「警視庁物語 十五才の女」

お馴染みのシリーズ16弾で、上映時間1時間程度の中編

15話「不在証明」と二本立て同日公開だったようだ。

中川刑事役の千葉真一さんとガイシャ役の新井茂子さんという2人が、新人としてキャストロールに登場している。

この当時の千葉さんは新田真剣佑さんそっくり。

初期の頃は刑事役だった関山耕司さんは、千葉さん演じる本庁刑事から事情を聞かれる側になっている。

毎回感心させられるのは、冒頭の事件現場に押し寄せた野次馬の数。

本当の事件現場のように見えるのがすごいのだが、その数の多さからまさか全員エキストラとも思えず、実際の撮影現場に押し寄せた映画撮影の野次馬をそのまま事件の野次馬に見せかけているのではないかと想像する。

大部屋役者を総動員しても足りないだろうし、新聞か何かに撮影日と場所を発表して、一般人が詰めかけるようにしているとでも考えないと、辺鄙な場所に人が集まりすぎているからだ。

今回の舞台は、調布を中心とした多摩川沿いの地域の話らしいが、上流に遡ると、まだ貧しい暮らしが残されていたことが窺える内容になっている。

脇役陣もお馴染みの人が多いが、中でも性病で脳を患った被害者の母親を演じている菅井きんさんが印象的。

劇中に登場する休憩場に、メニュー表が貼ってあり、ビール180円、ラーメン40円と書いてあり、東映の「水戸黄門漫遊記 怪猫乱舞」(1956)のポスターまで貼ってるのが時代を感じさせる。

後半はある人物に容疑がかかるのだが、ラストの回想部分で「藪の中」のような様相を呈するのが興味深い。

物悲しいラストも印象的な秀作である。

【以下、ストーリー】

1962年、東映、長谷川公之原作+脚色、島津昇一監督作品

チュッチュッチュッチュッ雀が…チュッチュッチュッチュッ二つ、チュッチュッチュッチュッ竹藪で、ランラランランチュッチュッチュッチュッ♩

セーラー服の女子高生たちが多摩川の水門近くの岸に腰掛け、スケッチをしながら楽しそうに歌っていた。

そこに女性教師がやってきて、みなさん、今は音楽の授業じゃありませんよと注意したので、女子高生たちはは~いと返事してスケッチを続ける。

しかし、女性教師が立ち去ると、舌を出したりしてからかう。

ねえ、こんなとこつまんないわ、行きましょうよと1人が提案すると、行こう、行こうと近くにいた友達も賛同し、3人の女学生が移動する。

よいしょ、よいしょ、待ってよなどと3人の女学生は水門の方へ走ってゆく。

ちょうど、水門の中央付近に来た時、一人の女学生が画材を落としたので、落としちゃった!などと言いながら拾おうと身を屈めた時、突然悲鳴をあげる。

女の死体がすぐ側の水面に浮かんでいることに気づいたからだった。

タイトル

現場に続々と到着するパトカーと警察車両に、野次馬も駆けつける。

スタッフ、キャストロール

女子高生たちも野次馬に混じって現場を取り囲む中、刑事たちの乗った車が到着する。

現場に設置されたテントから出てきた包囲に、どうでしょうな?と捜査主任(神田隆)が聞くと、やっぱり他殺に間違いありませんな、頸部に締められた痕がくっきりついてますと法医技師(片山滉)が答える。

ほお、で、死亡時刻は?と捜査第一課長(松本克平)が聞くと、逆算して昨夜の8時頃だと思いますがと法医技師は答える。

年は?と主任が聞くと、歯の成長具合から推定して17歳くらいでしょうか?しかし処女ではありませんと法医技師は断言する。

なるほど、すると昨夜暴行されたわけですな?と長田部長刑事(堀雄二)が聞くと、いや、そんなもんじゃないんです、つまり相当異性との交渉があったと考えられるのですと法医学者は指摘する。

林刑事(花澤徳衛)は口をあんぐり開け、相当と言いますとどの程度に?と長田が聞くと、それはちょっとわかりませんが、まあかなり関係はあったようですねと法医技師は答えたので、何とねえと林は呆れる。

そこに金子刑事(山本麟一)と中川刑事(千葉真一)が近づいてくる。

で、昨夜もその方の交渉はあったと言うことですな?と林が聞くと、それは解剖してみませんとわかりませんと法医技師は言う。

その時、テントから出てきた渡辺刑事(須藤健)が成人検査が終わりましたと主任に報告する。

めぼしい手がかりはあったかね?と課長が聞くと、それが…、ポケットに塵紙が10枚ばかりあっただけですと渡辺刑事は答え、着衣の方も特に手掛かりになるような特徴はありません、ただ靴が片一方だけですと高津刑事(佐原広二)が遺留品を出して続ける。

そうか…ともかく行方不明の捜査願いが出ておらんか調べてみることだなと課長が指示すると、はあと主任は頷く。

では解剖の結果は後でお知らせしますと法医技師が言うので、お願いしますと課長も頼む。

法医技師が立ち去ると、それと殺人の第一現状を発見しませんことにはと主任が言うと、これの片一方がどこかに落ちているはずですがね~と長田が指摘する。

まさか第一現状はそこの水門の所じゃないでしょうね?と林が意見を言うと、うん、そう考えても良い所なんだが、この片割れが落ちてなかったことからすると、こことは断定できんなと主任は答える。

するとやっぱり上から流れてきたものってなりますかね?と林が推測したので、河岸を遡ってみましょうか?と長田が提案する。

うん、ガイシャはおそらく抵抗して辺りを乱しとるだろうから、そんじょ編を含み入れてなと主任も賛同する。

それから、渡辺、金子、高津の3君と、所轄の刑事さんにも協力してもらおうかと主任は指図する。

林君と中川君、君たちは念の為、この近所の聞き込みやってくれ、何課あったら本部に連絡頼むと主任は付け加え、刑事たちは出かけてゆく。

所轄の刑事が、じゃあ署の方へと主任と課長に声をかけ、車に乗り込もうtしたので、新聞記者たちが一斉に駆け寄って、課長、本部事件にするんですか?などとあれこれ聞いてくるが、まだ発表の段階じゃないんだ、他殺ということだけ確か、それだけと言い残し、課長は車に乗り込み現場から立ち去る。

渡し船に乗って対岸へ向かう長田は、そっちの方は頼むよと渡辺刑事に呼びかける。

近所の主婦たちが、土手の上から水門の方を見ながら事件の噂話をしている近所に来た林と中川刑事(千葉真一)は、こんちわ!ごめんくださいと家に声をかける。

お留守ですか?と大声をあげると、はいはい!と土手で返事をした1人の主婦が慌てて階段を駆け降りて来て、何か御用でしょうか?と笑顔で近寄ってくる。

実は警視庁のものですけどと中川刑事が説明すると、はい、大変なんですってね?ピストルで撃ち殺されたって本当なんですか?と主婦は水門の方を指差しながら興味深そうに聞いてくる。

いや…と林が言葉を濁すと、あ、違うんですかと主婦は露骨にガッカリする。

じゃあ、若い娘ってのも嘘かしら?などと主婦の好奇心は止まらないんじょで、いや、それはそうなんですがね、昨夜あたり見かけませんでしたかね?と林が聞くと、赤いセーター着て、チェックのスカートで、ズックの靴を履いてるんですがねと林は説明する。

主婦は、さあ…、見かけませんでしたねという。

「やめよう!刃物の持ち歩き 刃物を持たない運動 調布地区防犯協会 調布警察署」と書かれた横断幕が掲げられた地区にやってきたジープと乗用車は、調布警察署前で停止する。

車から降りた課長と主任は、ジープから降りてきた調布所の諸島に、ご苦労さんと挨拶し、こちらからどうぞと建物内に案内される。

ちょうど、一室の前に「少女殺し事件捜査本部」の張り紙が貼られているところだった。

ここですよと署長に言われ、部屋に用意された机や電話を確認する課長と主任。

どうも狭くて汚くて恐縮ですと署長がコーチを脱ぎながら詫びてくるので、警察はどこも手狭ですからね~と主任が苦笑するので、しばらくご辛抱願いますと署長は恐縮するが、早速ですが、行方不明届に該当者がないかどうか調べていただきましょうか、それから指紋で前科証明ね、と主任は署長に依頼する。

は、承知しましたと答え、署長は出てゆく。

第一現場か身元のどっちかが割れてくれると上手いんだがな~と課長は言うので、主任もはあと言いながらタバコに火をつける。

所轄刑事が、どうぞと、そんな二人に茶を持ってくる。

一口茶を啜った主任は、ほお、これは本庁より上等じゃないかと署員を褒め、その場にいた全員が笑い出す。

その頃高津刑事らは、第一現場を探して岸辺を探索していた。

その時、側でズックの靴を見つけた長田部長刑事が、高津君!と呼びかける。

は、ありましたか!と高津は長田の側に駆け寄る。

しかし最初に見つかった靴とサイズを照合した結果、別物とわかったので、何だ…とぼやいて、長田は違う靴を皮の中に放り投げる。

一方、金子刑事が何かを見つけて近づいたので、何かあったかい?と言いながら渡辺刑事と所轄刑事も近づくと、パンツのようなものが丸めてあったので、ガイシャのものかな~などと言いながら拾い上げて広げると、何だ男ものの猿股じゃないかと渡辺刑事は指摘し、おまけにうんこまでついてますわと良いながら金子刑事は投げ捨てて自分の指の匂いを嗅ぎ、川の水で手を洗い始めたので、刑事たちは笑い出す。

捜査本部では、絵心のある署員が、現場の見取り図を描いていた。

それを見た主任は、うん、君はなかなか絵が上手いじゃないかと署員を褒める。

はあ、彼は警察技術展にもう二度も入選してるんですよと、別の刑事が教える。

ほおと主任が関心すると、主任さん、行方不明の届出を見ましたが、それらしいのは見当たりませんなと署長が報告に来たので、そうか…と主任は落胆する。

それから、指紋による前科照会の方は手配しておきましたと署長は言う。

うんと主任が頷くと、一課長さんは?と署長が気にしたので、今しがた帰られた、今日は部課長会議があるんでねと主任が教えると、そうですかと署長は納得し、じゃあと言って去ってゆく。

林と中川刑事の聞き込みはまだ続いており、覚えてないかな~、赤いセーターを着て、チェックのスカートを履いてズックの靴を履いているんだがね~と聞いていたが、女店員はさあ~と言うだけだった。

その時、職人風の男業品店に入ってきたので、いらっしゃいませと女店員は声をかけるが、いやいやと客ではないことを知らせたその男は、旦那、旦那の言ってらっしゃる娘さんらしいの、あっしは知ってるんですがね~と中川刑事に話しかけてくる。

ほお…と林が興味を示すと、どうも…、立ち聞きしちゃったんですがねと頭を掻いた職人は、知ってるんですよ、年恰好といい、赤いセーターといいねと言い出す。

で、靴は?と中川刑事が聞くと、さあ?足元まで見なかったけど、昨夜8時頃でしたね、客を拾って、あの土手の方へ行ったんですがねとタクシー運転手らしきその男(大東良)は方角を示して説明する。

その女、パンパンですか?と中川刑事が聞くと、ええ、まだ20歳前なんですがね~と運転手は答える。

で、その女の特徴のようなもの、もっとわかりませんか?と林が聞くと、さあ特徴と言われましても…とん店主は自分の話を聞いている女店員の耳を気にして洋品店からちょっと距離を置くと、あ、とにかく股の間に傷があるんですよと言うので、傷跡が?と林刑事は反応する。

ええ、何で顧客から悪い病気をうつされたせいだって話でしたがね…、と運転手が言うので、傷なんかありましたかね?と中川刑事は怪しむ。

それは確かですか?と林刑事が確認すると、ええ、あっしはこの目で何回も見たんですからと運転手は自信ありげに言い返す。

と言うとあんたもその女のお客ですか?と林刑事が聞くと、いえ、そこの銭湯によく来ます、あっしはそこで三助やってるんですがねと運転手が言うので、ああ、なるほどねと林刑事は納得する。

渡辺刑事と金子刑事らは、地元所の刑事に、だいぶ歩きましたねと話しかけながら橋を渡っていた。

彼らが、ああ、あれねと指差し立ち寄ったのは休憩所で、すでに長田部長刑事と中津刑事が休息していた。

長田は店の女将に、じゃあ、おばさん、出してくださいと注文する。

どうもどうも、なかなか見つからんものですな~、もう5km以上遡ってますよとぼやきながら渡辺刑事らも狭い店内の椅子に座る。

そこにお待ち道様と女将(五月藤江)がパンとミルクを運んできたので、すっかり遅いお昼になっちまったねと長田は言う。

あの~、牛乳温めなくて良いんですか?と女将が言うので、いえ、結構と金子らは答える。

おばさん、この辺若い連中遊びに来ますか?と長田が女将に聞くと、ええ、安倍川でもない、ベタつくでもない、何とか言うじゃありませんか、二人でこう腕を組んじゃって女将が言うので、ああ、アベック!と金子が言い当てる。

ああ、それそれ、そればっかりですよと女将は苦笑するので、 夜なんかも来ますか?と長田が聞くと、ええ、ひどいもんですよ、でも今は冬場でっすから流石にいませんが…、あれ、やっぱり寒いんでしょうよ、幾ら何でも毛布担いでくるわけにいかんからねと女将は言う。

刑事たちが笑う中、とにかくもう少し遡ってみようじゃないかと長田は指示する。

その頃、焼き増しされたガイシャの現場写真を見ていた主任が待つ本部に戻ってきたのは林と中川両刑事で、ご苦労だったね、どうだった?と主任が聞くと、あの近辺じゃ見かけたものはいないようですねと林刑事は答える。

そうか…と主任は答えるが、あ、写真ができたんですねと林刑事はガイシャの写真を確認する。

うん、解剖の結果もわかったよと主任が教えると、ああ、そうですかと林は言う。

何か?と中川が聞くと、会社が死ぬ1時間ほど前に支那そばを食っとるんだと主任は教える。

はあ…と中川が頷くと、で、暴行の方は?と林が聞くと、その痕跡はないんだがね、年齢はなんと15歳くらいって言うんだよと主任は答える。

はあ~と林は呆れ、15歳っていたら中学生じゃないですか!と中川も指摘する。

しかも、あの方は大人並みだそうだと主任は付け加えたので、何とねえと林刑事は呆れ返る。

あ、長田さんの方から何か?と中川が聞くと、まだ何も言ってこないねと主任は言うので、はあ、手こずってるんでしょうな、きっと…と林刑事は同情する。

第一現場を見つけようとしていた長田は、またズックの靴を見つけ、おい!と仲間たちに呼びかける。

高津が遺留品のズック靴を渡すと、サイズを合わせてみて、ピッタリ合ったので、ここが第一現場だ!と長田は確信する。

高津は、対岸を捜査していた渡辺刑事らに、お~い、ここが第一現場らしいぞ!と呼びかける。

本部にやってきた所轄署署長は、主任さん、ガイシャの身元がわかりましたよと笑顔で報告する。

ほお、わかりましたか?と主任が応じると、うちの少年係の刑事ですが、遺体の写真を見て、顔の見覚えがあると言うことなんですと、所長は同伴した刑事を連れて来て説明する。

間違いありませんな?と主任がその少年係の刑事に聞くと、間違いありませんと言う。

もう1年くらい前なんでっすが、その娘がパンを二個盗んだケースを私が扱いまして…と、その刑事が言うので、パンを二個…と林が繰り返すと、はあ、まあその程度ですから説諭で返したんですがね、これがその時の調書ですと言いながら刑事は調書を見せる。

林美代子ですか?とそれを見て中川刑事が確認すると、ああ、林、わしと同じ名義だと林刑事も驚く。

去年14歳といえば、15歳だから、解剖の年齢とは合うわけだな~と主任も発言する。

住所は今もこれですか?と中川刑事が聞くと、だろうと思いますと少年課の刑事は答え、ひどいバラック小屋で、母親は何でも元パンパンだと覚えてますと付け加える。

ともかく二人で行って当たってみてくれんかと主任は林と中川に指示する。

同じ苗字となると人ごとじゃありませんからなと、出かける林は張り切るので、中川は思わず笑ってしまい、早速お宅へ伺いますか?と冗談を言う。

じゃあと署長と少年課の刑事も退室したので、どうもと主任は礼を言うと、電話が鳴る。

はい、本部と返事をすると、おお、長田くんか、どうかね?第一現場が分かった?場所は?ふん、ふん、ふん、良し、じゃあ早速人相写真を届けるからな、待機しとってくれと指示する。

え?ああ解剖でね、ガイシャはラーメンを食べてたことがわかったんだよ、死ぬ1時間ばかり前にね、だからその辺の支那そば屋を調べればおそらく足が取れるだろう、それから確実な身元もわかったんだ、これは林、中川の両君が今聞き込みに行ったがね、うん、じゃあと言って主任は電話を切ると、君!と所轄署の刑事に声をかける。

車で林美代子の家に来た中川刑事が、車から降りて、あれでしょうか?と場所を指すと、そうだろうねと林刑事も答える。

近くの店に入った林が、こんちは!ごめんください!と声をかけるが、誰もいない。

留守かな?と言っていた時に、家主らしき男(殿山泰司)が戻ってきたので、それに気づいた中川が林さんと呼びかける。

こんちは!と声をかけながら男に近づくと、男は持っていた魚籠から水槽に魚を投げ入れたので、鯉かな?と中川が興味を示すと、鮒だろう、髭がないと林が教えると、ヘラブナだよと男は答える。

林美代子って子の家はあの小屋ですか?と林が聞くと、ああと男が言うので、実は警視庁のものですが…と中川が警察手帳を出して自己紹介すると、えっ!じゃあパクられちゃったのかね?と男は驚き、お手柔らかにしてやってくださいよ、美代ちゃんだって好きでやってるんじゃないんだと男が言うので、と言うと?四と林が促すと、かわいそうなんだよ、おっ母さんは脳梅になっちまってるし、ほら、あの通りだと林の家の方を見ながら言う。

林の家の前では、美代子の母のクニ(菅井きん)が笑いながら走り回っていた。

なんでも進駐軍にもらった酷いのが最近出たって言うんだがね、ちっとばかりの生活補助金じゃ親子二人食っていかれませんやと男は同情する。

ねえ…と答えた林が、今、美代子って子はいないようですね?と聞くと、え?じゃあやられたんじゃないんですかいと男は逆に聞いてくる。

ちょっとどこ行ったか聞いてもらえませんか?と林は男に頼む。

ええと答えた男について刑事hたりも林の家にいくと、よお、美代ちゃんいるかい?と男はクニに声を掛ける。

しかしクニは笑い返してきただけなので、どこ行ったか、知らないのかい?と男は再び声をかけるが、いらないよ、どっか行っちゃったよとクニは言うだけだった。

その様子を見ていた林は、いやどうも…男に礼を言い、諦めて家から離れると、ちょっとこれを見てもらえませんかと言いながら、ガイシャの写真を男に見せる。

あ、こりゃ…と男が驚いたので、昨日、多摩川の水門近くで発見されたんですがねと林は説明する。

自殺しちゃったのかね?と男が聞いてきたので、殺されちゃったらしいんですよと中川が教えると、殺されたって、誰に?と男が聞くので、まあ、付き合い関係じゃないかと思ってるんですが…と林は答え、あのおっ母さんじゃわからんでしょうなと続けると、そうだねえと男も首を傾げる。

小屋の中で、クニは黙々と風呂敷にボロ切れを詰めたり、解いたりと言った動作を繰り返しては、時々笑っているだけだった。

美代ちゃんには色々男が寄ってきてたからねと男は教える。

おじさんには分かりませんか?と中川が聞くと、うん、1人2人は顔見知りもいるがね~と男は答えたので、ほおと林は驚き、家も分かりますか?と中川が聞くと、ああと言う。

多摩川バスの「多摩川原橋」停留所からバスに乗り込む地元署の刑事二人に、頼むよと長田部長刑事は声を掛ける。

道端で一服していた渡辺刑事は、走り去ったバスとすれ違うように接近してきたジープに気付き、来ましたよと長田に伝える。

ジープから降りてきた警官が、インスタ写真を持ってまいりましたと言うので、ご苦労と受け取った長田に、ついでに資料も持ってきましたがと警官が言うので、ああそうと言いながらそれを受け取った長田は、じゃあこいつで分担決めようと言い出す。

一方、林刑事たちは、清水屋という府中の製パン工場に車で乗り付けていた。

ごめんください、こんちは~!と林が店頭で呼びかける。

その時、横の出口から、どっこいしょとおばさん(戸田春子)がパンを入れた箱を持って出てきたので、あの~と中川刑事が話しかける。

え?とおばさんが振り向いたので、ちょっとお宅の松吉っていう小僧さんにお会いしたいんですが?と中川が要件を伝えると、松吉なら奥にいるがねとおばさんは答え、ちょっとと中川が頼むと、松吉!松吉!とおばさんは、工場内でパンの生地を切り分けていた男(岡部正純)を呼ぶ。

刑事たちが中に入ると、昼間っから遊ぶ相談ならごめんだよとおばさんは注意してくる。

松吉さんですね?と中川が聞くと、何だい?と松吉が言うので、ここじゃなんだから、どっかその辺で、ね?と林は部屋の外を指差しながら話しかける。

松吉は、おじさん!と側の職人に託すと、場所を移動する。

何だい?と松吉が中川に聞くと、警察手帳を出した林刑事が、林美代子って女の子を知ってるね?と質問する。

松吉が黙り込むと、一緒にいる所を見たって人がいるんだがな~と林刑事は続ける。

すると松吉は、だってしょうがないじゃねえか、俺だって若えから持たねえんだよと急に不貞腐れたように答える。

だけど金がなきゃ、恋人だってできねえしよと言う松吉に頷いてみせた林刑事は、最近会ったのはいつだね?と冷静に聞く。

ここんとこ会ってねえんだよ、もう一人いた小僧が辞めちゃってね、ずっと店番やらされるもんだからと答えた松吉に、君は美代子を誰かに紹介されたのかい?と横から中川が聞くと、はいと言うので、誰に?と林が聞くと、この先の洗濯屋の若い衆ですよ、蕎麦一杯でOKだから経済的だって…と松吉が言うので、蕎麦一杯?と林が聞き返すと、ええ、「そばパン」って呼んでいるんですと松吉はサラッと教える。

じゃあ君もその蕎麦一杯の口なんだね?と中川が聞くと、違いますよ、僕はパンですよ、あの子はあんぱんが好きなんですと松吉が答えていると、それを側で耳にしたおばさんが、呆れたよ!この頃あんぱんが減ると持ってたらお前が持ってったんだろう!と責めてくる。

松吉は、だって女将さん…と困った顔になるが、近寄ってきたおばさんは、パンが惜しくて言ってるんじゃないんだよ、変に色気付いて、嫌な子だよ!と言うので、そんなこと言ったって…と松吉は言い返そうとするが、当分新しい小僧は雇わないよ、夜も店番した方がお前のためなんだからと言うなり立ち去ってゆく。

そんな~、若さが泣いてますよと松吉は訴える。

それを苦笑しながら見ていた中川は、ともかく、その洗濯屋の若い衆って人の名前を教えてもらえませんかと松吉に頼む。

すると松吉は、教えても良いけどね、この間死んじゃったんだと答えたので、死んだ?と林が突っ込むと、4回車の車ぶっ飛ばしていて…と、松吉はバイクのハンドルを握る真似をしながら答える。

あ、なるほど…と合点した林は、他に誰か知らないかな?と聞くと、後は…、あ、為さんだ!と松吉は思い出す。

為さん?と中川が確認すると、ええと松吉は楽しそうに答える。

その頃、高津刑事らは、工場の従業員などに、会社の写真を見ながら聞き込みを続けていたが、知りませんねと言う答えばかりだった。

金子刑事は所轄署の刑事とともに、中華そば屋の聞き込みを続けていたが、高津と合流したので、よう、どうだった?と金子が聞くと、ダメだと言うので、良い聞き込みじゃないなと金子が応じると、俺らの担当、第一現場に近いんだがなと高津が指摘する。

もう一当たり回ってみるかと金子は言うと、それぞれ所轄刑事とともに別方向に歩き出す。

車でためさんとか言う人物の住所にきた中川は、林さん、聞いてみますと言うと、近くで七輪をうちわで仰いでいた男(関山耕司)に、ちょっと伺いますが、ためさんと仰る方は?と話しかける。

この辺で為さんといやあ、俺のことだよと相手は答える。

ああ、そうですか、こりゃどうも、為さんと言やあわかると聞いてきたもんで…と答えた中川に、何っす?と為さんが聞くと、警視庁も者ですがと手帳を出して自己紹介した中川は、美代ちゃんって女の子はご存知ですよね?と確認する。

ええ、ご存知なんてもんじゃありませんがねと言いながら立ち上がった為さんは、可哀想に殺されたって言うじゃないですかと言うので、ああ、ずいぶん早いですね、もう知ってるんですか?と林が聞くと、この部落にはあの子と付き合いのあるものが何人かいるもんでねと為さんはニヤつきながら言う。

ところであんた、ゆうべあの子をどっかで見かけませんでしたか?と林が聞くと、旦那、私をう疑っているんですか?と為さんの表情が変わる。

いやそう言うわけじゃないけど、ちょっと参考までに…と林がフォローすると、昨夜は六さんと材木の押しっこをやってましたよと為さんが言うので、材木の?と中川刑事が不思議がると、これですよと為さんが手真似をしたので、ああ将棋ですかと7中川は納得する。

ええ、何なら…と言った為さんは、六さん!出てこいや!と奥の家へ向かって呼びかけ、やっこさんがあの子のことを教えてくれたんですよと林圭人事打ち明ける。

姿を見せた六さん(藤山竜一)が、何やね、為やん?と聞いてきたので、おい、俺、昨夜何してたってけな?と為さんが聞くと、え?昨夜?昨夜はな、何言う点親、お前と材木の押しっこやないかと六さんは言う。

と言うわけでさあと為さんは自慢げに刑事たちに伝える。

何やねこいつらと六さんが刑事たちを怪しんだので、サツの旦那だよと為さんが教えると、ほな、美代ちゃんのことか?と六さんは焦り出す。

そうなんだがね、他にお客を知りませんか?と林刑事はにこやかに質問する。

そうやな~と考え始めた六さんだったが、ちょうど銭湯へ向かうらしい男を見つけ、仙吉(清村耕次)、お前も「そばパン」と付き合うたことあるやろう?と近づいて聞く。

何だい、出しぬけに…と仙吉が聞き返すと、何事かを六さんから小声で教えられ、そうかい、可哀想にな~と答え、刑事たちが近づくと、あ、旦那、性質の良い子でしたがね~と語り出す。

昨夜俺がもう30分も早く誘いに行けば、あんなことにはならなかったんですよと仙吉が言うので、するとあんた昨夜?と中川が聞き返すと、ええ、ちょっと金が入ったんでね、前の借の返し方柄…と思って家まで行ったんですよと仙吉は嬉しそうに答える。

なるほど、それで?と林が先を促すと、美代ちゃん、あいにく出かけた後だったんですと仙吉は言う。

客があったんでしょうか?と中川が聞くと、そうだと思うな~と仙吉は言う。

この頃はいろんな奴が誘いに来てね、中には薩摩守忠徳(ただのり)もいるって話ですよなどと言うので、ああ、子供だと思ってうまいこと騙しちまうんだな~と為さんも呆れる。

ところであの子は主にどこに出入りするんですかねえ?と林が聞くと、どんな所って言うと?と仙吉が聞き返すので、つまり、行きつけの温泉マークとか…と林は捕捉する。

ああ、そいつはこの市内に一軒あったらしいけどね、俺なんかいつも自家用車の中ですよと仙吉は恥ずかしそうに苦笑しながら答える。

自家用車?と林が不思議がると、あれですと仙吉が指さしたのは、ゴミ回収用の木製箱付き大八車だった。

ああ、なるほど、自家用車ねと林刑事も調子を合わせる。

温泉マークなんて俺たちにはもったいなくて…と仙吉は自嘲する。

じゃあ、まあ、旅館の方はこちらで調べるとして、誰か他に彼女の客筋をご存知ありませんか?と林は聞く。

さあねえ…と為さんが考え込むと、あれどうだ?飯場の…と仙吉が言い出す。

あ、刺青した野郎か?と為さんが自分の右腕を叩いて聞くと、うんと仙吉は言うので、刺青?と中川刑事は聞く。

ええ、名前は知らないけどね、新川建設の飯場に竜の刺青をした奴がいるんですよと仙吉は言う。

はあ、で、年は?と林が聞くと、30くらいですかね?と仙吉が言うので、背格好は?と中川が確認すると、そうねえ…、中肉中背といったところですか、なあ?と仙吉は答え、為さんらに賛同を得る。

工事現場の飯場に来た中川刑事と林刑事は、中肉中背で30くらいだと言うんですがね?手に竜の彫り物をしているってんですがねと…と2人が聞くと、そいつは鮫島じゃないかなと1人が答える。

うん、あいつ、昨夜出たきり帰ってこないんだが…と丼飯を食べていた別の男が付け加え、何かしたんですか?と聞いてきたので、いや、ちょっと…と林はごまかす。

帰ってこないって、どこ行ったんですと、出された茶を持った中川刑事が聞くと、スケんところじゃないか?と別の1人が言い、そいつはどうかな?と別の音が否定するが、で、そのスケってのはどこに?と林が聞くと、そいつはよく知りませんけどね、なんだかあいつ、一張羅の背広着て、めかし込んで出かけたんですよと男は答える。

一張羅の背広をね…と林は聞き返すと、ええと男は言う。

線路脇の大衆食堂「佐野屋」

訪れた長田部長刑事から渡されたガイシャの写真を見た女店員(小笠原慶子)は、この子だったら昨夜、男の人と一緒に来て支那そばを食べた子に違いないわと証言する。

ほお、何時頃?と写真を受け取り長田部長刑事が聞くと、7時頃というので、男の連れがいた?と渡辺刑事が確認する。

うん、30くらいね、背広を着て…と女店員が言うので、で、背格好は?と渡辺が聞くと、ええっと、刑事さんくらいねと女店員は渡辺を見ながら答える。

あ、そう…と渡辺は答え、こんなに太ってたかね?と長田が聞くと、ううん、痩せてもなかったし、普通ねと女店員が言うので、ま、中肉中背というところだなと長田は判断するが、でも若かったし、色男よと女店員は付け加える。

その時、カツ一丁!とtゆうもんが入ったので、あいよと女店員は厨房に戻ったので、長田は下を向いた渡辺を見て思わず苦笑する。

お待ちどう様!いらっしゃいませ!と女店員は客に声をかける。

鮫島という男が背広を着て出たまま戻らんというのだな?と夜の捜査本部で報告を受けた主任が林刑事に確認していた。

はいと林が答えると、臭いねと主任は長田らに顔を向ける。

え?と林は驚き、何か?と中川も身を寄せると、実はね、我々が聞き込んだその美代子の連れというのがね、やっぱり背広姿なんだよと長田が教える。

腕の刺青ってやつは分かりませんが、年恰好は似通ってますねと渡辺刑事が指摘する。

昨夜の6時頃、飯場を出たきり戻らんのが第一臭いよと主任は言う。

俺に頷いた林は、現場現場主任の話だと、鮫島には何でもマエがあると言ってましたからね~と付け加える。

おお、前科…、良し、ともかくその前科で鮫島の人相その他を割り付けて、早速手配しようじゃないかと主任が提案すると、そうですねと林も賛成する。

じゃあ、すぐ前科照合!と長田が地元署員に指示する。

翌日の府中警察署にやってきた長田は、受付で捜査係と問いかけ、担当官からあちらですと場所を教えられる。

捜査部屋に入り、本庁の長田ですがと名乗ると、お待ちしてました、どうぞと立ち上がった警部補(菅沼正)が席を勧める。

先ほどはどうも、ご連絡いただきまして…と、コートを脱ぎながら長田が礼を言うと、いやいや、君!一昨日検挙した鮫島を呼んでくれと警部補は部下に命じる。

さ、どうぞどうぞと警部補は椅子を長田に勧め、殺しとなると、全く大変ですからなと同情すると、どうです、その後の進行状況は?と聞いてくる。

はあ、それが動き出したばかりなので、なんとも…、あ、鮫島の方の調べはどうなっておりますでしょうか?と長田が聞くと、ええ、先ほどの電話でもちょっと申し上げておきましたが、うちではおととい夜の9時頃、暴漢未遂の件で逮捕したんですが…と警部補が答えたので、9時頃ですか?と長田は念を押す。

ええ、確かお宅の方の事件は8時と推定されているんでしたな?すると、殺しの容疑はシロですかな?と警部補は続ける。

一昨日の夜、鮫島は七時半頃からうちの管内の飲み屋で焼酎をやっとったんですと警部補は言う。

ほおと長田が感心すると、これは裏も取れてるから間違いないんですがねと警部補が言うので、長田はそうですかと答えるしかなかった。

その飲み屋にスケが目当てで会いに来たところ、あいにく休みだったんで、9時頃その店を出て、夜学帰りの女子高生に暴行しようとしたところ、偶然パトロールが通り合わせたと…、まあこんなところなんですがねと警部補は続ける。

留置場を出された鮫島(岩上瑛)が、所轄刑事によって長田の待つ捜査部屋に連れて行かれる。

部屋に入ると手錠を外され、鮫島、本庁の部長さんがお前に聞きたいそうだからな、正直に答えるんだぞと7警部補が語りかけると、鮫島は不貞腐れたようにあくびをしてみせる。

かけないかと長田が声をかけると、鮫島は椅子に座る。

あんた、あの晩7時半頃飲み屋に行ったそうだね?と長田が聞くと、ええと言うので、しかし飯場を6人時出たんだろう?と念を押す。

相手が頷いたので、じゃあ6時から7時半までどこで何してたの?と長田は追求する。

すると鮫島は、デカ長さん、タバコ一本くれよと要求してくる。

ああそうか…と言い、背広の内ポケットからタバコを出そうとした長田だったが、警部補がテーブルに置いていた自分のタバコを投げ与える。

鮫島は警部補のライターを取ろうとするので、長田が自分のライターで火をつけてやり、あんた、あの晩、美代子に会わなかったそうだね?と切り出すと、ええ、よく知ってるなあ?と7鮫島は感心し、あん時話がついてりゃ、こんな目に遭わなかったんですよと鮫島は言う。

話?と長田が聞くと、美代子の奴、先口があったらしく断りやがったと鮫島が言うので、先口の客かね?と長田が聞くと、うんと言うので、誰だかわかってるの?と追求すると、うん、癪に触ったんでね、出ていく美代子の後をつけてやったんだよ、そしたらやっぱり橋ん所で待ってましたと鮫島は言う。

この頃、ちょいちょい二人で歩いているところを見かけるんだけどね、村上って福祉事務所の小役人でさあと言うので、村上?と念を押すと、えと鮫島は言う。

報告を聞いた主任は、ほお、福祉事務所の役人がね〜と意外な顔をする。

はあ、ホシかどうかはともかくとして、一応当たってみた方が良いと思いますと長田が言うと、うん、会ったのが事実とすると、案外手がかりが掴めるかもしれんからな〜と主任も賛成し、林君と中川くんも協力してと指示を出したので、長田はじゃあと言って動き出す。

渡辺君と金子君、ガイシャの人相写真で市内の温泉マークを虱潰しに当たってもらおうかと主任は続ける。

美代子の筋を洗うんですね?と渡辺刑事が聞くと、福祉事務所の役人じゃ、容疑者ということにはならんだろうからなと主任が言うので、それもそうですね、じゃあ行ってきます!と渡辺は金子に声をかけ一緒に出かける。

長田部長刑事らは、車で「三多摩福祉事務所」にやって来る。

村上さんはおいでになりますか?と声をかけると、あの〜、今、観察に出かけておりますけどと受付の女性事務員(島村竜子)が答えたので、係長さんは?と聞くと、おいでになりますと言うので、警察手帳を長田は提示し、ちょっとお目にかかりたいのですがと申し出る。

そんじょ手帳を受けとり、少々お待ちくださいと事務員が奥へ向かうと、酷い建物ですねと中川刑事が林刑事に語りかけると、やっぱり税金が回ってこにんだろうねと林は答える。

地味な仕事ですからねと中川が話していると、どうぞこちらへと奥から声がかかる。

私が係長の中西ですが、どんなご要件でございましょう?と係長(増田順司)が立ち上がって出迎える。

いや実は、林美代子さんと言う若い娘さんのことで、まあ村上さんにお聞きしたかったんですがね…と長田が説明すると、ああ、生活保護していると係長は納得する。

そうですか、私も今朝新聞を読んでびっくりしたんですがね、まさかあんなことになろうとは…と係長は答える。

あの娘さんの家庭は村上さんの担当だったんですか?と長田が聞くと、そうです、なかなか良く面倒を見てやっているようでしたと係長は答えると、それだけの間柄だったんでしょうかね?と長田は問いかける。

それはどう言うことなんでしょうか?と係長が訝ると、ちょくちょく一緒に出かけているのをよく見かけたと言うものがあるんでねと長田は教える。

一緒に歩くと言いますと?と係長が飲み込めない様子で聞き返すと、いえ、ほんの聞き込みなんですが、仕事以外のお付き合いがあったとか?と長田が聞くと、とんでもありません、村上君にはちゃんと妻子もありますし、なかなか勤勉な男なんですよと係長は心外そうに答える。

実は美代子が殺された夜の6時過ぎに、村上さんが待ち合わせていたと言う情報があるんですと長田は切り出す。

はあ、夜にですか?と係長も意外そうに言う。

あの晩…、つまり一昨日ですね、村上さんんが役所を出られたのは何時頃です?と話が尋ねると、定時でした、私も一緒に途中まで帰りましたからと係長は言う。

あ、そうですか、そうすると6時過ぎに美代子と会ったと言うことは十分考えられるわけですな?と林は念を押す。

これには流石に係長も返事に窮し、黙り込む。

じゃあ念の為、村上さんの住所を教えていただきましょうかと長田が申し出ると、あ、はいと言って、係長は応じたので、じゃあ君、しっかり当たってみてと長田は手帳にメモしていた中川に声をかける。

係長が住所録を広げると、中川がそれをメモに書き留めると、じゃあお先にと言って出かけてゆく。

村上君が戻りますれば、もう少し事情がわかると思いますがね、何しろ少ない予算のやりくりをして生活保護に回しますんで、苦情が多くて、覚えもないのに恨まれたりすることも多いんです…と係長は言う。

林が同情すると、まあ社会奉仕の精神で一生懸命やっておりますが、実は一昨日なんかもヤクザが1人怒鳴り込んできまして、ちょうど村上君が留守にしていたので帰っていきましたと係長が言うので、村上さんのところに来たんですか?と長田が確認すると、ああと言う。

どうしてまたヤクザなんか?と林が聞くと、ああ、そんなことはここじゃ度々ですから別に近似しちゃいませんが、生活補助金をもらえない腹いせかなんかでございましょうと係長は苦笑する。

なるほどえね、で、そのヤクザの身元はわかりませんか?と林が聞くと、この市内に若井興業という事務所があるんですが、そこの若いものでしたと係長が知らせ、人が全く合わん仕事でして…と愚痴ると、林は長田の顔を見て、若井興行でしたね、こりゃどうもと係長に礼を言うなり、その場から立ち去ってゆく。

中川は村上の自宅を訪ねていた。

ごめんくださいと声をかけると、外で洗濯物を干していた妻のぶ(光岡早苗)がはい!どなた?と返事する。

あ、お邪魔しますと玄関前から移動した中川が挨拶し、事務所に御主人を尋ねたんですが、おでかけでしたんで、ちょっと参考までにお伺いしますが、一昨日の夜、ご主人は何時頃帰られましたでしょうか?と質問すると、あの〜、主人が何か?とのぶは不審がったので、いや、ある事件の犯人がこちらのご主人と酒を飲んだと言っているものですからと中川はごまかす。

そうですか、でもあの夜、主人は酒なんか飲まなかったと思いますわ、宿直でしたからとのぶが答えたので、え、宿直!と中川は驚く。

はあ、それも11時過ぎでしたかしら、頭痛がしたとかで帰って参りましたとのぶは説明する。

11時過ぎ?と中川が確認すると、はあとのぶは言う。

そうですか…といった中川は、ご主人の写真をお借りできますか?と申し出る。

はあ?とのぶが不思議がったので、ご心配なく、そうとわかれば、ちょっとその犯人を追及するために使いたいんですと中川は説明する。

納得したのぶは、ちょっと待ってくださいといって部屋の中に入ると、写真を持って戻ってくる。

それを待っていた中川は、縁側で保育器に入っていた赤ん坊が持っていた白い犬の人形を地面に落としてので、はい坊やと、拾って渡してやる。

一方、警察車両で出かけた所轄刑事と林は、競馬場側の若井興業事務所にやってくる。

門の通用口から入ろうとすると、中から出てきたヤクザが、やあ旦那!と声をかけて行く。

こんちは!と玄関から所轄刑事が声をかけると、旦那!何か?と若い衆が出てきて応対する。

社長いるかい?と聞くと、おりやすがと言うので、ちょいと会いたいんだが?と要件を伝えると、どうぞと招き入れる。

林に、上がりましょうと声をかけ、所轄刑事は上がり込む。

ソファに座って出迎えた若井社長(山口勇)は、旦那、珍しいじゃないですかと嬉しそうに話しかけてくる。

うん、例の殺人事件のことで本庁の刑事さんが一つ協力してもらいたいんだそうだと所轄刑事は林を紹介する。

そりゃ、ご苦労さんでございますなと若井が答えると、捜査一課の林です、どうも忙しいところと林は謙って挨拶する。

私が社長の若井です、できるだけのことは致しましょうと言いながら、和解は名刺を差し出してくる。

こりゃどうも…と名刺を受け取った林は、早速ですが、お宅に大山さんと言う若い衆はおられますか?と聞くと、おります、呼びましょうか?と若井が言うので、ええ、一つ…と林は礼を言う。

若井は、おい大山ちょっと来い!と隣室に呼びかける。

大山(潮健児)が部屋に来ると、本庁の旦那がお前に気kたいと言っておられるんだ、わざわざいらっしゃったんだ、そっくりお答えしろよと若井は説明する。

林はそんな大山に、あんたは一昨日、福祉事務所の村上さんを訪ねたそうですな?と問う。

へいと大山が答えると、どんな要件だったんですか?と林が聞く。

どんなって、和夫があんまりかわいそうだったもんでねと大山は苦笑混じりで答える。

和夫って言いますと?と林が聞き返すと、うちの和夫か?と大山も確認したので、へいと7大山が言うので、木下和夫っていう少年でしてね、私が預かって、ここで雑用させているんですよと大山が答え、その和夫がどうしたんだ?と大山に聞く。

へい、本気で小学校の頃から好きだった美代子って女の子に…、殺されたって新聞に出てた子ですが、あれに和夫の奴、本気で惚れちゃってたんですよと大山は言うので、林美代子にですか?と林刑事も確認する。

ええ、それで何度も足を洗えって勧めたらしいんですが、美代子には悪い奴がとっついていてどうにもならなかったんですよと大山は言う。

悪い奴が?と林が聞くと、ええ、福祉事務所の村上ですよ、あいつ、生活補助金を餌に美代子を良いようにしていたんですからねと大山が言うので、それは確かかね?と林は念を押す。

ええ確かですよ、和夫から聞いたんですがね、村上の奴、嫌なら補助金を取り上げるぞって何度もおどかしたそうなんですよ、しかし補助金なんてのは国がくれるもので、村上が同行できる門じゃありませんからね、それで私がね、和夫にも言って、村上の所に談判に行ったんですよと大山は言う。

ああ、なるほどねと林が相槌を打つと、それなのに、野郎、言いがかりだ、美代子とはなんでもねえ、そんなに言うなら証拠があるか?とすっとぼけやがってね、とっぽい野郎ですよと大山は続ける。

じゃあ、村上さんには会ってる訳だね?と林が聞き返すと、ええ、一週間ほど前にね、それっきり野郎、逃げ回っているんですが、そのことを和夫に話したら、良し、そんなら僕が証拠を掴んでやるなんて、村上のことをムキになって怒ってましたよと大山は答える。

その和夫という少年にちょっと会わせてもらえませんか?と若井に頼む。

若井は、はい、どうぞどうぞと快諾し、おいと大山に声をかける。

大山は隣の部屋に向かって、おい、和夫今日も来ないか?しようがねえな、全く…、あの〜、昨日から休んでるんですが…と林に報告する。

ああ、そうですかと林は答え、病気か?と若井は聞くが、さあ?と大山は知らないようなので、じゃあ、住所の方を一つ…と林が頼むと、はいと答えた大山が隣室に向かう。

素直な良い子なんですがね〜、親父がダム工事の現場で発破の飛び石に頭をやられましてね、それが原因でだんだん目が見えなくなったらしいんですよと若井が説明する。

事故の時から三月も経っているんで、労災保険が少ないんですよと若井が言うので、なるほどと林は頷く。

ああ言う所は事務の手続きが難しいんですな〜と若井は嘆く。

しばらく病院通いをしてましたが、もう諦めちまいましてね、今じゃかみさんが飲み屋の女中かなんかして、何とかやってるらしいですよと若井が話し終えたので、ああ、そうですかと林が応じていると、大山が住所を書いたメモを持ってきて、お待ちどう様でした、地図も書いときましたと言いながら手渡して来たので、林はああ、こりゃどうもと礼を言って受け取る。

その頃、長田部長刑事は、まだ福祉施設で村上の帰りを待っていた。

業を煮やした長田は係長の所へ向かい、村上さん、なかなか戻られませんなと言いに行く。

はあ、観察に出ますと、回る所が多うございますんで…と係長は言い訳する。

長田は、ちょっと電話をと断り、係長がどうぞどうぞと勧めたので、事務所の電話を取り上げる。

捜査本部の電話が鳴り、あ、長田君か?私だと、電話を受けた主任は答える。

うん、そうか、じゃあ戻ったら連行してくれんか、それから中川くんが今し方戻ったんだがね、村上は家に帰ったのは一昨日の11時過ぎだそうだと伝える。

うん、つまり役所を出た5時から11時までのアリバイだな、ああ、頼むよと主任は伝えて電話を切る。

じゃあ主任、僕はこの写真で例の大衆食堂へと、高津刑事が中川が持って来た来た写真を手に申し出ると、おう、美代子と一緒だった男と間違いないかどうかだな?と主任も頷く。

高津が所轄刑事とともに出かけるのとすれ違いに戻って来た渡辺刑事が、主任、美代子がよく行き着けた温泉マーク、やっと見つけましたと報告する。

そうか…と主任が応ずると、やっぱり中肉中背の30男が来たそうですがと金子刑事も付け加える。

じゃあ渡辺君、早速ですまんが、この男と間違いないかどうか、もう一度当たって来てもらおうかと言いながら、主任は中川が持ち込んだ写真の複製を手渡す。

承知した渡辺は所轄刑事に行こうと声をかけ、再び出かける。

「福島橋監視所」側に来た警察のジープから降り立った林刑事と所轄刑事は、その近くの木下和夫の家に近づく。

ここですねと所轄刑事が家を特定し、林刑事が玄関扉を開き、こんちは!と声をかけると、そこそこそ、痛い!ダメだねえ、それじゃいつになっても按摩にゃなれやしないよと、妻の()が目が見えない夫に腰を揉ませながら文句を言っていた。

ごめんくださいと再び声をかけると、誰?と妻が気がつく。

和夫君おりますか?と林が聞くと、和夫、おりませんけれどと答えた妻は、あんた、和夫どこ行ったの?と亭主に聞く。

事務所に泊まってんじゃないかと夫が答えたので、若井の所には今寄って来たんですがね?と林がガラス戸越しに答える。

失礼ですが、どちらさんですか?と妻が聞くので、実は警視庁の者なんで…と林が答えると、えっ!と夫の動揺した声がし、ガラス戸を開けて這ってきた夫が、和夫が何か?と聞いてきたので、いや、そうじゃなくて、ちょっとお尋ねしたいことがありましてねと林は答え、和夫君はいつ頃からお留守なんですか?と聞く。

一昨日の朝、事務所に出て行ったきりなんですがと夫は答えたので、ほお、するとそれっきり帰らないわけですか?と林は聞く。

ええと夫が言うので、どっか他に心当たりはありませんか?と林が確認すると、さあ…、事務所にいないとすると、早々、一昨日の晩、村上さんと言う方が、やっぱり一男を訪ねてきたんですけど;と夫は言うので、村上というと、福祉事務所の?と林は驚気、それ何時頃です?と問いかける。

あれは…、10時過ぎだったと思いますが…と夫が言い、私の店にも11時過ぎに村上って人が来たんですよ、和夫はどこにいるかって…と妻の方も答える。

なるほど…、と言うことは、村上はよほど和夫少年に会いたがっとったんだな〜と、本部に戻った林から事情を聞いた主任は言う。

ええ、まあそうとも考えられますし、あるいはまたこれはひょっとすると…と林が言うので、うん?と主任が聞き耳を立てると、もし村上が美代子を殺したとなると、ついでに足手纏いの和夫もやっちまったって風には考えられませんかね?と林は推測する。

うん、そう言うことも考えられるなと主任は頷く。

事件当夜から和夫が行方不明というのが、どうも私は引っかかってくるんですがねと林は指摘する。

すると村上は和夫殺しを偽装するために、家やお袋さんの店まで探し回ってみせた…ですか?と中川刑事が推理すると、そういうわけだと林は答える。

そうすりゃ、村上が本ボシって線が一応強くなりますねと金子刑事が捕捉すると、いやこりゃあくまで私の推測だがねと林は答え、とにかく和夫が戻ったらすぐ本部に出頭するように頼んでは来ましたが…と続けたので、そうか…と言いながら、主任は木下と美代子と村上の関係性を紙に書いて考え込む。

その後、長田部長刑事が車で村上次郎(今井俊二)を本部に連れてくる。

ソ連息づいた主任が、おおと声を出すと、さあ、どうぞと長田は村上に椅子を勧める。

村上次郎さんですな?と主任が聞くと、はいと村上は素直に答えたので、あちらへ一つと奥に向かわせ、どうぞ、火の側にと中川、林、金子刑事らも座る場所に案内する。

隣んじ座った林が、どうです?と愛用のキャラメルを勧めるが、村上ははあというだけだった。

その間、主任は長田から報告を受けていたが、いやあ、どうもどうも、お忙しいところをご苦労さんでしたなと村上に労いの言葉をかけて近づく。

いいえと村上がいうと、早速ですがあなたは一昨日、役所を出てから二、三軒飲み屋を回ったとおっしゃっているそうですが?と確認すると、はあ、そうですと肯定する。

というと、奥さんに宿直と言われたのはどういうことンジなりますかな?とあゆ人は問いかける。

は、それはその〜、私が飲み歩くのを家内が嫌う者ですから、つい…と村上は答える。

村上さん、あなた一昨日、林美代子と会ってたんじゃありませんか?と長田が切り込む。

えっ?いえ、とんでもないと村上は否定する。

林美代子の家の側にある橋で待ち合わせをしているのを見たって人がいるんですがね〜と林が口を挟む。

夕方の6時過ぎ、そうでしたな?と急に黙り込んだ村上に主任が確認する。

すいません、実は金を少しやろうと思ったんですよと村上は答える。

ほお、金?と主任が聞くと、そうなんですと村上は言う。

どうせ飲んでしまう金でしたら、幾らかでもあの子の生活の足しにと思いまして…、何しろあの子の家庭は私の担当なもんですから…と村上は言うので、するとあなたと美代子の関係はそれだけのものだったと言うのか?と林が聞くと、もちろんですと言う。

まあ、どう言う噂をお聞きになっているのか知りませんが、私は福祉事務所の職員としてできるだけのことはあの子ンジしてやってるだけなんですと村上は言う。

それを聞いた主任は、うん…と言いながらも、指先が膝の上で忙しなく動いていた。

そんな調布警察署の正面玄関に一人やってきたのは木下和夫(小泉静夫)だった。

本部で電話を受けた主任は、正面玄関に?じゃあ通してくださいと答え受話器を置くと、長田君、林君と名前を呼んで座を外し、部屋の隅で何事かを相談しあう。

その間、村上は不安そうな顔になり、近くの練習場から警官たちの剣道や柔道の掛け声が聞こえてくる。

本文じょ外んじ出た長田と林は、帰ってきた林刑事と出会ったので、よお、どこ行ってたんだと長田が聞くと、温泉マーク、やっぱり村上は美代子と二、三回行ったことがあるそうですよと渡辺が教える。

そうか、じゃあと渡辺と別れた長田と林は、取調室に入ると、所轄刑事と対面していた和夫に出会う。

今電話で聞いた少年ですね?と長田が所轄刑事に聞くと、ええと刑事が答えたので、君、木下和夫君か?と長田が少年の前に座って聞く。

和夫は黙って頷く。

一方、戻ってきた渡辺から報告を聞いた主任は頷きながら聞いていたが、ご苦労さんと労うと、4村上さん、ある温泉マークで、あなたが美代子と2〜3度連れ込んだことがあると言ってるんですがね?と聞く。

いい加減に本当のことを言ったらどうです?と中川も声を掛け、どうせ時間が経ちゃ、わかるんですからねと金子も付け足す。

すると村上は、すみません、実は美代子に誘われて…、私もつい…と言い出す。

でも、もうそんなことしちゃいけないと思いましたと村上は反省したかのように続ける。

で、一昨日の晩もあの子をどこかに就職させ更生させようとしたんですよと村上は言う。

その時電話がかかってきて、中川が受話器を取るが、すぐに主任が受け取り、はい、おお、高津君か?え?うんと答える。

美代子と一緒だったのは、写真の男に間違いないと言ってますと、食堂に来ていた高津刑事は報告する。

そうか…と答え受話器を置いた主任は、美代子を更生させようとしてどこへ行ったのかね?と村上に問いかける。

はあ、人目がありますんで街外れまで歩きながら歩いたんですがと村上が言うので、大衆食堂で蕎麦を食べなかったかね?と主任が聞くと、は?と村上は戸惑う。

4つばかり先の駅から河岸に行く途中の大衆食堂で、君たちがやってきたと今電話があったんだよと主任は教える。

さあ、ネタは上がってるんだからと渡辺刑事が言い、だんだんバレてきちゃまずいなと金子が横からまぜっ返す。

村上は、確かに行きました、あの大衆食堂でもなんとかあの子を就職させ、更生させようと色々話し合っていたんですが、あの子はちっとも乗り気にならないで、そんじょ〜、河岸へ行きたいなんて言い出したんですよと村上は供述する。

河岸へ?と主任が聞き返すと、はいと言う。

(回想)林美代子(新井茂子)は、村上の片腕に縋りつき、河岸を歩いていた。

林さん、どうしても就職は嫌ですか?と村上が聞くと、いやと美代子が言うので、どうして?と聞くと、どうしてもいや!だって、あたいみたいな子供じゃいくらももらえないもんと言う。

そんな二人を背後から監視していたのは和夫だった。

それに、住み込みなんて言ったら、お母ちゃん、一人っきりになっちゃうわと石積みの土手に座った美代子は言う。

そんな美代子の背中に村上は自分のコートを脱いで着せてやりながら、いや、お母さんのことなら役所でなんとか面倒見てあげますよと話しかけるが、美代子の態度は変わらず、いやだと言う。

今が一番良いわなどと美代子が言うので、そりゃいけない、君にはよく分からんだろうけど、いけないことなんだと村上が諭すと、いけなくないわ、ねえ、ねえと美代子は村上を誘ってくる。

林さん、やめたまえ!と村上は美代子の体を押し退ける。

あら、良いんじゃない、今日が初めてってわけでもないのに…、ね?ねえ!と美代子と言いながら、美代子は目を閉じて顔を近づけてくる。

その時、野郎!見たぞ!と言いながら、草むらから飛び出してきた和夫は、掴んだぞ、掴んだぞ、証拠を掴んだぞと言いながら、ジャンパーのポケットからナイフを出す。

掴んだぞ、証拠を掴んだぞ!と言いながらナイフを光らせて迫る和夫。

美代子を庇って逃げようとする村上。

(回想明け)何を勘違いしているのか、証拠を掴んだ、掴んだって叫びながら切り掛かってきましたんで、私は夢中になって逃げました。

でもやっぱり心配になりましたもんで、河岸へ引き返してみたんですが、その時はもう二人ともおりませんでした、ですから後のことは何も知りませんと村上は打ち明ける。

刑事たちが誰も反応しないので、本当に知らないんですよ、本当なんですよ!と繰り返す村上。

その頃、調布警察署の取調室では、僕、食堂の表まで付けてって、2人の出てくるの待ってたんだよ、絶対証拠掴んでやろうと思って…と長田部長刑事と林刑事に話していた。

それで?と長田が先を促すと、そしたら30分くらいしたら、あいつが美代ちゃんと出てきて川の方へ行ったんだと和夫は言う。

(回想)さあと言いながら村上は美代子の手を引いて河原に向かうと、美代子が私、寒いわと言うのを、背後から和夫は見ていた。

村上が自分のコートを脱いで、しゃがみ込んだ美代子の背中にかけてやる。

何だい、話って?と言いながら、村上はタバコを取り出す。

私、もう、今までのようなことを辞めたいのと美代子は言い出す。

辞める?と言いながら村上はライターで加えたタバコに火を点け、辞めてどうするんだ?と聞く。

美代子が、勤めるのと言うと、勤めるって、中学もろくに出てないんだろう?と村上は嘲笑う。

女中でも良いのと美代子が答えると、ふ〜ん、おっかさんはどうするの?と村上は聞く。

生活補助さえもらえれば、あたいもいくらか送るからと美代子は言う。

すると村上は、そうはいかないさと答えたので、美代子はえっ!と驚く。

補助金をもらいたがっている人は大勢いるんだからねえと思わせぶりに言う。

もし君が女中になって働けば、もっと困ってる人に回すことになるよと村上は脅してくる。

草陰から聞いていた和夫は、ちくしょうと悔しがる。

それにおっかさんだって、君がいなくなりゃ寂しがるだろう?だからさ、今まで通りが良いじゃないか、うん?そうだろうと言いながら村上は美代子に迫ってくると、両手を掴んで引き寄せようとしたので、美代子は嫌がる。

良いじゃないか、何も今日が初めてと言うわけじゃないんだからさと村上は言い聞かそうとし、またキスをしようとしたので、美代子は嫌々と抵抗する。

その時、見たぞ!と言いながら草むらから飛び出した和夫は、掴んだぞ、掴んだぞ、証拠を掴んだぞお言うと、ポケットからナイフを取り出す。

村上に飛びかかろうとする和夫に、和夫さん!ダメよと叫びながら止めようとする美代子。

美代子、放せ!と抵抗する和夫に、美代子は、だめ!だめ!と言いながら必死にしがみつく。

その好きに村上は自分のコートを拾い上げ、その場から逃げてゆくので、待て!と和夫は呼びかける。

村上に飛びかかった和夫だったが、村上蹴倒し、逃亡する。

追おうとする和夫に、ダメよ、行かないで!和夫さん、やめて、やめて!と和夫の足にすがりつく美代子。

和夫さん、行っちゃダメと、美代子は動こうとする和夫の足を離そうとはしなかった。

ちくしょうと叫んだ和夫は持っていたナイフを川に投げ捨てる。

和夫さんと言う美代子に、美代ちゃん、あんな奴と付き合うなって、俺言ってるじゃないかよ、どうして会ったりするんだよ!と和夫は抗議する。

あたい、もう嫌だって言うつもりだったのよと美代子は答える。

でも、あたいが働くと、もうお金くれないって言ったの、あたい、もうどうしたら良いのかわからないわと美代子は打ち明け、ねえ、どうすれば良いの、あたい?と和夫に聞いてくる。

和夫が何も言えないでいると、あたいなんか、産まれてこなきゃ良かったんだ!と叫び、美代子は川に飛び込もうとしたので、美代子のバカ!と和夫は背後から叱る。

川の直前で立ち止まった美代子は、あたいだって気が狂って、母さんみたいになってやるんだと美代子は泣きながら叫ぶ。

美代子と呼びかけながら和夫が近づくと、あたい、もう行きたくない!もう死んじゃいたいたい!と言いながらしがみついてきたので、美代子と和夫が抱きしめると、死んじゃう、死んじゃう、母ちゃんみたいになるんは嫌!怖い、怖い〜!と美代子は泣き叫ぶ。

そんな美代子の首をいきなり和夫は締め出す。

息が止まった美代子は、そのまま仰向けに川の中に落ちてゆく。

その直後、ふと我に返って和夫は、美代ちゃん!と言うと、急にその場から泣きながら逃げ出してしまう。

その後には、美代子の片方のズックの靴が脱げ落ちていた。

(回想明け)語り終えた和夫は、机に突っ伏して泣き出す。

それから君、どうしたの?と長田が聞くと、逃げたんだよ、夢中で…、二日間山の中を歩き回った…と和夫は、顔を上げずに言う。

それでここに来る気になったんだね?と林が優しく語りかける。

本部に残っていた村上は、刑事たちの動向を不安げに伺いながら座っていた。

入り口では、戻ってきた林から主任が事情を聞いていた。

一緒に戻ってきた長田は、和夫の態度から見て、嘘じゃないと思いますと主任に伝える。

そうだな、良し、逮捕状を用意しようと主任は決断すると、裏を固めてくれと指示する。

林は、ナベさん、中川君と本部内に呼びかけ、2人を外に連れ出す。

部屋に戻った主任は、一つだけ聞き逃したことがあるんだが、一昨日の夜、あんたは和夫を探し回っていたそうだが、それはどうして?と村上に聞く。

は、それは先ほども申し上げましたとおり、あの子が証拠を掴んだって叫んだのが、ちょっと気になりまして…と村上は答える。

どう言うものか確かめて、もし誤解があるものでしたら、解いとこうと思ったんです、何しろ誘惑されたのは私の方なんですから…と村上は言う。

なるほど、あんな良い奥さんがいるあんたが15歳の少女にね〜と主任は半笑いしながら答える。

はあ、全く呆れたもんですよと村上は自嘲する。

和夫を連れ現場に戻ってきた就任は、君がナイフを投げ捨てたと言う場所は?と聞く。

和夫が川を指差すと、じゃあ、君たちでと主任は中川と高津に指示する。

二人の刑事はコートと靴を脱ぎ、川の中に入り込む。

それから美代子が落ちたのは?と主任が聞くと、和夫は黙って川のそばに近づいたので、ここかね?と主任が確認すると、和夫は頷く。

片っ方のズック靴を見つけたのもそこでしたと長田が近くを指差す。

うんと言って、主任がその場所へ移動しかけた時、ズボンを捲って川の中を探していた中川が、川の中からナイフを拾い上げ、主任さん、ありました!ち呼びかける。

主任はそれを見て頷くが、金子刑事と手錠で繋がれていた和夫は、急に泣き崩れる。

一方、林刑事は、精神病院に入院してた美代子の母クニの様子を見に行く。

クニはなんかを縫っていたので、一緒に来た院長が、林さん、何をこしらえているんだね?と問いかけると、美代子も年頃なんでね、よそ行きこしらえてるんだよとクニは答える。

娘さんを殺した犯人が捕まったことを伝えてやりたいんですがね〜と林が言うと、娘さんが死んだことなんか忘れちまってるんですよと院長は教える。

林は頷くと、黙ってクニの様子を見るしかなかった。

じゃあどうもと院長に挨拶した林は、一緒に病院の通路を移動すると、どうもいろいろありがとうございましたと改めて院長に頭を下げ、車に戻ると精神病院を去り、そのまま列車が通り過ぎる土手の線路に向かう道を遠ざかるのだった。

終


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