「旗本退屈男 謎の暗殺隊」
お馴染みの「旗本退屈男シリーズ」だが、今回は冒頭から、将軍の命を狙う祈祷師と、助けようとする祈祷師の呪術合戦という異様な光景から始まる。
さらに城から脱出する忍者の軽技めいたアクションなど、出だしから見どころ満載. 娯楽映画の見本のように、次々にアイデアが盛り込まれ、キャラクターもたくさん登場する。
忍者ブームが起きたのは、山田風太郎「甲賀忍法帖」(1959)、横山光輝「伊賀の影丸」(1961)や大映の「忍びの者」(1962)、テレビの「隠密剣士」(1962〜1965)辺りからだったような気がするが、本作もちょうど同時期の作品で、忍者との戦いがメインになっているので、そう言った忍者ブームの火付け役の一つだったのかもしれない。
アクロバチックなアクションとトリック撮影を巧みに使い、忍者との戦いは今見ても面白く、よくできているのだが、劇中の設定では「夜が明けると忍術が使えない」ようで、魔法や幻術扱いになっている模様。
その忍者といえば、デビュー当時の「東映娯楽版」から縁が深い里見浩太朗さんが、まさに美貌の絶頂期ともいうべき美剣士ぶりを見せてくれる。
また「屋台崩し」を用いた大掛かりな仕掛けも用意されており、大人も子供も楽しめる見せ物要素満載の大娯楽巨編になっている。
この屋台崩しのシーン、昔見たことがあるような気がするので、テレビでの放送があったのかもしれない。
用人の可内(「べくない」と言っているように聞こえる)を演じているのは進藤英太郎さんで、入れ歯を外した好々爺風の容貌で、ユーモラスなキャラクターを巧みに演じている。
河野秋武さんも、気難しそうないつものイメージとは打って変わり、コメディリリーフっぽい役を演じているのも珍しい。
普段悪役イメージの薄田研二さんも、本作では珍しく善人キャラを演じている。
この時期の月形龍之介さんは、水戸黄門や大久保彦左衛門のように善玉ヒーローを演じることも多かったが、本作では悪役を演じている。
本作では山形勲さんなど、悪役が珍しくないキャストも多いが、山村聡さん演じるキャラの正体は最後まで見抜きにくいのが興味深い。
【以下、ストーリー】
1960年、東映、佐々木味津三原作、結束信二脚色、松田定次監督作品 扇を背景にタイトル
スタッフ・キャストロール
お堀に映る夜の江戸城 城中に怪しき黒雲がかかり、庭も部屋も暗くなって行く。
秋元但馬守(北龍二)、土屋相模守(明石潮)、阿部豊後守(宇佐美淳也)がいた部屋の蝋燭も消えかかる。
寝所では、将軍徳川綱吉(黒川弥太郎)が苦しむ中、某所では、「怨敵強伏 徳川綱吉」と書かれたお札を前に皎雲斎(山形勲)の呪術が行われていた。
寝所の綱吉は起き上がり、枕元の刀を掴むと、家臣が止めるのも振り払い、空中に向かって刃を振り回したので、その狂態を目撃した但馬守や豊後守は驚愕する。 上様!と家臣たちが駆け寄る中、豊後守は、昨夜と少しも変わらん…、恐ろしき呪いじゃ…と呟くと、阿部清賢はいかがいたした!と茶坊主たちに聞く。
茶坊主は、はい、祈祷を!と答える。
その阿部清賢(香川良介)は、「怨霊退散将軍綱吉加護祈祷」と書かれたお札を前に、祈祷を続けていた。
皎雲斎は、獣の血を集めた壺を魔像にぶつける。 綱吉の狂乱はますます激しくなる。
しかしやがて、綱吉は何かが切れたようにその場に倒れ、阿部清賢のそばに駆けつけた但馬守、相模守、豊後守の3人の前で、清賢は、悪霊退散…と呟く。
見ると、祈祷の炎の中から白いモヤのようなものが移動し始めたので、怪しんで豊後守ら3人がそのもやを追うと、綱吉の寝所の床下に消えたので、中を見ると忍者が潜んでいたので、豊後守は小柄を投げつける。
すると忍者は体を交わしその場から逃げ去ったので、豊後守らは、曲者じゃ!出会え!と声をあげる。
その声に気づいた警護の侍たちが駆けつける。 忍者がいた床下を調べた豊後守は、そこの床柱に、「将軍綱吉 43才」と書かれた藁人形が釘刺しになっているのに気づく。
一方、外に加勢に来た家臣たちは、逃げる曲者を見つけ、発砲するが、忍者は巧みにトンボを切って城外に脱出してしまう。
外米にゃねから一気に堀を飛び越えた忍者だったが、待て!と呼ばれたので、さらにトンボを切って逃げようとするが、迫ってきた早乙女主水之介(市川右太衛門)と組み合う方珍事なる。
主水之介が忍者を捕まえ、その顔を確認しようとすると、いち早く忍者は舌を噛み切って事切れる。
そこに、殿!と呼びかけながら近づいてきたのは可内(進藤英太郎)だった。
こいつめ、せっかく網に引っかかったと思ったら死によって…と、可内は死んだ忍者を見て嘆く。
しかし主水之介は、そろそろ退屈の虫が鳴き出したぞと言うので、え!何と鳴き出しました?と可内は聞く。
そも時、人の気配に気づいた主水之介が振り返ると、木の陰にくノ一らしき姿が一瞬見える。
阿部清賢の元に舞い戻った豊後守ら三人が、清賢!いかが致した?わかったか?と問いかけると、陰陽の道によって感ずるところ、上様を呪うものは江戸城御本丸より坤の方向90里…と清賢が答えたので、では、尾張ではないか!と但馬守が指摘する。
尾張!と相模守も驚くが、上様のお耳に表立てて申し上げるわけにもいかぬ…、と言って、明日にでも御目通りいたそうと豊後守が提案する。
しかし翌日、綱吉に謁見した三人は、黙れ、黙れ!なるほど余は毎夜、何者かに呪い、うなされている、だが、いかが致してでも、予定通り、余は自ら300諸大名を京に集めなければならん、畏れ多くも6月10日に京都御所において行われる天使御即位のご祭典に余は征夷大将軍として自ら出席する!それが天下を納める将軍の勤めじゃと綱吉は宣言する。
その方たち、会い集まっていらざる心配をするより、早々に上洛の準備を取り進めい!と綱吉は命じる。 上様がああまで仰られるならば、すべて上様御上洛を前提として考えねばなるまいと豊後守ら三人は話し合う。
しかし仮にも相手は御三家筆頭紀州大納言だぞと相模守が言うと、かねてより身共に含むところもござったゆえ、しばらくお任せください、そんためにもすでに、迎えを出したところでござると豊後守は答える。
迎え?どこへでござる?と相模守が聞くと、旗本八幡旗数ある中に単身良く300諸侯を相手に一歩も遅れを取らぬほどの男…と豊後守は答えたので、早乙女主水之介!と但馬守は気づく。
しかし早馬が駆けつけた主水之介の屋敷の門には、張り紙が貼ってあり、「退屈の虫起こり候、しばらく不在、ご来訪の方々、悪しからず、帰宅の予定亦不明 早乙女主水之介」と書かれてあった。
その頃、旅の途中にあった可内は先を急ぐ主水之介との距離を離され、な、なんという足の速さ…、殿にお仕えして幾星霜、これほど足の速い殿とは…と嘆いていた。
さらに後ろを振り返った可内は、荷物を詰んだ馬が解く遅れていたので、あ、これは又なんと遅いことよ…、殿は先に行ってしまう、荷物はさっぱり進まない、用人の拙者はその中間にあっていたずらにオロオロ…ウロウロ…と嘆く。
するとそこに笑いながら出現した旅人が、全く見ちゃいられませんよと言葉をかけてきたので、そうなんだ…と返事した可内だったが、黙れ!、何だ、失礼千万な!何だ、お前は?と逆に問いただす。
職人ですよと相手が答えたので、何、職人?職人などには用はない、しっし…と可内が追い払おうとするので、でも殿様の足は早いですね~と職人ことつばくろの三次(河野秋武)は言い返す。
可内は、早いが、お前なんかの知ったことではないと叱りつける。
するとそこに、又見知らぬ鳥追い姿の女が、御用人様、何怒ってるんです?と聞いてくる。
何だ、お前は?と可内が聞くと、一曲聞いてくださる?とその女むささびのおしま(花柳小菊)は尋ねてくる。
鳥追いなどに用はないわ、みんなわしを揶揄って!一体とのはどこまで行かれたのじゃと可内はおしまを振り払って先を急ぐ。
すると、草むらにしゃがんで川を眺めていた娘が振りかえり、あの~、失礼ですが稻垣のお殿様じゃございません?と旅姿の娘が聞いてくる。
お前は見たのか?と可内が聞くと、はい、私ずっとここに休んでおりましたもので、もう半刻近くも前ここ…とその娘霧影(三原有美子)が言うので、おお、それは早い、よしよし、お前は良い子じゃ、道中気をつけてお行きと可内は声をかける。
暗くなり、とある寺を訪ねた主水之介は、出てきた住職に、拙者は江戸の早乙女主水之介と申すものだが、拙者を待ち合わせて、尾張から斉藤と申すものが参っておりますはずと申し出ると、おお、お待ちかねじゃ、いっときほど前に来られてな、さ、お上がりなさいと住職は言う。
廊下を進んでいくと、あの客間じゃと住職は教えるので、会釈して1人客間に向かい、斎藤!主水之介じゃと声をかけるが返事がない。
障子を開けると、机に突っ伏している斎藤の背中が見えたので、驚いて近づき、抱き起こすと、斎藤は驚愕の表情で息絶えていた。
主水之介は、斎藤の胸に赤い矢が突き刺さっていることに気づく。
そして注意深く部屋の様子を観察すると、ちょうど斎藤の向かい側に障子窓があるとに気付き、その窓を開けてみる。
暗い裏庭を見ていた主水之介は、何かが部屋の畳に刺さった音に気づいて振り返ると、そこには書状が結ばれたくないが刺さっていた。
書状を読むと、「江戸へ速やかに立ち帰れ、然らざれば汝の生命絶つべし」と脅迫文が書かれていた。
読み終えた瞬間、すぐ近くに赤い矢が射込まれたので、主水之介は小柄を天井裏に向かって投げると、忍びが外に飛び降りる影が見えた。 主水之介はすぐに障子を開けて外の様子を見るが、すでに忍びは消えていた。
しかし廊下には血の跡が残っていたので、その跡をつけようとすると、主水之介、去れ!尾張に忍ばすたての者の姿は明日はその方の姿になるのだ、速やかに手をひけ、然らざれば、呪いの神は将軍綱吉と同じく、汝も呪うぞと脅す声が聞こえてくる。
主水之介は、将軍綱吉と同じか?と声の方に問いかける。
その夜も、江戸城のお堀に城郭が写って揺れる。 寝所の綱吉は又してもうなされて、刀を振り回していた。
阿部清賢の祈祷も行われていたが、それを背後で観察していた豊後守は、清賢の祈祷にも限りがあろう、すでに疲労をコンパイしきっていると指摘すると、相模守も、上様御上洛を知って、早くも本日、二十数藩の大名が江戸表を出発、上洛の届を出しておりますぞと伝える。
このまま上様、御上洛とあれば、諸大名にも知れ渡り、取り返しの付かぬ動揺になりましょうと但馬守も案ずる。
翌日、街道をヨタヨタ1人で進んでいた可内を呼び止めたものがあったので、振り返ると、海が見渡せる展望小屋の中に座っていた主水之介だった。 殿!と可内が呼びかけて側に寄ると、どうだ、遠州灘など一望の内だ、江戸におっては味わえぬ眺めだな、どうした?と主水之介は聞いてくる。
疲れ切って椅子に腰をおろした可内は、まず茶を一杯と申し出る。
茶で喉を潤した可内は、とにかく手前も殿のお供を仕り、旅のお供も数知れませぬが、この度の殿のお足の速いこと、いやはや飛脚の早いのも顔負け、足負け、ほとほと恐れ入りましてございますと大袈裟に嘆くので、主水之介は思わず笑い出してしまう。
可内には気の毒だが、やむを得ん、しかし相手はもっと速い!と主水之介は言う。
相手とはつまり、敵でござるな?その敵は何者でござる?と可内は聞く。
可内、耳を貸せと主水之介が言うので、可内は立ち上がって、自分お口を主水之介の耳に近づけようとするが、慌てるな、お前の耳だと指摘すると、あいすいませんと詫びた可内が耳を近づけると、主水之介が何事かを囁き掛け、可内は、化け物!真でございますか?と驚く。
すると主水之介は、化け物どもよ、どこにでも現れよると教えたので、可内は驚いて周囲を見回し、目下のところ、化け物はおりませんな…と安堵する。
その時、可内は、近づいてきた巡礼の霧影に気づき、嬉しそうに手を振るが、初見の主水之介は、あれは大丈夫かな?と警戒する。
いや、それはお気の使いすぎ、親切な良い巡礼でござるぞと可内は笑顔で答える。
そうかな?と主水之介は怪し夢が、それはもう、手前の目に狂いはござらんと可内は自慢する。 その時、主水之介が飲み干した湯呑みを、通り過ぎたその霧影に投げつけると、霧影はトンボを切って逃げ去ったので、あ、あの女!と可内が驚くと、敵の忍者の1人!と主水之介が指摘したので、ええ!と可内は驚き、後を追おうとする。
行くな!と制した主水之介は、これからも油断致すな!と注意するが、あの女、飛んで逃げながら土産を置いていったと、自分が座っていた縁台にくないが刺さっているのを教える。
それを見た可内も仰天するtが、その時、本当に物騒なことと話しかけてきたのは、鳥追いのおしまだった。
可内は、殿!ご油断めさるな!と言いながら腰の刀に手をかけるが、笑った主水之介は、この女は敵ではない、女スリだと教えたので、スリ!これまた危険千万な!一体誰を信用したら良いのか…と可内は狼狽える。
すると笑いながら、全くわかりませんね~と話しかけてきたのは職人のつばくろの三次だったので、可内は警戒して身を引くが、可内、それも敵ではない、盗人だと主水之介が教える。
スリに盗人!殿はこの両名を…と可内が聞くと、浅草は奥山の盛場で知り合ったわしの家来だと主水之介が教えたので、へ~、殿の家来!と可内は驚愕し、縁台に腰を落とす。
そんな可内も気にせず、見ろ!あの岬の彼方、すでに尾張だと主水之介は海の方を指差して指摘する。
可内も立ち上がり、どれでござる?あ、あれか…と彼方を見て気づく。 ねえ、お殿様、私たち、尾張に行って何するんです?とおしまが聞くと、わからんと主水之介が答えたので、わからん?でも敵は尾張にいるんでしょう?と三次が聞くと、それもわからん、とにかく行ってみなければ…と主水之介が言うので、三次はへえと納得するしかなかった。
主水之介が立ち上がったので、おしのは、御用人様、このの支払いまだでしたねと言いながら財布を取り出すが、それは可内の財布だったので、う~ん…、拙者の!と可内は慌てる。
三次も主水之介が食い残していた饅頭などを勝手につまみ食いしていた。
尾張 早馬に乗った使者が城内に駆けつけ、申し上げますと 島田三五郎(徳大寺伸)がいうので、坂崎民部之助(月形龍之介)は何事じゃ?と聞くが、島田は部屋の中にいる侍たちを気にしたので、下がれと坂崎は命じる。
すると三五郎は、坂崎のそばまでにじりより何事か報告する。
竹内彦四郎(里見浩太朗)が廊下で正座していた脇を通り抜けた坂崎は、 徳川邦宗(山村聡)から、何事じゃと聞かれたので、ただいま知らせがございまして、江戸表より老中麾下のもの、この終わり領内に、密かに逃げ込んだ由にございますと報告したので、何!老中麾下?と邦宗は驚く。
一同の者、よく聞け、上様これより京へ登られるに際し、当尾張はその道中にある、老中をはじめ、世間のことあれと願う痴れ者が、ご本家将軍家と、当尾張の仲をとやかく申しておる時、我が将軍家に二心なき誠意を示す絶好の時ではないか!と邦宗は訴える。
将軍家を迎えるばかりの尾張に、今更なんで老中麾下のものを忍びいらせ探る必要があるのだ?江戸表には余の気持ちがなぜ分からんのだ!と邦宗は不快感をあらわにする。
立ち上がって庭先を指差した邦宗は、見よ、上様をお迎えせんがための館も夜を日に次いで、もう出来上がっているではないかと指摘する。
その館を庭先から眺めていたのは 大橋妥女(薄田研二)だった。 館に近づこうとした時、大橋殿と声をかけるものがあったので、振り返って、おお、彦四郎か、何かあったのか?と大橋は聞く。
はあ、江戸老中手のものが尾張に入ったそうですとと竹内は教える。
江戸より?そうか…と大橋は考え込み、今夜五つまでにみどもの屋敷に参れ、それまでは拙者も屋敷に帰る、この新殿舎増援も今日で終わる、普請奉行として最後の制御をせねばなるまい、良いなと言い聞かす。
竹内は、はい、確かにと承る。 神社に詣でていた弥生(大川恵子)は、門前を通過しかけた竹内に気づくと、彦四郎様!と呼びかけたので、竹内の方も気づいて、弥生殿と答える。
お下がりでございますか?ご苦労様でございますと言いながら弥生が近づいてきたので、弥生殿は何を祈られていたのですか?と竹内が聞くと、今日は父のお役目も上がるはず、無事勤めが終わるようにと…と弥生は答える。
あ、そうでしたね、あ、今夜私はお父上に呼ばれていますと竹内が教えると、今夜?なんのお話でしょう?と弥生は嬉しそうに不思議がる。
さあ…、弥生殿にはわかりませんか?と竹内が聞くと、弥生が恥ずかしがるので、私は弥生殿さえ良かったらお願いしようと思っていると竹内は打ち明ける。
すると弥生は、私も彦四郎様と…と迫ってきたので、弥生殿と竹内も答えようとするが、ちょうどそこに童歌を歌いながら子供達が近づいてきたので、ちょっと歩いて、通り過ぎるのを見計らい、では今夜と竹内が言うと、お待ち申しておりますと弥生は答え、げんまんと言いながら小指を出したので、竹内はその手を優しく握りしめるのだった。
その夜、大橋の屋敷の奥のまでは、弥生がことを弾いていた。
そこに戻ってきた大橋の顔は憂い顔だったが、それに気付かぬ弥生は、お父上様、お帰りなさいませと嬉しそうに挨拶し、楓、楓!と呼ぶが、良いから続けていなさいと大橋は声をかける。
女中の楓(吉田江利子)が着替えを持ってくると、着替えはいらん、このまま奥で調べ物を致すと大橋はいう。
そんな大橋の様子に違和感を感じた弥生は、お顔の色が優れませぬが、どこかお加減が…と言葉をかけるが、いや別に…、心配せんでも良い、あ、後ほど彦四郎が参ったら奥に通すようにと大橋は答える。
はい、存じておりますと弥生が笑顔で答えると、何?知っておる?と大橋が驚いたので、あの…、先ほど八幡様にお参りに参り、お目にかかりましたので…と弥生は恥じらいながら答える。
ああ、双か…、良いな、若いものたちは…と大橋は顔を綻ばす。
弥生は、まあ、お父上様…といい、恥ずかしさで背を向けてしまったので、良い、それで良いのじゃと言い残し、大橋は奥の間に向かう。
その時、お嬢様!わかりました、わかりましたぞと話しかけてきたのは三太夫(渡辺篤)だった。
八幡様からお帰りになったら、急にそのように…、なるほどな…、後ほど彦四郎殿が参られるほどにの〜などと揶揄って来たので、まあ、三太夫ったら!と弥生はつむじを曲げてしまう。
あ、いやいや、何事も拙者にお任せくだされ、御城内の新館に将軍様がお迎えしたならば、殿のご出世間違いなし!少なくとも500石のご加増で、その殿アマはそのまま楽隠居の御引退、お嬢様には婿養子をお迎えになる!そのお相手は後ほど参るほどに拙者が奥へご案内いたしまするぞと、三太夫は、弥生の部屋までついてきて説明する。
知りません、そんな!と弥生が恥じらって背を向けると、突然の雷鳴が聞こえたので、やってまいりましたぞ、今夜はだいぶん荒れそうでございますなと三太夫は言う。
怯えた弥生は、大丈夫かしら、彦四郎様が途中で…などと案じるので、なるほど、ごろごろっと雷がひとつなれば、彦四郎様が濡れやせぬかと…、いやどうも恐れ入りますと三太夫は揶揄うが、その時また雷が鳴ったので頭を抱える。
その頃、山中を歩いていた主水之介一行は、雷鳴に気付き、これは急ぎませんと降り出しますぞと可内が言うので、運と主水之介も答えるが、お宿はかねてより手配をつけております江戸屋、城下に入りましても14〜5町はございますと可内が説明すると、可内、措置は一足先に宿へ真入れと主水之介は指示する。
殿は?と可内が聞くと、尾張の普請奉行は確か、大橋妥女と申したな?と主水之介が逆に聞いてきたので、はい、それがどうかしましたか?と可内は戸惑う。
すると主水之介の表情が引き締まり、どうやら可内、出迎えが来ておるぞと知らせる。
え、出迎え?いや、その大橋とか言う侍からでございますか?と聞き返していると、見知らぬ武士が近づいてきて、早乙女主水之介様御一行でずな?と挨拶してくる。
いかにもさよう、いやあご苦労で…と可内が挨拶し返すと、いきなりその侍は斬り掛かってきたので、主水之介がかわすと、背後から大勢の黒頭巾の一団が出現する。
これ、何を致す、やめなさい!言語道断!と可内は止めようとするが、黒頭巾たちに囲まれてしまう。
名乗れと申してもどうせ無駄とも思えるものどもだな!ただいたずらに地獄へ落ちるのを焦る輩か!というと、主水之介は編笠を投げつけると、可内!そちたちは先に行け!と命じる。
しかし可内は、殿、何を水臭いことを仰られる、たかがこれしきのものと言いながら刀を抜いて立ち向かおうとするが、今はちょっと無理ですと尻込みする。
その時、敵がかかってきたので、雷が鳴る中、主水之介が相手をする。
何人かを斬り倒した主水之介は、可内!無頼の相手に道草食うぞ、この旅は呑気ではないぞと忠告したので、可内も背後で刀を構えながらはいと答える。
その頃、大橋は、雨が降り始めた中、からくり仕掛けの設計図を奥座敷で調べていたが、その部屋に突如、忍者が侵入したので、弥生が、誰かおりませぬか?と声をかける。
その目の前で大木に落雷し、木が裂けるが、その門前に来たのが竹内だった。
横門から邸内に入り、お頼み申します!と声をかけるが返事がない。
屋敷の中に入ると、廊下で三太夫と楓が斬られて死んでいたので、竹内は驚く。 大橋殿!弥生殿!と呼びかけながら竹内は奥へ向かう。
弥生殿!と呼びかけながら奥の間に入った竹内だったが、突然、赤い矢が撃ち込まれ、忍者が潜んでいることに気づいた竹内は、戦わざるを得なくなる。
部屋には2人の忍者がいたが、すぐに障子が開き、さらなる忍者たちが姿を現す。
外では降り頻る雨と雷鳴の中、竹内は忍者軍団と斬り合い、何者だ!名乗れ!と呼びかける。
竹内の刀に忍者の鎖が絡まって身動きできなくなった時、待て!と庭先から声がかかる。
主水之介が登場したのだった。 それに気づいた忍者たちは一斉に飛び上がり姿を消す。
座敷に上がった主水之介を、天井に潜んでいた忍者たちが次々に降りて攻めるが、主水之介はそれを交わしていく。
その構え、その術、伊賀者、甲賀者とも思われず、察するところ、関ヶ原の一戦以来姿をくらましたという、伊吹流忍者の一党だ!と主水介は察する。
やがて忍者は主水之介の前に炎を出現させ、主水之介の動きが止まった瞬間全員姿を消す。
主水之介が驚いていると、失礼ながら、御貴殿は江戸のじきさん早乙女主水之介とのではございませんかと竹内が聞いてきたので、いかにも、お手前は?と主水之介が聞き返すと、尾張家中竹内彦四郎と申す者、早乙女殿は何故ここへ?と竹内はいう。
そう言う竹内殿は。何故にここで忍者に襲われていたのだ?と主水之介も聞き返す。
竹内が一瞬返事をためらっていた時、殿さま、大変ですよ!と早く行ってくださいとおしまが駆けつけてくる。
主水之介が駆けつけると、そこには三次と可内が、気絶した弥生を抱き起こしているところだった。
竹内は、弥生殿!と駆け寄り喝を入れると、気がついた弥生は、彦四郎様!お父上様は?お父上様は?と聞いてくる。
立ち上がった弥生がお父上様!と奥の間に行くと、そこには事切れた大橋が倒れていた。 驚いた弥生は、お父上様!お父上様!と大橋の死骸に縋り付く。
そこにやって来た竹内も驚き、大橋殿!と死骸に駆け寄る。 それを見る主水之介一行。 おしまが、もう一足来るのが早かったらねと悔やむと、たとえ早く参っても、やはり同じことになったかも知れんと主水之介は言う。
それを聞いた竹内が、と申されると?と聞くと、江戸を発つ時から拙者の行手、その背後に、すでに敵の影は付き纏っていたと主水之介が答えたので、影?何者です?と竹内が聞くと、大納言家の上に覆う黒い影、不吉な影だ、妥女殿はその影に狙われたと主水之介は答える。
弥生は一人立ち上がり、別部屋に行って会剣を取り出したので、、それに気づいた主水之介が待て!と止める。
お離しくださいませ!お離しくださいませ!と弥生は抵抗するが、ならぬ!今そなたが自害して、父上の霊が浮かばれると思うか?と主水之介は言い聞かせる。
そこに駆けつけた竹内は、それは?と落ちていた書状に目を止める。 拾い上げた主水之介が裏面を見ると、大橋采女の署名があった。 表書きには一死以って書遺候書と書かれてあった。
その時、庭先に忍者がいたので、おい!と主水之介が呼びかけたので、三次とおしまが追って行く。
主水之介は、忍者、将軍、普請奉行…と指折り考え、竹内と顔を見合わせる。
その後、竹内の報告を聞いた邦宗は、何!大橋采女が殺害されたと!なぜじゃ?誰にやられたのじゃ!と驚く。
は、今宵、ご下城なされて間もなく、おそらく忍者の一党と思われる者に…と竹内が答えると、寝所で起き上がった邦宗は、探せ、召し捕れ!目付役を呼べ!と指示する。
将軍家を迎える殿舎を作り上げた采女をなぜ殺すのじゃ?邦宗の心を踏み躙るようなことをなぜするのじゃ?忍者と申せば城下梟の森の奥に潜む一党であろう、その一党こそは尾張藩にて獅子身中の虫じゃ、この邦宗の心を乱す尾張の敵じゃ、八つ裂きにしても飽き足らぬ天下の敵じゃ!特に胸は興奮する。
しかし、布団の上に戻った邦宗は、忍者を捕らえとしても采女は戻らぬ…、あれほどの家臣はもう二度とは戻らぬ…、無理な造営の仕事を一人で切り回し、身も心も痩せる苦労をしたであろうに…と嘆く。
せめて晴れて将軍家をお迎えし、尾張に良き家臣ありと上様のお褒めのお言葉の一つなりとも聞かせてやりたかったぞと邦宗が言うので、竹内も平伏する。 采女には娘がいたはず、措置より伝えて遣わすが良い、将軍家お出迎え滞りなく相済めば、父の苦労は決して水に流さぬ、必ず大橋の家取り立てて遣わすとな…と邦宗はいう。
「早乙女主水之介泊」と看板が出ていた宿にやってきた島田三五郎は、部屋に残っていた可内から説明され、何!早乙女殿は1人でどっかに出て行かれたと?と驚く。
仰せの通り、何しろ殿は評判の気まぐれ、たとえば吉原に行かれると思うてお迎えに参れば深川の料亭、深川かと思えば築地の船宿、さらに船宿と思えば千葉は新名の海茶屋、海茶屋と思えばこはいかに、堀切は七井の牡丹餅…、いや草餅でしたな…などと可内の饒舌が続くので、しばらく、して早乙女殿は当分とうちに御滞在でござるか?と島田が聞くと、いやそれが、殿は有名な気紛れ、1日と思えば3日と申され、3日と思えば今帰ると言い出し、お支度をすればまた当分…などと可内は答える。
完成した館の前に立った邦宗は、おお、老中手の者とは主水之介のことか?と坂崎民部之助に確認していた。
私も驚き、早速迎えのものを出しましたと坂崎は答える。 余は主水之介はよう存じておる、将軍家には予定通りに明日のうちに江戸を発たれるというぞ、何としても主水之介を探せ、主水之介ならば余の気持ちをわかってくれるはずじゃ、将軍お迎えのこの館、主水之介にも見てもらいたいぞと邦宗は言うので、御意にございますと坂崎は答える。
主水之介の変わり者目が、終わりに参ったと言うのに、一体どこへ行っているのであろう?と邦宗はぼやく。
山深い奥所にある館 我らの大望がなるか、ならざるかの時じゃ、江戸から来て我らの望みを遮ろうとする旗本は城下に入ってから姿を消したというぞ、手分けして森を探れ、見つけ次第即刻その命を絶て!と皎雲斎は一族の忍者たちに伝える。
はっと全員出かけた中、一人残ったものがいたので、左文字、措置は行かぬと言うのか?と皎雲斎が問いかける。
左文字(上代悠司)が、はいと答えたので、来るが良いと皎雲斎は声をかける。 左文字は髑髏が祀られた場所に連れて来られると平伏する。
左文字、措置はご先祖の死に君石田三成公の恨みを忘れたか?と皎雲斎は聞く。
いえ、ご先祖の恨みは恨み、しかし戦いの世も終わってすでに数十年、今更武士として世に立って何の益がありましょう?それより一族の道は…と左文字は言う。
しかし、言うな左文字!と遮った皎雲斎は、この皎雲斎は、我らの忍法と呪いを持ってただ旗本などに取り立てられるのを喜んでいるのではないぞ、旗本となれば我らはその足がかりを得て、地を持って、再び関ヶ原の一戦を巻き起こすんだ!と言うので、恐ろしきお迷い、お辞めくださいと左文字はさとそうとするので、何!と皎雲斎は激怒する。
殿様、この道ですぜと三次が言い、最も早いのなんのって、せっかくここまでつけてきたんですがとおしまが付け加え、あっという間にこの先で姿を消してしまってと三次が続け、まるで狐かたぬきにばかされたような気持ちで…とおしまが言うので、2人の案内で山中を突き進んでいた主水之介は忍者の巣だと教える。
忍者の巣?遠しまが驚くと、措置たちはこのまま帰れと主水之介が言うので、いやいやとんでもない、あっしらも殿様とご一緒にと三次が答え、おしまもそうです、殿様も水臭い、こう見えたって江戸のムササビのおしまと同意する。
それでも主水之介は、いや、帰れ、そちたちを連れて参るにしてはただでは済まぬ森の気配…というと、急に鳥が飛び立ったので、おしまたちは悲鳴をあげる。
三次は首元に落ちてきたものがトカゲだったので、おしまと共に怯えて一目散に逃げ去ろうとする。
主水之介は一人先を進んだので、どうする姉御?と立ち止まった三次は聞くが、どうするもこうするもあるもんかい、ここで引き返したら江戸っ子の名折れじゃないかと渡島は言い返し、 さ、おいでと自ら先頭に立って進みかけたおしまだったが、分付けたものがガマガエルだったことに気づくと悲鳴を上げる。
一人山奥に向かっていた主水之介の前に、突如炎が立ち上る。
大橋邸で見た幻影と同じだったので、主水之介は慌てず、炎が治るのを待つが、次の瞬間頭上の木の影から忍者が手裏剣を投げてくる。
赤い矢が射かけられる中、主水之介は草むらに逃げ込むが、忍者たちは口笛で仲間を呼び集める。
主水之介は布切れを懐から取り出すと、それに火打石で着火したので、忍者たちは燃え上がった火を目掛けて矢を射ってくる。
やがて先を進んだ主水之介は、小屋らしきものを発見し近づくと、足に引っかかる綱があったので、それをゆすってみると、綱にぶら下げられた呼子が鳴り出す。
警報装置だったのだ。
すると、屋敷から女が銃を手に出てきて、動くな!と呼びかけてきたので、一族のものか?と主水之介は聞く。
その女、阿佐(丘さとみ)は、動くな、動くと撃つ!というので、待て!話があると主水之介が語りかける。
それでも阿佐は、言うな!目を閉じな、撃つからと脅してくる。
その時、森の中から忍者の口笛が聞こえてきたので、追われているのか?と阿佐は聞き、モンドの亮が頷くと、入んな、中に早く入んなと勧める。
主水之介が中に入ると、そこには手を組み合わされた左文字の遺骸が寝かされていた。
阿佐が戸を閉めると、亡くなったのはそなたの父か?と主水之介は聞くと、お父は一族に殺されたと阿佐は答える。
何!と驚く主水之介に、だから一族を見つけたら撃ち殺してやると阿佐は言う。
そちたちは一族の者ではなかったか?と主水之介が聞くと、違う、お父は一族一の鉄砲の名手だったと阿佐は言う。
じゃあ、なぜ殺されたんだ?と聞くと、阿佐は来た!というなり、こやの外に近づいた忍者たちに発砲し始める。
その音に気づいた三次は、鉄砲の音とおしまに教えるたので、おしまは殿様は!と案ずる。 森の忍者たちは、江戸の旗本は阿佐の家にいますと報告する
良し、2人を焼き討ちにしろ!と頭目は命じる。
忍者たちは馬に乗って、阿佐の小屋に火矢を射かける。
阿佐の小屋はすぐさま全焼するが、いち早く脱出して阿佐は、お父が作ったばかりの抜け穴ですと教えると、その方の父は一族のものに殺されることを覚悟してたのか?と主水之介は聞く。
うんと答えた阿佐だったが、その時ようやく、うちが…、うちが燃えてゆく…と気づく。
お爺が住んで、お婆が住んで、おっ母が住んで、お父が住んで、わしが生まれ育ったうちが同じ一族に燃やされていく、うちもお父の仇を討つ!と阿佐は言う。
お父を殺した一族のものは皆殺しにしてやるんだと阿佐が興奮するので、待て!と主水之介が制する。
一方、森の奥で燃えている炎に気づいた三時は、こりゃえらいことになったぜと言い、大丈夫かね、殿様…とおしまも怯えながらも案ずる。
その時、背後から人影が近づいたので二人は身を潜めるが、やってきたのが可内とわかると、御用人様!とおしまが呼びかける。
何!伊吹一党?関ヶ原で敗れた石田三成に使えたという忍者の子孫たちか?…と主水之介は阿佐から事情を聞き察する。
そなたの父も、忍者の一人だったのか?と主水之介が聞くと、違う、お父はこの鉄砲で、ウサギや鳥を撃って暮らしていた、お父はいつもわしに言って聞かせていた、こうして森の中で静かに暮らせるのも、みんな石田三成様のお守りがあるからだって…、それなのに、それなのに一族のものたちはみんな気が狂ってしまったんだよと阿佐は言う。
狂う?と主水之介が聞くと、そうです、今まで日を呼び、雨を招くためだった狩猟の祈りは急に恐ろしい呪いの祈りと変わり…と阿佐が言うので、呪い!とまた主水之介は驚き、一族の忍者たちは武器を持って森から出てゆく、それがお父は嫌だった、それを何故殺すの?猟師が好きならそれで良いじゃないの!旗本になりたい奴はみんな勝手になれば良いんだ!と阿佐は訴える。
それを聞いた主水之介は、旗本!…と驚く。
一方、邦宗は、あに!早乙女主水之介が梟の森に入ったと申すのか?と竹内からの報告を聞き驚く。
はっ、私手元まで御家来の方がお知らせに参りましてございますと竹内は答える。
また何故に梟の森などに…、今更行ってみて面白いところとも思えませんが…などと、家臣の者たちが話し合う中、急に笑い出した邦宗は、名うての変わり者だけあると言うと、民部之助、あの森は役人どもも手をつけられない危ないところだ、迎えに行って遣わせ、良いな、間違いのないようにな…と命じる。
その頃、森の中を進んでいた可内は、おしまに三次、抜かるな、いざとなったら拙者が殿様譲りの腕の冴えで曲者を…などと呟きながら腰のものに手をかけた途端、上から網が落ちてきたので肝をつぶす。
一旦は逃げかけたおしまと三次だったが、どうしたんです?と案じて可内に近づいたところを忍者たちに囲まれてしまう。
一方、偵察から戻った阿佐に、どうだ様子は?と聞いた主水之介に、まもなく奥の祭壇で白の呪いが始まります、裏道をゆくのは今のうちですと阿佐は教えるので、良し!と主水之介は答える。
そも頃、忍者たちに捕まった可内たちは、屋敷に連れてこられていた。
祈祷を始めていた皎雲斎は、申し上げますと言う使いの忍者が来たので、何事じゃと問うと、ただいま江戸の旗本と阿佐を焼き討ちにしましたところ、怪しげな男女3人が現れましたので、取り押さえましたと言う。
良し、後で調べると答えた皎雲斎は、呪いの祈祷を続行する。
阿佐に案内され、祈祷する皎雲斎の背後にやってきた主水之介は、その祈祷の様子を確認する。
そんおいような姿に怒りを覚えた主水之介は崖から飛び降りたので、何者だ!と皎雲斎も気づいて祈祷をやめ振り返る。
呪わしい邪法は辞めよ!と主水之介は言う。
基徳の真に生きる道は、白日と青天の元にのみあることを知れ!何故邪法を納め、邪心を乗って天下の将軍家を呪わんとする慮外者めが、その方の如き外道の者に名乗る姓名を持たんと主水之介は言い放つ。
早乙女主水之介だな?と皎雲斎が指摘すると、それと知れば、地獄に落ちて肩身も広かろうと主水之介は揶揄う。
皎雲斎は、いきなり炎を主水介に放つと、自ら祈祷台からジャンプし、刀を抜いて向かってくる。
主水之介が斬ろうとすると、皎雲斎は大きくジャンプして身をかわす。
洞窟の中を抜け、追ってきたもんdの助にジャンプととんぼ返りで戦う皎雲斎だったが、そこに気づいた忍者一党も出てくる。
可内、おしま、三次の3人は部屋で縛られていた。
3人がもがいていたので、動くな!動くと刺すぞ!と見張りの忍者が宮内を取り出した時、銃声が轟いて見張が撃たれる。
その銃声を聞いた主水之介は驚く。
銃を撃った阿佐は、3人の捕縛を切る。 皎雲斎が銃声がした屋敷に戻ってくると、3人を救い出した阿佐が銃を構えていた。
しかし皎雲斎は怯まず、阿佐と三人の方に迫ってくる。
阿佐が発砲すると、皎雲斎はとんぼ返りして身をかわすと大ジャンプして張の上に飛び移る。
阿佐はおしまが持っていた別の銃を手に取ろうとするが、みんな待て待て、みんな逃げろ!ここはわしが引き受けたと可内が前に出て他のものを逃す。
そこに駆けつけたのが主水之介で、おお可内、ここはどのようだ!と声をかけたので、殿!と可内も喜ぶ。
しかし、梁の上から皎雲斎が飛びかかってきたので、慌てて身を避け、主水之介は切り返す。
忍者軍団も合流した中、阿佐も発砲して応戦する。
皎雲斎は幻術による炎攻撃やジャンプ能力で、主水之介を翻弄してくる。
忍者軍団が主水之介を包囲すると、恐れを知らぬ痴れ者め、山の神の怒りの前に骸となれ!と皎雲斎は主水助に言い放つ。
主水之介は、トンボ返りや大ジャンプを駆使する忍者軍団相手に孤軍奮闘する。
その時、殿様、夜が明ける!世が明けたら忍者の術は効きません!と阿佐が声をかけたので、力を得た主水之介は外に出ると皎雲斎と対峙し、邪法をもって天下を乱し、あわよくば己の野望を世に現させんとしたその罪軽からず、今ただその方の命に従った士族老若男女を救わんと思わば、潔く裁きを受けろ!と呼びかける。
しかし皎雲斎は、黙れ!我ら一族は将軍を呪って戦う、徳川を呪って戦う!と言い張る。
その時、銃を持った役人たちを従え、馬で駆けつけた坂崎民部之助が、懐から取り出した銃でいきなり皎雲斎を撃ってしまう。
銃を持った役人たちも一斉に忍者たちを射殺し始めたので、阿佐はやめて、やめて!お願い、やめてください!と叫びながら、坂崎に縋りつこうとするが、それを跳ね除けた坂崎は、早乙女主水之介殿でござるな?大納言様の仰せでお迎えに参りましたと主水之介の前に歩み出て挨拶する。
それより鉄塔撃ち方を止めなさい、すでに忍者の全ては倒れ、残るのは戦うに力なき一族のみ…と主水之介は申し出るが、何の、大納言様のお声に背き、天下のご持参を狙うむしろ邪法の一族、撃って滅ぼすのが当然と坂崎は言い返す。
背後に控えていた島田三五郎が撃てと命じ、鉄砲隊が近くにいた一族の老人たちも射殺し始める。
愕然とする主水之介だったが、いざ、ご案内いたしますと坂崎は平然と頭を下げてくる。
その後、坂崎に伴われ、城内の邦宗のもとにやってきた主水之介は、早乙女主水之介との、参上いたされましたと坂崎が紹介すると平伏して挨拶する。
うん、待っていたぞ主水之介と邦宗は嬉しそうに声をかける。
大納言様にはご機嫌麗しく、祝着至極に存じ奉ります、またこの度は、気まぐれ風まかせの主水之介を、お召し頂き…と主水之介が話し始めると、待て!と制した邦宗は、気まぐれ風まかせと申すが、主水之介、そちの働きにより、尾張国の名の下にあって天下を乱さんとした忍者の一族を悉く打ち滅ぼし、邦宗嬉しく思うぞと称賛する。
一族は世人の立ち入らざる森に篭り、世人の目の届かぬを幸いに邪法を納め、人法に長け、この邦宗どれだけ胸を痛めたか…と邦宗は打ち明ける。
だがこれで、尾張は天下晴れて上様をお迎えできよう、主水之介、余が上様お迎えのためのせめてもの志、見届けてくれるであろうなと邦宗は語りかける。
主水之介は、はっと承服する。
主水之介、よく見てくれ、せめてもの上様の旅の徒然などお慰めしようとした余の苦労、尾張家中の想いが、この襖、この壁、この柱、この舞台、この天井、どれに至るも染み込んでいるぞと邦宗は完成したばかりの新館を主水之介に披露して説明する。
早乙女、それを世間の痴れ者共が、尾張はご本家に二心ありなどと噂し、余は悔しいぞと邦宗が言うので、大納言様のご心中お汲み取りくださいませ、尾張62万石を挙げ、家中一同の願いでござりますると随行した坂崎も口を添える。
これに対し主水之介は、大納言様、御心を安んじなされませ、民部之助殿、ご家中の方々にお伝えなされるが良い、主水之介、しかと綱吉公にお伝えいたしましょうぞと両者に答えたので、おお、伝えてくれるか!と邦宗は喜ぶ。
上様すでに江戸城御発ちの御はず、これにて晴れて尾張の御領内に参られましょうと主水之介がいうので、主水之介!と邦宗は感激し、坂崎もかたじけないと礼をいう。
宝永4年橘月 征夷大将軍 徳川綱吉 天皇御即位大典に列席奉祝の為 上洛の途に就く(山の綴織を進む将軍家一行の映像にテロップ)
いよいよ将軍は来るな、そして終わりの心づくしの館に入るか?と、地下のカラクリ装置の部屋に降りてきた邦宗が笑いながら問いかけると、すでに老中より返事があり、将軍は当日、春日龍神を舞うことに決定致しておりますと坂崎は答える。
これは不審奉行大橋采女より奪え返した図面でございますと、坂部はカラクリの設計図を見せ、この綱を切りますと、この重石の力によって車が回り出し、舞台の四方の柱を支えているこの梁が動き出しますと部屋の装置の説明を始める。
これが外れますと、舞台の柱が落ち、2700貫の屋根が落ちる仕組みになっております、このカラクリは全て分業にて作らせましたので、大橋采女を倒したいま、この図面だけがその秘密を知っているわけでございますと坂崎は邦宗に説明する。
ご覧くださいませと坂崎が言うと、島田三五郎が覆いを取り、新築された館全体の模型が明らかになる。
その模型のハンドルを嶋田が回すと、模型の館の屋根が落ちたので、見事!と邦宗は褒め、主水之介はこのカラクリを知らずに立ち去りましたと坂崎は笑顔で伝える。
こざかしき主水之介め、この邦宗の本心を確かめようとわざわざ森に入ったのを知らせに参ったりしよって、こと成就の暁には忍者の一族など初めから滅ぼすつもりの邦宗じゃ、天下を手にいたせば、何で忍者の一族など味方する必要があろう、三百諸大名にとっては、綱吉であろうと、この尾張であろうと、徳川に仕える分には変わりがないと邦宗はほくそ笑む。
将軍を倒す!、その決断こそ、将軍の座に着く唯一の資格なのじゃと言う邦宗に、御意と答える坂崎。
気まぐれの旗本に、余の気持ちなどわかるものか!と邦宗は嘲笑うい、坂崎も一緒に笑いだす。
尾張の街中では、町中に葵の紋の幕が張られたり、早馬が走り抜けたりするので、いよいよ将軍様が、明日、お見えになるそうですね、ええ、全てがもうてんてこ舞いといいますぜと町人同士が噂していた。
それを聞いた三時は、姉御、やっぱりいらっしゃるんだとおしまに話しかけ、将軍様がお見えになるなら、お殿様もご一緒だよ、きっと立派なお姿が目に浮かぶねとおしまも嬉しそうに答えたので、ああさぞ嬉しいでござんしょうね〜と三次はからかう。
何がさ?とおしまが膨れると、いえ、忍れど色に出にけり我が恋は…までわかってますよと三次はニヤニヤしながら言うと、何言ってんだ、私はね、そんなちっぽけな色恋の考えでお殿様の話したわけじゃ…とおしまが言い返すと、ねえ…と仰りたいんだろうが、そもそもこのお供の始まりはおねごの方から無理矢理に…と三次が指摘したので、バカ!もう良い加減に黙れないかとおしまがゲンコツを握ったので、打ったその手で財布を抜かれたんじゃ合わねえね三次は笑う。
良いよ、覚えておいで、お前なんかお殿様に言いつけて、お腹箱にしてやるから…とおしまが言い返すが、そばに阿佐がいて、寂しそうにしていたので、阿佐ちゃん、あんた気を落とすんじゃないよ、な〜に、悪いことの後にはきっと良いことがあるんだからさ、ね?と励まそうとする。
それでも阿佐は、ええ、でも、今まで私、森の中しか知らなかったから…と恥ずかしがるので、そんなこと気にするんじゃないよ、あんたほどの器量ならどうにだってならあ…氏なくくして玉の輿に乗るって言うんだなどと三次が変な持ち上げ方をするので、三公!お前はもう引っ込んどいてよね、阿佐ちゃん、女だってね、腕一本あれば男なんかには負けはしませんよ、私がちゃんと教えてあげるよ、な〜にあんた、1日に財布の1や20とおしまがが言い出したので、旅籠の入り口から顔を出した可内はバカもん!そんなことを教えられてたまるもんかと叱りつける。
それに気づいたおしまは、あら、御用人さん、お昼寝じゃなかったんですか?と宥めようとする。
すると可内、無礼を申すな、武士は沓の音に目を覚ます、治にいて乱を忘れずの心構えが大切じゃ、うん、お前らにはわかるまい、これこれ案ずるではないぞ、わしが殿にちゃんと話してあげる、何と言うてもわしは用人じゃ、早乙女主水之介殿あるところ、必ず可内ありと言われたわしを尾張に残されたのも、つまりはそなたの身の上を案ずればこそじゃ、任せておきなさい!尾張名古屋は城で持つ!退屈男は傷でもつ、この可内ははて、何であろう?あ!髭で持つ!と阿佐に言いながら笑いかけて見せる。
将軍家には明日、当地へご到着、兵庫大手門よりご入場の由にございますと、坂崎民部之助が、上座に座った邦宗に報告していた。 それを聞いた邦宗は、ほくそ笑むような表情になる。
翌日、予定通り、綱吉が到着したので、邦宗は我が子と共に正面に向かい、上様にはこの度、御上洛に際し、尾張へお立ち寄りの儀、御聞き届け賜り、邦宗、心より御礼申し上げますと伝える。
大納言には、この綱吉上洛にあたり、数々の心づくし、主水之介から逐一聞き及び、綱吉うれしく思うぞと綱吉は礼を言う。
ははっと邦宗が平伏すると、坂崎がまかり出て、舞台の用意、できましてございますと綱吉に伝える。
新装の館の中では、まずは腰元たちによる琴の演奏が始まる。 舞台では女人たちの舞が始まっていた。
綱吉と邦宗が並んでそれを聞いていたが、障子の影から主水之介も覗き見てた。
そんな中、邦宗が、上様、承れば、上様には舞いの御名手とか、邦宗初め家臣一同、拝見致したく心待ちにしておりましたと言葉をかけたので、老中どもに願い出ておったそうじゃな、よし、綱吉が尾張への江戸土産ともなれば、余の舞も生きてこよう、舞おう!と綱吉は承知する。
その後、綱吉は、赤毛に菌の面を被り、衣装を身につけて舞台に上がる準備をする。
同じ頃、主水之介は広い無人の廊下を突き進んでいた。
邦宗や坂崎がが見物する中、屋敷中央の舞台に衣装をつけた踊り手が、競り上がりで登場し舞い始める。
邦宗と坂崎が互いに目配せし合い、邦宗が持っていた扇子を膝の上でさりげなく広げて合図をしたので、それに気づいた島田三五郎が立ち上がって、場所を移動する。
地下のからくり部屋に降りた島田は、スイッチ代わりの綱を抜いた刀で切断する。
からくり仕掛けが動き出し、やがて舞台の大屋根が舞台上に落下する。
立ち上がった坂崎は、命令じゃ!将軍家の側近の者取り押さえい!と家臣たちに命じる。
舞台の屋根に駆けつけた邦宗は、屋根に登り、やったぞ、民部!と振り返ったので、坂崎も殿!と感激したように応じる。
そこに、島田三五郎が戻ってきたので、手筈はと坂崎が聞くと、滞りなくと答えたので、良し!と答えた邦宗は、屋根の上で高笑いし、民部之助、見よ!この邦宗の足の下に将軍綱吉は潰れて死んだわ、これで良いのだ、事毎に鎮めい!と邦宗は言い放つ。
パニックを起こし館の隅で、尾張の家臣たちから刀を突きつけられ狼狽した将軍家の家臣たちに近づき、鎮まれ!鎮まれ!大納言様の御前なるぞ!将軍家なき今、たち騒いで礼儀内を流すな!と坂崎は鎮圧してくる。
邦宗大納言の名のもとに、諸大名をして直ちに京へ登ろうぞと邦宗は宣言する。
その時、室内に高笑いが響き、尾張邦宗!天下はその野望の元には治らんと言う声が聞こえてきたので、邦宗と坂崎らは、声の主を探し回る。
その邦宗の前の屋根の上に、赤い髪のマイ衣装の男が出現したので、あ、綱吉!と邦宗は驚愕する。
返事がないので、狼狽しながらも、誰だ?誰だその方は!と邦宗は問いただす。
人呼んで退屈男!と言いながら、面と赤い髪を脱いだ下から出現したのは主水之介だった。 天下御免の向こう傷!とモンドの亮が告げると、邦宗たちは仰天する。
舞い用の衣装も脱ぎ捨てた主水之介は、余情は知らず、将軍家お迎えのこのカラクリの謎、主水之介の目が見極めず立ち去ったと思われたのか?綱吉公に代わって舞台に立った主水之介、せり出しから奈落へ飛んで難を避け、今のこの所で、大納言家の御本心、しかとこの耳で確かめましたぞ!と言い放つ。
島田の手より槍を受け取った邦宗は、それを主水之介に向けながら、主水之介、さてはその方…と問いかけると、いかにも、大納言家の逆心悉く手の中に!と主水之介が答えながら、大屋根から降りてきたので、横合いから飛び出した坂崎が斬り掛かる。
それを手で薙ぎ払った主水之介は、自ら将軍の座を狙い、世に潜んで焚きつけその忍者を持って上様の命を縮め参らせんと企て、果てはこのカラクリの殿舎を設け、上洛の途上を襲わんと図り…と主水之介が邦宗に迫ってきたので、その言葉を遮るように、坂崎は斬れ!と家臣たちに命じる。
切り掛かってきた家臣を一頭の元に斬り捨てた主水之介は、諸悪野望のもとに狂い、家来はその狂態に踊って、末代まで汚名を残さんとするのか!と言い聞かせるが、また家臣のものが斬り掛かってくる。
それらを払いながら、望みとあらば、諸羽流正眼崩しの剣の舞、綱吉公に代わって、一振り、二振り、いざ、お目にかけよう!とモンドの亮は宣言する。
次から次へと駆けつける家臣たちに主水之介は二重三重に取り囲まれる。
大廊下でも、多数の援軍が駆けつけようとしていたが、それを、待て、待て!鎮まれ!と両手を広げて止めたのは竹内彦四郎だった。
家臣たちに混じって槍を持った邦宗が前に出ると、その槍を薙ぎ払い、その槍先に一枚の書状を絡めた主水之介は、この主水之介の着く前に、大納言家のその方より、大橋采女が残した一通の遺書、見事に突き破り賜うか?吊り天井の普請を任された不審奉行の大橋采女!納言家の家臣の立場と己の良心の間に悩み苦しみながら、自ら江戸に届けて高名をあげるを潔しとせず、造営終わってその職を終われば、自らその命を絶つべく、娘弥生に遺した心情をも知り違わず、江戸よりこの主水之介尾張に入ると聞きたもうや、カラクリの秘密を闇から闇へと葬らんとして忍者を送り、采女を殺害して、その恩絶たん、今、大納言の顔にありありと現れて参ったわと主水之介は断ずる。
主水之介は、それでも遺書を払いのけ、突いてきた邦宗の槍を跳ね除けるが、坂崎も斬りかかってきたので、それを払い落とす。
坂崎はそばの家臣から別の刀を受け取ると、また主水之介に挑んでくるが、とうとう最後は斬られてしまい、殿!殿!と叫びながら邦宗の前に倒れる。
それを見た邦宗は、民部之助!そちの苦心は無駄にはせんぞ、尾張国で綱吉を道連れに地獄へ堕ちていくのだ!と言いながら槍を突いて行った邦宗だったが、その槍を避けた主水之介は、血迷われたか、大納言家!御身一つはいざ知らず、幾千万もの尾張藩氏とその家族のみを思わぬか?と叱ると、黙れ!と邦宗は言い返してくる。
いたずらに太平のやつを江戸八万の旗本と、その旗本にとりまかれる綱吉に、この終わりの気持ちなど分かるはずがあるまい!と邦宗は反論する。
城内幾万の家臣共は、こく邦宗倒れたりと聞けば、その屍を超えて、1人10殺にとなって老中を斬り、300諸大名の首を斬るのだ!と邦宗は言う。
主水之介!天下を狙った邦宗は、その手筈はつけてあるぞ!と邦宗が行ったとき、家臣たちが主水之介に斬り掛かってゆく。
それを交わした主水之介は、天を恐れず、神を恐れざる公言!大納言家には天下を狙うあまり、恩義を忘れたな!と叱りつける。
余の念頭に小さな尾張など既にない!撃て!主水之介を撃つのだ!と駆けつけた鉄砲隊が銃を向ける。
主水之介は鉄砲隊を睨みつけ、撃つが良い!主水之介ここに倒れても、天下の平和は崩れん!と言い放つ。
さらに刀を下げた主水之介は、大納言様、心を鎮めて聴き賜うが良い、上様、既に大納言家家臣竹内彦四郎が導き申し上げにあって、生涯にあって今はただ、尾張幾万の家臣の身を案じ賜うぞ!と言い聞かせると、さしもの邦宗も興奮がおさまる。
事ここに至り、志既に敗れた大納言には大納言家の名誉のままに…、あるいはこの主水之介の刃に伏し、あるいは逆臣の汚名を浴びんとして、城内にある幾万の家臣とその一族!さらには行末永き菊丸君の御事、承るのか!と主水之介から追及された邦宗は怯む。
将軍の座を狙うも良し!されど既に戦なり天なり明なることを知り賜わんか!と主水之介がさらにいうと、一歩前進しようとする家臣たちに、待て!待て待て!と邦宗が制する。
大納言様、何故恐れなさいますか!大納言様!と家臣の一人が問いただすと、構えていた槍を降ろした邦宗は、一同のもの、下がれ!と命じる。
持っていた槍を畳に落とした邦宗は、天の時は既に去ったかと言いながら目を瞑る。
そして、一同下がれ!下がれ!下がらぬと主従三世の縁を断つぞ!と邦宗が断じたので、流石に家臣たちは一斉にその場に武器を置きひれ伏す。
その中で、主水之介と対峙した邦宗は、小刀を抜くと、さらばじゃ、主水之介、見よ!と言うので、それを見届けた主水之介は、綱吉が待ち受けていた陣地へやってくる。
おお、主水之介!と喜んだ綱吉の前に身をかがめた主水之介は、畏れながら申し上げます、只今、尾張大納言邦宗公、城内においてにわかに発病、御他界あそばされましてございますと報告する。
上様には大納言家相続のお許しを賜れば、天下悉く泰平に渡り、憚りながら申し上げれば、徳川の家また永久に揺るがず…と言いながら、綱吉と見つめあった主水之介だったが、その心中を察した綱吉み、主水之介…と答えるのみだった。
その配慮に気づいた主水之介は、にわかに顔も晴れやかになり、尾張城下を埋める諸大名家も痺れを切らし、上様のお発ちを街申しておりますぞ、いざ、京へ向かってご出発なさりませと申し添える。
うんと綱吉が答えると、立ち上がって絵役した主水之介は陣内に向かい、御発ち〜!と声をかける。
あおいの門が入った帆を張った将軍の船が出発する。
それを岬から見送る主水之介は、弥生殿、お父上の霊があの船を空から見られているようだ、一緒に見送っていた弥生に声をかける。
すると、弥生と同伴していた竹内も、早乙女殿、尾張は生まれ変わります、新しい御三家として!と伝えたので、何一つ変わることはないぞ、今までも尾張は天下の尾張だ、変わることは采女殿に代わって、お手前が弥生殿の幸せを一生守ってあげることだけかなと主水之介は答える。
それを聞いた竹内と弥生が恥ずかしがったので、主水之介は愉快そうに笑いだす。
そこに、殿〜、しばらく!とやって来たのは可内で、今、おしま、三次に阿佐殿が参りますぞ〜!と声をかけて来たので、何?みんな一緒か?と主水之介が聞くと、はい、ええ、道中は賑やかでようございますぞ、江戸の屋敷はまた楽しくなりますな、美人が二人増える、愉快、愉快と可内は嬉しそうに報告する。
しかし主水之介は苦笑しながら、ああ、また退屈の虫が鳴くと言うと、扇子で自分の肩を叩いて見せる。
海辺を変える主水之介の後から、可内、おしま、三次の三人がついて行っていた。
終
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