「鞍馬天狗と勝海舟」

嵐寛寿郎主演でお馴染みの「鞍馬天狗」映画だが、かなり低予算で作った中編らしく、73分と尺も短ければ、見せ場も乏しい。

会話シーンや移動シーンばかりが目立ち、剣戟などアクションシーンはほとんどない。

ただ、ハリウッドで活躍した早川雪洲をはじめ、若い頃の近衛十四郎さん(松方弘樹、目黒祐樹兄弟の実父)や丹下キヨ子さんなどが登場しており、丹下さんが若い頃、顔は長いがかなりの美人だったことに驚かされたりする。

ただ丹下さん、芝居も上手いというか、ちょっと臭いというか、やりすぎな部分があるので、面長の顔と合わせると悲劇性はいまひとつ出にくいような気はする。

早川雪洲は特に芝居が上手いと言うことはなく、ヒールとして売れたハリウッド同様、陰気な顔が印象に残る程度で、そのイメージが勝海舟に合っているのかどうかは不明。

戦前から「怪優」として知られる団徳磨も船頭役で登場しているが、無声映画時代から活躍している俳優さんたちは、戦後の芝居を見慣れていると棒読み口調で下手に見える。

枚方の船着場など、夜景シーンのはずなのに明るかったりと、結構撮り方も杜撰だったりするが、その辺は当時の感覚ではご愛嬌だったのかもしれない。

とはいえ、夜の照明もない海では、狙う方も狙われる方も、周囲は真っ暗で、何も見えなかったとは思う。

しかも、小舟の爆破シーンは夜なのに、倉田が岸に泳ぎ着くとすっかり昼間になっていたりで、見ていて混乱させられる。

早川雪洲も殺陣は不慣れなようで、背後の敵を後ろ手の刀で突き刺す場面は、本人の背中に刃が見えてしまっており、背後の敵に全く刺さってないことがバレたりしている。

本作でのアラカンは、ほとんど覆面をしているシーンがなく、冒頭以外は素顔の倉田典膳のまま。

倉田が乗る馬もシーンによって、白馬になったり黒馬になったりと一貫していないように見え、薩摩から脱藩した3人組の立ち位置も掴みにくく、映画の出来としては、あまり褒めるところがないような気がする。

【以下、ストーリー】

1953年、新東宝、大佛次郎原作、高橋博脚色、池田富保監督作品

慶應2年6月

幕府は長州征伐の軍を芸州小瀬川に進めた。

然るに長州の士気は意外にふるい、幕軍は脆くも敗れ

石州の戦いも撃破されるに至った。

しかも小倉では奇兵隊の作戦に意表をつかれた幕府は著しく不利な体勢に追い込まれた。

ここに薩長連合の密約が成立する。

この時 後見職 徳川慶喜は

難局打開のため、勝安房を軍艦奉行に起用し 

時局を収集にようと努力した。(と、戦場の跡を背景にテロップとナレーション)

タイトル

スタッフ、キャストロール

川べりに1人佇んでいた鞍馬天狗(嵐寛寿郎)は謡を口ずさんでいた。

そこに1人で近づいてきた松村(瀬川路三郎)を前にした鞍馬天狗は、松村さん、良くぞ来られたと礼を言うと、好まぬことだが、松村さん、武士らしく自決していただきたいと申し出る。

何の理由で自決するのだ!と松村が問い返すと、理由は同志を裏切り、秘密を幕府に明かされた貴公の胸に覚えがあるはずですと鞍馬が指摘すると、論は無用だ!解決はただ勝負の二字だ!と言いながら、松村がその場で羽織を脱ぐと、下には襷掛けをした姿が露わになる。

しかし鞍馬は、いや、貴公は斬りたくない、自決してくださいと頼む。

それでも松村が剣を抜いて突き出してきたので、やむなく鞍馬も剣を交わす。

そこに近づいてきたのは松村の娘 お諒(三浦光子)で、鞍馬に切られて倒れた父親を見つけると、お父様!お父様!お父様!と縋りつき、泣き出すと、その場から黙って立ち去る鞍馬の後ろ姿を睨みつけ、その後を追おうと立ち上がるのだった。

お諒は、その後、土方歳三(杉山昌三九)のいた料亭を訪れると、憎い仇でございます、一太刀なりと恨みを晴らさせてくださいませ、私がこうして見落としました父の志を立てたいと…、罪なくして強靭に倒れた父が不憫でなりませんと涙ながらに訴える。

人を極まる奴だな…と土方が答えると、年も取っておりましたし、それが足手纏いになったのかもしれませんとお諒は嘆くので、お諒さん、あなただけではない、我々もいく人かの朋友を殺されていると同席していた岩渕(堀正夫)も答える。

鞍馬天狗だけは必ず我々の手で見つけて見せると土方が約束すると、たとえ私が返り討ちされたとしても、露ほどもお頼み申します、お願いいたしますとお諒は願い出る。

うん、良し、引き受けた!と返事した土方は、さ、一つ行こうと言いながら盃をお諒に勧める。

夜になり、行燈が灯された別の料亭の縁側で、書物に目を通していた薩摩藩の山崎(近衛十四郎)は、いやあ、愉快、愉快というと、同席のに渡し、軍師外に奮わず、諸侯下に居せず、内憂外患、幕府の余命、いくばくもなし…とその書物に挟まれていた書状を戸倉(高松政雄)もそれを読んで、たかが長州一藩を敵に回しても持て余しているようではな?とバカにし、その書物を目の前に座していた鞍馬天狗こと倉田典善に手渡す。

その慶喜さんが嫌いという勝さんを登用したというのも、よくよく手が詰まってのことだろうなと山崎が言うと、しかしこれがどこまで評判ほどの戦上手かだ、どうです、勝という男は?と戸倉は倉田に聞く。

しかし、倉田はその書物に挟まれた書状の部分を取ってその場で破り捨てるだけだった。

山崎は、勝安房は軍艦奉行だし、なんにしてもこれで戦が面白くなると戸倉に話しかけたので、うん、そうだ、そうだと戸倉も愉快そうに答える。

さ、一つ、先輩と言いながら、山崎は倉田に盃を差し出し、倉田もそれを受け取る。

そのそばの橋の欄干に腰掛けていた目明かし長次(鳥羽陽之助)は、通りかかった芸妓とそのお付きの男の前に立ち塞がり、芸妓を揶揄い始めた寅公(有馬是馬)を見兼ね、おい、冗談はよしにしろと注意する。

通り過ぎようとした芸妓は寅公を振り返り、いけずやわ~と文句を言う。

長次は寅公に、こら、確かなんだな?と2階の料亭の方を見ながら確認する。

寅公は、へえ、それはね~、この目ではっきりとあの後ろ姿をねと答えたので、そうかと長次は納得し、十手を持つと立ち上がって、目の前の料亭の2階を見上げる。

勝安房が海軍を持って行き、会津が陸軍を持っていけば、長州も防ぎ切れまい、我が藩の兵が京におる限り、会津もそうやせやすと兵を動かすわけにはいくまいなと山崎は岩渕に話していた。

戦いは長州がやって、いずれは双方諸倒れになる、後の天下は我々が握る、こりゃ話がうますぎるよと岩渕が笑うと山崎も一緒に笑い出す。

その時、料亭に向かう橋を渡って1人の子供が近づいてきたので、長次は、おい、てめえ、杉作(かつら五郎)だな?どこ行くんだ?と問いかける。

知らねえ? と杉作が無視しようとすると、おい、天狗に用があって来たんだろ。知らねえ、知らねえと杉作は答えるだけだったので、嘘つくと痛い目に合わせるぞ。ん?と言いながら、長次が十手を振り上げて威嚇したので、杉作は急にその場に躓きながら元来た方へ逃げようとする。

長次は寅公に、おい、追いかけろ!と命じ、寅公はへいと答えて杉作の跡を追いかけ始める。

その直後、弔辞は今逃げた杉作が落としていった「鞍馬天狗」と書かれた書状を見つけ、良いものを落としていきやがったな…と喜ぶ。

その後、江戸城の横で待ち受けていた長次は、うちわを持ってそばにしゃがんでいたお艶(丹下キヨ子)に、まだ出てこないか? と苛立つように聞くと、まだなんだけど…とお艶は言うので、 気をつけてくれよ、安房守はどこへ宿を取るか…、それさえ突き止めてくれりゃ良いんだと長次はお艶に頼む。

二条城の中では、薩長では御公儀の長州出兵に反対しております。今ここで会津藩を動かすことは戦いをますます拡張することになりますと勝安房守(早川雪洲)が徳川慶喜(市川男女之助)に意見具申していた。

互いに敵味方に分かれて戦う愚は諸外国に付け入る機を与えることにもなりましょうと言う勝に、 では戦いをやめろと申すのだな?と慶喜が聞くと、それより他仕方はございますまいと勝は答える。

すると慶喜は、何を思うすか?その方を軍艦奉行に命じたのは、陸兵と力を合わせ、海より砲火を浴びせ、一挙に長州に叩かんためであったと叱責したので、長州を砕いたところで決して戦争はやめません、ますます広がるばかりです。薩摩を始め、摂州、土佐も立ちます。続いて…と勝が話していると、それを恐れて我が軍に降伏せよと申すか?

いや、幕府方の降伏ではありません。また長州方の降伏でもありません。ただ戦いをやめることです。調停談判をすることですと勝は説く。

軍艦や大砲の力を借りずして、明日は単独無手で乗りこみ、身を持って長州に当たる覚悟でございます。 勢いに乗った長州勢、いかにその方の機智才能を持ってしても要因に説得できるものかと慶喜は懐疑的に言うので、できます、必ず説き伏せてみせますと勝は言い切る。

城の外にしゃがんで様子を伺っていたお艶の背後から近づいた鞍馬天狗が、お艶さんじゃないか?と声をかけると、振り返って驚いたお艶は、驚きながらも、お久しぶりでございますと挨拶する。

うん、久しぶりだな。 ところで誰を見張っているんだ?と鞍馬天狗が聞くと、いえ、あんまり蒸しますもんですから…とお艶はごまかす。

お艶、 隠すな、相手が悪いぞと鞍馬が近づいて言うと、 でも旦那、本当なんでございますよとお艶は言い張る。

ではわしから言う、勝さんを見張っているのだろうと鞍馬が指摘すると、。まあまあ、お人の悪いとお艶は答えたので、そうか、勝先生が二条城へ見えておられるのか…と気づいた鞍馬は、それで?見張の命令はやはり新撰組から出たのか?と重ねて聞く。

敵いません、旦那さんにはとお艶が諦めたように漏らしたので、やはりそうかと鞍馬も得心する。

これ内緒にしといてくださいますよとお艶が頼むので、よしよしと鞍馬は承知する。

その夜、「うどん、そば」を出す「俵屋」に2人の客が入る。

はい。お待ち様と娘が客席に品を運んでくると、近くの席から、おい姉ちゃん、酒、酒!と追加注文が入り、 はいと返事した娘は、銚子のお代わり!と調理場に声をかける。

そんな蕎麦屋の二階で、杉作の着替えを手伝っていたお琴(紫富士子)が、杉ちゃんらしくないわ。元気出すのよと、書状を落としたことを打ち明けた杉作に言って慰めていたが でも大事な手紙だったらどうしよう…と杉作は案ずる。

大丈夫よ、先生のことですもの。それにきっと、人に読まれて都合の悪いようなこときっと書いてないはずだしとお琴が言うと、そうかしら?でも困ったなあ~、ああ、困ったなあ~と杉作は悩んでいるので、はい。おやつとお琴は紙に包んだものを杉作に渡す。

その時、階段を上がって倉田が帰宅して来たので、あ、先生、お帰りなさいとお琴は出迎え、杉作もお帰り!と声をかける。

刀を置いた倉田が、杉作来いと呼びかけたので、杉作は、へいと答えた杉作が、暗い表情のまま倉田に近づくと、お前手紙をなくしたろと倉田から指摘され、うん、すいませんと杉作は詫びる。

ああ、良いんだ。 明日、西郷さんに会えば分かる。それよりもお前、怪我はなかったかい?と倉田が優しく聞いたので、大丈夫ですと杉作は安堵して答え、そうご覧なさい、私が言った通りですよ。先生は怒ったなんかなさらないわと側にいたお琴も言う。

ほら手紙をなくしたお駄賃…と言いながら、倉田が買ってきた団子の包みを取り出したので、 え?辛いね~と杉作は頭をかきながら苦笑いして受け取る。

良かったねとお琴が杉作に声をかけると、ではお茶を1つ淹れてくれませんか? と倉田がお琴に頼む。

その後、杉作を連れて帰る鞍馬天狗を、廃屋の中に潜んで短筒で狙う御高祖頭巾のお諒がいた。

発砲すると、すぐに鞍馬が杉作と一緒にその場に身を伏せたので、狙ったお諒は命中したと思って喜び、草むらに倒れた2人の方に近づくが、いきなり起き上がった杉作がお諒を捕まえようとしたので、驚いたお諒は杉作を突き飛ばしその場から逃げる。

杉作がその後を追おうとすると、立ち上がった鞍馬が、待て!追うな、追うなと注意する。

木の影に隠れたお諒は、去って行く鞍馬と杉作の後ろ姿を悔しそうに見つめる、

ある日の川には小舟が漕ぎ出しており、その船上には3人の浪人が酒を酌み交わしながら相談事をしていた。

僕が探り出した情報では勝が戦争中止の談判に長州へ行くということだが…と一人が報告すると、うん、幕府の方針が変わったんだな?と山崎が答える。

よしんば、勝安房が行ったからとて長州が戦争をやめるとは思われんと別の一人が言うと、そうだ、無駄足を踏むだけだろうともう一人が賛同する。

いや、それがだ。今長州を動かしている桂小五郎は勝の弟子だというからなと山崎が言うと、 勝の弁説は鋭いもんだと聞いていると一人も指摘し、ならばはどうするか?と問いかけたので、勝をやってはならんぞと別の一人が言う。

そうだ、勝をやってはならんと山崎も賛同し、このままにしておけば幕府は負けるに決まっている。それが停戦になっては幕府の寿命がそれだけ伸びることになる。ことは重大だと指摘したので、では斬るか?ともう一人が言い出す。

その頃、道を歩いていた鞍馬を追いかける、目明かし長次の寅公の姿があった。

鞍馬はとある屋敷の門の中に消える。

鞍馬に、文箱から取り出した書状を見せた西郷隆盛(岡譲二)は、この3人が脱藩をやりったですよと言い、そこには「山崎源之丞、長谷部采女、樋口何某」の名前が書いてあった。

これは何を意味するか分かりますか?と西郷が聞くと、察しますのにこの度の勝安房守殿の戦闘調停と関係がありますと鞍馬は答える。

先日も勝先生にお会いした…と西郷は語り始める。

(回想)わしはね、西郷さん、どうもこの文明諸国から受ける圧迫が1番恐ろしいんですよと、地球儀を見ながら勝は西郷に話していた。

畏敬の赴くところ、薩長幕府のバックの力はだんだん衰えています。ただこの日本の地に外国の勢力を入れて、損壊香港の二の前を見ては臣下として誠に申し訳ないことになりますと勝は言う。

幕府も薩摩も長州も日本の全部が真剣に国のことを考えなければならぬ時だと、西郷さん、分かっていただけますな?と勝は訴える。

(回想明け)こう言って、勝先生は涙さえ浮かべておられたと話した西郷は、倉田さん、倒幕の必要は言うまでもないが外的の危険を考えれば勝先生の諸説にも意味はありますと言うと、もちろん勝先生の説は正しいと思いますと倉田は答える。

そこで…と最後雨が言葉を濁したので、分かりました。戦争調停に不満を抱く輩は当藩だけではないでしょう、相当広い範囲に渡って騒ぐ連中が出ると思いますと倉田は答える。

うんと頷いた西郷に、西郷さん、影ながら平和の死者である勝先生を、私は必ずお守りいたしますと倉田は約束する。

川で釣りをしていた浪人は、糸の近くに石を投げ込まれたので、こら、山中!冗談はよせ!とそばにいた仲間を怒鳴りつけるが、山中(宇部信吉)は笑って、貴様みたいな標準針にかかるかと悪態をついたので、バカ言うなと浪人は言い返す。

そんな浪人たちのもとに、おい、酒が来たぞと徳利を下げた仲間が帰って来たので、 ああ、ご苦労、ご苦労。

その後、釣りをしていた浪人も交え、五人の浪人たちが川縁で酒盛りを始める。

勝が下に立つとすればこいつはまとまるかもしれんぞと、酒を飲んだ浪人が発言する。

くそ面白くもない、長州が今一押しやれば幕府は倒れるに決まっとると、その盃を受けた浪人が答える。

そうだ。俺たちもそれを待っているんだ。幕府が倒れば薩長の大半が風雲に常じて天下を取ろうとして戦国時代が現出する、待ちに待った良い機会じゃないかと別の浪人も同意する。

そうだ、 世が再び戦国時代になれば、俺たちでも一国一城の主になれるかもしれんぞと別の浪人が張り切る。

うん、戦争だ、戦争だよ、戦争が続いて世の中が乱れることが俺たちにとって唯一の望みだと一人が言うと、そのためには勝を眠らしてしまうんだなと別の浪人が意見を言う。

そうだ、長州にやっちゃいかん。断じていかんと別の浪人が言うので、 よし、結論が出たぞと別の一人が言い、グズぐズしちゃおれんぞ、浪人暮らしには飽き飽きしたぞと他の浪人も吐き捨て、5人は全員愉快そうに笑い合う。

その後、各地から浪人たちが集結してくる。

勝先生が兵庫に向かわれたことは間違ないと俵屋の二階にいた倉田がつぶやくと立ち上がり、吉兵衛、兵庫に行くには西国街道を行くか大阪を回るかの二つだと、部屋でタバコを吸っていた吉兵衛(中村是好)に伝える。

へえ、 それはもう1番近い西国街道。それに出られることは間違いございませんと吉兵衛が答えると、わしは枚方の渡しを渡って先生を守ると答えた倉田は、吉兵衛、注意しておくことがある。長次の手先となってお艶が同行している、油断はならんぞと指示する。

へえ、そりゃもう大丈夫でございますと長次は答えるが、そんな二人の会話を、渡り廊下の屋根に乗った長次が盗み聞き していた。

承知しましたと吉兵衛が答えた時、下から杉作が登って来たので、杉作と呼びかけた倉田は、はいと答えた杉作に、お前は長次の行動から目を離すなと指示し、へい、大丈夫と杉作は答える。

注意するんだぞ、気をつけてねと倉田は杉作の肩を掴んで念を押す。

そんな会話を、長次の子分寅公も盗み聞いていたが、梯子を降りて来た長次が、おい寅公、え、 俺が新撰組とお奉行に応援を頼みに行くから、てめえ、身内のものを集めろと小声で指示を出す。

へえ、承知しましたと頷いた寅公は、自分が持っていた十手の先っちょに鼻をぶつけてしまう。

そんな寅公に長次は、おい、 早くしろとせかしたので、寅公はその場から離れる。

その後、「俵屋」の周囲には捕り方たちが集結していた。

捕り方たちは、「俵屋」の店先と裏手から一斉に中に進取し、鞍馬天狗を探し始める。

長次は調理場にいた老人夫婦に静かにしろと制する。

2階に登った寅公は、そこに一人残っていた杉作を見つけ、あつ、天狗は!と怯えるが、杉作は落ち着いて、親分、いらっしゃいませというだけだけだった。

やい、小僧、天狗はどうした?と長次が近づいて聞くと、天狗は鞍馬へ帰ったよと杉作がとぼけるので、何?馬鹿野郎!本当の天狗じゃねえ、てめえの先生だよと長次が叱ると、 知らねえ、おいらが帰ったら誰もいねえんだよと杉作は言うだけ。

何、惚けたことを言うんじゃない!、ここに隠れていることはちゃんと知ってんだぞと寅公が言い返し、 おい、めんどくさい、家探ししろ!と長次は寅公に命じる。

家探しが始まった頃、当の鞍馬天狗は馬で西に向かっていた。

「許可なく入室を禁ず」と書かれた張り紙が入口の戸に貼られた新撰組の屋敷

たかが長州1国ぐらい押し潰せば良い。会津藩が出兵すれば我々も蹂躙して日頃の鬱憤を晴らしたいところだ。そうだ!我々はそれを楽しみにしていた。大体勝安房という男は気にくわん。新撰組無用論を捉えたのもあいつだ。副長、俺は至急隊長に相談して断固たる処置を取りましょうと隊員たちがそれぞれ意見を述べると、いや、隊長の耳に入れるのはまずい。それは我々だけでに処理をしようと土方は答える。

このつもりでしっかりとやってもらいたいと土方が言うと、隊員たちは、はっと答える。

我々はこれから直ちに先行しましょうと部下が言うと、 あまり大勢では目につく、。

戸田、宮本、一木、大原、武田!この5名で決行しよう、我々は後から駆けつけると土方は指示する。

こういう際にも一番気にかかるのは例の天狗の動きですと武田(小濱幸夫)が言うので、そうだ、それはわしと岩淵とで対処しようと土方は答え、お前たち五名は、勝安房の方を油断なくやって欲しいと指示する。

はっ、承知しました!と答えた五名は、すぐに馬で出発し、土方らは駕籠に乗り込もうとするが、旦那!とそこに駆けつけた長次が、やっぱり天狗の奴、勝様のことで出かけますぜ、道は例の枚方の空き地から西国街道に出るようですと土方に報告する。

そうか。そう来るだろうと思ってたと土方が答えると、飛んで火にいる夏の虫と言う奴ですよと岩渕が続ける。

含み笑いした土方は、ではお諒さんと呼ぶと、背後に控えていて、はいと答えたお諒が一緒に駕籠に乗り込み、3つの駕籠が出発する。

お待ちどうさまと賑わう飲み屋

おい、今日はまあ、遠慮なく飲んでくれ、明日1日暇やるから…と飲み屋に寅公を連れてきた長次は、自分の盃に寅公から酒を注がれた直後言葉をかける。

それを聞いた寅公はへえと答えたものの、喜ぶどころか浮かない表情になったので、ええ?何でえ、そのつら? 気味でも悪いってのか?と長次は叱る。

いや…、親分にしちゃ物分かりがが良すぎるもんで…と寅公が言うので、。何? え、いや、いや、その〜、あんまり話がうますぎるんでねと寅公は笑いながら言う。

それを聞いた長次は急に笑い出し、そうじゃねえか、おめえ、めでてえ時には一日ゆっくり休んで一杯飲むのが昔から通り相場じゃねえかと長次が言うので、へえ…、だけど何がそんなにめでてえんです?と寅公が不思議がるので、何だ、おめえ…、知らねえのか?え?血の巡りの悪い野郎だと長次が不機嫌になると、血の巡りが悪いのは生まれつきですよと寅公は不貞腐れたように答える。

苦笑した長次は身を乗り出して小声になると、あの天狗の一件だよと教えると、 天狗? と寅公は考え込んだので、それ天狗だよと長次は繰り返すが、天狗って?と寅公は分かってないようなので、バカ野郎!天狗の一件だよと怒鳴りつけると、ようやく寅公も、はあ、天狗ですか?と答えたので、そうだよ、その一件がうまく行くんだよと長次は明かす。

その時、店の障子に指で穴が開き、杉作の目が店の中を覗き込む。

おい、散々煮湯を飲ましやがった鞍馬山の天狗がな、 え、 枚方の渡し場で、え?いよいよ往生する手はずになってるんだよと長次が打ち明けると、なるほど!こりゃおめでてえやとようやく合点が言ったように明るくなった寅公は、お姉さん、おかわりだよと言いながら、空になったお銚子を持ち上げて頼む。

その時、長次は障子の穴から中を覗いている目に気づき、十手を片手に窓を開けると、杉作が驚いて、あっ!と叫んで逃げ出す。

慌てて店の外に飛び出した長次も、 おい、ほら!さっきの小僧だ!と寅公に知らせ、あ、そうか!と気づいた寅公も後を付けていく。

そんな長次の木本を背後から掴んだ店の主人が、親方、お代を!と言ってきたので、勘定なら後で払う!とこれがわからんのか、これが!と長次は十手を振り翳して言い張る。

そのまま長次が後を追おうとしたので 。あ、そんな無茶なこと、親方!と叫びながら店の主人も後を追う。

逃げていた杉作は、道端に置いてあったムシロの後ろに身を隠す。

その直後に駆けつけた寅公が目標を見失って立ち止まったので、その後ろに近づいた長次が、おい、寅、どうした?と聞き、お前、あっち行けと寅公に指示して二手に分かれる。

むしろから顔を覗かせた杉作が、反対方向へ逃げようとした時、親方酒代を!と店の主人が近づいてきたので、驚いて逃げようとした杉作だったが、戻ってきた寅公に捕まってしまう。

そこに駆けつけてきた二瓶昌也伊勢の主人は、長次を捕まえると、親方お代を1つ…と願い出るが、後で払うと言ったじゃないか!と長次が怒ると、殺生なと言いながら両手を差し出す。

しょうがない野郎だなと文句を言いながらも、長次は財布を取り出し、ほれと料金を投げ渡したので、ありがとうございますと店の主人は礼を言う。

その頃、4人組の浪人たちが道を歩いていた。

物置小屋に閉じ込められた杉作は、畜生…、こんなところへ入れやがって!と言いながら、逃げ出そうとする。

その時、物置の鍵を開ける音がしたので、杉作は慌てて空き樽の中に隠れる。

入ってきた寅公は、杉作の姿が見えないので、おれ?あ、あ!あの天窓から逃げやがった!と早合点し、お〜い、大変だ!子供が逃げた!と騒ぎながら、戸を開けっぱなしにして外へ飛び出してゆく。

杉作はその開いたままの入り口から外に逃げ出す。

馬で到着した勝安房守をどうぞこちらへと客を宿に招き入れた女将が、こちらお客様ですよと奥に声をかける。

番頭と女中が店先に出てきて、いらっしゃいませ、ありがとうございます。離れの方へ…、どうぞ、お上がりくださいと案内する。

その宿に先に投宿していた山崎が、来た、来た!と部屋にいた仲間に知らせたので、勝か?意外に早いなと仲間も驚く。

しかも一人で来たぞと山崎が教えると、そうか…と仲間達も喜ぶ。

3人はすぐさま勝の部屋に乗り込み、勝先生ですねと山崎が問いかけると、何か用かね?と勝は聞き返す。

今回の長州行き御取り止め願いたいと山崎は訴える。

何のために取り止めるんだ?と勝が聞くと、理由を述べる必要はない!戦闘は一つ!と同行した仲間が言い放ったので、 なんだその様は?武士たるものの礼儀か?と勝は言い返す。

何? と山崎が気色ばむと、まあ、座りたまえと勝は冷静に言い聞かせる。

先生、この度の調停役は?と座った山崎が問いかけると、辞職性と言うのか?と喝が聞いてきたので、嫌と言うなら我々にも取るべき手段があると、立ったままの仲間が主張するので、刀にかけてでも言うのかね? と勝が聞くと、もちろん我々は命を投げ出しておるともう一人の仲間も答える。

ほほう…、趣旨こそ違っているがなかなか見上げた心掛けじゃ、わしも同様命を賭けての役目だ。 どうだ?お互いに死ぬ前に話し合おうじゃないかと勝は説得する。

話は分かっている。今更論ずる必要ない!と山崎が言い返すと、論ずるんじゃない。ただ事件を聞かしてやろうと言うのだと勝が言うと、議論の時代はすでに過ぎている。今はただ実行あるのみだ。全ては戦いが解決する!と仲間が言い返す。

それを聞いた勝は、戦いが何を解決し得る?ただ国土を騒し、力を弱めるだけだと勝は言い返す。

君たちの了見は狭いよ。これから目を大きく開いて世界の檜舞台を見ることだな。日本は諸外国から狙われているんだぞ。今次々と近海に現れる黒船を見ても君たちは分かるはずだ。今や我々は国を上げてこの危機に備えなくてはならん大切な時期だ!国内でお互いに同士討ちをするならば人と金をも消耗する、自然国家が衰弱する、この挙に乗じて諸外国の勢力が文明の武器を振り翳して我が国に迫ったとすれば、諸君はこれをどうして防ぐと思うか?と勝は懇々と言い聞かせる。

山崎、詭弁に惑わざるな!と山崎に仲間が声をかけ、もう一人も聞く耳持たん!討て!と言うので、まだ分からぬか、馬鹿者!勝はさほど腰抜けと思いよるか!と叱った勝は、脇に置いていた刀に手を伸ばす。

抜け!今日は敵だ!と息巻いた山崎も立ち上がるが、その時、部屋の外から、待て!と諌める声がかかる。

部屋に入ってきた倉田を見た山崎たちは驚くが、君たち、血気に逸って、手段を誤ってはいないか?と倉田は問いかける。

何? と山崎は気色ばむが、先生のお話をなんと聞く?君たちほどのものが分からぬはずはない!と倉田は言う。

しかし山崎は邪魔は許さん!たって邪魔立てすれば貴様も斬る!と息巻く。

すると、腰から拳銃を取り出した倉田は、ともかく一応部屋へ戻れと山崎たちに命じるが、その一部始終を廊下の隅でお諒が聞いていた。

その後、部屋から出て来て渡り橋に立った勝に近づいてきた倉田が、先生、誠に失礼いたしました。先ほどの若者どもは一応説き伏せ京へ返すことに致しましたと声をかけたので はは〜、そうですか。失礼ですが、あなたのお名前は?と勝が聞いてきたので、八州浪人倉田典膳と申します。ほほう、あんたがあの有名な鞍馬山の天狗さんかな?と勝は感心する。

これはどうも…、恐縮いたしましたと倉田が会釈して答えたので、二人は笑い合う。

翌日、柿谷の石碑の所で馬を降りて休息していた勝は、近づいて来た倉田に、徳川300年の時代ももう終わろうとしている、当然の結末がやってきたんだ。倉田君、日本にはもう少し大きな目で世界を見なければならん時代が来てるとは思わんかね?と問いかける。

そうです。 薩長でも幕府でもありません。もっと大きな将来のために努力すべきだと思いますと倉田が答えると、倉田君、 もっと大きな将来はもうそこまで来ているよ。今度はどんな筋が現れるかな?と勝は言う。

幕府方の場合もございましょうと倉田が応じると、そりゃ無論あるよ。わしはね、どうも幕府の憎まれっ子でなと勝は苦笑する。

しかし幕府の家来にはわしを斬れぬよ。こんな意気地があったら天下も今頃もう少しどうにかなっていたろうと勝は話し、旅人が二人の側を通り抜けたのをきっかけに、ではこれで別れようかと言い出すが、先生を狙うものはまだ他にもあると思います、御油断はなりませんぞと倉田は忠告する。

ああ、分かっておる。しかし、わしも役目を果たすまではそう安安と命は捨て屋せんよと勝が言うので。 それをご承知ならなぜお供をお連れになりませんでした?と倉田が聞くと、邪魔だからなと馬に跨りながらカツは答え、それに今度のような談判にはこれに限るよと勝は答える。

ぶらりと行って膝を付け合わして正直な話をする。これに限るよ。大袈裟に出かけたらこの話は不成立だと勝は続けるので、いや、ご尤もです。ではこれぐれもお気をつけておいでくださいと倉田は見送り、勝もありがとうと礼を言って立ち去る。

倉田も自分の馬に跨り、別方向へ走り出す。

旅をしていた吉兵衛は、ねえ、ちょいと随分先をお急ぎなんだねと、道端に座って休んでいたお艶が声をかけてきたので、ふん、それが悪かったかねと嫌味を言い返すが、なんざら知らない仲じゃなし…、声ぐらいかけちゃって良さそうなもんだがねとお艶はからかってくる。

ふん、生憎、そうしちゃいられねえのさと吉兵衛が立ち止まって答えると、仕事は大方似たようなもんだろうし、旅は道連れ、一緒に道中と洒落ようじゃないかとお艶が誘うので、冗談だろと苦笑して吉兵衛が歩き出したので、ちょいとお待ちよ、吉兵衛さん、吉兵衛さんったら!一緒に行ったって良いじゃないか…と言いながら、お艶も立って一緒についてくる。

馬で疾走する者がいる一方、徒歩で向かっていた浪人たちは、勝は十万国の策士だから共揃いも多いだろうし道中で討ち取ることは困難だななどと話しかけていた。

いずれにせよ行き先はわかっている、広島に着くまでにやっつければ良いのだからと同伴の浪人が指摘したので、当然先回りして待ち伏せるべきだなと鼻しっけた浪人は答える。

その浪人集団は二叉路に差し掛かると、お~い、近道を行こう!と一方の道を指差し、ああ、そうだと賛成して、そちらへ進路を変える。

一方、吉兵衛と二人旅になったお艶は、ちょいと、どうこらで一服しようじゃないの? と誘うが、何だ、もう休むのかと吉兵衛が呆れると、私は別談先を急いじゃませんからね、構いませんよとお艶が言うのを聞き、そりゃ俺だって休むくらい平気さと吉兵衛が言うので、じゃあおかけなさいなと誘う。

仕方なく、お艶の隣に腰を下ろした吉兵衛は、お艶がキセルを取り出したので、自分もキセルを取り出すが、罰が悪そうな顔になる。

そこに通行人が近づいてきたので、立ち上がった吉兵衛は、あの〜、大阪の…と尋ねかけるが、お艶が咳払いをしたので、気兼ねして、どうもすいませんと会釈して通行人をそのまま通す。

吉兵衛さん何でも聞きたいことがあったらお聞きな、私は耳を塞いどいてあげるよと、お艶が自分の耳を覆うふりをしてから買ってきたので、お前さんこそ何か聞きてんだろ?と言いながら、吉兵衛はまた腰を下ろしたので、おや、また痩せ我慢かいとお艶は苦笑する。

やがて二人は「右 西街道 左 大阪道」と書かれた石碑の前に来たので、どうしましょうね…、吉兵衛さんのご用はどっちなのかねなどとお艶はからかうように聞く。

そうね〜と吉兵衛が返事に窮すると、お困りなんだろう?探し物はどっちにいるか?こいつぁ運だね~とお艶は見透かしたように言う。

そうらしい、道も別れていることだから俺たちも右と左に別れるとしようぜと吉兵衛は言い、懐から出したサイコロを路上に落とすと「五」が出たので、お、半と出やがった、おいらは大阪行けってことだぜ、あばよとお艶に言うと、大阪道のほうへと進む。

それを見たお艶は、ふん、食えねえ野郎だよと吐き捨て、お艶は西国街道の方を進みだす。

その頃、杉作も走って倉田の後を追っていたが、途中、牛が引く荷車の上に飛び乗ったりもするが、のろいんだな〜と気づき、すぐに飛び降りて走り始める。

一方、馬に乗った勝は、「右 西国道、左 大阪道」と書かれた道標の前に来たので、右の道を選んでいた。

その直後、倉田もうまでその道標の所に到着し、馬を降りて勝の向かった方向に目をやっていたが、そこに吉兵衛が駆け寄ってきたので、おお、吉兵衛!ご苦労、ご苦労、どうだった?と声をかける。

へえ、旦那、それが皆目まだホシが掴めねえんで…と吉兵衛が言うので、よしよし、お前にはここでまだ働いてもらうことがある。今ここへ壬生の連中がやって来る、どちらかに行くか、場合によっては食い止めねばならん、良いか?と倉田は言い聞かせる。

そこに客を乗せた駕籠が近づいてくる。

道標の近くに来たところで、乗っていたお艶が駕籠屋に、駕籠屋さん、ちょいと下ろしておくれと声をかけ、駕籠から降りると、ちょいとこの辺で待ってておくれとと、待ち合わす人があるんでねとお艶は言う。

ようがす。じゃあおいらちょっと一服してまいります、おい相棒と駕籠屋は答え、その場を立ち去る。

籠の中に座っていたお艶を突き、ご苦労だなと声をかけたのは倉田だった。

立ち上がって、その正体に気づいて逃げようとするお艶に、まあ待て、女を相手に何するものか。そうか…、お前はここで新撰組のお歴々を待ち合わせているのか?と倉田が聞くと、存じませんとお艶はとぼける。

バカなことを言うな、勝先生が大阪へ行かず、西国街道へ出られたと知らせるのがお前の仕事なんだろう?と倉田が鎌をかけると、存じませんとお艶はシラをきる。

へへ…、存じませんはねえだろ、枚方まで仲良く道中した仲じゃねえかと近づいた吉兵衛もお艶に迫る。

お艶、どうだ?たまにはわしとも仲良くしてみないか?と倉田が迫ると、どうしろっておっしゃるんです?とお艶が言うので、勝先生を見なかったことにしてくれ。わけはないだろう。勝さんは大阪へ出られたらしいと新撰組に伝えてくれればそれでいいんだ、頼むよ、吉兵衛を残しておくから後でお前が何と言ったかは、やがてわしに分かることだよと倉田は説得し、馬に乗り、お艶、また会おうと言い残し、倉田は出発する。

お艶さん頼むよと、その場に残った吉兵衛が言うと、知らないよとお艶はそっぽを向く。

そこに馬に乗った一段が近づいてきたので、吉兵衛は慌てて置いてあった駕籠の中に入って身を隠す。

お艶、どっちだ?と馬上の隊員が聞くと、お艶は大阪街道の方角を指さしたので、良しと答えた新撰組の一行は大阪街道の方へ馬を進める。

駕籠の中から、お艶さん、ありがとうと吉兵衛が礼を言うと、複雑な表情をしたお艶が、バカ野郎!と吐き捨て、哀しげな表情になる。

枚方の淀川沿いの「船宿」「船定」

宿にやってきた倉田が、ゆるせと声をかけると、おいでやすと女将(鳳衣子)が出迎えたので、。 船を船を仕立ててくれぬか?遅くに済まぬが、急ぐ用事があるのだと申し出ると、船どすか?船は夜は…あの〜、まあ、一服しとくれやすなと女将が戸惑っている時、側でタバコを吸っていた船頭らしき権六(団徳磨)がこっそり二階へ上がってゆく。

二階には2人の侍たちが屯しており、権六が下を指差しながら、やってきやしたぜと伝えると、そうかで、火薬は?と侍が聞くと、大丈夫でと権六が胸を叩いて言うので、如才はあるまいが頼んだぞと侍は船頭に指示する。

へい、細工は流流でさ〜と権六は答える。

折角どすけど船はもう出やしまへんのんでっせと下では女将が倉田の相手をしていたが、船頭がいんでしもうて、いやせんのんだすと女将は断ってたが、なんとかならんであろうか?急ぎの用事だがと倉田が懇願すると、 ええ、それがなあ〜と女将は困る。

内儀、どうだろう。望み通りの礼はするが。いいえ。お金のことやおへんのどす、ほんまに困りましたなあ〜と女将も返事に窮していた。

その時、2階から降りてきた権六が、女将さん、あっしが参りましょう。そちらもを無理を承知でお頼みなさるんだ、ろくせきの御用があるに違いありません。へえ、旦那、支度をして参りますから、ちょっと潰してお待ちくださいと倉田に言葉をかけ店を出てゆく。

権さん偉いご苦労さんやな〜と女将は労う。

権三は、淀川に浮かべてあった小舟の中に置かれた火薬を確認し、上に布を被せて隠すと、背後を見遣ってニヤリと笑う。

「船定」の2階に逗留中の侍…、実は新撰組の岩渕は、帛紗に包まれた拳銃を開いて見せると、船のど中には例の火薬が忍ばせてあります。万事仕損じなきようと、同じ部屋にいた土方に声をかける。

土方は、良し、大丈夫と請け負って、侍が取り出した拳銃を手にする。

土方様、 私もお供しとうございますと部屋に一緒にいたお諒が頼むと、それは差し使えないが、しかし…と土方は迷う。

足手纏いになりますでしょうか? それはまあ…、守備を待っておられいと土方は笑って制する。

御まっとうはんどすな〜と、下では女将が倉田に恐縮していたが、そこに戻ってきた権三が、旦那、お待ちどうさまと知らせにくる。

何御お構いもできまへんで、どうぞ気をつけて行っとくれやすと女将が怒り出し、立ち上がった倉田は、船に向かう。

権蔵が行燈を持ってきて、お待ちどうさまと出発の合図をしたので、雑作をかけたなと女将に礼を言い、倉田は権三と共に宿を出る。

船の先端に行燈を置き、権三が漕いで、倉田が乗った小舟は出発する。

川岸では、拳銃を持った土方が船の様子を窺っていた。

そこにお諒が近づいてきて、拝見に参りましたと語りかけたので、そこは危ない。もっと下の方へ行ったが良いぞと土方が忠告すると、お諒は素直にはい、では…と従う。

船上で、キセルを燻らしながら巨頭の様子を見ていた倉田が、船頭、何を見ているのだ? と聞くと、え、別に何も…と権三は口籠る。

しかし不審に感じた倉田は、おい、ちょっと来いと権蔵を招く。

へえと権三が生返事をすると、すっくと立ち上がった倉田は、貴様何者に頼まれた?と問いかける。

権蔵は狼狽え、別に…と言いながら川に飛び込んだので、驚いた倉田は周辺を見渡すと、こちらに銃を向けていた土方を発見し、発砲の瞬間身を伏せて難を逃れる。

次の瞬間、倉田は海に飛び込み、土方は船の火薬を狙った発砲し、小舟は木っ端微塵に吹き飛ぶ。

その爆音に気付き、川縁に駆けつけたのは杉作で、倉田は見事な水泳で海辺にたどり着く。

そこに駆けつけてきた土方が助かった倉田を見つけ、また銃口を向けたので、それに気づいた倉田は、土方!なかなか味な手を用いますなと皮肉を言う。

もう最後だぞ!と土方が睨みつけると、鞍馬に接近してくるが、後退りながら、傷ついた左手で背後の岩場を探っていた倉田は、手頃な石を掴み、それを土方に投げつけると掴みかかる。

土方も銃を落とし必死の揉み合いになる中、なんとか刀を抜くが、その刀を倉田に払い除けられ、二人は取っ組み合いになる。

そこに駆けつけたのがお諒で、土方様!と呼びかけると、お諒さん、お父さんの敵だ!と地面に押し付けられた土方が叫んだので、はいと返事したお諒は自分の拳銃を構える。

その時、お諒の背後に来たのが杉作で、咄嗟にお諒の腕を掴んだので拳銃は空に向けて発砲される。

倉田は立ち上がると、土方を川の中に突き落とすが、先生!と叫ぶ杉作に腕を掴まれて拳銃を撃てないお諒は、お離し!と言って揉み合っていた。

先生!と杉作が呼びかけるので、 お諒さんと言いましたね、確か…、せっかくだが私の命はまだ上げられませんと声をかけると、杉作、来いと呼びかける。

大切な用事が片付いた時、改めてあんたとは対決しようではないか。あくまでも私を仇と付け狙うなら…と倉田はお諒に告げる。

側に来た杉作と共に立ち去ろうとする倉田に向かい、待ってください。私をこのままにして行くのですか?何故?何故私を斬らないのです? とお諒が呼びかけたので、斬る理由がない。理由のないものは私は斬らんと倉田は振り返って答えたので、では何故?何故私の父を…、あなたに斬られるような悪い人間ではなかったはずですとお諒は問いかける。

今はそれを説明している暇がない。しかし理由のないものは私は断じて斬らん。これだけは神明に誓って恥ないつもりだと答えた倉田は、来いと言って杉作と手を繋ぐと立ち去る。

それを見送るお諒の表情は悔しいような悲しいような、複雑なものだった。

倉田は杉作と共に馬で駆ける。

「大阪屋」と言う宿に泊まっていた山崎は同室の薩摩仲間に、どんなことがあっても勝を長州にやってはいかんと言っていた。

さだめし倉田君がお冠を曲げることだろうと髭を剃っていた同室の浪人も言う。

でもこのままじゃ脱藩の一部にしかならんと山崎が応じていた時、3人目の浪人が部屋に入ってきたので、どうだった?勝の消息は?と山崎が聞くと、うん、この大阪は来ておらん、西国街道を行ったのかもしれんなと帰ってきた仲間が応じたので、そうか…、おい、尼崎を抜けて兵庫へ行こうか?それに新撰組の奴らも勝を追いかけてるらしいと髭を剃った仲間は言う。

よし、すぐに発とうと山崎が言い出し、他の二人も同意する。

同じ「大阪屋」に逗留していた新撰組も出発の準備をしてたので、そこにやってきた酒に酔った風のお艶が、おや、もうお発ちなんですか? と聞くと、うん、予定が大変狂ったのだ。勝はこの大阪へは来ておらんのだ。西国街道を行ったらしいからすぐに後を追いかけることになったと組員が答える。

おやおや…、そりゃ大変ですわね〜と酔い潰れかけたお艶が言うと、お前が大阪なんて言うもんだから。こんな手違いをしてしまったぞと組員は愚痴を返したので、そうでしたね、本当にすいませんでしたとお艶は詫びながら笑いだす。

それを見た他の組員たちも仕方なさそうに笑うしかなかった。

そこに女中が、はい、お弁当と言って持ってきたので、おい、みんな支度ができたら出発しようかと組員は指示する。

その後、新撰組の五人も馬に乗って出発する。

宿に一人残ったお艶は、女中(小林キミ子)相手に酒を飲んでいたが、

女中が、ほんまでっか?本当に天狗はんにお会いにはりましたんですか?とうちわでお艶に風を送りながら聞くと、本当よ、本当のことなのよと酔ったお艶が答えたので、そうだっか?怖い顔してましたやろうな?やっぱり高い鼻して…と女中(小林キミ子)が好奇心丸出しで聞くと、そう怖い顔して…、でもなんとも言えない優しい目つき…とお艶は答える。

へえタラプと女中が感心すると、たまには俺とも仲良くしようではないかね…とお艶が言うと、まあ、天狗はんがそんなこと言うたんですかと女中は真に受ける。

そのために…、私つい嘘をつちまったんだよ、でも私後悔なんかしてないよ、それでいいじゃないか。

それでいいじゃないのさ〜、私は私で生きて行くんだよとお艶が力説するので、さすがに女中は呆れたような顔になる。

気に入らなきゃどうでもおしよ、どうでもしがれってんだ!冗談言っちゃいけない…と突然お艶が絡み出し、

ああ〜とその場に酔い潰れてしまう。

街道を直走っていた吉兵衛は、あ、いた、いたと喜ぶと、前方から馬に乗った倉田と杉作に合流する。

旦那良い所で会いましたと馬に近づいて吉兵衛が言うと、様子はどうだった? と倉田が聞くので、へえ、 旦那のお察しの通りで壬生の連中も大阪で宿を取りましたが、それよりも旦那、京へ帰ったはずの薩摩の連中の姿を見かけたんで後をつけましたら、何でも勝先生をやっつけるんだと言ってさっき宿を発ちましたと吉兵衛は報告する。

良し!こうしてはおれん、杉作、お前は吉兵衛と後から来い、良いか?と倉田は杉作に言い聞かせ馬から下ろすと、自分はそのまま馬で走り去る。

吉兵衛も、おい杉作、おじさんと一緒に行こうと誘うが、杉作は、おいら、おじさん嫌いだ!勝手に行くよと駄々を捏ね、倉田が去った方へ走りだしたので、え?おい杉作、 おい杉作、待ちなよ!何を怒ってんだ?おい、杉作!と呼びながら、吉兵衛はその後を追いかける。

その頃、歩いていた山崎は、おい、これをまっすぐに行けば西の宮だと仲間に教え、仲間もまた、うん、急いで行こうと同意していた。

そんな三人の薩摩武士を追い抜いていたのは倉田の馬だったので、おい、倉田じゃないか!と仲間が気づくと、もう一人の仲間も、あいつ邪魔しに来たなと気付き、よし、急ごうと山崎は言い、3人は駆け足になる。

川縁で握り飯を食い、休憩していた5人の浪人たちは、京から一気のしてきたんで、今夜は西宮泊まりとするんだなと1人が提案すると、いや、ついでに兵庫までのした方が勝の動静が分かって良いぞと別の浪人が言うので、うん、今夜は月明だ、夜を徹して歩くかと別の浪人が意見を言い、よし、じゃあ我慢して行こうと他の浪人も賛同する。

そこに近づいてきた馬の群れに乗っていたのは新撰組で、ちょっとお尋ねするが馬に乗った一人の武士がこの道を通りはしなかったか、ご存知ないか? と休息していた浪人たちに聞いてくる。

馬に乗った? それならついさっき通ったと、聞かれた浪人は嘘を教える。

人品卑しからぬの武士!と馬上の組員が確認すると、さよう、見かけたところ立派な武士だったと浪人が教えたので、おお勝だ!間違いないぞ!と新撰組の蓮絵通は互いに喜び、ごめんと言い残して去って行く。

確かにあいつらは新撰組だ、勝と言ったな?と嘘をついた浪人が仲間に聞くと、うん、確かにそう言ったと仲間も教えたので、ではさっきの武士は桂派だったのか?と他の仲間が答えたので、良し!後を追いかけろと嘘をついた浪人が全員に命じる。

新撰組の馬の群れの後を追っていたのは、倉田の馬だった。

勝の馬に追いついた新撰組は、馬の前方と背後に回って挟み撃ちにし、待て!と制止する。

わしを勝安房と知っての狼藉か?と冷静に馬上の勝が聞くと、もちろん!貴公の一命を申し受けるのだ!と答え、新撰組は刀に手を当てる。

すると勝は、無礼者!と一喝し、鞭で相手の額を打ち据える。

新撰組が抜刀すると、馬上の勝も刀を抜く。

そこに駆けつけた先ほどの浪人たちも、新撰組!助成するぞと呼びかけながら、勝の周囲を取り囲む。

勝が一人の浪人を切り捨てた直後、銃声が聞こえて新撰組の一人が倒れたので、その場にいた襲撃手たちは驚いて背後を見ると、馬に乗った倉田が接近してきていたのに気づく。

馬を飛び降りたまま銃口を敵に向けた倉田は、先生、早くお出でください、ここ私が引き受けました。早く早くと勝に声をかける。

その言葉に従い、勝が馬を進めると、それを追おうとする新撰組たちに倉田が銃撃を加え阻止する。

その時、土手を這い上がってきた山崎たち薩摩脱藩組三人は、倉田! 貴様!と言いながら刀を抜いてきたので、薩長連合に支障をきたすのが分からんか!と倉田は叱りつけるが、何!と山崎らは景色バム。

勝安房守は日本にとって大切な人なんだぞ、斬るならこの不逞の輩を斬れと倉田が新撰組の方を指さしたので、分かった!分かったぞ倉田!。 貴様をやらずにこいつらを叩き斬ってやると山崎は答え、他の薩摩藩士も、良し、引き受けた!というと、新撰組と浪人たちに立ち向かい始める。

その間に、白馬に跨った倉田は、勝の後を追って行く。

生き残った新撰組もその後を馬で追いかけ始める。

薩摩脱藩3人組は、その場で浪人たちを斬り捨てて行く。

倉田は馬上から背後に向かい、拳銃を発射するが当たらない。

途中、馬を降りた勝と一緒に倉田も馬を降り、拳銃で背後を撃つ。

河野浅瀬に追い詰められた勝は、羽織を脱いで、襷掛けの仁王立ちになり、倉田は拳銃で牽制しながら、勝の前に塞がる。

そして抜刀した倉田は、迫り来る新撰組を斬り捨てて行く。

勝も接近した新撰組を斬り倒す。

大半の新撰組を倒すと、残った数名は逃げてしまう。

その後、勝と倉田は砂丘を馬で進む。


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