「重臣と青年将校 陸海軍流血史」

1958年、新東宝、村山俊郎脚本、土居通芳監督作品。

昭和3年、広大な面積と豊富な資源を有する満州は貧困と疲弊に喘ぐ当時の日本にとって、経済的、軍事的にも確保必執の生命線と考えられていた。

かくて田中内閣は積極外交策を取り、日本の権益拡張を図ったが、日本の援助によって満州の主権者になれた張作霖は、その支配的な立場が確保されるや、大中国建設の野望を抱いて、俄かに日本排斥の態度を示し、交渉は難航を極めた。

かくて田中内閣を軟弱とする日本軍の青年将校たちは、忘恩の徒、張作霖を倒して一挙に満州を占領すべしと強く主張していた…

タイトル

昭和3年6月満鉄京奉線

線路に並べられたダイナマイト…

通過時間は8時30分…と電話で確認をしていたのは関東軍

関東軍は、捕まえていた中国人の縄を解いて逃してやると、張作霖が乗った列車が通過した瞬間、ダイナマイトを爆発させ、その後、逃がした中国人3人は、待ち伏せていた関東軍に射殺されてしまう。

田中首相は関係者の処罰を主張したが、閣議では、張作霖爆発の犯人が日本陸軍の将校だと分かると、天皇陛下の威信をも傷つけることになるとして反対される。

昭和4年6月田中内閣総辞職

浜口雄幸が次の総理大臣、陸軍大臣には宇垣一成が任命される。

桜会の将校たちは、橋本欣五郎少佐(細川俊夫)を中心に、満州を手に入れそこなかったのは重臣、元老や政治家たちの意気地がないからだと憤り、自分たちで軍政府を作り、昭和維新を目指そうと息巻いていた。

昭和5年11月13日、浜口首相は大演習参観のため、岡山県下に赴く途上にあった…

駅に到着した浜口首相は、待ち構えていた青年刺客(渡辺高光)から銃撃を受ける。

橋本少佐は決起を決意するが、杉山元(九重京司)からそれを知らされた宇垣陸軍大臣(坂東好太郎)は反対し、計画は解散させろ、いうことを聞かぬ奴らは全員満州送りだと言い放つ。

その頃、橋本少佐は満州の関東軍に作戦の同時決行を打診していた。

昭和6年9月18日満州事変勃発…

内地では、橋本少佐率いる桜会の集会に、海軍の藤井少佐(中山昭二)も加わって具体策を練っていた。

橋本少佐は10月24日が決行にふさわしいと判断していた。

荒木貞夫(中村彰)に革命政府の首班になるよう直談判に赴いた橋本だったが、荒木も満州で戦争が起きている今は自重しろというだけで承知しない。

自分たちだけでやると言った橋本中尉が退去した後、荒木は憲兵部隊に連絡し、計画の中止を命じる。

自決を仕掛けていた橋本中佐は芸者若駒(高倉みゆき)に制止され、憲兵隊に連行され、藤井少佐は満州で討ち死にしていた。

3月事件や10月事件の失敗は、首脳部を頼ったためだと分析した海軍将校三上卓(中村竜三郎)は、磯部大尉(御木本伸介)に、青年将校たちはの中核になるよう依頼する。

しかし磯部大尉は、今は立つときではないと不承知だったので、海軍と陸軍の一部有志だけで5月15日に犬飼首相狙撃を決行する。

犯行後自首した海軍将校たちに降った裁決は「禁錮15年」という軽すぎるものだったので、ますます軍部の勢力を拡大させてしまう結果となる。

果たして昭和10年8月…

永田鉄山軍務局長(山口多賀志)の部屋を訪ねた相沢三郎中佐(沼田曜一)は、天誅!逆賊!と言いながら、軍刀で斬り殺す。

自分たちの計画を知られ、満州送りにされることを知った磯部大尉は、いよいよクーデター敢行する腹を決める。

その場にいた安藤輝三大尉(宇津井健)は先輩である新聞記者藤野五郎(竜崎一郎)を訪ねる。

藤野は暴力革命、流血革命は国民をますます疲弊させるだけであり、絶対起こしてはならないと説く。

藤野は、5.15事件の時、東郷平八郎元帥からもらったという「忍」の字の掛け軸を見せられる。

あの時、元帥は、第二第三の事件が起こり、日本が暗黒時代になるのを予感しておられた…と聞かされた安藤は、何かを感じた。

栗原安秀(三村俊夫)は、煮え切らぬ態度の安藤を攻めるようになる。

安藤は、凶作で食うものもない両親と、娼婦になった妹のために、盗んだ金を送ってやった部下の前島に金を貸してやると同時に、庶民の苦しさをひしひしと感じる。

その夜、山下奉文(小林重四郎)の訓話を聞きに行った磯部や安藤は、真崎甚三郎閣下(林寛)にも話に行った旨を伝え、真崎閣下も我々の気持ちは十分わかっておられますという。

山下閣下は、岡田海軍大臣など叩き斬るんだ!と檄を飛ばしたので、青年将校たちは喜ぶが、一人浮かぬ顔をしている安藤だった。

その後も返事を先延ばしにした安藤だったが、自分の部隊の部下たちの中隊長の決起を望む会話を聞いてしまう。

そんな安藤は、藤野の死を知り自宅に向かう。

娘の聡子の話では、憲兵隊での話中狭心症に襲われた時いたが、父の体には無数のあざがあり、殺されたに違いありませんという。

里子は安藤に、父から渡してくれと預かったという「東郷平八郎の掛け軸」と、血まみれの藤野の洋服を見せられる。

安藤は、拷問された藤野の姿を思い、決意を固めたと里子にいい、血染めの藤野の服をもらって帰る。

安藤の決意を知った仲間たちは喜び、決行日は?と問うと、2月26日!と安藤は答える。

昭和11年2月26日拂暁!

青年将校たちは重臣たちを次々と暗殺していくが、やがて「勅命下る軍旗に手向かふな」と書かれたアドバルーンが上がる。

原隊へ復帰せよとのアナウンスを聞いて苦悩する青年将校たち。

磯部大尉は、おいみんな、下士官、兵たちは返そう…、そして将校だけ自決する!と言い出す。

しかしそれを聞いた安藤は、いやだ、今ここで自決するくらいなら、最初からやらない方が良かったんだ!と反論する。

俺たちは何のために立ち上がったんだ!国を救い、兵や農民を救うための新しい秩序を作るために立ち上がったんじゃないか!今ここで兵を引いては国民は永久に救われないぞ!俺はやる!俺の部隊だけでも絶対にやるぞ!と安藤は檄をとばす。

それを聞いた野中四郎(松本朝夫)は、確かに俺たちは新しい秩序を作ろうと立ち上がった…、だが今は俺たちが信じた将官たちでさえ俺たちを裏切ってしまった。彼らと一戦を交えても初志を貫徹しようとする貴様の気持ちはよくわかる!だあ、包囲軍に勝てるか?戦っても負けることは火を見るより明らかだ!俺たちはそれでも良いだろう…、しかし、兵まで巻き添えにするわけにはいかん!兵は返そう…、今返せば、逆賊の汚名を着せずに済むんだ!安藤!へいは返してくれ!と頼む。

その時、他の部隊は兵を返し、残されたのは安藤の部隊だけになり、将校たちは完全に包囲されたと報告に来た栗原から安藤は聞かされる。

野中から、どうしても兵たちと討ち死にするつもりか?と再度問われた安藤は、いや…、俺も決心した。下士官、兵は返すと答えたので、安藤、よく決心してくれたと野中は感謝する。

中隊の部下たちの前に来た安藤は、今から原隊に帰り、昭和維新の精神を受け継いで、しっかりお国のために尽くしてくれと伝える。

部下の堂込や前島は、安藤についていこうとするが、前島には満州に行っても元気にやるんだぞと言い聞かせて帰らせる。

部屋に戻った安藤は、自決しようという機運に気付き、老いみんな、弱きになるな!今、自決したら俺たちの負けだぞ!ここで死んだら奴らは事件のことを闇から闇へと葬るだけだ!と叱る。

そうだ、勅命はまだ下達されてない!もしここで自決すれば、首脳部の思う壺だ!という安藤の言葉を聞いた磯部も気づき、もう一度考え直そう!と言い出す。

ここまで来て惨めったらしく生きていろというのか!と栗原は納得できないようだったが、

栗原待て!もう一つ道は残されている、軍法会議で我々の意図を国民に訴えるんだ!陛下の御名において裁かれる軍法会議で…と安藤はいう。

幕僚ファッショの介入は許されまい、法廷闘争こそ、我々に残されたただ一つの道だ!と安藤は言い放つ。

みんなに自決する覚悟があるなら、そこまでやれるはずだと安藤は続ける。

場面は暗転し、スポットライトが当たった安藤は軍権と銃を椅子の上に置く。

しかし青年将校の最後の望みであった軍法会議後、上告は愚か、弁護士も許されぬ暗黒裁判であった。

彼らに下ったのは死刑であった。

処刑場の十字架に縛られた安藤たちは一人だけ目隠しを拒否する。

将校たちは天皇陛下万歳を叫び、磯部は、国民よ、軍部に騙されるな!と絶叫する。

その直後に銃声が響き、将校たちは絶命する。

かくて5・15事件、相沢事件と、相次いで起こった流血の三時は、この226事件の悲劇のうちに幕を閉じた。

青年将校たちの愛国の意図はついに実らず、彼らの犠牲的精神を利用した軍首脳部は、火を追って国政の主導権を握り、やがて世論を無視んで支那事変を起こし、ついに大東亜戦争の火蓋を切って日本の運命を敗戦の悲劇へ、暗黒のデッドロックへと叩き込んだのであった。

戦車戦を背景に、「暴力と流血に彩られた嵐の軍国時代を耐え抜いてきた我々は真の世界平和を築くため、かかる悲惨事を再び歴史の上に繰り返さぬよう普段の努力ぷろばなれに続けなければならない」とテロップ。

「明治天皇と日露大戦争」(1957)などと同じ歴史物だが、全体の尺も短ければ、前半部分の主演が細川俊夫さんというのも弱く、白黒作品というのもあって地味な印象は免れない。

宇津井健、丹波哲郎といった面々も登場しているが、当時の新東宝ではまだまだ脇を固める新人でしかない。

宇津井さんは「スーパージャイアンツ」で組む三ツ矢歌子さんとの共演シーンがあるくらい。

「スーパージャイアンツ」宇津井さんは、テレビ版「遊星王子」の三村俊夫(村上不二夫)さんとも同じシーンに出ている。

「ウルトラセブン」のキリヤマこと中山昭二さん、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」に出ていた松本朝夫さん、「光速エスパー」の細川さんや、テレビ時代劇に出ていた御木本伸介さんなどは、名脇役であっても大物感はなく、本作のオールスター感も希薄。

軍人を演じている役者は、坊主のつもりか全員短髪のヅラを被っているように見えるのも舞台芝居を見るようで違和感を感じるところ。

戦争スペクタクルは、満州事変のシーンで、戦車隊(初期の自衛隊協力?)が登場するくらい。

ちょっと注目したのは、後に「日本暗殺秘録」(1969)で高倉健さんが演じた相沢中佐を沼田曜一さんが演じていること。

健さんとは違った狂気を感じられる。

ただ、東映の「日本暗殺秘録」に似て、全体的にエピソードの羅列なだけといった感じで、1本の映画としての盛り上がり感は希薄で、最後のテロップも言い訳がましく感じなくもない。


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