蜘蛛役の男がナイフを腹に突き立てるという芝居になる。
それを見た金田一は客席から花道に飛び乗り、舞台へ駆けつけるが、同じく舞台に駆け寄った等々力警部は、人形だ!と気づく。
いつの間にか鮎子が人形にすり替わっていたのだった。
これには舞台に駆け寄った舞台係も金田一も驚愕する。
相手の梶原はどこに行った?と金田一が舞台係に聞くと、支配人が怒って探してましたと言う。
金田一と等々力警部がその場から走り去ると、全くこんな人形なんて使いやがって!と舞台係は怒り出すが、他のスタッフは、主役の鮎子はどこ行ったんだろう?と戸惑う。
支配人を見つけた金田一が、支配人、梶原は?と聞くと、いましたが、あの〜と支配人は口ごもる。
梶原は楽屋で死んでいた。
等々力はすぐに死体の様子を見るが、金田一は、知ってるのは君だけか?とついてきた支配人に聞く。
頷いた支配人だったが、舞台では音楽が鳴り始めたので、次が始まる!と支配人が気づき、金田一たちは再び舞台へと向かう。
舞台では何事もなかったかのように、風船をたくさん使った次のシーンが始まっていた。
踊っていたダンサーが、体に血が垂れてきたので、上を見上げると、舞台上に吊られた裸の人形に見えるものがあったので悲鳴をあげる。
血はその人形から垂れていたのだ。
舞台袖でそれに気づいた金田一は早く下ろせと命じ、支配人が降ろすように手を振る。
舞台ではスタッフたちが人形のようなものを下ろし始め、緞帳が降り、警官が舞台に走り寄ったので、場内は騒然となる。
舞台に下された女体は人形ではなく、胸をナイフで刺された鮎子本人だったので、近代も警察も唖然とする。
舞台に上がって死体を見た建部は、鮎ちゃん!と言って泣き出すと、側にいた金田一が、小僧、芝居するんはよせと言いながら建部の頬を殴りつけると、建部の入れ歯が口から飛び出したので、建部はその場で刑事たちに捕まってしまう。
歯が抜けた建部は、違う、違う!僕じゃない!と訴えるが、何を言ってるんだ、その3本歯が何よりの証拠だと金田一は指摘する。
金田一から顔を見られた等々力警部も、建部を連行するしかなかった。
連れ去れれる際も、建部は、違う、違う!と無実を訴えていた。
「捜査第一課 第六号室」に警官は幽霊男の桂を持ってきたので、それを受け取った等々力警部は、それを突きつけると、もちろん最初の幽霊男をやったのは自分です、でも僕はそれ一回きりです、恵子も脅かしただけなんです、絶対殺しません!誰かまだいるんですと建部は自供する。
では2代目がいるってわけかね?と等々力警部が聞くと、とにかく僕じゃありませんと建部は主張する。
まあ良い、初代幽霊男と言いたいわけか、だが君はなんであんなことを考えたんだと等々力警部が聞くと、新聞記者として、僕は良いスクープをしたかったんですと建部は打ち明ける。
しかし君のお父さんはあの新聞社の専務さんだし、何もそんな…と等々力が指摘すると、だから余計に焦ったんです、親の光と言われるのが辛かったんです…と建部は吐露する。
成り行きが注目されております、次に、先般来よりマスクに頭部を包んだ病院脱走の吸血鬼津村一彦は、その後当局の全く裏を描き、厳重な警戒を犯し、またも「麗人劇場」の女王メリー鮎子を殺害しましたが、必死の捜査陣のめざましい活躍により、ついに有望なる容疑者として逮捕されました、犯人津村一彦は…と放送していたラジオを、屋根裏部屋で1人聞いていた包帯男はスイッチを切ると、持っていた「死の表情」と題されたアルバムを開く。
そこには、「浴槽の美」と題された恵子の浴室での全裸死体、「花園のグロテスク」と題された貞子の両足、「沐浴する女」と題された、池に置かれた貞子の上半身、「豹と女」と題された豹の毛皮の上に横たわる美津子の死体、「風船と女」と題されたステージ上に横たわった鮎子の死体、「ベッドと女」と題されたマリの死体の写真が貼られていた。
さらに包帯男は、床に落ちた一枚の写真を拾い上げるが、そこに写っていたのは 三橋絹子(三条美紀)だった。
その写真を見ながら、今度はお前さんの晩だと呟いた包帯男は、静かに笑い出す。
あんな顔して案外しぶとい、当分吐きませんな…と等々力警部は、部屋から警官に連れて行かれた建部に手をこまねいた様子だった。
その様子を側で見ていた金田一は、それはそうだろう、あれは何にも知らないんだからと言うので、ええ!と等々力は驚くが、むしろ被害者だと思うんで、こちらに保護を頼んだのですよ…と言う。
留置場の中が一番安全というわけですか?と等々力警部は呆れる。
もうそろそろ狙われる頃ですと金田一が言っていると電話がかかってきて警官が出て、金田一さん、お電話ですと受話器を渡す。
はい、何!やっぱり、あのつらか!と金田一は答え、うん、うん、じゃあすぐ行く!と言って電話を切ると、等々力さん、じゃあ、お願いしますと言い残し帰ってゆく。
後に残った等々力警部は、金田一の電話が気になるようで考え込む。
雨が降る夜、サイドカーとパトカーを先頭に、大量の警官隊を積んだトラックが2台現場に向かう。
窓の外からカーテン越しに、中を覗き込み苛立つ浩吉。
部屋の中では包帯男が椅子に腰掛けた三橋絹子に拳銃を向けていた。
立ち上がった衣子は、あの人をどうしたんです?と聞く。
包帯男がカーテンを開くと隣の部屋で椅子に縛られた加納が猿轡ををはめられ、うめいていた。
それに気づいた絹子が、あっと言って隣に向かおうとし、どうしようと言うのこの人!と抗議するが、包帯男は絹子の両腕を掴んで前に出ないようにすると、邪魔なんだ、俺にはこの男が邪魔なんだと包帯男は言う。
腕を掴まれて身動きできない絹子は、一体誰なんです、あなたは!と包帯男に聞くと、幽霊男と皆は言うと答える。
卑怯者!と絹子が言って手を振り払うと、絹子!この男に惚れると言うことは!と言いながら、包帯男はまた絹子につかみかかる。
絹子は、放して!放してったら!と抵抗するが、そのまま押し倒されてしまう。
加納博士!よく見てろよ、お前のまでこの女を手中にしてやる!と包帯男は隣室の加納を振り向いて言い放つ。
包帯男に迫られた絹子は、死んでやる!私は人妻です!と言い返すが、気狂い画家津村のな…、じゃあ、あの男は君の一体なんだと言って、包帯男は隣室の加納の方を指差す。
色男か?と包帯男は迫る。
津村とは離婚したわ!と絹子が言うと、それで気狂いになった津村はそれで良いのか?と包帯男は問いかける。
津村に一度聞いてみるか?と責める包帯男は、津村!津村!と奥の方へ呼びかける。
すると、そこに現れたのは金田一耕助だった。
驚いて包帯男が振り向くと、俺では行かんかね?と金田一が言ったので、貴様!と言いながら、包帯男は拳銃を取り出す。
やっと見届けたよ、殺人鬼幽霊男!と金田一が指摘すると、違う、殺人鬼は津村だ!と包帯男は反論する。
みんな聞いたよ津村からと金田一は答え、そこに津村一彦(山本廉)が姿を見せたので、この男は気狂いだと包帯男は津村を指さして罵る。
気狂いを利用したのは誰だ?と金田一は言い放つ。
包帯男は、アドの外が警官隊に包囲されていることを知る。
殺人鬼、諦めろ!大人しく縛に付けと金田一が言った時、津村が奇声を上げながら包帯男に接近し、銃声が響いたので、金田一は身を隠し、絹子は隣室の加納を抱いて身を守る。
さらに銃声が響く中、金田一へ奥へ追いかけ、その後から踏み込んだ刑事や警官隊が後を追う。
絹子は加納の捕縛を解いていた。
遠くから銃声が聞こえてくる中、絹子は床に倒れていた津村に近づくと、何事かを語りかけようとするが、何も言えないまま顔を背ける。
包帯男は外を逃走していたが、それを走って追いかける金田一、その後を追う警官たち。
包帯男はビルの外階段を登り、屋上へ逃げる。
執拗に追う金田一が包帯男に接近する。
包帯男は何度も拳銃で撃つが、一発も金田一には当たらない。
最後、金田一は両手を広げ、丸腰であることを相手に見せながらジリジリと包帯男に近づく。
包帯男は、俺じゃない、俺じゃない!俺は殺す気なんかなかったんだ!と喚く。
そら見ろ、おまけに津村夫人まで道連れにしようとしたじゃないかと金田一が追求すると、あいつは俺の女だ、一生かけても悔いのないほど惚れた女だ、それをあいつが!と包帯男が叫ぶので、加納博士の苦さんになろうとしているあの人にか?と金田一は迫る。
あいつこそ、津村から女を奪った!と包帯男は訴える。
津村は吸血鬼だ、それをお前は利用しようとした!と金田一は指摘する。
女を取るため、お前は手段を選ばず、お前は悪魔だと金田一は言う。
俺じゃない、建部だ!と包帯男が言うので、最初のイタズラは建部だ、お前はその事件をすり替えたんだ、筋書きはみんなわかってるぞと金田一が指摘すると、嘘だ!嘘だと言いながら、またしても包帯男は逃げようとする。
包帯男の包帯が解けていく中、包帯男はさらに拳銃で抵抗しようとするが、駆けつけた等々力警部が、撃つぞ!と呼びかけ、金田一も拳銃を捨てろ!逃げられんぞ!と拳銃を取り出して言うと、包帯男が発砲してきたのええ、やむなく金田一も打ち返し、包帯男は腕を撃たれる。
いったんは倒れかけた包帯男だったが、必死に起き上げり、さらに外階段を登って逃げようとする。
最上段に登った包帯男は、自ら包帯を脱ぎ捨て、その素顔を表す。
包帯男の正体は菊地陽介だった。
次の瞬間、よろめいた菊地は、悲鳴をあげながら最上段から地上に落下してゆく。
墜落死した菊地のポケットから飛び出したパスケースには、絹子の写真が入っていた。
終
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