「多羅尾伴内 七つの顔の男だぜ」
片岡千恵蔵主演「多羅尾伴内シリーズ」の最終話で11作目
堀雄二さんや山本麟一さんが刑事役を演じていることもあってか、冒頭部分から「警視庁物語」のような雰囲気になっており、テンポはなかなか悪くない。
今回の大沢警部は山形勲さんが演じているが、宇佐美淳也や加藤嘉といった過去のシリーズのお馴染みさんも出てきており、いわば「多羅尾伴内シリーズのオールスター総出演」みたいな趣向になっているのが見どころ。
新東宝出身の中山昭二さんと久保菜穂子さんが出演している。
佐久間良子さんが劇中で歌うシーンがあるのも見もの。
星美智子さんの娼婦役というのも珍しいような気がするが、死体役はなかなか見事。
クライマックスの銃撃戦は派手だが、藤村大造が撃つ弾は敵に当たるが命は奪わないように見える。 大造に撃たれて倒れた子分がまた撃ち返してきたりするからだ。
一方、敵が撃つ弾は一発も大造には当たらないのはこのシリーズの鉄則。
安部徹、富田仲次郎、河野秋武、阿部九洲男、東野英治郎、稲葉義男といったお馴染みの悪役たちが、子分役で次々に登場するのも愉快である。
数字を使った暗号文がなぜ宮下源吉の机のメモ帳に残っていたのかとか、大造が中国人の富豪に化けたとき、花澤徳衛扮する中国人老人がその身分を保障したりしたのは、どういう準備があったのかとか、細かい部分の説明は一切ないままなので、荒唐無稽は相変わらずなのだが、その辺を突っ込まないのがこのシリーズを無邪気に楽しむ見方ではないかと思う。
【以下、ストーリー】 1960年、東映、比佐芳武原作+脚本、小沢茂弘監督作品
東京の夜景を背景にタイトル キャスト、スタッフロール
「ミッドナイトクラブ ゴールドスター」から、馬場きみ子(中原ひとみ)をエスコートして出てきた清島了介(中山昭二)は、車の運転手に急いでくれたまえと注文する。
出発する車をじっと見守る桜井新吉(江原真二郎)。
車の後部座席で腕時計を見た清島は、深夜の1時10分だと気づき、こんなに遅くなったちゃ社長にお叱りを喰らうかもしれませんねときみ子に話しかけると、あなた、恐ろしいの?ときみ子は聞き返す。
それは恐ろしいですよ、いくら病気としてって言われても、社長はやはり社長ですからねと清島は答える。
でもあなたは、福徳商事の一切を任されている専務じゃありませんか、それにいずれ私と…ときみ子はいう。
ですがまだ、正式にお許しを得たわけじゃないんですからと清島は答える。
じゃあ、なぜ早くそうなさらないの?と公子が焦れたように聞くと、無理をおっしゃるもんじゃありませんよ、お父様があのご容態では…と清島は言い返す。
すると、公子は、よして!と叱ったので清島が萎縮すると、すみません、気になさらないでときみ子も慰め、そっと清島の手に自分の手を重ねる。
やがて、車の運転手は、突然道を横断してきた男に気付き、声をあげてブレーキを踏む。
運転席を降りた運転手が、車にぶつかって倒れたように見えた男に近づき、どうした?大丈夫か、君!と声をかけると、顔を隠したその男は拳銃を向けてくる。
なんだ?どうしたんだね?と言いながら車から降りてきた清島にも拳銃が突きつけられる。
口元を布で隠した2似組の賊は、騒ぐと碌なことはねえぜと脅してくる。
それに気づいたきみ子は後部座席で狼狽する。
賊は、2人とも来るんだ!と指示するが、その時、後部座席を出たきみ子は、別の覆面の俗に銃を突きつけられたので、清島さん!清島さん!と呼びかけるが返事はなく、麻酔薬を染み込ませたハンカチを口元に被されてしまう。
清島の方も別の賊に連れ去られ、きみ子さん!と呼ぶが、賊に追いやられてしまう。
やがてきみ子は気を失ったので、賊は車の後部座席に連れ込む。
一方、族によって近くの公園に歩かされた清島と運転手は、猿轡をかまされ、手足を縛られ転がされてしまう。
3人組の覆面賊たちはそのまま清島が乗ってきた車に乗り込んで去ってしまう。
スピードを出した賊たちの車を止めようとした刑事と警官だったが、あっさり通過されてしまう。
しかも、走りすぎた車から発砲され、2人とも倒れてしまう。
公園では、運転手の方が先に捕縛を解き、専務!と言いながら清村の捕縛も解いてやる。 起き上がった清村は、僕は良い、早く警察に知らせるんだと運転手に命じる。
はい、本署ですと電話を受けた警官は自動車強盗事件ですと連絡を受け、自動車強盗!と驚く。
発生場所は大井町の路上、被害者は福徳商事会社の専務清島了介、犯人は3人連れの男だそうで、同乗の馬場きみ子を有貸しして西へ逃走したようですと、運転手が駆け込んだ巡査派出所の巡査は報告する。
その自動車のナンバーは…と言いかけた巡査は、何番だねと運転手に聞くと、神奈川3-せの1035ですと聞き、それを紙に書き留める。
警視庁 はい、捜査一課ですと佐藤刑事(山本麟一)が電話を受けると、え?うん…、はあ、神奈川3のせの1035ですなとメモし、は、わかりました、早速手配しますと答える。
大沢警部がなんだ?と聞くと、はあ、品川区管内大井町の路上で、自動車ならびに婦女誘拐事件が発生したそうですと佐藤刑事が伝える。
婦女誘拐!と大沢が驚くと、被害者は清島了介という男で、同伴の馬場きみ子というのが自動車ともに3人組に…と佐藤が報告すると、逃走の経路は?と大沢が聞いたので、第2国道を西に向かった模様ですと佐藤はいうので、良し、司令室に連絡した前と大沢が指示すると、出かけようと福村警部補(堀雄二)らに声をかける。
警視庁より各移動、警視庁より各移動!品川区管内大井町にて自動車強盗ならびに婦女誘拐事件発生!と無線が発信される。
3人組の犯人は強奪セル自動車によって第二国道を西へ逃走中、ナンバー神奈川3の背の1035、最寄りの各移動は直ちに追撃せよ、どうぞと言う。
警視135、了解!とパトカーの警官が応答する。
サイレンを鳴らして走り出したパトカーは、やがて人だかりを発見、何事かと降りてみると、刑事の松川と警官の溝部が射殺されているのに気付き、至急連絡を入れる。
翌朝の新聞には「福徳商事霊場誘拐さる!」「犯人は反仮面の3人組!」「自動車を奪って逃走す」「刑事警官射殺猿」「張り込み中の二警官殉職す」「犯行は殺人の仕業か?』「狂気の割り出し急ぐ」といった見出しが踊る。
同じく、同日の新聞には「大田区に強盗殺人!」「犯人は都内に先王区か?」「浅草で警官を切る」「グレン隊 客引き女を逃す」などという見出しも目立っていた。
蒲田警察署の前には新聞記者が屯していたが、そこにひょこひょこ現れたのは多羅尾伴内(片岡千恵蔵)だった。
捜査係には「松川刑事 溝部警官 殉職事件」の戒名と「係員の他は出入り現金」の張り紙が張り出してあった。
廊下の受付係の警官に、帽子をとって、大沢警部さん、おいででしょうかと聞いた多羅尾に、あなたは?と警官が聞くと、これは失礼しました、実はこういうものでしてと多羅尾は名詞を取り出す。
名刺を見た警官は、ほお、あなたが!と驚いたので、伴内はちょっと得意げな笑顔になる。
どうぞこちらへと警官に案内されて伴内が部屋に入ると、振り向いた大沢警部が、ああ、多羅尾さんと声をかける。
伴内は、ご多忙のところ恐縮ですと会釈すると、何々、もうお見えになる頃だと思ってました、どうぞ、どうぞと大沢は鷹揚に出迎え、あ、それ!と福村警部補に資料を部長室の方へ持って来させる。
椅子に腰を下ろした伴内は、この度はどうも飛んだことで…とお悔やみをいうと、いや、かけがえのない惜しい2人を死なせましたよと大沢は答える。
全くですな、ことに松川さんは手前にとってゆかりの深い方でしたが、御殉職の場所は神奈川県の境だそうですな?と伴内は聞くと、ええ、そうですと大沢は答える。
実は昨夜の10時頃、大田区で強盗殺人事件が発生しましてね、そのためにあの時点で両君は非常線を張っていたんですと大沢が説明すると、すると犯人はその事件の…と伴内が察すると、我々も始めたそのつもりでした、ところが当の犯人は先ほど浅草山谷のドヤ街で緊急逮捕されたんですと大沢は教える。
ほほう…と感心する伴内に、足取りを調べたところ、その男は犯行現場から新宿を経て、山谷へ帰っておりますし、単独はんでしかも拳銃を所持していた形跡はないんですよと大沢は続ける。
ではやはり、この新聞にある通り、富豪令嬢誘拐事件と…と伴内が聞くと、断言はできせんがね、しかし犯人は被害者の車を奪って西へ逃走したと言いますからと大沢が言うので、その車、発見されましたか?と伴内は聞く。
いや、まだですよ、神奈川県と協力して、目下捜査中ですと大沢が答えると、なるほど、誘拐された」令嬢は馬場きみ子ですな?と伴内は確認する。
そうですと大沢が肯定すると、現住所は東横線の大取町で、父は横浜の貿易商、昨夜同伴されたのはその会社の重役で清島了介だったそうですが、清島君と公子さんの関係は?と伴内は聞く。
確かなことはわかりませんが、いずれは結婚する間柄だったようですなと大沢は答えると、それは誰の証言ですかな?と伴内は聞く。
清島君自身のものですよ、もっともまだ具体化はしていなかったそうですが…と大沢は言う。
その時、部屋に佐藤刑事がやってきて、松川さんのお嬢さんがお見えですが?と大沢に耳打ちする。
何?松川さんの!と大沢は驚き、入ってきた松川その子(佐久間良子)が、お邪魔じゃございません?と聞いてきたので、いやあ、構いませんよ、何かご用ですか?と大沢は答える。
するとその子は、父と溝部さんを撃った拳銃についてお教え願いたいんですけどと言い出す。 大沢は、凶器はね、ブローニングの32口径ですと教える。
では1人の男が同じ拳銃で?とその子が聞くと、いや、2人の男が別々の拳銃で撃ったんですと大沢は答える。
これは2つの弾の拡大写真ですがね、弾条によって生じた傷跡にこれだけの異点があるんですと、大沢は資料写真を見せる。
もちろんこれは、他の犯罪に使われたことのない新品でしょうな?とその子と並んでソファに座っていた伴内が、横から写真を見ながら聞く。
そのようです、鑑定の結果、これと同一の傷痕を持つ拳銃は他にはありませんからと大沢は教える。
すると密輸…と伴内がつぶやいたので、隣に座ったその子は驚くが、いや、これは手前の想像に過ぎませんがな、ところで大沢さん、誘拐事件の発生時間は?と伴内は聞く。
1時15分前後だそうですと大沢が答えると、それが当局に通報されましたのは?と伴内が聞くと、2時20分でしたと大沢は教える。
2時20分ですと?と伴内が驚くと、被害者の運転手はそれまで手足を縛られ猿轡をされて神社の横の公園に横たわっていたんだそうですと大沢が説明したので、伴内はなるほど…と納得する。
その時、部長の席の電話が鳴ったので、福村警部補が受話器を取る。
そうです、はあ、は?鎌倉で?うん、はあ、はい、承知しました!すぐ参りますと答えて受話器を置くと、問題の自動車は鎌倉の遠隔寺付近で発見されたそうですと福村は大沢に伝える。
え?と驚いた大沢は、参りましょうか?と伴内を誘うと、伴内ははい、はいと二つ返事で立ち上がる。 大沢と伴内とともに車で現場に向かう途中の福村は、尾行している車に気づく。
ご苦労さんですと現場で木原刑事(加藤嘉)が出迎えると、大沢がいささか発見が遅かったようですが?と聞く。
それはこのためなんですと木原は警官に持たせたバックナンバープレートを見せ、この偽ナンバーが巧妙に嵌め込まれてあったんですと説明しながら、実際にバックナンバー部分にはめて見せ、この通りですという。
なかなか成功にできておりますなと感心しながら近づいた伴内に、さよう、少なくとも急拵えのものではないようですと大沢が言い、車はいつ頃からこの地点に?と木原に聞くと、今朝の5寺半頃出すです、そのころに田川という牛乳配達人が…と木原は答える。
遺留品はいかがでした?と大沢が聞くと、ありません、この偽ナンバーの他にはですと木原は即答する。
その時、伴内が被害者の車の後部ドアを開け、座敷に入って観察し始めたので、何です?と大沢が聞くと、匂いですよと伴内は言う。
ほんの微かですがね、ドアを開けた途端、麻酔薬エーテルの匂いがしたんですよと伴内は言う。 すると馬場きみ子は…と大沢が指摘すると、それを嗅がされて意識不明のうちにさる所へ運ばれた…と伴内はいう。
さる所とは?と大沢が聞くと、いや、まだ分かりまえんのですがな、この界隈だと甚だ好都合ですよと指摘する。
そこに山川刑事(菅沼正)が駆けてきて、今、駅の係に来てきたんですが、今朝の一番電車に運転手風の男が乗車したそうですと報告する。
1人でかね?と木原が聞くと、ええ、乗客は10数人になったそうですが、他はみんな定期を持っていたそうですから…と山川が答える。
その男の行先は?と木原が聞くと、横浜ですと言うので、横浜?と木原は聞き返す。
その時、突然笑い出した伴内は、あ、いや、多分そんなことになろうと思いましたよ、これは失礼、その男がこの事件に関係していると仮定すればですな、以下のような推定が成り立つわけですな、すなわち、被害者は横浜市内…、あるいはその周辺に監禁され、それを偽装するために、犯人の1人がわざわざこの鎌倉に車を乗り捨てた…とと伴内は言う。
翌日に新聞には「被害者、鎌倉で発見 犯人一味は横浜に潜伏か」「馬場令嬢横浜に監禁? 被害者自動車鎌倉で発見」「刑事殺しと同犯人か」「三谷のドヤ街で 大区の強盗殺人犯」と見出しが出る。 横浜駅 片目の運転手が乗った車が「ドライブクラブ 宮下商会」の前に停まる。
事務所に入ると、桜井新吉と川北とめ子(久保菜穂子)、宮下源吉(東野英治郎)が無言で出迎える。 宮下源吉さんってあんたかい?と片目の運転手が聞くので、そうですと宮下が答えると、俺は押川幸吉というものだが、おりいって相談したいことがあるんだと持ちかける。
宮下は承知しましたと答え、桜井夫婦を追い払おうとしたので、とめ子、どうする?と信吉が聞くと、道は、どうしよっかな、まだ早いからお店に出ようかなと腕時計を見ながら答えたので、よし、じゃあ、その辺まで送ってやらあと言い、ありがとう、今夜はずいぶん親切なのねととめ子は答え、新吉もあったぼうよ、おめえが逆にでれでれさえしなけりゃ俺はいつだって優しいヒモだよと言い、何とか言って、すぐまた風向きが変わるくせに!じゃあ、おじさん、またね!ととめ子が言いながら、一緒に出て行く。
お客かね?と片目の運転手が聞くと、ええ、そうです、明日は箱根にドライブするんで車の交渉に来たんですよと宮下はいう。
ほお、女は店に出るとか言ってたが、どこに勤めてるんだい?と運転手は不思議がると、さあ、よく知りませんね、何しろあの女、次から次と店を変わるもんですからねと宮下が言うので、それはそうだろう、ヒモがああ嫉妬深くちゃ馴染みの客はつかねえよと運転手が指摘したので、ところでご用件は?と宮下は聞く。
あ、そうだと気付いた運転手は、実は偽のナンバプレートを作ってもらいてえんだよ、雇い主の野郎があんまり腹の立つことばっかりしやがるんで、車、関西に持ってって売り捌いてやろうと思ってるんだが、途中ちょっと本ナンバーじゃやばいんでねと運転手はいう。
すると見たしたは、よしたまえ!僕はドライブクラブの経営者だ、つまらん話は持ち込んでもらいたくないねとと答える。
すると運転手も、ふん、やめなよ、こっちは何もかも知ってんだぜ、君が自動車の故買で上げられたのは3年前だ、仮出獄を許されたのは去年の春よ、当時の記録によると、被告宮下源吉は、藩財団が奪ってきた車を安値で買って、偽のナンバーつけて関西方面で売り捌いていたとある…、ふん、言いたかねえが、それほどの前科がある君にはあるんだぜと運転手は迫る。
わしは自分で偽のナンバーを…と宮下が言い返してきたので、作ったんじゃねえなら、誰に頼んだんだ?誰が作ったんだよというと、運転手は金をテーブルの上に出し、差し話だ、おめえが口を割らなきゃ誰にもわかるはずはねえ、良いな?誰がつくたんでえと聞く。
田島…と小声で宮下が言うのではっきり言えよと運転手が迫ると、田島だよとはっきり答える。
田島?住所は?と聞くと、中村町3丁目7番地、行って見たまえと宮下が打ち明けたので、わかったと言って立ち上がった運転手は、うまくいったらその金を倍にするぜ、俺の帰るの待ってなと言い残し、事務所を出ていくが、その様子を物陰から新吉が見ていた。
中村町3丁目7番地にやってきた運転手は、田島庄太郎の家から出てきた2人の男が身を隠したことに気づかず、家を訪問する。
こんばんは!田島さん、いなさるかね?と声をかけるが、室内の電気はついているのに返事がない。
もう一度、田島さん!と呼びかけた運転手は首を傾げながら、玄関の引き戸を開けると鍵はかかってなかった。
見ると、背中にナイフを刺された田島(小森敏)と思しき男が倒れ込んできたので、運転手は、どうしたんだね、しっかりしろ、しっかり!と声をかける。
しかし、運転手は危険を察知し家の外に飛び出すと、待ち伏せていた二人組が発砲してくる。
間一髪、運転手は塀に身を寄せて助かるが、敵は逃亡してしまう。
発砲音に驚いて隣人の老人と娘が飛び出してきて、どうしました?と聞くので、運転手は人殺しだよというと、老人も人殺し!と驚く。
近所中が騒がしくなったところで運転手はそっとその場を離れ、車で宮下商会へ戻ると、入り口には「ご苦労さん 再び君と会うことはないだろう」と書かれた張り紙が玄関扉に貼られていた。
運転手はその張り紙を悔しそうに引きちぎる。 神奈川県警察本部 「田島殺人現場見取り図」をもとに会議をしていた石田捜査課長(宇佐美淳也)は、するとあなたは、昨夜の中村町の殺人と松川・溝部両君の殉職事件との間に関連があるとおっしゃるんですな?と、大沢警部に聞いていた。
福村と共に来ていた大沢は、いや、確信はないんですがね、実は多羅尾さんからそういう意味の電話連絡があったもんでねと言い訳する。
うん、多羅尾さんとは?と石田が聞くと、手前ですよ、ご調査進みましたかな?と言いながら、伴内がやってくる。
大沢は、いや、まだまだ、先ほど到着したばかりですよと答える。 では十分ご検討なさることですな…、この事件には妙に何かが…と伴内が首を捻るので、何かとは?と石田が聞くと、手前が調査したところによりますとな、田島はもと自動車の部分機工場に働いていたことがある男でしてな、対象はある犯罪団に加わっていた疑いがあるのですと伴内はいう。
ある犯罪団とは?と大沢が聞くと、ただ今の所、あまり具体的にはもうされませんがな、その当人が殺され、前後してその仲間の1人と思われる男が失踪したとすればですな…と伴内が言うので、失踪!と大沢は驚き、いったい誰が失踪したのですと石田が聞くと、宮下源吉ですよと伴内は答える。
宮下?と石田が繰り返すと、と聞いて何かお心当たりはありませんかな?と伴内が聞くと、ありますと石田はいう。
その者は3年前に会社窃盗団の…と石田が続けると、さ、それですよ、出獄後は高島町でドライブクラブを経営しておりましたがな…と伴内がいうので、行ってみましょうと石田は大沢に声をかける。
佐藤刑事が「ドライブクラブ」の事務所の鍵を開け中に入ると、大沢が事務所横に置かれていた車を見て、プリムスの59年とフォードの57年だと型を特定し、なぜ宮下はこれを置き捨てて失踪したんでしょうと聞く
すると石田が、ひょっとすると、宮下自身が被害者では?と意見を述べる。
え?宮下自身が?と大沢は驚くが、いやお見事ですな、確かにそのケースも考えられますが、その真偽を証明するためにこの紙が役に立ちましょうといいながら、伴内は内ポケットから貼り紙を取り出すと、大沢に手渡す。
何ですこれは?と大沢が聞くと、宮下が昨夜、ある男のために書き残したものですよと伴内は言う。
これが本人自身のものなら被害者であるはずがありませんし、もし逆なら結論もまた逆になりましょうと伴内が指摘すると、石田は部下たちに、宮下の筆跡と指示を出す。
寺田刑事(須藤健)が帳簿を見つけ、ありました、これはいかがですと差し出したので、バッグから天眼鏡を取り出した伴内が、張り紙の字と比較してみたところ、同じ筆跡ですな…、とすれば宮下は被害者じゃありませんと断定する。
伴内はさらに、机に置いてあったメモから、「13−23-NO2-L3…MO300」と言う書き込みを見つける。 何でしょう?と大沢が聞くと、おそらく何らかの連絡事項でしょうなと伴内は答える。
こう言う推定はいかがです?メモ帳の日付は11日ですから、つまり昨日、13の数字は日にちを示したものでしょうと伴内が指摘すると、では次の23と言う数字は?と石田が聞いたので、時間ですなと伴内は答える。
No2とは?場所でしょう。L3は?と大沢が聞くとわかりませんな、次のMO300も全く判断に苦しみます、あ、これは拉致もないことで、飛んだお邪魔をいたしました、お許しを願いますといって伴内は帰ってゆく。
大沢警部は、とにかく宮下を指名手配してみてはいかがですと石田に提案する。
そうしましょうと答えた石田は、寺田君、本部に連絡したまえと指示する。
事務所を出て歩いていた伴内は、1323NO2L3…と、数字をつぶやいていたが、外国人たちが乗った車が通り過ぎたのをみた伴内は、13日23時浜の第二突堤!と気づく。
横浜の台に突堤に10時10分にいたのは、マドロス帽を被った船員風の男(片岡千恵蔵)だった。
その男がタバコを吸おうと取り出した時、突然背後からライターの火を差し出したのは、新吉の姉の桜井ミチ(星美智子)だった。
ありがとうと言いながらタバコに火をつけた男に、あんたどの船だい?とミチは聞いてくる。
香港丸だよ都男が答えると、香港丸だって?とミチは確認してくる。
うんと男が言うと、へえ、香港丸は今朝出航したはずだよとミチが指摘したので、おいら、酒を女に弱くってね、出航時間に遅れちゃったんだと男はいう。
とか何とかいって、あんた本当は首になったんだろうとミチが指摘したので、首?とおことが聞き返すと、役に立たないからって船から降ろされたんじゃないのかい?とミチは言う。
よくわかるねえ…、どうしてそれが?と男が驚いたので、わかるよ、ちゃんと顔に書いてあるんだもんとミチは言う。 なるほど…、浜の女は怖いね〜と男は苦笑する。
ところがそうでもないんだ、ことと次第によっちゃね…、どう?遊んであげよっか?とミチは男に近づいてくる。
悪くないけど、おいら持っているもの金にしなくっちゃねと船員風の男はいうので、持ってるもの?とミチは聞く。
ウンと男が答えると、じゃあ、あんたヤク持ってるんだね?とミチは聞いてくる。 ヤクって?と男が戸惑うと、麻薬さ、ペイだよとミチは教える。
そんなもんじゃないよ、俺が持ってんのはこれだよと言いながら、船員風の男は拳銃をポケットから取り出して見せる。
他にも仕事あんだけどね、相手を探してくれたら分前出すよと男が囁きかけると、率はどうなるの?とミチは聞く。
船員風の男は、半々の山分けだよと答えると、じゃあ、弟のところに行くといいわとミチは教える。
弟?と男が聞くと、今は仲違いして会ってないけど、本当の弟だよとミチは言うので、その人の名は?と聞くと、櫻井新吉とミチは教える。
どこに行けば会えるんだね?と男が聞くと、そうだね?と腕時計で時間を確認したミチは、今ごろの時間だったら「ニューモナコ」かな?と教える。
「ニューモナコ」だね?と確認した男は、その店に向かう。
クラブでは歌手が、私が私でなくなった〜♩思い出でなんか真っ黒に塗り込めちゃった〜ブラックドレス〜と歌を歌っていた。
ボックス席では新吉がホステスを抱きながら、大場三郎(関山耕司)と一緒に歌を口ずさんでいた。
そこにいらっしゃいませと挨拶してきたのはホステスになった松川その子だったが、新吉は、馴染みのねえ顔だがいつ出たんだと聞く。
今夜ですとその子が答えると、名は?と聞くと、まりと申しますと答えると、まりちゃんか、こっち寄んなと新吉は言いながら、その子の手を引いて無理やり隣に座らせ、良いじゃないか、、仲良くしねえと損するぜなどと嘯く。
そんな様子を他のボックスから見ていたのは、同じホステスの川北とめ子(久保菜穂子)だった。 新ちゃんと諌めながらボックス席にやってきたとめ子は、まりちゃん、あんた次歌うんでしょうと声をかけ、その子ははいと答え席を立ったので、とめ子が代わりに新吉の隣に座る。
途端に新吉が痛がったので、わかって?あんたが女にデレデレしない限り、私はあんたの良い相棒よととめ子は言い聞かせる。
立って歌う出番を待っていたその子は、怪しげな船員風の男がボーイ花井保夫(潮健児)に案内され入ってきたので驚き、そっと位置を移動する。
花井は新吉のところに男を案内すると、御面会ですと伝える。
新吉は、面会?と戸惑う。
桜井新吉さんですか?と船員風の男が聞くと、おめえは?と新吉が聞き返す。
あんたの姉さんに紹介されたんだよと男が言うと、用件は何だい?とソファから立ち上がった新吉は聞く。
船員風の男が耳打ちすると、間違いねえだろうな?と新吉は確認すると、腕を見りゃ分かりますよと男はいう。
飲んでなと仲間たちに言い残した新吉は、上に行こうと男を誘う。
ステージでは、その子が、おいで、おいで、甘い恋の蜜を盗もう♩と「よさこい節」のアレンジを歌っていた。
中2階の通路に来た船員風の男は、その歌声に聴き惚れたように、立ち止まって嬉しそうな顔になる。
中2階のバーに来た新吉は、星村さんどうした?と聞くと、さっきまでここにいたんですが?とバーテンが答えると、何かお召し上がりになりますか?と聞いてきたので、じゃあ、いつものやつ、一杯もらおうかと新吉は注文する。
おいと新吉が声をかけたんで、何だよ?と立っていた船員風の男が聞くと、どこ見てるんだよ、早いとこ飲みなよと新吉はカウンターのグラスを見ながら勧める。
船員風の男は、奢ってくれるんか?と喜び、カウンターの新吉の隣に座る。
そうさ、顔繋ぎさと新吉が言うので、ウィスキーを飲もうとした船員風の男だったが、わざとグラスを倒して、反対隣の女性客馬場不二子(喜多川千鶴)の方に酒がこぼれる。
つい手が滑っちゃったと言いながら、男は自分の服の袖の部分で拭こうとしたので、良いから、良いから、早く新しい方を飲みなよと新吉は宥め、新たに継がれたウィスキーを男が飲むと、じゃあ行こうかと新吉は席を立つ。
船員風の男も立ち上がり、不二子にどうもすみませんと詫びてその場を立ち去る。
3階の「星村興業」と書かれた事務所に来た新吉は、そこにいた男に、応接間空いてるか?と聞き、船員風の男とそこに座る。
早速見せてもらおうかと新吉が言うと、船員風の男はあっさり拳銃を2丁取り出す。
右がドヤの32口径、左がうん、サウエルドンの25だよ男が言うので、それだけか・と新吉が聞くと、まだありますよと男は答え、ウォルサDPKの32、アトラスの25口径、モーゼルの32、それからスミス&ウエスソンの45とテーブルの上に並べていったので、流石の新吉もあっけに取られる。
今夜はこれだけだよと男が言うと、わかった、待ってなと言って新吉は部屋の外に出る。
隣室の壁にかかった油絵を引き戸のように開くと、そこに秘密のスイッチがあり、新吉がそれを押すと、秘密の壁がスライドし、そこに青戸文七(富田仲次郎)がいたので、社長は?と金吉が聞くと、いなさるよと青戸は答える。
大勢の客で賑わうギャンブル場にいた星村周平(進藤英太郎)に新吉が耳打ちをすると、バカもん!出過ぎた真似をするな!なぜ前もって相談しないと星村は叱りつける。
新吉は、すみません、お許しなさってと詫びる。
まあ良い、やったことは仕方がない、これで落とし前つけろと言いながら、星村は財布からまとまった金額を抜き出して新吉に渡し、青戸と須田庄平(安部徹)に頷いて見せたので、2人はすぐに動き出す。
船員風の男の待つ応接室に戻ってきた新吉は札束をテーブルに投げると、受けとんな、この辺のところはこっちの相場だぜと言う。
船員風の男は、あの…、これで全部…と不満そうに金を受け取るが、今度埋め合わせするよと新吉が言うと、ありがとう、みんな弾入ってますから注意してください愛よと言い残し帰ってゆく。
その直後に部屋に来た須田と青戸は、テーブルに置いてあった拳銃を一丁ずつ胸ポケットにしまい、船員風の男の後を追う。
中2階部分に戻ってきた船員風の男は、バーにいた馬場不二子が席を立ったので、自然とその後をつける形になる。
ボックス席で客の相手をしておたその子も、その様子に気づく。
店の外に出た船員風の男は、馬場不二子が乗り込んだ車のナンバー「神3 す-2253」を暗記していたが、そこに外で待ち伏せていた桜井ミチが、ちょっと、どうだったの?と言いながら近づいてくる。
男は笑顔で、うまくいったよ、これ、君の取り分と言って金をミチに渡すと、ありがとう、それじゃ行って遊ぼうよねと言うので、そうしようと船員風の男は同行する。
それを見送った新吉は、あれの定宿なら一楽ホテルだ、先回りして待ち伏せるが良いぜと青戸と須田に教え他ので、良しと答えた2人は店を飛び出てゆく。
先回りした須田と青戸が物陰で様子を見ていると、船員風の男と腕を組んだミチが近づいてきて、ここよとホテルを指差す。
ホテルに入りかけた時姿を現した青戸と須田が発砲してきたので、危ないと道を庇おうとした男だったが、ミチは撃たれてしまう。
ミスったと気づいた2人はさらに撃ってくるが、身をかがめた船員風の男が撃ち返してくる。
野次馬が近づいたので、青戸と須田はその場から立ち去る。
翌朝の新聞には「横浜で夜の女射殺さる 縄張り争いの巻き添えか」「路上で発砲する 連れの船員風の男追及」などの見出しが踊る。
その記事を悲痛な表情で読む新吉。
そこに近づいた星村が、おい、新吉、どうした?いや、気持ちはわかるが諦めな、青戸も須田もお前の姉さん、撃つきはなかったんだと慰める。
確かにそうでしょうかね?と新吉が煮え切らない表情で言うので、もちろんだとも、2人はお前の兄弟分じゃねえか…と星村は答える。
ですが…と新吉が言い返そうとするので、よせよ、元々おめえがこんなやべえ時に素性のしれねえ船乗りなんかを引っ張り込んだのが悪いんだ、ま、葬式一才の費用は俺がするし、まとまった金尾もやる、それでこの一件はスッパリと忘れるんだ、良いな?と星村が言い聞かしたので、新吉もへえと答えるしかなかった。
「馬場」の表札が出た家の前に停まっていた車の運転手は、突然やってきた多羅尾伴内が、こちら馬場信吾さんのお宅ですな?と聞いてきたので、そうですよと答える。
ありがとうと答えた伴内は、そのまま屋敷の中に入ると、そこに泊まった車のナンバーが、先日横浜で見たものと同じものだということを確認する。
玄関ドアを押すと、その音にベッドで気づいた馬場信吾(御橋公)が、きみ子が…、きみ子が帰ってきたんじゃないのか?と言いながら上半身を起こす。
和服姿の不二子が、さあ?見て参りましょうと部屋を出ていく。
ベッド脇に控えていた清島了介が、苦しげな信吾を気遣い、社長!と呼びかけながら寝かせる。
階段を降りた不二子に女中が、この方が…と名刺を差し出す。
御用は?と聞くと、きみ子お嬢様のことで是非ともお耳に入れたいことがございますそうで…と女中は告げる。
えっ?と不二子が驚くと、とにかく応接間にお通ししときましたけどと女中が言うので、そうと答えて応接間に入る。
座っていた伴内が立ち上がり、いや、これは突然お邪魔をいたしましてと詫びてきたので、いいえ、私、馬場の家内で不二子と申しますと挨拶する。
するときみ子さんの?と伴内が聞くと、義理の母でございますと不二子は答える。
なるほど、どおりでちょっとお若いと思いましたよ、実は例の件につきましてな…と伴内が話し始めようとすると、あ、もし…と不二子が制したので、伴内は戸惑う。
勝手を申し上げるようですけど、あのことが知れますと主人の病気に障りますので…と不二子は言う。
ああ、内密にしてらっしゃるのですか?と伴内は納得する。
はい、きみ子はお友達と旅行に出掛けていると言うことに…と不二子は説明する。
いや、わかりました、以後気をつけましょうと伴内は納得する。
ところで奥さん、これにお心当たりはありませんかな?と伴内は、バッグから「13…23…NO2…L3…MO300」と書いたメモを出して見せる。
なんでございます?と聞く不二子に、これはさるドライブクラブの経営者が書き残したものですがな、どうもこれがきみ子さんの失踪に関係がるような気がしますのですがな…と伴内は説明する。
関係とおっしゃいますと?と不二子が聞くので、お分かりになりませんかな?と伴内は確認するが、不二子ははいと答える。
では申し上げましょう、実は手前はこれをこう判読したのですがな?と前置きした伴内は、13は日付、23は時間、NO2はNo.2である家の2階、Lはレフト、左から3番目の席…と伴内が言うと、MOとは?と不二子が聞いたので、マネー、すなわち金ですな、従ってMO300とは、金額を示したものでしょうと伴内は答え、どうです、後な徳は参りましたか?と聞く。
いいえ少しも…、一体それはどう言う意味でございますの?と不二子は戸惑う。
きみ子さんの身代金の要求ですよ、つまりですな、この数字は以下の文章に置き換えられるのですよと伴内は指摘する。 その時、応接室の前には清島が近づいていた。
つまり13日の午後11時に300万円の金を用意してさる家の2階の左から3番目の席に着けと…と伴内が説明すると、その家とは?と不二子が聞くと「ニューモナコ」ですよと伴内は答える。
「ニューモナコ」!と不二子が驚くと、どうです奥さん、昨日の午後の午後11時に「モナコ」の2階のバーの左から3番目の席にお付きになりませんでしたかな?と伴内は聞く。
どうしてそんなご想像なさいますの?と不二子が焦ると、事実を解明のためにですよ、お望みならこの事件を手前が…と伴内が申し出ると、お断りしますと不二子は即答する。
何?断る…と伴内が驚くと、はいと不二子が言うので、何故ですな?と伴内が聞くと、あなたは何も…、何もお分かりになっていないんですと不二子はいう。
その時ドアが開き、清島が入って来て、おやめなさい奥さん、2階に聞こえたらどうなさいます?と注意してくる。
清島は、多羅尾さんとかおっしゃいましたね?と聞くと、実は私、福徳商事専務の清島了介ですが、もしお差し支えなかったら、これから一緒に店の方へお越し願えませんでしょうかと申し出てくる。
お店の方へ?と伴内は驚くと、は、実は社長んご容体が思わしくございませんので、あちらで真相を申し上げ、是非とも御助力をお願いしたいんですが?と清島が申し出たので、よろしい、お供こいたしましょうと伴内は答え立ち上がる。
会社に戻り、山岡要三(阿部九洲男)に、僕に電話はかからなかったか?と聞くと、はあ、どっからもというので、それじゃあすまないが、奥に来てくれたまえと指示すると、承知しましたと言って、山岡も一緒についてくる。
伴内にソファを進めた清島は、ところで山岡君、11日の電話は確か午後3時過ぎだったね?と聞くと、ええというので、隠さんでも良いよ、あの脅迫電話の詳細を話したまえと清島は言う。
しかし山岡は、脅迫電話と言いますと?ととぼけて来たので、わからんな君は、きみ子さんの身代金の一件だよと清島はじれたように聞き返す。
けれどそれを公表しますと令嬢のご一命が‥と山岡が抵抗するので、危ないと思って僕も公開しなかったんだ、この多羅尾さんはご自分の推理によってそれを知ってらっしゃるんだと清島は伝える。
それは男の声でしたか?と伴内が聞くと、山岡ははいと答えたので、では社長の奥さんはその指令に従ってあの2階へ出向いたわけですなと伴内は確認する。
そうですと答えた清島は、打ち合わせではこの山岡君と私がいくことになっていたんですが、直前になって奥さんがどうしても自分で出かけるとおっしゃってるんで…と清島が言うので、ところが出掛けてみると相手が姿を見せなかった?と伴内が指摘すると、はいその通りです、奥さんは午後11時半頃まで待ったそうですが…と清島が言うので、大体わかりましたと伴内はいう。
ところであなた方、宮下源吉をご存知ですかな?と宮下源吉が聞くと、宮下源吉?と清島は聞き返し、その男と今度の事件と何か関係でも?と山岡も聞くので、これは驚きましたな…、あなた方は新聞を読まんとは…、これですよと伴内は上着の内ポケットから新聞を取り出しテーブルの上に置く。
そこには「令嬢誘拐事件近く解決か」「重要参考人宮下を指名手配 背後に会社窃盗団?」との見出しが載っていた。
ああ、これでしたか、この記事なら確かに読みましたが、ただし全然未知の男ですよと清島は答えたので、それはあなたは良心に賭けて断言なさるのですな?と伴内が聞くと、もちろんですと清島は言う。
いや失礼しました、お気を悪くなさらんように、君子危うきに近寄らず、どなたも「モナコ」にはお近づきにならんことですなと伴内は忠告し、さっさと帰る。
「ニューモナコ」では、その子が、私したい!と言い出すが、まだ良いじゃないの、後2時間もしなきゃお金にならないわよと、新吉と一緒にカウンター席にいたとめ子が忠告するが、その子は、でも…と焦れる。 ステージではバンド演奏が始まる。
その時、2階のバーにやって来たのは富豪風の紳士(片岡千恵蔵)だった。
早速ですが何を?とバーテン野沢庄平(清村耕次)が注文を聞くと、琥珀の水だよと紳士が答えたので、野沢はええ?琥珀の水?と戸惑う。
わからんかね、バーボンのダブルと紳士は言い直す。
承知いたしましたと野沢が答えると、ちょっと待ちたまえと言い出した紳士は、タバコを咥え、マッチを上着の内側で擦って火をつけると、僕は手品が好きでね、それをやらないと飲み気がしないんだよと自己紹介する。
日のついたタバコを左手の中ですり消したように見せて、急に紙のボンボンを取り出してそばにいたその子に投げ渡すと、次は千円札を取り出し、取って起きた前と差し出したので、恐れ入りますと野沢が受け取る。
それをあっけに取られて見ていたとめ子は、急に愛想が良くなっていらっしゃいと言うと紳士の隣に座る。
おお!と紳士が喜ぶと、ここ初めて?ととめ子が聞いたので、最近香港から帰って来たばかりでねと紳士は言う。 まあ!香港から?ととめ子が聞かれた紳士は、イエス!と答える。
今日はゆっくりしてってくださるんでしょう?ととめ子は愛想を振り撒く。
紳士はそっちの腕次第というので、良いわ、任しといて、ちょっとまりちゃんとその子も席につかせる。
呼ばれたその子は、持っていたボンボンを投げ捨てて、いらっしゃいませと紳士の横に座ると、おお、レディ!君はなかなか美人だねと紳士は急にその子に夢中になる。
あら、そんな…とその子が照れると、紳士は茎が折れ曲がる造花のマジックを披露する。
君ならきっとあの人の木にいるだろうと言いながら、その増加をその子に渡す。
あの人とおっしゃいますと?とその子が聞くと、つまり、あの人!ひょっとすると君は思いがけない幸運を掴むかもしれないねと紳士は謎めいたことを言う。
じゃあ私はどう?ととめ子は聞くと、君もだ、君には別の魅力があると紳士はお世辞をいうが、そんな様子を少し離れた席に座っていた新吉はずっとうさん臭げに見つめていた。
とめ子はありがとう!と無邪気に喜ぶが、その時、新吉の態とらしい咳払いが聞こえたので、とめ子は焼き餅を焼いていると気づく。
ところで君聞くがね、1+1は?と紳士がとめ子に聞いて来たので、ま、失礼しちゃうわ、揶揄わないでちょうだいととめ子は笑う。
まあとにかく答えて見たまえ1+1は?と紳士が言うので、2でしょう?ととめ子が答えると、そう、2だね、じゃあ、0に0を加えると?と紳士がまた質問したので、ゼロ!ととめ子が答えると、ところがさにあらず…、いいかね?ここには何もない、ゼロと言いながら右手を出した紳士は、ここにもないゼロ…と左手も出してみせ、ところがこのゼロとゼロをこうプラスすると…と言いながら両手を握り締める。
次の瞬間、紳士が手を開くと2万円入っており、見たまえ、2だと言うので、まあお上手ねととめ子が感心すると、な〜に君、チップにもいろいろの切り方があるんでねと言うので、じゃあ、これ私たちに?ととめ子が言うと、もちろんさ、さ、とっておきたまえとその子ととめ子に1万円ずつ渡す。
すみません、ありがとうとその子が礼をいうと、しかしつまらんねと紳士が言うので、あら、何がつまらないんですの?ととめ子が聞くと、何もかもだ、一切のことが僕にはつまらないのだ!と紳士が言うので、何か起きに触ったようでございますか?とバーテンの野沢が聞くと、ああ、別にそう言うわけじゃないがね、しかし君、一体ここには何があるんだ?酒と女と音楽と踊り、実に君、つまらんじゃないかと紳士はいう。
では何をお望みで?と野沢が聞くと、強烈な刺激、思わず全身がゾッとするような刺激!そう言うものは君、ないかね?と紳士は言う。
その時、ありますよと声をかけたのは、先ほどから様子を見ていた星村で、失礼しました、私、星村周平ですと自己紹介する。
紳士は、僕は川田清三だが、君はここの経営者かね?と聞く。
いや、3階に事務所を借りて興業社を営む傍ら当店の相談役を務めておりますが、いかがです?よろしかったら私の事務所へと星村は誘う。
行けば何か、僕の希望を満たすものがあるかね?と紳士が聞くと、ございますとも、十分スリルをお楽しみになった上、場合によってはお手元の金が…と言うので、いやわかった、程なくお邪魔しようと紳士が答えたので、お待ちしております、おい桜井、失礼のないようにご案内するんだ星村は新吉に命じ、自分はでは…と挨拶し去る。
やがて、バンドでドラムが鳴り響いた時、紳士は新吉と一緒に事務所に向かうが、途中、同じカウンターに座っていた用心棒の阿久津勇吉(稲葉義男)に、コップマジックを披露していく。
それを見送ったとめ子は、チェ、馬鹿馬鹿しい、上等の鴨だったのに、まりちゃん、そろそろした降りようとその子を誘う。
秘密部屋でルーレットを見ていた星村は、そこに紳士がやて来たので、ルーレット大へ誘う。 紳士は物慣れた様子で、札束を直接ナンバープレートに投げる。
トイレに入って、洗面台で先ほど紳士からもらった千円札を広げて見たその子は、その札の裏側に、事件の鍵はこの店にある、身辺に気をつけよと書かれてあったので驚く。
そこにとめ子もやってきて、何さ、どうしたのさ?と聞いて来たので、いえ、別に…、あの〜、あんまり大金なもんですから…と言い訳すると、とめ子も千円札を取り出して眺め、平気よ、そんなこと気にしなくたって、あの男が持って立って、どうせ3階に行けば取れれちゃう金だもんととめ子は言う。 そのルーレットは「黒の13」が出て、そこに札束を投げた紳士がズバリ当たったので、星村は愕然とする。
大量のチップを手にした紳士だが、つまらんと吐き捨てて帰ろうとするので、星村が呼び止めると、おい、星村君、スリルも何もあったもんじゃない、悪いが今日はやめるよと言うので、お帰りになる?と星村が聞くと、私の良い時に出直してくると言い残し帰ってしまう。
青田や須田、荒尾重吉(河野秋武)らと共に応接室で待っていた新吉が、いかがでしたか?と聞くと、勝ったよ、これだけ…と札束を見せた紳士は、桜井君、僕は君が気に入ったね、今夜の僕の後の時間を差し上げようというので、奢ってくださるんで?と新基地がのりきになると、イエスだ、よかったら僕の車で、どこへなりとお供しようかと紳士はいう。
ちょっと考えた新吉は、それじゃあ箱根と言い出したので、箱根?と紳士は驚く。
遠野沢に素晴らしいサービスのホテルがあるんですがねと新吉がすすめると、OK!出かけよう!と紳士は乗り気になる。
それを見た菅田が、隣室にいた星村にどうします?と聞くと、馬鹿野郎、わかりきったことを聞くな、勘付かれないように裏から出ろ!と命じる。 青田、須田、荒尾の3人は車で先回りをして待ち受ける。
一方、新基地を助手席に乗せて車を走らせていた紳士は、無粋なことを聞くようだが、君には兄弟があるのかね?と聞く。
姉が1人いましたがね、散々身を持ち崩した挙句、最近とうとう死にましたよと新吉が打ち明けると、何?死んだ…と紳士が驚くと、旦那がお読みになったか知りませんが、一昨日の新聞に出ていましたよ、夜の女射殺さるってねと新吉が言うと、ああ、あれかい、あれは殺人じゃないかと紳士は言う。
そう、殺されたんですと新吉が答えると、暴力団の争いに巻き込まれたってことだが、犯人の目星はつかないのかねと紳士は聞く。
残念ながら今んところはね、つけばすぐに訴えて出ますよと新吉は言う。
そりゃそうだが、君は姉さんを愛していたのかね?と紳士は聞くと、とは言い切れませんが、もうこの世にいないと思うとやっぱりなんとなく寂しいですよと新吉は打ち明ける。
いや、わかるよ、僕も去年の暮れに姉を死なせたんだと紳士は言い出すと、まあ旦那、そんな湿っぽい話はよしておくんなさい、俺は今夜何もかも忘れたいんだと新吉は遮る。
そうかい、じゃあぶっ飛ばそうと答えた紳士はアクセルを踏む。
その時、ふらりと人影が道の中央部に歩き出たので、危ない!と新吉が注意すると、紳士は思わずブレーキをかける。
道に出て来た男は車の前で倒れたように見えたので、チェ、飛んだことになりやがったな、お陀仏になってなけりゃ良いが…とぼやきながら新吉が車の外に出ようとすると、やめたまえ!と紳士は制止する。
覆面の賊が車に近付いていることに気づいたからだ。
新吉は、突如紳士が拳銃を向けて来たので驚く。 車の前で立ち上がった男や脇道から車に近づいていた覆面男たちも予想外の事態に驚く。
命が惜しかったら、桜井君、仲間に手を引くように」合図したまえ、僕もやばい世渡りをする男だ、もしパトロールにでも引っ掛かったらお互い不利益だ、早くしたまえ!と紳士は言う。
やむなく、新吉が車の前に立っていた荒尾に退くように合図すると、荒尾は身を避けたので、紳士の車はそのまま走り去ってしまう。
しばらく走った後、車を停めた紳士は、ラジオのスイッチを押して音楽を流すと一服し、どうだね桜井君、上には上があることがわかったかね?と聞くので、あんたは一体誰なんだ?と新吉が怯えると、香港帰りの紳士川田清三、正しく言えば、張子銘の片腕と呼ばれる男だよと紳士は言う。
張子銘!と新吉が驚くと、と言ったところで、戦後派の君にわかるめえがねえ、「ニューモナコ」の付近一体は元南京町だった、そこに20数年間君臨してチャイナタウンの夜の帝王と呼ばれたのが張子明大人だと紳士は説明する。
その人は今どこに?と新吉が聞くと、僕と一緒に来朝して、もっか浜ホテルの33号室に滞在中だ、ある重大な問題でねと紳士は打ち明ける。
重大な問題と言いますと?と新吉が聞くと、それだがね…、君もこのままでは帰れまい、場合によっては3000万円になる土産を差し上げようと紳士が言うので、え?と新吉は驚くが、この詳細は張大人から直々に聞くことだね、君帰って星村君に、明日浜ホテルに尋ねるように言いたまえ、商談が成立すれば、君には別に一割のリベートを払うよと紳士は言う。
新吉は、承知しました、必ず伝えましょうと答え、車を降りる。 事務所に戻った新吉から事情を聞いた星村は、うん?3000万円なら夢みたいな話だが、しかしおいそれとは乗れねえなと警戒する。
じゃあ、浜ホテルにはお出かけにならねえんで?と新吉が聞くと、行くには行くがな、その前に相手の身元…と星川が話しかけた時、宗の親父を連れて来ましたと青戸が部屋に案内して来たので、おお、ご苦労さん、委細は聞いてくれたか?と星村は宗老人(花澤徳衛)に尋ねる。
ええ聞きました、張大人の話本当ですよ、張大人、この辺のボスでしたと宗老人は教える。
日本の奥さん持って、日本の言葉もペラペラ、とても偉い人ですと言う。 財産はどうだね?しこたま持ってるって話だが?と星村が聞くと、はい、あります、これ私香港から取り寄せているあちらの新聞、これ金持ち番付張さんの名前出ています、これ日本円にして9億7000万円!と宗老人が言うので、その新聞をじっくり見た星村は、うん、いや、ありがとう、ま、とにかく会ってみよう、おい須田!と言いながら、小銭をテーブルに出したので、それを受け取った宗老人はシェイシェイと喜ぶ。
星村と須田は、車で「HAMA HOTEL」にやってくる。 星村はポーターを呼び止めると33号室は?と聞くと、お2階でございますと教えられる。
33号室の前に来た星村がノックすると、中からどなたじゃ?と声が聞こえたので、川田清三さんからご紹介に預かりました星村周平ですが?と答えると、入んなさいと中から答えがある。
部屋に入ると、新聞を読んでいた人物がいたので、私、星村ですが?と再び自己紹介すると、かけなさいと相手はいう。
星村が椅子に座ると、張子銘(片岡千恵蔵)は、川田の話では、あんたは元の南京町のあたりで相当の顔役だそうじゃな?と話しかけてくる。
星村は、づいたしまして、当時のあなたの御声望に比べれば…と謙遜して見せると、いや、その話はやめましょうと張は制すると、この新聞にあるように、現在の私は香港で…というので、存じておりますと星村も話を合わせる。
実は先ほど、これと同じ新聞を…と星村がいうと、ほお、あんたはなかなか用心深い…と張がいうと、あ、いえいえそういう意味で調査したわけでは…と星村が言いかけたので、弁解よろし、あんたはこの方を扱っているのかな?と張は何かのケースを差し出して聞く。
なんでございますと受け取りながら星村が聞くと、ヘロインじゃよと張は答える。
容器を開けると、確かにビニール袋に包まれた小袋が入っていた。
それでは御商談というのは?と星村が聞くと、いや、違う、わしがあんたにお願いしたいというのはな、この男のことじゃよと張は一枚の写真を見せ、これはわしと日本人の妻との中にできたたった1人の息子じゃが、わしはこれに人並みの幸せを与えてやりたいのじゃよと張は言う。
人並みの幸せとおっしゃいますと?と星村が聞くと、これの30年の人生は文字通り灰色のものじゃったよ、わしはその孤独を救うてやるために自国の古い慣わしに従って、第一、第二、第三の嫁を迎えてやr隊のじゃと張は打ち明ける。
ですが、それなら香港で…と星村が言い返すと、言われるまでもなくやってみたと張は言う。
しかし、日本人の血の半分は日本人じゃからな…、どうしても首を縦に振りおらん…と張はこだわる。
よってはるばるやって来たんじゃが、どうじゃ星村君、その昔、チャイナタウンの帝王のために力を貸してくださらんかな?と張は依頼する。
ちょっと迷った星村だったが、いや、よろしゅうございます、しかし条件は?と聞くと、総計3000万円じゃと張が答えたので、3000万円!と星村は驚くが、そう…、もっともそのうちの2000万円は、ノーじゃ、これは宝石じゃ…と箱をもたげて蓋を開いてみせた張は、これは雲南の翡翠じゃが記念のために1つ差し上げようというので、はあ、恐れ入りますと受け取った星村が、ところでそちらの条件は?と聞くと、あると張がいうので、ではまず持ってそれを…と星村は尋ねる
第一夫人じゃが、あくまでも良家の子女でなくてはならんと張が言うので、第二は?と町村が聞くと、男心を知りながら尚且つ純潔を失わぬ女…と張は答える。
第三と星村が聞くと、あばずれじゃよと張が答えたので、星村は、えっ!と驚く。
そう言う女も選んでやらんとあれの青春の埋め合わせはつかんでなと張はいう。
星村は、よくわかりました、早速手配して何分のご返事をいたしましょうと答えると、頼む、息子は2〜3日のうちに自分のヨットで来日することになっておる、それまでにな…と張は依頼したので、星村は、はいと答え立ち上がる。
夜の「星村」邸 須田と青戸に囲まれ、こんばんはとやって来たのはとめ子だったが、ご苦労!と出迎えた星村は、新には内緒だろうなと確認すると、とめ子はええと答える。
まあ、かけなと椅子をすすめた星村は、じゃあ、早速要件を話すが、お前、玉の輿に乗りかきゃねえかい?と聞く。
玉の輿ですて!ととめ子が聞くと、そうさ、お前がその気なら香港の大金持ちの第三夫人になれるかもしれないと星村は持ちかける。
だけど、新ちゃんが…ととめ子そのことならまかしときな、俺がいいように話をつけるよと星村はいう。
ボスは、おめえの行く末を考えてわざわざメンバーに加えたんだぜと青戸も勧め、どうだい、ざっくばらんにお受けしちゃ?と須田も言葉をかけてくる。
ええ、良いわ、どうせボスに逆らったらタダでは済まないんですもんととめ子は諦めたように答えたので、笑った星村は、さすがとめ子、話が早くて何よりだと喜ぶ。
それじゃあ、早速、お前がこれと思う10人ばかりの女を集めてくれと星村は指示したので、ええ!10人?ととめ子は驚く。
後日、張のホテルを再訪した星村は、10人の女の写真を差し出し、どうぞお調べください、いかがです?お気に入った女がございますか?と尋ねる。
すると張は、いかにもあったと言うので、これとこれじゃと写真を二枚取り出すと、これが第三夫人ととめ子を選ぶと、これが第二夫人じゃとその子の写真を指差す。
しかし、これだけでは商談がまとまらん、肝心の第一夫人の候補者がなくてなと張が言うので、いや、それもございますと言いながら、星村は嬉しそうに内ポケットから新たな写真を取り出して見せる。
何ある?と腸が驚きながらも出された写真を見ると、それは誘拐されたきみ子の写真だった。 ああ、なかなかの気品じゃが、家柄はどうじゃな?と張が聞くと、事情があって総裁はもうされませんが、この都市でも有数の旧家の娘ですと星村は答える。
よろしい…、ただし、この商談は息子の意見を聞いてから決めたいなと張は言う。
いや、その息子さんはいつ?と星村が聞くと、明日じゃよ、遅くとも夜までにはこの港に着くはずじゃと張は言う。
では明晩、私の自宅でトイ弾きを済ませ、すぐにヨットで香港に…と星村が提案すると、偉い!あんたの知恵はわし以上じゃよと張は笑って褒める。
息子が到着次第、1000万の現金と2000万の宝石を持たせて、あんたのお宅へ伺せましょうと張は計画を話す。
は、ではそう言うことに…、念を押すようですが、張大人、約束を反古にはなさらんでしょうな?と星村が聞くと、それはわしがあんたに言いたい言葉じゃ、わしの可愛い息子に失望させるようなことがあると、わしはタダでは済ましませんぞと張は言い返してくる。
その希薄に押された星村は、申し訳ありません、どうかお許し願いたいと頭を下げ、では…と言って帰って行く。 その直後、張はきみ子の写真を改めて見る。
その夜、捜査第一課の合同捜査本部にやってきた多羅尾伴内は、あ、多羅尾さん、こんな夜中に何用ですか?と聞く。
他でもありませんがな、松川溝部両警官の殉職と、馬場きみ子の誘拐事件は、共に近く解決の目処がつきましたよと伴内が言うので、刑事たちは驚く。
もっとも、これにはまだ数多くの冒険が必要でしょうがな、ちょっと電話拝借しますと伴内が言うので、どうぞと勧める。
伴内が電話したのは馬場家で、電話に出た女中が、もしもし、は、左様でございます、は、しばらくお待ちくださいましと応答すると、多羅尾様からでございますと馬場不二子に伝える。
もしもし、私不二子でございますと受話器を受け取って答えると、あ、奥さんですか、実はきみ子さんのことで、明日正午に、清島さんのお宅でお目にかかりたいのですが?と伴内は申し出る。
よろしゅうございます、明日の正午ですね?承知しましたと不二子は答える。
翌日、早稲田大学から出発した車が馬場邸に到着する。
山岡と自宅で待機していた清島が、おいでになったようだと声をかける。
不二子が入って来たので、山岡がいらっしゃいませと出迎え、清島もいらっしゃいと挨拶する。
不二子が多羅尾さんは?と聞くと、先ほど電話がありましたから、程なくお見えになるでしょうと清島は答える。
その言葉通り、「清島邸」にやってきた伴内は、家の前を通り過ぎた車に目を留める。
山岡が、ご苦労様です、どうぞこちらへと部屋の中に伴内を案内する。
待っていた不二子がその節は…と頭を下げて来たので、失礼しますと伴内もお辞儀をする。
清島が、さ、どうぞ、お掛けくださいと声をかける。
あの…、早速ですが、きみ子のことについて何か?と不二子が切り出したので、その件ですがな、きみ子さんはもうこの世にはいないのではないかという疑いが生じたのですよ、いや、今のところまだ詳細は申し上げれませんがな、実は昨晩、宮下の故郷の長野県で若い女の首なし死体が発見されたのですと伴内は答える。
ではあなたは、きみ子さんが宮下のために殺害されたと?と清島が聞くと、断定はしません…、が、しかし、その後、脅迫の電話も手紙もなく、きみ子さんと宮下の消息が全く不明とすれば‥と伴内は指摘する。
それを聞いた不二子は失神しかけたので清島が慌てて支え、山岡も助けに来る。
大丈夫ですと答えた不二子は、それよりきみ子のこと…と聞いてくるが、伴内はしっ!と制止すると、庭先に様子を見に行くが、男が慌てて逃げ去ってゆく。
どうなさいました?と清島が近づいてくると、いや、手前の神経でしたよ、さような次第でしてな、いずれ後は当局が解決することになりましょうと伴内は答える。
ではあなたは、今日限り手をお引きになさいますのと尋ねてくる。 いやいや、そう言うわけではありませんがな、手前のようなへっぽこ探偵ではもはや手が…と伴内が答えると、「モナコ」「ニューモナコ」はどうなったんです?あの店から何か手掛かりが…と不二子が追求して来たので、掴めると思ったのはとんだ手前の錯覚でしてな、もはやあの店に宮下は姿を表すことは永久にありますまい…、とすれば「モナコ」は単なる男の歓楽場ですよと伴内は苦笑する。
「ニューモナコ」にやって来たとめ子は、新吉が出かけようと店を出たところで出会ったので、あら、新ちゃん、どこ行くの?と聞くと、ボスから電話があってよ、浜を見張りに出かけるんだよという。
浜を?ととめ子が聞くと、おめえはしるめえが、実は今夜」香港から自家用のヨットでせむしのサンタクロース様がお見えなんだよ、うまくいったら俺にもまとまった金が入る、これまでのような苦労はかけねえよと言って出かけようとしたので、待って!と呼び止める。
何だい?と新吉が立ち止まって振り返ると、ううん、何でもないの、場合が場合だから気をつけてねととめ子が笑顔で送り出すと、わかってるよ、待ってなと答え新吉は去って行く。
1人後に残ったとめ子は、仕方ないわ、私1人じゃどうしようもないんだもんと自分に言い聞かせる。 須田が運転し、星村が乗った車が到着する。
とめ子は店に出てきたその子に、まりちゃん、待ってたのよ、さあ行きましょうと声をかける。 どこへ?とその子が不思議がると、桃源閣よととめ子が言うので、桃源閣?ととめ子は戸惑うと、そこでこの間の手品使いのお客さんが待ってるのよ、あんたと私に美味しいものご馳走してくれるってととめ子は嘘を言う。
でも…と店の方を気にするその子に、良いのよ、マネージャーには私が断ってあるから、帰りにあの人をお店に連れてくるってね、だから大丈夫、行きましょうととめ子は誘う。
一方、車の運転席で待機していた須田は、さあ来るでしょうかね?と後部座席の星村に聞く。
来るとも、ドジを踏むようなとめ子じゃねえよ、お、論より証拠、あれを見な!と前方を指さすと、そのこと連れ立って歩くとめ子が見えたので、車を横付けして、どこ行くんだね?と星村が聞く。
事情を知っているとめ子が桃源閣ですの、そこでこないだの手品使いのお客さんが待ってるんですと教えると、ああそうかい、じゃあ送ってあげるよと星村ラがドアを開けたので、よろしいんですか?ととめ子は聞く。
ああ、良いとも、ちょうど僕も桃源閣の近くに所用があるんだと星村は答える。
じゃあ、まりちゃん、せっかくだから載せていただこうよととめ子が刺そうと、その子も、はいと答える。
車に乗り込んだそのこは警戒するが、星村が、まり君とか言ったね?と聞いて来たのではいと答えると、本名はと聞かれたので、溝川京子ですと咄嗟に嘘をつく。
溝川京子だって?と星村が聞き返すと、はいと言うので、そうかい、僕はまた松川その子かと思ったがねと星村が指摘したので、その子が仰天する。
君は知るまいが、僕は松川さんの告別式で変名で参加したんだ、そしたら遺族席に君とそっくりの…と星村が言うので、違います、私はそんな!とその子は必死に否定する。
まあ弁解はやめたまえ、そんな過去は今となっちゃどうだって良いことなんだ、問題はこれからの君の運命だよ、いや、言っとくが松川君、今度君が目を覚ました時は、東シナ海にょっとの中かもしれないよというと、星村はいきなり麻酔薬の染みたハンカチをその子の口元に押し付けてくる。
須田の運転する星村の車は、清島邸の前を通り過ぎ、星村の自宅に到着する。
玄関先には阿久津が見張っており、屋敷の中で待っていた青戸と荒尾が星村を出迎えると、どうでした?と首尾を聞いてくる。
上々だよと星村は答える。
その背後から子分2人に抱えられて運ばれてきたその子は、地下室に監禁されていたきみ子の元に連れて来られる。
先頭をやって来た菅田は、ソファに横たえられたそのこのことを、君の相棒だ、目を覚ましたら親切にしてやんなときみ子に紹介する。
その星村邸の電話が鳴ったので、受話器を取ったとめ子は、はい、どなた?え!新ちゃん!と驚く。 何?新だって?と星村が近づいてくる。
ええと答えたとめ子が受話器を渡すと、ああ、俺だ、星村だ、ヨットは見つかったかと聞くと、それなんですがね、香港から来たヨットなんて一隻も見当たりませんぜと新吉は港の赤電話で伝える。
そんなはずはない、確かに入港しているはずだ、もう1度よく調べてみろと星村は命じる。
新吉は承知しましたと答え、赤電話を切るが、とめ子は俺に無断でボスのうちに行っている…、何故だ?と考え込む。
せ⚪︎し男が運転する車が星村邸に近づく。
見張りの阿久津が、誰だ!と近づいた男に誰何すると、張子銘の子、高明ですとせ⚪︎し男は答える。
失礼いたしました、どうぞと言いながら、阿久津は門を開く。
合同捜査本部に来た大沢警部は、多羅尾さんからの連絡はまだかね?と福村警部補に聞くが、福村はまだですと答える。
星村邸でとめ子らと待っていた星村は、阿久津に連れられて部屋に来たせ⚪︎し男を見ると、よくおいでになりました、星村でございますと立ち上がって挨拶すると、私、張高明とせ⚪︎し男も名乗る。
ああ、早速ですが、これが第三夫人候補の川北とめ子ですと紹介するが、当のとめ子は、相手の要望に驚いていた。
テイハオ!柔軟ですとせ⚪︎し男が答えたので、とめ子は失神しそうになりながら椅子に腰を落とす。
あ、それでは後の2人をお目にかけましょう、どうぞと星村は話しかけると、オッケーと答え、せ⚪︎し男は子分たちと星村の後を追う。
その頃、新吉はタクシーで星村邸に急いでいた。
地下室に幽閉されていたきみ子が、星村がせ⚪︎し男を連れて来たので怯える。
こちらが第一夫人候補ときみ子を指した星村は、こちらが第二夫人候補とソファで気絶していたその子を指し示す。
せ⚪︎し男は、もし!どうしました?どうしました!と気絶していたその子に呼びかける。
その時、やめたまえと声をかけた星村の手には拳銃が握られていた。
え?それ何の真似です?とせ⚪︎し男が問いかけると、君の化けの皮を剥ぐんだよと星村はいう。
化けの皮?とせ⚪︎し男が聞き返すと、見張りが調査した結果によると、香港から来たヨットは港内のどこにも停泊していないそうだ、君はこの事実をどう説明するんだね?と星村は攻める。
すると急に笑い出したせ⚪︎し男は、そのようなことを問題視するあなたは犯罪者として藤四郎ですねと指摘したので、何だって!と星村は気色ばむ。
ハイクラスの犯罪者は常に法律の枠内にいなければならない、これ古今の鉄則です。
その意味において私のヨットは横須賀の沖合に停泊しています、お疑いならどうぞお調べくださいとせ⚪︎し男は答える。
よし分かった、このカバンを開けたまえと銃を構えたまま星村は命じる。
君のお父さんが約束したように、この中に1000万円の現金と2000万円相当の宝石類が入っておればことは簡単だ、すぐに取引はするよと星村は言う。
せ⚪︎し男は、わかりました、お目にかけましょうと答えると、ジッパーを開き、見たまえと言いながら、中から拳銃を取り出して星村に向ける。
ちくしょう!と言いながら星村は銃を向けようとするが、すぐにせ⚪︎し男の銃弾に拳銃を弾き落とされてしまう。
星村さん、よく見破りましたねと言いながら立ち上がったせ⚪︎し男は、いかにもこのトランクの中には古新聞と偽の宝石だけですよと打ち明け、分かったら皆さん、向こうを向きなさいと命じる。
きみ子さん、松川君を早く正気に…と指示したせ⚪︎し男は、歩きたまえ!上に行くんだと他の男連中に命令する。
きみ子は、ソファーで失神しているその子を、松川さん!松川さん!しっかりして!と揺り起こし始める。
1階に戻ってきた星村たちと、その背後から銃を突きつけているせ⚪︎し男が通り過ぎた後、ドアを開けて姿を見せた宮下は、また扉を閉めてしまう。
そんな星村邸に、新吉もタクシーで乗り付けていた。
応接ルームのある1階に戻って来たせ⚪︎し男は、そこにかけたまえ、真相が解明されるまでは後数分あると指示する。
貴様、誰だ!と星村が聞くと、含み笑いを始めたせ⚪︎し男は、七つの顔の男ですよと答える。
ある時は多羅尾伴内、ある時は片目の運転手、ある時は香港丸の船員、またある時は手品好きのキザな紳士、ある時は中国の大富豪、またある時はせ⚪︎しの男、しかしてその実態は!と言いながらせ⚪︎し男が変装をとくと、正義と真実の人、藤村大造だ!と名乗り二丁拳銃になる。
そこに、正気を取り戻したその子を連れたきみ子がやってくる。
さて、事件の解明だが、君たちがある目的のために馬場きみ子を誘拐し、その帰り道に図らずも非常警戒にかかっていた松川、溝部両警官を射殺したと大造は言う。
そしてこの事件を偽装するために、車を鎌倉に持って行って乗り捨てた、その役目を務めたのは、須田君。君だねと大造は指摘する。
ところが偽のナンバープレートを使ったために、僕に手がかりを掴まれ、ために一味の宮下は行方不明…、同じ仲間の田島は君たちに殺されたんだと大造は解明する。 そこに入ってきたのが新吉だった。
…所へ現れたのが香港丸の船員、すなわち第三の男…、その船員が桜井兄弟を突いて、君たちに拳銃を売り込んだ、星村君!君は危険を感じ、その晩僕たちを消そうとした、だがミチ君は無惨な死を遂げたわけだが、さらに君は君は僕のトリックに引っかかり、新吉君の恋人を無断で香港に売り飛ばそうとした!全く見上げた親分だねと大造が皮肉る、新吉は驚いて部屋の中に入ってくる。
たった以上がこの事件の表に現れたあらましだが、いや、事件の核心に触れるかな…と大造は言い出すと、次の部屋でえ耳を澄ましている諸君!君たちの出番だ、出てきたまえと呼びかけるが、ドアが動かないので、拳銃を数発撃ち込み、出るんだ!と大造はどなる。
おずおずと1人の男が出てくると、君だけじゃないはずだ、後の者も出るんだ、出ろ!と大造は指摘する。
出てきたのは山岡、清島、そして馬場不二子の3人だった。 これには馬場きみ子は愕然とする。
これはお揃いで…と、どうやら星村邸と清島家の間には、秘密の通路があるようですなと大造は看破する。
不二子さん、あなたがあの晩「モナコ」の2階に行かれたのは、きみ子さんの身代金を手渡すためではなく、星村の一味と打ち合わせをするためであった…、そう解釈してもよろしいでしょうかな?と大造は聞くと、不二子は項垂れる。
次は清島君、僕の調査したところでは、君が不二子さんと不倫関係を持ったのが3年前、それ以来君はこの山岡と共謀して会社の金ほぼ5000万円をほぼ横領して、それを星村興業社に注ぎ込んでいた…ということになるんだが、僕の推定に依存があるかね?と大造は聞く。
清島は何か言おうと口を開けかけたが何も言えなかった。
きみ子さん、あなたはそれに疑いをかけ、真相を確かめるために…と大造が聞くと、そう…、そうなんです、あんまりお父様がお可哀想でしたからときみ子は答える。
ところが相手はあなたの目的を見破っていた、そこであの誘拐事件が発生し、続いて連続殺人事件も起きたのですと大造は説明する。
星村君、おり行って君に尋ねるが、最後の1人宮下源吉はどこにいるね?と大造が聞くと、ここや!ここにいるで!と言いながら猟銃を持った宮下が姿を見せる。
このやろう、こうなりゃ生かしておかねえと銃を構えようとしたので、大造は打ち返す。
それをきっかけに、星村の子分たちも発砲し始めたので、大造は応戦し始める。
その子、きみ子らと共に、奥の部屋に逃げ込んだ大造だったが、その部屋のガラス戸めがけて星村の子分たちは容赦なく発砲してくる。
ガラス戸はたちまち粉々に砕け散る。
奥の部屋の壁の裏側に身を潜める大造ときみ子、その子たち。
そのガラス戸に近づこうとする子分たちを、割れたガラス越しに1人ずつ撃ち殺していく大造。
青戸が、花瓶を窓ガラスにぶつけてさらにガラスが大きく割れてしまう。
大造たちがさらに奥の部屋に逃げ込むと、星村たちは、割れたガラス戸を押し開け隣室に雪崩れ込んでくる。
大造たちを追って、元の階段下の桜雪ルームに戻ってきた星村たちの前に立ちはだかったのは、銃を持った新吉だったので、新吉、退け!と星村は命じるが、いやだねと新吉が拒否したので、てめえ、裏切りやがったなと星村は叫ぶ。
何を言いやがる、裏切ったのはそっちじゃねえか、俺は何もかも知っているぜと新吉は言い放つ。
許して!私は何も…と言いながら、とめ子が新基地に近づこうとしたので、うるせえ!と言いながらとめ子を射殺する新吉だったが、すぐに星村の子分たちから撃たれ、蜂の巣になってしまう。
新吉が倒れた後、星村たちは逃げた大造らを追ってゆく。
外に出た大造は、きみ子とその子に、清島邸の方に出ていってくださいと呼びかけ、2人が走り去ると、銃弾を詰め替える。
そして木陰に隠れた大造は追ってきた子分たちを倒していく。
きみ子たちは、近くにあった公衆電話に入ると警察に連絡をする。 星村邸では、照明が撃たれて一部暗くなる。
迫り来る大蔵の発砲で、1人また1人と撃たれていく。 その間に大造はまた銃の弾を込めていた。
発砲していた阿久津が撃たれ、パトカーが星村邸に接近してくる。
山岡、清島、不二子たちも星村と一緒に屋敷の奥に逃げていた。
応戦していた須田も撃たれ、青戸も撃たれ、傷を負いながらも発砲していた宮下も撃たれ、山岡も撃たれる。
近づいてきた大造を売った須田が撃たれ、星村と共に逃げようとした荒尾も撃たれ、とうとう泰造に追い詰められる星村だったが、そこにパトカーのサイレン音が近づく。
窮地に立たされた星村は床に落ちていた銃を拾って撃ってくるが、大蔵の銃弾に倒れかけ、最後の力を振り絞ってまた撃とうとするが、その銃を泰造に撃ち落とされる。
石田捜査課長らが屋敷に潜入すると、不二子、清島、山岡は秘密の通路を使って清島邸の方へ逃げる。
清島邸の玄関から外へ逃げようとした不二子や清島らは、そこに待ち受けていた大沢警部や福村警部補率いる警官たちに呆気なく逮捕されてしまう
星村も、駆けつけた石田捜査課長に捕まり、観念したまえと命じられる。
きみ子とその子は、清島邸から星村邸へ駆け戻るが、藤村大造は車に乗って立ち去るところだった。
藤村さ〜ん!とその子が呼びかけ、きみ子も待って〜!と声をかけるが、そばの電柱に張り紙が貼ってあり、そこに「男ひとり夜の帳に消えゆきます、一粒の麦撒かれたり、一粒の麦撒かれずば人の世に光はあらざるべし」と書かれてあった。
それをその子が読み上げ、またきみ子と2人で後を追おうとするが、もう藤村の車は夜の坂道を遠ざかっていくだけだった。
藤村大造の横顔… 藤村さん!とその子が呼びかけると、きみ子も、藤村さん!と呼ぶ。
藤村はちょっと振り返る様子を見せる。
遠ざかってゆく車を見送るきみ子とその子の映像に「終」の文字
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