「いれずみ突撃隊」

高倉健さん主演の戦争映画は何本かあるが、珍しい部類の作品だと思う。

60年代半ばに白黒映画であることから、低予算の添え物映画だったのではないかと思う。

調べてみると、鶴田浩二主演でカラーの「監獄博徒」との二本立てらしいので、主役のキャリアからいっても、健さんの映画の方が添え物だったはず。

冒頭部分だけ見ると、大映で勝新主演の「兵隊やくざ」(1965)を連想させるが、本作の方が公開は早いし、「兵隊やくざ」には原作があるので、たまたま似ているだけかもしれない。

しかも、そんな無教養で暴れん坊の兵隊に理解を示す上官もいたりと似た要素が多い。

違っているのは上官の方が喧嘩でも強いこと。

これは「兵隊やくざ」とは違う。

体格的にも上官役の杉浦直樹さんの方が大柄に見え、杉浦さんの方が強そうなのだ。

つまり健さん扮するやくざ兵隊は、勝新演じる「大宮二等兵」のような傍若無人キャラではなく、上官にペコペコする子分肌なのが珍しくもあり面白い。

ただ話が進むにつれ、かなり「兵隊やくざ」とは雰囲気が違ってきて、慰安婦たちの悲劇性の方がメインになってきて、なんとなく湿っぽくなって、痛快さはない。

結婚前の朝丘雪路さんと津川雅彦さんが両名揃って参加しているのも興味深い。

朝丘さんと津川さんが対面で会話するシーンもあり、実は津川さん演じる兵隊が一番気に入っていた相手が朝丘さん演じる慰安婦だったという意味ありげな設定になっている。

監督の石井輝男さんは、新東宝時代に女性任侠ものも作った方で、東映60年代任侠映画の始祖ともいう方ではないかと思う。

監督と同じ新東宝出身の三原葉子さんも出演している。

安部徹さん演じる憎々しい上官も絶品だし、底抜けに明るい慰安婦の光子を演じている殿岡ハツエさんも印象に残る。

ユーモラスな役でお馴染みの砂塚秀夫さん演じる兵隊と三原葉子さん演じる慰安婦の、最後の勇姿は意外である。

クライマックスはまさに「駅馬車」アクション。

ちなみにキネ旬データのキャストに載っている山本麟一さんは出ていないと思う。

小林稔侍さんの名前もキャスト表にあるが、最後まで見つけられなかった。

【以下、ストーリー】

1964年、東映、石井輝男脚本+監督作品

背中に軍用銃を背負い、馬に跨った衆木一等兵(高倉健)が、はいや〜!と馬に声をかけ、荒野の中で速度を早める。

タイトル

スタッフ、キャストロール

陸軍歩兵一等兵衆木武雄は、昭和14年8月1日を以て、永住1626部隊より転属を命じられ、本日到着いたしました!

ここに謹んで申告いたします!

それを聞いた阿川准尉(安部徹)は、よし!と答え、脇に控えていた山本軍曹(大東良)に、衆木一等兵を機関銃小隊に編入しとけと命じる。

山本軍曹は自分の部隊に衆木一等兵を連れてゆく。

部隊内では、強制的に腕立て伏せをやらされているものや、古参兵ら(関山耕司、潮健児)の前でヤクザの仁義を切る真似をさせられている宮田二等兵(津川雅彦)などがいた。

因縁をふっかけ、いきなり宮田をビンタし始めた古参兵たちを見かねた衆木は、無言で間に割っていありイジメをやめさせようとするが、一等兵とわかると、代わりに自分が踏んだり蹴ったりの相手にされる。

寝ていた押元上等兵(砂塚秀夫)が、うるさいなとぼやく。

ところが、服が破けた衆木一等兵の方肌に刺青が入っていることに気づくと、他の兵隊たちがいかしているじゃないかと感心する。

宮田や他の一等兵たちは痛快そうに衆木一等兵をみるが、古参兵たちは苦虫を噛み潰したような渋い表情になる。

名前はなんじゃ!と殴られながら聞かれた衆木一等兵は、ご丁寧なご挨拶ありがとうさんでござんすと仁義を切り始める。

唖然とする古参兵を前に、身につけていた装具を外した衆木一等兵は、腰をかがめ右手を差し出すと、どちらさんもお控えなすっておくんなさいという。

押元上等兵も起き上がって面白がる。

早速お控えくださってありがとうさんでござんす。

手前生国と発しますは関東です。

関東、関東と申しましてもいささか広うござんす。

関東は、筑波山吹降ろします花のお江戸改めまして東京の、流れも清き隅田川のほとり浅草でござんす。

ケツの青みの取れない頃より、酒と女と博打が大好き!

親兄弟にも見放され、かよう身苦しき刺青者でござんすが、これと決まった親分子分もござんせん。

一匹極道でござんす。

浅草柴崎町32番地に、仮の住居まかりおりし時、1銭5厘のハガキで呼び出し受けましたのが、花の東京は狸穴麻布三連隊でござんす。

三連隊と申してもいささか広うござんす。

三連隊は日露の戦いでその名も高き一中隊でござんす。

一中隊の持て余しものです。

転属に転属を重ねましてたどり着いたのがご当地、内地派遣軍大山部隊杉野中隊でござんす。

当地の階級は一等兵、姓は衆木、名はたけお、姓は衆木、名はたけお。

お見かけ通りの若造でござんす。

以後面体お見知り置きの上、お引き回しのこと、よろしく、よろしくお頼申します。

翌日、この事実を知らせれた阿川准尉は、衆木一等兵はとりあえず上官侮辱罪で重営巣に入れてありますが、後の処理についてご相談したいと思いましてと安川中尉(杉浦直樹)に報告していた。

すると安川中尉は、それでいいじゃないかというので、と申しますと?と阿川准尉は聞き返す。

彼も営巣で考えてるさ、反省するところがあればそれで良いと安川中尉はいう。

しかし、この様な兵隊がおるということは軍規を維持するためにも重罪と思われますので軍法会議にして…と阿川准尉は詰め寄る。

阿川准尉、兵隊を罪に落とすことを考えるよりも、そういう反感を持たない様に兵を教育するのがお前たちの勤めだ。それに私的制裁は良くないなと安川中尉が言うので、私的制裁と言っても、それは鍛えるための伝統でありまして…と阿川准尉は説明する。

悪い伝統や習慣は改める様にしてくれと安川中尉は促すと、よし、衆木一等兵は営巣三日だと言い渡す。

その後、営巣に入れられていた衆木一等兵に安川中尉が会いにくる。

ん?どうだ、あんまり感じの良いところではないななどと話しかけた安川中尉は、タバコを勧めるが、衆木一等兵が知らんぷりをするので、お前の気持ちはわかるつもりだ、しかしあんまり派手にやるなと続ける。

美味しそうなこと言うんじゃないよ、星の数ならお前も俺もおんなじじゃないか、てめえが金線3本多いだけだよ、このやろう!偉そうな口聞くない!金線抜きなら五分の勝負だ、なんだよと衆木一等兵は言い返す。

すると安川中尉は、よし、金筋抜きの勝負をするか?来い!と提案する。

外に出された衆木一等兵は、ぬかるみの中で安川中尉と喧嘩を始めるが、相手の方が強く、途中で泥が目に入り見えなくなったこともあり、おめえ、なかなかやるじゃねえかよ、将校にしとくのもったいねえよと感心する。

お前除隊したら、面倒見てやってもいいぞ、おめえがそのつもりならなとまで衆木一等兵はいうが、安川中尉は笑って、子分にしてくれるってわけかと聞き返す。

いや…、おめえとなら五分で兄弟分の付き合いでも良いよと衆木一等兵は答える。

お前浅草だそうだな?どこの一家だと安川中尉が聞くと、え?俺か?俺は親分子分なしの一匹狼よ、ま、縁故で俺の顔を知らない奴はモグリだよなと衆木一等兵は答える。

すると安川中尉は、そうかい…、見かけなかったなと言うので、え?おめえ縁故か?と衆木一等兵は意外そうに聞く。

生粋のな、おめえさん、シマは?と安川中尉が聞くと、シマ?六区が俺の縄張りだよと衆木一等兵はいう。

そうかい?あそこは確か関東武蔵一家の…と安川中尉が言うので、知ってんね、おめえ、武蔵一家の親父と俺とは昵懇の間柄だよと衆木一等兵も感心する。

おめえ、あの大手入りの話知ってるか?と衆木一等兵が聞くと、うん、明治以来の大手入りになるところだったんだが、うまく治ったら良い様なものの…と安川中尉は答える。

武蔵の親父さんに助っ人に呼ばれて、俺行ってよと衆木一等兵は嬉しそうにいう。

親父さん喜んじゃってよ、おめえが来てくれりゃ百人力だって涙ぐんじゃってよと衆木一等兵が言うと、へえ、親父さんだね?しかしおかしいな、なんでも親父はあの時中気で寝たっきりで実子分が采配振るっていたはずなんだがねと安川中尉は指摘する。

いや、だからね、病人とその実子分が涙を流して俺に頼んだんだよと衆木一等兵はいうが、安川中尉は、覚えがないな〜と否定する。

何が?と衆木一等兵が聞き返すと、だからよ、俺はお前さんに涙を流して礼を言った覚えはないと言ってるんだよと安川中尉は答える。

じゃあおめえ…、御兄さん…あれ?と衆木一等兵が聞くと、関東武蔵一家3代目、安川の実子だと安川中尉は答える。

驚いて身を引く衆木一等兵に対し安川中尉は、もっとも俺は忘れっぽい質(たち)でな、おめえ、シマでは何バイしてたんだと聞くので、木馬館の脇で…と衆木一等兵が恐る恐る答えると、だから木馬館の脇で何ばいしてたんだと安川は聞き直す。

へ、とうもろこしと、夏は氷水…と恥ずかしそうに答える衆木一等兵に、笑いながら安川中尉は、なあ衆木、この軍隊にも改革しなきゃいかんことはたくさんある。しかし急にはできんのだ。とにかく今は非常時だ、日頃堅気の皆さんにご迷惑かけている俺たちだ、精一杯頑張ろうじゃないかと伝える。

すると衆木一等兵は、へい、お見それしちゃって失礼しましたと言いながら、どろんこの地面で土下座をする。

一生懸命やります、兄貴!盃を…と衆木一等兵が両手を差し出したので、堅苦しいことはいいと安川中尉はいなす。

そうでなくてもお前は立派に安川中隊、いや…、安川一家の若い衆だと言われた衆木一等兵は、兄貴…と言うと感激して涙ぐむ。

そんな衆木一等兵を見た安川ちゅいは、笑い出し、どうした?急にしけた顔して?と揶揄う。

衆木、お前なかなか粋な絵入れてるそうだな?としゃがみ込んで聞いてきた安川中尉に、ええと衆木一等兵が答えると、一度見せてもらいてえなと安川中尉はいう。

その場で衆木一等兵がシャツを脱ぎかけると、まあまあ、今じゃなくて良いと制すと、そうだ、今度中隊の相撲大会の時、ゆっくり拝見するよ。お前相撲自信あるか?と安川中尉は聞き、ええ、ちょっと自慢できると思いますと衆木一等兵は答えたので、楽しみにしてるぞと励まし、その場を去って行く。

それを見送った衆木一等兵は、安川一家の衆木たけおでござんすと独り言を言い、お世話になりますと嬉しそうに会釈する。

部隊対抗相撲大会当日

しゃがんで飯を食っていた衆木一等兵の肩を叩き、どうしたのさ、しけた顔して!しっかりしやあよ、帝国軍人!などと揶揄ってきた見物客の女たちがいた。

気安く触るんじゃねえよ、この野郎!と衆木一等兵が叱ると、何言ってりゃあすの、みんな私たちを触りたがって1円も払ってくれんでねえの?と娼婦の様な口を聞いてくるので、世の中おかしなのがいるもんだよと衆木一等兵がぼやくと、なんだって?ひとりぼっちでしょんぼりしてるから慰めてやろうとしたのに、何だい!とみどり(朝丘雪路)は言い返す。

しょんぼり?笑わせるんじゃないよと衆木一等兵が立ち上がると、戯けたこと言いやすな、みどり姉さん、あんたの噂聞いて話しようというてやしたのに、同じ浅草生まれじゃろ?と光子(殿岡ハツエ)が加勢する。

するとみどりは、みっちゃん、いいんだよ、こんな分からず屋とは口を聞きたくないよと言ってその場から離れる。

無理しやんな、姉さん!と追いすがる光子。

浅草なら浅草と…何だいあのやろうと衆木がぼやくと、あの子はね、慰安所じゃNo.1なのよと別の女が説明する。

あれが…と衆木が聞くと、兵隊さんたちみんなみどり姉さん、惚れてるのよと別の女も言ってくる。

ちょっとあんたさんよ、私たちを見て魅力感じないの?と別の女も来てきたので、女なんかにゃ惚れねえよ、惚れるなら男だよ!と衆木は答え、せっかく惚れた男見つけたら、その男は公安人独立警備隊へ転属したんだよと説明すると、あんたさんよ、男が好きだなんて変態さんと違うかよ?と女は揶揄う。

てめえら、女じゃなければぶっ飛ばすところだ、本当に!と衆木は不貞腐れる。

相撲試合では、宮田二等兵が土俵に上がっていたが、あっけなく負けかけるのをみどりたちは見ていたが、光子がいなくなっていることに慰安婦仲間の八重子(三原葉子)が気づく。

何か食べてるんじゃないの?とみどりが答えると、あいつケツが軽いからな、その辺で商売してるんと違うか?などと八重子はいう。

テントの中で相撲を観覧していた阿川准尉は、みどりの姿をみつけて笑顔で手を振ってくるが、みどりはバカにした様な表情になチンチので、阿川准尉は気まずい表情になる。

土俵上では10人抜き最後の1人の相手がいなくなっており、誰かいないかと行事役が見物客に呼びかけていた。

そのチキ、おお、俺じゃと言いながら、軍服姿のまま土俵に上がった衆木一等兵は、あっさりこれまで勝ち続けていた相手を投げ飛ばしてしまう。

衆木一等兵は、おい出てこいよ!と誘い、次々と土俵に上がった相手を投げ飛ばして行く。

それを土俵下から嬉しそうに応援する宮田二等兵。

その活躍を見ていたみどりが嬉しそうだったので、横にいた八重子は、あれ、みどり姉さんの目つき変だぞ、あの人に惚れたと違うか?と揶揄う。

あいつが土俵の上に這いつくばるのが見たかったのよとみどりは言い捨ててその場から立ち去る。

土俵上では古参兵が、土俵の砂を目潰しがわりに衆木一等兵の顔にぶつけて組み付くが、あっさり投げられる。

続いた古参兵も、いきなりビンタを連打してくるが、衆木一等兵は逆にゲンコツで殴り倒す。

その頃慰安所では、光子が男からもらった贈り物を持って帰ってきたので、これにもらったのか?と親指を立てた主人(中村是好)が、努力してるからな…と褒め、お前たち努力の努の字を知ってるのか?女の又の力と書く。少しは美津子を見習えと、その場にいた他の慰安婦たちに言い聞かせていた。

慰安婦たちが溜まっていた部屋に来た光子が、みどり姉さんは?と聞くと、向こうの部屋でひっくり返っているだべよと八重子が教える。

シミーズ姿で横になっていたみどりのもとにやってきた光子は、姉さん!衆木一等兵ね、10人抜きで勝ったでしょう?だから私商品みんなもらっちまったんだわと報告する。

そりゃよかったわねとみどりが良げない返事をすると、お姉さんにも半分あげるわよと光子がいうので、いいよ、あたいはとみどりが断るので、遠慮するような仲じゃねえがや、ああそれからね、あの男、今度の外出の日、遊びに来るってよと光子がいうので、みどりはへえ…、あんた随分商売熱心じゃないのと揶揄う。

あたいのことと違うがな!あの男、姉さんのことばかり聞くんだわと光子が笑いだすと、なんだよ、初っ端から喧嘩別れしたのにさ…とみどりは興味なさそうにいう。

やっぱりさ、土地の人が恋しいんだわと光子はわけ知り顔でいうが、あたい、あんなん大嫌いとみどりは拒否する。

そこへ突然現れたのは阿川准尉だったので、勝手に入ってこないでよとみどりは文句を言うが、まあ、そう言うなよ、せっかく暇を作ってやってきたんだと言う阿川准尉は持ってきた砂糖に羊羹を渡すが、頼んだ覚えなんてないわよとみどりが無視したので、阿川准尉はいきなり抱きつくと、またそんな邪険なことを言う!もっと暴れろ!俺はお前のような歯応えのある女が好きなんだよなどと攻めまくる。

見かねた光子が止めに入り、本当に准尉さん!おみゃさまはどすけべやな、そんなにキスしたいなら、わしので我慢しとけやと言いながら口を差し出す。

しかし阿川准尉は、馬鹿野郎!誰がお前の様な田舎っぺを!と言いながら光子を押し退ける。

それでも光子は、何を言っとりやす、兵隊たち喜んどるよと光子が立ち上がって反論するも、俺は下等な兵隊とは違うんだ!といい、阿川准尉はまた光子を突き飛ばす。

何さ!そんな下等な兵隊女をどうしてこうして追い回すのさ?あたいたちはね、兵隊用の女よ!将校だとか下士官みたいな、そんな職業軍人なんて大嫌い!とみどりは言い放つ。

みどり!この前線で俺に睨まれたらどうなるか、お前まだ解っとらんらしいな?と阿川准尉は笑いかける。

なんだこれは?と阿川准尉が相撲大会の土産を手に取ったので、触らないでよとみどりが文句を言うと、お前によっぽど入れ上げとる兵隊がおるらしいなと阿川准尉はほくそ笑む。

そうよ、惚れて、惚れ抜かれとる、熱々の兵隊からの贈り物さ…とみどりがいうので、なあ?と光子も調子を合わせる。

そうか…、俺がお前に惚れていることを知っているのか、その兵隊は?と阿川准尉が聞くので、誰とどうしようと余計なお世話じゃない、出ていってよ!と、みどりは阿川准尉を部屋の外に押し出し、戸を閉めてしまう。

部隊に戻った阿川准尉は、お前兵隊のくせに支給した官給品を慰安婦にやるとは何事だ!と衆木一等兵を責め、山本軍曹も、返事をせんか!と一緒に怒鳴りつける。

そんな山本軍曹に、少し芸当をやらせようと阿川准尉は伝える。

山本軍曹は、おい衆木、急降下爆撃やれ!早くやらんか!と命じる。

不満そうな表情だった衆木一等兵だったが、その場で壁に足をつけ逆立ちをする。

阿川准尉は、貴様、いつあの女と知り合ったのか?と聞くので、別に知り合いじゃないと言ってるじゃないですかと逆立ちしながら衆木一等兵は答える。

じゃあなぜあの女が相撲大会の商品を持っとるのか?と阿川准尉は聞くので、自分がやったからですよと衆木一等兵は答える。

なんだ、このくらいで苦しそうな顔しよって!こんなことで敵前で皇軍のお役に立つと思うか!と言いながら、阿川准尉は棒で衆木の腕を叩き始める。

山本軍曹も愉快そうに笑い、阿川准尉も、なんだ、その情けない面は?あの女に見せてやりたいな、いっぺんで愛想尽かされるぞと嘲る。

逆立ちを自分でやめた衆木一等兵は、これ以上付き合っちゃいられねえよと阿川准尉の顔を睨むと、軍法会議でも好きなようにしてくれよと言い放つ。

貴様!と軍刀を手に阿川准尉が斬ってやる!と飛びかかろうとしたので、それを必死に止めた山本軍曹が、衆木!早く帰るんだ!と命じる。

それを聞いた衆木一等兵は、命令により、衆木一等兵帰ります!と挨拶して部屋を後にする。

衆木が部屋を出たのを確認した山本軍曹は、まずいですよ、こんな事件が知れたら、いくら前線でも…、ね?と阿川准尉に言い聞かせる。

すると阿川准尉は、山本軍曹、あいつは危険思想の持ち主と違うか?と言い出す。

刺青をした赤ですけ?と山本軍曹はあっけに取られるが、う〜んと阿川准尉は考え込む。

自分の小隊に戻った衆木一等兵は、誰だ!と宮田二等兵に誰何されたので、俺だよ、ヤボな声出すなよと注意する。

衆木じゃないか、阿川の用事って一体なんだったんだと、宮田と一緒に歩哨をしていた今井一等兵(五代目春風亭柳朝)が聞いてくる。

くだらないことだよと衆木が答えると、またやられたのでありますか?と宮田が心配そうに聞く。

少しな…と衆木が言うと、ちくしょう、ひでえことしやがるなと今井が宮田に話しかけ、ああいう准尉や初年兵いじめる五年兵にはよ、あんた釣れそうもないもんなと今井が衆木に言うと、でも自分達初年兵は衆木兵殿のこと、神様みたいに思っておりますと宮田が言うので、煽てんなよ、この野郎と衆木は苦笑いする。

いえ、本当でありますと宮田が言い、これ食べませんか?と取りだしたのは沢庵だった。

どうりでさっきからなんかいい匂いすると思ったよと言いながら受け取った衆木は、宮田に見晴らせといてね、炊事場からギッチョンしてきたんだよといまいが言うので、しっかりしてるなおめえらと衆木は苦笑する。

すると宮田が、もう一本あります別の沢庵を出したので、おめえも食えよと勧め、はあ…と宮田が遠慮するので、食えよ二人で、俺見張りしてるからよ、いいか、抜かりなく食うんだぞと今井がいって歩哨に立ってくれたので、宮田も沢庵に齧り付く。

次の外出日になる。

外に集合させられた兵隊たちに、上官から説明がある。

みんなが行くところは決まっとる!防備なくして勝利なし!突撃する時は完全武装するよう!わかったな!と上官がいい、渡してやれと部下に命じると、兵隊一人ずつに避妊具の配布が始まる。

上官への敬礼が済むと、じゃあ、みんな元気で行ってこいと声がかかり、解散すると、一斉に兵隊は駆け出す。

慰安所では八重子が自分が稼いだ金勘定しており、今日の稼ぎを期待していた。

八重子は仲間相手に高利貸しもしているようだった。

そんな慰安婦が、窓から外を見て、来た!来た!と喜ぶ。

兵隊たちは全員満面の笑顔で慰安所に向かって疾走する。

慰安所の玄関口に迎えでた八重子や光子たち慰安婦たちは、大喜びで踊り出す。

慰安所に一番乗りした衆木一等兵は、主人にみどりを指名し、番号札を受け取って部屋に向かう。

二番目に到着した兵隊は光子を指名する。

部屋で待っていたみどりを見た衆木一等兵は、みどりは?と聞くので、あたいだよと答えると、もう一人のみどりだよと衆木一等兵はいう。

みどりはあたいしかいないよと答えると、いるじゃねえか、顔のくしゃくしっとした名古屋弁の…、相撲大会の時お前と一緒に来てたじゃないか…と衆木一等兵がいうので、ああ、光子か…とみどりは勘づき、光子ならこの向かい側だよと部屋を教える。

衆木一等兵も勘違いしていたことに気づくと、何だよ、みどりなんて言いやがって…とバツが悪そうに部屋を後にする。

しかし光子は大人気で、扉の前は兵隊が列をなしており、とても割り込みできず、仕方なく、みどりの部屋に戻ろうとしても、二番手の宮田が「もうよろしいのでありますか?」などと敬礼してきたので、そこへも入れずあぶれてしまう。

ところが、ちょっと待ってよ、まだ一番札が落ちてないのよと入り口でみどりが宮田二等兵を入り口で止める。

ああ…まだ陥落してないんでありますかと宮田は察する。

入り口横で立っていた衆木一等兵は罰が悪くなり、作戦業務令38条!と口にしたので、おなんだかこわず宮田は直立不動になる。

攻撃にあたっては準備その他密を持ってよしとすると衆木一等兵がいうと、は、ご教訓ありがとうございますと宮田は恐縮し、衆木一等兵はそのまままたみどりの部屋にはる。

しかしみどりは、あたい誰かさんの代理なんてまっぴらよというので、俺だってお高く止まっている女なんて大嫌いだよと衆木一等兵も言い返す。

じゃあ、出ていってちょうだいよとみどりは不貞腐れたので、出て行こうと出て行くまいと俺の勝手じゃないかと衆木一等兵がいうと、何だって?とみどりが聞き返したので、10分間権利はあると番号札を見せながら衆木一等兵は言い張る。

シミーズ姿になってベッドに横になったみどりは、一向に向かってこない衆木一等兵に対し、ちょっと、いつまで作戦練ってるのよと急かす。

それでも衆木一等兵は、10分間は権利があると繰り返し、番号札を見せるだけなので、互いに気まずい時間が過ぎる。

一方、しつこく慰安婦を抱いていた押元上等兵などは慰安婦から文句を言われていたが、ポケットから金を取り出したので、あんた突撃一番、ぎょうさん持っとるのねと慰安婦は感心する。

しかし外で順番を待っていた石渡上等兵(大前均)が扉を強引に開け、慰安婦を外に引っ張り出すとビンタしたので、みどりが部屋から出てきて、あんた、女の子を殴っていい気持ちなの?やるなら私のことやりなさいよ!と抗議する。

すると石渡上等兵は、お前らは兵隊を慰安すれば良いんだ、俺たちは今遊ばなければ明日は戦死するかもしれない、1銭5厘の葉書で駆り出されて命を張ってるんだというので、命を張ってるのはお互い様よ!私たちはね、怪我しても包帯もないのよ!勲章だってもらえないのよ!とみどりも言い返す。

石渡の前までやってきたみどりは、死んだって、そこいらの道端に埋めてもらえりゃまだ運の良い方さ、ところがあんたたちはどうなの?靖国神社に祀られて軍神とか何とか言われちゃってさ、結構ずくめじゃないか!文句言うことじゃないでしょう?と詰め寄る。

本当怒ることないじゃないかと光子も口を合わせるが、うるせえ!と怒鳴った石渡上等兵はみどりの顔を叩きつける。

衆木一等兵や押元上等兵が止めようとするが、石渡上等兵は手が受けられない状態になったので、たまらず八重子が止めに入る。

それでも興奮冷めやらない石渡上等兵に衆木一等兵が飛びかかり、跳ね飛ばされた八重子に今井一等兵が事情を聞ことするが相手にされない。

石渡上等兵と衆木一等兵の喧嘩が盛り上がっていた時、何しとるんだ!貴様ら!と怒鳴ってきたのは阿川准尉だった。

宮田が敬礼!と声をあげ、その場にいた全兵隊が敬礼する。

衆木一等兵に近づいた阿川准尉は、また貴様か!まだ刑務所の飯を食い足りんのか!と言うやいなや強烈なビンタをする。

貴様みたいな軍人は帝国軍人の面汚しだ!と何度も殴えい、死ね!死んでしまえ、この野郎!貴様みたいな出来損ないでも女遊びだけは一人前に行きよるらしいな!こんなヤクザに惚れているらしいもの好きな女もいるらしいし…と足で踏みつけてきたので、見かねたみどりがやめて!と阿川准尉にしがみつき、踏みつけられていた衆木一等兵も、阿川の靴を持つと放り投げる。

貴様!上官に手向かうのか?と阿川准尉が睨みつけると、やかましい!やかんも上官もあるかい!ムショ帰りがどうした?と衆木一等兵が開き直ったので、貴様!上官を侮辱するつもりかとイキリたった阿川准尉は軍刀を抜くと、ぶった斬ってやる!といったので、周囲を囲んでいた兵隊や慰安婦たちは身をひく。

おう、やってくれ!鼻血が出るほど血の気が多くて困ってるんだと衆木一等兵が挑発したので、くそ!と言いながら阿川准尉が斬りかかる、

それを避けた衆木一等兵が、吾川の右手を押さえ、軍刀を奪い取る。

軍刀を持った衆木一等兵が迫ってくると、流石に阿川も、待て、待たんか!と焦る。

てめえ、刀の使い方知ってるのか?と言い放った衆木一等兵は、本気で切り掛かっていったので、指物阿川准尉も怯える。

その時、奇襲!と言う伝令が来て爆撃音が響いたので、衆木一等兵は軍刀を阿川准尉の側の柱に斬り込んで止める。

命だけは預けといてやらあ!と言い捨てた衆木一等兵は他の兵隊もろとも慰安婦宿から脱出する。

阿川准尉も、軍刀を抜いて鞘に収めると一緒に逃げる。

女と寝ていた今井一等兵などは金を返せと迫るが、今度来た時タダにしてやると言われ、ふんどし一丁の裸のまま、軍服を拾って逃げる。

中隊では、中隊長に、ただいま岩山分哨より、機関銃が迫撃砲により爆破され使用不能で、急きょ機関銃の補充を頼むとの報告を受けていた。

阿川准尉が待機中の2小隊から出しましょうか?と提案し、直ちにすぐ手配しろと中隊長は命じる。

中隊に戻った阿川准尉は、整列した兵を前に、岩山分哨は危険に晒されている。直ちに機関銃を補充する。6名、呼ばれたものは前に出ろ!押元上等兵!石渡上等兵!宮田二等兵!今井一等兵!真田上等兵!衆木一等兵!と指名する。

衆木一等兵は心の中で来ると思ったよと呟く。

以上6名、敵は岩山分哨と当中隊との間に散兵しとるが、敵中突破をするために便衣着用!直ちに出発!と阿川准尉は命じる。

中国人の服を着た6人は機関銃を担いで出発するが、衆木が押元上等兵に、そろそろ分解していきましょうと提案すると、そうしようということになる。

機関銃を分解し、本体部を担いだのは衆木一等兵、脚部を持ったのは今井だった。

やがて八路軍の姿が見えたので、全員身を隠した中、リーダー役の押元はどうしようかと迷うが、衆木はまっすぐ行こうじゃねえか、どっちにしろ分哨に無事に着くと思っちゃいねえよ、一か八か一番近い道突っ走ろうじゃないかと主張する。

しかし、ふん、俺は死にきれねえよ、お前待ってるうちにこのざまだ!と先ほど慰安所で押元を待って、女を抱けなかった石渡が、番号札を押元に投げていう。

それを拾った押元は、ああもったいない、それもこれも運命や、堪忍してやと笑ってごまかすが、宮田、お前今日初めて女抱いたのやったなと思い出す。

宮田が女を抱けなかったことも知らない押元は、どうや、童貞もささげたことやし、思い残すことなんだかこあらへんやろと話しかけると、そろそろいきまっか?と衆木に言う。

みんな行くぞ!と声をかけた衆木たち一行は、ススキをかき分けながら前進する。

やがて宮田が衆木に交代を申し出、機関銃の本体を担ぐ。

そしていよいよ岩山分哨まで300mくらいの距離まで来たので、思い切って突っ走ることになる。

補充の機関銃に気づいた岩山分哨の兵隊たちは、援護射撃を始める。

なんとか岩山分哨にたどり着いた衆木だったが、宮田が一人撃たれ、銃撃の的になっていることに気づくと、押元が止めるのも構わず、応援に向かう。

そして傷ついた宮田を背負うと、宮田が落とした機関銃の本体も手に取った衆木は分哨に戻ろうとする。

しかしその衆木も左腕を撃たれてしまう。

宮田もさらに撃たれており、自分はいいんです、お世話になりましたと言うので、衆木は宮田!と必死に呼びかける。

何もお礼はできませんが…と言いながら、宮田は未使用の「二番札」を差し出しながら息絶える。

その「二番札」を手に取った衆木は、おめえ、まだ突撃してなかったのか?と死体に語りかけ、ちくしょう!と呟くと、機関銃を担いで分哨に向かって走り出す。

なんとか岩山分哨に機関銃を持ち込んだ衆木は、脚部と固定し、迫ってくる八路軍たちに銃撃を始める。

その頃、慰安所の看板の上に「臨時野戦病院」の紙が張り替えられていた。

八重子は運ばれてくる負傷兵たちを必死に手当てしていた。

衛生兵の指示の中、忙しいとぼやく八重子に、光子も、文句言いやすな、私たち臨時の名誉看護婦やけと言いながら手当てを続けていた。

そこにやってきたみどりが、衆木一等兵見なかった?と聞いてくる。

ちょっと前までいたんだのに…と光子が周囲を見渡す。

八重子は、衆木を探すみどりの姿を見て微笑み、あの二人、できてきよるよと言い、光子とはしゃぎ出す。

宮田の墓を作っていた衆木一等兵のところにやってきたみどリハ、まだ動いちゃダメじゃないの、化膿したらどうするの?と左腕の負傷のことで文句を言い、自分も宮田の墓に土をかけてやる。

看護婦ヅラするなよと衆木が文句を言うと、だって看護婦やってたんですもの、見習いで半年ぐらいだったけどねとみどりはいう。

どうりでさっき手つきが良いと思ったよと衆木一等兵はほめる。

それを聞いたみどりは、へえ、あんたでも人を褒めることがあるのと苦笑するので、いや、褒めるわけじゃないけど、本当のことだから仕方ないだろうと照れる衆木一等兵。

みどりは、そこから見える風景の美しさに感動し、内地、帰りたいな〜という。

おめえんち、浅草だっていってたな?と衆木一等兵が聞くと、うん、あたしんとこ田島町とみどりは教える。

え?じゃあ、俺んちの隣組じゃねえかと衆木一等兵はいい、俺のところ柴崎町の讃岐屋の裏だよと教える。

するとみどりは、讃岐屋?と驚き、じゃあ、セイちゃん知ってる?というと、知ってるよと衆木が言うので、いやだ、あの子私の小学校の同級生なのよとみどりはいう。

へえっと驚いた衆木一等兵は、じゃあ昔二人会ったかも知れねえな、ジャリの頃によと嬉しそうに答え、二人は故郷の思いい出話に耽る。

やがてみどりが自分の初恋の相手のことを打ち明け、その人とはダメだったけど、忘れられないな〜、ちくしょう、素敵な男だったんだもの、あんたにそっくり!と言うので、単なる惚気話と思っていた衆木の表情が変わる。

だからね、白状するとね、あんたを最初に見た時からね〜とみどりは恥ずかしくも嬉しそうに語りかける。

なんだ結局俺は代用品じゃねえかよと衆木一等兵がすねると、最初はそうよ、でも本当だから仕方ないだろう?とみどりは、先ほどの衆木一等兵の口調を真似して答える。

すると衆木一等兵が立ち上がったので、横に座っていたみどりは、気分悪くした?と聞くので、いや、仕方ないだろう、本当のことだからよと衆木は答える。

でも今は違うんだよといって自分も立ち上がったみどりは、全然あんたはズバリ!それにね私ね、あんたみたいな生一本の気象の人を見るとね、なんだかもう胸がこうムズムズしちゃってさ、かーっとしちゃうんだよとまで言うので、衆木は嬉しそうに、この野郎!と笑顔で呟く。

それを横からのぞいていたみどりは、何、その顔…と揶揄う。

なんだか、寒くなってきちゃったよ…とごまかす衆木の顔を見ていたみどりは、急に我慢できなくなったように抱きつくとキスをする。

衆木は、キスをしながら宮田の墓に被せていたヘルメットに気付き、唇を拭いながら墓に蝋燭を指すのだった。

後日、慰安所内で病人用の食事の準備をしていた慰安婦たちに、全員集合!とやってきた伝令が命じる。

しかし彼女たちは、あら兄さん、慰安婦は一人もいやしまへん、看護婦ばっかりどすえといい、八重子も、すんたらことを言うんだったばな、これから遊んでやらないぞと言葉を添えると、もとい!野戦看護婦は全員集合と兵隊はいい直す。

慰安婦たちが集まると、伝達するといった伝令は、みどり!八重子!光子!君子!夢路!春子!以上6名は野戦看護婦要員として転勤を命じる、出発は明朝6時!集合場所、当慰安所前!という。

それを聞いた八重子は、違うべ、当野戦病院前だよと訂正する。

その通り!といって帰ろうとすると、よう、監視部長!引率の人選、もう決まったのか?と衆木が声をかけたので、加賀は振り返り、もう大丈夫なのか?と左手を回して見せたので、俺も員数に入っているのか?と確認すると、こんな状態いつも員数外だと監視部長は答えたので、何?と衆木は憮然とした顔でいうと、監視部長はすごすごと帰ってゆく。

みどりは衆木の方を見るとちょっと笑うが、衆木の方は、員数外、衆木一等兵か…などとぼやいて見せ、突然ああ〜!と叫んだので、慰安婦たちから揶揄われる。

翌朝、6人の慰安婦たちは、衆木も加えた引率の兵隊とともに、馬車に乗って出発しようとしていた。

しかしそこへ命令の一部変更を知らせる伝令が来て、みどりは残留!と言うので、馬に乗って引率しかけていた衆木は不安そうな顔になる。

みどりは今更どうしてなのよと聞くが、とにかく命令なんだよとしか監視部長は答えられなかった。

命令がなんだって言うのよとみどりは馬車から降りるのれば抵抗するが、引率役の押元上等兵も衆木一等兵もどうすることもできなかった。

下ろされても必死に抵抗するみどりは、衆木さ〜ん!と呼びかけるが、出発した馬車は止まることはなかった。

馬上の衆木一等兵も、振り向いてみどりの身を案じるしかなかった。

遠ざかってゆく衆木一等兵を見ながら、ばか!死んじまえ!と泣き出すみどりだった。

場所に乗った慰安婦たちはいつの間にか、軍歌を歌っていた。

歌い終わった慰安婦たちは、みどりちゃんだけ残したの阿川准尉の差金に決まってるよと八重子たちは噂していたが、馬車の後からついてくる人影を発見し、誰だべ?女じゃない?ひょっとしたらみどりちゃんじゃない?んだムンダ、みどりちゃんに違いないだなどと騒ぎ出す。

その騒ぎで背後の人影に気付いた衆木一等兵は、ちょっと様子見てくらあと押元に言い残し、馬を走らせる。

人影は確かにみどりだった。

それを背後から馬で追ってきたのは阿川准尉だった。

衆木さん!と必死にみどりは呼びかけながら走っていたが、待て〜!と阿川順位の馬が近づいてくる。

衆木一等兵も、みどり!と呼びかけながら接近し、馬を降りてみどりと出会う。

しかしそこに近づいた馬上の阿川准尉は、衆木!貴様任務を放棄して何事だ?すぐ戻れ!と命じる。

しかし衆木はやかましい!てめえこそ、真昼間から女と鬼ごっこか!と言い返す。

黙れ!戦線を離脱した女を取り戻しにきたのだと阿川がいうので、笑わせるな!帰れ!というと、衆木一等兵は阿川の持っていた鞭を取り上げ、馬を帰らせようとする。

貴様のような反乱兵は皇軍のために抹殺してやる!というと、馬上の阿川准尉は拳銃を取り出したので、止めて!と叫びながらみどりが衆木一等兵を庇おうと走ってくる。

その時阿川の銃声が響き、衆木一等兵の胸に抱かれたままみどりは崩れる。

ちくしょう!といいながら衆木一等兵は軍刀を抜くが、それを打とうと身構えた阿川准尉は、誰かに撃たれて馬上から落下する。

衆木一等兵が銃声の方向を見ると、馬に乗った八路軍だった。

衆木はみどりの体を肩に背負うと自分の乗っていた馬に乗せ、自分も一緒に馬に乗って逃げ出す。

そこに近づいてくる八路軍騎馬隊。

背後の異変に気付いた押元上等兵は、馬車を先に行かせ、自分ら引率隊3名は反転して八路軍の方へ向かう。

衆木の馬と合流した押元たちは、再び反転し、馬車の後を追う。

懸命に疾走する慰安婦たちを乗せた馬車だったが、御者が撃たれて落下してしまう。

八重子が、乗り物ののことならオラに任せとけといい、御者席から馬の背中に飛びつき、はいよ〜!と操り出す。

しかしやがて馬車は脱輪して止まってしまう。

馬車と合流した衆木は、馬からみどりをおろして慰安婦たちに預けると、自分は迫ってくる八路軍騎馬隊に向かって他の引率兵と一緒に飛び込んでゆく。

馬を降りた衆木一等兵は、地上から騎馬兵と戦う。

押元らは馬車の周囲に集まり迫り来る八路軍騎馬隊と応戦する。

八路軍の方も、馬車の周囲を渦巻くように馬を走らせながら攻撃してくる。

押元は、球が心細くなった中、敵はまだ40人おるでというので、あと銃弾が二発になった衆木一等兵は、みんなに手榴弾を出させ、その一つを八重子に渡すと、使い方、わかってるな?と聞く。

八重子がうんと答えると、全員に対し突撃用意!と叫ぶ。

その時、八重子が、聞こえる!と言い出す。

味方の援軍ラッパが聞こえてきたのだ。

日本軍の騎馬隊が多数接近してきたので、八路軍が反転していく。

それに対し、衆木一等兵は待て、この野郎と言いながら手榴弾を剥げつけ、押元たちもそれに倣う。

逃走する八路軍騎馬隊の中で爆発が起きる。

助かった慰安婦と衆木一等兵たち生き残った引率隊は、傷ついたみどりの体を担架代わりの布団で運び、援軍の部隊へとついていく。

部隊で敬礼して彼らを待ち受けていた中に、安川中尉の姿もあったので、衆木一等兵は笑顔になる。

二人きりになったとき、衆木一等兵は安井中尉に、兄貴…、いや隊長、この前の相撲大会の晴れ姿見てもらえなくて残念でした…と話かける。

そうか、その代わり衆木、今度はこのでかい土俵場でお前の晴れ姿を見せてくれと安井はいうので、は、やります!と衆木一等兵は張り切る。

安井中尉も感激したのか、徐州徐州と人馬は…と軍歌「麦と兵隊」を歌い出したので、衆木も一緒に歌い出す。

歌い終わり、互いに笑い合うと、やるぞ、このやろう!と衆木は荒野に向かって叫びかけるとこだまがかえってくるのだった。

その直後、隊長!と馬に乗った伝令が駆けつけ、新井斥候兵報告!敗走したる政府軍騎兵隊は、 勤務村にて本隊と合流、同陣地を包囲するごとく、当方に向かいつつあります!なお瀘州方面の密偵によれば、敵約300、当地を保攻撃するごとくのようであります!と報告する。

安井中尉は、衆木!直ちに集合ラッパを吹くよう、英令司令に伝えろと命じたので、復唱した衆木はその場を離れる。

ともかく負傷者を後方に輸送しましょう、杉本中隊への道は敵に遭遇する恐れが多いですからと言う、作戦室に戻った安井は部下からの意見を聞く。

広川中隊に通じる道を抜けれるしかしかたあるまいなと安井は判断し、よし、生方少尉は今夕16時、護送人員を把握して広川中隊に向けて出発、護送兵は3名中小隊から人選せよ、トラック一台使用!と命じる。

炊事班長にも伝令が来て、本部から明日夜までの握り飯三食分用意するようにとのことでありますと伝える。

土嚢の背後で機関銃を担当していた衆木一等兵は、ほ〜ら、兄ちゃんよってらっしゃい、三三六水に引け!すっとんごっとん千原旅っていうんだ。ほ〜ら撃ってこい!一眼殺しであの世に送ってやるってんだ。張るのか張らないのか、どっちもどっちも勝負だ!などとノリに乗った名調子で、雲霞の如く押し寄せる敵の攻撃に応戦していた。

近くで応戦していた石渡上等兵も負傷し、衆木に頼んだぞと声をかける。

最前線に近づいた安井中尉は、日が暮れるまで頑張ってくれと檄を飛ばす。

その頃慰安婦たちは、負傷して寝ていたみどりと別れを惜しんでいた。

早く良くなってくれよ、そしてまたどんどんぱっぱ、どんぱっぱって稼ごうと八重子が笑顔で話しかける。

無事に着いてね、あたい祈ってる…とみどりが言うので、みんな涙ぐむ。

そこに早くするんだと兵隊が急かしてきたので、みどりと光子を残して全員トラックの荷台に乗り込む。

しかしその後、八重子がトラックから飛び降りたと言いながら戻ってくる。

なんでそんなこと?と光子が聞く。と、わかんねえ、自分でも…、だどもよ、おらたちいつも一緒だったべ…、だからやっぱり一緒の方が良いと思ったのかも知んねえと八重子は答える。

それを聞いた光子も、うん、それでいいんだわ、それでいいんだわと泣きながら答える。

夕暮れ時、本部からの無電で、この陣地が落ちると、後方部隊の作戦に著しい支障をきたす、断固死守せよとの命令が来ている。応援の舞台が明日の午後には到着すると言う連絡が入っている、なんとしても死守せねばならんと安井中尉が作戦室で説明していた。

しかし炊事に迫撃砲が命中したため、兵隊たちに握り飯を食わせることもできない有様で、明日の昼まで支えるのは…と部下が言う。

燃料倉庫もやられてしまったんだな…と安井はつぶやく。

八重子は、光子が米がないので飯も炊けんとこぼしながら火を起こそうと煙を充満させていたので、八重子が交代する。

火がきちんとつかないと気づいた八重子は、腹巻きにしまっていた札束を取り出し、一枚だけ燃やそうとするので、八重ちゃん、これあんたの一番大事なものでねえのと光子は止める。

んだよ、俺の命から二番目に大事なものだから、きっと素敵な粥ができるべと笑い、火にくべる。

それでももっていねえなあ…、世が世だったらよ、国に帰ってさ、店でも建ててマダムにでもなって、どんどんぱっぱって稼げるのにな…などと八重子はぼやいてみせる。

夜、衆木の元にやってきた光子は、どうだい、具合は?と聞く衆木に、今、ちょっと楽そうに寝むっていたよと伝え、早よ、言ってあげえやと言う。

衆木は他の兵隊たちに、よお、ちょっと悪いけど…と語りかけると、かまへん、どうせ敵さん、朝まで来いへんやろうしな、行けよなどと言ってくれたので、衆木はみどりのもとに見舞いに行く。

後に残った光子は、みんなよう頑張ったわね、あたい、ご褒美やろうと思ってると言い出す。

それを聞いた今井一等兵が、豪気なこと言ってくれるじゃないか、ご褒美ってなんだい?と聞くと、あたいがいますもの、決まってるでしょう・と自分の腹を叩いてみせた光子は、みんな不自由してるんでしょう?遠慮したら損するぜなどと言うので、立ち上がった石渡上等兵は、光子、お前は立派な大和撫子だ、俺もあんな酷いことして悪かったなと詫びる。

いいのよ、そんなこと、あんた頭に来とったもんねと光子が言うので、ほならご好意に甘えさせてもらいまひょかと押元上等兵が光子によかづいたので、あんたは一番後よと光子は追い払い、あとの人は相談して決めや姉などというと、まずは石渡上等兵を引っ張ってゆく。

その頃、八重子は負傷兵たちに粥を一口ずつ食べさそうとしていたが、負傷兵は首を横に振り断るので、づしてだ、精つけて早く元気にならねば困るでねえかなどと八重子は勧めるが、ありがとう、でもな、これは今働いている兵隊たちに食べさせてくれと負傷兵はいう。

それを聞いて涙ぐんだ八重子だったが、しけた顔するなよ、なんか歌ってくれよと負傷兵は頼む。

うん、ならば歌ってやるべ、その代わりな、俺の歌が終わったら、必ずこれを食べるだぞとスプーンの粥を示し、みんなもいいなと確認し、八重子はここはお国を何百里〜と歌い出す。

途中から負傷兵も一緒に歌い出す。

その歌声を聞きながら、衆木一等兵はみどりの看病をしていた。

その時、みどりがうっすら目を開けたので、おい、みどりと衆木一等兵が話しかけると、もう会えないかと思っていたとみどりはいう。

野郎たちのひょろひょろ弾で死ねるかよと衆木一等兵は笑いかけたので、そうね…、そうねとみどりも応じる。

だからおめえも、気しっかり持って元気になってくれよと衆木一等兵は言い、飯盒を手にとる。

みどりは、生きてたいな〜、でも、もうだめ…とつぶやく。

ダメなことあるかよ、明日昼になったら本隊から応援が着くんだよと衆木は教える。

な、そしたらゆっくり養生して元気になってくれよと衆木一等兵は告げると、あんた、それまで死んじゃダメ、死なないで…とみどりは頼むので、ああ!と衆木は答える。

みどりは抱いてとせがむので、衆木はそっとみどりの体に手をそえキスをする。

するとみどりは、拭かない…、この前どうして拭いたの?と衆木に問いかけ、唇だけは誰にもやらなかったのと言う。

体がダメだから、せめて本当に好きな人ができた時にその人にあげようと思って…守ってきたの…と言う。

みどり、俺はあん時、おめえが汚いと持って拭いたんじゃねえんだよ、おめえに惚れてた体が坊やみたいに綺麗な子がいたんだ。俺はそいつに義理立てしちまったんだよ、だから、あん時のことは気にしねえでくれよなと衆木が言うと、頷いたみどりは嬉しい…、嬉しい…と呟きながら突然息絶える。

みどり!みどり!と衆木が呼びかけるのに気づいた八重子も駆けつけ、みどりちゃん!と呼びかける。

お前、こんなところで一人で逝きやがって…、おめえいつか、あたいたちは怪我しても勲章ももらえねえ、死んでも靖国神社に行けねえって言ってたな?そらあお前は慰安婦だよ、だが立派に務め果たしたじゃねえか、俺たちみんな知ってるぞ、おらたちみてえな、おめえ、いやおめえたちがどれだけ力付けてくれたか、おめえ立派な女だよ、日本一の大和撫子だよ。

なあみどり、遠慮することはねえんだぞ、大手振って靖国神社行けよ!と衆木は語りかける。

そして宮田の二番札をみどりに握らせると、これはな、いいやつなんだよ、一緒に逝ってやってくれ、おめえ一人じゃ寂しいだろう?と頼む。

翌朝、敵の倉庫撃が再開される。

双眼鏡を除いていた安川中尉は、雲霞の如く湧いてくる敵兵の姿を確認していた。

衆木が機関銃を構えると、焦るな、まだ距離はある!と安井が制す。

その後、よし、銃器撃て!と安井は命じたので、衆木は機関銃を発砲し出す。

その横で、押元がずっと喋りまくるので、やかましいなと衆木は文句を言う。

しかし、次の瞬間、やられてしもうた…、お先に…と言いながらその押元上等兵が戦死する。

ちくしょう!と衆木は機関銃を乱射する。

そのうち、機関銃が加熱して撃てなくなったので、水筒の水をぶっかけようとするが、それもないことに気づいた衆木は、自分の小便を機関銃の銃身にぶっかける。

そして再び機関銃を連射する衆木。

しかし弾を機関銃に送り込んでいた今井一等兵も死んだことに気づくと、そこに八重子がやってきたので、弾送りを頼む。

しかし土嚢の近くで爆発が起き、八重子も負傷したので、衆木は八重子の体を地面に横たえ、止血しようとする。

八重子は金を溜め込んでいた腹巻を頼むと言いながら差し出したのち息絶える。

衆木は同じく撃たれて倒れていた安川中尉の元に駆け寄ると、兄貴!しっかりしてくれよと呼びかける。

安川の体には立派な龍の彫り物があった。

その衆木の手をとった安川中尉は、衆木!勝っても負けても安川一家の若い衆として立派な土俵入りをしてくれよと頼み、絶命する。

兄貴!ちくしょう!と言いながら、衆木もシャツを脱ぎ、それで安川の遺体を覆うと、自ら刺青の体で、近くにあったダイナマイトを袋にかき集め、再び安川の遺体のそばに戻り、安川の軍刀を握ると、兄貴、安川一家の名代の挨拶しますぜと語りかけ、刀を引き抜くと、頭に来たぞ、この野郎と言いながらズボンまで脱ぎ、腹に一発銃弾を受けながらも、なんとか起き上がり、安川一家衆木たけおだ!何発撃ったら倒れるか、気の済むまで撃ってみろ!と叫ぶと、さらしと褌だけの姿で軍刀を片手に握り、爆発する敵陣めがけて歩き出すのだった。

その体にはダイナマイトの入った袋が結び付けられており、導火線の火がついており、敵陣に接近したところで爆発する。


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