「ギャング忠臣蔵」

任侠映画と同時期に東映が作っていた現代アクション「ギャングもの」の1本で、片岡千恵蔵主演なので、本作はかなり荒唐無稽な色合いが強くなっている。

アバンタイトル部分、主要人物を一挙に紹介するための設定だとわかるが、同じ列車内に乗る乗客が、当時の脇役人も含む東映オールスター勢揃いになってるのは「和製オリエント急行殺人事件」か!と言いたくなるような豪華さ。

基本荒唐無稽な設定なのだが、当時流行っていた「西部劇」や「暗黒街もの」を日本映画で再現しようとすれば、こういうはちゃめちゃな世界にするしかなかったわけで、「忠臣蔵の現代版」と言うこともあり、日活の「無国籍映画」同様、「東映はちゃめちゃアクション映画」である。

劇中に登場する「カポン」という外国人は、当時テレビドラマ「アンタッチャブル」でお馴染みだった「カポネ」からの連想かも…

本編開始早々、国会内の様子になるのも意外なら、月形龍之介が実直そうな政治家を演じているのが珍しい。

本作に登場する健さんはエリートサラリーマン風で、三田佳子さんと夫婦役。

佐久間良子さんと組んだ「東京・丸の内」(1962)に近いイメージかもしれない。

今では平岳大さんのお母様として知られる佐久間良子さんも登場しているが、この頃の佐久間さんと三田さんの美しさは絶品。

健さんのタキシード姿も珍しく、タキシード姿で銃を構える姿は、当事流行っていた「007」ジェームズ・ボンドの影響のようにも見える。

「ギャングもの」と言えば鶴田浩二さんなのだが、当然ながら本作にも意外な登場の仕方をする。

丹波哲郎さん演じるファイティング清水という名前も、いくら日系三世といえども奇妙すぎるだろう。

ファイティング原田からの連想だろうが、あれはリングネームで、普通の名前にファイティングはないだろう。

元東映フライヤーズの投手だった八名信夫さんが、浅野組の野球の試合にピンチヒッターとして登場するのも楽しい。

ただストーリー的にはテンポが悪く、タイトルバックに流れる迫力ある市街戦を連想させる銃撃戦を除けば、前半は「忠臣蔵」と言うよりは「おフランス編」とも言うべきロマンチックな展開になっており、そのもたつきぶりは焦ったく感じるほど。

そもそもなぜ「おフランスのパリ」から話が始まるかというと、本編で鶴田浩二さんが言っているが、当時の日本人のパリ幻想、パリかぶれ、パリ帰りのエセ文化人ブームが最高潮だった影響なのだろう。

フランス帰りを鼻にかけるイヤミが活躍するマンガ「おそ松くん」が連載されていた時代の映画なので、当時を知っている世代にはそう言う背景はわかりやすくもバカバカしく「おバカ版忠臣蔵」と言ったところだろうか。

中でも、左卜全、片岡千恵蔵、山村聰による「どじょうすくい」は見物。

左卜全と片岡千恵蔵御大はバカなこともやりかねない気がするが、山村聰のおふざけ芸は予想外というしかない。

この当時の映像で一番見分けにくいのは梅宮辰夫さんではないかと思う。

この時代の東映映画は、二本立ての量産体制だっただけに、とんでもない馬鹿げた内容の作品も多く、この作品もそうした1本のように見える。

くだらないと言えばそうだが、今の時代でこれだけのことを日常的にやるのはまず無理だと思えるからだ。

ちなみに本作は「第一部」と最後に出てくるので、続編がありそうな雰囲気なのだが、実は続編は製作されなかったらしい。

【以下、ストーリー】

1963年、東映、松浦健郎脚本、小沢茂弘監督作品。

列車内で突然ギターをかき鳴らし、北島三郎のブンガチャ節を歌い、周囲の客に迷惑をかけていたチンピラ風の一団があった。

車掌が何も注意せず通り過ぎたので、通路を隔てた女性客2人がその席を立ち上がろうとするが、騒いでいたチンピラは邪魔をしようとしているので、同じ車両に乗り合わせていた矢頭七郎(千葉真一)が注意しようと立ち上がるが、仲間がそれを制する。

若い女性客二人は、中年男性が二人座っていた席に移動したので、チンピラグループはそこに近づき、おじさんたち、ごめんよと女性客に手を出そうとしたので、座っていた大石良雄(片岡千恵蔵)は、馬鹿野郎!と叱責する。

その声で怯えたチンピラに、君たちは列車をなんだと思ってるんだ?お互いにわがままを慎んで、他人に迷惑のかからぬように、楽しく旅行するのがエチケットとわからんのか?と大石は説教する。

するとチンピラ連中は、おじさんは文部大臣かよ?田舎の校長先生だろうなどと揶揄ってくる。

おじさんたち、俺たちはなその子達と汽車乗る時からずっと友達なんだぜなどと言い出すので、嘘です!私たちの後ばっかりついてくるんですと女の子たちは抗議するので、そうだろう、そうだろうと大石の向かいに腰掛けていた堀部安平(進藤英太郎)が頷く。

それでもしつこく、こっち来い!とチンピラが手を出しかけたので、思わず堀部が立ち上がってチンピラを殴りつける。

すると、何しやがるんでい!俺たちをどこの誰だと思ってるんだ?とチンピラ仲間が迫ってくるので、どこの誰と知られたやつが、こんな最低なことをするか!と堀部は言い返す。

すると相手は、ふざけるな!俺たちは夜の東京じゃ少しは名の売れた六本木雷組の幹部だと威張るので、ま、そんなところだろうなと堀部は軽くあしらう。

相手のチンピラが、君は誰だと指差してきたので、それを叩いた堀部は、北九州の浅野組のものだと答えたので、浅野組?九州の本職が…とチンピラは驚いたので、あたりめえよ、昔流に言えばヤクザだ、今では株式会社浅野組の東京支店長堀部安平とは俺のこったと名乗り、こちらにおられるのは浅野組の大石専務だと教える。

何を!そんなことでびっくりするような俺たちじゃねえやとチンピラは虚勢をはるが、終いまで聞け!と続けた堀部は、この列車に乗っているのは浅野社長の結婚式に参列するための大石専務以下、より抜きの暴れん坊47人だ!と教えると、流石のチンピラたちも周囲を見渡し怯え出す。

矢頭や岡野金也(江原真二郎)、武林只夫(今井健二)らが席を立って睨んできたので、兄貴、どうしようとチンピラたちは竦み上がる。

列車中の男衆が立ち上がると、ごめんなさい!とチンピラたちは通路にしゃがみ込んだので、大石専務はにこやかに笑う。

列車がトンネルに入り、画面が暗くなると真っ赤なタイトル文字

拳銃を撃ち合う映像

「無法街と化す北九州」の新聞見出し

「暴力団、激烈な縄張り争い」「浅野組か玄海クラブか 死者数10余名」の新聞記事

街中での壮絶な銃撃戦を背景にスタッフ・キャストロール

「暴力団またまた拳銃戦」「死者五名、重傷27名 手を焼く警察当局」「撲滅せよ!暴力団」「ついに国会で問題化」「政府、緊急措置を迫られる」「依然不穏の北九州」の新聞誌面

国会議事堂

予算委員会の席上、近来暴力団の事件が頻発し、あたかも市街戦の様相を示しておる…と発言するのは徳田玄将(月形龍之介)だった。

一体取締り当局は何をしているのか、こんなことでは善良なる市民が安心して生業に就くこともできない。特に北九州の暴力団の実情は言語道断である、一体当局は今後どう取り締まるのか明確な方針が承りたいと徳田は言う。

議長から、国家公安委員長と名指しされて立ち上がったは、え〜、この件に関しては警視総監に代わって答えさせますと答弁し、立花警視総監!と改めて議長は名指しする。

代わって答弁席に立った立花警視総(山村聡)は、ご質問に対してお答えします、もとより取締り当局といたしましては、あたう限りの努力を払って治安保持に全力を尽くしておるわけでありますが、最近の北九地区の現状は不幸にしてご指摘の通り、誠に遺憾でありますと答える。

北九州地方には浅野組と玄海クラブという団体が互いにしのぎを削っている状況ですが、この浅野組は元来、日本伝統のヤクザのいささかの美点を残している組織でありまして…と立花が言うと、美点とはなんだ!ヤクザに美点があるか!とヤジが飛ぶので、お静かに!と議長が制する。

美点と申すは言い過ぎかもしれません、しからば義理人情をわきまえたと言い直しましょうと立花は続け、この浅野組が最近特に玄海クラブとことを構えるに至りました主なる原因になりましたのは、その表をご覧いただきますと立花は続け、壁に用意した表が張り出される。

浅野組は古いヤクザの経営方針では今日の時代にマッチできないと悟り、東京に本拠のあるこの「柳沢総社」の配下に入ってその資金の供給を受け、マーケットの経営、観光ホテルの経営に乗り出しましたと立花は説明する。

表には、「柳沢総社(東京)」の下に「吉良興業(関東)」「伊達商事(東北)」「若狭産業(中部)」「脇坂観光(近畿)」「毛利物産(中国)」「浅野組(九州)」という子会社名が列記してあった。

もちろんその資金の大半はこの「柳沢総社」が握っているわけで、その配下には、「吉良興行」「伊達商事」「若狭産業」「浅野組」以下35の組織がありますと立花は言う。

で、関東、東北、中部、近畿、中国一帯を支配する「柳沢総社」に、この「浅野」が介入したことが九州の暴力団を刺激したとも見られ、朝の組は九州でそう反撃を受けておるわけですという。

したがってどちらかといえば、浅野組は受けて立っておる形で、玄海クラブを先頭とする九州の暴力団は常にこの浅野組に対して挑発行動を行なっているのが現状でありますと立花は話し終える。

それを聞いていた徳田が、なぜ玄海クラブを徹底的に取り締まらんのだ?と聞くと、いいや、それよりも全日本の暗黒街を強引に己の配下に収めようとしている「柳沢総社」並びにその配下の筆頭である「吉良興業」、これを叩き潰すのが最も近道なのでありますと立花が答えると、なぜやらないんだ!とのヤジが飛ぶ。

いやもちろん、本職としましても「柳沢グループ」を壊滅させるために日夜肝胆を砕いておるわけですが、暴力団体とは言いながら、彼らもまた合法的な存在であり、残念ながら政界とも密接な関係があり、迂闊に手を出すのができないのが現状でありますと立花は言う。

政治家に関係あるとはなんだ!誰だその黒幕は?その名を言え!とヤジが飛ぶので、残念ながらその証言は拒否いたしますと言って、立花は証言席に戻ろうとしたので、訳を言え!弁明しろ!とヤジが飛ぶが、今その名をここで公表することは、私が遂行すべき国民に対する責務を十分に果たし得ない職務上の支障をきたすからでありますといい、立花は頭を下げるが、委員会は騒然となる。

パリ

これがパリねと、エッフェル塔が見えるホテルのベランダに出た浅野瑶子(三田佳子)が言うので、ああ、やっと来れたって間にだねと笑顔で答えたのは浅野卓己(高倉健)だった。

東京からたった19時間ちょっとだけど、ずいぶん遠くまで来た気分だわ、なぜかしら?と瑶子はまた聞くので、結婚するまでずいぶんいろんな邪魔が入ったからかもしれないなと卓己は答える。

でももう大丈夫ね、二人っきりになれたんですもの…と瑶子は微笑む。

卓己は、ボーイにチップを投げ渡していた堀部と同行していた岡野金也に、君たちはどこの部屋になってた?と尋ねる

はい、一階下になっております、御用の説は、そのベルでいつでもお呼びくださいと答えた岡野に、ご苦労だった。せっかくパリに来たんだから、君たちも遊んでこいよと卓己は労う。

しかし堀部たちは困惑して苦笑するだけなので、どうした?フランス語がわからんので、遊びに行ってもつまらんのか?と卓己は聞く。

すると堀部が、遊びの方は物怖じせん方ですから、体当たりでハッスルしますが、つまり…と岡野の方を見るので、あなた…と瑶子が助け舟を出すと、あ、そうか、失礼した、どうも僕は田舎もんで怒んななどと言いながら、卓己はスーツの内ポケットから財布を取り出すと、パリでツケは通用しないからなと言いながら札束を取り出す。

その夜、アコーディオンの演奏で客たちが歌う飲み屋で飲んでいた堀部は、それにしても社長の新婚興旅行に、独り者の俺がお供をするとは罪な話だぜとぼやくので、独り者は何も支店長だけじゃないですよと岡野は苦笑し、けど俺たちヤクザが花の都にこられたのはお供のおかげですよと言うので、全くだなと堀部は笑う。

しかし岡野、社長もよくできてるが、奥さんは絶対だなと堀部が言うので、社長さんのために乾杯しましょうと岡野はいう。

グラスを傾けた堀部は、しかし考えてみれば社長も気の毒だな、せっかく花のパリに来たのに女房連れじゃ…などというので、だけど新婚旅行には女房はつきものでしょうと岡野は困惑したように答える。

あ、そうか…、夫婦ものって不自由だな…、おい、俺は今夜絶対ものにするぜ、絶対パリ娘をいてまうんだよ、それが楽しみでパリに来たんだからな、おお恋よ恋!花のパリのローマンス!などと堀部は調子づく。

その店内に登場しシャンソンを歌い出したので、流石に本場のシャンソンだな〜と堀部が感心すると、何いうてんのや、あの子は日本から勉強に来てまんのやと近くに座っていたフランス人が、奇妙な大阪弁で教える。

え、日本人か?おめえ、バカに日本語が上手いじゃないかと堀部が不思議がると、わてな、柔道と生花やっとりましてな…などと相手は答えたので、アチャ〜と堀部は呆れる。

この歌手にすっかり夢中になった岡野は、おい、出ようと堀部に言われても、まあいいじゃないですか、素晴らしい歌ですからと答えたので、何もパリまで来て日本の歌聞くことはないだろうと堀部はさっさと店を後にする。

しかし一人残った岡野は、歌っている相手から微笑みかけられポーっとなる。

一方、ホテルのベランダでキスをしていた浅野夫婦の部屋にいきなり訪れ、やあ、いたな、なるほど仲良さそうだ、とにかくお二人ともおめでとうと声をかけてきたのは吉良高之介(安部徹)だった

君たちが結婚するって話はパキスタンのカラチで聞いたよ、すぐ飛行機に乗れば間に合うのはわかっていたんだが、出席するのは遠慮したよ、何しろ俺は恋の敗残者だからな…と、吉良は遙子を見ながら笑い出す。

気まずくなった遙子は、あの…、ちょっとお化粧直してきますというとバッグを持って部屋を後にしたので、吉良は、浅野君と呼ぶ。

一緒にテーブルに座ると、君は柳沢会長の令嬢を手に入れて、その後目になったつもりになってくれたら困るよと吉良は言い出す。

吉良さん、そんなこと考えてもいませんよと卓己が答えると、この渡世は実力が勝負だと吉良がいうので、よくわかっていますと卓己はいうが、本当にわかっているのかね?と吉良は嫌味を言う。

俺の口から言うのもおかしいが、会長は遥子さんを俺にくれるつもりだったんだ、昔ならそうなっただろう、今は本人の意思を尊重しなくてはいけない時代だからなと言い出した吉良は、俺も近頃加入した九州辺りの田舎ヤクザの親分にお嬢さんを攫われるとは思ってもいなかった、迂闊だったな〜などと吉良の放言は続く。

さすがにかちんときた卓己は、吉良さん、少し言葉がすぎやしませんか?と抗議するが、吉良は、もっと言いたいくらいだよと睨んでくる。

何が言いたいんです?と卓己が聞くと、君には遥子さんは勿体無いってねと吉良はいう。

その時、遥子が部屋に戻ってきたので、やあ、これは綺麗だと吉良は褒めるが、君たちは呑気な新婚旅行で羨ましいよと皮肉を言ってくる。

それに引き換え、俺は柳沢総社のために仕事アンド仕事だと吉良がいうので、ご苦労なことで感謝してますと卓己は礼を言う。

今度の旅行もやっぱり防衛拡大のための?と卓己が聞くと、そんなこと君のようなチンピラに言えるかい!と言いながら吉良は立ち上がる。

遥子さん、パリでもあなたのような素敵な人には会えませんでしたなと言って笑うと、じゃあ失礼と言い残し、吉良は部屋を出てゆく。

その頃、岡野と一緒に店を出て歩いていた歌手村上朋子(佐久間良子)は、パリはもう1年になるわ、本当はね、東京で失恋したの…と打ち明けていた。

ほお、あなたのような人がねえ〜と岡野は答える。

日本の男性には二度と会いたくない、そう思ってたわ…と朋子が言うので、悪いな、僕も日本人だと岡野が言うと、あ、御免なさい、岡野さん、いつ東京にお帰りになるのと萌子は聞く。

半月後かな?と岡野が言うと、私も東京に帰りたくなっちゃったな〜と朋子は言い出す。

ふん、おかしいわね、あなた本当に独身?と朋子が聞くので、本当ですよと岡野は答える。

ね、こう言うこと信じる?外国でたまたま若い日本の男女が巡り会う。すると東京にいた時よりも案外簡単に恋をしてしまう。外国にいると浮ついた気持ちになりやすいからかしら?とイタズラっぽく朋子はいう。

しかし岡野は、いや外国人の中で見て初めて自分の国の男なり女なりを見直すんじゃないのかな〜と答える。

そうね、そうだわと智子が納得したので、どうしてそんなことを聞くんですと岡野は尋ねるが、智子が返事を渋ったので、僕こそつまらんこと聞いて…と詫びる。

そして、吸っていたタバコを投げ捨てた岡野は、堀部支店長どうしたかな?と急に案ずる。

その頃、堀部は夜道で一人フランス語の本を読ながら、セシボン!などと呟いていたが、くしゃみが出たので、ちくしょう、誰か噂してやがるなとぼやく。

その時、女性の後ろ姿を見つけたので、たどたどしいフランス語で話しかけた堀部だったが、振り返ったのばおばさんで、嬉しそうに話しかけてきたので、堀部はノー、ノー!と言いながら逃げ出す。

続いて妙齢の女性が近づいてきたので、思わず鼻の下を伸ばした堀部だったが、歩き出した女性の肩に手を置いた瞬間、誰かに掴まれる。

掴んだのは日本人の田原星夫(鶴田浩二)で、何をする気かね?と笑いかけてきたので、あれ?てめえ、日本人じゃねえかと堀部は驚く。

見ればわかるだろうという田原に、せっかく上手くいってたのに、なんで邪魔しやがるんでいと文句を言うと、オメエのような恥晒しの日本人を捕まえるのが俺の役目でねと田原は言う。

恥晒しかどうかまだわかるかい!恋愛に発展するかもしれねえやと堀部が言い返すと、今のブロンドはオメエには無理だと田原は嘲笑するようにいうと、適当なやつを世話してやる、金持ってるだろうな?と田原はいう。

金?と言いながら自分の胸を叩いて見せると、よしと言って田原が歩き出したので、オメエはパリのポン引きか?と堀部は疑う。

何を言ってやがると笑った田原は、ギャングだよと答えたので、堀部は警戒する。

ギャングと言っても日本のみたいに暗いところでゴソゴソしないねなどと田原が言い、俺はついこの間までアルジェリアにいたよ、外人部隊さ、ドゴールのおかげで失業してな、パリへ舞い戻ったんだと言うので、日本には帰らんのかと堀部は聞く。

終戦の時には海軍の飛行機乗りだったと言いながら咳き込んだ田原は、それ以来一度も帰ってねえという。

すっと外人部隊か?と堀部が聞くと、田原は頷くが、いつの間にか彫像が立っている小さな公園に来たので、なんだ女なんかいねえじゃないかと堀部はいう。

おい銭出しなと田原が言うんで、おう、いくらだ?と聞くと、全部だよと田原は笑って答える。

なんだと?オメエは…と堀部が察すると、お察しの通り、俺はパリに遊びにくる日本人ののぼせた頭冷やしてやってるんだ、日本でいやあ鞍馬天狗みてえなものさ…などと田原は言う。

日本人はパリへパリへと草木も靡きやがる。内地じゃモテもしねえくせにパリではすぐ金髪を追いかけまわす、そういう日本人から俺はいただくことにしているんだ、ほら、日本でいうネズミ小僧って言うやつよと田原が平然と言うので、おの白いやつだなてめえはと堀部は感心する。

そんな堀部の様子を見ていた田原は、ほう、おめえ、震えねえのか?と聞くので、大概のやつはこの辺で震えるだろうがなと堀部が答えると、最近は変わった日本人も来るらしいと田原は愉快そうに堀部の肩を叩く。

まあ、三日もパリで小便すれば文化人になれるからなと田原が苦笑するので、俺は文化人じゃねえと堀部は答える。

文化人でなきゃなんだ?と田原が聞くので、俺はヤクザだと教えると、田原が笑い出す。

パリの大使館も忙しいはずだと笑いながら、田原はまた咳き込み出す。

オメエは正直でいいと胸を抑えながら田原が言い、そうか、代議士の秘書か?と言い出す。

本当にヤクザだと堀部が繰り返すと、ほお…、それじゃ俺も下手な脅しはよそうと田原は真顔になる。

正々堂々と渡り合って、てめえの旅費を巻き上げてやるよと言い出したので、堀部は懐から銃を取り出すが、一瞬早く引き金を引いた田原がそれを撃ち落とす。

やっぱり俺の腕の方が国際級だな…と田原は自惚れ、さあ出しな、有り金全部だと咳き込みながら迫る。

堀部が金を取り出そうとした時、突然激しい発作を起こした田原がハンカチで口を覆って崩れ落ちる。

先ほど堀部が声をかけかけた女が、家でパンを食べかけた時、ノックがしたので、ドアを開けてみると、血染めのハンカチで口を覆った田原を抱えて戻ってきた堀部がいたので中に入れる。

ベッドに田原の体を横たえてやると、ホシ!死んでは嫌!と女房らしきフランス女がいう。

その女に気づいた堀部は、オメエはさっきの…と美人局の仕掛けに気づいた堀部が、バカにするねえと呆れる。

女は銃を取ると、あなたが私の旦那を撃ったのね?と堀部を脅してきたので、アンナ、違うんだ!こいつは良いやつだと田原は堀部をかばう。

わかったらすぐ医者を呼びな!と堀部はアンナに勧めるが、ダメです、お医者さんたくさん借金ある、来てくれませんとアンナは悲しげにいう。

そうか…、まあパリの相場はわからないから、これで足りるかどうかしれねえがと言いながら、堀部は財布ごとアンナに手渡すと、乗りかかった船だ…、待ってなよと言いながら出かけようとする。

どこへ行くのです?とアンナが警戒するので、親分呼んででくると堀部は答えて家を出る。

田原を看病していたアンナは、またノックが聞こえたのでドアを開けると、堀部と浅野夫婦が立っており、卓己が、私浅野と申しますが、ご主人の具合が悪いって聞いたんですが、いかがですか?…と言い、遙子がフランス語で通訳してくるが、アンナは少し日本語分かりますというと、夫がお世話になりました、どうぞと3人を招き入れる。

浅野たちを見たあんなは、あなた方本当に来てくださいましたのね、パリの日本人、みんな不親切で、お友達誰も診てくれません、あなたがた本当に日本人ですか?とアンナは感激する。

痛みが止まったのか眠ってますと、田原の様子を見た堀部が卓己に伝えるが、田原は眠ったふりをしているだけで、薄目を開けて話を聞いていた。

話は堀部から聞きました。どんな事情があるか知りませんが、同じ日本人として黙っているわけにはいきません、失礼ですが、これ、何かの足しにしてくださいといい、持っていた現金を卓己がテーブルの上に置いたので、おお!こんなにお金たくさん!とアンナは感激する。

ご主人が治ったら、お二人で日本に遊びに来てくださいねと遙子もあんなに笑顔で話しかけ、もしお金が足りなかったらと言いながら、自分の真珠のネックレスを卓己に外してもらい、それをアンナの首につけてやる。

卓己は、堀部くん、君はここに残って、医者のことなんか色々やってくれないかと頼み、じゃあ、お大事にとあんなに挨拶して夫婦揃って帰ってゆく。

堀部とか言ったなと田原が話しかけたので、おう目を覚ましたのかと応じると、寝ちゃいなかったよ、お前の親分はなんていうお人だと田原は聞く。

ああ、北九州の浅野組の親分だと堀部は教えると、俺は忘れねえと田原が言うので、当たり前だよてめえ、忘れちゃ人間じゃねえやと堀部はいう。

そうだ、俺は今まで人間じゃなかったとベッドの上の田原は反省する。

まあ分かってりゃいいさ…と堀部が慰めると、堀部、いつか日本で会おうな、俺はきっと良くなるよと田原は告げる。

東京タワー聳える東京

ビルの入り口に出てきた大石専務だったが、運転手の寺坂がいないので、武林只夫がクラクションを鳴らして呼びかける。

ちょっとすみません、あの野郎、どこいきやがったかなと武林が困っていると、あ、そうだと言い出した大石は、今日の最終列車の切符取っておいてもらおうかと早野勘平(梅宮辰夫)に声をかける。

今夜お帰りで?と秘書が聞くと、若いものがみんな九州に帰ってというのに俺だけ遊んでもいられんよと大石が答えると、とんでもないです、社長の結婚式も無事にすみましたことですし、専務にはこの辺で骨休みしていただきませんことにはと早野は労う。

その時、どうもすみませんと、運転手の寺坂吉衛(日尾寿司)が戻ってきたので、武林と早野はどうぞと車を勧める。

大石は、今日のクラス会だけは楽しみにしていたんだ、行かしてもらうよと早野に告げ、大石は車に乗り込む。

料亭でのクラス会では、全員で「妻を娶らば才長けて♩」と合唱が始まる。

恩師(左卜全)の両脇の席を陣取っていたのは大石と立花警視総で、二人は同級生だったのだ。

歌い終わると、芸者衆が各人の前に座り、酌をする。

それではみなさん、おめでとうございますと幹事(曽根秀介)が発声し、全員が乾杯をする。

これは近代にない贅沢なクラス会だと恩師が感激する。

こんなに大勢集まったのは久しぶりですからねと(幹事)が指摘すると、嬉しいね、あんまりみんな出世してしまったんで、わしが一番見窄らしくなったなどと恩師はいう。

先生、みなさん、教え子の方でいらっしゃるのと芸者が聞くと、ああ、昔の中学のな…、こいつあどいつもこいつもわしを手こずらせた連中ばかりじゃと恩師は苦笑する。

どなたが一番手こずらせたんでございますの?と別の芸者が聞くと、それはな、なんと言っても横綱はこいつとこいつじゃと恩師は両脇に座っていた大石と立花を指差す。

まあ、こんなにご立派なお方がですの?と芸者が聞くので、なーに、その当時はみんな鼻ったれ小僧だ、今でも覚えとるぞ、わしが小便しに行っての、ちょっとばかり教室に入るのが遅れたがよ、お前とお前でどじょうすくいを踊っといたなと大石と立花を見ながら恩師はいう。

みんなが笑い出し、ひどい生徒さんでございますのね〜と芸者もいうので、イヤイヤひどいのは先生の方だよ、俺と大石のどじょうすくいは正統派じゃない、本物を教えてやるというので、そのあとは教室の中で先生の後についてどじょうすくいだよと立花が言添えたので、また全員笑い出す。

たっぷり1時間は踊ったっけ?と立花が聞くと、大石も、そうだよ、全く恐れ入った先生だったなと大石も笑う。

流石にもうあの真似はできんでしょうね、先生?と出席者が発言すると、バカをいえ、歳をとったってまだ立花や大石には引けは取らんと恩師は言い返す。

先生、見せて!お願いと芸者までねだるので、どうだい、二人ともまだ踊る元気はあるかい?と両隣に聞いた恩師は、芸者たちからの拍手を受け、土壌救いを披露することになる。

芸者衆の三味線、太鼓の演奏が始まり、上着を脱いで、ザルを被った恩師、大石、立花の3人は、座敷の中央で、揃って踊りを披露する。

それを見ていた芸者が、あの両方の方、何をしている方?重役さん?と聞くと、左が警視総監で、右がギャングの親分だと出席者が教えたので、芸者は目を丸くする。

次の瞬間料亭の仲居が消そうを変えて部屋に乱入し、その後から包丁を持って板前らしき直次郎(潮健児)が追いかけてきて、俺も死ぬんだ!などと大石野の方に向かってきたので、浅野は包丁を弾いて男を捕まえる。

そこに3人の警官がやってきて直次郎を逮捕するが、その際立花に気づいて一斉に敬礼したので、立花はご苦労と声をかける。

それを見ていた芸者は、ギャングの親分と警視総監、嘘じゃないわと仲間達と頷く。

そこに女将がやってきて、客たちに正座して詫びを入れる。

そして、さあさあ姉さん方、お客様にお取りなししてと声をかけたので、芸者たちは一斉にハイと答え、また客の相手をし始める。

スーツに着替え、立花と二人きりになった大石井は、相変わらずバカな奴だと笑ってるんだろうと話しかけると、お前にちょっと話したいことがあるんだけどなと立花も応じ、通りかかった仲居に部屋と酒を用意させる。

クラス会では芸者の踊りが始まっていたが、立花と大石は別室でサシで盃を酌み交わす。

さ、警視総監賞だと言いながら酒を注いでやった立花は、しかしお前、命だけは大切にしてくれよなという。

わかってるが、つい出てしまうんだと大石は答える。

今夜のようなチンピラなら、俺は心配はせんが、心配なのはお前の浅野組だよと立花はいう。

当面問題を起こしている玄海クラブなどというのは俺は別に気にしておらん。ただ気になるのは、お前の仲間内の吉良興業だ、吉良には用心しろよと立花は忠告する。

お前のところの社長と吉良が仲が良くないことくらいはわかっている、玄海クラブをけしかけて浅野組に挑発させているのも案外その変化もしれないからな…と立花はいう。

昔なら同じ系統のヤクザ同士で、そんなこと考えられもしなかったことだ…、時代だな…と大石は嘆く。

暴力はびしびし取り締まるつもりだ俺は…と立花がいうので、お前ならやるだろうと大石は苦笑する。

ま、俺にお前を逮捕させるようなバカな真似だけはしないでくれよと立花は頼む。

わかってるよと大石が答えると、実はこのことが言いたくてわざわざこのクラス会に出てきなんだと立花が打ち明けたので、大はありがとうと礼をいう。

そんなある日、羽田空港

「日米親善私設大使」カボン財団一行訪日す 柳沢総社の招きで」の新聞記事

桜田門の警視庁

みえすいた手だと公安部長(須藤健)が発言する。

在外公館からのレポート報によりますと、アメリカではまずCクラスの財団で、中心人物のカボン氏は元来鯨のベーコンで財を成した人物らしいですと外事課長(河合絃司)が答える。

問題はこの財団と柳沢奏者が手を組んだって点だな、おかしな組み合わせだよと公安部長(須藤健)が指摘する。

柳沢グループが扱っている純日本製の特産品の買い付けという目的ですがねという外事課長の意見を聞くと、提灯や博多人形をどれだけ買い付けるんだね?みえすいた手だと疑問を口にする。

不審な点を言いますと、普通の外国人の性質としてこういう旅行には夫人を同伴するものですが、今回は連れてきておりません、その代わり二名の秘書らしきものを連れておりますと外事課長。

空港の記者会見でも秘書だと紹介しましたが、両名とも日系の三世で、マーク1の男がファンティング清水(丹波哲郎)で本名は清水一角、マーク2の青年はヘンリー小林(山本麟一)と言いますと、写真に番号と丸印をつけたものを指摘しながら外事課長が説明する。

解釈のしようによれば、これは過去の用心棒と見えないこともありません、2青年の身元はカボン氏の経営する、石炭殻利用会社の社員であるとしかわかっていませんと外事課長は続ける。

問題はマーク3の男ですと捜査第四課長である部長刑事(石島房太郎)が発言する。

この吉良興業社長吉良高之介が3ヶ月にわたって世界を一周してきた点です。カポンとはマイアミで会って、東京まで一緒に案内してきた形と見られますと続ける。

吉良の外遊の目的は?と公安部長が聞くと、柳沢グループは一応貿易業ということになっておりますので、自由化に備えての海外市場調査という名目ですと部長刑事が答える。

ギャングの自由化はかなわんなと公安部長がぼやくと、只今までに入手した情報では明晩6時からホテルオークラでカポン財団歓迎会を柳沢総社主催で予約してありますと部長刑事はいう。

歓迎会では吉良が、挨拶にやってきた浅野卓己社長に、浅野君、何をぐずぐずしとったんだ?だと嫌味を言う。

しかし、カポン氏一行がお着きになるまで一時間以上ありますよと浅野が腕時計を見ながら答えると、バカをいえ、後30分しかない、スケジュールが変更になったのを知らんのか?と吉良は言う。

変更?と驚いた卓己は、周囲を見まわし、どうして教えていただけなかったんですかと聞く。

すると吉良は笑いながら、君は接待員の一人じゃないか、そのくらい注意していて当たり前だなどという。

それともいちいち手取り足取り教えてもらわないと何もできんほどの田舎者かね?とまで吉良がいうので、背後で聴いていた堀部や遙子も呆然とする。

私の不注意でした、遅れてすみませんと卓己は頭を下げて謝罪するが、それに何だい、その格好は?なんだか今日はタキシードだよと吉良は指摘する。

背後で聴いていた堀部は、一緒に控えていた岡野、早野、武林らにすぐに準備するよう指示する。

君は高い金使って外国旅行してきてマナーも覚えてこなかったのかねと吉良はネチネチ卓己を責める。

しかし歓迎委員会の打ち合わせでは、カポン氏は庶民的なお方だから、くつろいでもらうために一同背広着用と申し合わせだったはずですが?と卓己が言い返すと、その後の変更を知らんのかね?と吉良が嘲笑するので、そう度々変更したのは私にミスさせるためですか?と卓己が問うと、何を言うか!俺は歓迎委員長だぞ、その格好じゃ失礼になる、着替えてきた前と吉良がいうので、しかし後30分しかありません、このラッシュではとても間に合いませんと卓己がいうと、間に合わなければ君は出る必要はないとまで吉良に屈辱されたので、卓己はキレかけるが、その腕を取って止めたのは堀部だった。

自分たちの部屋に浅野を連れてきた堀部は、こういうことがあっては一大事とちゃんと用意をしてきてありますと堀部が説明するが、部屋の中では岡野、早野、武林らがタキシードの準備をしていた。

遙子が、さああなた、お召替えをと声をかけると、感極まった卓己は、涙ぐみながらありがとうと答える。

吉良の元には柳沢吉安(柳永二郎)がやってきて、そろそろカポンさんの着かれる頃だなというので、吉良はは!と答え、柳沢に椅子を勧める。

すると、そこにタキシードに着替えた卓己と遙子がやってきたので、吉良は唖然とする。

柳沢は娘である遙子に、おお遙子、今夜はお前がホステス役を務めてくれるんで助かるよ、また何かねだられそうだな…と話しかける。

お父様、嫌ですは、いつまでも私を…と遙子が言うので、そうか、そうか、欲しいもんはなんでも浅野くんが買ってくれるか?どうもいかんな、親というものはいつまでも娘を自分のものだと思い込んどると柳沢は苦笑する。

同じプレゼントさせるなら、浅野君にプレゼントされる方が嬉しいか?負けたよ…と柳沢は遙子を揶揄う。

その時、吉良が会長!ちょっとお話が…と呼びかけ、別室に移動する。

聞かれちゃまずい話かね?と吉良と二人きりになった柳沢が聞くと、今回のカポンの来日ですが…と切り出した吉良に、うん、君には感謝している、話があまり大きいんでびっくりしているんだと柳沢は礼をいう。

カポンさんに1000万ドルも買い付けてもらうのはありがたいが、うちの関係各社でそれだけの品物が揃うかな?と柳沢が案ずると、そんなことは表向きですよと吉良がいうので、柳沢は、うん?と怪訝がる。

後しばらくでカポン一行はここに着きます、その前にはっきり覚悟を決めといてくださいと吉良がいうので、なんの覚悟だ?と柳沢が聞くと、麻薬ですと吉良は答える。

それをきいた柳沢は、吉良君、やっぱり君は!と呆気に取られる。

あらかじめ計画を話したら、会長は二の足を踏むに決まってますからねと吉良は半笑いでいう。

土壇場でわしを騙したのか?と柳沢が気色ばむと、責任は僕が負いますよと吉良は答え、世界中を回ってきて最高の条件の相手を見つけてきたんですと吉良は続ける。

カポンは表向きはつまらん金持ちですが、実はメキシコ一帯を支配する大麻薬王ですと吉良は言う。

カポンの扱う品物は検査の結果質が高くて良質です、しかも値段が安い。これを柳沢グループが独占することは、今までの日本の東南アジアルートを中心にした勢力を完全に叩き壊すことになるんですと吉良が説明するので、柳沢の表情はみるみる暗くなり、わしは麻薬だけはやらんとあれほど言ったはずだと言い返す。

当社の支配下には35社、2万の人間が生活しているんです。

賭場は開けずしょば代は取れず、一体何を営業にこれだけの人間を統率していけると思っているんです?白い耳かき一杯の粉ですよ…と吉良は睨みつけてくる。

なるほど今まで柳沢グループはこれだけはやらなかった…、しかしちゃちな貿易業でこれからどれだけ組織を維持していけると思っているんです!と吉良は語気を荒げる。

すると柳沢が、わしは生まれついてのヤクザだと言い出し、麻薬業者として最後を終わりたくないと言うんで、それをきいた吉良は、どっちに転んでも文化勲章はもらえませんよと笑い出す。

グループの他の社長連がどう思うか…と柳沢がいうと、ああ、金魚のうんこですよ、会長と僕さえその気になればみんなついてきますよ、まあ任せてください、ボロは出しませんと吉良は自信ありげにいう。

それにカポンも慎重なやつです。今回の来日もはたして我々がカポンの組織と取引できる能力があるかどうかを調べにきたんです、まあお見合いですな…と吉良は言う。

せいぜい会長は大きく構えていてくだされば良いんですよと吉良は言う。

その後、部屋に一人に残っていた柳沢の部屋にやってきた卓己は、あ、会長、こんなところにいらしたんですか、もうすぐカポン氏がお見えになりますよと伝えると、ちょっと相談があると言いながら。柳沢は椅子を勧める。

卓己が椅子に腰掛けると、他の人にはいえん、君はわしの娘婿だと切り出した柳沢、実はえらいことになるんだよという。

ホテルの「松の廊下」で徳田玄将と談笑しながら歩いていた吉良を呼び止めた卓己が、ちょっと話したいことがあるんですよと言うと、なんだその顔は、徳田先生の前で失礼じゃないか!と吉良は言い返してくる。

卓己はとくだに、先生、大変失礼ですが、しばらくお席を…と言うので、外せと言うのかねと徳田は聞き返し、案内役と共にその場を離れる。

なんだ、話っていうのは?と吉良が聞くので、吉良さん、カポン財団来日の目的は柳沢グループと麻薬の取引をすることなんですかと卓己が指摘したので、誰にきいた?と吉良は言う。

誰でもいいじゃないですか、本当なんですか?と卓己は確認する。

会長だなとすぐに気づいた吉良に、なるほど我々は一皮剥けばギャングの集まりだ、だがヤクを扱わないのがせめてもの取り柄なんだ、それをあんたは!と卓己は迫る。

そんな卓己を壁際に追い込んだ吉良は、でかい声出すな、デカが張り込んでいるかもしれんと吉良は睨んでくる。

会長だって本心は反対なんですよ、それだけはやめてくださいと卓己は頼むと、今更やめられるかどうか考えてみろと吉良は言う。

今日のレセプション、中止にすればいいじゃないですかと卓己が提案すると、田舎っぺは気軽なことを言う、九州あたりで運動会を開いたのとわけが違うぞと吉良は睨みつける。

相手は世界的な人物だ時らが言うので、世界的な苦闘に過ぎんよと卓己が言い返すと、何!といながら吉良は卓己を突き放す。

おめえ、会長の娘を嫁にして少しのぼせ上がってるんじゃねえか?俺は柳沢グループの副会長だ!おめえら、田舎っぺの指図は受けねえよ!チンピラは引っ込んでろ!と吉良が悪態をついて立ち去ろうとするので、吉良さん、どうしてもヤクをやる気ですか?と詰め寄った卓己は、そうだと言ったらどうする?と吉良が挑発したので、こうする!と言いながら拳銃を取り出すと、あんた一人が取引したがっているんじゃないか!あんたガンだよ!獅子身中の虫だ!と訴える。

すると吉良は、へ、呆れ返った男だ、ここは東京のど真ん中だぞ、しかも一流のホテルだ!ここでハジキをぶっ放したらどんなことになるか、いくら田舎者でもわかるだろう!と吉良は言い放つ。

そんなことはわかってるよ、吉良さん、麻薬だけはやめてくれ、そもないと僕は…と卓己は訴えるので、撃つのか?撃てるなら撃ってみろ、撃てるはずはねえ!と言い捨て、吉良が立ち去ろうとしたので、撃つ!と宣言した卓己は発砲し、吉良は右足を撃たれてその場に倒れたので、駆けつけたボーイ(明日香実)ら数人で卓己をはがいじめにする。

それでも卓己は、撃たせてくれ!邪魔するな!と頼む。

負傷した吉良に気付いた仲間たちが運んでいくので、待て!吉良!と卓己は呼びかけるが、その右手に手錠がかけられ、静かにしたまえ!我々は警視庁の者だ!と取り押さえていたボーイに化けた外事課長たちがいう。

浅野社長が吉良さんを撃った騒動は直ちに歓迎会場にも広まり、浅野社長が逮捕されたと知った堀部たち社員は仰天する。

連行される卓己と会った堀部たちは、社長!と声をかけるが、卓己は許してくれというだけでそのまま連れていかれる。

春子も、あなた!と駆け寄るが、卓己はすまんというだけで、背後で見ていた柳沢は呆然としていた。

撃たれた吉良の方は、あの田舎猿がサツで何を喋るかわからん、すぐにカポンに連絡して手を打てと部下に命じていた。

しかしそこにやってきた一団が警察手帳を示し、警察のものです(菅沼正)と名乗ると、警察には病院があります、事件の重要参考人としてご同行願いますと言ってきたので、吉良は焦る。

若戸大橋を臨む北九州

大石は、浅野組率いる草野球の監督をしていた。

ピンチヒッター神崎四五郎(八名信夫)!と大石が指名すると、そこに大野黒平(花澤徳衛)が走ってきて、電報を大石に手渡す。

神崎がヒットを打って、走者が帰還し浅野組が勝利したので、選手たちは一斉に大石監督に駆け寄り胴上げを始める。

しかし大石は「社長、吉良と喧嘩、警視庁に留置さる、委細後」という伝聞を再度読み直すのだった。

会社に戻り電話で東京の詳細を聞いた大石専務は、わかった、俺はすぐに上京すると答える。

専務、もしこの情報が玄海クラブに入ると、社長が警視庁に捕まる、専務は東京に行かれる、絶っこうのチャンスで殴り込みをかけてくるかもしれませんぞと大黒はいう。

しかし大石は、加藤、飛行機の便を取ってこいと指示すると、電報を取り上げ、これは何かの陰謀だ…、何かの…と呟く。

その頃、警視庁の刑事部屋には、サンドイッチの差し入れを持ってきた日系人風の男ヘンリー・小林(山本麟一)がいた。

その男が出て行った直後、刑事部屋に来たのは堀部と遙子で、主人の差し入れしたいと遙子が堀部が持った風呂敷包みを刑事に託す。

重箱の中身を確認した刑事は、弁当ですねと言い、遙子たちは帰る。

立花のところに来た徳田玄将は、君はけしからん男だなというので、立花はお座りくださいとソファにする。

吉良くんを留置してあるそうだが、暴力事件の被害者を打ち込むなんてナチスでもやっとらんぞ、すぐに釈放したまえ、参考人なら身柄を留置する必要はないだろうと徳田は抗議する。

どうしても吉良君を釈放せんというのなら、職権濫用で君を告発するとまで徳田はいう。

いや何も釈放しないと入っておりません、もう大体調べはつきましたと立花はにこやかに答えるので、何を調べたんだと徳田が聞くと、それはこちらの秘密事項ですと立花は笑う。

ご安心ください、吉良は何も白状しておりません、ま、これ以上は無駄ですなと立花がいうので、そうだろう、別に白状することはないはずだよと徳田は応じる。

しかし驚きましたな、一回のヤクザに天下の徳田先生がわざわざご心配くださるとは意外でしたと立花が言い、立ち上がったので、いや、わしはね、ただ正義の味方である話なんだという。

立花は、吉良高之介をすぐに釈放するよう手配した前とデスクの通信で指示する。

金色の葵の御門が入った黒塗りの車に部下たちに支えられながら乗り込む吉良高之介。

一方、留置中の卓己に差し入れのサンドイッチが届けられるが、とても一人では食べきれません、よろしかったら、どなたか召し上がっていただきませんか、私はこれだけでたくさんですからと卓己はサンドイッチの箱だけ受け取り願い出る。

しかし、遙子差し入れの弁当を食べていた刑事たちの部屋に大変ですと知らせが届く。

なんと、サンドイッチを食べた卓己が牢内で吐血して倒れていたのだった。

九州で上京しかけていた大石に、東京の堀部支店長から電話が入る。

なにぶんそっちは頼むぞ、詳細が輪っかたらすぐ電話を入れてくれと返事した大石は、周囲にいた矢頭や赤垣源三(曽根晴美)ら子分たちに、驚かんでくれ、社長は殺されたと告げ、ソファに座り込むと頭を抱える。

それを聞いた八頭は、ちくしょう、俺も東京に行く!やったのは吉良だ!吉良のやろう!と言い出すが、うるさい!うろたえるな!吉良さんがやったという証拠は何一つない、軽々しくいう問題ではないのだ…と大石は叱りつける。

社長が殺されたのは警視庁、毒殺だ…と大石は子分たちに教える。

吉良社長も留置されていたんでしょう?と子分が聞くと、釈放されたそうだと大石が言うので、ええ!そんな!敵討だ!ちくしょう!とざわつく。

そこに、来てくれ!玄海クラブの奴らが殴り込みをかけてきた!と神崎たちが知らせにくる。

来たか…、社長が殺されて5分も経たないうちに殴り込みとは手際が良すぎるぞ…と大石は呟き、よし、俺は東京行きはやめる、九州の縄張りを守ろうと言いながら立ち上がる。

いいかみんな、玄海クラブであろうとなんであろうと、人の弱みに突け込むやつは断じて許さん!責任は俺が持つ!徹底的に叩き出せ!と命じ、子分たちは部屋を飛び出してゆく。

街中では玄海クラブの連中が浅野組の縄張りだったマーケットを破壊しまくっていた。

赤電話で助けを求めようとしていた主人を押し除けたゲン(関山耕司)は、おい!今からこのマーケットは俺たち玄海組が支配する、文句のあるやつは出てこい!と言い放つ。

そこに駆けつけた大石は、シャッター閉めろ!と子分たちに命じると、蛆虫共は一人残らず逃すんじゃねえ!と命じる。

へい!と答えた八頭らは、すぐさま、ゲンら玄海クラブの連中を叩きのめし始める。

見まみれになった源たちをシャッターを開け、外に運び出すと、大石が、うちの者に怪我はなかったかと聞くので、奴が鼻血を出しましたと赤垣が矢頭のことを指すが、なんでもねえ、こんなのと矢頭は苦笑しながらもシャツの懐に入り込んでいた魚屋の秋刀魚を取り出したので、みんな笑い出す。

そんな矢頭に大石は、オート三輪を用意させ、大高源吾(亀石征一郎)と赤垣に来いと呼ぶと、玄海クラブに乗り込んで、マーケット壊した賠償金取ってこいと命じる。

もう一丁暴れるか!と矢頭が張り切るので、無理するなよと大石はいうと、マーケット内の様子を見に入る。

一体どうするんです、こんなにしちゃったらと女性店主が嘆き、なんとかお願いしますと男性店主も頼んでくる。

居並ぶ店主たちを前に大石は、みなさん、大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。この損害は浅野事務所まで申し出てください、必ず弁償致しますと詫びながら頭を下げる。

それを聞いた店主たちは、お願いしますと笑顔で礼を言い返すのだった。

オート三輪で玄海クラブに乗り込んだ大高から話を聞いた権藤(内田良平)は、なんだと、賠償金だ?と聞き返し、いい度胸だが、てめえたち、たった二人で死にに来たのか?と逆におどす。

三人だよと言いながら荷台から飛び降りたのは矢頭だった。

その荷台には、マーケットに殴り込んで倒された玄海クラブの連中が乗せられていたので、何ぼやぼやしてるんだ、早く怪我人の始末でも早くしろと権藤は手下たちに命じる。

そんな権藤を捕まえた大高と赤垣は相手の腹に銃を突きつけ、1軒3万として20軒、合計60万円、素人衆の店壊したお詫びの印だ、ゲンナマのない玄海クラブさんでもあるまい!と要求する。

それとも大将、どうしても出さないというなら、もういっぺんトラックにおまえさん積んででサツまで運んでいってもいいんだぜと矢頭も付け加える。

何を!とイキった権藤だったが、兄貴、面倒くさいから俺やっちまうぜという野党は、自分の銃を権藤の額に向けたので、待て!誰か銭持ってこい!と手下たちに呼びかける。

「クラブ吉良」でバンドの演奏が始まり、舞台に出てきて、銀座の皆様お久しぶりでございます。1年ぶりでパリから帰ってきましたと挨拶したのは、パリで修行していた村上朋子だった。

そのステージを嬉しそうに見ながら、杖をついた吉良がやってくる。

ほお、いいのケアしたな、俺の好みだとボーイ(大東良)に話しかける吉良。

ステージでは朋子が歌い出す中、社長、カポンさんの一行がお別れにやってきますと千坂飄夫(神田隆)が知らせに来る。

テーブルに座っていたカポンは、我々は帰る。吉良を利用して日本の暗黒街を握る目的は棄てない、おまえたちを残しておく、うまくやれ!と同じテーブルに座っていたファイティング清水らに話していた。

そこに吉良が近づいてきて握手をすると、今回は申し訳ありません、今度は必ず…と英語で話しかけると、信用しよう、今度車で私の用心棒を貸そうとカポンは申し出る。

そんな中、ヘンリー・小林は、銃にサイレンサーを取り付けて、店内の照明スイッチを狙って撃つ。

すると、見事に「消灯」スイッチに当たったため、店中の明かりが消える。

続いてファイティング清水が同じように電気のスイッチを撃ち、今度は「点灯ボタン」に命中したので、すぐに店内の照明が復活したので、客たちは感心したようにざわめく。

その腕前を見た吉良は、確かにと感心すると、カポンが立ち上がったので、再び握手をして帰ってゆくのを見送る。

そんな吉良に近づき、社長、この間のサンドイッチのお礼がもらいたいなと小林が要求したので、大きな声を出すなとしかり、いくらだと聞く。

5000ドルというので、高い!180万円だぞと吉良が文句をいうと、ミスター浅野はそのくらいの価値があったんだろう?と小林は吹っ掛ける。

舌打ちしながらも、よし、1万ドル出そう、その代わり、もう一つ仕事をしてもらいたいと吉良は言い出す。

新しい仕事なら、なぜファイティング清水にやらせないと小林は不思議がり、ミーの方を信用するのか?と確認した小林はニヤリと笑い、お目が高い、清水は信用できない、一言も喋らない嫌なやつだと教える。

吉良はそんな小林に、俺は明日九州へ行く、浅野の葬式に会長の代理で出席するんだ、帰ってくるまでに仕事をしておいてもらいたい、金は一緒に払うときらがいうので、オーケー、で、誰をやる?と小林が聞くと、吉良は耳打ちする。

その間も、清水はじっとステージの朋子を見つめていた。

富士山上空を飛ぶ旅客機に乗っていた浅野組の一行。

卓巳の遺骨を抱き抱えた遙子も堀部も落ち込んでいた。

北九州で行われた浅野卓巳の葬儀場

読経に行われていた寺にやってきたのは杖をついた吉良だったので、浅野組の参列者に緊張が走る。

吉良が焼香中、浅野の若いのが拳銃で狙撃しようとしたので、大石がその手を叩いて銃を落とす。

吉良の用心棒として横に控えていた清水も、ベルトの背後に差し込んでいた銃を抜こうとしていたが、咄嗟の判断で止める。

薄笑いを浮かべた清水と無言で睨み合う大石。

続いて千坂飄が焼香し始めたとき、専務、今、本町の酒屋から電話があったんですが、武林と早野が酔っ払っているというんですと岡野が大石に小声で報告する。

飲んでるのか?経を挙げるのも酔っ払っているのも、心は同じで悲しいのだと大石は言い聞かせる。

早野は飲み屋で、酒もってこい!樽で持ってこい!悲しいな〜と武林相手にぼやいていた。

その後、また専務、本町の酒屋で…と岡野がいってきたので、喧嘩しているのか?と大石は聞くと、相手は大学の柔道部で七人だそうです、どうしましょうと岡野は聞く。

大石は、喧嘩でもしないといられないのだろう、ま、そっとしといてやれと答える。

波止場では武林と早野が、大学生相手に大暴れしていた。

パトカーが来て、学生たちは逃げ去ったので、二人で大笑いをしていたが、警官が近づくと、急に、社長!と言いながら二人は泣き崩れたので、警官たちは呆気に取られる。

アサノホテル

大石と対面した遙子は、九州へ私が出発する朝、父はやっと教えてくれました。浅野は父に麻薬取引をさせまいとしてあんなことをやったんだと…と打ち明ける。

そうでしたか…、それでよくわかりましたと答えた大石は、社長はご自身のお怒りだけで大勢の社員を困らせるようなことをなさるお方ではないと信じておりましたという。

私はもうこのまま東京に帰らないつもりです、女の身ではどれほどのこともできないと思いますが、せめて亡くなった主人の意思を継ぎ、このホテルの経営だけでもやっていこうと思っていますと遙子がいうと、それは反対ですと大石は言うので、なぜです?と遙子は聞き返す。

奥様のお気持ちはありがたいのですが、なんといってもあなたはまだお若い、人生にはいろいろなことがございます。東京のご実家へ帰って、広い人生をご経験くださいと大石は頼む。

遙子は嫌ですと拒否するが、しかし柳沢総社の意向で、浅野組は解散させられるかもしれませんと大石がいう。

解散なんて…父にそんなことさせませんと遙子は言う。

その頃、柳沢は車に乗って移動していたが、信号で停まったとき、横に停まった車に乗っていたヘンリー・小林の銃撃で息絶える。

その連絡を電話で受けた吉良は、そうかそうか、ご苦労だったと喜ぶ。

ビジネスは正確にやるんだ、それでいつ東京に帰ってくるんだと小林が聞くので、すぐ帰るよ、今夜はゆっくり寝てくれといって電話を切ったキラに、乾杯ですな?と千坂飄夫が聞く。

その場には玄海クラブの権藤も同席していたので、何の乾杯でしょう?と聞くと、俺が日本の暗黒街に命令を下すことになったお祝いさと吉良は笑って答える。

ではこの辺でお暇させていただきますと遙子に挨拶をした大石は、なおよくお考えおきくださいと言い残し、辞去しようとする。

そのとき部屋の電話が鳴り出し、遙子が出ると、東京の家から?え!なんですって!お父様が!と春子が狼狽したので、失礼と言って電話を代わった大石は、で、まだ犯人の見当はつかんのですかと問いただす。

なるほど、そうですかと言って電話を切った大石は、ソファに座り込んで悲しむ遙子を見守るしかなった。

浅野組の財産は、縄張りの他はこの山の上のホテルですと、千坂がキラに地図を示しながら説明していた。

これを明け渡してもらわないと問題は解決しません。大石以下の残党は明日このホテルで会議を開く様子です、こっな〜なら電話線を切ってしまえば市街との連絡は不可能になりますので、相当首領蜂やっても大丈夫ですひでのが千坂はいう。

うんと納得した吉良は、浅野組は何人いるんだ?と権藤に聞くと、チンピラまで入れて120人程度ですと教え、な

〜に、限界クラブの300人動員しますよという。

東京からうちの精鋭が明日の朝、30着きます!と千坂が付け加える。

それを聞いた吉良は、万事は明日中に解決するなとほくそ笑む。

翌朝の朝刊には「柳沢総社会長射殺される」「昨夜銀座のど真ん中で」「犯人の手がかりなし」という見出しが踊っていた。

浅野組の若手たちがそれを読みながらざわつく中、大石専務や堀部たちがやってくる。

おはようございます、専務、これは一体どうなるんですか?と大野が出迎えたので、大野さん、現金は全て持ってきてくれましたかと大石は尋ね、仰せの通り銀行は空にしてきましたけども、専務、一体こりゃと大野は不安がる。

それをこれから決めるのですと大石はいい、若手たちが集合した部屋に入る。

浅野卓巳社長の遺影が飾られた部屋の前に立った大石は、みんな、今日はよく集まってくれたと若手たちに声をかける。

例え今日は夜中になっても結論を出したいと思う。ます最初の俺の意見を述べさせてもらうが、それを台上にして討議をしてもらいたいと大石は語り始める。

生まれる時は別でも、死ぬ時は一緒だと誓い合ったわええ我々ヤクザだが、俺はそうだとは思わないと大石が発言したので、座は騒がしくなるが、静かに!と堀部に静止される。

みんなも知っているように、社長が亡くなられたばかりではなく、柳沢会長も亡くなられたと大石がいうと、吉良の陰謀です!と早野をはじめ、あちこちから吉良を九州から返すな!そうだ!と声が上がる。

ま、仮に吉良さんが社長や会長の仇だとしても、敵討などというのは全く馬鹿げたことだと大石がいうと、何!と武林ら驚く声が相次ぐ。

何のために集まったんだ!と若手たちは興奮する。

敵討だ!と赤垣が音頭を取ったので、また会場は興奮状態になり、静かに!まず専務の話を聞きなさいと大野が落ち着かせる。

ヤクザも人間だ、親もいれば子供もある、あるいは恋人もいるだろう。親分子分の盃だけで義理人情に生きている時代ではないと大石は続ける。

ヤクザにも生活がある…と大石が続けようとすると、待ってください専務!あんた何が言いたいんだと早野が立ち上がり、そんな話を聞きに集まったんじゃねえや!と武林も反論する。

ヤクザなんて言ってみれば弱虫だよと大石が続ける。

どっかでまともな生活に失敗した男たちが肩をおっつけ仲間を頼りに生きている…、情けねえ集まりがヤクザだよと大石はいう。

専務!いくら専務だって、そんな言い方はひでえや!俺たちはそんな弱虫じゃねえ!と野党も涙ながらに訴える。

死ねって言われれば、いつでも死んで見せますぜ!と赤垣も言い出し、専務は俺たちのことを見損なってるぜ!と武林も立ち上がって抗議する。

そうだ、そうだ!とまた騒然としたので、黙って聞け!と堀部が注意する。

俺は三十数年ヤクザの道しか歩いてこなかった男だ、今更どこにも通用しないカタワな人間だ、しかし若いお前たちは違う!と大石は呼びかける。

チャンスさえあれば新しい力が湧いてくるだろう、堅気の人のようにたった一人で胸を張って生きてもいけるだろう、現在のチャンスは金だ、金さえあればチャンスが作れる。ここに会社の金で1億2000万円あると大石は発表する。

横に控えていた大野と堀部がトランクを開けると、中には札束が詰まっていたので後ろの方の若手が一斉に立ち上がって見る。

今から俺の一存で盃を返してやる。そして一人頭100万円を退職金としてやると大石は告げる。

いいか、これで学校へ行きたいやつは月謝にしろ、商売やりたいやつは資金にしろ!飲んで博打をすれば一晩と持たん金だが、使いようによっては一生使えるぞと大石は説得する。

これが俺の考えだ、さ、自由に意見を言ってくれと言い、大石は座る。

金なんかいるかい、話が違うぜ、面白くもねえやと口々に意見が出る。

その時大野が、専務、今日ここに集まっているのは、今日入ったばかりのやつから私のように先代から40年も勤めているものもいます、それを一律均等頭割りというのはどうも納得いかないんですがねと意見を言う。

しかし大野さん、あなたは経理担当としてあちこちにマネービルしていなさるそうだな、その金はどこでへそ食ったか…。この際、野暮は言わないことにしてと言い聞かせたので、大野はすごすごと席に戻る。

そのチンピラだが、チンピラから兄貴分まで同じように皆傷を背負っているんです。ま、一人あたま100万円くらいやらなけりゃ、ヤクザの足を洗えと言っても酷な話じゃありませんか?と大石は大野に話かける。

大野はすっかりしょげていた。

さあみんな、二度とないチャンスだ、他人に相談することなく、自分で決めるんだと大石は出席者に呼びかける。

すると、専務と1人立ち上がったので、おう何だ、言ってみなと大石は促す。

あの…、本当に百万円もらえるんでしょうか?と言うので、俺は嘘は言わねえよ、目の前にちゃんとあるじゃねえかと大石が答えると、その男が専務の前まで出てきたので、山田、お前は本当に勇気のある男だと大石はほめ、遠慮なく持っていきなと勧める。

すると、専務!と言い、また一人、二人立ち上がりはじめたので、やめろ!と叫んだ武林は、金なんかいらねえと情けなさそうに言う。

俺はヤクザに憧れてなったバカだ、バカは死ぬまでバカだい!と言って腕組みしてしまう。

すると、隣に座っていた岡野が、俺は専務に賛成だと言い出したので、何を!と言いながら武林がつかみかかっかみかかってゆく。

周囲の若手がそれを止める。

その後、辞める若手は次々と名乗り出て、金をもらって去ってゆく。

出席者のうち、残ったのは47人だった。

やい岡野!てめえ、さっき賛成しやがって!金をもらってとっとと帰りやがれ!と武林が文句を言うと、金をもらうのは賛成だよ、だけどヤクザはやめないよと岡野は言い返したんで、何をこのやろう!てめえずいぶんがめつくなりやがったなと武林は呆れる。

じっと目を瞑っていた大石が目を開け、どうした?もう金を受け取りに来るものはないのか?と問いかける。

ふん、呆れた馬鹿ばかりが残ったもんだと言いながら立ち上がった大石は、じゃあもう締め切るぞと確認すると、専務と言いながら大野が名乗り出たので、残っていた連中からからかいの声が出る。

大野がさると、みんなに少し話があると大石は言い出すが、腹が減ったから食堂で何か食いながら話すかという。

全員が移動する中、早野は浅野社長の遺影を外して持っていく。

ホテルの外に出て帰りかけていた大野は、列を作ってやってくる車を見る。

食堂に集まっていた連中に、おい、吉良が来たぞという連絡が入ったので騒然となる。

みんな飛び出そうとする中、待て!と堀部が制し、大石の方を見る。

総社を代表して亡き社長の葬式に来られた方だ、丁寧にお通ししろと大石は命じる。

そこに吉良が千坂を伴い入ってきて、ほう、ずいぶんお疲れのようだねと大石に労いの言葉をかける。

こんな夜更けにご苦労です、何か急用でも?と大石が聞くと、急用?冗談じゃない、予定の用事できたんだと浅野社長の遺影を見ながら吉良はいう。

予定では社長の葬式だけだと聞いておりますが?と大石がいうと、あまり一度に話すと、諸君が興奮するといけないと思って、今まで黙っていたんだがね、実は九州へ来たもう一つの重要な役目は、大石君、縄張りを受け取りに来たんだよと吉良が言い出したので、部下たちは一斉に銃を取り出す。

やっぱりそうでしたか…と答えた大石は、覚悟はしておりましたというので、さすが大石君だと吉良も笑う。

それじゃ、浅野組帳簿一式、財産目録もちろん揃っているね?と吉良が言うので、はいと大石は答える。

早速渡してもらおうかと吉良が言うので、大石がはあ…と戸惑っていると、そこに現れたのはファイティング清水だった。

どうしたね?柳沢会長が突然事故に遭われたんで、僕には渡せないと言うのかね?と吉良はいい笑い出すと、それはこうなんだよと続ける。

総社の定款によると、会長事故ある時は副会長これに代わると定めてある。僕は吉良興業の社長であると同時に、柳沢総社の副会長であることを忘れちゃ困るよと吉良は主張する。

承知しておりますと大石がな〜耐えると、急に側のテーブルに置かれていたトランクを杖で叩いた吉良は、なんだねこのボックスは?会社の金だろう?と聞く。

現金で1億2000万円、私の一存で使わせてもらいますと大石はいう。

なんだと?なんたる勝手な真似をする!株式会社浅野の株の51%は総社が持っている。不動産、動産、営業権、一銭たりとも君の自由にはならん!今日したのは君が弁償した前と吉良は指摘する。

取り上げようと吉良が命じると、千坂がトランクを手に取ろうとする。

その時、その千坂の体を引き剥がした大石は突然銃を取り出し、渡せねえなと吉良にいう。

いい加減に諦めて帰ったらどうだい?と言う大石の言葉を聞き、なんと言う無礼な口を聞くんだと吉良が怒ると、これが地だよ、たった3人でやってきたところを見ると、いい度胸だと褒めてや裏てえと思ったが、それにしちゃ、お前、あんまりケチだな〜と大石は言う。

いずれ総社の会長になるつもりだろうが、そんな了見じゃおめえ、誰もついちゃ行かねえぜ!おい、安心しな、俺もここにいる野郎どもも今夜限りきっぱりヤクザの足を洗ったんだ、その代わり、こいつは餞別がわりにもらうぜと大石はいう。

50人もの人間がこいつを取り上げられて、明日から食うに困ったら、それこそおめえ、安心して眠ちゃいられめえ、ちょうどこの辺が頃合の取引じゃねえのかい?と大石。

元来この金は浅野組のチンピラからこの俺まで、やくざ、ヤクザで汗水流して稼いだ金だ。これを取り上げるっていうんなら、鉛の玉でお返しするしかねえようだなと大石が言うので、まだ銃を出していなかった若手たちも一斉に銃を取り出そうとする。

すると笑い出した吉良は、だいたいこんなことだろうと思っていたぜ、大石って男はもう少し利口だと思っていたんだが、案外だったな、俺が1人や2人でここに乗り込んでくるかい!みんな見ろ!というと、一斉に吉良の配下が部屋の周囲から乱入してくる。

たちまち浅野組は取り囲まれてしまう。

ハジキの数が違う!みんなハジキを捨てろ!と吉良は命じる。

そうかい、限界クラブをそそのかしていたのはやっぱりお前だったのか…と、吉良の背後にいた権藤の姿を見て言う大石。

へ、小銭が欲しくてきたんじゃねえ、田舎ヤクザの浅野組に他に恐ろしいものはねえが、大石君、君だけがちょっと目障りだ、貴様も浅野と同じように地獄に送り込むのが俺の最大の目的なのだという吉良。

それを聞いた大石は、おめえが社長を…と呟く。

笑いながら撃て!と吉良が命じると、突然清水が部屋のシャンデリアを撃って灯りを消す。

それを合図に、テーブルを縦がわりにした浅野組と、吉良軍団との壮絶な銃撃戦が始まる。

そんな中、杖を勝手に逃げ出す吉良。

堀部が、おい、専務は?と若手に聞く。

矢頭に写真とってくると告げた早野は、浅野社長の遺影を死守する。

外の車のところまで逃げた吉良は、清水はどうした?と探す。

すると、車で待っていた清水が、こいつは俺の義務だといい、吉良と千坂を後部座席に乗せると、自分は運転席に入り車を発車させる。

そこにパトカーと警官隊を乗せたトラックが接近してくる。

トランクを持って、外で撃っていた大石の元に来た堀部に、ひとまずみんなを逃がせ、その金はお前に預けると大石はいうので、専務は?と聞くと、後始末をすると大石はいう。

室内で撃ち合っていた連中もサイレン音に気づいてみんな一斉に逃げ出す。

北九州警察署

留置場の中で正座して目を瞑っていする大石。

玄海クラブの権藤やゲンも捕まっていた。

お呼びですか?と部屋に来た男に、ああ、北九州にいる大石を釈放するように手続きしてくれないかと窓際で命じたのは立花警視総監だった。

総監!と驚いたのは公安部長だった。

大石を釈放するんだよと繰り返す橘に対し、総監と大石とはクラスメイトとは聞きましたが、いくらなんでもあれほどの騒ぎを起こした一方の責任者を…と公安部長は反対するが。いいんだよ、私に考えがあると立花は言い張る。

大石が出れば必ず吉良に復讐する、大石はそういう男だ。受けた恩義は決して忘れることができない昔気質の男だ、私はよく知っていると立花はいう。

必ず東京に出て、吉良にぶつかって行くな…、たとえ一人でも…、そういう男だよ、あいつは…、しかしそれがチャンスなんだ、その時こそ一切を一網打尽にできる時なんだと橘は続ける。

いいかね?大石は私の親友だよ、その親友を囮に使う腹を私は決めたんだというので、公安部長は納得してはいと答える。

浅野社長の墓前に合掌する大石に、専務、待っていたんですと声をかけてきたのは、堀部以下、46人の若手たちだった。

海辺を歩きながら、専務やるんですか、敵討を?と堀部が聞き、本心を聴かせてくださいと迫る岡野、専務、本心を!と聞く早野、専務!と詰め寄る赤垣、話があるとあの時おっしゃったじゃないですか!と迫る矢頭、武林たち…

その頃、浅野社長の墓前に立っていたのは、フランスから戻った田原星夫だった。

田原は屈んで手を合わせる。

浜辺の草原に円陣を組んだ若手たちに、中央に座り込んだ大石が、みんなよく聞いてくれ、今こそ俺の本心を言おう、俺は吉良をこのままにはしておかん!と言ったので、若手たちは一斉に身を乗り出す。

吉良は不良外人の手先となって、日本人を麻薬で滅ぼそうとしている。俺はそれをどうしても防ぎたい!そうすることが亡くなられた社長の心に添いうただ一つの道だと大石が言い切ったので、全員、専務と呼びかける。

立ち上がりながら、ついてきてくれるか?と問いかける大石に、やります!と全員も立ち上がチンチので、何人いるんだ?と聞くと、は、専務を入れて47人!と堀部が答える。

そうか…と答えた大石は、沈み行く夕日を見つめるのだった。

第一部 終


0コメント

  • 1000 / 1000