「天下の快男児 旋風太郎」

高倉健さん主演「天下の快男児 万年太郎」(1960)「天下の快男児 突進太郎」(1960)に次ぐ、「天下の快男児シリーズ」第三弾

劇中、登場する別府東映」に看板が掲げてある「べらんめえ芸者罷り通る」が1961年1月公開で、この作品にも美空ひばりさんのお相手役として高倉健さんは出演しており、本作はその1ヶ月後の2月14日公開である。

 このシリーズは、明朗闊達な青年と、その青年に一目惚れする娘たちとの軽いタッチ青春社会人コメディなのだが、今回は船がテーマになっており、東映版「若大将もの」と言えるかも知れない。 

この当時の健さんには全くヤクザっぽいイメージはなく、屈託のない好青年キャラになっている。

 このシリーズが順調だったら、生前健さんがテレビなどで話していたように、ハワイでウクレレを弾いて歌うような東宝の若大将みたいな役があったかもしれないし、実際本作では、海の男風のキャラを演じる健さんが、船上でギターを奏でて歌うシーンなどもあるくらいなのだが、シリーズとしてはこちらの「天下の快男児」シリーズの方が先なのである。

 波島進さんがコミカルな憎まれ役みたいなポジションを演じているのも珍しいが、若大将における青大将ほどのインパクトはない。

 同時期の健さん映画で、大村文武さんなどが演じるポジションのように見える。

名悪役で知られる上田吉二郎さんの「ブハハハハハ!」という独特の笑い声もたのしめる。 

ビンちゃんこと楠としえさん演じる芸者梅香も楽しいキャラだが、三田佳子さんや佐久間良子さんの美貌も見どころ。 

三田さんはちょっと意地悪な副社長役を演じているが、佐久間良子さんの方は庶民的な娘を演じており魅力的である。 

二人が初めて会うシーンは、互いの目から火花が散っているようなライバルシーンになっており、お芝居とは分かっていても興味深い。 

そこに、山東昭子議員とビンちゃんも加わって、四つ巴の女の戦いが繰り広げられる。

 あくまでも庶民向けの通俗コメディなので、全体的に予想通りにことが運ぶ「ご都合主義」の部分はあるが、気軽に見るにはうってつけの楽しい作品になっている。 

後半は、何やら東宝の「無責任男」シリーズのような展開になり、これも楽しい。

このシリーズが大当たりして、健さんが植木等みたいなC調野郎をやっていくシリーズを想像すると笑いが止まらなくなる。 

【以下、ストーリー】

 1961年、東映、江原比佐夫原案、舟橋和郎脚本、若林栄二郎監督作品 8時40分出航の関西汽船の搭乗客たちが乗り込んでいる。

 あ、船長、もう出航ですと港にいた船員が声をかける。 じゃ、頼むよと声をかけた船長がタラップを登ってゆく。

和服の婦人があなた早く!と遅れた2人の乗客を呼び寄せた後、待ってくれ~!とタラップに走ってくる青年がいた。 

タラップを外す瞬間、大きなバッグを肩に甲板に飛び込んできた青年に、君、危ないじゃないか!と船員が注意すると、どうもすみませんと詫びた男は、船長に会いたいんですがと言うので、君は?と船員が聞くと、は、清水から来た旋風太郎(高倉健)ですと答える。

 タイトル スタッフ、キャストロール

待合室でソファに座った太郎に、しかしよく来てくれたね、別府くんだりまで行く人があるかどうか心配したんだよと隣に座った船長が嬉しそうに声をかける。 

しかし太郎は、いやあ、別府は立派な温泉地ですからねと明るく答える。

 それはまあそうだろうね、ただ紹介する会社が会社だからな…お船長は宥めるように太郎の肩を触る。

二人で甲板に出、船は1杯しかないんですか?と太郎が聞くと、今の船長が私とは遠い親戚でね、商船出の生きの良いのを一人世話してくれと言われたんで、校長に頼んだってわけさ、校長とは同期なんでね…と船長はいう。 

しかし僕が行ったからって、その西海海運っていう会社が建て直されるわけでもないでしょうと太郎が言うと、私はその会社の実情は知らんから何とも言えんがね、東九州では昔から名の通った海運会社らしいんだよと船長はいう。 

ほおと太郎が言うので、まあしっかり頼むよと船長は依頼すると、ああ、そらもう、一旦引き受けた以上は…と太郎が答えかけた時、あら!と女性の声が聞こえ、階段からゴルフボールが転げてきたので、それを拾った下りてきた女性に渡してやる。

あ、どうも…とそっけなく答えた女性について2階部分に上った太郎は、また同じ女性があら!と言って転がってきたボールを渡した後、一緒に上がってきた船長に、できるだけのことはやってみるつもりですが、何しろ僕は会社勤めって全然苦手なんですよと伝えるが、その時、また、あら?当声と共にゴルフボールが転がってきたので、流石の太郎も女性の方を呆れたように見る。

 そして、先輩この歌覚えてますかと言い出した太郎は、帯の夢を洋蘭の~と歌い出す。 途中から思い出したのか、船長も一緒に歌い出す。

歌い終わった太郎の足元に、またあら?と言う女性の声をとともにゴルフボールが転がってきたので、もう少し上手くやったらどうだよ、あんたのおかげでさっきからこっちは落ち着いて話もできないじゃないか!大体ね、女はこんなところでゴルフなんかすることないんだよと太郎が文句を言うと、おあいにく様、これは備え付けの遊び道具ですからね、誰がやろうと勝手よ、それより早く返してと加納みどり(三田佳子)は笑顔で答える。

 腹が立った太郎はそのゴルフボールを専用の穴に受かって投げ、一発でホールインワンさせたので、女性はまあ!と呆れる。 

太郎が船室のベッドで横になろうとしていた時、全くしつこいっちゃありゃしない、また来ちゃうのよなどとボーイ(田川恒夫)相手に文句を言いながら船室に来た女性客がいた。 

こちらだけしか空いてないんでございますが…とボーイが太郎のベッドの上を見せながら言うと、下の太郎をチラリと見たその女性客梅香(楠トシエ)は結構、結構と上機嫌になり、ボーイさん、チップは御法度なんですってね、ちょっとお口を開けてと言いながら自分が持っていたキャンディーのようなものを強引にボーイの口に押し込んだので、それを見ていた太郎は思わず笑ってしまう。

しかし梅香がこんばんはと挨拶してきたので、こんばんはと挨拶するしかなく、酔っ払いがいましてね、しつこく絡むのなどと梅香が話しかけてくると、今夜2階に泊めていただきますので、どうぞよろしく!と言うので、どうぞ、別にぼくんちの2階じゃないですからと太郎が答えると、梅香は愉快そうに笑い、そうでしたわねというと、ちょっと失礼と着物の裾をめくって階段を登ってゆくので、その格好が面白く、また太郎が笑っていると、急に2階のベッドから頭を逆に覗かせ、私、梅香っていうの、どうぞよろしくねと言ってくる。

 気を変えて雑誌を読もうとした太郎だったが、いきなり2階から赤い帯が垂れてきたので何事かと上を見上げる。 

すると、梅香が、すみません、ちょっと拾って~などと上から甘えてきたので、やむなく太郎は拾ってあげるが、そこに梅香!と呼びながら酔客(杉義一)が入ってきたので、2階のベッドのカーテンがさっと引かれる。 

なんや、こんなところにしけ込んでいるのかいな、浮気者やな、ほんまに…と酔客は2階の梅香に気づくと、なあ梅ちゃんとベッドの下から呼びかけるので、あっち行って!と梅香は迷惑がるが、そんなにすねんといてやと酔客は笑っているだけ。

 早う、降りてきいな、あんじょう可愛がってやるさかい…と酔客がしつこいので、うるさいわね、お巡りさん、呼ぶわよと梅香は怒鳴りつける。

アホやな、船の上に巡査がいるかいな、ほんなら、わし、そこへ上がっていくわ、ええな?などと言いながら梯子を登ろうとしていたので、思わず酔客の手を叩いた太郎は、しつこい!と言葉をかける。 

なんやと?と酔客が言うので、2階のお姉さん嫌がっているだろう、もういい加減に出て行けよと太郎が言うと、お前らの知ってることか、ドアホ!などと暴言を吐くので、酔っぱらってなきゃ、海に叩き込むところだと言いながら、太郎は酔客の手を捻りあげると、寝室から外に追い出してしまう。

 何するんや、このガキは!と酔客は向かってこようとするが、太郎が後頭部を描く真似をすると、殴られると勘違いして手を出してこなかった。

 太郎が部屋に戻ると、2階から降りてきた梅香が、ありがとうございます、助かっちゃった、だけどお兄さんって本当に強いのね、私、惚れ惚れしちゃった!お兄さん、お礼の印に行かが?…などとキャンディを取って話しかけてきたので、結構ですときっぱり答える。 

いいじゃない、飴玉くらいしゃぶってくれたって、ねえ?赤いの?などと言いながら大きな赤い飴を太郎の口に入れかけたので、もういい加減2階へ行ってくれよ!と迷惑がる。

 冷たいのね、これをご縁にあなたとお友達になりたいね、私ね、だからお話ししましょうと梅香がうるさく絡んでくるので、飴玉を口に入れた太郎は寝室部屋から出て行ってしまう。 後に残された梅香は、どこに…と言いかけ、自分も飴玉を咥えて膨れる。

 別府 タクシーで「西海運輸株式会社」の会社にやって来た太郎が、事務所内に入ると、こんにちは、戸川船長、こちらにいますか?と聞くと、あら、店長さんあらここにいるわよと女性事務員が教えてくれたので、ソファから立ち上がり、俺が戸川(伊藤雄之助)だとパイプを咥えた男が返事をしたので、帽子をとって対面し、別府航路の吉野船長の紹介で来た旋風太郎ですと挨拶する。

すると戸川は、待ちかねとったよ、昨夜どこに泊まった?と聞いて来たので、別府の宿屋ですと太郎は答える。

 温泉か、たまんねえだろう?え?しかしまあ、旋風太郎っての豪快な名前つけたもんだなと戸川が言うので、ええ、先祖は海賊だったらしいんですよと太郎が答えると、お、イカすじゃねえかと感心した戸川は、副社長紹介してやっから来いという。

 副社長室に入った太郎が目にしたのは、船でゴルフをしていた加納みどり(三田佳子)だったので、互いに、あんた!あなたが!と驚き合う。

 戸川が知ってるんですか?と聞くと、帰りの船で一緒だったのよとみどりは教える。

うん、ああ、加納社長の令嬢、うん、社長が病気なんでね、現在社長の代行をしておられるんだ、それから、こちらが、あの、総務部長の熊谷さん…と戸川は太郎に紹介すると、その熊谷(波島進)が、君、挨拶したまえと、不貞腐れていた太郎に命じる。 

やむなく太郎は、どうも昨日は…と言いながら頭を下げるが、そっぽを向いたいみどりは、船長、とんでもない人連れて来たわね、この人船員の資格なんかないわよと気分悪そうに言うので、戸川はああ?と驚くが、全然エチケットというものを知らないから落第よとみどりは言い放つ。 

あり~?困ったね、旋風君…と戸川が困惑すると、しばらく事務所でお茶汲みでもさせて鍛え直したら?とみどりは熊谷に指示する。 

そうしましょうと熊谷も会釈するが、太郎は即座にお断りします、お茶汲みに来たんじゃねえんだから!と切り返す。 

プライドを傷つけられたというの?とみどりが聞くと、ボロ会社とは聞いてたけど、社長の代用品が気に食わねえなと太郎が言い返したので、代用品ですって!とみどりは怒って立ち上がる。

 熊谷も、君!無礼なこと言うな!と叱責したので、へへっと笑った太郎は、そのまま戸川にさよならと言い捨てて帰って行く。

 港に来た太郎は、若者三人が喧嘩をしていたので、仲裁に入る。 

しかし太郎自身も殴られたので、痛えじゃないか!と文句を言うと、貴様も鬼鮫の一味か?と小山(今井俊二)が言ってきて、殴りかかってきたので、このやろう、本当に何だ?と太郎は立ち上がって迫っていく。

 太郎はそんな小山を馬鹿野郎!と言いながら殴り返し、その場を立ち去ろうとすると、おい、貴様いつから鬼鮫に雇われたんだと痛めつけられた小山が聞いてきたので、鬼鮫?知らねえよ、そんなの…と太郎は答える。 

え?じゃあ鬼鮫の一味じゃねえのか?と小山が言うので、ああ、船乗りだよと太郎が答えると、何だ、そうなら最初に言えよと小山が言うので、お前の方から先に殴ってきたんじゃないかと太郎は言い返す。

 あ、そうか!と小山が頭を掻いたので、馬鹿野郎!と太郎は笑いながら相手を軽くこずき、どうだ?近づきの印にいっぱい行こうか?と誘うと、小山もいいねと喜んだので、太郎はこいつ!と揶揄う。

 坂部でいっぱい飲んだ小山は、いやね、光海運の話断ったもんですから、鬼ざめの連中が因縁をつけてきやがって…とケンカの発端を話すと、おい、ちょっと待ってくれよ、俺は今日この土地に着いたばかりで、何にも事情がわからねえんだが、光からの話っつうのは引き抜きかなんかか?と太郎は聞く。 

すると小山がああというので、良いじゃないか、西海なんてボロ会社寄りと太郎はいう。

 小山は、他の奴らはどう思っているか知らねえが、俺は光が気に食わねえんだというと、やまさん、昼間からご機嫌斜めですねと言いながら、店の主人がお銚子を持ってくる。 

そんなに嫌な会社なのかい?と聞きながら太郎が酒を注いでやると、ああ、あそこの社長の藤本って野郎は鬼鮫一家を利用して西海運輸を骨抜きにしようとしてやがるんだと小山は説明する。

 その鬼鮫一家ってのは?と太郎が聞くと、沖仲仕のボスだよ、今この港で鬼鮫大五郎といえば大した羽振りでね、こんちくしょうさえいなければ、光海運なんかにでけえ面させねえんだがなと小山はいう。 

その頃西海運輸では、融資というのも大事なことですがね、問題はもっと仕事を取ること…と戸川がみどりや熊谷に話していた。

 それも大阪の問屋先にあたってみたんだけど、結局一つも物にならなかったのとみどりは言う。

 昔うちに契約してくれたお店も、現在ほとんど光海運オンリーだし…、しゃくねえ〜、通運省の助成金が降りれば文句はないんだけど…とみどりが愚痴ると、助成金はまず無理じゃないかと思うんです、私としてはこの際、銀行からの融資に全力を注いだほうが…と熊谷が発言していた時、うい!と笑いながら太郎が入ってきたので、何だ君は!と熊谷が注意すると、気が変わりましてね、やっぱりこの会社で使っていただきますと太郎は戸川に話しかける。

 こんなボロ会社でも良いの?とみどりが聞くと、ええ、ボロ会社だからこそ人肌脱ぎたいと思ったんだと太郎はいう。

 あなたなんかに人肌脱いでもらわなくても結構よとみどりはそっぽを向くが、潰れそうなくせに強がりいうもんじゃありませんよと太郎は苦笑し、一緒に苦笑した戸川に、船長なんとか頼みますよと太郎は迫る。

 すると戸川は、こいつは面白そうな奴だから、わしに預からせてくださいとみどりに頼む。 使い物になる?とみどりが挑発すると、バカと何とかは使いようっていうからね、ごめんよと太郎に詫びながらも戸川は答える。

 みどりは立ち上がり、お情けよと腕組みをしたまま答えたので、どうも!と太郎は頭を下げる。

 その後、港の船を見せに行った戸川は、どうだ、良い船だろう?というので、ああ、良い船ですねと太郎も同意すると、お世辞言うなよ、なんかちょっと心細いんだと戸川は答える。

 しかし船長、あの船だけで、よく会社が持っていきますねと太郎が聞くと、うん、仕事があったらあれ一杯で十分だ、みんな光海運に行っちまったからな、残ったやつはいかれるんだよと、自分の頭を指しながら答えた戸川は、仲間と将棋を指していた制服姿の男を艦長の山田(花澤徳衛)だと太郎に紹介する。 

こっちはな、ガッテンの竹さん(岩城力)と言われたので、扇風太郎ですと自己紹介する。

 山田はああと答え、竹さんは、なかなか変わった名だなと感心する。 

どうだよ、エンジンの方?と戸川が山田に聞くと、ん?まあ人間で言えば心臓弁膜症ってとこだなと山田は答える。

ああ、艦長はな、お医者さんの賢人だと戸川は太郎に説明する。

 その後、艦橋部分に来ると、中から男が飛び出してきたので、どうしたんだ?と戸川が聞くと、別の船員ヘチマ(柳谷寛)がおはようさんですと窓から挨拶してきたので、おい、どうした?と艦橋部分に入った戸川が聞くと、家別に…、あ、そうそう、船長、これお嬢さんにどうぞ、フランスやと思うんやけどな、ええ匂いだっせと言いながら、ヘチマは化粧品を渡す。 

う、うん、高いらしいですよ、船長と譲次(大東良)も言うので、そうか?と言いながら、戸川がクリーム瓶のような容器の蓋を開けると、突然びっくり箱の仕掛けで蛇腹状のものが飛び出したので、船長も引っかかった!とヘチマは喜ぶ。

 笑って太郎がクリーム瓶を拾い上げると、これな、舵取りのヘチマと譲次…と戸川が紹介する。

 2人ともイタズラ始めたら船沈み始めてもわからねえって奴で、今度入った扇風太郎だと二人に紹介する。 するとヘチマと譲次は敬礼してきたので、太郎も笑いなから敬礼を返す。

 その時、譲次が、どうです?一つ街に繰り出しませんか?太郎さんの歓迎会でさと言い出したので、うめえこと言って、おめえたち、また女の子にイタズラ仕掛けるんだろうと戸川は言い当てる。

 その言葉通り、その後、二人と飲みにいったキャバレーでヘチマと譲次はホステスにイタズラを仕掛け、驚く相手を見て大笑いしていた。

ヘチマが吸っていた葉巻に火をつけようとしたホステスは、その葉巻から水が吹き出し、おまけに自分の胸にかかった部分をヘチマが擦ってきたので悲鳴をあげる。 

そんな様子を破って見ていた戸川が、小山!どうしたんだ、小山?と聞くと、ああ、やつは何でも集団行動を取らん奴でなと山田が答えていると、人気ホステスがやってきたので、よ、ナンバーワン!待ってました!とヘチマと譲次が声をかける。

 みなさん、嫌にご機嫌じゃない?なんかあっったの?と人気ホステスルリ子(山東昭子)が聞いてきたので、新入りの旋風太郎の歓迎会!と戸川が教えると、扇風?誰、そんなつむじ曲がりみたいな名前の人とルリ子がからかってきたので、俺だよ!と太郎が答えると、あら!名前に似合わぬハンサムじゃないのとルリ子は気にいる。 

ああ、ルリちゃん、挨拶しなさいと戸川が笑顔で勧めたので、あたい、ルリ子っていうのと、太郎のそばに座ると自己紹介し、おひとつどうぞとビールを注いでやる。

その時、ヘチマが、太郎さん、瑠美子さんはね、このキャバレーのナンバーワンですぜと教えると、いやいや別府中のナンバーワンじゃと山田が訂正してくる。

 するとヘチマも、ごめんなさい、店「別府」やと賛成する。

 太郎が気がないように、ほおと感心したので、ほおはないでしょうとヘチマは呆れ、戸川も、おめえ変わってるなあというが、瑠璃子は、あたい誘惑しちゃおうかしらなどと言いながら太郎ににじり寄る。

 すると、ルリちゃん、ダメダメ、太郎ちゃん誘惑するにはこのクリームつけなくちゃと言いながら、譲次が例のイタズラグッズを取り出したので、クリーム?とルリ子が振り向くと、フランス人からもらったんだ、良い匂いするぜ、それにセクシーでねなどと譲次がいうので、そう…と言いながらルリ子が蓋を開けると、蛇腹が飛び出したので、きゃーと言いながらルリ子はひっくり返り、その足をヘチマと譲次が支えてやる。

すっかり上機嫌で歌を歌いながら帰る西海運輸メンバーたちだったが、「べらんめえ芸者罷り通る」上映中の「別府東映」の方から「すずらん通り」に入り込んできたのが鬼鮫大五郎(上田吉二郎)をはじめとする鬼鮫一家連中だった。 

それに気づいた糸瓜たちが足を止めたので、何だよ、どうしたんだと言いながら先頭に立った戸川は鬼鮫と対峙する形になる。

 おい船長!おめえんところの小山の野郎が、おらのうちの若えものを可愛がってくれたそうだが礼を言うぜ、ううん?と言いながらステッキの先端で戸川の胸を押したので、太郎が先頭に顔を出すと、鬼鮫の取り巻き連中が驚き、何事かを鬼鮫の耳元に囁きかける。

 戸川は前に出ようとする太郎を止め、おい、よせよ、相手が悪いと小声で忠告するが、船長、ここは僕に任せといてくださいと太郎はいうので、兄さん、なかなか良い度胸じゃねえかと鬼鮫は笑う。

 ただ、悪いこと言わねえから、引っ込んでなと鬼塚が警告してきたので、鬼鮫と聞いて引っ込んじゃいられねえよと太郎は言い返す。 

それを聞いた鬼鮫は、命知らずめ、おい、構わないからみんなやってしまえ!と子分たちに声をかける。

 子分たちが再開運世の社員たちにつかみかかった時、クラクションが聞こえ、青い乗用車がやってきて、その後部扉から降り立ったの男に、鬼鮫がヘコヘコし始めたので、誰なんだ?と太郎が聞くと、わしは光海運の藤本だよとその男は答える。 

はあ、あんたですか、光海運の社長ってのは?と太郎が聞き返すと、藤本寅之助(多々良純)は太郎を行きつけの料亭に連れて行く。

 その料亭にいた梅香は、目ざとく太郎を発見する。

 一方、鬼鮫一家から無事解放された戸川らは、呑気に帰宅していたが、山田が戸川に、船長、奴一人で大丈夫かな?と聞いていた。 戸川は、ああ心配ない、あいつはなかなかの侍だと答える。

 その頃、藤本は座敷で対座した太郎に、太郎君って言ったね?一杯行こうと笑顔で酒を進めていた。

 しかし太郎は、ええ、話を聞いてからにしましょうかと腕組みをしたので、まあそう言わずに、毒は入ってないよと藤本はいう。 

同席した鬼鮫が、社長の酒では気に入らないと言うのかね、君は?と難癖をつけてきたので、藤本は、おい!と鬼鮫を注意する。 

そこに入ってきたのが梅香で、こんばんわ!と言う挨拶を聞いた太郎は唖然とするが、鬼鮫は、よお梅香さん、よく来たなと、自分の髪に櫛を通しながら歓迎する。

 あっちのお座敷から見えたの、どうもあんたらしいなと思ってさと梅香は答え他ので、ああそうか、そうか、こっちおいで!と鬼鮫は上機嫌になり自分の方へ誘うが、鬼鮫に近づいたように見えた梅香が抱きついたのは太郎の方で、会いたかったわ、あんたに!と言うので、勘違いに気づいた鬼鮫は急に白ける。

 そんな藤本を見て笑い出した藤本は、おいタバコと藤本にねだる。

 急に不機嫌になった鬼鮫に、私の彼氏なの、悪く思わないでねと梅香は明るく話しかけると、さあ、どうぞと太郎の酌をしかけるが、太郎は手でそれを止めたので、うん!と梅香も不機嫌になる。

 藤本が鬼鮫からもらったタバコを吸い始めた時、ところで話ってなんですか?伺いましょうと太郎が言う。

 ああ、君のような人物をね、西海海運に置いとくのは如何にも勿体無いと思ってね、どうかね?ひとつ、うちの会社に来てもらえないかね?いや、君の気風に惚れたんだよ、うちに来てくれりゃ給料は倍だそう、船だって、西海海運のようなボロ船には乗せないよと藤本は答える。

 しかし太郎が、せっかくですが、お断りしますと即答したので、梅香は喜ぶ。

 ほお、はっきり断ったねと藤本が返すと、「渇しても盗泉の水は飲めねえよ」と太郎が言ったので、何!と鬼鮫は気色ばむ。

 じゃあ、僕はこれで失礼しますと太郎が言うと、待て!と鬼鮫が呼び止め、盗泉の水とは何だ!盗泉の水とはとつっかってくる。 

すると太郎は、自分の胸に手を当てて考えてみろ!と言いながら立ち上がったので、私も帰るわと言って、梅鴨太郎と一緒に部屋を出ていく。

待て!言わしておけばいい気になりやがって!と鬼鮫は憤慨し後を追おうとするが、その間、隣室で体操を勝手にやっていた藤本は、放っておけ!放っておけ!という。

 うん、慌てることはないさと藤本が言うので、僕も…と言い出した鬼鮫も、上着を脱いで、藤本の横に座り一緒に体操を始める。

 料亭から帰る太郎の腕にしがみついたまま離れようとしない梅香は、今夜良いでしょう?親猫(しんねこ)でさと誘ってきたので、お座敷の途中だろう?と太郎は迷惑がる。

しかし梅香は、お座敷なんてどうだって良いのよ、もう…などというので、ひでえな〜とたるが呆れると、あ、そうだ、あんた宿無しでしょう?私が下宿世話してあげるわと梅香が言い出す。

 えっ?と太郎は驚くが、いいから任しといて、行こう!と言いながら、梅香は太郎の腕を離そうとしなかった。 

このお部屋なの、良いでしょう?と梅香が太郎を連れてきた部屋を見せると、いやしかし、この部屋代本当にタダなの?と太郎が驚くと、女ばっかりで不用心だから男の人に借りて貰えば御の字だって言うのよと梅香は説明する。

 へえっと太郎が部屋を見て驚くと、それでね、ここの家主っていうのがまたとっても気のおけない良い人ときているのと梅香はいうので、なんだか少し話がうますぎるな〜と太郎は警戒しだす。

 ねえ、気に入った?と梅香が甘えてくるので、いや、部屋代がタダっつうのがねと太郎は正直に答えると、じゃあ決めたわよ、はいげんまん!といい、梅香は太郎と指切りをする。

 とにかく、その家主のおばちゃんってのと会わせてよと太郎が頼むと、あら、おばちゃんだなんて失礼ね、やすには私よと梅香はしてやったりという顔で答える。

 君の家?いや、そりゃまずいよと太郎は困惑するが、何言ってるの、今あなた気に入ったって言ったじゃないの!と梅香は拗ねる。

だっていくらなんだって、芸者の置き屋に居候じゃ身が持たないよ、それ僕は質前だからねと太郎は主張する。

 良いって大丈夫よ、私はね自前なの、他の芸者衆いないのよと言いながら、梅香が太郎のコートを脱がそうとするので、いや、君一人¡と太郎は抵抗するが、ダメダメ、男にンジゴンはないのよね、ね、ちょうどお風呂が沸いてるはずだわ、一緒に入りましょうね、身体があったまる、ちょっと待ってて湯加減見てくるからなどと言い梅香は部屋を出てゆく。

 その隙に太郎はコートを着込んで、2階の部屋から屋根越しに逃げ出す。

 部屋に戻ってきた梅香は、あら?どこ行っちゃったのかしら、あの人…、おかしいな〜…と不思議がって窓から外を見ると、太郎が木の枝に乗って下に降りようとしたものの、その枝が折れて落下する瞬間を見てしまう。

その頃、自宅の風呂に入っていた外川は、なかなか見どころがある男だよ、気っ風と言い度胸と言い申し分のない奴だ、あれで船乗りでなかったら、お前の婿にちょうど良い!などと外で湯加減を見ていた娘の幸子(佐久間良子)に話しかけたので、嫌なお父さん!と幸子は怒る。

 しかし、こんばんわと声がしたので振り返った幸子は悲鳴を出して逃げたので、どうした、幸子と言いながら、外川が窓を開けると、そこに立っていたのは顔中泥だらけの太郎だった。

 どうしたんだ、おめえ?と外川が聞くと、いや、ドブに落ちましてねと太郎は言う。

 ドブ!と笑い出した外川は、というか、入んな、その格好じゃ格好つかないな、うちの娘さんはびっくりして中に引っ込んじゃったわ、幸子〜!と呼びながらも、風邪ひきそうだわと戸川が言うので、泥だらけの太郎も浴室に入り込む。

 そんな風呂場の様子を覗きに出てきた幸子に、幸っちゃん!と呼びかけたのは小山だった。 

嬉しそうに小山と一緒に家の玄関脇側についていくと、俺たちのこと親父さんに話した?と小山が聞いてきたので、ううん、まだ…と幸子は否定する。

 どうして話しないの?と小山が聞くと、だって…と幸子は黙るので、そういつまでも俺待てないぜと小山はじれたように言う。

 そんな無理言ったって…と幸子は反論するので、俺から親父さんに話してみるよと小山は言い出す。

 しかし幸子は、ダメよ、今だってお父さん言ってたわ、船員の所にお嫁にやれないって、そのうち時期を見て私が話すからもう少し待っててよねと宥める。

 それを聞いた小山は、おかしいんだな、自分だって船員のくせにして…という。

お父さんは死んだお母さんに散々苦労させたことをとても後悔させてるのよと幸子は教える。

俺は幸っちゃんを不幸なんかにしやしないよ、絶対しないって誓うよと小山はいうと、そう言ってくれる気持ちはすごく嬉しんだけど、お父さんの気持ちもわからないことはないのと幸子が言うので、煮え切らねえんだな〜と小山は不満げに答える。 

さっちゃん!と小山がキスをしようとしたので、ダメよと幸子は拒否するので、どうしたんだって幸っちゃん?と小山はじれる。 そ

れでも幸子は、ね、お願いと言って家の玄関から中に入ってしまう。

 風呂上がりの丹前姿で出てきた外川は、ああいい気持ちだ、あ、幸子どこ行ったんだろうな?と言いながら、箪笥の中を漁り始め、黙って開けると怒られるんだけど、これ着てろ!と言って、着物と帯をパンツ一丁姿の太郎に投げてやる。 

しかしドブにハマった程度でよかったな、え、何しろ藤本だろう?え?ただ事じゃねえと思ったと戸川が言うので、いや、苦手なのは奴らより、あの梅香って芸者の方ですよと太郎は答える。

 おめえは女に惚れられるからな、ちくしょう、おめえ、どこ行ってたんだよと戸川は聞く。 

そこに幸子が戻ってきたので、おめえどこ行ってたんだよと外川が聞くと、お父さん、これお母さんの着物じゃない、ダメねと幸子は注意してくる。

外川は太郎に、娘の幸子と紹介し、太郎はさっきはどうもと謝罪する。 

すると幸子は、あら、お風呂に入ったらわりかし綺麗になったじゃないと太郎を褒めたので、太郎は照れるが、戸川がお茶淹れなと頼むと、幸子は素直にハイと答える。 

ああ、太郎君、うちに置いてやろうと思うんだが…と戸川がいうと、良いけど、自分のことは自分でするのよ、初めに言っとくけどと幸子は答える。

 洗濯ぐらいはしてやるだろう?と戸川が聞くと、嫌よ、お父さんだけでも手がかかるんだからと幸子は答える。

 何も幸子にパンツまで洗わせようってわけじゃねえんだからな、太郎、な?と戸川は念を押すと、太郎も、ええ、そらあ、もう…と頷く。

 それでも幸子は、良いわ、押し入れの中に突っ込んで置かれるくらいなら私が洗ってあげるというので、そうですか、すみませんと太郎が礼を言うと、まあ!と幸子は呆れる。

 戸川は、うちの幸っちゃん綺麗好きなのなどとお世辞をいうと、その上、死んだお母さんと同じようにお人よしって言いたいんでしょう!と幸子は言い返す。 

うんそうそうと戸川が言うと、幸子は戸川の頭を軽く叩くような仕草をして笑う。

 戸川は太郎に小声で、大丈夫、大丈夫!と嬉しそうに話しかける。

 ある日、飲み屋「とん平」にっけ込んできたヘチマは、おい、仕事や仕事や!荷主がついたで!とそこにいた山田や竹さん、譲次らに教える。

 竹さんは本当か?と聞き返すが、へっ、担ごうたってだめだいと山田が混ぜ返す。

 ほんまや、荷主はときわ商事だそうやとヘチマはいうので、何?ときわ商事!と山田も振り返り、馬鹿野郎、ときわ商事といえば、この東九州一と言われる貿易会社だぞと山田は疑問視する。

 するとたけさんは、しめた!と言い、譲次は席をt待って、俺は船の連中に知らせてくると言うと店を飛び出してゆく。

 ヘチマと竹さんも事務所に行ってみようと言いながら店を後にし、山田も飯を食っていた太郎に、担がれたとお思って事務所に行ってみようかと話しかけ、太郎はああと答える。

 太郎と共に西海運輸の社長室に来た山田が、荷主がついたそうですね、ときわ商事だって言うじゃないですかとみどりに聞くと、それがね、やめになっちゃったの…と緑はいうので、そりゃまたどうして?と山田が聞くと、たった今先方から取り消してきたのよ、どうやら光開運の邪魔が入ったらしいという。 ちくしょう!と山田は悔しがり、太郎も、そんな話ってないなと言うと、昨夜先方の社長と会って、契約の一歩手前まで行ったんだけど…とみどりは教える。

 その時はまだ誰にもこの話は知られていなかったんだよ、どうして光開運の耳に入ったのかわからんのだよと熊谷が言うので、よし、光海運に行って話つけてくると太郎が良い、出かけようとすると、無駄よ、およしなさいとみどりは止める。

 いや、しかしこのまま引っ込むわけには…と太郎が言うと、怪我でもしたらつまらないでしょうとみどりは言い聞かせる。 それえも太郎は、だから女は困るよなと言うので、扇風、言葉に気をつけろ!と熊谷が注意する。

 1人で行って話をつけられるような相手なら、僕がとっくにやってるよ、思い上がるのもいい加減にしたまえ!と熊谷が叱るので、太郎は戸川の方に変顔して見せる。

 しかし太郎は単身ときわ商事に乗り込み、受付係(沢彰謙)いや、忙しいのはわかってますよ、でも取り次ぐくらい取り次いでくれたって良いでしょう、別に僕はゆすりやたかりではないんですからねと頼む。

 いや、どんなお方でも、紹介状がなければお取次しないことになっているんです、これは規則ですからねと受付係が言うので、いやいくら規則ったてね、法律で決まってるわけじゃないでしょう?と太郎は粘ると、規則を曲げると私の首が危ないんですと受付係はいう。

 首を捻った太郎は、じゃあ、用件を言いますがね、今社長の家の隣が家事!それでもあんた取り継がない?というと、消防署の証明があればねと受付係は頑固に答える。

 困り切っていた太郎だったが、その時エレベーターから社員たちに見送られて出かける男を見た時、よお野々村(木川哲也)じゃないか?と話しかけると、相手の野々村も、おお!太郎!と気づいて嬉しそうに握手してくる。

 久しぶりだな〜と太郎が言うと、何年振りかな?と野々村もいう。 

学生の時以来だからなと太郎が言うと、しかし面影はあるな、やっぱりと野々村はいう。

 いやお前もだよ、お前、今ここに勤めているのか?と太郎が聞くと、ああと答えた野々村が君は?と聞いてくる。

 いや、ここの社長に会いたいんだけどな、お前、何とかなんない?と太郎が聞くと、社長?社長は俺だよと野々村は嬉しそうに答える。

お前社長?と太郎が唖然とすると、親父の七光でねと野々村は答えて笑いだす。

その夜、自宅で和服に着替えたみどりは、女中が運んでいた飲み物のグラスの乗せたお盆を、いいわ、私が持って行くからと言葉をかけ受け取ると、父親加納信五郎(小川虎之助)がいる部屋に入り、お父様、何考えてるのと聞く。

 すると信五郎は、みどり、お前もそろそろ結婚してはどうかな?と話しかけてくる。

 みどりは、今それどころじゃないわよ、会社を立て直すことが先決問題よと答える。

 熊谷君はどうだろう?と信五郎がいうので、会社の方もお前一人じゃな〜というので、それよりお父様、早く元気になってと言いながらみどりは飲み物を渡しながら、そしたら私、また東京行って勉強したいのよという。

 信五郎は、わしの体がもう少し自由が効けばな〜と嘆く。

みどりは、心配しないで、きっと今に逆転して見せるからと答えるが、そこにあの、扇風太郎様がお見えになりましたが?と女中が伝えにきたので、何でしょう?とみどりは不機嫌いなるが、信五郎は通しなさいと伝える。 

すると、もう通りましたと言いながら太郎が座敷に入ってきたので、図々しいわねとみどりが叱る。

 何だね?と信五郎が聞くと、ときわ商事の話ですけど、うちに取り返してきましたからと太郎が言うので、ええ、本当?とみどりは驚く。

 契約書です、社長のもらってあるから、もう間違いないですと太郎が差し出すと、みどりがまず確認し、信五郎も中身を見て、ほう、でかしたな、こりゃと感心する。

 どうしたって訳?とみどりが聞くと、先方の社長に会いましてねと太郎が言うと、まさかあなた、腕力で脅かしたんじゃ無いでしょうね?とみどりが確認してきたので、いやちゃんと話し合いで取ってきましたよと太郎は言い返す。 

しかしお気にいらないなら返してきますよと太郎が拗ねて見せると、まあ良いわよとみどりは言うので、まあ良いわよってことはないでしょうと太郎も言い返す。 

それを聞いていた信五郎は笑いだし、これは太郎君のいう通りだ、お前だって腹の中では嬉しくてたまらないはずだ、素直に太郎君に礼を言いなさいと告げる。

 しかし太郎は、まあ良いですよ、礼なんてのは、まあ良いわってのはこういうところに使って欲しいなというので、居た堪れなくなったみどりは、礼は言うわよ、いずれはと言い残し、部屋を飛び出して行こうとするので、これみどり!と信五郎は注意するが、さりざま、借りとくわ!とみどりが捨て台詞を言ったので、じゃあ貸しときましょう、利息なしで…と太郎もそっぽを向いたまま答える。

 すると信五郎が笑い出したので、太郎も一緒になって笑い、不貞腐れたみどりは音を立てて障子を閉め、出てゆく。 

仕事が回り出した西海海運の船に乗り込んだ戸川は、これ でまた別府に帰ったら、すぐ東京に向かって出帆だな、ああ忙しくなるぞ!と太郎や譲次やヘチマにいう。

 一番びっくりしているのはこの船だな、恒久に使われるようになるとは夢にも思ってねえだろうと言って笑う戸川に、おかげでこちらも暇なしですわ、なあ?とヘチマが譲次に話しかけると、全くだよ、何もできやしねえと譲次がぼやくので、おめえたち、暇になったら何やり出すかわからねえからなと戸川は揶揄う。

 するとヘチマが、東京土産ですわ、お嬢さんにどうぞとまた贈り物を取り出したので、なんだ、今度はネズミかなんかか飛び出すんじゃねえのか?と警戒しながら戸川が受け取ると、飲み屋でホステスからキスされていると川の写真が入っていたので、馬鹿者!と戸川はしかり、ヘチマと譲次は愉快そうに笑い出す。 そこにやってきた小山が戸川に、熊谷部長から無電が入りましたとメモを渡してきたので、ご苦労さんと戸川は受け取る。

 時間が空いた時、甲板に出た太郎はギターを弾きながら歌い出す。 

それを環境の窓から目撃した譲次は、彼もセンチなところがあるんですねと操舵を持ったヘチマにいうと、船乗りなんてそういうもんや、要するにこれが濃い深夜とヘチマは訳知り顔でいいながら自分の小指を立ててみせる。

夜、船内で、乗組員たちが酒を飲みながら黒田節を歌い上機嫌なところにやってきた小山が、珍しく酒を飲み出した中、どうして飯食わねえ?腹でも壊したか?と山田が戸川に話しかける。

 帰ったらな、うんここれ…と言いながら、太郎と二人な、熊谷から特別招待されてるんだよと無電のメモを戸川は山田に見せる。

 こりゃまたどういう訳だい?と山田が聞くと、戸川も首を傾げる。 

その頃、料亭で藤本と鬼鮫と会って金を受け取っていた熊谷に、相変わらず体操をしながら座っていた藤本が、ところで何かいい考えは浮かんだかな?と聞くと、まあ一案ですがいかがでしょう?まず銀行筋から貸し出しという形で加納親子の持っている株券を担保に取り上げるんですと熊谷は答える。 

うん、それで?と言いながら立ち上がって体操を続ける藤本に、どうせ赤字続きですから担保流れになるに決まってますと熊谷がいうと、ああ、うん、それをわしが買い取るという寸法だな?と藤本は察する。 熊谷は、ええ、さようで…と答える。

 うん、それも一案だがな、本当はあんなボロ会社どうでも良いんだ、わしらは西海さんの桟橋と倉庫だけは欲しいんだがな〜と藤本はいう。

 だから社長、そんな七面倒くさいことしないでさ、早く腕づくで取ってしまったらどうですか?と鬼鮫が言うと、そうなんでもお前のようになんでも腕作ってわけにもいかんよ、相手にだって旋風太郎のような侍いるからなと上半身ランニングシャツ姿になって床の間に腰掛けた藤本はいう。

 社長、その太郎のことなんですがねと切り出した熊谷は、今夜は6時半に船がつくんです、で、ときわ障子のことでどんでん返しを食わされた返礼もあるし、この辺で奴さんを…と言うので、なるほど…と鬼鮫も察する。

 同じ料亭内で、酔客をトイレに連れて行った梅奴は、連れてってくれよと甘える酔客に、何言ってるのよ、子供じゃあるまいし、1人でしなさいよとトイレに押し込むと、ほら困ってしまうとぼやいていたが、その時、藤本のいる部屋から鬼鮫と一緒に熊谷も出てきたのを見つけてしまう。

 一方、自宅で父の帰りを待っていた幸子は、夜の7時半になってようやく玄関が開く音がしたので喜ぶ。 

しかし入ってきたのは小山だったので、あら?お父さんたちかと思ったわと幸子は意外そうにいう。

 船長と太郎は下船してすぐキャバレーに行ったよと小山が教えると、キャバレーと幸子は驚いたので、熊谷部長の奢りらしいよと小山はいう。

キャバレーでは熊谷が、さあルリちゃん、どんどんサービスしてやってくれと勧めるので、ルリ子ははいと答え、さ、部長さんのお許しが出たからじゃんじゃんん見ましょうよと張り切る。

 もうだいぶん回ったよと太郎が言うと、あんなこと言って、まだ序の口じゃない!さ、ぐいっと一杯やって、今夜はあたいが解放させるからねなどとルリ子は太郎に抱きついていう。

その頃、戸川家では、小山さん、よかったらお風呂入って行かない?と幸子が勧めていた。

 しかし小山は、ああ、ありがとう、良いよと遠慮する。 

遠慮しなくたっていいのよと幸子はいうが、それより幸っちゃん、俺話があるんだよと小山は言い出す。

 何?と幸子は身を乗り出すと、今度の航海で俺、心に決めたんだ、幸っちゃん、俺の下宿に来ないかと小山は誘う。 

ええ?と幸子は戸惑うが、今からすぐに来ないか?そんで今すぐ結婚しちまうんだよと小山は迫る。 

まあ、何言うの、小山さん…と幸子がちょっと引くと、とにかく結婚しちゃうんだよ、それから親父さんに話をするんだ、そうすりゃ親父さんだってうんと言うだろう、まともに親父さんにぶつかったって、なかなか埒が明かねえんだもんと小山はいう。 

お互いに好き合ってるんだから、俺は構わねえと思うんだ、どうせ夫婦になるんだもん、それが少々早めになったからって何も…と小山が主張すると、いやよそんなの…と幸子は拒否する。

 小山は、どうして?潔癖すぎるぞ、幸っちゃんと言い聞かせようとする。 

幸子は、小山さん、悪いけど帰ってよ、何だか今日の小山さん怖いみたい…と言い出す。

 私が1人きりでいる時来て、いきなりそんな話酷いわと幸子が言うので、俺は嫌いかい?と小山が聞くので、とにかく今日は帰ってよと幸子は頼む。 

幸っちゃん、俺と結婚したくないのかい?誰か他に好きな人でもできたの?太郎が好きになったのかい?と小山がしつこく聞くので、帰らないなら私が出て行くわといい、幸子は立ちあがろうとするので、小山は帰る!と言い出す。 

キャバレーに梅香と組のものを連れてやってきた鬼鮫は、太郎たちの隣のボックス席に座ったので、それに気づいた熊谷は嫌な奴が入ってきたなと呟く。 

あら太郎ちゃん!と気づいた梅香はルリ子に、ちょっとあんた変わってよ、これ私の彼氏なんだからと話しかけたので、ルリ子も、何するのよ、失礼ね!とルリ子も気色ばむ。

失礼ならあんたの方じゃないのよ!と梅香が言い返すと、あんた一人の太郎さんじゃないわとルリ子も言い返すので、良いから、良いから、ちょっとどいて、引っ掻くよ!などと梅香がいうので、怒って立ち上がったルリ子も、やる気!とボクシングの真似をする。

 やる気満々の二人ともみっともないぞと立ち上がって注意した熊谷は、太郎の隣に仲良く座れば良いじゃないかと瑠璃子を宥め、梅香は自分用の椅子を太郎の反対側においてそこに座ると、来ちゃったと太郎に甘える。

 嫌だわ吾郎ちゃん、あれからどこに転がっていったのよ、ずっと探しちゃったのよ、でも良いわ、もう離さないからと言い、太郎の膝に手を乗せる。 

その時、鬼鮫一家の一人が立ち上がり、おい梅香、まさかてめえ、誰と一緒にここに来たのか忘れたんじゃあるめえなとアヤをつけてくる。

 すると梅香はあんな田舎っぺの親父大嫌い!と言い放ったので、何!と怒ってきたので、太郎は、お兄さん、こんなところで凄むのよしなよと注意する。 

なんだと!と相手は威嚇してくるが、太郎、よせ!喧嘩売ってるんだから買う馬鹿いないだろうと戸川が注意する。

 すると、てめえの出る幕じゃねえと言って相手の男が酒を戸川の顔に浴びせたので、怒った太郎は立ち上がり、鬼鮫一家の若いのを叩きのめし始める。

 その時、酔った大岩(山本麟一)が参加してきて、太郎の前に立ち塞がる。

そんなバーにフラリと入ってきたのは小山だった。

 一方、騒ぎを予定通りだと知っている鬼鮫と熊沢はニヤリと顔を見合わせ笑うが、そんな2人の様子を目撃したのが戸川だった。 

梅香は怯えながらも太郎を応援するが、鬼鮫は構わねえから、腕の骨をへし折ってしまえと命じる。

 ピンチになった太郎を見かねた小山は、思わず近くにあったビール瓶で鬼鮫の子分や大岩を殴りつける。 

それで形成逆転した太郎は、大岩を痛め始めるが、それを見た戸川はやめろ、やめろと制止する。 

それで手を緩め立ち上がった太郎は、小山、ありがとうと礼を言うが、その時、鬼鮫の子分がビール瓶で太郎の頭を強打してくる。 

戸川は驚き、自宅に太郎を連れ帰り医者に診てもらうが、往診した医者は、心配いりませんよ、1日か2日で治りますよと戸川に告げて帰る。

 頭がおかしくなるってことはありませんか?と戸川が聞くと、医者は笑って大丈夫ですよと答える。

 頭に包帯を巻き、布団の中で痛がっていた太郎に、自業自得よ、キャバレーなんかに行った…と幸子は言い聞かせる。 

そこに戻ってきた戸川は、太郎、なんか知らんがな、今夜の喧嘩、初めから仕組まれていたみたいな気がするなと言うので、いや、僕もそう思うんですよと太郎は答える。

 しかし幸子は、喋らないで、太郎さんは早くおやすみなさいと注意する。

 それでも太郎は、ねえ船長、小山の奴、この頃おかしいと思いませんか?今夜だってあいつ…と聞くとするが、だめ、喋っちゃ!お父さんあっち行ってて、太郎さんが休まれないわ…と戸川を遠ざけようとする。

その時、玄関が開く音が聞こえたので、戸川は誰だろう?と不思議がるが、幸子は誰でも面会謝絶よと言いきかせる。 

その時、ごめんくださいと女性の声が聞こえたので、戸川は応対に向かうが、幸子は、気にしないで眠るのよと太郎に言い聞かせる。 

部屋に入ってきたのはみどりだったが、みどりは幸子を見ると立ち尽くしたので、さあたってないでと戸川が座るように勧め、娘の幸子、うちの副社長さんと戸川が両者を紹介する。

 多大にこんばんわと挨拶しアウト、夜遅くようこそと幸子が皮肉をいい、どういたしまして…と互いにバチバチ状態になったので、布団に寝ていた太郎は唇を突き出して変顔になる。

 どうぞと言いながら幸子は太郎の横の席をみどりに譲る。 

大変だったのね、太郎さん!と呼びかけるみどりに、頭動かせないんでと嘘をいい、そっぽを向いたままの太郎は言い訳をする。 

太郎さんにしては不覚だったわねとみどりが嫌味を言ってきたので、ええ、全く…と太郎が答えると、強いって聞いてたんだけど案外ねなどとみどりの嫌味は止まらなかった。

 太郎が、えっ?と呟くと、幸子も、ひどいわ〜、そんなこと言うと、太郎さん悔しがって…というので、また喧嘩する?とみどりは後を続ける。 

すると太郎は、ええ、売られればねと答える。 それを聞いたみどりは、まあ、太郎さん、あなたこんなになって嬉しいんじゃない?と聞いてきたので、えっ?と太郎は驚くが、幸子は、まあひどいというと、じゃあ、私はこれで、お大事にねと言う。

 ああ、このままで失礼と太郎はそっぽを向いた姿勢のまま答え、ま、いいじゃないか、せっかくお見舞いに来てくれたんだからというので、お父さん、太郎さんは少し眠ったほうが良いわ、まだ興奮してんだからと幸子は宥める。 

そう?と戸川が答えると、でも眠れないんじゃない?興奮してとみどりはまだ嫌味をいう。

 戸川はそうですねと無難な答えをするが、その時また玄関が開く音が聞こえ、ごめんくださいという女性の声を聞こえてくる。 

まただ…と戸川が嫌そうにいうと、私もう少しいようかしら…とみどりが言い出す。 どうぞどうぞと戸川がお世辞をいい、玄関に出てみると、そこにいたのはルリ子だった。

 どうですの?太郎さん、私、心配で心配で…とルリ子は応対に出てきた戸川に聞くが、そこに幸子も出てくる。

 まあ、あがんなよと戸川が勧めると、ルリ子はそこに置いてあったみどりのハイヒールを蹴飛ばして上がり込む。

 部屋に入る時、こんばん…と挨拶しかけたルリ子だったが、あら?先客ねといいながら、みどりの姿を見下ろす。

 うちの副社長と戸川が教えると、副社長?こんなに若くて?へえ〜とルリ子はみどりを観察しだす。

 こちらはキャバレー…じゃない、別府のナンバーワンルリ子さんねと戸川がみどりに紹介する。

 何言ってるのよ、あたいはキャバレーの女給で結構よとルリ子はサバサバいうので、太郎は思わずにやけてしまう。

今夜あたいが無理に太郎さんにお酒を勧めなければ、こんなことにならなかったんだわ、ごめんなさい、太郎さん、あら、怒ってるの?やっぱり怒ってるのねと、反対方向を向いたままの太郎に話しかける。 

いや、今夜の酒は美味しかったよと太郎はおべんちゃらをいうと、嬉しいわ、そう言ってくれて、優しい人ね、あんたって…とルリ子が言うと、毒よ太郎さんに、帰ってもらったら?とみどりが戸川に声をかける。

 そうですねと戸川もしかたなく答えるが、太郎さんがこうなったのはあたいの責任です、治るまで突きっきりで看病するわとルリ子は言い出す。

 するとみどりが、せっかくですけど、太郎さんは私の方でお預かりしますといい出したので、あら、どうして?とルリ子が聞くと、そもそこ今度の喧嘩は会社のことが原因ですから、会社が責任を取るべきだと思うのだからうちで預かるわと緑が答えると、そんな理屈ってないわ、会社が責任を取るのは結構ですけど、それとあなたが預かることとどう言う関係があるの?むしろ、あたいが責任とって預かった方がよっぽどスッキリしてるわとルリ子は主張する。 

すると、そりゃおかしいわといいながら茶を持ってきたのが幸子で、どうして?とルリ子が聞くと、だって肝心なのは太郎さんがどう思ってるかですもの、それがわからないととやかく言っても始まらないわと幸子が言うので、それもそうね、でもとにかくここじゃまずいわねとみどりがいい、ルリ子もうんという。 なぜまずいんですの?と幸子が気色ばむと、だってまたやってこないとも限らないでしょう?鬼鮫親分が…、ここじゃ不用心だわとみどりが答えると、その点はお嬢さんのお宅だって同じじゃないかしら?とルリ子は反論する。

 それくらいなら、あたいのアパートの方がよっぽど安全だわ、いざとなったらすぐどっかに引っ越せるしねとルリ子が言うと、それもまずいわ、あなたのアパートなんか連れて行ったら尚更悪くなっちゃうわとみどりが言い返したので、まあ失礼しちゃうわ、あなた少し想像がすぎやしないとルリ子が言うと、ま、私がどんな想像したっていうの、失礼ねとみどりは怒り出す。

 すると、布団をかぶっていた太郎が我慢しきれなくなり、うるせえよと怒ったので、だから、うちの離れなら静かだし…、ねえ太郎さん、そうしなさいよととみどりが答えていると、でも今動かすのはいけないんじゃないかしら?と幸子が口を挟んだので、大丈夫よ、車で運べば…とみどりは言い返す。

 こんな遅く?とルリ子は反論し、幸子も、まあひどい!と憤慨すると、全くだわと瑠璃子も同意するが、みどりだけ、そうかしら?と言い張る。

 そうよとルリ子が答えると、でもここよりはマシよと緑が言うので、それどう言うわけ?と幸子が言い返す。 そりゃそうよ、当たり前よとルリ子が言うので、まあ、何言うの二人とも!と幸子も強気に出る。

 2対1、あなたの負けよとみどりが謎論理を言い出したのでそんなのないと幸子は反論するが、負けは負けよと言い争いがエスカレートする一方だったので、間に入って聞いていたと側は顔を顰める、うるさ!確かにうるさいと諦め顔になる。 

その時、また玄関を開ける音がして、ごめんなさいと言う女性の声が聞こえてくる。

 戸川は呆れ顔で、どうぞ!どなたでも勝手に上がってくださいと呼びかけるが、誰も入ってくる気配がないので、お父さん、言ってよと幸子が頼む。 

どなたですか?といいながら戸川が玄関に出た間に、勝手に隣の座敷から太郎が寝ている部屋を開けてきたのは梅香だったので、悲鳴をあげた幸子は太郎の布団の上に転がる。

 こんばんわと太郎に向かって挨拶した梅香に気づいた戸川は、あ、なんだお前か…、といい、おい、何やってるんだ幸子?と驚くが、布団から起き上がった太郎は、もういい加減にみんな帰ってくださいよ!と頼む。

すると緑が、ダメよそんな大きな声を出しちゃとしかり、もうすぐみんな引き上げますからね、太郎さん。大人しくねてらっしゃいなどと甲斐甲斐しく言うもので、太郎は顔を顰めてしまう。

 あたいは帰らないわよとルリ子はいい、私だって今来たばかりですもんと梅香も言い張る。

 すると幸子は、どうぞみなさんご勝手に!と怒ったように言い捨てて、部屋を出ていく。 

すると梅香が立ち上がって太郎のそばに来ると、太郎ちゃん、大丈夫?まあ可哀想に!こんなに鉢巻されちゃって!もう台無しだわと嘆くので、太郎は思わず笑顔になる。

はあ、でもよかったわ、生きててくれて太郎ちゃん、お医者様は?と、酔った梅香が太郎の掛け布団を剥ぎながら聞くので、ねえ、ちょっとちょっと、いい加減にしてよ!とルリ子が割って入る。

 すると梅香は、あらあんた案外気が利かないじゃない、ダメでしょう、お医者さん呼ばなくちゃ!と梅香は注意するので、何さ、酔っ払ってお医者様もないもんだと瑠璃子も言い返す。 

そうでした、じゃあとにかく、お姉さんは持ってんのよね、これ!小さいんだけどすごくよく効くのよ、飲んだでねと太郎に優しく話しかけると、ちょっとあんた!お水!と梅香は戸川に命令する。 

戸川は呆れながらも、隣の部屋の小路の隙間から太郎の様子を伺っていた幸子に、水くれよと頼むと、もうお父さんがしたら良いわ!こうなったのも、お父さんがキャバレーなんかに連れてったからよ、みんなお父さんが悪いんだわと幸子が責任を戸川になすりつけてくる。

 水!水!水まだ〜!と梅香が呼ぶので、みどりが立ち上がると、あら?あんたが持ってきてくれるの?と梅香が聞いたので、バカにしないで!帰るのよ!と言い残し、みどりは帰ってゆく。 

あ、そう、さよならと梅香はいい、ルリ子もバイバイ!と手を振る。 寝ていた太郎も、さようならと言いながら首をみどりの方へ向けるが、いつかの金はもう返さなくても良いですからね、帰り道に気をつけてくださいよというので、みどりはにこりと笑い、あなたもお大事にねというと玄関に向かうが、ちょうどお盆に水の入ったコップを乗せて持ってきていた戸川とぶつかり、お盆とコップの水はひっくり返ってしまう。

 気をつけてって言ったばかりなのにな〜と太郎は呆れると、お嬢さんなんてのはああいうものなのよと梅香が太郎に教える。

みどりはバカ!太郎さんのバカ!と呟きながら、ルリ子が蹴っ飛ばした自分のハイヒールを揃えながら玄関を後にする。 

送ってあげますよ、上司1人じゃ危ないからと戸川が言うと、それより後の2人に気をつけて!と言いながら、みどりはルリ子のハイヒールを投げ捨てる。

 戸川は、幸子、ちょっと送っていきなさいと指示すると、幸子はお父さんのばか!と言うので、なんだこのやろう!と戸川は言い返す。

 みどりは、幸子さん、どうもお邪魔しましたと笑顔で伝えると、幸子はどういたしましてと言いながらもすぐに玄関口から出ていこうとするが、太郎さんはあなたのことが好きらしいわと緑は言い残して帰ってゆく。 

その時、悔しい!と言いながら玄関口に来たので、どうしたんだ?と戸川が聞くと、太郎さんがもう帰れって言うのよ、私にとルリ子はいう。 

ああ、遅いからねと戸川が言うと、でなの芸者には言わないのよ、ひどいわ、侮辱だわ!あんなこと言われるくらいなら死んじゃったほうがマシだわ、あら?私の靴がないとルリ子は言う。

 幸子は投げ捨てられたヒールを持ってくると、あらすみません、でもどうして?そうか!あいつだな犯人は言い出したルリ子は梅香の雪駄を手にすると、出てこい!酔っ払い!と奥の部屋に呼びかける。

 それを聞いた梅香は、うるさいわね、あのチンピラ女中!と言いながら玄関に向かうと、ルリ子が雪駄を投げつけてきたので、怒った梅香はそのまま玄関戸を閉めて外に出た瑠璃子を追おうとしてガラス戸にぶつかり、玄関戸のガラスは割れてしまう。

 それを目の当たりにした戸川は、旋風どころじゃない、台風だ全く!とぼやきながら奥の部屋の方を見ると、部屋から出てきた太郎がお辞儀をしてくる。

 翌日、西海海運の社長室に来たみどりは、熊谷から話を聞き、株を担保に?うちの株なんか三問の値打ちもないのにと笑っていた。

ですから上手い話だと申したんですと熊谷はいう。 

それでもみどりは、おかしいじゃないの、西九州銀行は乗っ取ろうとしているのかしら?と聞くと、いやまさか…、海運業の将来を多少明るく見通してるんじゃないでしょうか、私としてはこの際…と言っていたが、電話がかかってきたので、考えておきましょうとみどりは答え、電話に出る。

 はい、西海海運ですが?とみどりが答えると、あ、もしもし、僕太郎です、副社長ですか?と「とん平」から電話をしていた太郎が言うので、いかが?怪我の方は?と聞くと、え、もう大丈夫ですと答えた太郎は、いよいよ出帆ですよ、あなたも東京へ行かれるんですか?と太郎は聞く。

ええとみどりが答えると、その前に話したいことがあるんですが?と太郎はいう。 

じゃあ、今すぐここにきてちょうだいと緑がいうと、いや、それは会社じゃまずいんですよと太郎はいう。

 どうして?と緑が聞くと、どうしてもと太郎はいうので、勘違いしたみどりはプライベートな問題?と聞くと、いやそうじゃなくて会社の重大問題ですよと太郎は答える。 

じゃあ会社に来て話せばいいじゃないのと緑がいうと、いや、それがまずいんですと太郎は主張する。

だからどうしてまずいのよとみどりが反論すると、まずいからまずいんだよ、わからん女だな!と太郎はイラつき出す。

 あなた、私を誰だと思ってるの?副社長よ、そんな口の聞き方ってありますか!とみどりも怒り出す。

 僕は会社のためを思って言ってるんですよと太郎も言い返すので、まあ、副社長を呼びつけるなんて初めてだわとみどりは憤慨する。 

ちょっと出てくるくらい、そんな骨惜しみするもんじゃありませんよ、そんな歳でもないだろうと太郎も売り言葉に買い言葉状態になる。

 みどりはまあ!と呆れ、太郎は何だい!と言い捨てる。 高崎山 猿山に来たみどりは、そこで待っていた太郎と会う。

 街で会っているとまた物議を醸し出しますんでね、ここなら誰も邪魔が入らんだろうと思ってと、太郎は指定場所の言い訳をする。

 でも私、忙しいのよ、4時の…とみどりはベンチに腰掛け答える。

 ええ、わかってます、その東京駅のことなんですがね、熊谷部長と一緒に行くのは止めた方が良いですよと太郎は忠告する。

 どうして?とみどりが聞くと、奴はスパイですよ、光海運のと太郎が言うと、まさか…とみどりは半笑いになる。

いや、絶対そうですよと太郎が主張すると、何か証拠でも?とみどりは聞いてくる。

 太郎は、梅香って芸者、あいつが見たんですよ、熊谷と藤本と鬼鮫が密談しているところと説明すると、みどりはベンチを立ち上がり、あんた、あんな芸者の言うこと信用するの?第一あの芸者が怪しいもんだわ、あれこそ敵の回し者じゃないの?と反論してくる。

 いや、パーですけど、根は良い奴ですよと太郎は答えると、あらあらご馳走様ねとみどりはからかいだす。 

すると、そこに当の梅香が来ており、みどりと太郎を見つけると、まあ、とっぽいわね、あの娘!と怒り出すが、足元に猿が近づいたのでびっくりする。 

鬼山地獄 梅香が待ち合わせていたのはルリ子と幸子で、待ったでしょう、随分…、お客さんが離さなかったのよと言い訳けする。

 用ってなんなの?とルリ子が不機嫌そうにベンチから立ち上がると、今日はケンカしっこなしと笑いかけた梅香は、御用って?と同じく立ち上がった幸子にも、実は今日あんたたちを招集したのはね、あの西海海運のおてんばがさ、太郎ちゃんと高崎山でデートしてたのよと打ち明ける。

 ルリ子はまあと呆れるが、抜け駆けで太郎ちゃん取るなんてそんな人いないわよね、そうでしょう?と梅香が言うと、ルリ子は頷きかけるが、幸子の方はそっぽを向いてしまう。 

あんなおてんばに横取りされたんじゃ、私たちの女が廃ると思わない?だから共同戦線張って対抗しようと思うんだけどどうかしら?と梅香が言うと、賛成!とルリ子は即答するが、幸ちゃんは?と梅子が聞くと、幸子はワニに餌を与えているおじさんの方へ逃げてしまう。

 梅香とルリ子もワニ方に気を取られるが、ちょっとちょっと!その前にあんたたちに聞いとく必要があるわ、あんたたち、太郎ちゃんどう思う?と梅香が確認してくる。

そう言うあんたはどうなのよとルリ子が聞き返すと、あたいはもちろん首ったけと梅香は答え、ルリ子も、費も、負けやしないわと答えるが、幸子は、私?そうね…と答えをはぐらかしたので、そうねってどう言うこと?とルリ子が聞くと、ただ私、共同戦線張ることだけは嫌よと幸子は答える。

 まあ、どうして?と梅香とルリ子が聞くと、やるなら私、1人でやるわと幸子は答えたので、ルリ子と梅香はまあ!と憤慨する。

 その夜、料亭「まさご」に小山を呼び出した熊谷は、廊下で二人きりになると、そんな弱気にならないで、堂々と太郎と張り合えばいいじゃないか、そういえばね、このあいだ太郎が妙なことを言ってきたよ、君に前科があると言うんだ、気にしないでくれよと話しかけ、傷害で3年くさい飯を食ったと言うんだが本当かね?と聞いてくる。

 まあ事実だとしても、そんなことは僕のところで抑えて、社長や船長にも話はしないがね?君は真面目な船員であることはみんな認めていることなんだからと親切ごかしに言ってくる。

 太郎がそんなこと…と豊前とすると、僕も憤慨したねと熊谷は嘘を言う。 

太郎と君とは同じ船で、いわば生死を共にした仲間だ、この間の喧嘩の時だって君が助太刀しなかったら太郎は腕をへし折られてたんだ、その君をだね、実に見下げ果てた奴だよと熊谷は太郎の悪口を吹き込む。

 庭の山椒の木〜、鳴る鈴かけて〜♩と「ひえつき節」を歌いながら、入浴していた太郎だったが、外で薪をくべていた幸子が、太郎さん、あなた今日、高崎山にデートしに行ったでしょう?と声をかける。 すると湯船の中の太郎は、えっ?デート?しかしそんなことどうして知ってるんだと聞き返す。

すると幸子は、ちゃんと情報網があるんですからねと言うので、苦笑した太郎は、しかしデートじゃないよ、会社の用事だよと答えると、あんなこと言って、会社の用事なら会社で話せば良いじゃないと幸子は言い返してくる。

 いや、幸っちゃんなんかにわからない難しい問題があるんだよと太郎が言うと、誤魔化したってダメよと返事があったので、どうして女の子ってのはみんなこうなんだろうな?と太郎は首を傾げる。

 それを聞きつけた幸子は、女の子で悪かったわね!と窓越しに文句を言うので、どうしたんだよ幸っちゃん、今夜は?と太郎は不思議がって窓を開ける。

 すると思わずしゃがみ込んだ幸子は、不潔よ太郎さってと言うので、不潔?そうかな?と首を傾げながら、また湯船に身を沈める。 

そうよと言いながら窓を外から閉めた幸子は、第一正直じゃないわ、好きなら好きってはっきり言ったら良いじゃないの、嘘ついて、騙して、高崎山なんかに連れて行ったりしてと幸子の嫉妬は止まらない。 

いや、そりゃ違うよと太郎が答えると、太郎さん!あなたあの副社長好きなんでしょう?と幸子は聞いてくる。

 ええ!冗談じゃないよ、僕はね、幸っちゃんみたいな家庭的な人が良いなと太郎が答えると、まあ、呆れた、まずます不潔よと言いながら、幸子はどんどん薪をくべるので、そうかな?不潔かな?幸っちゃん、熱いよ!と太郎は訴える。

 しかし幸子は、知らない!太郎さん、茹蛸にしてやると言ってさらに薪をくべたので、幸っちゃん、熱っ!幸っちゃん、熱いよ!と太郎は慌て出す。

 それええも幸子が釜に投げ込んだのは花火だったので、突然爆発し出し、幸子も悲鳴を上げる。 東京 港に浮かんだ船の甲板にいた太郎は口笛で「五木の子守唄」を吹いてた。

そんな太郎の背後にライフルのような銃を持って近づいてきた小山は、ちょっと来てくれと銃を突きつけながら命じる。

 何だ?上陸しなかったのかいと太郎が聞くと、下に行くんだと小山が真顔で言うので、太郎も冗談ではないと気づき、吸っていたタバコを海に投げ捨てると、船の端に腰掛け、何をしよってんだ?と聞く。 

すると小山は、消えてもらう、あんたってもうちょっと男だと思ったよ、見損なったよと小山はいう。 

太郎はわからねえな?と首を傾げ、お手が何をしたって言うんだよ?と聞く。

 あんた、俺の前科のことを言いふらしたそうだな?他人の過去穿り出して何が面白いんだ?そんな女の腐ったような真似するのは許さねえ!と小山が言うので、それは誤解だよ、俺はお前の前科なんて今の今まで知らなかったんだぜと太郎は答える。

とぼけるな!ネタは上がってるんだ!と小山がイキるので、お前、誰かにけしかけられたな?と太郎は言い返すが、さっさと行け!床山は興奮状態だったので、しょうがねえ、行くよと太郎は答える。

 そして移動するふりをしてデッキブラシを掴んだ太郎は、それで小山のライフルをかわし、馬鹿野郎!と言いながら格闘を始める。 

小山のライフルを叩き落とし、殴りつけた太郎は、馬鹿野郎!と言いながら小山を捕まえるが、どうとでもしやがれ!と小山はやけになる。

 俺がお前の過去を揺るがしたって?見損なうな、俺はお前の過去なんか全然知らねえよ、たとえ知っててもそんなこと言いふらすか!お前、俺がそんな男だと思ってるのか?と太郎はいう。

 それじゃあ、野郎の作り事だったのかと小山が言うので、野郎?誰だそいつは!と太郎は問いかける。 

熊谷だよと小山が打ち明けたので、熊谷?そうか…、小山、お前幸っちゃんにそんなに惚れてんのか?と太郎が聞くと、幸っちゃんと一緒になることだけが俺の夢だったんだと小山はいう。

 俺はその夢だけが生き甲斐で、今日まで一生懸命働いてきた、だから、もし幸っちゃんと一緒になれるんだったら、俺は船員なんかやめたって良いよと小山は打ち明ける。

あの子のためだったら、俺は何だってしてやる!とまでいうので、幸っちゃんはお前のことどう思ってるんだ?接吻くらいしたのか?と太郎は聞く。

 すると小山は苦しげにああ…、前はねと答えたので、急に高笑いし出した太郎は、何がおかしいんだ!と怒る小山に、そうか、小山、幸っちゃんは良い子だよ、俺は邪魔なんかしないよというと、その場から離れていく。

 通運省 上京して訪れていたみどりは、あの〜、申請してからもう3月になるんですけど?と総務課長(神田隆)に訴えていた。

 すると総務課長は、助成金の許可は申請順というわけにはいかんですからな〜、申請者側の状況と国の政策とを睨み合せた上で決まることなんですからという。 

でも会社の内情は一刻を争うような状況なんですとみどりは詰め寄る。

 しかしあなたの場合は、まだ却下になったんじゃないんですから良い方なんですよ、ま、もう少し気長に待つんですなと総務課長はいう。

 その後熊谷と共にタクシーで「旅館ゆう月」に戻ってきたみどりの部屋にやってきた駒ヶ谷は、あ、副社長、西九州銀行の件ですが、ここまできたらあの話を再考してみたらどうでしょう?と勧めてくる。

失礼ですが、あなたとお父様の持ち株を担保になされば、助成金程度の金は十分貸し出されますと熊谷はいう。 

その話ね、どうも少しうますぎるような気がするのよ、銀行の方の狙いはどこにあるのかしら?とみどりは警戒する。 そんなことはどうでも…、まず目の前のききを乗り越えることが先決問題ですよと熊谷は説得しようとする。

 迷うみどりの脳裏には、奴はスパイですよ、光海運の…という太郎の言葉が蘇っていた。

 分かったわと答えたみどりに、じゃあ決心しますか?と熊谷が聞くと、その話の裏がわかったっていうの、藤本さんが私たちの株を買い占めようって魂胆なのねとみどりは言い出す。

 熊谷は、えっ!そんなまさか…と答えるが、その目は真剣だったので、熊谷さん、ズバリいうけど、あなたのことでとても変な噂を聞いてるのよとみどりが言うので、何をですか?と熊谷が聞き返すと、あなたが光海運の回し者だって言うのよ、まさかね〜とみどりが笑い出すと、熊谷も笑って、ひどいデマもあるもんだと誤魔化す。

もし本当だとしても私は別に詮索しないわ、その代わり、今すぐ会社を辞めてちょうだいとみどりは言い渡す。

 あなたまで疑っているんですか?と熊谷はいうが、本当かどうかあなたが一番よく知っているはずでしょう?ご自分で進退を決めたら良いわ、私、疲れてるのよ、1人にしといてとみどりは言って立ち上がると、急に熊谷がみどりさん!と言いながら抱きついてきたので、何するの!やめて!とみどりは抵抗する。

 そこにやってきた太郎は、みどりを襲っている熊谷を見たので急いで掴み掛かる。

 熊谷を殴りつけて部屋の外に追い出した太郎を見たみどりは、にっこり笑う。

 椅子に腰掛けた樽に、強いのねと話しかけたみどりは、ねえ、何考えてるの?とはにかむように聞く。

 すると太郎は、助成金のことですよと答えたので、今日はもうお仕事の話はよしましょうよとみどりはいい、うん、それより私のこと、少しは気にかけてくれたらどうなの?と言いながら、みどりも太郎の前に腰を下ろす。

 しかし太郎は、気になるのは会社の方ですよと言いながら両膝を抱き抱えると、ねえ、お酒でも飲みましょうか?とみどりは誘ってくる。

 良し!と足を下ろした太郎が言うので、ウィスキーにする?それともアチアチ?とはにかみながらみどりが聞くと、うんと言うだけなので、どっちなの!とみどりは焦れる。

 確か通運省の政務次官は女代議士の森岡信子女史でしたね、彼女にうまく取り行ったらどうです?同じ女性の立場から、きっと人肌脱いでくれますよ、彼女は女親分ですからね、いや、任してくださいよ、良い手があるんだと太郎は言い出す。

 しかしみどりは、良い手なんか使ってもらわなくて結構よと太郎の手の甲を捻ってくる。 

「森岡信子」邸の前で中の様子を伺っていた太郎が、出かけますよ、今、玄関先に車が横付けになったところだと一緒についてきたみどりに指示する。

 私はどうしたら良いの?とみどりが聞いてきたので、いや、だからさ、僕が女史の車の前に飛び出す、轢かれ損なって倒れる、すかさず、あら!どうしてくれるの?なんか喚く、相手は人道主義が売り物の婦人代議士だ、ほっときゃしませんよ、とにかく病院へってんで担ぎ込まれる、あんたは車の中で、この人私の大事な大事な…ね?とかなんとか紹介しちゃうんだよと太郎はアドバイスする。

 しかしみどりは、それだけ余計じゃないかしらと言うので、いや、そうしとけばさ、相手は責任を感じるよ、おんなじ女性の立場で、そこであんたはコネを持つ、そこから先はあんたの腕次第だよと太郎は言い聞かせる。 

それを聞いていたみどりは、ずいぶん危ない芸当ね、うまく轢かれ損なうなんてできるの?と気乗りしなさそうに言い返す。

 太郎は、大丈夫だよというが、運転手がブレーキ踏み損なったら?と緑が聞くので、いや…、そしたら本当に病院行きだよと太郎は情けなさそうに答える。

それを聞いたみどりは、嫌だわ、止しましょう、そんな無理するの…とみどりが及び腰なので、だって今更後に引けますか?と太郎は説得する。

その時、あ、出てきた!と太郎は言い、森岡女史を乗せた車が動き出す。

 太郎はその車の前に飛び出したので、思わずみどりは眼を塞ぐが、眼を開けたみどりは、知らない中年男が転がっていたがる様を見て驚く。

別の当たり屋と偶然鉢合わせたらしかった。 その脇で呆れたように立っていた太郎は、憮然としたままみどりの元に帰ってくる。

 するとみどりは生きてたの?と聞いてきたので、ええ?と太郎は驚く。

 太郎は痛がっている男とそれに狼狽する二人の森岡の秘書たちを見て、ちくしょう、先を越されたよとぼやく。

 車を降りてきた森岡信子(清川虹子)が、とにかく病院へと声をかけるが、それには及びませんよ、こいつは当たり屋です、僕はちゃんと見てたんだから…と太郎が教える。

おい、婦人代議士だと思って舐めると承知しないぞと言いながら、当たり屋の男の襟首を掴んで強引に立たせると、誰だ貴様!と当たり屋が言い返してきたので、何が轢かれただピンピンしているくせに、さっさと行けよと太郎は嘲る。 

すると当たり屋(打越正八)は、肝心な時に出てきやがって、この野郎!と虚勢を張りながら立ち去っていったので、その進行方向にいたみどりは怯えて身を避ける。

 逃げ去った男を指しながら、あいつは当たり屋と言って、車に撥ねられたと言って金を捲き上げる商売なんです、これからもお気をつけてなってくださいと太郎が言葉をかけると、森岡女史は」まあと驚き、秘書(須藤健)ははいと言って頭を下げてくる。

 おかげで助かったわ、あなたお名前は?と森岡女史が聞いてきたので、いやあ、名乗るほどのものじゃないですと太郎が謙遜したので、この辺にお住まい?と森岡女史が言うので、いえ、東京じゃないんです、先生と同郷ですよと太郎は答える。

 ほお、じゃああなた、長野の選挙民の方?と森岡女子が指摘したので、ええ、先生の演説会には伺いました、感激しましたよと太郎は如才なく答える。 

それを聞いた森岡女史は、あら、そう!と喜び、将来有望な青年だわ、あなたと言うので、じゃあ、僕失礼しますと頭を下げて立ち去ろうとすると、まあ良いじゃないの?どこまでいらっしゃるの?お乗んなさいなと森岡女史が誘うので、良いんですか?と言い、太郎はみどりをその場に残したまま、森岡女史の車に乗り込み出発する。

 演説会に行った小学校は私の母校なのと森岡女史が言うので、知ってます、僕もあそこの出身なんですよと太郎が言うと、あら?じゃああなた後輩ってわけねと森岡女史は喜び、太郎もはあ、光栄ですと調子よく答える。

 まあ、同郷って良いものお姉とすっかり森岡女史は太郎を気に入ってしまう。

 信州の蕎麦美味いですねと太郎がべんちゃらを言うと、そうよ、天下一品よと森岡女史も同意する。

 他の蕎麦食えませんねと太郎が続けると、お蕎麦もだけどお新香も美味しいわね〜と森岡女史は思い出す。

お新香卯、美味いなお新香!と太郎は調子よく繰り返す。

 だけど、政務次官になって何しろ忙しいでしょう?と言い出した森岡女史は、お蕎麦食べに行く暇もないのよと愚痴りだしたので、それじゃあ僕、お届けしましょうと太郎は言い出す。 

信州本場の蕎麦屋を知ってるんですよと言いだした太郎は、ひこ打ちのざる蕎麦本当に美味いですよと言うと、食べたくなっちゃたわと森岡女史は喜ぶので、今日の昼でもお届けしますと太郎は約束する。 森岡女史は、あなた親切な方ねとすっかり太郎を信頼する。 

「通運省」 タクシーでざるそばを運んだ太郎は、サンキューと運転手にいう。

 政務次官室では、秘書の読み上げるスケジュールを聞きながら、森岡女史が書類にハンコを押していたが、そこに入ってきた事務官(菅沼正)が、お話中ですが…と恐縮し、先生、お蕎麦をお頼みしましたか?と聞いてきたので、お蕎麦?ああ、持ってきてくれたの?通して頂戴と森岡女史は答える。

 事務官が出ていくと、では食事にしますからまた後で…と森岡女史は秘書に告げる。

 すぐに事務官pnに案内され、ざる蕎麦を担いだ太郎が、今朝ほどは失礼しましたと言いながら部屋に入ってくる。 

どうもご苦労さん、どうぞと森岡女史が椅子を勧めると、信州名物おらが蕎麦、どうぞ伸びないうちに召し上がってくださいと太郎はテーブルの上に蕎麦を置く。

 森岡女史が椅子に座り、蓋を上げるとざるそばが入っていたので、良い香りと感激すると、出汁はこちらが辛口、こちらが甘口になっております、それから唐辛子は打撃じゃありませんからなどと太郎は甲斐甲斐しく準備をする。

 でもこんなにたくさん、いくら私が大食いでも食べきれないわ、あなたもご相伴なさいと森岡女史が言うので、はあ、どうも!と太郎も横に腰を下ろして一緒にそばを食べ始める。

 じゃあいただくわねといい、うん、美味しいと食べ始めた森岡女史に、そうですか、伸びないうちにと思って神風タクシーで吹っ飛んできたんですと太郎が言うと、嬉しいわね、その気持ち、まあうん…、私くらい有名になるとね、もうちょっと気軽にお蕎麦屋さんにも入れないでしょう?本当に、うん、それにこの頃、総理の御提唱でね、カレーライスばっかり食べてんの…と言いながら森岡女史は蕎麦を食べ進める。 

それを聞いていた太郎は、そうだ、蕎麦湯は湯桶に入れると冷めるんで…と言いながら、自分のシャツの腹の部分から容器を取り出すと、まあ蕎麦湯まで冷めないように懐に温めて…と、あなたのその誠意に心から感動しました、ありがとうと森岡女史は感謝する。

 すると太郎は、いやあ、困るなあ、もっと軽い気持ちで食べてくださいよ、先生と話しかける。 本当に美味しいわ、すっかり故郷を思い出しちまって、あらあらあら、ずいぶん長いわね、あらあらあら、手打ちだからやっぱり…などと森岡女史が蕎麦を箸で伸ばし続けたので、ちょっと待ってくださいと言った太郎は、森岡女史の靴をぬばせ、椅子の上に森岡女史を乗せると、その体に抱きついて支えるが、森岡女史は終始愉快そうに笑い続け、もう結構よと言いながら椅子に座ると、ご苦労様と太郎の働きを労う。 

その夜、ざるそばの出前を前に、あ、お父様?私みどり、ご機嫌よ、通算省の助成金が降りたの、そうなのよ、太郎さんの大活躍でね、彼は最高殊勲選手だわと、みどりが嬉しそうに電話をかけていた。 その電話を自宅で受けた信五郎は、それじゃあ、今度太郎を船長にするんだなと指示する。

 そうね、それじゃあ私、お夕食を済ませたらすぐ東京を発ちますとみどりは伝える。

その頃、藤本は熊谷を前に、お前さんにしてはドジを踏んだものだねとホテルの一室で叱責していた。 はっ、なんとも面目ないと思っていますと熊谷は謝罪していた。

 今まで伊達や酔狂で目をかけてやってたんじゃないよと藤本はいい、窓の外の夜景を眺めていた鬼鮫が、藤本社長、このまま奴らにいつまでものさばらしておけばですね、それこそ社長のメンツに関わりますよと話しかけると、私だってこのまま引くに引けません、どうでも一泡吹かせてやらないと腹の虫が治らん!鬼鮫さん、一つ力を貸してください、お願いしますと熊谷も頼む。 いやそれはですね、次第の意よってはですね、力を貸さんこともないが、ねえ、社長と鬼鮫は藤本にいう。

 私は忌々しいから、あの「朝汐丸」を一思いにやっちまいたいと思うんですと熊谷が申し出ると、お?あの船をか?と藤本が興味を持つ。 ええ、大博打ですと熊谷は答える。

その後、キャバレーに小山を誘い込んだ熊谷は、あの子は太郎に気があるんだよと話しかける。

 だから親父の船長も、結局は太郎と一緒にさせるつもりじゃないのか?すっと下宿させてるところを見るなどと熊谷は嘘を吹き込む。

ところが太郎ってやつは副社長にも気があってね、つまり延長と副社長を巧みに手玉に取ってるんだと熊谷はいう。 

酔った小山を前に、どうだ?この際太郎を徹底的に叩きのめしてやろうじゃないかと熊谷は誘う。

 翌朝、「朝汐丸」の荷上げ作業中、太郎の近くにやってきた戸川は、小山が夜が明けても帰って来ねえんだけど、お前知らねえか?と聞くので、小山が?と太郎は驚くが、ああ、キャビンに荷物もねえんでと戸川は答える。 

あいつこの頃、バカに考え込んでいたよ、なんか心当たりねえかい?と聞かれた太郎は首を捻っていた。

 人気のない場所で待っていた鬼鮫と熊谷のところでトラックでやってきた子分の鉄(日尾孝司)は、ムショで知り合ったダチ公ばかりでさあと連れてきた仲間を紹介すると、仲間達鬼は俺の親分と兄貴だと紹介する。

 すると、東京というところは良いところだな〜、ダチ公がすぐにこれだけ集まってくるんだからなと鬼鮫は感心する。

 仕事の話は鉄から聞きましたが、いただけるものは先にいただけるんでしょうな?と連れてこられた仲間の一人が聞いてくる。

 ああ、もちろん、先渡だといい、兄貴が金をその場で差し出す。 

それを受け取った鉄が、おい分けてくれといい、仲間たちに札束を渡す。

 で、その船ってのは?と仲間が聞くと、ああ、あの男が案内するといい、鬼鮫はステッキである方向を指す。

 影の中から出てきたのは、咥えタバコの小山だった。

 小山はランチの方は大丈夫でしょうね?こっちがお陀仏になっちゃつまんないからなと聞くと、心配しるな、社長たちが7時半きっちりに迎えにくるよと鬼鮫は答える。

 小山が腕時計を見ると、浅野7時15分だった。

「朝汐丸」の艦橋では、太郎がそろそろ時間ですね、小山の奴、とうとう帰って来ないなと戸川に言っていた。

 待っててもしょうがねえな、良し、出帆準備と戸川は命じる。

 太郎が仕方なく作業のために外に出て艦橋の裏手に向かうと、逆の物陰から小山と仲間たちが甲板に姿を見せ、何事か細工を始める。 やがて朝汐丸は出帆する。

 その夜、食時時間になったので、太郎は今日のシチューは味が良いななどと言いながら仲間たちとクリームシチューを食っていた。 

全く珍しことだなと戸川もいい、今日おコック長は誰だと聞くと、コック町はわてでっせと顔を見せたのはヘチマだった。 

ヘチマか、ヘチマにしては上出来だと戸川は褒める。

 美味しいでっしゃろ?出汁が特別でっさかいなとヘチマは自慢する。

 特別?と太郎が聞くと、戦争に行ってネズミを4匹捕まえてこの出汁にしたんやとヘチマが答えたので、ええ!と驚いた船員たちは全員スプーンを止める。 

よう肥えたネズミでな、油もうめえし、出汁が出るんや、よかったらおかわりありまっせというが、その話本当か?ヘチマ…と、太郎と顔を見合わせた戸川が聞くと、へへへ、ネズミ4匹でシチューってわけや、わりかしいけるやろ、このシャレ…とヘチマが答えたので、全く碌なことは言わんなと山田は呆れ、戸川はスプーンを投げ出し、太郎は笑い出す。 

その頃甲板にの物陰に隠れていた鬼鮫は、おい、もう時間だ、船を止めよう、お前たちは準備出来次第仕掛けるんだ、いいな?と仲間達に命じる。

 艦橋の操縦室や機関室に侵入した鬼鮫一家は、船員たちを倒して占拠していく。 

おい、エンジンを止めろと鬼鮫の兄貴分が小山に命じると、食堂にいた戸川は、また心臓止まっちまったよと気づいたので、ちょっと診察してくるかと言い残し、山田と竹さんが部屋を出て行こうとする。

 ドアを開けた山田が、驚いてすぐにドアを閉め自分の体で開くのを防いだので、どうした?と戸川が聞くt、鬼鮫だ!と山田はいう。

 すぐにドアは押し開けられ、銃を持った鬼鮫一家が食堂に乗り込んでくる。

 ブハハハハッ、俺が来たからって別にそう騒がないでも良いではないかと鬼鮫はいう。 

ふん、お前たち一体何の用があるんだと戸川が聞くと、ふんと鬼鮫は無視し、子分たちが手を上げてそっちの壁に立つんだと銃を向けながら命じる。 

仕方なく全員壁向けに立つと、後ろに手を回せと言ってくる。

 縛れと命じられた鬼鮫組の子分が船員たちの両手を縛ってゆく。 

その間、テーブルの下に身を潜めていた太郎は、こっちを向けと政吉(大村文武)から命じられると、船員たちはゆっくり鬼鮫たちの方に向く。

 太郎はどうしたか?太郎は?と鬼鮫がステッキの先を戸川に向けて聞いてきたので、知らんねと戸川は答える。

 何?と鬼鮫はいい、おいここは海の上だ、何発ぶっ放しても構わないぜと政吉が脅してくる。 

それでも戸川は、知らんもんは知らんと毅然と言い張る。

 野郎!と政吉は銃を差し出した時、準備できましたよと兄貴分が鬼鮫に知らせに来る。

 その兄貴分が太郎は?と聞くと、鬼鮫はわからないというふうに手を振る。

 そこに入ってきたのは小山で、おい小山、お前は政と一緒に行ってくれと鬼鮫が命じるのを聞いていた戸川や船員たちは唖然とする。

 小山!お前何やってるんだ?俺たちには言えんのか?お目そんな了見だったのか?顔を見るのも汚らわしい!と言い放つ。

 しかし、小山は黙った球部屋を出ていく。

 その様子をテーブルのシーツの下からそっと覗く太郎。

 船艙部分にやってきた政を、口笛で呼び寄せた小山は、一人近づいてきた政に暗がりでつかみかかる。 

そして争いの末銃を奪い取ると、他の仲間が近づいたところでその銃を向け、動くな!邪魔するとぶっ殺すぞと脅す。 

それでも敵が束になって飛びかかってきたので、小山は一人で戦い始める。

 食堂では、残っていた鬼鮫に、おい、お前たち、もう話しても良いだろう、何を企んでいるんだ?と聞いてたが、その時銃声が聞こえたので、鬼鮫は置い、行ってこいと政吉を外に出す。

 その隙を突き、テーブルの下にいた太郎は、椅子を前方に押し出し、鬼鮫と一人残っていた子分の体を静止すると、飛び出して殴りかかる。 

外に逃げ出した後も追いかけ、鬼鮫を捕まえると、食堂の中に投げ戻す。 小山は、駆けつけた政吉の銃で肩を撃たれるが、物陰に隠れる。

 そこにいた船員たちは、後ろ手に縛られながらも足で鬼鮫を踏んで攻撃する。

 その間、太郎が戸川たちのロープを解こうとする。

 戸川は何を企んでいるんだ!おい言え!と鬼鮫を口撃する。 すると鬼鮫は、船の底に爆弾を仕掛けたんだよと白状する。

 戸川のロープを解いた太郎は頼みますと言い残し食堂を飛び出してゆく。

 船倉にきた太郎は、そこで一人応戦していた小山を見つけ手で合図をすると小山も笑って答える。

 その時、小山は撃たれて倒れる。 太郎は背後から船員が来たことに気づくと、戦争の床に飛び降りる。

 山田たちが、消化器などを手に持ってやってくる。

 鬼鮫一家もやっちまえと命じ、総力戦となる。 

太郎は敵を次々と殴り飛ばし、戸川と山田は倒れた小山に近づくと、小山!と抱き起こして呼びかける。

 大丈夫です、火薬はまだ仕掛けていませんと傷ついた小山は教える。

 何!と驚く戸川に、熊谷が藤本たちと企んだことなんですと小山はいう。 

その時、戸川は頭上から銃声が聞こえたので驚く。

 甲板では、鬼鮫の子分が最後のためを撃ち切っていた。

 敵が弾切れになったことに気づいた太郎は相手に走り寄っていき、格闘が始まる。

 敵をパンチで倒した太郎は、朝汐丸に接近してくるボートオンに気付き身を潜めて監視する。

ボートで近づいてきたのは熊谷と藤本で、向こうからの合図がないですね?と熊谷が言うと、全部回ってみようと藤本が指示する。

 お〜いと船に向かって声をかけた熊谷だったが、おかしいな、さっぱり誰も出てきませんねと狼狽し、何かあったのかもしれんなと藤本も不安そうになる。

 危険ですから、もう少し離れて様子見ましょうか?と熊谷が提案すると、太郎がロープ伝いにボートに乗り込んでくる。

 助けてくれと狼狽する熊谷を海に蹴り込んだ太郎は、藤本も捕まえようとするが、その時、船員たちが縄梯子を下ろしてくる。

 戸川のいる船倉にやってきた太郎は、船長、海上保安庁と連絡がつきました、これからすぐ別府に直行しますと報告する。 

よしと答えた戸川は、小山、お前何だったら東京の病院に入んなよ、幸子なあ、彼女寄越してやろうという。

 小山は驚いて太郎の方を向くので、さっき太郎から全部聞いたよ、いいんだ、いいんだよ、すまなかったなと戸川は小山に話しかける。

それを横で聞いていた太郎は小山にウィンクして見せる。

 別府の港には、梅香、ルリ子、幸子たちだけではなく、マスコミも大勢待ち構えていた。

 そこに降りて来る戸川や船員たちは、お願いしますと新聞社のカメラマンたちが声をかけたので、驚いて立ち止まるが、戸川はすぐに逃げ出そうとしたので、山田が止め、女の子と写真を撮る気持ちでとヘチマが言い聞かせ、無理やりポーズを取らせる。

 そんな父親を見上げていた幸子に、幸っちゃんと呼びかけた太郎は、人気のない船縁からは波止場に飛び降りていた。

あら、太郎さん!と喜ぶ幸子に、幸っちゃん、これからすぐに東京に発つんだと話しかけた太郎は、えっ?と驚く幸子に、小山が東京の病院で君を待っていると伝える。

 戸惑う幸子に、お父さん、君たちの結婚許してくれたんだよと太郎は教えると、えっ!と幸子は驚く。 

客船が港を離れた時、港に駆けて来たみどりは、太郎さんのバカ!と遠ざかっていく船に呼びかける。

 バカ、バカ、いくら会社を建て直してくれたからって、それだけで行っちゃうなんて…、バカバカ、太郎さんのバカ!と帰りながら再び振り返って呼びかける。

 客船に乗って別府を離れていた太郎だったが、港には梅香と瑠璃子が来て遠ざかる船を見ながら何事かを話し合っていたが、そこで泣いていたみどりの顔を見ると、みどりは慌てて逃げ出すが、残ったルリ子は、わかるな、あの子の気持ち…いい、梅香も悲しそうに頷くと、風のように行っちゃったんだものね、あの人…と呟くのだった。 

太郎、太郎、旋風太郎♩の歌に合わせ、船上でタバコを吸う太郎の姿と、港で見送る三人の女性の姿が交互に写り、太郎はハンチングを取って、笑顔で港に向かって振るのだった。

 遠ざかる船に赤い「終」文字

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