「ミヨちゃんのためなら 全員集合!!」

ナベプロと松竹が組んだ「ドリフターズ映画」第三弾。

 この時代の松竹作品らしく、相変わらず貧乏くさくて低予算丸出しなのだが、さらにドラマの中核が、長さんによる加藤茶さんに対する「いじめ」なので、今となっては笑えなくなっている。 

当時はまだ、こうした「弱いものいじめ」が笑いのネタになっていたのだが、流石に当時のようには笑えないのだ。

 確かにテレビでも、リーダーの長さんが他のメンバーをしごいたり、指導するため、あれこれ文句を言うパターンだったけど、ここまで陰湿さはなかったような気がする。

 虐められる加藤さんの役柄が「知的弱者」であるようなキャラになっているのも笑えない要因だと思う。

 ナベプロの先輩であるクレージーキャッツのコントでも、こう言う陰湿な弱者いじめパターンはなかった気がするだけに、本作の設定がどうも飲み込みにくい部分はある。

 そのクレージーのハナ肇さんが、ドリフたちの恩師として登場している。

 さらに、三木のり平さんや左とん平さんまで出てくるので、ドリフ映画としてはやや印象が弱くなってしまっている。 

ちなみに、ハナさん演じるキャラクター花山大造という名前は、1969年1月~1970年まで放送していた「素浪人 花山大吉」からの引用ではないだろうか。

 劇中、カトちゃんが言っている「これで良いのだ」は漫画「天才バカボン」のフレーズの引用だろう。

「007は二度死ぬ」(1966)でボンドガールを演じ、松竹映画「吸血髑髏船」(1968)で主役を演じた松岡きっこさんも出ている。

 一方で本作は「公害」と言う社会問題や「自殺」などという暗い設定も扱っており、「いじめ」に加えてさらに笑えない要因になっているように感じる。

 風刺やブラックユーモアと言われればそうなのだが、これでどう笑えというのか? この当時の松竹喜劇は、テレビの人気者を登場させているだけで、脚本自体に笑いを起こすアイデアはほとんど盛り込まれていないのが特徴だが、本作もその典型例のような気がする。

 劇中に登場する「逃げた女房にゃ未練はないが~♩」という一節太郎の「浪曲子守唄」が発想の元かもしれないが、曲が発売されたのは1963年、人気が出て千葉真一、小役時代の真田広之さん主演で歌謡映画として映画化されたのは1966年では、いくらなんでもネタが古すぎないだろうか。 

劇中、ハナ肇さん演じる花山先生を長さんが「ヒゲゴジラ」と愛称で呼んでいるのだが、これは「週刊少年ジャンプ」の「ハレンチ学園」(1968~)からのいただきだろう。

 さらに珍しいのは、ピコという役で市地洋子さんが出ていること、「ミラーマン」(1971〜1972)でSGM隊員野村由起を演じる直前らしい。

 同時期に作られていた東宝の「ドリフターズですよ!」シリーズの方が、同じ低予算でもまだ夢はあったような気がする。

 【以下、ストーリー】

 1969年、松竹、田坂啓脚本、渡辺祐介脚本+監督作品 

伊刈堂本舗の工場と繋がった自宅内 そうかい、じゃあてめえら、どうしてもこの工場やめようってのかい、どうあっても、なんとの俺とガキを見捨てて出て行こうってのかい?どうなんだい!そんな、ダルマとカギの合いの子みたいに黙りこきってねえでさ、なんとか言ってくれよ、なんとか!あ、そうか!オメエらあれか?俺んとこの母ちゃんが逃げ出したと思ってんのか?と伊刈長吉(いかりや長介)が聞くと、そうじゃないかと加藤ヒデオ(加藤茶)たちが答える。

 べらぼうめ!言っとくがな、あんな役立たずはな、俺の方から追い出したんだ!と長吉はいうので、加藤たちは何言ってるんだ!とバカにする。

 このやろう、本気にしねえな?そりゃこの工場はモダンじゃないよ、しかし漢方薬ってやつはな、こういう仕掛けじゃないとありがたみが出ないんだよと長吉はいう。

 気をつけの姿勢になった長吉は、恐れ多くも百年前、宮中からの御用達を拝命してこのかた、休め、休め、我が伊刈堂本舗は先祖代々独自の製法と抜群の効き目を持って絶大な信頼を博してきた…、そうかい、先輩の俺がこれほど頼んでもてめえたちは聞く耳持たないってえのかい、嘆かわしい世の中だぜ、全く!と長吉のぼやきは止まらない。 思い起こせば10年前…などと長吉が話を続けようとしたので、兄貴!もうその話はたくさんだよ!と新井忠次(荒井注)が言い出す。

 何がさ?と長吉が聞くと、思い起こさば10年前よ、俺たちは日の出高校のブラスバンド部でよ、ドラムずっしり草を噛み、苦労しながら音楽を愛してきた先輩後輩じゃねえかと高木風太(高木ブー )や中山工作(仲本工事)が言い、その先輩をだ、てめえはそれでも後輩か!故人曰く、親の恩は山よりも深く、そして先輩の恩は海よりも高いと…とヒデオが下唇を突き出した長吉の真似をしながらいうと、ばか、あべこべだと長吉は叱る。

 それを聞いたヒデオはずっこけるが、けどよ、何かってえと、先輩面されてこき使われたんじゃよ、こっちの我慢にも限度があるぜと忠次が言い返す。 第一ブラスバンドと漢方薬とどういう関係があんのさ?と工作も聞く。 

俺っちはこんなところでアルバイトしなくても立派におまんま食ってけたんだ!と忠次が主張する。

 それを先輩が、3食付き、ボーナスは年に5回だなんて言って!と忠次が言うと、その給料だってたったの1000円!と風太がいうと、そうよと忠次たちも同意する。

ボーナス5回たって1回100円じゃうちのカミさんだって本気にしませんよと風太はいう。 思わず長吉は、別れた女房お菊(大森暁美)の写真が入った写真立てをつい見てしまう。

 おまけにこの工場から出る匂いがあんまり臭いんでさ、俺たちが街歩くだけでみんな鼻つまんで逃げやがるよな!と工作はいう。 俺にしたってそうだよ、今年7回目の大学受験だっていうのに、このままじゃこの匂いで頭がぼーっとしちまうわね!と工作は続ける。

それを聞いた長吉は、うるせえこの野郎!てめえの頭なんざよ、元々薄ら空っぽなんでえ!と言い返す。

 神奈川県の警察署 わかった?あの匂いじゃろくすっぽご飯も食べられないわよ!風向きの悪い日なんか、昼間っから雨戸閉めてるんだよ!なんのために税金払ってるのさ!と近隣住民が警察に陳情書持参で抗議に来ていた。 

それを聞いていた署長八木孫作(三井弘次)は、うん、わかった、わかった、当局としても、かねがねあの工場はマークしておったんだが、重ねてみんなの納豆するような前後策をば…と答えかけるが、警察の前後策とねお化けには、私は一度も会ったことはねえよと陳情客は言い返し、陳情客たちはまた大騒ぎになる。 

工場の座敷では、よしよしよし…と赤ん坊をあやしながら長吉が、このお兄ちゃんたちはね、太郎坊とおっぽり出して出ていっちまうんだってよ、まるで鬼だね、お兄ちゃんたちはね、死んだらね、地獄に行きたいんだってさ、おバカちゃんだねなどとあやしながら、ミルクを作る。 

お話し中ですがね、地獄でも極楽でもいいからね、あっしら退職金もらいてえんだと忠次が言うので、うん?今何て言った!と長吉はにらむ。

 退職金って言いましたとヒデオが繰り返すと、馬鹿野郎!と怒鳴りながら茶の間にやってきた長吉は、てえめらの方から勝手に辞めて行く奴にな、退職金なんか出ると思ってるのかい!よし!もう頼まねえよ、こっちから首にしてやらあ!即刻ただいま全員解散!恥知らず、恩知らず、エッチ、穀潰し!出て行くなら出てけ!と長吉は怒鳴りつける。

 出ていきますよと後輩たち全員が答え、自分の顔の方がよっぽど破廉恥だ!とヒデオは言い返し、ボーナス5回が聞いて呆れるってんだよなどと捨て台詞を残して4人は部屋を後にする。 

その時、ヒデ!ちょっと待て!と長吉が呼び止めたので、ついヒデオはい!と返事をしてしまうが、先行くぜ!先輩がお呼びだよ、頑張ってねなどと他のメンバーたちはヒデオをその場に残し、さっさと帰ってしまう。

 置いて行くないと呼びかけたヒデオだったが、おめえだけ話が残ってるんだと長吉は呼び止めるので、また俺だけだ…とヒデオは嘆くが、ちょっとここに座れと長吉に言われてしまう。

良いですよ僕…とヒデオは帰ろうとするが、良いから座れ!と長吉に強く言われてしまったので、はい!いつもこれ…とヒデオは嘆きながら座敷の端に座る。

 まさかてめえは俺のそばから離れようとするバカな真似はすめえなと長吉が顔を近づきて睨んできたので、いや、僕もみんなと一緒に…とヒデオは帰った連中の方を指差すが、行こうってのかい?と長吉に凄まれる。 

そういうことになりますかねとヒデオが答えると、方、爽快、するとてめえの根性ってのは犬畜生以下だなと長吉はいうので、ヒデオははあ?と驚く。

 言いたくねえけどな、低脳のてめえが高校を卒業できたってのは一体誰のおかげだ?と長吉は聞いてくる。 そ~ら来た…とヒデオは呆れる。

 足し算はできても引き算はできねえ、てめえが、やっととすっとこ卒業免状もらえたってのも、この俺が教師を脅して試験問題を盗んでやったからじゃねえか、違うか?と長吉が言うので、そういえばそんなこともありましたっけね?とヒデオは笑う。

 てめえはな、地面に頭擦り付けてなんて言った?先輩、先輩は顔こそ恐ろしいけど、心は神様だ、ああ生き神様だ…って、なんて顔しやがんだと、隣で長吉の顔真似をしていたヒデオを叩く。

 てめえはこう言ったぞ、このやろう、生まれる時は別々だったけども、私死ぬ時は生き神様のお側で死にたい、私のこのケチな一生は全部先輩に差し上げます、煮るなり焼くなり勝手にしてください、先輩!って…、追い出したか!と長吉はヒデオの背中をどやす。

そういえば、言わなかったよな、言わなかったような…とヒデオが言うので、馬鹿野郎!言ったんだよ、てめえのそのバーゲンセールのがま口みてえな口がそう言ったんだ、この野郎め!と長吉は怒鳴りつける。

 バーゲンしてるの?とヒデオが驚くと、良いか?男がいっぺん口に出したらな、絶丁にもう引っ込められねえんだ、ヒデ、おめえは金輪際この工場早められねえんだ!と長吉はいう。

 するとヒデオが泣き出したので、飲めよと長吉が哺乳瓶を差し出すと、良いですと最初は拒否するが、さらに進められるといただきますと言って飲み始める。

 なんで俺ばかりこう働かなきゃいけないんだよ!と文句を言いながら、その後は工場で一人マスクをして漢方工場で働くヒデオ。 

なんとか腰を下ろし、みんないなくなっちゃうんだものな…とぼやいていたヒデオに、長吉は赤ん坊をおんぶさせながら、1時間したらオシメ替えとけよ、いいな、それからな、晩飯の支度は4時に開始だ、風呂も入るから沸かしとけよ!と次々と仕事を押し付けてくると、自分は、さて、パチンコでもいってくるかなと言い残して出ていってしまう。

 またパチンコかと言いながら、おぶった赤ん坊のオムツが濡れていることに気づいたヒデオは、何が1時間後だよ、本当に、お前もおしっこばっかりしてるんじゃないんだよ、このやろう!ちんちん挟んじゃうよと赤ん坊に文句を言う。

 その夜、帰宅した長吉は一人晩酌をしながら、おい、遅いぞ!ヒデオをこき使っていた。

 はいはいはい、どうもお待たせしました、やっとご飯にありつけるなと、おかずを持ってちゃぶ台のところにやってきたヒデオは、自分のご飯も盛ろうとするが、いきなり長吉が、今日の反省は?と聞いてくる。 

すると、そうでした!と気づいたヒデオは、茶碗をちゃぶ台に置き、1つ、私心なかりしか、1つ、不精にながるるなかりしか、1つ、銀行に流れるなかりしか、1つ、努力に欠けるなかりしか、1つ勇気に欠けるかかるしか!以上、とても満点だと思いますと答え、橋を取ろうとするが、待てい、まだ忘れてると長吉はいう。

 ああ、そうでしたと思い出したヒデオは、お百姓さん、どうもあんがとさん!と合掌していうが、違うだろ!あんがとさん、あん!と手本を見せたんで、それを真似すると、良し、かかれと長吉は許可する。

 最初はその「かかれ!」の意味を測りかねたヒデオだったが、何度も言われたので、どうやら食べて良いらしいと気づき、茶碗に手を伸ばすと、やめ~!と長吉は言い、おちゃけお代わり!と銚子を手に命じる。

 出す。 

すぐにおかわりの銚子を持ってきて、茶碗の飯を食おうとすると、やめ!と長吉が言うので、ヒステリーを起こしかけたヒデオだったが、おめえも大分、つかれたろう、ちょっと箸置いて聞けと長吉は言う。

 お前も今日1日で労働の大変さを十分体験したことと思う、そこでもう一踏ん張りだ、逃げた女房に未練はねえが、お乳欲しがる太郎が可愛いってな、ま、太郎も大分おめえに懐いたようだ、そこでだ、今日からおめえは、当工場の従業員であると同時に俺の女房としての役割も果たしてくれと長吉は言い出す。

 それを聞いたヒデオは、先輩の母ちゃん!いくらなんでもそりゃちょっと…と呆れる。 な~に、おめえ、おしめ洗濯まるでダメの女の多いご時世だあ、おめえが立派な見本を見せてな世間の女どもにあっと言わせてみろなどと、おかずの皿を持ったまま長吉が言うので、あの~、ご飯食べても良いでしょうか?とヒデオは聞く。 

良いとも、良いとも、お前が俺の女房の代わりをやってくれるってんなら腹一杯食ってくれと、おかずの皿を持った長吉はいう。

 空腹に耐えかねたヒデオは、やります、やります、この際なんでもやります、女房でもなんでもやりますと答え、本当に食べていいんですね?ときくが、長吉は、いや俺もな、実はおめえはどっか見どころがあるなと思ってたんだ、おい、ヒデ、良いか?今日からおめえ、男と思うなよ、言葉使いも全部女で行けと無茶やなことを要求してくる。

はいとヒデオが答えると、じゃあちょっとテストするぞ、女房が俺に言うようにな、優しく色っぽくあんたってちょっと言ってみろと長吉はせがむ。

 あんたとヒデオがいうと、だめだ、だめだ、お前俺の女房はそんな言い方しない、もっと色っぽくあんた…、ちょっとやってると自分がまず見本を見せて要求する。

ヒデオは、長吉の顔真似であんた…というが、いや、おめえのは目が死んでんだよ、目をもっと色っぽくあんたって言ってみろと長吉は要求する。 

あんた…とまた言ってヒデオだったが、いい加減にご飯食べさせてくれよと文句をいう。 

それが違うんだ、この野郎!ねえ、食べても良いかしら?と長吉は見本を見せるので、食べても良いかしらと真似てみるが、いけないと言われたヒデオは、また言い直すが、目、目!と指摘されたので、その後も何度もやり直すが、違うんだよ、い~いかしら…などと長吉はしつこくダメ出しをしてくる。 

そのうち、バカみたいと長吉が言うので、バカだもんなとヒデオは言い返す。 

その夜ヒデオは小学生用のノートに、「1月9日(金)はれ ゴリラ、また狂気のだんあつ。いまはただ、がまんあるのみ。ヘソクリ400円たまった。これでいいのだ。」とひらがなばかりの文字を書いていた。

 そして、これでいいのか?これでいいのだなどと呟きながら、そのままヒデオは眠ってしまう。

 女子校の体育教師花山大造(ハナ肇)は、その日も体育の授業で女生徒たちに体操をさせていた。

 深呼吸をしていたとき咳き込んだ花山は、また来たな~、あの工場だな?臭いな~と、伊刈堂本舗の会社の煙突から噴き上がる煙を眺める。

 臭いな~と花山がいうと、臭いですと生徒も言うので、耐えられんな~と言った花山は、我慢できませんと生徒も言うので、よ~しというと、待ってましたと生徒が掛け声をかける。

 何?と花山が聞くと、俺が掛け合ってくる、各自、その間自習をするようにと女生徒が自分の真似をして指示し、全員が喜び、頑張って!などと言ってきたので、首を傾げながらも、花山は工場に抗議しに行かざるを得なくなる。

 工場前まで来た花山は、よくこんな中で生きてられんなと感心する。

 こら、長吉、出てこい!と呼ばれた長吉は、花山先生!どうです?この間の血圧の薬と話しかける、あれ?効かなかった?いや、あれで下がんないとすると…などと言いながら玄関先にくるが、花山は鼻をつまみながら、馬鹿野郎!東南東の風が吹くときはな、少し遠慮しろって言ったじゃねえかと文句を言ってくる。

 あれ?今日はね、北北西の風じゃなかったかな?などと長吉は人指し指に唾をつけて指摘すると、なあヒデ?と聞くので、ヒデオも北北西と答え、おめえも臭いか?と長吉がヒデオがおぶった赤ん坊にまで聞いたので、馬鹿野郎!生まれたての赤ん坊が喋るわけねえだろうが!と花山は叱りつける それでもなお前たち5人がな、本当の教え子だと思うと世間体が…と言いかけた花山は、オエっと吐き気を催す。 

あれ?世間体が悪い?、これの方じゃヒゲゴジラがね~と長吉が言い返したので、何!と花山は睨み返す。

 いや、花山先生がですね、我々5人の恩師であると同時にブラスバンド部の部長であったという、これには大きな誇りを持っております、なあ?とヒデオに長吉が話しかけると、そう誇り、誇り!誇りだらけですからねとヒデオも揶揄うように同意するので、いい加減にしろ!と花山先生は叱る。

 それかなら五人と言えば、他の不良従業員はどうした?と花山先生が聞くと、あああの3人ね、営業方針に沿わないからバッサリやっちまったと長吉は首を切る真似をしたので、首!と花山先生は驚く。

その頃、養子の店に戻った風太は、何のかんと乗せられて、みなさん誰も長続きしないじゃないの!バカみたいに膨らんでいるだけで、ちっともトリルがないんだから!と女主人(小桜京子)に叱られていた。 

すみませんと風太は、ホルンを磨きながら謝るが、もう腹立つったらありゃしない、どう?あの二階のグータラ学生!何がいいのか女みたいに髪の毛伸ばしちゃってさ!と女主人の怒りは収まらない。 

そこに顔を出したのが工作で、女主人の言葉を聞いて慌ててまた二階へ駆け戻る。 勉強もしないでギターばかり弾いてるじゃないのと言う声を聞き、2階の部屋に入る寸前、工作は女主人に向けて舌を出す。 

あんなのが大学に入ったら、日本の将来は真っ暗だわよとまだしたからの女主人の罵倒が聞こえてくる中、暗い暗いってね、夜間大学だってあるの!と工作は吐き捨ててギターを抱える。

 ああ、もう役に立たなくてもいいから邪魔だけはしないでよ!とまだ女主人の文句は続いていた。 そこにやってきた忠次が、なんださっそく夫婦喧嘩かよと言ってくる。 

類は友を呼ぶって、よく言ったものね、もう邪魔だから!2人とも二階へ行ってちょうだい!と女主人は命じる。

ああ、しけた、しけたと言いながら2回の工作の部屋に来た忠次に、お前はついてるよ、料亭の番頭になれたんだもんなと工作が羨ましがったので、そういう浪人のお前が一番気楽だよ、誰か俺の代わりにこの養子になってくんねんかなと風太がぼやく。 

贅沢言うな、あのクソ工場に比べりゃ、お互い天国よと忠次はいう。

 警察の署長室には、「会議中」のランプが点り、「入室厳禁」の札がかかっていた。

 うん、泣かねえなら殺してしまえ、くそ署長!と言いながら花山先生が将棋の駒を打つと、恐れ入りやの鬼子母神だねと言いながら八木所長が打ち返す。 

来たか長さん、大手の飛車取りだと花山先生が打つ。 

あいたたた…、あの悪さの屁の臭さだ…とぼやいた八木所長は、臭いと言えば、あの工場の匂いにも困ったもんだねと言い出す。 

ああ、ゴリラの長吉か…、ま、あのまま当分ほっとくんだな、あいつら一番最初にしなると花山先生も応じる。 じゃあまあ、ゴリラの長吉の蓄膿症になるのを待つか!と言いながら八木所長は駒を打つ。

 友達と一緒に下校してきた娘が「料亭 瓢箪亭」に戻ってきたのと忠次も戻ってきたので、忠さん!また油売ってたね!と女将(九里千春)が呼び止める。 

見てごらん!そこ!と女将が言うと、客の靴が玄関口に脱ぎ散らかしてあったので、もう宴会ですか?と忠次が聞くと、言っただろう?水曜日の町議会はいつも3時からだって!と女将は叱る

チェッ!何が町議会だよ、明るいうちから飲んだくれて…、だから税金納めるのは嫌なんだよとぼやきながら、忠次は靴の整理を始める。

 座敷では熊井寅市(上田吉二郎)が芸者を挙げて昼間っから酒を飲んでいた。 

そんな熊井の隣で酌をしていた芸者ぽん太(松岡きっこ)の背後に近づいた事務局長の仙波(世志凡太)が、この春に、おらとこの新聞でミス白根町コンテストをやるんだってな?大先生にせいぜい後押ししてもらって一位を取るんだなと話しかけてくる。

 一方、警察署署長室での将棋も、店屋物の丼物を食い終わった後もまだ続いていた。

 またやろうと八木所長は挑むが、5時間もやって…、明日やろうってと花山先生は断る。

いやもう1回だけ!とヤギ緒長はせがむが、もう1回やってもお前さんの負けと花山先生は断言する。 

何!待てばかり言ってでけえこと言うな!と八木所長も言い返したので、ほお、自分はしなかったかい?と花山先生が聞くと、いや…、本の20回くらいじゃねえかと八木所長は言い訳する。 

俺だって10数回じゃねえかと花山先生が言うと、いいよ、いいよ、こんぢやりゃ、そっちが負けそうだからなと八木署長は負け惜しみを言う。

 なんとでも言え!あんまり負け惜しみいうとな、頼まれた歌、作ってやんねえからな!と花山先生が帰りがけにいうと、良いわい、ちゃんとした音楽屋に頼むからと八木署長は言い返す。

 ほお、そんな金あるんだったら頼んだらいいな、俺のはタダだからな、けち!と花山先生も言い捨てて、ドアを乱暴に閉めて部屋を出ていく。 

そのドアを閉めた衝撃で、壁にかけてあった額縁なども落ちてしまったので、八木署長は将棋盤の駒を握りしめて癇癪を爆発させる。

 夜の街を歌いながら帰っていた花山先生に、先生と!店から飛び出てきたのはぽん太だったので、よお、商売繁盛しとるか!と花山先生も声をかける。

 しかしぽん太は、ううん、まずい酒、一度で良いから先生と腰の抜けるほど飲んでみたいわとしなだれかかってくる。

 人目を憚った花山先生は、おい、ちょっと離れて歩けやと注意する。 

ううん、お寿司食べに行かない?とぽん太はまた花山の腕を掴んできたので、だめだ、からっけつだからと花山が断ると、私が奢ってやるから!とぽん太は嬉しそうにいう。

そこに新聞社の仙波ら、酔っ払い集団が近づいてきたので、よお、お揃いで出来上がってるじゃないか!と花山が声をかけると、このやろう!教職にあるものが芸者とデレデレして恥ずかしくねえのかと絡んでくる。

 恥ずかしい?何が…と花山先生が聞くと、ほら、明日の新聞に載りてえのかよなどと酔っ払いが言うので、載るって、こんなことがか?ニュースに乏しいんだな、我が街は…と花山は困惑する。 

ぽん太、熊井先生に知られちゃまずいんじゃねえの?と仙波が言うので、残念でした、花山先生と道端でキスしてたって言って頂戴ねとぽん太は揶揄う。 

なんだと!とセンバがぽん太を捕まえようとしたので、やめろ!オメエらみてえな、ゴキブリに脅かされる俺だと思ってるのか!と花山先生は言い放つ。

 これにキレたチンピラ円柱が飛びかかってきたので、花山先生はぽん太の声援もあって喧嘩の相手をし始める。 しかしその様子を新聞社のカメラマンが写真に収めてしまう。

 近くの赤提灯にしがみついて震えていた仙波を殴りつてた花山先生は、馬鹿野郎、早く消え地めえ!と怒鳴りつける。

学校帰りの森陰で~♩と、その後、ぽん太と手を繋いで帰ってきた花山先生はすっかり上機嫌で、また新聞に乗っかるわよというぽん太に、構わん、構わんと言い放つ。

 ただいま!と帰宅した花山先生を迎えに出てきた婆や(浦辺粂子)は、オッス!と挨拶したポンタに、オスでもメスでも良いよ、ご苦労さんとだけ言うので、婆やさん、冷たいのねとぽん太はいう。

 冷たい、冷たい、あんたまだお座敷が残ってるんでしょうと婆やは忠告する。 

ふ~んだ、妬いちゃってるの?帰るわよ!さいなら!と立ち上がって婆やを睨んだぽん太は帰ってゆく。

 坊っちゃん!と呼びかける婆やに、わかった、わかったと答えた花山先生は、自室に入りネクタイを緩めかけた時、山紫に水清くか…と急に詩を思い浮かべ、自室に置いてあったオルガンでちょっとメロディを奏で、楽譜に書き加えると、何がちゃんとした音楽家だ、ふざけやがって…とぼやく。 山紫に水清くか…と花山先生は深夜まで作曲を続ける。

 翌日、問題はいかにしてすみ良い街を作るか!最大最大多数最大幸福の不肖私が町会議長を務めてこの方、一貫してこの信念を守り通してきたのであります!一つ町民の平和で豊かな街づくり…と熊井が演説していた時、ちょっと待てよ、今日はあんたのPRを聴きにきたわけじゃないんだよ、あんたら一口に公害と言うけどね、長吉の工場を立ち退かせた後、彼にどこに代わりの土地をやるのか?と花山先生が問いかけると、長吉の行き先など本人が決めれば良いことだ!我が白崎新報としては熊井先生ご指導のもと、あいつらを一刻も早く追い出す!と仙波が言い出したので、そうだ!と客から拍手が起きる。 

そりゃ花山先生にしてみれば長吉は教え子ですからね、可愛がる気持ちもわかりますけど、だけど熊井先生は私たち全体を心配してくださってるんですからねと「瓢箪亭」の女将が花山に言い返す。

 そうでございますよ、私も瓢箪亭さんに賛成ですわ、花山先生、少し小石を混同してらっしゃるんじゃございません?と風太の女房も発言する。

 それを聞いた花山先生は、バカな!私がなぜあのゴリラを可愛がる?可愛がる理由は何もないじゃないですか!と反論する。

 ただ私の言いたいのは、長吉の工場から流れてくる匂いが臭い臭いと騒いでいるうちに、その騒ぎにかまけて肝心なことを見落としてはいないかと言うことですと花山先生は主張する。

 すると仙波が立ち上がり、だいたい結論が出たようですなと言い出したので、まだまだ!と花山は抗議する。 

立ち退きを命じた場合、当然、町の予算で買い上げるわけでしょうが、一説によりますと、工場の周りは全部熊井先生が買われたらしいですね?私はあそこは全部町のもんだと思ったんですがね?しかしこれ意外とそうじゃないんですな~と花山先生が発言すると、熊井と仙波は立ったり座ったり落ち着きがなくなる。

 君君、問題をすり替えちゃいかん!工場の悪臭とわしの投資とどういう関係があるのか?と熊井は反論する。

その頃、伊刈堂本舗の前を小学生がマスクをして通り過ぎていた。 赤ん坊の太郎を抱いた長吉が、哺乳瓶を自分で咥えながら外に出てくると、そこにいたヒデオに、集金は俺が行く、てめえが絶対手をつけちゃならねえぞと釘をさす。

 わかってるわよ、ケチねえと女言葉で返事したヒデオだったが、何!と睨まれてしまう。 いや、間違ってました、私って信用がないのね?とヒデオがいうと、馬鹿野郎、てめえっちに持たせるのはな、揚がってるタコの糸が切れたようなもんだと長吉が言うので、察しの良いこと…とヒデオは苦笑する。

 いいか、今11時だ、東京へ着くのが12時として問屋を出るのが1時だ、したがって帰着は2時半と…と長吉がスケジュールを言うと、ヒデオは、はい、はいと返事する。

 絶対の油売るなよと長吉が念を押しても、はい、はいとヒデオは答える。 

これで昼飯でも食ってこいと長吉は10円だけを渡すので、みんな忘れちゃったよ、馬鹿馬鹿しい!とヒデオは嘆く。 

ヒデオは軽トラで漢方薬を詰めた段ボールを東京まで持っていき、帰りのトンネルを抜けた時、良いか、ポケット猿、帰宅は2時半、絶対に油売るなよと言う長吉の指示を思い出していた。

 しかしヒデオは、てやんでい、おふざけじゃないわよ、ゴリラ!アフリカの動物園に売り飛ばしちゃうから!ゴリラったらギッチョッチョンでパイのパイのパイ♩と罵倒し始める。

 途中のドライブインで車を停め、軽トラの2台に横になってヒデオはい眠りをする。

 夢の中では、高校生時代のヒデオや長吉らが全員自転車に乗って「ミヨちゃん」の歌いながら通学していたが、一緒に自転車通学する女子高生の中には、おさげ髪のミヨちゃん(倍賞美津子)もいた。

 その後、運転を再開したヒデオは、まだ「ミヨちゃん」を歌っていたが、ふと気がつくと、道路に3人娘が飛び出してミニスカートをたくし上げて車を停めようとしたので、慌ててブレーキを踏む。

 あぶねえじゃねえか、バカ!とヒデオはフロントガラスもない車の前に顔を突き出して文句を言うが、ああびっくりした、大丈夫かった?と急に笑顔になったヒデオに、ねえ、日出町まで乗せて、お願い!と申しでた娘が思い出のミヨちゃんそっくりなことに気づく。 

ミヨちゃんと指さすと、知ってるの?と他の娘が言うので、だって、青葉高校に行っていた杉村ミヨちゃんでしょう?とヒデオは聞く。

美代は、何だびっくりした、残念でした、世の中にはね、瓜二つな人が3人いるんですってと言う。 ふ~ん、そうか?と怪訝な顔になったヒデオだったが、3人娘には乗んなさい、乗んなさいと勧めたので、3人は喜ぶ。

 美代を助手席に乗せ、他の二人は荷台に乗せて走り出したヒデオは上機嫌になる。

 助かったわ、本当よと荷台の2人から声をかけられたヒデオは、いいえ、でも信じらないわ、高等学校どちら?と聞くと、東京の西和女学院よと美代が答えたので、ふ~ん,じゃあやっぱり人違いなのねとヒデオは答える。 

そして、ねえねえ、どっか回り道でもして行かない?お天気良いしとヒデオが誘うと、そうしよう!と見よも即答したので、嬉しい!と喜んだヒデオのハンドルさばきに、3人は慌てる。

 あんた、女の御兄弟が多いのと聞かれたヒデオは、どうして?いやあね、私こう見えてもね、工場の芸者よと答えたので、芸者?と3人は驚くが、違った、経営者とヒデオは言い直す。 

伊刈堂で待っていた長吉は、3時10分前になってもヒデオが戻ってこないので、赤ん坊をおんぶしながら、何してやがるんだろうな?父ちゃんお前が頼りだから頼むぞ!ほら、にんにくだ、食ってくれ!などと赤ん坊に対してぼやいていた。 

その頃、ヒデオは森の中で美代と一緒に「おかしな二人」を歌っていた。 山の上でお茶を飲み始めた美代は、でも良かったわね、乗せてもらってと他の2人にいう。

 本当、助かっちゃった、さ、どんどんつまんでと女性たちはヒデオに買ってきたものを勧める。 はい、お稲荷さんと美代から稲荷寿司をもらったヒデオだったが、あ、今、何時頃でしょうか?と急に気にする。 

え~っと3時10分過ぎよと眼鏡っ子がサンドイッチを食べながら腕時計を見て教えると、ええ、ささささ…とヒデオが狼狽し始めたので、あら、どっか寄るの?と女の子が聞くので、いやいやそうじゃないんですけどね…とヒデオは言い訳しながらも焦り始める。

 ああ、従業員待たせているからでしょう!と眼鏡っ子が言うと、そんなところですとヒデオに、待たせときなさいよ、経営者なら怖いもんないじゃないと美代もいう。

 ヒデオも思わず、はい、これで良いのだと答えて、稲荷寿司をほうばる。 その頃、長吉は包丁を研ぎながら、畜生、どうするか見てやれ!と顔がこわばっていた。 

その時、クラクションの男が聞こえ、3人娘を乗せたヒデオの車が帰ってきたので、長吉は包丁を背中に隠して外へ出迎えに行く。

 長吉を見て手を振った美代が、従業員ってこのおじさんとヒデオに聞くので、従業員?と長吉は聞き返す。 運転席にいたヒデオは、まずいと気づき、いやいやいや、あの方は一番偉い方!と訂正する。

 包丁を構えて車に近づいた長吉も、美代を見て、あ、あんた確か…と驚くが、この街に似た方がいらしたんですってね、残念ながら別人なんですと美代は長吉にも伝えたので、なんとね~と長吉は驚く。 そして車を降りたヒデオにありがとうございましたと美代が礼を言い、こちらの工場長さんに乗せていただいたんですと長吉に説明したので、工場長?と長吉は驚く。

さ、行こうか?と美代が2人の連れに行ったので、良かったら私がお送りしましょうかと長吉が申し出るが、結構です、目標は分かりましたから、どうもすみません、すぐそこですから、じゃあどうも、改めてお礼に伺います、バイバイと言い残し、美代たちは去ってしまう。

長吉は包丁を見せつけ、ヒデ、入んな…、入れ!と脅して工場内に押し込む。 

おい!と長吉が時計の方を見ながら言うと、4時過ぎました!とヒデオは答えるが、工場長って誰残った?間違ってました、工場長は先輩であります!とヒデオはいいなおす。 

あの女何者だ?と長吉が聞くので、美代ちゃんですとヒデオが答えると、何!じゃあやっぱり…と長吉は驚く。 いやあの…、名前も顔もよく似てますが、全然別人の女子大生なんですとヒデオは教える。

 しからば何者だい?と包丁を取って長吉が聞くので、いや、ですから知りませんとヒデオは言うしかなかった。 どうしておめえはそうしらを切るんだ、今日の晩飯は封鎖すると長吉がいい出したので、また!とヒデオは抗議する。

 マンマちゃんやんないよといびる長吉に、先輩!そんな酷い!とヒデオは縋ろうとするが、うるせい!と長吉は逃げてしまったので、またご飯食べられない!とヒデオは嘆く。

 晩飯時、一人で飯を食う長吉の前で、先輩、本当にあの人たち知らないんです、神様に誓って知らないんですって!とヒデオは詫びるが、おめえが工場長で、俺が従業員か?年頃の娘さんの前で赤っ恥かかせてくれておおきにありがとうよと長吉は嫌味を言ってくる。 

いやいやいや、ですからそれはほんの言葉のはずみでございましてねとヒデオは言い訳するが、馬鹿野郎!てめえが正直にゲロしないうちは、今の俺の心境としてはだな、おめえに一粒の米の飯も食わしたくねえのよといいながら、長吉は橋につまんだ飯をヒデオに食わせる振りだけして自分の口に入れてしまう。

 もう意地悪ね!とヒデオが被っていた姉さん被りを投げつけると、美味しいのよと長吉はわざという。 

その夜ヒデオは、時は来た、独裁者ゴリラを殺す時が来た、無我慢できない、殺してから潔く自首しよう、神よ我に力を与えたまえ、アーメン!と日記に書いていた。

 その後、台所にあった包丁を取り出したヒデオは、長吉の寝室に行き、赤ん坊の太郎と一緒に寝ていた長吉を刺そうとするが、太郎が起きていてじっと見ていたので、殺意が消え、無意識にあやし始める。 その音で目覚めた長吉が、あぶねえじゃねえか、そんなもの持って、怪我でもしたらどうするんだ?と言ってきたので、あ、そうだ、太郎ちゃんがそろそろおっぱいの時間じゃないかなと思ってとヒデオはごまかす。

 なんで今夜に限って出過ぎた真似しやがるんだい?と長吉が突っ込んできたので、ヒデオは笑顔で誤魔化すが、明日は飯食わせてやるよ、寝ぼけてねえでさっさと寝ろ!といいながら長吉は寝る。

 結局、何もできず自分の部屋に戻ってきたヒデオは、いやね、どこで間違っちゃったのかしら、あたしってダメね…とぼやくが、持っていた包丁を階段から落としてしまったので、それを取りに降りる。

すると、そこでヒデオは、赤ん坊をおんぶして、よしよしよし、お腹空いたな?寒いな、母ちゃん、悪い母ちゃんだ、本当に…、太郎坊置いて行っちまったものなあ~…といいながら、ミルクの準備をしている長吉の姿を目撃する。

 お菊~、もう帰ってきてくれ~と泣いている長吉の姿を見たヒデオは驚く。

 俺が悪かった、俺寂しいんだよ、ヒデだってめえかわいそうだ、ああ、朝から晩まで腹たきっぱなしだ、俺はヒデにすまねえと思ってるんだと長吉が言っているではないか。 

それを聞いたヒデオは、先輩…と呟いて階段に顔を伏せて泣き出してしまう。

せんぱいはやっぱり神様なのかもしれない、かわいそうなコドクなゴリラ、殺人は取り止めにする。

へそくり700円になった、これでいいのか、これでいいのだ…とヒデオは日記に書き加えると、なんだか悲しくなちゃったと呟き泣き出す。

 翌朝、花山家のポストに腸管を入れようとした新聞配達は、そこにいた美代が、良いわ、おはようと言って直接新聞を受け取ったので、その顔を凝視しながら去ってゆく。 

美代はその後ろ姿にご苦労さん!と声をかける。 

座敷の中からは、「山紫に水清く~♩」と、花山先生が自身で作詞した曲をオルガンで歌う声が聞こえていた。 

部屋に入ってきた美代は、そんな花山先生の目の前に、はいお兄ちゃんと言いながら朝刊を差し出したので、おお美代かと花山先生は振り返る。

 眠れたか?と聞く花山先生に、安眠妨害よ、朝からブーブー…と、美代は言い返しながらも、でもよく持つわね、このポンコツオルガンといい、鍵盤を触る。

 弘法筆を選ばず、花山大造楽器を選ばずって言ってなというと、おい最近の歌ちょっと聞いてくれといいながら、オルガンを弾き、「山紫に水清く~♩」と歌い始める。

 何よそれとみよがおかしそうに笑って聞くので、何って、これ警察署のへっぽこ署長に頼まれたの、日ノ出町浄化運動の歌だと花山が答えると、変なの、お兄ちゃんはやっぱり「ズンドコ節」でも作ってる方が似合ってるわよといいながら、美代は花山の背中から手を回して抱きつく。

 すると花山先生も、学校帰りの森陰で~♩と「ズンドコ節」を歌い始め、美代もそれに唱和する。 懐かしいな~、「ズンドコ節」…、お前をおぶってよく歌ったな~、あの頃…と、花山先生は昔を懐かしがる。 

そうね~、何年前になるかしら?と美代が聞くと、そうれがどうだといいながら花山先生が美代の手を叩いて外させると、ちょっと見ねえうちに、どんど~んと育っちまってと美代の前面に回って繁々と眺めたので、ちょっと、変な目つきしないでよと美代は兄の額を突く。 

お兄ちゃん、そろそろお嫁さん欲しくなったんじゃないの?と美代が聞くと、バカ言え!女なんてお福婆さん一匹でたくさんなんだよと花山先生がいうと、一匹で悪うございましたねとお福婆やが顔を出したので、あ、出た!と花山は驚く。

お福婆やは、は、早くご飯を食べないと手遅れになりますよというので、一週に一度くらい…と花山が言い返すよ、曜日くらいわかってますよ、おひつが空っぽになると言ってるんですよと忠告しに来る。

 居間に行ってみると、美代の連れの娘が二人ご飯を食べており、遠慮なく頂いていますと眼鏡っ子がいうので、若い子がモリモリ食うってのはいいもんだな~と花山先生はいう。

 ところでどうする今日からのスケジュール?と、一緒に食卓に座った美寿が聞くと、もう少し歩いて山奥に貼ってみないと娘の一人が提案すると、でもなるべくこの街中心に土地問題調べてみましょうよと眼鏡っ子はいうので、ご飯すみ次第行動開始!と美代がいう。 それを聞いていた花山は、大学のレポートってのは忙しいものなんだなと感心する。

 すると美代は、だって日本の地域社会の実態ってテーマで書くためにこの街来たんだからねというので、困ったな、そいつは…と花山先生は困惑する。 何が?と美代が聞くと、うん…、実はそのなんだ、その具体的にこの~言えば、まあ、何通か、その押し並べて言って、ま、何つうか…、ま、まあいいだろう…と花山はしどろもどろになる。 ははあ、なんか企んでるな?どうもおかしいと思った、割としつこかったじゃない、どうしても顔見せろって…と美代は兄の策略に勘づく。

 花山は飯をかき込んで返事を誤魔化すが、そこに、ごめんと玄関で声がしたので、誰だろう、朝っぱらから?と眼鏡っ子がいうと、入ってきたのは和服姿の八木署長で、お?飯かい?と聞いてくる。

 へえ、これまた、いつもは枯れ木の山の花山家に…と言いながら八木署長がお福婆やの隣に座り込んだので、誰よ、枯れ木って?と聞いて来たので、え?いや、なぜか今日はいねえみたいだななどと笑ってごまかしたので、何言ってるのよとお福はそっぽをむく。

 頬お、やっぱり兄弟って似てるもんだねと話を変えた八木署長だったが、いや私たちは美代の友達なんです、こっちがマチコ、みんな大学の同級生なんですと友達が自己紹介する。

おはようございますと挨拶した美代が、誰あのおじさんと花山に聞くと、例の警察署長と花山は教える。

 あのへっぽこかと美代が言うので、花山は大声をあげて聞こえないようにする。

 実は例の見合いの話な、早速だけど今日1時に瓢箪亭ってことにしたがどうだろう?と八木署長はいうので、今日?と花山先生は驚き、日も良いんじゃねえか、今日は…とヤギはいう。 

それを聞いた美代は、かっこ良い!どんどんやりなさいよ、兄貴!と横から声をかけて来たので、ばか、お前の見合いだよと花山は答える。 

それを聞いたマチコたちは、いいぞ、いいぞ、やりやり、見よう!とはしゃぎ出す。

 出し抜けでびっくりしただろうけどよ、相手は東京のアジア観光っていう会社の重役の甥っ子でさ、時々このこらへドライブに来るんだと八木署長が説明すると、ちょっとちょっとアジア観光といえば大手の中でも一流よと友達が言い出す。

 超一流の永久就職か!三食昼寝に車付き!レポートなんかめじゃないよ!と眼鏡っ子のマチコも嬉しそうに話に加わる。 

でも変だな、なんだってそんなエリートがこんな所に嫁さん探しに来るんだろう?と美代だけが冷静に答える。

 あのな、男が嫁さんにしたいって女ってのはな、ちょっとくらい何したってボッコれなくってだ、お前のようにデデンと座ってる女が良いんだと花山先生はいうので、失礼しちゃうわと美代は言い返す。

 今日昼に東京から来るって電話があってな、とにかく将来重役間違いなしって男だと八木署長は説明する。 というわけなんだ、どうする?と花山先生は聞く。

 う~ん、卵は割らないとオムレスはできないっていうからね、思い切ってやってみるかと美代は決断する。 それを聞いた友達たちも、賛成!調査は私たちがやっといてあげるねと美代を焚き付ける。

 しかし花山先生だけは、おいおい、縁談とオムレツを一緒にするなよと呆れる。

 その頃、太郎をおんぶして洗濯をしていたヒデオは、そう言っちゃなんだけど、おめえもついてねえよなと背中の太郎に話しかけれいた。

え?母ちゃんに似てりゃよかったものの、神様のいたずらか、ゴリラの父ちゃんの生き写しだぞ、可哀想な太郎やん!とヒデオは笑うと、さてこっち先に干そうかな、白地に赤のエンヤコーラと調子をつけながら物干し竿の紐を引っ張り始める。

 すると背後から近づいた長吉がタライでヒデオの頭を叩くと、貴様、この棒をなんと思っとるか、そこらにある棒と訳が違うんだ、これは白地に赤く日の丸染めて、ああ美しや日本の旗を掲揚を行う棒じゃないか!と叱ると、はい、すみません、間違えておりました!とヒデオは詫びるが、そこに八木署長が顔を見せる。 

では改めて、国旗ならびの社旗の掲揚を行うと言いながら、長吉が旗を揚げようとしていたとき、長さんと呼びかけた声を聞いたので、長吉は、あら、署長さん、おはようございます!署長さん、あるんですよ、新薬、これはね、一口飲むと鼻血がブワ~!などと話しかけたので、ばか!そんな用じゃないと怒鳴られる。

 話ってのはな、毎度のことながら、この工場の悪臭のことだ!お前は知らんだろうがな、近々町民投票があるんだぞと教えと、無視しようとしていた長吉も顔色が変わる。

 町民投票?と聞くと、うん、総スカンを食わねえうちにしばらく工場を閉めてだな…と八木署長が言うので、ヒデオは、何?閉めるって!と一瞬喜ぶが、長吉の顔を見ると、いや、あの~、閉めるわけにはいかないんだわと真顔で答える。

 長吉も、署長さんよ、せっかくのおせっかいだがね、おら、誰が夏ってもこの工場は閉めねえよと言い放つ。

すると八木署長は、花山先生も言っといたぞ、長吉の奴は血の道の薬を作るより、てめえの脳につける薬を作る方が利口だべとと教えたので、ちくしょう、あのヒゲゴジラ、そんなこと抜かしやがったか…、教え子の音も忘れやがって…と長吉は怒り出し、ヒデ!やるか?と聞くと、待ってたわ、あなたとヒデオも乗り気になる。

 よし続け!とヒデオを伴って出ていった長吉の姿を見送った八木署長は、真ん中が狂ってるんだな、アオちらと自分の頭の天辺を指して言う。

 花山の家にやってきた長吉は、やい、先公!ヒゲゴジラ、出て来い!と座敷に向かって呼びかける。 

すると、うるさいね、朝っぱらから…とお福婆やが顔を出し、アベックで出かけたよと言うので、アベック?と長吉は不思議がり、ヒデオは、やあね、あんなヒゲ面でアベックと笑い出す。

そんなヒデオを外に押し出した長吉は、となると寺の墓場か鎮守様かな?と聞くので、もっと良いことあるの知らないの?とヒデオはいう。 

どこ?と聞く長吉の耳元にヒデオが何事かを打ち明ける。

 その頃、花山先生は美代を連れて瓢箪亭に向かっていた。

 そんな花山と美代の姿を見つけたのが店番をしていた風太とその2階に間借りしていた工作で、どうなってるんだ?と慌て出す。 瓢箪亭の女将が、まあ先生、一番良いお部屋が取ってありますから、ささ、どうぞ…と挨拶に出てくる。

 その直後に駆け込んできたのが風太と工作で、番頭の忠次とピコ(市地洋子)も見ていたので、お、忠次見たか?と工作が聞くと、見た、見たと忠次は答える。

 やろう、こんな所に女なんて連れ込みやがって!と忠次は憤慨する。 

あの面じゃ相手の女が可哀想だぜと工作が同情すると、それにしてもこの辺じゃ滅多にお目にかかれないほどの美人だったなと忠次はいう。

 その時、突然風太が、ああ!と大声を挙げたので、何だよ?と工作たちが聞くと、思い出した、美代ちゃんだよ!と風太は指摘する。

 やがて、ヒデオと長吉も勝手口から瓢箪亭にやってくる。 ヒデオはそこに置いてあったお櫃に飯が入っていたので、貪り食い出す。 しかし長吉が、ヒデ!早くしろ!と呼んだので、ヒデオはしゃもじにご飯を盛ったものを手にして長吉の後を追い出す。

 2人は一部屋ずつ勝手にのぞいて回るが、客がいたりすると、長吉がヒデオに詫びさせたりする。 

長吉は、ヒデオのしゃもじの飯を自分も奪い取ってたべると、次の部屋を開けるが、そこには忠次、風太、工作たちがいて、あ、先輩と驚く。 

長吉とヒデオも驚き、何やってんだ?お前らと言いながら近づく。

 すると後輩たちはしっ!という。 

そんな隣の部屋の異変を察知した美代はお兄ちゃんと呼びかけ、花山先生も隣の部屋のざわめきに注意していた。

 突如立ち上がった花山先生が隣との境の襖を開けると、そこに寄りかかって盗み聞きしようとしていた忠次たちが部屋になだれ込んでくる。

 なんだ、お前たちは!ナンバティコマディ!と花山が怒鳴りつけると、ピコは逃げ出してしまう。

 あ、そうだ、ご飯をよそってこなくちゃいけないんだなど言いながらしゃもじを持って帰ろうとするヒデオを花山は座敷に押さえ込む。 

思い切り尻を打ったヒデオが、尾てい骨!と悲鳴をあげると、その顔を見た美代が、あらあんた!と気づく。 ヒデオは思わず、おはようございますと答える。

 や~だ~、あの節はどうもと美代が礼を言うと、何だお前たち知ってたのか?と花山先生は驚く。

 そこに顔を出した長吉は、こいつは忙しくなってきやがったな、先生よ、あんたたちこそ二人の関係を包み隠さず説明してもらいたいよと言い出す。

 お前たち、不潔なイマジネーション起こしとるな?と花山は長吉を睨みつける。

 はあ?と長吉が言うと、いや想像だと説明した花山は、大変失礼だがね、この美代は、私のシスター、つまり妹!と説明すると、その場にいた教え子全員が嘘だ~と言い返す。 

だけど似てるよな~、あの時の美代ちゃんにと風太が言うので、やだ、今回間違われっぱなしよ、でもね、正真正銘の妹よと美代は教える。

 そうかな~?この際はっきり打ち明けた方がお互いスッキリすると思うけどね途中時が言うと、だいたいだよ、遺伝学の法則から言ったって、この顔はね~と工作が揶揄うので、馬鹿野郎!と花山先生は怒鳴りつける。 

お前ら二度と来んな!と言って花山先生は教え子たちを追い返すが、瓢箪亭から帰る途中、どうもスッキリしねえなと長吉は背後を見やりながら呟く。

 するとヒデオが、分かってんですよ、美代ちゃんに惚れちゃったんでしょう?すけべ!と言うので、馬鹿野郎、そんなんじゃねえやい!と長吉は言い返す。

 その時、クラクションの音がして、高級車が停まる。 すげえ車だな、おい、とヒデオが驚くと、そこから降りてきたヘルメットにレーススーツ姿の石田安彦(左とん平)が、百姓!あぶねえじゃねえかと言ってきたので、百姓?と同級生たちは驚きながらも車に触っていたので、触るなよ!絶対触るなよ!と石田はその手を払いのけていく。

 ヒデオは、車にツバを吹きかける真似をする。 瓢箪亭に向かう途中、レーシングスーツを脱ぐと下にはスーツを着ていたので、すげえな洋服出てきた!007の奴じゃないかしら?などとヒデオは言う。

 花村先生と美代と対面した石田は、似てない親子ですな~といきなり無遠慮なことを言ってくるので、兄ですと花村先生が言うと、まさかそんな…と石田は笑う。

 いや兄ですともう一度いうと、じゃあ、母親が違う?などと言うので、あの~、同じ腹から生まれた私は兄であって、こちらシスターですと花山先生は説明する。

ま、そんなことはどうでもいいですがなと石田は笑い飛ばし、花山先生もつられて笑うが、失礼、あの~、何通か、聞くところによりますと、将来、そのアジア観光の重役になられるとか?と質問すると、重役?と石田は聞き返す。

 そんなちっぽけなものに私は目標を置いていませんよと石田が言うので、ほお、するとなんですな、我々貧民みたいなのとは、この…釣り合いが取れないっちゅうことになりますなと花山は言う。

 すると、そこに突然入ってきたのは熊井だったので、何だい?熊寅さんと穴村先生が聞くと、先生、なんだってこんなところへ?と熊井も聞くので、それはこっちの言うことだ、見りゃわかるでしょう、見りゃ!と花村はいいかしたので、どうなっとるんじゃこりゃと熊井は困惑する。

 すると石田も、花山さんの言う通りだ、謝んなさい、あんたの方が…、座敷間違えたんでしょう?と熊井にいいながらウィンクしてみせる。

 それに気づいた熊井はやむなく、そいじゃまあ、お邪魔さんでしたねと言い残し襖を閉めて去る。 それを見た花山先生は、無礼な奴だと吐き捨て、いや実はね、あいつはこの街のボスでしてね、ま、この口ばっかりだけで、この腹黒い男でしてね、ま、なんと言いますか、ああ言うのよくいるんですがね、この街の悪の総元締め…と説明するが、その話を遮るように、ところで美代さん、気分直しにドライブでもいかがですか?と石田は誘ってくる。 

美代が、はっ?と戸惑ったので、あ、いやいや、僕はこの先のね、県境のホテルに泊まってるんですけど、ま、お近づきの印にホテルでお食事でも…と石田はいうので、うわあ、かっこいい!と美代は感激する。

 花山先生はダメですと美代を叱るが、だってせっかく…と美代はいうので、何言ってんだ。

お前、この方とは今日初めてお目にかかった方、ま、そりゃな、ドライブくらいだったら許せる、けどな、ホテルって断然許せません!ダメです!と花山先生は叱る。

 その頃、長吉たち同窓生は、風太の楽器店「SANYO 音響専門店 レコード ミュージックストア やよい」店内でかかっていた「美代ちゃん」の曲を聞いていた。 

そんな中、突然長吉が、全員集合!只今よりリハーサルを開始すると言い出したので、他の後輩たちは困惑する。

 何の?とヒデオが聞くので、なんのってお前、我らが恩師花山大吉先生の作詞・作曲による日ノ出町の歌!と長吉が言うので、何でまたなんだよとぼやきながら、後輩たちは立ち上がる。

 ま、俺もこのところ、ちょっとばかり街の評判が下がっているようだし、ええ、まあ、この辺で街の浄化運動に一発協力しておけばだ、つまり何と言うかね…と長吉はしどろもどろの説明をする。

 先輩、お見通し、ちょっと調子良すぎる!とヒデオが笑って指摘し、忠次も、うめえこと言って…、本音を言えば、将を射んと欲すれば先ず馬を射よと言い、工作も、汚ねえんだよ、美代ちゃんに惚れたばっかりにまずヒゲゴジラを粉をかけ…などと言うので、長吉は、バカもん!と怒鳴り返す。 

そんなんじゃないんだよ、ああ、良いよ、それではね、俺1人でやらせてもらうから、やりましょう、私1人でと言い出した長吉は、店の楽器を持ち出そうとしたので、風太が売り物だよと制止しようとしたので、うるさいんだよ、お前は、やるったらやるんですと長吉は言い張る。

 結局、風太の店「ミュージックストア やよい」の店内で、元ブラスバンド部全員が曲を演奏するハメになる。 

いつしか演奏は「ズンドコ節」になり、ドラムを叩いていたヒデオが「学校帰りの森かげで~♩」と歌を歌い出し、それが店頭のスピーカーから流れる。

 その頃、山荘に集まっていた熊井と仙波と酒を酌み交わしていた石田は、ま、署長にはね、お愛想おつもりで嫁さんでも探しといてくれとゴマ擦っといたんだよ、どうせ出てくるのは大根かさつまいもだと思ったんだが、これが意外とね、高級な果物なんだと、今日の見合いの話を説明していた。

 そうとは知らず、とんだ失礼をと熊井が詫びると、問題はあのヒゲゴジラだな~と仙波が指摘する。 

兄貴か?四国あたりに飛ばすか?と石田が言い出したので、熊井と仙波は、え?と驚く。 まあまあまあ、僕はね、県の教育委員ともツーカーだからねと石田が言うので、そう願えりゃねと熊井は頼む。

 その代わり、伊刈長吉氏の件は、君の方でケリつけてくれよと石田はせんばに支持する。

 ええ、それが周りはみんな買い占めたんですが、あの工場だけがどうも、この…と仙波の歯切れが悪くなる。 

すると熊井が、まあまあまあと言い、近いうちにとどめを刺してやりますよと熊井は石田に約束する。

 しっかり頼むぞと言った石田は、日ノ出町の地図を広げ、良いかい?この辺にバイパスと一大モーテルを建設しようと言う僕のプランが実現したら、君たちが二束三文で買った土地が10倍値上がりするんだからね、10倍に!と強調する。 

それを聞いた熊井と仙波は笑いだし、リベートは弾みますよ、乾杯、乾杯!とはしゃぎ出す。 

そんな中、石田は、それにしてもあの妹は良い女だったなと思い出し笑いをする。 一方、花山家でアイロンをかけていた美代に、声をかけてきた花山先生は、お前、あの金持ちの息子と付き合うなよと言うので、何よ、だしぬけに…と美代は聞き返す。

署長も署長だよ、あんなやろうと見合いなんかさせやがって、婆さん、風呂入るぞと花山先生はお福に声をかけると、美代には、ごみんな…と謝る。

 美代は気にせずまたアイロンがけをしようとするが、窓に何かがぶつかる音が聞こえたので、誰かいるの?と声をかける。

 窓ガラスを開け、誰?誰かいるの?と呼びかけると、お寒うございますと塀をよじ登って顔を見せたのはヒデオだったので、あ~ら、あんただったの、なに?と美代は喜ぶ。

 するとヒデオはしどろもどろになり、あ、あの~、ほら、あの~、ほら、あの~、よく言うじゃないですか、世界で一番小さなお星様なんだっていうと、それは煮干しなんて…とヒデオは一人ではしゃぐので、ちょっとあんた、一体何話してるの?と美代は問いかける。 

その頃、太郎と添い寝していた長吉は、太郎が夜泣きしているので目覚め、お~い、ヒデ!太郎が泣いてんじゃねえかよ、オシメ替えてやれ、ヒデ!と2階に呼びかけるが返事がない。

 一方、外に出てヒデオと対面した美代は、ところで何?私に話って?と聞くので、お話?とヒデオは戸惑うが、大事な話があるって言ったじゃないと美代はいう。 

あ、そうでした、そうでした、私ってバカみたいですねとヒデオははしゃぐので、早くおっしゃいよと美代が急かすと、いや、いうと笑うんですもの…とヒデオはしぶる。

 ううん、笑わないと美代はいうが、絶対に笑うとヒデオは言い張る。

 笑わないってと美代は念を押すが、ほら、笑ったじゃないですか、もう嫌い!とヒデオが拗ねるので、バカね、早く仰いよと美代は促す。 

うん、じゃあ言います、言います!せ~の、美代ちゃんはいつまでこの街にいてくださるんでしょうか?とヒデオは聞く。

 な~んだ、そんなことか…、実はね、ちょっと気になる男性が現れちゃったんだと美代が言うので、え!気になる音お?とヒデオは驚く。

 それはまさか私、私じゃない、拙者、拙者でもねえ、おいどん…、あ、僕のことじゃないですよねとヒデオは聞くと、さあ?ひょっとするとそうかもよと美代は思わせぶりな返事をする。

え?ひょっとことおかめが結婚なさるんですか?もしかしたら僕もひょっとこになれるかも知んないですねとヒデオが舞い上がるので、やあねえ…と美代は苦笑する。

 その時、公園でキスしているカップルを見つけたので、あら、チューしてるの?僕もあんなことしたいなと言いながら口をと貼らせてみよに迫るが、美代が身を避けるので、、うん?あ、わかった、臭いからでしゅ、臭いんだって、匂うもん…とヒデオは自虐的になる。

 工場の匂いでしょう?と美代が言うので、もうほっといてください、もう知らない!やだわ…とぼやきながら離れようとするヒデオに、でもあなたって偉いわ、みんな辞めたのに1人だけ残ってるんですもの、先輩んために男の友情って羨ましいわと美代は話しかける。

 う?男の友情つってもね、僕男でありながら女みたいな…、でもやっぱり男みたいな、ものすごく抵抗感じちゃうんだな、いっそのこと性転換でもしようかなって思ってるのよとヒデオはぼやく。 えっ、性転換?と聞いた美代はヤダ~!と大笑いし始める。

その頃、ヒデオがいないことに気づいた長吉は、何してやがるんだろうな、もう!と苛立っていた。 

ヒデオの部屋を物色し始めた長吉は、ヒデオのへそくりまで見つけてしまい、もう、誰の金だと思ってんだ、元々俺のゼニじゃないかと言いながら自分の懐に入れてしまう。

 そして、引き出しの中から、「かとうひでお」名義の「日記帳」を見つけたので、一人前に日記なんかつけやがって…と言いながら中を読むと、「ゴリラ、またまた狂気のだんあつ、あの夜、思い切ってブスリとやらなかったのがくやまれる、785円たまった、これでいいのか、これでいいのだ」と書いてあったので、ちくしょう!あの出来損ない野郎!と言いながら日記帳を破る。 一方、ヒデオは、ついさっきまでは知らなかった2人なのに♩と歌いながら帰っていた。

 神様のお引き合わせよ、まんまんちゃん、あん!と店に向かって合掌すると、あ、嬉しいな、あ、嬉しいなと上機嫌でスキップしながら帰る。 これでいいのか?これでいいのさとウキウキ気分で梯子を登り、フフフ、バカゴリラ、何にも知らないで!と笑いながら工場の自室に戻ってきたヒデオだったが、しっかり長吉が様子を見ていた。 さあ、寝なくっちゃ、ねえ美代ちゃんどうしてこの街にいるの?あら、ヒデオさんがいるからよ、またまたそんな嘘なんかついたりして…、嘘じゃないわ、でも私、あのゴリラみたいな男嫌いなのよ、大丈夫、そのうち、僕が殺してあげるから、でもあのゴリラね、僕が殺そうとするでしょう、そうするとコメツキバッタみたいに勘弁してくれって謝るのよ、学名バッタゴリラって言ってね、なんてのかしら、世界でも珍しいのね、あのゴリラ、動物園でもすごく欲しがってるくらいなの…などと独り言を言いながら服を脱いだヒデオだったが、その背後にこっそり忍び寄った長吉が睨みつけていた。 

それに気づいてないヒデオは、ほんでね、このゴリラ、ちょっと餌食いすぎるってんでね、採算が合わないから白紙にしようかな…などと独り言を続けていたが、やがて背後に立っていた長吉に気づく。

 あら?でも白紙にすると水虫がひどいでしょう?で、おまけに扁平足だしね、で、膝は脚気でしょう?でこのヘソが珍しい、出臍でしょう?など地位ながら視線を上げていったヒデオは、そこに恐怖の長吉の顔を見つける。

 おまけに、ね、ほら下がってきたでしょう、この顔がダメなのよ、仲間のゴリラが怖がって逃げちゃうのよね、で、下唇はホッテントットでしょう?で、目はゴキブリが天井からこうやってのぞいているような目でしょう?鼻は、これ以上描けないってくらい脂かいてるでしょう?で、このシワがひどいのよ、ここにね、埃が溜まっちゃうのよね、毎朝僕がこうやってやんの…と言ううちに、ヒデオは目の前に迫った長吉に気づいて絶句する。

翌朝、顔中傷だらけの、絆創膏だらけになったヒデオが、召し上がってください、あの、温かいうちにどうぞ…、召し上がらないんですか、そうですかと長吉に話しかけていたが、長吉が一切無視していた。 しかし、ヒデオが長吉の茶碗を取ろうとすると、長吉が奪い返してご飯が飛んだので、あの~、昨日はどうも失礼しました、深くお詫び申し上げますとヒデオは詫びる。

 先輩、先輩様と呼びかけていた英夫だったが、以後気をつけろ!って、獣ののような声出して僕を叱ってください、先輩にそう黙ってられると、どうしたら良いのかわからなくなっちゃうんだわ、おお痛え!喋ると痛いんだわ、こことヒデオが言うと、ここか!ここか!と長吉がヒデオの顔を叩いてくるので、ヒデオは悲鳴をあげる? そこにやってきたのがホルンなど楽器を持った忠次たちで、いよいよ今日ですね、パッといきましょう!などと言いながら「山紫に、水清く~」と歌い始めるが、それやめだ、理由はただ一つ、このポケット猿の裏切りだと長吉がいう。 

うん?なんだヒデ、その面は?と忠次が聞くと、教えてやろう、この野郎は俺たちの誓いを破りな、あの美代ちゃんと断りなくデートしやがったとバラしたので、3人は驚き、英夫に詰めようとする。 

しかもだ、この野郎のゲロによると、相当際どい美味しい線まで行ったらしいと長吉は教えたので、野郎、どの線まで行ったんだ!と忠次がヒデオを追求する。

いえ、どの線も山手線も、彼女は言いました、ヒデちゃんがいるから今街にいるんだととヒデオが嬉しそうに告白すると、3人は揃ってヒデオをどつくのだった。 

その日、石田の運転する車の助手席に乗せてもらった美代は、乗り心地はいかがですか?と聞かれ、いいですわと答えながらも、石田が膝下に置いていた日ノ出町の地図をチラ見していた。

その地図には開発予定の地区の書き込みがあった。 車は、富士山が間近に見える「箱根強羅国際スケートリンク」にやってくる。

 喫茶店に入り、ウエイトレスにカフェ2つと注文した石田に、この地方に特に興味をお持ちのようですのねと美代は聞く。

 愉快そうに笑った石田は、観光会社の仕事なんて野球のスカウトみたいなもんですからねと答える。

 つまり埋もれている金の卵の土地を鵜の目鷹の目で探し回っているあのスカウトですと石田は説明する。

 多少の犠牲には目を瞑っても?と美代が聞くと、これは手厳しいですなと石田は苦笑する。

 そこにマチコとノリコの二人がやってきたので、あら?と美代は気づき、ノリコ!と呼びかけ、あら、ちょっと失礼と石田に断ると、二人のテーブルに移動し、どう?調査の結果?とノリコたちに聞く。

意外な事実が続々と紀子が言うので、本当!と美代は聞きいる。 

最も顕著なことはね、最近まで日ノ出町の所有だったところがどんどん個人に買い取れれているってこととまちこが教える。

 しかもね、こないだ行った工場の周りなんか特にとノリコは言うので、相手は?と美代が聞くと、ライオンとか虎かな?なんでもクマとか虎とか言う名前の人よとマチコが言うので、は~と美代は察しをつける。

あの人こっち見てるわよと紀子は石田の方を見ながらいうので、あれが見合いの相手よと美代はこっそり打ち明ける。

 だろうと思った、のさないわね、生焼けのお煎餅みたいじゃない?とマチコは辛辣なことを言う。 いよいよ、日ノ出町役場で「公害に関する住民投票」が始まる。

その投票所脇の掲示板には、花山先生が酔っ払ったせんばを殴った時の写真と、「暴力絶対許すまじ!暴力教師追放」などと言う記事が載った日の出新報の号外が貼られていた。

 それに気づいた花山先生は、なんだとこのやろう!と怒って破り捨てる。

 投票所の中に入り込んだ花山先生は、おい、ちょっと待った!こんなインチキな投票は無効!そうじゃねえか!投票なんてのはな、賛成とか反対の討論が出尽くしたとこでやるのが筋道なんだ、こんな一方的な投票ってあるけい!と抗議する。

 するとその場にいた仙波が、こら悪次!てめえ、公務執行妨害する気かと言ってきたので、黙れアザラシ!こんなもん、よくも書きやがったな!と破ってきた新聞を叩きつける。

 それをきっかけに、仙波の取り巻きが花山先生に殴りかかってくる。

 花山先生は投票箱の投票用紙をぶちまけながら大暴れする。

 仙波は警察に電話をするが、そんな仙波の胸ぐらを掴んだ花山先生は、この投票は無効だぞと迫る。

 しかし、投票結果は1877票対1票で、新聞の勇気が灯す世論の火かと仙波たちの取り巻きたちは勝利に浮かれる。

なんてたって、正義の勝利ですからな、ヒゲの分1票入れてやったところなんざ、武士の情けってやつよなどと取り巻きは仙波を煽てる。 

今頃豚箱でくしゃみしてるぜと花山先生を馬鹿にして全員大笑いする。

 一方、投票結果を知った長吉は、1877票対1票か…、畜生…、畜生…と落ち込んでいた。 

そこに車で戻ってきたヒデオは、慌てふためきながら、問屋が商品を全部シャットアウトしたんですと報告したので、何!と長吉は驚く。

 問屋が一個も買ってくれないんですよ、街に迷惑をかける薬は受け取れないって…とヒデオの話を聞いた長吉は、来たか、とうとう…と覚悟を決める。

 ヒデ、もはやこれまでだ…、自決の用意と長吉がいい出したので、え?痔が悪いの?とヒデオが聞き返したので、馬鹿もん!と叱りつける。

 ご先祖様に対し伊刈長吉、只今より腹ぶちわってお詫びすると長吉は言う。 

え?あの、あの、自殺するんですか?それじゃあ、あの、すぐ役場に届けなくちゃ、すぐ行ってきます方ねとヒデオが嬉しそうにはしゃぎ出したので、バカ!そんなことは後回しだ!着物と帯、遺書も書くぞと長吉は命じて奥の部屋に向かったので、ガキは置いてくのかしら?とヒデオは呟く。

 一方、警察署の牢に入れられていた花山先生の面会に来たお福婆やは、全くガキじゃあるまいし、教師が豚箱だなんて…、体裁悪いったらありゃしないと文句を言っていた。

 すると花山先生は、嘆くな、嘆くなってな、住めば都って言ってな、結構住み心地いいよと笑って答えるので、冗談じゃありませんよとお福は答える。

 その時、さっさと入れと牢に連れてこられた男を見たお福は、あら?またあったわと言うので、何!と花山先生も注目する。

 あ、どうもご無沙汰しておりますとお福に挨拶してきたのは、泥棒の松(三木のり平)だった。 あんた、またかい?とお福は呆れたように答え、花山先生も、こら「ちょんぎりの松」!、あれほど言ったのに、まだ万引き直ってねえのか?と睨みつける。

 その声で近づいてきた松は、親花山先生、先生もやっぱりこれですか?と人差し指をカギのように曲げてきたので、馬鹿者!わしゃな、強気をくじき弱気を助けた正当防衛だと花山先生が言うので、あんた、豚箱でそんなブーブーブー垂れたって仕方ないでしょうと松は揶揄うが、おい入れ!と警官に言われたので、はい、じゃあお隣でといいながら、隣の牢の中に入れられる。

 その頃、花山家を訪れていた忠次ら三人にお茶を出した美代は、ごめんなさい、今、お福さん、警察なのよ、兄貴、また持病が始まったらしいのと事情を話す。 

ああ、しかしいくらなんでも豚箱っててはないよなと忠次が同情する。 

あのね、集まってもらったのはそのことなんだけどさと美代は言い出し、実はね、熊寅って人のことでさ、いろいろ腑に落ちないニュースを聞いたのよ、兄貴のことともなんか関係あるんじゃないかと思うのと打ち明ける。

そこにやってきたのが瓢箪亭のピコで、御注進!御注進!ぽん太姉さんからの御注進よと言いながら座敷に上がって来たので、兄貴のこと?と美代が聞くと、これからね、うちで熊寅主催の宴会があんのよと言うではないか。 

その宴会のね、お客さんっていうのがね、いつもの人たちと違うんだなとピコが言うので、誰だ?と聞くと、歌手じゃないの?それが東京近辺の漢方薬の問屋さんたちなのよとピコはいう。

 漢方薬の問屋!と美代と忠次たちは驚く。 美代は、ははあ~、だんだんわかりかけてきたぞ、みんな私に力貸してちょうだいなと頼む。 

その頃、長吉は着物に鉢巻姿になり、遺書を書こうとしていた。

 その横では、なんでこれに気が付かなかったのかな、でも良いことだなとヒデオは愉快そうに準備をしていた。 ヒデ!と長吉に呼ばれたヒデオは、ヘイヘイ!と軽く返事する。

 遺言のゆいという字はどういう字か?と聞かれ、え?ああ、本屋さんにでも行って字引でも引いて来ましょうかと答える。

 その隣の部屋では、赤ん坊の太郎が無邪気に起きていた。 しかし要吉は、もはやそのような時間はないのだと長吉はいう。

その夜、瓢箪亭では、来賓の問屋連中を前に、熊井が、以上のような経過をもちまして、首尾よくこの街から公害を追放できそうでございますと挨拶してた。

 これ単に、問屋の皆様方の心あるご協力の賜物でなくしてなんでありましょうか!と熊井は続け、拍手を受ける。 

え~、不肖熊井寅市、ここにささやかなる席を設けさせていただきます、どうか御ゆるりとお過ごしくださいますようにと挨拶を締める。

拍手をした仙波は、良しやれや!と取り巻き連中に命じ、襖を開けるとそこには芸者衆が待ち受けていた。 こんばんは!と挨拶する芸者衆が座敷に入っていくと、その背後に控えていたのが芸者に扮した美代とぽん太で、どんどん熊寅に近づいていくの、それまで私が間を持たせるからとぽん太が美代に囁きかけていた。

 さらにその背後に控えていたのは芸者に化けた工作と風太で、こんばんはというと、喋っちゃダメよ、ニコニコ笑ってお酌だけしていれば良いの、わかった?とぽん太が注意しにくる。 

「ゆいごんのこと 1.せがれ太郎はお菊が帰るまで、恩師花山先生に預けること」と買いている内容を声を上げてヒデオが読んでいた。

 一方、警察署では、八木署長が牢の前に五番を持ち込み、牢の中の花山先生と将棋を指していた。 牢の中から45歩と指示する花山先生に、こんなところで将棋やるのは初めてだな、それよと駒を動かす八木署長。 すると隣の牢から、署長、今どこ打ちました?と松が聞いて来たので、うるせいな一々と八木署長は文句を言いながらも、74銀だと教えてやる。

 すると、松は牢の壁に将棋盤を描いており、そこで勝負を再現していた。

 74銀か…、ちょっと違うんじゃないかなと松はぼやく。

 しからば行くぞ!と声を上げた花山先生に、先生、今どこ打ちましたと松が聞くので、36銀だと教える。 36銀…、やった先生!署長も捨てないと危ないよとアドバイスする。

 八木署長は、うるせえ、ごちゃごちゃ!黙ってろ!と叱りながら、これはどうだと次の手を打つ。

 すると花山先生は、あ痛!おい、これちょっと待って!と言い出したので、だめ!と署長は断るが、どこ打たれたの?と松が聞くので、46金だ、待ったなしとヤギが教えると、上手い!署長流石だ、先生、これで待った10回目じゃないの?と松も感心する。

 すると花山先生は、くだらないこと数えてやがんな、この!と不機嫌にな理ながらも、54飛車だと打つと、上手い!コラまたサルまたステテコパッチだと松はいう。

「1.小生のなきがらは天徳寺にほうむり、新井忠次が代表でそうしきを行うこと」と長吉は遺言を書いていた。 

その忠次は、瓢箪亭の一室でテープレコーダーを回しており、ピコが忠さん、どう?と聞きにくる。 忠次はなんやん度量衡と答え、マイクは?と聞く。

 そのマイクは芸者に化けた美代の帯に挟まれていた。 

そんな中、工作と颯太が化けた芸者は、何?お前らオシのげいしゃか!と客から呆れられていた。

 面白いや、二人でセッセッセやってみろ!と言われ、あ、セッセッセ!どどぱんぱんどんぱんぱんと生やされたので、いやそうにやるが、怒鳴られてしまう。

 その頃工場の部屋では、あのね、もうすぐ父ちゃんは神様のゴリラになっちゃうんですよ、良かったですね〜とヒデオが太郎をあやしていた。

 その時、ヒデ!用意は良いかと長吉が読んだので、へいへいと言いながら長吉の部屋の障子を占めたヒデオは、はい、準備完了でございますと伝え、いやあ男らしい!カッコ良い!はい、どうぞ、いや流石ですな先輩は…などと煽てながら、包丁を置いた三宝の前に座布団を敷く。

 そこに正座した長吉は、ヒデ、なすべきことは全てやったというので、ええ、でも色々ご苦労様でございましたと背後に座ったヒデオはいう。

 もう思い残すことはないというので、そうでしょうとヒデオも答えるが、てめえ模様しろと長吉がいうと、表情が固まる。 

え?と聞くと、てめえも腹を斬る用意をしろと長吉はいうので、一家の恥ですよ、私は赤の他人だから…とヒデオは言い訳をする。

 生まれる時は別々でも、死ぬ時は俺のそばで死にたい、そうだったな?と長吉が言うと、つまらないことは先輩いつまでも覚えてないでくださいよ、だってほら、先輩が死んだって私は色々後始末があるから…とヒデオは言い返す。 

その手配は全て遺言に詳しく書いたと瞑目してままの長吉はいう。 

瓢箪亭では、芸者に化けた美代が熊井の背後に周り、お一ついかが?とお銚子を進めると、え?いや、この辺りでは見かけんな?と熊井は美代を怪しむ。

 ニューフェイスの美代奴ですと自己紹介し誤魔化す美代。

 そうか、ニューフェイスの美代奴かと熊井はすぐに笑顔になる。

その頃長吉は、先輩、おしっこさせてくださいね!と懇願するヒデオの首にタオルを巻き、ヒデよ、良く聞け!腹斬りで行くか、首吊りで行くか、最後にてめえに選ばしてやろうと言う。

 するとヒデオは、私は身投げで行きます、あの〜、裏の井戸に身を沈めようかと…と言い出したので、よし気に入った、ヒデ、潔く死のう!と長吉は迫る。

 ああ、先輩!僕も24歳でおしまいかと泣きながら、シャツの内側の石を詰めるヒデオ。

 井戸水は冷えだろうな〜、うまく泳げるかしら…と泣き続けるヒデオに、ヒデ、お互いに短い人生ではあったが、1時間後に三途の渡しで会おうと長吉は語りかける。 

先輩、冥土に行く道わかりますかね?とヒデオが泣きつくと、迷わず池と長吉が肩を抱いて来たので、はい、お先に失礼します、切符買わなくっちゃなどと言いながら、裏の井戸の前に来たヒデオは、先輩、お先に〜!と室内にいる長吉に呼びかけ、そばにあった石を、悲鳴をあげながら井戸の中に放り入れる。

 その声と水音を聞いた長吉は、やった!と感激し、ヒデ、先に逝かせてすまんな、俺もすぐ行くぞと言うと、合掌して障子を閉める。

 座布団に座り、着物の上半身をはだけて、包丁を腹に突き刺そうとするが、切れねえなあ、これじゃどうしようもねえな、何も伊刈長吉、死なねえとは言ってねえと言い訳しながら、台所で包丁を研ぎ始める。 しかしできることならこうして一生研いでいたいななどと言う長吉。

 瓢箪亭では美代が熊井に酒を注ぎながら、ねえクーさん、漢方の問屋さんとどう言う関係があるの?と誘導尋問していた。

 ぽん太も、この問屋さんたちがクーさんのとこに薬を買っていた人たち?と聞くので、うん、いやいや、ま、それはそうだけど、なんだかつまらないこと聞くんだよと熊井は不振がる。

 しかし、その時、仙波が廊下から障子の隙間越しに合図して来たので、熊井はそちらに向かおうとするが、どこ行くの?いや逃げちゃ、ついていくと美代とぽん太が熊井を掴んで離そうとしなかった。 ちょっと大事な用ができたんだからと熊井は立ち上がり、廊下に出ると仙波と合流してどこかへ向かったので、ぽん太と美代は監視を続ける。

 仙波と熊井が向かった部屋にいたのは石田がいた。

 いや、どうもお待たせしましたと仙波が挨拶する声が聞こえたので、尾行していた美代とぽん太は、だろうと思ったと呟くと、私たちはまずいわと言うと、美代はぽん太に何やら耳打ちする。

 いや~おかげさまでね、大成功ですわ、あ、あの暴力教師の方は?と石田と乾杯した熊井が聞くと、あ、簡単、簡単、県の教育委員会にちょっと鼻薬を効かしてやったら一発でOKだよ、まあ2~3日中に発令されるでしょうと石田は答え、2人は笑い出す、そこにごめんください!とやって来たのは、工作と風太が化けた芸者だった。 

あら先生、ひどいわ〜、逃げちゃってと言いながら熊井の横に風太が座り、なんだこの芸者たちは?と驚いた石田に、まあこちら目が小さくてハンサム!お酌させて〜などと言いながら近付いたのは工作だった。

気味の悪い声を出すな!あっちへ行けと追いはろうとする熊井だったが、だってクーさんいないとあたし寂しいんですものと風太はゴネる。 

そんな風太から肘で伝えられた工作は、録音マイクを机の下に設置する。

石田はそんな化け物みたいな女には用がないんだよと叱るが、その声もマイクが拾っていた。

 仙波!こいつらを摘み出せと熊井が命じると、外で待機していた仙波が入ってきて、仲間たちに命じて颯太と工作をつまみ出してしまう。 

これは飛んだ粗相を…と石田に詫びる熊井の声も、別室で美代とポン太、ピコ、忠次が聞いていたテープレコーダーに記録されていた。

 そこに工作と風太も嬉しそうに入って来て、一緒に聞く。

いやこれは恐れ入りました、同じ金儲けでもこらスケールが違いますなと熊井がひそひそ話をすると、石田は、その上あんたは町民の味方だと言う仮面を被っていられるわけだと嬉しそうに伝えていた。

 そこにごめんください、お待たせしましたと入って来たのはヒデオが扮した芸者だった。


 美味しそうなお料理だこと!と言いながら、熊井と石田のテーブルの前に座ったヒデオは、呼ぶまでこなくて良いんだよ、このおばけ!と熊井から罵倒されるが、失礼しちゃうは、あなただってオバケみたいな顔してるわよと裏声で答える。 

まあ良いじゃないか、さっき来たのよりマシだよと石田は熊井を宥め、ヒデオの右手を握って来るが、あら?あんたお煎餅みたいな顔ねとヒデオは笑顔でいう。

どうしたんだこれ?と石田がヒデオの」額に貼られて絆創膏を指すと、これお豆腐の角にぶつけちゃったのよとヒデオは誤魔化す。

 それをヘッドホンで聞いていた忠次は、うん?この声はヒデじゃないか?と気づく。 ポン太らはええ!と驚き、あの人はなんで来たのかしら?と美代も不思議がる。

私ねえ、お座敷で迷子になっちゃったのよとヒデオは石田に言っていた。 

鼻くそをほじくったヒデオは、ヒア元に置いてあったマイクに気づき、あら何?お父様これどうするのと取り上げて熊井に聞く。

 熊井はマイクじゃないかと言い、石田は、これは芸者と何すると時に、イヤ!そんなことしちゃ、バカバカって!と説明し、やってご覧とヒデオに渡したので、いやん、バカン!などとヒデオはマイクに向かってふざけ始める。 

すると急に男声で、てめえこのやろうと言いながら石田の頬を叩いたヒデオは、いやそうじゃなくて…と笑って誤魔化しながらまた急に裏声になり、向こうで誰かこれ聞いてるんじゃないの?とマイクの正体を当ててしまう。 

石田は笑って同意するが、次の瞬間、マイクの秘密に気づいてしまい、ばか!全部聞かれたぞと騒ぎ出したので、熊井も慌てて、仙波、おい仙波!と呼びかける。

 子分たちが部屋に入ってくると、大変だ、部屋の中虱潰しに探してみろ、テープに取られたと熊井が言うので、子分たちもええっ!と驚く。

それを聞いていた忠次は、しまった、バレた!逃げろ!と言い出したので、美代たちも慌て出す。 そこに熊井の子分らがなだれ込んでくる。 

録音テープを持って逃げ出そうとしていたピコも捕まってしまいテープを奪われてしまう。

 ピコ、一体どうするのよ!と美代ヨが詰め寄ると、シーっと口止めをしたピコは、こっちへ来てと部屋のみんなをどこかに連れていく。

 一方、ヒデオは廊下を彷徨い出スト、一体どうなっちゃってんのよと訳がわからなくなり、ちょうど女中が持って来ていたお銚子が乗ったお盆を、女中さん、これ私が持っていってあげると言って受け取ると、その場に座り込み、もうみんな嫌い!と言いながら、もう飲んじゃうわ、私…と言うと、お調子を一気飲みし始める。

 別室にミヨたちを招いたピコは、本物のテープを取り出し、ほらっ!と自慢する。

 それを見た美代や忠次、風太や工作は大喜びする。 騒いでいる時、別のテープを持っていったのとピコは説明する。

 その頃警察署の牢の中では、隣の豚箱、ヘボ将棋〜♩こちらの豚箱、大宴会か!とちょんぎりの松が勝手な歌を歌っていた。

八木署長が松と花山先生に、それぞれ一升瓶の酒を差し入れしていたのだった。

 あのやろう、飲んでも飲まなくてもうるせえなと、八木署長から酒を注いでもらっていた花山先生はぼやいていた。 

そこに駆け込んできたのはポン太で、先生、大変よと報告する。

 松も驚いて、今度は芸者月か!と喜ぶ。

 漢方の問屋連中の宴会はまさにたけなわだった。 そこにやって来た美代は、お静かに、お静かに!と呼びかける。 工作や風太も一緒に部屋に入ってくる。

 只今より本日とっておきの余興を開始しますと美代が口上を述べると、みなさま、静かに聞いてくださいねと言う。

何も知らない客たちが拍手を始めたので、忠次は部屋の中のピコにOKを出し、ピコはテープレコーダーにセットしたテープのスイッチを押す。

 大丈夫かね〜と廊下を走り抜ける。

宴会場のスピーカーから聞こえて来たのは、熊井と石田の密談だった。 

こんなにすんなり運ぶとは思いませんでしたなと熊井の声がすると、いや街の連中の脳みそなんか土台お粗末にできてるからねと石田の声が聞こえる。

 その通り!と熊井が同意すると、ま、口先で騙すなんてお茶の子さいさい、子供の手を捻るようなものだとと石田が言う。 

じゃあリベートはお約束通り?と熊井が聞くと、軽く見積もっても儲けはざっと1億ってところかなと石井の声が響く。

 こりゃ鋭い、鋭い、敵わんな、こりゃと熊井が言うと、従ってお互いの取り分は5000万ずつと石田が言う。

 その時座敷に熊井と石田が入ってきて、やめろ!誰だ?こんなイタズラするの!と文句を言う。

それですがね、漢方薬の問屋なんてバカばっかり揃ってますからね、カラクリも知らんでホイホイ喜んでますわいと熊井の声が響き渡る。

 仙波は持ってテープが偽物と気づき愕然としていた。 大体問屋なんて連中は田舎もんが多いから、医者でイチコロよなどと石田の声が続く。 

バカにされていたことに気づいた問屋たちは、このやろう!というと立ち上がって熊井と石田たちに襲いかかる。

 これは誤解です、私は街を救うために!と美代に説明した石田だったが、わかった、わかった、お見合いした相手が悪かったと言いながら、美代は石田を投げ飛ばす。 

美代は仙波も締め上げる。 

そこに花山先生と共に駆けつけて来た八木署長は、こら!面倒臭いからみんな逮捕するぞ!と呼びかけるが、部屋の中でその声に耳を貸すものは誰もいなかった。

 そんな客たちの足の下をかいくぐり、熊井が逃げようとしていたので、花山先生が飛びついて捕まえる。 

座敷に熊井を押し倒し、馬乗りになった花山先生は、いいか、これから殴るのは俺じゃなくて、正義の手が殴るんだと説明する。 

よって部屋に乱入して来たヒデオは風太の頭をお盆で殴りつけ、怒った風太も反撃に転じる。

 忠次も風太に加勢してヒデオを殴りつける。

 みんなに踏みつけられたヒデオは死んじゃうよ〜と苦しむが、その自分の言葉で思い出し、ねえ大変なんだよ、ゴリラが、ゴリラが死んじゃったんだよ〜!と叫ぶ。 

遺書の再確認した長吉は、包丁を片手に隣の部屋の太郎のそばに行くと、父ちゃん逝くからな、大きくなったら良いかみさんもらえよと伝え、さて、これ切れるかな〜と出刃包丁の切れ味に不安を感じ、台所にあった大根を切ってみたところ、一発で切れたので驚き、研ぎすぎたと焦る。 

そして正座すると、包丁を構え、よし決めた!止めた!と言うと包丁を落としてしまう。 

しかしまあ、昔の人は偉かったな〜問いながら落とした包丁を拾い上げまじまじと見つめる長吉。

 その時、人声が近づいて来たので、来たな、来なくて良いのに…とぼやきながら、長吉は包丁にケチャップを塗りたくり出す。

 なんとか格好つけなきゃというと、サラシの腹の部分にもケチャップを塗り、うまく行くかな〜と言いながら、その場に突っ伏す。 

花山先生をはじめ、ヒデオ、忠次、工作、風太らが駆けつけてきて、そこで倒れていた長吉を発見する。 先輩!とヒデオが呼びかけると、長吉は、微かにヒデオと呼び返す。

 衝動的な…、立派な最期だったと花山先生は褒める。 

みんなが泣き出した中、先生、遺書が!と工作が差し出すと、何!と言って受け取った花山先生は内容を読む。

 倅の太郎は花山先生にお任せ…、長吉、よく言ってくれた、ありがとさんと花山先生は言う。

 あのな、子供は絶対育てるからな、迷わず成仏してくれよな〜と花山先生は長吉に話しかける。 

遺書を受け取った忠次は、葬式は俺に任せる…、坊主呼んでこなくっちゃと言うので、バカ、葬儀屋が先だよと工作が注意する。 

すると忠次は、馬鹿野郎、坊主が先に決まってんじゃないかと言い出し、決まってるんじゃないのとヒデオと風太も参戦し、工作も順序は葬儀屋だって言ってるんだと反論する。

 あまりに騒ぎ出したので、お前らはこの大事な時になんと言うことを言うんだよ、仏を前にして…、とにかくな、葬儀屋ではない、坊主でもない、まずお通夜だよ、向かいの酒屋呼んでこいと花山先生は言い聞かせるので、先生、新年会じゃないんだからと忠次が言い返す。

 ヒデオも、そんなこと言って良いと思ってるの!忘年会をやってんじゃない!などと花山先生に文句を言いながら、足でしっかり長吉の頭を踏みつけていた。 

いやわしが悪かった、悪かった、悲しいこの先輩の死を悼んで、泣こうと花山先生が指揮をするようなポーズで言い出したので、全員でまた泣き出す。

 いつの間にか起き上がった長吉も、ありがとうと言いながら一緒に泣き出す。

 早朝基地を見て驚いた花山先生に向かい、だって痛かったんだもんと長吉が言い訳したので、あっと驚く、為五郎!と花山先生はいう。

山紫に水清く〜と歌いながら、日ノ出高等学校の校庭を歩いて来た花山先生は、先生!と呼びかけながら女生徒たちが駆け寄って来たので、真昼間からなんだ?と驚くと、先生ずるい!私たちに黙っていなくなっちゃなんてずるい!とセーラー服姿のピコがいう

 他の女生徒も、先生行っちゃいや!というので、おい、ちょっと待て!誰から聞いたんだと花山先生が聞くと、校長先生です、さっき卒業式が済んだら旅行しようって約束したじゃない!辞めるのは来年にしてくださいと女生徒は訴える。 

すまん、実はな、事例が降りなくても辞めるつもりでいたんだよ、この街も長かったしな、ま、気の利いたお化けはそろそろ引っ込む頃だしなと花山先生は説明する。

 今度の発車は22時15分発…と放送が流れる駅に来た花山親子についてきたお福婆やは、こっちのカバンにシャツ10枚とこっちのカバンに…と説明するので、わかった、わかった、長の別れになるんじゃあるまいし、着いたら呼び戻すって言ってるでしょうと花山先生は諌め、窓口に来ると、東京2枚くださいと切符を買う。 

けど私は面白くないね、花山大造が街を出てこうってのに、誰も来てないなんてとお福ばあやは嘆く。

 そりゃ無理だ、俺は誰にも言ってねんだから、これが俺に一番ピッタリしてるだろう、さあ行こうと美代に呼びかける。 

じゃあと美代も別れを告げたので、そうですか、案本当に読んでくださいねとお服は花山先生に呼びかける。

改札口を通った花山先生は、ああわかった、わかったと答えホームに入るが、そのちき、駅長室から「蛍の光」を演奏するブラスバンド武の連中がホームに出て来たのに気づく。

 トロンボーンの長吉、トランペットの風太、ドラムのヒデオ、ホルンの忠次、そしてトランペットの工作だった。 太郎を抱いた八木署長や、ポン太、ピコも見送りに来ていた。

演奏が終わると、ありがとう、何よりの餞別だよと花山先生が礼を言うと、みなさん、本当にお世話になりましたと美代も礼を言う。

 卒業したらお兄ちゃん連れて必ずこの街に来ます、長吉さん、その時はお宅の工場で使ってくれないかな?と美代が言うと、他のメンバーたちも美代に近づいていく、こら、ヘボ将棋、今度会うときはもうちょっと上手くなってろよと言いながら八木署長も近づいてくる。

 花山先生は、なんだ、来てたのか〜と嬉しそうに答え、王様より飛車下がることはできんぞと言い返し、みんなが笑い出すが、その時、列車が到着したので、来たぞと花山先生はいう。

 電車は、終点日ノ出町でございますと言いながら停車すると、では花山ヒゲゴジラの卒業を壮挙を記念して演奏すると長吉が号令をかけ、ブラスバンド部のメンバーたちは「美代ちゃん」の演奏を始める。 

ヒデオが、僕の可愛い美代ちゃんは〜と泣きながら歌い出す。 

花山親子は折り返し電車に乗り込み、窓を開ける。

 寂しくなっちゃうな〜とヒデオが言うと、今に見ていろ僕だって〜♩と長吉が歌い出す。

 美代ちゃんそれまでさようならと言うと、ちょうど電車が走り出したので、みんなさようならと言って見送る。

 今日今は、僕一人だからね、忘れちゃ嫌よとヒデオが叫ぶ。

 走り去る電車の窓から身を乗り出した花山先生と美代ちゃんが、さよなら〜と呼びかけながら夜の闇の中に遠ざかってゆく。 

さあ下からバリバリやるぞ!容赦はしないぞと改札口を通って帰る長吉は発破をかけるが、八木署長が赤ん坊を抱いてないので、太郎坊は?と聞くと、お服、ポン太、ピコたちが笑いながら外の方を向く。 

何でえ?と言いながら長吉が外の方を向くと、そこには太郎を抱いた女房のお菊(大森暁美)が立っていた。

 八木所長たちはそのまま帰ってしまった後、お菊…と呼びかけながら近づいた長吉に、あなた、ごめんなさい、私が悪かったわとお菊は詫びてくる。

 何言ってるんだよ、悪かったのは俺だよと長吉が言うと、ううん、私よとお菊が言い返し、甘えあった夫婦喧嘩状態になる。

 それをあっけに取られたように見守るヒデオ、忠次、工作、風太たち。

 やがて、あんたとお菊がキスを求めて来たので、長吉も応じようとするが、お菊が抱いた太郎が邪魔でキスできない。 

それを見た忠次は、しまらない奴だなあと呆れる。

先輩泣くの初めて見たよと風太がいうと、俺らもあんな声で泣くんだべかと工作が聞き、これで良いのか、これで良いのか、ざまあみやがれとヒデオは悪態をつく。 

そして四人は頭を寄せ合い何事かを相談する。 翌朝、工場にやってきた風太は、あれだと煙突を忠次と工作に見える。

 なるほど、これが悪臭除去装置かと忠次が感心すると、苦心の作だよ、要するにここの問題さと工作は自分お額を指して自慢する。 でもまだちょっと匂うよなと颯太が言うので、匂わないの!と工作が颯太をどつく。

 おい、ヒデ!どうやるんだと手拭いを顔の下半分に巻いた長吉が聞くと、ヒデオが駆けつけて来たので、ヒデ、早くしろ、ちょっとこれ教えろ、これ教えろってんだ!これ教えろってんだよと長吉はじれる。

 すると、何だ?ゴリラ!と急に態度が大きくなったヒデオが、てめえ人にものを教わるのに、そんな態度あるか?と怒鳴りつけて来たので、てめえ、いつからそんな偉くなりやがった!と長吉が言い返すと、やかましい、やかましいこのやろう!え?誰のおかげでこの工場が元に戻ったと思ってやがんでいとヒデオが怒鳴りつけたので、やや間違ってましたと長吉が詫びると、良し!今までの俺と思うなよ?それが嫌ならだな、てめえが美代ちゃんに惚れたことや、え?俺の貯金を猫ババしたことをだな、全部カミさんにバラす!とヒデオが大声で言い出したので、おい、バカでかい声出すなよ、もうわかったよ、わかりましたよと長吉は納得する。 

そこにやって来た忠次は、先輩、この機械油差したほうが良いぞと忠告して来たので、わかってるよと要吉は答え、おい、今日は土曜日だから半ドンだぜと風太が言うと、わかってますってと長吉は答え、それから煙突の手間賃な、5000円に負けとくからそ多く払わないとダメだぞと工作まででかい態度できたので、うるせえ!このやろう!黙ってりゃいい気になりやがって!と長吉は癇癪を起こす。

 そうすると、あなたとお菊が声をかけて来たので、はいはい、呼んだ?と長吉が答えると、これ干して来てくれ愛と洗濯物を持って来たので、はいはい、かしこまりました、愛してるよと長吉は猫を被ったような態度で答える。

 お菊はわかってるわよと上から目線で答える。 素晴らしい奥さんと惚気ながら、長吉は洗濯物を干しに行ったので、物干し台のところに来たヒデオたちは、国旗と社旗を下ろしている長吉に、よう先輩!やってるね、似合うよ、恐妻家!と揶揄う。

 そんな後輩たちの声を背中で聞きながら、これで良いのか?これで良いのだとつぶやく長吉だった。

 白煙が上がる煙突の隣に洗濯物を掲揚した竿が靡く映像に「おわり」の文字

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