「港祭りに来た男」

1961年、東映、笠原和夫脚本、マキノ雅弘監督作品。

小舟が置かれた漁村の浜辺で「七夕さん♩」と歌う子どもたち。

そんな子どもたちに「昔、若い漁師が美しい天女様に出会ってお互い好きになった」昔話を聞かせていたのはお光(花園ひろみ)だった。

「でもお殿様が天女様をお城によこせと言われ漁師をいじめたので、天女は空に帰ってしまったの」とお光は続ける。

「若い漁師はもう一度天女様に会いたくて、99足の草鞋を作って天に登って行ったのよ」というと「それで天女様に会えたの?」と子供が聞く。

「そうよ、だけど漁師は天国で食べていけないものを食べてしまったの」とお光は続ける。

「そしたら海から水が出て天の川が洪水になって、漁師と天女様は川の両端に分かれて、彦星と姫星になったのよ」とお光は教える。

「それで彦星はどうしたんか?」と子供が聞くので、お光が返事に困っていると、一艘の帆船が浜に近づいてきたのに気づき顔を輝かせる。

「それで彦星はどうしたんだ?」と先ほどの子供が聞くので、「それでね、神様が気の毒に思って、1年に1度だけ彦星が天の川を渡って姫星に会えるようになさったのよ」とお光は答える。

「それが七夕さん?」と子供が聞くので、「そうよ、だからほら、今日はあっちから彦星さんが大勢船に乗って帰ってきたんよ」と帆船を指差しながらお光は言う。

帆船から大勢の客が降りてくると、お嬢さん、寛太さん帰ってくるかしら?とお光に下女が話しかけてくる。

その時、次郎平一座という旅芸人一行が降りてきて、座長が本年もどうぞご贔屓にと出迎えた漁民たちに挨拶する。

今年はお殿様のお気にいるような若いのを選りすぐって連れてきましたよと座長が出迎えた錨屋総右衛門(伊東亮英)に伝える。

その座長の音頭で一座の女性たちが花笠音頭のような出し物を浜辺でちょっと披露してみる。

続いて丑寅一家が降りてきて、同じように牛寅(水島道太郎)が錨屋総右衛門に挨拶して、旗指物を背にし、赤い鉢巻きと眼帯をした大力大五郎(大友柳太朗)を紹介する。

すると大五郎いきなり、爺い、てめえか!娘を殿様に紹介して偉くなっているのは!と錨屋に詰め寄ると、だがちっとばかり磯臭えななどと言いながら襟首を締め上げる。

流石にそばにいた錨屋の番頭が止めに入り、こちらはな、お夕様のご実家にあたる錨屋の旦那だ、タダじゃ済まねえぞとというと、逆にその腕を大五郎は捻り、てめえたちが誰の親戚だろうと、この大力大五郎は天下の侍だ!と見栄を張り、刀を抜いて番頭たちの着物を切ってみせたので、周囲で見ていた漁師や旅人たちは拍手をする。

逃げ出した錨屋を見ていた見物人が、御法の網を潜って弱いものいじめして稼いでいる錨屋も地に堕ちたものだと噂する。

さらに、大五郎の背後に控えていた丑寅一家の仙六(堺駿二)が、無限流の大力大五郎とその居合い抜きの紹介をすると、大五郎も丁寧に頭を下げたので、周囲の見物人は拍手をする。

そんな中、出迎えに来ていた亭主がいなかった様子の赤ん坊を抱いた女に、お光は気の毒そうに声をかける。

旅人宿「蛸屋」の玄関口には、太鼓を持った泊まり客が座っていた。

そこにお光が戻ってきたので、帰ってきた?と店の男が声をかけるが、おゆうは寂しげに首を横に振る。

そこにやってきたのが丑寅一家で、仙六が、今年はちょっと見ものだよと店の者たちに言っていた。

そして、玄関先で落ち込んでいたお光に声をかけた仙六は、今日はお光ちゃんに良い土産を持ってきたんだよと言う。

仙六の背後にはおかめの面を被った男が立っていたが、仙六はその男を邪険に押し退ける。

やがて華やかな次郎平一座が街を練り歩く。

そこに向かってきた侍の一団があったので、一座の女芸人たちは道を開けたが、その背後から来た大五郎は、どけ!と侍が言っても動こうとしなかった。

さらに大五郎は、よお!と言いながら侍の胸を叩くと、これが侍の挨拶だ!と笑顔で言いながら、全員の侍の胸を突いて回る。

すると「貴様!たかが大道芸人の分際で!」と侍の一人が揶揄したので、何!と睨みつけた大五郎は、笑いながら、おめえさんたちが侍なら何か芸を見せたらどうだい?やれよ、やれよ!と詰め寄るので、侍連中は後退りしていく。

周囲の野次馬の声援に笑顔で答えた大五郎は、俺は逃げ隠れはせん!ただな、今日は商売だ、これが見たければ、場所は鎮守の境内だ、またな、じゃあ失敬をする!と頭を深々と下げたので、侍たちはその場から逃げていく。

すると沿道を埋め尽くしていた聴衆が一斉に拍手をする。

そんな大五郎の様子を見ていた狐の次郎平(小田部通麿)は、下手な人気取りをしやがってとバカにする。

一方町人たちは、これはえらい騒ぎになるぜ、今年の勝負は決まったようなもんだななどと噂し合う。

毎年殿様が鎮守の森で今年一番の芸をご覧になるんだ、2~3年はずっと狐の次郎平一座と相場は決まってたんだがよ、ひょっとすると…と言いながら、大五郎を指差すものもいた。

そんな中、見物客に娘の姿を見つけた仙六は近づいて、お嬢さん、今年も約束通り来たよと声をかけるが、娘が後ろ向いて、あんた誰?などという。

誰はないでしょう、お嬢さんなどと仙六が声をかけ続けていると、急に娘はそばにいた男の背後に周り、あんた!と呼ぶ。

仙六は人違いと気付き、謝ってまた歩き出す。

城の前まで来た大五郎は、城を見てため息をつく。

「蛸屋」では主人が遍路姿の老夫婦に、ご苦労なさったの~。もう何年になりますかの?と聞いていた。

すると老妻の方が、今年で五年目ですよと答える。

この七夕様だけが、年に一度の楽しみでしてな…、恥知らずにもつい足が…と老夫の方も続けるので、いやいやとんでもない、わしだってものの小半刻も旱が続けば、いつ何時お前さんたちと同じ身にになるか…他は年貢米のことなど考えて下さらんから…と主人は答える。

村の衆の身代わりになるのは庄屋の役目と諦めていますが、家屋敷はともかく娘までも…と老妻がいうので、婆さんと老夫が止める。

その時、二階から降りてきたお花(水原みゆき)が、お父っあん!と言いながら、老夫婦に出会うと、よく会えたねと再会を喜び合う。

江戸からずっと…と老夫はいうが、番頭が、お花!お客さんが待ってなさるぜと背後から声をかける。

お花は、お盆は1日だけ外に出れるからまた来てねと老いた両親に念を押す。

浜では仙六が子供達に握り飯を配っていたが、そんな中、一人の子供が、おじさん、強いんだろ?と休んでいた大五郎に聞いてくる。

うん、強い、この旗を見ろ、「天下無双」、おじさんに敵うものは一人もいないんだよと愉快そうに大五郎は教える。

そこにやってきたお勝(高橋とよ)が、子供たち!こっちじゃないだろうが!そんな握り飯で騙されるんじゃねえぞ、こいつらは人買いだぞ!と叱ってくる。

それを聞いていた座長が、おいお婆、人聞きの悪いこと言いなさんなよと注意すると、そうじゃねえかよ、お前らがあんな化け物を連れてくる度に、若いものが妙な欲を出して町から出ていきやがるんだ!と大五郎の前に立ち塞がる。

この港町は、こんな老耄とカスばっかりしか残っていねえのはお前らのせいなんだぞとお勝はいう。

見ろやい、あの家はな、10年前、彦一と権爺の家だったとお勝は指差す。

彦一って奴は働き者で良い男だったが、彦一の好きなおゆうってあまっこを殿様に買われてから、毎日毎日ワイワイ泣きおったが、とうとう病気の権爺を置いて旅のやつに買われたのか、海を渡りよったとお勝はいう。

そしたらな、権爺も可哀想に首吊って死によったんじゃぞというので、それを聞いていた大五郎は驚く。

よそもんのクソッタレ!とっとと出ていけ!とお勝は悪態をつき、立ち去ってゆく。

先生と慰めて聞いた牛寅に、親方…、見てきたいと大五郎は呟く。

お勝が自宅に帰ると、そこに巾着袋が置いてあることに気づき、中を見ると金が入っていたので、驚いて外に出て周囲を見渡すが、一瞬早く、おかめの面を被った男が姿を隠した後だった。

婆さんが話していた彦二の家にやってきた大五郎は、荒れ果てた家の中に、首を吊ったらしき縄がまだ天井からぶら下がっているのを見つける。

さらに、古びた七夕用の笹の枝に下がったままの「彦一」「お夕」と書かれた短冊も見つける。

丑寅の宿に戻ってきた男が、実は、女房子供に会いてえと思って帰ってきたんだが、会えねえんだよというので、聞いていた仙六は、どうして会えないんだよと聞く。

それがね、この男は錨屋から借金をしたのが運の尽きでねと一緒に聞いていた仲間が教える。

じゃあ見つかりゃ?と仙六がいうと、こうなるんよと男は両手を前で縛られる格好をする。

そんな話を大五郎も窓辺で聞いていた。

一方、親方、どうも大変な人気ですな?明日はきっと果たし合いになるんじゃないかってねと外から帰ってきた「蛸屋」の主人喜衛門(源八郎)が、丑寅に世辞を言っていた。

しょうがねえと丑寅が愉快そうに酒を飲むと、それじゃ、お殿様がご覧になるのが決まったようなものですねと酌の相手をしていた女将おまさ(赤木春恵)もいう。

ところで親方、あの御浪人、どういう素性の方なんで?と2階を見上げて喜衛門が聞くと、一瞬口籠った丑寅だったが、ま、明日を楽しみにしておきましょうよと笑顔でいうだけだった。

その時、お父っあん、どうしても親方に会わせてくれってと言いながら、お光が子供達とその両親らしき男女を連れてきたので、主人はいかんいかんと断ろうとする。

わしに御用だって?と丑寅が聞くと、それがね、親方さんに見てもらってもしよかったら買ってもらえないかというんですとお上が説明する。

親方さんですかと丑寅の前に近づいた父親は、安くしときますから一つか二つは買っていただきてえんでと、連れてきた5人のこどたちを紹介し始めると、新吉ちょっとあれやってみと勧める。

呼ばれた長男がその場で逆立ちをしようとするので、わかった、わかったと止めた丑寅は、旦那、如何でヤン翔、一人あたま2両五分という見当でなどと父親はいう。

しかし丑寅は、俺には買えねえなというと、お前さん、親方さん、2両でも結構でございますと母親の方が頭を下げてくる。

父親も2両と指を出したので、いや金はあるんだよ、ただ子供を買う金は持っちゃいねえんだと丑寅はいう。

喜衛門がお帰り、お帰りと追い返していると、おかめの面を被った男が親方!と言いながら帰ってくる。

部屋の隅で、調べてきましたぜとおかめ面が言うので、どうだった?と丑寅が聞くと、明日の御上覧においでになるのは間違いないようで…とおかめ面は報告する。

そうか…と丑寅はいい、黙ってるんだぜとおかめ男に口止めすると、そばにいたお光の前にそのおかめ男を突き出す。

三ちゃん!とお光は気付いておかめの面を外すと、主人も三太(坂東吉弥)!と驚いて近づき、おまさもそれじゃあ、親方さんの一家に!と事情を察する。

お光ちゃん、俺はよ、俺は軽業師になったんだよ、これでもちょっとしたもんなんだぜと喜衛門とおまさの前で三太は打ち明けるが、喜衛門とおまさの表情は固かった。

ねえ親方!と三太が賛同を得ようとすると、馬鹿野郎!得意になってやがると喜衛門が叱りつける。

あんな年寄りをひとりぼっちにしやがって!と喜衛門がいうと、あんた、お勝ばばがどんなに悲しんだか!お前が家出した最初の1年は泣きの涙、2年目は愚痴ばかり、今年は家に引き篭もったきりなんだよとおまさも叱る。

だからよ、親方に言われて、おいら会いに帰ってきたんだよと言い訳する三太。

よお、お光ちゃん!と茂次兵衛の背中にしがみついていたお光ににじり寄った三太だったが、お光は、ばか!嫌い!というなり、三太の頬を叩いて奥へ逃げていく。

階段のところでその様子を見ていた大五郎が出かけるので、丑寅も一緒に外に出る。

先生、明日って日があるんだ、酒はいけねえよと牛虎が背後から注意すると、親父さん、お前確かお父は病気で死んだって言ったな…と大五郎が聞く。

そうだ、おめえがあんまり可哀想で、俺は本当のことは言えなかったんだ、勘弁してくれよと丑寅は謝る。

とにかくな、今度の旅は俺は損得抜きでやってるんだぜ、それもみんな、おめえの守備を果たしてやりてえからだと丑寅は続ける。

うめえことに、俺の解体の通りに運んでいるよ、分かってくれるな?と丑寅がいうと、大五郎は頷く。

暗くなってきたので、行燈の準備をしかけたおせつに仙六が、ものは相談だがねと話しかける。

明後日の盆の晩な、この手拭いと仙六が懐から手拭いを出すと、お節は恥ずかしそうに顔を隠してしゃがみ込む。

おいらに結ばせてくれねえか?と仙六が近づいて頼むと、その手拭いなんじゃ?と言いながらお節は払いのける。

分かってるくせに、お盆の前夜、野郎は赤、娘は浅葱、この手拭いを結びつけると恋が結ばれて…と仙六がいうので、いやらしいとお節が立ち上がると、仙六はその尻を触る。

おら、おめえなんかと恋結びしたくねえもんとお節が言うので、それはね、食わず嫌い!と仙六は答えるが、お節は部屋から逃げ出してしまう。

その後を追おうとした仙六だったが、上半身はだけた仲間が仙六を抱え上げ、仙六さん、すまん!この娘はわしのじゃと笑顔で説明する。

一人部屋に残された仙六は行燈を倒して悔しがる。

その頃、お光の部屋では三太が浅葱色の手拭いを渡そうとしていたが、お光は受け取るのを拒絶していた。

おいらを嫌いになったのかい?と三太が問うと、好きよ、好きだけど、三太さん、昔の漁師の三太さんに返って欲しいのとお光はいう。

だけどよ、漁師じゃ、一生貧乏暮らしじゃねえか。よお、俺大五郎さんについて立派な侍になるんだと三太はいう。

後2年待ってくれよ、その時はおばあもお光ちゃんも…と三太が言うと、忘れたの?お盆の時はお侍さんは踊れないのよ、私たち町人だけの踊りよとお光は言い返す。

踊れない人にどうしてそれを結んでもらえるのよ!とお光は、三太が手にした手拭いを見ながら恨めしそうに聞く。

三太が答えられないでいると、嫌い!と言って、お光は中庭に降りて泣き出してしまう。

その頃、大五郎の方も、一人夜空を仰いで考え事をしていた。

そんな大五郎が涙を指で拭っていると、昼間浜辺であった子供がやってきて、おじさん、僕を買ってくれないかな?と切り出す。

え?どうして?と聞くと、おいら、買ってくれるといいんだけどな、おっちゃんみたいに強くなりてえもんと、大五郎の隣に腰をかけていう。

だがな、おいちゃんみたいに強くなるにはこんな傷がつくんだぞと頬の傷を刺しながら大五郎は説得するが、おいら平気だいと子供は言うので、まだまだいっぱいあるんだぞと脅かすと、えっ!と子供が驚いたので、ほら見ろ!と胸をはだけて見ると、あ!と子供は叫ぶ。

「七夕祭」と書かれた幟が立つ中、松明を手にした町民たちが街を歩いている中、子供は大五郎の体の傷を99まで数えていた。

坊や、辛抱できるかい?と着物を着ながら大五郎が聞くと、痛かった?と子供が言うので、痛かったな…と答えると、おじさん、泣いたかい?と言うので、泣いたよと笑いながら教え、もう一度真顔で泣いたと答える。

そこにやってきたのがお光で、お姉ちゃん!と子供が呼びかけても気づかない、三太って奴に伝えたかい?と大五郎が問いかけると、男ってみんな偉くなることしか考えないのねとお光は呟く。

どうして?と大五郎が聞くと、三ちゃんだって結局彦一と同じなんだわとお光はその場に腰を下ろしていう。

大五郎は、彦一…と呟き、子供も、お姉ちゃん、彦一って誰?と聞く。

彦一はね、漁師だったの…とお光が話し出す。

10年前のお盆の夜に同じ村のお夕様という美しい女の人と仲良しになったの…

だけど彦一は貧乏だったから、いく末のことばかり考えて、なかなかお夕さんをお嫁さんにしようと言わなかったの…

そのうちに、お殿様がお夕様をお城に出すようにとおっしゃって、お夕様は彦一と別れてお城に行ったの…

彦一はお城の前で三日三晩泣いて、泣いて、そして四日目に姿を隠してしまったの…

彦一はバカよ…、女の心がわからないのよ…とお光は悲しそうにいう。

かわいそうに、お夕さんは、街の人に鬼だ、鬼だと言われているけれど、私はお夕様の気持ちがわかるわとお光はいう。

その頃、お夕(丘さとみ)は実家である碇屋に来て、両親に久々の再会の挨拶をしていた。

そんなお夕に、母親お貞(東龍子)が、ねえ、お夕様、いずれ相談にあがろうと思っていたんだけど、お前様ももう御用の済んだ体だし、この七夕様が過ぎたら御藩中のどなたかと見合いをしてみたら?と勧める。

この話は、御家老様の御内諾も頂いているんだよ、お前様さえその気なら…と父の錨屋総右衛門も付け加える。

しかしお夕は、このままでよろしゅうございますと答える。

しかし、この先一人というわけには…と総右衛門は案じ、その方が御前様だけでも町中の嫌な声を聞かずに済むだろうし…とお貞も説得しようとする。

しかしお夕は、首を横に振るだけだった。

夜の街では、松明を持った白法被の一行が、鈴を流しながら練り歩いていた。

お夕は、座敷の庭先で「彦星」の短冊が飾ってあった七夕の笹に魅入るのだった。

そんな姿を見た長田は、お前様はまだ昔に…と問いかけるが、お夕は悲しげな表情を見せるだけだった。

翌日の神社の境内は人出で大賑わいだった。

演芸場では、次郎平一座の踊りの練習が始まっており、舞台裏では、昨日の子沢山夫婦が座長に子供を買ってくれないか持ちかけていた。

昨日、大五郎と揉めた侍五人衆も、錨屋の番頭に案内され来訪していた。

演芸場の舞台では、仙六の口上で力持ち自慢が技を披露していた。

おかめの面を被った三太も、舞台でとんぼを切って見せる。

その後、仙六は、天下無双の大力大五郎を紹介する。

満員の演芸場にやってきたのはお勝で、受付の丑寅が、もう満員だからと制止するのを無視して入場する。

件の侍五人衆も、外で大五郎襲撃の手筈を整えていた。

外で襲えば町人たちが黙ってはいまい、満座の席で堂々と斬る手があるのだ、殿の御前でな…と相談しあっていた。

うまい手だ、うちの旦那からお奉行様に手配していただきますと錨屋の番頭も賛同する。

舞台では仙六が客たちに、大五郎の見せ物用の白扇を配っていたが、最前列に陣取っていたお勝も、その白扇を一本奪い取る。

仙六が、今配った白扇を大五郎に投げていただき、見事受け止めましたら拍手御喝采と口上を述べる。

そして、客たちが一斉に投げつけた白扇を、大五郎は次々斬り捨てていくが、最後に投げた相手がお勝と気づくと、三太!と呼びかける、脇で控えていた三太が面を取って客席のお勝を見つけると驚く。

舞台に登ったお勝は、おら、軽業師になっておばあを楽させようとしたんだよと言い訳する三太の襟首を掴むと、その頬を叩く。

その騒動を舞台上で愉快そうに見る大五郎。

もうおばあでも孫でもない、金輪際勘当だ!と再び三太を叩くお勝だったが、俺、日本一の軽業師になって見せるからよと三太も必死に説得する。

おばあ、見ててくれよなというと、その場でとんぼを切ろうとするが失敗して客席から笑われてしまう。

するとお勝は、何がおかしい?と客席に怒鳴りつけると、アホ!この根性なしの出来損ないめと舞台に倒れていた三太につかみかか理、頭を叩く。

殴られた三太の方も、この石頭!死に損ない!と言い返すが、三太、悔しかったらもっと上手にひっくり返ってみいとお勝はこっそり言い返す。

客席からも応援する声が聞こえ、大五郎もしっかりやれよと声をかけたので、気を取り直した三太はもう一度トンボを切って、今度は見事成功する。

するとお勝も上手いぞ、うまいぞ!と喜んだので、三太は抱き合って感激する。

そんな中、芝居小屋の受付の丑寅の所に男がやってきて、決まったよ!奉行所からな、殿様の御上覧はおめえのところに決まったらしいんだと伝える。

舞台上では、えろう邪魔したなとお勝が客席に侘びながら帰ってゆく。

そこへ丑寅が舞台に上がり、大五郎に、先生、御上覧は先生の居合い抜きと決まったぜ!と手を取って知らせる。

それを知った客たちも一斉に歓声をあげる。

その夜、若い男女は腰に赤と浅葱の色違いの手拭いを下げ、一斉に路上で踊って結び合う相手を探してた。

蛸屋の玄関口でも踊りは行われていたが、一人の男が踊っていないので、お光が事情を聞くと、錨屋に知れたら大ごとになるんじゃないかなと男はいい、俺が帰ったら、このでんでん太鼓を子供たちに渡してくれよとお光に託す。

しかし、それを一旦受け取ったお光は、卑怯者!あんたもみんな自分勝手よ!というと、でんでん太鼓を男の元へ投げ返す。

やがて路上で踊っていた町民たちが一斉に踊りをやめ土下座をする。

お夕が駕籠に乗るところだったからだ。

そこに大五郎が通りかかる。

お夕の方は気付かず、そのまま駕籠に乗り込むが、大五郎はお夕を見やりながらその場に片膝つく。

駕籠が遠ざかるのを見送った錨屋総右衛門は、町民たちに、ご苦労!と声をかけ、また踊りが再開する。

丑寅たちは大五郎を気遣い、その周囲に集まるが、大五郎が駕籠の方へ歩こうとするのを丑寅は止める。

蛸屋の店内で、先ほどのでんでん太鼓の男も一人寂しげに踊っていたが、そこにお光に連れてきた女が近づく。

おまえさん!と言いながら女が男の手を掴むと、ああ、お蝶(条ちづる)!と男は驚く。

お蝶はそんな男の頬を、ばか!というなり張り飛ばす。

外で帰ってきた丑寅一家を見つけた女が、仙六に声を変える。

一座の仲間達から押し出される形で仙六が近づき、俺は怒ってるんだよというと、女は、だってさ、今年亭主持ちになったのよと言う。

でも2年も続いた俺の盆嫁だったんだぜ、明日の晩は誰様であろうと、好きだったら一人の盆嫁の婿になるなら良いって昔から神様が決めなすったんだろう?というと、だからさ、値はどうすればいいんのと女が言うので、決まっているじゃねえか、明日の晩…と仙六は誘うが、でもどうする?亭主に…と女が迷うので、うまいこと抜け出せよ、去年のように小舟で沖へ漕ぎ出しちゃ?な?と仙六は説得する。

蛸屋の店先では、男が勘弁してくれよ、俺はおめえに会いたいから帰ってきたんだよ!とお蝶に謝っていた。

だって、借金返さねえと元の漁師に戻れないしよ、錨屋の旦那の目を盗んで、おめえが子供を連れここを逃げ出したことを…、食っていけねえしよ!許してくれ、いずれまた別れないといけなくなるし…、それなら一生会わずにいたほうが…と男は懸命に言い訳する。

しかし、喜衛門とおまさに両腕を取られていたお蝶は、卑怯者!甲斐性なし!錨屋の旦那に捕まって牢に入ったほうが良いんだよ!おまえさんなんかこの街を出て行ったほうがどんなに良いか!などと言い放つ。

そして主人夫婦の腕をふり解いたお蝶は、落ちていたでんでん太鼓を拾って亭主を殴ろうとするが、その手をお光に止められ、でんでん太鼓を見やる。

そして感極まったお蝶は、あんた…、会いたかったよというなり亭主に抱きつくのだった。

そんな夫婦の前に近づいた大五郎は、こら!錨屋の借金はいくらだ?と突然聞く。

夫婦は最初黙っていたが、言わんか!と大五郎が大声を出すと、3両ですと答える。

3両か?といった大五郎は、自分の財布の中を確認し、そのまま夫婦に投げてやる。

これは?と不思議がる亭主に、やる!それで借金払え、それからゆっくり出直すんだと大五郎はいう。

みなさん、わしはな、明日、このご領主の殿様の前で命懸けの剣技を見せると大五郎は、周りの野次馬たちに語りかける。

生きてここへも戻れんかもしれん…と大五郎はいう。

ところでみんな盆嫁は決まったか?と言いながら、娘たちの腰に下がった手拭いを確認し出した大五郎だったが、お光の腰には何もついていなかったので、コラ、三公!しっかりせんか、このデコ助!というと三太を突き飛ばし、お光に抱き付かせる。

それでも嫌い!と跳ね除けたお光を見た大五郎や野次馬たちは一斉に笑い出す。

翌日、屋外の神社で待ち受けた藩主(沢村宗之助)の面前に登場した大五郎は、藩主の横で見学していたお夕に気づくが、腰に刀を差して片膝をつく。

その時、仙六が口上を始める。

東西、東西!これよりご覧に供しまするは、無限流の達人、大力大五郎兜斬りの神技にござりまする。

もし仕損じましたるときは武道の慣わしとして、御当藩の槍の名手に大五郎の命を召されることになっておりますというので、見ていたお光たちは驚く。

その見物客の中に、鳥追い姿の女もいた。

大五郎は刀を抜くと、面前に置かれていた兜に近づき、一振りする。

大五郎が後退り、槍の2人が兜を槍の柄で突くと、真っ二つに兜が割れたので、うん、見事!と藩主は褒める。

仙六が大五郎の刀を受け取ると、丑寅が進み出て、さて最後にご覧に供しまするは、素手真剣打ち取りの剣技!無限流の極意だと聞こ覚えますと挨拶する。

つきましては御藩中の方、真剣にてこれなる大五郎とお立ち合いいただきたくお願い申し上げます…と丑寅が呼びかけると、何?すでにて真剣に立ち向かうと申すのか?と藩主も驚く。

はい、御意にございますと丑寅は答える。

誰かおるか?と藩主が呼びかけると、5人の若侍が名乗り出る。

重ねて聞くが、この場に置いて斬り捨てようとも不服はないと申すのか?と藩主が念を押すが、御意!と丑寅は答える。

ただ些か大五郎に賞恩がございますゆえ、見事ご披露ののちは何卒お聞き入れてくださりたい品がございますと丑寅は頭を下げる。

よし、何なりと望みのものを遣わす!と藩主は言うので、確かに?と丑寅が確認すると、二言はないわ!と藩主は興奮気味に応じ、かかれ!と若侍たちに命じる。

大五郎は最初の侍の刀を奪い取ると、他の四人を足払いして遠ざける。

さらに槍の二人が向かってくると、退け!と怒鳴って下がらせると、刀を捨てた大五郎は藩主に近づき、殿様、俺の欲しい品物を確かにくれますかい?と語りかける。

自分の刀に手をかけていた藩主は、運、なんじゃ?言え!と答える。

すると笑顔になった大五郎は眼帯を外し、お夕の方を向くと、その品は…、お夕さんだ!と指さす。

おゆうはまじまじと大五郎の顔を見て、彦一さん!と気づく。

そうだよ、おらあ彦一だよと笑顔で答える大五郎。

そして騒ぎ出した群衆の方を振り向いた大五郎は、俺はな、10年前に街を飛び出した彦一だ、漁師の彦一だよ!と正体を明かす。

槍の二人に抑えられながらも、満面の笑顔の大五郎は、今夜の俺の暦はオメエだで、オメエだよと訴えたので、群衆は沸き立つ。

城に戻ったお夕に、どうするつもりじゃと問いかける藩主。

お夕は、お暇を頂きますと願い出る。

今日で十年のお約束は果たしました。ひとかたならぬご寵愛をいただき、ありがとう存じましたと礼を言うと、そちはあの化け物…、いや、あの…、大力大五郎とか申すはしたない武芸者の元に参るのか?と藩主は尋ねる。

いいえ、夕は大力大五郎などと言う浪人者は存じませぬ、殿があの武芸者と約束なさった理由は今は殿に御用がなくなった品物。送られる所存にございますとお夕がいうと、だがのう…。見どもはそちを…と藩主は言いかけ、その場に居並んでいた他の側室たちの目を気にする。

その動揺に気付いたのか、殿!と側室が強く声をかけたので、藩主は自分の席に戻るが、側室は、この見苦しい婢女め!と罵倒したので、お暇致しますとお夕は繰り返す。

その後、蛸屋の前は彦一に合わせろと言う人だかりがして、お勝も、彦さんに謝らせてくれ!開けてくれ〜!と喚くので、仕方なく中に入れることにする。

一斉に中に入った民衆を前に、みなさん、聞いておくんなさいと丑寅が冷静に説明し始める。

10年前は確かに漁師の彦一でござんした。が、今じゃ大力大五郎という立派な武芸者なんですぜ…。

こうなるまでに先生も、全身に99箇所の刀疵を受けて、ほれ、七夕さんの彦星の話のように、99足の草鞋を作ってやっとの思いで天に登った彦一さんが彦星となって、今夜はおめえさんたちと同じように先生は姫星様をお嫁をもらうんだよと丑寅がいうと、バカ言うんじゃねえ!何が姫星じゃ、あれはどじょう髭の妾じゃ、鬼じゃ!とお勝がいう。

それに他の民衆も騒いだので、いいじゃないか、鬼だろうと何だろうと、先生に撮っちゃ10年も思い続けてきた…、おう、お夕さんはね、たった一人の女なんだよと丑寅は言い聞かせる。

頼むから、そーっと住まわせといてくれ、じゃないとね、お前様が邪魔になって神様が天の川に橋をかけてくださらねえからね、お願え致しやすよと丑寅は頭を下げて頼む。

その効果があり、野次馬たちはすごすごと引き返していく。

そんな蛸屋の騒ぎを、そっと見守っている鳥追い姿の女。

その頃、蛸屋の部屋では、大五郎が一人昼間から酒を飲んでいた。

廊下では仙六が三太に、先生なんといってた?だから悪いこと言わねえ、お前は元の漁師に返った方が良いんだよと言い聞かせていた。

やだよ、俺は日本一の軽業師になるんだ、彦一さんだって10年経ったら日本一のお侍さんになれたくらいだからと三太は言い張るので、仙六は馬鹿野郎!と叱る。

先生は野心があってこその侍だ、それに格好だけの侍なんだよと仙六が言うと、急に、仙六!と呼ぶ声が響き、廊下に大五郎が現れて、俺は侍だ、侍になったらと侍に賭けたんだ…、俺は大力大五郎だぞと言いながら近づいてきたので、そうです、そうでしたね、先生は…と仙六も調子を合わせるしかなかった。

三太は、先生!先生はお侍様だなと言うので、そうだよ、だけどな、三太、おめえはなれねえよと大五郎はいうので、なります!おいらも十年かかって…と三太が言うと、バカめ!といきなり大五郎が抜刀したので、三太は肝を潰す。

お前は九十九箇所の傷を持つ必要はない…、その傷ひとつでいいんだ…と刀を鞘に収めながら大五郎はいう。

三太が何気なく自分の右足を見ると、向こう脛に斬られた傷があって出血していたので腰を抜かす。

慌てて三太の傷を調べた仙六は、大したことないじゃないかと傷口を叩く。

大五郎も、三太、お前は漁師になれと笑いかける。

先生!と三太が立ち上がると、お光坊を離すんじゃないぞ…、さもないと殿様に取られちまうぞと大五郎入って部屋へ戻る。

蛸屋の玄関口では、まだ帰らない野次馬が入ってこないように戸を閉めていたが、その中の女中に先生に酒を持って行かせた丑寅に、親方、どうなるんです?あの人はと2階を指しながらと喜衛門が問いかける。

さあ…、わからねえなあ…、俺は一か八かの博打をしたまでだ、賭けには勝ったが…さて…、鬼が出るか蛇が出るか…と丑寅は口を濁す。

そうですよ、今もって沙汰がないのは、お夕さん、姫星じゃありませんよ,、鬼だよきっと…とおまさが断定する。

女将さん、外はまだ明るいんだ、鬼だったら暗くなんなきゃと出てきませんよと丑寅は苦笑する。

やがて雨が降り出し、蛸屋の前に集まっていた野次馬たちが一斉に帰ってゆく中、鳥追い姿の女が開けてくださいな、泊まり客なんだよと声をかけたのでとを開けて中に入れてやる。

笠を取った女は丑寅の前にくると、親方さんと声をかける。

お陽さん!と顔を知った者が声をかけたので、こんにちはとお陽(千原しのぶ)は会釈する。

お陽さん、こんなところまでつけてくるなんて、お前さんも因果な女だね〜と丑寅はいう。

本当だね〜と同意したお陽は、親方、惚れるってことは自分が自分をわからなくなるものよと丑寅の横に座って近づく。

ま、今会ってやらない方が…と丑寅は呟くが、お願い、会わせて…とお陽は願い出る。

勝手にするんだね、ひょっとするとあいつはおめえを斬るぜと丑寅が脅すと、覚悟の上よとお陽はいい、2階だねというと勝手に上がろうとするが、そこに女中が酒を運んで二階へ行こうとしていたので、お陽さん、それ持って行ってくれと丑寅が頼む。

親方?と喜衛門が事情を聞こうとすると、とんだ死神様のご入来だよと丑寅は苦笑する。

あの女はね、ヤクザの用心棒の女房でさ、自分の亭主が一番強いと思ってたんだな、ところがてめえの目の前で先生に亭主がすっぱり斬られちゃったんだよと丑寅は説明する。

おめでとうよ、大先生…と言いながら大五郎の部屋に入ったお陽の声に大五郎は気づく。

ねえ、花嫁さんがくるまで一緒に飲みましょうよと言いながら大五郎の側に座り、まじまじと大五郎の顔を見たお陽は、どうしたの?髭を落としたの?と聞くが、大五郎は、うるさい、斬るぞといって顔を背ける。

斬る?今更…とお陽は冷めた口調で答える。

その顔、大力大五郎じゃないわねと言いながら身を寄せてくるお陽。

あなたって優しい顔してたのに…と言いながら、近くにあった手鏡で大五郎の顔を写すと、見てご覧、その顔じゃうちの人はきっと斬られなかったろうとお陽はいう。

大五郎はそんなお陽の体を跳ね除けて、出ていけ!という。

たった1人の女のために99人の人に斬られ…とおようが言うと、出ていけ!と再度大五郎はいう。

しかしお陽は、嫌だよ、あんたの結末を見るまで…と抵抗する。

出て行ってくれ!と悲しげに頼んだ大五郎だったが、自分が部屋を出ることにする。

近くの部屋で念仏を唱えていたので、止めろ!と大五郎が怒鳴りつけると、巡礼姿の老夫婦が彦一さん!と驚いたように呼びかける。

俺は大力大五郎だ!これが見えないのか!と刀を差し出すと、いや、わしたちもお前さんと同じような時があった、神や仏を呪うてな…と老人は答える。

だが七夕様の教えには99の善行を積めば天に登れる、しかし悪行を積めば…と言いながら老人は首を横に振る。

天に唾を吐けば自分の上に落ちるとは仏の性、お前さんは地獄へ行く気か?と老人は問いかける。

それを聞いた大五郎は、地獄か…、それもよかろう…と言いながら老人たちの部屋から去る。

一階に降りてきた大五郎に気づいた丑寅はどこに行くんですよと止めるが、城に行くんだ、御城主に約束を果たさせるんだと酔った大五郎は言い張る。

待ちねえ、お夕さんはきっと来るよ、おめえ、信じられないのか?と丑寅は止める。

それでも、親方、親方…、おら…と呟いた大五郎が入口の戸を開けて外に出ようとした時、そこにお夕が立っているのを見つける。

お光も気づき、お夕様!と他の従業員と共に入口のところに集まる。

あっけに取られ何も言えなくなった大五郎の肩を丑寅が背後から支え、仙六が赤い手拭いを大五郎の帯につけてやる。

出かけて行った二人を見送った仙六は良かったですねと丑寅にいい、丑寅は宿の使用人たちに、お嫁音頭はさあ踊れ!踊れ!と陽気に声をかける。

好きだ、好きならええじゃないか!と宿の使用人たちはみんな踊り始める。

お陽さん、お前の負けだねと丑寅が声をかけると、降りてきていたお陽は、さあね…と答える。

仙六も目当ての人妻がやってきたので、愉快そうに一緒に踊り出す。

彦一の実家にやってきたお夕は泣き伏す。

何故泣く?何がそんなに悲しいのだ?拙者、侍になって帰ってきたんだ…お夕さん…と大五郎が聞くと、私が好きだったのは10年前の彦一さんですとお夕は答える。

大力などと言うはしたない…とお夕がいうので、はしたない…と大五郎も繰り返す。

はしたない道化の武芸者では…とお夕がいうので、道化の武芸者?と大五郎は驚く。

酷えよ、俺は10年もかけて侍になって帰ってきたんだぞ、さあ見てくれ!というなり大五郎は双肌脱いで体を見せる。

見てくれ、お夕さん、俺のこの体には99の傷跡があるんだぞ!と、お夕の手をとって大五郎は迫る。

この手で侍たちを斬ってきたんだ、1人1人斬るたびに俺は偉い侍になれると思った。だが、必ず相手に斬られて斬ったんだ。そしてこの傷が1つ増えるたびに、おら、おめえに近づけると思ってた…と大五郎は打ち明ける。

お夕さん、俺はもう昔の漁師の彦一じゃねえ、侍だ、ここのどじょう髭と同じ侍だよと大五郎はいい、お夕を抱こうとする。

しかしお夕は、彦一さんのばか!お前の体にいくら傷がつこうと、どんな強い侍になろうと、私が待ち侘びていたのは、優しい美しい気持ちの彦一さん…、その人は漁師だったわ…、お前さえこの街にいてくれたら年に一度きっと会えたのよ、ばか!とお夕は訴え、大五郎に抱きつく。

浜辺では、お光と二人きりになった三太が、向こう脛の傷を見せながら、この土地を離れちゃいけねえって言われたんだよと打ち明けていた。

俺が悪かったよ、俺はおめえと…というと、三太はお光の手拭いを結び合わせるのだった。

自宅で添い寝していた大五郎は、夜空に流れ星を見つけ、会った!と喜ぶ。

天女だった姫星から取った羽衣を彦星は返す…とお夕がいうと、俺もおめえに返してやるなと大五郎がいうと、彦一さんもう一つだけ返して欲しいのとお夕はいう。

何を?と聞くと、剣を捨てて昔の彦一さんに戻って欲しいのとお夕はいう。

しかし大五郎は、嫌だよ、俺が漁師になっておめえが城に呼ばれたらどうなるんだよと言い返す。

彦一さん聞いて、あなたはきっと殿様からお咎めがあるまで…とお夕がいうので、

何?心配するな、お夕さん、おらあ…と大五郎は得意げにいうが、いけない彦一さん!と言いながらお夕は抱きつく。

もし城中に追われたらあなたは言ってください。そしてどんなに責められようと、どんなに笑われようと、あなたさえ漁師の彦一だと言い張ってくれたら、あの人は漁師を殺すとは思えません。侍なら斬られる。

そしてまた無事に会えたら、その時は二人で仲良く踊りましょう。お夕はあなたの女房になれますと言う。

本当か?と大五郎が聞くと、約束して、侍だって決して言わないってとお夕が念を押すので、大五郎はうんと返事する。

七夕様で叶うのはただ一つ、二つは叶わぬこと…とお夕がいうにで、知っている、俺の願いはただ一つ…嬉しい!と大五郎は答え、二人は体を重ねる。

翌日、城から駕籠が出立する。

街は踊りの真っ最中だった。

蛸屋では揃いの浴衣に着替えた使用人たちの前に来た丑寅が一緒に踊ろうと誘うが、でも親方、お侍さんは踊れないのよとお光が案ずる。

しかし丑寅は、それは彦さんが百も承知だという。

2階から降りてきたのは、髪型も浪人風のむしりから町人の月代に変えた彦一で、俺は今日から漁師の彦一に帰ったんだ、みんなと一緒に踊ろぜ!とみんなに告げたので、お光も三太もみんなも大喜びする。

踊りましょう、彦一さん!とお光が声をかけ、十年ぶり!と三太もいう。

嬉しいだろう?先生と仙六がからかうと、もう先生じゃないやと大五郎は仙六の額を叩く。

その時、お前さんは侍だよ!あの殿様の妾に言われたのかい?と階段から声をかけたのはお陽だった。

そうだよ、だがな、お夕は妾じゃねえぜと大後藤が言うので、妾だよ!とお陽は意地になる。

おう、みんな聞いてくれ!俺はこの腕で殿様に勝ったんだ、この十年の間髭を生やして豪傑ヅラをしてやっと帰ってきたんだよ、そして俺は堂々と殿様と勝負してお夕を自分のものにしたんだ、だがな、髭を落として俺の浪人姿を見て、俺はやっぱり侍じゃねえと思った、おめえもそう言ったろう、あの時…、もう人の斬れる大力大五郎には見えないとな…と大五郎はお陽にいう。

俺はもう嘘をつけなくなったんだよと大五郎が言うと、畜生!と言いながらお陽が匕首を突き出してきたので、大五郎はその腕を捻り、丑寅も、お陽さんと諌める。

大五郎はお陽に、勘弁してくれるか?俺は悪い夢を見せたな…と詫びる。

殺された亭主に未練はないけど、生き恥をかかされた私はあんたに日本一の侍になって欲しいんだよとお陽はいう。

お用の匕首を取り上げた大五郎は嫌だといい、匕首を捨てる。

その時、頼もう!大力大五郎様、殿のお召しでございますと城からの使いもののが挨拶してくる。

いけませんよ、あっしは漁師の彦一ですとその場に土下座した大五郎だったが、いや、御貴殿との約束を果たすためにとにかく城中へ案内せよと…と家臣がいうので、わかりました、参りますと大五郎は同行することにする。

丑寅やお陽は心配するが、心配するな、殿様が土地の漁師を殺すかよと大五郎はいう。

俺は昨日のことは殿様に謝って、きっと無事で帰ってくるからなと大五郎が言うので、丑寅は気をつけろよと助言する。

表で待機していた駕籠を見た大五郎は、お侍さん、漁師がこんな立派な駕籠でお城にはいけませんやといい、そのまま歩いて城へと向かう。

そんな大五郎を町人たちは日本一!と満面の笑顔で囃し立てる。

みなさん、年に三日の盆の踊りだ!と大五郎が答えたので、ますます町民たちは踊りに熱中し出す。

それを見送る仙六は大丈夫かね?と暗示、三太も彦さんに刀を持たせてやろうよというが、後ろくは、ま、いいや、みんな帰ろうと言って宥める。

そんな中、お陽だけは、きっとあの人殺されるよ、妾に騙されているんだよと冷めた意見を言う。

それを聞いたおまさも、きっとそうだよ、やっぱりお夕は鬼じゃと言う。

しかし丑寅は、うるせえな、彦一には、あいつにはできないことは何にもないんだ、どんなことになろうがきっと帰ってくる。

みんな踊って、白の前で彦一の帰りを待ってやろうと牛虎が呼びかけたので、仙六もそうだ!みんな踊ろう!踊ろう!と囃し立てる。

錨屋の前に来た大五郎は、おいお夕さん!と中に呼びかけ、俺はこれから城に行ってくれぜ!というが、その声を聞いた錨屋総右衛門は、中庭で長人姿にもどり一人踊っていたお夕のところに駆けつけ、呼びかけるが、お夕は無視して踊り続ける。

町民たちの踊りとともに、大五郎は城の前まで来ると、そのまま中に入る。

蛸屋では、老夫婦がお花はおりますか?と探していた。

その時、お花はすでに街中で踊っていた。

藩主も城の中で、上品な踊りを見ていた。

踊りはもう良いと止めた藩主は、大力大五郎を引きませと命じる。

庭先に来て土下座した大五郎の様変わりぶりを見た藩主や若侍たちは一様に驚く。

近うまいれ!と藩主が命じたので、大五郎は愛想笑いを浮かべ藩主に近づいて土下座する。

漁師彦一と申すは真か?と藩主が問うたので、はっと答えると、いや、実は他藩のれっきとした武士であろう!と藩主は叱りつけたので、おいらは正真正銘の彦一でございますよと大五郎は答える。

嘘をつけ!我が藩の内情を探りに参った犬であろう!と庭先に降り立った藩主は断ずる。

違います、違います。私は10年前に殿様にお夕さんを召されて、ご当地を出て行きました彦一と申します漁師でございますよと大五郎は弁解するが、漁師の分際でバカめ!と藩主はいきなり鞭打ってくる。

一瞬真顔になった大五郎だったが、グッと堪えて、どうもあいすみませんと頭を下げる。

彦一、髭はどうした?髭は?と藩主が聞くので、漁師にはあんな髭は入りませんよと大五郎は答える。

髭さえあれば侍になれると思っていたのか?と藩主が嘲笑する。

余はな、その方が大力大五郎で通すことを望んでおったのだぞと笑いながら打ち明ける藩主。

ああ〜、漁師風情には惜しい腕だな〜とわざとらしくいたわるようなそぶりを見せた藩主だったが、そちが大力大五郎と例え嘘でも通せば、わしの方は外聞を憚るようもなく、その方を取り立ててやることができたのになと藩主は残念がる。

殿様?と大五郎が呼びかけると、どうじゃ、もう一度大力と名乗って、余のもとに仕官する気はないか?と藩主は聞いてくる。

その方が士分になるならお夕は…と藩主は意味ありげに続ける。

じゃあ、俺が侍になったらお夕様を!と大五郎の目が急に輝き出す。

うん、もう一度尋ねる、その方は大力大五郎に相違あるまい!と藩主が確認する。

松五郎は、喜んで、は!と頭を下げる。

うん、それでよし!と応じた藩主は、大五郎!その方が正しく武士ならば、今一度勝負をしてみせい!と藩主は命じる。

立ち上がって会釈した大五郎は、剣を抜いた家臣たちに取り囲まれる。

確かにお夕様は?と大五郎が確認すると、うん、二言はない!無事、城門を駆け抜けれればの!と藩主は答え、持っていた鞭を投げ与える。

承知!と答えた大五郎は数十人の家臣たちの相手をしだす。

城門の外では町民たちの踊りが続いていた。

家臣が落とした刀を拾い上げた大五郎は、俺のこの全身にはな、99箇所の傷痕があるんだぜ!俺はお前たち侍をこの手で斬ってきたんだ!お前たちのように猫の子一匹斬れねえ侍とは訳が違うぞ!どっちが本物の侍か俺が見せてやろうというと、刀を構える。

100人目はどいつだというと、次の瞬間100人目を斬る。

表では、なかなか戻ってこない大五郎を、仙六や丑寅が案じ始めていた。

大五郎はこう笑しながら斬り進んでいた。

外にいた丑寅たちに、今、斬り合いになっていて、侍が門を通れば女がもらえることになったんだとの知らせが届く。

それを聞いた丑寅は何!と驚き、仙六は、やっぱりあの女に騙されたんだ!という。

迎えに行こうとお光が勧め、お夕を迎えに行くことにする。

大五郎はなんとか城門に近づこうと必死に斬りまくっていた。

しかしとうとう大五郎も斬られてしまう。

錨屋の前に来た丑寅たちは、閉まった雨戸を力持ちに壊させる。

玄関先にはお夕が立っていた。

お夕さん、彦一さんが城内で斬り合ってるんですとお光が教えると、お夕は仰天する。

そんなはずがありませんとお夕は信じないので、あっしが見たんです、それがまた侍になったんですよと城内に行っていた羽織姿の男が教える。

お夕は私が行きますと言い出すと、そのまま城に向かう。

大五郎はすでに満身創痍の状態だった。

お夕とともに再び城へ向かう丑寅たち。

門のところまで来た大五郎は、もうこっちのものだぞというと最後の力を振り絞る。

門前にやってきたお夕は、鉄砲隊が自分の方へ銃を向けているので、殿のお妾夕なるぞ!と名乗ると、下がれ!と命じる。

そこに血まみれになった大五郎が出てくる。

出たぞ、城外へ!と大五郎が喜ぶと、彦一!とお夕が呼びかけ、お夕さん!と大五郎も近づいて互いに手を取り合う。

二人が抱き合った瞬間、銃声が轟き、二人は鉄砲隊の餌食になる。

彦一!と丑寅が呼びかける。

大五郎とお夕はそのまま倒れ込む。

後日、二人の墓の前で、町人たちは悲しい踊りを続けるのだった。

錨屋の両親も墓前に手を合わせたのち、踊りに加わる。

出立のため港に来ていた丑寅は、お陽さん、お前の勝ちだったなと語りかける。

お陽は何も答えず、その場から去ってゆく。

親方、天の川が洪水になったんだなと仙六が話しかけ、侍になりたがっていた球の側が洪水になったのかい?彦星と姫星はもう会えないのかい?と聞く。

会えるよ、来年もきっと会える。なあ、大力のような強い人よりも、もっと心の優しい人になるんだぜと丑寅は子供に言い聞かせるのと、さ、みんな行こう!と一座のみんなに声をかけ船に向かって歩き出すのだった。

大友柳太朗主演の時代劇。

ニュー東映作品らしく、同時上映は江原真二郎さんと三田佳子さんの「街」という同じくニュー東映の現代劇らしい。

両作品ともメインというにはやや弱い印象はあるが、本作を見る限り、スター映画らしい華やかさには若干欠けるとしても、低予算のチャチさはあまり感じられない。

大友さんは黒頭巾のようなお馴染みキャラクターではないが、豪快な居合い抜きを得意とする傍若無人ながら屈託のない侍に扮している。

後年の高橋秀樹さんによる桃太郎侍の明るいキャラクターは、大友さんのキャラクターを意識していたのではないかとさえ思える。

本作では眼帯に髭もしゃの大力大五郎という侍キャラと、月代を剃って長人姿に戻った彦一という全く見た目が違う大友さんが見られる。

鉢巻や襷をとって着流し姿になると、どことなく丹下左膳に見えるのがご愛嬌だろう。

何気ないプログラムピクチャーに思えるが、話の要素的には盛りだくさんで、漁師が侍になれるか?など素朴な疑問点はあるにせよ、前半は楽しく、後半は物悲しい娯楽時代劇になっている。

子供との関わりがあるあたり、やはり大友さんの当時の子供人気を窺わせるし、さらに画面を埋め尽くすエキストラの多さには驚かされる。

全盛期の東映の大部屋役者もいるし、外部から招いた「仕出し」と呼ばれる臨時エキストラも多かったのかもしれない。

劇中に登場する城も実物大のオープンセットのようで、石垣部分などは流石に作り物とわかるが、ちょっと離れた距離に映る城の姿は、書き割りだったとしてもすごいというしかない。

祭りに集まってきた人々には、主人公も含めそれぞれいわくがありそうな伏線が描いてあるので、後半で関係性がわかるのだろうという展開は薄々読める。

七夕伝説を下敷きにしながらも、華やかな祭りと地方の貧村の対比から、当時の地方の苦境が窺える内容になっている。

登場人物が多い分、セリフを言う役者の数も多く、当時それなりに有名だった役者なのか大部屋役者なのかの区別がつかない。

水島道太郎さん、堺駿二さん、沢村宗之助さんあたりは判別できるが、女優陣の方は怪しく、かろうじてお勝役の高橋とよさんとおまさ役の赤木春恵さんくらいがなんとか面影を感じるくらいで、お光役の花園ひろみさんなどは、昔覚えていた姿とかなり印象が違うせいか見分けがつかない。

お夕役の丘さとみさんなども、一心太助の時と大分イメージが違うので判別しにくい。

しかし劇中でお光がいう「みんな自分勝手」というセリフは、今は亡きご亭主の山城新伍さんへの気持ちと重なるのかも知れない。

途中から登場する千原しのぶさんは、これまで見ていたかもしれないが、個人的には名前と顔が一致しなかった方だが、改めて見ると、とてつもない美人であると驚かされる。


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